第十九回民法整理會議事速記録
明治三十年七月二十三日午後三時四十五分開會
出席員
土方寧君
阿部泰藏君
田部芳君
富谷鉎太郞君
河村讓三郎君
奧田義人君
井上正一君
都筑馨六君
穗積陳重君
梅謙次郎君
重岡薫五郎君
長谷川喬君
南部甕男君
尾崎三良君
三浦安君
中村元嘉君
岡野敬次郎君
議長(三浦安君)
今日ハ副總裁ハ差支デ出ラレマセヌカラ私ガ代理ヲ致シマス整乙第二號
(書記朗讀)
整乙第二號
一、舊第八百九十三條ハ之ヲ存スヘキヤ否ヤ
梅謙次郎君
只今朗讀ニ爲リマシタル箇條ハ曾テ第一ノ議事ノトキニ非常ニ議論ノアリマシタ箇條デ卽チ父又ハ母ガ親權ヲ行フニ際シマシテ財產上或ル重大ナル行爲ヲ爲スニハ親族會ノ同意ヲ要スルト云フ箇條デアリマス之ハ當時大分反對ハアリマシタケレドモとうとう多數デ以テ可決ヲ致シマシタ乍併此反野ノ御方ハ餘程熱心ニ反對ヲ主張サレタコトデアリマスカラ特ニ議長ノ見計ヒデ此箇條ニ付テハ少數者カラ何ン時再議ヲ提出シテモ宜シイト云フ宣告ガアリマシタ乍去其後更ニ再議ノ請求モナクシテ今日ニ至リマシタガ此内整理委員會ニ於テ此問題ガ再ビ沸騰致シマシタ委員會ニ於テモ略ボ說ガ半々ニ分レマシタノデ詰リ決議ヲシ兼ネマシタ、ソレデ唯ダ理窟一片カラ申シマスレバ一旦確定シタル箇條ヲ改メルニハ多數ノ異議ガナケレバナラヌ卽チ說ガ半々ニ爲レバ其儘デ原案ノ通リデナケレバナラヌト云フコトニ爲リマスケレドモ斯ク異議ノ多カツタ箇條デアツテ事柄モ隨分親權ノ範圍ニ付テ重大ノ聞題デアリマスカラ吾々決議ヲセズニ再ビ此議場ニ提出ヲ致シテ議場ノ御多數ノ御意見ニ從フ斯ウ云フ考デドチラトモ極メヌデ爰ニ再ビ問題ヲ提出致シマシタソレデ整理委員ノ意見トシテ此處ニ報告スル譯ニ往キマセヌ唯ダ整理委員ノ中デ私抔ハ存スル方ノ一人デアリマシタ其理由ハ彼ノ箇條提出ノトキニ述ベマシタノデ再ビ說明ヲスル必要ハナカラウト思ヒマスガ一言ニシテ之ヲ申シマスレバ如何ニモ親ガ子ノ財產ヲ管理スルト云フガ如キハ天然ノ愛情ト云フモノガアツテ、サウ子ノ不利益ヲ圖ルヤウナコトハ滅汰ニナイ故ニ固ヨリ之ヲ後見人ト同一視スルコトハ出來ヌ、ケレドモ幾分カ制限ガナケレバナラヌ幾ラ親デアルカラト云ツテ子ノ財產ハドウ爲ツテモ構ハイデ居ル極端ヲ言ヘバ子ノ財產ヲ皆無クシテモ宜シイモノデアルト云フモノデハナイソレデハ親ノ財產ト子ノ財產トヲ分ツタ趣意ガ通リマセヌ勝手ニシテモ宜シイト云フコトデアレバ後見人抔トハ大ニ區別ヲシナケレバナラヌガ或ル別段ノ重大ナル所ノ行爲ニ付テハ親權ヲ行フ者ガ獨斷ヲ以テセズシテ親族會ノ意見ヲ以テデナケレバ出來ヌト云フコトニスル方ガ穩當デアルト云フ斯ウ云フ考デ極、重大ナルモノト信ジマスル事丈ケヲ列擧ヲシテ、ソレ丈ケニハ親族會ノ同意ヲ要スルト致シマシタ此箇條ヲ初メニ起草ヲシ復タ今日尙ホ存スルコトヲ主張スル理由ハ一口ニ申シマスレバソレ丈ケデアリマス
尾崎三良君
之ハ旣ニ梅君モ述ベラレタ通リ隨分議論ノアリマシタ箇條デアリマスガ私ハ正半數デアツタカト思フノデスガ梅君ハ多數デアツタト云フコトデアリマスガ
梅謙次郎君
此前デスカ
尾崎三良君
サウデス
梅謙次郎君
此義ハ多數デアリマシタ
尾崎三良君
兎ニ角覺エマセヌ、所ガ民法施行法ニ於テ旣ニ丁度同ジヤウナ箇條ガアリマシタ其第十一條ニ子ノ財產ヲ管理スルニハ親族會ノ同意ヲ得ルコトニ爲ツテ居リマシタ其時ニドウモ實父ガ歴輝トシテ居ルノニ子ノ財產ニ就テ親族會ヲ呼バナケレバナラヌト云フコトハ誠ニ今日ノ習慣ニモ背キ却テ甚ダ迷惑ナ話シデアル、ソレ故ニ此施行法ノ所デハ先ヅ其實父丈ケハ取除ケルト云フコトニ爲ツテ旣ニサウ極ツタモノデアリマス故ニ「家ニ在ル實父ハ此限ニ在ラス」ト云フヤウナコトヲ書テ其案ハドウ爲ツテ居リマスカ文字ハ、サウ云フコトニ爲ルト云フコトデアリマシタ(此時梅委員「無論確定ヲ致シマシタ」ト呼ブ)其精神カラ以テ觀マスレバ此民法モ矢張リドウモサウ爲ラナケレバ不隱當デモアリ又母トカ何ントカ云フヤウナ場合ニハ重大ナル場合ハ親族會ヲ呼ブト云フコトモ至極宜シイト思ヒマスガ唯ダ眞ノ實父丈ケニ限ツテハ取除ケテ置ク方ガ今日ノ場合ニ適當スルト思ヒマスカラ、ソレデ全ク削ルト云フコトニモ往キマスマイカラ矢張リ施行法ト同樣ノ譯ニシテ實父丈ケヲ除ケテ置クト云フコトニ致シタイ諸君モ此施行法ノトキニ御贊成ニ爲ツタ方ハ總テ御同意デアラウト思ヒマスカラ強テ長イ事ハ述ベマセヌカラ、ドウゾ其邊デ御議決ニ爲ルコトヲ希望致シマス
長谷川喬君
之ハ贊成ヲセヌト問題ニ爲リマセヌカ
議長(三浦安君)
贊成ガナケレバサウデ
梅謙次郎君
贊成ガナケレバ原トノ通リニ爲ル
田部芳君
尾崎君ニ贊成シテ置キマセウ
梅謙次郎君
此大體ノ御趣意ニ付テハ今私ハ反對說ヲ述ベルト云フ考ハアリマセヌ、ソレハ此前モ十分述ベマシタ又諸君モ能ク御分リニ爲ツテ居ルト思ヒマス詰リ子ノ利益ヲ十分圖ルト云フノト又親ヲ餘リ重ンジナイヤウデ面白クナイト云フヤウナコトデ主義問題ト言ツテモ宜シイノデアリマスソレハ述ベマセヌ唯ダ尾崎さんガ父ト母トヲ區別ヲスルト云フコトデ之ニ付テ一言辯ジナケレバナラヌ施行法ハ無論私抔ハ反對デアリマスガあれハ民法ノ親族編ノ出來ルマデハ成ルベク差支ヌ限リハ現行法ヲ存スルト云フコトデアリマシタ現行法ハ「家ニ在ル父ハ當然後見人ノ職權ヲ行フ」トアリマス之ニ反シテ母ハ當然親權ヲ行フト云フコトナク矢張リ親族協議ノ上ヲ後見人トスルト云フコトニ爲ツテ居リマス、ソレデ此場合ハ後見人ト區別ヲスル譯ハアリマセヌ、ダカラ後見人ト同ジヤウニ制限シテ宜シイト云フ譯デ施行法ハ可決ニ爲ツタト信ジテ居リマス若シ然ラバ親權ノ規定ガ母デモ矢張リ親權ヲ行フコトヲ得ルト云フコトニ爲ツテ居ル以上ハ父ト母ト區別ヲスル理由ハ、ドウシテモアリマセヌ若シ母丈ケニ付テ不信用ト云フコトナラバドウモ此箇條丈ケデハ或ハ足リヌデアラウ、デアリマスカラ、ドウモ此區別ト云フモノハ本案ノ主義ニ丸デ合ハナイ黒字ノ第八百八十四條ニ於テ諸君ガ御採リニ爲ツタ所ノ主義ニ合ヒマセヌカラ、ソレデドウモ大體ノ主義問題以外ニ於テ其說ニハ反對セザルヲ得マセヌ而シテ主義ニ付テモ丸デ自分ノ財產同樣ニ勝手次第ニシテ宜シイ子ノ財產ヲ勝手次第ニシテ宜シイト云フコトハドウモ今日ノ場合ハドウシテモ不都合デアル尾崎さんデサヘモ認メラレル如クドウモ母ニ全權ヲ與ヘテ子ノ財產ヲ勝手次第ニサセテ宜シイト云フコトニハ尾崎さんデモ得ラセラレヌ斯ウ云フ譯デアツテ見ルト詰ル所尾崎さんノ御說ハ採用スル譯ニ往キマセヌ原案ノ通リデナケレバ往ケマセヌト思ヒマスカラ其事ヲ一言シテ置キマス
議長(三浦安君)
田部君ハ尾崎君ニ御贊成デアリマスネ
田部芳君
サウデス
梅謙次郎君
伺ヒマスガ尾崎さんハ父ト云フコトデアリマスガ施行法デハ「家ニ在ル父」トアリマスガ養父ハ徃ケナイ
尾崎三良君
「家ニ在ル實父」ト云フコトデアツタト思ヒマスガ田部さんドウデシタカ「家ニ在ル實父」あの時ニ色々ノコトガアツテ父母トカ祖父母トカアツテ、とうとう「家ニ在ル實父」ト限ツタヤウデアリマスガ
梅謙次郎君
「實父」デナイ唯ダ「父」トアリマシタ
尾崎三良君
ソレナラバ、ソレデモ宜シイあの所デハ單ニ法定代理人トアルカラ簡單ニ「家ニ在ル父ハ此限ニ非ス」デ宜シイト思ヒマスガ此條ハ專ラ親ノコトヲ言フタノデアリマスカラ其趣意ニ此處ヲ改メルナラバ何ントカ法文ヲ變ヘナケレバナラヌト思ヒマスガ其趣意ニ改メレバ其起草ハ起草委員ニ御話シ申シテ善イ文案ヲ御拵ヘニ爲ルコトヲ希望致シマス
土方寧君
只今乙號議案ニ付テ梅君ハ此條ヲ存スルト云フ簡單ナ御說明デアリマシタガ案ハ存スルヤ否ヤト云フノデ丁度其裏ノ說ガ出テ尾崎君ハ其模樣ヲ少シ變ヘテ削ツテ仕舞ウノデナイ置クガ併シ母ニ付テノミ存スル父ニ付テハ存シナイト云フ修正說デアリマシタガ私ハドウカ丁度正反對ノ削ルト云フ方ニシテ貰ヒタイ總テ父ト母トノ區別ヲシナイ母ハ成程實際ニ於テ父程ニハ子ノ財產ノ管理ニ適シナイヤウナコトガ往々アリマセウ、ソレデ母ノ財產モ父ガ管理スルト云フコトニシテアル位デアリマス乍併子ノ財產ニ付テハ父母ノ區別ハシテナイノテアリマス父ガナイトキニ母ガ行フト云フコトニ爲ツテ居リマス同ジコトニシテアリマス唯ダ母自ラ財產ノ管理ニ不適任ト思フテ離スルコトガ出來ルト云フコトニ爲ツテ居リマス、ソレデ母モ自分デ財產ノ管理ヲスルコトガ出來ルガ自ラ管理ヲ辭スルトキハ此條ハ必要デナイ併シアツタラドウカト云フト自分ガ自分デ判斷スルノデアリマスガ詰リ人情カラ言フテ矢張リ法律上ニ於テハ子ノ財產ノ管理マデモ適當ニスルコトガ出來ル、ソレハ子ノ財產デアリマスカラ濫用スルコトハアルマイト云フ人情ヲ酌ンダノデアリマスカラ、サウスレバ、サウ區別ヲスル理窟ハナイト思ヒマス、ソレデ豫決案ニアル通リニ人情ヲ酌ンデ父母ノ間ニ違ヒガアツテハ可笑シイ理窟ガ通リマセヌカラ人情カラ親權ノ濫用ハアルマイト云フコトカラ言フノデアリマスカラ、サウスレバ區別ヲスルニ及ビマセヌカラ尾崎君ハ若シ今言フ一方丈ケニ付テ削ツテ仕舞ウト云フコトガ通リマセヌケレバ双方削ルト云フ方ニ御贊成ヲ企望致シマス
尾崎三良君
モウ長クハ述ベマセヌ今日日本ノ有樣デハ愛情ハ却テ母ノ方ガアルカモ知レマセヌガ乍併財產ノコトニ付テハ、サウ甘クハ往キマセヌ、ソレデ他日日本ノ女ガ男子ト同樣ニ爲ツタナラバ卒ザ知ラズ今日ハ女ノ場合ニハ親族會ノ許可ヲ受ケルガ宜シイト思ヒマス併シ内輪ガ揉ルガ爲メニ倶ニ倒レテ本案ガ殘ルトキハ甚ダ殘念デアリマスカラドウ云フ理窟ニシタラ宜シイカ、ドチラモ少數ニ爲ツテハ困リマスガ寧ロ全ク殘ルヨリモ全ク削ツタ方ガ宜シイ之ハ餘程進歩シタ積リデアリマス、ドウデセウ田部さんニ御相談致シマスガ
田部芳君
私ハ土方さんノニモ同意シテ置キマセウ
尾崎三良君
ソレナラバ、ドチラカ
梅謙次郎君
一寸申シテ置キマスガ現行法ニ於テハ先刻申シマシタ通リ母ハ後見人デアリマスガ後見人トシテハ不動產ヲ賣ルトカ公債證書ヲ賣ルトカ船舶ヲ賣ルトカスルニハ親族ノ連署ガナケレバナラヌ、ソレヲ丸デ削ルトスルト現行法ヨリモもツと退歩スルノデアリマスカラ、ソレハ餘程御考ヲ願ハナケレバナラヌト思ヒマス
尾崎三良君
詰リ諸君ノ御判斷ニ任セマスガ母ノ場合ハ何カ親族會ノ許可ヲ受ケル但シソレハ法律デナクテモ往ケルダラウト思ヒマス
長谷川喬君
施行法ニ於テ決定スルトキハ私ガ仲裁ヲシテ、サウ入レテ「家ニ在ル父」ト爲リマシタガ實ハ親モ人間、子モ人間ト云フ個人主義カラ言ツタラ斯ヤウニ書クノガ理窟ニハ適フテ居ルト思ヒマス乍併日本ノ在來ノ慣習カラ見ルトサウ云フコトヲ書クノハ實ニ情ニ於テ忍ビヌコトデアリマス元來私ノ希望ヲ言フト人事編ノコトハ已ムヲ得ザル事ノ外ハ書キタクナイ書クトドウモ斯ウ云フ風ニ書カナイト理窟ガ合ハナイ乍併日本ノ慣習カラ言フト斯ウ云フモノデハナイガドウモ理窟丈ケハ許サヌ所ガアリマスカラまあまあ斯ウ云フ事ハ成ルベク書カナイデ置キタイ、ソレデ土方君カラ削除說ガ出マシタカラ已ムヲ得ヌケレバ削除說ニ贊成ヲシテモ宜シイガ少ナクモ尾崎君ノ言ハレタ如クセラレルト同一ノ趣意ト思ヒマスカラ先ヅ尾崎君ノ說ニ贊成シテ置キマス
梅謙次郎君
尾崎案ニシテモ現行法ヨリハ退歩シテ居リマス、ソレハ現行法ハ母ト云フ者ガ果シテ子ノ財產管理ニ適スレバ親族ガ協議ノ上デ後見人ニスルガ適セナケレバ、シナイ、所ガ今度ハ母ハ當然親權ヲ行フ從ツテソレガ勝手次第ニナレバ最モ甚ダシイガ縱令ヒ尾崎案ニシテモガ止メルコトガ出來ルカソレハ出來ナイ、ソレデ母丈ケニ付テ本條ヲ適用スルト云フコトニ爲ツテモ旣ニ現行法ヨリハ或ル意味ヲ以テスレバ退歩シテ居リマス乍併吾々ハ略ボ同ジニセラレルト云フコトナラバ追々ト愛情ノ間ニ、サウ區別ノナイヤウニ爲ツテ來ヤウト思ヒマスカラ同ジデ宜シイト思ヒマスガ區別ヲ立テルト云フコトニ爲ルト色々現行法ヨリ退歩スルト云フコトハ望マシクナイト思ヒマス
土方寧君
詳シイ議論ハシマセヌガ長谷川君ハ矢張リ尾崎君ニ御同意ノヤウデアリマスガモウ一歩進ンダ方ハ往ケヌヤウニ爲ラウカト心配致シマスガ、ドウデスカ尾崎君ハ父ニ付テハ斯ウ云フ取締リハ要ラヌト云フコトデアリマシタガ矢張リ親子ノ情ヲ本トニシタノデゴザイマセウガ情ヲ本トニ置テ區別ヲスルノハ不都合デアル理論ニ於テ其事ヲ以テ主張セラレルノハ少シ内輪揉メニ爲ルカモ知レマセヌガ、モウ一歩進ミタイ梅君ハ全部削除スルコトニスルノハ退歩々々ト言ハレルガ、ドウモ西洋ノ個人主義デ往クナラバドウカ知リマセヌガ日本ニハ日本ノ特別ノ風習ガアルニ拘ハラズ目本風ニシテ置カウト云フノハ退歩々々ト言ハレルノハ實ニ分ラヌノデ、ドウカ、サウ云フコトヲ本トニ置カヌデ願ヒタイ
梅謙次郎君
私ハ議論ハセナイ積リデアリマシタガ土方君カラ喧嘩ヲ買ハレマスカラ已ムヲ得ズ簡單ニ申シマスガ進歩トカ退歩トカ云フコトハ無論其沿革上言フ話シデアツテ沿革上ドツチガ進ンダノデアルカト云フト是迄進ンデ往ク途ニ往クノガ進歩デアリマス之ニ反スルノガ退歩デアリマス、所ガ古イ所デハ土方君抔ガ神樣ノヤウニ拜ンデ居ラレル所ノ個人主義ニハ此ヤウナ事ガ何處ニモアリマス、所ガ、ソレガ段々進ムト云フト其制裁ト云フモノガ段段薄ク爲ツテ來テ、サウシテ逐ニ歐羅巴ノ今日ノヤウニ爲ツタノデアリマスカラ固ヨリ國ノ有樣ニ依ツテ進ミ方ガ違ウト言ヒナガラ私抔モ矢張リ日本ガ段々進ンデ往ケバ、ソレデ宜シイデアラウト思ヒマス今日ハ、ソレデハ往カヌカモ知レマセヌガ畢竟ハサウ云フコトデ宜シイト思ヒマス私ハ沿革ヲ理由トシテ進歩、退歩ヲ申スノデアリマスカラ大ニ理由ガアルト思ヒマス
長谷川喬君
私ハ尾崎君ノ案ガ宜シイト思フノハ成程情ニ於テハ同ジデゴザイマセウガ何分此場合ニ於テハ人ノ代理ヲスル其代理ヲシテ居ル場合デアリマス父ナラバ法律上子ノ代理ヲサセテ差支アリマスマイガ、ドウモ母ノ場合ニ於テ情ニ於テハ區別ハアリマスマイガ代理上差支ガ多カラウト思ヒマスソレデ大體ニ於テハ之ヲ存スルカ、ドウカト云フ問題ナラバ土方君ノ方ニ贊成ヲ致シマスガ若シサウデナクシテ尾崎君ノ案ナラバソレニ贊成致シマスカラ土方君モ其御心得デ御贊成ヲ願ヒマス
中村元嘉君
現行法ト云フノハドレデスカ
梅謙次郎君
今日實際ニ行レテ居ルモノデアリマス
中村元嘉君
法律デハナイノデスナ
梅謙次郎君
私抔ハ慣習法ト見ルノデアリマス
尾崎三良君
土方君モ一ツ同意シテ下サツテハドウデス私モあなたノ方ニモ贊成ヲシテ置キマセウ交換シマセウ
長谷川喬君
モウ採決ヲ願ヒマス土方君ノ案ガ現行法デアリマスカラ土方君ノ案カラ先キニ願ヒマス
尾崎三良君
先ヅ原案ニ不同意ノ方カラ御採リ下サイ
土方寧君
原案ハナイ
議長(三浦安君)
決ヲ採リマス「存スヘキヤ否ヤ」ト云フ問題デアリマスカラ之ヲ存セズシテ削ルト云フ方カラ先キニ採リマス之ハ田部君ガ御贊成デ成立ツテ居リマスカラ土方君ノ之ヲ削ルト云フコトニ贊成ノ方ノ起立ヲ請ヒマス
起立者少數
議長(三浦安君)
少數デス次ニ尾崎君ノ說デ此施行法同樣ニ父ヲ除クト云フコトニ贊成ノ方ノ起立ヲ請ヒマス
起立者多數
議長(三浦安君)
多數デスカラ尾崎君ノ說ニ決シマス文章ハ起草委員ニ於テ起草セラレルヤウニ願ヒマス
梅謙次郎君
一寸文字ノコトデアリマスガ此二號ノ所ニ「不動產又ハ重要ナル動產ニ關スル權利ノ喪失ヲ目的トスル行爲ヲ爲スコト」ト云フコトガアリマス之ハ施行法ノ方デ色々議論ガアツテ「權利ノ喪失ヲ來スヘキ行爲ヲ爲スコト」ト改マリマシタ此處モ矢張リ、サウ改マル方ガ穩當ト思ヒマス文字ノコトデハアリマスガ多少意味ガ違ヒマスカラ
議長(三浦安君)
ソレデハ次ニ移リマス
(書記朗讀)
二、舊第八百九十四條ハ之ヲ存スヘキヤ否ヤ
梅謙次郎君
前條ガ縱令ヒ修正ヲ加ヘラレタニ拘ハラズ存セラレタ以上ハ本條ヲ存スベキヤ否ヤト云フコトモ問題ニ爲ラヌト思ヒマス實ハ整理委員會ニ於テモ、サウデアツタシ又此議場ニ於テモ、サウデアツタト思ヒマス前條ヲ削ルト云フ方デモ之ハ置ク方ガ宜シイト云フ意見ノ方モアリマシタ、ケレドモ前ガ削ラレルナラバ之モ削ツタ方ガ宜シイト云フ意見ノ方モアリマシタ、ソレデ矢張リ未決ニシテ置キマシタ乍去前條ガ存セラレタ以上ハ本條モ無論存セラレルト思フ譯ハ此場合ニハ父母ト子トノ間ニ利益ガ相反スルノデアリマス利益相反スル事柄ニ付テ自分獨リデ二人リノ代理ヲスル、サウシテ或ル行爲ヲ爲スト云フコトハ旣ニ法律ト爲ツテ居ル代理ノ所デ出來ヌノデアリマス其場合ニ於テ出來ヌカラト云ツテ打ツチヤツテ置テハ困ルコトガアリマスカラ、サウ云フトキニ特別代理人ヲ選ンデ其代理人ト親ト契約ヲ結ンデ、ソレデ其特別代理人ガ其場合ニ限ツテハ子ノ代理人ト爲ルト云フ風ニセナイト丸デ出來ヌト云フコトニ爲リマス、ソレデ此條ハ無論必要デアラウト思ヒマス
尾崎三良君
施行法ニハドウ爲リマシタカ
梅謙次郎君
施行法ハ之デ通過致シマシタ餘リ議論モナク通過致シマシタ
議長(三浦安君)
之ハ削ルトモ修正スルトモ御說ガナケレバ無論存スルト云フコトニ決シマス次ハ「第八百七十七條第二項ヲ左ノ如ク改ム」ト云フ方ニ移リマス
(書記朗讀)
第八百七十七條(舊第八百八十四條)第二項ヲ左ノ如ク改ム
父カ知レサルトキ、死亡シタルトキ、家ヲ去リタルトキ又ハ親權ヲ行フコト能ハサルトキハ家ニ在ル母之ヲ行フ
梅謙次郎君
之ハ前ニ類似ノ箇條ガアツテ其箇條ニ對シテ吾々ガ加ヘル所ノ修正ガ可決サレマシタル以上ハ實ハ此箇條ニ付テ特ニ決ヲ採ツテ戴ク必要ハナカラウト思ヒマスガ兎角整理委員ガ猥リニ變ヘハシナイカト云フ御疑ヲ受ケテ居リマスノデ先ヅ形チノ上ニ於テハ變ヘルヤウデアリマスカラ詰リ「家ヲ去リタルトキ」ト云フコトガナイノハ缺點デアツタラウト思ツテ此文字ヲ加ヘルコトニ爲リマシタ、ソレデアリマスカラ意味ハ變ツタト言ヘバ變ツタヤウデハアリマスガ私共ハ變ツタトハ思ヒマセヌ唯ダ文字丈ケガ變ツタト云フ丈ケノコトデアリマスカラ會ノ爲メニ之ヲ出シタノデアリマス
議長(三浦安君)
御說ガゴザイマセヌケレバ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第八百八十三條(舊第八百九十條)第一項冒頭ニ「未成年ノ」ノ四字ヲ加フ
梅謙次郎君
之ハ少々議論ノアツタ所デアリマス原案デハ「子ハ親權ヲ行フ父又ハ母ノ許可ヲ得ルニ非サレハ職業ヲ營ムコトヲ得ス」トアリマスカラ是デハ成年ノ子デモ矢張リ親ノ許シヲ受ケナイト如何ナル職業モ營ムコトハ出來ヌト云フコトデアリマシタ整理委員ニ於テハ之ハドウモ餘リ窮屈デアルカラト云フコトデ未成年ニ限ツタ方ガ宜カラウト云フコトデ「未成年ノ」ト云フ字ヲ加ヘマシタ
議長(三浦安君)
之モ別ニ御發議ガナケレバ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第八百八十四條(舊第八百九十一條)ヲ左ノ如ク改ム
親權ヲ行フ父又ハ母ハ未成年ノ子ノ財產ヲ管理シ又其財產ニ關スル法律行爲ニ付キ其子ヲ代表ス但其子ノ行爲ヲ目的トスル義務ヲ生スヘキ場合ニ於テハ本人ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス
梅謙次郎君
本條ハ二ツノ點ニ於テ修正ヲ加ヘマシタ其一ツニハ原案ニハ「其子ヲ代表シ又ハ之ニ同意ヲ與フ」ト云フコトガアリマシタ之ハ初メハ何カ必要ノヤウニ心得テ此文字ヲ加ヘマシタガ段段考ヘテ見ルト未成年者ハ法定代理人ノ同意ヲ得ルニ非ザレバ法律行爲ヲ爲スコトヲ得ナイト云フコトガ旣ニ總則編ノ第四條ニ極ツテ居リマスカラ此處ニ復タ之ヲ掲ゲルノハ幾分カ重複ニ渉ル嫌ヒガアリマス法定代理人ト云フ者ハ此處デ極マルノデ民法第四條ノ規定ニ依ツテ自カラ其者ガ同意ヲ與ヘナイト未成年者ハ法律行爲ヲ爲スコトハ出來ヌト爲リマス「其子ヲ代表ス」ト言ヘバ法律デ極メタ法定代理人ト云フコトガ分リマス、ソレデ「又ハ之ニ同意ヲ與フ」ト云フコトハ必要デナカラウ況ソヤ文字モ「又ハ之ニ同意ヲ與フ」ト云フコトハ隱カデナイト思ヒマスカラ之ヲ削リマシタ第二ニハ但書ヲ加ヘマシタ原文ノ儘デアルト子ガ或ル仕事ヲスル爲メノ契約例ヘバ繪書キデアルト繪ヲ書クト云フ契約、親ガ子ニ相談ヲセズシテ己レガお前ノ繪ヲ書クコトノ契約ヲ結ンダカラ何ンデモ書ケト言フテ身體ヲ束縛シテモ書ケト云フヤウナコトニ爲ル、ソレヲセナイト損害賠償ヲ出サナケレバナラヌト云フコトニ爲リマス無論外國デモ本人ノ同意ヲ得ナケレバナラヌト云フコトハ明文ヲ以テ定メ或ハ明文ハナクテモ學說等ニ於テ定ツテ居リマス現行法ニ於テモ例ヘバ或ル職業ニ就ケルトキニハ本人ノ同意ガナイト往ケヌト云フコトガアリマス或ル賤業抔ハちやんと、ソレゾレノ規則ガアツテ本人ガ承諾ヲセナイト鑑札ヲ下サヌト云フコトガアリマス之ハ尤モ千萬デアルト思ヒマス之ハ豈獨リ賤業ノミナラズ他ノ貴イ職業デモ兎ニ角其子ノ同意ヲ必要トスルト云フコトガ要ルデアラウ斯ウ云フ考デ此但書ヲ加ヘマシタ
富谷鉎太郞君
一寸伺ヒマスガ「行爲ヲ目的トスル」ト云フコトガアリマスガ此「行爲」ト云フ中ニハ「不行爲」ト云フモノモ這入ル譯デアリマスカ
梅謙次郎君
此「行爲」ノ中ニハ何時モ「不行爲」ハ含ンデ居ル積リデアリマス
議長(三浦安君)
別ニ御說ガナケレバ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第八百九十條(舊第八百九十七條)ヲ左ノ如ク改ム
子カ成年ニ逹シタルトキハ親權ヲ行ヒタル父又ハ母ハ遲滯ナク其管理ノ計算ヲ爲スコトヲ要ス但其子ノ養育及ヒ財產ノ管理ノ費用ハ其子ノ財產ノ收益ト之ヲ相殺シタルモノト看做ス
梅謙次郎君
本條ハ實質變更ガ一ツ文出早ノ變更ガ一ツアリマス文章ハ但書ノ所ノ「其子ノ扶養、教育」ト云フコトヲ「養育」ト致シマシタ其理由ハ「扶養ノ義務」ト云フ所ニ其中ニ「教育」ガ這入ツテ居リマス然ニ此處ニ限ツテ「扶養、教育」ト書クト後ノ「扶養」ト云フ意味ガドウモ此處ト同ジトスルト「教育」ガ含マヌト爲ル含ムトスルト二箇所ニ於テ意味ガ違ウコトニ爲リマスカラ寧ロ「養育」トシタ方ガ宜シイト思ヒマシタ又「相殺シタルモノト看做ス」トシタノハ實質ガ變ハリマス元トノデアルト「其子ノ財產ノ收益ト之ヲ相殺シタルモノト看做スコトヲ得」デアツタカラ親ガ細カナ人デアツテ一々帳面ニ付ケテ置イタナラバ必ズシモ相殺ヲセヌデ計算ヲシテモ宜シイ譯デアリマス、所ガ親ガ特ニ利益ノアルトキハ宜シイガ子ノ財產ノ少ナイトキニハ其收益丈ケデ以テ其子ノ養育ト財產管理ヲスルコトハ出來マセヌカラ一時自分ノ懷ロカラ金ヲ出シテ置クカ然ラザレバ財產ノ元本ヲソレガ爲メニ幾ラカ減ラシテモ仕方ナイ日本ノヤウナ貧乏人ノ多イ國ニ於テハ其子ノ養育ニ付テハ資本ヲ使ウト云フコトガ大變多イカラサウ云フ場合ニハ親ガ收益ガ是丈ケデ、ソレデハ足リヌカラ是丈ケ元本ヲ使ツタト云フコトヲ計算ヲスレバ親ノ責任ハナイ、所ガ此處デハ收益ト其費用ト相殺シテモ宜シイト云フコトデアリマスカラ若シ足リヌケレバ矢張リ親ガ拂ハナケレバナラヌ、ソレデ整理委員會ニ於テハ此方ガ宜シイト云フ說ガ多數デ斯ヤウニ改マリマシタ
議長(三浦安君)
之モ御說ガナケレバ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第八百九十三條(舊第九百條)ヲ左ノ如ク改ム
第六百五十四條及ヒ第六百五十五條ノ規定ハ父又ハ母カ子ノ財產ヲ管理スル場合ニ之ヲ準用ス
梅謙次郎君
之ハ格別實質上ノ變更ト云フ程ノコトハアリマセヌ原文ニハ「第六百五十四條及ヒ第六百五十五條ノ規定ハ父又ハ母ノ管理權ニ之ヲ準用ス」トアツテ前條ノ卽チ無償ニテ子ニ與ヘマシタル財產ヲ第三者ガ親權ヲ行フ父又ハ母ニ管理ヲサセナイト云フコトニシタトキニ其管理者ハ如何ナル責任ヲ以テ其財產ヲ管理スルカト云フコトハあそこニ極ツテ居リマセヌ然ニ其管理者ハ委任ニ由ル管理者デモアリマセヌカラ、ソレニ嵌マリマセヌ法定代理人ノヽヽヽヽヽ其本人ト代理人トノ間ノ關係ハ總則デハ極ツテ居リマセヌ、ソレデ外ノ事ハ兎モ角此六百五十四條ト六百五十五條ノコトハ此管理人ノ所ニ嵌ラヌト面白クナイト思ヒマス責任ト言ヒマシタガ責任ハ少シ廣過ギマスガ或ル場合ノ事柄デアリマス六百五十四條ノ場合ハ委任ノ解ケタ場合デアリマス理論カラ言ヘバ委任ガ解ケタト同時ニ委任事務ハ直グニ抛棄シテ宜シイヤウデアリマスガ必ズ本人又ハ本人ノ代表者ガ其事務ヲ承ケ繼グマデハ極急迫ノモノハ必要處分ヲシナケレバナラヌト云フ規定デアリマス又六百五十五條ノ規定ハ委任ガ解ケテモ其相手ガ知ラヌトキニハ相手方ハ矢張リ委任ヨリ生ズル權利ヲ持ツテ居ルト云フコトニ爲ツテ居リマス、ソレデアリマスカラ管理者卽チ委任ノ方デ言フト受任者ノ方ニ付テモ又委任者ノ方ニ付テモ同樣デ此二ツノ規定ハ委任ニ特別ノ關係ノ事柄デアリマセヌ矢張リ此場合卽チ父又ハ母丈ケデナク父ト母ト同樣ナル財產ノ管理者其管理者ト云フ者ニモ當嵌マルガ隱當デアリマス父母ニ當嵌メテ管理者ニ當嵌メヌト何カ理由ガナイト往ケマセヌガ、ドウモ別ニ理由ガナイト云フコトデ、ソレデ整理委員デ斯ウ改メマシタ
議長(三浦安君)
之モ別ニ御論ガナケレバ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第八百九十七條(舊第九百四條)ニ左ノ第二項ヲ加フ
父カ前項ノ宣吿ヲ受ケタルトキハ管理ハ家ニ在ル母之ヲ行フ
梅謙次郎君
之ハ原文ニハナカツタノデスガ、ドウモ缺點ト思ヒマス原文ニ據ルト親權ヲ行フ父又ハ母ガ管理ノ失當ニ因リテ其子ノ財產ヲ危クシタトキハ管理權ノ喪失ヲ宣告スルコトヲ得ルト云フコト丈ケニ爲ツテ居リマシタ其場合ニ管理權ヲ行フ者ガ極メテアリマセヌ之ガ母デアツタ場合ナラバ外ニ管理權ヲ行フ者ハ法律上ナイノデスカラ後見人ヲ選ブト云フコトニ爲リマス之ガ父デアツタ場合ハマダ母ガアル者ガ隨分多イ父ガ管理權ヲ失フタ乍併母ハ歴記トシテ居ルト云フ場合ハ母ガ當然其管理權ヲ行フテ宜シイ此場合ニ母ヲ措テ後見人ヲ選ブト云フ理由ハアリマセヌカラ、ソレデ斯樣ナル二項ヲ設ケテ其缺點ヲ補フタノデアリマス
議長(三浦安君)
之モ御說ガナイト認メマスカラ衣ニ移リマス
(書記朗讀)
同條ノ次ニ左ノ一條ヲ加フ
第八百九十八條 前二條ニ定メタル原因カ止ミタルトキハ裁判所ハ本人又ハ其親族ノ請求ニ因リ失權ノ宣吿ヲ取消スコトヲ得
梅謙次郎君
之モ原文ニハ缺ケテ居ツタノデアリマス此八百九十六條及ビ八百九十七條ノ場合黒字ノ九百三條、九百四條ノ場合此場合ハ父又ハ母ガ親權ヲ行ヒ管理權ヲ行フニ適セヌ場合デアリマスガ斯ヤウナ事柄ハ生涯續クト云フモノデモアリマセヌ例ヘバ八百九十六條ノ場合ニ親權ヲ濫用シテ子供ヲ虐メルガ年ヲ取ルト、サウ云フ心ハ失セテ今度ハ子供ヲ愛スルヤウニ爲ル不行跡デモ若イ時デアリマス年ヲ取ルト直リマス若イ時親權ヲ失フタノガ年ヲ取ツテモ尙ホ續クト云フコトハ理由ガアリマセヌ又管理權デモやツと成年ニ逹シタ位デアレバ父デモ母デモ管理ガ下手カモ知レマセヌガ今デハ年ヲ取ツテ中々甘イト云フヤウナトキニ爲ツテモ尙ホ失權ガ續クト云フ理由ハアリマセヌソレデ失權ヲ回復スル途ヲ開クコトニセナイト往カヌト思ヒマス之ハ本人ノ爲メノミナラズ未成年者ノ爲メデアリマス故ニ本條ヲ挿入スル議ヲ提出致シマシタ
重岡薫五郎君
前條ノ場合ノ如キ父ノ失權ニ因ツテ母ガ管理權ヲ得タ斯ウ云フ場合ニ於テ父ノ失權ヲ取消サレテ、サウシテ父ガ管理權ヲ持ツ斯ウ云フ場合ハ母ハ管理權ヲ失ツテ父ガ當然管理權ヲ行フヤウニ爲リマスカ
梅謙次郎君
サウデアリマス其場合ハ母ガ當然管理權ヲ失フコトニ爲リマス一體父母アル場合ニハ先ヅ父ニ親權又ハ管理權ヲ與ヘルノデアリマス、ソレデ苟モ父ノ失權ノ原因ガ無ク爲ツタ以上ハ矢張リ、父ガ管理スル方ガ宜カラウト云フ考デアリマス此當然管理權ガ消滅スルトカ親權ガ消滅スルトカ云フ場合ハ他ニモ幾ラモ出テ來マス例ヘバ子ガ養子ニ往クトヽヽヽヽヽ此場合ハ母ガ持ツテ居ツタ親權ヲ當然失フテ復タ父ガ失フテ居ツタ親權ヲ回復スル之ハ啻ニ財產ノ管理計リニ關スルモノデアリマセヌ母ガ親權ヲ行フテ居ツタ場合ニ若シ其原因ガ止ンデ仕舞ウト父ガ親權ヲ行フ之ハ例ヘバ私生子抔ニ付テハ毎度起リマス父ガ認知スルマデハ父ガ知レマセヌカラ無論母ガ親權ヲ行フコトニ爲リマス父ガ知レルト今度ハ其父ガ親權ヲ行フ、サウスルト母ノ親權ハ當然消滅スルコトニ爲リマス之ハ他ニモ、サウ云フコトハ幾ラモアラウト思ヒマス
議長(三浦安君)
之モ別ニ御說ガナケレバ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第九百條(舊第九百六條)第一號ヲ左ノ如ク改ム
未成年者ニ對シ親權ヲ行フ者ナキトキ又ハ親權ヲ行フ者カ管理權ヲ有セサルトキ
梅謙次郎君
本條ハ殆ンド文字ノ修正デアリマスガ詰リ原文ガ不完全デアツタノデ、ソレデ直シマシタ原文ニハ「未成年者ニ對シ親權ヲ行フ者ナキトキ又ハ母カ財產ノ管理ヲ辭シタルトキ」トアリマスガ此場合計リデハナイ、マダ他ニモ後見ヲ開始スル場合ガアリマス、ソレハドウ云フ場合カナラバ八百九十七條ノ規定ニ從ツテ親權ヲ行フ場合ニ管理權ヲ取消サレタ場合其場合ニ管理ヲ誰レガスルカト云フニ父ガ管理權ヲ失ツタ場合ハ誰レガスルト云フコトハ前條デ極マリマシタガ父ガアツテモ管理ヲスルコトガ出來ヌトキ又ハ母ガ管理權ノ喪失ヲ宣告サレタ場合ニハ矢張リ後見人ガ出來ナイト往ケマセヌ其規定ガ缺ケテ居リマシタ、ソレデ「親權ヲ行フ者カ管理權ヲ有セサルトキ」ト書テ置クトソレラノ場合ガ總テ含ムト思ヒマスカラソレデ斯ヤウニ廣ク致シマシタ
議長(三浦安君)
之モ他ニ御說ガナケレバ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第九百一條(舊第九百七條)第一項ヲ左ノ如ク改ム
未成年者ニ對シ最後ニ親權ヲ行フ者ハ遺言ヲ以テ後見人ヲ指定スルコトヲ得但管理權ヲ有セサル者ハ此限ニ在ラス
梅謙次郎君
之モ前ト同一ノ理由デアリマスカラ別ニ說明致シマセヌ
議長(三浦安君)
御說ガナケレバ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第九百二條(舊第九百八條)ヲ左ノ如ク改ム
親權ヲ行フ父又ハ母ハ禁治產者ノ後見人ト爲ル
妻カ禁治產ノ宣吿ヲ受ケタルトキハ夫其後見人ト爲ル
夫カ後見人タラサルトキハ前項ノ規定ニ依ル
夫カ禁治產ノ宣吿ヲ受ケタルトキハ妻其後見人ト爲ル但夫カ未成年者ナルトキハ此限ニ在ラス
梅謙次郎君
本條ハ形チニ於テハ大變改マリマシタガ實際ハ格別修正ト云フ程ノモノデハアリマセヌ民法施行法ノ議事ノ際ニ「禁治產者ハ之ヲ後見ニ付ス」ト云フ民法ノ規定ガアル以上ハ禁治產者ニハ何時モ後見人ガナケレバナラヌト云フ說ガ岡野君抔カラ出マシタ固ヨリ理由ガアリマスカラ此議場ニ於テ採用サレマシタ吾々モ同意ヲ致シマシタ、所デ元ノ親族編ノ原案ニハ「成年者カ禁治產ノ宣告ヲ受ケタルトキハ」云々トアツテ未成年者ノコトハアリマセヌ未成年者ノ後見人ガアルカ又ハ親權ヲ行フ者ガアルニ止マル斯ウ云フコトニ爲ル實ハ私ハサウ云フコトハ宜シイト思ヒマシタガ旣ニ總則編ニ禁治產者ノ規定ガアツテ「禁治產ハ之ヲ後見ニ付ス」ト云フ絶對ニ規定シテアリマスシ施行法ニ於テモソレデハ往カヌト云フコトニ極ツタ以上ハ矢張リ改メナケレバナラヌト思ヒマス、ソレデ「親權ヲ行フ父又ハ母ハ禁治產者ノ後見人ト爲ル」トシテ置ケバ其後見人ハ成年者デアラウトモ未成年者デアラウトモ同ジ者デアリマス未成年者ノ方カラ觀察シテモ後見人、禁治產者ノ方カラ觀察シテモ矢張リ後見人ニ爲リマス名ノ異ナル丈ケデ實際ハ同ジ者デアリマス況ンヤ此未成年者ガ禁治產ノ宣告ヲ受ケルト云フコトハ稀レデアラウト思ヒマスカラ之デ十分ト思ヒマシタ又今一ツハ第三項ノ所デアリマス此處ハ「夫カ禁治產ノ宣告ヲ受ケタル場合ニ於テ父又ハ母後見人タラサルトキハ妻其後見人ト爲ル」トアリマシタ之ハ議論ノ末斯ウ云フコトニ爲リマシタ詰リ婦人ハ此議場ニ於テハ冷遇サレル慣習デ旣ニ父ガアレバ其父ト云フ者ガ後見ヲスルノガ隱當デアル父ヲ借置テ妻ガ後見人ニ爲ルト云フコトハ、ドウモ宜シクナイ又同ジ女デモ母ト妻トアルトキハ寧ロ母ガ後見人ト爲ルト云フコトニ爲リマシタガ整理委員會デハ觀ル所ヲ異ニシマシタ何モ父ヲ罷メタ所ガ夫カ禁治產者ニ爲ツタトキハ妻ガ最モ適當デアル斯ウ云フコトデアリマシテ「父又ハ母後見人タラサルトキハ」ト云フコトヲ削ル方ガ宜シイト云フコトニ決シマシタ但書ヲ加ヘタノハ之ハ稀レナ例デハアリマスガ原文ナラバ成年者ノミニ付テ規定ガアツタカラコンナ但書ハ要リマセヌガ今度ハ廣ク爲ツテ未成年者ニモ當嵌マルヤウニ爲リマスカラ必要ヲ生ズルノデ成程妻ガ其場合ニ後見人ト爲ルト云フコトハ多クハアリマセヌ大抵妻ノ方ガ夫ヨリ年少デアリマス同年位ハ可ナリ頻繁デアリマスガ妻ガ夫ヨリ年長ト云フコトハ稀レデアリマス夫ガ未成年ナラバ妻ハ尙更未成年デアリマス乍去例外シテハ場合ガアリマス故ニ夫ガ未成年デ妻ガ成年ト云フコトハ想像シ得ラレヌコトハアリマセヌ其場合ニ於テ此但書ガナイト矢張リ妻ガ後見人ニ爲ル夫ハ旣ニ後見人ヲ持ツテ居リマスソレハ家ニ父ガ在レバ後見人デナク親權トシテ子ノ財產ヲ管理スル又親ガナクテ他家ニ居ルト矢張リ後見人ガ付キマス夫ガ未成年者トシテ法定代理人ハ父デアル又他ニ後見人ガアルト云フコトニ爲ツテ居ルノニ同ジ人間ガ禁治產者トシテハ妻ヲ以テ其後見人トスルト云フコトニ爲ツテハ實際ドウシテ宜シイカ分ラヌト云フコトニ爲ツテ困ル之ハ實際同ジ人デナケレバ困ル同ジ人ナラバ此場合ハ寧ロ未成年ト云フ方ニ重キヲ置テ卽チ未成年ノ方ノ側ハデ親權ヲ行フ者ガ法定代理人ニ爲ル又親權ヲ行フ者ガナケレバ外ノ後見人ト云フ方ヲ代理人トスル而シテ今度改ツタ案ノ通リト親權ヲ行フ父又ハ母ハ禁治產ノ側ハカラハ矢張リ後見人デアリマスカラ此場合デモ未成年ノ側ハカラ禁治產ノ方ヲ見テモ又反對ニ見テモ矢張リ詰リ同一ノ人ガ爲ルノデ誠ニ圓滑ニ往クノデアリマスカラ、ソレデ此但書ヲ加ヘタノデアリマス
議長(三浦安君)
之モ御說ガナササウデアリマスカラナケレバ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第九百七條(舊第九百十三條)第五號ヲ左ノ如ク改ム
此他正當ノ事由
梅謙次郎君
之ハ一寸見マスルト誠ニ簡單ナ修正ノヤウデアリマスケレドモ大分之ハ實質ヲ變更スルコトニ爲リマス原文ニハ「親族會ニ於テ正當ト認メタル事由」トアツテ此正當デアルヤ否ヤト云フコトハ親族會ノ認定ニ任カシテアリマシタ尤モ親族會ノ認定ニ不服ノ者ハ裁判所ニ訴ヘルコトガ出來ルト云フコトハアリマスガ兎ニ角親族會デ認定スルト云フコトガアツテ、ソレガ不當ト云フコトヲ訴ヘナケレバ此親族會ノ決議ハ枉ゲマセヌ而シテ此親族會ノ決議ニ對シテ不服ヲ訴ヘルノハ短期ノ場合デアリマスカラ動モスレバ知ラヌデ過ギテ仕舞ヒマス所ガ今度改マリマシタノハ親族會デ斯ウ云フコトヲ認メテ正當トカ不正當トカ云フコトヲ言フノハ往カヌト云フ爭ヒガアレバ裁判所ニ出ルヤウニ單ニ「正當ノ事由」トシテ置クガ宜シイ卽チ後見人ノ任務ヲ辭スルトキハ自分デ正當ト思フ事由ガアレバソレヲ申出ル、ソコデ親族會ハ之ハ不當デアルト言ツテ中々承知ヲセヌト言ツテモ後見人ハ眞ニ、ソレガ正當ト思フナラバ何邊辭シテモ宜シイ、ソレニ對シテ親族ノ方デ不服ナラバ、ソレハ裁判所ニ訴ヘテ其後見人ガ任務ヲ曠フスルト云フノデ、ソレヲ訴ヘル裁判所ハ之ハ曠フシタモノデナイトカ曠フシタモノデアルトカ云フコトヲ裁判スルコトニシタ方ガ宜シイト云フコトニ爲リマシタ
議長(三浦安君)
之モ御說ガナイヤウデアリマスカラ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第九百八條(舊第九百十四條)第八號中「親族會」ヲ「裁判所」ト改ム
梅謙次郎君
之モ略ボ同樣ナ修正デアリマス形チハたツた三字ヲ變ヘタ丈ケデアリマスガ大分趣意ガ變ハリマシタ前ノハ矢張リ之モ「親族會ニ於テ後見ノ任務ニ堪ヘサル事跡不正ノ行爲又ハ著シキ不行跡アリト認メタル者」ト爲ツテ居ツタノヲ前ノ分デサヘモ親族會デ斯ヤウナ認定ヲスルノハ惡ルイト極ツタ位デアリマスカラ之ハ尙更ノコトデアリマス裁判所ニ於テ斯ヤウニ認メタ者デナケレバ往ケマセヌ前ノハ裁判所ノ認メタ者トセヌデ此處デ認メタ者トシタノハ前ノハ正當カ不正當カト云フコトハ事實問題デ爭ヒノアツタトキハ後トカラ正當デアツタ正當デナカツタト云フコトハ極マルト云フ方デアリマスガ此處ニ規定シテアル事柄ハ中々重大ナ事柄デアリマシテ後見人タル權利ヲ奪ウトカ旣ニ後見人ニ爲ツテ居ル者ヲ其權利ヲ取上ゲテ他人ニ與ヘルト云フヤウナ酷ドイ事柄ガ出來マス本人ノ名譽上ニ於テモ容易ナラヌ事柄デアリマスカラ之ハ唯ダ任務ニ堪ヘザル事跡、著シキ不行跡ト云フモノガ事實上アリサヘスレバ、ソレデ當然後見人タル權利ガ無ク爲ツテ仕舞ウト云フコトハ困リマスカラ、ソレデ、サウ云フ場合ハ特ニ裁判所デ認メナケレバナラヌト云フコトデ此處ハ裁判所デ認メタル者ト云フコトニ爲ツタノデアリマス
議長(三浦安君)
之モ御說ガナイト認メマスカラ次ニ往キマス
(書記朗讀)
第九百九條(舊第九百十五條)ヲ左ノ如ク改ム
第九百一條乃至第九百五條、第九百七條及ヒ前條ノ規定ハ保佐人ニ之ヲ準用ス
保佐人又ハ其代表スル人ト準禁治產者トノ利益相反スル行爲ニ付テハ保佐人ハ臨時保佐人ヲ選任センコトヲ親族會ニ請求スルコトヲ要ス
梅謙次郎君
此第一項ノ方ハ唯ダ箇條ガ數ノ變ツタ丈ケノコトデアリマス第二項ヲ加ヘルコトニ爲リマスルニ依ツテ、ソレデ前文ヲ掲ゲタ丈ケノコトデアリマス第二項ハ新タニ加ヘマシタ規定デアリマス之ハ一體申シマスルト云フト少シク愚痴ニ渉リマスルケレドモ吾々ハ總則編ニ保佐人ニ關シテハ後見人ノ規定ヲ準用スルト云フコトヲ、モウ少シ形チハ變ツテ居リマシタガ、サウ云フ意味合ヒノ箇條ヲ置キマシタ、所ガ其當時諸君ノ御意見デハ、マダ親族編モ出來ヌカラ之ヲ削ツテ置テ親族編ニ置イタ方ガ宜シイダラウト云フコトデアリマシタ吾々之ヲ攻撃シテ曰ク保佐人ノ規定ハ親族編ニ適當ナ規定ハナイ筈デアル保佐人ハ純然タル能力ニ關スル規定デ後見ハ親族間ニ類似シタルモノデアルカラ之ハ固ヨリ親族編ニ規定シタ方ガ宜シイガ保佐人ハ斯ヤウナ權利ハナイカラ之ヲ親族編ニ讓ルコトハ宜シクナイト云フコトヲ申シマシタガ遂ニ削ラレマシタ、ソレデ吾々何處ヘ書イタ方ガ宜シイカト云フコトヲ考ヘテ甚ダ窮シマシタガ斯ウ云フ處ニ斯ヤウニ書キマシタガ一旦書キマシタガ、ソレデハ足ラヌ差向キアルコトハ二項ニ掲ゲタルヤウナ事柄デアツテ保佐人ト準禁治產者ト利益相反スル行爲ー――保佐人ノ所有ノ物ヲ準禁治產者ガ買ウトカ準禁治產者ノ所有物ヲ保佐人ガ買ウトカ云フヤウナ場合又ハ契約上他人ノ代理ヲシテ居ル又ハ會社ノ社員デアルト云フヤウナ場合ニハ之ハ代表シテ居ル者ト、ソレカラ準禁治產者トノ利益相反スル場合デモ保佐人ガ同意シテサウシテ判ヲ捺スト云フコトニ爲ルト自分ト法律行爲ヲ爲ス自分ガ卽チ其純然タル自己ノ資格カ又ハ他人ノ資格、代表者ノ資格カ分ラヌガ何レニシテモ準禁治產者ノ代理デアツテ獨リデ勝手次第ナ事ヲスルヤウデハ往ケマセヌ丁度後見人ガ自己ト被後見人トノ法律行爲ヲ爲スコトガ出來ヌト同樣デアリマス、ソレデ此場合ハ保佐人ガ同意ヲ爲スコトハ出來ヌト爲ラヌト往ケマセヌ乍併ソレデハ足リマセヌカラ其場合ハ臨時保佐人ヲ選ソデ、ソレノ同意ガナイト出來ヌトシテ置カナイト大變有益ナ行爲モ丸デ出來ヌト爲リマスカラ、ソレデ此二項ヲ新タニ加ヘルコトニ致シマシタ
重岡薫五郎君
本條ノ二項ノ文字デアリマスガ「其代表スル人」ト云フコトデアリマスガ只今ノ御說明デハ保佐人ガ他ノ會社ノ代表者ト爲ツテ居ル或ハ他人ノ代理ヲシテ居ルト云フ斯ウ云フコトデアリマスガ此文字ニ據ルト「其代表スル人」ト云フト保佐人ヲ代表スル人ト云フ意味ニ解スルノデ起草者ノヤウナ意味ニハ解シ惡クイト思ヒマスガ差支マスマイカ
梅謙次郎君
「其」ト云フ文字ハ「ソレノ」トカ或ハ「ソレガ」ト云フ意味ニ爲リマス「ソレガ代表スル人」ト言ヘバ只今ノ仰セノ如キ「ソレヲ代表スル人」ト云フコトニハ爲リマセヌ只今仰セノ如ク「ソレヲ代表スル人」ト爲ラヌト往ケマセヌ動詞ニシテ置クトソレヲ代表スル人、ソレノ代表スル人此文例ハ旣ニ議決ニ爲ツタ第九百二十一條ニアリマス此條ノ四號ニモ「後見人又ハ其代表スル人」ト云フコトガアリマス其文例ニ倣ヒマシタ
議長(三浦安君)
他ニ御論ガナケレバ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第九百十四條(舊第九百二十條)中「弟妹」ヲ「兄弟姉妹」ト改ム
梅謙次郎君
之ハ至ツテ小サイ修正ノヤウデアリマスガ併シ此前ニ少々議論ガアツテ原案ニハ「兄弟姉妹」トアツタノガ「弟妹」ニ改マリマシタ當時ノ理由ハ兄ガ弟ヲ監督シ姉ガ妹ヲ監督スルコトハ出來ルカラソレハ許シテ宜イダラウ、ケレドモ弟ガ兄ヲ監督シ妹ガ姉ヲ監督スルコトハ出來ヌカラ、ソレハ禁ジタ方ガ宜シイト云フ論デアリマシタ、所ガ整理委員會デハ其理由ハ隱當デナイ、ソレヲ言フト「直系血族」ト云フ方モ「直系卑屬」ト爲ラナケレバナラヌ子ガ親ヲ監督スルコトハ出來マセヌガ親ガ子ヲ監督スルコトハ出來マス、ソレデ本條ノ意味ハ、サウ云フ意味デ出來テ居リマセヌ人情庇ウ氣ニ爲ツテ本統ノ監督ハ出來ヌカモ知レヌト云フコトデ規定ガ出來テ居リマスカラ親ガ子ヲ監督スルコトモ許サヌ從ツテ兄ガ弟ヲ監督スルト云フコトハ許サヌソレハ人情ニ於テ許サヌト云フコトデアリマス、ソレデ「兄弟姉妹」ト爲ラヌト往ケヌト思フテ斯ウ改メマシタ
議長(三浦安君)
之モ御說ガナイト思ヒマスカラ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第九百二十三條(舊第九百二十九條)第二項ヲ左ノ如ク改ム
第八百八十四條但書ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
梅謙次郎君
原文ノ第二項ヲ削ツタノハ前ノ親權ニ關シテ「之ニ同意ヲ與フ」ト云フ文字ヲ削ツタト同樣ナ理由デアリマス同意ノコトハ旣ニ總則編ニ規定ニ爲ツテ居リマスカラ更ニ親族編ニ規定スル必要ガナイ又新タニ加ヘタ二項ハ卽チ親權ニ關スル八百八十四條黒字ノ八百九十一條ニ加ヘマシタ但書ヲ此處ニ準用シタノデアツテ「子ノ行爲ヲ目的トスル義務ヲ生スヘキ場合ニ於テハ本人ノ同意ヲ得ルコトヲ得ス」ト云フあの規定ヲ後見人ニ付テモ準用ヲ致シマシタ親權ヲ行フ者ニ付テあの規定ガ必要ナラバ後見ヲ行フ者ニ付テモ尙更必要ト思ヒマス
議長(三浦安君)
之モ別ニ御說ガナケレバ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第九百三十四條(舊第九百四十條)ヲ左ノ如ク改ム
被後見人カ戶主ナルトキハ後見人ハ之ニ代ハリテ其權利ヲ行フ但家族ヲ離籍シ、其復籍ヲ拒ミ又ハ家族カ分家ヲ爲シ若クハ廢絕家ヲ再興スルコトニ同意スルニハ親族會ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス
後見人ハ未成年者ニ代ハリテ親權ヲ行フ但第九百十七條乃至第九百二十一條及ヒ前十條ノ規定ヲ準用ス
梅謙次郎君
之ハ少々計リ文字ノ修正ガアルノト箇條ノ狂ヒガアリマスル丈ケノコトデ外ニハ餘リ修正ハアリマセヌガ唯ダ一ツ「其復籍ヲ拒ミ」ト云フ文字ノ這入ツタノガ幾分カ實質變更ニ當リマスカラ此處ニ提出致シマシタ實ハ旣ニ前ノ第七百四十二條ニ於テ―――マダ前ニアリマス七百四十一條ニモアリマス此條及ビ七百四十二條ニ於テ離籍ノ外ニ復籍ヲ拒ムト云フ場合ヲ認メマシタ、ソレハ他家ニ這入ツタ者デ原案デハ歸ツテ來ルコトハナラヌト云フノヲ矢張リ「離籍」ト致シマシタガ其場合ハ復籍ヲ拒ムト云フコトニ爲リマシタ實質變更デハアリマセヌガ形チノ上ニ於テハ變更ノヤウデアリマスカラ此處ニ提出致シマシタ實ハ實質變更トハ言ハイデモ宜シイト思ヒマシタガ會ノ爲メニ提出致シマシタ
議長(三浦安君)
之モ御說ガナイヤウデアリマスカラ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第九百三十五條(舊第九百四十一條)ヲ左ノ如ク改ム
親權ヲ行フ者カ管理權ヲ有セサル場合ニ於テハ後見人ハ財產ニ關スル權限ノミヲ有ス
梅謙次郎君
之ハモウ旣ニ度々出マシタ事柄ト同ジコトデアツテ卽チ第九百條第一號ヲ改メマシタコトト同ジコトデアリマス卽チ財產ノ管理ヲ辭シタ場合計リデナイ外ノ理由ニ依ツテ父又ハ母ガ管理權ヲ有セザル場合モ這入ラナケレバナリマセヌカラ、ソレデ廣クシタ丈ケノコトデアリマス
議長(三浦安君)
之モ御說ガナイト認メマスカラ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第九百四十三條(舊第九百四十九條)ヲ左ノ如ク改ム
本法其他ノ法令ノ規定ニ依リ親族會ヲ開クヘキ場合ニ於テハ會議ヲ要スル事件ノ本人、戶主、親族、後見人、後見監督人、保佐人、檢事又ハ利害關係人ノ請求ニ因リ裁判所之ヲ招集ス
梅謙次郎君
本條修正ノ主義ハ旣ニ乙號議案デ確定ニ爲ツタコトデアリマスカラ今日再ビ主義問題ハ出マイト思ヒマス、ソレデ一旦主義ガ極ツタ以上ハ殆ンド文章ノ修正デアリマスケレドモ乍併唯ダ主義丈ケ極ツタノデ細カイ規定マデハ此前極マツタノデアリマセヌカラ、ソレデ是カラ直シテ往クノデアリマス原文ハ御承知ノ通リ惡ルク言フト好キ親族ガ寄ツテ親族會ヲ拵ヘテ仕舞ウト云フコトニ爲ツテ居リマシタ、ソレヲ裁判所デ集メルト云フコトニ爲リマシタ、從ツテ原文ノ二項ノ如キ「招集スヘキ親族ナキトキ」トカ又ハ「親族ニ於テ親族會員ヲ選定セサルトキ」ト云フヤウナ場合ハ無ク爲ツタノデ、ソレデ此二項ハ削レルコトニ爲リマシタ
都筑馨六君
此命令デ親族會ヲ開ク場合ガ是カラ先キ餘計出來ルヤウナ御考デゴザイマセウカ隨分命令デ往クノハ酷ドイ唯ダ法律ノ特ニ委任シタ命令丈ケヲ指シタモノデゴザイマセウカ一ノ命令デ往クモノガゴザイマセウカ
梅謙次郎君
實ハ吾々モ命令ノ親族會ノアルコトヲ屹度信ジテ居ルト云フノハアリマセヌ現行法ハ無論ナイト思ヒマス唯ダ吾々ガ「令」ノ字ヲ念ノ爲メニ置キマシタノハ丁度都筑君抔ノ御管轄デアツテ教育ニ關スル命令抔ト云フモノガ是カラ段々出來マスルト一旦民法ノ方ニ親族會ガアツテソレガ未成年者ノ利益ヲ保護スベキモノト云フヤウナコトニ爲ツテ居ルト或ル場合ニ親族會ヲ開テ斯ウ云フ事ヲ議セロト云フヤウナ必要ガアラウカト看タノデアリマス乍併都筑君抔ノ御考デ法律デシタ方ガ宜シイト云フコトデアルナラバ、ソレデモ宜シイガ實ハ吾々ハ念ノ爲メニ此「令」ノ字ヲ置イタノデ別ニ確タル意見ガアルト云フ譯デハアリマセヌ
都筑馨六君
サウ云フ風ノ規定ハ學齢兒童ヲ保護スベキ者ノ權利義務ト云フヤウナモノ特ニ之ニ對スル制裁抔ハ無論之ハ命令デヤル理由ガアルト思ヒマス乍併兎ニ角其方ハ此民法デヽヽヽヽヽソレハ命令ノ方ノ制裁デ公法上ノコトデ差支ルコトガ出來ハシマスマイカ如何デゴザイマセウカ私ハ之デナケレバ往ケヌト云フコトナラバ削ツテ戴キタイト思ヒマス
梅謙次郎君
實際ハ此處ニ法律トアルカラ命令ノ親族會ト云フモノガ出テモ、ソレハ民法ニ據ル所ノ親族會ト云フ解釋ガ出來マセウガ乍併勿論親族會ト云フ字ガ使ツテアツテモ命令デ親族會ト爲ツテ居ツテモ、ソレハ民法デ謂フ所ハ違ウ「本法其他ノ法令」トアリマスカラ、例ヘバ教育ニ關シテ斯ウ斯ウ云フ場合ニ親族會ノ意見ヲ聞テ斯ウ斯ウシナケレバナラヌト云フヤウナ、サウ云フコトガ規定セラルルトスルト、ソレデモ、ソレハ命令ダカラ往カヌト云フヤウナ解釋ガ出ハシナイカト云フ恐レガアリマスカラ、ソレデ「令」ノ字ヲ加ヘマシタ
議長(三浦安君)
別ニ御修正モアリマセヌカラ可決トシテ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第九百四十四條(舊第九百五十條)ヲ左ノ如ク改ム
親族會員ハ三人以上トシ親族其他本人又ハ其家ニ緣故アル者ノ中ヨリ裁判所之ヲ選定ス
後見人ヲ指定スルコトヲ得ル者ハ遺言ヲ以テ親族會員ヲ選定スルコトヲ得
梅謙次郎君
本條ハ大分修正ガ加ヘテアリマスガ併シ一部分ハ旣ニ豫決問題デ決シテ居リマス第一項ノ方ハ少々原文トハ違ヒマス固ヨリ原文デハ親族ガ寄ツテ、サウシテ親族會員ヲ選定スルト云フノデアリマスカラ裁判所抔ト云フコトハナイ併シ彼ノ豫決問題デ極ツタコトハ主トシテ選定ノコトデ招集ノコトハ實ハ直接ノ問題ニ置カヌデアリマシタ、デアリマスカラ此點ハ豫決問題ノ眼目デアリマスカラ之ハ言フヲ俟チマセヌ其外「親族會員ハ三人以上トス但親族三人ニ滿タサルトキハ其家又ハ本人ニ縁故アル他人ヲ以テ之ヲ補充ス」トアツタノヲ「三人以上トシ親族其他本人又ハ其家ニ縁故アル者ノ中ヨリ裁判所之ヲ選定ス」ト致シマシタ縱令ヒ親族ガアツテモ不適任ト認メレバ其者ハ止メテ却テ縁故アル者ヨリ選ブコトガ出來ルトシタ方ガ宜カラウト云フ考デ斯ウ云フ風ニ改メマシタ且現在ニ於テモ例ヘバ華族抔ニ於テハ往々ニシテ親族ハ澤山アルガソレハ親族會員抔ニ爲ツテモ餘リ利益ノナイ人ガ多イト云フトキハ却テ親族以外ノ人デ例ヘバ舊臣トカ或ハ親ノ親友トカ云フヤウナ人ヲ親族會員ノ中ニ加ヘテ、サウシテ親族會ヲ組織スルト云フモノガ實際アルヤウデアリマス又極ハメテ必要ト思ツテ斯ウ云フ風ニ致シマシタ第二項ハ豫決問題デ極ツタコトデアリマスガ唯ダ形チヲドウ云フ風ニ書クカト云フコトヲ整理委員ニ委任サレテ居リマス、ソコデ評議ヲ致シマシタガ詰リ遺言デ親族會員ヲ選定スルコトヲ許シテ置ケバ「三人以上トシ」トアル其三人以上ヲ皆選ブト云フコトモ出來ル又ハ其中ノ幾人ヲ選ブコトモ出來マス又死亡其他デ足ラヌトキハヽヽヽヽヽ選ブコトガ出來マスカラ、ソレデ單ニ「親族會員ヲ選定スルコトヲ得」ト書テ置ケバ宜シイト云フ考デ斯ウ云フ風ニ改メマシタ
議長(三浦安君)
之モ御說ガナイト見テ次ニ移リマス
(書記朗讀)
舊第九百五十二條ハ之ヲ削除ス
梅謙次郎君
元トノ九百五十二條ト云フモノハ親族會員ハ親族ニ於テ選定セシムトアリマシタカラ、ソレニ付テ異議ガアレバ三个月内ニ裁判所ニ改選ヲ請求スルコトガ出來ルトアリマシタノヲ、ソレハ裁判所デ選定スルコトニ爲ツタノデ、ソレニ付テ不服ガアレバ普通ノ上訴デ往ク尤モソレハ非訟デアリマスカラ上訴ト言ツテモ民事訴訟法ノ上訴デナイ、ソレハ手續法デ往キマス上訴デアリマス、ソレデ此九百五十二條ハ要ラヌコトニ爲リマスカラ削ツテ仕舞ヒマシタ
議長(三浦安君)
次ニ移リマス
(書記朗讀)
第九百四十八條(舊第九百五十五條)ヲ左ノ如ク改ム
無能力者ノ爲メニ設ケタル親族會ハ其者ノ無能力ノ止ムマテ繼續ス此親族會ハ最初ノ招集ノ場合ヲ除ク外本人、其法定代理人、後見監督人又ハ保佐人之ヲ招集ス
梅謙次郎君
本條ハ詰リ原文ノ意味ト酷ドク變ハル譯デハアリマセヌ原文ハ初メカラ又如何ナル場合ニ於テモ親族ト云フモノハ本人、戸主トシテ招集シテサウシテ親族會員ヲ選定セシメルト云フ主義デアリマシタカラ固ヨリ其招集ト云フモノハ、ソレラノ人ガスルト云フコトガ極ツテ居ツタノデ唯ダ範圍ハ非常ニ廣カツタ「本人、戸主、親族、後見人、後見監督人、保佐人、檢事又ハ利害關係人」斯ウ云フ者ガ親族會ヲ招集スルコトガ出來テ居リマシタ、ソレハ困リマスカラ今度ハ「本人、其法定代理人、後見監督人、保佐人」丈ケニシマシタ利害關係人トシテモ主タル者或ハ自己ノ代理ヲスル者斯ウ云フ人ガ招集スルノガ極ハメテ穩當ト思ツテ改メマシタ初メ丈ケハ裁判所デ招集ヲスル實際選定ヲシテ卽チソレヲ招集シテ是カラお前方ニ是々ノ職權ヲ與ヘル卽チ親族會員トスルト云フコトヲ申渡ス丈ケノコトデアルト思ヒマス無能力者ニ付テハ―ソレカラ後トハ自治デ以テ往クト云フコトニ爲ルト思ヒマス初メ吾々カラ提出シタ案ハ會長ト云フ者ヲ選ンデ會長ガ此場合ハ招集スルコトニ爲ツテ居リマシタガ理窟カラ言フト其方ガ合ツテ居ルヤウデアリマスガ又諸君ノ慣習ヲ楯ニシテ論ゼラレルノモ理由ガアリマスカラ此處ハ圓滑ニ會長ト云フヤウナいかめしい者ヲ止メテ仕舞ヒマシタカラ從ツテ招集ヲ爲ス人間モ此處ニ掲ゲタ人間ガ穩當ト云フコトニ爲リマシタ
富谷鉎太郞君
此「本人、其法定代理人、後見監督人又ハ保佐人」ト云フ者ガ招集セザル場合ハドウ爲リマスカ
梅謙次郎君
ソレハ是ラノ者ガ招集シナイト云ヘバドウモ仕方ナイ元來此無能力者ニ付テ親族會ト云フモノガ會議ヲスルト云フノハ必ズ本人ガ例ヘバ法定代理人ニ對シテ取引ガアル或ハ法定代理人ガ親族會ノ同意ヲ得ナケレバ出來ヌ事柄ガアルノデ招集ヲスル又ハ後見人ニ不埒ガアルト云フノデ後見監督入カラ招集ヲスル又ハ保佐人ガ同意ヲ與ヘルノデ親族會ノ意見ガ要ルト云フコトデ招集スル場合ニ限ラレテ居ルト思ヒマス成程此處ニ例ヘバ親族會員又ハモウ一層廣クシテ親族ハ招集ヲ請求スルコトヲ得ルト云フ規定ヲ置イタ方ガ宜シイカトモ考ヘマシタ外國ニハ、サウ云フ例ガナイデハアリマセヌ併シ外國ノハ招集スル人間ガ判事デアリマス大抵ハ―ケレドモ大抵是丈ケノ人間ヲ列擧シテ置イタナラバ例ヘバ後見監督人ガ後見人ニ惡ルイ者ガ居ルノヲ知ラナイデ居ル、ソレヲ親族ガ告ゲル、サウスルト後見監督人ガ招集ヲスルト云フヤウナコトニ爲ツテ宜シイト思ヒマスガ尙ホ只今ノヤウナ規定卽チ親族ハ親族會ノ招集ヲ請求スルコトヲ得ルト云フヤウナ規定ヲ置ク方ガ宜シイト云フ御考ナラバ其說ニ敢テ異議ガアル譯デハアリマセヌ實ハ諸君ガ親族會ノ規定ヲ細カク規定スルト直グ御騷ギニ爲リマスカラ遠慮シテ置カヌデアリマシタ
重岡薫五郎君
私モ之デハ少シ招集スル者ガ不足ハシナイカト云フ感ジヲ持ツテ居リマス親族ガ招集スルト云フコトデナクテモせめテ親族會員丈ケガ或ハ多數デ招集スルト云フ位ニシタラドウデゴザイマセウカ、ソレ位ニ讓ツテ貰ツタラ或ハ宜カラウカト考ヘマス
梅謙次郎君
裁判所ト云フコトハ此處デハドウデスカ
尾崎三良君
親族會員位ハ宜シイダラウ
梅謙次郎君
其場合ハ親族會ヲ開イタト言ハナケレバナラヌ之ハ黒字ノ九百五十一條第三項デ實際往ケルコトニ爲ル卽チ裁判所ニ於テ其任務ニ堪ヘザルモノト認メルソレハ誰レノ請求ニ依ルカナラバ、ソレハ親族ノ請求デ出來ルト云フコトニ爲ラナケレバナラヌ此處ハ親族會員位ガ宜シイカモ知レヌ
土方寧君
此親族會ノコトハ屡々議論ガアツテ組織ニ付テ豫決問題モ起シテ負ケマシタガ、サウ爲ツタ上デハドウモ今ノ重岡君ノ言ハレタノハ御尤モト思ヒマスカラ招集スルニ付テハ此處ニ書テアル者ヨリ外親族會員ト云フ者ヲ一名デモ二名デモ宜シイカラ入レテ貰ウノガ必要ト思ヒマス
梅謙次郎君
ソレデハ「後見監督人、保佐人又ハ親族會員之ヲ招集ス」デハドウデスナ
(此時「ソレデ宜シイ」ト呼ブ者アリ)
議長(三浦安君)
ソレデハ今ノ修正ノ外原案ニ決シテ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第九百四十九條(舊第九百五十六條)ヲ左ノ如ク改ム
親族會ニ缺員ヲ生シタルトキハ其親族會ハ補缺員ノ選定ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ要ス
梅謙次郎君
此前ノハ主義ガ違ツテ居リマシタカラ「親族會ニ缺員ヲ生シ補缺ノ必要アリト認ムルトキハ親族會其補缺員ヲ選定ス」ト云フコトニ爲ツテ居リマシタケレドモ今度ハ裁判所デ選定スルト爲リマシタカラ、ソレデ「補缺員ノ選定ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ要ス」ト云フコトニ爲ルノガ當然ノ結果ト言ツテ宜シイト思ヒマス一寸附ケ加ヘテ申シマスガ二項ノ方ハ詰リ前ガ變更シタル結果デアリマスカラ之ハ說明ハ致シマセヌガ此「前條ノ場合ニ於テ」ト云フコトヲ取リマシタノハ少シ實質ガ變ハリマス「前條ノ場合ニ於テ」ト言フト無能力者ニ當嵌マルノデアリマスガ整理委員會デハ之ハ此場合ニ限ルノデナイ或ル一ツノ場合ニ於テ親族會ヲ招集ヲシタ、所ガ議決ヲセヌ中ニ其中ノ一人ガ死亡ヲシタト云フヤウナ場合ニハ早速補缺員ヲ選ブ必要ガアリマセウカラ廣クシテ置ク方ガ宜シイト云フノデ由廣ク致シマシタ
田部芳君
本條ニ「親族會ニ缺員ヲ生シタルトキハ其親族會ハ」トアリマスガ之ハ矢張リ「親族會員ハ」トシテハドウデゴザイマセウカ
梅謙次郎君
親族會員デナイ其會ト云フ團體カラ請求スルト云フノデアリマス
田部芳君
三人選ンダ、ソレデ三人ノ内一人缺ケテ二人ガ一致シナケレバナラヌ後トノ二人ガ一致シナケレバナラヌト云フコトデハ不便デハアリマスマイカ缺ケテ居リマスト云フコトヲ言フ丈ケデアリマスカラ一人カラデモ言ヘルト云フ方ガ便利ト思ヒマス二人ガ一致シナケレバナラヌ團體ト云フモノデアルト皆ト云フコトニ爲ルト不便ト思ヒマス
梅謙次郎君
多數デアル
土方寧君
今ノ田部君ノ御話シノ會員三人以上其内一人缺員ヲシタ二人ニ爲ルト親族會ト云フ目的ガ潰レハシマスマイカ二人ニ爲ルト親族會ノ法律上ノ會ハナイ、サウスルト「親族會ハ」ト云フコトハ言ヘヌヤウニ爲ル
田部芳君
ソレデハ「親族會員ハ補缺員ノ選定ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得」ト云フ修正說ヲ提出致シマス
土方寧君
之ハドウデゴザイマセウカ若シ今ノ場合ニ三人デ一人缺員ヲシタ三人以上デアツテ五人アツタ場合誠ニ面倒ナ奴ガ一人死ンデ仕舞ツテ四人ニ爲ツタ後トノ四人ガ打擲ツテ置イタトキニハ制裁ハドウデゴザイマセウカ
梅謙次郎君
ソレハ親族會員ガ義務ヲ盡サヌデアリマシタラ、ソレヨリ損害ガ生ジタナラバ其賠償ノ責ニ任ズルノデアリマス
議長(三浦安君)
今ノ田部君ノ「親族會員ハ」ノ說ニ贊成ガアリマシタカ
重岡薫五郎君
贊成
穗積陳重君
私モ格別反對デハアリマセヌガ之ガ「補缺員ノ選定ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ要ス」トアリマス今ノヤウナ場合ニ誰レデモ請求スルコトヲ得ルト云フコトデアルト宜シイガ原文デハ誰レデモ宜シイト云フコトデ要ストアリマス多分あの人ガアルデアラウト思ツテ居ルノデ要スト云フコトニ付テ、ソコガ少シドウモ
田部芳君
「親族會員」ト云フコトデアル以上ハ各々ガ補缺ガ生ジタ以上ハ選定ヲ裁判所ニ請求スル義務ガアリマス、ソレデ一人一人ニ付テモ義務ガアルト見テモ宜シイ丸デ打擲ツテ置テ宜シイト云フコトニ爲ハツテハ困ル
富谷鉎太郞君
一寸伺ヒマスガ此案デハ裁判所デ極マルト會員ガ極マルノデ三人以上デアルカラ五人デアツタトスルト三人ニ爲ツテモ法律ニ適ウノデサウ云フ場合ニ必ズ元トノ五人ニ戻サナケレバナラヌト云フ、サウ云フコトハ出來ヌ積リデアラウト思ヒマスガ有效ナル會ガ出來ルヤウナコトナラバ矢張リ三人ニシテモ、變ヘルコトガ必要ノ場合ニハ出來ルト云フコトニハ往カヌ譯デゴザイマセウカ裁判所ノ見込デ場合ニ依ルト
梅謙次郎君
代リヲ選バヌノデスカ
富谷鉎太郞君
サウデス
梅謙次郎君
ソレハ出來ルノデアリマス
富谷鉎太郞君
此規則ニ據ルト一度ビ極ツタラ其通リノヤウニ見エル
土方寧君
補缺ガ要ル裁判所デハ要ル、ソレデハ宜シイト云フコトモアルカモ知レヌ
梅謙次郎君
ソレハアル請求ハシナケレバナラヌ
議長(三浦安君)
ソレデハ修正說ガアリマスカラ決ヲ採リマセウ田部君ノ「親族會」ヲ「親族會員」トスルト云フ說ニ贊成ノ方ノ起立ヲ請ヒマス
起立者多數
議長(三浦安君)
多數デアリマス
土方寧君
「其」ハ要ラヌダラウ
梅謙次郎君
「其」ハ要ラヌ
議長(三浦安君)
ソレデハ、サウ決シテ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第九百五十四條(舊第九百六十一條)ヲ左ノ如ク改ム
扶養ノ義務ヲ負フ者數人アル場合ニ於テハ其義務ヲ履行スヘキ者ノ順序左ノ如シ
第一 配偶者
第二 直系卑屬
第三 直系尊屬
第四 戶主
第五 前條第二項ニ掲ケタル者
第六 兄弟姉妹
直系ノ卑屬又ハ尊屬ノ間ニ於テハ其親等ノ最モ近キ者ヲ先ニス前條第二項ニ掲ケタル直系尊屬間亦同シ
梅謙次郎君
他ハ文字ノ修正デアリマスカラ序デニ提出シタト云フ丈ケノコトデアリマス實質ヲ變更シタノハ第七號ヲ削ツタノデアリマス七號ニハ「第八百十九條及ヒ第八百八十條ノ規定ニ依リテ扶養ノ義務ヲ負フ者」トアリマシタガ此二箇條ハ旣ニ削除ニ爲リマシタカラ其當然ノ結果ト見テモ宜カラウト思ヒマス
都筑馨六君
之ハ此處デ言フテハ惡ルイカモ知レマセヌガドウデゴザイマセウカ此箇條ハ是非トモ親族編ニ書テ置カナケレバナラヌ箇條デゴザイマセウカ隨分之ガ爲メニ斯ウ云フヤウナ一箇條ヨリ親族編全編ノ批難ヲ受ケルヤウナ結果ヲ來タシハシマスマイカ殊ニ私共ノ感ジ丈ケデハ無論習慣ノコトハ深クハ知リマセヌガ、ドウモ戸主ノ權利ハ餘程上ニ立ツベキヤウナモノデ封建時代カラ戸主ヲ重ンズル―戸主ヲ重ンズル所カラ戸主抔ハ、ソンナニ卑クヒ所ニ居ルモノデナイ夫ガ妻ヲ養フト云フコトハ宜シイガ妻ガ夫ヲ養フト云フヤウナコトハ上等社會、中流以上ノ社會ハ兎モ角之ガ爲メニ下等社會ノ所謂女子ヲ苦メルト云フヤウナ誠ニ此箇條ハ議論モ出來易イト思ヒマス私抔ハ未成年ニ爲ルト此未成年者ヲ預ツテ居ル戸主ノ方ガ子ノ尊屬親ヨリ近イヤウニ思ヒマス斯ウ云フ事ハ我慢ヲシテ習慣ガ稍々定マルマデ見テ置テハドウデゴザイマセウカ
梅謙次郎君
扶養ノ義務ノコトヲ丸デ規定ヲセヌケレバ、ソレデ宜シイカモ知レマセヌガ一旦法律上ノ扶養ノ義務ト云フモノヲ法律上認メタ以上ハ、ソレガ正當ノ義務ヲ負フモノカ又ハ或ル義務ヲ負フモノカト云フコトガ法律上極ツテ居ラナイト不都合ト思ヒマス固ヨリ折合ガ付テ居ルモノナラバ義務ノ後トノ方ニ居ル者ガ進ンデ自分ガシヤウト云フモノナラバ宜シイガ何レ本條ノ適用ノアルモノハ道徳上ノ方ハ面白クナイカモ知レマセヌガ貴樣ヤリ爲サイ嫌ヤト云フヤウナ爭ヒノ場合ニ斯ウ云フ條ノ必要ガアリマス、サウスルト裁判所デハ是非何カ標準ガナケレバナラヌノデアリマスソレデ都筑さんノ御意見モ誠ニ御尤モデ或ル程度マデハ誠ニ贊成デアリマスガ一旦扶養ノ義務ヲ親族編中ニ置ク以上ハ此箇條ガナイト折角規定ヲ設ケタ甲斐ガナイト思ヒマス尤モ順位ノコトハ議論モ大分アリマシタガ今日ノ慣習ト申シマシテモソレ計リニハ是ラノ事ハ據レヌト思ヒマス其理由ハ旣ニ相續編抔デモ家族ノ財產ヲ認メ此家族ノ相續ハ分割主義ヲ認メマシタ是カラ段々腕ノアル家族ハ財產ヲ作ル其財產ヲ自分ノ卑屬トカ配偶者抔ニ與ヘルト云フコトニ爲ルト大分財產上ノ管理ハ從來トハ變ツテ來ルト思ヒマス又戸主ノ權利ト云フモノハ今日ヨリハ此親族編デハ少シ狹マク爲ツテ居リマス從ツテ義務モ薄ク爲ツテ善クハナイカト思ハレマス配偶者ガ大變えらい所ニ出シヤ張ツテ居ルト云フコトデアリマスガ實ハ此處ニ書テアル場合ハ先キノ規定デ能ク分リマスガ上流社會云々ノ御話シガアリマシタガ財產ノアル者ハ扶養ヲ受ケル權利ハナイ又財產ノナイ者ハ扶養ノ義務ハナイ故ニ本條ノ適用ハ夫ガ財產ヲ持ツテ妻ガ財產ガナケレバ夫ガ妻ヲ養フ又夫ガ財產ガナクテ妻ガ財產ガアレバ夫ヲ養フト云フコトニ爲リマス從ツテ上流社會ニハ適用ガナイカモ知レマセヌガ、デソコラノコトハ吾々ノ間デ議論ヲシ評議ヲシマシタガ乍併順序變更ト云フヤウナコトハ都筑さん抔カラ發議ヲシテ皆さんニ御問ヒニ爲ツテモ宜シイカトモ思ヒマスガ丸デ削ルト云フコトハ如何カト思ヒマス
土方寧君
今頃ニ爲ツテ言ヒ出スノハ何ンデアリマスガ長イコトハ申シマセヌガ第四號ノ戸主デアリマスガ之ハ第二番目ニ持ツテ往キタイ「第一配偶者、第二戸主、第三直系卑屬」トシタイ、ソレハ親族編ハ追々戸主ト云フモノハ事實失フヤウナ形チニ爲ツテ往クノデアリマス其家ト云フヤウナ感念ヲ失フト云フコトヲ見タ書キ方ト思ヒマス私ノ見方ハ違ウノデアリマス日本ノ本來ノ家族制度ハ宜シイノデ外ノ事ハ西洋ノ通リニ爲ツテモ宜シイガ家族制度ハ日本ノ從來ノ通リガ宜シイト云フ考ヲ持ツテ居リマス、ソレデ戸主ハ家族ヲ養フテ往クト云フヤウナ本來ノ主義ニセナイト往カヌト思ヒマス旣ニ七百四十五條ニ於テ「戸主ノ其身分及ヒ資力ニ應シ家族ノ扶養及ヒ教育ノ費用ヲ負擔ス但家族カ自ラ其費用ヲ支辨スルコトヲ得ルトキハ此限ニ在ラス」(此時梅委員「ソレガ變ツテサウ爲リマシタ「扶養ノ義務ヲ負フ」ト爲ツテ居リマシタ」ト呼ブ)ソレデ此自活スル者ハ扶養ノ義務ハナイ法律上ハはツきりシテ居リマセヌガ今後ハ家族ガ特有財產ヲ有スルコトガ出來ルヤウニ爲ツテ居リマスガ戸主ノ物トモ名ノ付カヌトキハ戸主ノ物ト爲ルト云フコトニ爲ツテ此條ノ配偶者ノ場合ハ之ハ家族ノ中ニ配偶者ガアルト云フコトハ餘程自活ノ力ガナケレバ異狀ノコトト思ヒマス、サウ云フ場合ハ別ニ見テ二號三號ノ方ノ直系尊屬、卑屬ノ方ハ多クハ戸主家族ノ關係ト伴フテ來ルノデアリマス、ソレデ私ノ考ハ法律上ハ配偶者ハ特別ノ義務ノアル爲メニ各々扶養ヲスル其次ハ戸主家族ノ關係デ往クト云フコトニシタイ、サウ云フ點ハ今日ノ儘デ將來續ケテ往ツテモ外ニ人事關係ニ付テ時々變ズルモノデナイト思ヒマス外ノ點ハ進歩シテ往ツテ、サウシテ日本流ニヤツテ往クコトハ圓滿ニ往クト思ヒマス、ソレデ、ドウカ「戸主」ト云フモノヲ第二ニ置キタイト思ヒマス
都筑馨六君
私ハ「戸主」ヲ二ニ入レルト云フ說ニ贊成致シマス、ソレト同時ニ私ハ夫ト妻ト云フ者ヲ割テ貰ヒタイ今迄女ハ此會デ敲キ付ケマシタ、ドウカスルト日本ノ習慣デ女ハ男ガ敲キ付ケル唯ダ夫ノ方ガ上ニ立ツ保護スルト云フ主義ナラバ女カラ養バレル妻カラ養ハレルト云フヤウナコトハ今日中等以上ノ社會ニ於テハ萬有ル間敷コトデアルノミナラズ習慣上ナイコトデアル而已ナラズドウモ是迄採ツテ來タ主義カラ面白クナイ是迄是程ノ義務ヲ女ニ負ハセテ權利ヲ與ヘナイト云フコトハ面白クナイソレデ妻ノ方ノ義務ハ五番目位ニ置キタイト思ヒマス
梅謙次郎君
マダ贊成モアリマセヌカラ反對スル必要モアリマセヌガ今御話シニ爲ツタノハ此處デ極ツタノデアリマセヌずツと前ニ極マリマシタ、ソレハ婚姻ノ效力ノ所デ極マリマシタ夫婦ハ互ニ扶養スル義務ヲ負フコトニ爲ツテ居リマス此點ニ於テハ夫婦平等ニ極ツテ居リマス此點ニ付テモ都筑君ノ言ハレタヤウナ女ハ下等ノ者デアル劣等ノ者デアルトハ取扱ツテアリマセヌ
議長(三浦安君)
ソレデハ土方君ノ說ニ付テ決ヲ採リマス「戸主」ヲ第二ニ置クト云フ說ニ贊成ノ方ノ起立ヲ請ヒマス
起立者少數
議長(三浦安君)
少數デアリマス別ニ御說ガナケレバ可決シテ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第九百五十六條(舊第九百六十三條)ヲ左ノ如ク改ム
扶養ヲ受クル權利ヲ有スル者數人アル場合ニ於テ扶養義務者ノ資力カ其全員ヲ扶養スルニ足ラサルトキハ扶養義務者ハ左ノ順序ニ從ヒ扶養ヲ爲スコトヲ要ス
第一 直系尊屬
第二 直系卑屬
第三 配偶者
第四 第九百五十三條第二項ニ掲ケタル者
第五 兄弟姉妹
第六 前五號ニ掲ケタル者ニ非サル家族
第九百五十四條第二項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
梅謙次郎君
之ハ只今ノ箇條ト同ジ理由デアリマスカラ別ニ說明致シマセヌ
議長(三浦安君)
別ニ御說ガナケレバ決シテ次ニ移リマス
(書記朗讀)
舊第九百七十條ハ之ヲ削除ス
梅謙次郎君
之ハ「扶養ノ義務ハ扶養權利者又ハ扶養義務者ノ死亡ニ因リテ消滅ス但其死亡ノ當時旣ニ辨濟期ノ至リタルモノハ此限ニ在ラス」之ハ第一ノ議事ノ時カラ要ラヌデハナイカ知レ切ツタコトヲ言フノデハナイカト云フ議論ガアリマシタガ、サウ云フ說ハ其時ハ多數ヲ得ナイデ此儘デ決シマシタガ然シ整理委員會ニ於テ、サウ云フ論ガ出テ種々研究ノ末、明文ガナクテモ此通リニ爲ルト云フコトニ決シテ茲ニ削除說ヲ提出スルニ至ツタノデアリマス
議長(三浦安君)
別ニ御說ガナケレバ決シテ今日ハ時間ハ少シ早ウゴザイマスガ是デ散會致シマス
于時午後六時散會