明治民法(明治29・31年)

法典調査会 第190回 議事速記録

参考原資料

第百九十回法典調査會議事速記録
出席員
箕作麟祥君
土方寧君
岸本辰雄君
田部芳君
井上正一君
都筑馨六君
穗積陳重君
富井政章君
梅謙次郎君
重岡薫五郎君
尾崎三良君
三浦安君
中村元嘉君
岡野敬次郎君
議長(箕作麟祥君)
夫レデハ會議ヲ開キマス第千五十三條
(書記朗讀)
第千五十三條 前條ノ場合ニ於テ裁判所ハ利害關係人又ハ檢事ノ請求ニ因リ相續財產ノ管理人ヲ選任スルコトヲ要ス
 裁判所ハ遲滯ナク管理人ノ選任ヲ公吿スルコトヲ要ス
(參照)取三四二、三四三、二十三年非訟事件手續法一三乃至一五、佛八一一、八一二、同民訴九九八、蘭一一七二、一一七三、一一七四、二項、伊九八〇、九八一、グラウブユンデン四八二、ツユーリヒ九二五乃至九二七、白草九三四、九三五、獨一草二〇五八、二〇五九、同二草一八三七、一八三八
富井政章君
本條第一項ハ旣成法典竝ニ諸外國ノ法律ト變ハルコトハアリマセヌ卽チ取得編ノ第三百四十三條ト同ジコトデアリマス此相續人ノアルコトガ分明デナイ場合ハ前回ニモ申上ゲマシタ通リ是非トモ管理人ヲ選任セネバナラヌ夫レデ此前ノ「相續ノ承認及ヒ抛棄」ノ所ニ置カレマシタ規定丈ケデハ足リマセヌノデアリマス是非トモ管理人ヲ置カネバナラヌ其譯ハ主トシテ淸算ヲセネバナラヌト云フコトガ後ニ來マス夫故ニ本條第一項ノ規定ヲ必要トシタノデアリマス第二項ハ相續人ヲ搜索スル爲メノ公告デアリマス後ニ淸算ガ了ツタ上デ愈々相續財產ノ殘リガ國庫ニ往クト云フトキニ尙ホ一回公告スルコトニナツテ居リマス尙ホ一回公告ヲシテ愈々相續人ガ出テ來ナイト云フコトヲ慥メタ上デ國庫ニ往クコトニ爲ツテ居リマス乍併可成ハ早ク搜索ノ手續ヲ爲シテ相續人自ラガ債權者ニ支拂ヲ爲シ其他自分ノ財產トシテ管理スルコトガ望マシイノデアリマス此初メノ公告ハ最モ必要ノコトト考ヘマス此目的ヲ以テ本條第二項ノ如キ規定ヲ設ケテ居リマスル國ハ法文ノ上ニ顯ハレタ所デハ三ツシカアリマセヌソレハ第一ハ和蘭民法、和蘭民法ニ於テハ管理人ガ選任セラレタラバ新聞其他ノ方法ニ依ツテ相續人ノ搜索ヲ目的トスル公告ヲセネバナラヌト爲ツテ居ル卽チ管理人ニ命ジテアル又一ツハ「グラウビユンデン」ノ法典デアリマス之ハ至ツテ鄭重ノ手續ガ定メテアリマシテ裁判所ガ鄭重ナ手續ヲ履ンデ公告ヲ致シマスル外ニ尙ホ相續人ガ居サウナト思フ地ノ行政官廳ニ通知ヲスルト云フヤウナ規定ガアリマス尙ホ一ツノ例ハ伊太利民法デアリマス此伊太利民法ニハ全ク裁判所ガ管理人ヲ選任スル裁判ヲ公告スルト云フコトニ爲ツテ居リマス夫レガ一番簡便デアツテサウシテ時モ一ツデ早ク此第一着ノ公告トシテハ一番便利カト考ヘマシテ伊太利民法ニ倣フテ裁判所ガ管理人ヲ選任スル所ノ裁判ヲ公告スルト云フコトニ致シマシタ其公告ハドウ云フ風ニシテスルカト云フコトハ何レ別ニ極ラネバナラヌコトデアリマス斯ウ云フ場合ハ外ニモ澤山アリマシタカラ何レ一緒ニ極マルコトヲ期シテ居リマス裁判所ノ門前ニ黒イ板ニ書テアルト云フ譯デハ往ケマイト思ヒマス總テ斯ウ云フ法律關係ノ極マルコトハ一種ノ新聞ヲ極メサウシテ世ノ中ニ一般ニ取引上ニ最モ利害ヲ持ツテ居ル者ハ必ズ其新聞ヲ讀ムト云フコトニシタイノデス何レサウ云フ一種ノ新聞ガ出來ルコトニ爲ラウト思ヒマス夫レニ公告ヲスルト云フコトニ爲ラウト思ヒマス今日デハまあ官報ヨリ仕方アリマセヌ併シ先キデハ今申シタヤウナ特別ナ新聞ハ出來ルコトヲ希望致シマス
田部芳君
本條第二項ノ趣意ハ只今御說明ニ依ツテ分リマシタガ卽チ關係人ニ斯ウ云フ遺產ガアルト云フコトモ矢張リ知ラセルト云フ御趣意デアルト云フコトデアリマスガ併シ此文字ニ顯ハレタ所丈ケデハ「選任ヲ公告スルコトヲ要ス」ト云フコトニ爲ツテ居ツテ唯ダ誰レ誰レノ遺產ニ付テ誰レ誰レヲ管理人ニ選任シタゾト云フ丈ケノ事サヘ公告ヲスレバ宜シイト云フコトニ爲ツテ居リマス私ノ考ヘデハ矢張リ此時カラ此遺產ニ付テ權利ヲ主張シヤウト云フ者ガアレバ此管理人ノ所ニ言フテ來イト云フコトヲ――――成程裁判所デ公告ヲスルノデハアリマスケレドモ實際ハサウ云フ事ニデモ公告サセル方ガ公告ノ趣意ヲ十分ニ貫徹サセルモノデハアルマイカ勿論之ハ第一回ノ公告デアリマスカラ失權ノ制裁ハ出來ナイ何時々々マデニ言フテ來ナケレバ權利ヲ失ウト云フコトニセヌデ第二回ニ至ツテ卽チ千五十六條ノ公告デ權利ヲ失ウト云フコトニスル第三回ニ千五十九條ノ公告デ是デ愈々最終ノ公告斯ウ云フ事ニシタナラバドウデアラウカト云フ考ヲ持ツテ居リマス夫レデ私ハ只今御說明ヲ承ハル前ニ偶然和蘭ノ民法抔ヲ恰度見テ居リマシタラバ廣ク書テアツテドウモ初メカラ唯ダ汎ク公告ヲシテ權利ノアル者ハ言フテ出ロト云フ趣意マデモ公告サセタ方ガ公告ノ趣意ヲ貫徹サスコトニ爲リハシナイカト云フ考ヘデアリマスガドウデゴザイマセウカ
富井政章君
仕舞ヒノヲ止メルノデアリマスカ
田部芳君
仕舞ヒノハ無論止メル唯ダ誰レ誰レヲ管理人ニ選任ヲシタト云フ事丈ケデハドウモ餘リ――――失レデモ注意ヲ喚ビ起スケレドモ矢張リ不十分デハナイカ言フタ方ガ法律ノ趣意ヲ十分貫キハシナイカト云フ考デアリマス
富井政章君
權利ノアル者ハ言フテ出ロト云フコトデアルケレドモ債權者ノ方ハ千五十六條ニ極メテアル此處ハ先ヅ相續人丈ケノ積リデアリマス
田部芳君
相續人デモ誰レデモ總テ廣クヤル積リデアリマス此時カラモ矢張リ債權者ニモ公告スル必要ハ無論アラウト思ヒマス管理人ガ極ツタカラシテ
富井政章君
暫クノ間ハ淸算ハヤラヌト云フ趣意デアル
田部芳君
夫レハ時ガ變ハルカモ知レヌケレドモ言フテ置ク
富井政章君
暫ク相續人ヲ待ツテ夫レカラ淸算ヲヤルト云フ趣意デアル
田部芳君
サウ云フ趣意デアル
富井政章君
ケレドモ夫レハ注文シテ出來ヌコトモアルマイ
重岡薫五郎君
少シ伺ヒタイノデアリマスガ此利害關係人ノ中ニ矢張リ國庫ガ這入ルモノデアリマセウガ國庫ハ本條ノ如キ相續財產ニ付テ利害ノ關係ヲ持ツテ居ル乍併國庫ガ直接ニ持ツテ居ルト云フ譯デハナクシテ或ハ將來ニ歸屬スルカモ知レナイ斯ウ云フヤウナ利害カモ知レヌカラシテドウデアルカト云フ疑ガアリマス或ハ又檢事ト云フ者ガ公益ト云フヤウナ廣イ意味デ國庫ノ代リニスルモノ斯ウ云フ事ニ爲ルガ之モ疑ガアルト云フノハ國庫ニハ別ニ代表者ガアルカラシテ檢事ガ直チニ代表スルト云フコトモ言ヘマイト思ヒマス此點ガ伺ヒタイ夫レカラ次ニ管理人デアリマスガ此管理人ハ選任セラレタナラバ直チニ之ヲ義務的ニ受ケネバナラヌモノデアリマスガ若シ受ケネバナラヌト云フコトナラバ宜シイガ隨意ニ選擇スルノ權利ガアルト云フヤウナコトニ爲ルト或ハ財產ガ僅カデアルトカ或ハ負債ガ多クアツテ到底其財產ノ中カラ辨償ヲヤル途ガ無イト云フヤウナ場合ニハ管理人ハ誰レモ辭退シテ管理人ニ爲ル人ガ無イト云フヤウナ場合ニ於テハドウ云フコトニ爲ルノデアリマスカ其邊ヲ一應伺ヒマス
富井政章君
第一ノ點ハ吾々ハ氣付カナンダノデアリマス夫故ニ此利害關係人ト云フ中ノ解釋問題ニナルト思ヒマス這入ツタ所ガ少シモ害ハナイ併シ實際ハ檢事ノ方デ往クデアラウト思ヒマス檢事ガ國家ノ利益ノ爲メニ自分ノ發意デアルカ或ハ國庫ヲ管理シテ居ル者ガ檢事ニ知ラスカ實際ハ檢事ガヤルノデアラウト思ヒマス併シ理論上ハ利害關係人ト云フ中ニ這入ルト云フコトガ正シイカモ知レヌ夫レハ解釋ニ委ネテ置イテ宜カラウ、ドチラニシテモ害ハナイ夫レカラ第二ニ管理人デアリマスガ此裁判所ノ命令ニ因ツテ管理人ニ爲ルト云フコトハ一ツノ公務デアリマシテ唯ダ無闇ニ辭スルコトハ出來ヌト思ヒマス正當ノ事由ガナケレバ――――デ辭スルコトガ出來テモ其土地ニ千人デモ萬人デモ人ハアリマスガ夫レガ辭スレバ又外ノ人ヲ選ブト云フコトニ爲ルダラウト思ヒマス其點ハ差支ナカラウト思ヒマス唯ダ迷惑デアルカラ嫌ヤダト言フコトハ出來ナイト思ヒマス一ツノ公務ニ爲ルト思ヒマス夫レカラ迷惑デハアリマスケレドモ次ノ條ニ失踪ノ規定ガ準用サレテアリマスカラ報酬ハ取レマス
井上正一君
サウスルト何ンデアリマスカ此管理人ト云フ者ハ卽チ債權者カラ債權ノ辨濟ヲ請求シテ來テモ管理人ハ辨濟ヲスルコトハ出來ナクナル卽チ千五十六條ノ所ニ皆持ツテ往ツテ宜シイト云フコトニナルノデアリマスカ、サウ云フヤウナ御說明デアツタヤウニ思ヒマスガサウデアリマスカ
富井政章君
此千五十六條ノ第二項ニ於テ限定承認ノ規定ガ準用シテアリマス其規定ニ據レバ辨濟ハ出來マス出來マスケレドモ危險ヲ踏ムノデアリマスカラ此第一項ノ期間滿了前ニ辨濟ヲスレバ危險ヲ踏ミマス卽チ其辨濟ニ因ツテ外ノ債權者ガ辨濟ヲ受ケルコトガ出來ナクナルト云フヤウナ場合ニハ求償ヲ受ケナケレバナラヌト云フコトニ爲ルカラ自カラ辨濟ガ出來ナイト云フコトデハナイケレドモ辨濟ヲセズトモ宜シイト云フコトニ爲ツテ居ル限定承認ハ――――千五十六條ノ第一項ノ期間滿了前ニハ
井上正一君
サウスルト相續人ノ曠缺ノ場合抔ニハ財產ガ十分無イカモ知レマセヌガ案外巨萬ノ財產ノアル人ガ亡ク爲ツテ其相續人ノ曠缺ノ場合ガアルカモ知レヌ、サウスルト債權者ガ期限ガ來タカラ辨濟シテ呉レト云フヤウナコトガアツテモ管理人ガ縱令ヒ巨萬ノ財產ガアツテモ又巨萬ノ債務ガアルカモ知レヌカラ滅汰ニハ拂ハレナイト云フコトニ爲ルト或ハ相續人ノ爲メニ却テ大變迷惑ニナルヤウナコトガ出來ルカモ知レヌガ是非サウ云フ風ニ時間ヲ俟タネバナラヌト云フコトニ爲リマスカ
富井政章君
サウ云フ巨萬ノ財產ガアルト云フ場合ニハ危險ハ無イノデスカラ管理人ハ拂ウ、拂ラハヌ爲ラヌト云フコトニハ爲ツテ居ラヌカラシテソレデ危ブナイト思ヘバ拂ハヌデ宜シイ夫レデアリマスカラ二个月ノ間ハ債權者ハ受取レナイト云フコトヲバ覺悟シナケレバナラヌ
議長(箕作麟祥君)
富井さん一寸文例ノコトニ付テ伺ヒマスガ「選任スルコトヲ要ス」ト云フコトハ能ク分ツテ居リマスガ「選任スルコトヲ得」ト云フコトハドウ違ヒマスカ「得」ト書クト利害關係人カ又ハ檢事ガ請求シテモ其請求ノアルニ拘ハラズ裁判所ガ選任シテモ選任セヌデモ宜シイト云フコトニ爲ルノデアリマスカ
富井政章君
全クサウデアリマス夫レナラバ前ノ抛棄ノ所ニ規定ガアルあそこハ夫レデ宜シイカラああ云フ風ニ書キマシタガ此處ハドウシテモ選任シナケレバナラヌト云フ積リデアリマス
議長(箕作麟祥君)
禁治產ノ所デモ本人其他色々ナ奴カラノ請求デ以テ「禁治產ノ宣告ヲ爲スコトヲ得」ト云フノハあれハ本人抔ガ請求ヲシテモ裁判所ガ禁治產ニ及バヌト思ヘバセヌデモ宜シイト云フコトニ爲ルノデアリマスカ
梅謙次郎君
矢張リサウ爲ルデセウあそこハ事實ノ認知デアリマスカラ「要ス」ト書テ置テ裁判所ノ認知ガ間違ツテ居ルト云フテ幾ラデモ小言ヲ言フコトガ出來ルト云フコトデナイ方ガ宜シイト思ヒマス實際ハ拒ムマイト云フ考デ法律ノ表デハ「得ル」ト云フ方デアリマス
議長(箕作麟祥君)
此處ハ裁判所ニ法律ガ義務ヲ負ハセタノデスナ
梅謙次郎君
サウデス請求ガアレバ直グニ選バナケレバナラヌ
岸本辰雄君
富井さん此管理人ハ公務デアルト云フコトガ何處デ見エマスカ
富井政章君
法律ガ其裁判所ハ管理人ヲ命ズル夫レハ「得」デモ「要ス」デモドチラデモ同ジコトデアリマスガ管理人ヲ命ズルト云フコトデアレバ其管理人ハ卽チ裁判所ノ眼鏡デ適當ト認メラレタ者ハ法律デサウ極メテアルカラ私ハ唯ダ嫌ヤデスト言フコトハ出來ヌモノダラウト思ヒマス
岸本辰雄君
理窟カラ出ルト仰ツシヤルノデスカ
富井政章君
卽チ表面ニハ裁判所ニ向ツテ法律ガ言フテ居ルノデスケレドモ間接ニハ矢張リ人民ニ命令シテ居ルノデスナ裁判所ガ選ンダナラバ管理人ニ爲ラネバナラヌゾト云フコトヲ言フテアル一方ニハ人民ニ向ツテ裁判所ガ爲レ上言フタラ爲ラネバナラヌゾト云フコトヲ法律ガ言フテ居リマス
岸本辰雄君
鑑定人ヤ夫レカラ證人ハ命令ヲ拒ムコトハ出來ヌトアリマスガ是ニハ無イノデスネ夫レダカラ私ハ嫌ヤデスト言ツタラ仕方ナイノデスナ又サウサレル精神ニ解釋シテ置テハドウデセウカ之ハ解釋論デスカラドウデモ宜イヤウナモノデハアリマスケレドモ誰レデモ獲ヘテ管理人ニ爲レ(此時穗積陳重君「破產ノ場合ニハドウデスカ」ト呼ブ)あれハ別ノ規定デ往クデスあれハ正當ノ理由アルニ非ザレバ辭スルコトガ出來ヌト爲ツテ居ル手續法デサウ云フコトヲ拵ヘレバ兎モ角モデスサウスルト之ハ報酬ヲヤルト言ヘバ宜シイ、ケレドモ今重岡君ノ言ハレルヤウニ負債ガ多イトキニハヤレヌノデスナ
富井政章君
夫レハヤレヌコトハナイ
重岡薫五郎君
夫レガ抵當ニ爲ツテ居ルトカ云フヤウナトキニハ仕方ナイ
梅謙次郎君
不動產ハ澤山アル
重岡薫五郎君
澤山アツテモ抵當付トカ何ントカ云フトキハ仕方ナイ
梅謙次郎君
夫レハ先取特權デ往ケル
重岡薫五郎君
鍋一ツノトキハ仕方ナイ
議長(箕作麟祥君)
宜シウゴザイマスカ此千五十三條其外ニ其御異議ガナケレバ原案ニ決シテ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第千五十四條 第二十七條乃至第二十九條ノ規定ハ相續財產ノ管理人ニ之ヲ準用ス
(參照)取三四四、三四五、三四六、佛八一三、八一四、同民訴一〇〇〇、蘭一一七四、一項、三項、伊九八二、九八三、白草九三六、獨一草二〇六〇、二〇六二、二〇六五、二項
富井政章君
本章ノ場合ハ不在者ノ財產ノ管理ノ場合ト同ジヤウニ扱フベキモノト考ヘマス夫故ニ此規定ヲ置イタノデアリマス此規定ヲ置キマシタガ爲メニ削リマシタ旣成法典ノ箇條ハ先ヅ取得編ノ第三百四十四條デアリマス其第一項ニ財產目錄ヲ作ルコトガ書イテアリマスルガ之ハ今度ノ民法ノ第二十七條卽チ此處ニ準用シテアル條ニ定メテアリマスカラ自カラ要ラナク爲リマシタ原文ノ第二項モ要ラナクナリマス卽チ管理人デアリマスル以上ハ相續財產ニ關スル權利ヲ行ヒ又訴ヲ爲シ訴ニ答辯シタリスルコトハ無論出來ル第三項ハ之ハ白耳義民法草案其他一、二ノ法典ニアリマスケレドモ、ドウモ必要ガナカラウト思ヒマシタ金ガアレバ必ズ早速供託ヲシナケレバナラヌ併シ後ノ規定ニ依ツテ直グニ淸算ヲシナケレバナラヌ夫レカラ明文ハアリマセヌケレドモ管理人ナル者ハ善良ナル管理者ノ注意ヲ以テ管理ヲセネバナラヌコトハ疑ノナイコトデアリマス供託ヲシナカツタ夫レガ爲メニ卽チ疎雜ニ取扱ツタガ爲メニ無ク爲ツタト云フヤウナ場合ニハ矢張リ管理ノ仕方ガ惡ルカツタト云フ方デ責任ガ來ルノデアリマス斯ウ云フ風ニ金ニ付テ是非トモ供託ヲセネバナラヌト云フ規定ハナクテモ宜カラウト思ツテ置カナンダノデアリマス第四項ハ之ハ惡ルイト思ツテ削リマシタ「相續ノ負擔スル債務ハ區裁判所ノ許可ヲ得ルニ非サレハ之ヲ辨濟スルコトヲ得ス」「ネガチーブ」消極的ニ書テアリマスケレドモ裁判所ノ許可ガアレバ債權者ニ辯濟ガ出來ルト云フコトデアリマス夫レハ出來マス求償ノ制裁ハアリマスケレドモ出來マスルガ本則トシテハ矢張リ公告ヲシテサウシテ債權者ガ可成多ク集メサウシテ平等ニ拂ウト云フコトガ公平デアリマスカラ千五十六條ノ如キハサウ云フ辨濟ノ仕方ニ致シタノデアリマス夫故ニ三百四十四條ノ末項トハ少シク其精神ガ違ウノデアリマスカラ削リマシタ夫レカラ第三百四十五條ノ一部分ヲ削リマシタ此三百四十五條ニハ限定承認ニ關スル第三百二十八條以下ノ規定ヲ準用シテアリマス先ヅ其初メノ條卽チ三百二十八條ニ何ント書テアルカト言ヘバ限定承認者ハ自己ノ財產ニ於ケルト同一ノ注意ヲ以テ管理ヲ爲スト云フコトガ書テアリマス此處ハ其規定ヲ準用シナイ方ガ穩當デアラウト考ヘマス管理人ハ他人ノ財產ヲ管理スルノデアル自分ノ財產デナイ夫レモ通常ハ報酬ヲ取ツテ管理ヲスルノデアルカラ自分ガ平生杜漏ニ財產ヲ管理シテ居レバ夫レ丈ケノ注意デ宜シイト云フコトデハ足リナイ、ドウシテモ善良ナル管理人ノ注意ヲ用ヒネバナラヌト思ヒマス其限定承認ニ關スル規定ハ準用シナイコトニ致シマシタ此裁判上ノ管理人ハ善良ナル管理人ノ注意ヲ用ヒネバナラヌト云フコトハ言ハズトモ分ツタ事デアルト云フ考デ場合ハ是迄澤山アリマシタケレドモ何處ニモ規定シテナイ抑モ此初メノ失踪ノ所カラシテ其事ハ言フテアリマセヌ夫レデ此處ニモ其事ハ斷リマセヌ夫レカラ取得編ノ第三百四十五條ニ引イテアル限定承認ニ關スル規定ノ中ノ外ノ規定ハ皆淸算ニ關スル規定デアリマス夫レハ次ノ方ノ條ニ於テ說明ヲ致シマス
田部芳君
マダドウモ能ク分リマセヌ斯ウ云フ事ハドウ爲リマスカ此第二十八條ノ規定ヲ準用スルト云フコトニ爲ツテ居リマスガ詰リ此民法ノ第百三條ニ妙ナ書キ方デアリマスガ雜ト言ヘバ管理行爲トデモ言フヤウナ趣意デスナ其種類ノ行爲ヲ超エルトキハ――――一々其行爲ヲスル毎ニ矢張リ第二十八條ノ規定ニ依ツテ裁判所ノ許可ヲ得ナケレバナラヌ斯ウ云フコトニ爲ツテ居リマスサウスルト成程管理人ニ非常ニ權限ヲ與ヘルノモ危險デハアルケレドモ又一方カラ言ヘバドウモ訴訟ヲスルトカ其訴訟ニ抗辯ヲスルトカ何ントカ一々其行爲ニ付テ一々格別ニ許可ヲ得ナケレバナラヌト云フコトニ解釋シナケレバナラヌト云フコトニモ思ハレマスガサウ爲ツテモ餘リ不便デハアリマスマイカ
梅謙次郎君
田部君ノ御解釋ハ詰リ二十八條ノ解シ方デアリマスガ私ハ田部君ノヤウニ解シテ居リマセヌ何ントモ書イテナイトキハ總テ包括ニ許可シヤウトモ單獨ニ許可シヤウトモ宜シイノデアリマス包括ニ許可シテ往カヌノナラバ夫レヲ書キマス現ニ未成年者ニ許可ヲ與ヘルニモ包括ニ許可ヲ與ヘテ卽チ或ル行爲ノ十カ二十カノ行爲ヲ包含シテ居ルモ一緒ニ許可シテモ宜シイノデアリマス夫レデ恰モ今例ニ引カレタ訴訟トカ二十八條ノ一ツ一ツノ行爲ニ付テ一ツ一ツ許可ヲ得ナケレバナラヌト云フコトハ如何ニモ實際ニ於テ出來ヌデゴザイマセウ夫レデサウ云フトキハ訴訟ヲ起シ且夫レヲ繼續シテ往ク答辯モ同樣ナ譯合デ此訴訟ノ答辯ヲシテ置テ唯ダ答辯書ヲ出ストカ或ハ或ル答辯ニ付テロ答辯論ヲスルトカ云フヤウナ窮屈ナコトデハアリマスマイケレドモ尙ホ明白ナラント欲スレバ答辯ヲ爲シ且夫レニ付テ訴訟行爲ヲ爲スト云フコトデ宜シイト思ヒマス而シテ今田部君ノ言ハレルヤウナ窮屈デナイト思ヒマス管理人ハ責任ガアルトハ云ヒナガラ必ズシモ金持デモナイカラ此位ノ責任ハアツタ方ガ宜カラウト思ヒマス若シヤ之ガ田部君ノ言ハレルガ如ク不便デアルナラバ旣ニ第二十八條ニ於テモ行ハレヌヤウニ爲ラウト思ヒマスガドウモサウ云フコトデハナカラウト思ヒマス
議長(箕作麟祥君)
包括デ出來ルノデスネ
梅謙次郎君
サウデス
議長(箕作麟祥君)
如何デスカ千五十四條ニ付テ別ニ御發議ガナケレバ原案ニ決シテ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第千五十五條 管理人ハ相續債權者又ハ受遺者ノ請求アルトキハ之ニ相續財產ノ狀況ヲ報吿スルコトヲ要ス
(參照)取三四五、佛八一四、同民訴一〇〇二、白草九三六、二項、獨一草二〇六五、二項
富井政章君
此條ハ格別說明ヲ要シマセヌ全ク相續債權者ヲ保護スル精神カラ置イタノデアリマス明文ノアルノハ唯ダ獨逸民法草案丈ケデアリマス乍併何處モ實際ハ斯ウ爲ツテ居ラウト思ヒマス如何トナレバ大抵何處ノ法律ニモ限定承認ニ關スル規定ヲ準用シテアリマス而シテ其中ニハ相續債權者及ビ受遺者ニ對シテ計算ノ義務ノアルコトガ掲ゲテアリマスルガ其中ニハ自カラ本條ニ書テアルコトモ含ンデ居ルト云フ解釋ニ爲ツテ居ルノデアラウト察スルノデアリマス兎モ角債權者カラ始終管理ノ狀況ヲ報告シテ呉レト云フコトガ言ヘテハ夏蠅イデゴザイマセウケレドモ財產ガドレ丈ケアルト云フコトヲ聞イタラバ夫レハ言フテヤラナケレバナラヌト云フコトニシテ置カネバ餘リ保護ノ無イコトニナル夫レハ少シモ煩ハシイ事デハナイ卽チ前條ノ規定ニ依ツタ所ノ財產目錄ヲ見セレバ夫レデ濟ムノデアリマス
議長(箕作麟祥君)
之ハ「利害關係人」ト云フ者トハ餘程違ヒマスカ「相續權者又ハ受遺者」ト云フノハ
梅謙次郎君
違ウコトハ違ヒマスガ違ウ方ガ宜シイカ違ハヌ方ガ宜シイカハ問題デアリマスガ例ヘバ此相續人ヲ若シ何ノ何某ガ生キテ居レバ夫レガ相續人デアルガ若シ夫レガ死ンデ居レバ自分ガ相續人デアルト云フヤウナコトヲ――――夫レガ果シテサウデアルカドウカハ知ラヌガサウ云フコトヲ主張スル者ガアルデスナ、サウスルト之ハ利害關係人トシテ主張ハ出來ルダラウト思フノデアリマス
議長(箕作麟祥君)
サウスルト違ツテ居ルノデスナサウ云フヤウナ今御話シノヤウナ者ガアツタラ夫レハ債權者デモ何ンデモナイケレドモ若シあの奴ガ亡ケレバ己レガ相續ヲスルト云フヤウナ者ニ狀況ヲ報告サセルト云フコトハ要ラヌノデアリマスカ
富井政章君
サウ云フノハ財產ノ有樣デ見テカラ極メルノモ奇妙ナモノデスナ
議長(箕作麟祥君)
強テ言フノデモアリマセヌガ私ハ何モ論據ハナイガ一寸斯ウ違ツテ居ルカラドウ云フコトデアラウカト思ツテ聞イタノデアリマス
重岡薫五郎君
檢事丈ケハドウデスカ檢事ニモ矢張リ與ヘヌノデスカ
梅謙次郎君
是デハ善イカ惡ルイカ知リマセヌガ是デハ唯ダ相續債權者ヤ受遺者ガ不公平ナ取扱ヲ受ケテ居リハシナイカト云フコトヲ知ル爲メノモノデアル例ヘバ財產ガ總テノ債權者ニ辨濟スルニ足リルモノヲ足リナイカラト言ツテ不十分ナ辨濟ノ仕方ヲシハシナイカト云フヤウナ疑ガアルサウ云フトキニ見セロト云フヤウナ場合デアリマス夫レデ是丈ケニ限ツタノデアリマス
土方寧君
何ンデモナイ事デアリマスガ一寸文章ノコトデ起ツテ言フ程ノ事デモナイガ「報告スル」ト云フコトハ一寸御話シノアツタ通リニ目錄ヲ作ラネバナラヌカラ前條ニ依ツテ――――目錄ヲ見セテ呉レロト言ツタナラバ目錄ヲ見セナケレバナラヌト云フヤウナ趣意デゴザイマセウガ、サウ云フ風ニ書クコトハ出來マセヌカ
富井政章君
請求ガアレバ自分カラ進ンデ手紙ヲヤラネバナラヌト云フヤウナヽヽヽヽヽ
土方寧君
目錄デモ冩シテヤラナケレバナラヌコトニナルノデスカ
富井政章君
「書面ニテ」ト書テナイ
梅謙次郎君
土方君ノハ「書面ニテ」トハ書テナイガ「狀況ヲ報告スル」ト云フコトナラバ何カ嚴メシイモノデモヤラナクテハナラヌカノヤウニ見エルト云フノデゴザイマセウ
土方寧君
自分ガ目錄ヲ作ツテ居ルモノナラバ見セテ呉レト云フコトナラバ見セテヤラナケレバナラヌト云フコト
梅謙次郎君
實ハサウモ書カウカトモ思ツタノデスガ「閲覽ヲ求ムルコトヲ得」ト云フヤウニ
土方寧君
殊更ニ向フニ知ラセルヤウニセヌデモ宜シイ向フガ見セテ呉レト言ヘバ見セテヤラナケレバナラヌ是デアルト債權者抔ガ大勢居ツテ幾ツモ言ツテ來ルト冩シテヤラナケレバナラヌト云フヤウナコトニ爲ル實際
議長(箕作麟祥君)
修正デハナイノデスカ
土方寧君
サウデス
議長(箕作麟祥君)
夫レデハ外ニ御發議ガナケレバ原案ニ決シテ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第千五十六條 第千五十三條第二項ニ定メタル公吿アリタル後二个月內ニ相續人カ現出セサルトキハ管理人ハ遲滯ナク相續開始地ニ於テ一切ノ相續債權者及ヒ受遺者ニ對シ一定ノ期間內ニ其請求ノ申出ヲ爲スヘキ旨ヲ公吿スルコトヲ要ス但其期間ハ二个月ヲ下ルコトヲ得ス
 第七十九條第二項、第三項及ヒ第千三十一條乃至第千三十八條ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス但第千三十五條但書ノ規定ハ此限ニ在ラス
(參照)取三四四、四項乃至三四六、佛八一三、八一四、同民訴一〇〇〇乃至一〇〇二、蘭一一七四、一項、一一七六、伊九八一、二項乃至九八三、グラウブユンデン四八三、二項、白草九三七、九三八、獨一草二〇六二、二〇六四、二〇六五
富井政章君
此條ハ餘程大切ナ箇條デアリマスカラ十分ニ御考ヘヲ願ヒマス本條ハ淸算ノ仕方ヲ極メタノデアリマス而シテ其仕方ハ限定承認ノ場合ト略ボ同ジコトニ爲ツテ居リマス大抵何處ノ國ノ法律ニ於テモサウ爲ツテ居リマス卽チ限定承認ノ規定ヲ準用シテアリマス本條ニ於テモ第二項ノ規定ヲ以テ限定承認ノ規定ヲ準用致シマシタ唯ダ先賣權ノ規定ハ自カラ當嵌マリマセヌカラ夫レハ但書ヲ以テ除外シタノデアリマス第一項モ準用シテ宜シイヤウナ譯デアリマスケレドモ少シサウ云フ譯ニ參リマセナンダ所以ハ起算點ガ此處デハ特別ナモノニ爲ツテ居リマス卽チ管理人ヲ選任シタ裁判ヲ公告致シマシテ夫レデ先ヅ相續人ノ來ルノヲ待ツテ居リマス相續人ガ來テ淸算ヲスレバ先キニ申シタコトハナイノデアリマスカラ先ヅ二个月間丈ケハ手ヲ着ケナイ相續人ノ來ルノヲ待ツテ居ルサウシテ相續人ガ愈々來ナカツタトキハ其淸算ヲ始メル卽チ其債權者ガ申出ヲスルト云フコトニシタ方ガ少シ時ハ長ク掛ルケレドモ實際穩カデアラウト考ヘマシテ此二个月ト云フ期間ヲ置イテ其期限ハ卽チ相續人搜索ノ公告ヲシタ時カラ起算スルト云フコトニ致シマシタ其處丈ケガ外ノ國ノ法律トモ違ツテ居ル所デアリマス
議長(箕作麟祥君)
「相續人カ現出セサルトキ」ト云フコトト次ノ條ニアル「相續人アルコト確實ナルニ至リタルトキ」ト云フコトトハ違ウノデアリマスカ
富井政章君
同ジヤウナ事デスナ
議長(箕作麟祥君)
何ンダカ「現出」ト言フト其處ラニひよつくり出テ來ルヤウデスナ
梅謙次郎君
之ハ文章デスカラ例ニ依ツテ一ツ考ヘサセテ貰ヒマセウ千五十八條ニモアルノデス
富井政章君
整理マデニ考ヘサセテ貰ヒタイ
重岡薫五郎君
此第二項ニ第七十九條ノ第二項及ビ第三項ノ規定ヲ準用シテアリマスガ私ハ此七十九條ノ二項三項ニ付テ疑ガアルノデスガ或ハ前ニ極ツテ居ルカモ知レマセヌガ此「知レタル債權者ヲ除斥スルコトヲ得ス」ト云フコトニ爲ツテ居リマス夫レカラ其次ニハ「知レタル債權者ニハ各別ニ其申出ヲ催告スルコトヲ要ス」斯ウ云フコトニ爲ツテ居リマス、シテ見ルト催告ヲシタ後ニ尙ホ申出ヲシナカツタ斯ウ云フ場合ニハ除斥シテ宜シイノカ或ハ前項ニ依ツテ知レタル債權者デアルカラ除斥スルコトハ出來ヌ縱令ヒ申出ヲシナクテモ除斥スルコトハ出來ヌ斯ウ云フ事ニナルノデスカドチラデスカ
富井政章君
知レテ居ツテ特別通知ヲシナカツタナラバ矢張リ權利ハ失ハナイ
梅謙次郎君
通知シテ申出ナクテモ權利ハ失ハナイ
議長(箕作麟祥君)
第千五十六條ニ付テ別ニ御發議ガナケレバ原案ニ決シテ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第千五十七條 相續人アルコト確實ナルニ至リタルトキハ法人ハ存立セサリシモノト看做ス但管理人カ其權限內ニ於テ爲シタル行爲ノ效力ヲ妨ケス
(參照)取三四七、グラウブユンデン四八二、四八三、一項
富井政章君
此條モ格別說明ヲ要シマセヌ詰リ唯ダ書キ方ニ付テ違ウ丈ケデアリマス詰リ前ノ「ヒクシヨン」ガ潰レルノデアリマス相續人ガ出テ來タトキハ矢張リ相續開始ノ時カラ相續人デアツタ者ニセネバ不都合デアル夫レハ默ツテ居ツテモサウ爲リマス相續人ト云フ資格ハ相續開始ノ時ニ極マルノデアリマス乍併前ノ千五十二條ニ依ツテ法人ト云フモノガ間ニ挾ツテ來タモノデスカラ特ニ言ハネバナラヌコトニ爲リマシタ乍併此法人ハ消エタトシテモ矢張リ法文ノ代理人トシテ管理人ノ爲シタ事ガ無效ニ爲ツテハ又困リマス夫レデ但書ヲ置テ管理人ノ爲シタ事ハ有效トシタノデアリマスドウ云フ事ニ爲ルカト言ヘバ卽チ斯ウ爲ルノデセウ相續人ノ代理デアツタト云フ其行爲デ有效ニ爲ルノデアラウト思ヒマス
土方寧君
理窟ハ法人ノ相續人ニ爲ツタト言ツテモ宜シイノデスナ
梅謙次郎君
法人ガ取消サレル
土方寧君
文章ノ意味ハサウダケレドモ夫レ迄ハ法人ノ財產デアツテ法人ガ死ンデ法人カラ相續ヲシタト言ツテモ宜シイノデスナ結果ハ同ジコトダラウ法人ガ死ンダモノト見テ生キタ人間ガ同時ニ繼グト見ル
議長(箕作麟祥君)
法人ガ無カツタモノト見ルト云フノナラバ宜シイ
梅謙次郎君
前ノ法人ノ所デ議論ガアツテ極ツテ仕舞ツタカラ此處計リデ議論スル譯ニハ往カナイ
議長(箕作麟祥君)
夫レデハ別ニ御發議モナイヤウデスカラ此千五十七條ハ原案ニ決シテ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第千五十八條 管理人ノ代理權ハ相續人カ現出シテ相續ノ承認ヲ爲シタル時ニ消滅ス
 前項ノ場合ニ於テ管理人ハ遲滯ナク相續人ニ對シテ管理ノ計算ヲ爲スコトヲ要ス
(參照)取三四七、佛八一三末文、同民訴一〇〇二、蘭一一七四、三項、伊九八二、獨一草二〇六六
富井政章君
本條第一項ハ獨逸民法草案ニ倣ツタノデアリマス承認ヲ爲シタ時マデハ管理人ノ代理權ガ消滅シナイト致シタ譯ハ默ツテ居レバサウ爲ラヌト思ヒマス相續人ノアルコトガ確實トナラナイ間ニ法人ノ財產ヲ管理スル譯デアリマスカラ相續人ノアルコトガ確實ト爲ツタナラバ管理人ノ權限ハ默ツテ居レバ消滅スルノデアル、ケレドモ夫レデハ不便デアルト思ヒマス相續人ノアルト云フコトガ分ツテ居テモ遠方ニ居ルカモ知レヌ、サウ云フ場合ニハ是非トモ管理人ヲ選バネバナラヌト云フコトニ爲ツテハ來マセヌケレドモ實際ハ大抵何時モサウ云フ場合ニハ選ブノデアラウト思ヒマス此場合ニ當ツテ直グニ是迄ノ管理人ハ罷メテ又新規ニ拵ヘルト云フヤウナ煩ハシイコトヲスルノハ宜シクナイ折角今迄ヤツテ居ツタナラバ財產ノ狀況モ知ツテ居ラウシ總テ便利デアリマス、モウ暫クノコトデアル其相續人ガ承認ヲスルカセヌカト云フコトハ直キニ分ル愈々承認ヲスルト云フトキニ代理權ガ消滅スルト云フコトニシタ方ガ便利デアリマス第二項ハ餘所ノ國ノ法律ニハ書テアリマセヌガ之ハ是非トモ斯ウ爲ラネバナラヌト思ヒマス規定ガ無クテモ實際ハ斯ウヤツテ居ルト思ヒマス併シ一ツノ義務ヲ負ハスノデアリマスカラ矢張リ書テ置イタ方ガ宜シイト思ツテ斯ウ書テ置キマシタ
重岡薫五郎君
此第一項ノ精神ハ至極宜カラウト思ヒマス斯ウナクテハナルマイト思ヒマス夫レデ一ツハ少シ前條ト牴觸ヲシハシナイカト云フ恐レガアルノハ前條ノ但書デアリマスガ管理人ガ法人ノ消滅シナイ前ニシタ事柄ハ有效ト云フコトニ爲ツテ居リマス、シテ見ルト法人ガ旣ニ存在シナイ斯ウ看做サレタ後カラ相續ノ承認ヲスル間ニ爲シタル事柄ニ付テハ何モ規定ガナイト無效デアルト云フ斯ウ云フ決定ヲ前條ニ據ツテシナケレバ爲ルマイ斯ウ云フ疑ガアル夫レモ本條ニ據ツテ差支ナイト云フノデアリマスカ
富井政章君
卽チ此規定ガ無イトサウ爲ル夫レデハ不便デアルカラ本條ヲ置イタノデアリマス
重岡薫五郎君
其處マデ見エマスカ
梅謙次郎君
其權限ガ默ツテ居ルト法人ガ消エルト同時ニ消エルモノデアリマスガ次條ニ據ツテ其後トマデ權限ガ殘ツテ居ルト云フコトニナル夫レデ「權限内ニ於テ爲シタル行爲」ト云フコトニ爲ツテ居ル
井上正一君
一寸僅カナ事デアリマスガ本條ノ第一項丈ケヲ見ルト成程之ハ前條ノ續キデアリマスカラ斯ウ書テアルノデゴザイマセウガ「管理人ノ代理權ハ相續人カ現出シテ相續ノ承認ヲ爲シタルトキニ消滅ス」ト言フト此管理人ガ命ゼラレタトキハ何時デモ相續人ガ現出スルヤウニ一寸見エマスガ之ハ「前條ノ場合ニ於テ」トカ何ントカ云フヤウニ言ツタ方ガ宜クハアリマスマイカ
梅謙次郎君
成程是ハ千六十條ノ如クニ初メノ方ヲ少シ書キ直シタ方ガ宜イカモ知レマセヌ
土方寧君
之ハ前ノ法人ノトキニ議論ガアツタヤウデアリマスケレドモ相續人ガ現出スル前ニ法人ノ登記ハドウスルノデアリマスカ
梅謙次郎君
登記法デ以テ二度登記ヲセヌデモ宜シイヤウニシヤウト云フノデアリマス
議長(箕作麟祥君)
代理權ト云フノハ相續人ガ現出ヲスレバ法人ハ死ンダモノト看ル相續人ガ承認ヲスルマデハ誰レノ代理人ニ爲ルノデアリマスカ
富井政章君
夫レハ相續人ノ代理人デアリマス
議長(箕作麟祥君)
其處デ承認ヲシナイトドウ爲リマスカ
富井政章君
夫レハ誰レノ代理デモ無ク爲ル
梅謙次郎君
此「代理權ハ」ト云フ字ヲ使フテアリマスカラ解釋ガ分レルカモ知レマセヌガ此點ニ於テハ死ンダ法人ガマダ生キテ居ルガ如クニ看ラレル
富井政章君
私ハ此確實ト爲ツタトキカラ相續人ノ代理人ト爲ルト思ツテ居リマシタ
梅謙次郎君
夫レダト斯ウ書テハ少シ不明デスナ
穗積陳重君
之ヲ抛棄シテ仕舞ツタラ本人ガヽヽヽヽヽ
梅謙次郎君
抛棄スルトドウ爲リマスカ時經テ仕舞ツテハドウデスカ
穗積陳重君
併シ此場合丈ケ法人ガ生キルト云フノモ呵シイ前ニ消滅シタルモノト看做シテ仕舞ツタカラ
議長(箕作麟祥君)
一體「管理人ノ代理權ハ」ト廣ク言ツタ所ガ梅君ノ言ハレタ通リ法人ノ代理權ノコトヲ言ハレタヤウニ見エル夫レカラ今度ハ相續人ノ代理權ノヤウニ見エル
富井政章君
「權」ノ字ヲ止メテモ宜シイ目立タヌヤウニスル
土方寧君
矢張リ承認スルマデハ法定代理人ダラウ
富井政章君
夫レハ裁判上ノ代理人
議長(箕作麟祥君)
間ガ何ンダカ變ダ
岸本辰雄君
前ノ方ヲ直ホシテハドウデスカ承認スルマデトシテ
富井政章君
ケレドモ確實ナルニ至ツテ其者ノ代理人トシタ方ガ善クハナイデセウカ
梅謙次郎君
サウスルト今度抛棄シタトキハドウデゴザイマセウカ其時ハ權限ガ無イモノト爲ツテハ不都合デアル承認ヲシナケレバ國庫ニ往クト爲ルトヽヽヽヽヽ
富井政章君
考ヘテ見マセウ
議長(箕作麟祥君)
此條ハドウデスカ御考ヲ願ウト云フコトニシテハ
梅謙次郎君
之ハ考ヘル價値ガアルヤウデスネ
岸本辰雄君
兎ニ角何時承認シタト云フコトガ分リマスカ
梅謙次郎君
夫レハ前デ分ル
岸本辰雄君
屆出ルトカ――――サウスルト此「時」ト云フノハ「セコンド」ノヤウニ見エル
梅謙次郎君
夫レハ代理ノ一般ノ規定デ往ケル代理ハ本人ノ死亡ニ因ツテ消滅ヲスル其死亡ハ本人ニ知レナイコトモアル其時ニハ善意デヤツタコトハ皆有效ニ爲ル
議長(箕作麟祥君)
ドウデスカ尙ホ御再考ヲ願ウコトニシマスカ
富井政章君
ドウカサウ願ヒマス
穗積陳重君
尙ホゆつくり考ヘテ見マセウ
議長(箕作麟祥君)
夫レデハ本條ハ再考ト云フコトニシテ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第千五十九條 第千五十六條第一項ノ規定ニ依リテ定メタル期間滿了ノ後仍ホ相續人アルコト分明ナラサルトキハ裁判所ハ管理人又ハ檢事ノ請求ニ因リ相續權ヲ有スル者ハ一定ノ期間內ニ之ヲ主張スヘキ旨ヲ公吿スルコトヲ要ス但其期間ハ六个月ヲ下ルコトヲ得ス
(參照)取三四八、二十三年非訟事件手續法一三乃至一六、佛七六八乃至七七二、蘭一一七五、グラウブユンデン四八二、獨一草二〇六七、同二草一八四一
富井政章君
此規定ノ目的ハ愈々相續財產ガ國庫ニ往クト云フ前ニ尙ホ一度――――重大ナ結果デアリマスカラ尙ホ一度相續人ノアルカ無イカヲ試メシテ見ル爲メノ公告デアリマス直接ニハ相續人ニ催告スルノデアリマスケレドモ間接ニハ又債權者ノ保護ニモ爲リマス如何トナレバ國庫ニ往クマデハ其前ニ申出テナカツタ債權者ト雖モ殘餘財產ニ付テハ請求權ヲ持ツテ居ルノデアリマスカラ此公告デ目ガ明イテサウシテ請求シテ來レバマダ取レマス、サウ云フ保護ニモ爲リマス前ノ管理人ヲ選任シタトキノ公告トニ重ニナルケレドモドウモ之ハニ重ニ爲ツテモ致シ方ハナイト思ヒマス前ハ相續人ガ同ジ出テ來ルニモ可成早ク出テ來テ自分デ管理モ爲シ淸算モスルガ宜シイト云フ所カラ出テ來タノデアリマス後トハモウサウ云フ手續ヲシタケレドモ出テ來ナカツタ乍併丸デ今度ハ權利ヲ失ツテ仕舞ウト云フ重大ナ結果ヲ生ズルノデアルカラ尙ホ一度公告ヲスルト云フコトデアルノデアリマス初メニ公告ヲスル制度ヲ採ツテ居リマスル國ハ此第二ノ公告ハ必要トシテ居リマセヌ其代リ期間ヲ長クシテ居リマス國庫ニ往クマデノ期間デアリマス本條ハ獨逸民法草案ニ從ツテ斯ウ云フ規定ヲ置イタノデアリマス唯ダ獨逸民法草案トハ起算點ガ違ツテ居リマス獨逸民法草案ニ於テハ起算點モ期間モ總テ裁判所ガ狀況ニ依ツテ極メルト云フコトニ爲ツテ居リマス併シ之ハ大抵極メ得ルコトト考ヘマス極メ得ル以上ハ法律デ切ツ張リ極メテ置イタ方ガ宜カラウト考ヘマシタ起算點ハ一番正確ナルモノヲ取ル爲メニ千五十六條ノ規定ニ依ツテ定メタ期間カラ起算スルト云フコトニ致シマシタ尤モ眞ニ公平ナ起算點ヲ申セバ夫レデハ往カナイ其期間滿了ノ後ニ債權者ガアレバ債權者ニ辨濟ヲ了ツテ其時カラ算ヘルノガ一番公平デアリマス乍併辨濟ヲ了ツタ時ト云フコトハ餘程切ツ張リ分リ惡クイ時デアリマス一定ノ日限ガ來タトキデアレバ誠ニはつきり極マルノデアリマス、サウシテ害ノ無イコトト考ヘマス如何トナレバ夫レカラ債權者ニ拂ヒ出シタ所ガ六个月モ掛ルコトハ滅汰ニナイ夫レカラ六个月ヲ下ルコトヲ得ザル期間ヲ定メル譯ニ爲ツテ居ルカラ幾ラ込入ツタ淸算デモ六个月ヲ下ルコトハアルマイト思ヒマス萬一アツタ所ガ其期間ハ裁判所ガ極メルノデアリマスカラサウ云フ場合ニハ八个月トモシヤウシ又ハ一年トモシヤウト思ヒマス夫レデ此處丈ケデハ裁判所ヲ信用シテ是デ宜カラウト思フタノデアリマス若シ本條ノ規定ガ第一ニ債權者保護ノ目的カラ來タモノデアリマスレバ夫レハモウ此起算點デハ理窟ハ立タナイノデアリマスケレドモ直接ニハ相續人保護ノ規定デアリマス「相續權ヲ有スル者ハ」云々ト書テアリマス間接ニハ債權者保護ニモ爲リマス第一ニハ相續人保護ノ規定デアリマスカラ結果ニ於テ只今申シタヤウニ其債權者ニ損害ヲ生ジナイト云フニサヘ爲ツテ居レバ此起算點デ理窟ノ立タナイト云フコトハナカラウト考ヘマシタ獨逸ノハ裁判所ノ職權ト爲ツテ居リマス裁判所ハ是非此公告ヲシナケレバナラヌト爲ツテ居リマスケレドモドウモ日本デハ裁判所ガ斯ウ云フ相續財產ノ事抔ヲ知ルコトノ出來ル有樣デハナイモノデアリマスカラ矢張リ請求主義ヲ採リマシタ大抵管理人カ檢事カガ請求スルノデアラウト思ヒマス是デ聊カ不都合ハナカラウト考ヘマシタ
議長(箕作麟祥君)
一寸伺ヒマスガ先刻ノ御說明ニ據ルト固ヨリ相續人ヲ保護スル趣意デハゴザイマセウケレドモ乍併債權者ニモ若シ財產ガ國庫ニ移ツテ仕舞ウト何モ取レヌヤウニ爲ル故ニ債權者ヲ保護スル趣意モアルト云フヤウニ伺ヒマシタガ、サウスルト之ハ「管理人又ハ檢事」デ無クシテ夫レコソ「利害關係人」ト廣クシタ方ガ善クハアリマセヌカ
富井政章君
之ハ債權者ハ斯ウ云フ事ノ起ラナイ方ガ利益デアルノデスカラ債權者ハ――――今度ハ權利ヲ失ウト云フコトニナルノデスカラ
議長(箕作麟祥君)
債權者ハ相續人ガ現出ヲシナイデ國庫ニ移ツテ仕舞ウサウスルト何モ取レナク爲ツテ仕舞ウデセウ
梅謙次郎君
夫レデスカラ公告サヘシナケレバ移ル氣遣ハナイ公告ヲシテカラ六个月立テバ移ルカラ公告ヲシナケレバ宜シイ
富井政章君
夫レデ自分カラ挑ムノハ不利益デセウ
岸本辰雄君
之ハ「分明ナラサルコトヲ屆出ツルトキハ公告スルコトヲ要ス」トシテハドウデセウ
梅謙次郎君
サウスルト管理人ニ責ヲ負ハスヤウニナル
岸本辰雄君
負ハシテ宜シイデハアリマセヌカ
梅謙次郎君
「公告スルコトヲ要ス」デナイ「管理人ハ請求スルコトヲ要ス」
富井政章君
夫レマデ奬勵セヌデ宜シイ管理人ハ迷惑ト思ヘバ
岸本辰雄君
管理人ハ國庫ニヤリタクナイト思ヘバ何時マデモ請求シナイデ置クデゴザイマセウ
議長(箕作麟祥君)
サウシタラ檢事ガヤルカモ知レヌ
田部芳君
此公告ハ最終ノ公告デアリマスカラシテ此公告ヲシタ後ニマダ相續權ヲ持ツテ居ル者ガ現ハレヌト云フト遂ニ國庫ニ歸屬スルト云フコトニ次ノ條デ爲ツテ居ルヤウデアリマスガ此事ニ付テ非常ニ古イ慣例デハアリマセヌケレドモ御承知ノ通リ遺留財產ノ處分ニ付テハ死亡又ハ除籍ノ時カラ五箇年間ハ保管ヲシテ居ルト云フコトニ爲ツテ居リマス其期間ニ較ベルト本條ニ於テ極ツテ居ル期間――――本條竝ニ其外ニ前カラ極ツテ居ル期間ヲ勘定ヲシテ合ハセマシテモ――――之ハ尤モ財產丈ケデハアリマスガ此位ニ短カク極メテアリマスカラ此上延バスト云ツテモサウ非常ニ延ビル氣遣ハナイノデスガドウモ今日ノ期間ハ全體デ被相續人ノ死ンデカラ三年位ハ待ツテ夫レカラ後ニ始メテ國庫ニ歸屬スルト云フコトニスル方ガドウデアラウカ餘リ短カ過ギルヤウナ感ジガアリマスガ、デ五年ト云フノモ非常ニ古イ事デハアリマセヌケレドモ今日デモ矢張リ五年間ハ保存シテ居ル又其期間ガ餘リ長クテ困ルト云フ論ハナイノデアツテ全國ニハ斯ウ云フ事モアルト見エテ隨分司法省抔デモ今年ニ爲ツテカラモ斯ウ云フ問題ガアルノデアツテ遺留分ニ關シテ隨分出テ居リマスカラサウスルト一年ノ間ニハ隨分起ルト見テモ宜シイ話シデアリマスカラ多少經驗モアリマスカラ之ハ六个月又ハ其外ノ二个月ヲ合セタ所ガ短カ過ギルト思ヒマス少ナクトモ三年位ハ保管シテ置イテハドウカト云フ考デアリマス
尾崎三良君
私ハ贊成スル
都筑馨六君
私モ贊成シタイト思ヒマスガ三年ト云フノハ如何デアリマセウカ之ハ隨分町村役場抔デモ屡々起ル問題デアリマス夫レカラ遺失物、埋藏物ノ保管期限モ矢張リ之ニ比スレバ長イカト思ヒマス尤モ之ハ最下期限デアリマセウカラ延バシタ所ガ交通頻繁ノ際デアルカラ六个月位ハ其人ガ生キテ居ルカ死ンダノカ分ラヌ中ニ經過スルコトガ屡々アルト思ヒマス現ニ前年ノ戰爭ノ時抔デモ職死抔デナクテ分ラナク爲ツタ者ガ幾ラモアリマスカラ兎ニ角三年ハドウカ知リマセヌガモウ少シ長ク爲ツタ方ガ善クハアルマイカト思ヒマス
梅謙次郎君
時ノコトデアリマスカラ六个月デナケレバナラヌト云フコトハ無論ナイノデアリマスガ唯ダ三年ト云フノハ只今都筑さんノ仰ツタ通リ餘リ長イト思ヒマス現今ハ五个年ト云フコトデアリマスガ夫レハ役所デ保管スルノデアリマスカラ宜シイケレドモ一個人ニ保管ノ義務ヲ負ハストキハ酷カラウト思ヒマス都筑さんノ仰ツシヤツタ遺失物ノ方ハ六个月埋藏物ノ方ハ衆議院デ一年ニ伸ビタノデアリマス
重岡薫五郎君
一年位ガ宜シイカモ知レヌ
土方寧君
「六个月ヲ下ルコトヲ得ス」ダカラ
富井政章君
夫レデハ一年トシマスカ
田部芳君
私ハ餘程氣ガ長イ勢カ知リマセヌガ三年ト申シマシタガ六个月デハ短カイト云フノガ大體ノ趣意デアリマスカラ「六个月」カ「一年」ニ爲レバ私ノ考モ幾分カ貫徹ヲスルノデアリマスカラ無論夫レデモ私ハ差支マセヌ
三浦安君
一年ガ宜カラウ
議長(箕作麟祥君)
如何デスカ「一年」ト云フ說ガ出マシタガ御不同意ガナケレバ「一年」トシマスガ起草委員ハ宜シウゴザイマスカ
梅謙次郎君
宜シウゴザイマス
議長(箕作麟祥君)
夫レデハ一年トシテ外ニ御發議ガナケレバ原案ニ決シテ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第千六十條 前條ノ期間內ニ相續權ヲ主張スル者ナキトキハ相續財產ハ國庫ニ歸屬ス此場合ニ於テハ第千五十八條ノ規定ヲ準用ス
 相續債權者及ヒ受遺者ハ國庫ニ對シテ其權利ヲ行フコトヲ得ス
(參照)取三一五、三一六、三四八、二十三年非訟事件手續法一七、佛七六八乃至七七〇、八一三末文、澳七六〇、蘭一一七五、伊七五八、葡二〇〇六乃至二〇〇八、グラウブユンデン四九九、ツユーリヒ九〇六、九〇七、西九五六乃至九五八、白草七九五、七九六、獨一草二〇六七、四項、同二草一八四一、普二部十六章二五、二六、索二六二〇
富井政章君
此條ハ何時マデモ相續財產ヲ不確定ノ有樣ニ置テ管理人ヲ煩ハスノハ宜シクナイ片ヲ付ケルノデアリマス而シテ誰レニ與ヘルカト云ヘバドウモ國庫ヨリ仕方ナカラウト思ヒマス尤モ外國ノ法律デハ或ハ其相續地ノ小學校ニヤルトカ養育院ニヤルトカ病院ニヤルトカ云フヤウナ規定モアリマスサウシテモ宜シイカモ知レマセヌガ夫レハ或ル場合ニ依ツテ善イ事モアラウシ又善クナイ事モアラウト思ヒマス國庫ハ公益ノ爲メニ用ヰルト云フコトノ推定ガ出來ルモノデアリマスカラサウ細カニ極メズトモ「國庫ニ歸屬ス」トシテ宜カラウト思ヒマス多數ノ立法例ニ倣ツテ斯ウ云フ風ニ極メマシタ又或ル國ノ法律ニハ國庫ノ用ヰ方マデ極メテアル學校ニヤラネバナラヌトカ病院ニヤラネバナラヌトカ云フヤウニ、夫レモ必要ハナカラウト思ツテ極メマセナンダ本條ノ規定ハ義務無シニ國庫ニ往クノデアリマス相續財產ハ――――之ハ大抵何處ノ國ノ法律トモ違ヒマス餘程大切ナ點デアリマス之ハ義務付デ國庫ニ往クトスレバ公平ニハ爲ルカモ知レマセヌガ餘程煩ハシイコトデアラウト思ヒマス少シ人民ノ權利トカ云フ方カラ言ヘバ亂暴カモ知レマセヌケレドモ旣ニ相續人ヲ搜シテ無シ又債權者保護ノ目的ヲ以テ前ニ種々ノ手續ヲモ極メテアリマス公告ヲ二度モスル期間モ極メテアリマス夫レ丈ケノ手續ヲ盡シタ上デアルカラ、モウ出テ來ナンダ者ハ怠リト見テ宜カラウト考ヘマシテ斯ウ云フ風ニシタノデアリマス旣成法典ニハ矢張リ相續人ノ義務付トシテアリマスケレドモ限定相續人ト爲ツテ居リマス卽チ財產ノ額ヲ超エテ義務ヲ負ハナイト云フコトニ爲ツテ居リマス本條ニ於テハ一切義務ヲ負ハナイ相續人デナイ相續人トスルノハ前回ニモ述ベマシタ通リドウモ變デス家督相續モアリマス相續人トシナイ方ガ穩カデアラウト考ヘマシタ本條ノ場合ハ詰リ法律ニ定メタル一種特別ノ財產取得ノ場合ト見ルベキモノデアリマス
土方寧君
此一項ノ初メノ方ノ「相續權ヲ主張スル者ナキトキハ」ト云フノハ相續人ガ丸デ無イノト夫レカラ相續人ハアツタケレドモ承認ヲシナイ抛棄ヲシタト云フ場合相續人ガアツタケレドモ權利ヲ主張シナイト云フノモ兩方這入ル積リデアラウト思ヒマスガ文字デハ一寸疑ハシイト思ヒマス若シ相續人ガ早ク出テ來ル場合ガアルカモ知レヌ、ケレドモ抛棄ヲシタト云フヤウナ場合ニハドウ云フ事ニ爲リマスカ其抛棄シタ時カラ直チニ國庫ニ歸屬スルコトニ爲リマスカ獨リ抛棄シテモ其人ガ抛棄ヲスレバマダ外ニ其人ノ相續入トナルベキヤウナ次ノ順位ニ爲ル者ガアルカモ知レヌト云フノデ此期間ノ滿了スルマデハ待ツテ居ラネバナラヌノデアリマスカ
梅謙次郎君
ソレハサウデス
富井政章君
夫レハサウデス抛棄シタナラバ其次ノ順位ノ者ガアレバ本條ノ規定ハ當嵌ラナイ
土方寧君
誰レモ無イトキニ是ニ來ルノデスカ
梅謙次郎君
サウデス
土方寧君
夫レハ宜シイ此條ノ法文ニハ見エマセヌガ管理人デスナ管理人ガ債權者ニ辨濟ヲスルト云フヤウナコトハ何時スルノデアリマスカ
梅謙次郎君
夫レハ限定承認ノ所ニ詳シクアリマス
土方寧君
一項ノ末文デアリマス「第千五十八條ノ規定ヲ準用ス」トアリマス此千五十八條ノ二項ハ宜シイガ一項ハドウ云フ風ニ準用スルノデアリマスカ矢張リ管理人ガ國庫ノ爲メニ代理人ヲスルト云フノデアリマスカ
梅謙次郎君
其處ハ書キ直ホス所ニ當リマス書キ直ホサヌトまづいノデアリマス
都筑馨六君
此「前條ノ期間内」ト云フノハ管理人又ハ檢事ノ請求ト云フモノハ必ズナケレバナラヌノデアリマスカ萬一請求ヲシナイデ公告ヲシナイトキハ此「期間内」ト云フノハドレ丈ケノ期限ヲ指スノデアリマスルカ
富井政章君
請求ガナケレバてんデ公告ガ出來ヌノデアルカラマダ期限ガ起ラナイノデアリマス
都筑馨六君
サウスルト何時マデモ取ツテ置カナケレバナラヌノデアリマスカ
富井政章君
夫レハサウデス
梅謙次郎君
夫レガ嫌ヤナラバ管理人カ又ハ檢事カラ請求ヲスレバ宜シイ管理人ガ早ク義務ヲ免レタイト思ヘバ請求スル國庫ニ早ク入レタイト思ヘバ檢事ガ請求スル
富井政章君
檢事ガ動クヨリ外仕方ナイ
梅謙次郎君
管理人ガ怠ツテ居ルトキハ
議長(箕作麟祥君)
後トデ惰ケテ居ル奴ガ權利ガ無ク爲ルノデゴザイマセウ
梅謙次郎君
サウデス
重岡薫五郎君
訴訟抔ヲシテ隨分長引クトキハドウデセウカ
梅謙次郎君
夫レハ前デモ何シテアリマスカラ供託デモシテカラデナケレバ國庫ニ歸サセナイ夫レハ手續ノ方デ是非サウ爲ラナケレバナラヌ明文ハ要ラヌカモ知レヌ民事訴訟法ノ普通ノ適用デサウ爲ルカモ知レヌデスケレドモ假處分デモシテヽヽヽヽヽ
岸本辰雄君
債權者ハ今度ノ一个年ノ中ニ出テ宜シイヤウデスナ
梅謙次郎君
無論出マス斯ウ云フコトニ爲ル期間マデニ申出タ者ハ皆平等ノ割合デ以テ分配ヲ受ケル期間後ノ奴ハ其殘ツテ居ル物ハ取レル
尾崎三良君
異議ナシ
議長(箕作麟祥君)
別ニ御異議モナケレバ本條モ原案ニ決シテ次ニ移リマス
(書記朗讀)
 第六章 遺言
穗積陳重君
此遺言ニ關シマスル規定ハ舊民法ニ置キマシテハ取得編ノ第十四章ノ「贈與及ヒ遺贈」ト云フ題ヲ以テ載セテアリマス元ト舊法典ハ此相續ト云フコトモ家督相續マデ含ミマシテ財產取得ノ規定ニ當テテアリマスルカラシテ遺言ノ事モ「遺言」ト致サズシテ「遺贈」ト云フ題ニ爲ツテ居ツテ而シテ遺贈ヲ爲ス一ツノ方式ヲ遺言ト云フ遺贈ヲ爲ス行爲ヲ遺言ト言フ斯ウ云フ事ニ爲ツテ居ルヤウデアリマス然ルニ舊法典ニ於キマシテモ人事編其他ニ置キマシテ遺言ヲ以テ養子ヲ爲ストカ遺言デ以テ後見人ヲ選定スルトカ種々遺言ニ關スル事柄ガ出テ居リマスガ併シ此取得編ノ規定ト云フモノハ皆遺贈ノ事計リガ眼中ニ置テアリマス夫レデ遺言ノ方式抔フ事ニ至リマシテモ夫故ニ此遺贈丈ケニ關スル方式デアツテ遺言養子トカサウ云フヤウナ風ノコトハ全ク法律上ノ方式ハ要セナイモノデアルカノ如ク讀メマス又文字上又法典ノ配置上カラ嚴酷ニ之ヲ讀ミマシタナラバ他ノ場合ノ遺言ト云フモノハー―――遺贈以外ノ遺言ト云フモノハドウ云フ事デモ出來ル決シテ方式モ何モ要ラヌモノデアル斯ウ云フヤウニ讀ムノガ文字上カラノ讀ミ方デアラウト思ヒマス多分實際遺言ヲ以テト云フ所デハ遺贈ノ遺言ノ方式ニ據ラセル積リデアラウトハ思ヒマスケレドモ明カニ其事ガ書テアリマセヌカラ能クハ分リマセヌ乍併遺言ハ贈與ノ場合丈ケニ非常ニ關係ガ重モイモノデアリマスカラ其場合丈ケハ要式行爲ニシテ或ハ詐欺、誤謬其他ノ弊害ヲ防グ必要ガアツテ外ノ所ハ必要ガ無イトモ見ラレナイ譯デアリマス、ドウモ舊法典ノ如キ配列法ニ致シマスルノハ甚ダ當ヲ得テ居リマセヌ又解釋上モ疑ガ生ズルト考ヘラレマシタカラ本案ニ於テハ「遺言」ト云フ題ヲ此處ヘ設ケタ譯デアリマス夫故ニ此處ノ遺言ト云フモノハ獨リ遺贈ノミナラズ外ノモノニモ當ルモノデアルト云フコトハ幾ラカ明カデアラウト思ヒマス然ニ遺言ノ所ノ置キ場所ヲ相續編ノ中ニ第六章トシテ置キマシタル所以ハ固ヨリ本案ニ於キマシテモ遺言ハ相續ノ事丈ケニ關シテ居ルノデハアリマセヌ或ハ後見人ノ規定デアリマスルトカ養子デアリマスルトカ私生子ノ認知デアリマスルトカ法人設定ヲ目的ト致シテ居ル寄附行爲デアルトカ云フヤウナ、ソンナ事デモ矢張リ遺言ヲ以テ爲スコトガ出來ルノデアリマス併シ此遺言ノ適用ノ十中ノ八、九ハ相續ニ直接ノ關係ヲ持ツテ居リマスルカラ夫故ニ遺言ノ規定ヲ置キマスル適當ノ場所ハ本案ノ如ク法典ヲ幾ツニモ分チマシタトキニ於テハドウシテモ相續編ニ置クト云フノガ一番適當ナ場所デアラウト思ヒマス家督相續人ノ指定デアルトカ遺產相續人ノ指定デアルトカ或ハ家督相續人、遺產相續人ノ廢除デアリマスルトカ相續分ノ指定デアルトカ分割ノ方法デアルトカ或ハ遺贈ノ如キモ直接ニ相續ニ關係ノアルモノデアリマス夫故ニ遺言ノ規定ノ屬スベキ所ハ相續編ニアルモノトシテ此處ヘ「第六章遺言」ト云フコトニ致シタ譯デアリマス
重岡薫五郎君
只今ノ御說明ニ據リマスルト「遺言」ト云フ事柄ハ餘程廣イモノデアツテ啻ニ財產ノ授受ニ關係シタモノデハナイ斯ウ云フヤウナ御說明ノヤウニ考ヘラレマス、シテ看ルト若シ此遺言者ガ或ハ自分ノ息子ニ向ツテ誰レ某ノ娘ヲ嬪ニ取レトカ或ハ何何ノ職業ヲセヨトカ事業ヲヤレトカ云フヤウナ何カ財產以外ノ行爲ニ付テ遺言ヲ爲シタコトニ付テ矢張リ法律上有效トシテ檢束スルコトニ爲ルノデアリマスカ、サウ云フ事ガ遺言トシテノ效力ニ付テ制裁ヲ御付ケニ爲ルノデアリマスカ
穗積陳重君
遺言ハ法律行爲ノ一種ト考ヘマス夫故ニ如斯事ハ法律行爲デハアリマセヌカラシテ徳義上ニハ非常ニ效力ハアリマセウケレドモ如斯遺言ガ法律ノ效力ヲ生ズルト云フコトハ「後見遺言ヲ以テ結婚ヲ命スルコトヲ得」トカ何ントカ云フヤウナ效果ガ出來テナイ以上ハ徳義上力ヲ持ツト云フコトニ止マルモノデアラウト思ヒマス
梅謙次郎君
九十條ノ適用デ夫レヲ法律上ノ效力ヲ持タセヤウトシテモ無效デアル何シロ公ノ秩序、善良ノ風俗ニ反スル誰レ某ヲ妻ニ貰ヘトカ云フヤウナコトハヽヽヽヽヽ
尾崎三良君
異議ナシ
議長(箕作麟祥君)
夫レデハ「第六章遺言」ト云フ表題ニ付テ御發議ガナケレバ次ニ移リマス
(書記朗讀)
  第一節 總則
第千六十一條 遺言ハ本法ニ定メタル方式ニ從ヒテノミ之ヲ爲スコトヲ得
(參照)取三六八、佛一〇〇一、澳六〇一、蘭一〇〇〇、伊八〇四、八三五、葡一七四〇、西六七〇、白草八一三、獨二〇三九、同一草一九一一、同二草一九三七、普國法一部一二章六六、索二〇六四、二二〇三乃至二二〇九
穗積陳重君
總則ニ於キマシテハ遺言ノ性質上規定ヲ要シマスル事柄ト遺言ヲ爲ス資格ヲ有スル者ニ關スル遺言ノ資格トデモ言フベキモノノ規定丈ケヲ此處ニ置テアリマス第千六十一條卽チ遺言ノ一番初メノ箇條ニ置キマシテ遺言ハ何人ト雖モ法律ガ之ヲ禁ジナイ以上ハ之ヲスル事ガ出來ルト云フヤウナ風ノ規定ハ置キマセヌデアリマシタ諸國ノ法典ニハ餘程多ク見ル例デアリマスガ之ハ定メテ遺言ト云フモノハ法律ガ特ニ許ス夫レデ始メテ一個人ノ意思表示ガ顯ハレテ夫レデ效力ヲ持ツト云フ理論ヲ本トニシテ書イタモノデアラウト思ヒマス其理論ニ反シテ此處ニサウ云フ箇條ヲ置カナカツタ譯デハナイノデアリマス本邦ニ置キマシテハ御承知ノ通リ旣ニヽヽヽヽヽ時代以來鎌倉幕府徳川幕府ノ時代ニ於キマシテモ其範圍コソ狹ウゴザイマスケレドモ遺言ト云フモノハ法ガ認メテ居リマスルシ慣習ト云フモノモ勿論アリマス未ダ遺言ヲ爲スコトヲ得ルト云フヤウナ斯ウ云フヤウナコトヲ言フノ必要ハ固ヨリ認マセヌカラ如斯初メニ恰モ遺言權ヲ與ヘマスルガ如キ規定ハ置カズシテ直チニ遺言ノ性質上ノ規定ヲ置キマシタ譯デアリマス固ヨリ遺言ト云フモノガ法律行爲ノ先天ナル性質ハナイノデアリマスケレドモ元ト死後ニ其效力ヲ生ズルモノデアリマスカラ從テ其行爲者ガ存シテ居リマセヌケレバ誤解ヲ生ズルコトモアリマセウシ他人ガ之ニ乘ジテ詐欺抔ヲ行ヒマスルヤウナ事モ生ズルモノデアリマスマダ本人ガ前ニ缺點ヲ補ウ機會モ無ク爲ツテ居ルト云フヤウナ話シデアリマスカラ苟モ法ガ遺言ト云フモノヲ認メマスル以上ハドウモ之ハ要式行爲ト致サネバ往カヌト云フコトハ殆ンド遺言ノ性質上カラ出タモノト云フ位ノモノデアラウト思ヒマス唯ダ諸國ノ規定ノ間ニ其式ト云フモノヲ非常ニ細カニ規定ヲシテ或ハ口頭ノ遺言ヲ許ストカ許サヌトカ云フサウ云フヤウナ風ノコトニ範圍ノ違ヒノアル丈ケノコトデアリマシテ要式行爲タルコトハ諸國ノ規定悉ク同ジコトデアルト考ヘラレマス夫故ニ正面ニ「本法ニ定メタル方式ニ從ヒテノミ」云々ト云フコトガアリマス而シテ遺言ハ又一方ニ於テハ他人ニ代理セシメルコトノ出來ナイ自ラ自己ノ意思表示ノミニ依ツテヤル行爲ト云フコトモ蓋シ遺言ヲ保護致スノ必要カラ出テ居ルコトデゴザイマセウ或ル國ニ於キマシテハ「遺言ハ自己ノ意思表示ノミニ依ツテ之ヲ爲スコトヲ得」トカ或ハ遺言ト云フモノハ「自身ノ爲ス行爲」ト云フコトヲ斷ツテ居ル所モアリマス此遺言ノ性質ハ自カラ本條ニ籠ツテ居ル積リデアリマス「方式ニ從ヒ」ト云フコトガ斷ツテアリマス此次ノ節ニ「遺言ノ方式」ト云フコトガ出テ參リマス其方式ハドウ云フモノデアルカト云フト自ラ爲サネバナラヌト云フコトガ其方式ノ規定カラ自カラ顯ハレテ居リマスカラ殊更ニ自己ノ意思表示丈ケデナケレバ出來ヌ遺言ニハ代理ハ許サヌト云フヤウナ事ヲ此處ニ斷ハラヌコトニ致シタノデアリマス
議長(箕作麟祥君)
此條ガ卽チ要式行爲ト云フコトノ性質ヲ明カニシタト云フコトニ爲ルノデスネ
穗積陳重君
夫レ丈ケノコトデアリマス
岡野敬次郎君
私ハ事質上ノ問題デハアリマセヌガ書キ方デアリマスガ無論此「方式ニ從ヒテノミ之ヲ爲スコトヲ得」ト云フコトハ前ニモ例ノアルコトデゴザイマセウガ乍併餘リ名文デモナカラウト私ハ考ヘル「本法ニ定メタル方式ニ從ヒテ之ヲ爲スコトヲ要ス」ト書テハ何カ不都合ガアリマスカ
梅謙次郎君
遺言シナケレバナラヌヤウニ讀メル嫌ヒハアル
穗積陳重君
「方式ニ從ウコトヲ要ス」ト言ツテモ宜シイノデスガサウスルト方式ノ方ニ持ツテ往クヤウニ爲レバ宜シイ
梅謙次郎君
サウデス此處ハ削ツテ向フニ持ツテ往ケバ宜シイ
穗積陳重君
ドウモ「之ヲ爲スコトヲ得」デハ要式行爲ノ性質ヲ顯サウト云フト成程まつい文章デアル
梅謙次郎君
「從フニ非サレハ之ヲ爲スコトヲ得ス」ト云フ方ガ文章ハ宜シイケレドモサウ言フト意味ガ少シ廻リ遠イノミナラズ法律ニ書テアルノダカラ宜シイヤウナモノデハアルガ少シ呵シイ
尾崎三良君
方式デスカ
梅謙次郎君
之ハ方式デハアリマセヌ方式ハ此次ニ出テ來マス
議長(箕作麟祥君)
夫レデハ第千六十一條ハ別ニ御發議ガナケレバ原案ニ決シテ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第千六十二條 滿十五年ニ逹シタル者ハ遺言ヲ爲スコトヲ得
(參照)四、喪葬令若亡人存日處分條、法曹至要鈔處分任財主意事條、取三五七、佛九〇三、九〇四、澳五六九、千八百七十一年七月二十五日法、蘭九四四、九四五、伊七六三、一號、グラウブユンデン五〇二、ツユーリヒ九九三、葡一七六三、一七六四、三號、西六六二、六六三、一號、六六六、白草七五三、獨二二〇三、同一草一九一二、同二草二〇九七、普國法一部一二章一六、索二〇六六、英7Will.IV.,1Vict.C.26,S.7紐草五四二、五四三、加一二七〇、印度相續法四六
穗積陳重君
本條ハ遺言ニ關スル成年ト通常稱シマスルモノノ規定デアリマス舊法典ハ第三百五十四條デアリマシタガ遺言ノ成年ト云フモノト通常ノ成年ト云フモノトニ區別ヲ置カズシテ未成年者ハ遺贈ヲ爲スコトガ出來ヌト云フコトニ爲ツテ居リマスル本案ニ於キマシテハ特別ノ遺言成年ヲ認メル必要ヲ感ジタノデアリマス夫レハ何故カト申シマスルト云フト旣ニ本案ノ全體ノ立テ方ニ致シマシテモ未成年者ト云フモノハ唯ダ限定能力ヲ持ツテ居ル者デアツテ總テノ法律行爲ヲ特ニ除テアルモノノ外ハ爲スコトガ出來ルノデアリマス夫レニ或ハ同意ヲ要スルトカ或ハ或ル場合ニ於テハ取消セルトカサウ云フヤウナ風ノ必要ノコトガアツテモ未成年者デモ大體ノ行爲ハ出來ルト云フコトニ爲ツテ居リマス加之ナラズ此養子ニ參リマスル殊ニ結婚ヲ致ス等ノ如キ者ノ成年ハ通常ノ成年ヨリハ餘程低ク爲ツテ居リマス旣ニ結婚ヲ致シ或ハ自立シテ一ツノ家デモ持ツト云フヤウナ者ニ爲ルト子モ出來ル又自分ノ財產ヲ持ツテ居リマスルト後トノ事モ考ヘナケレバナラヌト云フヤウナ風ニ結婚ヲ許サレマスルト親族上ノ關係ヤ何カ種々ノ事ガ生ジテ來マス又ハ後見人ヲ指定スルトカ種々ノ事ガ出テ參リマスルカラシテ此遺言ノ成年ト云フモノハ可成結婚ノ如キモノノ成年ト近イ方ガ宜シイ親族ノ本トカ夫レヨリ生ズルノデアリマス夫レデ旣ニ本案ニ於テ結婚ハ男ガ滿十七女ガ滿十五ト云フコトニ爲ツテ居リマス夫レデ其低イ方ノ滿十五年ニ逹シタ者ハ遺言ヲ爲スコトヲ得ルト致シタ譯デアリマス尤モ或ル國ニ於キマシテハ結婚年齡ガ男子ト女子ト異ツテ居リマスカラ從ツテ遺言能力ノ年齡ト云フモノモ男子ト女子ト分ケテ居ル國モ往々アリマス併シ之ハ餘リ細カ過ギル規定デアリマシテ夫レ程ニ區別ヲ致サヌデモ宜シイト思ヒマシテ結婚年齡ノ低キ方ヲ標準ト致シマシタノデアリマス、モウ一ツハ滿十五年ト云フコトハモウ昔シヨリ致シマシテ十五年ト云フノガ一ツノ大人ニ爲ル時期デアルト考ヘ來ツタ者モアリマスカラ夫レ故ニ兎ニ角滿十五年ト云フコトニ定メタノデアリマス諸國ノ規定モ多クハ此遺言年齡ヲ低ク致シテ居リマス十四ヨリシテ遺言ヲ許シマスルノハ普漏西、索遜、澳太利、巴威爾、男女ヲ分ツテ男ハ十四、女ハ十二之ハ獨逸ノ普通法其他獨逸ノ小サイ國々ニ澤山アリマス是ラハ定メテ羅馬法以來ノ歴史上カラ十四ト云フコトニ定メタノデアリマセウ佛蘭西、「フオルランブルク」ハ十四デアリマス夫レカラ十八ト致シテ居ル國モ餘程アリマス之ハ獨逸ノ中デモ「ブランコス」「ブルゴン」トカ或ハ亞米利加ノ加奈陀、紐育ノ草案夫レカラ獨逸民法二讀會草案抔ガ十八ト爲ツテ居リマス而シテ女ハ結婚ノ時カラト云フ斯ウ云フヤウナ風ノ規定モ出テ居リマス夫レカラ成年ト爲ツテ居リマスル國ハ舊民法ダトカ印度其外獨逸ノ中デモ「ハブルグ」トカ「ルベツク」トカ云フヤウナ小サナ國ニ三ツ四ツアリマスガ先ヅ成年ト云フノハ概シテ少數デアリマスケレドモ此處ニ參照ニ引キマシタ國デハ十五ト云フノハ無イノデアリマス中々此事丈ケハ諸國ニ無イ方ガ却テ面白イ日本デハ十五ト云フノハ一ツノ段落ト思フコトト結婚年齡モアリマスカラ先ヅ十五年ト致シマシタ
重岡薫五郎君
十七トカ十八トカハ往ケマセヌカ
梅謙次郎君
之ハ外ノ法律行爲ナラバ外ノ人ガ代ツテヤルカラ宜シイケレドモ此處デハ夫レガ出來ヌ方デアリマスカラ若シ變ズルノナラバ私ハ低イ方ニ變ジタイト思ヒマス
土方寧君
英吉利デモ普通ノ成年デアリマシタ
梅謙次郎君
舊法典ハ成年トハアリマスガ自治產ニ爲レバ宜シイトアル
議長(箕作麟祥君)
私ハ旣成法典デハ自治產ニ爲レバ宜シイトアリマスガ今度ハ是ガ無ク爲ツテ居リマスカラ
穗積陳重君
一寸補ツテ置キマス十五ハ近頃ノ葡萄牙ト西班牙ヲ除ク外ハ無イノデアリマス又諸國ニハ隨分此遺言年齡ヲ低ク致シマシテ而シテ成年ニ逹スルマデハ後見人ヲ要スルトカ或ハ佛蘭西ノ如ク處分シ得ベキ財產ノ部分ヲ半分ニ限ルトカ云フヤウナ種々ノ小サナ細工ガシテアリマスガ許ス以上ハサウ云フ細工ハ必要ハ無イト思フテ採リマセヌデアリマシタ
議長(箕作麟祥君)
一寸伺ヒマスガ甚ダ迂濶ナ御尋ネデハアリマスガ能力者トカ無能力者トカ云フノハ未成年者ハ無能力者デハナイノデスカ
穗積陳重君
無能力者デアリマス
議長(箕作麟祥君)
千六十四條デ「遺言者ハ遺言ヲ爲ス時ニ於テ能力者タルコトヲ要ス」ト云フ事ト牴觸スルヤウナコトハナイノデスカ
穗積陳重君
之ハ少シ文字ガ廣過ギルカモ知レマセヌガ遺言能力者デアリマス
梅謙次郎君
斯ウ云フ場合ヲ考ヘタノデアリマスあそこデ以テ「滿二十年ヲ以テ成年トス」ト云フ所ニ「但別段ノ規定アルモノハ此限ニ在ラス」トシテ置テ是ラガ遺言ニ付テハ成年者卽チ能力者ト云フコトニ見タイト云フ積リデアリマス蓋シ千六十二條ト較ベテ見レバ疑ハナカラウト思ヒマス之デ滿十五年ニ爲レバ遺言ガ出來ル卽チ遺言能力者ト云フコトガ分ラウト思ヒマシタ
議長(箕作麟祥君)
禁治產者抔ガ遺言ガ出來ルト云フコトハ此次ノ千六十三條デ分ルノデスカ
穗積陳重君
サウデス
梅謙次郎君
「其能力ヲ有スルコトヲ要ス」トシテモ宜シイ
議長(箕作麟祥君)
夫レナラバ分ル一寸「能力者タルコトヲ要ス」ト云フコトガアルカラ何ンダカ牴觸スルヤウナ嫌ヒガアルヤウニ思ヒマシタ
穗積陳重君
文字ヲもつと狹ク書イタ方ガ宜シイカモ知レヌ
梅謙次郎君
禁治產者亦然リデ大キニ御尤モデアリマス初メハ意味ヲ摘ンデ讀ンデ居リマシタカラ氣ガ付カヌデアリマシタガ、サウ言ハレテ見ルト少シまづい
議長(箕作麟祥君)
夫レデハ此千六十二條ハ御發議ガナケレバ原案ニ決シテ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第千六十三條 第四條、第九條、第十二條及ヒ第十四條ノ規定ニハ之ヲ適用セス
(參照)グラウブユンデン五〇二、ツユーリヒ九九三、九九四、葡一七四〇、西六七〇、獨二草二〇二三、同一草一九一二、同二草二〇九七、索二〇六六乃至二〇七二、印度相續法四六
穗積陳重君
本條ハ民法總則ノ箇條ヨリシテ――――總則ノ箇條ガ遺言ニ當リマセヌモノガ幾ラモアリマスカラシテ夫故ニ夫レ丈ケヲ此處ニ斷ハルノ必要ヲ生ジタノデアリマス第四條ハ未成年者ガ法律行爲ヲナス場合ニハ其法定代理人ノ同意ヲ得ナケレバナラヌト云フコトデアリマス然ルニ前ニモ申上ゲマシタ通り遺言ハ卽チ獨立行爲デアツテ他人ニ相談ヲシテ爲ストカ或ハ他人ノ同意ヲ得テ始メテ爲スコトガ出來ルトカ云フヤウナコトデハ自己ノ十分ナ遺言自由ノ能力ヲ行フト云フコトガ出來ナイモノデアリマス又多クノ場合ニハ死後マデハ人ニ知ラスコトヲ厭フヤウナ場合モアリ得ルノデアリマス夫レデ獨立行爲デアル以上ハ未成年者デアリマシテモ十五歳デモ同意ヲ要サナイ第九條ハ「禁治產者ノ行爲ハ之ヲ取消スコトヲ得」ト云フ箇條デアリマス禁治產者ハ舊法典ニ於テハ遺言無能力デアリマス乍併私共ノ考ヘマスル所ニ依リマスルト此禁治產ハ「心神喪失ノ常況ニ在ル者」デアツテ必ズシモ其禁治產ノ續テ居ル間何時デモ法律行爲ヲ爲スコトノ出來ナイ喪心シテ居ルト云フモノデハナイ又屡々アル場合デアリマシテ、モウ生涯氣違ヒト云フヤウナ名ノ附キマスル或ハ秋カラ冬ノ間ト云フモノハ些ツトモ異ナラヌケレドモ春ニ爲ルト段々往ケナクテ時々本心ニ復スルトカ云フヤウナ風ノ氣違ヒト云フ者ガ非常ニ多イノデアリマス如斯者マデモ禁治產者デアルト云ツテ其死後處分ヲ爲スコトガ出來ヌト云フコトニ定メルノハ如何ニモ酷ナコトデアリマス殊ニ如斯有樣ニ在ル者ハ自分自ラ判斷スル能力ノアル内ニ後後マデノ處分ヲ着ケテ安神致シタイト云フヤウナコトガ起リ得ル他ノ者ヨリハ一層愍ムベキ有樣ニ居リマスカラ禁治產者ト云フ者ヲ遺言無能力者トスルト云フ主義ハ採ラナンダノデアリマス、サウ致シマスルト禁治產者ハ何レ方式等デ喪心シテ居ルカ居ラナイカト云フヤウナ疑ヒノ起ラナイヤウナ規定ハ定メテ出來ルコトデアラウト思ヒマスガ兎ニ角通則トシテ禁治產者モ出來ルトシタノハ第九條ニ「禁治產者ノ行爲ハ之ヲ取消スコトヲ得」トアリマス遺言ハ其效力ノ初メニ於テ死ニマスルマデハ取消、變更ハ一向構ハヌコトデアリマスルガ唯ダ「取消スコトヲ得」ト云フ箇條ガアリマシテ其取消ト云フモノハ「無效及ヒ取消」ノ初メカラ二箇條目デアリマスカ「取消シ得ヘキ行爲ハ無能力者若クハ瑕疵アル意思表示ヲ爲シタル者、其代理人又ハ承繼人ニ限リ之ヲ取消スコトヲ得」ト書テアリマス是ガ當ツテハ甚ダ不都合デアリマス夫故ニ此「禁治產者ノ行爲ハ之ヲ取消スコトヲ得」ト云フ箇條ヲ此處カラ拔テ置キマシテ禁治產者モ一般ノ遺言ノ規定ニ從ハセル積リデアリマス第十二條ハ準禁治產者ノ場合デアリマス此準禁治產者ニ遺言ノ能力ヲ與ヘルヤ否ヤト云フコトニ付キマシテハ諸國ノ規定モ種々樣々ニ爲ツテ居リマスルガ大多數ハ此心神耗弱者、聾者、唖者、盲者ノ如キ者ニモ遺言ヲ爲スコトヲ許ス方ニ爲ツテ居リマス又夫レガ至當ナ譯デアラウト思ヒマスル旣ニ準禁治產者ヲ本案ニ於テ無能力者トシナイ以上ハ此十二條ノ取除ケヲ致シマセヌト矢張リ獨立行爲ト云フコトニ障リマス「保佐人ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス」ト云フコトニ爲ツテ居リマス夫レハ或ル行爲ニ限ツテアリマスガ遺言ノ中ニ這入ルコトガ澤山アリマス「不動產又ハ重要ナル動產ニ關スル權利ノ得喪ヲ目的トスル行爲」ソンナ事ニハ直グニ當リマス第十四條ハ妻ガ法律行爲ヲ爲シマスル場合デアリマス之モ矢張リ前ニ「夫ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス」ト掲ゲテアリマス贈與及ビ遺贈ヲ受諾スル方ハ這入ツテ居リマス猥リニ他人カラ物ヲ貰ウ抔ト云フヤウナコトハ夫婦間ノ關係デ先ヅ許可ヲ得サセル方ガ本統デアリマス併シ遺言ノ場合ニ於テハ先ヅ此死亡ニ依ツテ其夫婦關係ト云フモノガ表向キハ絶エル慣習上ハ夫レハドウ云フモノデアルカ二世マデ續クモノデアルカドウデアルカ知リマセヌガ――――夫故ニ矢張リ獨立ニ處分スルコトガ出來ルト致シタ方ガ宜シイト思ヒマス、サウスルト之モ前同樣ニ取除ケテ夫ノ許可ガナクテモ出來ル重要ナル動產又ハ不動產ヲ處分シテモ宜シイ斯ウ云フ事ニ爲リマス夫故ニ是丈ケヲ此處カラ取除ケマシタノハ畢竟前ニ擧ゲマシタ者ヲ遺言無能力者ト致サヌ結果ヨリ生ジタノデアリマス
尾崎三良君
此第四條第九條第十二條丈ケハ成程遺言ニハ適セヌ是丈ケハ獨立ニヤラセルト云フコトハ至極宜カラウト思ヒマスガ第十四條ニ至ツテハ如何デアラウカト甚ダ危ブムノデアリマス之ハ生存中ニハ夫ノ許可ガナケレバ贈與モ出來ヌト云フコトニ爲ツテ居リマスガ夫ノアル間ト云フモノハ妻ハ殆ンド無能力デアル今ノ御說デハ死ンデ仕舞ツタ以上ハ夫婦ノ關係ガ絶エルト云フコトデアリマシタガ遺言ト云フモノハ矢張リ生キテ居ル中ニスルノデアツテ死ンデ仕舞ツタカラスルノデナイカラシテ矢張リ之ハ私共ノ考デハ先ヅ夫ノ許可ヲ得ナケレバ遺言ト云フモノガ效ガ無イト云フコトニ爲ツタ方ガ善クハナイカト思ヒマス夫レカラ外ノ法律ハ知リマセヌガ英吉利抔ハサウ爲ツテ居リマスガ夫ノ許可ノナイ遺言ハ效ハ無イト云フコトニ爲ツテ居リマス
穗積陳重君
設立許可ハ宜イノデセウ獨立財產デス
尾崎三良君
夫レハ自分ハ夫レモ矢張リ徃ケナイ
土方寧君
夫レハ構ハナイ
尾崎三良君
設立許可ガ無イ以上ハ頭デ妻ノ財產ガ無イノダカラ
土方寧君
死ンダ後デナケレバ效果ヲ生ジナイカラ構ハナイ
梅謙次郎君
舊民法モサウ爲ツテ居ル
尾崎三良君
之ハ矢張リ私ハ取除ノ方ニハ入レテ置カヌ方ガ宜シイト思ヒマス夫レ丈ケノ考デアリマス
井上正一君
一寸伺ヒマスガ此第九條ヲ御除キニ爲ツタノハ御說明ニ據ルト之ハ先キデ段々禁治產者ガ喪心ヲシテ居ラヌヤウニ或ハ方式ノ所デ極マルデアラウ斯ウ云フヤウニ仰ツタヤウデアリマスガ之ハ要スルニ何ンデアリマセウ縱令ヒ方式上完全デアツテモ若シ現ニ其遺言ノ時ニ喪失ヲシテ居ルト云フコトヲ說明ヲシタナラバ
梅謙次郎君
夫レハ法律行爲デアリマスカラヽヽヽヽヽ
穗積陳重君
夫レハ固ヨリサウデス
重岡薫五郎君
其證明ノ仕方ハドツチカラ
梅謙次郎君
失ツタヽヽヽヽヽ
穗積陳重君
之ハ私共サウ云フ方式上ノ細カイ事ハ其方デ極メルト云フ事丈ケ纏ツテ居ツテ外ノ事ハ纏ツテ居リマセヌガ現ニ其遺言ヲスル時ニ於テ喪失シテ居ラヌト云フ醫師ノ立會トカ證明トカ云フヤウナ風ノコト、先ヅサウ云フヤウナ風ノ事柄ガ出來ヤウト考ヘテ居リマス
岸本辰雄君
原則トシテ之ヲ許スト弊ガアリマスカ
富井政章君
御承知ノ通リ佛蘭西抔デハ弊ガ非常ニアリマスナ
議長(箕作麟祥君)
一寸穗積さんニ伺ヒマスガ十二條ト十四條トハ先刻ノ御說明デ「不動產又ハ重要ナル動產」ト仰ツタガ成程夫レハ嵌リマセウガ其外ニ嵌マリマスカ
穗積陳重君
サウデスナ其時ニモ考ヘテ見マシタガ其外ノ事ニハ餘リ氣ガ付カヌデアリマシタガ元本ヲ領收スルトカ
梅謙次郎君
夫レヲ利用スルコトハアルカモ知レヌ
穗積陳重君
元本ヲ斯ウ云フコトニシテ呉レトカ
議長(箕作麟祥君)
己レガ死ンダナラバ此金デ公債證書ヲ買ツテ呉レトカ銀行ノ株券ヲ買ツテ呉レトカ云フヤウナ
重岡薫五郎君
夫レハ稀レデアリマセウ――――誰某ノ保護人ニ爲ラウト云フヤウナコトハドウデセウカ宜シイデスカ
梅謙次郎君
滅汰ニハナイ、滅汰ニハナイガ何ガアリマス相續人ノ證人抔ガアルカモ知レマセヌ遺言デ――――少シ呵シイケレドモ
尾崎三良君
財產ノ管理人ヲ遺言デ指定スルト云フコトガアリマセウガ夫レガ出來マスカ此遺言ノ執行者ト云フ者ガアルデセウ
穗積陳重君
夫レハアリマセウ先キニ出テ來マス
土方寧君
私ハ此第十二條第十四條ノ中ニ列擧シテアルモノガ遺言ノトキニ適用ガアルカナイカト云フコトハ心付キマセヌデアリマスガ事柄ハ是非當ル場合ガアルト見レバ斯ウ云フ風ニ除外シテ置ク方ガ宜シイト思ヒマスケレドモ四條、九條ハ要ラヌト思ヒマス九條ノ禁治者デスナ禁治產者デアツテモ禁治產者デナイデモ詰リ意思ノ無イ能力ノ無イ者ガシタ遺言ハ外ノ法律カラ無效デアル禁治產者デアツタ所ガ若シ心神ガ回復シテ居ツタ場合ナラバ夫レハ有效デアル遺言其物ノ性質カラ有效カ無效カドツチカニ極メラルベキモノデ遺言ノ性質トシテ取消セルモノデアリマスカラ差支ナイト思ヒマス第一遺言ガ效力ヲ生ジテ後ノコトデアリマス前ナラバ自由ニ取消セル效力ヲ生ジタ後ナラバ取消シタクモ取消ス人ガナイト思ヒマスガ乍併九條ノ禁治產者ノ取消權ト云フモノハ取消權ノ所デ本人ノ承繼人――――相續人ト云フ者ガ出來ルト云フコトガアルカラ夫レデ私ハ此九條ハ必要ト感ジタノデアリマスガ四條ハドンナモノデゴザイマセウカ
穗積陳重君
四條ハ第二項ガアリマス
梅謙次郎君
ノミナラズ「法定代理人ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス」ト云フコトモ要ラナイ
土方寧君
夫レハ私ノ考デハ斷ツテ置カヌデモ遺言ガ要式ノモノデアル其要式ノ箇條ニ往クト詰リ遺言ハ本人自ラ爲スモノデアルト云フコトガ分ルヤウニシヤウト云フ御說明デアルサウスルト殊更ニ此處ニ引出サヌデモ遺言ノ方式ノ規定ノ上カラ自然ニ分ルヤウニ爲リハシナイカト思ヒマス初メ私ノ見タ所デハ四條、九條ハ拔テハドウデアラウカト思ヒマシタガ九條ノ方ハ成程之ハ拔カヌデモ宜シイカモ知レマセヌガ四條丈ケハ無クテモ宜ササウニ思ヒマス固ヨリアツテモ害ハアリマセヌガ
穗積陳重君
此前條ヲ裏カラ見テ「滿十五年ニ逹セサル者ハ遺言ヲ爲スコトヲ得ス」ト斯ウモ讀メル、サウスルト十五年以上ノ者ハ出來ル、ケレドモ十五年以上デモ未成年者デアル而シテ法律行爲ダ、サウスルト遺言ヲスルニ同意ヲ得ルコトヲ要スルト云フヤウニ見エル
土方寧君
私ハ未成年者ト云フコトハ遺言ニ付テハドウモ當ラヌト思ヒマス遺言ハ十五年以上ノ者ガ出來ルトスレバ十五年以上ノ者ハ成年者デアツテ以下ノ者ハ未成年者ト云フコトニ爲ルト思ヒマス
梅謙次郎君
「滿二十年ヲ以テ成年者トス」ト書テアルト未成年者ト云フモノハヽヽヽヽヽ
穗積陳重君
「遺言ノ成年トス」ト書ケバ
土方寧君
書ケバサウデアリマスガ唯ダ穗積さんノ仰ツシヤルヤウニ十五年以上ト云フト遺言ノ方デハ成年者デ一般ノ方デ十五年以上二十年以下ト云フモノハ矢張リ一般ノ規定ガ當嵌ラヌヤウニ爲ラウト思ヒマス「遺言ニ付テハ滿十五年ヲ以テ成年トス」ト書テナクテモサウ云フコトニ爲ルダラウト思ヒマス
梅謙次郎君
サウ云フコトニハ爲ラヌ君等ガサウシナカツタ吾々ガ初メ第三條ニ但書ヲ入レテ「法令ニ特別ノ規定アルモノハ此限ニ在ラス」トシタノヲ削ツテ仕舞ツタデハナイカ
土方寧君
夫レハ無イモノダカラ仕樣ガナイ
議長(箕作麟祥君)
本條ニ付テ尾崎さんノ御說ガアリマシタガ贊成者ガナイヤウデスカラ決ハ採リマセヌ夫レデハ此千六十三條ハ原案ニ決シテ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第千六十四條 遺言者ハ遺言ヲ爲ス時ニ於テ能力者タルコトヲ要ス
(參照)佛九〇一、九〇六、澳五七五、五七六、蘭九四五、九四六、伊七六三、一項、三號、七六四、ヴオー五六〇、五六八、グラウブユンデン五〇二、三項、ツユーリヒ九九三、葡一七六五、一七七八、西六六四、六六六、白草七五四、七五五、索二〇七三
穗積陳重君
之ハ先刻ノ御注意ニ依リマシテ成程少シ文字ガ廣過ギルヤウデスカラ「能力者」ノ「者」ヲ削リマシテ「其能力ヲ有スルコトヲ要ス」ト改メマス之ハ一寸一見スルト如何ニモ野暮ナ規定ノヤウニ見エマス遺言ヲ爲ス者ハ其遺言ヲ爲ス時ニ能力ヲ持タネバ往カヌト云フコトハ知レ切ツタヤウナ事デアリマスルガ之ニ付テ問題ガ生ズルモノデアリマスカラ此處ニ掲ゲテアリマスル所ノ諸國ニ於テハ悉ク之ト畧ボ符合致シマスル事ヲ明文デ掲ゲテアリマス夫レハ此遺言ガ效力ヲ生ズル時ハ死亡ノ時デアリマスルカラシテ不都合ナ說トハ思ヒマスルケレドモ乍併遺言ト云フモノハ死亡ノ時ニ始メテ成立ツ法律行爲デアル斯ウ云フヤウナ鹽梅ニ考ヘル人モアルト見エマスル夫故ニ遺言ヲ爲ス時ハ能力者デアツタガ死亡スル時ハモウ無能力者デアツタ、サウスルト死亡マデハ取消、變更ヲ爲スコトガ出來ルガ旣ニ生前ニ於テ遺言自由ヲ失ツタ生キテハ居ルケレドモ取消スコトモ何モ出來ナクナツタ喪心シテ仕舞ツタト云フヤウナ場合ニハ――――サウスルト眞正ノ自由ノ意思ノ表示デハナイト云フヤウナ風ノコトヨリシテ獨リ遺言ガ死亡ノ時ニ成立ツノミナラズ遺言ト云フ取消シ能力ヲ前ニ失ウト云フト遺言自身モ效力ヲ失ウト云フ方ニ爲ル方ガ宜シイト云フヤウナ斯ウ云フ風ノ立法論モ見エルヤウデアリマス之ハ此處ニ直接ニ關スル事デハアリマセヌケレドモ殊ニ國際私法ヤ何カニ於テハ問題ガ生ジテ居ルコトデアリマス遺言ヲシタトキニ其國ニ於テハ遺言能力者デアル他國ニ轉籍スルトカ或ハ歸化スルトカ云フト其國デハサウ云フ能力ガ足リナイ例ヘバ年齡ガ其國デハ足リナイ十五歳ノ遺言制限ノ國カラ二十歳ノ遺言制限ノ國ニ轉籍スルトカ歸化スルトカ云フト其場合ニハ其遺言ハ徃ケナイト云フヤウナ疑問モアル位デアリマス國際私法ニ付テハはつきり其說ガ一ニ歸シテ居ナイト云フ位ノコトデアリマス兎ニ角遺言ト云フモノハ遺言ヲ爲ス時ニ於テサヘ能力ヲ有スレバ夫レデ澤山デアル其後ノ資格ニ關スル法律ノ變更トカ或ハ身分ノ變更トカ或ハ變名トカ何ントカ云フヤウナ有樣ニ因ツテ遺言ノ效力ヲ失ハナイ法律ノカヲ以テ效力ヲ失ハセル場合ハ此限ニ在ラズト云フコトヲ極メル必要ガアツテ之ヲ置キマシタ譯デアリマス遺言ニ因ツテ遺贈ヲ受ケマスル者ノ資格ハ何レ別ニ定マリマスル譯デアラウト思ヒマス
土方寧君
只今ノ御說明デ能ク分リマシタガ此法文丈ケデハ今ノ御說明ノ趣意ガ能ク分ラヌヤウデアリマス半分ハ分ルガ半分ハ分ラヌヤウニ思ヒマスガ遺言ハ死ンダ時ニ效力ガ生ジマスルケレドモ乍併遺言ヲシタトキカラ死ヌマデノ間ガアツテ其間ニ能力ニ變動ヲ生ズルト云フヤウナコトガアル其場合ニ死ンダラ效力ヲ生ズルト云フコトノ意味ハ分ツテ居ルケレドモ其前ガ疑ハシイ夫レカラ後ニ能力ヲ失ツテモ――――遺言ヲ爲ストキニ能力者デアルト云フコトガ必要デアツテ後ニ死ンダ時ハ能力ヲ失ツテ居ツテモ宜シイト云フコトハドウモ此法文デハ分ラヌヤウニ思ヒマス「遺言者ハ遺言ヲ爲ス時ニ於テ其能力ヲ有スルコトヲ要ス」或ハ意味ガ其時ニ於テ其能力ヲ有スルヲ以テ足リルト云フコトニ言ツテナイト是デアルト何ンダカ遺言ヲ爲ストキニハ未成年者デ宜シイト云フヤウナコトデナイト云フコトハ是デ防ゲルケレドモ十五ノ時ニ作ツタ夫レカラ後二十ノ時ニ氣違ヒニ爲ツテ間モナク死ンダト云フ時ニ夫レデモ宜シイト云フヤウナコトハ此法文丈ケデハ分ラヌヤウニ思ヒマスガドウデセウカ
梅謙次郎君
君ニハ分ラヌカモ知レヌガ僕等ハ明カト思フ若シ分ラヌト云フコトナラバ修正說ヲ出シテ貰ヒタイ僕等ハ分ツテ居ルガ君等ノヤウナ說ガ出ルカラ之ヲ書クノデアル
穗積陳重君
井上さんハ法文ガ無イトスレバ反對ノ御說デハアリマセヌカ
井上正一君
夫レマデニモ思ヒマセヌ是デ結構ダラウト思ヒマス
岸本辰雄君
「遺言ヲ爲シタル後能力ヲ失フモ其效力ヲ失ハス」ト書テハドウデス
三浦安君
吾々ハ分ツテ居ル
尾崎三良君
吾々ノ如キ愚鈍ノ者ト雖モ分ル餘リ賢シ過ギル人ハ分ラヌ殆ンド無クテモ宜カラウト思フ位デアル
議長(箕作麟祥君)
夫レデハ第千六十四條ハ別ニ御異議ガナケレバ原案ニ決シテ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第千六十五條 第九百七十五條及ヒ第九百七十六條第二號乃至第六號ノ規定ハ受遺者ニ之ヲ準用ス
(參照)一、七二〇、九九三、人二、佛七二五、七二七、九〇六、澳二二、五三八、五四〇乃至五四四、蘭三、八八五、九四六、九五九、伊七二四、七二五、七六四、ヴオー五一四、五六八、グラウブユンデン五、三項、四七三、ツユーリヒ九、八六八、九〇八、九〇九、ベルン一〇、ソローテルン一三、ルーツエルン一〇、フライブルグ一二、葡一七七六、一七八二、一九七八、西六七二、七四四、七五六、七五七、白草七四五、七五五、獨一八九九、二三一二、同一草一七五八、一九六四、二〇四五、同二草一八〇〇、二二〇四、普國法一部九章三七一、三七五、同一部一二章五九九、六〇〇、索二〇〇八、二二七七乃至二二八〇、紐草一二、加二一、ローウエル、カナダ六一〇
穗積陳重君
本條ハ格別細カイ說明ヲ要シマスマイト思ヒマス遺言ニ因ツテ遺贈ヲ受ケマスル者丈ケノ資格ニ關スル規定デアリマス初メノハ胎兒デアリマス之ハ知リ切ツタ事デアリマス「胎兒ニ遺贈ヲ爲スコトヲ得」九百七十六條第二號乃至第六號ト申スノハ「家督相續人タルコトヲ得ス」ト云フ相續ノ缺格ノ箇條デアリマス「故意ニ被相續人又ハ家督相續ニ付キ先順位ニ在ル者ヲ死ニ致シ又ハ死ニ致サントシテ刑ニ處セラレタル者」トカ或ハ「被相續人ノ殺サレタコトヲ知ツテ居ツテ告發又ハ告訴ヲ爲サナカツタ者」トカ或ハ「詐欺又ハ強迫ニ因ツテ被相續人カ相續ニ關スル遺言ヲ爲シ之ヲ取消シ又ハ變更スルコトヲ妨ケタル者」トカ或ハ詐欺又ハ強迫ニ因リテ被相續人ヲシテ相續ニ關スル遺言ヲ爲サシメ之ヲ取消サシメ又ハ之ヲ變更セシメタル者」トカ或ハ「相續ニ關スル被相續人ノ遺言書ヲ僞造、變造、毀滅又ハ藏匿ヲシタ者」トカ斯ウ云フヤウナ風ノ者ハ受遺者トハ爲レヌト云フコトニ爲ルノデアリマス
議長(箕作麟祥君)
之ハ總則ノ外ニ入レ所ハアリマセヌカ
梅謙次郎君
之ハ「遺贈」ト云フ節ガアルト「遺贈」ノ所ノ規定デアリマスガ今度ハ「遺贈」ト云フ節ヲ置カヌノデスカラ―――矢張リ之ハ受ケル人ノ廣イ意味ヲ以テ言フト能力デアリマス初メハ之ヲ能力トシテ規定シタケレドモ能力ト言フト外ノ意味ニ使ツテアリマスカラ避ケタノデアリマス
議長(箕作麟祥君)
二節三節ヲ除テ外ニ入レ場所ハアリマセヌカ
梅謙次郎君
「方式、效力、執行、取消」ト云フコトニ爲ツテ居リマス
議長(箕作麟祥君)
入レ所ガナケレバ仕方ナイ何ンダカ妙ナモノガ這入ツテ居リマスカラ
梅謙次郎君
ドウモ總則ノ總則タルコトデ餘程雜駁デス
岡野敬次郎君
穗積さんニ伺ヒタイノデアリマスガ今迄此「受遺者」ト云フ文字ノ使ヒ方ハ私ハ「遺言ヲ受ケル者」ト云フコトデナクシテ「遺贈ヲ受ケル者」ト云フ風ニ多年讀ンデ居リマスガ此章ヲ「遺言」ト改メラレタ點カラ言フト此總則ノ所ニ受遺者卽チ遺贈ヲ受ケル者ト云フヤウナコトニ讀ンデモ差支ナイト云フ御積リデアリマスカ或ハ「受遺者」ヲ「遺言ヲ受ケル者」ト云フ風ニ讀ムノデアリマスカ
穗積陳重君
之ハ「受遺者」ハ勿論「遺言ニ因リ贈與ヲ受クル者」トカ云フコトデアリマシテ遺言ガ原因ト爲ツテ所有權ノ移轉ガ生ズルノデアリマスカラ矢張リ此「遺言」ト云フ中ノ總則ニ入レテ置テモ差支ハナイモノデアラウト思ヒマス
梅謙次郎君
「遺贈」ト云フ節ガアルト其處ヘ這入ルカモ知レマセヌガサウ云フ節ガ無イカラドウモ仕方ナイ
議長(箕作麟祥君)
詰リ旣成法典ヨリ廣ク爲ツタノデスネ
梅謙次郎君
サウデス
土方寧君
異存ナシ
議長(箕作麟祥君)
夫レデハ原案ニ決シテ千六十六條ニ移リマス
(書記朗讀)
第千六十六條 被後見人カ後見人又ハ其配偶者若クハ直系卑屬ノ利益ト爲ルヘキ遺言ヲ爲シタルトキハ其遺言ハ無效トス但後見ノ計算ノ終ハリタル後ハ此限ニ在ラス
 前項ノ規定ハ直系ノ血族、配偶者又ハ兄弟姉妹カ後見人タル場合ニハ之ヲ適用セス
(參照)佛九〇七、蘭九五一、伊七六九、ヴオー五六九、葡一七六七、西七五三、白草七五七
穗積陳重君
先ヅ此第二項ノ「直系ノ血族」トアリマスルノヲ「ノ」ヲ削ツテ「直系血族」ト御改メヲ願ヒタウゴザイマス之ハ前ノ後見人――――夫レヨリ前ニモアリマシタガ前カラノ文例デアリマス本條ハ之モ一ツ單獨ナ規定デ如斯キ遺言ハ弊害ヲ生ズルカラ「爲スコトヲ得ス」ト云フ規定デアリマスカラ餘儀ナク之ヲ總則ノ中ニ置キマシタノデアリマス固ヨリ後見人ト云フ者ガ被後見人ノ上ニ強イ勢力ヲ有シテ居ルト云フコトハ言フマデモナイ話シデ夫レガ爲メニ種々ノ規定ガ後見ノ所其他ノ所ニアリマスルノデアリマス後見人ノ同意ヲ要スルコトハ要リマセヌケレドモ乍併其勢力ヲ濫用シテ直接間接ニ自己ノ利益ト爲ルベキ遺言ヲ爲サシメルト云フコトハマダ經驗モ少ナイ者トカ云フ者ニ對シテハアリ得ルコトデアリマスカラ外ニ斯ウ云フコトガ餘防シテアリマスルモノノ標準ニ倣ツテ直接ニ自分ニ利益ヲ爲サシメルヤウナコトヲスルコトハ出來ヌ又縱令ヒ後見人ガ勢力ヲ濫用致シマセヌトシマシタ所ガ如斯遺言ト云フモノハ無效デアル如何トナレバ濫用ヲシタカシナイカト云フコト夫レ自身ガ非常ニ證明シ惡クイ事柄デアリマスカラ如斯規定ヲ置イタノデアリマス諸國ニハ或ハ醫者デアルトカ受持ノ主治ノ醫者デアルトカ或ハ僧侶トカ或ハ學術ノ教師トカ又事ニ依リマスルト看病人トカ種々ノ受ケルコトノ出來ナイ者ヲ擧ゲテアル所ガアリマスガ如斯細カイ事マデ擧ゲマスルト殆ンド底止スル所ヲ知ラナイノデアツテ隨分外ノ場合デモ自由ノ判斷ヲ妨ゲ勢力ヲ濫用スルヤウナ場合モアリ得ルコトデアリマス後見人ト云フモノハ兎ニ角多クアリマスルコトデアリマスルシ又外ノ場合ニ於テモ後見人ノ勢力濫用ヲ防グ箇條モアリマス夫レデ後見人丈ケ此處ニ置キマシタ第二項ノ例外ハ之ハ如斯近イ關係ノ者ガ後見人タル場合ガ屡々アリマセウガ夫レニモ遺贈ヲスルコトガ出來ナイト云フコトニシテハ又人情ニ背キマスルヤウナ場合モアリマスルカラ是丈ケノ例外ヲ置イタノデアリマス諸國ノ規定ニモ悉ク斯ウ云フヤウナ例外ガアリマスルガ其例外ノ範圍ニ付テハ多少廣狹ガアル丈ケノコトデアリマス
土方寧君
保佐人ハドウデセウカ
梅謙次郎君
あれハソンナニ酷ドイコトハナイ此處デハ親權ヲ代ツテ行フノダカラ餘程ヽヽヽヽヽ
尾崎三良君
第二項ノ取除ケデアリマスガ此直系血族ノ中ニハ伯、叔母ノヤウナ者ハ這入リマセヌカ
穗積陳重君
サウデス這入リマセヌ
尾崎三良君
夫レハ夫レデ宜シウゴザイマスガ兄弟姉妹ハドウデアリマセウカ兄弟姉妹モ隨分色々アリマスガ隨分兄弟姉妹ニ爲ルト範圍ノ廣イモノニ爲ラウト思ヒマスガコンナノハ取除ケヌ方ガ善クハナイカト思ヒマスガドウデスカ
穗積陳重君
這入ツテ居ラヌ所モアリマス
梅謙次郎君
夫レハ一ツノ議論ダガ多數ノ人情デハドウモ除クト云フ譯ニ往カヌ
尾崎三良君
夫レカラ今御話シノアツタ醫者トカ看護婦トカ云フヤウナ者、看護婦ハドウカ知リマセヌガ醫者抔ハ先ヅ醫者ノ利益ニ爲ルヤウナ遺言ハ無效ト云フヤウナ事ガ餘所ノ國ニアルヤウデアリマスガ之ハ矢張リ日本デモ必要デハアリマスマイカ
穗積陳重君
遺言ニ關係ヲシマスガ坊子モアル日本デハ夫レ程關係ハアリマスマイ
尾崎三良君
斯ウ云フ具合ニ精密ニ法律ヲ立テル位ナラ入レテ置テハドウデス
梅謙次郎君
西洋ノ坊子ハアラウガ夫レ位ナラバ生キテ居ル中ニヤツテ仕舞ウ
井上正一君
私ハ甚ダ何ンデアリマスガ之ハ削ツタラ宜カラウト思ヒマス如何ニモ此後見人ガ被後見人ニ獨シテ勢力ヲ暗々裏ニ行ウト云フコトハ之ハ有リ勝ノコトデゴザイマセウ乍併之ヲ絶對的ニ無效デアルト云フコトニシマスルト夫レ程ニ又後見人ガ勢力ヲ被後見人ニ對シテ行ハヌデ眞實親愛ニ其被後見人ヲ取扱ツテ往ク者モ何時デモ此遺言ヲスルコトガ出來ヌト云フヤウナ結果ニ爲リマス夫レデアリマスカラ之ハ重モナ場合ヲ御擧ゲニ爲ツテ又其實際上ハ餘程勢力ヲ得タトカ得ナイトカ云フヤウナ證據ヲ擧ゲルコトハ六ケシイカラ斯ウ云フ事ヲ法律デ御定メニ爲ツタノデアリマセウケレドモ現ニ明カニ勢力ヲ少シモ行ハヌ卽チ勢力ヲ行ヘバ――後見人ノ爲メニ勢力ヲ行ハヌト云フヤウナ場合デモドウシテモ此遺言ヲ受ケナイト云フコトニ爲リマスルト餘程窮屈ニ爲リマスカラシテ之ハ先刻モ御雖ヒガアリマシタガ辯護士ニハ餘程利益ニ爲ルカモ知レマセヌケレドモ矢張リ實際問題ニシテ夫レハ暗々裏ニ勢力ヲ及ボスト云フコトハ餘程アル事デアリマセウガ乍併夫レガ爲メニ後見人ガ制限ヲシタト云フコトガ分ラヌ以上ハ矢張リ後見人モ其遺言ヲ受ケルコトガ出來ルトシテモ善クハナイカト思ヒマス今モ色々御話シノアル通リニ宗教家ナラバ非常ニ勢力ヲ得テ夫レガ爲メニ遺言ヲスルト云フコトモゴザイマセウガ夫レハ矢張リ實際問題ニ爲ラウト思ヒマス、サウスルト後見人ト被後見人トノ間ニノミ法律ガ推定スルヨリモ實際問題ニ任セタ方ガ宜シイト思ヒマス今御話シノアリマシタ通リニ保佐人デモ場合ニ依ルト大變勢力ヲ及ボシテ夫レガ爲メニ遺言ヲスルト云フヤウナコトモ實際アルカモ知レヌ色々ナ遺言ガゴザイマセウガ夫レハ總テ實際問題ニシテ置イタ方ガ宜カラウト思ヒマス私ハ後見人丈ケニ法律上ノ推定ヲ爲スト云フコトハ――――斯ウ云フ風ニ必ズ利益ヲ受ケルモノデアルカラ何時モ利益ヲ受ケルコトハ出來ヌト云フコトハ甚ダ宜シクナイト思ヒマスカラ削除案ヲ提出致シマス
土方寧君
醫者、坊主抔ハ別トシテ保佐人ハ這入ツテモ宜ササウニ思ヒマスガ成程後見人トハ權力ノ度ガ違ヒマスカラ異ニシテ外ハ煩ハシイカラ拔テ置クト云フコトハ原案モ大キニ理窟ガアラウト思ヒマスガ又井上さん御說モ御尤モト思ヒマスガドウデセウカ之ハ井上さんニ伺ツテ宜シイカ起草委員ニ伺ツテ宜シイカ分リマセヌガ別ニ此條ガゴザイマセヌデモ若シ之ヲ省イテ置イタト見ル、所デ後見人ノ利益ニ爲ルヤウナ遺言ヲシタ或ハ保佐人ノ利益ニ爲ルヤウナ遺言ヲ準禁治產ガシタ或ハ坊さんノ場合デモ宜シイ信徒ガ坊さんノ言フコトヲ聞テ坊さんノ利益ニ爲ルヤウナ遺言ヲシタ――――遺言ヲシタケレドモドウモ自由ノ意思ノ判斷ガアツタモノト見ルコトガ出來ヌト云フヤウナ場合一種ノ強迫デス自由ノ意思ノ發動ガナカツタト云フヤウナ事跡ガアツタ場合本人ハ死ンダカラ取消シヤウハアリマセヌガ承繼人、相續人カラ證明ヲスレバ出來ルト思ヒマス遺言者ガ遺言ヲ爲ス當時ニ於テ受遣者ノ強迫ヲ受ケテシタノデアル利益ヲ受クベキ人ノ強迫ヲ受ケテシタノデアルカラ自由ノ意思表示デナイ自分ノ意思デシタ事デナイト云フコトハ意思表示ノ通則ニ依ツテ分ルコトデアリマスカラ事實問題デアリマスガ何レ其問題ノ起ルノハ本人ノ死ンダ後デアリマスカラ其本人ノ承繼人トカ云フヤウナ者ガ夫レヲ證明シテ取消スコトガ出來ルヤウニ爲ラウト思ヒマスガ夫レハドンナモノデゴザイマセウカ
梅謙次郎君
夫レハ井上さんノ御說ガ成立シタナラバサウ云フ事ヲ申サウト思ツテ居リマシタガ夫レハ決シテサウハ爲ラヌデアラウト思ヒマス井上さんハ勢力ヲ用ヰタナラバ當然取消サレルト云フヤウナコトヲ言ハレマシタガ何處ニサウ云フ規定ガアリマスカ尤モ井上さんガ特ニ設ケラレルナラバ兎モ角デアリマスガ強迫ト云フモノハ若シ之ヲ呉レナイト殺ストカお前ノ子供ヲ虐メルトカ云フヤウナコトヲ言ツタナラバ無論強迫デアリマスガ、サウデハナイお前ハドウセ死ヌノダカラ遺ツタ財產ヲ己レニ呉レテモ宜イデハナイカト云フヤウナコトヲ言ツタ所ガ夫レハ強迫ガアツタト云フ譯ニハ爲ラナイ夫レハサウ云フ事ニ爲リマセヌカラ夫レデ御削リニ爲ルナラバ後見人ガ幾ラ勸メテモ有效ト云フコトニ爲ルカラ夫レ丈ケハ御覺悟ナケレバ往カヌ
重岡薫五郎君
承諾ガアツタノハドウデスカ
梅謙次郎君
現ニ火事デ以テ三階ニ居ル其處ヲ飛ビ降リレバ死ヌル降リナクテモ矢張リ死ヌル梯子ヲ懸ケテ呉レレバお前ニ己レノ財產ヲ皆ヤルトカ云フヤウナコトヲ言ツテモ矢張リ有效ト思ヒマス夫レデ無論自由デアツタナカツタト云フ丈ケデハ法律行爲ノ有效、無效ハ極ラヌト思ヒマス
井上正一君
私ノ申シタノハ成程勢力ト申シタノハ勢力ト云フモノガ強迫ノ程度ニ至ツタコトヲ言フ積リデアツタノデアリマス夫レマデニ往カナケレバ唯ダ少々勸メタ位ナラバ強迫ノ程度ニ至ラヌト思ヒマス
土方寧君
成程梅君ノ御辯解ノ如ク意思表示ノ所ノ「強迫」ト云フコトガ嚴格ニ解スルヤウニ爲ツテ居ルト思ヒマス、サウスルト後見人ハ被後見人ノコトデアリマスカラ自分ノ思フヤウニ支配シテ居ル夫レハ矢張リ自分ノ思フ通リニ遺言ヲシタトシテモ矢張り後見人ノ意思デヤツタニ違ヒナイ後見人ノ勢力ガ補ツタノデアル其結果トシテ遺言ヲシタノハ矢張リ自分ノ意思ニハ違ヒナイガ強泊ヲ受ケタト云フコトニハ意思表示ノ通則ノ強迫ト云フ言葉ニ爲ルダラウト思ヒマス英吉利抔デハ「不當ノ強迫」抔ト云フヤウナ強迫ノもつと幅ノ廣イモノニ爲ツテ居リマスカラ自由ノ意思ノ取消抔ト云フヤウナコトハもつと廣イモノニ爲ツテ居ルヤウニ思ヒマス夫レデ坊さんトカ醫者トカ保佐人抔ガ出來テ來レバ後見人ニ似テハ居ルガ權利ハ餘程薄イケレドモサウ云フ風ナ者デアリマスカラ其中一番甚ダシイ後見人ニ對シテ特別ノ規定ヲ設ケテ夫レハ無效ト云フコトニシテ其外ノ場合ハ強迫ハ別デアリマスガ夫レニ至ラヌデモ一方ヲ支配スル勢力、實力ガアツテ夫レガ爲メニ自由意思ト云フケレドモ本統ノ自分ノ意思ト云フモノハサウデナカツタト云フコトデアツテモ矢張リ有效ダト云フヤウナコトニシテ二ツノ間ニ分界ヲはつきり立テルヨリハ寧ロ此條ヲ削ツテ置テ意思表示ノ通則ノ所デ強迫デ往カナケレバ強迫ヨリカモウ少シゆるいモノデ「不當ノ勢力」トカ云フヤウナコトデ後見人ハ皆這入ル他人モ這入ル遺言ヲ爲シタ人ト遺言ニ因ツテ利益ヲ受ケタ人ト其遺言ヲ作ツタトキニ不當ノ事ヲ言ヒ立ツタカラ自分ガ判斷スルコトガ出來ナカツタノデ斯ウ云フ專ヲシタト云フ事實證明ガ出來レバ夫レハ取消スコトガ出來ルト云フコトニシタ方ガ事柄ハ一般ノ場合ニハ適當デハナイカト思ヒマスガドウ云フモノデゴザイマセウカ
穗積陳重君
サウスルト此條ノ精神ヲ改メヤウト云フコトデゴザイマセウ
土方寧君
サウデス
穗積陳重君
今ノ「不當ノ勢力」トカ云フヤウナコトハこつちニ入レルコトハ往カヌカラ私ハ「不當ノ勢力」トカ云フヤウナコトハ遺言ハ死ンダ後トノ事デアリマスカラ或ハ狡猾ナ人ノ利益ニ爲ラヌヤウニ爭ヒニ爲ラヌヤウニ疑ヒノ起ラヌヤウニ致シタイト思ツテ居リマスガ英吉利抔ハ慥カ――――私ノ覺エ違ヒナラバ直ホシテ戴キタイガ或ル關係ニ立ツテ居ル者ガ定マツテ居ル其間ニシタモノガ先ヅ不當勢力ト云フコトノ推定ガアリマス、サウ云フ事ヲ此處ヘ附ケルト矢張リ爭ヒヲ遺コス本トニ爲リハシナイノデスカ夫レヨリハ私ハ寧ロ保佐人丈ケナラバサウ反對モシマセヌガ隨分面倒ノ起リ易イモノニ此處ヘ面倒ヲ起ス途ヲ開キハシナイカト思ヒマス理窟ハ宜シイガ
梅謙次郎君
サウ云フ事ニスルヨリモ寧ロ削ツテ仕舞ツタ方ガ宜シイ
尾崎三良君
私モ矢張りはつきり規定シテ置イタ方ガ宜シイト思ヒマス醫者ト坊さんハ入レテ置キタイ
梅謙次郎君
廣ク書テ置クト何ンデモ乎デモ這入ルカラ困ル日本人ガ皆耶蘇教信者ニ爲ルダラウト云フコトヲ豫想シテ法律ヲ拵ヘル譯ニハ往カヌ
都筑馨六君
舊教ノ者デモ何十萬ト云フ程居ル
穗積陳重君
若シ坊主ガ必要ナラバ入レルガ宜シイカモ知レヌ
尾崎三良君
「宗教者」トシテ置ケバ宜シイ
都筑馨六君
町村制ヤ何カノ方ニハ皆「諸宗ノ教師」トアリマス
梅謙次郎君
サウ爲ルト困ル普通ノ神主ヤ普通ノ坊さんガ這入ツテハ困ル當然無效デハ困ル
穗積陳重君
英吉利ノハ推測デゴザイマセウ
土方寧君
強迫ニ類シタ不當ノ勢力ヲ行フモノト見ル受遺者ガ誠實デアツテ反證ヲ擧ゲレバヽヽヽヽヽ
議長(箕作麟祥君)
保佐人ハドウデスカ先キカラ御論ガアリマスガ
穗積陳重君
一方ハ心神喪失者デアリマスカラ
梅謙次郎君
私ハ夫レハ餘リ望ミマセヌ後見人モ財產丈管理シテ居ルノナラバ要ラヌガサウデナイカラ是デモ無イヨリカ宜シイト思ツテ澁々贊成ヲシタノデアリマスガ併シ保佐人ノ方ハ唯ダ財產丈ケデ夫レモ財產ヲ管理シテ居ルノデハナイ或ル行爲ヲシヤウト思ヘバ同意ヲ得ナケレバナラヌト云フ丈ケノ者デアリマスカラ後見人トハ餘程違ウ後見人ノ方ハ親ニ代ツテ懲戒マデスル者デアリマスカラ是ガ勢力ヲ濫用シヤウト思ヘバ幾ラデモ出來ルト思フタノデアリマス夫レデスカラ是ヨリカ廣メラレルノナラバ寧ロ削除ノ方ガ宜シイト思ヒマス
議長(箕作麟祥君)
ドウデスカ色々御說ハアルケレドモ一ツモ纏ツテ居ルノハアリマセヌガナケレバ此儘ニシテ置キマスガ一寸此何ハドウデスカ「利益ト爲ルヘキ」ト云フノハ「遺贈」ハ無論サウデセウガ「遺贈」ノ外ニ何カアリマスカ
穗積陳重君
「遺贈」ハ一、二ノ例ニ倣ツテ態ザト「遺贈」ト書キマセナンダノデアリマス之ハ遺贈デナクテモ何カ相續人ヲ定メルトカサウ云フヤウナ風ノコトガアリ得ハ致シマスマイカ
梅謙次郎君
指定相續人モサウデス
議長(箕作麟祥君)
「遺贈」ヨリ廣イト云フノデスカ
穗積陳重君
サウデス夫レデ斯ウシテ置キマシタ「遺贈」ト限ツテアル國モアリマス
尾崎三良君
「兄弟」ヲ削ル說ガアレバ贊成ヲスル
土方寧君
井上さんハすつかり削ツテ仕舞ウト云フノデスカ
井上正一君
アツテモヽヽヽヽヽ
尾崎三良君
井上さんノ御說ハ餘程高尙ナヤウダケレドモ往カヌ夫レハお止シ爲サイ
議長(箕作麟祥君)
夫レデハ本條ニ付テハ段々御論ハアリマシタガ言ヒ放シデ固ツタ說モアリマセヌカラ原案ニ決シテ今晩ハ是デ散會致シマス