法典調査会 第184回 議事速記録
参考原資料
- 法典調査會 民法議事速記録 , 六拾壹巻 [国立国会図書館デジタルコレクション]
- 法典調査會議事速記録 第百八十四回 , 巌松堂書店編 [国立国会図書館デジタルコレクション]
第百八十四回法典調査會議事速記録
明治二十九年七月二十九日午後三時四十分開會
出席員
箕作麟祥君
土方寧君
田部芳君
高木豐三君
奧田義人君
井上正一君
富井政章君
梅謙次郎君
長谷川喬君
南部甕男君
横田國臣君
三浦安君
岡野敬次郎君
議長(箕作麟祥君)
ソレデハ會議ヲ開キマス修正案千十七條ヲ朗讀致シマス
(書記朗讀)
修正案
起草委員提出
第千十七條 限定承認者ハ限定承認ヲ爲シタル後五日内ニ一切ノ相續債權者及ヒ受遺者ニ對シ限定承認ヲ爲シタルコト及ヒ一定ノ期間内ニ其請求ノ申出ヲ爲スヘキ旨ヲ相續開始地ニ於テ公告スルコトヲ要ス但其期間ハ二ケ月ヲ下ルコトヲ得ス
第七十九條第二項及ヒ第三項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
富井政章君
前回ニ於テ原案ト磯部君ノ意見ヲ折衷シテ更ニ案ヲ立テテ來イト云フ御命令ガアリマシテ吾々再ビ相談ヲ致シマシタ磯部君ノ修正案ハ始メニ述ベラレタ所ト餘程違ツテ大分ニ穩カニナツテ居リマスニ依テ成ル可ク採レル丈ケ其意見ヲ採ツテ書カウト思ヒマシタケレドモ奈何セン矢張リ根本ノ考ヘガ違ツテ居ル磯部君ノ案ニ依レバ債權者ノ一人ガ辨濟ノ差止メヲスレバ民事訴訟法ノ規定ニ從テ強制執行ノ手續ニ依テ辨濟ヲスル極メテ鄭重ノ手續ヲシナケレバナラヌ實際ハ辨濟ノ差止メト云フモノヲ誰カ一人ヤルデアリマセウカラ餘程煩雑ナコトニナラウト思ヒマスサウシテ辨濟ノ差止メヲスル者ガナカツタトキニハ則チ敏捷ニ出テ來タ者ニ拂ツテ宜イト云フコトニナツテ其結果ガ極メテ不公平デアリマス其根本ノ點ガ磯部君ト吾々トノ考ヘト違ツテ居ツテ前回ニ於テモ此點ハ迚モ讓ルコトハ出來ヌト云フコトヲ申シテ置キマシタ旣ニ其點ニ於テ讓歩スルコトガ出來ヌ以上ハ原案ノヤウニスルヨリ致方ガナイ唯原案ノ千十七條ニ於テハ何處デ公告ヲスルト云フコトハ書イテアリマセナンダ實際ハ相續開始地ト云フコトニナルデアリマセウケレドモ其點ハ磯部君ノ案デハ明瞭ニ書イテアリマシタカラソレヲ採ツタ位デアリマス跡ハ各條ニ於テ說明ヲ致シマスルガ矢張リ原案ノ通リデナイト始末ガ付クマイト考ヘマシタ殊ニ磯部君ノ案ニ於テハ期間内ニ於テ或債權者ニ辨濟ヲシタトキハ他ノ債權者ニ對抗スルコトヲ得ズ、受遺者ニ先ヅ爲シタ辨濟ハ債權者ニ對抗スルコトヲ得ズトカ云フヤウナ規定ハアリマスケレドモ是ハ皆磯部君自ラ後ニ置カレタ求償權ノ規定ト重複ニナルソレ故ニ是ハドウシテモ一ツハ削除セネバナラヌ而シテどちらヲ削除スベキカト云フト對抗スルコトヲ得ズト云フノハ性質ニ於イテドウデアラウカ、辨濟トシテハ無效デナイ寧ロシナケレバナラヌモノデアル併シソレハ特別ノ理由デ無闇ニヤツテハ不公平ナ結果ヲ生ズルカラ其制裁ガアルト云フ方ニシタ方ガ穩カデアラウト思フ「對抗スルコトヲ得ス」ト云フ書キ方ハ削リマシタソレカラ千二十一條モ或ハ採用シテハドウカト云フ考ヘモ起シマシタケレドモ如何ニモ事柄ト縁ノ遠イ制裁デアリマシテ受遺者ニ債權者ガナイノニ有ルヤウニ見セ掛ケタト云フコトデアル相續財產ヲ私取シタルモノト看做ス卽チ單純承認者ニナルト云フコトデアリマスガ是ハ唯債權ノ無イノニ有ルヤウニ見セ掛ケタト云フ丈ケデ相續ノ仕方ガ丸デ變ハルト云フコトハ少シ酷ナヤウデモアルシ如何ニモ木ニ竹ヲ接イダヤウナ制裁デアル是ハ何處迄モ受遺者ノ方カラ債權ハナイト云フコトヲ證明シテソレデモ利ガナケレバ訴ヘルト云フコトデ少シモ差支ナイト思フソレデ採用ハ出來ナイ詰リ磯部君ノ案ノ中ヨリ採用シタ部分ハ旣ニ高木君又横田君邊リカラ出タ說デ吾々モ至極尤モデアルト思フ點デアリマスソレハ則チ限定承認者先買權ヲ與ヘル祖先傳來ノ財產ヲ是非トモ賣ラナケレバナラヌト云フコトニスルノハ宜クナイ其場合ニハ評價ヲシテサウシテ自分ガ先キニ其財產ヲ買取ツテ別ニ相續債權者ニハ拂ウト云フコトニナツタラ宜カラウ此事ハ磯部君ノ案ニモアリマシタカラ此修正案ノ第千二十二條ニ於テ之ヲ採リマシタサウシテ其次ノ條ニ於テ原案ニ於テハ一人ト競賣ニ參加スルコトヲ許シテアリマスケレドモ只今申シマシタ規定ガ出來マシタニ依テ評價ノ爲メノ關係人ヲ參加セシムルコトガ出來ルヤウニシタ之モ磯部君ノ案ヨリ採ツタソレカラ千二十四條ノ規定デアリマス之レモ求償權ノ規定デアリマス原案ニ於テハ明瞭ヲ主トシテ漏レナイヤウニ書イタケレドモ少シ文章ガ苦說クナツテ居リマス磯部君ノ案ノヤウニ書イテハ困ルト思ヒマスケレドモ大體簡ニスルト云フ趣意ヲ採用シマシテ今日提出シタ千二十四條ノヤウニ改メマシタ序ニ此第二項モ少シ改メマシタ六ケ月ト云フノヲ矢張リ通常ノ不法行爲ノ原則ニ從テ三年ト云フコトニシタ是ハ情ヲ知ツテ辨濟ヲ受ケタ者ニ對スル制裁デアリマスルニ依テ此位嚴シクテモ宜カラウト云フ考ヘデ採ツタ跡ハ小サナ修正デアリマス各條ニ於テ說明ヲ致シマス
議長(箕作麟祥君)
詰リ主義ハ舊トノト變ハラヌノデスネ
梅謙次郎君
サウデス、主義ハ始メカラ讓ルコトハ出來兼ネマスト申シテ置イタノデアリマス
議長(箕作麟祥君)
如何デスカ一向議論モ何モ出マセヌガ――ソレデハ御論ガナケレバ修正案ノ通リニ決シテ次條ニ往キマス
(書記朗讀)
第千十八條 限定承認者ハ前條第一項ノ期間滿了前ニハ相續債權者及ヒ受遺者ニ辨濟ヲ爲スコトヲ得ス
富井政章君
是ハ始メハ「拒ムコトヲ得」ト書イテアリマシタノヲ今度ハ「爲スコトヲ得ス」ト書キマシタ是ハ詰リ同ジコトデアリマスガ後ノ求償權ノ規定ガ書キ宜クナイ「千十八條ノ規定ニ反シテ」ト云フヤウナコトニ書イタ卽チ磯部君カラ度々出タノデ元ノ千二十二條ハ長タラシイ苦說イ書キ方デアルカラ直シタイト云フ趣意ヲ採ツテ求償權ノ規定ハ出來ル丈ケ簡ニシタサウスルト千十八條ヲ引用シテ來ナケレバナラヌソレニハ「拒ムコトヲ得」ト云フコトデハ拒マヌトキニハ其規定ニ反シタト云フコトハ言ヘヌノデアリマスソレデ「得ス」ト云フコトニ形丈ケ禁止的ニ書イタノデアリマス
議長(箕作麟祥君)
別ニ御異論ガナケレバ修正案ニ決シテ次條ニ往キマス
(書記朗讀)
第千十九條 第千十七條第一項ノ期間ノ滿了シタルトキハ限定承認者ハ相牽財產ヲ以テ其期間内ニ申出テタル債權者其他知レタル債權者ニ各其債權額ノ割合ニ應シテ辨濟ヲ爲スコトヲ要ス但優先權ヲ有スル債權者ノ權利ヲ害スルコトヲ得ス
富井政章君
先ヅ一寸文字ヲ御直シヲ願ヒマス此「期間ノ滿了シタルトキハ」ト云フノヲ「期間滿了ノ後ハ」トスル方ガ前ト合シヤウニ思ヒマスカラドウカサウ御改メヲ願ヒマス此條ニ於テ原案ヲ修正致シマシタ點ハ第二項ト第三項ヲ削リマシタ第二項ハ是ハ餘程債權者ニ拂ウト云フコトト牽聯シタコトデハアリマスルケレドモ先買權ノコト抔モアリマスカラ別ニ書イタ方ガ宜カラウト云フ理由デ是ハ削リマシタサウシテ第三項ハ是ハ慥カ高木君デアリマシタカ攻撃ガアリマシタ通リ如何ニモ斯ウ云フ文字ガ現ハレテ居ルト何ントナク感ジガ惡ルイ是ハ規定ガナクトモ前ニ議決ニナツタ千十五條ガアレバ自ラ斯ウナラウト思フ又限定承認ノ性質カラ來ル當然ノ結果トシテ是ハモウ何處ノ國ノ法律ニモ認メテアルコトデアツテ實際ハ斯ウナケレバナラヌト思ヒマスケレドモ之ヲ書キ現ハスノハ何ントナク感ジニ觸レル所ガアリマスカラ是ハ削ツタ方ガ宜カラウト思フテ三項モナクシタ他ノ部分ハ元トノ通リデアリマス
高木豐三君
此競賣ト云フモノニハ後トノ方ヲ見ルト矢張リ裁判所ガ這入ルコトニナツテ居ルノデスナ
梅謙次郎君
是ハ矢張リ競賣法ガ出來ル積リデアリマス
高木豐三君
成程今デハ執達吏規則ノ方ニ任意競賣ガ出來テ居ルあれハ裁判所ガ關係セズニヤル私ハあれデモ宜カラウト思フノデス
富井政章君
どつちカ施行條例デ極メテ置カネバナラヌデスナ
議長(箕作麟祥君)
ソレデハ千十九條ハ二項ト三項ガ削除ニナツタ丈ケデアリマスガ別ニ御異議ガナケレバ修正案ニ決シテ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第千二十條 限定承認者ハ辨濟期ノ未タ至ラサル債權ト雖モ前條ノ規定ニ依リテ之ヲ辨濟スルコトヲ要ス
條件附債權其他不確定ナル債權ハ裁判所ニ於テ選任シタル鑑定人ノ評價ニ從ヒ之ヲ辨濟スルコトヲ要ス
富井政章君
此條ニ於テモドウカシテ磯部君ノ意見ヲ採レマイカトマデ考ヘテ見タンデアリマスケレドモ矢張リ根本ノ考ヘガ違ウノデアリマスカラドウシテモ採ルコトガ出來ナイ磯部君ノ案ハ主トシテ斯ウ云フ考ヘカラ出テ居ル、急イデ居ラヌ強イテ欲シクナイト思フテ居ル債權者ハ打捨ツテ置テ宜イソレニ迄公平ニ公平ニト言ツテカラニ期限モ來テ居ラヌ條件モドウナルカ分ラヌノニ配當スルコトハ要ラヌト云フ趣意デアルケレドモ本案ニ於テハソレハ權利ノ抛棄ハ何時デモ出來ルソレヲシナイ以上ハ矢張リ當リ前ニ拂ウノガ至當デアル知レテ居ル債權者、知レテ居ラヌ者ハソレハ其者ノ不幸デ手ヲ盡シテ居ツテ知ルニ至ラナカツタノデアルカラ保護スルニ及バヌコトデアル、知レテ居ルカ或ハ申出デタル債權者デアレバソレハ矢張リ當リ前ニ拂ハナケレバイカヌト云フ趣意デ原案ヲ有シタノデアリマス併シ餘リドウモ片ツ端カラ原案ヲ存シテ置クノモ苦シウアリマスカラ是ハ少シ違ツタコトニシテ見ヤウカト思ツタソレハ供託スルトデモシテハドウデアルカ、當リ前ヲ言ヘバソレガ正シイト思フ殊ニ條件附債權ニ付テハ、卽チ供託シテ置テ限定承認者ガ恣ニ使ウコトノ出來タヤウニシテ置クサウシテ條件ガ成就シタトキニハヤル、破レタトキニハ元トノ債權者ニモ外ノ債權者ニモ幾ラカ新規ニ持テ往ツテヤルソレガ理窟ガ一番正シイノデス併ナガラドウモ五年モ十年モニ十年モ經タナケレバ籍ガ確定シナイ條件ノ附テ居ル場合ニハ何時マデモ相續ノ始末ト云フモノガ付カナイコトニナル詰リ各債權者ノ受クベキ分ガ久敷シク經ツテカラ變ハルコトニナルト云フコトハ如何ニモ不極マリデアルカラ矢張リ此處デきつぱり始末ヲ付ケテ仕舞ツタ方ガ宜カラウト思ツテ供託ト云フコトモ終ニ採ラズニ原案ノ通リニシタ唯序ニ少シ改メマシタソレハ條件附債權ト云フ辭デハ少シ狹イカト思フ是ハ獨逸民法草案ニモ例ノアル通リどるあづーてート言ヒマスガ佛蘭西語デス、確定ナル債權ト云フモノヲ加ヘテ置イタ方ガ宜カラウ例ヘバ終身年金ノヤウナモノ、是ハ期限附ノ債權トモ言ヘヌ寧ロ條件附債權デアリマセウ併ナガラ學說デハ條件ト云フモノヲ少シ見テソレハマア別ノ疑ハシキ權利ト云フ中ニ入レテ居ルダラウト思フソレデ斯ウ廣ク書イタ方ガ大丈夫デアルト思フテ「其他不確定ナル債權」ト致シタ跡ハ「選定」ヲ「選任」トシタヤウナコトハ前ノ文例ニ合ハセタ丈ケノコトデアリマス
議長(箕作麟祥君)
不確定ナル債權ト云フコトハ民法ノ中ニアリマスカ
梅謙次郎君
ソレハナカツタデセウガ登記法ニハアリマス
議長(箕作麟祥君)
終身年金權ノ如キハ債權ガ不確定ナンデスカ
梅謙次郎君
ソレハ極端ヲ言フト今日債權ガ生ジテ明日死ヌルカ今日死ンデ仕舞ヘバ拂フテ宜イト云フコトニナル
議長(箕作麟祥君)
債權ハアルノデセウ、債權其者ガアルカナイカ分ラヌト云フノデハナイノデセウ
高木豐三君
債權ノ範圍ガ不確定ナンデセウナ
議長(箕作麟祥君)
サウデセウ、債權者ハアルニ違ヒナイ
富井政章君
寧ロ符牒ノヤウニ「不確定債權」ト言フタ方ガ宜イカモ知レヌ
高木豐三君
一寸質問致シマス今御說明ノ中ニ富井君ハ供託ニシタラドウカト云フヤウナ考ヘモアツタト云フコトデアリマスガ是ハ一體條件附ノ債權ト云フモノニナリマスルト今度ノ民法ニ依レバ條件ノ成就シタ時ニ始メテ效ヲ生ズルト云フコトニナツテ居ルあの原則ハ何處迄モ同ジデアラウト考ヘルソレデ條件ガ例ヘバ一年ノ後ニ來ベキモノデアルナラバ其時デナケレバ債權ガ效ヲ生ズルカ生ゼヌカ分ラナイ、マダ半年經ツテ居ラナイ其時ニ評價サセテ辨濟ヲスルト云フコトニナルト私共ノ解釋デハ一年ノ末條件ガ成就スレバ千圓ノ債權ガ生ズル、ケレドモソレハ未確定ノモノデアルカラ例ヘバ百圓トカ二百圓トカ評價シテ仕舞ツテソレ丈ケヲ拂ツテ打切ツテ仕舞ウト云フ趣意デアラウト思ヒマスガサウデハナイノデアリマスカ
富井政章君
サウデス
高木豐三君
ソレナラバ今ノ債權ヲ供託スル抔ト云フヤウナコトハ出來ヌ
富井政章君
供託スルノナラバ全部供託シテ置クノデスナ
梅謙次郎君
一年二年ノモノナラバ宜イデスガ五年十年ト永クナルト困ル
議長(箕作麟祥君)
此鑑定ハ困ルデセウネ
梅謙次郎君
民事訴訟法ニアル
富井政章君
併シ破產ノ場合抔ハコンナコトニデモセヌト仕方ナイデセウ
田部芳君
是ハ「ナル」ガナイ方ガ宜イカモ知レヌ
高木豐三君
此「不確定ナル債權」ト云フコトハ削ツテ置テハドウデスカ
土方寧君
私ハ之ヲ削ツテ置クコトニ贊成シマス
富井政章君
ソレデハ「其他不確定ナル債權」ヲ消シマスカ
土方寧君
是ハ削ツテ下サイ
梅謙次郎君
併シ異議ハアルデセウ
田部芳君
私ハ皆削ルト云フコトハ宜クナイト思フ
議長(箕作麟祥君)
異議ガアレバ決ヲ採リマセウ「其他不確定ナル債權」ト云フノヲ削ルト云フ說ニ贊成ノ方ハ起立ヲ請ヒマス
起立者多數
議長(箕作麟祥君)
多數デスソレデハ千二十條外ニ御發議ガナケレバ其他ハ原案ニ決シテ次條ニ往キマス
(書記朗讀)
第千二十一條 限定承認者ハ前二條ノ規定ニ依リテ各債權者ニ辨濟ヲ爲シタル後ニ非サレハ受遺者ハ辨濟ヲ爲スコトヲ得ス
富井政章君
是ハモウ元トノ通リデアリマスカラ別ニ說明ヲ要セヌコトト考ヘマス
議長(箕作麟祥君)
ソレデハ千二十一條御異議ガナケレバ修正案卽チ原案ニ決シテ次條ニ往キマス
(書記朗讀)
第千二十二條 前三條ノ規定ニ從ヒ辨濟ヲ爲スニ付キ相續財產ノ賣却ヲ必要トスルトキハ限定承認者ハ之ヲ競賣ニ付スルコトヲ要ス但裁判所ニ於テ選任シタル鑑定人ノ評價ニ從ヒ相續財產ノ全部又ハ一部ノ價額ヲ辨濟シテ其競賣ヲ止ムルコトヲ得
富井政章君
是ハ磯部君其他二三ノ諸君ノ御說ヲ採ツタノデアリマス併シ文章ハ磯部案ノ通リニスルコトハ出來ナンダ(裁判所ノ許可ヲ得テ之ヲ競賣ニ付スルコトヲ要ス)競賣法ガマアドウナリマスカ殊ニ依レバ裁判所ノ干渉ヲ要セナイト云フコトニナルカモ知レマセヌケレドモ是ハ兎ニ角此處ニ極メテ置クト云フ必要ハナイソレカラ裁判所ノ許可ヲ經ンナラヌト云フコトハドウモ奇妙デアルト思フ裁判所ガ其許可ヲ與ヘヌコトハアリマスマイケレドモ若シ拒ンダナラバドウナルカ債權者ニ拂ヘナイト云フコトニナル是ハ競賣ノ取締ト云フモノハ別ニ極メナケレバナラヌト思ヒマスケレドモ尙ホ裁判所ノ許可ヲ經ナケレバナラヌト云フコトハ理由ノナイコトト思ヒマシタカラ止メマシタサウシテ先買權ノ方ノ規定ハナクテハナラヌト思ヒマス租先傳來ノ貴重ナル財產ハ家ニ殘サレルヤウニシテ置カナケレバナラヌ唯磯部案ニハ先買トアリマシタケレドモ此先買ト云フ辭ハ或ハ穩カデナイト思フノデス、ト云フモノハ此財產ハ假令分離ノ有樣ニナツテ居ツテモ矢張リ相續人ノ財產ト看ル方ガ正シイカト思フ尤モ此點ニ付テハ少シ調ベテ見マシタガ學說モ立法例モ岐レテ居ル相續人ハぼるちけるノ義務ヲ負フテ居ルノデハナイ原語デ何ント申シマスカ先ヅ財產附ノ義務ヲ負フテ居ルニ過ギナイト云フ說モアル是ハ學說モ立法例モ分レテハ居リマスケレドモ先買ト言フテハ自分ハ所有主デナイト云フヤウナコトヲ法律デ極メルヤウナ嫌ガアルサウシテ少ナクトモ今度ノ法典ノ解釋トシテハ相續人ノ財產デアル、債權者ノ財產デアルト云フコトモ言ヘズ死ンダ者ガ持テ居ルト云フコトモ言ヘズ無主物ト云フコトモ言ヘズドウシテモ相續人ノ財產デアルト思フ自分ガ自分ノ物ヲ買ウト云フノハ可笑シイソレデ先買ト言ハズニ唯斯ウ云フ風ニ書イタ丈ケノ話デアリマス
高木豐三君
是ハ疑ヒハアリマスマイガドウデセウ此文章デアルト何ンダカひよつトスルト債權者ノ一人モ競賣ヲサセズニ私ガ引受ケルト云フコトガ出來ルヤウニ見エル氣遣ヒハアリマスマイカ
富井政章君
「限定承認者ハ」ト云フ主格ガ何處迄モ押ヘテ居ル積リデアリマス
高木豐三君
サウデセウガ少シ遠クナルカラ但書ガヽヽヽヽヽヽヽ
富井政章君
置カウト思フタノデアリマスケレドモ餘リ苦說クナルカラ
議長(箕作麟祥君)
別ニ御異議ガナイヤウデスカラ原案ニ決シテ次條ニ移リマス
(書記朗讀)
第千二十三條 相續債權者及ヒ受遺者ハ自己ノ費用ヲ以テ相續財產ノ競賣又ハ鑑定ニ參加スルコトヲ得此場合ニ於テハ第二百六十條第二項ノ規定ヲ準用ス
富井政章君
此條ハ元トノ千二十四條ノ通リデアリマス唯前二條ガ這入リマシタ結果トシテ「又ハ鑑定」ト云フ四字ヲ加ヘタノデアリマス是ハ磯部案ニモアツタ磯部案ノ第千二十五條、併ナガラ磯部案ノ第千二十五條ノ第一項ハ採用ヲシナカツタ是ハ誠ニ好イ規定トハ思ヒマシタ卽チ相續債權者及ビ受遺者ガ競賣トカ先買トカ云フヤウナコトガアルト云フコトヲ知ラナイカモ知レヌソレ故ニ相續人ガ先買權ヲ行ハントスルトキハ關係債權者及ビ受遺者ニ告知スルコトヲ要スト云フ規定デ誠ニ親切ノ規定デアルト思フタ併ナガラ其目的ヲ達シヤウト思ヘバ矢張リ復タ始メニアツタヤウナ手續ヲセネバ充分ニ其目的ヲ達セナイデス卽チ公告ヲスル其他知レタル債權者ニハ特別通知ヲ爲スルルト云フコトニセネバ矢張リ其趣意ヲ貫カナイノデス、ソレハ實ニ手數極マツタコトデアルはんぱナモノデアレバ寧ロ極メナイ方ガ宜イソレデ全ク債權者及ビ受遺者ハ知ル途ガナイト云フコトデアレバ不都合デアリマスケレドモ始メノ公告ニ依テ知リ得ベキコトデアリマスソレデ態々告知スルニハ及バヌト云フ方ノ趣意ニ書イタノデアリマス
議長(箕作麟祥君)
ソレデハ本條モ御異議ガナケレバ修正案ニ決シテ次條ニ往キマス
(書記朗讀)
第千二十四條 限定承認者ノ第千十七條ニ定メタル公告若クハ催告ヲ爲スコトヲ怠リ又ハ第千十八條乃至第千二十一條ノ規定ニ反シテ辨濟ヲ爲シタルトキハ之ニ因リテ生シタル損害ヲ賠償スル責ニ任ス
前項ノ規定ハ情ヲ知リテ不當ニ辨濟ヲ受ケタル債權者又ハ受遺者ニ獨スル他ノ債權者又ハ受遺者ノ求償權ヲ妨ケス
第七百二十四條ノ規定ハ前二項ノ場合ニ之ヲ適用ス
富井政章君
此條ハ磯部君ノ注文ニ依テ簡ニシタノデアリマス卽チ元トノ第千二十二條第一項ニ於テハ四ツ程ノ場合ヲ委シク書キ竝ベテ惑イヲ生ズルコトヲ防グ考ヘデアリマシタガ如何ニモ苦說イト云フコトデアリマシタ成程少シ長キニ失シテ居ルヤウデアリマス斯ク迄ニ冗長ニ書カズトモ唯「第千十八條乃至第千二十一條ノ規定ニ反シテ辨濟ヲ爲シタルトキ」上言ヘバ其條サヘ見レバ之レ丈ケノ場合ニ歸スルト云フコトハ一目瞭然デアルト思ヒマシテ第一項ノ書キ方ヲ改メマシタソレカラ第二項デアリマスルガ是ハ少シ實質ヲ替ヘマシタ卽チ磯部案ノ通リニ致シマシタ原案ニ於テハ求償權ハ損害ヲ受ケタルコトヲ知リタル時ヨリ六ケ月ト限ツテアリマスサウシテ相續人ニ對シテハ通常ノ不法行爲ノ規定ガ當嵌マリマスルニ依テ三年ト云フコトニナツテ居ル其違ヒバ充分ニ強イ理由ハナカラウト思フ殊ニ此場合ニ限ツテ原案ニ於テハ時效ニシテナカツタ卽チ豫定期間ニシテアル之レモ磯部案ニ從テ―磯部案ハ何ントモ書イテアリマセヌケレドモ何ントモ書イテナケレバ不法行爲ノ規定ガ當嵌マル七百二十四條ノ規定ガ嵌マリマスカラ時效ニナラウト思フ時效ニナレバ豫定期間ヨリモ長引クコトガ多イソレ故ニ債權者及ビ受遺者ノ權利ト云フモノハ充分ニ保護セラレテ居ルト思フノデアリマス假令故意ニ債權者及ビ受遺者ニ害ヲ加ヘル積リデ辨濟ヲ受ケタノデナクテモ自分ノ仲間ニ被害者ガ出來ルト云フコトヲ知ツテ居ツテ受ケタノデアリマスカラ三年位ハ責任ガアルト云フコトニシテモ差支ナカラウト思フサウシテ通常ノ時效ノ方ガ少シ面倒デモ公平ハ公平デアルト云フ考ヘデ是ハ矢張リ磯部案ノ通リニ致シマシタ第七百二十四條ノ規定ハ此場合ニ理論上ハ適用セラルベキモノデアルト思ヒマスケレドモ少シ疑ヒガ生ジヤウカト思ヒマシタカラ序ニ此三項ヲ置クコトニ致シマシタ
議長(箕作麟祥君)
此「情ヲ知リテ」抔ト云フコトハ誠ニ能ク分リマス斯ンナ字ハ民法ニアリマスカ
富井政章君
「情ヲ知リテ」ト云フコトモ「事情ヲ知リテ」ト云フコトモナカツタノデス唯「事實ヲ知リテ」トアル、ケレドモ此處ハ「事實ヲ知リテ」ト云フ辭デハ少シ面白クナイ又惡意デモ面白クナイソレデ「情ヲ知リテ」トシタノデアリマス序ニ申シマスルガ第三項ニ「場合ニ之ヲ適用ス」トアリマスガ從來ノ文例ニ依ルト「場合ニモ亦之ヲ適用ス」ト云フコトニナリマス
議長(箕作麟祥君)
別ニ修正說モ出マセンケレバ修正案ニ決シテ次條ニ往キマス
(書記朗讀)
第千二十五條 第千十七條第一項ノ期間内ニ申出テサリシ債權者及ヒ受遺者ハ殘餘財產ニ付テノミ其權利ヲ行フコトヲ得但相續財產ニ付キ特別擔保ヲ有スル者ハ此限リニ在ラス
富井政章君
先刻カラ原案ヲ違ヘタ丈ケシカ說明ヲシナカツタデアリマスガ是ハ一體原案ノ說明ガナカツタノヲ忘レタノデアリマス一番仕舞ヒノ條ニ至ツテ則チ此條ヲ說明致シマス是ハ大抵何處ノ國ノ法律ニモアル成ルベク一切ノ債權者及ビ受遺者ニ辨濟ヲシテ公平ナコトニシヤウト云フ趣意デ此案ガ出來テ居ル假令千十七條第一項ノ期間内ニ申出ナカツタ債權者及ビ受遺者ガアツタトテ殘餘財產ガアレバソレデ辨濟ヲ受ケルコトガ出來ルト云フコトニシタ是レハ則チ相續財產デアル殘餘財產デアルト云フコトハ其者カラ證明シナケレバナラヌト云フコトハ疑ヒハナイト思ヒマスカラシテ相續人ガ甚ダシイ迷惑ヲ蒙ムルコトハナカラウト思ヒマス原案ト違ヒマシタ點ハ元トハ優先權ト書イタノヲ今度ハ特別擔保ト改メマシタ是ハ優先權ト謂フテモ宜イケレドモ少シ廻リ遠イ言ヒ方デアル詰リ先取特權、抵當權、質權ソンナモノデアラウト思フソレデ詰リ物上擔保ト言ヒマスガ擔保トシテ物權ヲ持テ居ル場合、其場合ニハ物權ノ效力トシテ縱令期間内ニ申出ズトモ現ニ財產ヲ占有シテ居ルモノニ對シテ其權利ヲ行フコトガ出來ネバナラヌソレカラ優先權ガアルノデアリマスケレドモ此處ハ一旦辨濟ハ濟ンダ後デアリマスカラソンナ廻リ遠イ言ヒ方ヲセズトモ直グニ特別擔保ト言フタ方ガ宜イト思フ但書ハナクトモ斯ウナラウトハ思ヒマスケレドモ併シ廣ク期間内ニ申出タ債權者ハ是レ丈ケノ權利シカ持タヌト謂フテアレバ縱令特別擔保ヲ持テ居ツテモソレ丈ケノ懈怠ガアル者ハ法律ガ特別規定ヲ以テ物權ノ效力ヲ殺グト云フコトニ解釋ガ出來ルソレデアリマスカラ矢張リ是ハアツタ方ガ宜カラウト思ヒマシテ少シ此全體ノ仕組ミハ違ヒマスケレドモ澳太利民法ニモアリマシタシ獨逸民法草案ニモアリマシタ白耳義民法草案ニモアリマシタカラ但書ヲ付ケルコトニ致シマシタ
高木豐三君
一寸質問ヲ致シマス本案デハ千二十二條ニ於テ限定承認者ガ評價ノ代價ヲ出シテ財產ノ全部ヲ引受クルコトガ出來ルヤウニナツテ居ル若シ此場合ニ例ヘバ千圓デ引受ケタ、所ガ翌日ニ至ツテ其財產ノ代價ガ千五百圓ニ騰貴シタ地面ナラバ地面ト云フモノガ、サウ云フ場合ニハ殘餘ト云フ中ニ這入ラナイ斯ウ云フコトニナルノデセウカ
富井政章君
サウデス
高木豐三君
多分サウデアラウト考ヘル、モウ一ツ序ニ文章ノコトデアリマスルガ「特別」ト云フコトハ今御說明ガアリマシタガ是ハ民法ニモサウ云フ類ヲ集メテ特別ト總稱シタ例ガアリマシタカ
梅謙次郎君
先取特權ノ所ニアリマス
高木豐三君
ソレナラバ宜イデスガ唯但書ノ所ニ「相續財產ニ付キ特權擔保ヲ有スル者ハ此限ニ在ラス」トアリマスルト殘餘財產ニ付テノミ其權利ヲ行フコトヲ得ルト云フト其例外デアルノデスナ
富井政章君
「ノミ」ガ大切デアル
高木豐三君
サウ云フ工合ニ分析スレバ若シ之ヲ競賣ニ付スルト特權ガアツテ登記シテナイ場合ハ少ナイデセウガ先取特權ニナルトひよつとスルト登記シテナイモノガ想像スレバナイトハ言ヘナイヽヽヽヽヽヽヽヽ
梅謙次郎君
動產ニハアル
高木豐三君
サウ云フコトガアルトシマスルト金ニナツテ仕舞ツテ居ルサウ云フ時ニモ矢張リ之レデ宜イコトニナリマセウカ若シサウ云フモノガ這入ルト云フコトニナルト特別擔保ト云フモノハ物上擔保デアルカラ物ノ殘ツタ場合ニノミト云フコトニ解セラレハシナイカ
梅謙次郎君
ソレハ先取特權ノ方ノ規定デ往ク物ガ金ニ代ハルトト云フ明文ガアル
富井政章君
此文章ヲ改メタ方ガ宜イデセウ「殘餘財產ニ付テハ非サレハ其權利ヲ行フコトヲ得ス」ト云フコトニ書イタ方ガ寧ロ宜イデセウ「殘餘財產ノ限度ニ非サレハ」ト云フヤウナ言ヒ方ニスレバ今ノ疑ヒバ解ケルデセウ
高木豐三君
意味ハ解シ損フコトハアリマセヌ
富井政章君
財產ヲ幾ラカ分配シタ、本條ニ謂フ債權者ガ現ハレテ來タ時ニ財產ノ代價ガ高クナツテ居ルカラ出セト云フコトハ言ヘナイ積リデアリマス併シ財產ハ自分ノ物ニ極マツタケレドモ自分ガ買ツタ代價ヨリ上ツテ居ル形チヲ替ヘテ財產ガ殘ツテ居ルト云フヤウナ場合ニハ矢張リソレハ財產ニハ違ヒナイト思フノデス
議長(箕作麟祥君)
間違ヒハアリマスマイ
高木豐三君
間違ヒハアリマスマイト思ヒマスガ唯文章ガ少シヽヽヽヽヽヽ尙ホ是ハ外ノコトデアリマスガ此間「私取」ト云フ字ガ穩カデナイト云フ說ガアリマシタガ普通使ウ「押領」抔ト云フ字ハドウデセウカ
梅謙次郎君
ソレハ法文ニハドウモ些ツトヽヽヽヽヽヽヽ
高木豐三君
ドウモ私モ此「私取」ト云フ字ハ穩カデナイヤウニ思ヒマスカラ整理迄ニ御考ヘヲ願ヒマス
井上正一君
此第千二十五條ノ但書デアリマスガ之ト第千十九條ノ但書ト重複ニナリハシナイカト思ヒマスガサウデハアリマセヌカ、千十九條ノ「其他知レタル債權者」ト云フ中ニハ受遺者ハ籠ツテ居リマセウナ
富井政章君
籠ツテ居ラナイ
井上正一君
サウスルトドウ云フコトニナリマセウカ
富井政章君
千二十一條ガアルカラ籠ツテ居ラナイノデス
井上正一君
ケレドモ債權者ヘ拂ツテ仕舞ツテソレカラマダ財產ガ殘ツテ居レバ受遺者ニモ辨濟ヲスルコトガ出來ルガ受遺者ガ多人數居ツテ皆ヲ滿足サセルコトノ出來ヌトキニハ則チ千十九條ニ依テ割合ニ應ジテ辨濟スルノデセウ
富井政章君
言ハナクテハイケマスマイカナ
井上正一君
ト云フモノハ「第千十七條第一項ノ期間内ニ申出テサリシ債權者及ヒ受遺者」トアツテ千十七條ニハヽヽヽヽヽヽ
富井政章君
御尤モデアリマス
井上正一君
サウスルトドウデセウカ今ノ但書ハヽヽヽヽヽヽヽ
富井政章君
あれハ重複シナイ積リデアリマス
井上正一君
ケレドモ「權利ヲ害スルコトヲ得ス」トアツテ此場合デサヘモ權利ヲ害スルコトヲ得ナイノデアリマスカラヽヽヽヽヽ
富井政章君
財產ヲ賣ツテ代價ヲ配當スルニ當ツテ其財產ノ上ニ特別擔保ヲ持テ居ツタ者ニハ先キニ拂ハナケレバナラヌ乃チ代價ヲドウ云フ順序デ拂ウト云フ純然タル優先權ノ問題デアル此處ハ代價配當ノ場合デナイ自分ガ期間内ニ申出デナンダ併シ物權ヲ持テ居ル其場合ニドウナルカト言ヘバ則チ財產ヲ占有シテ居ル者ニ對シテ物權ヲ行ウコトガ出來ル、行ツテ旣ニ拂ツタモノヲ配當仕直スト云フヤウナコトニナルカモ知レヌガ兎ニ角優先權爭ヒノ場合デナイ、代價配當ノ場合デナイ第一ニ起ルノハ取戻ニナル
井上正一君
同ジ精神デスネ
梅謙次郎君
同ジ精神デスケレドモ其場合ニハ嵌マラヌ
富井政章君
跡ノ場合ハ物權ノ效力ヲ殺グ特別規定デナイト云フコトヲ見テ居ル、ケレドモ先キノ御意見ハ成程アツタ方ガ宜イト思フノデスナ
梅謙次郎君
千十九條ハ一旦決シタ條デアルカラ議長ノ許可ヲ受ケテヽヽヽヽヽヽ
富井政章君
ソレデハ特別ニ許可ヲ得マシテ「前項ノ規定ニ依リテ辨濟ヲ爲ス場合ニ於テハ」ヽヽヽヽヽヽ
梅謙次郎君
サウ書クカ或ハ「第千十九條ノ規定ハ受遺者ニ辨濟ヲ爲ス場合ニ之ヲ準用ス」ト書クカ、ドウモ今旨ク往キマセヌカラ是ハ整理迄御預カリヲ願ヒマセウ
議長(箕作麟祥君)
ソレデ宜イデセウ「前項ノ規定ニ依リテ」ト云フコトデハ分ラヌデスヨーソレデハ整理迄ニ御考ヘヲ願ウト云フコトニシテ千二十五條ハ之デ決シテ置クコトニシマス、一寸諸君ニ申シマスガマダ時刻ガ大變ニ早イノデ起草委員カラ斯ウ云フ請求ガアリマシタ今日是レカラ跡ノ財產ノ分離ト云フ所ニ這入ルト到底今日ハ議シ切レヌサウスルトはんぱナモノヲ殘シテ休ムヤウナ譯ニナル之レニ反シテ商法ノ方ノ解散ノ所ガ出來テ居ルカラ今日之ヲ幾ラカヤツテ置テ殘リヲ明後日議スト云フコトニシタナラバすつかり休ミ前ニ議シ切レヤウ、サウスルト都合ガ好イカラドウカサウ云フコトニシテ呉レト云フ請求ガアリマシタカラサウ云フコトニシヤウト思ヒマスガ如何デセウカ
(此時(異議ナシ)ト呼ブ者多シ)
議長(箕作麟祥君)
ソレデハ是レヨリ商法ノ解散ノ方ニ這入リマス
(茲ニ於テ民法ノ議事ヲ中止シ直チニ商法ノ議事ニ移レリ)
于時午後五時