明治民法(明治29・31年)

法典調査会 第180回 議事速記録

参考原資料

第百八十回法典調査會議事速記録
出席員
箕作麟祥君
本野一郎君
田部芳君
高木豐三君
穗積八束君
淸浦奎吾君
横田國臣君
鳩山和夫君
奧田義人君
井上正一君
富井政章君
梅謙次郎君
長谷川喬君
南部甕男君
中村元嘉君
議長(箕作麟祥君)
ソレデハ會議ヲ開キマス九百八十九條ハ此前段々御議論ガアリマシタガ丸デ一カラ四マデノ順序ヲ削ツテ仕舞ウト云フ御說モアリマシタソレカラ第三ノ配偶者ヲ削ルト云フ說第三ト第四ノ順序ヲ入レ變ヘルト云フ御說モアツタヤウデアリマス
長谷川喬君
養子ト入壻ノ方ハ起草委員モ折合テ貰ヒタイ
穗積八束君
此順位ヲ全ク削ルト云フコトヲ此前申シマシタガ是ハ併シ皆サンノ御議論ノ末デソレガ宜カラウト思フテ申シタノデアリマス外ニ御同意ノナカツタノヲ強イテ維持スルニモ及ビマセヌガ私ノ述ベマシタ趣意ハ兄弟姉妹又ハ兄弟姉妹ノ直系卑屬ト云フ者ノ間ニハ順位ヲ定メズニ此中ノ者ノ適當ノ者ヲ父トカ母トカ親族會ガ選定スルト云フヤウナ緩クリシタ規定ニシタイト云フ說デアリマス配偶者ヲ此處ニ置カレマシテモ私ハ異論ハナイノデアリマス自分ノ說デ自分ガ疑ウノデアリマスガ今考ヘテ見ルト九百九十一條ニ尊屬親ガ相續スル場合ガアリマスサウスルト家族中ヨリ家督相續人ヲ選定スルト言ツテ兄弟姉妹ヲ全ク除イテ仕舞ウト尊屬親モ這入ラヌ樣ニナツテハ可笑シイト思ヒマスカラ全ク順位ヲ壞サズニ斯ウ云フコトニシテハドウデアリマセウカ第一ノ順位ニ兄弟姉妹及ビ其直系卑屬第二ノ順ニ配偶者トシテ置キマシタナラバ九百九十一條ノ適用ガ又明カニ分ルカト思ヒマスソレデモ私ノ削ルト云フ趣意ト同ジデアリマスカラ一寸其氣附キ丈ケヲ申シテ置キマス
田部芳君
高木君ハ本條ノ第三ト第四トヲ入レ變ヘルト云フ案ヲ御出シニナツテ又中頃御撤回ノ樣デアリマシタガ今長谷川君カラ一寸御話ノアツタ入壻ノ樣ナ場合サウ云フコトモ此條デイケヌコトモナイト思フソレヲ書イテモ宜イガ丸デ配偶者ヲ追出シテ仕舞ウト云フノハ穩カデハナイ正當ノ事由アルトキニ限リト云フコトデハイカヌカモ知レヌガソレガイカヌナラバ特別ニ明文ヲ置イテモ宜イガ第三ヲ丸デ削ルト云フコトデハイケヌト思フ
梅謙次郎君
穗積八束サンノ御說ヲ贊成シテ置キマス併シ原案ヲ撤回スルノデハアリマセヌ
横田國臣君
私ハ配偶者ヲ此處カラ除クト云フコトガ立タネバ其後ニ贊成スル只斯ウ云フコトガ氣ニ掛ル兄弟姉妹トカ兄弟姉妹ノ直系卑屬ト云フ者ガアル時分ハ極宜イ、一緒ニナツテ宜イガ兄弟姉妹ノ直系卑屬ガナイ時分ニ配偶者ガ獨リ跡ヲ取ツテヽヽヽヽヽヽ例ヘバ穗積君ガ嫁ヲ持ツテアナタノ家族ニハ兄弟姉妹ガナイト直グ樣アナタノ御令閨ト云フ者ハ跡ヲ取ツテアナタニ私生子ガ幾ラモアツテモ取レルコトハ出來ヌソレデ皆子供ガアルトキハ宜シイガ其場合ハ子モナケレバ何ニモナイ配偶者ガ直グ樣家督相續人ニナルト云フコトハ日本ノ慣習ニ一ツモナイ
梅謙次郎君
ソレハ確カニアル
高木豐三君
私モ前回ニ發議ハシマセヌガ趣意ハ矢張リ穗積八束君ノ言ハレタ趣意ヲ希望シテ居リマシタ而テ「家族中ヨリ」ノ五字ヲ削ルサウシテ置ケバ誠ニ人情習慣ニ最モ適當ト考ヘルヽヽヽヽ
南部甕男君
先ニ牴觸シマセヌカ
高木豐三君
少シ響イテクル所ガアルカ知レマセヌガ主義ハサウセヌト家族ノ中ニ居ルト云フ樣ナ奴ハ近ク例ヲ取レバ親族中ニ兄弟ノ子デ始末ニイカヌカラお前ノ家ニ置イテ呉レ兄ノ家ニ置イテ呉レ、弟ノ家ニ置イテ呉レト云フ者ガアル然ルニ阿父サンノ側ニ居ラヌ者ハ取ルコトガ出來ヌト云フコトデハ宜シクアルマイト思フ是ハ一ツ起草者モ奮發シテ御考ヘ者ト思フ
穗積八束君
梅サンドウデスカ
梅謙次郎君
ソレハ餘程御考ヘヲ願ヒタイサウスルト其家ニ在ル直系尊屬ト云フ者ヲソレガ凌イデ仕舞ウ樣ニナルソレハ大ニ慣習ニ違ウト思フ私ハ是レモドウニカ始末ガ付カネバ此處ダケ斯ウ云フ風ニ極メラレテハ困ル
高木豐三君
私ハ直系ノ尊屬親ト云フ者ハ除イテ宜イト思フ其譯ハ元來相續ト云フ者ガ尊屬親ヘ遡ツテ相續ヲスルト云フコトハ順當デナイ、ケレドモ是ハ已ムヲ得ヌカラ他家ノ者ニ相續ヲサスト云フコトガイカヌト云フ場合ガアルガ爲メニ已ムヲ得ズ尊屬親ノ相續ト云フコトヲ認メルノデアリマスケレドモ是ハ傍系ニモセヨ卑屬ノ中ニ適當ノ者ガアレバ夫レヲ先ニ取ルト云フコトハ最モ善イコトト思フ直系尊屬ガ之ニ這入ラヌト云フコトハ少シモ驚クニ足ラヌト思フソレガ日本ノ人情ニモ慣習ニモ協ウ
田部芳君
私ハドウモ、家主義ヲ丸デ取ラヌト云フナラバデアリマスガ今日ノ家族主義ヲ取ル以上ハ外ノ者カラ見テ血縁ガアルカラト言ツテ相續スルノデナイカラ此法律ノ立テ方カラハ矢張リ主義ノ衝突ガアリハセヌカト思フ實際ノ結果カラ言ヘバ善イ場合モアリマセウガ主義カラ言ツテドウモ分ラナイコトガアリハセヌカト思フ
横田國臣君
今田部サンノ仰ツシヤルノハ家族制度カラ何ンデモ其家ノ中ニ這入ツテ居ル者デナケレバイカヌト云フノハ丸デ原因ヲ正サヌ御說デハナイカト思フ家族制度ト云フ者ハ全ク血統カラ來ル只親族主義ト言ツタ所ガソレデハイカヌ幾分カ交ツテハ來テ居ル併シヽヽヽヽヽ
梅謙次郎君
外ノ場合ハ多少理窟ノアルコトデアリマスカラ其御說ガ立チマスガ斯ウ云フ場合ハ高木君ハドウ御考ヘニナリマスカ其被相續人ガ入夫デアツタラ其家ナラバ養子デアルカラ宜イガ其家デナイト實家ノ兄弟姉妹ガ這入ツテ來マスガソレデモ宜ウゴザイマスカ
高木豐三君
ソレハ御尤モデアリマス其場合ダケハ制限シテ置ク
梅謙次郎君
ソレナラバソレモ附ケテ下サラヌト困ル
井上正一君
私ハ田部君ノ說ニ贊成スルヽヽヽヽヽヽヽヽ
長谷川喬君
私モ穗積君ノ說ニ贊成シテ置キマスソレカラ起草委員ニ御願ヒ申シテ入夫ノ場合ト壻養子ノ場合トハ何處カニ順位ヲ置イタガ宜イ
富井政章君
私ハ田部君ノ說ニ贊成シテ置キマス
議長(箕作麟祥君)
ソレデハ決ヲ採リマス長谷川君ノ說ガ一番原案ニ遠イヤウデアリマスカラ是レカラ決ヲ採リマス長谷川君ノ說ニ贊成ノ方ハ起立ヲ請ヒマス
起立者多數
議長(箕作麟祥君)
多數、ソレデハ他ハ原案ニ決シテ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第九百九十條 家督相續人ヲ選定スル權利ヲ有スル者ハ正當ノ事由アル場合ニ限リ裁判所ノ許可ヲ得テ前條ニ揭ケタル順序ヲ變更シ又ハ選定ヲ爲ササルコトヲ得
梅謙次郎君
是レハ舊民法ノ趣意トハ少シ趣意ガ違ヒマス舊民法ハ反對デアリマシテ取得編三百一條ニ「法定又ハ指定ノ家督相續人アラサル場合ニ於テ其家ニ死亡者ノ父アルトキハ父、父アラサルトキハ母ハ左ノ順序ニ從ヒ家族中ヨリ家督相續人ヲ選定ス」必ズ其順序ニ從ハナケレバナラヌ又三百二條ニモ「前條ノ場合ニ於テ父母アラサルトキハ家督相續人選定ノ權利ハ親族會ニ屬ス但親族會ハ前條ニ定メタル選定ノ順序ヲ變更スルコトヲ得ス」此處ハ尙更強ク書イテアル是ハ相續人ヲ重ンズル上カラ言ヘバ尤モノ樣デアリマスガ外國ノ法律抔デ申シマスト固ヨリ斯ウ云フ風ニナルベキコトデアリマセウガ日本ノ慣習ノ上ニ於キマシテハ傍系親ソレカラ配偶者モ或ル場合ニ殘リマシタガ斯ウ云フ場合ニナツテ來マスト相續人ト云フモノガ純然タル權利ノ樣ニハ認メラレテ居ラヌデ矢張リ親族協議ノ上デ定メルト云フコトニナツテ居ルソレデアリマスカラ維新後デモ初メハ直系ノ外ハ法律上順位ト云フコトヲ認メヌヤウニナツテ居リマシタガ近來段々進歩シタト言ツテ宜シイデゴザイマセウガ只今議決ニナツタヤウナコトガ今日ノ慣習ニ合フテ居ル樣ナコトデアリマス殊ニ親族會デ選ビマスコトニハ往々弊ガアリマスノデ今日ノ行政上ノ取扱ハ八ケ間敷ナツテ猥リニ順位ヲ變更シマセヌガ併シ相當ノ事由ガアレバ許シテアル又サウデナケレバ是迄ノ慣習ニ合ハヌデアラウ只今御論ノアツタ如ク全體前條ノ順序ト云フ者ハ杓子定規ニ失スルコトガアラウト思ヒマスカラ此箇條ガナクテハイケマイト思ヒマシテ特ニ此箇條ヲ置キマシタ
議長(箕作麟祥君)
御異議ガナケレバ原案ニ決シテ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第九百九十一條 第九百八十九條ノ規定ニ依リテ家督相續人タル者ナキトキハ其家ニ在ル直系尊屬親中親等ノ最モ近キ者家督相續人ト爲ル此場合ニ於テハ第九百七十八條第一項第二號ノ規定ヲ準用ス
(參照)取三〇三、全國民事慣例類集二編二章、六年一月二十二日二八號布告華士族相續法、同年七月二十二日二六三號布告、八年三月十三日司法省指、九年八月三十一日同省指、同年十月十三日同省指、同年同月二十四日同省指、十五年十一月二十一日大審院判決、十七年三月七日内務省指、同年同月十五日同省指、十九年五月三十一日司法省指、二十年十二月三日同省回答、二十四年二月二十四日同省指、二十五年六月鹿兒島縣伺ニ對スル同省指、同年九月滋賀縣伺ニ對スル同省指、同年十一月埼玉縣伺ニ對スル同省指、二十七年一月埼玉縣伺ニ對スル同省指、二十九年三月十七日大審院判決
佛七四六乃至七四九、澳七三五乃至七五〇、蘭九〇〇、九〇五、伊七三八、七三九、ヴオー五三一乃至五三四、グラウブユンデン四九四乃至四九八、ツユーリヒ八七一乃至八九一、葡一九九三乃至一九九九、西九三五乃至九三八、白草七八七、七八八、獨一草一九六六乃至一九六九、同二草一八〇二乃至一八〇六、索二〇三六乃至二〇三九、印度相續法三四乃至四〇、ローウエル、カナダ六二六乃至六三〇
梅謙次郎君
說明ニ先チマシテお直シヲ願ヒタイ「直系尊屬親中」ノ文字ハ衍字デアリマス此箇條ハ元ノ取得編三百三條ト同ジコトデアリマス「第三百一條ノ規定ニ從ヒ選定スヘキ家督相續人アラサルトキ又ハ皆抛棄シタルトキハ其家ニ在ル尊屬親中親等ノ最モ近キ者任意ニ家督相續ヲ爲スコトヲ得」文章ハ少シ違ツテ居リマスケレドモ同ジコトニナル「任意ニ家督相續ヲ爲スコトヲ得」ト云フノガ詰リ是等ハ任意ニ抛棄ガ出來ルノデアリマスカラ詰リ同ジコトニナル只一ツ改メタ點ガアル、ソレニ此末文ノ所ニ當リマス是ガ男ト女トアレバ男ヲ先ニスル規定デアル元ノ法文モ精神ハサウデアラウカト思ヒマスガ何分此法文デハ男女ノ區別ガ分リマセヌカラ阿父サンガ相續セヌデ阿母サンガ相續スルト云フヤウナコトニ見ヘマスガ是レハ明カニ日本ノ慣習ニ背クコトガ一體婦人ノ相續ハ能ク々々ノコトガナケレバ許サヌノデアリマスカラ尊屬親中ノ同親等ノ者ガアレバ配偶者ヨリモ其方ヲ先キニ取ル樣ニ原案デモナツテ居ツタモノデアリマスカラ只今高木君ノ御注文ハ少々當ラヌヤウニナリマス
横田國臣君
此ノ「家督相續人タル者ナキトキハ」ト云フノハ假令ヒアツテモ否ヤダト云フノハナキトキト云フ字ニ這入ルノデアリマスカラ否ヤト言ツテモ許サヌノデアリマスカ
梅謙次郎君
此文例ハ後見人ノ所ニアツタヤウニ記憶シテ居リマス、此案デハナキトキト云フノハ法律上イツモ相續人タルベキ者ノナキトキトソレカラタルベキ者ガアツテモソレガ正當ノ事由ガアツテ辭スルトカヤメラレルトカ言フコトヲ含ムコトデ後見ノ所モサウナツテ居ル「タル者」ト云フノハ餘程意味深長デアリマス
井上正一君
其家ニ在ル直系尊屬中ニハ隱居モアルデアリマセウ隱居ト云フノハ家政ガ取レナイカラ隱居スルノデアリマセウソレモ此中ニ這入ルノデアリマセウカ
梅謙次郎君
是ハ多クハ隱居デアラウト思ヒマス如何ニモ隱居ト云フノハ先ヅ家政ガ取レヌカラ隱居スルノデアリマスガ併シ六十歳以上ノ者デアレバ別ニサウ云フコトヲ說明シナクテモ隱居ハ出來マス實際ハ六十歳以上デモ矍鑠タル者ガアツテ息子ガ死ンデ相續者ノナイト云フトキハ再相續ヲ許シテモ宜イト思フ
穗積八束君
是ハ解釋上ハドウナリマスカ「最モ近キ者家督相續人ト爲ル」トアツテソレカラ九百七十八條第一項第二號ノ規定ヲ準用ス」トアリマスカラ同條中ニアル法定家督相續人ガ這入ルノデアリマスカ
梅謙次郎君
ソレハ誠ニ御尤ノ御問デ吾々モ此處ヲ書ク時ニ困ツタ、是モ法律デ定マツタ法定相續人デアリマスガソレデハ困ルソレデ態々前ノ方ハ法定相續人ト書キマシテ此處ハ態々家督相續人ト書イタ只今御引キニナツタ九百七十八條デアリマスガ「被相續人ノ家族タル直系卑屬ハ左ノ規定ニ從ヒ法定家督相續人トナル」トアツテ此處ハ家督相續人ト爲ルト書イテナイ而シテ此處ハ家督相續人ト爲ルト書イテアルソレハ符脹バカリナラバ無理ナ符脹デアリマスガ萬更無理ナ符脹デナイ九百七十八條ハ法律上コンナ者ガ家督相續人トナルト云フコトヲ極メテ仕舞ツタノデアツテ之ニ反シテ九百八十九條ノハ一應定メテ置クト云フノデ法律デ確ト極メタノデハアリマセヌソレデ只爲ルコトガ出來ルト云フノガ九百九十一條デ分ル其分ルコトニ付テハ別ニ親族會ノ決議ハ要ラヌノデアルソレデ爲ルコトヲ得ト舊民法ノ如ク書クト其點ガ一層疑ガ明瞭ニナツテ來マスガサウ書ケナカツタ譯ハイツモ法律ハ法律ノひく志よんデ相續ガナクテモ相續ノアツタ者ノ如ク見ル、サウデナイト相續財產ガ無主物ニナツテ仕舞ウソレデ是レハ「家督相續人ト爲ル」ト書イテ「得」ト云フ字ヲ止メマシタ
井上正一君
私ハ神經カ知リマセヌガ今ノ隱居ノ場合デアリマスガドウモ家政ガ取レヌカラト云フ理由デ隱居ヲシタノニ此處デハ法律ハ一應家督相續人トナルト云フコトニ法律デ極メテ仕舞ウノハ如何カト思ヒマスカラドウカ近キ者ガ家督相續人トナルコトヲ得ルト云フ樣ニシタ方ガ穩カデハナイカト思フ
議長(箕作麟祥君)
ソレデハ井上君ノ御說モアリマシタガ贊成ガナイヤウデアリマスカラ外ニ御議論ガナケレバ原案ニ決シテ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第九百九十二條 前條ノ規定ニ依リテ家督相續人タル者ナキトキハ親族會ハ被相續人ノ親族又ハ分家ノ戶主若クハ家族中ヨリ家督相續人ヲ選定ス
 被相續人ノ親族又ハ分家ノ戶主若クハ家族中ニ家督相續人タルヘキ者ナキトキハ親族會ハ他人ノ中ヨリ之ヲ選定ス
 親族會ハ正當ノ事由アル場合ニ限リ前二項ノ規定ニ拘ハラス裁判所ノ許可ヲ得テ他人ヲ選定スルコトヲ得
(參照)取三〇五、全國民事慣例類集二編、二章、九年三月二日司法省指、十五年十一月二十一日大審院判決、十六年四月二十三日同院判決、二十年十一月十日同院判決
梅謙次郎君
本條ハ大體ノ精神ニ於テハ元ノ取得編ノ第三百五條ト變ハルコトハナイノデアリマス「親族會ハ前數條ニ記載シタル相續人アラサルトキ又ハ皆抛棄シタルトキニ非サレバ他人ヲ選定スルコトヲ得ス」トアリマス此「他人」ト云フ字ガ親類他人ト云フ方ノ他人ト云フコトデハナカラウト思ヒマス之ニ列擧シテアル者ノ外ト云フコトデアラウト思フ若シサウデナイト前ニ列擧シテアル親族ヲ置イテ却テ他人ヲ選定スル樣ニ聞エマスカラサウ讀ンデハイカヌト思フ若シ私ノ讀ムヤウニスレバ大體是ト同樣デ只三百五條ハ漠然トナツテ居ツタノヲ今度ハハツキリ極メタト云フニ過ギマセヌサウシテハツキリ極メタ方ガ宜イト思フコトハ丸デ赤ノ他人ヲ相續人ニスルト云フコトハ能ク々々ノコトデアリマスカラ色々選定ヲシタガ到底外ニナイト云フ時ニシテ置カヌトイカヌ現ニ歴キトシタ親族ガアルノニ親族ヲヤメテ赤ノ他人ヲ相續ニスルト云フコトハアリマセヌガ若シシテモソレガ有效トナツテハ困ル只併シ乍ラ親族ハアルガ其親族ハ到底家ヲ維持シテ往ク見込ガナイ役ニ立タヌト云フ時ハソレハ裁判所ノ認定デ他人ヲ選定シテ立テ宜イト云フコトニシテ少シク細目ニ渉ルヤウニナル嫌ヒハアリマシタガ本條ノ如ク立テマシタ「分家ノ戸主若クハ家族中ヨリ」トシタノハ大ニ日本ノ慣習ヲ斟酌シタ積リデアリマスソレカラ先刻九百八十九條ヲ修正サレタ結果トシテ別ニ一個條ヲ置カナケレバ困ルト思ヒマスカラ先刻修正說ヲ提出サレタ御方ニ然ル可ク御修正ヲ願ヒマス
高木豐三君
一項ヲ分家ノ戸主若クハ本家ノ家族トシテハドウカヽヽヽヽヽヽヽヽヽ
梅謙次郎君
ソレデハ斯ウシテハドウカ「被相續人ノ親族分家ノ戸主又ハ本家若クハ分家ノ家族中ヨリ」ヽヽヽヽヽヽヽ
議長(箕作麟祥君)
サウスルト二項ハモウ少シ簡單ナコトニ書ケマセヌカ
梅謙次郎君
「前項ニ掲ケタル者ノ中ニ家督相續人タルヘキ者ナキトキハ親族會ハ」トシタラドウデセウ
穗積八束君
配偶者ハ此處ニ入レルノデハアリマセヌカ
梅謙次郎君
此前ニ入レタラドウデス
富井政章君
九百九十條ノ次ニ入レタラドウカ
長谷川喬君
私ハ九百九十二條ノ第二項ニ入レルト云フコトニシマセウ
議長(箕作麟祥君)
贊成ガアリマスカ
南部甕男君
贊成
梅謙次郎君
私ハ九百九十條ノ次ニ入レルト云フ案ヲ一ツ出シテ置キマス
議長(箕作麟祥君)
イヅレカラ先ニ決ヲ採リマスカ
梅謙次郎君
長谷川君ノ方カラ先ニ採ルガ宜シイト思ヒマス
議長(箕作麟祥君)
長谷川君ノ說ニ贊成ノ諸君ハ起立ヲ請ヒマス
起立者少數
議長(箕作麟祥君)
少數、ソレデハ梅君ノ說ニ贊成ノ諸君ハ起立ヲ請ヒマス
起立者半數
議長(箕作麟祥君)
半數ナラバ私ハ梅君ノ說ニ贊成シマス、ソレカラ九百九十二條ハ宜シウゴザイマスカ、ソレデハ本條ハ原案ニ決シマス、今度ハ蒟蒻刷リノ方ニ移リマス
(書記朗讀)
修正案  起草委員提出
第九百七十八條第一項第四號ヲ左ノ如ク改ム
親等ノ同シキ嫡出子及ヒ私生子ノ間ニ在リテハ嫡出子ハ女ト雖モ之ヲ私生子ヨリ先ニス
(但第四章中母ノ爲メニハ庶子ナル者ナキコトヲ明カニスルコト)
(別案)同條第三項トシテ左ノ一項ヲ加ヘ同條第一項第四號ヲ削ル
被相續人カ女戸主ナル場合ニ於テ親等ノ同シキ嫡出子及ヒ私生子ノ間ニ在リテハ嫡出子ハ女ト雖モ之ヲ私生子ヨリ先ニス
梅謙次郎君
本條ハ意味ニ於テハ旣ニ御決議ニナツタ通リデアリマシテ只文章ヲ御托シニナリマシタノデアリマスガ此第一案ノ方ハ當時議決ニナツタ儘デアリマス其時ニ或ハ文章ガイカヌカモ知レヌカラ考ヘテ見テ呉レト云フコトデアリマシタカラ考ヘテ見マシタガ矢張リ此通リデ善ササウニ我々ハ考ヘタノデ其譯ハ成程斯ウ書キ放シテ置クト少シ違ヒマスガ女戸主ノ相續ト云フコトヲ書イタ方ガ善クハナイカト云フ此前御話デアリマシタガ女戸主ト云フ者ヲ此處丈ケニ書キマスノハ都合ガ能クナイ此處ハ元々順位見タヤウナ者ヲ定メタノデアリマスカラ此處ニ女戸主ノ相續ノ場合ニ於テト云フ樣ナコトガ出マスノハ極ハメテ面白クナイ此處ハサウ云フコトヲ書イテ置カヌデモ前ノ第四章ノ私生子庶子ノ所ノ規定デハ私共ノ解シテ居ツタ所デハ父ガ認メレバ庶子トナルト思ヒマシタガ前回ノ御決議ノ精神ニ依ルト父ガ認メレバ庶子母ガ認メレバ私生子ト云フコトデアルサウナリマスト本條ノ適用ハドウシテモ女戸主ニ付テシカアルマイト如何トナレバサウナルト最早父ノ爲メニハ自分ガ認メタ私生子ト云フ者ハナイ認メレバ皆庶子ニナツテ仕舞ウ女戸主ノ方ハ皆私生子トナツテ仕舞ウ父ガ認メタルト認メヌトニ拘ハラヌ皆私生子デアルカラ女戸主ノ場合ハ態々庶子ト云フコトヲ書カヌデモ濟ムコトニナリマス去リ乍ラ是迄分リ易イト云フコトデ其方ノ精神ヲ十分ニ貫カウトスレバ四號ヲ削ツテソレカラ本條ノ第三項ト致シテ被相續人ガ女戸主ナル場合ニ於テト云フ文章ヲ入レルコトニシテモ宜カラウ思フ併シ寧ロ我々ハ初メノ方ガ宜イト思フ只御參考迄ニ別案トシテ出シテ置キマシタ
南部甕男君
本案ニ贊成
議長(箕作麟祥君)
ソレデハ御異議ガナケレバ本案ノ方ニ決シマス次ハ九百七十九條ノ修正
(書記朗讀)
修正案  起草委員提出
第九百七十九條中「家族ト爲リタル直系卑屬」ノ下ニ「嫡出子又ハ庶子タル」ノ九字ヲ加フ
梅謙次郎君
是レモモウ決議ニナツタコトデアリマシタガ只文字ガ或ハ議決ノ儘デハイカヌカモ知レヌカラ考ヘテクレト云フコトデアリマシタ「他ノ嫡出子又ハ庶子タル直系卑屬」ト云フコトデアリマシタガサウスルト他ト云フ字ガ嫡出子ニ掛ツテ直系卑屬ニ掛ラヌデ可笑シイカラ「他ノ」ヲ取リマシタ
議長(箕作麟祥君)
別ニ御異議ガナケレバ修正案ニ決シマシテ次ハ九百八十二條ノ修正
(書記朗讀)
修正案  起草委員提出
第九百八十二條第一項ノ第二號ヲ左ノ如ク改ム
疾病其他身體又ハ精神ノ狀況ニ因リテ家政ヲ執ルニ堪ヘサルヘキコト
梅謙次郎君
是レモ矢張リ文字ノコトデ大變ニ八ケ間敷カツタノデアリマスガ色々考ヘテ見マシテモドウモ十分ト思フ樣ナ案ガ出來マセヌデ前ニハ不具又ハ疾病トアツテ此不具ノ中ニハ我々ノ考ヘデハ精神不具モ這入ル積リデアリマシタガソレハドウモ少シ無理デアラウト云フ御考ヘモアツタソレデ不具疾病ト云フ樣ニ書イテモ宜カラウト思ヒマシタガサウスルト其他身體又ハ精神ノ狀況ト云フコトガ漏レテ居ルト云フコトガナカラウカト思ツテ上ヲ疾病ト書イテ跡ヲ其他身體又ハ精神ノ狀況トシマシタ斯ウスレバ精神ノ喪失シタル者デアツテモ又ハ心神ノ尫弱ナル者デアツテモ皆此中ニ這入ラウト思ヒマス
議長(箕作麟祥君)
ソレデハ是レモ可決トシマシテ二項ノ方ニ移リマス
(書記朗讀)
修正案  起草委員提出
同條第二項ヲ左ノ如ク改ム
此他正當ノ事由アルトキハ被相續人ハ親族會ノ認許ヲ得テ其廢除ヲ請求スルコトヲ得
梅謙次郎君
是モ御決議ノ通リノ積リデアリマス尤モ御決議ノ時ニハ親族會ノ決議ヲ得テト云フコトデアリマシタガ文例ハ是迄「親族會ノ認許」ト云フコトニナツテ居リマシタカラ此處丈ケ決議ト云フ字ヲ使ウノハ穩當デナイト思ヒマスカラ認許トシマシタ
議長(箕作麟祥君)
ソレデハ是モ結構トシテ次ニ移リマス第九百八十五條ノ修正
(書記朗讀)
第九百八十五條第一項ヲ左ノ如ク改ム
被相續人カ推定家督相續人ノ廢除ヲ請求シタル後其裁判確定前ニ死亡シタルトキハ裁判所ハ親族利害關係人又ハ檢事ノ請求ニ因リ戸主權ノ行使及ヒ遺產ノ管理ニ付キ必要ナル處分ヲ命スルコトヲ得廢除ノ遺言アリタルトキ亦同シ
梅謙次郎君
是モ趣意ハ御決議ノ通リデアルソレハ戸主權ノ行使ニ關スルコトガ原案ニ拔ケテ居ルノデソレガ不都合ト云フコトデ何カ斯ウ云フ意味ノコトヲ入レタラドウカト云フコトデ此修正案ノ通リニシロト云フコトデハナカツタノデアリマスガ色々評議ヲシテ見マシタニ是ガ一番宜カラウ是デアルト戸主權ヲ一時行使スルト云フ處分モ命ゼラレルコトモ出來マスシ或ハ假ニ相續ヲ爲シテ居ル者ガ行使ヲシテモ宜イト云フ命令ヲスルガ詰リ裁判所ニ於テ必要ト認メル者ニ命ズルコトガ出來ルカラ此方ガ大キニ緩トリガ出來テ宜カラウ例ヘバ土方君ノ御提出ノ樣ニ戸主權ノ停止ト云フヤウナコトニシテ仕舞ウト其間丸デ戸主權ヲ行使シナイト一家内ガソレガ爲メニ不便ヲ感ズル樣ナコトガアリマスソレヲ無理ニ濟マサウトシマスレバ戸主權ヲ蔑シロニシナケレバナラヌサウシテ跡ニナツテ離籍サレテハ不都合デアラウト思ヒマシタカラ停止スルト云フノハ宜シクナイト思フ又裁判所ガ一寸見テ廢嫡ノ理由ガナイト見レバ假ニ相續權ヲ行ハシメテ宜シイト云フコトモアラウト思ヒマスカラソレデ斯ウシマシタ
議長(箕作麟祥君)
御異議ガナケレバ修正案ニ決シマス、甲第六十三號ヽヽヽヽヽ
富井政章君
七百五十條ノ方ヲ願ヒマス
議長(箕作麟祥君)
ソレデハ今起草委員カラ御請求ガアリマシタカラ蒟蒻刷リノ七百五十條ノ修正ヽヽヽヽ
(書記朗讀)
修正案  起草委員提出
第七百五十條(舊第七百六十條)第二號ヲ左ノ如ク改ム
完全ノ能力ヲ有スル家督相續人カ相續ノ單純承認ヲ爲スコト
富井政章君
此第七百五十條ハ前ノ戸主權ノ總則ノ所ノ初メノ條デアリマス同條ノ第二項ニ完全ノ能力ヲ有スル家督相續人タルコトトアリマス其議事ノ時ニ家督相續人ガ單純ノ承認ヲ爲シタトシテハドウカト云フ御論ガアリマシタ我々ノ間ニモ其議論ガ出マシタ併シ當時ハ相續ノ承認及ビ抛棄ノ所ガドウ極ルカ分ラヌカラ先ヅ除イテ置クト云フコトデアツタ然ルニ相續ノ承認及ビ抛棄ノ所ヲ起草スルニ當ツテ考ヘテ見マシタガドウシテモ是ハ隱居ノ所ニ極メテ置カナケレバナラヌ隱居相續ガ開始シテカラ後ニ限定承認ハ出來ナイ抛棄ハ出來ナイト云フコトデハナクシテ單純承認ヲ爲サウト云フ相續人ガナケレバ相續問題ガ起ラナイ隱居ト云フ者ガ出來ナイノデアルサウシテ見レバ是ハ隱居ノ成立條件デアルドウシテモ相續開始後ノ問題デナイ卽チ相續ノ承認及ビ抛棄ノ所ニ書クベキコトデナイト思ツタソレカラ又一ツハ旣成法典ハ此事ハ双方ニ書イテアリマス隱居ノ所ニハ家督相續人ガ單純ノ受諾ヲ爲スコトト書イテアツテソレカラ相續ノ承認及ビ抛棄ノ所ニハ隱居相續ハ限定受諾ヲ爲スコトヲ得ズトアリマスソレヲ書クナラバ隱居相續ハ抛棄ヲ爲スコトヲ得ズト書カナケレバナラヌソレハ落チテ居リマス此處ニ書イテ置ケバ相續ノ承認及ビ抛棄ノ所ニ又繰返シテ限定承認ハ出來ヌ抛棄ハ出來ヌト云フコトヲ書カヌデモ宜イサウシテ是ハ前ニ認メテ置クベキ問題デアラウト考ヘマシテ此修正案ヲ出スコトニ致シマシタ
井上正一君
趣意ハ贊成デアリマスガ只形ノ上カラドウ云フコトニナリマスカ完全ノ能力ヲ有スル家督相續人ガ相續ノ單純承認ヲ爲スコトト言フト斯ウ云フ卽チ條件ガ備ハツテ居ツテソレカラ屆出ヲスルノデアリマセウカ又相續ノ單純承認ヲシテ相續人ト爲ルソレカラ家督相續人ガ戸主ニナルマダ屆出ガ濟ミマセヌガ戸主ハ矢張リ戸主デアルト云フコトニナリマセウカヽヽヽヽヽヽ
富井政章君
實際ハサウ云フ風ニセネバ極マリガ付キマセヌカラサウナリマセウ併シ單純承認ハ今度ノ案デハ屆出ヲ要セヌ明示デモ默示デモ宜イト云フコトニナツテ居リマスカラ隱居ト共ニ必ズ屆出ナケレバナラヌト云フコトハ理論上ハ必要デナイ、意思表示ガアレバ宜イ
井上正一君
豫約見タヤウナモノデアリマスカ
富井政章君
先ヅ一種ノ豫約見タ樣ナモノデアル
穗積八束君
相續ノ單純ノ承認ト云フモノハ相續權ガ發生シテカラ後ニアルモノデアリマスガ是ハ確カ隱居ノ場合デアリマセウト思ヒマスガ隱居ノ場合ニハマダ相續權ガ發生シナイ、マダ相續權ノ發生シナイ内ニ相續ヲ承諾スルト少シ形ノ上デ可笑シイヤウデアル
富井政章君
只今申シタ通リ理窟ハドウシテモ相續開始後ニヤルベキコトデアル併シ此場合ハドウシテモ同時デアルソレデ實際ハ隱居ノ屆出ト一緒ニスルノデアラウト思ヒマス只サウ表面ニ書キ表ハシテ居ラヌノデアル併シサウセネバ隱居ノ方ガ出來ナイト云フコトニナラウト思フ其方デ極マリガ付イテ居ラウト思フ
梅謙次郎君
私モ矢張リサウ思ヒマスイヅレ手續方デ隱居屆出ノ雜形ト云フ方ニ單純承認ヲ爲スト云フコトニ書キ込ンデ屆出ヲ爲スデアラウソレガ隱居ノ必要條件デアリマセウカラ戸籍吏ハ其條件ガ滿タサレテ居ルコトヲ認メナケレバ屆出ハ受取ラヌ
議長(箕作麟祥君)
別ニ御異議ガナケレバ是モ修正案ニ決シマス是デ蒟蒻摺ハ濟ミマシタカラ甲第六十三號ニ移リマス
(書記朗讀)
 第四章 相續ノ承認及ヒ抛棄
富井政章君
本章ハ財產取得編第十三章第四節ニ當リマス分ケ方モ旣成法典ト同ジコトデ只受諾ト云フ言葉ヲ承認ト改メマシタ丈ケガ違ウコトデ是ハ旣ニ目錄ニ於テ極マツタコトデアリマスガ承認ノ方ガ正シカラウト思フ如何トナレバ今日ノ相續法ノ主義ト云フ者ガ羅馬法抔ト違ツテ受クルト云フ意思表示ヲシテ初メテ相續人トナルノデナシニ死亡ニ依テ直チニ相續人トナルベキ者ガ相續權ヲ得ルノデアリマス卽チ相續開始ノ時ヨリ一先ハ相續人トナル承認ト云フコトハ是ハ身分ヲ確定スルコトデアルソレ故ニ其相續人タル身分ヲ承認シテ初メテ得ルノデナイモウ抛棄シナイト云フ意思ヲ表ハスノデアリマスカラ承諾ト改メマシタ
議長(箕作麟祥君)
表題ニ付テ異議ガナケレバ原案ニ決シマス
(書記朗讀)
  第一節 總則
富井政章君
是ハ取得編ノ第三百十七條カラ第三百二十一條迄ニ當リマス旣成法典ニハ表題ガアリマセナンダガ全ク總則ニ違ヒナイ體裁上カラ總則ト云フ表題ヲ置イタ方ガ宜イト思ヒマシテ表題ヲ置クコトニ致シマシタ本案ニ於キマシテハ多ク旣成法典ノ條文ヲ削ルトモ殖ヤサナイ方デアリマスガ此處ハ殖ヤシタ方デアリマス第三百二十一條ヲ削ツテ新タニ五箇條ヲ加ヘタノデアリマス第三百二十一條ハ相續人ガ承認又ハ抛棄ヲ爲ス前ニ爲スコトノ出來ル行爲ヲ極メテアリマス卽チ其行爲ヲ爲シテモ承認ニハナラナイト云フコトガ極メテアル而テ其極メ方ハ誠ニ窮窟ニナツテ居リマシテ一寸シタ物ヲ賣ルノデモ――――今腐ルト云フ物ヲ賣ルノデモ裁判所ノ認許ヲ得テ競賣ニ附サナケレバナラヌト云フコトニナツテ居ル是ハ規定ノ實質ガ窮窟ニ失シテ居ルシ又詰リ斯ウ云フ行爲ガアレバ默示ノ承認ニナルナラヌト云フ問題デアリマスカラ此事ハ本案ノ第千十一條ニ含マセテ置キマシタ但保存行爲ハ此限ニ在ラズ詰リ保存行爲丈ケ除外スレバ宜イト思ヒマシテ此條ヲ削リマシタ其代リ旣成法典ノ儘デハ非常ニ不完全デアルト思ヒマシテ此總則ニ新ニ五箇條ヲ加ヘマシタソレハ第千二條第千四條第千五條第千八條第千九條此五箇條ヲ入レマシタ
議長(箕作麟祥君)
第一節總則ニ付テ御異議ガナケレバ本條ニ這入リマス
(書記朗讀)
第千一條 相續人ハ相續權ノ發生ヲ知リタル時ヨリ三个月內ニ單純若クハ限定ノ承認又ハ抛棄ヲ爲スコトヲ要ス但此期間ハ裁判所ニ於テ之ヲ伸長スルコトヲ得
 相續人ハ承認又ハ抛棄ヲ爲ス前ニ於テ相續財產ノ調査ヲ爲スコトヲ得
(參照)取三一七、三一八、佛七七四、七七五、七九五、澳八〇五、蘭一〇七〇乃至一〇七二、一項、一〇九〇、一〇九一、伊九二九、九五九乃至九六一、九六四、一項、グラウブユンデン四七六、四七八、ツユーリヒ九三〇、九三二、九三四、西九八八、九九一、九九八、一〇一〇乃至一〇一七、白草九一〇乃至九一二、九二九、九三〇、獨一草二〇二八、一項、二〇三〇、二〇九二、同二草一八二一、普一部、九章、三八四、三八五、索二二六五、二二六六
富井政章君
此條ハ取得編第三百十七條ト第三百十八條ヲ合セタノデアリマス旣成法典ニ於テハ只今申シタ條文ニ於テニ種ノ期間ヲ定メテ先ヅ初メハ三ケ月其期間ハ財產調査ヲ爲ス爲メノ期間ソレカラ財產調査ガ出來タラ更ニ一ケ月考ヘル期間ヲ與ヘテアル卽チ承認ヲスルカ抛棄ヲスルカト云フ處決ヲスル爲メニ更ニ一ケ月ノ期間ヲ與ヘテアル是ハドウモ必要デナカラウト考ヘマス卽チ法律ニ一定ノ期間ヲ定メテ其期間内ニ處決ヲセネバナラヌ其爲メニハ財產調査モ出來ル財產調査ト云フモノハ詰リ處決ノ準備デアラウト思フ主トシテ財產目錄ヲ極メルノハ承諮ヲ爲スカ抛棄ヲ爲スカノ爲メノ期間デナケレバナラヌソレハイツデモ限定ノ承認ガ出來ヌイツデモ抛棄ガ出來ルト云フコトデハ困リマス必ズ或ル期間ニセネバナラヌト云フノデナクテハ困ルソレデ得ト書カヌデ要スト致シマシタ期間ノ定メ方ニ付テハ外國ノ立法例ハ色々ニナツテ居リマス旣成法典ハ佛蘭西民法ニ據ツタモノデアリマス佛蘭西法系ノ法律ハ多ク斯ウナツテ居リマス私ノ初メニ考ヘマシタニドウモ通常ノ場合ハ三ケ月デハ長過ギル大キナ商人ガ死ンダト云フ樣ナ場合ニハ無論是位ノ期間ハ入リマセウケレドモ通常ノ權兵衞太郎兵衞ガ死ンダ場合ニ相續人ガ早ク極ラヌト困ル然ルニ三ケ月モ極ツテ居ラヌト困ル財產調査ト言ツタ所ガ十人ノ内八九迄ハソンナ入組ンデ財產關係ヲ持ツテ居ル者ハナカラウト思ヒマスカラ二ケ月位デ宜カラウト思ヒマシタソレデ二ケ月トナツテモ私ハ少シモ異論ハナイ只三ケ月トナツテモ旣成法典ヨリハ短クナツタノデアリマスカラ極穩和的ニ斯ウシマシタ殊ニ此但書ガアル以上ハ二ケ月位デ澤山デアラウト思フタ如何トナレバ此但書デ以テ只今申シタヤウナ權利關係ノ相續大キナ承認ガ濟ンダト云フ樣ナ場合ソレハ裁判所ニ於テイツ迄モ延バセルト思フ是ハ旣成法典ニ於テハ三ケ月ヨリ延バセナイトアリマスガ是ハ餘程窮窟デアラウト思フ成程相續人ノ確定シナイコトハ困ルケレドモ延バス必要ガアルト云フ場合ハ私ノ思フニソレハ三ケ月デ足ラナイ餘程財產ノ所在ガ混雜シテ居ル或ハ外國ニ往ツテ居ルサウ云フ場合デアラウト思フ延バス位ナラバ三ケ月デハ足ラヌ場合ガ多カラウト思フ詰リ裁判所ガ極メルノデアリマスカラモツト長クシテ置イタ所ガ弊害ガナカラウト思ヒマシテ是ハ裁判所ノ權限ヲ縮メナイ事ニ致シタソレカラ三ケ月ノ起算點モ旣成法典ト違ツテ居ルノカ居ラヌノカ旣成法典ハ餘程暖昧デアリマス「相續ノ日ヨリ」トアツテ是ハ相續開始ノ日ヨリト云フ積リデハナカラウト思フソレナラバ必ズサウ書クノデアツタラウト思フ相續開始ノ日ニ限ラナイ殊更親族會デ選ブト云フヤウナ事ガアラウ是ハ性質上相續人ガ知ツタ日ヨリト云フ事ニシタガ宜イト思フ詰リ財產ヲ調ベサウシテ處決スル考ヘル期間ヲ與ヘタノデアリマスカラドウシテモ相續人ガ自分ガ相續人デアルト云フ事ヲ知ツタ日カラ起算シナケレバイカヌト思ヒマシタカラ斯ウ書キマシタ獨逸民法草案ハ明カニ斯ウ云フ風ニ書イテアル
田部芳君
極小サナ點デアリマス、此但書ノアルノハ宜カラウト思ヒマスガ斯ウ書イテアルト伸長ノ請求ヲスルニハ解釋トシテハ先ヅ相續人ヨリ請求ガ出來ルト云フコトデアラウガ手續ノ方ガ極メルカ或ハ親族ヨリ外國ニ往ツテ居ルカラ手紙デヤツテアルカラ返事ノ來ルノヲ待ツト云フ必要モアルカラ何カ明カニ少シ書イタラドウカ
富井政章君
稀デアラウガ場合ニ依テハ職權デモ出來タ方ガ宜カラウト思フ是ハ前ニ例ガアル確カ後見ノ終了ノ所デ、誰デモ出來ル害ノナイコトデアルカラ廣ク許シテ宜カラウ誰モ居ラナイ場合ハ職權ヲ以テモ出來ルトシテ宜カラウソレデ廣クスル積リデ斯ウ云フ風ニ書キマシタ丁度九百四十二條ト同ジダ
穗積八束君
限定ノ承認ノコトニ付テハ法定ノ家督相續人ガ旣定ノ承認ガ出來ルト云フ樣ナコトノ案デアラウト思ヒマスガサウ云フコトニ付テハ餘リ今ノ習慣ニ聞及バヌコトデアリマスガ此習慣ト此相續トノコトニ付テ今少シ御說明ヲ願ヒタイ
富井政章君
ソレハ限定承認ノ所デ申サウト思ツタコトデアリマシタガ餘程是ハ大キナ問題デアル本案ハ此點ハ旣成法典ト同ジデアリマス法定家督相續人ト雖モ子ヤ孫ト雖モ限定承認ガ出來ルトシマシタ是ハ慣習ヲ破ルコトニハ違ヒアリマセヌガ極メテ已ムヲ得ナイ改革デアラウト思ヒマス今日親ガ巨額ノ負債ヲ殘シテ子ガ是非共ソレヲ繼ガナケレバナラヌト云フコトニスルノハ其者ノ爲メニハ非常ナ災難デアル多少ソレデ頭ガ上ラヌト云フコトニ爲ルノハ粗々今日迄實例ヲ見ルコトデアルソレハ家督制度ニぶつ附カルコトデアレバ惡ルイカモ知レマセヌガ財產ニ付テノミノコトデアルソレ故ニ其方ノ故障ハ少シモナカラウ只サウ云フコトニナレバ債權者ガ可哀相ダト云フ論ガ起ラウガ併シ乍ラソレハ又別ニ此後トニ目錄ニハアリマセヌガ財產ノ分離權ト云フ者ノ規定ヲ置カナケレバナラヌト思フノデサウ云フ規定ヲ置ク積リデアル相續ノ所デ法典ヲ拵ヘルト云フ必要ハ外ノ事ニ付テハ餘リアリマセヌガ後見トカ家督相續人ノ限定承認ヲ許スト云フヤウナコトガ先ヅ必要デアレバサウ云フ點デアラウト思フ其點ハ何處迄モ思ヒ切ツテ慣習ヲ破ラニヤナラヌモノト考ヘテ居ル
横田國臣君
私ハ能ク存ジマセヌガ「但此期間ハ裁判所ニ於テ之ヲ伸長スルコトヲ得」ト云フ是モ宜シウゴザイマセウガ人ニ依テハ遠イ所ニ往ツテ居ルトカ一寸失踪迄ニハイカヌガ往所ガ分ラヌコトモアラウト思フ其場合ニ三ケ月内ニ出テ來ヌト云フノデ直グ樣其弟ガ相續スルト云フ樣ナコトハヽヽヽヽヽヽヽヽヽ
梅謙次郎君
サウ云フコトハナイ
横田國臣君
其子デモ權ハヌ
富井政章君
ソレハ跡デ始末ガ付ク此章ノ次ニ相續人ノ告知ト云フコトニナツテ居リマスガ此表題ハ少シ事柄ヲ表ハサヌカラ或ハ變ヘルコトニナルカ知リマセヌガ詰リ相續人ノ表ハレナイ時分ノ假處分ガ出來ル
田部芳君
ドウデモ宜イコトデスガ職權ヲ以テヤルト云フ場合ハドウ云フ場合デアリマスカ殆ンドナイダラウト思ヒマスガ
梅謙次郎君
戰爭ニ往ツテ居ル時抔ハ裁判所デ隨分ヤルコトガアル
田部芳君
假ニ斯ウ云フ案ヲ出シマセウ利害關係人又ハ檢事ノ請求ニ依リト云フコトノ案ヲ出シテ置キマセウ
議長(箕作麟祥君)
起草委員ハサウ云フ風ニナツテモ御異議ハアリマセヌカ
梅謙次郎君
宜シウゴザイマス文章ハ整理迄ニドウカヽヽヽヽヽ
田部芳君
ソレカラ第二項ハ何カモウ少シ後トニアツテモ宜サソウニ感ジマスガドウデアリマスカ例ヘバ千五條邊リヲ見ルト此所ヘ繼續ノコトヲ擧ゲテアルノハ少シ餘計ナ妙ナコトガ這入ツテクルヤウニ思フ
富井政章君
此二項ノ事柄ハ末節ニ關係ヲ持ツテ居ラウト思ツテ此處ニ擧ゲマシタ期限ヲ法律ガ與ヘテドチラカニ極メルニハ財產ヲ調査シナケレバナラヌドウシテモ此二ツハ離スコトハ出來ヌモノデアル外國ノ法律ハ殊ニ佛蘭西派ノ法律ハ財產調査ノコトガ一番ニ書イテアツテソレカラ意思ヲ決スルコトガ書イテアル位デアル
井上正一君
富井君モ先刻御述ベニナリマシタガ私モ三ケ月ハ或ハ長イカト思ヒマスソレデ一ケ月デハ少ナイカ知リマセヌガ二ケ月位ニシマセヌト相續人ガ極ラヌソレカラ訴訟ガ起ツテ居ルト云フ場合ニハ夫レガ爲メニ債權者債務者利害關係人ハソレガ爲メニ大ニ利害ノ關係ガアラウト思フソレカラ段々又第一ノ相續人ガ三ケ月考ヘテソレカラ抛棄シテソレカラ第二ノ相續人ガ相續權ノ發生カラ又三ケ月考ヘルト云フコトデアツテハ他ノ債權者等ハ非常ニ困ルト思フソレデ但書モアルコトデアリマスカラ二ケ月トシタイト思ヒマス
田部芳君
贊成シマス
梅謙次郎君
是レハ期間ノコトデアリマスカラ強イテ爭ウ程ノコトデモナイ併シ富井君モ元カラサウ云フ御趣意デモナカツタ樣デアリマスガ富井君ノ口氣ハ自分ガ案ヲ出シテ置キ乍ラ少シ長過ギルヤウニ思フト云フコトデアリマシタガ能ク協議ノ上デ富井君カラ三ケ月ト案ヲ出シテ私ハ贊成シタデアリマスガ併シ期間ノコトデアリマスカラドウデモ宜シウゴザイマスガ實ハ相續スルト云フノハ餘程重イ責任ヲ取ルコトデアリマス當然相續ヲスルコトニシテモ今度ハ限定承認ト云フコトヲ許ス以上ハ限定承認ヲシヤウカ單純承認ヲシヤウカト云フコトニ付テハ隨分考ヘ者ダラウト思ヒマス現行法デモ相續人ヲ定メルニ付テハ六ケ月ト云フ期間ガアリマス是レヨリモ倍長クナツテ居リマス特別ノ事情ヲ申立ルト長ク待ツテ呉レル者ガアルト見エテ私共親戚ニ二年モ待ツテ貰ツタコトガアルサウシテ見ルト三ケ月デ長イト云フコトハナカラウ但書デ裁判所ニ請求シテ伸シテ貰ウコトガ出來ルト云フコトデアリマシタガサウ斯ウシテ居ル中ニ時ガ盡キテ居ルト取返シガ付カヌ一人ガ抛棄シテ又一人ガ考ヘルト六ケ月掛ルト云フノハ誠ニ御尤デアリマスガ其位ノ相續デアリマスレバ價ノナイ相續デアリマスカラ二人モ三人モ出テ來ヤウ併シ此法律デ段々債權者ノ權利ヲ保護シテアリマスカラ長イ間相續ガ極ラヌト云フコトハアリマセヌガ若シサウ云フコトガアルナラバ他ノ規定ガ不十分デアルカラソレヲ直サナケレバナラヌト云フコトニナル私ハ平生短イ方デアルガ此處ハ少シ長過ギル方ガ宜イト思ツテ原案ヲ維持スル
議長(箕作麟祥君)
井上君ノ說ニ贊成ノ方ハ起立ヲ請イマス
起立者少數
議長(箕作麟祥君)
少數、ソレデハ他ニ御發議ガナケレバ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第千二條 相續人カ無能力者ナルトキハ前條第一項ノ期間ハ其法定代理人カ相續權ノ發生ヲ知リタル時ヨリ之ヲ起算ス
富井政章君
此規定ハ旣成法典ニモナク又外國ノ法律ニモアリマセヌ併シ實際ハ本條ニ定メテアル通リニナツテ居ルニ違ヒナイ又サウナクテハナラヌコトト思ヒマス旣ニ一般ノ意思表示ニ關スル九十八條ニモ斯ウ云フ風ニ規定シテアリマス又時效ニ關スル百五十八條百五十九條ニモ是レト同ジ精神ノ規定ガアリマス併シ乍ラ前ノ條ニ於テ相續人ハト書イタ以上ハドウモ文章ノ勢カラ此規定ガナクテハ缺點デアラウト思フテ置イタ丈ケノコトデアリマス
高木豐三君
贊成
議長(箕作麟祥君)
ソレデハ御發議ガナケレバ原案ニ決シマス
(書記朗讀)
第千三條 法定家督相續人ハ抛棄ヲ爲スコトヲ得ス
(參照)取三一七、佛七七五、蘭一〇九一、ツユーリヒ九三〇、西九九二、一項、白草九一〇、獨一草二〇二八、一項
富井政章君
是ハ旣成法典取得編ノ第三百十七條ノ通リデアリマシテ外國ノ法律ニハ一切ノ相續人ハ抛棄ヲ爲スコトヲ得ト云フ規定ガアリマス又サウ云フ規定ガナイ所ハ無論ノコトトシテアリマス夫レハ勿論財產相續ノ制度ノ所デハサウナラナケレバナラヌノデゴザイマスガ併シ乍ラ旣ニ家督相續ト云フコトヲ認メタ以上ハ抛棄ダケハ出來ナイト云フコトニシナイトドウモ公ケノ秩序ニ關スル事柄デアラウト思ヒマスカラドウモ此規定ハナクテハナラヌト考ヘマシタ
議長(箕作麟祥君)
本條他ニ御發議ガナケレバ原案ニ決シテ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第千四條 相續人ハ相續財產ノ一部ニ付キ承認又ハ抛棄ヲ爲スコトヲ得ス
 家族ノ遺產相續人數人アル場合ニ於テハ各其相續シタル部分ニ付キ承認又ハ抛棄ヲ爲スコトヲ得
(參照)蘭一〇九六、伊九五八、ツユーリヒ九四一、二項、九五七、西九九〇、一〇〇七、白草九三一、獨一草二〇三六、同二草一八二七
富井政章君
本條ハ旣成法典ニハアリマセヌ第一項ハ獨逸民法草案カラ取ツタノデアリマス殆ド疑ノナイコトト思ヒマシタケレドモ第二項ヲ置ク可キモノトスレバドウモ並ベテ置イタ方ガ形ガ宜カラウト思フタ第二項ハ先日家族ノ遺產相續ニ付テ分割主義ヲ採ラレマシタ結果トシテ此規定ヲ置クコトニ致シタ最モ嚴確ニ言ヘバナクテモ斯ウナラウト思フ併シ財產相續制ノ行ハレテ居ル國ニ於テモ現ニ反對ノ例ガアル卽チ相續財產ト云フモノヲ恰モ之ヲ物ミタヤウニ見テ相續人ノ意見ガ合ハヌトキハ限定承認ト見ルト云フ樣ナ例ガ二ツモ三ツモアル是ハ矢張リ分割デアレバ相續財產ヲ一ツ々々ニ見テ宜イト思フ實質ハサウデアラウト思フテ此規定ヲ置キマシタ
高木豐三君
私ハ一寸記憶シマセヌガ家族ニ限リマセヌガ詰リ分割相續ノ場合ニハ此義務ト云フ者モ當然ニ數人ニ分擔ニナルト云フコトハ法律ノ明ニ人ヲ待タズシテ極マツテ居ルコトデアリマセウガ家族ノ遺產相續ニ例ヘバ千圓ノ財產ガアル家族ガ二人アレバ五百圓ヅゝ相續スル所デ債務ガ千五百圓アルト分割相續ト云フ事柄ハ制度其物ニ於テモ義務モ自ラ分割スルト云フコトハ法律ノ明文ガナクシテ極マツテ居ルノデアリマスカ
富井政章君
是ハ此前ニ遺產相續ノ規定ガ出來ルノデ凡ソ十ケ條バカリノモノデアリマス穗積君ガ病氣ノ爲メニ延ビテ居リマス
梅謙次郎君
マダ精シイ規定ガ出來ル筈デアリマス
横田國臣君
一項ハ必要ダガ二項ハ削除シタイ
梅謙次郎君
削ルノナラバ寧ロ私ハ全條ヲ削除スルガ宜シイト思ヒマス
長谷川喬君
アツテモ害ハナイ
横田國臣君
全條ヲ削除シテハドウデスカ
議長(箕作麟祥君)
決ヲ採リマセウ全條削除ニ贊成ノ方ハ起立ヲ請ヒマス
起立者半數
議長(箕作麟祥君)
半數、私ハ全條削除ニ贊成シマスソレデハ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第千五條 相續人ハ承認又ハ抛棄ヲ爲スマテハ其固有財產ニ於ケルト同一ノ注意ヲ以テ相續財產ヲ管理スルコトヲ要ス
 裁判所ハ利害關係人ノ請求ニ因リ何時ニテモ相續財產ノ保存ニ必要ナル處分ヲ命スルコトヲ得
(參照)取三二一、佛七七九、七九六、蘭一〇七二、二項乃至一〇七四、伊九六四、二項、九六五、ツユーリヒ九二五乃至九二七、西一〇二〇、白草九一五
富井政章君
此箇條ハ空論デナイカラ削ラレテハ困ル併シ旣成法典ニハナイ此規定ガ實質ハドウデモ旣成法典ニナイノハ大缺點デアルト考ヘマス相續人ハ千一條ノ期間内ニ於テハ一旦ハ相續人デアルケレドモマダ確定相續人デナイ限定承認ヲスルカ抛棄ヲスルカマダ分ラヌ然ラバ債權者トカ義務者トカ云フ者ノ利益モ考ヘネバナラヌ而シテソレ等ノ者ノ爲メニ義務トシテ一定ノ忠義ヲ以テ相續財產ヲ管理セネバナラヌト云フコトニスルガ必要ト思フ旣成法典ノ樣ニ出來ル行爲ヲ掲グルコトハ餘リ必要デナイト思ヒマシタケレドモ出來榮エアル事柄ヲ極メルノハ必要ナコトト思ヒマス只其注意ノ程度ヲ定メルニ付テ迷ヒマシタ佛蘭西法律ハ此通リト考ヘマス如何トナレバ管理ニ付テハ重モキ過失ノ責ニ任ズトアリマス今度ノ法典ニ於テハ輕過失重過失ト云フ字ヲ使ハナイコトニシマシタカラ丁度是迄ノ重過失ト云フノハ自己ノ財產ニ於ケルト同一ノ注意ヲ以テ管理スルト云フコトニナツテ居リマス私ノ考ヘデハ詰リ同ジコトデアラウト思フ之ニ反シテ和蘭民法白耳義民法草案抔ハ一層重イ注意ヲ求メテ居ル卽チ善良ナル管理人ノ注意ヲ以テシナケレバイカヌト云フコトニナツテ居ル獨逸民法草案モ其主義ト解スル如何トナレバ事務管理ニ關スル規定ヲ準用スルトアル事務管理ハ本人ノ利益ニ適合スル方法ヲ以テ管理セネバナラヌト云フコトデアル先ヅ善良ナル管理者ノ注意ト云フコトニナラウト思フソレハサウシタ方ガ宜イカドウカ餘程迷ヒマシタガ先ヅ輕イ方ニシマシタ如何トナレバ確定シナイトハ申スモノノ詰リ自分ノ物ニナツタ自分ノ財產デナイ物ニナルカ知ラヌケレドモ兎モ角モ自分ノ財產デ、ソレニ自分ノ通常用ヒテ居ル注意以上ノ注意ヲ求メルノハ少シ求メ過ギト思フ併シ債權者受遺者ノ利益カラ言ヘバ善良ナル管理者ノ注意トシタ方ガ宜イカ知ラヌソレハ御考ヘ次第私ハドチラデモ異存ハナイ第二項ハ是ハ相續人ガ居ラナイト云フヤウナ場合ニ必要デアラウト思フ居ツテモ手ヲ束ネテ何モセヌト云フ場合ガアルカ知ラヌ此場合ニハ裁判所ガ管財人ヲ命ズル或ハ財產ニ封印ヲシナケレバナラヌト云フコトガアルツユーリヒ民法ニハ隨分精シイ規定ガアルソレデ第二項モ事柄ヲ極メテ書クコトハ却テ惡ルカラウト思ヒマスソレデ斯ウ云ウ風ニ漠ト書キマシタ
奧田義人君
一寸質問シマスガ此相續人ガ承認又ハ抛棄ヲ爲ス迄ノ間ハ遺產ノ所有物ガ極マラズニ居ル樣ニ見ヘルノデアリマスガソレハ何カ相續人ノ所有物ト看做スト云フ樣ナ原則ハ立テ置カナクテモ是デ宜シイモノデアリマセウカ
富井政章君
ソレハ斯ウ云フコトデ見ヘルダラウト思ツタ先ヅ此處デ言ヘバ受諾ト云フコトヲヤメテ承認ト云フ言葉ニシタソレカラ家督相續ト云フ所ニ相續開始ノ時ヨリ一切ノ權利義務ヲ承繼ストアルアスコハ財產上ノ權利義務ヲ含ム積リデアリマスソレガ直ツテ家督相續ハ財產外トナツテ遺產相續ノ所ニ相續人ハ相續開始ノ時ヨリ一切ノ權利義務ヲ承繼ストナルカモ知レマセヌ一應ハ相續人ノ物デアルト云フコトハ十分ニ見エルト思フ
奧田義人君
果シテサウ云フコトデアレバ千五條ノ第一項ハ要ラヌコトニナリハシナイカ「承認又ハ抛棄ヲ爲スマテハ其固有財產ニ於ケルト同一ノ注意ヲ以テ」ト云フコトデアリマスカラ其承認又ハ抛棄ヲ爲スマデ矢張リ相續人ノ財產ナラバ自己ノ財產ト同一ノ注意ヲ以テ爲スコトハ要ラヌ
富井政章君
是ハ義務デアリマス自分ノ財產デアレバ規定ガナケレバ打壞ハサウガドウシヤウガ存分ニ出來ルガ是丈ケノ注意ヲ用ヒナケレバナラヌト云フ義務ヲ持タシタソレカラ固有財產ト云フ字ヲ初メテ用ヰマシタ奇妙ナ字デアリマスガ已ムヲ得ヌ初メハ特有財產トシタ所ガ矢張リ相續人ノ財產デアルサウシテ共有ニ對スルヤウニ見ヘテイカヌ此案デハ共有主義ヲ認メタノデアリマセヌカラ先ヅ固有トシマシタ
奧田義人君
ソレガ一體私ニ分ラヌ只諸國ノ法律ニ自己ノ財產ト同一ノ注意ヲ以テト云フコトガアリマスガ自分ノ財產ハ勝手ニ爲シ得ルソレト同一ノ注意ヲ以テ相續財產ヲ管理スルト矢張リ勝手次第ニ爲シ得ルト云フ結果ガ生ジハシナイカト云フ疑ヒガアリマスガ、ソウ云フヤウナ疑ハ生ゼヌモノデアリマセウカドウデアリマセウカ
富井政章君
「要ス」トアルカラドウモ其點ハ大丈夫デアラウト思フ