明治民法(明治29・31年)

法典調査会 第166回 議事速記録

参考原資料

第百六十六回法典調査會議事速記録
出席員
箕作麟祥君
本野一郎君
土方寧君
田部芳君
高木豐三君
穗積八束君
淸浦奎吾君
井上正一君
穗積陳重君
富井政章君
梅謙次郎君
南部甕男君
磯部四郎君
中村元嘉君
議長(箕作麟祥君)
夫レデハ會議ヲ開キマス蒟蒻摺ノ「第九百五十一條第一項ノ」云々あれカラ始メマス
(書記朗讀)
修正案  起草委員提出
第九百五十一條第一項ノ「直系ノ血族」ノ下ニ「及ヒ兄弟姉妹」ノ六字ヲ加ヘ第三項及ヒ第九百五十二條ヲ削ルコト
議長(箕作麟祥君)
之ハドウデスカ此次モ牽連シテヤツテハ
富井政章君
ドウカサウ願ヒマス
(書記朗讀)
第九百五十六條(舊)ノ次ニ左ノ一條ヲ置クコト
第九百五十六條 扶養ノ義務ハ扶養ヲ受クル必要アル者カ自己ノ資產又ハ勞務ニ依ツテ生活ヲ爲スコト能ハサルトキニノミ存在ス自己ノ財產ニ依リテ教育ヲ受クルコト能ハサルトキ亦同シ兄弟姉妹間ニ在リテハ扶養ノ義務ハ扶養ヲ受クル必要カ之ヲ受クヘキ者ノ過失ニ因ラスシテ生シタルトキニノミ存在ス
第九百五十八條(舊)ト第九百五十九條(舊)トヲ轉置スルコト第九百六十條(舊)ノ「方法又ハ程度」ヲ「程度又ハ方法」ト改ム
富井政章君
此修正案ハ幾ツニモ爲ツテ居リマスケレドモ其實ハ一ツデアリマス前回活版ノ第九百五十九條ヲ議スルトキニ第二項ノ書キ方ガ穩カデナイト云フ說ガ出マシタ夫レカラ延テ前ノ第九百五十一條第三項及ビ第九百五十二條カラ修正シテ掛ラネバナラヌト云フコトニ爲リマシタ遂ニ其說ガ多數ニ爲ツテ此修正案ヲ提出スルヤウニ爲リマシタ何ゼ原文ガ惡ルイカト云フニ第九百五十九條ノ第二項ノ「生活」ト云フ言葉ヲ狹イ意味ニ使ツテアリマス命ヲ繋グト云フ丈ケノ意味ニ使ツテアリマス而シテ扶養義務者ハ衣食住、藥代等ノ外ニ教育モセネバナラヌト云フコトガ書テアリマス然ニ第九百五十一條ノ第三項及ビ第九百五十二條抔ニ於テハ生活スルコト能ハザルトキノミニ扶養ノ義務ガ存在スルトアリマスサウシテ看レバ命ヲ繋グ丈ケノ方法ガ無イ場合ニ扶養ノ義務ガアルト云フコトヲ言フテ居リマス九百五十九條ニ依レバ其場合ニデモ教育費ガナケレバ教育費丈ケヲ請求スルコトガ出來ルト云フコトニ爲ラネバナラヌノニ九百五十一條及ビ九百五十二條ニハ其場合ニハ卽チ苟モ衣食住ノ費用サヘアレバ全ク扶養ヲ受ケル權利ハ無イト云フ風ニ書テアリマス夫レデハ衝突デアルト云フ說デアツテ成程言葉ノ上カラ言ヘバ御尤モ千萬デアリマス夫故ニ其時ニ斯ウ云フ風ニシテハドウデアラウト申シマシタ九百五十一條九百五十二條ノ「生活」ト云フ字ノ意味ハ矢張リ其處ニ於テハ極メズシテ九百五十九條ノ「生活」ト云フ字ヲ削リ「扶養權利者ノ教育ノ費用ヲ負擔ス」ト書テハドウデアラウカト云フコトヲ申シマシタ所ガドウモ「生活」ト云フ言葉ハ教育マデモ含ムト云フ意味ニ解シ惡クイカラシテドウシテモ前カラ變ヘテ來ネバ往カヌト云フ說デアリマシタ夫レモ能ク考ヘテ見レバ御尤モデアリマス其趣意デ原案ヲ直サウトシマスルト餘程規定ガ煩シク爲リマスルケレドモドウモ致方ガナイノデ先ヅ今日提出致シマシタ修正案ノヤウニスレバ宜カラウト思ヒマス卽チ九百五十一條ノ「直系ノ血族」ノ下ニ「及ヒ兄弟姉妹」ノ六字ヲ加ヘマシテ夫レカラ第三項ト九百五十二條ノ規定ヲ削リマスサウシテ原トノ九百五十六條ノ次ニ修正案第九百五十六條ヲ置クコトニシタラ宜カラウサウスレバ本章ノ組立ガドウ爲ルカト言ヘバ先ヅ扶養義務者ヲ擧ゲル夫レカラ順位ヲ定メルサウシテ其事ガ濟ンダ上デ扶養ヲ受ケル條件ヲ定メタノガ穩當デアラウト云フコトデ前ニアリマシタ云々「存在ス」ト云フ規定ヲ順位ノ次ニ持ツテ往ツタ方ガ宜カラウト思ヒマス「生活」ト云フ言葉ハ何處マデモ狹マイ意味ニ使ツテ其上ニ教育ノ事ヲ言ヒ原トノ九百五十二條ノ規定ハ第二項トシテ入レル其書キ方ハ復タ「生活、教育」ト繰リ返ヘスノハ苦毒アリマスカラシテ斯ウ云フ風ニ書イタラ宜カラウト云フ考デアリマス序デニ申上ゲテ置キマスルガ少シ誤リマシタ「扶養ノ義務ハ扶養ヲ受クル必要アル者カ」トアリマスガ之ハ「扶養ノ義務ハ扶養ヲ受クヘキ者カ」ト改メテ貰ヒタイ意味ハ旣ニ極ツテ居ルノデス扶養ヲ受クベキ人ハ極ツテ居リマス夫レカラ終リノ二箇條ニ付テ說明致シマス少ナクトモ一箇條今ノヤウニ順位ノ後トニ扶養ノ義務ヲ存在スル場合ヲ示ス所ノ規定ヲ置ク以上ハ扶養ノ方法ニ關スル規定ヨリモ扶養ノ程度ニ關スル規定ヲ前ニ置テサウシテ存在ノ場合ニ關スル規定ニ直チニ繼ガシメル方ガ體裁ガ宜カラウト思ヒマシテ原トノ九百五十八條ト九百五十九條トヲ轉置スル意見ヲ提出致シタ譯デアリマスサウシテ見レバ其次ノ九百六十條ノ「方法又ハ程度」ト云フノハ「程度又ハ方法」ト言フタ方ガ善ク爲ル
土方寧君
前回ニ此黒字ノ九百五十九條ノ二項カラシテ九百五十一條ノ三項ニ牽連シテ議論ノアツタトキニ私ハ此九百五十九條ノ二項ハ削除シタラ宜カラウト云フ說ヲ提出致シマシタガ九百五十一條ニ牽連シテ文章ハ尙ホ考ヘテ見ヤウト云フコトデ決定ハセヌデアリマシタガ今日御提出ニ爲ツタ修正案ヲ拜見スルト是デ意味ハ宜シイト思ヒマスガサウシテ見ルト黒字ノ九百五十九條ノ第二項ハ益々無クテ宜シイヤウニ思ヒマス此九百五十九條ノ二項ハ一項ノ「需要」ト云フ中ニ「教育」ト云フモノモ這入ルト云フコトヲ一ツハ示シ又モウ一ツハ何カ教育ニ關スル特別ノ規則デモアツタ時分ニ其方ノ特別ノ規則ニ依ルト云フコトニスルト云フ此二ツノ目的デ此二項ノ本文ト但書ガ出來テ居ル此一項ノ「需要」ト云フ中ニ「教育」ガ這入ルト云フコトハ今日御提出ノ紫字ノ九百五十六條ニ依ツテ自カラ分ル夫レデ「需要」ノ說明次第デ此二項ハ要ラヌヤウニ爲リマスサウシテ此二項ガアルノガ宜シイカドウカト云フ少シ疑ヒノアルノハ二項ノ但書ノ意味デアリマス乍併之ハ別ニ但書ヲ置カヌデモ民法ノ扶養ノ所ノ規定ト夫レカラ教育會トカ何レトカ云フ外ノ特別ノ教育ニ關スル規定デ或ハ又兄トカ戸主トカニ教育ノ費用ヲ出ス義務ガアルト極メテアル特別ノ規則等ノ關係カラ言ヘバ無論夫レハ特別法ト民法ト教育費ノ負擔者ガ違ウトキニハ特別法ニ據ルベキモノデアラウト思ヒマス二項ノヤウニ書テ見ルト云フト或ハ疑ヒガ起ル夫レデ但書モ附ケナケレバナラヌヤウニ爲リマス二項ハ本來一ツノ理由ヲ「需要」ト云フ中ニ教育ガ這入ルト云フコトヲ說明スルコトニ爲ツテ居ル其方ハ今日ハ不用ニ爲ツテ居ルサウスレバ二項全部ハ削ツテ置イタ方ガ適當デアルヤウニ思ハレマスカラ前回ニ申シタ二項削除ノ理由ガ尙ホ強ク爲リマス二項ガ無クテモ紫字ノ九百五十六條デ以テ「需要」ト云フ字ノ中ニ教育ト云フモノガ這入ルコトニ爲ツテ居リマス夫レデ二項削除ノ動議ヲ出シマス
議長(箕作麟祥君)
修正シタ結果或ハ削除說ヲ出スカモ知レヌト云フコトデアリマシタ
土方寧君
削除ニ爲ラナカツタ
議長(箕作麟祥君)
採択シヤウト思フタラ夫レヨリ前ヲ改メルカラ削除セヌデモ宜シイカモ知レヌト云フコトデアリマシタ
高木豐三君
マダ贊成ハアリマセヌガ私ハ前回ニ缺席ヲシマシタカラ起草者ニ此紫字ニ拘ハラズ矢張リ第二項ガ必要デアルト云フ理由ヲ一寸御說明ニ爲ルコトヲ願ヒマス
富井政章君
マダ制規ノ贊成ガアリマセヌカラ辯論スル必要ハアリマセヌケレドモ只今ノ御註文モアリマスルシ旁々說明ニモ爲リマスルカラ簡單ニ申シマス第二項ヲ削ラウカトモ思フタノデス此修正案ヲ書クトキニ――――併シ矢張リ置クコトニシマシタ理由ハ二ツアリマス其第一ハ實質ガ變ハルコトニ爲リマス夫レヲ覺悟ヲシナケレバナラヌ卽チ文部省令ニ據レバ學齢兒童ノ教育費ト云フモノハ詰リ戸主ガ拂ハネバナラヌト云フ風ニ極ツテ居リマス唯ダ其戸主ニ對シテ徴收スルト云フヤウナ書キ方デハナイ「戸主之ヲ負擔ス」ト書テアリマス全ク其結局ノ負擔ノヤウニ爲ツテ居リマス、所ガ民法ノ本章ノ規定ニ據レバ戸主ヨリモ先キニ扶養ノ義務ヲ負擔スル者ガアリマス其場合ニ若シ但書ヲ置カネバ文部省令ガ效力ヲ失フト云フコトニ爲ツテ其場合ニハ戸主ヨリモ順位ノ前ニアル者ガ教育費ヲ拂ハネバナラヌト云フコトニ爲リマス但書ヲ置ケバ文部省令ガ生キテ民法ノ規定ニ拘ハラズ學齡兒童ノ教育費ハ戸主ガ拂ハネバナラヌト云フコトニ爲リマス實質ハ私ハ文部省令ガ死ヌル方ガ宜シイト思ヒマス如何トナレバ苟モ民法ニ於テ戸主ヨリモ先キニ配偶者トカ直系尊屬トカ――――戸主ヨリモ先キニ扶養ノ義務ヲ負フ者ヲ定メタ以上ハ――――而シテ扶養ノ義務ト云フモノハ衣食住ノ外ニ教育費マデモ含ムト定メタ以上ハサウ云フ者ガアル場合ニハ戸主ヨリモ先キニ負擔スルト云フコトニスルノガ民法ノ主義ヲ貫イテ至當ノコトデアラウト思ヒマス絶對的ニサウセヌデモ兎ニ角民法上ノ結局ノ負擔ト云フモノハサウ云フ風ニシテ戸主ヨリモ順位ノ前ニ在ル者ガ教育費ヲ負擔セネバナラヌト云フコトニシテサウシテ文部省令ヲ變ヘテ貰ツテ唯ダ徴收丈ケ―――――租税抔ニ付テ能クアルコトデアリマス彼ノ「負擔ス」ト云フヤウナ字ヲ變ヘテ貰ツテ唯ダ徴收丈ケハ戸主ニ對シテ取ルト云フヤウナコトニシテ貰ツテモ丸デ文部省令ヲ生カスヨリハ宜シイト思ヒマス乍併此處デサウ極メテ仕舞ウノハ隨分大膽ノ事デアリマス愈々サウスルニハ文部省トモ協議ヲシテ實際教育行政上ニ於テ不都合ガ無イ夫レデ宜シイト云フコトヲ慥メタ上デスルノナラバ宜シイガ此處デサウ極メテ民法實施ノ結果トシテ當然一言ノ相談モナシニ文部省令ガ死ンデ仕舞ウト云フコトニスルノハ少シ穩カデナイダラウト思ツテ先ヅ生カス方ノ主義ヲ採ツタノデアリマス併シ夫レハ私ハ死ヌ方ガ宜シイト思ヒマス丸デ死ナズトモ徴收丈ケノコトニデモスル方ガ宜シイト思ヒマス併シサウ云フ譯デ極穩カニ障ラヌ方ガ穩當ト云フ位ノコトデアリマス又今一ツノ理由ハ之ハ吾々一同ヲ代表シテ言フコトデハアリマセヌガ私一人ノ考デ小サナ理由デアリマス神經カラ來タ理由デアリマス前ニ極ツテ居ラナイ土方君ハ極ツテ居ルト言ハレマスケレドモ前ニ何カ極ツテ居ルカト云フト扶養ノ義務ト云フモノハ生活ヲ爲スコト能ハザル場合ニ存在ス教育ヲ受クルコト能ハザル場合ニ存在スサウシテ其場合ニ扶養ノ義務者ハ何ヲ與ヘナケレバナラヌト云フコトハ極ツテ居ラヌ夫レハ自カラ教育ヲ受ケルコトノ出來ヌトキニハ教育費ト云フコトハ來ルケレドモ其文章ノ上カラデス嚴酷ニ讀メバ來ナイ夫レデアリマスカラドウ云フ場合ニ存在スト云フ事トドレ丈ケノモノヲ與ヘナケレバナラヌト云フ事トハ別々ノ事デアルカラ言フテ置ク方ガ理窟ガ正シイデアラウト云フ丈ケノコトデアリマス
田部芳君
九百五十九條ノ第二項ノ規定デアリマスガ前ノハ今日御提出ニ爲リマシタ九百五十六條ノ第一項ノ末段ノ如キ規定ガナカツタカラシテ其處デ此第二項ニ持ツテ往ツテ「前項ニ定メタル範圍内ニ於テ扶養權利者ノ生活ニ必要ナルモノノ外」ト云フコトモ尙ホ必要デアツタラウト思ヒマス夫レデ今日御提出ニ爲ツタヤウナ九百五十六條ノ第一項ノ末段ノ如キモノガアルト或ハ不必要ニ爲リハシナイカト考ヘラレマスガ夫レトモ尙ホ必要ガアツテ前回ニモ議論ガアリマシタニ拘ハラズ尙ホ存セラレルノハ尙ホ外ニ理由ガアルノデゴザイマセウカ夫レガ伺ヒタイ一ツデアリマスモウ一ツハ此九百五十六條ノ第一項ノ中段ニ「自己ノ資產又ハ勞務ニ依リテ生活ヲ爲スコト能ハサルトキ」トアツテ終リノ方ニハ「自己ノ財產ニ依ツテ」トアルノハ何カ區別スル必要ガアツタノデスカ其意味ヲ伺ヒマスガ
富井政章君
第一ノ御問ヒハ深イ理由ハアリマセヌ強テ主張スル程ノ事デモアリマセヌ第二ノ點ハ教育ト云フモノハ扶養權利者ガ誰レデアツテモセネバナラヌト云フモノデハナイ之ハ年ノ往カナイ者學齡兒童、本邦ニ於テハサウ狹マクシテ居ナイ中學、大學マデモ往ケルヤウニ爲ツテ居リマスガ夫レニシテモ五十、六十デ大學ニ往ク者ハナイサウ云フモノデス稼デ教育費ヲ拵ヘル――――出來ル場合ガアルカモ知レヌ夫レハ或ハ其位ノ年齡ニ在ル者ハ稼ゲバ稼グ丈ケ教育時間ガ少ナク爲ルカラ勞力デ教育費ガ出來テモ夫レハサウシナイ方ガ宜カラウサウシテ看レバ財產丈ケデ宜シイ
田部芳君
「資產」ト「財產」トヽヽヽヽヽヽヽヽヽ
富井政章君
之ハ同ジニシナケレバナラヌ
議長(箕作麟祥君)
ドツチガ宜シイノデスカ
富井政章君
「資產」ノ方ガ宜シイヤウデアリマス
梅謙次郎君
「資產」ノ方ガ穩カナヤウデアリマス
土方寧君
私ハ同ジ事ヲ繰リ返ヘスヤウデハアリマスガ先刻ノ削除說ニ付テ簡單ニ申シマスガ今御說明モアリマシタニ依ツテ分リマシタ富井君ハ黒字ノ九百五十九條ノ二項ヲ必要トシテ終リニ仰ツシヤツタ事ハ別ニ言フマデモナイト思ヒマス初メノ文部省令トノ關係ノ事デアリマスガ此法律モ出來タ後ニ文部省令ト云フモノハ出來ヌニ相違ナイ又前ニアル省令モ消エテ仕舞ウニ相違ナイ若シ消エナケレバ夫レハ自カラ消エル運命ニ任カシテ宜シイ或ハ施行條例ノ中ヘ一箇條トシテ省令トノ關係ハドウスルカト云フコトハ其時ニ文部省ト協議スベキ事ハ協議シテモ宜シイト思ヒマス夫レデ私ノ考ヘル所デハ此法令ノ令ニ付テハ心配ハ無イト思ヒマス其外ニ特別法ガアレバ無論夫レニ據ラネバナラヌドウモ第一ニ仰ツシヤツタ一般ノ起草委員ノ三人ノ代表セラレタ一ツノ理由ト云フモノハドウモ此二項ヲ存スルト云フ理由ニ爲ラヌト思ヒマス原トノ案ニ據ルト「需要」ト云フ中ニハ教育費ガ這入ルト云フコトハ明瞭デナカツタ夫レヲ說明スルト云フヤウナコトデアツタ夫レハ消エテ仕舞ツタ、モウ再ビ申シマセヌガドウカ二項削除ノ說ニ贊成ガアツテ成立ツコトヲ希望致シマス
富井政章君
私ハ贊成シテ置カウ
穗積陳重君
文部省令ハ殘スト云フコトデアリマスカ
土方寧君
夫レハ其時ニ文部省ニ問合セテ殘スト云フコトナラバ殘ス
田部芳君
第二項削除說ガ出マシタガ其說ガ通レバ私ノ言フ所ノ事ガ無用ニ爲ルカモ知レマセヌケレドモ矢張リ此第二項ノ「前項ニ定メタル範圍内」ト云フ事ガアツテ此省令ノ問題ニ爲ツテ居リマスケレドモ夫レハ但書ニアルケレドモ夫レ計リデハナイ第二項ノ規定ハ矢張リ範圍ト云フモノモ同時ニ此第二項デ極ツテ居ルノデハナイカト思ヒマス之ヲ置ク以上ハ――――第二項ヲ置クト範圍ガドウカト云フコトガ矢張リ分ラナク爲ルト云フコトニ爲リハシマスマイカ矢張リ範圍ト云フモノガ極ツテ居ル方ガ宜シイト思ヒマス乍併先程御尋ネヲシマシタケレドモ別ニ深イ理由ハ無イト云フコトデアリマスガ前回ニモ出タ議論デアリマスガ今日ノ如キ修正ニ爲ル以上ハ愈々以テ「範囲内ニ於テ」ノ後ト「扶養權利者ノ生活ニ必要ナルモノノ外」ト云フ事丈ケヲ削ツテ然ルベキト考ヘマスカラ夫レ丈ケヲ削除スル說ヲ出シマス
富井政章君
「範圍内」ハ活カスノデセウ
田部芳君
サウデス「其教育ノ費用ヲ負擔ス」ト云フコトニシタイ之ハ元トハ扶養ノ義務ノ中ニ教育費ヲ入レルト云フ意味デアツタラウト思ヒマス併シ夫レハ今日ハ其意味ガ顯ハレテ居リマスカラ詰リ必要ハ無カラウト思ヒマス
富井政章君
之ハドチラニ爲ツタ所ガ意味ハ變ラナイ唯ダ體裁丈ケデアル體裁ハ却テアツタ方ガ宜シイト思ヒマス九百五十六條ニ生活ト教育トヲ別ニ分ケテ書イタ以上ハ此處丈ケ教育ヲ含ム―――――教育ヲ含ムト云フコトハ土方君モ言ハレタ通リ前ノ文章ニ顯レテ居ルト言ヘル位デアリマス、ケレドモ其生活費モアリ教育費モアル恰度前ニ對シテ竝ベテアツタ方ガ宜シイヤウデアリマス之ハ全ク感ジ論デアリマス
議長(箕作麟祥君)
サウスルト田部君ノ御說ハ「範圍内ニ於テ扶養權利者ノ教育費用ヲ負擔ス」ト爲ルノデスカ
田部芳君
サウデス
高木豐三君
起草者皆贊成ト云フコトナラバ撤回シタラドウデスカ
議長(箕作麟祥君)
富井さん丈ケデセウ
梅謙次郎君
私モ贊成シテモ宜シイ
高木豐三君
皆撤回シタ方ガ宜シイ
富井政章君
ソンナ混雜ヲシタ事ヨリモ決ヲ採ツタ方ガ早イ
議長(箕作麟祥君)
夫レデハサウシマセウ
富井政章君
之ハ重キヲ置クコトデハアリマセヌ初メカラドチラデモ宜シイ穩カニスルガ宜シイト云フ方カラ言ヘバ但書ヲ置ク方ガ宜シイケレドモ行政上ノ都合ヲ構ハズニ民法デヤルト云フ方カラ言ヘバ但書ノ無イ方ガ宜シイ、ケレドモ如何ニモ戸主ヨリモ前ニ教育費ヲ負擔スル者ガアルサウシテ扶養ノ義務ヲ負擔スル者ガアルト極メテ置テサウシテ扶養ノ義務ノ中ニハ教育費モ含ンデ居ルト言フタ以上ハドウシテモ例外ガ意味ガ無イサウシテ又規定ガ無クテモ順位ノ問題デ戸主ヨリ前ニ負擔スル者ガ這入ラヌトキハずツト下ガツテ往ツテ戸主ノ所ニモ往ク
高木豐三君
向フノ省令ノ方ヲ改正サスト云フ勇氣ヲ出シテ御極メニ爲スタラドウデス無論ノ話シデアル民法ガ極ツタ以上ハ無論ノ話シ
穗積八束君
一寸質問シタイノデマリアス詰リ今ノ教育ノコトヲ御決議ニ爲ル前ニ一言シテ置キタイノデスガ教育ノ方デ戸主ニ授業料ヲ負擔サスト云フコトハ固ヨリ扶養ノ義務デハアリマスケレドモ併シ省令ヲ活ストカ殺ストカト云フ議論ニ爲ルト少シ議場デ參考ヲシテ貰ハナケレバナラヌ事ガアリマス夫レハ單ニ扶養ノ義務ヲ教育會ニ定メルト云フコト計リノ御精神デハナクシテ是非教育ヲ受ケサスト云フ趣意デ成程民法ノ關係カラ言ヘバ夫レハ未成年者ヲ扶養スルノデアリマセウケレドモ教育ノ方カラ見マスルト云フト矢張リ國家ニ對シテ國庫ノ費用ヲ負擔スルヤウナ鹽梅ニ是非教育ヲ受ケサス丈ケノ費用ヲ負擔スルノデアリマスカラ少シ教育ノ授業料ヲ負擔セシメルト云フ行政ノ法律ト唯ダ當事者ガ嫌ヤナラバ抛棄シテ宜シイト云フ扶養ノ權利トハ少シ違ヒマスカラシテ其結果ニ直チニ其方ニ爲ルヤウデアツテハ私ハ心配デアリマスカラ其處ハドウカ注意シテ御決議ニ爲ランコトヲ希望致シマス夫レカラ一寸只今ノ御說明ニ付テ意味ヲ伺ヒタイノデアリマスガ先刻ノ御話シニ教育ヲ受ケルト云フコトハ自分ガ働テ教育ノ費用ガ取レヌトキニ教育費ヲ附與シテ貰ウノデナクシテ自分ニ錢ガ無ケレバ働ケバ授業料位ハ必ズ取レルト云フ時分デモ授業料丈ケハ出シテ貰ヘルト云フヤウナ御說明ノヤウデアリマシタガサウスルト實際ドウ云フ事ニ爲ルノデセウカ生活ガ出來ヌカラト云フノデ扶養シテ貰ウノハ自分ニ財產ガ無イ働テデナケレバ喰ヘヌト云フヤウナ場合デナケレバ扶養ヲ受ケルコトハ出來ヌ殊ニ子供デアツテ丁稚奉公デモスレバ喰ヘルガ併シサウスレバ學校ニ往クコトガ出來ヌト云フヤウナトキニハ勞務ニ依リテ生活スルコトハ出來ルガ矢張リ扶養ヲシテ貰ウコトガ出來ルト云フ御趣意デアラウト思ヒマスガサウ解釋シテ宜シイノデアリマスカ
富井政章君
先刻ノ私ノ說明ガ果シテ御採用ニ爲ルモノナラバ年ノ往カヌ者ガ喰フ丈ケノ財產ヲ持ツテ居ラヌ併シ働ケバ飯ヲ喰フ丈ケノコトハ得ラレルサウ云フ場合ニハ此修正案ノ第一項ノ上段カラ言ヘバ扶養ノ義務ハ受ケルコトハ出來ナイ下段カラ言ヘバ殊ニ私ノ先刻ノ說明ニ依レバじツとシテ居ツテ喰ハシテモ貰ヒ學校ニモ往ケルト云フコトニ爲ラネバ往カヌ夫レハ少シ考ヘサセテ貰ヒマセウ或ハ文章ガ善クナイカモ知レマセヌ
井上正一君
此九百五十九條ノ第二項ニ付テ私ハ尙ホ少シ疑ヒガ生ジマシタガ此但書デアリマス此但書ハ起草者ガ御同意ニ爲レバ私ハ削除ニ爲ル方ガ宜シイト思ヒマス此但書ハ何ンデアリマスカ御說明ノ外ニ意味モアルヤウニ讀メハシマスマイカ卽チ「扶養義務者ハ前項ニ定メタル範圍内ニ於テ其教育ノ費用ヲ負擔ス」トアツテ其方ノ但書ノヤウニ見エハシマスマイカ却テ此處デハ扶養義務者ノ順位ノ方ガヽヽヽヽヽヽ
富井政章君
成程色々ニ讀メルモノモ澤山アリマスカラサウ云フ風ニ讀メルカモ知レマセヌガ多數ハサウハ讀ムマイト思ヒマス
梅謙次郎君
サウ云フ法令ガアレバ宜シイ、サウ云フ法令ハ多分ハナカラウト思ヒマス例ヘバ「戸主之ヲ負擔ス」ト云フコトニ付テハ一體制限ハ無イサウスルト普通教育ト云フモノハドンナ貧乏人デモ極端ヲ言フト自分ハ喰ハナイデモヤラナケレバナラヌト云フヤウナコトニ爲ルデセウ文部省令ハ、併シ夫レハ矢張リ其點ニ付テハ例外ダト言フカモ知レヌ
議長(箕作麟祥君)
夫レデハ決ヲ採ツテ宜シイト思ヒマス之ハドウシマスカ紫字ノ九百五十六條ニ付テ今八束君ノ御說モアリマスガ
高木豐三君
今ノ八束君ノ御說ヲ至極御尤モト思ヒマス今日ノ教育ノ主義カラ言ヘバ學齡兒童ノ就學ノ年ニ學問ヲサセルト云フコトハ全ク私法上ト云フヨリハ寧ロ公法的ノ義務トシテ法律ガ見テ宜シイト思ヒマス斯ウ云フ解釋ハ起草者ノ方デハ御許シニハ爲ラヌモノデゴザイマセウカ如何デゴザイマセウカ所謂公法ノ上カラ見タトキニハ入學ヲサス事及ビ其授業料ノ義務ヲ背負ツテ居ル負擔シテ居ル乍併其私法上ノ財產上ノ關係ニ付テ親ニ財產ヲ持ツテ居ル者ガアレバ矢張リ戸主カラ夫レニ向ツテ請求スルトキニハ夫レハ私法上ノ關係カラシテ取レルト云フ斯ウ云フコトハ言ヘヌノデゴザイマセウカ如何デゴザイマセウカ
富井政章君
夫レハ言ハナイヤウニ書テアル「戸主ヨリ之ヲ徴收ス」ト書テアレバ宜シイガ「戸主之ヲ負擔ス」ト書テアルカラドウモ民法ノ規定ト衝突スルヤウニ爲ル
高木豐三君
サウスルト民法デ省令ヲ壞ハスヤウニ爲リマセウカ
富井政章君
法律ノ規定ト省令ノ規定ト衝突ヲシテ居レバ省令ノ方ハ效力ヲ持タナイ法律ト衝突シテ居ラヌモノナラバドンナ省令デモ設ケラレマスケレドモ現ニ此場合ニハ但書ヲ削レバ民法ト省令ト衝突ヲスル
高木豐三君
夫レハドツチガ勝チマスカ
富井政章君
無論民法ガ勝ツト思ヒマス夫レ丈ケノ事ハ覺悟ヲシナケレバナラヌ施行條例トカ何カニ規定ヲ置カナケレバ
梅謙次郎君
只今ノ此但書ニ付テハ大分疑ヒガアルヤウデアリマスカラ一寸私ノ意見ヲ簡單ニ申述ベマスガ私ハ一體此但書ハ初メカラアツテモ差支ナイト思ヒマシタケレドモ是非ナケレバナラヌト云フ程ニハ思ハナカツタノデアリマス夫レデ自分ノ知ラヌ法令ガアルカモ知レマセヌカラ夫レニ付テハ何ントモ申スコトハ出來マセヌガ只今頻リト議論ニ爲ツテ居ル二十四年ノ文部省令ハ私モ曾テ調ベタ事ガアリマスガあれハ憲法實施後ニ出テ居ルノデスカラ卽チ法律ニ勝ツ力ヲ持ツテ居リマセヌあれハ此法律ガ出レバ效力ヲ失フモノト私ハ信ズル解釋上―――――乍併實際ノ上ニ於テドウカト申スト私ハ其方ガ宜シイト思ヒマスドウモ戸主ガ負擔スベキモノト云フヤウニ民法上ノ義務ヲ省令抔デ極メルノハ宜シクナイト思ヒマス唯ダ文部省令デ極メルコトノ出來ルノハ今高木君ノ言ハレタヤウニ學校ナラバ學校ト云フモノハ戸主カラ取立テルコトガ出來ルト云フ位ノコトハ或ハ極メルコトガ出來ルカモ知レヌサウ云フコトハ極メラレタ方ガ便利カモ知レマセヌガ兎ニ角負擔スベキ者ヲ文部省令デ極メルト云フノハ穩當デナイト思ヒマス夫レデ私ハあの省令ハ此法律ガ出ルト同時ニ變ヘラレルコトヲ希望シテ居ルノデアリマス夫レデアリマスカラ私ハアツタ方ガ大丈夫ト言ヘバ大丈夫デスカラ此案ニ異議ヲ申立テナカツタノデアリマスケレドモ外ノ文章抔ノ都合カラ愈々此二項ガ少シ蛇足ノ嫌ヒガアルノデアリマス夫レデ序デニ削ツテ貰ツテ―――――夫レトモ文部省デ差支ヘルト云フコトデアレバ一ツ施行條例ニ差支ナイヤウナ條項ヲ設ケルコトガ出來ルト云フコトデアレバ削ツテ置テモ差支ナイト思ヒマス夫レカラ此九百五十六條ノ一項ノ解釋ニ付テ私ノ意見ヲ申シマスガ八束君ノ御考ハ誠ニ御尤モデアリマシテ文字ノ儘デハ無論資產又ハ勞務ニ依リテ生活ヲ爲スコト能ハザルトキデナケレバ存在セナイト斯ウ書テアリマスカラ其方ハ勞務デ生活ガ出來レバ宜シイヤウニ見エル、ケレドモ「自己ノ資產ニ依リテ教育ヲ受ケルコト能ハサルトキ亦同シ」ト書テアリマスカラサウスルト此場合デモ矢張リ扶養セラレル筈ノ者ジヤト爲ツテ居ルト詰リ年齡ガ往カヌデ教育ヲ受クベキ有樣ニ在ルヤウナ者ハ丁稚奉公ヲスレバ喰フコトモ出來内ノ厄介ニ爲ラヌデ濟ム者デアツテモ此丁稚奉公ヲシナイデサウシテ教育ヲ受ケル丈ケノコトハ若シヤ親ノ資產等ガ許スナラバ請求スルコトハ出來ルダラウト思ヒマス其方ガ一體ハ宜カラウト思ヒマス年齡ノ往カヌ者デ親ニ資力ガナケレバ仕方ナイ到底資力ニ應ジタ事シカ出來ヌケレドモ資力ノアル者デアツテ而シテ子供ハ厄介ダカラ何處ニカヤツテ仕舞ツテ自分ノ世話ヲ免レヤウ丁稚抔ヲサセテサウシテ自分ノ世話ヲ兎レヤウト云フヤウナ―――――教育ノ目的ヲ以テヤルノハ宜シイ修業ナラバ宜シイガ唯ダ喰フ爲メノ方ナラバシナイ方ガ宜シイト思ヒマス夫レカラ只今ノ但書ノ御解釋ハ正シイト思ヒマス又夫レデ宜シイト思ヒマス尙ホ書キ方ハ呵シクナイ書キ方ガアルカモ知レマセヌガサウスルト反對ノ場合ハ教育ヲ受クベキ年齡ニ在ラザル者シカ受ケヌト云フコトニ爲ツテ來ルカモ知レヌ其處ノ所ガ非難ヲ受ケルカモ知レヌガ意味ハ夫レデ宜カラウト考ヘマス
富井政章君
今ノ梅君ノ御說ニ民法ガ實施ニ爲レバ斯ウ云フ文部省令ノ如キモノハ廢セラレル云々ト云フコトデアリマシタガ若シ果シテ文部省ガ此省令ハ民法ノ規定ト合ハナイカラ廢スルト云フ考ニ爲ツテ廢シタトキニハ民法ノ此但書ノ如キハ要ラナイ民法モ變ヘナケレバナラヌト云フコトハナイ、ナイケレドモ如何ニモ適用ノ無イ但書ガ違ツテ居ルコトニ爲リマスカラ夫レハ呵シイ夫レモ一寸御參考マデニ申シテ置キマス
議長(箕作麟祥君)
モウ大抵採決シテモ宜シイデセウ、サウスルト紫版ノ九百五十六條ノ方ハ別ニ修正案モアリマセヌカラ決ハ採リマセヌ
穗積陳重君
一寸贊否ヲ決スル爲メニ伺ヒマス土方君ノ動議ニ付テハ民法ノ方ニ從ウガ宜シイカラ此處ヲ削ルト云フノト又文部省令ノ方カラト云フノトニツアリマス夫レニ依ツテ――――私ハ之ニ從ウテガ宜シイト云フコトデアルト贊成シナイ方ニ爲リマス或ハ何ンデアリハシナイカト思ヒマス此文部省令デ戸主ト極メタノハ餘程便宜上カラ極メタモノガ行政上アリハシナイカト思ヒマス夫レヲ一ツ氣遣ウノデアリマス夫レカラ「直系尊屬」トアリマスカラ土方君カラ餘程御質問ノ出ルノハ格別デアリマスガ脇ニ居リマシテモ直系尊屬デアルト負擔スル斯ウ云フ事ニ爲ルノデアリマス私ハ此處ハ夫レ程デハナイ實際上ノ便宜ガドウカト云フコトヲ大變恐レルノデアリマス
土方寧君
其便宜ハアルノデスヽヽヽヽヽ夫レト彼ノ省令ガアツタトキニヽヽヽヽヽ夫レデハ文部省令ヲ見ル所デ教育ニ付テノ省令デハ困ルト思ヒマス協議シテ愈々困ルト云フコトデアレバ私ハ活シテ置テモ宜シイト思ヒマス
穗積陳重君
分リマシタ
議長(箕作麟祥君)
夫レデハ九百五十九條ノ第二項ハ此前カラ未決デアリマシタカラ採決シマス此九百五十九條ノ第二項削除ニ贊成ノ方ノ起立ヲ請ヒマス
起立者多數
議長(箕作麟祥君)
多數削除ニ決シマス夫レカラ紫版ノ九百五十八條云々九百六十條是ニ付テ別ニ御發議ガアリマセヌカラ其通リニ決シテ宜シウゴザイマスカ
穗積八束君
一寸富井さんニ伺ヒマスガ文字ハドウデモサウ讀メマセウカ
富井政章君
之ハ今能ク考ヘテ見マシタガ梅君ノ御解釋通リデモ宜カラウト思ヒマス尙ホ是ハ考ヘテ置クト云フコトニ願ヒマス
議長(箕作麟祥君)
夫レデハ考ヘテ置カウト云フコトデアリマスカラ外ニ御發議ガナケレバ紫版ハ殘ラズ修正案ニ決シマシテ黒字ノ第九百六十條ニ移リマス
(書記朗讀)
第九百六十條 扶養ノ方法又ハ程度カ判決ニ因リテ定マリタル場合ニ於テ其判決ノ根據ト爲リタル事情ニ變更ヲ生シタルトキハ裁判所ハ當事者ノ請求ニ依リ何時ニテモ其判決ヲ變更スルコトヲ得
(參照)佛二〇九、蘭三八〇、伊一四四、葡一八一、ヴオー一一一、西一四七、白草二二四、獨一草一四九三
富井政章君
此條ハ書キ方ハ違ツテ居リマスケレドモ趣意ハ全ク草案ト同ジコトデアリマス草案ニ倣ツテ置イタノデアリマス外國ノ法律ニモ本條ノ如キ規定ハ隨分多クアリマス併シ外國ノ法律ニハ皆廣ク書テアリマス判決ニ因ツテ極ツタ場合ノミナラズ相對づくデ極ツタ場合モ含ムヤウニ書テアリマス併シ其場合ニ付テハ如何ニモ疑ヒノ無イコトデアリマス前ニ「扶養ノ程度ハ扶養權利者ノ需用ト扶養義務者ノ身分及ヒ資力トニ依リテ之ヲ定ム」ト言ツテアル以上ハ縱令ヒ相對づくデ極メテアツテモ扶養權利者又ハ扶養義務者ノ資產ノ狀況ニ變更ヲ生ジタトキニハ其一般ノ原則ニ依ツテ何時デモ變ハルト云フコトハ疑ヒノ無イコトト思ヒマス唯ダ判決ニ因ツテ極ツタ場合ニハ判決ノ效力カラ疑ヒガ生ズルト思ヒマス而シテ實際ハ其判決ガ效力ヲ持ツト云フコトニ爲ツテハ不都合デアラウ扶養權利者ガ昨日マデハ一文モ無カツタケレドモ今日ハ誰レカラ贈與ヲ受ケタ或ハ相續ヲシタト云フ理由ニ依ツテ大資產家ニ爲ツタト云フノニ尙ホ養料ヲ受ケルコトガ出來ルト云ツテ置テハ不都合デアリマス詰リ判決ニ因ツテ極ツタ場合ニ付テ疑ヒガアルコトト思ツテ此規定ヲ置キマシタ
田部芳君
本條ノ實質ニ付テ議論ノアルノデハアリマセヌガ詰リ此書キ方ノ神經カモ知レマセヌガ本條ノ終リニ「裁判所ハ當事者ノ請求ニ依リ何時ニテモ其判決ヲ變更スルコトヲ得」ト云フコトガ書テアリマス成程此場合ノ判決ト云フモノハ決シテ永久ニ其判決通リノ事ヲ行ハセヤウト云フ趣意デハナイノデスカラ無論判決ニ因ツテ極ツタ事ハ後トデ變ヘルコトハ出來マセウガ乍併形式上ハ判決ハ矢張リ確定ト云フコトニ爲ルノデスカラ判決ヲ變ヘルト云フコトヲ書クノハ餘リ穩カデアルマイト思ヒマス矢張リ此處デ言フノハ――――此處デ書クノハ裁判所ガ一旦ハ極メテ併シ事情サヘ變レバ其判決ハ效ガ無ク爲ル夫レデ其扶養ノ程度及ビ方法ト云フモノヲ復タ變ヘルコトガ出來ルト云フ風ニ書イタ方ガ穩カデハアルマイカト考ヘルノデスガドウデゴザイマセウカ其趣意ト夫レカラモウ一ツ書キ方ニ付テ伺ヒマスガ此場合ニハ矢張リ當事者ニ斯ウ云フ權利ガアルゾト云フ斯ウ云フ事ノ方ヲ書ク方ガ却テ穩カデハナイカト思ヒマス當事者ガ裁判所ニ斯ウ云フ事ヲ請求スルコトガ出來ル斯ウ書イタ方ガ當事者ノ權利ヲ認メタ方デ却テ民法ニ於テハ書キ方ガ其方ガ宜クハアリマスマイカ之ハ裁判所ノスル仕事ヲ言フノデナイカラ詰リ當事者ニ斯ウ云フ權利ガアルゾト云フ事ノ方ヲ顯ハシタ方ガ宜クハナイカト思ヒマスガ如何デアリマスカ
富井政章君
ドチラモ御尤モノ御疑ヒデアリマス少ナクモ私一人丈ケハ反對ハアリマセヌサウ云フ風ニ書イタ方ガ宜イカモ知レマセヌ唯ダ第二ニ御話シニ爲ツタ書キ方ハ大抵斯ウ云フ文例ノ方ガ多イ大抵皆斯ウ云フ風ノ文例ニ爲ツテ居リマスカラ斯ウ云フ風ニ書イタト云フ丈ケノコトデアリマス「判決ノ變更ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得」ト言フト文章モ少シ重ク爲ルト云フ位ノコトデアリマス
高木豐三君
只今ノ田部君ノ御說ハ誠ニ御尤モデ私モ最初疑ヒヲ起シタノデアリマスガ其結果ハ裁判所ハ自分デシタ判決ノ確定シタモノヲ當事者ノ申出ニ依ツテ異議サヘアレバ之ヲ變ヘルト云フコトニ爲ラナケレバナラヌノデス、ケレドモ元來此養料ノ卽チ扶養ノ義務ニ關スル判決ト云フモノハ申マデモナク諸君ノ御承知ノ通リ一種特別ノ判決デ將來ノ義務モ併セテ裁判スル判決ナノデス夫レデ居ツテ一種特別ノ性質デアリマス乍併其時分ニ實際判決ヲ變ヘルト云フ場合ハドウ云フ場合カト云フト先ヅ訴訟法デ見テアルノハ再審ノ理由ノ場合シカ無イ其場合ニハ無論當ラナイ、ケレドモ法律ヲ以テ夫レト同一ノ事柄ヲ極メルト云フコトハ爲シ得ベキ事柄デアルト思ヒマスルシ又此養料ノ義務抔ニ付テハ私ハ餘程必要ト思ヒマス若シ之ヲ訴訟法ノ方ヘデモ極メルトカ何ントカ云フコトナラバ又一ツノ議論デアリマスガ之ヲ訴訟法ニ極メルト云フノモ呵シイト思ヒマス私ハ寧ロ是デ宜カラウト考ヘル其譯ハデス當然其判決ガ效力ヲ失フトカ何ントカ云フ譯ニ往キマセヌ養料ヲ受取ル者ガ贈與ヲ受ケタトカ或ハ相續シテ資產ガ出來タトカ云フ斯ウ云フヤウナ場合ニハ或ハ其全部ハ出來ナイデモ生活スル費用丈ケハ生ズルヤウニ爲ツタト云フヤウナ場合ガ多ク多カラウト思ヒマスサウ云フ場合ニハドウシテモ變更ノ途ガ付テ居ラヌト扶養ノ義務ト云フモノハ一旦受ケタラ將來ニ義務ヲ負ハナイト云フコトヲ言渡シタル判決ニ拘ハラズ夫レガ何時マデモ續テ動カスコトハ出來ヌト云フヤウナコトハ穩カデアルマイト考ヘマスカラ私ハ格別異議ハ無イノデアリマス
田部芳君
私ノ先刻述ベタ趣意ガ能ク了解セラレナイデアツタカモ知レマセヌカラ一言私ノ趣意ヲ明瞭ナラシメル爲メニ述ベテ置キマス成程事情ガ變ツタナラバ扶養ノ程度、方法抔モ變ヘラレナケレバナラヌト云フコトハ私モ認メテ居リマス乍併私モ無論事情ガ變レバ當然判決ノ效力ガ無ク爲ルトハ言ハナイ無論判決ガモウ一遍アツテ極ラネバナラヌガ乍併直接ニ何時何日ノ判決ヲ變更スルト云フコト斯ウ云フ事ガ判決其物ニ顯レテ居ナイデモ宜シイノデアラウ詰リ今迄極メテアツタ扶養ノ方法又ハ程度ト云フモノヲ今度新タニ別ニ變ヘルト云フコトサヘアレバ目的ヲ逹スルノデアリマスカラサウ云フ風ニ書ク方ガ書キ方モ穩當デアル然ニ斯ウ云フ風ノ書キ方デハ何時何日ノ判決ヲ變更シナケレバナラヌト云フヤウニ思ハレル態々判決其物ヲ變更ヲスルト云フコトヲ書カヌデモ宜カラウ夫レ程ニ書カヌデモ宜カラウ矢張リ扶養ノ程度又ハ方法ヲ變更スルコトガ出來ルト云フコトニシテ宜シイダラウト云フ斯ウ云フ考ヘデアリマシタ
穗積陳重君
取消シテ仕舞ウ
田部芳君
判決ヲ取消スノデナイ矢張リ義務ヲ取消スノデアル
富井政章君
取消ノコトニ付テ一寸一言述ベテ置キマス餘計ナ事ハ可成言ハナイコトニ極ツテ居リマシタケレドモ一寸疑ヒヲ持ツテ居ル事ガアリマスカラ一ツ述ベテ見タイト思ヒマス本條ノ如クニ書イタ所デ私ハ斯ウ云フ疑ヒヲ持ツテ居リマス扶養ノ程度又ハ方法ガ判決ニ因ツテ極ツテ居ル場合ニ其判決ヲ變更スルコトガ出來ル斯ウ云フ書キ方デアル極廣クナイ扶養ヲ受ケル必要ガ全ク無ク爲ツタ場合ニハ判決ヲ取消スト云フコトニ爲ル判決ヲ廢毀スルト云フコトニ爲ル夫レハドウモ「變更」ト云フ中ニ「廢毀スル」ト云フコトヲ含ムト云フ解釋ハ少シ六カシクハナイカト思ヒマス又前ニ「扶養ノ程度又ハ方法カ」ト書テアリマス丸デ必要ガ無ク爲ルノモ程度デハアルケレドモ―――――夫故ニ丸デ無ク爲ツタ場合ニハ程度ガ最極端ニ低ク爲ツタト言ヘルカモ知レマセヌガ少シ其場合ニハ含マナイヤウニ文章カラハ見エル夫レデ其場合ハドウ爲ルカト云フト實際ハヤラヌデモ宜シイト云フコトニ爲ラネバナラヌト思ヒマス然ニ其場合ニハドウ爲ルカ判決ニ因ツテ極ツテ居ルヤラネバナラヌト云フ事ガ――――前ニ「自己ノ資產又ハ勞務ニ依リテ生活スルコト能ハサルトキニノミ存在ス」ト言フテアリマスカラ法ノ働キニ依ツテ當然其判決ガ消エルト云フコトガ言ヘルカ(此時田部委員「言ヘル」ト呼ブ)言ヘルダラウト思フタト云フモノハ扶養ノ義務ノ條件ガ缺ケテ仕舞ウノデスカラ言ヘルダラウト思ヒマス言ヘルトスレバ一ツ弱點ガアルサウシテ看レバ程度ガ低ク爲ツタリ高ク爲ツタリスル場合ニモ法ノ働キニ依ツテ當然往カナイト云フ譯ハ前ニ「扶養ノ程度ハ扶養權利者ノ需用ト扶養義務者ノ身分及ヒ資力トニ依リテ之ヲ定ム」ト書テアリマスカラ唯ダ五十歩百歩ノ論デ其場合ニモ法ノ働キニ依ツテ當然其程度ガ變ツテ來ルト云フコトニ爲リハシナイカト云フ疑ヒガ起ル若シサウデアレバ事ノ一部ヲ規定シテ全部ヲ規定シナカツタト云フコトニ爲リマス其處ガ少シ氣ニ懸リマスカラ一寸述ベテ置キマス
磯部四郎君
私モ一寸一言シマス私ハ此九百六十條ハ要ラヌト云フ考デアリマス何ゼ要リマセヌカト云フト此九百五十一條ニ照ラシテ見ルト全ク蛇足ニ歸シハシナイカト思ヒマス何ゼデアルカト言ヘバ詰リ此處ニハ條件ヲ附シテ書テアル只今富井君カラ御述ベニ爲ツタ通リ卽チ「自己ノ資產又ハ勞務ニ依リテ生活スルコト能ハサルトキ」丈ケノモノデアリマスカラ之ニ變更ヲ來タセバ自然其裁判ト云フモノモ變更ヲ來タスト云フコトハ法律ノ力デ明カナル話シデアリマスカラ是ガアルガ爲メニこちらノ九百五十一條ノ法文ノ力ノ餘程弱メテ仕舞ウダラウト思ヒマス之ヲ却テ當事者カラ請求セヌ以上ト云フモノハ確定裁判ノ力ヲ以テ縱令ヒ自己ノ資產ヤ又ハ扶養ノ義務ヲ受ケル者ノ方ニ變更ヲ生ジテモ此九百五十條ノ法文ガアルガ爲メニ裁判ヲ經テ來ナケレバ實際ニ變更ヲ來タサヌト云フ恐レガアルト私ハ思ヒマス詰リ扶養ノ義務ト云フモノハ只今ノ規定ハ九百五十一條デドンナ裁判ガアリマシテモ時々刻々是丈ケノ變更ガ生ジテ來レバ法律ノカデ夫レ丈ケノモノガ變ツテ往クト思ヒマス若シ夫レガ氣ニ容ラヌナラバ不滿ヲ抱ク方カラ訴訟ヲシテ變更ノ生ジナイト云フコトヲ立證ヲシテ往キマスレバ更ニ裁判ヲシテ往クカモ知レヌガ是ガアルト云フト終リノ法文ニアル通リ「其判決ヲ變更スルコトヲ得」トアリマスカラ判決ヲ變更セザル以上ハ自分ノ資產ニドレ丈ケノ變動ガ生ジテモ矢張リ判決デ定ツタ丈ケノ事ハ行フテ往カナケレバナラヌト云フコトニ爲シテ來テ大變ニ九百五十一條ノ法文ノ力ヲ薄クシヤウト云フ考ガアリマスカラ蛇足ノミナラズ此九百六十條ト云フモノハアツテ却テ義務ヲ負フ方ヲ徒ニ苦シメルヤウナ弊ガアリハシナイカト云フ考ガアリマスカラ私ハ此九百六十條ノ如キハ削ツタ方ガ宜カラウト云フ考デアリマス
高木豐三君
贊成
富井政章君
夫レデハ答辯スル前ニ伺ヒタイ事ハ先刻申シタ事ハ斯ウ云フ事デアリマス殊ニ判決ノ效力ト云フコトヲ伺ヒタイ詰ル所法律ニ定ツタ條件ヲ缺クニ至ツタトキハ判決ト云フモノハ當然其效力ヲ失ウト云フ性質ノモノデアルカ或ハ其資力ガ無イ扶養ヲ受ケル有樣ニ在ルト云フコトハ判決ヲ定メタ理由ニ過ギナイ理由ガ幾ラ變ツテモ―――――判決ヲ下シタトキノ理由ガ幾ラ變ツタコトガアツテモ判決夫レ自身ヲ取消サナイ内ニ矢張リ效力ガアルト云フモノデアルカ其邊ガ伺ヒタイノデアリマス
高木豐三君
御答致シマスルガ私ノ今磯部君ノ御說ニ贊成シタ譯ハ私モ恰度田部君ノ御述ベニ爲ツタ御考ト同ジ考デ贊成ヲシタノデアリマス所ガ今磯部君ノ言ハレル所ニ依ツテ私ガ考ヘルニ其方ガ至當ト思ツタ譯ハ前ニモ述ベマシタガ如ク養料ノ滯リヲ請求ヲシタサウ云フヤウナ場合デスナ無論判決ガ普通ノ解釋若クハ自分ガ請求シタトキノ確定判決ト同ジモノデアル是迄ノ旣往ノ判決ニ付テ再ビ其判決ヲ動カスト云フコトハ出來マセヌ、ケレドモ養料ノ義務ト云フモノハドウ云フモノデアルカナラバ法律ニ定メタル條件ノアル者ニハ卽チ其存在シテ居ル間ハ是々ノ義務ヲお前ハ負ツテ居ルゾト云フト云フ判決デアル夫レハドウ云フ場合ニ出來ルカト云フト何時デモ養料ヲ請求スル者ガ原告ニ爲リマス夫レデ其義務者ハ夫レ丈ケノ條件ノ備ツテ居ル間ハ義務ガアルゾト云フ判決ヲ言渡ス(此時富井委員「ソンナ事ハ書カナイデセウヨ」ト呼ブ)夫レハサウデスサウデナケレバ起ツテ來ヤウ筈ガナイ義務者ノ方カラ私カラ養料ヲ拂ヒマセウト云フ訴ヲ起シテ來ヤウ筈ガナイ夫レデ今度ハドウ爲ルカナラバ今磯部君ノ言ハレタ通リニ法律ガ判決ガ出來ルト云フノハ狀況ガ變ツタトキニハ誰レガ原告ニ爲ツテ來ルカト云フト養料ヲ出スベキ原因ガ無ク爲ツタニ因ツテ其義務ガ無イト云フコトヲ確定シテ呉レロト云フ訴ニ爲ツテ來ル夫レデ前ノ訴ト云フモノト後ノ訴ト云フモノハ全ク正反對デアル普通ノ場合デアレバ旣往ノ權利關係ヲ定メルノデアリマスカラサウ云フ場合ハ起ツテ來ナイ、ケレドモ判決ノ性質トシテ何時デモ法律ノ條件ト云フモノガ――――矢張リ判決ノ效力ト云フモノガ條件ニ爲ツテ來ル其場合ニ先キノ義務者ガ今度ハ原告ト爲ツテモウ義務ヲ負擔スベキ――――判決ニ因ツテ言付ケラレタ義務ヲ負擔スベキ原因ガ無ク爲ツタニ因ツテ是丈ケノモノヲ減ジテ呉レ若クハ方法ヲ變ヘテ呉レト云フコトニ付テ決シテ確定判決ノ效力ヲ動カスコトニハ爲ラヌ斯ウ考ヘルノデアリマス夫レデ私ハ磯部君ニ贊成ヲ致シタノデアリマス
磯部四郎君
私モ一寸一言申シマス決シテ冗長ノ辯ヲ費ヤスノデハアリマセヌ確定判決ニ付テノ御論デアリマスガ私ハ此養料ノ義務ニ付テモ判決ノ效力ト云フモノニ付テハ普通ノ卽チ判決ノ效力ト少シモ違ウマイト思ヒマス乍去其判決ト云フモノハ何レノ時ニ於テ如何ナル地位ニ義務者ガ在ル時ニ與ヘタモノデアルカト云フト五萬圓ナラバ五萬圓ノ資產ガアツテ是丈ケノ資產ガアレバ是丈ケノ物ヲ扶養シテ宜シイト云フ程度ニ於テ與ヘラレタノデアリマスカラ其狀況ノ繼續シテ居ル間ハ無論普通ノ判決ト同一ノ效力ヲ持ツテ居ルト思ヒマスデ將來ニ至ツテ卽チ自己ノ資產上ニ變動ヲ來タシタトキニ於テハ則チ九百五十一條ノ第三項ノ法律ノ規定ニ依ツテ其判決ノ效力ト云フモノハ變動ヲ來タシタトキニハ自然消滅スル何ゼナラバ其變動ノ來ツタ時マデガ――――此處ノカニ依ルト詰リ夫レ丈ケノモノデ確定判決ノ效力ガアルカト云フト詰リ將來ノ事ガ極マルノデナイ其地位ニ在ツテ夫レ丈ケ存在シテ居ルトキニ與ヘタモノデアリマスカラ變更ガ來タト云フコトヲ立證シテ來レバ從ツテ夫レ丈ケノ事ヲ改メテ往カナケレバナラヌト云フコトハ無論ノ事ト思ヒマス兎ニ角五萬圓ノ資產ガアルカラ幾ラノ養料ヲ與ヘテ宜カラウト云フコトヲ九百五十一條ノ規則ニ據ツテ定メタモノガ今種々ノ事情ガアツテ四萬五千圓シカ無イト云フ事ヲ立證シテ往クニ拘ハラズ其場合デモ尙ホ五寓圓ノ資產ノアルトキノ判決ガ效力ヲ持ツト云フコトハ成立タヌト思ヒマス之ハ獨リ養料ノ義務ノミナラズ權利ニ付テ與ヘタ裁判ト云フモノハ何時デモサウデアラウト思ヒマス斯ク斯クノ財產ノアル間ハ是々ニシロト云フ裁判ヲ與ヘタ詰リ税法ニシテモ自分ニ地面ヲ持ツテ居ル間ハ相當ノ税ヲ課シテ往クケレドモ其地面ガ無ク爲リマスレバ其税ヲ納メヌデモ宜シイト云フ事ニ爲ルノト全ク同一デアリマスカラ兎ニ角養料ノ義務デアルカラ判決ノ效力ガ違ウト云フモノデナイ詰リ判決ハ條件付ノ判決シカ與ヘテナイモノデアル是丈ケノ財產ガアルニ依ツテ是丈ケノ物ヲ與ヘヨト云フコトニ爲ツテ居ルカラ尙ホ其財產ガ無ク爲レバ判決ヲ與ヘタ條件ガ堙滅シテ仕舞ウノデアリマスカラ夫レハ更ニ改メナケレバナラヌト云フ事ニ爲ルノハ當リ前ノ事ト想像致シマス
富井政章君
一寸簡單ニ申シマス今ノ御見解ニ從ウト云フコトハ不安神ニ思ヒマス若シ夫レデ往クト云フコトナラバ―――――判決ニ因ツテ極ツタ場合デモ夫レデ往クト云フコトナラバ第一ニ諸外國ノ法律ニ斯ウ云フ規定ヲ置ク必要ガ無イ何ゼ置イタカト云ヘバ夫レハ詰ラナイ規定ヲ置イタトデモ言ヘル夫レカラ判決ノ效力ト云フモノガサウ云フモノデアルト云フコトハ餘程疑ウ高木君ノ言ハレル通リ若シ判決ニ斯ウ云フ事ヲ書クノナラバ宜シイノデス扶養權利者ノ需用ト扶養義務者ノ資產額ガ今日ノ通リデアル限リハドウ斯ウト云フ事ヲ判決ニ書クノナラバ宜シイ、ケレドモソンナ事ハ書カナイサウシテ看レバ「根據ト爲リタル事情」ト云フモノハ判決ノ理由ニ過ギナイモノデアリマスサウシテ看レバ一旦極ツタ事ハ幾ラ狀況ガ後ニ變ツテモ判決主文ヲ取消サナイ限リハ生キテ居ルト云フ方デハナカラウカト思ヒマスサウシテ看レバ先刻申シタ本條ノ文章ガ不充分デハナイカト云フ疑ヒガ生ジマス、ト云フ譯ハ唯ダ程度ガ上ツタリ下ガツタリシタト云フ場合デナイ丸デ扶養ヲ受ケル必要ガ無イト云フヤウナ場合ノ規定ガ無イト云フコトニ爲リハシマスマイカ言葉ヲ換ヘテ言ヘバ判決ヲ變更スルト云フ中ニ判決ヲ廢毀スルト云フコトガ含ムト云フコトハ少シ無理ナヤウニ思ヒマス夫レガ大丈夫這入ルト云フコトデアレバ宜シイ
梅謙次郎君
削除說ガ出マシテ其理由ガ是迄私共ノ信ジテ居ル所ト大變違ヒマスカラ一寸一ツノ例ヲ擧ゲテ伺ヒタイ私共ハ甚ダ不案内デアリマスドウモ高木君竝ニ磯部君尤モ高木君ト磯部君ノトハ餘程程度ガ違ヒマス又御說明ノ方法モ違ヒマス兎ニ角ドチラノ御說明ニシテモ事情ガ變レバ當然判決ノ效力ヲ失フト仰ツシヤル御方モアルシ又ハ其時ニハ前ノ判決ヲ變更シテ呉レトカ取消シテ呉レトカ云フ事ヲ請求スルコトハ明文ガ無クテモ當然出來ルト云フコトデアリマスガドチラモ今ノ所ハ同ジコトデ宜シウゴザイマスカ私ノ是迄考ヘテ居ツタ所ハ判決ト云フモノノ效力ハ決シテ事情ノ變ハルガ爲メニ變更スルモノデハナイト思ヒマス高木君ノ言ハレルニハ普通ノ判決ハ將來ノ事ハ極メナイ夫レハ必ズシモサウハ限ラヌト思ヒマス唯ダ權利ノアルト云フコトヲ極メルト其權利ノ效力ト云フモノハ將來ニ生ズル場合ガ澤山アルノデアリマスカラ詰リ此場合デモ權利ノアルト云フコトヲ極メタノデ其權利ノ效力ハ若シ判決ヲ變ヘサヘシナケレバ引續テ行ハレルト云フコトニ爲ルデアラウト思ヒマス其處デ先ヅ私ガ第一ニ伺ヒタイト思フ事柄ハ今磯部君ノ御辯ジニ爲ツタ所ニ據ツテ看ルト此判決ト云フモノガ其時ノ事情ニ依ツテ定メタモノデアルカラ其事情ガ變レバ當然其效力ヲ失ハナケレバナラヌト云フコトニ爲ルト云フコトデアリマシタガ例ヘバ私ガ磯部君ニ或ル物ヲ一旦賣ルト云フコトヲ約束ヲシタ所ガ磯部君ガ詰リ金ヲ持ツテ來ナイ―――――履行ヲシナイとう々々私カラ不履行ニ因ツテ生ズル所ノ損害賠償ヲ請求ヲスル、所ガ私ノヽヽヽト云フモノハ此物ヲ磯部君ニ賣ルコトガ出來ヌ然ニ之ヲ新タニ外ニ賣ラウト思ツテモ賣ルコトガ出來ヌ出來ヌカラ詰リ之ハ何時マデモ持ツテ居ラナケレバナラヌサウスルト是丈ケノ損害ガ生ズルト云フコトデ請求シテ往ツタ或ハ其物ノ償ガ下ガツテ居ル百圓ノ價ガアツタモノガ今ハ五十圓ノ價シカナイ其差ノ五十圓ヲ請求ヲスル、サウスルト其判決ガ下ツテカラ價ガ上ガツテ百圓トカ百五十圓ニ爲ツタサウスルト磯部君カラ訴ヘテ昨日ハ梅ハ百圓ガ五十圓ニ爲ツタト云フコトデ五十圓ヲ請求シタガ今日ハ百五十圓ニ爲ツタカラ其判決ヲ取消シテ呉レロト云フ請求ガ許サレルモノデゴザイマセウカ蓋シ磯部君ト雖モ出來ヌト言バレルデゴザイマセウ況ンヤ其初メノ判決ガ效力ヲ失フト云フコトハ言ハレヌデアラウト思ヒマス若シサウスルト此扶養ノ義務ノ場合デアツテモ詰リ程度論デ同ジデハナイ裁判官ハ請求ニ出テ來タ事情ヲ觀テドチラニ斯ウ云フ權利ガアリドチラニ斯ウ云フ義務ガアルト云フコトヲ極メルノデアル成程富井君ノ言ハレタヤウニ條件マデモ其判決ノ主文ニ書テ置ケバ卒ザ知ラズ其事情ガ異ナルト當然先キノ效力ガ變ハルト云フコトハドウモ明文ガ無イト出テ來ナイト思ヒマス尙ホモウ一ツ之ハ主トシテ高木君ニ伺ヒタイガ之ハ法律ニ明文ガアルカラ高木君ノヤウナ御說ノ出ルノハ一應御尤モデハアリマスガ是ガ契約デアツタナラバドウデスカ私ハ貧乏デアツテ高木君ハ義務ハ無イ、ケレドモ可愛想デアルカラト云フノデ是カラ年々お前ノ生活ノ出來ル丈ケノ物ヲ自分ガ遣ラウ斯ウ云フ漠然タル契約ヲサレル所ガ夫レヲ高木君自身ハ履行サレヌヤウナ事ハナカラウケレドモ例ヘバ高木君ノ相續人ニ爲ツテ履行ヲシナイ其處デ私ガ裁判所ニ請求ヲシタ私ノ生涯ト云フコトデアルサウスルト裁判所デハ高木君又ハ高木君ノ相續人ニハ幾ラ幾ラノ金ヲ拂フ義務ガアルト云フコトヲ判決サレタ所ガ私ガドウカシテ獨リデ喰ヘルヤウニ爲ツタカ又ハ半分位ハ自分デ稼デ支ヘテ往クコトガ出來ルト云フヤウナ事情ガ生ズルト高木君又ハ高木君ノ相續人ハ夫レデ以テ判決ノ全部又ハ半分ニ付テ效力ガ無イト云フコトガ言ヘルデゴザイマセウカドウモ餘程呵シイ法律ニ明文ガアツタラドウカ知リマセヌガ契約文ノ解釋等ニ至ツテ矢張リ同ジヤウデアルト云フコトハドウモ餘程疑ハシイ明文ガ無イト出テ來ナイト思ヒマス民事訴訟法デハ二百四十四條ニ「判決ハ其主文ニ包含スルモノニ限リ確定力ヲ有ス」ト云フコトガ原則デアツテ見ルト夫レノ例外ハ矢張リ掲ゲテ置カヌト不都合デハアリマスマイカ就中丸デ今決議ニ爲ツタ九百五十六條ノ條件ガ無ク爲ツタ場合ニハ疑ヒハ少ナイ、ケレドモ唯ダ程度ガ少シ變ツタトカ夫レカラ方法デスナ方法抔デお前ハ内ニ引取ツテ遣レ斯ウ云フ事ヲ裁判デ極メタ、所ガ今迄ハ獨身者デアツタカラシテ親類ヲ引取ルト云フコトハ極メテ容易デアツタ、所ガ今度扶養義務者ニ段々子抔ガ出來テ狹イ内ニ一緒ニ居ル譯ニ往カヌカラ別居シテ貰イタイト云フヤウナ事情ガ生ジテ來タサウ云フ場合モ初メハ子供ガ無カツタカラ引取ラウト言ツタガ今日ハ子供ガ澤山出來タカラ出テ往ケト言フコトガ出來ルモノデアラウカ出來ルト云フコトニシテモ明文ガ無クシテ出來ルト云フコトハ餘程疑ハシイト思ヒマス夫レダカラドウカ是ハ文章ガ惡ルイケレバドウ云フ風ニ直ホサレテモ宜シイノデスガ存スルト云フコトニドウカ御反對ノ無イヤウニ願ヒマス
磯部四郎君
只今何カ餘程不思議ナ例ヲ擧ゲラレテ賣買ノ場合デアリマシタガ其賣買モ私ハ其賣買ノ條件中ニ九百五十一條ノ如キ約束ガアツタナラバ矢張リ夫レデ宜カラウト思ヒマス是丈ケノ錢デ買ウ、ケレドモ値段ガ上ガツタトキニハ買ウガ下ガツタトキニハ買ハナイト云フヤウナ斯ウ云フ約束ガアレバ其約束ニ依ツテヤリマセウカラ元ト元ト私ガ此九百六十條ハ不必要デゴザルト言フ議論ヲ提出スルノハ九百五十一條ノ法文ガアルニ依ツテ夫レ丈ケノ事ヲ提出スルノデアリマス只今ノ賣買ト云フモノハ九百六十條デ單純ノ賣買ヲ例ニ取ツテ一旦買フタ物ハ後トカラ値段ガ上ガツタリ下ガツタリスルカラドウトカ云フコトハ言ハレルノハ案外至極ノ御尋ネト思ヒマス其賣買ノ約束ニ於キマシテモ買ヒマスルガ若シ値段ガ上ガリマシタ時ニハお斷リヲスルトカ或ハ私ガ資產ガ無ク爲ツタトキニハ拂フコトガ出來ヌカラ其積リデ居ツテ貰ヒタイト云フヤウナ卽チ九百九十一條ニ類スルヤウナ約束ヲシテヤツタナラバ夫レ丈ケノ條件ハ何處マデモ履行シテ往クコトガ出來ルト云フ考デアリマスカラ餘程ノ例ヲ設ケテ御尋ネニ爲ツタト思ヒマスガお月樣ヲ鼈トカ云フ御尋ネデ謂ハバ答ヘル必要ガ無イト云フコトガ言ハレルト思ヒマス跡ハ高木君ニ御尋ネデアリマシタケレドモ夫レ等モ同ジデ其時ニ自分ニ資產ガアルト信ジテ夫レ丈ケノ事ヲ約束ヲシタトスレバ態々資產ガ無ク爲ツタト云フヤウナトキニ爲ルト矢張リ約束デモ養料ガ無ク爲ツタナラバ―――――財產ガ無ク爲ツタナラバ自分ハ喰ハヌデモ人ヲ扶ケナケレバナラヌト云フヤウナ意思ノ解釋ハ今日賢明ナル裁判官ガ致スマイト思ヒマスカラ矢張リ養料ニ類スルヤウナコトニ付テハ隨分梅君ノ見解トハ違ツテ私ガ書生ヲ養フト云フコトヲ云フテモ私ガ健全ニシテ夫レ丈ケノ者ヲ救助シ得ル能力ヲ備ヘテ居ツタラウト云フコトハ誰レデモ夫レ丈ケノ解釋ハスルシ又現ニ夫レ丈ケノ解釋ハシテ居ルト思ヒマス決シテ人ヲ扶ケルト云フコトハ自分ガ餓死シテモ扶ケナケレバナラヌト云フヤウナ風ニ意思ヲ解釋シテ往クト云フヤウナコトハ決シテアルマイト思ヒマス況ンヤ法律ノ力ヲ以テ九百五十一條ニ明文ガ設ケテアル以上ハ卽チ裁判ト云フモノハ是丈ケノ力シカ往クマイト思ヒマス自己ノ資產又ハ勞務ニ依リテ生活スルコトノ出來ナカツタトキニ限ルト云フコトデアル夫レカラ又一方ニ於テハ扶養ノ義務ハ自分ノ資產ニ應ジテヤル譯デアリマスカラ決シテ此九百六十條ガ無イカラ迚モ自分ガ養ウコトガ出來ヌトカ著シキ變動ヲ來タシタトキニハ其判決ヲ變更スルコトハ十分出來ヤウト思ヒマス唯ダ此九百六十條ハ是ガアルト何時マデモドンナ變更ガ生ジテモ矢張リ其通リノ義務ヲ有シテ居ルヤウナコトニ爲ツテ九百五十一條ノ力ガ薄ク爲リハシナイカト云フ考デ夫レデ此削除說ヲ提出致シマシタガ先程例ヲ御出シニ爲ツテ磯部君ト雖モト云フヤウナ事ヲ言ハレテハ私ハ非常ノ人間デモアルカノヤウニ思ハレテハナリマセヌカラドウカ
高木豐三君
私ハ申合規則ニ依リマシテ短カク述ベル積リデ述ベマシタノデ夫レハ梅君ノ御說ニ服シタノデハアリマセヌ其點丈ケヲ申上ゲマス第一磯部君ノ御說ト違ウノハ當然ニ判決ノ效力ヲ失ウト云フノデナイ唯ダ判決ノ變更ヲ求メル權利ガアルト云フ丈ケノコトデアリマス其將來ニ於ケル扶養ノ義務計リデハナイ夫レハ確定判決ガ皆然リデアリマス例ヘバ三百坪ノ地面ヲ三百圓デ借リテ居ルカラ三百圓ノ地代ヲ拂ヘト云フ判決ヲシタトキハ其實際地面ヲ借リテ居ル内ハ其地代ヲ拂ウ義務ガアル乍併其内ノ二百坪ヲ返ヘシタトキニハ法律ノ明文ヲ俟タズシテ其二百坪ノ借賃ヲ減ジテ貰ヒタイト云フコトヲ請求スルコトハ無論出來ルト云フコトハ疑ヒマセヌ乍併夫レヲ頻リニ主張スルト餘程長ク爲リマスカラ私ハ寧ロ本案ニ決セラレンコトヲ希望致シマスガ唯ダ此「變更」ノ中ニ取消ガ含ムカト云フ御案ジハ御尤モト思ヒマスカラ何ントカ「更ニ判決ヲ望ムコトヲ得」ト云フヤウナコトニ爲ルトカ或ハ此儘ニ爲ツテ居ツテモ趣意ハ變リマセヌカラヽヽヽヽヽ
議長(箕作麟祥君)
高木君ニ伺ヒマスガあなたハ贊成ハ取消シマスカ
高木豐三君
長ク爲リマスカラ取消シマス
田部芳君
削除說ニ贊成ガナケレバ言フ必要ガ無イカモ知レマセヌガ尙ホ私ノ考ヲ述ベテ置キタイドウモ判決ヲ變更スルト云フコトニ爲ルト少シ違ウダラウト思ヒマス法律ニ於テちやんト判決ヲ變更シナケレバナラヌト云フト例ヘバ後トデ第二ノ判決ヲ以テ之ヲ引取ル扶養ノ義務ハ無イトカ或ハ是丈ケシカ義務ガ無イトカ云フコトヲ極メルトキハ矢張リ何時何日ノ判決ヲ取消ス變更スルト云フヤウナ事ガナケレバ文字通リニ讀ムト當ラヌデハナイガ夫レデ事情ガ變ツタトカ扶養ノ義務ハ是丈ケヨリ無イトカ或ハ程度ガ減ツタ或ハ扶養ノ方法ハ是デ宜シイ、サウ云フ事ヲ請求シテ――――サウ云フ方法サヘ極メレバ宜シイノデアツテ決シテ判決其物ヲ形式的ニマデ變更スル必要ハ無イデアラウト思ヒマス無論サウ云フ意味デハナカラウト思ヒマスケレドモ併シ文章ノ上カラ見ルト云フト判決ヲ變更スルト云フコトニ書テ置クト何時何日ノ判決ヲ變更スルト斯ウ言ハナケレバナラヌヤウニ爲ツテ穩カデアルマイト思ヒマス夫レカラ尙ホ御考ヲ願ヒタイト思フノハ私ノ先キニ申シタ通リ扶養ノ程度又ハ方法ヲ變更スルコトヲ得ルト言ツタナラバ宜シイガ若シ「判決」云々ト言ツタナラバ尙更丸デ義務ノ無ク爲ツタト云フ場合ニハ餘程困ルデアラウト思ヒマスカラ其邊ヲ書カレル時分ニ御考ヲ願ヒタイト思ヒマス
議長(箕作麟祥君)
富井さん今ノ田部君ノ御說ハ先刻モ出タ事デアリマスガ考ヘテ置カウト云フ御答ヘデアリマシタガドウデゴザイマセウカ
富井政章君
サウデスナ文字ハ穩カデナイヤウデスネ
議長(箕作麟祥君)
詰リ田部君ノ御說ハ文字丈ケノ話シデスネ
田部芳君
サウデス趣意ハ變リマセヌ
富井政章君
「扶養ノ程度又ハ方法ヲ變更スルコトヲ得」ト書ケバ丸デ扶養セヌデモ宜シイト云フヤウナ場合モ含ムト云フヤウナ御意見デアリマスガ矢張リ丸デ無ク爲ツタ場合ハ少シ無理ナコトニ爲リハシマスマイカ
田部芳君
私共ハ無論比較論デアリマス夫レニシテモ多少無理ナ解釋ヲシナケレバナラヌト思ヒマスガ「判決ヲ變更スルコトヲ得」ト書テ置クヨリモ幾分カ宜シイカト思ヒマスガ尙ホ十分デモナイト思ヒマスカラ能ク御考ヲ願ヒマス
富井政章君
夫レハ唯ダ文章ノ難易ガ違ウカラ申シタノデアリマスガ今ノヤウニ書テハモウ一ツノ場合モ書カウト思フト少シ六ケシイト思ヒマス
磯部四郎君
此判決ヲ變更スルト云フコトハ判決ヲ變更スルト云ト變更シタラ新タニ生ズルノデアツテ變更シタ古イ判決ハ矢張リ存在シテ居ルノデアリマセウカ判決ヲ變更シタ效力ト云フモノハ何時カラ生ズルノデアリマスカ實ニ不思議ナコトニ爲ルト思ヒマス私ハ今ノ義務者デモ夫レカラ權利者デモ宜シウゴザイマスガドチラデモ地位ニ變更ガ來ツテ新タニ生ジタ事實デ更ニ裁判ヲ受ケルノナラバ宜シイガ一旦アツタ判決ヲ變更ヲスルト云フコトニ爲ルト其變更シタ判決ハ以前ニ遡ツテ效力ヲ生ズルヤウナ形チニ爲ルサウスルト其變更ヲシタ判決ノ效力ハ將來ニシカ及バヌト云フヤウナ條文ガ出來ヌト今日判決ノ訂正ト云フモノガ實際ニアル其判決ト云フモノハ矢張リ前カラノ判決ガ依然トシテ存在シテ居ルノデアリマスカラ判決ノ變更ト云フコトハ餘程變デアラウト思ヒマス
議長(箕作麟祥君)
一寸磯部君ニ申シマスガ考ヘテ置カウト云フコトデアリマスカラ宜シイデハアリマセヌカ
磯部四郎君
明朝ニ渉リマスレバ甚ダ恐入リマスガ可相成ハドウカ承リタイト思ヒマス
議長(箕作麟祥君)
御質問デスカ
磯部四郎君
サウデス
富井政章君
甚ダ不充分ナ答辯ト御取リニ爲ルカモ知レマセヌガ「判決ヲ變更スルコトヲ得」ト云フト―――――判決ノ變更ヲ許シタ以上ハ之ニ依ツテ違ウ判決ガ下ツタ以上ハ是ニ因ツテ前ノ判決ハ當然無ク爲ルト云フコトニ爲ルト思ヒマス卽チ直接ノ判決ノ效果トシテ前ノ判決ハ當然其效力ヲ失フト云フコトニ爲ルト思ヒマスガ成程文章ハ十分デハアリマセヌカラ此次マデニ考ヘテ來ルト云フコトノ御約束ヲシテ置キマス
議長(箕作麟祥君)
ドウデスカ是デ大抵討論モ濟ンダヤウデスネ削除說モ成立ツテ居ラヌ富井君ハ考ヘテ置カウト云フコトデアリマスカラ夫レ丈ケノ留保ヲ以テ先キニ往キマス
(書記朗讀)
第九百六十一條 扶養ヲ受クル權利ハ之ヲ處分シ又ハ之ヲ差押フルコトヲ得ス
(參照)財二九、二項、取一六九、三項、民訴六一八、一號、蘭三八四、葡一八二、西一五一、獨一草一四九四、一四九五、同二草一五〇九
富井政章君
此規定ハ民法ニアリマセヌ唯ダ契約ヲ以テ養料ヲ定メタ場合ニ付テ斯ウ云フ規定ガアリマス取得編第百六十九條ニアリマス法律上ノ養料ト云フモノハドウ爲ルカト云フト民法ニハ規定ハアリマセヌ民事訴訟法ニハ「差押フルコトヲ得ス」ト云フ規定ガアリマス夫レ丈ケデハ不十分デアラウト思ヒマス何ゼナレバ差押フルコトヲ得ザルモノハ讓渡スコトヲ得ザルモノデアルト云フ規定ハ何處ニモアリマセヌデ之ハ矢張リ其手續法デナイ卽チ處分權ノ問題デアリマスカラ斯ウ云フ風ニ民法ニ擧ゲテ書イタ方ガ宜シイト思ツテ此規定ヲ置キマシタ外國ノ法律ハ大抵皆前カラ此權利ハ抛棄スルコトガ出來ナイト云フ規定シカ置テナイ訴訟法ニ言フテアル所モアリマセウケレドモ多數ハ言ハズトモ處分シタリ差押ヘタリスルコトハ出來ナイモノデアルト云フ精神カト思ヒマス併シ夫レハ規定ガ無クハテハ餘程疑ハシイト思ヒマス
高木豐三君
一寸質問致シマス私共ノ考デハ此扶養ヲ受クル權利ト云フモノハ全ク一身ニ止マルモノデ卽チ親族關係ガアルカラ生ズルモノト云フコトハ之ハモウ何レノ國デモ疑ヒノナイコトデアラウト思ヒマス又其身分ニ專屬シテ居ル權利ト云フモノハ他人ニ讓渡スコトノ出來ヌト云フコトモ私ハ普通學說ニモ承ツテ居ルヤウニ思ヒマス唯ダ外國ノ法律ニ抛棄スルコトガ出來ナイト云フコトニ規定シテアルノハ私ノ申スマデモナク自分ガ養料ヲ受ケテ生キテ居ル人間ガ一時ノ爲メニ權利ヲ抛棄シテ饑エテ死ナナケレバナラヌト云フ責任ハ無イカラ夫レハ矢張リ養料ヲ受ケル權利ガアルト云フ事サヘ規定シテ置ケバ一身ニ屬スベキ養料ヲ受ケル權利ト云フモノハ他人ニ讓渡シテモ當然效ガ無イト云フコトガ法理デアツテ別ニ規定ヲ俟タヌデ分ツテ居リハシナイカト思ヒマス斯ウ云フ疑ヒガアリマス夫レカラ「差押フルコトヲ得ス」トカ云フヤウナコトガ外ノ法律ニモ規定シタノモアリマスガ旣ニ民事訴訟法ニ規定シテアレバ差押ノ方丈ケハ民事訴訟法デ定マル又前ニ申シマシタ扶養ノ義務ト云フモノハ當然一身ニ專屬シテ讓渡スコトハ出來ヌト云フコトデアレバ此條モ無クテ濟ミハシナイカト云フ疑ヒデアリマス
梅謙次郎君
只今高木君ノ御述ベニ爲ツタ事ハ大體ノ事ハ御尤モト思ヒマス此箇條ガ今高木君ガ主トシテ御論ジニ爲ツタ點ニ於テハ無クテモ濟マヌコトハナカラウト思ヒマス夫レハ卽チ他人ニ讓渡スコトヲ得ザルト云フコトト差押フルコトヲ得ザルト云フコトハ併シ差押ノ方ハ民事訴訟法ニ規定ガアリサヘスレバ夫レハこちらニ無クテモ宜シイガ讓渡ノ方ハ少シク疑ガ起セル一身ニ專屬シテ居ルモノハ讓渡スコトヲ得ナイト云フトコハ身分ガ養ハレル代リニ外ノ人ヲ養フト云フコトハ要ラナイ夫レハ明文ハ要ラナイ唯ダ問題ト爲ル事柄ハ私ガ月々三十圓宛貰ウ權ガアル先ヅ裁判ナラ裁判デサウ云フ風ニ極マツテ居ル所ガ其權利ハ自分デ受取ラヌデ例ヘバ借金デモシテサウシテ債權者ノ高利貸ニデモ讓渡スコトハ出來ヌトシテ置カナイト事實上私ガ眞ニ扶養サレルト云フコトガ出來ナイト云フコトニ爲ル其方ハ明文ガ無イト疑ハシイ成程扶養其物ヲ私ノ代リニ高木さんヲシロトカ高利貸ヲシロトカ云フヤウナコトハ出來マセヌケレドモ其扶養ノ義務ヲ受クベキ――――義務トシテ受クベキ結果トシテ夫レハ矢張リ權利ニ違ヒナイ扶養ノ權利ヲ金デ受取ル場合權利ヲ金デ受取ル其受取ル權利ヲ人ニ讓ルト云フヤウナ事ハ目的ガ金ト云フノデアリマスカラ出來サウニ思バレル人ヲ養フト云フコトハ身體デアリマスカラ夫レハ私ノ代リニ外ノ人ヲ養フト云フコトハ出來ナイ夫レカラモウ一ツハ抛棄ノコトデアリマスガ抛棄スルコトモ出來ヌト云フコトハナイ之ハ明文ガ無イト權利ハ抛棄スルコトガ出來ルト云フコトニ疑ヒガアル夫レデ「處分」ト云フ字ヲ特ニ使フタノハ恰モ今ノ二ツノ場合ヲ含マセル爲メデアル
高木豐三君
能ク分リマシタガ夫レニシテモ今御話シノ通リ抛棄ノ場合ハ疑ヒガアルト云フコトデアレバ外國ノ法律ノ如ク抛棄ノコトハ至極宜シイデゴザイマセウガ今梅君ノ仰セニ爲ツタ例ハ扶養ヲ受ケル權利ヲ處分スルト云フノデハアルマイト思ヒマス三十圓ヲ受ケル權利ト云フモノハ矢張リ自分ガ持ツテ居ル其受ケタ金ヲ處分スルコトハ出來ヌト云フコトニ爲リマスルト(此時梅委員「受ケナイ内デス」ト呼ブ)權利ヲ讓渡シタト云フト債權者ガ請求シテ來テモ渡サヌお前ニ養料ノ義務ハ無イト言フ夫レデアレバ扶養ヲ受ケル權利ヲ讓渡シタト云フコトニ決シテ爲ラヌ夫レデアリマスカラ今御疑ヒノ點ナラバ私ハ少シモ明文ハ要ラヌト思ヒマス併シ抛棄ノ點ニ付テ疑ヒガアルト云フコトデアレバ其明文ハ私ハアツテモ宜カラウト思ヒマスガ其他ニハ權利ノ處分ト云フコトニ付テハ何モ要ラヌト思ヒマス
田部芳君
私ハ本條丸デ此處ニ要ラヌト云フ考デハアリマセヌガ「又ハ」以下ノ差押ノコトハ矢張リ民法ヨリハ民事訴訟法ニアル方ガ至當ノコトデハナイカト云フ疑ヲ持ツテ居リマス成程或ル人ノ考ノ如クドウモ民事訴訟法ト云フモノハ全クノ手續計リデアルト差押ノ手續丈ケヲあつちニ讓ツテ差押ノ出來ナイト云フヤウナ事ハ民法デ極メベキモノデアルト云フ御考カモ知レマセヌガ乍併民事訴訟法ノ強制執行ノ當リヲ見テモ二ツアルト思ヒマス強制執行ノ性質ト云フモノト強制執行ノ手續ト云フモノト二ツガ當然籠ツテ居ルト思ヒマス夫レカラ又博ク調ベタコトハアリマセヌガ多分御調ベニ爲ツタデゴザイマセウガ隨分外國デハ此差押フルコトノ出來ヌトカ何ントカ云フヤウナ事ハ大抵何處ノ國デモ民事訴訟法ニアルヤウデアリマス佛蘭西ノ訴訟法ニモアルヤウデアリマス(此時梅委員「兩方ニアル」ト呼ブ)其外ニモサウ云フヤウナモノガ隨分多イデハナイカト思ヒマス其處デ法律ニ――――此民事訴訟法ノ六百十八條ニ列擧シテアル中ニモ外ノ事モ列擧シテアル又有形物ハ五百七十條ニ差押ヘルコトガ出來ナイ物ガ隨分アリマス債權ノ事丈ケヲ此民法ニ極メテ跡ノモノ丈ケヲ民事訴訟法ニ讓ツテ置クト云フノモ呵シイ若シ差押ノ出來ヌコトヲ民事訴訟法ニ讓ルト云フノナラバ皆あつちニ讓ツタ方ガ適當デハナイカ若シ此論デ往ケバ五百七十條ニ列擧シテアルモノヲ矢張リ是々ノ物ハ差押ヘルコトガ出來ヌト云フコトヲ何處カ前ニ言フテ置カナケレバナラヌノデアツタカモ知レヌ夫レデ場所ハ民事訴訟法ニアツタ方ガ善クハナイカト思ヒマス夫レデ「又ハ」以下ノ差押ノ出來ナイト云フコトハ―――或ハ「處分」ト云フコトガ必要デアレバ「處分スルコトヲ得ス」ト云フコトニ止メテ此「又ハ」以下ヲ削ツテハドウカト思ヒマス
磯部四郎君
贊成シマス
議長(箕作麟祥君)
今ノハ御質問デスヨ
田部芳君
修正說トシテ出シテモ宜シイ
磯部四郎君
私ガ贊成スル理由ハもツと進ンデ居リマス詰リ「處分スルコトヲ得ス」ト爲ルト其結果ガ「差押フルコトヲ得ス」ト云フコトニ爲ル處分ガ出來ヌカラ差押ヘルコトガ出來ヌト云フコトニ爲ツテ來ヤウト思ヒマス卽チ民事訴訟法ニ差押ヘルコトガ出來ヌト云フコトニ置テ夫レガ實質ヲ定メタト云フコトニモ爲ルマイト思ヒマスカラ此處ハ矢張リ「處分スルコトヲ得ス」ト云フ事丈ケデ宜シイト思ヒマス
富井政章君
ドウ爲ツテモ宜シイガ只今ノ理由ニハ少シ同意ガ出來兼ネマス處分スルコトノ出來ヌ物ハ當然差押ヘルコトハ出來ヌト云フヽヽヽヽ設ケルト云フコトハ或ハ其方ガ宜シイカモ知レヌ
議長(箕作麟祥君)
決ヲ採リマセウ六カシイ問題トモ思ヒマセヌ夫レデハ田部君ノ御發議ノ「扶養ヲ受ケル權利ハ之ヲ處分スルコトヲ得ス」トシテ「又ハ」以下「差押フル」マデ削ルト云フ說ニ贊成ノ方ノ起立ヲ請ヒマス
起立者少數
議長(箕作麟祥君)
少數
富井政章君
考ヘテ置キマセウ
議長(箕作麟祥君)
先キノ御說明ノ斯ウ云フ事ハ如何デゴザイマセウカ例ヘバ別ノ内ニ居ツテ他カラ養料ヲ受ケル米屋トカ或ハ薪屋トカ炭屋トカ大屋さんトカ自分ハ受取ラヌデモ宜シイカラサウ云フ者ニ直カニ渡シテ呉レト云フコトデアツテハドウデゴザイマセウカ
梅謙次郎君
サウスルト夫レハ金デ給與スルノデナイ米トカ品物デ給與スルノデアリマス
富井政章君
結果ハ同ジデアリマスガ米屋ガ扶養義務者ノ代理人ニ爲ル
磯部四郎君
サウスルト今ノ米代ヲ拂ウトカ屋賃ヲ拂フトカ云フガ爲メニ批扶養ノ金ヲ別居デモシテ居ル隱居ニデモ與ヘタ、所ガ其養料ハドン々々受取ツテ來テ米屋ニモ薪屋ニモ些ツトモ拂ハヌサウスルト扶養ノ權利カラ生ジタ金圓ヲ拂ハナケレバナラヌ性質デアルノニ其債權者ハ差押ヘルコトガ出來ヌト云フコトニ爲リハシマスマイカ夫レ丈ケノ權利ト云フモノハ何處カラ生ジタカナラバ薪屋ニ拂ウガ爲メ屋賃ヲ拂フガ爲メ或ハ又寒暖ヲ凌グ爲メノ呉服屋ニ拂ウ爲メデアル夫レヲ取ルコトモ出來ヌト云フコトハ酷ドクハアリマスマイカ
富井政章君
誠ニ御尤モデアリマス夫レハ考ヘナケレバナラヌ民事訴訟法ニ讓ルカ―――兎モ角考ヘテ置キマセウ
磯部四郎君
例外ガ出來ネバナラヌカト思ヒマス
梅謙次郎君
佛蘭西ニハアリマス
議長(箕作麟祥君)
夫レデハ考ヘテ置カウト云フコトデアリマスカラ是テ決シテ置テ次ニ移リマセウ
(書記朗讀)
第九百六十二條 扶養ノ義務ハ扶養權利者又ハ扶養義務者ノ死亡ニ因リテ消滅ス但其死亡ノ當時旣ニ辨濟期ノ至リタルモノハ此限ニ在ラス
(參照)伊一四六、葡一七六、西一五〇、一五二、一號、白草二二五、二號、獨一草一四九六、同二草一五一〇
富井政章君
本條ノ規定ハ無クテモ宜カラウカト思ヒマシタガ併シ扶養義務者ニ付テハ少シ疑ヒガアラウト思ヒマス現ニ葡萄牙民法ノ如キハ反對ヲ規定シテ居リマス扶養義務者ガ死ンダトキハ其相續人ガ拂ウ又扶養義務者ノ方丈ケ書クト扶養權利者ノ方ニ付テ疑ヒガ生ジテ來ル別ニ煩ハシイ規定デモアリマセヌカラ大丈夫ノ爲メニ置イタ位ノコトデアリマス
田部芳君
此處ニ於テ質問シテハ或ハ場所ガ不適當カモ知レマセヌガ何レ死亡ノ事ニ關係ヲシマスカラ此處デ質問シテ置キマス此葬式費用ト云フモノニ付テハ民法第三百八條ノ二項ニ葬式費用ノ先取特權ノコトガアル「債務者カ其扶養スヘキ親族又ハ家族ノ身分ニ應シテ」云々ト云フコトガアツテ葬式費用ノ先取特權ノ規定ガアリマスガあの規定カラ言フト或ル國ニモアル通リニ扶養義務者ハ扶養權利者ノ葬式費用モ尙ホ負擔シナケレバナラヌト云フコトヲ極メタ方ガ善クハナイカ夫レトモ之ヲ入レナカツタノハ生活ノ爲メト云フコトデアルカラデゴザイマセウカ併シアツタ方ガ前後釣合ガ付キハシマスマイカ
富井政章君
夫レモ考ヘテ見マシタ現ニ獨逸民法草案抔ニハ扶養義務者ハ葬式費用ヲ拂ハナケレバナラヌト云フ規定モアリマス併シドウモ「扶養」ト云フ字ニ葬式費用ト云フモノガ這入ツテ夫レヲ拂ウト云フノハ死ナナイヤウニスルト云フ義務ハアルガ死ンデカラノ事ハドウモ呵シイヤウニ思ヒマス夫レデ缺點ニ爲ラウカトモ思ヒマシタガ其結果斯ウ云フ事ニ爲ラウト私丈ケハ思ヒマスサウ云フヤウナ事ハ行政取締ノ方デ明文ガナケレバ慣例ガアラウ夫レデ始末ガ付クト思ヒマス戸主トカ何ントカ―――兎ニ角慣習デ往クト思ヒマス
田部芳君
成程サウ云フ譯モゴザイマセウガ成程只今承ツタ丈ケデハ扶養ノ義務ハ生キテ居ル間計リデモウ死ンデ仕舞ツタナラバ夫レ切リノコトデ餘所ノ者ノ世話ニ爲ル夫レヨリハ葬式費用迄モ民法デ認メテヤルト云フ方ガ宜シイ矢張リ親族デ負擔スルト―――葬式費用ヲ負擔スルト云フ事マデ入レテ置テハドウカト思ヒマス夫レマデ打擲ツテ置クト云フノハ酷ドイコトデハナイカト思ヒマス
富井政章君
多數ノ御意見ナラバ
議長(箕作麟祥君)
サウスルト田部君ノ御說ハドウシヤウト云フノデスカ
田部芳君
詰リ趣意ヲ申スト「扶養義務者ハ扶養權利者ノ葬式費用ヲ負擔ス」ト云フヤウナ事ヲ終リニデモ入レタイト云フ考デアリマス
議長(箕作麟祥君)
先取特權デアリマスカ
田部芳君
詰リ先取特權ノ處ニモ規定ガアル位デアルカラ此「扶養ノ義務」ノ所ニモ矢張リ扶養權利者ノ葬式費用モ入レヤウト云フ考デアリマス
穗積八束君
私ハ此扶養ノ義務ヲ可成廣メタイト云フ精神カラシテ只今ノ田部君ノ御說ノ葬式費用ヲ入レルト云フ事ニ贊成致シマス
高木豐三君
私ハ此適用ニ付テ伺ヒタイノデスガ其前ニ只今ノ田部君ノ御話ノ葬式費用ノ事ハ慣習デ無論往カウト思ヒマス又死ンデカラ養料ヲ取リニ來ルト云フ事ハ無クテ宜シイ無論慣習デ往キマス只一ツ質問シタイノハ此但書中ノ「旣ニ辨濟期ノ至リタルモノハ此限ニ在ラス」ト云フコトデアリマス之ハ私共外國ノ判決例抔ヲ見ルト縱令ヒ滯ツタ物デモ夫レノ死ンデ仕舞ツタ者ハ其請求權ガ無イト云フ判決例ガアリマス夫レハドウ云フ譯ニ爲ルカナラバ例ヘバ萬々五十圓宛貰ウ者ガ三十圓宛デ暮ラシテ居ル或ハ三十五圓宛デ生活シテ居ツタ所ガ死ンダカラ其相續人ガ其養料ノ滯リヲ請求スルノハ呵シイ第一本人ガ生活ヲスル爲メニ扶養ヲ受ケタノデアルカラ夫レデ往ケテ居レバ宜シイト云フコトデアル併シ此場合ニハ他人ガ立替ヘテ置イタ物丈ケ取レルト云フ意味デゴザイマセウカ或ハサウデナクテモ取レルト云フ趣意デゴザイマセウカ其意味丈ケヲ伺ヒマス
富井政章君
成程五十圓貰ウ者ガ三十圓デ生活シテ居ツタ三十圓デ往ケルモノヲ五十圓貰ツテサウシテ三十圓デ暮ラシテ居ツタラ跡ノ二十圓ハ取レヌデ宜シイト云フコトハ一應御尤モデアリマスガ併シ夫レハ裏面ノ事デアツテ表面ハ五十圓必要デアルト云フコトデ五十圓ヲ取ツテ居ル夫レハ澤庵ニタ切レ喰ウノヲ一ト切レ喰ツテ居ツタカモ知レマセヌガ夫レハ法律上ハ五十圓必要ガアツタ夫レデアリマスカラソンナ場合ガアツテモ仕方ナイ多數ノ場合ハ仕方ナイサウ云フ場合ハ死ヌマデ借リテ居ルサウスルト返ヘサナケレバナラヌト云フ義務ガ遺ツテ居リマスサウスルト辨濟期ノ至ツタモノハ通常ノ債權ト見ル方ガ穩當テアルト云フ考テアリマス
磯部四郎君
誰レニ返ヘスト云フコトデアリマスカ
富井政章君
相續人
磯部四郎君
相續人ガ無カツタトキハお寺ヘデモ
富井政章君
夫レハ無イトキハヽヽヽヽヽヽ
穗積八束君
先刻ノ田部君ノ御說ニ付テハ私ハ贊成ヲシマシタガ外ニ贊成ガアリマセヌガ扶養ノ義務ト云フヤウナモノハ夫レハ實際サウ云フコト六ナイト云フ御話シデアリマシタガ若シサウ云フ御考ナラバ最初カラ此「扶養ノ義務」抔ト云フコトヲ置カヌ方ガ宜シイト思ヒマス夫レヲ出シタ以上ニハ極端ノ場合ヲ見テノ御考デアリマスガ甚ダ不十分ナ考デ直系尊屬デアツテ生キテ居ルマデハ世話ヲシテヤツタガ死ンデカラハ世話ヲシナイト云フヤウナサウ云フ事ハ實際ハアルマイガ――――且私モ萬一兄弟姉妹ノ扶養ノ義務デ以テヽヽヽヽヽ總テ斯ウ云フ事ハ人ノ精神ニ關シ公ケノ秩序ニ關スル事デアル扶養ノ義務ガ無イトスレバ何レ公ケノ秩序デ之ハ埋葬抔ヲシマスガ何ンデモ乎ンデモ親族關係ノ者ガ夫レヲ負擔スルト云フコトニスレバマダ分ツテ居リマスガ、ドウモ之ハ習慣ニ於テモ又理窟ニ於テモ矢張リ其死ンダ者ハ其親族關係ノ者ガ其始末ヲ付ケルト云フ事ニ爲ルノハ理窟ガアラウト思ヒマスガドウカ御贊成ノアルコトヲ願ヒマス
梅謙次郎君
今日ハ葬式費用ヲ戸主カラデモ出サセルトカ親カラデモ出サセルトカ云フヤウナ事ニハ反對ハシマセヌガ夫レヲ斯ウ云フ扶養ノ義務ト同ジヤウナ義務トシテ規定スルノハ私ハ反對デアリマス扶養ノ義務ハ民法ニ規定シタル事柄丈ケデアツテ夫レカラ外ハ行政上ノ事柄デアリマスガ民法ニ規定シテアル事柄ハ扶養ヲシテ呉レナケレバ或ル他ノ人ニ向ツテ請求スルコトガ出來ル權利ノアルモノデアリマス葬式ノ場合ハ死ンダ人ガ請求スルコトハナイ相續人ガ其場合ニ代表ヲスルト云フコトモ私ハドウモ呵シイト思ヒマス夫レデアリマスカラ埋葬ノ費用ト云フヤウナモノハ詰ル所只今八束さんノ御話シノヤウナ道徳論ハ離レテ行政問題デアリマス夫レデアリマスカラ行政ノ方デ―――死骸ヲ片付ケルト云フコトハ少シモ行政ナリ命令ナリ出來ルノハ差支ヘヌノデアリマス今迄モ明文ガアルカ無イカ知リマセヌガ戸主ハ其家族ノ死骸ヲ片付ケル義務ガアルト思ヒマスサウ云フ事ハ必要ガアラウト思ヒマス無論死ンデ甚シキハ往來ノ眞ン中ニ曝ラシテ居ルトカサウ云フ場合バ官府デ葬ツテヤラナケレバナラヌト云フ事ニ爲ツテハ溜リマセヌガサウ云フ事ハ行政命令ナリデ極メテ宜シイト思ヒマス其代リ立派ナ葬式ヲ出セト云フコトハ極メラレヌト思ヒマスガ其場合ハ唯ダ葬式ヲ出セト云フコトハ無論出來ルト思ヒマス唯ダ民法デハ甲カラ乙ニ向ツテ養料ノ權利ガアル是々ノ訴ヲ起スコトガ出來ルゾト云フ權利丈ケヲ極メルノデアリマスガ死人ガ權利ヲ持ツテ居ルノデナイ以上ハドウモ夫レヲ民法中ニ規定スルノハ穩カデアルマイト思ヒマス
穗積八束君
私ハ其御說ニハ餘リ感服ヲシマセヌ行政命令ノ方デ極メルト仰ツシヤルノハ今日ニ爲ツテ何故ニサウ云フ御議論ガ出マシタノカ引取手ノ無イ者ハ行政ノ方デ埋葬モシマセウガ其引取手ガ何ン人デアルト云フコトハ行政上デ極メラレルデゴザイマセウガ民法デ夫レヲ極メテ少シモ呵シイコトハナイヤウデアリマス葬式費用抔ノ事ハ民法デ極メテ少シモ不都合ハ無イト思ヒマス却テ夫レヨリハ教育費用抔ノ事コソ行政命令デ極メナケレバナラヌト思ヒマス公益ニ關スル規定デアリマスガ矢張リ夫レヲ民法ニ御規定ニ爲ツテ居ルト云フ斯ウ云フ事ヲ御考ヘニ爲リマスレバ少シモ不都合ハ無イ且又請求スル者ガ無イカラ權利義務ノ關係ガナイト云フヤウナ御話シデアリマシタガ夫レハ理窟論デゴザイマセウサウ云フ理窟ガアルカモ知レマセヌガ請求者ガナケレバ無論權利モ無イ義務モ無イト云フヤウナコトデアリマスガ自分ガ死ンダトキニ埋葬シテ貰ウト云フコトハ其者ノ權利デアルト云フコトハ「こんもんせんす」デハ言ヘルヤウニ思ヒマス若シ死ンダトキニハ關係ガ無イト云フコトナラバ此條抔デ死ンダ後ニハ義務ガ生ゼヌト云フヤウナ事デ法律ニ何ゼ御書キニ爲ルノデアリマスカ兎ニ角夫レハ理屈ノコトデアリマスカラ申シマセヌガ呵シイト云フ感ジヲ持ツテ居リマスガ私抔ハドウモ感服ヲシマセヌ
磯部四郎君
私モ穗積さんニ贊成デアリマスガ刑法二百六十四條デアリマス之ニハ「埋葬ス可キ死屍ヲ毀棄シタル者ハ」云々ト爲ツテ居リマスガ今迄ドウ爲ツテ居ルカ今迄誰レガ埋葬ス可キ義務ヲ負フモノカト云フコトハ刑法ニハ少シモアリマセヌ旣ニ刑法ノ二百六十四條デ斯ウ云フ制裁ガ加ヘテアリマスカラ民法ニ於テ何人ガ其義務ヲ負フト云フコトヲ極メテ置カヌト從テ刑法ノ適用スベキ事ガ誠ニ曖昧ニ爲ツテ來ルト思ヒマスサウスルト如何ナル人ガ埋葬ノ義務ヲ負フモノカト云フコトヲ極メテ置クコトハ民法上餘程必要ト思ヒマスカラ何ントカ之ハ明文ヲ御設ケニ爲ルヤウニ穗積さんニ贊成シテ置キマス
梅謙次郎君
私ハ此義務ヲ負ハセルト云フコトニハ反對デハアリマセヌガ夫レハ民法上ノ義務デアリマセヌ民法上ノ義務ハ一私人ト一私人トニ關係スルノガ民法上ノ義務デアリマスガ今ノハ一私人ト一私人トノ關係デナイ行政上ノ問題デアリマス
議長(箕作麟祥君)
決ヲ採リマス只今ノ田部君ノ御說ニ贊成ノ方ノ起立ヲ請ヒマス
起立者少數
議長(箕作麟祥君)
少數夫レデハ此九百六十二條ハ他ニ御發議ガナケレバ原案ニ決シテ今度ハ甲第五十八號ノ方ニ移リマス
(書記朗讀)
 第六章 後見
梅謙次郎君
本章ハ人事編ノ第十章ト略ボ同シイモノデアリマスガ唯ダ違ウ所ハ第一ニ人事編ノ第十章ハ未成年者ノ後見ノ事ノミニ付テ規定シテアリマス、所ガ今度ノハ禁治產者ノ後見ノ事モ併セテ規定ヲ致シマシタ夫レカラ準禁治產者ノ保佐ノ事マデ序デニ規定ニ爲ツテ居リマス此理由ト云フモノハ先ヅ此禁治產者ノ方ノ規則ハ後見ニ付テハ未成年者ノ規則ヲ準用スルコトニ爲ツテ居ツテ今ノ人事編ニ於テモ第二百二十六條ニ其明文ガアル位デアリマス其二百二十六條ニ「未成年者ノ後見ニ係ル規定ハ禁治產者ノ後見ニ之ヲ適用ス」トアリマス、デ少々違ウ所ハアリマスガ夫レハ極僅カデアツテ處々ニちよい々々々ト規定ヲ置クト跡ハ總テ同ジデ往クノデアリマス夫故ニ之ヲ別ニ規定スルノハ煩シイノデ一緒ニ規定スルノガ便利ト思フテ今度ハ分ケナイコトニシマシタ準禁治產ノ方ハ之ハ理論上カラ言ヘバ此處ニハ當ルベキモノデナイ第一ニハ之ハ後見デナイ第二ニハ之ハ全ク能力問題デアリマス夫故ニ初メ民法ノ總則ノ案ヲ提出シタトキニ保佐ノ事ハあれニ書テ出シマシタ尤モ後見ノ所ノ規定ヲ適用スルコトヲ書テ出シマシタ、所ガ夫レハ親族法ノ所ニ入レタガ宜シイト云フコトデ議場デ削除ニ爲リマシタ夫故ニ之ハ議場ノ命令デアツタノデアリマスカラ只今ニ爲ツテ理窟ガ合ハナイト云フヤウナ御攻撃ハ御免ヲ蒙リマス尤モ夫レハ私共ノ說明ヲ免レル爲メト云フノデナイカラ說明ハ致シマス詰リ夫レハ理由ノ無イコトモアリマセヌ理由ハアリマス便利上カラ言フト成程別段ノ規定ヲ置クノデナイ「是々ノ規定ハ保佐人ニモ之ヲ準用ス」ト書ケバ濟ムノデアリマスサウ云フ例ハ是迄議決ニ爲ツタ部分ニモ幾ラモアリマス例ヘバ修身定期金ノ契約ノ處ニ持ツテ往ツテ「本節ノ規定ハ修身定期金ノ遺贈ニ之ヲ準用ス」ト云フ事ガアリマス夫レカラ賣買ノ所ニ於テモ「本節ノ規定ハ賣買以外ノ有償契約ニ之ヲ準用ス但其契約ノ性質カ之ヲ許ササルトキハ此限ニ在ラス」ト云フコトガアリマスサウ云フ例ハ外ニモアリマスカラ此處ノ後見ノ所ニ「是々ノ規定ハ保佐人ニ之ヲ準用ス」ト書テモ他ノ文例ニ違ウト云フコトモナイト思ヒマス夫レデ旁々以テ議決ニ從ツテ此處ニ保佐人ノ事ヲ書キマシタ別章ニスルト夫レコソ別ナモノニ爲ツテ親族編ノ規定トシテ保佐人ノ規定ガ出ルト爲リマスカラドウモ面白クアリマセヌ據ロナク斯ウ書キマシタ次ニ旣成法典ノ人事編第十章ト少シク異ナル所ハ旣成法典ハ此中ニ親族會ノ規定ガ載セテアリマス成程親族會ノ必要ノ場合ハ重モニ後見ノ場合ニアルノデアリマスガ外ノ場合ニモ矢張リアルト云フコトハ今ノ人事編ニモ見テアリマス第百七十七條ニ「未成年者ノ親族會ノ外親族會ヲ組成スル必要アルトキモ亦本節ノ規定ヲ適用ス」ト云フコトガアリマス尙ホ本案ニ於テハ旣成法典ヨリカモ多ク親族會ノ必要ガ出來テ居ルノデアリマス後見外ニ親族會ノ出マスル場所ガ幾ラモアリマスカラ旁々以テ此親族會ハ後見ト離レテ別章ニスル方ガ便利ト思ヒマス卽チ次ノ章ノ第七章ニ於テ「親族會」トシテ出ス積リデアリマス外國ニモ例ノアルコトデアリマス以上述ベマシタ事ハ旣成法典ト聊カ範圍ニ於テ違ウ所デアリマス其外ハ人事編ノ第十章ト大同小異デアリマス而シテ表題ハ人事編ト少シ違ヒマス「第一節後見ノ開始」ト致シマシテ何時後見ガ開ケルカト云フコトヲ規定致シマシタ其次ニ「第二節」トシテ「後見ノ機關」ト云フコトヲ置キマシタ其處ヘ後見ノ事務ヲ執ルベキ人間ノ種類ヲ掲ゲマシタ次ニ「第三節」トシテ「後見ノ事務」卽チ後見ノ活動スル必要ナル規定ヲ置キマス終リニ「第四節後見ノ終了」トシテ後見ノ終ヘタトキニ誰レガドウ云フ事ヲシナケレバナラヌ了ツタ後ニ計算ハドウ云フ事ニシナケレバナラヌト云フコトヲ掲ゲマス終リノ所ハ旣成法典ト變ハル所ハアリマセヌ
土方寧君
表題ニ付テ伺ヒタイ「第二節後見ノ機關」トシテ其第一款ハ「後見人」ト爲ツテ居リマスケレドモ其先キハ配付ニ爲ツテ居リマセヌガドウ云フ事ニ爲ルノデアリマスカ
梅謙次郎君
夫レハ第二節ノ處ニ至ツテ說明スル積リデアリマシタガ只今申上ゲルノガ宜シケレバ申シマス此處ニ規定スル事ハ「後見人」ト「後見監督人」ノ積リデアリマス親族會モ或ル點カラ見レバ後見ノ機關デアリマスガ之ハ外ノ事ニモ用立ツノデアリマスカラ夫レデ此處ニハ載セヌデアリマシタ
議長(箕作麟祥君)
外ニ御發議ガナケレバ一節ノ表題カラ條文ノ方ニ移リマス
(書記朗讀)
  第一節 後見ノ開始
第九百五條 後見ハ左ノ場合ニ於テ開始ス
 一 未成年者ニ對シ親權ヲ行フ者ナキトキ又ハ母カ財產ノ管理ヲ辭シタルトキ
 二 成年者カ禁治產ノ宣吿ヲ受ケタルトキ
(參照)八、人一六一、二二四、一項、六年一月二十二日告二八號華士族相續法二章、九年二月二十四日内務省指、同年三月十四日同省指、十年一月二十九日太政官指、同年二月二十一日島根縣ニ對スル内務省指、同日兵庫縣ニ對スル同省指、同月二十二日同省指、同年七月九日同省指、同年八月七日同省指二、同年十二月十二日同省指、十一年三月二十日同省逹、同年九月十三日同省指、同年十月十一日同省指、同年十二月十四日同省指二、同月二十五日同省指、十三年十一月十二日内務省指、同月十七日太政官指、同日内務省指、十四年四月十一日太政官指、同年六月一日内務省指、同月六日同省指、同年十二月十四日同省指、十五年三月三日同省指、同年四月十日同省指、同年五月二十五日同省指、同年八月十六日同省回答、同年十一月十一日同省指、同月二十二日同省指一、十六年一月二十六日同省指、同年五月十四日同省指、同年六月十四日同省指、同年十月十二日同省指、十七年五月二十一日同省指、同年十一月十三日同省指、十八年二月十三日同省指、同月二十五日同省指、同年七月二十二日同省指一、三、二十年五月十二日司法省指、二十一年一月十二日同省指、二十二年六月六日民事局長回答、二十三年四月十七日司法省指、同年九月十八日同省指、同年十月二十日大審院判決、二十四年十月司法省指、同年十二月八日大審院判決、二十五年一月總務局長回答、同月二十二日大審院判決、同年三月總務局長回答、二十七年二月十六日司法省指、二十八年六月十五日大審院判決、佛三九〇、澳一八七、蘭三八五、三項、五〇三、同千八百八十四年四月二十六日法四、伊二四一、三二九、葡一八五、三一七、一〇項、三三七、ツユーリヒ七三〇、七三六、七三八、七四一、七四三、七四五、八一九、八二六、西一九九、二〇〇、二一三、二一八、二二一、二二八、白草三八五、四八九、一項、獨一草一六三三、一七二六、一七二七、同二草一六五五、一七七一、一七七二、普千八百七十五年七月五日後見法一一、索一八七五乃至一八八〇、一九九〇乃至一九九二、一九九五、同千八百八十二年二月二十日法二節一、四、七
梅謙次郎君
本條ヲ說明スル前ニ詰リ之ハ一箇條シカアリマセヌカラ此箇條ノ說明トシテ見テ下シテモ宜シイノデアリマスガ此箇條卽チ本節ハ如何ナル場合ニ後見ガ始マルカト云フコトヲ規定シタモノデアリマスガ禁治產ニ付テハ旣ニ總則ノ第八條ニ「禁治產者ハ之ヲ後見ニ付ス」ト云フ事ガアリマスカラ夫レカラシテ略ボ分リマスガ未成年者ニ付テハ是迄如何ナル場合ニ後見ガ開ケルカト云フコトガ定メテアリマセヌカラ全ク不明ニ屬シテ居リマスノデ此箇條ニ據ツテ始メテ分ル積リデアリマス外國ニ於テハ後見ノ範圍ガもツと廣ク爲ツテ例ヘバ不在者ニモ尙ホ後見ニ付スルトカ或ハ準禁治產者モ後見ニ付スルトカ云フヤウナ事ニ爲ツテ居ル可ナリ多イヤウデアリマス我國ニ於テモ此處ニ規定シテアル以外ノ者卽チ禁治產ノ原因タル瘋癲白痴デ無クテモ卽チ今ナラバ準禁治產者ニ爲ルヤウナ者デアツテモ矢張リ後見ニ付スルコトガ出來ルヤウニ爲ツテ居リマス本案デハ準禁治產デモサウ云フ事ニハ爲ラヌモノトスルト云フコトデサウ云フコトヲ此處ニ極メマシタ尙ホ此節ハ幾分カ旣成法典ノ此後見ノ總則ニ當リマス其總則ノ處ノ第百六十二條ニ「一家ニ未成年者數人アルモ後見人ハ一人タル可シ」ト云フコトガアリマスガ之ハ後ノ九百十一條デ以テ暗ニ其反對ニ規定ヲシテ居リマスカラ夫レハ其處ニ至ツテ說明ヲシマス第百六十三條モ原則ハ第九百十二條デ括リマスル積リデアリマス尙ホ其細カイ規定ニ至ツテハ矢張リ必要ト思ヒマスルガ夫レハ後ノ「後見ノ事務」ノ處ニ出テ參リマスル積リデアリマスカラ此處ニハ假リニ除テ置キマシタ是ヨリ直チニ本條ノ說明ニ這入リマスガモウ本條ノ說明ト云ツテモ殆ンド言フコトハアリマセヌ此第一號ノ方ハ文字コソ異ツテ居ルガ中ノ事柄ハ人事編第百六十一條ト異リマセヌ第二號ノ方ハ唯ダ禁治產ノコトヲ分リ易ク書イタ丈ケノコトデアリマスカラ別段說明スル程ノ必要ハ無イ積リデアリマス
高木豐三君
一寸質問致シマスガ妙ナ想像デハアリマスガ此九百九條ノ所ニ「前三條ニ依リテ後見人タル者アラサルトキハ後見人ハ親族會之ヲ選定ス」トアリマス親族會ガ後見人ヲ選定スル場合ガアリマス又前三條ニ見ルト例ヘバ戸主ガアルトカ親ガアルトカ云フ場合ノヤウニ考ヘマスルガ若シ幼者デ戸主ト爲ル者ガアル未成年者ノ戸主ガアツテサウシテ親モ無シ何モ無イト云フ場合ハドウ云フ事ニ爲ルノデアリマスカ何レ後ニデモ規定ガアラウトハ思ヒマスルガ未成年者ガ戸主デアツテサウシテ親權ヲ行フ人間モ何モ無カツタ場合
梅謙次郎君
其場合ハ卽チ第九百九條ガ嵌マル積リデアリマス何ゼナラバ此九百七條中ニ戸主ハ未成年ナル家族ノ後見人ト爲ルトアリマスサウシテ此後見人ト云フ者ハ成年デナケレバナラヌト云フコトハ第九百十三條ノ第一號デ分リマスサウスルト云フト詰ル所戸主ガ未成年デアリマスレバ九百七條ニ據ツテ戸主ガ後見人ト爲ルコトハ出來マセヌサウスルト此九百九條ガ嵌マル積リデアリマス卽チ親族會デサウ云フ場合ガ後見人ヲ選定スル場合ト思ヒマス
井上正一君
母ガ子ノ財產ノ管理ヲ辭シタルトキハ旣成法典ニハ「子ノ」トアリマシタガ夫レヲ此處デ御省キニ爲ツタノハ「母カ」トアルカラ子ノ財產ト云フコトハ分ル積リデアリマスカ何カ譯ガアリマスカ
梅謙次郎君
意味ハアリマセヌ之ハ旣ニ議決ニ爲ツタ親權ノ所ト同ジヤウニスル積リデ卽チ御說ノ通リ「母カ」トアルカラ此處デハ「子ノ」ト云フコトハ分ル積リデアリマス
議長(箕作麟祥君)
本條ハ御發議ガナケレバ原案ニ決シテ次ニ移リマス
(書記朗讀)
  第二節 後見ノ機關
梅謙次郎君
只今土方君カラ一寸御尋ネガアリマシテ申上ゲマシタ事デアリマスガ「後見ノ機關」ト云フ所デハ「後見人」ト「後見監督人」ノ事ヲ規定ヲ致シマス此外ニ後見ノ機關トモ言フベキモノハ例ヘバ親族會ト云フモノガアリマス、ケレドモ之ハ先刻モ申シマシタ通リ後見ニ特別ノモノデアリマセヌ外ノ場合ニモ必要ガアリマスカラ後見ノ機關トハ或ハ言ヒ難イト思ヒマス講釋ナラバ卒ザ知ラズ法文トシテハ之ヲ此處ニ掲ゲル必要ハ無イト思ツテ掲ゲマセヌ裁判所モ或ル場合ニハ其干渉ヲシマスカラ之モ後見ノ機關ト言ツテモ宜シイ隨分破產抔ニ於テハ講釋抔デハ破產抔ヲ後見ノ機關ト講釋シテ居ルノモアリマスガ夫レハ無論裁判所ノ機關ハ裁判所構成法デ掲ゲルコトデアリマスカラ夫レデ親族會ノ事モ此處ニ掲ゲヌデモ不完全ト云フ謗リハナカラウト思ヒマス本節ハ人事編ノ第十章第一節第二節及ビ第四節ニ當リマス之ニハ第四節ニ當ル事ヲ第一款ニ併セテ夫レデ二款ニ爲リマスサウシテ二款ノ場合ニハ第一款ノ規定ヲ準用スルト云フコトニ致ス積リデアリマス尤モ人事編ノ第四節ニ掲ゲテアル規定ガ皆悉ク後見監督人ニ嵌マルト云フコトニハ往カヌノデアリマス旁々以テ之ハ別々ニスルヨリモ矢張リ「後見人」ノ所ニ併セテ規定スルガ便利ト思フテ規定ヲ致シマシタ
土方寧君
先刻「後見ノ機關」ト云フモノノ内譯ヲ伺フタノハ何ンダカ之ハ體裁ハ宜シイヤウデアリマスガ此「後見ノ機關」ト云フコトハ唯ダ體裁ニ過ギヌト思ヒマスカラシテ省イテ貰ヒタイト云フ考ガアリマシタガ只今伺ヒマシタガ親族會モ矢張リ後見ノ機關ニ爲ル夫レハ別章ニスル夫レカラ裁判所モ或ル點カラ言ヘバ後見ノ機關トモ言フベキモノ夫レハ入レヌサウ云フ事ナラバ此二節ニ「後見ノ機關」ト云フヤウナ大變學理的ノ分類カラ言フト宜シイヤウデアルガ表題ヲ掲ゲテ置テ隨分其中ニ掲ゲテ這入ラヌモノガアルト思ヒマスカラ之ハ寧ロ書カヌデ置テ直グニ「第二節後見人」ト云フコトニシテハドウカト思ヒマスサウスルト「後見監督人」ト云フモノガアル此後見監督人ニ付テノ規定ガ澤山アルト想像スル併シ「第三節後見監督人」トシテ出ス程ノコトモナイカモ分ラヌ若シ第三節「後見監督人」トスルノガ饒々シイト云フコトナラバ第二節ノ「後見人」ト云フ所ニ此監督人ヲ入レテモ宜シイト思ヒマスガドウデゴザイマセウカ
梅謙次郎君
其御論ハ吾々三人ノ間デモ致シマシタ體裁ノコトデアリマスカラドウデモ宜シイガ「機關」トスルト揃フ「後見ノ機關」「後見ノ事務」「後見ノ終了」ト揃フノデアリマス夫レ位ノコトデアリマス
高木豐三君
私モ矢張リ土方君ト同樣ノ意見デアリマスガ只今ノ梅君ノ御說明ニ據リマシテモ尙更親族會トカ裁判所トカ云フモノガ後見ノ機關ニ爲ルト云フコトデアリマスガ「後見ノ機關」ト云フト後見ノ事務ヲ動カス爲メト思ヒマス夫レデ裁判所トカ親族會トカ云フモノガ後見人ヲ選定スルト云フヤウナコトハ無論機關デハゴザイマセウガ機關ト云フノハドウモ少シ耳新ラシイヤウデアリマスガ斯ウ云フモノデ後見ト云フモノヲ組立テル
富井政章君
只今ノ說ハ寧ロ三人ノ間デモ私ガ出シタ說デ法律ノ文章トシテハ「後見人及ヒ後見監督人」トシタ方ガ善クハナイカト思ヒマス併シ揃フト云フ理由モ尤モノ理由ト思ヒマス何レニシテモ實際ノ上ニ關係ノ無イコトデアリマスカラ強テ主張ハシマセヌ
本野一郎君
私ハ勇氣ヲ出シテ此處ニ修正案ヲ提出致シマス「第二節後見ノ機關」ト云フノヲ止メテ「第一款」ト云フノモ止メルサウシテ「第二節後見人及ヒ後見監督人」ト云フコトニシテ第一款、第二款ヲ通シテ仕舞ウト云フ說デアリマス
富井政章君
「第二節後見人」、「第三節後見監督人」ト云フコトニスル案モアリマス夫レハドツチガ宜シイカ分ラヌ
土方寧君
後見監督人ノ規定ハドノ位出來マセウカ
梅謙次郎君
マダ案ヲ作ツテ印刷スルマデニ爲ツテ居リマセヌカラ慥カナコトハ申上ゲ兼ネマスガ先ヅ五、六箇條デ往キマセウ只今色々此「機關」ト云フ字ガ往カヌト云フ御說ガ出マシタガ私ハ宜シイト思ヒマスガ夫レニ付テ少數デ往カヌト云フコトニ極マリマスレバ已ムヲ得マセヌガ代リニ爲ル字ヲ置クコトニ付テハ少シ御考ヲ願ヒタイ「後見人及ヒ後見監督人」ト云フノハ中々明白デアルカラ「後見人」トシテ宜シイカ或ハヽヽヽヽヽヽト云フヤウナコトニ爲ラント徃ケナイ
富井政章君
私ハ事柄ハ極正シイト思ヒマス「機關」ト云フ方ガ少シ明瞭デアルト云フヤウナ點ガアルノデアリマス夫レカラマダ竝ベルヨリハ別ニスル方ガ少シ宜シイト思ヒマス
本野一郎君
夫レデモ宜シイ
梅謙次郎君
「後見ノ職員」トシテハドウデゴザイマセウカ機關ガ嫌ヤナラバ
穗積八束君
成立タヌト云フコトデアレバ贊成シテ置キマスガ
議長(箕作麟祥君)
成立ツテ居リマス
穗積八束君
私ハ文字ガ呵シイト思ヒマス何ゼナラバ今ノ梅君ノヤウナ民法ニハ個人相互ヒノ權利義務ノ事ヨリ外書カナイト云フヤウナ立派ナ御口上デ御書キニ爲リマシタナラバ尙更夫レラノ趣意デ「機關」トカ「職員」トカサウ云フヤウナコトデアルト公益ニ關スルヤウナモノニ爲リマスカラ之ハ省テ置キタイト思ヒマス
本野一郎君
私ノ說ハ二節ニ分ケルコトニシマセウ
議長(箕作麟祥君)
夫レデハ第二節「後見人」「第三節後見監督人」トスル本野君ノ御說ニ贊成ノ方ノ起立ヲ請ヒマス
起立者少數
議長(箕作麟祥君)
少數デアリマス夫レデハ「第二節後見ノ機關」ト云フノハ原案ニ決シテ「第一款」カラ本條ニ移リマス
   第一款 後見人
第九百六條 未成年者ニ對シテ最後ニ親權ヲ行フ者ハ遺言ヲ以テ後見人ヲ指定スルコトヲ得但財產ノ管理ヲ辭シタル母ハ此限ニ在ラス
 親權ヲ行フ父ノ生前ニ於テ母カ財產ノ管理ヲ辭シタルトキハ父ハ前條ノ規定ニ依リ後見人ノ指定ヲ爲スコトヲ得
(參照)人一六四、一六五、十三年三月八日内務省指一、十五年四月十日同省指七、十八年八月十四日同省指、二十五年二月八日大審院判決、二十六年三月七日同院判決、二十七年十二月十九日同院判決、佛三九二、三九七乃至四〇〇、澳一九六、蘭四〇九乃至四一二、伊二四二、二四三、葡一九三、一九五、一九七、ツユーリヒ七三四、西二〇四、一號、二〇六、二〇七、二〇九、二一〇、白草三九〇、三九一、獨一草一六三五、一項、一號、二號、一六三六、同二草一六五七、一項、一號、二號、一六五八、普千八百七十五年七月五日後見法一七、一項、二號、四號、索一八八六、一九〇〇、一九九六、英チヤーレス二世十二年法二四號、印相續法四七、加二四一、二四六、三號b、紐草一二二、一二七、三號b
梅謙次郎君
之ハ先ヅ第一人事編ノ第百六十四條ト略ボ同ジヤウナ規定デアリマスルガ其違ウ所ハ百六十四條デハ父デモ母デモ宜シイヤウニ爲ツテ居リマスサウスルト斯ウ云フ風ニ見エル卽チ父ト母ト兩人在ルトキニ其兩人ガ遺言ヲシテモ宜シイヤウニ見エル又サウ見エルノガ無理デハアリマセヌ隨分外國ニハサウ云フ例ハ乏シクアリマセヌ獨逸法モサウ云フ風ニ爲ツテ居リマス獨逸民法草案普漏西ノ民法、索遜民法又サウ云フ風ニはツきり極メテ居ルノデハアリマセヌガ或ル條件ヲ以テハ矢張リ二人リガ同時ニ指定ヲスルコトモ認メテ居ル國モアリマス併シ我民法人事編ノ解釋トシテハ多分サウデハアルマイト思ヒマス先刻述ベマシタノハほんノ疑ヒニ過ギナイノデ本統ノ解釋ハサウデナイト思ヒマス其理由ハ若シ兩人共遺言ヲ以テ後見人ヲ指定スルコトガ出來ルト爲リマスルト其間ニ順序ガ極ツテ居ラヌト實際行ハレマセヌ順序ノ極ツテ居ラヌ所ヲ見ルトサウ云フ立法者ノ意思デナイト云フコトガ分リマス獨逸民法草案普漏西ノ「ランドレヒト」索遜ノ民法等ハ極メテ居ル父ノ選ンダ其次ニ母ト爲ツテ居ル或ハ其間ニ外ノ者ガ一寸這入ツテ居ルノモアリマス而シテ私ノ考ヘル所デハ只今ノ人事編ノ立法者ノ方ノ考ノ方ガ宜シイ獨逸法抔ハ此後見ノ仕組ガ餘程違ツテ居リマスルノデ此點計リデナイ一切ノ點ニ付テ餘程他ノ國ノト違ウ所ガアリマス別シテ日本ノヤウデハ後見ト云フノハヽヽヽヽヽヽヽ裁判所ハ重モナル機關ト爲ツテ働ク後見人モ當然後見人ト爲ルト云フノデナクシテ矢張リ裁判所デ一々任命ヲシマス夫レダカラ斯ウ爲ツテ居ルトハ申シマセヌガサウ云フ具合デ總テ參考ハ致シマシタガ夫レニ依ツテ利益ヲ受ケル程ノコトガ外ノ部分ヨリハ少ナカツタ又日本ニ適スルヤウニ思ヒ今日行ハレテ居ル後見ノ主義ニ近イ方ヲ見ルトドウモ父ト母トガ共ニ遺言ヲ以テ選ンデ其中デ選擇スルト云フコトハドウモ日本ニ適スルト云フ考ガ起リマセヌ理論カラ申シマシテモ一體何ゼ親權ヲ行フ父又ハ母ガ後見人ヲ選ブコトガ出來ルカト云フト詰リ後見ト云フモノハ或ル範圍内ニ於テハ親權ノ延長デアリマス親權ヲ持ツテ居ル者ガ死後ノ相續人ヲ極メルノデアリマス夫レデアリマスカラ遺言ヲ以テ極メテ宜シイト云フ事ガ出テ來マス父ガ死ンデモマダ跡ニ母ガ在ツテ其母ガ當然親權ヲ行フト云フ場合デアレバ法律ガ斯ウ云フ場合ハちやんト相續人ヲ極メテ居リマスカラ夫レヲ父ノ意思デ動カスコトハ出來マセヌ無論出來マセヌ夫レニ付テハ規定ハアリマセヌサウシ子看ルト母ノ相續人ヲ豫メ極メテ置クト云フコトハ穩當デアリマセヌ事實上カラ言ツテ見テモ母ノ死ヌルマデニハ父ノ生キテ居ル時ヨリハ其人ノ行ヒ抔ガ違ウカモ知レヌ父ノ死ヌルトキニあの男ヲ任命シテ置ケバ大丈夫ト見テモ夫レカラ母ガ數年立ツテ後ニ死ヌル最早其時ハ其人ハ品行等ガ惡ルクテ後見等ヲ托スルニ足リナイト見ルカモ知レヌ去レバト云フテ親族會ニテ夫レヲ止メルコトカ出來ヌト云フト矢張リ父ノ本統ノ意思ガ行レマセヌ夫レテ事實上カラ見テモ面白クナイ考々以テ之ハ最後ニ親權ヲ行フ者ニ限ツタ方ガ宜カラウ若シサウテナイト云フト親權ヲ行フ者ト云フコトニ限ツタノガ旣ニ呵シイ外ノ父母デモ宜ササウデアル然シ外ノ父母ハ徃ケナイ親權ヲ行フ父母デナケレバナラヌト云フノハ先刻申シタ理由ガアツタノデアリマスカラ之ハ「最後」トシタ方ガ宜カラウ夫レデ立法者モ人事編ニ於テモ同ジ考デアツタラウガ唯ダ言葉ガ少シ足ラナカツタト思ヒマスカラ夫レヲ補ツテ置イタノデアリマス外國ノ例ヲ見テモ皆最後ニ行フ者ニ限ツテアリマス父又ハ母ガ同時ニ遺言後見人ヲ定メルコトガ出來ルト云フ國ハアリマセヌ第二ニ此規定ハ矢張リ今ノ理由ト總テ同樣ノ理由デ出來テ居リマスガ母ガ財產管理ヲ辭シタルトキハ遺言後見人ヲ指定スルコトハ出來ヌト云フコトニ致シマシタ之ハ旣成法典モ多分同ジコトダラウト思ハレマス其譯ハ「生前ニ於テ」トカ「遺言後見人」トカ言ツテアリマスカラ母ガ財產管理ヲ辭シタトキニハ生キテ居リマス生キテ居ルトキハ「生前ニ於テ」ト云フコトヲ言フニ及ビマセヌ何時モ死ンデ後ニ生キテ居ル内ニ是々ノ事ヲシタト云フコトテ「生前」ト言ヒマス夫レデアリマスカラ遺言ト云フモノハ極手廻ハシ好クスル者モナイデハアリマセヌガ先ツ死ヌルトキニ極ツテ居リマスサウスレバ母ガまめデ居ツテ財產ノ管理ヲ辭シテ唯ダ身分ノ監督丈ケシテ居ルト云フ場合ハ今ノ法律ノ規定デモ當嵌ラヌト云フコトハ殆ンド疑ヒハナイ唯ダ本案デハ夫レヲ一層明瞭ニぶツ付ケニ書イタト云フ丈ケノ違ヒデアルト思ヒマス而シテ斯クナケレバナラヌト云フコトハ矢張リ先キニ申シマシタ理由デ親權ト云フモノハ此案デモ又旣成法典デモサウ爲ツテ居ルト思ヒマス二ツノ原素カラ成立ツテ居ル身分上ノ事ト財產上ノ事カラ成立ツテ居ル母ガ財產ノ管理ヲ辭シタトキハ則チ親權ノ一部分タル身分上ノ事丈ケヲ存シテ財產上ノ事ハ抛棄シタノデアル卽チ其半分丈ケニ付テハ親權ヲ持ツテ居リマセヌ、シテ看ルト此場合ニ於テハ身分ノコトハ母ガ辭シテ居リマセヌカラ此場合ノ後見人ト云フ者ハ全ク羅馬法ノ後見人ト同樣デアツテ財產上ノ後見人デアリマスサウシテ看ルト此後見人ハ親權ニ付テハ財產上ノ事柄丈ケ親權ヲ行フテ跡ハ實際母ガ行フテ居リマス母ガ恰度失ツテ居ル部分丈ケノ事ヲ行フ後見人デアリマスカラ其失フテ居ル事ニ付テノ後見人ヲ母ガ選定スルト云フコトハ穩カテナイ夫レガ一ツノ理由デアリマス夫レカラ又實際上ノ理由ハ母ガ財產ノ管理デスルコトハ實際上不便ノ事デアリマスカラ澤山ノ財產ハ中々管理ハ出來マセヌ夫レデ寧ロ自分ハ管理ヲシナイデ外ノ人ニ後見ヲサセタ方ガ子ノ利益ト思フカラ之ガ出來ルノデアリマス自分デ財產ヲ管理スル事ノ出來ナイ母ガ其財產ヲ管理スルニ最モ適任ナル者ヲ選ブト云フヤウナ事ハ先ヅ多クノ場合ニハ難イ身分ノ事ナラバ母親ノコトデモアレバ愛情モ深イカラ多クハ適當ノ人ヲ選ブカモ知レマセヌガ財產上ノ事ハ中々分ラヌカモ知レマセヌ夫レデアリマスカラ矢張リ之ハ母ニ選バシメルト云フコトハ理窟モ通ラヌ又實際モ穩カデナカラウト云フノデ旣成法典ノ如ク財產ノ管理ヲ辭シタル母ハ往カヌト云フコトヲ明カニシマシタ夫レカラ第三ノ點ハ矢張リ同ジヤウナ理由デ第二項ヲ置キマシタ母ガ親權ノ全部ヲ行ヒ得ル場合ニハ父ガ母ヨリ先キニ死ンデモ後見人ヲ遺言デ指定スルコトハ出來ヌト云フコトガ第一項デ規定シテアリマス其反對デ母ガ全ク親權ヲ行フコトガ出來ヌ父ガ死ネバ母ハ其親權ヲ行ハナイ必ズ後見人ヲ選バナケレバナラヌト云フコトハ今ヨリ極ツテ居ルモノナラバ矢張リ其場合ニ於テハ最後ニ親權ヲ行フ者ハ父デアリマスカラ父ガ遺言ヲ以テ其後見人ヲ指定スルコトガ出來ル此場合ハ全部ノ後見デアリマシタ母ガ財產ノ管理ヲ辭シタトキナラバ先キニ申シマシタ通リ親權ノ一部分ニ付テシカ權利ガ無イ夫レデアリマスカラ父ガ他ノ一部分ニ付テノ後見人ヲ指定スルコトハ許シテ置テ差支ナイ筈デアル卽チ父ガ親權ヲ其點丈ケハ最後ニ行フテ居ルノデアルカラ許シテ宜シイト云フ考デ此第二項ノ規定ヲ置キマシタ夫レカラ第四ニ於テハ人事編ノ第百六十五條ニ據ルト「後見人ノ指定ハ遺言書若クハ證書ヲ以テ之ヲ爲シ又ハ區裁判所ニ口述シテ之ヲ爲ス可シ此口述ニ付テハ調書ヲ作ルコトヲ要ス」斯樣ナ規定ニ爲ツテ居リマス詰リ遺言ノ方式ガ證書デモ裁判所ニ出テ口述ヲシテモ宜シイト云フコトニ爲ツテ居リマスガ唯ダ證書ト云フト頗ル不確實デアリマス唯ダ署名カ捺印ガアルト夫レデ宜シイト云フコトニ爲リマス弊ノ無イ場合ハ實ハロ頭ノ遺言デモ宜シイデゴザイマセウガ何レ法律ノ厄介ニ爲ルト云フ場合ハ弊ノアル場合デアリマス財產ノ澤山アルノヲ混ゼ返ヘサウトカ掠メヤウトカ云フ場合ニ法律ガ必要ナコトニ爲ルドウモ唯ダ證書デハ不確實デ徃ケナイ人事編ノ草案ハ第一ノ草案モ第二ノ草案モ皆公正證書トアリマス夫レナラバ分リマス公正證書ナラバ宜シイガ唯ダ乍併公正證書ハ卽チ遺言ノ方式ノ一ツデアリマス遺言ハ公正證書デナク出來ル從來モサウデアラウト思ヒマスサウスルト其公正證書デ遺言ト云フコトニシナクテモ宜シイト思ヒマス寧ロ遺言ト云フ形チヲ以テヤレバ宜シイト云フコトニ爲ルカモ知レマセヌガ多分遺言ノ所ノ規定ニ態々「遺言證書」ト書カヌト遺言ニ爲ラヌト言フコトニハ爲ルマイト思ヒマスカラサウスレバ夫レヲ遺言ト見レバ宜シイ之ハ唯ダ名前ノコトデドウデモ宜シイヤウナコトデハアリマスガ效力ニ於テ大キニ關係ガアリマス遺言デアレバ死ヌルマデ何時デモ之ヲ變ヘルコトガ出來ルト云フノハ疑ヒナイト思ヒマス定メテサウ云フ規定ガ出來ルデアラウト思ヒマス遺言デナイト云フト一旦公正證書ヲ作ツタモノハ理由ナクシテハ變更スルコトガ出來ヌカト云フト夫レハ甚ダ不便デアリマス幾ラ生キテ居ル間デモ其人ノ往カヌト云フコトヲ發見スレバ證書ヲ變ヘルコトガ出來ナクテハ困ル遺言書ヲ作ツタトキハ適任者デアツタガ死ヌルトキニハ不適任者ト云フコトガアルカモ知レヌ若シサウ云フ譯デアレバ「遺言」トシテ仕舞ウガ宜シイ裁判所ニ口述スル是モ固ヨリ宜シイト思フノデアリマス、ケレドモ一體裁判所ニ口述スルト云フ必要ハドウ云フ場合ニアルカト云フト一ツハ貧乏人デ自筆デ遺言書ガ書ケナイト云フ場合ニ必要ガアリマス自筆デ遺言書ガ書ケナイ口デ言ヘルガ手ノ利カヌト云フ者モアリマスカラ其場合デアレバ詰リ公正證書ヲ作ル金ガ無イ裁判所ナラバ只デ往ケル或ハ極廉デ濟ム夫レデ貧乏人デモ此方ハ出來ルト云フ譯デアリマス夫レハ誠ニ宜シイト思ヒマスケレドモ乍併斯ク廣ク書テ置クト日本抔ノ慣習デハ滅汰ニ之ヲ濫用スル者モアリマスマイケレドモ追々世ガ末ニ爲ルノカ進ムノカ其處ハ知リマセヌガ裁判所ニ出ル事ヲ何ントモ思ハナク爲ルサウ爲ツテ來ルト裁判所ニ出レバ只デアル公正證書ヲ作レバ金ガ要ルト云フノデ少シ節儉家トカ吝嗇家抔ハ皆裁判所ニ出テ往ツテ裁判所ハ煩ハシクテ溜ラヌヤウニ爲ルト思ヒマス尤モ後見人ノ指定ノコトハサウ澤山モゴザイマスマイカラ私ノ考ハ特ニ必要ノ場合ニハ許シテモ宜シイト思ヒマスガサウ廣ク許ス譯ニハ往クマイト思ヒマス夫レデ遺言ノ方デ或ル必要ノ場合――――其必要ノ場合ハ先刻申シマシタ場合デアリマスガ其場合ニハ裁判所ヘ出テロ頭デ遺言ヲ爲スコトヲ得ルト云フ斯ウ云フ規定、裁判所ニ出ナクテモ遺言ガ出來レバ尙ホ宜シイガ兎ニ角遺言ノ方デサウ云フ規定ノ出來ルヤウニ御考ヲ願ヒタイ夫レハ遺言ノ一ツノ方式トシタイ斯ウ云フ考デ除キマシタ之ハ例ヘバ獨逸民法草案ノ如キ又ハ印度ノ相續法抔モ唯ダ「遺言」トアリマスカラ外ノ事ハ許サヌノカドウカ分リマセヌガ皆遺言ノミデサウシテ獨逸民法草案ハ遺言ノ方式トシテ裁判所ニ出テ口頭ニテ之ヲ爲スコトヲ得ルト云フコトデ夫レデ纏リガ付テ居リマス本案モサウ云フ主義ヲ採ツタノデアリマス
土方寧君
本條ハ「後見人」ノ後トニドンナ規定ガ出ルカ知リマセヌガ最モ必要ナ箇條ト思ヒマス後見人ノ事務ノ取締ノ事ガナケレバナラヌガ夫レハ法律ニ極メテ仕舞オウトシテモ出來ルモノデアリマセヌ大事ナ事ハ後見人其人ヲ得ルニアルノデアリマスガ適任デアツテモナクテモ親ガ親權ヲ行フ場合ハ宜シイデゴザイマセウカサウデナク夫レニ代ル後見人ヲ置クト云フナラバドウ爲ルカ適任者ヲ置カナケレバナラヌ置ク以上ハ夫レヲ選任スル人ガ相當ノ人デアツテ適任者ヲ選任シナケレバナラヌト云フコトニ爲ルノデ夫レデ此條ノ如キハ大切ノ問題デ只今色々六ケシイ問題ヲ含ンデ居ルヤウデアリマシタガ夫レニ付テ大體ノ點ニ付テハ分リマシタガ尙ホニ點丈ケ伺ツテ見タイサウシナイト原案ノ意味ガ分ラヌ第一ニ但書ノ意味デアリマスガ固ヨリ親權ト云フト子ノ身體ノ監護ト財產ノ管理ト二ツアリマス母ハ財產ノ管理ヲ辭スルコトハ出來ルコトニ極ツテ居ル此但書ガ卽チ其場合デアリマス母ガ子ノ身體ノ監護ハシテ居ルガ財產ノ管理ハ辭シテ居ル其時ハ財產ノ管理ヲ辭スルガ爲メニ親權ノ一部分ノ身體ノ監護ト云フモノヲ持ツテ居ツテモ遺言デ後見人ノ指定ヲスルコトガ出來ナイト云フコトニ爲ツテ居ル夫レガ分ラヌノデアル婦人抔ト云フモノハ多クハ財產ノ管理抔ハ煩ハシクテ出來ヌカモ知レマセヌガ子ヲ思フ心ハ親ヨリ厚イ者ハアリマセヌカラ夫レデ自分ガ財產ノ管理ヲ失ツタト云フコトデ以テ自分ノ死ンダ後ハ後見人ハ誰レガ宜シイカト云フコトヲ判斷スルカガ無イト云フコトニ爲ルノハ酷デアラウト思ヒマス夫レデ親族會抔ニサセルヨリハ母自身デ決スルガ宜カラウト云フ考ガ一ツデアリマス夫レカラ二項ノ文章ノ意味ニ付テデアリマスガ二項ノ文ニハ「親權ヲ行フ父ノ生前ニ於テ母ガ財產ノ管理ヲ辭シタルトキハ」云々トアルガ母ガ親權ヲ行フト云フノハ父ガ死ンダトカ病氣トカデ親權ヲ行フ事ガ出來ヌ場合デアル若シサウ云フ場合デアリマシタナラバ父ガ親權ヲ行フ事ノ出來ナイ場合デアツテ之ニ次グ所ノ母ガ行フト云フ場合デアツタナラバ母ガ財產ノ管理ヲ辭シタ場合デモ父ハ遺言デ後見人ヲ指定スルコトハ出來ナイ筈デアル生キテ居ツテモ或ハ禁治產者デアルトカ云フ者デアル夫レデニ項ノ場合ニ於テ母ガ親權ヲ行フテ居ツタ場合其中ノ財產ノ管理ヲ辭シタ場合ニ父ガ遺言デ以テ後見人ヲ指定スルト云フコトハ私ニハ分ラヌ私ハ矢張リ母ガ財產ノ管理ヲ辭シテ居ツテモ現ニ最終ニ親權ノ一部ヲ持ツテ居リマスカラサウスルト但書ト同ジヤウニ母ニ後見人ノ指定ヲサセテモ宜シイト思ヒマスガ其點ヲ明瞭ニ伺ヒタイノデアリマス
梅謙次郎君
私ハ御意見カト思ヒマシタガ御質問ダサウデスカラ簡單ニ御答ヘ致シマス詰リ先刻申シマシタヤウデアリマスガ第一ノ點ハ土方君ノ御考ト違ウノデ自分デ財產ノ管理ノ出來ナイヤウナ者ナラバ自分デ其財產ノ管理人ヲ定メルヤウナ卽チ後見人ヲ指定スルコトノ出來ヌノガ當リ前ト思ヒマス夫レヨリモ親族會ガ定メル方ガ宜シイ―――後ニ親族會ノ規定デ分リマスガ母抔ハ第一ニ這入ルサウシテ之ハ御案ニ爲ツタラ質問シヤウト思ヒマシタガ簡單デアリマスカラ序デニ申シマスガ母ガ財產ノ管理ヲ辭スルト云フト直グ後見人ガ要ル夫レハ遺言デ選ブト云フコトハ母ハシマスマイカラ其時ハ生キテ居ル内ニ自分デ勝手ニ後見人ヲ選任シテ宜シイト云フ御意見デゴザイマセウカ只今ノ御論デハ死ンデ跡ノトキ、若シ生キテ居ルトキニ外ノ人ガ後見人ニ爲ツテ居ツテ死ヌルトキニ後見人ヲ選ブコトガ出來ルト云フコトニ爲ルト母ノ意思デ現在ノ後見人ヲ變ヘルコトガ出來ル後見人ヲ變ヘルト云フヤウナ重モイ事情ガ無クテモ勝手ニ變ヘルコトガ出來ル母ノ意思ノミデ勝手ニ後見人ヲ選任シテ宜シイト云フ御考デゴザイマセウカ若シサウ爲レバ變ナコトニ爲リマス私ハサウ云フ事デナイ方ガ宜シイト思ヒマス第二ノ點モ矢張リ先刻說明シタ通リデアリマスガ詰ル所母ガ管理ヲ辭シマスルト管理ニ付テハ母ガ親權ヲ行ハヌノデアリマス夫レデアリマスカラ母ノ行ハヌ權利丈ケヲ父ガ生前ニ行フテサウシテ相續人ヲ極メテ置テモ宜カラウ此事ニ付テハ外國ノ例ハ實ハ母ヲ後見人ト見ル例モアリマス日本デモ現行法ハサウ見テ居ル母ハ後見人ト見ル古イ所ガ父モ後見人ト見テ居リマス近來ハ母ハ後見人ト見テ居リマス外國デモ母ハ後見人ト見テ居ル例モアリマス又父モ後見人ト見テ居ル例モアリマス後見人ト見テ居ルト親權ト見テ居ルトハ取リモ直ホサズ父ガ死ヌルトキハ或ハ母ノ意思ヲ採ルト云フ例モアル母親ニ後見人ヲ選ブコトヲ許シテ居ル例ガアル又丸デ止メルト云フコトハセヌデモ相談人ヲ附スルコトガ出來ルト云フ規定ハ私丈ケハ聞テ居リマス夫レカラ又場合ニ依リマシテハ此父ノ遺言ノ效力ト母ノ遺言ノ效力ト甲乙ヲ附シテアル例モアリマス二人リトモ同時ニ爲ツテ居ル場合ニハ前後ハ必ズ附シテ居ルサウ云フ譯デアリマシテ幾分カ斯ウ云フ場合ニ父ノ意思ヲ重ンジテヤルト云フコトガ慣習ニモ適フテ居リ又實際ニモ適シテ居ルダラウ其證據ニハ父ハ財產ノ管理ヲ辭スルコトハ出來ヌガ母ハ之ヲ辭スルコトヲ得ルト云フノハ何カナラバ母ハ實際管理ガ出來ヌ事ガアルカラデゴザイマセウ其邊ノ所ヲ考ヘルト純然タル理論ハ暫ク置テ二項ノ規定ノ如キハ最モ必要デアラウト信ジタノテアリマス
土方寧君
第一項ノ但書ハ詰リ見ル所ガ違ウノデアリマス梅君ノ御考デハ財產ノ管理ヲ辭シタ位ノ者ハ自分デ不適當ナコトヲ認メタカラデアルサウ云フトキハ寧ロ親族會デ選定シタ方ガ宜シイト云フコトデアリマスガ私ノ考デハ母ガ自分デ財產管理ニ適當ナ人ト認メル者ヲ指定シテモ格別差支ナイノミナラズ愛情ノ深イ母ガ鑑定シタ方ガ一番子ノ爲メニ爲ルト云フ方カラ此但書ガ無イ方ガ宜シイト思ヒマス二項ニ付テハ無論母ガ親權ヲ行フテ居ル身分、身體ニ付テハ――――財產ノ管理ニ付テハ夫レニ付テハ後見ガナケレバナラヌ夫レ六誰レガスルカト云ヘバ無論其後見人ノ方デ管理ガ出來ル母ガ死ヌレバ出來ルサウシテ自分ガ死ヌトキハ遺言デ以テ後見人ノ遺言ガ出來ル死ヌルトキニ財產ノ管理ト身體ノ監護マデモ托スルコトガ出來ル又生前ノ財產ノ管理ハ旣ニ人ガアルカラ其儘ニシテ身體ノ監護丈ケニ付テハ別ニ遺言デ極メテモ宜シイト思ヒマス夫レラノ所ハ母ガ一番子ニ對シテ愛情ガ厚イカラ熱心ニ自分ニ考ヘテ適當ノ人ヲ選ブト思ヒマス事ヲ處スルニ敏捷ト云フヨリハ信用上カラ來ルノデアリマスカラ着實デアルカドウカト云フ事ヲ見ルノハ矢張リ母ニモ其能力ガアツテ宜シイト思ヒマス夫レデ私ハ原案ノ趣意ハ分ツテ居ルト思ヒマスカラ此一項ノ但書ヲ削ツテ仕舞ウト私ノ趣意ガ通ルサウシテ二項モ全部削ルサウスルト一項ノ前文丈ケニ嵌ツテ仕舞ウテ宜シイ之ニ付テ旣ニ議決ニ爲ツタ事デアリマスガ若シ必要ト云フコトデアレバ親權ヲ行フ所ノ第五章ノ親權ノ所ニ母ガ親權ヲ行フ場合ニハ相談人ヲ置クコトガ出來ルト云フコトニ親權ノ方ニ一箇條置クコトガ出來テモ宜シイト思ヒマス
穗積八束君
贊成
井上正一君
私モ土方君ノ御考ト大抵同ジ考ヲ持ツテ居リマシタガ唯ダ其御說明ノ中デアリマシタガドウデモ宜シイガ後見人ハ信用ガ本トデアルト云フコトデアリマシタガ固ヨリ後見人ハ信用モ重キヲ置カナケレバナラヌガ夫レハドウデモ宜シイガ子ノ財產ノ管理ヲ辭シタ母ハ後見人ヲ指定スルコトガ出來ナイト見ルト或ハ斯ウ云フヤウナ結果ガ來ハシナイカト思ヒマス卽チ次ノ條ニ「前條ノ規定ニ依ツテ後見人タル者アラサルトキハ戸主ハ未成年ナル家族ノ後見人ト爲ル」斯ウ云フ事ガアリマスカラ今ノ母モ財產ノ管理ヲ辭スルサウスルト云フト後見人ハ卽チ戸主ニ爲ルサウスルト戸主ト母ガ仲ガ惡ルイサウスルト縱令ヒ假リニ戸主ハ其財產ヲ管理スルコトハ上手デアツテモ卽チ母ト云フモノハ戸主ガ其子ノ財產ヲ管理スルコトヲ欲シナイ故ニ自分ガ管理シタクナイガ卽チ戸主ニ後見ガ往カナイヤウニスル爲メニ其母ガ財產ヲ管理スルヤウナ事ガアツテ未成年者ニ取ツテモ甚ダ不利益ト云フヤウナ結果ガ生ジハシナイカ知ラント云フ考ガアリマスルノデ旁々今ノ修正說ニ贊成ヲ致シマス
磯部四郎君
今大變ニ贊成說ガ出マシタガ成程色々理由モゴザイマスルカモ知レマセヌガ理窟ハ分リマセヌガ私ハ此原案ノ方ガ大變宜シイト思ヒマス其譯ト云フモノハ先ヅ後トノ方ノ條文ヲ見マセヌケレバ分リマセヌガ兎ニ角母一人デ後見人ヲ指定スルコト卽チ財產ヲ管理スルコトヲ辭スレバ後見人ヲ指定スルコトガ出來ヌト云フコトニ爲ルト必ズ親族會デ指定スルコトニ爲ラウト思ヒマス母ガ總テノ資格ガ備ツテ居レバ夫レハ自分デ指定シテモ宜シイデゴザイマセウガソンナ事モ出來ヌ餘リ世ノ中ノ事ニ馴レヌ人ガ唯ダ遺言ヲ以テ好キナ後見人ヲ定メルト云フコトガ出來ルト爲ルト詰リ其遺言ハ純然タル意思ニ出デヌト云フヤウナ場合モ起ラウト思ヒマスガドウモ今日ノ制度デハ理窟ニ合ハヌカモ知レマセヌガ此位ノ所ガ未成年者ノ爲メニ爲ラウト思ヒマスカラ是ラハ理窟ヲ以テ餘リ議論ヲセヌデ先ヅ日本ノ今日ノ普通ノ情勢ヲ考ヘテ是ラガ恰度適當ト思ヒマスカラドウカ理窟張ツタ事ハ止メタ方ガ宜シイト思ヒマス
梅謙次郎君
議論ハ致シマセヌガ若シ土方君ノ御論ガ通ルナラバ甚ダ破ノモノガ出來ルト思ヒマスカラ申シテ置キマスガ此但書ト二項トヲ削除シテ仕舞ウト「最後ニ親權ヲ行フ者ハ遺言ヲ以テ後見人ヲ指定スルコトヲ得」ト云フコトニ爲ル母ガ管理ヲ辭シタルトキハヽヽヽヽアリマスカラ其場合ニハ母ガ遺言ヲ以テ後見人ヲ指定スルコトガ出來ルトシテモ母ガ生キテ居ルトキハドウスルカ其間ハ戸主ガアレバ戸主、戸主ガナケレバ親族會デ以テ―――戸主ガナイト云フコトハアリマセヌガ戸主ガ未成年デアレバ親族會デ以テ選ブサウスルト先刻カラ御兩君カラ頻リト御企望ニ爲ル事實ガ決シテ生ジナイ加之ナラズ母ガ死スルト―――今迄ノ後見人ハ罪咎モ無イガ逐ヒ拂ツテサウシテ母ノ指定シタ者ヲ其處ヘ据エルト云フコトニ爲ルカ夫レトモ財產丈ケハ依然トシテ置テ身分ノ事丈ケヲ別ノ者ニヤラセルコトニ爲ルカ一體身分後見人ト財產後見人トハ場合ニ依ツテハ分レテ居ル方ガ宜シイガ多クノ場合ハ獨リノ方ガ宜シイノデアリマス、デサウ云フ事モ餘リ望マシクナイ又實際ニ於テ都合ノ好イ事モアラウガ惡ルイ事モアラウト思ヒマス其處ラノ處ハ明カニ御說明ニ爲ラヌト大キニ困ルト思ヒマス
土方寧君
夫レハ成程少ナクモ疑ヒハ生ジマスルノデ詰リ母ガ財產ノ管理ヲ辭シテ居ル夫レハ母ガ選ブト云フコトハ少ナクモ議論ニハ爲リマスガ夫レハ私ハ自分ノ精神丈ケヲ案ニシタノデ但書ヲ削ツテ二項ヲ削ルト云フコトハ先刻申シマシタヤウナ理由デ夫レデ今申スヤウナ疑ヒガ生ジマスレバ起草者ニ願ツテ文章ヲ加ヘテモ宜シイノデアリマス唯ダ跡ニ戻リマスガ親權ヲ行フコトハ同ジデアリマス父ガ行フコトガ出來ヌトキハ母ト云フノデ全ク父ガ行ウノト同ジコトデ愈々親權ヲ行フ以上ハ母ト父トヲ區別ヲシナイ親子ノ愛情ヲ本トトシテ其間ニ區別ヲシナイト云フ考デアリマスガ實際磯部君ノ言ハレルヤウニ女ハ男ノヤウニ往キマセヌカラ議決ノ所ニハ立戻リマスガ母ノトキハ相談人ヲ置テ貰ウコトガ出來ルト云フコトニ親權ノ所ニ一箇條ヲ置テ貰ヒタイト云フ企望デアリマスサウシテ但書ト二項トヲ削ツテ仕舞ウト云フ趣意デ母ガ財產ノ管理ヲ辭シタトキニ財產管理人ヲ指定スルコトハ母ガ自分デ出來ルト云フコトニシタイ夫レニ付テ一寸一言シタイ事ハ二項ノ場合ニ母ガ親權ノ一部ヲ行ツテ居ツテサウシテ遺言ヲ以テ後見人ヲ指定スルコトハ出來ナイデ誰レガスルカ父ト云フコトニ爲ツテ居リマス全體父ガ後見人抔ヲ遺言ヲ以テ指定スルコトノ出來ヌ場合デアル親權ノ規則デ以テ母ガ親權ヲ行フト云フノハ父ガ無イトカアツテモ親權ヲ行フコトガ出來ヌトカ云フ場合デアル若シ父ガ一旦行衞ガ知レナカツタガ出テ來タナラバ父ガ親權ヲ行フコトニ爲ル夫レデ二項ノ中ノ「母カ」云々ト云フコトニ付テ父ガ遺言デ指定スルト云フコトハ父ガ指定スル必要ハ無イト思ヒマス親權ノ規定カラ―――其點ハ先刻申シマシタガ明カニ分リマセヌカラモウ一應伺ウノデアリマス
梅謙次郎君
夫レハ文章ガ惡ルイカモ知レマセヌガ夫レハ土方君ノ誤解デアリマス此場合ハ斯ウ云フ場合デアリマス私ガ親權ヲ行フテ居リマス先ヅ私ガ死ナントスル死スレバ私ノ妻ナラ妻ガ親權ヲ行フト云フコトハ極ツテ居ル、所ガ私ノ生キノアル中ニ私ノ妻ガ財產ノ管理ヲ辭スルサウスルト私ガ死ヌルトキニ財產ノ管理丈ケハ高木君ニ託スル斯ウ遺言ヲスル
穗積八束君
此後見ノ規定ハ華族ヤ皇室ニハ當嵌メルト云フ御考デハアリマセヌカ
梅謙次郎君
夫レハ別ニ規定ガアレバ夫レニ從フ多分何カアルカ又今ナケレバ是ガ出ルト同時ニ出ナケレバナラヌト信ジマス卽チサウ云フ者ニ對シテハ別ニ規定ガアルト信ジテ詰リ全ク精神ニ於テハ當嵌メベキ精神ハナイ併シ當嵌メベキモノモアラウト思ヒマス
穗積八束君
只今ノ御說明ニ付テデアリマスガサウ云フ御考デ何カ施行規則ヘデモアルノナラバ宜シイガ華族令ヤ皇室典範ニハアリマスガサウ云フ事ハ施行規則ニデモ御書キニ爲ルノデアリマスカ
梅謙次郎君
華族令ヤ皇室典範ハ入レヌ積リデアリマス
穗積八束君
御書キニ爲リマスカ
梅謙次郎君
夫レハ此中ニ入レヌ積リデアリマス施行規則ヘ書カヌデ宜シイナラバ書カヌ書クガ宜シケレバ書クノデアリマス
土方寧君
成程此二項ハ只今ノ御說明ノヤウニ解スルコトハ文章ヲ見レバ分ラヌコトモアリマセヌガ或ハ「母カ」ノ下ニ「豫メ」ト云フ字ヲ入レタラはツきり分ラウト思ヒマス
富井政章君
ソンナ字ヲ入レルヨリハ「生前ヨリ」トシタ方ガ宜シイ
議長(箕作麟祥君)
夫レデハ決ヲ採リマス土方君ノ第一項但書竝ニ第二項全部削除說ニ贊成ノ方ノ起立ヲ請ヒマス
起立者少數
議長(箕作麟祥君)
少數デアリマス夫レデハ二項ノ「母カ」ノ下ニ「豫メ」ヲ入レルト云フ說是ニ付テ決ヲ採ツテ見マセウ是ニ贊成ノ方ノ起立ヲ請ヒマス
起立者多數
議長(箕作麟祥君)
多數
高木豐三君
唯ダ適用上ニ付テ伺ヒマスガ第一項ノ場合ニ於テ先刻ノ御說明ニ據ルト母ガ親權ヲ行フタ後ノ後見人ヲ選ンダノハ無論無效ニ爲ルモノト思ヒマス父ガ遺言シテ曰ク母ガ死ンダ後ニハ誰某ヲ後見人ニ委任セヨト云フコト斯ウ云フコトハ無效ト思ヒマスガ第二項ノ場合デモ矢張リ同論鉾デ往クト思ヒマスガ少シ疑ヒヲ起スノハ若シ父ノ生前ニ於テハ財產ヲ管理スルコトヲ許サヌニサウシテ父ノ死ンダ後ニ管理ヲ辭スルコトハ出來ヌト云フコトナラバ
議長(箕作麟祥君)
夫レハ「豫メ」ト云フ字ガ這入ツタ
高木豐三君
若シ後ニ辭スルコトガアリトスレバ其場合ヲ父ガ豫想シテ選ンデ置テハ如何デゴザイマセウカ矢張リ夫レモ無效ニ爲ルノデアリマスカ
梅謙次郎君
此儘デハサウ爲ルノデアリマス
議長(箕作麟祥君)
夫レデハ他ニ御發議ガナケレバ次條ニ移リマス
(書記朗讀)
第九百七條 前條ノ規定ニ依リテ後見人タル者アラサルトキハ戶主ハ未成年ナル家族ノ後見人ト爲ル
(參照)人一六六、二十八年九月三十日大審院判決、佛四〇二乃至四〇四、澳一九八、伊二四四、葡一九九乃至二〇一、西二〇四、二號、二一一、白草三九二、獨一草一六三五、同二草一六五七、索一八九〇
(左ノ修正案ハ朗讀ヲ經ザルモ參照ノ爲メ茲ニ之ヲ載録ス)
修正案  富井政章君 提出
第九百七條 削除
第九百八條第三項削除
第九百九條ノ「前三條」ヲ「前二條」ト改ム
第九百十條ノ「其職務ヲ辭シ」ノ下ニ「又ハ」ノ二字ヲ加ヘ「又ハ戸主カ隱居ヲ爲シ」ノ十字ヲ削ルコト
第九百十二條第四號ノ「直系血族及ヒ戸主」ヲ「及ヒ直系血族」ト改ム
梅謙次郎君
此箇條ハ人事編ノ第百六十六條ノ一部分丈ケヲ採用致シマシタ此百六十六條ニハ「父又ハ母カ後見人ヲ指定セサリシトキハ其家ノ祖父後見人ト爲ル但未成年ノ家族ニ付テハ成年ノ戸主後見人ト爲ル」トアリマス卽チ此規定ニ據ツテ見ルト詰リ先ヅ戸主ガ後見ト爲ルベキダ乍併戸主自身ガ未成年者ナルトキハ其家ノ祖父ガ後見人ト爲ルト云フコトデアリマス之ハ今日ノ慣習ニモアルコトデゴザイマセウ外國ニ於テモ多イコトデ卽チ伊太利、澳太利、葡萄牙、獨逸民法草案、普漏西抔ガ皆サウデアリマス夫レカラ索遜民法ノ如キハ相續ノ順位ニ從ツテ相續人ト爲ルベキ人ガ後見人ト爲ルト云フコトニ爲ツテ居リマスガ之ハ甚ダ危險ノコトデアリマス最モ近イ相續人ハ態々後見人ニ爲レナイト云フ規定ノ存シテ居ル國サヘアリマス隨分歐羅巴ニ於テモ昔シ斯ウ云フ種類ノ後見人ハ甚ダ未成年者ノ爲メニ不利益デ甚ダシイノハ殺シマデシタト云フ例モ聞テ居リマス又祖父ノ後見人ノ例ハ多イトハ云ヒナガラ和蘭「カリホルニヤ」紐育民法草案抔ニハアリマセヌ佛蘭西抔デモ祖父ノ後見人ト云フコトガアリマシタガ學者間ニハ頗ル不人望デ之ハ民法實施以來今日マデ結果ガ宜シクナイドウモ祖父ノ後見ト云フコトハ子ノ爲メニ利益ト爲ルト云フヨリモ利益ト爲ラヌ方ガ多イト云フコトヲ學者ハ能ク言ツテ居リマス何ゼカト云フト祖父ト云フモノハ或ハ旣ニ老衰シテ居ツテ事ニ耐ヘナイ或ハ時勢ニ後レテ居ツテ別シテ今日ノ日本ノヤウナ世ノ中ニアツテハ頑固デ役ニ立タナイ教育抔ハ到底掌ラセルコトハ出來ヌ此老衰ト云フ場合ハ末成年者又ハ禁治產者ニモ當嵌マル就中禁治產者ニハ當嵌マル氣違ヒヲ世話ヲスル事抔ハ中々世話ガ燒ケルコトデアリマスガ之ハ老人デハ中々出來ヌ事デアリマス第二ノ理由ハ主トシテ未成年者ニ關スルコトデ是カラ先キハ未成年者ノ教育ハ大切デアリマスガ昔シバ夫レデ宜シイデゴザイマシタラウガ今日ノ時勢ニ合ハナイヤウナ教育ヲシテ置クト其子供ガ大キク爲ツテ卽チ今日ノ時勢ニ合ハナイ教育ヲ受ケテハ其生涯ヲ誤ル夫レデ祖父ガ當然後見人ニ爲ルト云フコトハ穩當ヲ缺クト思ヒマス若シ又年齢ガ往ツテ居ツテモ矍鑠トシテ居ツテ時勢ニモ後レテ居ラヌヤウナ人間デアレバ大抵ハ親族會抔デモ入レルデゴザイマセウ親族會デハ祖父抔ハ第一ニ入レル積リデアリマス其處デ自分デ意見ハ述ベルコトモ出來ル夫レヲ故ナク立派ナ祖父ガアルノニ外ノ者ヲ後見人ニスルト云フコトガアツタラ上訴マデ許ス積リデアリマスサウシテアレバ祖父マデヲ當然後見人トスルト云フコトハ必要ガ無イカラ除イタノデアリマス
富井政章君
本條ニ付テハ御手許ニ修正案ヲ廻ハシテ置キマシタ夫レハ御同意下サレル方ハ少數デアラウト思ヒマスガ如何ニモ原案ノ通リデハ實際危險ト信ジマスルニ依ツテ修正案ヲ提出シタ譯デアリマス修正案ハ數條ニ爲ツテ居リマスルケレドモ其實一ツデアリマス若シ本條削除ノ說ガ不幸ニシテ倒レマシタトキニハ後ノ四箇條ノ修正ハ私ヨリ撤回致シマス若シ又幸ニシテ通過致シマシタトキニハ次ノ條ノ第三項ハ教育ノコトガアリマセヌカラ本條程重キヲ置キマセヌ之ハアツテモ宜シイトハ思ヒマスケレドモ違ヘル丈ケノコトハ固ヨリナイノデアリマス違ヘルト却テ體裁モ善クナイト思ヒマス
議長(箕作麟祥君)
一寸富井さんノ御演說中デハアリマスガ之ハ大分大キナ問題ノヤウデアリマスガ旣ニ缺席ノ方モアリマスシ時刻モ切迫シテ居リマスカラ今晩ハ是デ散會シタ方ガ宜カラウト思ヒマス