法典調査会 第139回 議事速記録
参考原資料
- 法典調査會 民法議事速記録 , 四拾六巻 [国立国会図書館デジタルコレクション]
- 法典調査會議事速記録 第百三十九回 , 巌松堂書店編 [国立国会図書館デジタルコレクション]
第百三十九回法典調査會議事速記録
明治二十八年十一月二十二日午後三時五十分開會
出席員
箕作麟祥君
田部芳君
高木豐三君
穗積八束君
梅謙次郎君
富井政章君
穗積陳重君
横田國臣君
奧田義人君
重岡薫五郎君
長谷川喬君
南部甕男君
尾崎三良君
議長(箕作麟祥君)
夫レデハ會議ヲ開キマス修正案ノ第七百四十三條ガ此前半途デ散會ニ爲リマシタカラあの條カラ始メマス
(左記ノ條ハ第七百四十三條ト共ニ延期セシヲ以テ朗讀ヲ經ザルモ參考ノ爲メ茲ニ之ヲ掲載セリ)
第七百四十四條 婚姻又ハ養子縁組ニ因リテ他家ニ入リタル者カ其家ノ戸主ノ親族ニ非サル自己ノ直系卑屬ヲ婚家又ハ養家ノ家族ト爲サント欲スルトキハ前條ノ規定ニ依ル外其配偶者又ハ其養親ノ承諾ヲ得ルコトヲ要ス
婚家又ハ養家ヲ去リタル者カ其家ニ在ル自己ノ直系卑屬ヲ自己ノ家族ト爲サント欲スルトキ亦同シ
梅謙次郎君
是ニ付テハ此前御注文ガ出テ居リマス其御注文ニ應ジテ修正案ヲ實ハ作ツテ見マシタガマダ吾々ノ間デ議ガ熟セヌデアリマスカラ此次マデニ定メマシテ持參致シマス
議長(箕作麟祥君)
夫レデハ延バシマセウカ
梅謙次郎君
サウ願ハレマスレバ
議長(箕作麟祥君)
此條ヲ延バシテモ次ノ條ニハ關係ハアリマセヌカ
梅謙次郎君
之ガ未定ニ爲ツテ居ツテモ次ノ條ニハ關係ガアツテモ其次ノ條ニハ無關係デアリマス
議長(箕作麟祥君)
夫レデハ只今御聽キノ通リデアリマスカラ七百四十三條七百四十四條ハ延バスコトニシテ七百四十五條ニ移リマス
(書記朗讀)
第七百四十五條 婚姻又ハ養子縁組ニ因リテ他家ニ入リタル者ハ離婚又ハ離縁ノ場合ニ於テ實家ニ復籍ス
梅謙次郎君
之ハ元ト議決ニ爲リマシタ儘デアリマスガ唯ダモウ一項アツテ但書デアリマシタガ實家ニ復籍スルコトニ爲ラヌデ離籍セラレタ場合ニハ一家ヲ創立スルト云フコトハ別ニ七百四十八條ニ掲ゲルコトニ爲リマシタカラ夫レデ此處ガ一寸變ツタ丈ケデアリマス
議長(箕作麟祥君)
如何デアリマスカ之ハ元トノ議決ノ通リデ但書ガ削ラレタ丈ケデ別ニ御異議ガ起ラウトモ思ヒマセヌカラ此通リニ極ツタモノトシテ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第七百四十六條 修正舊第七百四十一條第一項及ヒ第二項
梅謙次郎君
之モ元ト議決ニ爲ツタ儘デ一項二項ハ其儘三項ハ矢張リ後ニ一緒ニ規定シタノデアリマス
長谷川喬君
一寸伺ヒマスガ七百四十一條ノ二項ニハ但書ガアツテ其但書ニハ「戸主ハ一年内ニ之ヲ離籍スルコトヲ得」トアリマスガ此一年内ノ起算點ガ不明ダト云フコトヲバ御話シヲシテ置キマシタガ夫レハ如何デゴザイマスカ
梅謙次郎君
實ハ整理ノトキマデニ考ヘテ置カウト云フコトデアリマシタカラ夫レデ今度モ元トノ儘ニシテ置キマシタガ併シ今良イ案ガ出テ改マレバ結構デス―「但其戸主ハ婚姻又ハ養子縁組ノ日ヨリ」トスレバ譯ナク直ホリマスガ、サウ極メテ戴キマセウカ
議長(箕作麟祥君)
サウ直ホリマスカ
梅謙次郎君
夫レデハ只今長谷川君カラ御注意ガアリマシタカラ序デニ此處デ以テ「但其戸主ハ婚姻又ハ縁組ノ日ヨリ一年内ニ之ヲ離籍スルコトヲ得」ト改メテ戴キタイ
長谷川喬君
考ヘタ譯デハアリマセヌガ今ノ案ノヤウニ爲ルト斯ウ云フ衝突ガ生ジハシマスマイカ婚姻ト云フモノガ他家ニ入ラヌ前キニ成立ツテ居ツテサウシテ他家ニ入ルト云フノハ時ガ違ウト云フコトニ爲ルト婚姻ハ前日ニ濟ンデ居ツテ其日カラ算ヘルト云フコトニ爲ルト籍ノ方カラ算ヘルト少シ起算點ガ違ウト呵シクハアリマセヌカ他家ニ入ルト云フノガ正當ノ起算點デハナイカト思ヒマス
梅謙次郎君
他家ニ入ルノハ何時カラカナラバ卽チ婚姻又ハ養子縁組ニ因ツテ當然入ルノデアリマス他家ニ入ルニハ別ニ手續キハ要セヌ積リデアリマス婚姻ガ無效ニ爲ラナイ以上ハ當然他家ニ入ルト云フコトハ喰付テ往ク尤モ其明文ハ婚姻ノ處ニ出ルノデ今案ヲ作リ掛ケテ居リマスガマダ御手許ニハ廻ハリマセヌ
議長(箕作麟祥君)
宜シウゴザイマスカ御異議ガナケレバ元トノ儘デ三項ガ取レテ今ノヤウニ但書ガ改マルト云フコトニ極マリマス次ニ移リマス
(書記朗讀)
第七百四十七條 舊第七百四十二條
梅謙次郎君
此七百四十七條ハ元トノ儘デアリマスカラ別ニ申シマセヌ
議長(箕作麟祥君)
別ニ御異議モアリマスマイカラ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第七百四十八條 離籍セラレタル家族カ他家ニ入ラサルトキハ一家ヲ創立ス他家ニ入リタル後離婚又ハ離縁ニ因リテ其家ヲ去リタルトキ亦同シ
梅謙次郎君
之モ殆ンド說明ヲ要セヌデアラウト思ヒマス詰リ元トノ案デアルト場合ガ澤山アツテ其場合毎ニ「一家ヲ創立ス、一家ヲ創立ス」ト云フコトニ書クコトニ爲ツテ居ツテ如何ニモ煩ハシイノミナラズ離籍ノ場合ト云フノガ初メノ案ヨリカ少シ殖ヘタカラ愈々煩ハシキニ耐ヘヌヤウニナリマシタカラ夫レデ之ヲ全ク一箇條ニシテ若シヤ漏レテ居ルト不體裁デアリマスカラ斯ウ云フ風ニ一括シテ置ケバ漏レル恐レガアリマセヌカラ旁々以テ一緒ニ致シマシタ
横田國臣君
「其家ヲ去リタルトキ」ト云フノハ矢張リ離籍ト同ジコトデアリマスカ家ヲ去ルト云フト違ヒマスカ
梅謙次郎君
違ヒマス「其家」ト云フノハ他家デアリマス夫レデアリマスカラ離籍セラレタト云フノハ元トノ家カラ離籍セラレタノデ夫レガ他家ニ這入レバ其他家ノ家族又ハ戸主ト爲ルノデアリマスカラ問題ニ爲リマセヌ夫レデ若シ他家ニ這入ラヌデ離籍セラレタトキハ一家ヲ創立スル他家ニ這入ツテカラ後ニ其他家ヲ離婚又ハ離縁サレレバ實家ヘハ離籍サレテ居ルカラ歸ヘレナイ實家ニ歸ヘレナイカラ一家ヲ創立スル卽チ之ハ原トノ七百四十條ノ場合
横田國臣君
私ノ御尋ネハサウ云フノデアリマセヌ「家ヲ去リタルトキ」ト云フノハ最初離籍セラレタ家族ハ他家ノ方ニ籍ガ移ルサウスルト離婚、離縁ト云フコトガアルト矢張リ夫レデ離籍ト云フコトニナリハシマセヌカ離婚離縁ト云フモノガアレバ離籍サレルト云フコトニナリハシマセヌカ
梅謙次郎君
サウデアリマセヌ此「離籍」ト云フコトニ付テハ御議論ハアリマシタガ遂ニ極ツタノハ斯ウ云フコトデアル例ヘバ戸主ノ承諾ナクシテ婚姻ニ因ツテ他家ニ入リ又ハ養子縁組ニ因ツテ他家ニ入ル斯ウ云フ場合ニモ戸主ハ一年内ニ離籍ヲ爲スコトヲ得ル其時ニハ直グニハ生ジナイ唯離婚、離縁ノトキニ實家ニ歸ヘレナイト云フ效力ヲ生ズル夫レガ宜シイトカ惡ルイトカ云フ御論ハ出マシタガ遂ニ多數デ主義丈ケハ極ツタ
横田國臣君
離婚、離縁ノトキハ離籍ニ爲リマセヌカ
梅謙次郎君
サウデナイ初メカラ實家ノ籍ヲ離レテ仕舞ウカラ
横田國臣君
「其家ヲ去リタルトキ」ト云フノハ他家デアリマセウ
梅謙次郎君
他家カラハ離籍サレテ居ラヌ離婚離縁ニ因ツテ其家ヲ當然去ル離籍ト云フノハ籍ワ離スノデ戸主ノ意ニ依ツテ其家ヲ離スノデアリマス
議長(箕作麟祥君)
之ハ文章ハ變ツテ居リマスガ原トノト違ヒハアリマスマイ
梅謙次郎君
サウデアリマス
議長(箕作麟祥君)
原トノ黒字ノ七百四十三條ハドウナリマスカ
梅謙次郎君
あれハ未定ノ條ノ方デアリマス
議長(箕作麟祥君)
夫レカラ七百四十四條ハ
梅謙次郎君
夫レガ七百五十條之ガ改ツテ出マシタ
議長(箕作麟祥君)
夫レデハ今ノ七百四十八條ハ原トノト些ツトモ性質ガ違ツテ居ラヌヤウデアリマスカラ原案ニ極メテ其次ニ移リマス
(書記朗讀)
第七百四十九條 成年ノ家族ハ戸主ノ承諾アルトキハ何時ニテモ分家ヲ爲シ又ハ廢絶シタル本家、分家、同家其他親族ノ家ヲ再興スルコトヲ得
梅謙次郎君
此條ハ旣ニ議決ニ爲リマシタル所ノ第七百五十一條ノ一項ト夫レカラ趣意ハ慥カ議決ニ爲ツタト記憶シテ居リマスケレドモ其文章ハ御預ケニ爲ツテ居リマシタ所ノ後トカラ蒟蒻版デ廻ハシマシタ第七百五十五條夫レヲ合ハセマシタモノデアリマス此七百五十一條ノ一項ハ分家ノ事丈ケデアリマス之ニハ但書ガ加ソテ「推定家督相續人ハ此限ニ在ラス」ト爲ツテ居リマシタガ之ハ次ノ箇條ニ一ツニ纏メマシタカラ假リニ此處カラ除ケテ置キマシタ夫レカラ後トカラ蒟蒻版デ入レヤウトシタ箇條ハ「前條ノ規定ハ親族其他本家、分家、又ハ同家ノ家族ガ廢絶家ヲ再興スル場合ニ之ヲ準用ス」トアリマシタノデ此文章ニ付テハ色々不完全ナ所ガアルト云フ御非難モ出マシタ多少不完全ナル所ノアルノハ吾々モ認メマシタ尙ホ考ヘテ是ヨリカ尙ホ旨イ書キヤウハナカラウカ其書キヤウヲ考ヘテ參リマセウト云フコトニ爲ツテ居ツタト記憶シテ居リマス、所デ恰度今度色々書キ直シテ見マスルト分家ノ場合ヲ準用スルト言ハヌデ一緒ニシテ仕舞ツテ之ハ一旦否決ニハ爲ツタ事デアリマスガ併シ事柄自身ガ反對デナクテ言フニ及バヌト云フコトデ否決ニ爲ツタノデ「再興スルコトヲ得」ト云フコトヲ態々書カウト云フノデアリマス之ハ反對デ否決ニ爲ツタノデナイ書カヌデモ分ルト云フコトデ否決ニ爲ツタノデスガ之ヲ書クト云フト少數ノ御方ノ意思ニモ適ヒ又「準用ス」ト書カヌデ一緒ニ書イタ方ガ分リ易イト思フテ遂ニ一緒ニシマシタ
重岡薫五郎君
一寸御尋ネヲシマスガ此「又ハ廢絶シタル本家、分家」云々デアリマスガ此廢家ヲ再興スルト云フ事柄ハ大抵ノ場合ハ斯ウ云フ場合ニ過ギナイト想像致シマスガ分家ヲ何時ニテモ許スト云フコトニシタ以上ハ再興ヲスルニ付テモ別段本家トカ分家トカ親族トカ云フ關係ガナクテモ一旦消エタノヲ新タニ興スト云ツタノデアルカラ都合ガ宜イト思ヒマスカラ別段斯ウ云フ煩雜ナ事ヲ書カヌデモ廢絶シタ家ヲ再興スルト云フコトニシテハドウデゴザイマセウカ
梅謙次郎君
其御論ハ此前ニモ出マシタガ私共ハ往カヌト思ヒマス此前モ例ガ現ハレマシタガ例ヘバ私ノ家ハ詰ラヌ氏デアルカラ昔シノ有名ナ「楠」ト云フヤウナ家ヲ再興シヤウト云フノデ私ハ其子孫デモ何ンデモ無イノニ楠ノ家ヲ名乘リタイガ爲メニ楠家ヲ再興ヲスル、サウ云フ事ハ詐欺ノ手段ニ爲ル夫レデ多少縁ノアル親族トカ本家、分家、サウ云フ縁ノアル家デナケレバ再興ガ出來ヌト云フ積リデアリマス
横田國臣君
此「又ハ廢絶シタル」以下デアリマスガドウモ私ハ此事ハ餘リ家ト云フモノヲ重ンズルト云フ慣習ニ少シ拘泥シ過ギハシナイカト思ヒマス夫レデ此本家デアルトカ分家デアルトカ本家ハ夫レハ分リモスルデゴザイマセウ、ケレドモ同家抔ト云ツテ千年前ノ同家ヲ再興スルトカ何ントカ云フト非常ナ調ベニ困ルト思ヒマス夫レハ貴樣ノ同家デナイトカ夫レデ私ハ華族トカ何ントカ云フヤウナ者ガ興スト云フヤウナコトハ宜シイト思ヒマスガ夫レハ別トシテドウモ私ハ平民ノ家デ昔シ同家デストカ言フテ見タ所ガ戸籍ニデモ存シテ居ルモノナラバ兎モ角デアリマスガ私ハ餘程六カシクハナイカト思ヒマス、デ今ノ楠ノ家ヲ興ストカ云フヤウナ事ハ甚ダ困ルガドウデセウカ本家、分家デサヘモ私ハ實ハ矢張リ法律上デハ絶ヘタル家ナラバ其奴ガ分家スルコトガ出來ル其家カラ離レルコトガ出來ルト云フ分家ノ意味ニシテ夫レハ其家ニ付テハ本家デアルカラ其本家ノ家ヲ起シタト云フコトニスルトカセヌトカ云フコトハ夫レハ人民間ノ私上ノ考ニ任カシテ法律上カラ見ル所デハモウ斯ンナニ數ヲ多クシテ同家ナラ出來ルトカ何ナラ出來ヌトカ云フ斯ウ云フ事ニマデセヌデモ宜クハナイカト思ヒマス夫レデサウスルト私ハ少シ保守主義ヲ定メルヤウデアリマスガ法律上デ斯ソナニ認メルノハドウデゴザイマセウカ
議長(箕作麟祥君)
サウスルト前ノ議決ヲ飜ヘスヤウニナリマスカ
横田國臣君
私ハ御尋ネヲシタノデアリマスガ此「又ハ廢絶シタル本家」云云ト云フノハ議決シテ居リマスカ
議長(箕作麟祥君)
夫レニハ七百五十五條トシテアル修正案デ文ハ違ツテ居リマシタガ「前條ノ規定ハ親族其他本家、分家又ハ同家ノ家族カ廢絶家ヲ再興スル場合ニ之ヲ準用ス」ト云フコトト同ジ意味デハアリマセヌカ
梅謙次郎君
サウデス事柄ハ決シマシタ唯ダ文章ガ再考ト云フコトデアリマシタ夫レヲ再ビヤリ直スト云フコトニ爲ル
横田國臣君
質問
議長(箕作麟祥君)
質問デナイ
穗積八束君
之ハ戸主ガ親族ノ關係ガアルト云フ意味デアリマスカ
梅謙次郎君
其積リデアリマス
穗積八束君
親族ノ者ガ興シタラ宜シイト云フコトハ此處ノ適用ハ嵌ラヌノデアリマスカ
梅謙次郎君
其積リデアリマセヌ親族ガ戸主デアルト云フ積リデアリマス
議長(箕作麟祥君)
之ハ詰リ文章ノヤウニ思ヒマスガ何モ意味ガ變ルコトナラバ
梅謙次郎君
少シモ意味ニ變ハリハアリマセヌ
横田國臣君
何ヲシテモ宜カリサウデアル
富井政章君
草案ニハ「親族ニ繋ル廢絶家ヲ創立スルコトヲ得」トアツタ
梅謙次郎君
是デハ餘程廣クナツテ居ル
高木豐三君
宜シウゴザイマセウ
議長(箕作麟祥君)
夫レデハ七百四十九條ハ決シテ七百五十條ニ移リマス
(書記朗讀)
第七百五十條 推定家督相續人ハ廢嫡ノ後ニ非サレハ他家ニ入リ又ハ分家若クハ廢絶家再興ヲ爲スコトヲ得ス
梅謙次郎君
之ハ皆サン御記憶デゴザイマセウガ第七百五十一條ノトキニ非常ニ議論ガアツテ二回ニ渉ツテ議論ガアツテやつト極ツタ箇條デアリマスガ其處ヘ但書ガ這入ツテ推定家督相續人ハ分家ヲ爲スコトヲ得ナイト云フコトニ爲ル筈デアリマシタ當時私共ガ御注意ヲシテ皆サンモ趣意ニ於テハ御贊成デアリマシタガ此處ガサウ云フ事ニ爲ル以上ハ婚姻又ハ養子縁組ニ因ツテ他家ニ入ルコトモ出來ヌ又縱令本人ガ承諾シテモ七百四十四條ニアル通リ轉籍ヲスルト云フコトモ矢張リ出來ヌト云フコトニ爲ラネバナラヌデアラウト申上ゲマシタガ夫レハ無論其積リダト云フコトデ議決ニ爲リマシタ之モ吾々ノ方カラ直オシテ出セト云フコトデ元來ハ整理迄ト云フコトデアツタカト思ヒマスガ斯ク一緒ニ直オスト云フコトニ爲リマシタカラ序デニ直オスコトニシマシタ、所ガ「推定家督相續人ハ他家ニ入リ又ハ分家若クハ廢絶家再興ヲ爲スコトヲ得ス」ト云フコトデ元トノ議決ノ通リデアリマスガ之ハ當時モ議論ノアツタ通リ特別ノ理由ニ因ツテ廢嫡ヲ許シタトキハ此限デナイト云フコトデ其事ハ無論相續ノ處デ極マルト云フコトデアリマスカラサウスレバ此處デ「廢嫡ノ後ニ非サレハ」ト云フコトヲ書テ置ク方ガ尙更事柄ガ明瞭ニナルト云フコトデ明カニ「廢嫡ノ後ニ非サレハ」ト云フコトヲ入レタノデアリマス尙ホ文章ニ付キマシテハ此次位ニ場合ヲ悉ク擧ゲテ「他家、分家、廢絶家」ト云フノヲ寧ロ廣ク「轉籍」ト云フ位ニシタイト云フ發議ヲスルカモ知レマセヌガ今日ハ此通リデ御願ヒ申シマス
議長(箕作麟祥君)
黒字ノ七百四十四條ノ但書ノ「其者カ成年者ニシテ承諾ヲ爲シタルトキハ此限ニ在ラス」ト云フノハドウデスカ
梅謙次郎君
あの但書ガ後ノ議決ニ依ツテ飜ヘサレタ
議長(箕作麟祥君)
黒字ノ七百五十一條ノニ項ニ「但子孫ニ付キ」云云ト云フコトガアリマシタガ
梅謙次郎君
夫レガ御預リニ爲ツテ居ル箇條ニ含マレテ居リマス
奧田義人君
之ハ分家ノ推定家督相續人ガ本家ヲ再興ヲシタ又同家、親族ノ家ヲ再興スルノハ構ハヌノデアリマスカ
梅謙次郎君
廢嫡ヲ爲シタ上デナケレバ往カヌ「廢絶家」ト云フノハ廣クナル
奧田義人君
夫レナラバ「分家」ト云フコトハ要ラヌ譯ニ爲ル
梅謙次郎君
特別ノ理由ガアツテ廢嫡ヲ致シテ其者ニ分家ヲサセルコトモアルデアラウト思ヒマス前ノ箇條ニ據ルト戸主ノ承諾ノ上ハ分家ヲ爲スコトヲ得ル夫レガ推定家督相續人ハ得ナイト云フコトデアリマス
奧田義人君
分家ヲ爲スコトヲ得ズト云フノデアリマスカ
議長(箕作麟祥君)
サウデス
梅謙次郎君
「又ハ分家ヲ爲シ」デス
奧田義人君
夫レデハサウシタラドウデス
梅謙次郎君
サウ改メマセウ
議長(箕作麟祥君)
趣意ハ此前ノ議決ノ通リデアリマス夫レデハ本條ハ只今ノ修正通リニ決シテ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第七百五十一條 夫カ他家ニ入リ又ハ分家若クハ廢絶家再興ヲ爲シタルトキハ妻ハ之ニ隨ヒテ其家ニ入ル
有夫ノ女戸主ニ付キ同一ノ事實アリタル場合ニ於テハ入夫ハ之ニ隨ヒテ其家ニ入ル
梅謙次郎君
此箇條ハ元トハナカツタンデス無カツタンデスケレドモ精神ハ這入ソテ居リマシタ夫レハ此「配偶者」ト云フコトガ特ニ書テアツタ場合ガ幾ラモアリマス七百五十一條トカ夫レカラ七百四十三條又ハ七百三十九條是レラノ特別ナル場合ニ付テ配偶者ノコトガ言ツテアリマシタガ夫レハ必ズ夫ニ附クモノト云フコトハはつきり書テアリマセヌ兎ニ角夫ニ附テ何々スルコトヲ得ルト云フコトガ書テアリマシタ乍併當時ノ說明ニ之ハ婚姻ノ處ノ規定カ何カデ必ズ喰付クベキモノダト云フコトニ極マルモノダト云フコトヲ吾々ノ中カラ時々申シマシタ然ニ婚姻ノ處デ始終喰付クモノジヤト云フコトハ書キ惡クイ夫レデサウ云フヤウナ事ヲ一箇所置クガ宜イダラウ妻ハ婚姻ニ因ツテ夫ノ家ニ入ルモノデアルガ夫ガ轉籍ヲシタトキハ妻ガ夫ニ附テ往クト云フコトハドウモ「戸主、家族」ノ處デナイト「婚姻ノ效力」ト云フ處ニハ少シ縁ガ遠クナルト思ヒマスカラ夫レデ此處ニ入レタイト思ヒマス夫レニ付テハ少シ書キヤウデアリマスガ先ヅ第一ニ妻ハ配偶者ト云ツテモ妻ガ夫ニ隨ウト云フ方ガ本則デアツテ唯ダ女戸主ガ例外トシテ夫ヲ家族トシテ居ル場合ニハ其家族タル夫ハ其女戸主ニ隨ツテ他ノ家ニ入ルト云フコトガ例外トシテ必要デアルト云フノデ此第二項ガ這入リマシタ尙ホ文章ハ恰度前ノ推定家督相續人ノ處ト同ジ譯合デ實ハ此箇條ヲ改メル結果トシテ七百五十一條モ尙ホ改ラヌト釣合ガ惡ルイト思ヒマス其譯ハ此間御預リニ爲ソテ居ル所ノ彼ノ七百七十條ノ所デ岸本君ヤ高木君抔ノ御話シガアツテ此「各一家ヲ創立ス」ト云フコトガアツテ夫ト妻ガ離レテ一家ヲ創立スルト云フコトニ爲ツテハ困ルト云フコトデ誠ニ御尤モデアリマス「他家ニ入ル」ト云フコトハ強テ異論モアリマセヌガドウモ今新タニ興スノデアルカラ「他家ニ入ル」ト云フコトハ言ヘナイ況ンヤ分家デモナイ廢絶家再興デモナイサウ云フ所デ此處ヲ「轉籍」トシナケレバナラヌカト思ヒマス、サウスレバ廢絶家再興ノ處モ釣合ガ惡ルイト云フコトデ或ハ「轉籍」ト云フコトニ御改メヲ願フカモ知レヌト云フコトヲ申上ゲマシタ夫レデ先ヅ今日ノ所デハ前條ノ如ク「他家ニ入リ分家ヲ爲シ又ハ廢絶家再興」云云ト云フコトニ一項ヲ御改メヲ願ヒマス
横田國臣君
原トノニハ此二項ハアリマシタカ
梅謙次郎君
之レハ原トノ議決ニ爲ツタ彼ノ黒字ノ七百四十五條ノ但書ニ暗ニ包含セラレテ居リマシタコトデ夫レデ此處ニ書テアルヤウナコトハ婚姻ノ處ニ書ク積リデアリマシタ婚姻ノ所ハマダ案ニシテハ出シマセヌガ多分出サウト思フ事柄ハ矢張リ女戸主ガ入夫婚姻ヲ爲シタ場合ニハ入夫ハ妻ノ家ニ入ル婚姻ノ效力ニ因ツテ妻ノ家ニ入ルト云フコトハ向フニ書ケルト思ヒマスガ今度別レ別レニ爲ツテ轉籍ガ出來ルカト云フニ出來ナイ夫レガ其箇條デハ書ケナイ矢張リ女戸主ニ喰付テ往カナケレバナラヌト云フコトモ是デ分リマス
横田國臣君
之ハ原トノ七百四十五條ニ此通リノ事ガアルト云フコトデアリマスガ是ニ付テ今少シ疑ヒヲ起シマシタ有夫ノ女戸主ト云フ者ガ他家ニ入ルトカ或ハ廢絶家ヲ再興スルト云フ時分ニハ以前ノ女戸主ト云フ者デ入ルト云フコトハ出來マイト思ヒマス最早以前ノ女戸主ノ性質ヲ失フテ仕舞ウ女戸主ノ性質ヲ失フテ仕舞ウヤウニナレバ夫ガ隨ツテ往ク譯モナイ夫故ニ之ヲ若シ許スト云フコトニ爲ルナラバ妻ガ戸主デモ何ンデモナイノガ外ノ家ニ入ルコトモ許サネバナラヌト思ヒマス夫レガ絶家ヲ再興ヲシテ絶家ノ戸主ニ爲ルト云フトキハ夫ガ附テ廻ラナケレバナラヌ夫レハ私ハ少シ―少シ所デナイ往カレナイト思ヒマス此場合デモ有夫ノ女戸主ダカラト云フテ女戸主ガ往クト云ツテモ向フニ往クトキニハ女戸主ト云フ者デナイ者ニ爲ツテ往カナケレバナラヌ、サウスレバ女戸主デナイト云フコトニ爲レバ早早夫ノ外往カレヌジヤラウト思ヒマス其處ノ所ハドウ爲ツテ居リマスカ
梅謙次郎君
第二項ノ適用ハ只今申シマシタ通リ七百四十五條ノ但書ノ場合ニシカナイ此場合ハドウ云フ場合カト云ヘバ當事者ガ婚姻ノ當時契約ヲシテ入夫ハスルガ乍併其入夫ハ戸主トセヌデ矢張リ女戸主ヲ戸主トシテ置クト云フノデ其場合ハ普通ノ場合トハ違ツテ此場合ハ夫ガ戸主權カラ見ルト卽チ妻ノ配下ニ立ツト云フコトニナリマス詰リ家ノ事デスナ財產ノ事抔ハ兎ニ角、家ノ事ハ飽クマデモ婦人ノ方ガ主ニ爲ル其主タル婦人ガ都合ニ依ツテ他家ニ入ル此他家ニ入ルト云フコトガ養子ニデモ往クノデゴザイマセウ或ハ分家ヲ爲ス分家ノ分ハ適用ハナイカモ知レヌ之ハ適用ハゴザイマセヌ分家ハ適用ハナイ癈絶家ヲ再興スルト云フコトハアリマス成程夫レニ付テハ先ヅ以テ自分ガ戸主デアルト云フコトヲ罷メナケレバ外ニ往カレヌ、ケレドモ併シ戸主ヲ罷メルト同時ニ初メ婚姻ヲ爲シタ當時ノ契約ガ消滅スルカナラバシナイ矢張リ家ノ事ニ付テハ女戸主ノ方ニ權力ガアルト云フコトハ存シテ居ル夫レデアリマスカラ其家ヲ廢シテ他家ニ入ルト云フモノデモ矢張リ女ノ方ニ夫ノ方ガ隨ウコトニ爲リマス尤モ此場合ニ彼ノ隱居ノ場合ノ如ク夫ノ承諾ヲ要ストスルノガ宜シイカドウカト云フコトハ夫レハ隨分問題ニ爲リ得ル或ハ夫ノ承諾ヲ必要トスル方ガ宜シイト云フ論モ出ルカモ知レヌ大抵ハ隱居ヲシテカラデナケレバ外ニ往クコトハ出來ヌト云フコトニ爲ルト思ヒマスカラサウ云フコトニ爲レバ隱居ニ付テ夫ノ承諾ガアレバ其外ノ承諾ガナクテモ宜シイト思ヒマス夫レカラ此女戸主ガ新タニ家ヲ立ツタトカ或ハ特別ノ事情ガアル場合デ隱居ヲセヌデ家ヲ廢シテ他家ニ入ル場合ガゴザイマセウガ其場合二付テハ或ハ特ニ夫ノ許可ヲ要スルト云フコトニシタ方ガ宜イカモ知レヌガ其事ハ是迄極ツテ居リマセヌカラ此處ニ案ヲ出シマセヌ尙ホ女戸主ガ養子ニデモ爲ルト云フコトデアレバ養子縁組ノ所デ規定ガ出來ルカモ知レヌ
横田國臣君
私ハドウモ此二項ハ不用ト思ヒマス是ニ付テ御尋ネヲシタイノハ斯ウ云フコトヲ許ス御積リデゴザイマセウカ唯ダ何ンデモナイ戸主デモ何ンデモナイ夫婦ガアリマス其女ノ方ガ他家ノ戸主ニ爲ル此場合モ許ス御積リデアリマスカ又ハ許サナイ御積リデアリマスカ
梅謙次郎君
夫レハ此處ニハ見テアリマセヌ
横田國臣君
サウスルハ私ハ此二項ト云フモノハドウシテモ要ラヌ箇條デアルト思ヒマス又ドウモ面白クナイデス女ニ男ガ附テ往カナケレバナラヌト云フコトハ、其上サウシナクテモ宜イコトデアリマス夫レハモウ此女戸主ト云フ者ガ外ニ移ルト云フ時分ニハ女戸主ヲ罷メル女戸主ヲ罷メレバ女ノ方ニサウ云フ權ハ無イト云フノデ何レ男モ承諾ノ上デ往クコトニナラウ夫レダカラ私ハ此適用ハ不用デアル夫レデ斯ウ云フヤウナ事ガ取除ニサレネバナラヌト云フ必要ガアレバマダシモダガ七百四十五條ノ結果デ之ガ出テ來ルト云フテモ私ハ出テ來ラレヌ規則ジヤト思ヒマス或ハ斯ウ云フ規則ヲ立テル方ガ宜シイト言フカモ知レヌガ立テヌ方ガ宜シイト思ヒマス又道理モサウデアリマス之ハ女戸主ガ何處カ轉居スルトカ何ントカ云フコトデ入夫ガ隨ツテ往カナケレバナラヌト云フコトナラバ夫レハ道理モアリマスガ、ケレドモ女戸主ガ女戸主ノ性質ヲ失フテモ矢張リ入夫ガ附テ往カナケレバナラヌト云フコトハドウモ論理カラモ一致シナイト思ヒマス
奧田義人君
子ハドウナリマスカ
梅謙次郎君
子ノ事ハ實ハ案ヲ拵エテ見マシタガ吾々ノ間デ議決ヲシマセヌカラ判然トハ申上ラレマセヌガ子ハ當然喰付テ往クト云フコトニハ私一人ノ考ハシタクナイ初メニハ必ズ親ノ家ニ這入ルト云フコトヲ原則トシテ私生子ニハ特例ヲ設ケルカ設ケヌカバ別シテヽヽヽヽヽヽヽ
奧田義人君
家族ノアル場合是ガ他家ニ入ル場合或ハ廢絶家ヲ再興スルトキハ當然往クモノトシテハドウデセウカ夫婦養子デ連レ子デ養子ニ往ツタト云フコトモアリマス
梅謙次郎君
夫レハ無論アリマス承諾ガアルモノトスルトスレバ無論宜シイ乍併當然往クモノトスルト云フコトハ如何デゴザイマセウカ、サウスルト云フト例ヘバ子ノアルト云フコトヲ知ラヌデヤツタトキハ困ル
奧田義人君
廢絶家ヲ再興スルトキハ宜イヤウダガ
梅謙次郎君
承諾ガ無イト云フト斯ウ云フコトニナリハシマセヌカ例ヘバ私ガ子ガ二人アル長子ハ先ヅ私ノ方ノ推定家督相續人デ之ハ家ニ居ル次男ヲシテ廢絶家ヲ再興サセル、ケレドモ長子ニ子ガナイデ次男ニ子ガアルト云フトキニハ却テ次男ノ方ガ家ニ遺ツテ居ルト云フ方ガ宜シイト云フヤウナコトガアリマスカラ夫レデ當然ト云フコトニハシナイ方ガ宜シイト思ヒマス
長谷川喬君
私ハ二項ヲ削除スルト云フ横田君ノ說ニ贊成ヲシタイト思ヒマスガ併シ私ハ此事ニ付テハ疑ヒヲ抱テ居リマシタガ横田君程ノ疑ヒハアリマセヌデシタガ夫ガ他家ニ入ルト云フノト同一ノ場合女戸主ガ他家ニ入ル場合ハドウ爲ルカト云フト双方ノ戸主ガ親族ノ關係ヲ以テ一方ヘ引寄セルト云フ時デアラウト思ヒマス其外ハ女戸主ニシテ他家ニ入ルト云フコトハ無イト思ヒマス若シ無イトスルト其場合ニハ向フニ往ツテ戸主トハ爲ラヌノミナラズ自分ハ隱居ヲスルトカ何ントカ云フ事ニ爲ラウト思ヒマス戸主ノ資格デハナイノデアリマスカラ其點ニ付テハ今ノ横田君ノ言ハレタ如ク戸主ノ資格デナイノニ矢張リ夫ガ其妻ニ隨ハナケレバナラヌト云フコトハドウモ不都合デアラウト思ツテ疑ツテ居リマシタ又下ノ「又ハ分家若クハ廢絶家再興」此廢絶家再興ノトキハ女戸主ガ元トカラ算ヘテ見ルト分家ノ戸主デアツタ其者ガ本家ノ相續ヲスル必要ガ生ジタガ爲メニ戸主ノ資格デ往ク必要モゴザイマセウ其時ハ女戸主ノ資格デ往クノダカラ隨ウト云フコトハ宜シイデゴザイマセウガ廢絶家ハ宜シイデゴザイマセウガ他家ニ入ル場合ハドウカト云フ疑ヒヲ起シマシタ
梅謙次郎君
横田君並ニ長谷川君ノ御論ハ各一理アルヤウデアリマスガ私ノ考ハ先ヅ廢絶家ニ付テハ恰モ今長谷川君ノ言ハレタ通リデアリマスガ成程元トノ女戸主ノ資格ハ失ウガ今度新タニ立テル家ノ戸主ニ爲ラウト云フノデ法律上カラ言ヘバ前ノ女戸主タル資格ハ止ムカラ前ノ戸主デナクナルト云フコトハ瞬間ニ無ク爲ルガ當事者ノ意思カラ考ヘテ見レバ唯ダ苗字ガ變ハルト云フ丈ケデほんノ心持チ丈ケデ本家ノ再興ナラバ苗字モ變ラヌ夫レデ前ノ契約ガ無效ニ爲ツテ夫ノ方ガ直グ戸主ト爲ラナケレバナラヌモノトスルコトハ不都合ト思ヒマス初メニ契約ヲ許ス以上ハ其契約ノ效力ノ生ジ得ル範圍内ニ於テハ矢張リ其契約ヲ許スト云フコトニシナケレバナラヌト思ヒマス又他家ニ入ルト云フ場合モ同ジデハナイカト思ヒマス此場合ハ新タニ立ツタ家ガ其他ノ事由ニ因テ家ヲ廢シテ往ク場合或ハ隱居ヲシテ往ク場合ソレカラ或ハ隱居ト云フ名義デモナク家ヲ廢スル名義デモナケレバ戸主ハ他家ニ入ルコトハ出來マスマイガ其這入ツタ結果トシテモ唯ダ他ノ家ノ家族ト爲ルコトモ今御預リニ爲ツテ居ル箇條丈ケデハサウ爲リマス左モナイト養子ニ爲ルコトガアリマス配偶者ニ爲ル氣遣ヒハアリマセヌカラ夫レ丈ケノ場合デアリマス想像スル所デハ何レノ場合ニシテモ向フニ往ツテ戸主ニ爲ルコトモアリ爲ラヌコトモアル例ヘバ向フヘ往ツテ直グ戸主ニ爲ラウトモ爲ルマイトモ兎ニ角女戸主ガ家ノ事ニ付テハ却テ主宰者ニ爲ルト云フ初メノ契約ノ精神ヲ其儘存スルト云フト矢張リ向フヘ往ツテモ女戸主ノ方ガ卽チ主ノ方ノ位置ニ立ツト云フコトガ當然デハアルマイカ實際ノ事ヲ言ウト隱居ノ時ノ如キハ必ズ夫ノ承諾ガ要リマスカラ夫ガ若シ向フニ附テ往クコトガ嫌ヤナラバ無論承諾致シマセヌ乍併隱居ハ承諾シテ置キナガラ先ヅ御前丈ケ往ケト云フコトハドウモ言ヘヌト思ヒマス離縁モシナイ離婚モシナイデサウシテ夫婦ガ家ヲ異ニスルト云フコトハ許サヌ積リデアリマス折角向フノ家ニ這入ラウト思フテ女戸主ガ女戸主ノ資格ヲ失ウテ隱居シテ自分ガ這入ラウトスルトキ、所ガ實際其場合ニ爲ツテ夫ガ往カヌト云フコトニ爲ルト這入レヌトスルト隱居ヲシタ精神ヲ貫カヌ如何ニモ廢戸主モサウデアリマス廢戸主ノ目的ガアリマス廢絶家ヲシテ向フヘ這入ラウト云フノデシタ廢戸主ヲシタ、所ガ妻ガ往カウト言フニ夫ガ不承知ヲ唱ヘルト云フコトニ爲ルト這入レヌ、サウスルト妻ハ戸主デナク夫ノ家ニ居ルト云フコトニ爲ル或ハ家ガ廢家デアリマスカラ元ノ家ガ無ク爲ツテ又新タニ家ヲ立テルサウスルト廢家ヲシタ目的ヲ遂ゲヌ、ドウモ考ヘテモ是ラノ場合ト廢絶家再興ノ場合ト區別ヲスル必要ハナイト思ヒマス何レノ場合ニ於テモ是等ノ場合ハ特別ノ場合デ何レノ場合モ夫ガ女主ニ喰付テ往クモノト思ヒマス
横田國臣君
私ハ其御說ニハ丸デ反對デアリマス一體此外ノ家ニ入ルト云フコトナラバ必ズ相談ノアルコトハ無論ノコトト思ヒマス乍併法律ガ極マル以上ハ夫ガ聞コウガ聞クマイガ入ルト云フコトニ付テ法律ガ要ルダラウト思ヒマス夫ノ方ガ承諾スレバ不都合モ何モナイ無論相談ガ整フテ居レバ要ラヌ夫レデ私ハドウモ道理上カラシテ以前ノ戸主ガ消エテ他ノ家ニ入ル時分ニモ尙ホ己レガ主宰者デ居ルト云フ契約ガ續テ居ルモノト云フコトハ想像シ能ハヌト思ヒマス又夫レラノ契約ヲ許ス可キモノト云フコトモ私ハ餘リ面白ク思ヒマセヌ若シ夫レヲ許スナラバ斯ウ云フ規則モ許スガ宜シイ夫婦間ノ一方ノ女ノ方ガ他家ニ往ツテ戸主ト爲ル場合ハ夫ガ隨ツテ往クト云フコトヲ許シテ宜シイト思ヒマス併シナガラソレヲ許サヌ以上ハ是ト同ジコトデアリマス最早一旦自分ガ戸主ヲ罷メテ往クト云フナラバサウ云フ場合ニハ夫ト相談シテ御前往カウデハナイカ往カウト云フコトサヘアレバ宜シイ夫レニ法律ノ力ヲ籍ツテ夫ハ嫌ヤト言ツテモ向フニ連レテ往クト云フコトハドウモ少シ面白クナイノデス
長谷川喬君
私モ横田サンノ御說ヲ贊成シテモ宜シイガ乍併前申シマシタ如クドウモ此本家ノ再興ト云フ如キモノヲバ必要ト認メタ以上ハ此場合丈ケハドウモ夫ヲ女戸主ニ隨ハシタ方ガ宜シイト思ヒマスカラ夫レ丈ケノ趣意ノ所デシテ置クナラバ此二項ハ削除セヌデモ宜シイガ乍併其事ハ餘リ多クハナイト云フコトデ必ズシモ置カナケレバナラヌト云フ必要モナイガ乍併他家ニ入ルト云フ場合ハ必要デナイト思ヒマス夫ガ特ニ女房ニ隨ハナケレバナラヌト云フコトハドウカナラバ戸主デアルカラ隨ハナケレバナラヌト云フノデアル夫レガ隱居ヲスルトカ廢家ヲスルト云フコトニ戸主ノ資格ガ無ク爲ツテ居ルニ尙ホ夫ガ隨ツテ往カナケレバナラヌト云フコトハ不都合ト思ヒマス女房ノ往ク所ヘハ何處ヘデモ往カナケレバナラヌト云フコトハ不都合ト思ヒマス戸主デアルカラ隨ハナケレバナラヌト云フコトデアルガ夫レガ無クナツテモ尙ホ隨ハナケレバナラヌト云フ義務ヲ夫ニ負ハセルト云フノハ只今迄承ツタ丈ケノ御說明デハドウモ感服ハ出來マセヌ夫レナラバ絶家再興ノ場合丈ケニシタイソレモ徃ケナイト云フコトナラバ餘リ必要モナイト思ヒマスカラ寧ロ削ツタ方ガ本案ヨリ宜シイト思ヒマス
梅謙次郎君
若シ之ヲ削ルト斯云フコトニナリマス諸君ノ今論ゼラレテ居ル場合計リデナイ女戸主ガ今女戸主デ居ルトキニ夫ガ外ノ家ニ入ラウトカ或ハ夫ガ廢絶家ヲ再興スルト云フトキニ夫レヲ許スト女戸主ハ當然夫ニ喰付テ往カナケレバナラヌト云フコトニ爲ル一項ガアル以上ハ適用ガサウ爲ル夫レガ第一不都合夫レカラモウ一ツハ成程女戸主ガ女戸主デ無ク爲ツテマデモ夫ガ附テ廻ハルヤウデ不都合ト言ハレルノハ一應御尤モデアリマスガ併シ女戸主デ居ル内ニ他ノ家ニ這入ラウト云フコトヲ決意シテ其爲メニ女戸主ヲ止メル、ダカラシテ他家ニ入ルト云フコトハ戸主デ居ル内ニ極マツタ事デ戸主ヲ止メル前ニ極メル戸主ヲ止メルノハ方法ニ過ギナイ目的ハ他ノ家ニ這入ルト云フノガ目的デアル夫レヲ一旦許ス以上ハドウシテモサウ云フコトニ爲ラヌト頓珍漢ニ爲リマス例ヘバ隱居ノ場合デモ種々議論ノアツタ末斯ウ云フコトニ極マツタ一應ハ夫ノ許可ヲ受ケルノヲ原則トスル併シ夫ガ無理ナコトヲ言フテ承諾ヲセヌト云フト夫ノ承諾ガ無クシテモ往ケル「正當ノ理由ナクシテ拒ムコトヲ得ス」トアリマス此場合ニ女戸主ガ隱居ヲスルト云フトキニハ隱居ヲシテカラ其跡ヲ相續人ニ讓ルト云フ丈ケノ目的デアルトキハ其家ニ居ルカラドウシテモ宜シイ場合、ケレドモサウデナイ其家カラ隱居シテ他家ニ入り又ハ廢絶家ヲ再興スルト云フ目的ヲ以テ隱居ヲスルト隱居ヲシテ見タガ他家ニハ這入レヌ廢絶家再興ハ出來ヌト云フコトデアツテハ夫レデハ隱居ヲ許シタ甲斐ガ無イ又廢家ヲシテ廢絶家ヲ再興スルトカ又ハ他家ニ入ルト云フコトヲ旣ニ議決ニ爲ツタ箇條デ許サレテ居ル此場合ニ付テモ或ハ女戸主ニ付テハ矢張リ隱居ノ場合ト同樣ニ入夫ノ承諾ヲ要スル卽チ「入夫ハ正當ノ理由ナクシテ其承諾ヲ拒ムコトヲ得ス」ト云フ樣ナ規定ガナイノハ缺點カモ知レマセヌガ夫レヲ入レルコトナラバ私一人ハ異議ハアリマセヌ、サウ云フコトニナレバ結果ハ斯ウ云フコトニ爲ラヌト往ケマセヌ苟モ許ス以上ハ向フニ這入ル樣ニシナケレバナラヌ正當ノ理由ガアレバ承諾ヲシナイト云フコトハ無論出來マス初メカラシテ七百四十五條ノ但書ノ場合ハ家ノ事ニ付テ夫ハ妻ニ從フト云フコトデ婚姻ヲシタノデアルカラ夫レ丈ケノコトハナケレバ往ケマセヌ尙ホ養子ノ夫婦ノトキハ必ズ一方丈ケ養子ニ往クコトハナラヌ夫婦一致ノ上デナケレバ養子ニ往クコトハナラヌト云フコトニ爲ルト思ヒマスカラ其場合ニハ本條ガアツテモ無クテモ同ジ結果ニナラウト思ヒマスガ唯ダ只今申シマシタ樣ナ場合ニハ不都合ト思ヒマスカラドウカ此儘ニ存セラレンコトヲ希望致シマス其代リ廢家ニ付テモ隱居ト同ジヤウナ規定ガ出來ル方ガ宜シイカモ知レマセヌガ夫レハ尙ホ御考ヲ願ヒマス
横田國臣君
悔君ハ此二項ヲ削ルト女戸主デアル時分ニ其入夫ガ外ニ往ケバ女戸主ガ隨ツテ往カナケレバナラヌコトニ爲ルト云フコトデアリマスガ之ガアツテモ矢張リ隨ハナケレバナラヌ何ゼナラバ入夫ノ戸主ガ往ツタ時ハ女ガ往ク―女ガ往クト云フコトニシカ一項ハ爲ラヌ夫レハ私ハ往カヌト云フノハ此居所ヲ定メルトカ何ントカ云フコトハ總テ戸主ノ權ニ爲ツテ居リマスカラ夫レハ外ニ往クト云フコトハ許サレヌ夫レデモ不都合ト云フナラバ外ニ箇條ヲ設ケルト云フコトモアレバ兎モ角
梅謙次郎君
女戸主ガ許シタトキハヽヽヽヽヽヽ
横田國臣君
夫レハ許シタトキハヽヽヽヽヽヽ女戸主ガ養子ニ往クト云フコトハアリマスマイガ戸主ハ自分デ居所ヲ定メル權ガアリマス夫レハ夫レトシテ私ハ梅君ハ斯ウ云フ規則ヲ定メタ上カラ何時デモ言ハレルヤウデアリマス隱居ヲシタノハ女戸主ガ養子ニ往ク積リデ隱居ヲシタ場合ヲ想像サレルカラ往カヌ此箇條ガアルカラサウ云フ想像ヲサレルノデアルガ此箇條ガ無イ以上ハ隱居ヲシテモ養子ニ往ケヌカラ先ヅ承諾ヲ得ナケレバナラヌコトニ爲ル此箇條ガアルカラサウ云フ事ガ出ルガサウデナケレバ出ナイ一體女ノ方ガヽヽヽヽヽ如何デアラウカト思フ位デアリマス乍併夫レハ日本ノコトデアリマスカラシテ夫ガ往クナラバ夫レニ隨フモ宜カラウ、ケレドモ女ガ往クノニ男ガ從ハナケレバナラヌト云フコトデサウシテ夫レガ而モ論理ヲ貫クカナラバ些ツトモ論理ヲ貫カヌサウシテ前ノ七百四十五條ノ契約ガ續テ居ルト云フヤウナコトデアルガサウデナイ況ンヤ旣ニ自分ハ戸主ヲ罷メテ失フテ居ル其性質ヲ失ナイナガラ外ニ往クト云フコトハドウモ面白クナイ事實モ面白クナイ斯ウ云フ箇條ヲ設ケテ入夫ハ女ニ隨ツテ往カナケレバナラヌト云フコトハ面白クナイ夫レデ私ハ之ハ削除スルガ宜シイト思ヒマス
重岡薫五郎君
私モ此第二項削除說ノ横田君ニ贊成ヲシマスガ若シ此ニ項ヲ削除スルナラバ寧ロ全部削除ガ宜シイト思ヒマス、ト云フノハ若シ書クノナラバ第二項モ書クノガ宜シイノデアル之ハ婚姻ノ所ニ規定ニ爲ルカ規定ニ爲ラヌデモ婚姻ノ結果デ妻ハ必ズ夫ニ隨フテ往カナケレバナラヌ夫ガ分家ヲ爲シ又ハ廢絶家ヲ再興スル夫ガ出テモ自分ハ出ナイデ居ルト云フヤウナ夫婦離レ離レニシテ往クト云フコトハ實際婚姻ノ目的カラ婚姻ノ性質カラ出來ヌコトト思ヒマス別ニ一項ノ如キ法文ガナクテモ夫ガ分家ヲスレバ妻モ附テ往クト云フコトハ是ハ妻ノ義務トシテ斯ウ云フコトニ爲ラネバナラヌト思ヒマス實際ニ於テモ今日サウ爲ツテ居ルト思ヒマスカラ殊更ニ第一項ノ如キ無用ノ明文ヲ書ク必要ハナイ一項ガ必要デナイ又二項ニ於テ夫ガ女ノ方ニ附テ往カナケレバナラヌト云フヤウナ、成程今日ノ男尊女卑ト云フ習慣ハ必ズ面白クナイコトデハゴザイマセウガ斯ウ云フコトハ甚ダ面白クナイト思ヒマスカラドウカ全部削除ヲ主張シタイト思ヒマスカラ横田君ニ其交渉ヲ致シマス
富井政章君
全部削除ニハマダ贊成ハアリマセヌカ隨分大キナ問題ト思ヒマスカラ一寸一言述ベテ置キマス全部削除ヲシタ所ガ第一項ノ通リニ爲ツテハ困ルト云フ御趣意デハナカラウト思ヒマス實際ハ是非斯ウ爲ルト云フコトデアラウト思ヒマスガ默ツテ置テ斯ウ爲ルカト云フコトハ餘程疑ハシイト思ヒマス如何トナレバ籍ハ違ツテモ夫婦デ暮シ得ルノデアリマスソレナラ之ヲ「婚姻ノ效力」ノ所ニ書クガ宜シイカト云フニ之ハ籍ノ事デアリマス籍ノ事ハドウシテモ此處ガ適當ノ場所デアリマス「婚姻ノ效力」ノ所ニハ妻ハ夫ト同居ヲシナケレバナラヌト云フコトハアリマセウ、ケレドモ夫レハ「同居」ト云フ章ガアルデモナシドウモ「婚姻ノ效力」ノ所ニシカ書キヤウガアリマセヌ「同居」ト云フコトト「同籍」ト云フコトトハ違ヒマス籍ガ違ツテ居ツテ同居ヲスルト云フコトハ出來マス夫レデ妻ハ必ズシモ夫ト同居ヲシナケレバナラヌト云フ規定ガアツテモ籍ガ一緒ニアルト云フコトハ出テ來マセヌ、デ是ハドウシテモ此處ヨリ外ニ適當ノ場所ハナイト思ヒマス而シテ無イト疑ヒヲ存スル
重岡薫五郎君
富井君ノ只今ノ御說ニ據ツテ夫婦ハ籍ヲ異ニシテモ宜シイ、夫レハ理窟カラ必ズシモ同居ヲシテ居レバ籍ハ別デモ格別差支ナイト云フ斯ウ云フ議論ハ如何サマサウデゴザイマセウガ婚姻ト云フコトヲシタトキハ私ハ婚姻編ヲ見マセヌガ必ズ婚姻ノ結果デ妻ノ籍ハ夫ノ籍ニ入レルト云フコトニ爲ラウト思ヒマス籍ハ一ツデ又家モ同ジデ妻ハ家内ト言ツテ家ノ内ノ者デアルト云フコトニスルト學理ノ上デハ別籍ヲシテ居ツテ宜シイト云フコトデアツテモ是非籍ヲ一緒ニシナケレバナラヌ婚姻ハ籍ヲ送ル送籍ヲスルト云フコトヲ認メル以上ハ矢張リ夫ガ脇ニ往クナラバ妻モ夫レニ隨ツテ往クト云フコトハ至當デ又理窟ノ上ニ於テサウナラナケレバナラヌト思ヒマス或ハ別籍デアツテモ不都合ハナイト云フ斯ウ云フ御考ヘカモ知レマセヌガ夫レデハ事實ト法律トハ大變違ウ話シデアリマス詰リ家ヲ同フシ居ヲ倶ニスルト云フコトナラバ籍モ同ジニスルト云フコトハ立法上必要ノ結果ト思ヒマス
議長(箕作麟祥君)
全條削除說ニ贊成ガアリマスカ
横田國臣君
ドツチデモ宜シイ
尾崎三良君
全部削除說ニ贊成
梅謙次郎君
全部削除ハ甚ダ困リマス事柄ハ是非斯ウナラナケレバナラヌト云フコトハ如何ニモ勿論ノコトデアツテ今日モサウナツテ居ルト云フコトハ誠ニ御尤モデアリマス乍併夫レハ今日ハ慣習法デ極ツテ居ルカラ宜シイガ法文ガ出來レバ法文ニ書カナケレバナラヌ書カナクテモ當然サウハナリマセヌ唯ダ書ク場所ノ話シデアリマス成程前ニハ吾々カラ申シマシタ通リ多分婚姻ノ所ニ旨ク置ケルデアラウト思フテ書カヌデ置キマシタ、所ガ婚姻ノ所ヲ書イテ見ルト旨ク書ケヌ何トナレバ婚姻ノ結果トシテ「妻ハ夫ノ家ニ入ル」トシカ書ケヌ入ルトキハ宜シイガ夫レカラ先キ子抔ガ生レルト父ノ家ニ入ル或ハ場合ニ依テハ母ノ家ニ入ルト云フコトニ爲リマス所ガ今度父ヤ母ガ轉籍ヲスルト云フトキハ矢張リ喰付テ往クト云フヤウナコトガ無イト分ラヌ、デアリマスカラ夫婦ノ方デモ轉籍ヲスルトキハ矢張リ喰附テ往カナケレバナラヌト云フコトガナイト分ラヌ成程同居ノ義務ハ出來マスガ之ハ婚姻ノ直接ノ效力トシテ書ケマスカ籍ガ何處ニアルト云フコトハドウシテモ「戸主、家族」ノ問題デアリマスカラ初メ婚姻ヨリ直グ生ズル效力卽チ「妻ハ夫ノ家ニ入ル」ト云フコトハ書ケマスガ夫レカラ轉ズルコトハドウモ書ケナイ夫レデ據ロナク斯ウ云フ事ニシマシタ尙ホ理論上サウ爲ルベキト云フコトハ現ニ國籍ト云フモノハ夫婦別ノ籍ニ居ルト云フコトハ極、例ガ多イ私抔ハ國籍ハ宜シイト思ヒマス亭主ガ日本人デナイコトヲ望ンデモ或ハ其他ノ國ノ人ト爲ツテモ細君ハ愛國心ニ富ンデ居ツテ外國人ト爲ルコトヲ望マヌコトガアルカモ知レヌ夫レナラバ是非離婚ヲシナケレバナラヌト云フヤウナ板挾ミニシナケレバナラヌト云フ必要ハアリマセヌ國籍ハ違ツテモ同居ハ出來マス夫レデアリマスカラ國籍ニ付テハ現ニ夫婦ガ籍ヲ別ニスルコトハ可成ハ望ミマセヌガ乍併場合ハ認メナケレバナラヌト思ヒマスカラ夫レデアリマスカラ國籍ヨリ小サイ夫婦ノ籍デアリマスカラ默ツテ居レバ出來ルト云フコトニ爲ルノデ夫レデ此規定ガ必要デアリマスカラ全部削除說ハ通ラヌヤウニ希望シマス
穗積八束君
梅君ノ御話シデハ必ズ同籍ノモノトスルコトハ不都合ト云フコトデアリマスガ私ハ夫レガ趣意デ此條ガ出來タト思ヒマスガ夫レデハ之ヲ御書キニ爲ツタトキハ夫婦ガ籍ヲ同フスルコトハ大切デアル別ニスルコトハ出來ヌモノナラバ夫ガ他家ニ入ツタトキニハ妻ガ附テ往カナケレバナラヌト云フコトヲ御書キニ爲ツタノガ愛國心ニ富ンデヽヽヽヽヽ言ヘナイカ知レマセヌガ斯ウ云フコトヲ御書キニ爲ルニハ配偶者ノ一方ガ籍ヲ移ストキハ一方ガ附テ往クト云フコトヲ原則ニシテ差支ガナイヤウニ思ヒマスガ私ノ誤解スル所カ一應伺ヒマス
梅謙次郎君
私ハ先キカラ申シマシタ通リ夫婦籍ヲ異ニスルト云フコトハ無論望ミマセヌ、ケレドモ唯ダ國籍ダケニ付テハ日本人デ無クナルト云フコトハ人ニ依テ愛國心ニ富ンダ者ニ取ツテハ非常ナ事デアリマス其場合ニ夫ハ日本人ニ爲ルコトガ嫌ヤト云フトキニ其妻ハ籍マデ提ゲテ往カナケレバナラヌト云フコトハ不必要ト思ヒマス日本ノ法律丈ケデ向フハ宜イカ知ラヌガ夫レハ問題外デアリマスガ唯ダ家ノ籍ニ付テハ何時デモ同ジト云フコトデナケレバナラヌト思ヒマス之ハ國ノ籍ト云フ事柄トハ違ヒマス夫レデ原則トシテ妻ハ夫ニ隨ツテ往カナケレバナラヌ夫レガ嫌ヤナラバ離婚ノ第二ノ原因ニ爲ルカドウカ知リマセヌガ、所ガ穗積八束君カラ之ヲ配偶者ト廣クシテハドウカト云フコトデアリマスガ夫レハ配偶者ト廣クシテ置ケバ妻ガ我儘者デアツテ自分ガ廢絶家ヲ再興シタイ又ハ他ノ家ニ入リタイ又ハ分家ヲシタイ斯ウ言フノデアリマスサウ云フ場合ニ夫ガ戸主デアル場合ナラバ許サヌ場合デアルガ戸主ガ外ニ在ル場合例ヘバ妻ノ父親ガ戸主デアルカモ知レヌ夫レガ許スカモ知レヌサウスルト婿サンハ夫レニおめおめト喰付テ往カナケレバナラヌ斯ウ云フ事ニ爲ツテハ往カヌ夫レデアリマスカラ原則トシテハ飽クマデモ妻ハ夫ニ隨ハナケレバナラヌト云フコトニスル唯ダ女戸主ハ女戸主ノ權ヲ全フスルト云フコトニシテ其場合ハ夫ガ妻ニ隨ツテ往カナケレバナラヌト云フコトニシナケレバナラヌト思ヒマス
横田國臣君
私ハ條件附デ重岡君ヲ贊成シマス妻ガ夫ノ内ニ往ク、デ夫婦ト云フモノハ必ズ籍ヲ送ツタト云フコトヲ認メルコトニナル之ガ條件ニ爲ツタ以上其後籍ヲ分ツコトガ出來ルカ私ハドウモ許サヌ方ガ宜シイト思ヒマス又籍ヲ送ツト云フコトデ結婚ノアツタト云フコトヲ認メネバナラヌト思ヒマス今梅君ハ外國トノ關係ヲ仰ツシヤツタガ夫レハ私ハ梅君トハ違ヒマス其違ウノハ向フニ送籍ヲスルト云フコトガアルカドウカ夫レハ國ニ依テソンナコトガアルカモ知レヌガ國民ノ分限ハ向フデモ分限ヲ持ツテ居ル者ガアリマスどちらノ日本人ガ外國人ト婚姻ヲ爲シタトキニ
梅謙次郎君
婚姻ヲシタトキデナイ婚姻ノ場合ハ別デアリマス例ヘバ私ガ妻ガアル私ガ今妻ノアル身體デ國籍ヲ轉ズル妻ガ喰付テ往クカ否ヤト云フ問題デアリマス私ガ例ヘバ佛蘭西ニ國籍ヲ轉ズルサウスル折リニ妻マデモ國籍ヲ轉ズルカドウカト云フコトデアリマス
横田國臣君
夫ガ國民ノ分限ヲ變ズルトキハ妻モ變ジナケレバナラヌト思ヒマス
議長(箕作麟祥君)
國民分限ハ止メテハドウデスカ必要ガナイ
横田國臣君
夫レガ籍ヲ分ツ場合ト云フコトデアリマスカラ夫レガ私ハ違ウト思ヒマス向フノ戸長カラ送ツテ來ルニ及バヌ
梅謙次郎君
妻ヲ取ルトキデナイ
横田國臣君
其場合モアルト見ナケレバナラヌ其折リハ其者ガ出テ籍ヲ入レテ呉レト云フコトヲ言ヘバ宜シイ私ハ夫レダカラシテ或ハ此籍ヲ若シ別ツ外ノ場合ガアルナラバ格別若シ籍ヲ分ツコトハナイトスルナラバ今ノ重岡君ニ贊成ヲ致シマス
重岡薫五郎君
梅君ガ全部削除ニ反對ノ理由トシテ主張セラレルニ習慣法ハ如何サマ今日ノ所デハ夫ニ隨ツテ往カナケレバナラヌ夫ガ分家ヲスレバ妻ハ喰付テ往カナケレバナラヌ斯ウ云フコトニ爲ツテ居ルダラウカ若シ之ヲ書カヌト反對ニ爲ルダラウ、サウ云フ御意見デアリマスガ之ハドウ云フモノデゴザイマセウカ私ハ甚ダ解シマセヌ法律ニちやんト其通リニアル、ナケレバ是迄ノ習慣ニ從フテ往クト云フコトニ爲ラヌト往カヌト思ヒマス起草者ハ隨分廣イ御經驗ト又充分ナル學識トヲ以テ法典ヲ御編纂ニ爲ルノデアリマスカラ決シテ漏レル所モナイト思ヒマスガ起草者ト雖モ神通力ヲ有セナイカラ何事モ書ク書カナイモノハ反對ニ爲ルト云フコトヲ頼ンデ御書キニ爲ルコトモ出來ズ又夫レ迄ノ御希望デモナカラウト思ヒマス、デアリマスカラ是迄ノ慣習ハ此通リダガ之ヲ削ツタラ反對ニ爲ルト云フヤウナコトハナイト思ヒマス其理由トシテ國際法デアリマスガ之ハ他ノ問題デアリマスカラ餘リ言フ必要ハアリマセヌガ梅君自分ガ佛蘭西ニ轉籍ヲスル其時ニ細君ハ自分ノ國ニ遺ツテ轉籍ヲシナイト云フヤウナトキハ夫レハ愛國心デ宜シイト云フコトデアリマスガ其場合ハ日本人ガ轉籍ヲスルノデアリマスガ例ヘバ夫ハ日本人デアル妻ハ英國人デアル場合ハ日本ノ利益デアルカラヽヽヽヽヽヽ愛國心ト云フモノハ向フカラ觀ルトこツちカラ觀ルト違ヒガアルノデ國際法ノ原則ト云フコトハナイ
梅謙次郎君
只今ノ御論ハ論ズル必要ハアリマセヌカラ論ジマセヌガ初メノ點ハ辯ジテ置キマス總テノ事ヲ慣習法ニ讓レバ慣習法ニ爲ルサウデナイ外ノ事ヲ書イタ結果トシテ反對ノ結果ニ爲リマスナゼナラバ籍ト云フモノハ此處デちやんト極マル此處ノ規定ノ範圍内デナケレバ籍ハ動カヌ夫レダニ依ツテ今ノ婚姻ノ場合ニ婚姻ニ依テ妻ハ夫ノ家ニ這入ツテモ夫レカラ今度斯ウ云フ場合ハ外ニ移ルト云フコトヲ規定ニ爲ラヌトサウ云フコトニ爲ラヌ
議長(箕作麟祥君)
ドウデスカ決ヲ採ツテハ
高木豐三君
採決ハ一項ト二項ト別ニ願ヒマス
議長(箕作麟祥君)
夫レデハ採決シマス重岡君ノ全部削除說ニ贊成ノ方ノ起立ヲ請ヒマス
起立者少數
議長(箕作麟祥君)
少數夫レデハ横田君ノ第二項丈ケ削ルト云フ說ニ贊成ノ方ノ起立ヲ請ヒマス
起立者正半數
議長(箕作麟祥君)
半數、半數ナラバ私ハ削除說ニ贊成ヲ致シマス夫レデハ夫レニ決シテ次ハ「第二節戸主及ヒ家族ノ權利義務」ト云フ所カラ「第七百五十六條」ノ所マデ往キマス
(左ノ各箇條ハ朗讀ヲ經ザルモ參照ノ爲メ茲ニ之ヲ載録ス)
第二節 戸主及ヒ家族ノ權利義務
第七百五十二條 舊第七百四十六條
第七百五十三條 修正舊第七百四十七條
第七百五十四條 修正舊第七百四十八條
第七百五十五條 修正舊第七百四十九條
第七百五十六條 舊第七百五十條
議長(箕作麟祥君)
七百五十二條ノ「戸主ノ生死分明ナラサルトキ」ト云フコトハドウ爲リマスカ
梅謙次郎君
夫レガ七百五十七條ニ變ツテ出マス
議長(箕作麟祥君)
サウデスカサウスレバ今度ハ七百五十七條ニ移ツテ宜シイノデスカ
梅謙次郎君
サウデス
議長(箕作麟祥君)
夫レデハ七百五十七條ニ移リマス
(書記朗讀)
第七百五十七條 戸主カ其權利ヲ行フコト能ハサルトキハ親族會之ヲ行フ但戸主ニ對シテ親權ヲ行フ者又ハ其後見人アルトキハ此限ニ在ラス
梅謙次郎君
本條ハ只今議長ノ御問ヒニ答ヘマシタ通リ原案ノ第七百五十二條ヲ改メマシタ之ハ此前ニ詰リ事柄ニ於テハ此通リニシロト云フコトニ議決ニ爲ツタノデ文章ヲ吾々ニ御託シニナリマシタ其文章ヲ書キマスルニ付テハ戸主ノ生死ガ分明ナラザルトキト云フ場合許リデナク事實上戸主ガ戸主權ヲ行フコトガ出キナイ場合ガアリマスサウ云フ場合ト雖モ矢張リ親族會ノ議決ヲ以テ其權利ヲ行フト云フコトニ爲ラネバナラヌト云フコトモ是モ慥カ議決ノ中ニアツタト思ヒマス但書ニ付テハ別ニ議決ノトキニ斯ウ云フ風ニ書ケト言フ御注文ハアリマセヌデアリマシタガ是モ事柄ハ認メラレテ居リマス寧ロ是ニ付テハ諸君ノ中カラ段々御質問ガ出マシテ其御質問ノ精神タルヤ詰リ戸主ガ無能力デアツタトキハドウ爲ル其場合ノ規定ガ無イノハ缺點デハナイカト云フ御質問デアリマシタガ夫レニ吾々カラ答ヘマシタニ夫レハ缺點デハナイ其場合ハ後ノ親權、後見ノ所ニ規定スルカラ重複ヲスル夫レデ此所ニハ規定ヲセヌト云フコトヲ申シマシタ夫レニ對シテハ御異議ガ無カツタヤウデアリマス然ニ「戸主カ其權利ヲ行フコト能ハサルトキハ親族會之ヲ行フ」ト書クト戸主ノ無能力ノ場合モ這入リマス又戸主ノ年齡ガ非常ニ小サナ意思ノマダ無イノモ此中ニ含マレル意思ハアツテモ唯ダ能力ガ不完全ト云フトキハ這入リマセヌガ丸デ意思能力ガ無イト云フトキハ矢張リ此中ニ這入リマス、所ガ其場合ハ親族倉ヲ召集シテ其權利ヲ行フノデナクシテ其時ハ親權ヲ行フ者又ハ其後見人ガ代ツテ行フト云フコトニ爲ラナケレバナラヌ夫レデ此但書ガ必要ニナツテ來マシタ此但書ガアルト諸君ガ疑ハレタ事ガ暗ニ分カリマス一層利益デアルト思ヒマシタカラ此但書ヲ加ヘマシタ
議長(箕作麟祥君)
生死分明ナラヌトキハドウシマスカ
梅謙次郎君
其時ハ矢張リ權利ヲ行フコトハ出來マセヌカラ親族會ガ其權利ヲ行フト云フコトニ爲リマス又其相續ノ極マラヌトキハ其權利ヲ行フコトハ出來マセヌカラサウ云フ時モ矢張り親族會ガ行フト云フコトニ爲リマス
議長(箕作麟祥君)
親族會ト云フモノハ成年以上ノ立派ナ戸主ノアルトキデモ親族會ガアルト云フ御考デアリマスカ
梅謙次郎君
親族會ハ常ニ設ケテアルモノトハ見テ居リマセヌ旣成法典モ其通リト思ヒマス詰リ必要ノアルトキニ召集スルト云フ積リデアリマス
重岡薫五郎君
一寸質問致シマス「親族會之ヲ行フ」ト云フコトデ此戸主ノ權利ヲ行フト云フコトハ隨分簡單ナ話シデアツテ何時行ハナケレバナラヌト云フ必要ガアルカモ知レマセヌガ其場合ニ親族會ハ平常アルモノデナクシテ召集ヲスル其親族會ハ戸主權ヲ執行スルノ或ハ協議機關ト爲ルノナラバ宜シイカモ知レマセヌガ之ヲ行フ獨立ノ行爲ノ機關ト爲ルト云フコトハ斯ウ云フコトハ甚ダ親族會ノ性質トシテ餘リ面白クナイト思ヒマス、或ハ夫レデモ差支ナイト云フノデアラウカ或ハ親族會ヲ選定シタ者トシタ方ガ宜シイデハナイカト思ヒマスガ如何デゴザイマセウカ
梅謙次郎君
戸主權ト云フモノハ前ニ議決ニ爲ツタ所デ御分リデアラウト思ヒマス此處ニずツと書テアル箇條此處ニ規定ニ爲ツテ居ル權ハ戸主權ハ詰リ二ツトモ三ツトモ見ル一ツハ家族ガ居所ヲ轉ズル場合ニ戸主ノ承諾ヲ要スルト云フコトト今一ツハ今一歩進ンデ家族ガ家ヲ轉ズルト云フ場合ニ戸主ノ承諾ヲ必要トスル家ヲ轉ズルト云フコトハ之ヲ大別スルト二ツニ爲ル婚姻、養子縁組ニ因ツテ他家ニ入ルコトト又分家スルコトト別ニ家ヲ立テルノト外ノ家ニ入ルノト二ツニ大別セラレル此二ツノ場合ニシカ本案ニハ戸主權ヲ認メテ居リマセヌサウスルト戸主權ト云フモノハ重岡君ノ言ハレル如キ簡單ナモノデナクテ或ル場合ニハ簡單ニ極メテアルノデアリマス夫レカラ先キノ問題ハ法律上ノ問題デナイ徳義上ノ問題デアリマスサウシテ見レバ之ハ親族會デ戸主權ヲ行フトシテ少シモ差支ナイ就中權利ノ性質ガ許可ヲ與ヘルトカ與ヘヌトカ云フヤウナモノデアリマスカラ親族會ノ議決デ立派ニ行ハレルモノデアリマス恰度釋迦ニ說法デハアリマスガ婚姻ノ許可ヲ與ヘルト云フコトニ付テ佛蘭西民法デハ父ノ無イ場合ニハ母、父母双方無イトキハ親族會ガ許可ヲ與ヘルト云フコトガアリマス夫レラト同ジコトデアリマスカラ特ニ人ヲ選ンデ任セヌデモ親族會デ議決ヲシテ一々行フコトガ出來ルト思ヒマス
横田國臣君
私ハ恰度今ノ質問ト反對ノ事ヲ言フヤウデアリマスガ戸主權デアリマスカラ後見人ハドウカト思ヒマス後見人ハ多クハ親族カラ採ツテ他人カラハ採ラヌト見ル又他人カラ採ルカモ知レヌガ又假令ヒ親族カラ採ルニシテモ親族一人デハ私ハドウモ後見人ハ不適當デハアルマイカト思ヒマス假令ヒ後見人ガアルニシロ親族會がアリマスカラ夫レデ議決ヲスル方ガ宜クハナイカト思ヒマス親權ハ宜シイガ後見人丈ケハ少シ不充分デハアリマスマイカ
梅謙次郎君
此前ニ別段議決ニハ爲ラナカツタ事デアリマスガ吾々カラ大略丈ケハ申シマシタ此場合ニ後見人ガ獨斷ヲ以テ行フト云フコトニハ多分後見人ノ規定ガナラヌト思ヒマス斯ウ云フ重モイ事柄ニ付テハ親族會ノ許可ヲ受ケルト云フコトニ爲ラウト思ヒマス、ケレドモ或ル場合ニハ特ニ戸主ノ身分ヲ取扱フテ居ル人デアリマス歐羅巴ノ或國ノ如ク唯ダ財產上ノ後見デナイ財產上ト身分上ノ事ヲ兼ネテ居ル者デアリマス旣成法典デモサウ爲ツテ居リマス夫レデアリマスカラ戸主ノ身體ヲ預ツテ居ル者デアリマス親權ヲ行フ者ヨリモ弱ク爲ルガ親權ヲ行フト言ツテモ宜シイ位ノ者デアリマスカラ或ハ條件ヲ以テ例ヘバ親族會ノ許可ト云フヤウナコトハ私ハ必要トシナケレバナラヌト思ヒマスガサウ云フ條件サエアツタラ之ヲ後見人ニ任カシテ置テモ宜シイト思ヒマス唯ダ後見人ガアルノニ夫レヲ打擲ツテ置テ親族曾ガ横合カラヤルト云フコトハ面白クナイト思ヒマスカラ矢張リ主動者ハ後見人ガヤルト云フコトニシタイト思ヒマス
重岡薫五郎君
此戸主ノ權利ノ中ニハ家政ヲ執ルト云フコトハ無イノデアリマスカ
梅謙次郎君
サウ云フ事ハ法律上ノ問題ト爲ツテ居リマセヌ此前ニサウ云フ事ノ議論ハアリマシタガ夫レハ法律上認メヌト云フコトニ爲リマシタ家族ヲ扶養シ及ビ教育スル義務ガアルト云フコトガ初メノ箇條ニアリマス其意味ハ吾々ニ於テハ扶養ノ費用ヲ負擔スルノト又教育ノ費用ヲ負擔スルト云フ意味ノ無論積リデアリマス併シ文字ニ付テ色々議論ガアリマシテ夫レナラバサウはツきり言ツタ方ガ宜シイト云フコトデ書キ直オシマシタ夫レデアリマスカラ扶養教育ノコトモ矢張リ親權ヲ行フ者トカ後見ヲ行フ者ニアリマス唯ダ其者ガ財產ガ無イ者ナラバ戸主ガ費用ヲ出シテ養育、教育シテヤルト云フコトガ殘ル
重岡薫五郎君
尙ホ伺ヒマス私ガ伺ウノハ七百五十七條二戸主權ノ喪失ノ原因ト云フモノハ家政ヲ執ルコトガ出來ヌトキハ戸主權ハ消滅スルト云フコトニ爲ツテ居リマス家政ヲ執ル者ガ戸主權トシテ必ズシナケレバナラヌト云フコトニ爲ルト家政ヲ執ルト云フコトガ詰リ戸主權ノ主タルモノデハナカラウカト云フ疑ヲ起シマシタ
梅謙次郎君
夫レハ私共ハ斯ウ云フ風ニ解シテ居リマス其扶養ノ義務ヲ負ヒ教育ノ義務ヲ盡スニハ家政ガ執レナイト實際盡セナイ夫レハ間接ノ結果カラシテサウ云フコトハナイ又モウ一ツハ家政ノ執レヌ位ノ者ナラバ出來ヌ家族ガ他ヘ轉居シテ善イカ惡ルイカト云フコトニ付テ一々自分ガ觀察ヲ下シテ許ストカ許サヌトカ云フコトニ爲ラウト思ヒマスガ夫レデ斯ウ云フ風ニ極ツタノデアラウト思ヒマス兎ニ角此處ノ家政ヲ執ルコトガ出來ヌ其事ヲ以テ隱居ヲスルト云フ事柄ハ旣ニ議決ニ爲ツタ事柄デアリマスカラ御質問デアレバ無論差支ナイコトデアリマスケレドモ再議ニハ無論爲ラヌコトト思ヒマス
議長(箕作麟祥君)
如何デアリマスカ別ニ御異議ガナケレバ此條ノ主義ハ隨分毎度幾度モ出テ來マスガ
穗積八束君
一寸伺ヒマスガ此戸主ニ代ツテ親族會之ヲ行フト云フコトハ今梅君ノ御說明ニ爲ツタヤウナ此權利ノ規定ノヤウナヽヽヽヽヽヽヽデゴザイマセウガ戸主ト云フモノガ出來テ戸籍法ガ出テ或ハ夫レガ法律ニ爲リマスルト云フト戸主ト云フ者ノ色々ノ義務ヤラ權利ヤラガ出テ來ヤウト思ヒマスガ併シサウ云フ場合デモ法律上戸主ガスベキコトトカ何ントカ云フ場合ニハ親族會ガスルト云フコトニ爲ルノデアリマスカ又ハ權利ノコトノ御考デアリマスカ
梅謙次郎君
夫レラノ事ハ或ハ戸籍法ナドデ特ニ規定ガ出來ルカモ知レマセヌガ出來マスレバ夫レラニ據ル特ニ規定が出來マセヌケレバ矢張リ夫レハ戸主權ニ屬スル事柄デアル以上ハ矢張リ親族會ガ行フト云フト云フコトニ爲ラウト思ヒマス若シ事柄ノ性質ガ或ハ繼續スベキ事柄或ハ繼續セヌニシタ所ガ毎日生ズルヤウナ事デアツタナラバ夫レハ親族會デ原則丈ケハ極メテ跡ノ執行ハ會員ノ一人ニ委ネルト云フヤウナコトハ無論出來ルデアラウト思ヒマス其事ハ出來ルデアラウト云フ位ニ止メヌデ親族會ノ規定ハ、サウ云フヤウナ包括的ノ規定ニ出來ルコトヲ望ムノデアリマス親族會ガ必要ト認メタ場合ハ會員ノ一人トカ數人トカヲ特ニ委員トシテ其執行ヲサセルコトガ出來ルト云フ規定ノ出來ル方ガ私ハ宜カラウト思フ位デアリマス
穗積八束君
私ノ御問ヒハ戸主ノ權利トカ云フ樣ナモノハ普通ナラバヽヽヽヽヽ屆出トカ何トカ云フコトハヽヽヽヽヽヽヽヽ戸主トハ云ヒマスガ戸主デナクテモヽヽヽヽヽヽ強テ親族會ニ協議ヲ一々經ナケレバナラヌトカ始終親族會ガシナケレバナラヌト云フヤウナ面倒ナ事ハ外ノ法律ノ結果デアルコトデハナイト仰ツシヤルノデアリマスカ
梅謙次郎君
今日ハ、サウ云フ所ハ或ハ幾分カ斯ウ等閑リニ爲ツテ居ルカモ知レマセヌガ乍併戸主カラ屆出デナケレバナラヌトカ願ハナケレバナラヌトカ云フヤウナトキナラバ戸主ノ印ガ要リマスカラ本統ハ戸主ガ承諾シナケレバ往カヌ印抔ハ人ニ依ルト疎略ニ取扱ウカラ戸主ノ不在ノトキニ家族ガ印ノアルノヲ幸ニぺたぺた捺シテ屆ケ願ヒヲ出ストカ云フヤウナコトガ或ハ行ハレルカモ知レマセヌガ夫レハ寧ロ濫用ノ方デ法律ガ極マルト、サウ云フコトハ出來ヌト思ヒマス夫レデ是ガドノ位アルカ分ラヌガ今日抔モ可ナリアリマス併シ最モ重モナルモノハ家族ノ變動デス夫レニハ何レ許可ガ要ル夫レハ親族會デ許サナケレバナラヌト思ヒマスケレドモ事柄ノ性質上至ツテ輕ルイ事デ一々親族會ヲ招集スルヤウナ價値ノナイヤウナ事ハ多分親族會デ以テ或ル人ニ委ネルト云フコトニ爲ルデアラウト想像致シマス夫レハ親族會ノ方ノ規定ガ出來ルト自カラ分ラウカト思ヒマス
議長(箕作麟祥君)
洋行ヲシタ抔ハドウデゴザイマセウカ
梅謙次郎君
夫レハ矢張リ默ツテ往クト能ハザル方ニ這入ラウト思ヒマス
穗積八束君
戸主權ヲ委任スルコトガ出來マスカ
梅謙次郎君
其委任デアリマスガ私ノ考デハ出來ヤウト思ヒマス、ケレドモ夫レハ人々ノ解釋デアリマス私ハ出來ヤウト思ヒマス
議長(箕作麟祥君)
如何デゴザイマセウカ本條ハ別ニ御發議ガナケレバ此通リニ決シテ外ノ未定ノ條ハ今日議スル譯ニ往キマセヌカラ婚姻ノ處ニ往キマセウ
(書記朗讀)
第三章 婚姻
梅謙次郎君
此婚姻ノ處ハ旣成法典ニハ多クノ節ニ分ツテアリマシテ「婚姻ヲ爲スニ必要ナル條件」トカ或ハ「婚姻成立ノ證據」トカ都合七節ニ分ツテアツテ尙ホ其外ニ離婚ノ事ガ別章トシテ規定セラレテ居リマス夫レカラ又夫婦財產制ノコトガ財產取得編ニ規定ニ爲ツテ居リマス此離婚ヲ別章ニスルトカ或ハ婚姻ノ處ヲ細カク分ケテ六節七節抔ニ分ケルト云フコトモ之ハ詰リ便宜ノ問題デ如何樣デモ宜シイコトデアリマス夫婦財產制ヲ財產取得編ニ入レタト云フコトモ之モ誠ニ理窟上ハ立ツコトデアツテ財產制デアレバ無論財產ニ關スルコトデアリマスカラ向フニアツテモ差支ナイノデス夫レ故ニ外國ノ法典デ見テモ夫婦財產制ト云フモノハ財產取得編トモ言フベキ場所ニ置カレテアル例モ澤山アリマス乍併之ハ矢張リ婚姻ノ處ニ一緒ニ規定シテアル例モ亦數多クアリマス目錄ヲ議スル節ニ此事ハもう御認メニ爲ツタコトデアリマスガ卽チ婚姻ノ所ニ書イタ方ガ宜カラウ何ゼナラバ之ハ身分上ノ事柄ト餘程密着ノ關係ヲ持ツテ居ル事柄デアルシ最早婚姻ノ效力ニハ相違ナイ其效力ハ或ハ身上ニ關シ或ハ財產ニ關スルト云フコトハ夫婦財產制計リデハナイ例ヘバ夫婦ガ互ニ扶養スル義務抔ト云フモノヲ財產ノ方カラ觀察スレバ矢張リ財產上ノ效力デアリマス又外ノ場合デモ現ニ議決ニ爲リマシタ所ノ「戸主及ヒ家族」ノ所デモ家族ノ財產ニ關スル規定ガ出テ居リマス又隱居ノ所デモ隱居ノ財產ニ關スル規定ガ出テ居リマス、ドウモ財產上ノ事ト身分上ノ事ト二ツニ區別ヲシテ丸デはツきり別ニ二タ所ニ規定ヲシナケレバナラヌト云フコトニ爲ルト立法ノ體裁上却テ不便ナルコトニ爲リマスカラ夫レデ矢張リ之ハ婚姻ノ效力ニ相違ナイカラ矢張リ婚姻ノ所ニ置イタ方ガ便利ト思ヒマス唯婚姻ノ當然ノ效力デアリマセヌカラ夫レデ節ハ別ノ節ニシタガ宜カラウ斯ウ思ヒマシタ或ハ婚姻ノ當然ノ效力デアルカモ知レマセヌガ兎ニ角婚姻ノ身分上ノ親族編ノ卽チ親族編外ノ事デアツテ又事柄モ財產上ハ隨分大イナル效力ヲ生ジマスカラ兎ニ角別ノ節ニシタ方ガ宜カラウト思フテ別ノ節ニ致シマシタ又離婚モ別ノ章ニシ所ガ差支ヘマセヌガ併シ婚姻ト云フモノハ初メニアル規定ニ因テ成立チ夫レカラ又或ル理由ニ因ツテ消ヘル死亡ニ因ツテモ消ヘルガ又離婚ニ因テモ消ヘル婚姻ト云フ法律行爲ガ效力ヲ失フ原因デアツテ見ルト矢張リ婚姻章ノ中ノ小別ケトシテ規定スル方ガ穩カデアルト云フ考カラシテ此ヤウニ致シタノデアリマス
議長(箕作麟祥君)
「第三章婚姻」ト云フ表題ニ付テ別ニ御發議ガナケレバ第一節ニ移リマス
(書記朗讀)
第一節 婚姻ノ成立
梅謙次郎君
之ニ付テモ格別申上ルコトハアリマセヌガ唯ダ舊トノ法典ニハ「第四節婚姻成立ノ證據」ト云フコトガアツタノデアリマスガ夫レヲ削リマシタ理由ヲ此處ニ申上ゲマス其譯ハ此「婚姻成立ノ證據」ト云フ處ニハ婚姻成立ノ證據ハ婚姻證書ヲ以テ擧ゲルノガ本則デアツテ唯ダ婚姻證書ヲ增減シ毀棄シ隱匿シ又ハ片紙ニ記載シタル場合ニ於テ刑事又ハ民事ノ訴訟ニ因リテ婚姻ノ成立ヲ認メタル判決ハ其證書ト同ジ效力ヲ持ツト云フ斯ウ云フコトニナツテ居リマス此事柄タルヤ一般ニハ無論之デ宜カラウト思ヒマス乍併證據ノコトハ概シテ民法ニハ書カナイコトニ爲ツテ居ツテ民事訴訟法ニ入レヤウト云フ吾々ノ考ヘデアリマスガ若シ民事訴訟法ニ這入ラヌケレバ特別法トデモ爲ツテ出ルト思ヒマス婚姻ニ付テ特別ナル事柄ガアツテ此處ニ入レル方ヲ便利トスレバ無論入レルガ宜シイト思ヒマス一般ノ規則ハ民法ニハ無クテモ或ル法律行爲ニ特別ノ事柄デアツテ夫レガ此處ト密接ノ關係ヲ持ツテ居ルト云フモノハ證據上ノ事デモ此處ヘ入レテモ宜シイ例ヘバ彼ノ推定ハ證據デナイト云フ說モ立チマセウガあれヲ證據ト見レバ推定ノ規定ト云フモノハ是迄ノ議決ニ爲ツタ處ニモ澤山アリマス夫レハ無論差支ナイコトト考ヘマス乍併此婚姻成立ノ證據ノ事柄ノ如キハ婚姻證書ト云フモノガ元ト一體ドウ云フモノガ出來ルカ夫レハ民法デハ分ツテ居リマセヌ夫レヲ唯ダドウ云フモノカ分ラヌト云フ婚姻證書ト云フモノヲ此處ニ突然出スノガドウデゴザイマセウカ身分證書ノ事ハ是ハ戸籍法ノ方ガ何カ特別ノ法ニ讓ルコトニ爲ツテ居ル本案デハ、サウシテ見ルト云フト婚姻證書ノコトモ其方デ極マル、サウスレバ夫レガ充分證據ト爲ルベキト云フコトハ今カラ固ヨリ豫想セラレルコトデアル夫レニ反對ノ證據ヲ許シテ宜イカドウカト云フコトモ其方モ極メラレル證據ノ一般ノ規則ノ方デ極メヌデモ其戸籍法ノ方デ充分極メラルベキモノデアル詰リドウ云フモノヲ證據ト見ルカト云フ問題ハ概シテ民法デハ是マデ頓着セヌコトニ見テ居リマスカラ此處丈ケニ付テ特別ノ規定ヲ設ケル必要ヲ見出シマセヌ身分ノ占有ト云フヤウナモノモ之モ認メル必要ガ私共ハアラウト思ヒマス成程證書ガアツテ其證書ト反對ノ身分ヲ占有シテ居ルト云フノデ夫レデ其占有ノ方ガ效力ヲ餘計持ツト云フヤウナコトガアツテハ無論往ケマセヌガ證書ガ不充分デアツテ、サウシテ其氣分ヲ占有シテ居ルト云フ樣ナトキニハ其氣分占有丈ケデモ裁判官ガ充分ノ證據アリト認メレバ認メテモ宜カラウト思ヒマス若シサウ云フ事デアルナラバ普通ノ最終法ニ歸着スルダラウト思ヒマスカラ却テ斯ウ云フ風ニ書テ置クト證書ニ明カニアルモノノ場合デナイ卽チ或ハ證書ガ缺ケテ居ル其原因ガ此處ニ書テアルヤウナ事柄ガはツきり分ツテ居ルヤウナコトナラバ宜シイガ夫レモ判然ヲシナイ古イ物ナラバはツきりシナイ、サウ云フトキデモ身分ノ占有丈デハ證據ニ爲ラヌト云フコトニ爲ル、サウ云フコトニ爲リマス夫レハ却テ宜シクナカラウ草案ニハ身分ノ占有ニ付テ認メベキ場合モ一々規定ニ爲ツテ居リマシタガ、ドウ云フ理由デ夫レガ削ラレタカ分ラヌケレドモ必ズ身分ノ占有ト云フモノモ或ル範圍内ニ於テハ認メラレルト思ヒマス夫レハ裁判官ガ充分ニ證據ト認ムベキ場合ト思フトキニハ特ニ規定シテ置カヌデモ無論證書ニ明カナ事ガアルノニ唯ダ漠然ト身分ノ占有ヲ以テシナクテモ何處ノ裁判官デモ夫レヲ採用スルヤウナコトハ萬々ナカラウト思ヒマスカラ其點ハ別ニ規定ノ必要ヲ見出シマセヌカラ證據ノコトハ暫ク削ツテ置キマシタ其事丈ケヲ一寸申シテ置キマス
議長(箕作麟祥君)
「第一節婚姻ノ成立」ト云フコトニ付テ別ニ御發議ガナケレバ「第一款婚姻ノ要件」ト云フコトニ移リマス
(書記朗讀)
第一款 婚姻ノ要件
梅謙次郎君
之ニ付テハ別ニ說明ヲ致シマセヌカラ直チニ箇條ヲ願ヒマス
議長(箕作麟祥君)
夫レデハ箇條ニ這入リマス
(書記朗讀)
第七百七十一條 男ハ滿十七年女ハ滿十五年ニ至ラサレハ婚姻ヲ爲スコトヲ得ス
(參照)人三〇、刑三四九、戸令男年十五條、太閤之式目二七、改定律例二六〇、九年七月十四日山梨縣ニ對スル内務省指、同日山形縣ニ對スル内務省指、十五年八月三十一日内務省指、十七年二月十三日内務省訓示、十八年四月十七日内務省訓示、十九年四月二十七日司法省指、佛一四四、一四五、澳二一、四八、蘭八六、伊五五、六八、二項、葡一〇七三、一項、四號、瑞千八百七十四年十二月二十四日法二七、一項、西八三、一號、白草一四一、獨一草一二三三、同二草一一、一二〇九、加五六、紐草三六
梅謙次郎君
之ハ文字ニテそツくり旣成法典ノ儘デゴザイマスカラ格別說明ヲスルコトハ要ルマイト思ヒマスガ御承知ノ通リ現行法デハ婚姻年齡ト云フモノハ極ツテ居リマセヌ各地方カラ内務省又ハ司法省抔ニ伺ガ出テモ今日ハ之ニ付テマダ極ツタ規定ハナイカラ然ルベキ慣習抔ニ任カシテ宜シイト云フコトニ爲ツテ居リマス唯ダ刑法デ十二歳未滿ノモノヲ姦淫シタ者ハ強姦ト看ルト云フ位デアリマスカラ十二歳未滿ノ者ハドウデアルカト云フノデ古イ所ノ指令ニハ夫レハ往カヌト云フ指令ガアリマス、ケレドモ之モ近來ノ指令ニハ改マリマシテ縱令ヒ十二歳未滿ノ者デモ強テ之ヲ不法ト見ル譯ニ往カヌ乍去夫レハ行政官ニ於テ可成說諭シテ、サウ云フ婚姻ハサセヌヤウニスルガ宜シイト云フ趣意ニ爲ツテ居リマス詰リ之ハ民法ノ出來ルマデ放任シテ置クト云フ主義ガ行ハレテ居リマスカラ夫レハ尤モノコトト思ヒマス、しツかりト極ツタ法律ガナイノデ行政官デ宜加減デスルコトハ出來ヌト思ヒマスカラ尤モト思ヒマス此年齡ハ旣成法典ノ儘デアリマスガ唯ダ旣成法典ガ斯ウダカラ斯ウ極メタト云フ譯デハナイ之ニ付テハ旣成法典ガ出來ル時ニモ醫科大學トカ、表向キハ帝國大學デアリマスガ實際ハ醫科大學ニ問ハレタコトデ其取調ヲサレマシタ書類ヲ見マシタガ隨分精密ノ取調ノ末ニ男ハ十七年女ハ十五年ト云フ所ガ適當デアラウト云フコトデアリマス無論之ハ最少期ヲ極メタノデアリマスカラ此年齡ニ逹スレバ皆婚姻ヲシナケレバナラヌト云フコトデハナイカラシテ少シ早イヤウデハアリマスガ是位ガ宜イダラウ今日ノ慣習デハ是ヨリ早ク婚姻ヲ爲ス者ガ隨分多イ併シ夫レハ餘リ早イカラ徃ケナイ人智モ惡クナリ風俗ノ紊レルト云フコトモアリマスカラ如何ナル點カラ觀察ヲシテモ夫レハ徃ケナイ草案ニハ慥カ十七年ニ十四年ト爲ツテ居ツタノヲ醫科大學ノ意見ニ據ツテ改メラレマシテ十五年ト爲ツタト思ヒマス是ニ付テ外國ノ例ハ區チ區チニ爲ツテ居リマス、ケレドモ斯ウ云フ事柄ハ必ズシモ外國ノ例ニ據ルベキ事柄デモアルマイト思ヒマスカラ夫レハ別ニ申シマセヌ
穗積八束君
婚姻ノ年齡ヲ定メル必要ノ譯ハ今早婚ト云フモノハ惡ルイトカ人種ノ發逹ガ惡ルイトカ云フノガ趣意デゴザイマセウガ斯ウ云フ婚姻ノ年齡ヲ定メマスルニハ可成婚姻ガ不法ノ婚姻ノナイヤウニ定メルノモ一ツノ理由ガアラウト思ヒマス夫レデ早婚ノ弊ヲ矯メルトカ云フ方ヲ一ツ法律ヲ以テ社會ノ狀態ヲ保護シヤウト云フ爲メニ御極メニ爲ル趣意モアラウト思ヒマスガ今日實際ノ處デ此年齡ニ逹セヌ婚姻ガ隨分アルト起草者ガ言ハレル以上ハ多少今日ノ實際ノ慣例ニ變更ヲ加ヘルト云フ御趣意デ斯ウ御書キニ爲ツタト思ヒマスガ、サウデゴザイマセウカ實際ノ、處ヲ御聽キ申シタイ唯實際ノ民族ノ習慣ハ斯ウ云フモノデアルト云フ御趣意デアリマシタカ又ハ法律ヲ以テ改良ヲシタイト云フコトデ御書キニナリマシタカ其處ヲ伺ヒタイノデアリマス
梅謙次郎君
只今ノハ幾分カ双方含ンデ居リマス卽チ從來ノ婚姻ノ年齡ト云フモノモ矢張リ醫科大學デ取調ベテ呉レマシタノデ夫レデ能ク分ツテ居リマスガ矢張リ全國通シテ見ルト云フト此位ノ年齡ヨリ早イノハ無論少ナイ、アルコトハアルガ總數カラ見ルト少ナイノデアリマス夫レデ此位ノ制限ナラバ之ハ制限ニ相違ナイ今マデハ是ヨリ若クテ婚姻ハ自由ニ出來タノデ事實上アツタニ相違ナイ、ケレドモ其場合ハ總數カラ較ベテ見レバ至ツテ少數デアル夫レデ此位ノ制限ヲ附シテモ之ハ左マデ不便ヲ感ズマイト云フノガ一ツ今一ツハ多少制限ヲ附スルノハ制限ノアル方ガ宜カラウト云フ譯ハ先刻モ申シマシタ通リ餘リ早ク婚姻ヲスルト人智ガ惡ルクナルト云フコトモアリ又早ク婚姻ガ出來ルト風俗ノ紊レルト云フコトモ殆ンド爭ハレヌヤウデアリマスカラ矢張リ婚姻ハ餘リ早クハ出來ヌヤウニシテ置ク方ガ間接ニ風俗オモ矯ヌヤウニ爲ラウト思ヒマス詰リ目的ハ最後ニアリマスケレドモ其目的ヲ逹セシメルガ爲メニハ餘リ無理ナコトヲシテモ出來ヌカラ夫レデヽヽヽヽノ方ノ理由カラ言ツタナラバ或ハ外國ニ例ノアル如ク成年ニ逹シナケレバ婚姻ヲ爲スコトヲ得ナイトカ又ハ男二十歳女十八歳以上デナケレバナラヌトカ云フヤウナ制限ノ方ガ適當カモ知レマセヌガ夫レデハ實際行ハレナイ餘リ慣習ニ背クヤウニナリマスカラ慣習ヲ斟酌シテ此位デ我慢シヤウト云フコトニ爲リマシタ
穗積八束君
サウスルト婚姻ト云フモノハ固ヨリ法律ダカラ必ズ制裁ガアルト云フヤウナ御話シデハアリマスマイケレドモ正サカ夫レヲ罰スルト云フ譯ニモ往キマスマイシ婚姻ハ成立シナイト見ルト云フノデアリマスカ實際ニ條件ノ缺ケタ婚姻ガアツタトキニドウ爲ルノデアリマスカ
梅謙次郎君
夫レハ此案ノ終リノ方ニ段々規定ニ爲ツテ居リマス
議長(箕作麟祥君)
七百八十七條、七百八十八條當リニ大分アルヤウデアリマス
梅謙次郎君
先ヅ第一ニハ、サウ云フ場合ニハ戸籍吏ガ婚姻ノ屆出ヲ受付ケマセヌ若シ戸籍吏ガ誤ツテ受付ケタナラバ夫レハ或ル制限ヲ以テ取消セル此案デハ其制限ト云フモノハ七百八十八條ニ不適齡者ガ適齡ニ逹スルマデト云フコトガアリマス尤モ不適齡者自身ハ適齡ニ逹シテカラ後矢張リ三ケ月間ハ取消セル併シ追認ヲスレバ取消セヌ斯ウ云フコトニ爲ツテ居リマス此二ツノ制裁ガアリマス
重岡薫五郎君
一寸御尋ネヲ致シマスガ此法典ハ急ニハ臺灣ニハ行ハレヌデゴザイマセウガ、サウ云フ氣遣ヒハアリマセヌカ何レ早晩ハ臺灣抔ニモ行ハレルト看ナケレバナラヌ、シテ看ルト臺灣ハ普通ノ熱帶國ナラバ行ハレルカモ知レマセヌト思ヒマスガ、サウ云フ事ニ付テ何カ御考ハアツタラウガ之ハ臺灣ニ直接實施ニ爲ツテモ不都合ハナイデゴザイマセウカ此臺灣ノコトニ付テ御取調ガゴザイマシタラウカ又臺灣ノミナラズ旣ニ日本ノ内地トシテ日本ノ領分トシテ認メラレテ居ル琉球當リニ付テハドウ云フ習慣デゴザイマセウカ御調ベニ爲ツタコトガゴザイマセウカ
梅謙次郎君
臺灣ハ日本ノ版圖ニ入ツテカラ日尙ホ淺ウゴザイマスカラ啻ニ私抔ノ迂濶ナ者ガ調ベテ居リマセヌノミナラズ政府其他夫レラニ付テ目ノ悟イ人デモマダ調ベテ居ラヌト思ヒマス從ツテ此臺灣ノコトハ眼中ニ置イテ居リマセヌ或ハ此臺灣ニ付テハ別ニ特別法令ヲ拵ヘテモ宜シイト思ヒマス先ヅ今日ノ所デハ臺灣ハ除ク積リデアリマス尤モ私一人ノ調デハ此位ノ制限ナラバ如何ニ早婚ノ流行ツテ居ル所デモ別ニ不都合ハナカラウト思ヒマスガ之ハ憶斷ニ過ギマセヌ又琉球地方ノコトニ付テハ私一人ハ取調ベルコトヲナシ又其暇モナイデアリマシタガ今此處ニハ書類ヲ持ツテ居リマセヌガ醫科大學デ調ベテ居ルノハ無論沖繩縣モ含ンデ居ルヤウデアリマス夫レニ據ツテ平均ヲ取ツテ夫レ程不都合トハ思ハナカツタノデアリマス夫レニ付テノ書類ハ持ツテ居リマセヌガ、ドウモ沖繩縣ヲ含ンダ所デ女ガ十五未滿男ガ十七歳未滿デ婚姻ヲ爲ス場合ト云フモノハ比較的ニ少ナイ内地ノ方デモ維新前ニハ隨分此位ノ年齡ヨリ早ク婚姻ヲシタ例ガ多オカツタヤウデアリマスガ矢張リ開ケルニ從ツテ自カラ遲ク爲ツテ往キマスカラ今日デハ此位ノ制限ハ夫レ程窮窟ナコトハナカラウカト斯ウ考ヘタノデアリマス
議長(箕作麟祥君)
如何デゴザイマスカ之ハ旣成法典ノ通リ一點モ改ツテ居ラヌト云フコトデアリマスガ―夫レデハ別ニ御異議ハナイト認メマスカラ次條ニ移リマス
(書記朗讀)
第七百七十二條 配偶者アル者ハ重ネテ婚姻ヲ爲スコトヲ得ス
(參照)人三一、刑三五四、戸婚律有妻更娶條、和娶人妻條、廳政談、御定書百个條四八、八年一月二十八日司法省指、九年六月二十三日太政官指一、同七月十七日内務省一、佛一四七、澳六二、蘭八四、伊五六、葡一〇七三、一項、五號、瑞千八百七十四年十二月二十四日法二八、一項、一號、西五一、八三、五號、白草一四五、獨一草一二三四、一二三五、同二草一二一五、加五六、六一、紐草三六、四〇
梅謙次郎君
之モ慥カ文字モ違ツテ居ラヌデアツタト思ヒマス、モウ是コソハ說明ヲセヌデモ苟モ一夫多妻ノ主義ガ行ハレマセヌ以上ハ論ズルマデモナイト思ヒマス外國人ノ目カラ見タナラバ日本デハ一夫多妻ノ制ガ行ハレテ居ルヤウニ見ヘテ外國人ノ書テ居ル書抔ヲ見ルト皆サウ書テアリマスガ私ガ說明スルマデモナイ日本デハ重婚ヲ許スト云フコトハナイ刑法ニモ書テアリマスカラ別ニ說明ヲ要セヌト思ヒマス
横田國臣君
此七百七十二條ハ私ハ削除ヲ願ヒタイ其削除ヲ願ヒタイト云フ譯ハ是ハ刑法ニ重婚ヲ罰スルト云フコトニ爲ツテ居リマス夫レデ刑法ハヽヽヽヽヽ當リガ言フ通リニ「ネガチーブ」ノ禁制、刑法ニ擧ツテ居ルノハ禁制、恰度重婚ヲ爲スベカラズ之ニ背キタル者ハ何年ノ懲役ト云フノト同ジデアリマス恰度「姦通ヲ爲スコトヲ得ス」ト云フコトヲ書クノト同ジト思ヒマス其上ニ之ガ書テアツテモ邪魔ニハ爲リマセヌガ之ガアツテ始メテ日本ハ重婚ト云フモノヲ禁ジタヤウニ爲ルヤウニ見ヘルカモ知レヌ日本ハサウデナイ今梅君ノ說明セラレタ通リニ重婚ト云フモノハナカツタ妾ト云フモノハアツタケレドモ夫レデ私ハ日本デハ此箇條ハナイ方ガ宜シ此條ガアルト是迄アツタノヲ殊更ニ禁ジタヤウニ見ヘル
重岡薫五郎君
贊成
梅謙次郎君
只今ノ横田サンノ御論ハ一應御尤モノヤウニ聞ヘマスケレドモ之ハ少シ御考ヲ願ヒタイノデアリマス刑法デ禁ジテアルモノハ禁ジテアルト云フコト丈ケハ極ツテ居ルカラ此處ヘ書カヌデモ分ツテ居ルト云フコトハ誠ニ御尤モデアリマスガ夫レ丈ケノ理由ナラバ無論此處ニ書クベキデアリマセヌ、所ガ婚姻ト云フモノハ無效トスルト其效力ハ容易ナラザル結果ニ爲リマスカラ夫レデ婚姻ノ無效ノ場合ト云フモノハ何處ノ國ノ法律デモ限ツテアリマス婚姻ノ無效ノ場合ヲ掲ゲルノハ卽チ斯ウ云フ場合ニハ無效ジヤ且其無效ト云フ意味ガ絶對ノ無效デアルカ尙ホ取消シ得ベキモノデアルカ又取消シ得ベキトシテモ其條件ハドウデアルカト云フコトハ外ノ法律行爲ノ如ク一般規定ニ任カセズシテ特ニ此處ニ規定スル必要ガアリマス夫レデ各國皆之ガ書テアリマス横田サンハ之ガ書テアルト日本ニハ是迄重婚ガアツタ樣ニ見ヘルト云フコトデアリマスガ夫レハ餘計ナ心配デアリマス外國ノ一夫一婦ト誇ツテ居ル國デモ皆書テアリマス誇ルニハ足ラヌガ其書テアル理由ハ皆私ガ言フタヤウナ理由ト思ヒマス此處ニ引テアル各國ノ法律ニハ皆書テアリマス啻ニ明文ガアルノミナラズ本案デハ此場合ハ殆ンド何時デモ親族、檢事誰レデモ持ツテ往ツテ宜イ位デアリマス誰レデモ其取消ヲ請フコトガ出來ルト云フ位ニ廣ク爲ツテ居リマス乍併外國ノ例デハ此取消ニ制限ガ設ケテアツテ喩ヘバ其舊トノ夫ガ申出デナケレバナラヌ場合ニ於テハ外ノ者カラシテ重婚ノ理由ヲ以テ婚姻ノ取消ヲ請求スルコトヲ得ナイト云フヤウナ規定ノアル國サエアル位デアリマス夫レハ私共ハ採リマセヌケレドモ兎ニ角此場合ニハ或ル制限ヲ以テ取消セルト云フコトヲ先キニ規定セントシテ此處ニ之ヲ書テ置ク必要ガアラウト思ヒマス夫レデ此處ニ引テアル法律ニ皆アル卽チ外國ノ法典ニハ皆アルト言ツテモ宜カラウト思ヒマス、デアリマスカラ日本ノミニ之ガ書テアルノハ大キニ不體裁ト云フコトハ大キニ要ラザル御心配ト思ヒマス
横田國臣君
私ハ今此處ニ一寸御話ヲシマスガ外國ニハ無論アラウト思ヒマス外國ニアルニシタ所ガ書クナラバ色々ナ事ヲ限ツテゴザイマセウガ一向要ラヌコトト思ヒマス法律ニ禁制シタルヽヽヽヽヽヽヽヽヽ無論宜シイト思ヒマス之ハ先キニドウ云フ風ニ御書キニ爲ツタカ知リマセヌガ此箇條ガ無イ所ガ書カレルト思ヒマス唯ダ私ハ之ヲ言フニ及バヌト思ヒマス之ヲ書クノナラバ姦通ヲ禁ズルコトモ書カナケレバナラヌト思ヒマス
議長(箕作麟祥君)
之ハ唯ダ議論ノヤウデアリマスガ六カシイ議論デモアルマイト思ヒマスカラ決ヲ採リマセウ横田君ノ御說ノ削除ト云フコトニ同意ノ諸君ノ起立ヲ請ヒマス
起立者少數
議長(箕作麟祥君)
少數原案ニ決シマシテ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第七百七十三條 女ハ前婚ノ解消又ハ取消ノ後六个月內ニ再婚ヲ爲スコトヲ得ス
女カ前婚ノ解消又ハ取消ノ前ニ懷胎セシ場合ニ於テハ其分娩ノ日ヨリ前項ノ規定ヲ適用セス
(參照)人三二、大化二年三月詔、戸婚律居夫喪改嫁條、戸令結婚已定條、喪葬令服紀條、貞永式目二四、新編追加三二六、三二八、三三〇、廳政談、御定書百个條四四、新律綱領戸婚律匿父母夫喪條、五年十月七日太政官指、六年三月三日太政官指、同六月二十日太政官指、同七月十四日太政官指三、同月十五日太政官指、同八月十二日太政官指、同九月十二日太政官指、同十月十四日太政官指、七年一月二十九日太政官指、同二月三日太政官指、同月二十日太政官指三、同四月二十日太政官指、同月二十五日司法省指、同五月十九日司法省指、同七月二日太政官指、同月五日太政官指、同月七日司法省指、八年二月十三日太政官指、同月二十五日内務省指、同三月八日内務省指、同四月二十四日内務省指、同月二十七日内務省指、同六月四日内務省指、同七月十八日太政官指、同月三十日太政官指、同八月七日内務省指、同九月八日太政官指、同月九日内務省指、同月十四日盤前縣五月四日伺ニ對スル内務省指、同日同縣五月二十四日伺ニ對スル内務省指、同月二十二日内務省指、同十月二十四日内務省指、同十一月十五日内務省指、同月二十九日飾磨縣ニ對スル内務省指、同日宮城縣ニ對スル内務省指、同十二月八日太政官指、同月十四日内務省指、同月十七日内務省指、同月二十二日内務省指、同月二十七日太政官指、同月二十八日内務省指、九年二月九日内務省指、同三月内務省指、同四月十日内務省指、同月十二日内務省指、同六月五日太政官達五八號、同月二十三日太政官指、同七月一日内務省指、同月八日内務省指、同月十七日内務省指、同八月二十四日内務省指、同十一月二日内務省指、同月二十日太政官指、十年一月二十日長崎縣ニ對スル内務省指、同日東京府ニ對スル内務省指、同二月五日内務省指、同月九日内務省指、同月十二日太政官指、同三月二日内務省指、同六月十三日内務省指、同月十四日内務省指、同月二十六日内務省指、同九月十二日太政官指、同十月十六日内務省指、同十一月六日内務省指、同十二月二十八日太政官達九九號、十一年一月二十一日内務省指、同二月二十六日内務省指、同三月十一日内務省指、同月二十日内務省指、同四月三十日内務省指、同五月二十二日内務省指、同七月二十四日内務省指、同月三十日内務省指一、同八月十七日内務省指、同月二十二日内務省指、同十月二十六日内務省指、十二年二月二十五日内務省指、同八月八日内務省指、同九月十五日内務省指、同十一月二十八日内務省指、十三年四月十九日内務省指、同五月八日内務省指、同七月十三日内務省指一、同十月二十一日内務省指、同月二十六日内務省指、十四年一月二十四日内務省指、同三月二十三日内務省指、同八月二十二日内務省指、同十月二十九日内務省指、十五年五月十一日内務省指、同六月十七日太政官指、同八月九日内務省指、同九月二十六日内務省指、同十月六日内務省指、十六年三月二十二日内務省指、同四月五日内務省指、同六月十四日内務省訓示、同七月二十一日内務省指、十七年一月二十一日内務省指、同月二十九日太政官指、同二月十三日内務省指、同月二十日内務省指、十八年三月十二日内務省指二、十九年四月二十九日司法省指、同八月二日司法省指、同月九日司法省指、同月二十日司法省指、同十月二十六日司法省指、同月三十日司法省指、同十二月十四日新潟縣ニ對スル司法省指、同日長野縣ニ對スル司法省指、二十年一月七日司法省指、同月二十八日司法省指、同三月二十二日司法省指、同五月三日司法省指、同月十二日司法省指、同六月十日司法省指、同十月七日滋賀縣ニ對スル司法省指、同日福井縣ニ對スル司法省指、同月二十七日司法省指、同十一月三十日司法省指、同十二月五日司法省指、二十一年一月二十三日司法省指、同月二十七日司法省指、同五月十二日司法省指、同十二月二十五日司法省指、二十二年四月十一日司法省指、同月十六日司法省指、同月十九日司法省指、同月二十三日司法省指、同月三十日司法省指、同五月一日司法省指、同月七日司法省指、同月十一日司法省指、同月十七日司法省指、同月二十三日司法省指、同月三十日司法省指、同七月五日司法省指、同月十日大審院判決、同十二月二十八日司法省指、二十三年一月十五日司法省指、同月二十三日司法省指、同二月十三日司法省指、同月二十三日司法省指、同七月十七日司法省指、同年内務司法兩省指、二十四年九月司法省指、同年内務司法兩省指、二十五年三月司法省指、二十六年六月司法省指、同十月司法省指、二十七年十月司法省指、二十八年一月司法省指、同五月司法省指、佛二二八、二九六、澳一二〇、一二一、蘭九一、伊五七、葡一二三三、一二三五、一二三七、一二三八、瑞千八百七十四年十二月二十四日法二八、二項、四八、西四五、二號、八五、白草一四六、獨二草一二一九
梅謙次郎君
之ハ文字ハ少シク變ヘマシタケレドモ殆ンド旣成法典ノ通リデアリマス其變ヘマシタ點ハ純然タル文章丈ケノ變更ハ別ニ說明致シマセヌガ此「解消又ハ取消」ト云フモノハ前ノハ唯ダ「解消」丈ケデアリマシタ夫レガ一ツト夫レカラ前ノハ夫ノ失踪ニ原因スル離婚ノ場合ガ除テアツタノヲ今度ハ除カナイ此二ツガ前ノ法典ヲ改メマシタ點デアリマス先ヅ夫レカラ先キニ說明致シマス此「取消」ト云フコトヲ入レマシタ理由ハ婚姻ガ取消サレマスル場合ニハ今ノ法典デモサウデアリマスルシ此案デハ別シテサウ云フコトニ致シマシタガ取消ガ全ク普通ノ法律行爲ノ取消ノ如クニ旣往ニ遡ツテ婚姻ヲ無效ニハ歸セシメナイノデス外國デモ此點ハ後ニ說明致シマスガ、多クサウ爲ツテ居リマス全ク旣往ニ遡ツテ無效ニハ歸セシメナイノデス、サウスルト云フト此取消ノ效力ガ解消ノ效力ト殆ンド同ジコトニ爲リマス然ルニ解消ノ場合ニ付テノミ此制限ガアツテ取消ニ付テ同一ノ制限ノナイノハドウモ缺點デアラウト思ヒマス外國ニモ此取消ト双方ガ書テアル例ガ隨分多イノデアリマス獨逸民法草案デモ伊太利民法デモ夫レカラ瑞西ノ法律夫レカラ西班牙ノ民法白耳義民法草案抔ニ皆アリマス夫レデ之ハ一旦取消スト云フコトガ多少ニ拘ハラズ必ズ效力ヲ遺スコトニ爲ルデアラウト思ヒマス取消ニ因ツテ旣往ニ遡ツテ全ク婚姻ガナカツタト同一ノモノニハ爲ラヌト思ヒマス夫レガ爲ラヌ以上ハ是非此取消ト云フモノガ這入ランケレバ困ル尙ホ一歩進ンデ論ズルト縱令ヒ取消ト云フモノガ法律上ハ旣往ニ遡ツテ效ヲ生ズル卽チ初メヨリ婚姻ガナカリシモノト同一ニシテモ如何セン婚姻ト同ジヤウナ事ガアツテ其爲メ婦人ガ男子ノ胤ヲ宿スト云フヤウナコトガアリ得ルノデアリマスカラ矢張リ此胤ノ亂レルト云フコトヲ恐レル、本條ノ精神ヲ貫カウトスルニハドウシテモ斯ウ云フヤウニ解消ノ場合ト取消ノ場合ト兩方規定シテ置カント不完全ト思ヒマスカラ旁々以テ之ヲ加ヘマシタ今一ツハ夫ノ、失踪ノ場合ヲ除キマシタ之ハ餘程勘考ノ末除キマシタ如何ニモ夫ノ失踪ノ場合デアリマスレバ舊トノ法典デアリマシテモ失踪ノ宣言ノアリマスルノハ五年デアリマス場合ニ依ツテ七年デアリマス尙ホ離婚、失踪ニ因ツテ離婚ノアツタ場合ト云フ其五年七年マデハ俟タヌデモ宜イヤウニ爲ツテ、イヤ本案ハサウデスガ、矢張リ失踪ノ宣告ニ爲ツテ居リマス八十一條ノ第六号ニ「失踪ノ宣言」ト爲ツテ居リマスカラ五年七年立ツテ居リマス五年七年デアルト最早其間ニ舊トノ夫ノ胤ヲ宿スト云フドウモヽヽヽヽヽヽヽガアリマセヌ、サウ云フ事ハ事實上アリ得ナイ、デアリマスカラ此場合ニハ離婚ガアル直グ再婚シテモ差支ナイト云フ斯フ云フコトニ爲ツタラウト思ヒマス、ケレドモ能ク考ヘテ見ルト云フト若シ夫レヲ言フト外ニモ類似ノ場合ハ幾ラモ出テ來ル先ヅ離婚ノ原因ヲ見ルノニ此處ニアル「第五惡意ノ遺棄」抔ト云フコトガアリマス此遺棄ト云フコトガ卽チ遠クニ往クモウ數年打擲ツテ置イタト云フヤウナ場合ナラバ矢張リ此場合ニモ直グニ婚姻ヲシテモ宜ササウナモノデアリマス夫レカラ又處刑ヲ受ケタ、監獄ニ居ル者ガ留守ニ居ル婦人ト通ズルト云フコトハドウモアリサウモアリマセヌカラ之モ直グカラ再婚ヲ許シテモ宜ササウナモノデアリマス段々サウ云フ風ニ言ツテ往クトドウモ其理由ナラバ失踪丈ケヲ取除クト云フ理由ガドウモナイヤウデアリマス尙ホ又離婚カラ考ヘテ見テ夫レハ失踪ノ宣言ノアルノハ今度ハ十年ト云フコトニ爲リマシタガ私一個ノ考カラ言フト十年デハ離婚ノ原因トシテハ長過ギルト思ヒマスカラ咄嗟ノ考デハアリマスガ三年位デハドウデアラウカト思ヒマス現行法デハ二年ト云フコトガ原則ニ爲ツテ居ツテ事情ニ依ツテハ六ケ月デモ許サレテ居リマス兎ニ角或時ヲ經テ生死不分明ト云フコトニ付テ或ル時ヲ經テカラデナケレバ此場合ハ生ジマセヌケレドモ其生死不分明ト云フコトハ詰リ證據ノ問題デアリマス何カ自分ノ身ヲ匿クシタイト思フ者ガ年ニ一遍カ二遍カ夜中こツそりト自分ノ内ニ歸ルト云フコトガナイトモ言ヘマセヌ外ノ人ノ目ニ見ヘヌト云フヤウナトキハ裁判所デハ、モウ生死不分明ト云フコトニ認メラレルカモ知レマセヌ乍併種ヲ宿シテ居ルト云フ樣ナコトガアルカモ知レマセヌ夫レデ兎ニ角此失踪丈ケヲ除クト云フコトハ理由ガ不充分ト思ヒマスカラシテ旁々以テ失踪ノ場合丈ケヲ除クト云フコトハ罷メマシタ是ヨリ此箇條ハ外ハ旣成法典ノ通リデアリマスガ乍併現行法トハ大分違ヒマスカラ現行法トノ關係ヲ一寸說明致サウト思ヒマス古イ所デハ一體再婚ト云フモノハ幾分カ禁ズル性質デアツタ乍併其再婚ヲ絶對ニ禁ジタ例ハアリマセヌ成程道徳ノ教トシテ貞婦二夫ニ見ヘズトカ申シマシテ再婚ハシナイ方ガ道徳ノ教ニハ適ツテ居リマスケレドモ旣ニ貞婦ト云フコトヲ名ケル位デ普通ノ婦人ハ再婚ヲスルカラ貞婦ト言ツテ崇メル夫レハ道徳上ノ話シデアツテ法律上ハ人民一般ニ命令シテハ居リマセヌ乍去隨分此武家時代抔ニハ再婚ヲスルト云フト種々ノ不利益ヲ受ケルト云フコトガ法律上アリマシタ例ヘバ財產上ノ權利ヲ失フ抔ト云フヤウナコトガアリマシタ夫レラノ事モ近來ニナツテハ最早ナイ今日ノ現行法デハ再婚ト云フモノハ法律ニ依ツテ無論認メラレル尙ホヽヽヽヽヽヽヽ抔ニ於テハ夫ノ喪ニ於テ再婚スル者ハ罰シテアリマシタ此事ハ此箇條ノ精神トハ幾分カ違ツテ矢張マダ喪中デアリナガラ婚姻ヲシタト云フコトデ夫ノ喪ト云フト或ル罪カラ言ツタナラバ一層罪ガ重イカモ知レヌガ父母ノ喪中デ婚姻ヲシテハ惡ルイト云フコトデアリマスガ夫ノ方ハ又違ヒマスガ兎ニ角之ハ喪ト云フ方カラ出テ居ルヤウデアリマス此箇條ノ精神トハ少シク違ウ尤モ歐羅巴ニ於テ此規定ノ起リマシタ原因ヲ原ネテ見ルト或ハ夫ノ喪ニアル中ニ婚姻ヲスルコトヲ禁ジタト同ジヤウナ徳義上ノ關係カラ起ツタ方ガ舊トハ主デアツタカト思ハレマスガ今日デハ其方ハ第二ニ爲ツテ居ツテ寧ロ胤ヲ亂ル餘リ早ク婚姻ヲ致シマスルト云フト先夫ノ子ヤラ後夫ノ子ヤラ分ラヌ、サウスルト先夫ノ遺產又ハ後夫ノ財產歐羅巴デハ財產丈ケノコトヲ重モニ言ヒマスガ日本デアツタラ家ノ血筋マデ亂ルト云フ大變ナ話シデアリマス其方カラ觀察ヲスル方ガ今日デハ段々主ニ爲ツテ餘ツテ居リマス夫レハ日本ノ昔シニハナカツタヤウデアリマス現行法ニ於テハ之ニ付テ三百日ト云フノガ原則ニ爲ツテ居ル三百日ヨリ早ケレバ懷胎ノ徴ナキ證據ヲ出サナケレバナラヌ元トハ二人以上ノ證人ト云フコトニ爲ツテ居リマシタガ近來ハ司法省ノ指令等ニ依ツテ醫師ノ診斷所ト云フコトニ爲ツテ居リマス三百日以外ナラバ宜シイ以内ナラバ醫師ノ診斷ニ依ツテ此者ハ懷胎シテ居ラヌト云フコトナラバ宜シイガ左モナイト出來ヌト云フノガ現行法デアリマス是ハ一寸便法ノヤウニ見ヘマス現ニ元老院ノ委員會抔デハ六ケ月ハ元トノ儘六ケ月ト爲ツテ居リマシタガ第二項ノ處ハ恰度サウ云フ風ニ書キ直オシテアリマシタ「懷胎ノ徴ナキトキハ」乍併是ハ餘程考ヘテ見ナケレバナラヌ事デアリマス今日モ現ニ專門家ノ說ヲ聽キマシタガ六ケ月後デアレバ夫レハ醫者ニ分ル、ケレドモ六ケ月前デハ醫者ト雖モ慥カナコトハ言ヘルモノデナイ夫レデ醫者ガ迂濶ニ六ケ月前ニ之ハ懷胎デハゴザイマスマイト言ツタノヲ夫レヲ直グ信ジテ婚姻ヲシテモ夫レハ餘程危險デアル、サウ云フコトデアツテ見ルト云フト此「懷胎ノ徴ナキ」ト云フコトハ至ツテ不慥カナモノニ爲ルダラウト思ヒマス尤モ今日專門家抔ノ說デハ六ケ月前ハ絶對ニ出來ヌトシテ置テ六ケ月後十ケ月位ハ醫師ノ診斷ニ依ツテ懷胎ノ徴ナキ者ノミニ再婚ヲ許スト云フコトニシタ方ガ宜カラウト云フコトデ成程其方ガ間違ガ少ナカラウト思ヒマスガ之ハ御參考マデニ供シテ置キマス併シ六ケ月前ナラバ往カヌト云フコトデアリマス、サウ云フ理由ガアリマスルニ依ツテ現行法ハ今ノ如クニ爲ツテ居ルニ拘ハラズ本案ハ矢張リ旣成法典ノ通リニシテ置キマシタ尙ホ六ケ月ト云フ月ノ數ニ付テモ現行法ノ三百日ヲ百八十日ニ縮メテアリマス是ニ付テモ矢張リ專門家抔ノ說ヲ承ツテ見マシタ先ヅ純然タル理論カラ申スト後ノ親子ノ處ノ規定ガ如何ヤウニ爲ルカ知リマセヌガ旣成法典ノ儘デアリマスルト云フト懷胎ノ最モ短カイ制限ハ百八十日トシ最モ長イノヲ三百日トシテアリマスカラ卽チ其差ト云フモノハ四ケ月デアリマス一ケ月ヲ三十日トスレバ四ケ月デアル、サウスルト云フト最長期ト最短期ノ間程違ツテ居レバモウ間違ヒハナイ先夫ノ子ナレバ、先ヅ四ケ月差引イタ跡百八十日立テバ先夫ノ子デナイト云フコトガ分ルシ其四ケ月ニ百八十日加ツテ居レバ先夫ノ子デナイト云フコトガ分リマスカラ夫レハ後夫ノ子デアルカ又ハサウデナイ間ノ者ノ子デアルカト云フコトガ分リマス理論上ハ夫レデ分ルト云フ所カラシテ現ニ旣成法典モ第一ノ草案ニハ四ケ月トアリマシタ私共モ始メ理論ニ拘泥シテ夫レデ宜クハアルマイカト思フタ位デアリマス、ケレドモ段々吾々ノ間デ協議シテ見ルト夫レデハ往カヌ理論上ハ宜シイガ婚姻ヲスルトキニ體格檢査ヲシテ婚姻ヲスルモノデナイ就中專門家ヲ傭フテ來テ體格檢査ヲシテ婚姻ヲスルノデナイ、デアリマスカラ調ベテ見レバ懷胎ガ分ツテ居ツテモ知ラヌデ婚姻ヲシテ仕舞ウ、サウスルト成程先夫ノ子後夫ノ子ト云フコトニ付テ、後ノ推定カラスレバ夫レハ大抵先夫ノ子後夫ノ子ト云フコトニ付テハ問題ガ起ラヌカモ知レマセヌガ兎ニ角婚姻ヲスルトキニマダ前ノ種ヲ宿シテ居ルコトヲ知ラヌデ妻ニ迎ヘルト云フコトガアリマス、サウスルト夫レハ後ノ夫ニ取ツテ見ルト、サウ云フコトト知ツタナラバ夫レハ貰ウノデナカツタト云フコトモアルカモ知レヌカラドウモ四ケ月ト云フコトハ餘リ短カカラウト云フコトデ多分此前モソンナ理由デ四ケ月ヲ六ケ月ニ延バシタノデゴザイマセウ又專門家ノ人カラ聽クト其人カラ委員ノ人ニ注意ヲシタト云フコトデ夫レデ之モサウ云フコトニ直ツタト思ヒマス夫レデ私抔ノ考デハ四ケ月カラナラバ專門家ヲ調ベテ見レバ分ルト云フコトデアリマスガ先刻モ申シマシタ如ク專門家ト雖モ六ケ月モ立タナイト慥カナコトハ言ヘヌト云フコトデアリマス六ケ月立テバ專門家デナクテモ大凡ソハ想像ハ付クト云フコトデアリマス十ケ月ト云フノハ如何ニモ大丈夫ヲ踐ヌバ大丈夫デゴザイマセウケレドモ隨分場合ニ依ツテハ再婚ヲ急グヤウナ事モゴザイマセウカラ餘リ期限ヲ長クシテ置キマスルト云フト實際法律ガ行ハレヌデ不法ナ婚姻ガ行ハレルト云フコトニ爲ル恐レガアリマスカラ現ニ現行法デモ先刻申上ゲマシタ通リ三百日ト爲ツテ居リマスガ其期限ヲ待遠ウニ思ツテ毎度訴ヘテ來ル位デアリマスカラ此十ケ月ト云フノハ場合ニ依テハ隨分長過ギルデアラウ尤モ先刻モ申上ゲタ通リ六ケ月ト云フノハ最短期トシテ置テ、サウシテ十ケ月以内ハ醫師ノ診斷ニ依ツテ懷胎ノ徴ナキ者ノミニ限ツテ再婚ヲ許スト云フコトニ爲ツテモ宜イカモ知レマセヌガ夫レハ御參考マデニ申シテ置キマス尙ホ此箇條ニ付テ牽連シテ居ル事ニ付テ一ツ御話ヲシテ置キタイ事柄ハ現行法ニ於テハ普通ノ再婚ト云フモノハ自由ニ爲ツテ居リマス唯ダ是丈ケノ制限ヲ以テ辭シテ居ル自由ニ許シテ居リマスケレドモ有子ノ妻ガ再婚ヲ致スコトニ付テハ制限ガアリマシテ其制限ガ初メハ非常ニ嚴デアリマシタ此有子ノ妻ガ再婚ヲ爲スニ付テハ昔シハ最モ六カシイ制限ガアリマシタガ夫レガ段々近來ハゆるく爲ツテ居リマス司法省當リノ指令ニ依ツテ見ルト餘程ゆるく爲リマシテ詰リ戸主ノ母親デス戸主ノ母親ガ再婚ヲ爲ス場合デモ隨分許シテ居ル例ガアリマス夫レガ他ニ往クノハ無論差支ヘヌト爲ツテ居リマスガ其家ニ入夫ヲ迎ヘルノデサヘモ隨分認メテ居ル位デアリマス家族ガ入夫ヲ迎ヘルコトガ出來ルカ出來ヌカト云フコトハ夫レハ此處ノ問題デアリマセヌ此處ノ聞題ニシテ出來ヌコトハアリマセヌガ夫レハ前ノ「戸主及ヒ家族」ノ處ノ條文カラ極マル事柄デアリマス今日ノ所デハ彼ノ前回ニ議決ニ爲リマシタ蒟蒻摺ノ所ニ據ツテ見テモ入夫ト云フモノハ女戸主ガ迎ヘルコトニ限ラレテ居ルヤウデアリマス何ゼナラバ入夫婚姻ノ場合ニ於テハ、舊トハ、サウデナカツタ入夫婚姻ノ場合ニ於テハ入夫ヲ以テ戸主トスト云フコトニ爲ツテ居リマシタ今度ハ女戸主ト云フコトニ爲リマシタカラ或ハ女戸主デナクテモ入夫婚姻ガ出來ルト云フ解釋ニ爲ラウト思ヒマス兎ニ角あの所ノ箇條ノ解釋ニ爲ルニ依ツテ婚姻ノ所ニ極メル事柄デナイト思ヒマス婚姻ノ處ノ規定ニ依ツテ見ルト子ノ無イ母親ガ他ニ嫁グコトモ又自分ノ内ニ入夫ヲ迎ヘルコトモ出來ルト云フコトハ「戸主及ヒ家族」ノ處ノ規定ニ抵觸セザル限リハ充分ニ出來ルコトト夫レハ覺悟ヲシナケレバナラヌ前ニハ色々慣習ガアツタカモ知レヌ又其上色々ノ理由ガアツタカト思ヒマス、所ガ入夫ヲ迎ヘルト云フ場合ニハ動モスレバ其入夫ガ家ヲ乘取ツテ仕舞ツタリ何カスル弊ガアリマスカラ夫レヲ防ガウト云フコトモアツタラウト思ヒマス乍併是ニ付テ此案デハ親權及ビ後見ノ規定ニ據ツテ、サウ云フ事ニ對スル充分ノ豫防線ヲ張ラレルコトト想像シマスカラ、サウシタナラバ夫レラニ對スル制裁モ多分心配ハ要ラヌト思ヒマスカラ旁々以テ旣成法典デモ多分ナカツタト思ヒマスガ本案デモサウ云フ制限ハ置カナイコトニ致シマシタ
穗積八束君
無論サウ云フ意味デアラウト思ヒマスガ慥メテ置キタイ此六ケ月ト云フノハ絶對的ノ最長期デハナイノデゴザイマセウネ此處ハ若シ懷胎シテ居ツタトキハ夫レハ分娩ノ後デナケレバ無論出來ヌト云フ意味デアラウト思ヒマスガ若シ懷胎シテ居ツタナラバ其子ガ生レタ後デナケレバ再婚ハ出來ヌト云フ斯ウ云フ意味ガ一緒ニアルノデアルカト云フコトヲ伺ヒタイ、サウトハ思ヒマスガ第二項ヲ一寸讀ンデ見ルト六ケ月以内デモ若シ三ケ月目トカ四ケ月目に子供ガ生レテ仕舞ツタナラバ其翌日カラデモ再婚シテ宜シイト云フヤウニ解釋セラレルヤウニ見ヘマスガ、サウ云フ意味デハアリマスマイカ若シ懷胎シテ居ツタナラバ六ケ月、七ケ月、八ケ月後デモ再婚スルコトハ出來ヌト云フ意味デアラウト思ヒマスガ一寸慥メテ置キタイノデアリマス
梅謙次郎君
サウデアリマセヌ此六ケ月ト云フコトハ卽チ六ケ月ヲ過ギレバドンナ者デモ再婚ガ出來マス從ツテ旣ニ懷胎シテ居ル者デモ出來ル何ゼ其場合ニ婚姻ヲ許スカナラバ六ケ月立ツテ居レバ先夫ノ子ガ腹ニ居レバ、モウ表面ニ現ハレル表面ニ表ハレルカラ夫レヲ承知デ貰ツタモノナラバ構ハヌ六ケ月立ツテ居ルナラバ表面ニ現ハレヌト云フコトハ萬々アリマセヌカラ夫レヲ承知ノ上デ貰ウナラバ無論構ヒマセヌ其代リ其子ハ誰ノ子カト言フト先夫ノ子デアリマス唯ダ自分ノ家デ產ヲスル費用ガ要ルカモ知レマセヌガ夫レハ承知ノ上デスル乍併夫レニ付テハ先刻モ申シマシタ通リ尙ホ夫レデモ向フノ内ニ往ツテカラ子ヲ生ムト云フヤウナ事柄ガアツテハ第一面白クナシ夫レカラ又可成胤ヲ持込ムヤウナ女ヲ婚姻ニ因ツテ他ノ家ニ入レルト云フコトハ面白イコトデアリマセヌカラ夫レヲ避ケル爲メニハ先刻或ル專門家ノ言ハレタ如クニ十ケ月ノ間ハ尙ホ醫師ノ診斷ニ依ツテ懷胎ノ徴ナキ者ノミニ限ツテ再婚ヲ許ストシテモ宜イカモ知レマセヌガ私ハ法律ノ制限トシテハ是丈ケデ宜シイト思ヒマス夫レカラ先キハ實際ハ身分ノアル人ナラバ現ニ懷胎ヲシテ居ル者ヲ押付ケルト云フコトハシマスマイシ又下々デハ、サウ云フコトヲ許サヌト却テ困ルト云フヤウナ事モゴザイマセウ夫レヲ許サヌト却テ私通ヲスルヤウナ事ニ爲ルカ知ラント思ツテ一向效ノナイコトニ爲ツテ仕舞ヒマス夫レデ二項ノ方ハ六ケ月ヨリ前ノ事ヲ言フタノデアリマス六ケ月ヨリ前ニ分娩ヲスレバ直グデテ再婚シテモ構ハヌノデアリマス何ゼナラバ此時ハ分娩ヲシテモマダ跡ニ胤ヲ持ツテ居ルト云フコトハアルマイト思ヒマス夫レデアリマスカラ萬事差支ナイト思ヒマス
長谷川喬君
旣成法典ハ極簡單ニ「此制禁ハ其分娩シタル日ヨリ止ム」ト書テアリマスガ之ヲ態々長タラシク書カレタノハ文章カラ見テモ取消ノ前ニ懷胎シタ場合ニ、婚姻中ニ一度懷胎シテ居レバ其女ハ一向ヽヽヽヽヽヽ構ハヌト云フヤウナヽヽヽヽヽヽ離縁シタ一度懷胎シタ後ニシタモノデアルカラシテ六ケ月俟タヌデモ宜シイト云フヤウナ文章ニ見ヘマスガ旣成法典ノ儘デハ徃ケナイノデアリマスカ
梅謙次郎君
旣成法典ノ儘デハ判ジ物デスネ成程意味ハサウデゴザイマセウガ「分娩シタル日ヨリ」ト言フト何時モ懷胎シテ居ルヤウニ見ヘル何時デモ懷胎シテ居ルモノト極メテアル、サウ云フ書キヤウニシテアル例モ外國ニハアリマス
高木豐三君
一寸御說明ヲ伺ヒマスガ成程中々進ンダ說デ現ニ腹ニ在ルノヲ知ツテ貰ツタ夫レハ勿論宜シイデゴザイマセウガ私ノ考ハ、サウ爲レバサウ云フ場合ハ先夫ノ子ニ爲ラヌデ後ノ夫ノ子ニ爲ルト思ヒマスガドウデゴザイマセウカ法律ノ推測ハ六ケ月立テバモウ分ルモノダ夫レダカラ分ツテ居レバ貰ハヌモノダト云フ趣意デアルガ、サウスルト腹ヘ持ツテハ居ルガ產ハ己レノ方デシテモ宜イカラ直グニ己レノ方ニ來イト云フヤウナ招ク者モ少ナカラウト思ヒマスガ一體此六ケ月ト云フ期限ハ法律ノ推測ノ範圍ヲ極メルト云フ趣意デ出來テ居ルノデハナイノデスナ
梅謙次郎君
夫レハサウデアリマセヌ夫レデアリマスカラ六ケ月ト云フコトニ爲ツテ居リマス推測ノ方カラ言フト理窟ハ四ケ月ノ方ガ却テ嵌マルノデアリマス、サウデハナイ孕ンデ居ルト云フコトヲ理由トシテ婚姻ノ取消ヲ請求スルコトヲ許シテアル例ガ外國ニハアリマスガ、サウ云フ事ヲ許スト云フコトハ私ハ少ナクトモ望ミマセヌ特ニ欺イタト云フノデナケレバ、所ガ事柄ハ無論上等社會ニハアリサウモナイガ下等社會ニハアリサウデアリマス時々新聞抔ニモアリマスガ彼ノ彌次、喜太抔ニハアリマス膝栗毛ノ四卷ノ方デアリマスあれヲ見ルトああ云フ事ガアリマス隨分下等社會デ瑕物ヲ貰ツテ夫レヲ妻ニスルト云フヤウナコトガアリマス此場合ニ於テ其生レタ子ヲ自分ノ子トスルト云フコトハ無論アルマイト思ヒマス其規定ハ後ノ親子ノ規定ノ方デ極マリマス旣成法典ノ儘デアルト婚姻ヲシテカラ百八十日以上立ツテカラ生レタ豫ハ夫ノ子トスル斯ウ云フコトデアリマス六ケ月過ギタノナラバ、夫レヲ三百六十日ト云フコトニ爲ルト今日專門家ノ話シヲ聽テモソンナ長イ例ハナイト云フコトデ非常ニ長クテ三百七日ト云フ位デ「ベルキルシ」ノ調ベタ所デモヽヽヽヽヽヽヽ夫レデ三百六十日モ立ツタノナラバ前ノ夫ノ子デナイ後ノ夫ノ子ト爲ルト云フヽヽヽヽヽヽヽヽ之ハ養子ト見ルトカ自分ノ子ト認メルトカ云フコトデナケレバ子ニハ爲ラヌト思ヒマス
議長(箕作麟祥君)
別ニ御異議ガナケレバ原案ニ決シテ七百七十四條ニ移リマス
(書記朗讀)
第七百七十四條 婚姻中姦通ヲ爲シタル妻ハ其婚姻解消ノ姦夫ト婚姻ヲ爲スコトヲ得ス
(參照)人三三、戸令先姦後娶條、九年六月二十三日太政官指二、同七月十七日内務省指二、十四年九月二十八日内務省指、十九年十月六日司法省指、佛二九八、澳六七、六八、一一九、蘭八九、伊六二、葡一〇五八、三號、四號、西八四、七號、八號、白草一四七、獨二草一二一八、加六一、一號、紐草四〇、一號
梅謙次郎君
此箇條ハ實質ニ於テ殆ンド人事編ノ第三十三條ト變リマセヌガ二ツノ點ニ於テ變リマス一ツノ點ハ元トノ文デハ「姦通ノ原因ニ由リテ離婚ノ裁判ヲ言ヒ渡サレタル曲者ハ相姦者ト婚姻ヲ爲スコトヲ得ス」トアリマス此曲者ト云フコトハ男デモ女デモアリ得ル書キヤウデアリマス今離婚ノ規定ノ第八十一條ノ規定ヲ見ルト「第一」トアツテ「姦通」離婚ノ原因「但夫ノ姦通ハ刑ニ處セラレタル場合ニ限ル」斯ウ爲ツテ居リマス此「姦通」ト云フコトハ卽チ其向フノ承諾アル場合デナケレバ往カヌモノデアルガ普通ノ文字カラ云フト或ハサウ云フ解釋ガ正シイカモ知レヌ乍併強姦ハ此中ニ這入ラヌニシテモ十二歳以下ノ幼女ヲ姦シタ場合ハ矢張リ姦通ト言ヘルカドウカ其處ラハ疑ハシイサウ云フ場合ガ這入ラヌトスレバ適用ハ本條ノ如ク書キマシテモ今ノ點ハ同ジコトデアリマス卽チ姦通ニ因ツテ夫ガ刑ニ處セラレルト云フ場合ハ若シ今ノ強姦夫レカラ十二歳未滿ノ少女ヲ姦シタ場合ヲ除クト有夫姦シカ殘ラヌ有夫姦シカ嵌ラヌモノトスレバ有夫姦ノ相手ハ夫ノ方カラ見ヤウトモ女ノ方カラ見ヤウトモ同ジ人間デアリマスカラドチラカラ見テモ相姦者、曲者ト相姦者ハ何時モ同ジデアリマス、ドチラカラ見テモ矢張リ此本條ノ通リニ爲ルデアラウ尤モ此場合ニ於テ其夫ノ妻ノ方カラ觀察ヲシテ見ルト云フト夫レハ妻ノ夫カラ觀察ヲシタノト觀察ハ違ヒマス觀察ハ違ヒマスケレドモ乍併離婚ノ場合デアツテ見ルト實際ハドウシテモ同ジコトニ爲ル若シ又此「姦通」ト云フ中ヘ今ノ有夫姦ノ外ノモノガ這入ルト云フコトニ爲ルト夫レハ離婚ノ方ノ規定ガドウ云フ風ニ爲ルカ知リマセヌガ私一人ノ考ハ、サウスレバ此但書ハ往カヌト思ヒマス私ノ本來ノ考デハ夫ガ他ノ婦人ト通ズルト云フコトト女ガ他ノ男子ト通ズルト云フコトト婚姻ノ方カラ觀察シテモ聊カタリトモ違ヒガアリヤウハナイト思ヒマス夫レデアリマスカラ私ノ本來ノ意見ヲ申スト本條ニ於テモ男女此點丈ケハ同權ニスル又離婚ノ處デモ此點ハ同權ニシテ仕舞ヒタイト云フ考デアリマスケレドモ此考ハ旣ニ吾々三人ノ間ニ持出シテモ殆ンド一笑ニ附セラレルヤウナ有樣デアリマス此條ノ有樣ヲ考ヘテモ動モスレバ封建時代ノ古ル臭イ所ニ立戻ルヤウデアリマスカラ意見トシテハ述ベヌ積リデアリマシタガ說明ノ序デニ申シテ置キマスガ若此點ニ付テ男女同權ト云フコトニ爲レバ夫ガ他ノ婦人ト通ジタト云フコトガドウ云フ者ニ通ジタノデアラウトモ夫レハ同ジコトデナケレバナラヌガ苟モ此姦通ト云フモノハ婦人ノ方丈ケ罪ガアル夫ノアル妻ガ姦スルト云フノガ罪、妻ノアル夫ガ他ノ婦人ト通ズルト云フコトハ決シテ罪ニナラナイト云フヤウナ、罪ト云フモノハ民法上ニ於テモ責ムベキモノデナイト云フコトニ爲ル以上ハドウモ此但書ハ穩カデナイ有夫姦デナイ外ノ場合デアルナラバ夫レハ八十一條ノ第三號又ハ第四號ノ場合ニ含マシメテ此處デハ重禁姦錮一年以上トアリマスルノヲ或ハ姦通罪ノ如キハ幾ラ輕ルイ罪ニ處セラレタノデモ矢張リ離婚ノ原因ニ爲ルト云フノガ宜イカモ知レマセヌガ姦通ト云フ所ニコンナ但書ヲ加ヘタノハ頭マ匿クシテ尻ヲ匿サヌ極メテ面白クナイ書キ方デアルト思ヒマス此八十一條ノ規定モ、サウ云フ意味デハナカラウカ、サウ云フ意味ナラバ私共實質上反對デアリマス、サウ云フ意味デナイ有夫姦ノ場合ナラバ此通リニ書テ置テモ適用ガ同ジコトニ歸着スル而シテ此法典ノ如クニ書テ置クト男女此點ニ付テハ同ジヤウニ見ヘテ、サウシテ事實ハサウデナイト云フノハ却テ面白クナイカラ夫レデ明カニ「姦通ヲ爲シタル妻ハ」ト書テ宜カラウ「妻ハ姦夫ト婚姻ヲ爲スコトヲ得ス」ト書キマシタ、モウ一ツハ舊トノ法文デハ離婚ノ裁判ヲ言ヒ渡サレタル場合ニ限ツテアリマス之ハ外國デモ例ノ多イコトデ又理由ノアルコトデアリマス其理由ハ外デモアリマセヌガ姦通抔ト云フコトハ裏面ニ於テ行ハレル事柄デアリマスカラ先ヅ以テ證據ヲ擧ゲルト云フコトガ六カシイ事柄デアリマス是ニ付テドンナ證據デモ許スコトニ爲ルト動モスレバ迷惑ナ訴訟抔ガ起ルカモ知レマセヌ夫レカラ又私抔ハ餘リ贊成シナイ理由デアリマスケレドモ夫レガ是迄世ノ中ニ通ツテ居ル理由ハ姦通抔ト云フモノハ極メテ忌ムベキコトデアルケレドモ夫レガ裏面ニ行ハレテ居ルノデ害ガ少シモ表面ニ現ハレナイ裁判沙汰ニ爲ルト害ガ生ズルノデアルカラ掩ハレル丈ケハ掩ヒタイト云フコトデ外國ノ法典抔ニ規定ガアリマスガ夫レダカラ證據ニ限ル抔ト云フ說モ出テ來ル民法ニ於テモ夫レガ爲メニ離婚ヲ言渡サレタト云フトキハ、モウ夫レガ表面ニ出テ仕舞ツタノデアルカラ掩フコトハ出來ナイケレドモ此男ハシテ居ツタケレドモ夫カラ離婚ヲ請求セヌデアツタト云フトキハ先ヅ姦通ト云フモノガ表面ニ現ハレズニ居ル夫レヲはたカラ見テ姦通シテ居ツタト云フコトヲ裁判所ニ持出スコトヲ許スノハ却テ宜シクナイ斯ウ云フ事柄ハ臭サイ物ニハ蓋ヲシテ置イタ方ガ宜シイト云フヤウナ考カラ離婚ノ場合ノミニ限ツタ例ガ多イノデス外國ニハ皆サウハ爲ツテ居リマセヌ或ハ姦通ニ因ツテ罰セラレタ場合ノミデアリマス又現行法ニ於テモ處刑ノ場合ガ見テアリマス現行法デハ離婚ノ原因ト云フヤウナコトガドウモ日本デハ今離婚ノ原因ハ定ツテナクテモ宜シイコトニ爲ツテ居リマスカラ其方ハ離婚ノ原因ト見テアリマセヌ唯ダ處刑後ハ姦夫ト姦婦ハ婚姻ヲ爲スコトヲ得ナイト云フ伺、指令ニ爲ツテ居リマス夫レハ十四年ノ内務省ノ指令夫レカラ十九年ノ司法省ノ指令デモ何レモサウ爲ツテ居リマス外國ニモ罰セラレタ場合ト云フ例ハアリマス和蘭抔ハサウデアリマス又双方ト云フコトニ爲ツテ居ル例モアリマス伊太利デアリマシタカ、どツかアリマシタ其外多少ノ制限ノアル例ノ方ガ多イノデ大抵皆多少ノ制限ハアリマス併シ私共ノ考ヘマシタノハドウモ此制限ハ成程或點カラ言フト理由モアルヤウデアリマスガ又大變弊害ノアルコトデアラウ例ヘバ亭主ガ最早死ニ掛ツテ居ル病氣カ何カデ、其間殆ンド公然ニ姦夫ヲ内ニ引摺リ込ンダリ何カスル不徳義ナ婦人ガ新聞抔ニ據ルト可ナリアルヤウニ見ヘマス、サウ云フモノハ知ラヌハ亭主計リデアルカ又ハ亭主ハ知ツテ居ツテモ死ニ掛ツテ居ルト云フヤウナ場合ニハ自分ガ訴ヘルコトモ出來ヌカラ恨ヲ飮ンデ死ヌルカモ知レマセヌガ、サウ云フ者ガ六ケ月後ニハ大キイ顔ヲシテ衆目カラ認メラレテ居ル所ノ姦夫ト婚姻ヲ爲スト云フコトハ折角ノ此箇條ノ精神ニ背クダラウ、サウ云フ場合ニハ夫レニ因テ婚姻サレタ場合ヨリモ徳義上カラ見テモ隨分見樣ニ依ツテハ公ケノ秩序ノ點カラ見テモ一層甚ダシイデアラウ無論姦通抔ト云フコトハ裏面ニ行ハレルコトデアルカラ證據ノ極メテ六カシイ事デアリマス、ケレドモ其證據ノ明ニ分ツタ以上ハ何ゾ必ズシモ離婚ノ訴ヲ俟タヌ又少ナクモ離婚デ狹マイト云フコトハ時ニ依ルト姦通罪ヲ訴ヘ罰シサセテ置キナガラ離婚ヲシナイヤウナ意氣地ノ無イ者ガアリマス、サウ云フ人間ニ法律上ノ罪ヲ犯シ刑法ニ依ツテ罰セラレタ其主眼者ガ後ニ至ツテ婚姻ヲ爲スコトガ出來ルト云フヤウナコトハ如何ニモ酷ドイコトト思ヒマス故ニ之ハ夫レニ因ツテ離婚ヲ申渡サレタ場合ハ勿論又刑法ニ依ツテ罰セラレタ者モ又縱令ヒ罰セラレヌデモ今ノヤウナ事實ガ判然シテ居ルモノデ法律上證據ノ分ツテ居ル場合ニモ矢張リ此箇條ヲ適用シテモ苦シクナイダラウト云フ考デ此點ハ旣成法典ヲ改メマシタ此二ツノ點ニ於テ旣成法典ヲ改メマシタ
横田國臣君
私ハ少シ起草者ニ御聽キ申シタイコトガアリマス起草者ノ終リニ言ハレタ夫ガ病氣中ニ姦通シテ居ツテ夫ガ死ンデ仕舞ウ夫レガ姦通罪デ離婚ニ爲ル夫レハ旣ニ開婚ニ爲ツテ仕舞ウ
梅謙次郎君
離婚ニ爲ツタトハ申シマセヌ離婚ニ爲ラナイ場合ヲ申シマシタ夫自分ハ死ンデ仕舞ヒマスカラ
横田國臣君
其時分ニ姦夫ト婚姻ヲスルコトハ出來ヌト云フコトデアリマスカ
梅謙次郎君
サウデス
横田國臣君
夫レガ出來ヌト云フノガ私ノ往カヌト言フノデアリマス土臺此罰セラレルコトデサヘ本夫ノ告訴ガナケレバ罰セヌコトニ爲ル夫レニ今ノ本夫ガ死ンデ仕舞ツタノニ姦夫ト婚姻ヲスルコトハ出來ヌト云フト此場合ニ之ヲ止メルノハ誰ガ訴ヲスルノデゴザイマセウカ何レ檢事ガ何カスルデゴザイマセウ土臺本夫ガ生キテ居ルトキデサヘモサレヌコトデアル其場合ニハ其子ガヤルデアラウ死ンダ先夫ノ子カ何カガヤルノデアラウガドウモ變ナ話シデ姦夫ト云フ者モ好ンデ夫婦ニ爲リタイ女モサウデアル此場合ニ訴ヲ起ス者ハ居ラナイ、居ラナイ以上ハ夫レガ愈々宜シイナラバ檢事ニサセルヨリ外ニ仕方ナイ、所ガ本夫ノ生キテ居ル時デサヘモ檢事ニサセナイ夫レガ死ンダ後唯ダ姦夫ト爲ツタト云フトキニ檢事ガ立入ルト云フコトハ無論出來ラレナイ夫レデ私ハ斯ウヤリタイノデス其離婚ト云フコトハ姦通ニ因ツテ出來ル、ケレドモガ此姦通ト外ノ者ト婚姻ヲスルコトノ出來ヌト云フ場合ハ罰セラレタ場合ニ限リタイ姦通ヲシタ女ガ、夫レデ私ハ縱令此通リノ規則ガアルニシテモ今ノ梅サンノヤウナコトハ認メマセヌ夫レハ出來ハシマセヌ死ンデ仕舞フタ後ニ訴モ何モナイノニ姦通ヲシマシタト云フテ、ケレドモガ私ハ
梅謙次郎君
刑法ト民法トハ一緒ニハナラナイ
横田國臣君
一緒ニ爲ラナイト言ツテモ尙更徃ケナイ往ケル譯ハナイ若シ往ケルト云フコトナラバ夫レハ誰レガ訴ヲスルカ夫レヲ一ツ聽キタイ
梅謙次郎君
誰レガ訴ヲスルカト云フコトハ此案ノ先キノ方ヲ御覽ニ爲ルト明カニ書テアリマス夫レハ親族及ビ檢事デアリマス只今横田サンハ御質問以外ノ事デアリマスガ立ツタ序デニ申シマスガ一寸言フテ置ケバ分ル横田サンハ刑法デ罰セラレヌトキニハ縱令此規定ガアツタ所ガ夫レハ仕方ナイ詰リ斯ウ云フコトニ爲ルト云フ御話シデアツタ此規定ノ效力ガナイト云フコトデアリマスガ
横田國臣君
サウデナイ
梅謙次郎君
最後ニハサウ言ハレタガ夫レガ私ニハ分ラヌ刑法デ告訴ヲ侯ツテ罰スルト云フコトニ必ズシナケレバナラヌト云フコトニ極ツタカドウカハ問題デアリマス、ケレドモ或ハ其方ガ宜イカモ知レヌ其譯ハ夫婦和合ヲシテ居ルノニはたカラ態々邪魔ヲセヌデモ宜イ、ケレドモ此場合ハ脇カラ邪魔ヲスルノデモ何ンデモナイ最早夫ガナイ場合夫ガ死ンデ居ル場合夫レデ後トカラ姦通ト云フヤウナ事ヲ言ヒ出シタ所ガ其爲メニ一家ノ和合ヲ妨ゲルト云フヤウナコトハ毛頭ナイ夫ハ最早死ンデ居ル却テ其儘ニシテ置テハ怪シカラント云フノデ夫ノ親族ノ方デ不都合ナ妻ヲ非常ニ憎ンデ仲違ヒヲスルト云フヤウナコトガアルカモ知レマセヌガ夫ハ死ンデ居リマスカラ睦ジクシテ居ルノヲ其仲ヲ剖クト云フヤウナコトハナイ夫レデアリマスカラ此場合ハ婚姻ノ取消ヲ許シテ置イテモ差支ナイ況ンヤ、罰スルト云フ事柄デアリマセヌカラ刑法ト主義ガ合ハヌニシテモ少シモ構ハヌト思ヒマス
富井政章君
只今議論ニ爲ツテ居ル點ハ正サシク旣成法典ヲ改メタ點デアリマス此點ニ付テハドチラニシテモ理由ノアルコトデ大ニ實際ノ利害ニ關スルコトデアリマスカラ充分ニ御考ヲ煩ハサナケレバナラヌ私ハ大ニ迷ヒマシタ、ケレドモ詰リドチラニモ有力ナ理由ガアリマスルノデ先ヅ是デ宜カラウト思フテ贊成ハシマシタ私ノ少シ意見ヲ述ベタイ點ハ其點デアリマセヌ本條ノ書キ方ニ付テ諸君ノ御意見ヲ聽キタイ殊ニ刑法ニ詳シイ横田君抔ノ御意見ヲ承リタイ夫レハ實質ニ關スルコトデアリマセヌ書キ方デアリマス此「姦通ヲ爲シタル妻」ト言ハヌデ「者」ト言フテ「姦通ヲ爲シタル者」、「姦夫」ト言ハヌデ「相姦者」トスル、サウシテモ實質ハ少シモ本條ト變ハラヌノデ、サウ云フ風ニハ書ケナイモノデアラウカ若シサウ云フ風ニ書テ意味ガ變ハラナイト云フコトデアリマスレバ私ハ其方ヲ望ムノデアリマス又私ノ意見ハサウ書テ同ジコトニ爲ラウト思フノデアリマス其點ヲ少シ述ベテ諸君ノ御意見ヲ伺ヒタイ先ヅ何ゼ此書キ方ガ少シ私ニ面白クナイヤウニ見ヘルカナラバ此書キ方デハ結果ハ同ジコトニ爲リマスガ何ンダカ男ト云フモノハ惡ルイ事ヲシナイモノノヤウニ見ヘマス、所ガ實際ハサウデナイ唯ダ男ハ有夫ノ婦卽チ他人ノ妻ト姦通ヲ爲シタ場合ニ此適用ガアリマス斯ウ書テアツテモ其姦通ヲ爲シタ妻ノ方カラ見レバ同ジ結果ニ爲リマス乍併矢張リ其場合ニハ本夫モ惡ル者ノヤウニ見ヘルヤウニ書キタイ夫レハ詰リ「姦通」ト云フ字ノ意味次第デ極マルコトデアリマス私ノ是マデ考ヘテ居ツタ所デ「姦通」ト云フ言葉ハ先ヅ強姦及ビ十二歳未滿ノ婦女ヲ姦シタル場合ニハ言ヘナイコトト思ヒマス夫レカラ又男ニ付テ言ヘバ唯ダ他人ノ妻デナイ女ト和姦シタト云フヤウナ場合ニハ姦通トハ言ヒマセヌ刑法竝ニ慣例ニ於テハ姦通トハ言ヒマセヌ西洋ノ思想カラ言ヘバ姦通ニ相違ナイガ、我國ノ刑法竝ニ慣例ニ於テハ姦通トハ言ヒマセヌ男ハ有夫ノ婦ト通ジタ場合丈ケヲ姦通ト言フト心得テ居リマス若シ其見解ガ誤ツテ居リマセヌナラバ此處ハ「姦通ヲ爲シタル者ハ相姦者ト婚姻ヲ爲スコトヲ得ス」ト書テ構ヒマセヌ、サウシテ同ジ結果ニ爲リマス、サウセヌケレバ女丈ケシカ惡ルイ事ハシナイ男ハ惡ルイ事ハセヌモノデアルト云フヤウニ私ニ見エル體裁ガアリマス此離婚ノ處ノ規定デアリマス先刻梅君ノ引カレタ第八十一條ノ第一號「姦通但夫ノ姦通ハ刑ニ處セラレタル場合ニ限ル」之ハ私ノ解シテ居ツタ所デハ兩人ノ場合ヲ言フ妻ノ姦通夫ノ姦通ヲ言フノデアツテ夫ノ姦通ハ有夫ノ婦ト通ジタ場合丈ケヲ姦通ト見テ居ル、サウ云フ場合ノミヲ姦通ト云フ精神デ、サウ見テ居ルト解シテ居ツタ夫レデ但書ノ實用ハドウ云フ場合カナラバ「刑ニ處セラレタル」ト云フ所ニ意味ガアルノデ縱令ヒ夫ト雖モ姦通罪ト云フノハ處刑所ロカ告訴ヲ俟タズシテ通ジタト云フ事實丈ケデ罪ハ成立ツテ居リマス、ケレドモ夫ニ付テハ其事實丈ケデハ離婚ヲ請求スルコトガ出來ヌ刑ニ處セラレルト云フコトガ必要デアルト云フ所デ此但書ヲ加ヘラレタモノデアラウト思ヒマス、サウスルガ宜イカ惡ルイカト云フコトハ夫レハ別問題デ夫レハ離婚ノ實質ニ付テ考ヘナケレバナラヌコトデアリマス、サウ云フ譯デ「姦通」ト云フ言葉ハ男ノ方カラ言ヘバ有夫ノ婦ト通ジタ場合丈ケヲ言フト云フコトニ極ツテ居ラウト思ヒマス西洋思想カラ見レバ違ウケレドモ何モ西洋思想ニ據ル必要ハアリマセヌ夫レデ若シ「姦通ヲ爲シタル者ハ相姦通トス」ト云フヤウナ風ニ言ヘルナラバ大變體裁ガ善ク爲ルダラウト思ヒマス果シテサウ言ヘルカドウカ諸君ノ御意見ヲ伺ヒマス
議長(箕作麟祥君)
今晩ハ是デ置キマセウ
于時午後七時散會