第二回法典調査會民法整理會議事速記録
明治二十七年十二月二十一日午後四時三十三分開會
出席委員
箕作麟祥君
本野一郎君
村田保君
田部芳君
高木豐三君
穗積八束君
井上正一君
穗積陳重君
富井政章君
梅謙次郎君
横田國臣君
菊池武夫君
長谷川喬君
南部甕男君
金子堅太郎君
尾崎三良君
三浦安君
議長(箕作麟祥君)
是レカラ整理會ヲ始メマス
梅謙次郎君
議事ノ始マリマスル前ニ一ツ御協議ヲ願ヒタイ事ガアリマス夫レハ前回ニ於テ旣ニ議決ニ爲リマシタ箇條ノ中デ一箇條少シ整理シテ居ラヌ所ヲ見出シマシタカラ夫レヲ何ウカ御直シヲ願ヒマス夫レハ黒字ノ第二十二條デアリマス此箇條ト殆ンド同ジ書キ方ノ箇條ガ代理ノ處ニモアリマス可成文章ヲ揃ヘタイト思ヒマス第二十二條第一項ニ「若シ」トアル下ニ「無能力者カ」ト云フ字ヲ入レテ戴キタイ代理ノ方ノ第百十五條ノ所ニモ「若シ本人カ」ト云フコトガアリマス夫レト同樣ニ此處モ然ウ直オシタイト思ヒマス
議長(箕作麟祥君)
御異論ガナケレバ然ウ決シタモノト認メマス
穗積陳重君
私ノ所デモ一ト所尙ホ御直シノ御許可ヲ得タイト思ヒマス夫レハ前回ニ於テ第四十八條マデ議決ニ爲リマシタガ第五十二條ノ位置ヲ前回ニ於テ議定ニ爲リマシタ部分ノ方ニ移シタイト云フコトデアリマス此第五十二條ハ「法人ハ名稱ヲ定メ事務所ヲ設クルコトヲ要ス、法人ノ住所ハ其主タル事務所所在ノ地ニ在ルモノトス」ト云フ規定デアリマス之ハ前ノ議事ノ時ニモ此置キ處ガ場所ヲ得テ居ラヌト云フノデ之ハ法人ト云フモノガ定マリマスレバ直チニ其名稱ヲ附ケナケレバナラヌ事務所モ置カナケレバイカヌ又此名稱ヲ附ケ事務所ヲ設ケテ夫レカラシテ後ニ事務所ヲ登記スルトカ名稱ヲ登記スルトカ云フコトニ爲ルノデアリマスカラ此登記ノ前ニ置カナケレバナラヌモノデアルト云フコトデアリマシタ之ハ尙ホ考ヘテ見ルト云フ位ノコトデ其事ニ付テ斷然此處ニ置カナケレバナラヌト云フ議定ハナカツタノデアリマス成程其御議論ニ付テ能ク考ヘテ見ルト旣ニ第四十七條ニ於テモ事務所ノ登記ノコトガアリ第四十八條ニモ事務所ノ登記ノコトガアリマス又第四十九條抔ニ於テモ名稱事務所ト云フモノガ登記スベキ事項中ニアリマス此名稱ヲ附ケルトカ事務所ヲ設ケルトカ云フヤウナコトハ登記ノ前ニ置クベキコトデ法人設立ノコトニ付テ始メニ爲スベキ手續ヲ前ニ置クベキノガ後ニ爲ツテ居リマス然ウスルト此第五十二條ハ第四十六條ノ次ギ卽チ只今申シタ所ノ登記ノ前ニ之ヲ移シマスルノガ至當ト考ヘマスカラ何ウゾ其事ニ付テ御協議ヲ願ヒマス
議長(箕作麟祥君)
御異論ガナケレバ只今ノ穗積君カラ御述ベノ通リニ決セラレタモノト認メテ第四十八條ニ移リマス
(書記朗讀)
第四十八條 登記スヘキ事項左ノ如シ
一 目的
二 名稱
三 事務所
四 設立許可ノ年月日
五 存立時期ヲ定メタルトキハ其時期
六 理事ノ氏名、住所
七 資產ノ總額
八 出資ノ方法ヲ定メタルトキカ其方法
前項ニ掲ケタル事項中ニ變更ヲ生シタルトキハ一週間内ニ其登記ヲ爲スコトヲ要ス登記前ニ在リテハ他人ニ對シテ其變更ノ效ヲ生セス
穗積陳重君
此「資本」ヲ「資產」ト改メルコト及ヒ「七日」ヲ「一週間」ト改メルコトハ旣ニ前回ニ於テ議決ニ爲リマシタ箇條ニアリマスノデ承諾ヲ得マシタカラ之ニ付テハ別ニ辯明致シマセヌ二號ニ「名稱及ヒ事務所」トアリマシタノヲ「二、名稱、三、事務所」ト並ベマシタノハ黒字ノ第四十條ノ文例ニ倣ツタノデアリマス之ハ議事ノ時ニモ其議論ガ出テ整理ノ時ニ讓ルコトニ爲ツテ居ツタノデアリマス前ニハ「名稱、事務所」ト並ベテ此處丈ケ一緒ニ書クト云フ理由ヲ見出シマセヌカラ前ト揃ヘタノデアリマス第八號ヲ改メマシタノハ「資本」ガ「資產」ト改マリマシタカラシテ之ヲ「出資」トシマシタ夫レカラ元トノハ「方法アルトキハ其方法」ト云フ文章デアリマスガ今度直ツテ第五號ニ「存立時期ヲ定メタルトキハ其時期」ト云フコトガアリマスカラ之ト文章ヲ揃ヘル爲メニ「方法ヲ定メタルトキハ其方法」ト改メマシタ
議長(箕作麟祥君)
御異論ガナケレバ其通リニ決シマス次ハ黒字ノ第五十一條ノ二項中ニ「受クル」ガ「爲ス」ト爲ツテ居リマスガ之ハ別ニ御說明ニモ及ビマスマイ
穗積陳重君
本條ニ付テハ尙ホ第二項ノ「設クル」トアルノヲ「設ケタル」ト御直シヲ願ヒマス
議長(箕作麟祥君)
別ニ御異議ガナケレバ本條モ決シタモノト認メテ黒字ノ第五十二條一項
(書記朗讀)
第五十二條 法人ハ設立ノ時及ヒ毎年始ノ三个月内ニ財產目錄ヲ作リ常ニ之ヲ備ヘ置クコトヲ要ス但特ニ事業年度ヲ設クルモノハ設立ノ時及ヒ其年度ノ終ニ於テ之ヲ作ルヘシ
社團法人ハ社員名簿ヲ備ヘ置キ社員ノ變更アル毎ニ之ヲ訂正スルコトヲ要ス
穗積陳重君
此箇條ノ文章ニ付テハ前ニ議論ガアツタノデアリマス箕作サン抔カラ御議論ガアツタコトモ覺ヘテ居リマスガ其要點ハ原文ノ儘デアルト云フト事業年度ヲ設ケルモノハ其事業年度ノ終ニ於テ財產目錄ヲ作リサヘスレバ宜シイ斯ウ讀メルト云フ非難デアリマシタガ成程此但書ノ文章デハ判テ居リマセヌ設立ノ時ニ事業年度アルモノデモナイモノデモ財產目錄ヲ作ル事業年度アルモノハ設立ノ時ト其年度ノ終ニ作ルト云フ意味デアリマス但書ハ「毎年初ノ三个月内ニ」トアル以下ニ掛ル積リデアリマシタ前ノ文章ノ惡ルイ爲メニ何ウシテモ然ウハ讀メヌ夫故ニ朱書ノ如クニ文字ヲ改メマシタ
議長(箕作麟祥君)
一寸起草委員ニ御尋ネシマスガ「之ヲ作ルヘシ」トアル此處丈ケ「ヘシ」ガ一ツ殘ツテ居リマスガ前ニ何々ヲ「要ス」復タ「要ス」ト云フヤウニ爲ルト餘リ「要ス」ガ多クテうるさいト云フノデ此處丈ケ「ヘシ」トセラレタノデアリマスカ
穗積陳重君
然ウデアリマス
議長(箕作麟祥君)
幾ラアツテモ宜イデハアリマセヌカ
穗積陳重君
夫レデハ「作ルコトヲ要ス」ト御改メヲ願ヒマス
議長(箕作麟祥君)
本條ハ別ニ御異論ガナケレバ可決ト認メテ黒字ノ第五十六條ニ移リマス
田部芳君
一寸其前ニ此黒字ノ第五十四條ノ第二項デアリマス「理事數人アル場合ニ於テ定款又ハ寄附行爲ニ反對ノ定ナキトキハ」云々ト云フ斯ウ云フヤウナ所ノ文例ハ外ノ所ヲ見ルト「別段ノ定ナキトキハ」ト云フ風ノ文章ニ爲リサウニ思ヒマスガ夫レトモ然ウシナカツタ理由ガ外ニゴザイマセウカ外ノ所ハ大分然ウ直オツテ居ルヤウデアリマスガ
穗積陳重君
別段ノ理由ハナカツタノデアリマス
田部芳君
之ハ「別段ノ定ナキトキハ」ノ方ガ宜シイヤウニ思ヒマスカラ其案ヲ出シマス
穗積陳重君
贊成
議長(箕作麟祥君)
御異論ガナケレバ「別段」ニ決シマス次ハ第五十五條
第五十五條 理事ノ代理權ニ加ヘタル制限ハ善意ノ相手方ニ對シテ其效ナシ
穗積陳重君
之モ文字ヲ改メタ丈ケノコトデアリマス第一ニ「取引ヲ爲シタル」ト云フ字ハ如何ニモ商業上ノコトノヤウニ見ヘル嫌ヒモアリマス又「第三者」ト云フノモ理事ト法人ノ間カラ見レバ第三者デアリマスガ如何ニモ突然ト出テ居リマスカラ夫故ニ之ハ「善意ノ相手方」トスル方ガ簡單デアリ且ツ明カデアラウト思ツテ斯ウ改メマシタ尙ホ序デニ申上ゲテ置キマスガ黒字ノ第五十七條ニ「總會ノ決議ニ依リ禁止セラレサルトキハ」トアリマスガ此案ヲ書キマシタトキハ可成「テ」ノ字抔ハ省クコトニ致シマシタガ後ニ爲ツテ悉ク入レルヤウニ爲リマシタ夫レデ此處モ「テ」ヲ入レルコトニ致シマシタ
議長(箕作麟祥君)
夫レデハ只今ノ第五十六條第五十七條ニ付テ別ニ御異議ガナケレバ可決ト認メテ黒字ノ第五十八條ノ「恐」ノ字ガ「虞」ノ字ニ直ツテ居リマス又第六十一條ノ「現況」ガ「狀況」ニ改ツテ居リマスガ之ニ付テ別ニ御異議ガナケレバ其通リニ決シテ黒字ノ第六十二條ノ「開クヘシ」ガ「開クコトヲ要ス」ト爲ツテ居ルノモ前ニ決シテ居リマスカラ黒字ノ第六十四條ニ二項ガ這入ツテ居リマスカラ之ニ移リマス
(書記朗讀)
第六十四條 社團法人ノ事務ハ定款ヲ以テ理事又ハ其他ノ役員ニ委任シタルモノヲ除ク外總テ總會ノ決議ニ依リテ之ヲ行フ總會ニ出席セサル社員ハ書面ヲ以テ其決議ニ加ハルコトヲ得
穗積陳重君
之ハ旣ニ前ノ第四十一條ノ整理ノトキニ此箇條ニ斯ノ如キコトヲ入レルト云フコトガ議決ノ一部分ヲ爲シテ居リマシタ夫故ニ別段說明致シマセヌ
議長(箕作麟祥君)
本條ハ今穗積君ノ述ベラレタ通リデアリマスカラ此處ニ至ツテ別ニ削ル譯ニモ往キマセヌト思ヒマスカラ御異論ガナケレバ可決ト認メマスガ
横田國臣君
今ノ所ニ付テ少シ質問シタイノデスガ私モ今一寸之ヲ見タノデアリマスカラ能クモ分リマセヌガ大概評議ノ時ノ模樣デ必ズ前カラ恰度議決セラレテ右カ左カト云フコトニ往キマセウカ夫レガ往キサヘスレバ宜シイ譬ヘバ五百萬圓ノモノヲ三百萬圓ニスルトカ或ハ二百萬圓ニスルトカ云フヤウナコトガ出テドウモ悉ク盡セヌヤウナ書面ガアリハシナイカト思フノデアリマス夫レサヘナケレバ宜シウゴザイマスガ然ウ云フ場合ハナイノデアリマスカ
穗積陳重君
御尤モナ御疑ヒデ矢張リ會議ニ出席シナイ者ハ表決權ヲ持タナイト云フ事ハ會議ノ通則ニ爲ツテ居ルノハ今御陳ベニナツタヤウナ理由ニ相違ナイ其場ノ模樣デ自カラ非ヲ悟ルト云フヤウナ事モアリマスカラ夫故ニ元トハ如斯コトハ定款ニ一任スルヤウニ爲ツテ居リマシタ併シ社團法人ノ如キ公益ニ關スルモノニ付テハ商業抔ノ會社法人ノ議事抔トハ又趣ヲ異ニシテ居リマスカラ何ウモ出席シナケレバ議決ニ加ハルコトガ出來ナイトスル反對ノ方ガ多イ殊ニ少數ノ人ガ全國ニ關シマスルヤウナ公ケノ事業ヲ丸デ左右スルト云フヤウナ風ニ爲リマスカラ成程只今御述ベニ爲ツタヤウナ缺點モアリマスガ併シ其缺點ト又事務所所在地ノ少數ノ人丈ケガ公ケノ事業ノ權利ヲ握ツテ居ツテ他ノ多數者ハ丸デ無權力モ同ジコトデアルト云フヤウナ缺點ト較ベテ見ルト寧ロ此方ガ公益ヲ目的トスル法人ニハ能ク適ウデアラウト云フ所カラ只今御述ベノヤウナ弊ガアルト知リナガラ斯ウ云フコトニ爲ツタノデアリマス
横田國臣君
私モ加ハセル宜イ方法ガアレバ決シテ加ハルコトハ惡ルイトモ思ヒマセヌガ唯ダ實際上行ヒ難ヒト思ヒマス夫レデ總會ヲ開クニ付テ其議題ヲ廻ハスコトガアリマス其議題ニ付テ可トカ否トカ云フコトヲ書イテ呉レトカ云フコトデアルナラバ宜シイ甲說ヲ可トスルトカ否トスルトカ云フヤウナコトハ直チニ書面ヲ以テスルノデアリマスカラ宜シイガ乍併其議題ニ付テ何ウシテモ然ウハ言ヘヌモノガアルト思ヒマス其場合ニ書面ヲ出シタモノガ夫レハ無效トカ有效トカ能々決議ノ書面ヲ出シテ居ルノニ夫レヲ決議ノ數ニ入レヌトカ夫レヲ入レレハ復タ出サセナケレバナラヌトカ云フヤウナ弊ガ起ルデアリマセウ私ハ唯ダ其弊ガ除ケルヤウナ方法サヘアレバ何ニモ不同意ヲ表スル意思ハアリマセヌガ夫レハ斯樣ナ方法デスルカラシテ決シテ其弊ハナイ又アツテモ斯ウ云フ方法デ除クト云フコトガアリサヘスレバ夫レデ宜シイ
金子堅太郎君
私モ恰度今ノ御尋ネヲシタイト思ヒマスガ書面デ決議ニ加ハルコトガ出來ルト云フ文字デアリマスガ實際會社抔デ會議ヲ起シタ時分ニ書面デ議決ニ加ハルト云フコトデ其論題ニ付テ私ノ意見ハ是レ々々デアルト云フヤウナ長イ議論ヲ書テ來ル其書面ヲ投票數ニ算ヘルヤ否ヤト云フト其全文ノ理由トスル所ヲ見ルト或ル部分ニハ贊成スルガ或ル部分ニハ反對ヲスル其結論ガ何レニ入レテ宜シイカト云フ理窟ノ問題ガ起ラウト思ヒマス之ハ定メシ代理デ投票スル御精神デアリハシナイカト私ハ推測シテ居リマスガ起草者ニ今一應御尋ネヲシテ可否ヲ決シタイト思ヒマス
穗積陳重君
全ク代理投票ノ積リデハナイノデアリマス譬ヘバ赤十字社トカ云フヤウナモノガ或ル事業ヲ起スト云フヤウナ時ニ夫レニ付テ可否ヲシロ自分ノ意思ヲ陳スルコトモ出來ル又原案ニ贊成スルトカ或ハシナイトカ云フコトヲ述ベル自カラ議決ニ加ハルト云フコトヲ此處デ規定スル積リデハナイノデアリマス代理投票ヲ許スヤ否ヤト云フコトハ本案デハ決シテ居リマセヌノデ卽チ第四十條ノ定款ニ讓ツテアリマス其第七號ニ決議ノ方法トアリマス
金子堅太郎君
之ハ書面デ自分ノ意見ヲ書テ議場ニ朗讀シテ貰ウコトガ出來ルト云フ御趣意デアリマスカ
穗積陳重君
然ウデス
富井政章君
議題ヲ通知シナケレバナラヌト云フコトハ前條デ分ツテ居リマス其議題ニ付テ自分ノ意見ヲ書面ヲ以テ言フテ寄越ス其黒イ方ニ贊成スルカ白イ方ニ贊成スルカト云フコトヲ其議事ノ時ニ言フテ寄越ス其中間ノ說ヲ書テ來タト云フヤウナノハ唯ダ參考ニ供スル丈ケデ固ヨリ其決議ニ加ヘルコトハ出來ヌト思ヒマス又初メノ議題ニ付テ中間ノ說ガ臨時起ツテ其意見ニ付テ決ヲ採ルト云フヤウナ場合ニモ書面デ言フテ來タノハ其中ニ算ヘナイト云フコトデアラウト思ヒマス又然ウ云フ場合ニ一々書面ニ書イテアル事ヲ調ベテ之ハ先ヅこちらノ方ニ傾ヒテ居ルカラこちらニ入レルヤウト云フヤウナコトニスルト煩ハシクテ消ラヌ先ヅ初メノ議題ニ付テ白イトカ黒イトカ云フコトヲ言フテ來タト云フ場合モ此二項ガ適用セラルルト思ヒマス
高木豐三君
私モ矢張リ横田君ト同樣ナ意見デアリマスガ尙ホ考ヘテ見マスレバ夫レニ相違ナイト思ツテ居リマスガ私ノ考ヘガ宜シイカ何ウカヲ一應起草者ニ御尋ネシマス横田君ノ言ハルル所モ詰リ可否ノ意見ヲ表示スルト云フヤウナ意味ヲ含ンデ決議ニ加ハルト云フコトナラバ分ルガ譬ヘバ理事ガ議案トシテ出シタ事柄其物ニ付テハ可トモ否トモ意見ヲ表セズニ元來如斯事ヲ今日ニ於テ總會デ以テヤルコトハ不當デアル斯ウ云フ事ハ總會ニ附スベキモノデナイ理事ノ意見ヲ以テ總會ニ附スベキコトデナイト云フヤウナ事ヲ言フテ根本的ニ打壞ハス其結果ハ何ウスルカト云フト各事項ニ付テ非難スルト云フ意見ニ歸着スルモノト見ラルルト思ヒマス然ウ云フ迷ヒガ起リハシナイカト云フ疑ヒデハナイカト思ヒマス私モ其疑ヒヲ起シマシタガ然ウ云フモノハ議案ノ事項ニ付テ是ガ宜シイトモ惡ルイトモ言ツタノデナイ卽チ問題外ノ事ニ付テ言フノデアリマスカラ然ウ云フモノハ無論這入ラヌモノデアルデアラウト思ツテ自分モ然ウ考ヘテ居リマスガ何ウ云フモノデゴザイマセウ
穗積陳重君
御見解ノ通リト思ヒマス夫レハ「決議ニ加ハルコトヲ得」ト云フ方ガ明カデアラウト思ヒマス何ニカ特ニ其總會ガ不法ナ事ヲシタトカ或ハ別ニ意見デモアツテ其意見ヲ出サナケレバ往カヌト云フヤウナコトニ付テハ此處ニハ規定ガナイノデ別ニ臨時總會招集ノ事ヲ請求シテ之ヲ議スルト云フヤウナ風ノ手續ニヤラヌケレバナラヌト思ヒマス此處ハ決議ニ加ハルコトヲ得ルト云フノデ其總會ハ其目的ヲ示シテアル夫レニ付テ自分ガ意見ヲ述ベ可否ヲ表スルコトガ出來ルト云フ丈ケノ積リデアリマス
横田國臣君
唯ダ之ニ付テ疑ヒガ生ジヤウト思フノハ問題ニ依テハ何ウシテモ可トカ否トカ言ハレヌモノガアラウト思フ然ウ云フ時分ニハ色々ナ事ヲ言ツテ來テ夫レガ役ニ立ツトカ立タヌトカ云フヤウナ混雜ヲサセルノガ如何カト思フノデアリマス唯ダこちらニ往ケヌトカ往ケルトカ云フ事丈ケ極メテ言ツテ來テ呉レト云フコトナラバ宜シイガ夫レヨリ外ニ唯ダ書面デ何ウシヤウトカ斯ウシヤウトカ云フヤウナコトハ大變デアラウト思ヒマス唯ダ夫レヲ一ツノ案トシテ提出スルト云フコトデアレバ夫レニ付テハ說明モシナケレバナラヌ說明モセヌデ何ウトカ斯ウトカ云フヤウナ變手古ナモノガアルト思ヒマス
梅謙次郎君
本條二項ノ書キ方ニ付テ大變御議論ガ出マシタガ今ノ横田君ノ御心配ノヤウナコトハ實際起ルマイト思ヒマス之ハ固ヨリ「其決議ニ加ハルコトヲ得」ト云フノデアリマスカラ是非加ヘナケレバナラヌト云フノデナイ夫レデハ若シ其目的ノ書キ方ニ依テ唯ダ可否ノ事ヲ言ハレヌケレバ自分デ出席シテ意見ヲ述ベルトカ左モナケレバ可トモ否トモ言ハナイノデアリマス其可否ノコトヲ言ハナケレバ先刻御議論ノアツタ通リ可否ニ加ハルノデナイ固ヨリ此事ニ付テ可成問題ヲ明ニシテ可トカ否トカ云フコトノミ易イヤウニスルノデアリマス夫レニ對シテ可トカ否トカ述ベル又ハ純然タル可デモ否デモナイ中間ノモノデアレバ自分デ出席スルカ又ハ代理ヲ出席サセルカ夫レハ「コトヲ得ル」ト云アノデアルカラ然ウ云フ場合ハ默ツテ居ツテモ宜シイ
横田國臣君
此處デ都合好クサレルナラバ宜シイ、ケレドモ實際得ルデアルカラヤツテ見ルト云フヤウナコトモアルト思フ夫レデ問題ガ必ズ可トカ否トカ言フテ寄越セバ宜シイガ問題ニ依テハドウシテモ出サレヌモノガアルト思フ夫レデドウシテモ私ハマダ其處ガ此規則デハ何ウモ足リ兼ネルト思フ唯ダ此處ニ可否ト云フモノノ問題ヲ出シテ夫レニ付テハ加ハルコトガ出來ルト云フコトナラバ出ス、ケレドモ夫レハ其他ノ可否ヨリ外ノコトニハ加ハラヌケレバ宜イデハナイカト云フコトデアルガ夫レハ然ウ云フ風ニシテ呉レレバ宜シイガ併シ加ツテ居ルトキハ何ウカト思フ是レデハ何ウモ不充分デハナイカト思フ
穗積陳重君
横田君ノ御說ニスルト之ヲ「書面ヲ以テ表決ヲ爲スコトヲ得」ト云フコトデアレバ宜シイデセウ黒トカ白トカ
金子堅太郎君
此事ハ會議法ニ關係ガアルト思ヒマス何ウモ決議ニ加ハルト云フノデハ意味ヲ爲サヌト思ヒマス之ハ議院法ヤ衆議院規則トカ虫貝族院規則抔ヲ議シタトキニモ其論ガアリマシタ、アレニハ「可否ノ決」トアリマス夫レデ「書面ヲ以テ可否ノ決ニ加ハルコトヲ得」ト云フコトナラバ分リマスガ「決議ニ加ハルコトヲ得」デアルト議シテ夫レカラ決スルノガ決議デアリマス反對、贊成又ハ修正ト云フヤウニ色々ナ說ガ出テ結局可トカ否トカ云フコトニ極マルノデアリマスカラ詰マリ此精神ハ同意ヲ表スルコトヲ得ルト云フノデアリマスカラ可トカ否トカニ止マルノデ所謂討論ニ關係スルノデハナイト思ヒマス併シ決議ハ幾分カ討論ニ關係スルト思ヒマス夫レデ之ハ「可否ノ決ニ加ハルコトヲ得」ト云フコトナラバ明ニ立法者ノ精神ガ分カラウト思ヒマスガ何ウモ「決議」デハ漠然トシハシナイカト思ヒマス
穗積陳重君
之ハ私一個ノ考ヘデアリマスガ只今ノ白トカ黒トカ云フコトガ出來ルト云フコトニ付テ夫レニ理由ヲ附ケ加ヘテ何ニモ無效デモ何ンデモナイノデアリマスカラ其方ガ宜シイ之デハ大變疑ヒガアルカラ「表決ヲ爲スコトヲ得」トカ或ハ「可否ノ決ニ加ハルコトヲ得」トカ云フコトモアリマシタガ「可否ノ決ニ加ハルコトヲ得」ト云フコトニ爲リマシテモ私一人ハ夫レニ反對デモナイノデアリマス
金子堅太郎君
一寸其證據ヲ申シマスガ議院法ノ第三十八條ノ中ニ「議長ハ直ニ傍聽人ヲ退去セシメ討論ヲ用ヰスシテ可否ノ決ヲ取ルヘシ」トアリマス夫レカラ今ノ方デモ否決トカ可決トカ云フヤウニ書テアリマスカラ其文例ニモ合フト思ヒマスカラ一應御考ヘヲ願ヒマス
穗積陳重君
「表決」デハ往ケマセヌカ
金子堅太郎君
表決デモ宜シイ
村田保君
之ハ若シ社員ガ書面デ以テ言ヒ出ルコトガ出來ルト云フヤウナコトニシテ置クト此社團法人抔ノ會議ニハ皆出ルコトヲ嫌ヤガルノデアルカラ皆書面デ以テ言ツテ來ルヤウニナルト思ヒマス然ウスルト總會ト云フモノハ何ウデゴザイマセウカ大概書面デ出シテ來タトキニ社員ガ幾人出ナケレバ總會ガ開ケヌト云フコトデアレバ宜シイガ
穗積陳重君
夫レハ第四十條デ然ウ云フコトハ悉ク定款ニ讓ツテアルノデアリマス此處デハ法人ニ關スル細カイ事マデハ餘リ規定ヲシナイノデアリマス而シテ此總會ノ招集及ビ決議ノ方法ト云フモノハ必ズ之ハ定款デ定メナケレバナラヌト云フコト丈ケハ決シテ居リマス苟モ規則ガ定マリマスレバ二人デモ三人デモ會議ガ開ケルト云フコトハナイト思ヒマス定數ト云フモノガ必ズ極アルト思ヒマス夫故ニ皆書面ヲ以テ意見ヲ述ベルト云フコトハアリモ致スマイト思ヒマス又隨分筆無性ナ人デアツテ文章ヲ書クヨリハ態々出テ往ク方ガ宜イト云フヤウナ者モアリ得ルノデアリマス又事柄ニ依テハ皆書面デ出シテモ宜シイト云フコトモアリ得ルイデアリマスカラ斯ウ云フコトハ定款ニ讓ツテアルノデアリマス
村田保君
何ウモ之ハ定款ニ讓ツテアルトシテモ定款ニハ必ズ幾人出ナケレバ總會ヲ開クコトガ出來ヌト云フコトヲ規定シナケレバナラヌト云フコトモナイト思ヒマスカラ或ハ然ウ云フ事ヲ定款デ極メヌト云フヤウナモノモアラウト思ヒマス私ノ考ヘデハ斯ウ云フ事ハ寧ロナイ方ガ宜カラウト思ヒマス併シ其說ハ或ハ通ラヌカモ知レマセヌガ私ハ寧ロナイ方ガ宜シイト思ヒマス斯ウ云フ事ガアルト將來ハ皆出テ來ナイデ書面デ皆出スト云フヤウナコトニナツテ來ルト思ヒマス然ウスルト云フト總會ヲ開クト云フ精神ガナイヤウニ爲ルト思ヒマスカラ之ハ削除スル方ガ宜シイト思ヒマス
横田國臣君
之ハ此處ニ置クト云フコトニ極マツタノハ何ウデアリマセウカ
穗積陳重君
黒字ノ第四十一條ノ但書ヲ削ツテ少シク範圍ハ廣マリマシタガこちらニ持ツテ來マスルト云フコトニ爲ツタト思ヒマス
梅謙次郎君
其方ニ決シマシタ是レモ議決ノ一部分ニアツタト思ヒマス
議長(箕作麟祥君)
金子君ノ御說ニ贊成ガアツタノデアリマスカ
穗積陳重君
こちらカラ出シテ宜ケレバ出シマス「書面ヲ以テ表決ヲ爲スコトヲ得」ト云フコトニ改メルコトヲ願ヒマス
尾崎三良君
私ハ此原案通リガ宜シイト思ヒマス
高木豐三君
私ハ次ノ箇條デ伺ヒタイト思ヒマシタガ此「表決」ト云フ字ヲ甚ダ解シ兼ネルノデアリマス之ハ法律ノ用語ニ爲ツテ居ルヤウデアリマスガ意思ヲ表シテ決議ニ加ハルト云フコトデアリマスカ何ウ云フ意味デアリマスカ
穗積陳重君
夫レハ金子君ニ御說明ヲ願ヒタイノデスガ問題ニ付テ其問題ヲ可否スル自分ノ意思ヲ言ヒ顯ハス會議法ニ依テ言ヒ顯ハスト云フコトデアラウト思ヒマス序デニ申シテ置キマスガ次ノ箇條ニアル「議決」ヲ「表決」ニ改メマシタノモ矢張リ其理由デ改メマシタノデ此議決權ハ會議ガ持ツテ居ル總會ガ持ツテ居ル各社員ハ表決權シカ持ツテ居ラヌノデアリマス
議長(箕作麟祥君)
只今起草委員カラ出タ「表決ヲ爲スコトヲ得」ト云フコトニ
本野一郎君
夫レガ原案デアリマセウ
議長(箕作麟祥君)
原案トシテ宜シイイデスカ
穗積陳重君
然ウ願ヒマス
横田國臣君
「表決」デ宜イデセウカ
穗積陳重君
如何ヤウニモ御直オシヲ願ヒマス
横田國臣君
「可否ノ決議」ト云フヤウナコトニシテハ何ウデゴザイマセウカ
議長(箕作麟祥君)
何ウゾ諸君ニ願ヒマスガ今ノハ原案ニシテ呉レロト云フ起草委員カラノ請求デアリマスカラ元トノ赤字ノ通リニ直オサウト云フヤウナ御意見デモアレバ特別ニ修正案トシテ出シテ下サラヌト徃ケナイト思ヒマス
横田國臣君
一寸伺ヒマスガ第四十一條一項ノ但書ヲ削ツテ本條ニ置クト云フコトハ決議デ極マリマシタ
穗積陳重君
極マリマシタ
横田國臣君
四十一條ノ方トハ意味ガ變ツテ居リマスネ
穗積陳重君
こちらノ方ガ少シ範圍ガ廣ク爲ルノデアリマス
横田國臣君
以前ノ通リナラバ疑ヒガナイ同意スルトカセヌトカ云フ風ニナレバ宜シイガ今度ノハ少シ模樣ガ變ツテ來タノデ先ヅ分ルヤウニ表決ト云フモノモ可否ノ議決ト云フコトモ同ジト云フコトデアレバ分ルヤウニ願ヒタイ變ヘルコトハナイ
富井政章君
可否ト云フコトモ今宜シイカ惡ルイカト云フコトナラバ可否デアリマスガ然ウ云フ風ニ取ラヌ可トカ否トカ云フコトニ當ラヌ場合ガアラウト思ヒマス甲ノ說ヲ採ルカ乙ノ說ヲ取ルカト云フ場合ニ可トモ否トモ往カヌト云フヤウナ事モアラウト思ヒマス
横田國臣君
はツきり適用ガナイト云フヤウナコトモアラウト思ヒマス
富井政章君
ヽヽヽヽヽヽヽ
横田國臣君
可否ノ譯ニ爲ル
梅謙次郎君
夫レハ可否ト言ヘマセウガ役員選擧ハ何ウデゴザイマセヴカ役員選擧ハ表決トハ言ヘル總會ヲ以テ理事ヲ選擧スルト云フヤウナ場合ニこちらカラシテ誰某ハ何ウデスカト云フコトハ問フテハ往カヌ唯選擧會ヲ開ク出席スル出席ノ出來ヌ者ハ書面デ寄越スト云フコトモアラウ
富井政章君
私共ガ今申シタ場合デモ之ハ營利會社デハナイガ資本ヲ一萬園增スト云フコトニ決シタトキニ今度ハ之ヲ一度デ募ルカ二度デ募ルカト云フ場合ニ可トモ否トモ言ヘヌ場合ガアル
横田國臣君
其實ハ可否ニ爲ル夫レデハ「表決」ノ方ニ贊成シヤウ
議長(箕作麟祥君)
夫レデハ「表決ヲ爲スコトヲ得」ト云フノガ原案ニ爲リマスカラ之デ御異論ガナケレバ然ウ決シタモノト認メマス次ノ六十六條デ「議決權」ガ「表決權」ニ爲ツテ居ルノハ已ニ御說明モアリ前ノ條モ「表決」ト爲ツテ居リマスカラ別ニ御異論ガナケレバ決シタモノト認メテ黒字ノ第六十六條ニ移リマス
(書記朗讀)
第六十六條 社團法人ト社員トノ間ニ於ケル法律行爲ニ關スル議事ニ付テハ其社員ハ表決權ヲ有セス
穗積陳重君
此六十六條ハ唯「議決權」ヲ「表決權」ニ直オシタ丈ケデ出シマシタガ尙ホ其後能ク考ヘテ見ルト本條ハ書キ方ガ甚ダ不完全デアツタト云フコトヲ認メマシタ一方ニ於テハ此箇條ガ餘リ廣ロ過ギルシ又一方ニ於テハ餘リ狹マ過ギル何處ガ廣ロ過ギルカト云フト原案ノ如クデアツテハ社團法人ト社員トノ間ニ於ケル法律行爲ニ關スル議事ニ付テハ其社員ハ總テ表決權ヲ持タナイ是レデハ甚ダ妙ナモノデアツテ譬ヘバ其社團ニ對シテハ社員タル者ハ皆債務ヲ負フテ居ル譬ヘバ拂込ノ義務ヲ負フテ居ル其義務ノ事ニ付テ色色議定スルト云フヤウナ事モアリマス其他社員一個トシテ社團法人ト色色法律上ノ關係ガ出來テ參リマス何ウモ如斯社團法人ト社員トノ間ニ於ケル法律行爲ニ付テハ表決權ガナイト云フヤウニスレバ然ウ云フモノハ悉ク這入ルヤウニ見エル嫌ヒガアリマス之ハ文字ガ少シ足ラナカツタノデアリマス夫レデ是レハ「社團法人ト或社員トノ」ト云フコトニスレバ宜シイ特別ナ社員ト然ウシテ法人トノ關係ノアルトキ夫レデ之ハ「或社員」ト云フコトニ狹マクシタイノデアリマス
高木豐三君
夫レハ始メカラ意味ハ同ジデアリマシタカ
穗積陳重君
意味ハ同ジデアリマス詰リ其意味ヲ言ヒ顯ハシテ居ラナカツタノデアリマス夫レカラ是レデ狹マ過ギルト云フノハ「法律行爲ニ關スル」ト云フコトデ上ノ「社員」ト云フコトヲ受ケルト云フコトデ私ノ解スルヤウニ廣ク辭スル者モアリマスガ其方ハ如何ニモ法律行爲丈ケノ議事ニ爲リマスガ實ハ其積リデハナイノデアリマシテ或ル特別ナ社員ノ利害ニ關シマスル事ニ付テ其人ガ表決權ヲ持チマスルト其議決ガ當ヲ得ナイト云フ恐レガアリマス夫故ニ「法律行爲」丈ケデハ往カヌ或ル社員ガ其法人ニ土地ヲ讓渡シタ或ハ其法人ノ家ヲ買ウ或ハ土地ヲ讓受ケタ夫レガ宜イカ惡ルイカト云フヤウナ議事計リデハナイ或社員ガ法人ニ對シテ損害ヲ加ヘタ夫レニ付テ其社員一個人ニ對シテ訴訟ヲ起スカ起スマイカ或ハ其人ヲ退社サセヨウカサスマイカ兎ニ角其人ニ特別ナル利害ニ關シテ其人ガ加ツテ居ツテハ議決ガ當ヲ得ナイト云フ風ノ或ル場合ヲ禁ズルノガ本條ノ精神デアルト思ヒマス夫故ニ之ハ「或社員トノ關係ニ付キ議決ヲ爲ス場合ニ於テハ其社員ハ表決權ヲ有セス」トシタ方ガ元トノ本統ノ意味ヲ言ヒ顯ハスコトニナラウト思ヒマス
議長(箕作麟祥君)
只今ノ修正ニ御異論ガナケレバ可決ト認メマスガ宜シウゴザイマスカ
長谷川喬君
實質ガ違ヒハシマセヌカ
穗積陳重君
實質ハ始メノ精神トハ違ハヌ積リデアリマス始メノ書キ方ガ甚ダ惡ルカツタノデアリマス
長谷川喬君
夫レデハ「關係」ト云フ字ニ「法律行爲」モ含ンデ居ルト思ヒマスガ別ノコトデアリマスカ
穗積陳重君
勿論含ンデ居リマス
議長(箕作麟祥君)
夫レデハ別ニ御異論ガナケレバ只今ノ通リニ決シマス次ノ黒字ノ第六十八條ニハ「實質」ガ「狀況」ト爲ツテ居リマス之ハ前例ノ通リト思ヒマス
穗積陳重君
黒字ノ第六十九條ノ一號ノ「定款又ハ寄附行爲ニ於テ」トアルノヲ「定款又ハ寄附行爲ヲ以テ」ト改メタウゴザイマス夫レハ黒字ノ第七十三條ノ第一項ニモ「定款又ハ寄附行爲ヲ以テ」トアリマス夫レカラ同ジク其第二項ニ「定款又ハ寄附行爲ニ於テ」トアリマス如斯區チ々々ニナツテ居ツテハ不都合デ「以テ」ガ一番宜シイト思ヒマスカラ此處モ「寄附行爲ヲ以テ」ト改メ第七十三條第二項モ亦「寄附行爲ヲ以テ」ト文章ヲ拵ヘタイト思ヒマス
議長(箕作麟祥君)
只今ノニ付テ別ニ御異論ガナケレバ然ウ決シマス次ハ黒字ノ第七十二條ノ「爲ス」ガ「爲シタル」ト爲ツテ居ルノモ別ニ御異論ガナケレバ然ウ決シマス
穗積陳重君
黒字ノ第七十三條ノ三項ニ一ツ御改メヲ願ヒマス「前二項ニ依リ」トアリマスガ之ハ「前二項ノ規定ニ依リテ」ト他ノ例ニ依テ御改メヲ願ヒマス
田部芳君
私ハ黒字ノ第七十四條ニ「淸算ノ目的内ニ於テハ」トアリマスガ此言葉ハ矢張リ少シ長クナルカハ知レマセヌガ「解散シタル法人ハ淸算ノ目的ノ範圍内ニ於テハ」トシタ方ガ宜カラウト思ヒマス其方ガ却テ外ノ方ノ書キ方ト合ヒハシナイカト思ヒマス
議長(箕作麟祥君)
夫レデハ決ヲ採リマス此黒字ノ第七十四條ノ「目的」トアル下ニ「範圍」ト云フコトヲ入レルコトニ贊成ノ方ノ起立ヲ請ヒマス
起立者多數
議長(箕作麟祥君)
多數デアリマス次ハ黒字ノ第七十五條ノ「解散スル」ガ「解散シタル」ト云フコトニナツテ居ルノハ
穗積陳重君
此處ハ「法人カ解散シタル」ト云フコトニ外ノ文例ニ倣ヒマシテ御改メヲ願ヒマス
議長(箕作麟祥君)
夫レデハ次ハ黒字ノ第七十七條ノ「七日」ガ「一遍間」ニ「登記ヲ受ケ」ガ「登記ヲ爲シ」ト爲ツテ居ル之モ前カラノ丈例ガアリマスカラ別ニ御異論ガナケレバ然ウ決シテ次ハ黒字ノ第七十八條二號
(書記朗讀)
第七十八條 淸算人ノ職務左ノ如シ
一 現務ノ結了
二 債權ノ取立及ヒ債務ノ辨濟
三 殘餘財產ノ引渡
淸算人ハ前項ノ職務ヲ行フ爲メニ必要ナル一切ノ行爲ヲ爲スコトヲ得
穗積陳重君
此第二號ハ主査會ノ時ノ原案デゴザイマシタラ一番始メノ原案デハ「債權ノ取立及ヒ債務ノ辨濟」トアリマシタガ其時分ニ「取立」ト云フ字ガ穩カデナイト云フコトヨリシテ「ノ取立」ト云フ字ヲ削ラレマシタ夫レカラ「債務ノ辨濟」ト云フヨリモ「處理」ト云フ方ガ穩カデアルト云フコトカラシテ此黒字ノ如クニサレマシタ然ルニ後ニ爲ツテ此處デハ「取立」ト云フ字ガ徃ケナイト云フコトデ削ラレマシタガ「債權ノ取立」ト云フコトハ矢張リ採用サレマシタ然ウスルト此處モ揃ヘテ「債權ノ取立及ヒ債務ノ辨濟」上言ツタ方ガ法律語デ宜シイト思ヒマス「處理」ト云フタトキハ固ヨリ兩方ニ掛ツテ居ルガ普通ノ言葉デアリマスカラ旣ニ「取立」ト云フコトガ構ハヌト云フコトデアレバ法律語ヲ使ヒタイト云フ所カラ復タ如斯改メタノデアリマス
議長(箕作麟祥君)
只今ノ七十八條二號ノ所ハ御異論ガナケレバ之デ可決サレタモノト認メマス次ハ黒字ノ第七十九條二項ガ改ツテ居リマスガ之ハ唯ダ「ヘシ」ガ「要ス」ニ爲ツタ位ノコトデアリマスカラ別ニ說明ハ要リマスマイ
(左ノ第七十九條「黒字」ハ朗讀ヲ經サルモ參考ノ爲メ茲ニ之ヲ掲載ス)
第七十九條 淸算人ハ其就職ノ日ヨリ六十日内ニ少クトモ三回ノ公告ヲ以テ債權者ニ對シ一定ノ期間内ニ其請求ノ申出ヲ爲スヘキ旨ヲ催告スルコトヲ要ス但其期間ハ六十日ヲ下ルコトヲ得ス
前項ノ公告ニハ債權者期間内ニ申出ヲ爲ササルトキハ其債樺ハ淸算ヨリ除斥セラルル旨ヲ附記スルコトヲ要ス然レトモ淸算人ハ知レタル債權者ヲ除斥スルコトヲ得ス
淸算人ハ知レタル債權者ニハ各別ニ其申出ヲ催告スルコトヲ要ス
田部芳君
一寸御相談致シマスガ此七十九條第一項ニ「一定ノ期間内ニ其請求ノ申出ヲ爲スヘキ旨ヲ催告スルコトヲ要ス」トアリマスガ之ニ付テハ此前ニモ慥カ議論ガアツタト思ヒマスガ能ク考ヘテ見ルト第二項ニ於テモ「前項ノ公告ニハ」云々「其債權ハ」トアリマスカラ第一項ノ方モ矢張リ「請求」ト云フヨリハ「債權」ト言フ方ガ宜シイ「請求」ト云フ方ニ較ベレバ矢張リ債權ノ申出」ト言フ方ガ宜カラウト思ヒマス然ウスルト第一項ト第二項ト釣合ツテ宜シイト思ヒマスガ如何デゴザイマセウカ
穗積陳重君
之ハ前ニハ然ウ云フ風ノ文例ガアリマシタガ何ウモ「債權ノ申出」ト云フノハ如何ニモ翻譯ノヤウデアツテ「請求ノ申出」ト言フ方ガ誰レモ能ク分ラウト思ヒマシタ序デニ第二項ノ始メヲ「前項ノ公告ニハ債權者カ期間内ニ申出ヲ爲ササルトキハ」ト致シタイ之ハ前ノ文例ニ依ルノデアリマス又其下ニアル「其債權ハ淸算ヨリ除斥セラルル旨ヲ附記スルコトヲ要ス」ト云フノハ之ハ慥カ旣成法典ノ文例ニ依リマシタガ斯ウ云フ場合ハ「淸算ヨリ除斥セラルヘキ旨ヲ附記スルコトヲ要ス」ト云フコトニシタ方ガ宜シイト思ヒマスカラ然ウ御直オシヲ願ヒマス
議長(箕作麟祥君)
夫レデハ只今ノ修正ノ通リニ御異論ガナケレバ然ウ決シテ次ハ黒字ノ第八十二條
穗積陳重君
此「完濟シ能ハサルコト」トアルノハ此處計リデ大抵外ノ處ハ「完濟スル」トアリマス夫レデ此處モ「完濟スル能ハサルコト」ト改メマシタ又「公告スルコトヲ要ス」トシタノハ前ノ文例デアリマス
穗積八束君
一寸伺ヒマスガ殊更ニ「完濟」トシタノハ何ウ云フ譯デゴザイマスカ辨濟デハ往ケマセヌカ
穗積陳重君
「辨濟」ト云フノハ其義務ニ從フテ辨濟ヲスルノデ「完濟」ノ方ハ其辨濟ヲ完ク爲シ途ゲルト云フノデアリマス夫レデ殊更ニ「完濟」ト致シマシタ此處デハ唯ダ辨濟スルト云フノデハナイ辨濟ヲシ途ゲルト云フ方ガ必要ナノデゴザイマス
議長(箕作麟祥君)
只今ノ「完濟シ」ヲ「完濟スル」ニ改メルコトニ付テ別ニ御異議ガナケレバ可決ト認メマス次ハ黒字ノ八十四條之ハ「實況」ガ「狀況」ト爲ツテ居ルノハ前ノ文例デアリマセウ
穗積陳重君
其次ノ黒字ノ第八十五條ノ始メノ「淸算」トアルノハ「淸算カ」ト云フコトニ御改メヲ願ヒマス
議長(箕作麟祥君)
別ニ御異論ガナケレバ「淸算カ」ニ改マリマス黒字ノ第八十六條ハ一號ノ「受クル」ガ「爲ス」ニ爲ツテ居ル之モ前ノ文例次ハ黒字ノ第八十八條ニ移リマス
(書記朗讀)
第八十八條 土地及ヒ其定着物ハ之ヲ不動產トス
此他ノ物ハ總テ之ヲ動產トス
無記名債權ハ之ヲ動產ト看做ス
富井政章君
本條第一項ニ於テ「建物」トアツタノヲ削リマシタノハ決シテ事柄ガ變ツタノデアリマセヌ始メ此建物ヲ入レマシタノハ建物ハ土地ニ著テ居ル最モ著シイ不動產ト云フコトガ理由デアリマシタ今一ツハ建物ハ土地ノ定著物ト云フコトヲ言ヒタカツタノデアリマス併シ建物ガ土地ノ定著物デアルト云フコトハ言ハズトモ分リ切ツタコトデアルト思ヒマス唯ダ土地ト共ニ著シイ物デアルト云フカラ之ヲ書クト云フコトハ至ツテ弱イ理由ト思ヒマス又本條ノ如キ書キ方ハ他ニ一ツモ例ガナイ又建物ノ定着物ガ不動產デアルト云フコトモ疑ヒナイモノト思ヒマス夫故ニ此二字ヲ除クコトニ願ヒタイ第三項ヲ入レマシタノハ實質變更ノヤウニ見ヘマスケレドモ之モ其實決シテ然ウデナイ吾々ハ始メカラ其精神ヲ以テ書テ居ルノデアリマス併シ此規定ヲ何處ニ置イタガ宜イカト云フコトニ付テ始メハ考ヘガ定ツテ居ラヌデアリマシタ併シ段々議事ガ進行スルニ付テ何ウモ此處ニ置クノガ一番適當デアルト云フコトニ思ヒマシタ是迄旣ニ一度ナラズ再三整理ノ時ニハ總則ノ所ニ斯ウ云フヤウナ規定ヲ置キタイト云フコトヲ申上ゲテ置キマシタ殊ニ記憶シテ居ルノハ權利質ノ所ニ於テ其事ヲ申上ゲテ置イタト思ヒマス夫故ニ之ハ寧ロ前カラノ御約束デアル決シテ新規ノ考ヘヲ入レタノデハナイト思ヒマス
尾崎三良君
「無記名債權ハ之ヲ動產ト看做ス」トアリマスガ然ウスルト記名債權トカ或ハ公債證書、記名公債證書トカ夫レカラ株券抔ハ何ウ爲リマスカ
富井政章君
夫レガ何處マデモ權利デアリマス其證券ハ唯ダ權利ノ證書デ權利自カラガ實際其證書ト同一體ト爲ルト云フヤウナコトハ性質ニ於テアリ得ナイコトデモアルシ又法律ノ規定ニ於テモ然ウ云フコトガアツテハ大變ナコトデアルト思ヒマス夫レデ之レハ何處迄モ有體物デナイト云フ主義デ此處ニハ置カヌノデアリマス全ク性質ノ違ウモノデアルカラ原則モ違ハナケレバナラヌト思ヒマス
議長(箕作麟祥君)
「無記名」ト云フコトハ宜イノデゴザイマセウカ指名トカ何ントカ云フコトニハ言ヘマセヌカ
富井政章君
記名債權ト云フモノハ指名債權ト取レマスガ何ウモ無指名債權ト云フノハ何ウデゴザイマセウカ
梅謙次郎君
加之ナラズ此方ハ必ズ證券ガアル證券ナシノ無記名債權ト云フモノハアリ得ナイ夫レダカラヽヽヽヽヽ
高木豐三君
只今「無記名」ト云フ三字ニ付テノ理由ハ承リマシタガ譬ヘバ有償證券ト云フト記名無記名共ニ這入ルノデゴザイマセウ有價證券ハ有體動產ト云フヤウニ爲ツテ居ル無記名ノ公債證書トカ何ントカ云フ物然ウスルト今度ハ記名デアル物ハ動產ト見ナイ斯ウ云フコトニ爲ルノデゴザイマスカ
富井政章君
全ク其積リデアリマス吾々ハ夫レデ決シテ不都合ハナイト思ヒマスガ若シ不都合ガアルト云フコトデアレバ其點ヲ伺ヒタイ
高木豐三君
不都合ガアルカナイカト云フ御問ヒデスガ譬ヘバ此訴訟法抔ニ付テ之ニ反スルモノハ改メテ宜イト云フ主義デアルカ又ハ然ウデナイカ現行ノ儘デモ差支ナイト云フ御趣意デ斯ウ爲ツタカト云フコトヲ夫レヲ先キニ伺ヒタイ
富井政章君
強制執行ニ付テハ或ハ其場合ニ付テ直接ノ理由ガアルカモ知レヌガ民法ノ一般ノ原則トシテハ何ウモ夫レデハ餘程結果ニ於テ不都合ト思ヒマス性質ガ丸デ違ヒマス記名ノ方ハ何處マデモ權利ト見テ往クガ至當デアラウト思ヒマス
高木豐三君
然ウスルト訴訟法デハ勝手ニ之ヲ譬ヘバ記名證券モ動產ト看テ強制執行ヲシテ往クノデアリマスカ
富井政章君
民事訴訟法ノ箇條ニ付テ起ル問題デ強制執行ニ付テモ然ウ云フ理由ガアレバ特別ノ規定トシテ別ニ差支ヘナイト思ヒマス
高木豐三君
然ウ云フ場合ナラバ訴訟法ニ付テヽヽヽヽヽ
梅謙次郎君
然ウ云フ場合ニハ特ニ看做スカラ一般ニハ規定ヲセヌガ宜シイ
高木豐三君
訴訟法デハ斯ウ云フ違ヒガ出テ來マス有體動產ト看做スト云フコトニナルト直チニ之ヲ差押ヲシタト云フヤウナ占有ヲシテ仕舞ウ、所ガ之ヲ有體動產ト看做サヌデ直チニ債權證書ト看做スト此間カラ申シタ通リ添付命令カ取立命令カヲ附ケナケレバ處分ガ付カヌヤウニ爲リマス又外國ニ於テモ記名ト無記名トノ間ノ區別ハ少シモシテナイ併シ民法デハ記名證書ノ強制執行ハ特別ニ規定シテ差支ナイト云フコトデアルカ或ハ又訴訟法ノ方モ斯ウ改メルト云フ御考ヘデアルカ又性質トシテ之ヲ極メルナラバ一方ノ方ハ權利トスルトカ何ントカ云フコトニ極マルノデアリマスカ
富井政章君
只今申シマシタ通リ強制執行ニ付テハ或ハ其方ガ便利カモ知レマセヌ記名證券ト雖モ面倒ノ事ヲセズニ無記名證券ト同樣ニ直チニ執逹吏ガ差押ヘルコトガ出來ルトシタ方ガ或ハ便利カモ知レマセヌ乍併其他一般ノ場合ニ於テ譬ヘバ誰レガ來テモ必ズ其證券ヲ持ツテ居ル者ガ拂ハナケレバナラヌ或ハ質ニ入レル場合ニ於テ有體物ト同一ニ取扱ウ普通一般ノ場合ニ於テ有體物ノ規則ガ行ハレルト云フコトニ爲ツテハ大變不都合ト思ヒマス何處マデモ強制執行ニ付テ其方ガ便利デアレバ其場合ニ於テ格段ナル場合ト見テ少シモ差支ヘナイト思ヒマス
田部芳君
此無記名債權デアリマスガ此性質ニ付テハ學問上ニ於テモ色々議論ガアルト思ヒマスガ此處デ斯ウ云フ風ニ無記名債權ハ動產ト看ルト云フコトニシテアルト斯ウ云フコトニ一ツノ說ヲ極メタコトニ爲ルト思ヒマス其處デ此理論ハ法典デハ極メズニ置テ之ハ學問上ニ讓リタイト思ヒマス夫レデ此處デハ斯ウ云フコトニ書テハ何ウカト思ヒマス「無記名債權ニ付テハ動產ニ關スル規定ヲ準用ス」斯ウ書テ此處デハ其問題ハ極メヌデ置クノガ利益デハアリマセヌカ其方ハ御考ヘハナイデゴザイマシタラウカ
富井政章君
然ウ書カウトモ思ヒマシタ併シ然ウスルト尙更ラ一ツノ學說ヲ採ツタト云フコトヲ言ヒ顯ハシハシマスマイカ何處マデモ權利デアルト云フコトヲ明言スルノデアリマス却テ斯ウ書テ置ケバ一ツノ學問上ノ議論ニ多少ノ餘地ヲ遺スコトニ爲ルト思ヒマス物ニ限ツテ規定ヲ準用スル何處マデモ物ト同一ニ爲ラヌト云フコトヲ明言スル譯ニ爲リハシマスマイカ
田部芳君
私ノ申シタ文章ガ不完全ナルガ爲メニ或ハ一方ノ說ヲ極メタト云フコトニ爲ルカモ知レマセヌガ此案デハ矢張リ一方ノ說ヲ極メテ債權デアルゾ之ハ無體ノ物デアツテ卽チ斯ウ云フ物ハ何處マデモ權利デアツテ決シテ紙ト權利ガ一ツノ物ニ爲ラヌト云フコトヲ判然言ヒ顯ハシタト云フコトニ爲リハシナイカト思ヒマス私ノ希望ハ今申シタ法文ガ或ハ惡ルイカモ知レヌガ何レノ說ニモ極メズニスルヤウナ書キ方ガ或ハナイカモ知レヌガ夫レハ何レ御考ヘニ爲ツタラウト云フ御尋ネヲシタノデ私ノ申シタ文章ガ必ズ一方ノ說ヲ極メズデ宜イヤウニ見ヘルト云フヤウニ斷言ヲシタノデモアリマセヌ
高木豐三君
此記名ノ債權ト無記名ノ債權ト云フモノハ均シク債權ノ實體卽チ權利ノ實體、爲替デゴザレ公債證書デゴザレ皆記名ノモノデアリマス唯ダ記名ト無記名ト云フモノハ一定ノ債權者ガアルノト詰リ誰レガ持ツテモ構ハヌト云フモノト違ヒガアル計リデアリマス成程有價證券ヲ悉ク動產ト看做スト云フコトニ爲レバ所謂ヽヽヽヽヽ(洋語)ノ原則ガ當嵌マルデアラウ斯ウ云フ恐レカラ出タノデハアルマイカ然ウ云フコトデアレバ動產デアル併シ其動產ニ付テ一定ノ動產ノ所有權讓渡ニ付テ特別ノ法律ガアルモノデハナイカ卽チ記名公債證君ノ如キモノヲ裏書ヲ以テ轉輾スル如ク必ズ特定ノ事情ガナケレバ其動產ノ移轉ハナイ特別ノ規定ニ依テ然ウ爲ルノデアル其性質ハ無記名性質ガ旣ニ無記名債權ガ然ウ爲ルモノト看做スモノナラバ記名債權デモ矢張リ然ウナルベキモノデハアルマイカト斯ウ考ヘマスガ如何デセウ
梅謙次郎君
先刻カラ記名ト無記名トガ一緒ニ爲ラナケレバナラヌト云フヤウナ御議論ガ出マスガ之ハ餘報無理ナ御論デハナイカト思ヒマス高木君ノ御論モ成程御尤モデハアリマスガ民事訴訟法ノ特ニ強制執行ノ方カラ見レバ御尤モノ御議論デアリマス成程強制執行ノトキハ無記名モ記名ノ方モ手續ガヽヽヽヽヽ私共ハ思ツテ居リマス何ゼナラバ矢張リ記名證券デアルト其證券ガ唯普通ノ證券デ有償證券ト云フ場合ハ普通ノ債權ノ證書デナイ所謂有償證券ト云フモノハ譬ヘバ公債證書トカ株券トカ云フモノハ權利ノ證書デハアルケレドモ其證書ガ普通ノ債權ノ證書ヨリ餘計價ヲ持ツ書付ケガ、其書付ケ夫レ自身ガ價ガアリマスカラ有價證券ト云フ名ガ付ク位デアル夫レデ之ハ無記名證券ト同ジヤウニ右體物ト同樣ニ差押ヲシタ方ガ便利デアル夫故ニ民事訴訟法デハ有償證券ト云フトキハ有體動產ニ付テノ差押ノ手續ヲ適用シテ居リマス夫レハ私モ尤モト思ヒマス乍去一般ノ規則トシテハ此無記名債權ト記名債權トヲ何ウシテモ一緒ニスルコトハ出來マセヌ本案デハちやんト黒字ノ第八十八條ニ「本法ニ於テ物トハ有體物ヲ謂フ」トアリマス然ウスレバ無體物ハ動產デモ不動產デモナイ無記名債權ハ本來ノ性質ヲ言ヘバ私共ノ考ヘデハ夫レハ無體物ト思ヒマス、ケレドモ其無記名債權ハ債權ト云フモノト夫レカラ證書ト云フモノガ丸デ離レナイ關係ヲ持ツテ居リマス、證書ガ直グ權利ヲ代表スル、權利ガアルト云フモノニハ證券ガナケレバナラヌカラ證券其物ガ全ク債權ト同一ノ價ヲ持ツト云フ所カラ其處デ之ハ其紙ガ價ノアルモノデアルト云フノデ本來ハ其紙ガ有體物デアル其紙ガ動產デアル、ケレドモ其紙ニ權利ガ喰付テ居ルカラ其紙ガ有體物動產ノ取扱ヲ受ケル斯ウ云フ規定デアルト思ヒマス從テ今後物權ニ關スル規定ガ皆嵌マル無記名證券ノ所有權ヲ認メル總テ此物權ノ規定ガ當嵌ツテ往ク質ト言ツテモ所謂動產質ノ規定ガ準用デモナイ其儘當嵌マル之ニ反シテ記名債權デアレバ紙夫レ自身ガ動產デアツテ有體物デアル而シテ其紙ニ價ガナイカナラバ大ニ償ガアルケレドモ其紙ニ依テ現ハレテ居ル所ノ權利ハ無記名債權ノ如ク紙ニ喰付テ居ルカナラバ然ウデナイ紙ニ全ク付テ居ルノデナイ紙ト餘程關係ヲ持ツテ居ルヤウデハアルガ全ク同ジデハナイ而シテ高木君ガ例ニ仰シヤツタ如ク彼ノ先キニ所謂ヽヽヽ訴權ノ如キモ當嵌マル而シテ又占有ノ規則ガ當嵌マル僅カニ準占有デ準占有ガ當嵌マル本統ノ占有ハ嵌マラヌ從テ所有權ノ規則モ其權利ニ當嵌ラヌ其外ノ質ニ至ツテモ所謂準質ト云フモノニ爲ツテ普通ノ動產質トハ異ツタル所ノ規則ガ本案ニ於テモ規定ニ爲ツテ居リマス然ウ云フ譯デアリマス何ウモ此記名債權又ハ裏書證券ノ如キ物ヲ動產ト看做スト云フコトハ到底出來ヌコトデアラウト考ヘマス
尾崎三良君
一寸伺ヒマスガ然ウスルト此振出券ノ如キ物名前ヲ書テアルノモアリマスガ名前ノ書テナイノモアリマス無論名前ノ書テナイノハ無記名債權ト爲ルデゴザイマセウ、所ガ斯ウ云フノガアリマス名前ヲ書テ置テ然ウシテ「右名出人又ハ所持人ニ拂渡スヘシ」斯ウ書テアリマス始メハ名前ガ書テアル夫レカラ先キハ所持人ニ渡セトアル斯ウ云フノハドチラニ這入ルノデゴザイマセウカ
梅謙次郎君
夫レモ性質ニ付テハ私共曾テ疑ヒヲ起シタコトガアリマシテ佛蘭西ニ於テ銀行ニ從事シテ居ル人ニ尋ネタコトガアリマス之ハ佛蘭西ノ銀行家ノ慣習デハ若シ消サナイデ其儘ヤレバ下ノ所持人拂ヒト云フコトハナイ名前ヲ書イタ儘デアレバ下ノヽヽヽヽヽ或ハ所持人ト云フモノガ消シテナクテモ苟モ名前ガ書テアル以上ハ所持人ニハ拂ハナイ、ケレドモ誰某ト云フ名前ガ書テナケレバ則チ所持人拂ヒニ爲ル銀行家デハ客ノ望ミニ任カス或ハ名前ガ書入レテアル或ハ所持人拂ヒト云フ夫レガ爲メニ判ヲ二ツ書キ入レテ置クノハ煩ハシイカラ一ツニスル誰某ノ指名人又ハ所持人ト書テアリマス其上ノ方丈ケ消スカ下ノ方丈ケ消スノガ本來デ、消サズトモ名前丈ケ書テアレバ所持人拂ヒニスルコトハナイヽヽヽヽヽ成程然ウカト思ヒマス併シ佛蘭西一部ノ慣習ハ然ウ云フ風ナ慣習デアツテモ何處デモ皆然ウデアルト云フコトデモナイト思ヒマスガ何レ慣習ニ依ラナケレバナラヌト思ヒマスガ今私ノ聞イタノガ日本ニ於テモ正シイト云フコトナラバ其名前ノ書テアルノナラバ所持人デナイカラ記名デ名前ノ書テナイトキハ無記名デアルト思ヒマス斯ウ云フコトニ爲ラウト思ヒマス
尾崎三良君
日本抔デハ初メ名前ヲ何ノ某ト書テアツテ然ウシテ左ノ方ニ持ツテ來テ「右名指人又ハ所持人ニ拂渡スヘシ」ト書テアリマス然ウスルト其人ノ顔ヲ知ラヌデモ渡ス然ウスルト半バ記名債權デアツテ後ニハ無記名債權ト爲ルヤウナモノデアルト思ヒマスガ其時ハ其區別ガ甚ダ六ケシイト思ヒマスガドンナモノデゴザイマセウカ
梅謙次郎君
私ハ慣習ノ方ハ能クモ存ジマセヌ又外ノ御方ノ御意見モ知リマセヌガ私丈ケノ考ヘデハ若シ特別ノ慣習ガナケレバ其樣ナ場合ハ無記名デナイト思ヒマス唯ダ乍併債務者ニ於テ然ウ云フ事ガ書テアレバ其前人ヲ調査スル義務ハ免レルモノデアルト思ヒマス名前人何ノ某ト書テアレバ違ツタ人ニ拂ヘバ銀行ノ方ノ過失ニナル、ケレドモ今ノヤウナコトニ書テアレバ夫レヲ取リニ來タ人ガ果シテ名前人デアルカ又ハ其代理人デアルカト云フコトハ銀行ノ方デ調ベル義務ガナイト云フコトデ矢張リ權利ヲ失フベキ性質ノモノデハナイト私ハ思ヒマス
高木豐三君
私モ整理ノコトデアリマスカラ強テハ申シマセヌガ紙其物ガ卽チ債權ト爲スベカラザルモノデアルト云フ唯一ノ論據デアリマスレバ私ハ却テ爲替手形ノ如キ物ハ最モ然ウデアラウト思ヒマス之モ□式ノ手形ヲ失ツテ仕舞ヘバ何モ無クナル權利關係ガ殘ツテ居ルト云フコトニナラヌト思ヒマス夫レハ或ハ私ノ誤解カモ知レマセヌカラ強テハ申シマセヌ
富井政章君
爲替手形ハ今梅君ノ言ハレタ通リ支拂人ニ於テ特ニ調ベル義務ガナイト云フコトデ寧ロ性質ガ然ウ爲ルト云フヽヽヽ
梅謙次郎君
性質ガ無記名證券ト同樣ナ譯ニ往カヌ
富井政章君
譬ヘバ爲替手形ヲ拾フトカ盜ムトカヽヽヽヽヽ
高木豐三君
讓渡スヽヽヽヽヽ
富井政章君
尙更ラデアリマス郵便脚夫ガ支拂人カラ受取ツタト云フ場合ニ其支拂人ニハ二重拂ヒヲスル義務ガナイト云フコトニ爲リマス夫レハ何ウ云フ所カラ來ルカナラバ夫レガ必ズ正當ナ權利カ何ウカト云フコトヲ銀行ニ調ベル義務ガナイト云フ說ヲヽヽヽヽヽヽヽヽ
議長(箕作麟祥君)
如何デゴザイマセウカ只今ノ第八十九條ニ付テハ御議論ハアリマスガ別ニ修正說モ出ナイヤウデス出ナケレバ原案通リニ決スルヨリ外ナイト思ヒマス―――夫レデハ別ニ御修正說モ出ナイヤウデスカラ朱書ノ通リニ決シテ次ハ新規ニ這入ツタ朱書ノ第八十九條ニ移リマス
(書記朗讀)
第八十九條 土地ノ定着物ハ別段ノ定アル場合ヲ除ク外其土地ノ一部ヲ成スモノトス
富井政章君
之ハ九十條ニ爲ル譯デアリマス唯ダ土地ト言ヘバ其土地ノ上ニ在ル建物モ含ムト云フコトハ疑ヒノナイコトデアルトハ思ヒマスケレドモ過日抵當權ノ所ノ條ヲ議スルトキニ當ツテ日本ニ於テハ大ニ疑ヒガアルト云フコトデアリマシタ吾々モ成程多少疑ヒガアラウト思ツテ此條ヲ置キマシタ併シ始メヨリ別段ノ定メノナイ限リハ何處マデモ建物ヲ含ムト云フ主義ヲ取ツテ居ル又諸君ニ於テモ其主義ヲ御贊成ニ爲ツタト云フ慥カナ證據ガアリマス譬ヘバ不動產ノ賃貸人ガ先取特權ヲ取ツテ居ルトキニ「土地ノ賃貸人ハ」トアリマスアノ土地ト云フコトハ無論其土地ノ上ニ在ル一切ノ物ヲ含ムト云フコトデナケレバナラヌコトハ論ヲ俟タヌコトデアリマス其規定ハ何ノ異議モナク通ツテ仕舞ツタ又抵當權ニ關スル第三百六十五條デアリマシタカ此條ニ於テモ「抵當地ノ上ニ存スル建物ヲ除ク外」云々トアリマスカラ少ナクモ抵當權ニ付テハ建物ガ土地ノ一部ヲ成スト云フ主義ヲ離シテ居ル併シ他ノ一般ノ場合ニ付テハ少ナクトモ我邦ニ於テハ疑ヒノアルコトデアリマス夫故ニ此條ヲ置イタノデアリマス場所ハ此總則ノ處ガ一番適當ト思ヒマス建物ノ定着物ノコトモ或ハ言ツタ方ガ宜シイカモ知レマセヌ併シ先程モ申シマシタ通リ吾々ハ其場合ニ付テハ疑ヒガナカラウト思ヒマス唯ダ土地ト建物トノ關係ニ付テ疑ヒガアラウト思フノデ建物ノ定着物ニ付テハ除イタノデアリマス
高木豐三君
只今此八十九條ヲ御加ニ爲ツタ理由ヲ伺ヒマシタガ私ノ解シテ居リマシタノトハ反對ノヤウデアリマシタガ私ハ此條ヲ加ヘルノ必要ヲ生ジタノハ今御引キニ爲ツタ抵當ノ場合ニ於テ土地ト家屋トヲ別ツト云フコトニ爲ツタ抵當ノ場合ニ於テハ少クトモ土地ト家屋トカ始終同一物デナイト云フ主義ヲ取ツタガ爲メニ特別ノ一般ノ規定ノアル場合ニハ一物ヲ成サナイト云フ必要ガ生ジテ此條ヲ御加ヘニ爲ツタノカト解シテ居リマシタガ今ノ所デ云フト抵當ノ場合ニ建物ヲ除クノ外トアルカラシテ少ナクモ土地ト建物トハ一物ト見テ居ルト云フヤウナ意味ニ見テ居ルト云フ御說明デアリマシタカ
富井政章君
無論其通リデアリマス抵當ニ付テハ土地ト家屋トハ別物ト見ルト云フ規定ヲ置キマシタ夫レハ抵當ニ關スル特別規定デアル其特別規定ノ書キ方ヲ見ルト原則ノ反對ニ言ヒ現ハシタ卽チ土地ノ上ニ存スル建物ヲ除ク外土地ニ附合シテ之ト一體ヲ成シタル物ニ及ブト云フヤウニ言フテアリマスカラ本來ハ建物ハ土地ノ一部ヲ成スモノデアル併シ抵當ニ付テハ其原則ヲ取ラヌ其原則ヲ除イテ反對ノ規定ヲ設ケタノデアル斯ウ解シテ居リマス夫レデ此處ノ新案ノ如キ規定ガナクトモあノ條カラ「アンジクシヨソ」ヲ立テテ立法者ノ精神ハ一般ノ場合デモ其考ヘデアルト云フ解釋ニ爲ラウト思ヒマスガ特別ノ條ノアル以上ハ一般ノ原則トシテ其疑ヒガアレバ其點ヲ掲ゲルニハ此處ガ最モ適當ナル場所デアラウト考ヘマシタ抵當ニ付テ何處マデモ其主義ヲ採ツテ居ルト云フコトノ間接ニアノ條デ現ハレテ居リマス、ケレドモあれデハ一般ノ場合ニ其原則ヲ取ツテ居ルト云フコトハ明瞭デナイノデアリマス
金子堅太郎君
「別段ノ定アル場合ヲ除ク外其土地ノ一部ヲ成スモノトス」トアルガ譬ヘバ山林ノ立木デアリマスガ之ニ對スル權利義務夫レカラ各地方ニ於テハ植付山、部分山ト云フコトガアリマスガ夫レラハ此民法ガ出レバ土地ノ一部ト見ル譯ニ爲ルノデアリマスカ
富井政章君
左樣デアリマス唯ダ土地ヲ賣ルト言ヘバ木ガ幾ラアラウガ其木モ矢張リ土地ト一緒ニ見ル何ニモ言ハナケレバ、ケレドモ一緒ニ賣ラヌ積リナラバ明ニ其事ヲ言フト云フ考ヘデアリマス
金子堅太郎君
本邦ニ於テハ官林ノ土地山林ノ土地ト其處ノ立木トハ皆別ニ見テ居リマス立木卽チ生立シテ居ル木ハ其土地ト看做サヌト云フノガ日本ノ習慣デアリマス依テ法律第百六號ノ行政裁判所ノ權限ノ所ニ「土地ノ官民有區分ノ査定ニ關スル事件」ト云フ規定ガアリマス夫レニ付テ山林ノ立木ヲ官吏ガ分ケタトキニ不當ノ處分ヲシタト云フノデ行政訴訟ヲ起サウト云フテモ行政裁判所ニ徃ケナイ夫レハ土地デナイカラ徃ケナイ然ルニ我民法ガ出ルト夫レガ土地デアルカラ悉ク行政裁判所ニ往クコトニ爲リマス然ウスルト日本ノ古來ノ山林ノ制度ガ丸切リ壞ハレルコトニ爲リマスガ日本デハ土地ハ土地、立ツテ居ル木ハ木、土地ノ所有權ト立木ノ所有權トハ別ニ見テ居ツテ夫レヲ別ニスルノハ夫レガ動產カ不動產一カト云フコトニ至ツテハ日本ノ未ダ法律思想ノ發逹セヌモノデアリマスカラ區別ハシテアリマセヌガ事實立木ノ所有權ト土地ノ所有權トハ違ツテ居ル夫レデ山林ノ方デハ土地ト看做サヌデ居ル土地ノ一部分ト見ルト悉ク土地ト見ル然ウスルト行政訴訟ヲ起スコトガ出來ヌト云フコトデアツタノニ今度ハ起スコトガ出來ルト云フコトニ爲ツテ大變動ヲ來タサウト思ヒマスガ其邊ノ御考ヘハ如何デアリマスカ
富井政章君
御尤モデアリマス恰モ今仰セノアツタヤウナ法律ガアルト思ヘバコソ此處ニ「別段ノ定アル場合ヲ除ク外」ト入レタノデアリマス行政法ニ於テモ定メテ然ウ云フ場合ガアラウ又民法ニ於テモ多クノ場合ニ於テハ土地ノ一部ヲ成スト見ル方ガ便利デアラウト思ツタノデアリマス、ケレドモ旣ニ抵當權ニ付テモ夫レデハ徃ケナイト云フノデ一部ト看做サナイト云フ規定ヲ置イタノデアリマス詰リ原則ヲ何レニ定メタ方ガ宜カラウカト云フ問題デ夫レハ民法ニ關シテ最モ多クノ場合ニ便利ノ方ニ原則ヲ定メタ方ガ宜カラウ何レガ便利カト言フト一部ヲ成スト看做ス方ガ便利デアラウト思ヒマス土地ノ賃貸人土地及ビ其土地ノ上ニ在ル一體ノ建物トカ書クノモ煩シクアリマスカラ然ウ云フ風ニ唯ダ土地ト云ヘバ其土地ノ上ニ在ル一體ノ物ヲ含ムト云フ方ガ便利デアラウ今ノ先取特權ノ場合ト類似ノ場合ガ多クアラウ詰リ最モ多クノ場合ノ方ニ原則ヲ定メルガ宜カラウト云フノデ此處ニ斯ウ原則ヲ定メテ置イタノデアリマス特別規定殊ニ行政ニ關スル特別規定ノ如キモノハ幾ラアツテモ妨ゲヲシナイト云フ考ヘデアリマス
梅謙次郎君
少シ補ツテ說明致シマスガ此「別段ノ定」ト云フコトハ必ズシモ行政法ニ明ニ斯ウ云フ場合ニハ土地ト立木トヲ區別ヲスルト書テナクテモ宜シイト思ヒマス恰モ今ノ金子サンノ御問ヒバ法律ニ明ニ土地ト立木ト別ケテ書テアレバ宜シイガ單ニ土地ト書テアツタトキニ此條ガ實施ニ爲レバ當然土地ノ上ノ立木ガ這入ツテハ困ルト云フ御考ヘデ御質問ガ出タト思ヒマスガ私ノ考ヘデハ斯ウ云フ場合ハ「別段ノ定」ト云フ最モ廣イ文字ガ使ツテアル方ガ明ニ法文ニ書テナクモ文字ノ上デ譬ヘバ山林抔ノ場合デアルト林地ト林木ト云フト違ウ文字ニ依テ自カラ土地ノミヲ意味スル文字ト又林ノ立木丈ケヲ意味スル文字トハ專門家ニハ直グニ分ルヤウナ文字ガアル夫レヲ以テ「別段ノ定アル場合」ト言ツテ宜シイト思ヒマス殊ニ況ンヤ土地ト其立木ト別々ノ場合ハ無論一物ト見ナイ然ウ云フ場合ハ土地ハ土地ノ所有者ガアリ立木ハ立木デ其所有者ガアル其場合ハ全ク別ニ見ルベキ場合デアリマス又行政上デナクテモ契約上デモ然ウデアリマス必ズ契約書ニ土地計リトカ或ハ立木計リトカ又建物ナラバ建物計リト云フコトヲ書カナクテモ其當事者ノ意思ガ斯ウデアツタト云フコトガ見ヘサヘスレバ則チ夫レハ別段ノ定アルモノト見ラルル而シテ其當事者ノ意思ヲ知ルニハ場合ニ依ツテハ慣習抔ヲ參考トシテ當事者ノ意思ヲ知ルコトガ出來マス夫故ニ此規定ガアツテモ實際土地丈ケ處分スルトカ或ハ立木又ハ建物丈ケヲ處分スルト云フ場合ニ之デ以テ法律ガ當事者ノ意思ニ背クヤウナ結果ヲ生ズルコトハナイト云フ積リデアリマス
金子堅太郎君
一應慥メテ置キタイ此事ハ餘程山林ニ關係ガアリマスカラ其御精神ヲ伺ヒタイノデアリマス然ウスルト此「別段ノ定アル場合ヲ除ク外」ト云フコトハ別段ノ法律ヲ以テ定メタル場合ト云フノデナク何ンデモ此規定サヘアレバ宜シイ農商務大臣ノ訓令デモ宜シイ又林業上ノ一ツノ用語デモ宜シイ又今迄ノ仕來リデモ宜シイ何ニカ別段ノ定サヘアレバ此法律デハ土地ノ一部ヲ成スモノト明文ニ書テアツテモ法律以外ノ法律ヨリ劣等ナル所ノ勅令省令其他ノ定ガアレバ無論土地ノ一部分ト看做サヌト云フ御解釋デゴザイマスカ夫レヲ一應伺ヒマス
富井政章君
本案ニ於テハ是迄議決シタ箇條ハ殆ンド四百條ニ近イガ其中ニ澤山アリマスノデ此「別段ノ定」ト云フ字ハ極メテ廣イ意味デアツテ法律命令夫レカラ契約然ウ云フ意味ニ使ツテアリマス何處モ皆然ウ爲ツテ居リマス
金子堅太郎君
然レバ林業上用ヰ來ツテ居ル立木生木ト云フモノハ卽チ土地ノ一部ヲ成サスモノトシテ將來此民法ガ出テモ差支ヘヌノデアリマスカ
富井政章君
然ウ云フ風ノ明文ガアルトカ或ハ明ニ極ツテ居ルノデアリマスカ
金子堅太郎君
明文ハナイ唯ダ仕來リガ然ウ爲ツテ居ル
富井政章君
夫レハ法例ノ方デ慣習ガ何ウ云フ風ニ極マルカト云フコトデアリマシテ此處デハ未ダ何ントモ確言スルコトハ出來マセヌ
梅謙次郎君
私ガ一寸補ツテ置キマセウ私ノ考ヘデハ林抔ノ如キ詰リ然ウ云フ專門ノ事ニ付テハ專門ノ言葉ガアリマス私等モ少シハ承ツタコトモアリマス然ウ云フ專門ノ言葉ガアル以上ハ言葉夫レ自身ガ意味ヲ持ツテ居ル卽チ林地ト言ヘバ土地丈ケヲ言ヒ林木ト言ヘバ立木丈ケヲ言フト云フヤウナ風ノ意味ガアリマスカラ然ウ云フ場合ニハ土地ト立木トヲ別別ニ見ルト云フ規定ガナクテモ夫レハ無論此「別段ノ定」ト云フ中ニ私共ハ當然這入ツテ居ルモノト解シテ居リマス
金子堅太郎君
度々御說明ヲ請フテ滿場諸君ヲ煩ハシマスガ此事ハ重大ノコトデアリマスカラモウ一ツ伺ヒマスガ夫レデ此條ガアツテ「別段ノ定アル場合ヲ除ク外其土地ノ一部ヲ成スモノトス」ト云フト農商務大臣ニ向ツテ悉ク立木ノ下戻シヲ願ツテ來ル、訓令ダノ或ハ農商務省ノ仕來リダノト云フモノハ法律ノ力ヲ打消スモノデハナイ土地ノ一部ヲ成スト云フ此民法ノ第八十九條ガ總テノ仕來リ總テノ訓令ト云フモノヲ凌駕スル夫レデ私ハ土地ノ一部ト見テ法律第百六號ニ依テ土地ノ民有ノ立木ニ關シテ訴訟ヲ起シテ來ル幾千通幾萬通ノ訴訟ガ起ツテ來ル其時ニ行政裁判官ナリ司法裁判官ナリ立法官ナリ此「別段ノ定」ト云フコトデ今迄ノ仕來リト云フモノデ土地ノ一部ヲ成スモノト云フコトヲ打消スト云フコトニマデニ此法律ガ劣等ノ規定ヲ以テ打消サレルト認メテ御起草爲サレ又其精神デアレバ私モ何ントモ申シマセヌ其處デ之ハ訴訟ガ何萬通モ起ラウト思ヒマスカラ伺ツテ置クノデアリマス
富井政章君
立木ノ拂下ゲト云フヤウナコトニ付テハ本條ノ適用ハ起ラヌト思ヒマス然ウ云フ場合ハ無論材木丈ケイ處分ヲ爲シタノデ土地ノ一部ヲ成ス成サヌト云フ問題ハ少シモ起リヤウガナイ本條ノ規定ハ譬ヘバ土地ヲ賣ル土地ヲ使用スル或ハ土地ノ上ニ先取特權ガアルト云フ場合ニ夫レ丈ケデ何ニモ別段ニ言ハナケレバ、法律ニモ契約ニモ何ニモ言ハヌケレバ其土地ノ上ニ在ル建物ニモ移リ往ク權利ガ及ブ或ハ先取特權ガ及ブト云フ丈ケノコトデアル材木丈ケノ拂下ゲ賣買ト云フヤウナ場合ハ本條ノ適用ハ少シモ生ジ得マイト思ヒマス
金子堅太郎君
其土地ノ上ニ在ル唯ダ木ノ拂下ゲ丈ケナラバ起リマスマイ、ケレドモ古來カラ部分林トカ或ハ植付山抔ト言ツテ官地ニ植ヘタ林木其數ノ調ベ及ビ其區域抔ノ爭ヒカラ農商務大臣ト訴訟ガ起ルヤウナ事ガ多々アル夫レカラ又官有地ハ民有地ニ編入シタト云フヤウナ時ニ林地丈ケハ編入シタガ林木ハ編入セヌデ所有者ガ別々デアルト云フコトガ幾ツモアリマス唯ダ木丈ケ拂下ゲルト云フヤウナ場合ナラバ今富井君ノ仰セラレタ通リデゴザイマセウガ部分林トカ植付山トカ云フ場合ニ起ルノデアリマス
富井政章君
官有地ノ林木ヲ一個人ガ持ツテ居ル其所有者ガアルト云フトキニハ無論本條ノ適用ハナイ又官有地ヲ讓渡シタト云フ場合此場合ニ於テモ夫レ丈ケデハ何ウモ本條ノ適用ガ生ジ得マイト思ヒマス本條ノ適用ハ何處マデモ土地ヲ處分シタ同ジ一人ノ所有者ニ屬シタ土地ヲ處分スルト言ツテ然ウ言ハナケレバ其土地ノ上ニ在ル物マデモ處分サレルト云フヤウニ其範圍ガ極廣イノデアリマス
穗積陳重君
先刻高木君カラノ御質問ノ中ニ起草者ハ何ウ思ツテ居ルカト云フ御質問ガマダ殘ツテ居ルヤウデアリマスカラ夫レニ付テ申上ゲテ置キマスガ金子君カラ農商務大臣ノ訓令トカ或ハ省令トカ云フモノデ譬ヘバ林木ト云フモノト其土地トハ別ナモノダト云フテアル然ルニ然ウ云フ劣等ナモノデ夫レヨリ優等ナ法律ヲ打消シテモ構ハヌト云フ考ヘデ起草ヲシタノデアルカト云フコトデアリマスガ決シテ劣等ノモノデ優等ナモノヲ打消ストハ吾々ハ見テ居リマセヌ「別段ノ定アル場合ヲ除ク外」ト云フノハ法律ノ一部分デアリマス法律自身ガ然ウ云フ事ヲ許シテ居ル或ハ命令ガ當事者ノ意思トカ慣習トカ然ウ云フモノハ法律夫レ自身デ許ス農商務大臣ガ當事者ガ之ハ別トシタト云フモノガアレバ夫レマデ許ス其許スノハ何ニカ法律デ許スノデアリマスカラ當事者ノ取引ガ法律ヲ破ブルノデモナイ況ンヤ然ウ云フ場合ニ於テ農商務大臣ノ命令、訓令抔デ法律ヲ破ブルトカ法律ヲ打消ストカ云フモノデハナイ少シモ優等劣等ノ衝突ト云フヤウナコトハ出テ來ナイ積リデアリマス
金子堅太郎君
私ハ總則ノ會ノ時ニ出席シタ所ガ此行政ニ關スルモノハ別段ノ法律ヲ出ス夫レハ總テ別段ノ法律ニ讓ルト云フコトニ慥カアノ時ニ伺ツタヤウニ思ヒマスガ若シ私ガ誤ツテ居ルナラバ兎モ角デアリマスガ其處デ其精神ヲ以テ此「別段ノ定アル場合」ト云フノハ是迄私ガ此原案ヲ受取ツテ以來之ハ別段ノ行政法ガ出ルモノト私ハ考ヘテ居ツタ「別段ノ定」ト云フノハ別段ノ行政法單行法ガ出ルモノト解釋シテ居ツタノニ先程カラノ御說明ニ依ルト農商務大臣ノ訓令抔デモ宜シイモノデアルト云フコトデ然ウスルト私ノ是迄ノ考ヘテ居ツタコトト違ツテ來タノデアリマスガ今穗積君ノ御說ノヤウニ「別段ノ定」ト云フコトハ法律ガ別段ノ定ト云フモノニ、省令デアラウガ訓令デアラウガ法律ガ別段ノ定ト云フモノニ見テ居ルカラ宜シイト云フコトデ其精神デ徹頭徹尾民法ガ出來テ居レバ此法律ノ八十九條ガ出ルト直グ行政法ガ出ルナラバ宜シイノデアリマスガ唯ダ私ハ「別段ノ定」トアルト別段ノ法律ガ出ルト解釋シテ居ツタカラ然ウ云フ質問ヲ起シタノデアリマス
梅謙次郎君
「法律ニ別段ノ定」ト言フタトキハ法律デアリマス單ニ「別段ノ定」ト言フタトキハ廣イノデアリマス
長谷川喬君
本條ノ規定ハ唯ダ原則ヲ極メルノデ卽チ土地上言フタナラバ其上ニ在ル建物若クハ樹木等モ皆含ンデ居ルモノト見ル又含マヌ場合ハ別段ノ定ガナクテハナラヌ斯ウ云フコトデアリマスガ此事ニ付テハ前回ニ三百五十五條ノ抵當權ノ議事ノ時ニ於テ元トハ「抵當權ハ其目的タル不動產ニ附加シテ之ト一髄ヲ爲シタル物ニ及フ」斯ウ云フ原案デアツタケレドモガ此時ノ衆議ト云フモノハ土地ヲ抵當ニ入レタカラト言ツテ其上ニ在ル建物マデモ含ムト云フコトハ日本ノ慣習ニ背ク夫故ニ此處ニハ何ウシテモ建物ヲ除クト云フコトヲ入レネバナラヌト云フコトデ「抵當地ノ上ニ存スル建物ヲ除ク外」ト云フコトヲ入レタ此時ニ於テ土地ト云ヘバ其上ニ在ル建物マデモ含ムトスルノハ我慣習ニ背クト云フコトハ旣ニ御認メニ爲ツタモノト思ヒマス然ルニ又此處ニ斯ウ云フ箇條ガ出テ居ルト矢張リ慣習ニ背クト云フコトニナラウト思ヒマス夫レハ抵當ノ所ハ別段ニ斯ウ云フ條ガ出來タカラ差支ヘマセヌガ今本條ヲ存スルトキニ於テハ賣買トカ交換トカ云フトキハ一々別段ノ定ヲシナケレバ則チ土地ヲ賣ルト云フ場合ニ其建物モ奪ハレ又立木モ奪ハレルト云フコトニ爲ル金子サンガ山林ノ事ニ付テ委シク御述ベニ爲リマシタガ私モ矢張山林ニ付テモ土地ト樹木トハ別ノモノト思ヒマス然ルニ此原則デ見ルト土地ヲ賣レバ其立木モ皆一緒ニ賣ツタモノト見ラレ又建物モ一緒ニ賣ツタモノト見ラルル斯ウ云フ慣習ニ反スル事ヲ原則ニ定メテ然ウシテ反對ノ場合ハ一一極メネバナラヌト云フト何ウモ第一先日抵當權ノ議事ノ時ニ極ツタ趣意デモ背クト思ヒマスカラシテ私ハ本條ノ削除說ヲ提出致シマス
横田國臣君
長谷川君ノ御說ニ贊成致シマス然ウシテ一體私ハ前ノ箇條モ一ツ書キ替ヘテ貰ヒタイ實ハ前ノ箇條「建物」ト云フコトヲ削ルト云フ時分モ甚ダ殘念デアリマシタ之ハ此土地ト建物ト云フモノハ別ケル方ガ一體ノ私ハ慣習ニ從テ夫レヲずつと原則ニスルガ宜シイト思ヒマス夫レデ私ハ金子君ノ御問ヒニ對シテ起草者カラ御答ヘニ爲ツタコトハ大變不服デアリマス或ハ林地ト言ヘバ夫レニ付テハ最早地ト極ツテ居ルト言ハレタガ決シテ然ウデナイ況ンヤ耕地トカ宅地トカ云フヤウナ名モアリマスガ決シテ林地ト言ヘバ土地ノミヲ指スト云フヤウナ風ニハ實際ハ必ズ解釋ニ爲ラヌト思ヒマス若シ此法律ガ出タナラバ此「別段ノ定アル」ト云フノハ農商務大臣ノ命令デモ宜イトカ訓令デモ宜イトカ云フヤウナソンナ事ハ決シテナイト思ヒマス夫レハ無論法律デ許シタモノハ夫レデ宜シイデゴザイマセウ夫レデ此林木ト言フタ折リハ夫レハ林木丈ケニ限ルト云フコトハ勿論デアリマスガ「林地」ト言フト其土地丈ケヲ指ストカ又ハ宅地ハ宅地ト言フデゴザイマセウガ此宅地ト云フト家ハ籠ラヌト云フコトハ決シテ此箇條デハ解サレマセヌ宅地ト言ヘバ必ズ其地ノ名ヲ言フノデアリマスカラシテ夫レデ私ハ若シアノ抵當權ノ所ガアノ通リニ爲ルナラバ絶對的ノ之ハ反對ノ事ヲ擧ゲルコトニ爲ル何故ニ抵當權丈ケニ付テ他ニ慣習ガアルカ然ウデナイ外ノモノニ付テモ慣習ガ悉ク然ウ爲ツテ居ル夫レデ問題ガ何ウ爲ルカ知レマセヌガ此法律ガ此處ニ添フタ時分ニ旣往ニ遡ルカ遡ラヌノカト云フ論モ出マセウガ斯ウ云フモノガ旣往ニ遡ルカ遡ラヌカ知ラヌガ之ハ土地ト云フモノヲ買ツテ居レバ其上ニ在ル家マデモ取ツテ仕舞ウト云フコトニ爲レバ夫レハ大變ナ話シデアリマス夫レハ何ニカ外ノ方デ止メルコトガ出來ルダラウガ此後ト云フテモ然ウデアル土地ヲ賣ルト言フタナラバ其上ニ在ル家マデモ喰付イテ居ルト云フコトニ爲ルト夫レハ今日ノ慣習ニ背クモノデアル抵當ニ付テ土地ト家トガ離レテ居ルノニ何故ニ所有ガ離レテ居ラヌカ、シテ見レバ此箇條ハ慣習ニ背イテ居リマス夫故ニ私ハ此箇條ヲ削ルト云フコトニ贊成ヲスル若シ出來ルコトナラバ前ノ箇條ニ立戻ツテ實ハ土地ト建物トヲ別ニスルト云フ方ヲ原則ニシテ置クガ宜シイト思ヒマス
富井政章君
其ハ大變重大ナ事デアリマスカラ尙ホ一言シテ置キマス抵當權ニ付テハ如何ニモ建物ハ土地ノ一部ト見ナイ方ガ宜シイト云フノガ多數ノ御意見デアツテ其通リニ改マリマシタ併シ一般ノ場合ニ於テハ我邦ノ慣習ガ別々ニ見テ居ルカラ其主義ヲ採ラナケレバ往カヌト云フコトハ只今始メテ承リマシタ吾々ハ然ウハ思ツテ居リマセヌガ或ハ然ウカモ知レヌ併シ假リニ然ウデアルトシタ所ガ唯ダ此八十九條ヲ削除シ放シデハ大變不都合ト思ヒマスカラ其點ハ充分御考ヘヲ願ヒタイ前ノ箇條ノ「建物」ト云フ字ヲ削除シタノハ吝シイト云フコトデアリマスガ建物ト云フコトガアツタ所ガ夫レハ唯ダ不動產デアルト云フコトヲ言ツタ丈ケデ土地ヲ賣レバ建物モ一緒ニ往クト云フコトヲ言フテハ居ラナイ其問題トハ丸デ別デアリマス夫レデ若シ一般ノ場合ニ別々デアルト云フ主義ヲ取ルナラバ旣ニ議決ニ爲ツタ所ノ箇條ノ中デモ彼ノ土地ノ賃貸人ノ先取特權ニ關スル條文モ改メナケレバ無論アノ書キ方デハ往ケマセヌ土地ノ上ニ在ル建物一切ノ物ニハ及バナイ又抵當權ノ條文モ書キ直オサナケレバナラヌ結果ハ同ジコトデアリマスガアノ書キ方デハ往ケマセヌ「抵當地ノ上ニ存スル建物ヲ除ク外其目的タル不動產ニ附加シテ之ト一體ヲ成シタル物ニ及フ」ト書テアリマスカラ一般ノ原則ハ建物ト云フモノハ土地ノ一部ヲ成スモノデアル土地ト一體ヲ成スモノデアルト云フコトヲ言ツテアル何ウモアノ書キ方デハ往ケマセヌ斯樣ナ書キ方ノ條文ガアノ儘デ存シテ居レバ何ウシテモ一般ノ原則ハ一部ヲ成サナイモノデアルト云フコトガ言ヘマセウガ私共ハ少シモ言ヘヌノミナラズ此八十九條ガナクテモ同ジ解釋ヲシマス夫故ニ此處ニ反對ノ規定ヲ明ニ掲ゲ夫レカラ先取特權ノ條ヲ改メ尙ホ抵當權ノ條ニ改メテ往カナケレバナラヌト思ヒマス唯ダ此條ヲ削除シ放シデハ少シモ其目的ヲ逹スルコトガ出來マセヌ之ハ少シ水掛論デハアリマスガ吾々最モ多クノ場合ニ於テハ唯ダ土地ト言ヘバ其上ニ存スル物ハ皆含ムト云フ法律行爲ガ多カラウ唯ダ意思ノ解釋デ多クノ場合ニ於テハ其方ニ原則ヲ極メタ方ガ當事者ノ意思ニモ適ウト思ヒマス若シ往カナケレバ唯ダ削除シ放シデハ何ウシテモ往ケマセヌ
議長(箕作麟祥君)
一寸申シマスガ此條ニ付テハ中中議論ガ盡キヌヤウデアリマスカラ暫時休憩致シマス
于時午後六時四十五分休憩
第二回民法整理議事速記録
明治二十七年十二月十八日午後七時二十分開議
休憩後退席員
横田國臣君
長谷川喬君
村田保君
高木豐三君
淸浦奎吾君
岸本辰雄君
議長(箕作麟祥君)
夫レデハ休憩前引續キノ會議ヲ開キマス
長谷川喬君
起草委員ニ願ヒマスガ此處デ削ツテ置イテ良イ案ガ出來タラ御出シ下サツテハドウデスカ
穗積陳重君
夫レハ困リマス
梅謙次郎君
決ヲ取ツテ下サイ夫レガ多數ナラバ已ムコトヲ得マセヌ
村田保君
是レハ隨分大問題デスカラ大勢ノ時ニヤツタ方ガ宜イト思ヒマス
議長(箕作麟祥君)
大勢ト言ツタ所ガ此次ハ尙ホ是レヨリ少ナクナルカモ知レマセヌ
長谷川喬君
是レハ撤回シテ機會ヲ得テ出シテ貰ウ譯ニイキマセヌカ
議長(箕作麟祥君)
夫レハ起草委員ガ御承諾下サレバ宜シウゴザイマスガ
穗積陳重君
我々ニ於テ勝手ニスル譯ニハ往キ兼ネマス
高木豐三君
ドウデセウ此整理ト云フコトハ今度一遍シマシテモ是レデ確定ノモノトハ言ヘヌ又整理ガアラウト思フ夫レ迄御預ケト云フ譯ニ往キマセヌカ
梅謙次郎君
今日ハドツチカニ極メテハドウデスカ
菊池武夫君
決スルト云フノナラ私ハ削除スル方ニ贊成シマス其理由ハ別ニ申シマセヌガ只私ノ希望ハ起草者ノ意味モ助ケ夫レカラ反對論ノ意味ヲモ助ケルト云フ結果ヲ生ズルニ足ル考ヘヲ私ハ持ツテ居ル案ヲ具ヘテ出スコトハ出來マセヌカラ削除說ニ贊成スルノデアリマスガ斯ウ云フ案ヲ出シタラドチラノ趣意モ通ルダラウト思フノハ外デモアリマセヌガ八十七條ニアル通リ此法律デハ物トハ有體物ヲ言フノデアルト云フ例ニ倣ヒマシテ此法律中デ土地ト言ツタナラバ家屋モ何モ所謂定着物モ包含サレルモノデアルト云フ意味ノ箇條ヲ後トデ加ヘルト云フ精神ヲ只今ハ八十九條ヲ削除スル然ウシタナラバ寧ロ起草者ノ感ゼラルル樣ナ不便モ又反對ノ趣意モ通ルデアラウト思フ
富井政章君
此條ハ斯ウ云フ風ニ改マツテモ強ヒテ反對デハナイ當事者ノ契約ハ狀況ニ依テ解釋スル卽チ意思ノアル所ヲ探ツテ解釋ヲスルトシテ置イテ此本法ニ於テ只土地ト言ヘバ其土地ノ上ニアル家屋モ含ムト云フコトニスル本法ノ規定ハ矢張リ當事者ノ意思ヲ探ツテ極メル規定ガ大部分ヲ爲シテ居ルノデ別シテ斯ウ云フ事柄ニ關スル規定ト云フモノハ其性質ヲ持ツテ居ルモノト思フノデアリマス夫レデ多クノ場合ニ於テ當事者ノ意思ハ然ウ云フモノデアラウト云フコトヲ立法者ガ見テ唯土地ト言ヘバ土地ノ上ニアル一切ノ物ヲ含ムト見ルト然ウスレバ大變短クナル、不動產ノ賃貸借ニ關スル箇條ヲ改メヌデモ濟ムシ抵當權ニ關スル箇條モアノ書キ方デ宜イ夫レデ然ウ云フ風ニ書ケバ宜イ、例ヘバ本法ニ於テ只土地ト云フトキハ其土地ノ上ニアル建物モ合セテ言フノデアルト云フ風ニナルガドウモ講釋臭クテ如何ニモ書キ憎イ名文ガ出レバ贊成シマス之ヲ取ルト理窟カラ言ヘバ大變不釣合ト思ヒマスケレドモ併シ私ハ是レガナクテ此通リジヤト思フノデアリマスカラ自分丈ケハ些ツ共困ラナイ
議長(箕作麟祥君)
決ヲ採ツテ宜ケレバ決ヲ採リマス只今ノ長谷川君ノ本條削除說ニ贊成ノ諸君ハ起立ヲ請ヒマス
起立者半數
議長(箕作麟祥君)
半數デス、夫レデハ議長ハ削除說ニ贊成ヲ致シマス是レハ起草委員カライツデモ御案ガアリマスレバ御出シニナルコトガ出來マス
梅謙次郎君
若シ其必要ガアレバドウカ然ウ願ヒマス
議長(箕作麟祥君)
夫レデハ九十條
富井政章君
第一項ノ「以テ」ヲ取リマシタ譯ハ其前ニ以テト云フコトガアル以テ以テデ甚ダ不都合デアラウト思フ此處ニハ以テガナクテモ濟ムコトデアル且ツ次ノ條トノ體裁ガアリマシタカラ削リマシタ夫レカラ二項ニ但書ヲ加ヘマシタノモ實體變更デハナイ是レハ最初置イテアツタノガ削除ニナリマシテ今又茲ニ提出致シマス譯ハ外ト權衡ヲ取ツテ入レタノデ外ハ本條ヨリハモツト遙ニ疑ノ少ナイ場合ニモ皆言ツテアル本條ノ如キハ此但書ガナケレバ外ト體裁ガ權衡ヲ失フノミナラズ疑ガアリサウニ思ヒマス夫レカラ今一ツノ理由ハ初メハ反對ノ意思アルトキハ此限ニ在ラズト云フ其書キ方ガ餘程面白クナイト云フ說ガ起ツタ夫レガ或ハ一ツノ理由デアツタカモ知ラヌ夫レデ斯ウ云フ所ハ別段ノ定メト云フコトニ書クコトニ極マリマシタカラ外ト同ジ樣ニ別段ノ定ト書ケバ聞ヘモ宜クナルノデ旁々置イタノデゴザイマス
菊池武夫君
別段ト云フノハ例ヘバドウ云フコトデスカ
富井政章君
幾ラモアル物權ノ百七十七條夫レカラ共有ノ所ニ一ツアリマス
議長(箕作麟祥君)
別ニ但書ノ削除說モゴザイマスレバ朱書ノ通リ決シマシテ次ヘ往キマス
富井政章君
「天然」ト云フ字ヲ此條ト次ノ條ニ入レマシタ譯ハ是レモ旣ニ極マツテ居ルコトデアツテ先キニ果實ニ關スル規定ニ付テ天然果實ト法定ノ果實ト規定ヲ異ニスベカラザル性質ノ物ガ多イ其時ニ一々果實及ビ法定ノ果實ト書クト體裁ガ惡ルイ、口調ガ惡ルイ夫故ニ然ウ云フ所ハ皆果實ト極マツタ其代リ此二條ニ於テハ片方ノ方ハ天然果實トシテ置ケバ宜イト云フコトニ極マツテ居ツタ、夫レカラ「有價」ノ二字ヲ削リマシタ譯ハ時效ニ關スル百六十九條ノ規定ト合セタノデアソコニ有價ノ二字ヲ入レルカ此方ラノ二字ヲ消スカデアリマスガドウモ差支ガナイト思ヒマスカラ削ルコトニ致シマシタ
議長(箕作麟祥君)
御異論ガナケレバ確定シタモノト見マス夫レデハ其次ノ九十二條、是レモ「天然」ト云フ字ガ這入ツタノト「取得ス」ノ上ニ「之ヲ」ノ二字ガ這入ツタ丈ケデアリマス
富井政章君
是レハ外ノ例ニ倣ツタノデアリマス
議長(箕作麟祥君)
是レモ御異論ガナケレバ確定致シマス九十四條ハ「無效ハ」ノ下ニ「之ヲ以テ」ガ這入リ「對シテ之ヲ主張ス」ガ「對抗」ト文字ガ改マリマシタ
富井政章君
是レモ例ニ倣ツタノデアリマス次ノ九十六條ニ「之ヲ以テ善意ノ第三者ニ對抗スルコトヲ得ス」トアリマス此處丈ケ主張スルコトヲ得ズトアツタ譯ハ初メ之ヲ以テト云フコトガナカツタカラデアリマスガドウモ夫レデハ文章ガ穩カデナイト思ヒマシテ斯ウナツタ先ヘ往ツテ皆之ヲ以テト言ヘバ對抗ト云フ言葉ハ大抵宜イコトニナツタ
横田國臣君
異議ナシ
議長(箕作麟祥君)
御異議ガナケレバ確定シマス夫レカラ九十九條ノ「法定」ト云フコトハ是レハ前ニ極マツタコトデアリマス夫レカラ百五條ノ「復代人」ガ「復代理人」トナツテ先モ皆斯ウナツテ居リマス
富井政章君
是レハ矢張リ復代人ト云フヨリ「復代理人」ト言ツタ方ガ體裁ガ宜イト思ツタ丈ケデアリマス
長谷川喬君
一寸伺ヒマスガ「裁判所ノ命令」ト此處ニアリマスガ百三十九條ニハ「裁判上ノ命令」トアリマスガドウデスカ
富井政章君
裁判上ト書イテアル所ハ裁判官一人ノ命令モアルト思ツタ裁判所ト云フ所ハ裁判官全體ト云フ積リデアリマス
梅謙次郎君
先キニ裁判上ト云フ文字ヲ使ヒマシタノハ私ガ一番始メデアリマスガ夫レハ破產主任官ト云フ者ガ命令ヲ下ス夫レハドウモ裁判所ノ命令トハ言ヘマイ、夫レデ裁判上ノ命令トヤツタ、復代理人ニハ然ウ云フコトハナカラウト思ヒマシタガ若シ然ウ云フコトガアリマシタナラバ此方ラモ矢張リ裁判上デナケレバイカヌ
議長(箕作麟祥君)
御異議ガナケレバ「代人」ハ「代理人」トナリマス夫レカラ百六條是レハ一寸朗讀致シマス
(書記朗讀)
第百六條 前條ノ場合ニ於テ復代理人ヲ選任シタルトキハ代理人ハ其復代理人ノ選任及ヒ監督ニ付キ本人ニ對シテ其責ニ任ス本人ノ指名ニ從ヒテ復代理人ヲ選任シタルトキハ代理人ハ復代理人ノ不適任又ハ不誠實ナルコトヲ知リテ之ヲ本人ニ通知スルコトヲ怠リ又ハ解任スルコトヲ怠リタルニ非サレハ其責ニ任セス
富井政章君
本條ハ少シ實質改正ニナリマス併シ議決ノ當時ニ遡ツテ考ヘ又前條ノ原則ト照シ合セテ考ヘマスト斯ク改メテ戴クコトニナツテモ整理ノ範圍ヲ踰エルコトハナカラウト思フ加之ナラズ之ガ卽チ整理ノ本旨デアラウト思フ旣成法典ハ本案ト全ク違ツタ原則ヲ取ツテ居ル卽チ特ニ復代理ヲ禁ジナイ限リハ復代理ガ出來ルト云フ主義ヲ取ツテ居ル而テ其場合ニ付テ元ノ百六條第一項ノ如ク重イ責任ヲ代理人ニ負ハセテ居ル然ルニ本案ニ於テハ默マツテ居レバ復代理人ハ出來ナイト云フ主義ヲ取ツテ居ル卽チ本人ガ特ニ許諾スルカ或ハ夫レト同ジヤウナ強イ理由ノアル場合ノ外ハ復代理人ヲ選任スルコトガ出來ヌト云フ主義ヲ取ツタ夫故ニ復代理ヲ爲スコトハ詰リ本人ノ意思ノ實行デアル其他ニ何モ強イ理由ハナイ、シテ見レバ旣成法典ガ特ニ復代理ヲ禁ジナカツタト云フ丈ケノ場合ニ代理人ニ責任ヲ負ハセルト云フコトハ如何ニモ重キニ過ギテひどいコトデアラウト思フ旣成法典ノ主義ト本案ノ主義ト違ウコトハ我々ハ固ヨリ此代理ノ條文ヲ起草スルトキニ氣付イタコトデアル、意ヲ以テ旣成法典ノ主義ヲ退ケタノデアリマス併シ此百六條ノ場合ニハ是丈ケノ責任ヲ代理人ニ負ハセテモ宜カラウト思ツタガ併シ其後能ク々々考ヘテ見ルトドウモ是レデハイカヌ重キニ失シテ前ノ箇條ノ原則ト衝突スルト云フ廉ヲ以テ此整理ノ範圍ニ入ラウト思フ是レハドウカ此通リニ改メテ戴キタイ卽チ選任ト監督トノミニ付テ責任ガアルト云フコトニ致シタイ
菊池武夫君
序ニ御說明ヲ願ヒタイノハ今ノ修正ガアルニモ拘ハラズ二項ヲ存セラレタイト云フノハドウ云フ譯デアリマスカ同ジコトニハナリハシマセヌカ
富井政章君
二項ハ復代理ヲ爲スナラバ何ノ某ニ任セヨト云フノデ一層本人ノ意思ヲ實行シタ場合デアラウト思フ其場合ニ全ク責ガナイトスルノハ如何ニモ輕キニ失スルト思フ前條ヨリモ責任ハ一層輕イ譯デアル尙ホ一言附ケ加ヘマスガ是丈ケノ責任ガナイトスレバ全クナイモ同ジ樣デアル然ウスレバ元トノ代理ガ消ヘテ新規ノ代理ガ出來ル通常ノ代理デ濟ム譯デアル苟モ復代理ト云フモノヲ認メル以上ハセメテ是レ丈ケノ責任ハ代理人ニ持タセテ置ク方ガ至當ト考ヘル
議長(箕作麟祥君)
別ニ御異論ガナケレバ是レデ可決セラレタモノト認メマス夫レカラ百八條二項
(書記朗讀)
復代理人ハ本人ニ對シテ代理人ト同一ノ權利義務ヲ有ス
富井政章君
是レハ不足ヲ補ツタノデ別ニ新規ノコトヲ入レタノデハナイ復代理人ガ復復代理人ヲ選任スルト云フ場合ニ百五條乃至百七條ノ規定ハ無論適用セラレルモノデアルト考ヘル又次ノ百九條ノ規定モ適用サレニヤナラヌト考ヘル然ルニ是等ノ箇條ニハ只代理人トアル、實際ハ疑ハ起リマスマイト思ヒマスガ文字ノ上カラ疑ガ起ルト思ヒマス夫故此一項ヲ置ク必要ガアラウト思ヒマス
高木豐三君
一寸伺ヒマスガ此二項ハ復代理人ガ復代理人ヲ選ンダ場合デアリマスカ
富井政章君
夫レハホンノ一例デ然ウ云フコトハ無論默ツテ居レバ出來ルト思フ無論本人ノ許諾ヲ得タル時トカ法令又ハ裁判所ノ命令ヲ以テシナケレバ出來ナイト云フ主義ヲ取ツテ居リマスケレドモ其範圍内ニ於テハ出來ル然ウ云フ場合ニドンナ責任ガアルカト言ヘバ百六條ノ責任ガアル夫レニ背イテ復代理人ヲ選任シタ場合ニハ百九條ノ規定ガ行ハレナケレバナラヌト思フ
高木豐三君
然ウスルト此文章デハ然ウ云フコトハ這入ラヌ樣ニ思ヒマスガ「復代理人ハ本人ニ對シテ代理人ト同一ノ權利義務ヲ有ス」ト云フコトハ卽チ本人カラ選バレテ委任サレタル代理人ガ復代理人ヲ選ブコトヲ許シタカラ其選バレタ復代理人ハ本人ニ對シテ自分ニ復代理ヲ命ジタト同一ノ權利義務ヲ有スト云フ樣ニ見ヘテ復代理人ガ復代理ヲ選ンダ時ノ場合ト云フコトハ此文章丈ケデハ見ヘヌヤウニ思ヒマスガ
富井政章君
文章ハ惡ルイカモ知レマセヌガ本人ニ對シテ同一ノ權利義務ヲ有スト言ヘバ百五條ノ場合ニ復代理人ヲ選任スルコトガ出來ル選任シタ時ニハ百六條ノ義務ガアルゾト云フコトハ同一ノ義務ヲ有スト云フコトニナル
議長(箕作麟祥君)
今ノ高木君ノ御問ノコトハ外ノ場合モ含ムノデアリマスガ
富井政章君
無論デアリマス例ヘバ百九條抔ノ如キコトガ行ハレル
梅謙次郎君
寧ロ前說ノ規定ガ當嵌マル
横田國臣君
「本人ニ對シテ」ト云フノヲ削ツテハドウデスカ
富井政章君
然ウスレバ高木君ノ疑ハ尙ホ起ルデスナ
横田國臣君
矢張リ代理人ト同ジコトデアルカラシテ本人ニ對シテハ無論ノ話デアル
富井政章君
本人ニ對シテト云フ言葉ヲ除ケバ第三者ニ對シテト云フコトモ這入ルコトニナル
高木豐三君
私ハ寧ロ實質上カラ第二項ハ入レヌ方ガ宜カラウト云フ考ヘデアリマス其理由ハ第百五條ノ原則ニ依リマシテモ「代理人ハ左ノ場合ニ非サレハ復代理人ヲ選任スルコトヲ得ス」寧復代理人ヲ選任スルト云フコトガ最早例外デアルト云フ主義ヲ取ツテ居ル其例外ト云フモノハ明カニ法令トカ裁判所トカ或ハ本人事情已ムヲ得ザル場合トカ場合ガ限ツテ餘程狹隘ニシテアル卽チ復代理人ヲ選バナイト云フノガ寧ロ原則デアル、其例外ノ規則ニ依テ選バレタ復代理人ガ又夫レヲ選ブト云フコトニナルト寧ロ復代理人ハ勝手次第ニ選ブコトガ出來ルト云フ樣ニシタ方ガ宜カラウト思ヒマスカラ削除說ヲ出シマス
梅謙次郎君
一寸削除說ノ御方ニ伺ヒタイノデアリマスガ私共ハ之ヲ削除シタ所ガ實質ニ於テ毛頭變ハルコトハナイト思フ卽チ復代理人ト云フ以上ハ就中此百八條ニ於テ「復代理人ハ其權限内ノ行爲ニ付キ本人ヲ代表ス」トアレバ此代表スト云フコトハ矢張リ代理デアルト云フコトヲ確メタノデアリマスカラ無論夫レハ疑ハナイト思ツテ居ツタノデアリマスガ尙ホ能ク考ヘテミマスト復代理人ト云フ名ガ附イテ居ルカラ本人ヲ代表スルト云フコトハアルガ其他ノコトハ當嵌ラヌ其例ハ富井君ノ言ハレタ如ク百七條乃至百九條ノ如キ其他百十條以下ニ付テモ代表ノ事柄ダケデナイ代表ノ仕方ニ付テノ規定デアルカラ是レモ當嵌ラヌト云フ說ガ出ルカモ知ラヌカラ寧ロ明瞭ニ書イテ置ク方ガ宜イト云フノデ斯ウシタノデアリマス今高木君ノ御論ハ是レハ實質上イカヌ何ゼナラバ復代理人ハ滅多ニ許サヌト云フノハ復代理人ガ復代理人ヲ選ブコトガ出來ル樣ニナツテハ勝手次第ニナルト同ジダト言ハレマシタガ夫レハ私共ノ缺ル所ト違ウ夫レハ復代理人ガ復代理人ヲ選ブ場合デモ百五條デ削除サレル隨分商業上抔デ代理人ガ番頭ヲ選ブ其番頭ガ丁稚ヲ選ブト云フ場合ハ復代理人ノ復代理人デアル夫レカラ又本人ノ許諾ヲ得タ是レハアリサウナコトデ甲ト云フ者ニ或ル事ヲ頼ンデ置イテオマヘノイカヌ時ハ誰某ニ頼ンデ呉レ其誰某ガ差支ヘル時ニハ誰某ガ最モ適任ト云フコトヲ命ジテ使フテモ宜イ急迫ノ必要ノアル時ニハ復代理人ノ復代理人ノ又其復代理人モアリ得ル夫レデアルカラ之ガ爲メニ復代理人ヲ勝手ニスルト云フコトハナイ矢張リ制限サレテ居ル旣成法典ト何處マデモ反對デアル假令ヒ適用ノ範圍ガ狹クナツテモ其權限其權利義務ト云フモノハ復代理人ト同ジデアツテモ主義ニ於テ少シモ牴觸シナイ、削除ニナツテモ私一己ノ考ヘデハ殘念トハ思ヒマセヌガ削除ニナルト却テ削除說御提出ノ御方ノ精神ト反對ノ結果ニナルト思ヒマスカラ其事ヲ一寸一言シテ置キマス
高木豐三君
此儘デ置イテモ又削ツテモ同一ノ解釋ニナルカラト云フコトデアリマシタガ然ウ云フコトナラバ強ヒテ削ラヌデモ同ジコトデアリマス今梅君ノ仰セニナツタ所ヲ考ヘテ見ルト一ツノ主人ノ代理人タル番頭ガ旣ニ復代理人ヲ二番目ノ番頭ニ任ジテ居ル夫レガ又故障ガ出來テ復代理人ヲ任ジナケレバナラヌト云フ樣ナ場合ニドウシテ裁判所ガ代人ヲ十分保護スル樣ナ場合ガアリマセウカ然ウ云フ場合ハ決シテナイト思フ而テ本人ノ許諾ヲ得テ居ルト云フコトデアリマスレバ本人ガ任ズルノト同ジコトデアル又急迫ノ時ハ無論ノコトデアリマセウ、只然ウデナシニ私ガ勝手次第ニ任ゼラレルト云フノハ不都合デアツテ百五條丈ケニ限ルカラ不都合ハナイト云フコトデアリマスレバ百五條ノ場合ニ當ルトシテ別ニ此項ヲ置クノ必要ハナイノミナラズ第一、代理ト云フコトハ申ス迄モナク信用上ニ出テ居ルコトデアリマスカラ際限モナク何處マデモ許ス必要ハナイト思フ
長谷川喬君
私ハ高木君ノ御說ニ贊成デアリマスガ代理人ト本人トノ關係ハ全ク其人ヲ信用スルカラ起ツタノデアル復代理人ト云フモノハ本案ニモ制限セラレテアル通リ已ムヲ得ナイ場合デ一度丈ケハ許シテ宜イガ二度モ三度モ許サナケレバナラヌト云フ必要ハアルマイト思ヒマスガ梅君ハ商業上抔デ代理人ガ復代理人ヲ命ジテ其復代理人ガ又復代理人ヲ命ズルト云フコトハ必要デアルト言ハレマシタガ若シ商業上然ウ云フ必要ガアリマスレバ商業上デ極メルガ宜イ商業上ニ然ウ云フ必要ガアルカドウカ知リマセヌガ旣成法典ニ依ルト反對ノコトガアル若シ許ス必要ガアルナラバ商法デ極メルガ宜イ
富井政章君
急迫ノ必要ノ場合ハ最モ困リハシマセヌガ例ヘバ急病ニ罹ツタ時或ハ急ニ公務デ旅行ノ時ト云フ樣ナ時分ニハ代理ヲ許サヌト餘程困マル、其時ニハ事務管理デ出來ルト云フコトモアリマスガ結果ガ違ウノミナラズ其理由ガ正シイトスレバ代理人ニ付テモ第百五條ノ第三號ノ規定ハ要ラヌ
横田國臣君
一寸高木君ニ御尋ネシマスガ高木君ノ御說ハ最早復代理人ト云フモノハ丸キリ選ブコトハサセナイト云フ次第デアリマスカ之ヲ取ルト云フ趣意ハ一體復代理人ガ他ノ者ニ對シテ本人ト同一ノ義務ヲ有スルコトハ無論ノコトダ只然ウスルト此復代理人ガ又復代理人ヲ選ブト云フコトヲサセヌト云フノデアリマスカ
高木豐三君
然ウデナイ復代理人ヲ選ブト云フコトヲ代理人ガ委任サレテ居レバ自分ノ復代理人ヲ選ブ丈ケデ其復代理人ガ又復代理人ヲ選ブト云フコトハ不都合デアルト思フ
横田國臣君
夫レハ困マルケレドモガ斯ウ云フ場合ガアラウト思フ復代理人ガアル其復代理人ガ本人ノ許諾ヲ得テ私ハ斯ウ云フ譯デアルカラ選ビタイ或ハ病氣デ以テ今金ヲ受取ラナケレバナラヌ所ニ受取レヌカラ復代理人ヲ選ブト云フ場合モアラウ
高木豐三君
其場合ニハ本人カラ直接ニ受ケタ時ニハ復代理人ヲ選ブノデナシニ本人ノ代理デアル代理人ガ復代理人ヲ選ブノデアルカラ復代理人ガ復代理人ヲ選ブ範圍ノ内デ出來ル
横田國臣君
夫レダカラ宜イジヤナイカ「本人ノ許諾ヲ得タルトキ」トアルカラ復代理人ガ本人ノ許諾ヲ得テ選ブノハ差支ナイ
議長(箕作麟祥君)
決ヲ採リマセウ第百八條ノ朱書ヲ加ヘルト云フ原案、之ヲ削除スルト云高木君ノ說ニ贊成ノ諸君ハ起立ヲ請ヒマス
起立者少數
議長(箕作麟祥君)
少數、横田君ノ御說ハ贊成者ガナイ樣デアリマスカラ問題ニナリマセヌ夫レデハ確定致シマス
富井政章君
第百十五條ニ小サナ修正ヲ致シタイ「若シ本人カ其期間内ニ追認ヲ爲ササルトキハ之ヲ拒絶シタルモノト看做ス」トアリマス是レハ本條ニ似タ條文ガ前ニアルカラ夫レト同ジ樣ニシタ方ガ宜イト思ヒマス夫レハ第二十二條ノ第一項ノ終ニ「確答ヲ爲ササルトキハ其行爲ヲ追認シタルモノト看做ス」トアルカラ是レハ「追認」ヨリモ「確答」ト言ツタ方ガ宜イ夫レデ「確答ヲ爲ササルトキハ」ト改メタイ
議長(箕作麟祥君)
御異議ガナケレバ然ウシマス
富井政章君
モウ一ツ百十九條ニ「又ハ其代理權ヲ爭ハサルトキニ限リ」トアリマス是レハ他ノ文例ニ依レバ「爭ハサリシトキニ限リ」トナラナケレバナラヌ
議長(箕作麟祥君)
御異議ガナケレバ然ウシマス、夫レカラ第百二十二條ノ二項ガ第百二十一條ノ二項ニナル
梅謙次郎君
是レハ全ク誤植デ今度改メルノデアリマセヌ夫レト同時ニ一ツ御願ヒシタイノハ百二十二條ニ「利益仍ホ存スルトキニ限リ」トアル、アレヲ外ノ文章ト比ベテ見マスト違ツテ居ル殊ニ類似シマシタノガ後トニ二ツアル一ツハ占有ノ所デアリマス占有ノ所ノ第百九十六條第二項「其價格ノ增加カ現存スル場合ニ限リ」トアル夫レカラ今一ツハ先取特權ノ所デ第三百二十六條ノ第二項デス此處ニハ不動產ノ增加カ仍ホ存スルトキニ限リ」トシテアリマス之ヲ一樣ニシナケレバナラヌガ「利益カ現存スルトキニ限リ」ト改メタイ積リデアリマス意味ハ少シモ違ハナイノデス夫レカラ序ニ次ノ第百二十三條ノ「之ヲ追認スルトキハ」ハ「之ヲ追認シタルトキハ」トスルノガ是迄ノ文例デアリマス
議長(箕作麟祥君)
夫レデハ御異論ガナケレバ確定トシマシテ百二十五條ハ「アル」ト云フノガ「アリタル」トナツタ丈ケデアリマス
梅謙次郎君
百二十六條ニ少シ改メタイ所ガアリマス一項二項共ニ「經過スルトキハ」トアリマスガ外ノ例ニ依リマストイヅレモ「經過シタルトキハ」ト云フコトニナラナケレバイケマセヌ夫レカラ「時效ニ罹ル」ト云フ文字デアリマスガ之ヲ議シマシタ當時ハ外ニ良イ字ガ見當リマセヌデシタカラ斯ウシテ置キマシタガ其後ニナツテ「時效ニ依リテ消滅ス」ト云フ文字ニ改メテ戴キタイ
議長(箕作麟祥君)
夫レデハ只今ノ通リニシテ先ニ移リマス
穗積陳重君
第四節ニ於キマシテ一二改メタイト思ヒマス第百三十條ニ「條件ノ成就ニ因リ」トアリマスガ是レハ「因リテ」トナリマス夫レカラ第百三十一條ノ末項ノ所ニ「規定ヲ適用ス」ト御座イマス是レハドウモ是迄ノ適用準用ノ用例ニ依テ考ヘテ見マスト全ク適用ト云フコトガ六ケシイ樣デアリマス如何トナレバ第百二十八條及ビ第百二十九條ト云フモノハ條件未定ノ間ヲ規定シタノデアリマス百三十一條ハ條件ハ旣ニ成就シタトカ又ハ成就シナイトカ云フノデアリマスカラ矢張リ準用ト致シマシタ方ガ穩カデアラウト思ヒマス夫レカラ次ノ百三十二條ニ「不法ノ行爲」トアリマス是レハ後ノ留置權ノ所ニ「不法行爲」ト致シマシタカラ之ヲ揃ヘマス爲メニ矢張リ「不法行爲」ト云フコトニ致シタイト思ヒマス
議長(箕作麟祥君)
「不法ノ」ト外ニモアリマスカラ「不法ノ」ト言ツテモ宜イデハアリマセヌカ
穗積陳重君
格別ノコトデハナイノデアリマスガ留置權ノ所ハナイ方ガ宜イ樣デアリマス
梅謙次郎君
揃ヘヌデモ宜イト云フナラバ強ヒテ反對ハシナイ
議長(箕作麟祥君)
夫レデハ不法行爲トヤリマス
梅謙次郎君
第百四十二條ノ第一項ニ「期間末日ノ終了」トアリマスガ次ノ條ニハ「期間ノ末日カ」トアリマスカラ「ノ」ノ字ヲ加ヘテ戴キタイ夫レカラ時效ノ所デ第百四十六條ニ「時效ハ當事者之ヲ援用スルニ非サレハ裁判所之ニ依リテ裁判ヲ爲スコトヲ得ス」トアリマスガ近頃ノ文例ニ依リマスト「當事者カ之ヲ援用スルニ非サレハ裁判所之ニ依リテ裁判ヲ爲スコトヲ得ス」ト云フコトニナリマス
長谷川喬君
異議ナシ
梅謙次郎君
第百五十一條デアリマスガ是レハ民事訴訟法ノ文例ニ倣ツタノデアリマス併シ乍ラ一寸考ヘルト「權利拘束ノ效力ヲ失フトキハ」トアルト權利拘束ガ其效力ヲ失フト云フノデアルカ又ハ支拂命令ガ權利拘束ノ效力ヲ失フノデアルカ是レデハ分ラヌカト思ヒマス民事訴訟法デハ權利拘束ガ其效力ヲ失フト云フヤウニ使フテアル樣ニ見ヘマスガ若シ然ウデアルナラバ「支拂命令カ權利拘束ノ效力ヲ失フトキニハ」ト書カナケレバナラヌノデスガ如何々々デセウカ
高木豐三君
私ハ是デ一向不都合ハナイト思ヒマスガ申ス迄モナク支拂命令ト云フモノハ異議ノ申立ニ依テ支拂命令ノ效力ハナクナル支拂命令ノアル間ハ必ズ權利ノ拘束ハアル併ナガラ支拂命令ガ效力ヲ失ツテモ權利拘束ノ效力丈ケ殘ツテ居ル場合モアルノデアリマスガ權利拘束ノ效力ヲ失フトキハト言ヘバ無論支拂命令ノ效力ガナクナツテ仕舞ツタノデ詰リ支拂命令ヲ發シタルトキハト云フヤウナ意味ニ解スレバ一向差支ナイト思フ
長谷川喬君
異議ナシ
議長(箕作麟祥君)
其次ハ第百五十二條「一个月」ガ「三十日」トナツテ居リマス
梅謙次郎君
是レハ一个月ト爲ルト或ハ二十八日或ハニ十九日モアリ或ハ三十一日モアツテ場合ニ依テ然ウ云フ日數ノ異ナル樣ナ期間ハ宜クナイ夫故ニ三十日トシタノデアリマス
長谷川喬君
然ウスレバ二个月ト云フノハ六十日ト直スノデアリマスカ
梅謙次郎君
夫レハ然ウデアリマセヌ三十日ト云フノハ餘リ長クナイ日數デアル長クナイ日數ノ内デ例ヘバ三十一日ト二十八日トアツタナラバ三日違ウ丁度一割違ウ夫レハ餘リヒドイ夫レカラ二个月ニナルト幸ニシテ皆大ニナル夫レデスカラドンナニ少ナカツタ所ガ五十九日ヨリ少ナクナラヌ七月八月ノ樣ニ大ガ二ツ續イタ時ハ六十二日ニナル一个月ニ付テ一割違ウヨリハ二个月ニ付テ一割違ウノハ然ウデナイ併シ二个月モ六十日ニナルガ宜イト云フコトデアレバ私丈ケハ異議ハナイガ九十日百八十日三百日三百六十日トナツテハ困マル
長谷川喬君
併シ此法律ニ於テ一介月ハ三十日二企月以上ハ月ニスルト云フ必要モアルマイト思ヒマスカラ矢張リ元ノ通リ月デ宜カラウト思ヒマス
南部甕男君
贊成
議長(箕作麟祥君)
決ヲ採リマス、只今ノ長谷川君ノ元ノ字ニスルト云フ說ニ贊成ノ方ノ起立ヲ請ヒマス
起立者半數
議長(箕作麟祥君)
半數、夫レデハ是レデハ黒字ノ通リニシマス
梅謙次郎君
夫レデハ前ノ二十二條ニ三十日トアルノモ一个月ニシテ戴キタイ
議長(箕作麟祥君)
外ニアリマセヌカ
梅謙次郎君
ナイ積リデアリマス
穗積陳重君
第八十條ニ六十日ト云フノガアリマス
梅謙次郎君
アレモ直スコトニシテ戴キマセウ
高木豐三君
斯ウ云フ所ハ日ノ方ガ宜イ樣デアル
穗積陳重君
八十條ハ日ノ方ガ宜イ
梅謙次郎君
夫レデハドウカ是レハ再考ヲ許シテ戴キタウゴザイマス
議長(箕作麟祥君)
宜シウゴザイマス
梅謙次郎君
百五十五條ニ「差押、假差押及ヒ假處分ハ」トアリマスガ近頃ノ文例デハ斯ウ云フ所ハ「假處分カ」ト云フ方デアリマス
横田國臣君
此處ヲ「カ」ト云フト主格ニナツテ何ガ時效中斷ノ效ヲ生ズルノカ分ラヌ
梅謙次郎君
初メノ文例ノ内ニ「カ」ト云フ主格デ此文章ガ初マツテ同ジ主格デ同時ニ來ル場合ニ於テハ再ビ主格ヲ言ハナイ夫レガ日本ノ文章ニハ珍ラシクナイ樣デスガ
長谷川喬君
「ハ」ノ方ガ宜イ
議長(箕作麟祥君)
「ハ」ノ方ニ贊成ノ諸君ハ起立ヲ請ヒマス
起立者多數
議長(箕作麟祥君)
多數
梅謙次郎君
百五十七條ノ「之ニ關シテ」ヲ「其權利ニ關シテ」ト改メタ夫レハ殆ンド說明ヲスル迄モナク「之」ト云フノガ何ンダカ分ラヌ
長谷川喬君
異議ナシ
梅謙次郎君
一寸百五十九條デアリマスガ此條ハ前ニ會議ノ時ニドナタカラカ此文章ハ宜クナイ文章デアルカラ考ヘテ見ロト云フコトデアリマスガ成程虛心ニ讀ンデ見ルト可笑シイガ意味ハ時效ガ完成スベキトキニ當リ未成年者又ハ禁治產者ガ法定代理人ヲ有セザルトキハ、其時ニ法定代理人ガナカツタトキハ法定代理人ガ就職シタルトキヨリ云々ト云フノデ時效ガ完成スベキ時ニ當リト云フ文字ヲ頭ニ入レテ戴ケバ其意味ガ貫カウト思ウ
横田國臣君
夫レハナイ方ガ餘程宜イ
議長(箕作麟祥君)
今ノ時效ガ完成スベキ時ニ當リト云フ文字ヲ入レナイ方ガ宜イト云フコトニ贊成ノ方ハ起立ヲ請ヒマス
起立者少數
議長(箕作麟祥君)
少數、夫レデハ入レルコトニシマス
長谷川喬君
百六十一條ノ所ハ時效ノ完成スベキ時ニ當リト云フコトハ要ラナイノデアリマスカ夫レカラ百六十二條ニハ「時效ノ期間滿了ノ時ニ當リ」ト云フコトガアルガ期間滿了ト云フコトト時效ノ完成スベキ時ト云フノトハ違ヒマスカ
梅謙次郎君
百六十一條ハ文章ノ書キ方ガ違ツテ居リマスカラ是レハ何モナクテ宜カラウト考ヘル併百六十二條ト前ノ箇條ハ御注意ノ通リ同ジニナラナクテハイカヌノデス、前ノ百五十九條モ百六十二條ノ樣ニシテ戴キタイ
横田國臣君
然ウスルト此修正デナイ樣ニナル夫レハ何ゼカト云フト例ヘバ今日ガ時效ガ完成スベキ時デアツテ今日持ツテ居ラナケレバト云フ風ニナル
梅謙次郎君
初メカラ然ウデス
横田國臣君
私ハ然ウハ思ハナイ例ヘバ昨日デモ一昨日デモ時效ガ滿了スル併ナガラ法定代理人ニ一昨日命ジタ其法定代理人ヲ持ツタ場合ハマダ三日シカナイ此場合ニ於テ私ハ六介月ト云フコトハ言ヘヌ昨日法定代理人ガ出タラバ役ニ立タヌト言ツテハイカヌ矢張リ法定代理人ヲ有シタ時カラ六个月ハイツデモ宜シイ又其者ガ能力者トナツタ時カラ六个月ナライツデモ宜イト云フコトデナケレバ實際不都合デス夫レヲ時效ノ期間滿了ノ時ニ當リト云フト今日シタ其時分ニ持ツテ居ラナケレバナラヌト云フノデ期限後ニヤツタナラバ最早詰マラヌ夫レデ私共ノ解スル所ノモノトハ違ウ
梅謙次郎君
夫レハ少シ御無理ノ御考ヘデハアリマセヌカ元ノ儘デアツタ所ガ未成年者又ハ禁治產者ガ法定代理人ヲイツカ有シテ居ラナカツタトキハト云フノデアル
横田國臣君
イツカト云フコトハ時ノ制限ニナル夫レジヤカラシテ六个月持ツテ居リサヘシタナラバ丁度終リノ時ノ六个月ヲ持ツテ居リサヘスレバ宜イ樣ニナルイツカ持ツテ居ツタ所ガ後ニ持タネバイカヌト云フコトハ分ツテ居ル、終リノ六ケ月間自分ガ能力者デアツタノカ或ハ法定代理人ガ六ケ月出來テ居ツタカデナケレバイカヌ左モナケレバ道理カラ言ツテモ無理ナ話シデアル今日能力者ニナルト云フノナラバイカナイガ昨日能力者ニナツタナラバ最早時效ガ完成スルト云フナラバ大變無理ダ私ハ以前ノ時カラ然ウハ解シテ居ラヌ
梅謙次郎君
横田君ハ然ウ解シテ居ツタカ知ラヌガ私共ハ然ウハ思ハヌ法定代理人ヲ有セザルトキト云フコトハ必ズ其時ガ極マツテ居ラナケレバナラヌ其時效ノ完成スベキ時ニ夫レガナカツタナラバドウ云フ意味デアルト云フコトガナクテモ分カルト云フ仰セノ方ハナクテモ分ルノデアラウト思フ然ウデナシニ完成シタ時ヨリ三日ト云フカラ大變御尤モノ樣ニ聞ヘマスガ後ト六ケ月ハ宜イト云フノハヽヽヽヽヽ
横田國臣君
後ト一个月ハ宜イ
梅謙次郎君
然ウ云フコトデアルト元ノ黒字ノ儘デアルト讀メマスガ
横田國臣君
然ウ讀マナケレバナラヌ道理ニナツテ來ル何ゼナラバ六ケ月ト云フモノハ猶豫ヲシナケレバナラヌト云フコトハ原則ニナツテ居ル、前カラデモ六个月デナケレバナラヌト云フコトハ當然ノ道理カラ出テ來ルト思フ
議長(箕作麟祥君)
モウ一遍決ヲ採ラナカツタラ是レハイツ迄モ仕方ガアリマスマイ、起草委員カラ又變ツテ來タノデアリマスカラ仕方ガナイ、サツキノハ止メテヽヽヽヽヽ
富井政章君
然ウ云フノデハアリマセヌ時效ガ完成スベキ時ニ當リト云フコトハ旣ニ極マツテ居ル夫レヲ變ヘルノデアリマスカラ今ノ案ガ倒レタラ矢張リ時效ノ完成云々ト云フコトハ極マラナケレバナラヌ譯デアリマス
穗積陳重君
横田君ノハ一ツノ動議デ實質變更ニナル
高木豐三君
是レハ次回マデ熟考シテ貰ツタ方ガ宜イ
議長(箕作麟祥君)
夫レデハ然ウ云フコトニシテ未決ニシテ置キマセウ時刻ニモナリマシタカラ今晩ハ是レデ散會シマス
午後九時散會