第四十七回法典調査會議事速記録
明治二十七年十一月二十日午後四時二十五分開會
出席員
箕作麟祥君
本野一郎君
土方寧君
木下廣次君
田部芳君
高木豐三君
穗積八束君
奧田義人君
井上正一君
穗積陳重君
富井政章君
梅謙次郎君
横田國臣君
元田肇君
長谷川喬君
南部甕男君
中村元嘉君
議長(箕作麟祥君)
夫レデハ會議ヲ開キマス前會ニ第三百五十四條ガ朗讀ニナリマシテ段々討論ノ末、未決デ居リマスカラ此條ニ付テ御議決ヲ望ミマス一寸横田さんデモ長谷川さんデモ宜シウゴザイマスガ此前ニ御出席ノナイ御方モアリマスカラ一應簡單ニ說明シテ下サリマセヌカ
横田國臣君
夫レデハ私ハ繰返シテ申シマスガ私ノ說ハ第一項ヲ「不動產質權者ハ其不動產ノ負擔及ヒ管理ノ費用ヲ拂フコトヲ要ス」トシテ卽チ此「カ自ラ不動產ヲ使用スル場合ニ於テハ」迄ヲ削ル然ウシテ第二項ノ方ハ「前項ノ場合ニ於テ」ト云フノヲ取ルノデアリマス夫レデ其理由ハ最早諸君モ御承知ノコトト思ヒマスカラ極ク簡單ニ申シマスガ私ハ學說上カラシテモ其方ガ宜カラウト思フノデゴザイマス此不動產ノ質ト云フモノハ抵當ト違ウノハ質ノ方ハ丁度所有者ノ如クニナリマセウガ何モカモ夫レヲ支配シテ仕舞ウ其間ト云フモノハ所有者ハ些ツトモ權ハナイデ質權者ガ勝手次第ニ支配ヲスル夫レデ後トデ其元金サヘ戻レバ夫レデ以テ質ヲ受ケサセテヤル、デ夫レヲ原則ト立テル又其原則ト云フモノハ日本ノ慣習ニ丁度當リマス先ヅ私ノ知ツテ居ル所デハ大概慣習ハ慣習許リデハゴザイマセヌ成文モ多クハ夫レト思ヒマス夫レニ付テノ規則ガゴザイマス地所質入書入規則ノ第六條ニ「質入ノ地所ハ金主ニテ其地所耕作可致筈ニ付テハ地租諸役トモ總テ金主ニテ可相勤事」斯ウ云フコトガアル又其外ニモ段々アツタト思ヒマス夫レデチヤント質ヲ置ク人ハ其品物ト云フモノヲ―不動產ダカラ品物ト云ツテハ可笑イガ御前さんニ質ニ遣ルト云フ所デ金主ハ是ハ年々どれ丈ケノ利益ガアル然ウスレバどれ丈ケノモノヲ貸シテ宜イト云フコトヲ見テ然ウシテ貸シマス夫レデ之ヲ原則ニ立テル或ハ其品物ト云フモノハ大變價ノ安イヤウナモノデアルケレドモ大變ナ所得ガアル、所得ガアツテ安イト云フヤウナコトハ一體ハ變ナ譯デアリマスガ然ウ云フコトモアル其他ノ事情ガアレバ夫レハ後ノ三百五十六條ニ「前三條ノ規定ハ設定行爲ニ別段ノ定アルトキハ之ヲ適用セス」ト云フコトガゴザイマスルカラ之デ宜イ實ハ之モナクテモ宜イト思フ別段ノ契約ヲスルノハ格別トシテモ宜イ丁度夫レガ極ク單純デシテ學說ニモ何モカモぴしやツト當嵌ラウト思フノデゴザイマス動產ハ其品物ヲ所有者ノ如クこちらニ占有シテ其代ハリニ利息ヲ拂ウ不動產ノ方ハ夫レトハ違ツテ替ヘルコトニシタイト云フ考ヘデアリマス若シ御尋ネガアレバ又申シマス
富井政章君
強テ修正案ニ反對スル考ヘデハアリマセヌ或ハ其方ガ宜イカモ知レヌ如何ニモ地所ニ付テハ只今横田君ノ言ハレマシタ通リデ卽チ三百五十四條ガ當ル考ヘデ居ル併シ家屋ニ付テハ大ニ疑ヒガアル只今御引キニナツタ明治六年ノ規則ト云フモノハ地所ニ付テノ規則デアル地所ニ付テハ夫レデ宜シイ家屋ヲ賃貸シタト云フ場合ニハ何ウデアルカ其場合ニモ日本ノ慣習ハ慥ニ此三百五十四條ノ通リニナツテ居ルト云フコトデアレバ無論贊成ヲ致シマスケレドモ其邊ニ大ニ疑ヒガアリマシタシ又虛心ニ考ヘテ見タ所デ家屋抔ノ場合ニハ此三百五十四條第一項ノヤウニスルコトハ不公平デアラウト思フテ別々ニシタノデアリマス其點ヲ充分ニ御考ヘヲ願ヒタイ強テ反對スル譯デハナイ
横田國臣君
御尤モナ何ンデゴザイマスルガ私モ能ク存ジマセヌケレドモ日本ニ於テ是迄家屋ノ質ト云フモノハ至ツテ尠ナイ夫レデ家屋ノ方ハ抵當ニ置イタモノヲ見タコトガアル夫レハ家屋ト云フモノヲ取ツテ宜イト云フノデ其家屋ニ持ツテ往ツテ誰々ノ控家屋敷ト云フヤウナ札ヲ張ツテ然ウシテ夫レヲ占領シタヤウナ事實モアリマスガ併ナガラ私モ家屋ノ質デ夫レガ果シテ慣習ニナツテ居ルカ何ウカ恐ラクハ家屋ノ質ト云フモノハ殆ンドナカツタデハナイカト思フ位デアリマス併ナガラ私ハ質ト云フモノハ兔モ角モ抵當ト區別スルノハ抵當ノ方ハ向フニ引渡サナイ所謂占有ヲサセナイ質ノ方ハこちらガ所有者ノ如ク管理シテ往クト云フ方ノモノデアラウト思ヒマス夫レデナケレバ抵當トノ區別ガ分ラヌヤウニナル夫レデ若シ夫レヲ占領セザル以上ハ卽チ此第三百五十四條ノヤウニ其不動產ノ負擔及ビ管理ノ費用ヲ拂ツテ然ウシテ其利息ヲ請求スルコトハ出來ヌ其代ハリニ其利益ト云フモノヲ得ルト云フ方ニシタ方ガ至當ジヤト思フノデゴザイマス又此質ト云フモノハ地所ニ付テハ總テ一般ノ人ノ頭ガ左樣ナモノダト云フコトニ考ヘ込ンデ居ルダラウト思ツテ居リマス私モ然ウ思ツテ居ル夫レデ苟モ家屋ト云フモノヲ抵當ニスルコトガアツタナラバ必ズ然ウ云フ頭デアルデアラウト思フノデゴザイマス、デ之ニ付テハ廣ク實際家ノ說モ聽キタイト思フノデゴザイマスルガ此家屋ニ付テノ質ト云フモノハ甚ダ其例ヲ見ナイ何ウモ私ハ日本ノ家屋ト云フモノハ少シ西洋ノ家屋トハ違ツタモノデアル、デ私ハモウ之ヲ一樣ニシテ決シテ妨ゲハナイト云フ考ヘデゴザイマス夫レデ之ニ附加ヘテ申シマスルガ今此第三百五十四條ヲ私ノ言フ通リニ修正スレバ次ノ三百五十五條ト云フモノハ皆削ル積リデゴザイマス此通リノ規則ニシマスレバ三百五十四條ト云フモノハ斯ウ何ンダカ變ニ見ヘルデス其質ノ方法ト云フモノガ物ニ依テ變ハルヤウナ風デアル夫レヨリモ寧ロずツと原則ヲ一ツニ貫ク方ガ宜イト思フ然ウスレバ慣習トモ能ク適合スルデアラウト思ヒマス
穗積陳重君
横田君ノ御修正ニ付テ誠ニ小サイ點デアリマスルガ文章ニ付キマシテ横田君ニ一寸御考ヘヲ煩ハシタイ點ガアリマス此「前項ノ場合ニ於テ」ト云フ字ヲ除キマシテ「質權者ハ其債權ノ利息ヲ請求スルコトヲ得ス」斯ウナリマシテ其意味ハ勿論分ル積リデアリマスルガ凡ソ此案ニ於テ「質權者」ト其上ノ形容詞ナシニ用ヰテアル場合ニハ幾ラカ用例ガアリマスノデ總則ノ時ニハ皆「質權者」ト書イテアリマス夫レカラ「動產質權者」「不動產質權者」ト書イタ時ニハヽヽヽヽ質權トカ或ハ權利ナラバ「質權」トカ又ハ「質權ノ目的タル」何々ト云フヤウナ風ニ書イテアリマス横田君ノ御修正ノヤウニナルト此不動產質權者ト云フモノハ其不動產ノ負擔及ビ管理ノ費用ヲ拂フコトヲ要スト云フコトヲ大原則トシテ夫レカラ又不動產質權者ト云フモノハ然ウ云フモノデアルカラ利息ヲ請求スルコトハ出來ヌト云フ一ツノ原則ヲ置ク斯ウ云フコトニナル餘程廣クナル夫故ニ謂ハゞ横田君ノ御修正ノヤウニナルト第二項ヲ獨立ノ一條ニ置テモ宜シイト云フヤウナコトニナル夫レデ「前項ノ場合ニ於テ」ト云フ字ヲ取ツテ唯「質權者」トシマスルト云フト不動產ニ限ラヌヤウニ一寸見エル虞ガアル然ウシテ外ノ用例トハ違ウコトニナリマス固ヨリ不動產質デアルカラ間違ヘル氣遣ヒガアルトハ申シマセヌガ夫レ位ナラバ或ハ獨立ノ條ト爲サルカ又ハ「不動產質權者ハ」ト云フヤウナ工合ニ第二項ヲ御駢ベニナツテハ如何ナモノデアリマセウカ元來差支ガアルコトデハアルマイト思ヒマスガ
横田國臣君
決シテ異議ハアリマセヌ私ハ二項ダカラ唯ダ「質權者」デ宜イト思ヒマシタガ「前項ノ質權者」ト云フテ宜ケレバ夫レデ宜イ或ハ「不動產質債權者」ト云ツテモ宜シウゴザイマス
梅謙次郎君
「不動產質權者」ト云フ方ガ宜イヤウデアリマスナ
議長(箕作麟祥君)
夫レデハ第二項ノ方ハ「不動產質權者」ト云フコトニ御修正ニナリマスカ
横田國臣君
夫レハ何ウデモ宜シウゴザイマス
議長(箕作麟祥君)
どツちニカ極メテ貰ハヌデハ困リマスガ
横田國臣君
夫レデハ「不動產質權者ハ」ト云フコトニシマス
土方寧君
此三百五十四條ニ付テハ前會ニ横田君カラ修正說ヲ御提出ニナツタコトデアリマス然ウシテ前會ニ色々御議論ガアリマシタラウガ私ハ早ク歸リマシテ伺ヒマセヌデアリマシタガ此三百五十四條ノ中ノ「自ラ不動產ヲ使用スル場合ニ於テハ」ト云フコトヲ除クト云フコトハ尤モデアリマスガ併シ原案ノ通リニシテ置キマスルト云フト質權者ガ自ラ使用シナイ裏ノ場合ガ出ル其場合ニハ質置主ガ占有スル、然ウ云フ場合ハ抵當トナツテ質トハ見ナイト云フコトノ御考ヘデアリマスカ
横田國臣君
私ハ質物ナラバ必ズこちらニ取ル然ウシテ夫レヲ賃貸シヤウト何ウシヤウト權ハヌ積リデアリマス夫レハ矢張リ不動產質權者ト云フモノガ夫レヲ占有シテ所有者ノ如クシテ往クノヲ質權トスル
土方寧君
若シ質置主ガ占有シテ居ツタナラバ抵當トスルト云フノデアリマスカ
横田國臣君
然ウデス
中村元嘉君
一寸御參考迄ニ申シテ置キマスガ以前カラ家質ト云フモノハ澤山アツタヤウデアリマス夫レハ何ウモ土地ノ質入ノ如ク必ズ貸主ノ方ニ引渡シテ置クト云フ習慣デハナカツタト思ヒマス尤モ以前ニ家質ト唱ヘタモノハ土地ト家屋ト別々ニスルト云フコトデハナカツタノデアリマス此家質ト云フモノハ隨分大キナ金貸ガヤルモノデアツテ然ウシテ其貸主ノ方ニ引渡シテ置クト云フ慣習デハナカツタト覺ヘマス何ウモ習慣ガ横田君ノ言ハレタ通リデハナカツタヤウニ思ヒマスカラ一寸申シテ置キマス
横田國臣君
中村君ニ御尋ネヲシマスガ家屋ノ質ト云フモノハ隨分アツタモノデゴザイマスカ若シアツタナラバ何ウ云フ有樣デ夫レヲ使用シマシタカ
中村元嘉君
家質ト唱ヘテ居ツタノデアリマスガヽヽヽヽヽ
土方寧君
時ヲ費シテ甚ダ恐入リマスガ一寸一言御說明ヲ願ヒタイノハ旣ニ濟ンダ箇條デアリマスガ此箇條ニ關係ガアリマスカラ伺ヒマスガ三百五十二條ニ「數箇ノ債權ヲ擔保スル爲メ同一ノ動產ニ付キ」云々トアル是ハ前ノ三百四十七條ノ時ニモ少シ引合ヒニ出タト思ヒマスガ此三百五十二條ニ付テ一寸起草委員ニ伺ヒタイノハ質權ハ元ト占有ヲ離レテハ成立タヌノデアリマセウガ是ハ占有ト云フコトガナクテモ質權ト云フモノハ成立ツト云フ御旨意デアリマスカ
富井政章君
決シテ然ウデアリマセヌ占有ハ質權ト離ルベカラザルモノデアル何處迄モ必要デアル併シ又代理占有ノ出來ルコトハ疑ヒノナイコトデアリマス、デ三百五十二條ハ代理占有ノ場合ニ適用ガアル
梅謙次郎君
一寸補ツテ置キマス是ハ動產ニ付テゞスヨ不動產ニ付テハ始メニ一遍引渡ヲスレバ其後占有ヲ失ツテモ登記サヘシテアレバ夫レデ質權ハ成立ツ
本野一郎君
一寸起草委員ニ伺ヒタイノデスガ三百五十三條デハ「其不動產ノ用方ニ從ヒ使用又ハ收益ヲ爲スコトヲ得」ト斯ウ書イテアリマスガ三百五十四條デハ「自ラ不動產ヲ使用スル場合」トアル然ウスルト卽チ質ニ取ツテ居ル家ヲ人ニ貸ストカ何ントカ云フヤウナ場合ハ這入ラヌト云フ御考ヘデアリマセヌカ
富井政章君
夫レハ三百五十四條第一項ニ這入ル積リデアリマス
議長(箕作麟祥君)
夫レデハ横田君ノ說ニ付テ決ヲ採リマス諸君モ御承知ノコトデアラウト思ヒマスカラ別ニ修正案ヲ申シマセヌ横田君ノ說ニ贊成ノ方ノ起立ヲ請ヒマス
起立者少數
議長(箕作麟祥君)
少數デゴザイマス夫レデハ三百五十四條外ニ御異論ガナケレバ原案ニ可決セラレタルモノトシテ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第三百五十五條 不動產カ果實ヲ生スル場合ニ於テハ質權者ハ其果實ヨリ不動產ノ負擔及ヒ管理ノ費用ヲ控除シ其殘額ヲ以テ第二百九十六條ノ規定ニ從ヒ債權ノ辨濟ニ充當スルコトヲ得
田畑山林ノ質ニ付テハ果實ト利息トハ計算セスシテ相殺シタルモノト推定ス
(參照)二九六、擔一二五、一二六、六年一月一八號逹地所質入書入規則一、六、佛二〇八五、二項、二〇八六、伊一八九一、一八九二、モンテネグロ一八五、西一八八一、一八八二、白草二一五七、二項、二一五九
富井政章君
本條ハ擔保編第百二十六條ヲ少シモ改メナイノデスカラ別ニ說明ハ致シマセヌ
高木豐三君
一寸伺ヒマスガ若シ家ナリ地面ナリヲ質ニ取ツテ居リマシテ夫レヲ無賃デ親戚ナリ朋友ナリニ貸シテ置ク卽チ果實ノ生ジナイト云フ場合ニハ何ウナルノデアリマスカ
富井政章君
其場合ハ本條ニハ這入ラヌヤウデアリマス少シ無理カモ知レマセヌガ前ノ條ノ「自ラ不動產ヲ使用スル場合」ト云フ方ヘ這入リハシマセヌカ代理使用ヽヽヽヽヽ
横田國臣君
前條デ以テ修正說ガ潰ンマシタカラ之ニ付テ一ツ御尋ネシタイノデアリマスガ此處ニ「不動產ガ果實ヲ生スル場合ニ於テハ」トアル、デ起草者ノ御積リデハ質ニ遣ツタ以上ト云フモノハ無論其質取者ガ渾テ果實ノ値打チトカ何ントカ云フモノハ私ハ定メルノデアラウト思ヒマスガ例ヘバ家賃ニシタ所ガ十圓ノモノヲ三圓ニシヤウトカ、夫レデ然ウ云フノハ質入者ニモ何カ夫レハ不都合デアル之丈ケニセネバナラヌトカ云フヤウナ權利モ與ヘル御積円リデアリマスカ
富井政章君
只今ノ御問ヒハ十圓デ貸セルモノヲ三圓デ貸シタ之ヲ矢張リ利息モ餘計取レル勘定ニナルカラヽヽヽヽヽヽヽ
横田國臣君
夫レヲ貸スノハ所有者デハナク其質取主ガ貸スノデアル夫レデ夫レニ付テハ質置主ガ異議ヲ云フ權ガアルノデゴザイマスガ質權者ト云フモノハ例ヘバ此家ガ十圓デ貸セルモノヲ自分ハ五圓デ貸ス夫レハ定メテ十圓ノモノヲ五圓デ貸スト云フナラバ無論夫レハ何モアラウガ夫レハ何カ質置主カラシテ然ウ云フコトハ出來ヌトカ何ントカ云フヤウナコトニデモナリマスガ夫レデナケレバ私ハ何ウシテモ其弊ハ防ゲマイト思ヒマスガ私ノ意ガ分リマシタカ
富井政章君
分リマシタ
横田國臣君
夫レハ卽チ質ノ原則ニ背イテ斯ウ云フモノヲ立テルカラヽヽヽヽヽヽ
梅謙次郎君
然ウ云フ場合ニハ無論精神ニ於テハ債務者カラ異論ヲ申立テルコトハ出來ル質置主カラ異議ヲ申立ルコトハ出來ル精神デアル或ハ三百五十三條ノ「用方ニ從ヒ」ト云フ中ニ含ミヤシナイカト思ヒマス若シ文字ガ足リマセヌケレバ御修正ヲ願ヒタイ
高木豐三君
私ハ前條ニ於テ修正案ニ贊成ヲ致シマシタガ夫レガ少數デ體レマシタカラ三百五十五條ノ削除說ヲ提出致シマス之ガ削除セラレマスルト云フト別ニ修正案ヲ出シマス
奧田義人君
今日ハ初メカラ起草委員ノ中ニ奇怪ナル辯明ガ出ルト考ヘテ居リマス自ラ使用シナイモノヲ「自ラ使用スル」ト云フ中ニ入レルトカ或ハ又横田君ガ質問サレタヤウナ場合ニ於テ債務者ガ故障ヲ言フコトガ出來ル夫レハ「不動產ノ用方ニ從ヒ」ト云フ中ニ籠メテ宜カラウト云フヤウナ御說明デアルケレドモ是ハ到底起草委員ハ兔モアレ普通ノ法律學者デハ然ウ云フ解釋ハ出來ヌト思ヒマス夫レデ自分ノ之ヲ解釋シタノハ然ウ云フヤウナ場合ニ於テハ卽チ三百五十六條ノ所謂設定行爲デ以テ別段ニ定メル、別ニ定メテナイ時ニハ夫レハ八圓取レル所ノモノヲ三圓デ貸サウトモ致方ガナイ又他人ニ無賃デ以テ家ヲ貸サウト云フヤウナコトハ然ウ云フ場合ニ設定行爲デ何モ定メテナイ時ニハ此規定ト云フモノガ當嵌ルト云フコトハ言ヘナイ然ウ云フ積リデ以テ拵ヘラレタモノデナイカ知ラント云フ解釋ヲ致シテ居ツタノデアリマス只今ノヤウナ奇怪ナル解釋ハ此處ニ適用スルコトハ出來ヌト思ヒマス若シ然ウ云フ精神デアレバ三百五十四條竝ニ三百五十五條ヲ更ニ起草者ニ於テ起草ヲ仕直シテ頂戴スルヨリ外ニ致方ガアルマイカ知ラント私ハ考ヘル若シ私ノ建議案ニ御贊成ノ御方ガアリマスルナラバ何ウカ起草委員ニ其精神ヲ以テ更ニ起草シテ貰ヒタイト思フノデアリマス
高木豐三君
誠ニ御尤モナ御說デアリマスルガ併シ何ウモ旣ニ決議ニナツタモノヲ復タ修正スルト云フノモ穩カデアリマセヌカラソコデ一寸奧田君ニ御相談デアリマスガ大抵議論ノ旨意ハ分ツテ居ルカラ君ノ方デ一歩ヲ讓ツテ三百五十五條ヲ削除スル說ニ贊成ハ出來マセヌカ然ウスルト「自ラ不動產ヲ使用スル」云々ト云フコトハ何ウシテモ取レル譯ニナル
奧田義人君
三百五十五條ヲ削ツタカラシテ當然ト云フ譯ニハ往カナイ
横田國臣君
夫レハ然ウ云フ例モアル後トノ箇條ヲ削ツタニ依テ前條ヲ直ホスト云フ例モ是迄アツタ
梅謙次郎君
先刻ノ說明ハ自ラモ無理ナ說明デアルト云フコトハ認メテ居リマスカラ奧田君カラ御目玉ヲ頂戴スルノハ決シテ怪ムニ足リマセヌガ夫レヨリカ留置權ノ所ノ第二百九十七條ノ一項ニ「留置權者ハ善良ナル管理者ノ注意ヲ以テ留置場ヲ占有スルコトヲ要ス」ト云フコトガアツテ是レハ質權ノ章ノ總則ノ所ノ第三百四十三條ニ於テ之ヲ質全體ニ當嵌メテアリマス夫レデ拾圓ノ家賃ノ當然取レ可キモノヲバ三圓デ貸シタモノハ決シテ善良ナル管理者ノ注意ヲ用ヰタモノデナイト云フ方カラ夫レハ往カヌト云フコトニナリハシマセヌカ一寸御考ヘヲ願ヒマス
富井政章君
只今ノ解釋ハ如何デアリマセウ善良ナル管理人ハ善意デ以テ占有シナケレバナラヌト云フ規定ノ制裁ハ其條ノ末項ニ在ルガ如ク留置權ノ消滅デアル十圓デ貸セルモノヲ七圓デ貸セバ其制裁ハ賃貸ヲ無效ニスレバ充分デアル――――賃貸ヲ無效ニ迄セヌデモ宜イカモ知レヌ夫レヲヤツタト云フ丈ケデ質權消滅ト云フコトハ如何ニモ酷イヤウデアリマス
梅謙次郎君
言ハヌデモ宜イヤウデアリマスガ夫レハ固ヨリ私モ知ツテ居ル併ナガラ第一ニ夫レハ債務者カラ請求スルコトヲ得ルト云フノデ當然デハアリマセヌ且ツ又制裁ハモツト小サイ制裁ヲ付ケルト云フコトニ付テハ決シテ私ハ不同意デハアリマセヌガ此案ノ儘デハ然ウ云フ解釋ニ歸スル方ガ穩當デハアルマイカト云フ考ヘヲ持テ居リマス
元田肇君
私ハ奧田君ノ建議デアリマスルカニ贊成ヲ致シマスル旣ニ起草委員間ニ使用ト云フ文字ノ說明ガ相牴觸シテ只今ノ如キ御論駁ガアルノハ甚ダ宜クナイト思ヒマス夫レデ何ウカ斯ウ云フ權限ヲ以テ願ヒタイ横田君ノ動議ヲ採用スルコトガ宜イト云フコトデアルナラバ起草委員ニ於テモ更ニ御採リニナツテモ差支ヘナイト云フ條件ヲ以テ三百五十四條カラ三百五十六條迄往ツテハ往カヌノデスカ
梅謙次郎君
夫レハ往カヌカモ知レマセヌ
南部甕男君
贊成
議長(箕作麟祥君)
夫レデハ議場ノ諸君ヘ伺ヒマスガ三百五十四條ハ兎ニ角一方カラ不都合ト云フノデ御議論ガアリマスガ先刻立派ニ決ヲ採ツテ見タ所ガ六人シカ贊成ハナカツタノデアリマシテ現ニ決定シタニ相違アリマセヌガ併シ此條ハ前ノ三百五十四條カラ牽聯シテ斯ク御論モ起ツタヤウデアリマスガ只今ノ奧田君ノ御論モ格別無理トハ思ヒマセヌ併シナガラ何シロ一旦決シタモノヲ復タ前ニ戻ツテ動カスト云フコトデアリマスカラ若シ御異議ガアレバ決ヲ採ラナケレバナリマセヌガ如何デアリマセウ
長谷川喬君
異議ナシ
議長(箕作麟祥君)
御異議ガナケレバ奧田君ノ說ニ付テ決ヲ採ルコトニ致シマセウ
穗積陳重君
決ヲ御採リニナルノハ元田君ノ言ハレタコトガ這入ツテ居ルノデアリマスカ或ハ奧田君ノ言ハレタ丈ケノコトニ付テ決ヲ御採リニナルノデアリマスカ
議長(箕作麟祥君)
一寸奧田君ニ伺ヒマスガあなたノ御說ハ三百五十四條三百五十五條三百五十六條此三個條ヲ全權ヲ以テ起草委員ニ篤ト今一遍考ヘタ上デ起草シテ貰ヒタイト云フコトデセウネ
奧田義人君
然ウデアリマス
議長(箕作麟祥君)
夫レデハ元田君ハ夫レデ宜シウゴザイマスカ
元田肇君
宜シウゴザイマス
議長(箕作麟祥君)
夫レデハ決ヲ採リマス只今ノ奧田君ノ建議ニ贊成ノ諸君ノ起立ヲ請ヒマス
起立者多數
議長(箕作麟祥君)
多數デアリマス夫レデハ三個條共起草委員ニ修正ヲ托スルコトニシテ三百五十七條ニ移リマス
(書記朗讀)
第三百五十七條 不動產質權者ハ其不動產ノ賣却代金ニ付キ抵當債權者ト同一ノ權利ヲ有ス
(參照)擔一一六、二項、佛二〇八五、二項、二〇九一、同千八百五十五年三月二十三日法二、同千八百五十一年三月三十一日、千八百六十五年八月二十九日大審院判決、白草二一六七
富井政章君
本條ハ擔保編第百十六條第二項ニ少シモ意味ノ修正ヲ加ヘナイ唯ダ原文ニハ「債務ノ滿期ニ至レハ」トアツタノヲ「其不動產ノ賣却代金ニ付キ」ト直シマシタ是ハ旣成法典ニ於テモ詰リ此意味デアラウト思ヒマス併シ前ノ箇條ニ於テ果實ニ付テハ之丈ケノ權利ヲ持テ居ル之ニ對シテ言ハンナランコトハ代金ニ付テハどれ丈ケノ權利ヲ持ツト云フコトデアル一方ニ於テハ果實ニ付テ之丈ケノ權利ガアル又一方ニ於テハ債務ノ滿期ニ至レバ抵當權者ノ權利ヲ持ツテ居ル債務ノ滿期ニ至レバ何ニ付テ抵當權者ノ權利ヲ持テ居ルカト言ヘバ賣却代金ニ付テニ違ヒナイ、シテ見レバ寧ロ明白ニ其事ヲ言フタ方ガ適切ニシテ且果實ニ付テノ規定ト權衡ヲ得ルデアラウト思ヒマシタカラ斯ク直シマシタ
元田肇君
一寸御尋ネヲシマスガ三百五十二條ニ書イテアルノトハ餘程違ヒマスカ
富井政章君
夫レハ餘程違ウ積リデアリマス三百五十二條ハ同ジ物ニ付テ質權ヲニ重ニ設定シタ場合ヲ云フタ夫レハ不動產質ニ付テモアルコトデアリマス併シナガラ本條ハ此場合ニ限ラヌ唯一ツノ不動產ニ付テ一ノ質權ヲ設定シタト云フ丈ケノ場合ニモ當嵌ル詰リ不動產質權者ノ權利ト云フモノハどれ程ノカノアルモノデアルカト云フ點丈ケデ定メタノデアリマス
中村元嘉君
一寸御尋ネヲシマスガ若シ質權ノ方ガ抵當權ヨリ力ノ弱イト云フ疑ヒガアツテ惡ルイト云フ所カラ斯ウ云フ規則ガ出タノデスカ
富井政章君
強イモ弱イモ分ラナイ寧ロどつちカト言ヘバ強イト云フ方ニ疑ヒガアラウト思ヒマス奈何トナレバ動產質權者ハ先取特權而モ強イ先取特權ト同一ノ權利ヲ持テ居ル其方カラ考ヘレバどつちカト言ヘバ強イト云フ方ニ疑ヒガアル併シどつちニモ疑ヒガアル薩張リ分ラヌ
議長(箕作麟祥君)
別ニ御異論ガナケレバ可決セラレタモノトシテ先ニ往キマス
(書記朗讀)
第三百五十八條 不動產存續期間ハ十年ヲ超ユルコトヲ得ス若シ之ヨリ長キ期間ヲ以テ不動產質ヲ設定シタルトキハ其期間ハ之ヲ十年ニ短縮ス
不動產質ノ設定ハ之ヲ更新スルコトヲ得但其期間ハ更新ノ時ヨリ十年ヲ超ユルコトヲ得ス
(參照)擔一一六、三項、四項、六年一月一八號達地所質入書入規則四、モンテネグロ一八七乃至一八九
富井政章君
擔保編第百十六條第三項ニ據レバ不動產質ノ期限ハ三十年ヲ超ユルコトヲ得ズト定メテアリマス然ウシテ草案ノ說明ヲ讀ンデ見マスルト是ハ全ク日本ノ現行法ニ因ツタモノデアル不動產質ハ日本固有ノモノデアル成ル可ク日本ノ慣例ニ依ルガ宜イ夫レガ草案ノ說明デアリマス然ルニ此說明ハ誤ツテ居リマシテ現行法卽チ明治六年ノ地所質入書入規則ニ據ルト三年デアル夫レデ草案ニハ詰リ零ヲ一ツ誤ツテ居ル三年ヲ三十年ト誤解セラレテ居ルヤウデアリマス三年ハ如何ニモ短イヤウニ思ヒマス併シ又三十年ハ如何ニモ長イヤウニ思ヒマス不動產質權ト云フモノハ隨分弊害ガアル財產ノ改良、融通等ヲ妨ゲル一般ノ經論上カラ言ヘバ隨分害ノアルモノデアラウト思ヒマス加之ナラズ抵當ノ制度ノ發達スルニ從ツテ追々衰ヘテ往クモノデアラウト思ヒマス歐羅巴ニ於テモ日本ノ不動產質ニ全ク當ルモノハアリマセヌケレドモ之ニ似タモノハアリマス併シ夫レモ段々適用ヲ失ツテ今日ニ於テハ佛蘭西系統ノ法律ニ於テモ禁ジタ例ガアリマス然ウ云フ譯デアリマスカラ決シテ法律デ奬勵スベキモノデハナイト思ヒマシテ三十年ヨリハ短クセンナラヌト云フ感ジヲ起シタ夫レデ先ヅ十年位ガ宜カラウト云フ感ジヲ以テ少シ調ベテ見マシタ所ガ民事慣例類集抔ニハ多クノ地方ガ十年ト云フ慣習ガアル夫故ニ先ヅ此位ガ適當デアラウト思フテ假リニ此期限ニ定メテ出シテ見タンデス
横田國臣君
此箇條デハゴザリマセヌガ之ガ消ムトモウ不動產質ノ箇條ハナクナツテ仕舞ヒマスカラ此處デ一ツ伺ヒタイノデスガ夫レ丈ケノ御許シヲ願ヒタイ夫レハ此旣成法典擔保編ノ第百二十五條ノ二項ノ所デスガ「質取債權者ハ小修繕及ヒ必要且急迫ナル大修繕ヲ爲ス責ニ任ス若シ之ニ違フトキハ損害賠償ヲ負擔ス但此大修繕ノ費用ハ債務者之ヲ償還ス」トアル、デ此通リ大修繕トカ小修繕トカ云フモノガ宜イトカ惡ルイトカ云フコトハ別トシテ何ウモ質ト言ヘバ私ノ心得デハ最早所有者ノ通リニ今度質權者ガ夫レヲ取ツテ保護スルコトニナル然ウスルト其間ニ於テ孰レ差措ク可ラザルコトガアル例ヘバ家ニつツぱリヲシナイト倒レテ仕舞ウトカ或ハ地所ニ杭ヲ打タネバ崩レテ仕舞ウトカ何ントカ云フヤウナコトガアリマセウガ夫レハ此處ヘ這入ラヌデモ何處カノ箇條デ然ウ云フコトハ無論出テ來ルノデゴザイマセウカ左モナイトモウ質ノ期限ハ今年限リデアルカラ後トハ何ウナツテモ構ハヌト云フヤウナコトガ出テ來ヤウカト思フノデゴザイマス
富井政章君
修繕ノ義務ノアルコトハ今議サレマシタ三百五十四條及ビ三百五十五條ニ於テ明ナ積リデアリマス夫レカラ又一般ノ原則カラ申シテモ疑ヒハナカラウト思ヒマス夫レハ留置權ノ所ノ二百九十七條質權ニ準用シテ言ヘバ質權者ハ善良ナル管理人ノ注意ヲ加ヘテ保護セネバナラヌ其義務ヲ怠ツタ時ニハ質權ノ消滅ヲ請求スルコトヲ得夫レデ少シモ困ルコトハ生ズマイト思ヒマス
横田國臣君
出來ルコトハ無論デアリマセウガ償ヒノ方デス斯ウ云フ事ヲスルト云フコトハ管理ノ方ニアリマスカ
富井政章君
修繕ニ大小ノ區別ヲ立ツルコトガ宜カラウト云フノデスカ
横田國臣君
夫レハ宜イガ負擔ノ仕方デアリマス
富井政章君
三百五十四條及ビ三百五十五條ニ於テ質權者ガ全ク負擔シナケレバナラヌト云フコトハ見エテ居ル
横田國臣君
所ガ夫レダト堪ラヌ然ウスルト質ニ取ツタモノハ其利息カラ見ルト中々大キナモノニナツテ仕舞ウモノガアル夫レデ私ハ此大修繕ノ方ハ旣成法典ノ意ハ餘リ惡ルクナイト思フノデス兎モ角モ利息ハ三日ホカ取レヌノニ夫レヲシナイト仕方ガナイト云フヤウナコト迄負擔ヲサセル積リデアリマスカ
富井政章君
夫レハ覺悟シマシタ然ウ云フ場合ニハ質權ヲ抛棄スルヨリ外ニ仕方ガナイ大小トカ云フコトハ餘程六ケ敷シイデスナ
横田國臣君
夫レハ中々六ケ敷イ
梅謙次郎君
管理者ガ通常セニヤアナラヌ修繕ト云ツタラ大抵ヽヽヽ
横田國臣君
小サイ方ハ負擔サセテモ宜イ容易ナモノナラ、ケレドモ能クアルコトデアリマス、例ヘバ水害ヲ避クル爲メニ杭ヲ打ツ若シ杭ヲ打タヌト田地ガ壞レテ仕舞ウトカ何ントカ云フヤウナコトガアル夫レヲスルト云フノハ中々夫レハ大變ナ話デアルカラ一年カ二年質ニ取ツテ置イタノヲ何時モ抛棄シテ仕舞ハナケレバナラヌヤウニナル
梅謙次郎君
然ウスレバ然ウ云フノハ負擔セヌデモ宜イト云フコトニ解釋上却テナルカモ知レヌ善良ナル管理人ト雖モ夫レヲヽヽヽ
横田國臣君
夫レヲセヌデモ宜イト云フコトニナルト一方ハ宜イケレドモ片一方ノ方ハ夫レガ爲メニ害ガアル其爲メニ田地ガぽつと壞レテ仕舞ウト云フヤウナコトニナル
梅謙次郎君
併シ其邊ハ臨機應變デシナケレバナラヌ明カニ書イテ置クトどつちニ取ツテモ差支ヘル
富井政章君
どつちニシテモ分界ガ甚ダ六ケ敷イ
梅謙次郎君
大修繕ト書ケバ必ズ何ウ云フモノヲ以テ大修繕トスルト云フコトヲ書カンナラン
土方寧君
私ニ此條ニ付テハ意見ハアリマセヌガ此條ガ濟ンデ仕舞ツタナラバ不動產質ノコトハ言ヘナクナリマスカラ一寸伺ツテ置キマスガ動產質ニ付テハ一番終リニ三百五十二條ノ規定ガアル不動產質ニ付テモ同ジヤウナ規定ガアル二重質トカ三重質トカ云フヤウニ何共書イテハアリマセヌガ書テナクツテモ出來ルノデアリマスカラ夫レカラ三百五十二條ノヤウニ設定ノ順序ニ依ルト云フコトハ當然ノコトト思ヒマスガ何ウ云フモノデゴザイマセウ
富井政章君
設定ノ順序ニハ依ラナイ登記ノ順序ニ依ル少シモ疑ヒハナカラウト思フタ
梅謙次郎君
其所ハ抵當ノ所ニ出テ來ル
本野一郎君
是ハモウ唯ダ御相談デアリマスガ例ヘバ此設定行爲デ二十年ト云フ期限デアツタ時、第二ノ十ケ年ノ一年ナラ一年ト云フ場合ニハ是ハ更新ト看做シテ往クノデスカ
富井政章君
然ウ云フ場合ハ明ニ法律ニ背イテ居ル
本野一郎君
然ウ云フコトヲ此處ヘ書イテ置ク必要ハナイノデアリマスカ
梅謙次郎君
默ツテヤレバ無效デアル
富井政章君
モウ消滅シタノデアル
梅謙次郎君
始メニ二十年デアツテモ十年ニ短縮シテ仕舞ウノダカラ二十年トシテモ二十年トシタ效ハナイ十年ノ效シカナイ是迄ハ三年ダカラ今ノヤウナ場合ハ起ラヌ
議長(箕作麟祥君)
第三百五十八條 外ニ御質問御異論等ガナケレバ可決セラレタモノトシテ先キニ進ミマス
(書記朗讀)
第四節 權利質
富井政章君
質權ノ目的ハ獨リ有體物ノミデナク權利モ亦質權ノ目的トナルコトヲ得ルト云フコトハ何處ノ國ノ法律ニ於テモ認ムル所デアリマス而シテ獨逸民法草案ヲ除ク外ハ大抵何處ノ國ノ法律ニモ此事ハ動產質ノ處ニ規定シテアルヤウデアリマス然ルニ本案ニ於テハ動產不動產ヲ以テ有體物ノ區別トシマシタニ依テ何ウモ別ニ節ヲ設クルヨリ仕方ガナイノデ此處ニ此一節ヲ設ケタノデアリマス過日どなたカノ御說ニ權利質ト云フヨリモ補則トカ云フヤウナ表題ニシタ方ガ宜カラウト云フヤウナ御說ガアリマシタガ私ハ然ウナツテモ少シモ異議ハナイノデス
議長(箕作麟祥君)
此權利ト云フノハ債權テハナケナイノデスカ
富井政章君
債權ニ限ラナイノデ地上權モアリマセウシ永借權モアリマセウシヽヽヽヽヽヽ
長谷川喬君
第一節ヲ議スル時ニ卽チ此第四節ニ於テ權利質ト云フモノヲ置キ然ウシテ第三百五十九條ノ第二項ニ於テ「前項ノ質權ニ付テハ本節ノ規定ノ外第一節ノ規定ヲ準用ス」ト云フテアル第一節ハ總則デアリナガラ第四節ニ斯ノ如キ文章ヲ書カナケレバナラヌト云フノハ不都合デハナイカ、依テ此第四節ト云フモノヲバ補則トカ附則トカ云フモノニシタイガ尙ホ起草者ノ御考ヘヲ仰ギタイト云フコトヲ申シテ置イタノデゴザイマス夫レデ只今起草委員ノ御說明ニ據テ見ルト云フト別ニ御異議モナイト云フコトデアリマスルカラ私ハ先ヅ修正案トシテ此第四節ト云フモノヲ附則ト云フコトニ改メルト云フノ案ヲ出シマス
奧田義人君
贊成
梅謙次郎君
富井君ハ異議ハナイカ知ラヌガ私ハ大ニ異議ガアリマス其譯ハ理窟ハ能ク分ツテ居リマス是ヲ第四節トシテ出スヨリモ矢張リ附則トカ何トカ云フ字ノ方ガ理窟ハ宜イヤウデアリマスガ法文ニ然ウ云フ辭ヲ用ヰルノハ旣成法典デハ嫌ツテ居ル其嫌ツテ居ルノハ決シテ無理デハナイト思ヒマス法典ハ元ト教科書デモアリマセヌカラ何モ長谷川君ノ言ハレタヤウナコトデナクテモ宜カラウト思フ如何ニモ此節トカ章トカ云フモノハ唯便宜ノ爲メニこんな符牒ヲ設ケテ置クノデアルカラ然ウ云フ窮窟ナコトヲ言ハヌデモ宜カラウト云フノデ旣ニ前ノ占有權ノ所ニモ此占有權ト云フモノハ飽迄有體物ノ占有權ト云フコトデ徹頭徹尾案ガ立テテアリナガラ終リニ持ツテ往ツテ第四節カデ以テ准占有ト云フモノヲ置イタノデアリマス夫レハ同ジコトデアリマスカラ理窟カラ言ヘバあれモ附則トカ言ハナケレバナラヌケレドモ法文ニ然ウ云フ辭ヲ用ヒルノハ面白クナイ唯ほんノ一時限リノ規則デアレバ附則トカ補則トカ云フコトニスルノモ或ハ宜イカモ知レマセヌガ本案ニ於テハ然ウ云フコトハ避ケテ民法施行條例ノ方ニ讓ルト云フコトニ爲ツテ居リマス何ウカ然ウ云フヤウナ附則トカ補則トカ云フヤウナ曖昧ナコトハ書キタクナイト思ヒマスカラ夫レデ反對ヲスルノデアリマス
長谷川喬君
只今占有ノ所ニ准占有トカ云フモノガアルカラ差支ヘハナイト云フ御說明デアリマスガ此占有ノ方ハ一節二節三節ト云フモノガアツテ其第一節ト云フモノハ一般ニ係ルノデハナイノデアリマス卽チ一節丈ケデ以テ完備シテ居ル然ルニ此章デハ第一節ハ總則ト云フモノデアルカラシテ總テノ節ニ及バナケレバナラヌノデアル夫レデ不都合デハアリハシナイカト思ヒマス占有ノ所ハ然ウ云フヤウニナラナケレバナラヌト思ヒマス夫レカラ法典ニ於テ餘リ附則トカ云フヤウナ辭ヲ用ヰルノハ好マナイト云フコトデアリマスガ夫レハ固ヨリ好ムノデハアリマセヌケレドモ止ムヲ得ナケレバ用ヰテモ差支ヘナイト思ヒマス卽チ旣成法典デモ補則ト云フ表題デ以テ一ツノ節ヲ設ケテアルモノモアリマスカラ理窟ニ合ハナイコトヲ書イテ置クヨリモ寧ロ其方ガ宜クハナイカト思フノデアリマス
元田肇君
一寸伺ヒマスガ是ハ今御說明ニナツタヤウナ鹽梅ニ準質ト云フヤウナコトニナツテハドウデゴザイマセウカ
梅謙次郎君
實ハ私ハ若シ改メラレルナラバ其方ヲ望ムノデアリマス一體ハ準質ト云フ方ガ理窟ニ適ウノデアリマス本統ノ質デハナイ本統ノ質ハ有體物ノ權利ガ物權デ、質權ガ物權デアル、ケンドモ規則ハ同ジ規則ガ嵌マルノデアリマスカラ此處ニ持テ來テ丁度准占有ト同ジヤウナコトデ准質トヤラウカト云フヤウナ話モ吾々ノ間ニ出タ位デアリマス併シ准質ト云フヨリモ權利質ト云フタ方ガ口調ガ宜カラウト云フコトデ遂ニ斯ウ云フコトニナツタノデアリマス
土方寧君
夫レデハ私ハ何デモナイヤウナコトデアリマスガ名ヲ替ヘタイト思ヒマス此權利質ヲ准質ト云フコトニ改メルト云フ案ガ元田君カラ出タノナラバ夫レハ贊成ヲシマスガ若シ出ナイノナラバ私カラ然ウ云フ說ヲ出シマス
(此時贊成ト呼ブ者アリ)
横田國臣君
是ハ十章ニシタ方ガ宜イ
議長(箕作麟祥君)
どちらノ說ニモ贊成ガアツタヤウデアリマスカラ決ヲ採リマセウ長谷川喬君ノハ第四節附則ト云フコトニスルノデスカ
長谷川喬君
附則トスルノデアリマス
富井政章君
補則デハナイノデスカ
長谷川喬君
どちらデモ宜シウゴザイマス
奧田義人君
私ハ只今附則ト云フ修正案ニ贊成ヲ表シマシタケレドモ何モ質ニ付テ二ツニ分ツ程ノ必要ハアルマイト思ヒマスカラ贊成ヲ取消シマシテ准質ト云フ方ニ更ニ贊成ヲ致シマス
横田國臣君
一寸私ハ申シマスガ今ノ准質ト云フコトニ付テ何ウモ私ノ心ニ何セヌノハ何ウカ斯ウ質ニ准ズル、今ノ質ト云フモノハ物デナラナケレバナラヌト云フヤウナ規則デモアレバ夫レハ宜イケレドモ然ウジヤナイヽヽヽヽヽヽ
長谷川喬君
夫レハアル
本野一郎君
三百四十條
横田國臣君
夫レガアルナラ宜シウゴザイマス私モ贊成シマス
富井政章君
總則ト竝ブノダカラ宜イ
横田國臣君
ケレドモ亦可笑イノハ三百五十九條ニ至ツテ總則ヲ准用スト云フノデ、無論被ツテ居ルモノヲ準用スルト云フノハ可笑イ
梅謙次郎君
本統ノ質ト云フモノハ一節二節三節ノモノ丈ケデアル其事ハ三百四十條デ分ツテ居ル夫レデアルカラ是ハ卽チ質ニ准ズルニ相違ナイ相違ナイケレドモ元々准ズルモノデアルカラ重荷ニ小付ケデアル之ヲ特別ノ權トシテ別ノ章ニ書クコトノ極メテ往カヌノハ卽チ第二編物權ト云ツテカラニ物ト云フモノハ有體物ニ限ルト云ツテ其物ノ上ニ權利ガアル准質權ト言ツテ權利ノ上ノ權利ト云フコトニナツテハ大變困ル此一章ノ中デ一體ハ物權デアルカラ質權ノ規定デ重荷ニ小付ケデ此處ニ斯ウ云フコトヲ書イタト云フコトデアレバ理窟ハ通ラヌコトハナイ、所ガ之ヲ十章ニシタラ理窟ハ少シモ通ラナクナル
議長(箕作麟祥君)
夫レデハ決ヲ採リマス土方君ノ御說ノ權利質ト云フノヲ准質ト改メルト云フコトニ贊成ノ方ノ起立ヲ請ヒマス
起立者多數
議長(箕作麟祥君)
多數デアリマス夫レデハ表題ニ付テハ外ニ御異議モナカラウト思ヒマスカラ本條ニ移リマス
(書記朗讀)
第三百五十九條 質權ハ權利ノ上ニモ之ヲ設定スルコトヲ得
前項ノ權利ニ付テハ本節ノ規定ノ外第一節ノ規定ヲ準用ス
(參照)佛二〇八一、蘭一二〇四、伊一八八六、瑞債務法二一六、西一八六八、白草二一四四、二一五三、獨一草一二〇六、同二草一八〇
富井政章君
本條ニ付テハ別ニ何モ說明スルコトハアリマセヌ
田部芳君
此處デ質問ヲ致シタ方ガ宜イカ後トデシタ方ガ宜イカ分リマセヌガ先ヅ此處ノ方ガ却テ宜カラウト思ヒマスカラ此處デ伺ヒマスガ今度變ハリマシタ准質デス此准質ノ順位ニ付テハ矢張リ先取特權ノ所ニ在ル規定ヲ準用スルト云フヤウナコトデアリマセウカ不動產質ニ付テハ先ヅ順位ガ極マツテ居リマスルガ准質ニ付テハ一向其規定ガ見ヘヌヤウデアリマスガ是ハ何ウ云フ御考ヘデアリマセウカ
富井政章君
或ハ何カナクテハナラヌカモ知レマセヌケレドモ之ヲ書イタ時ノ考ヘハ權利ト云フテモ孰レ財產權トカ動產カ不動產カヲ目的トシテ居ル、動產デアレバ本條第二項ノ規定ニ據テ動產質權者ト同ジ權利ニナル不動產ヲ目的トスル場合デアレバ抵當權ト同ジ力ノモノニナル然ウ云フ考ヘデアツタノデス
田部芳君
私ハマダ充分研究シタト云フ譯ニモ往キマセヌガ何ウモ規定ガナケレバ疑ヒヲ生ジテ後トデ不都合デアラウカト思ヒマスルカラ尙ホ御考ヘヲ願ヒタイ何カ矢張リ其順位ヲ示ス丈ケノ規定ガアツタ方ガ宜カラウト思ヒマス
横田國臣君
一寸起草者ニ御尋ネヲシマス何ウデゴザイマセウカ旣ニ第四節ヲ准質トシタ以上ハ准質ノコトデアルカラ無論此質權ノ規則ガまツと旨ク適用ニナラナクテモガ宜カリサウデアル夫レダカラシテ第二項ハナクテモ宜イ卽チ夫レガ准質ナルガ故ニ總則ニ於テ無論適用ニハナルケレドモ少シ齟齬スル所ガアル卽チ夫レガ准質ナルガ故ニト云フコトニハ往キマセヌ
富井政章君
辭丈ケハ宜イ
横田國臣君
何ウモ此二項ハ可笑イ
富井政章君
此第二項ノ「第一節ノ規定ヲ準用ス」ト云フノヲ「前三節ノ規定ヲ準用ス」トシタ方ガ宜クハアリマスマイカ然ウスレバ今ノ田部君ノ疑ヒガ一層明ニ解ケヤシナイカト考ヘマスガ何ウデセウカ
議長(箕作麟祥君)
只今ノハ修正案デアリマスカ
富井政章君
何ウカ原案ヲ替ヘルコトヲ御許シヲ願ヒマス
議長(箕作麟祥君)
(第一節)ト云フノデ(前三節)ト云フコトニスルノデスカ
富井政章君
然ウデアリマス
議長(箕作麟祥君)
夫レデハ第二項ノ「第一節」ト云フ所ガ「前三節」ト云フコトニ原案ガ修正ニナリマス
穗積八束君
一寸伺ヒタイノデアリマスガ此處ニ「權利」ト云フコトガ書イテアリマスガ是レハ債權ノ意味デアリマスルカ或ハ金錢ノ値打チヲ以テ動カシ得可キ所ノ權利ノコトヲ云フノデアリマスカ一寸御中說明ヲ願ヒマス
富井政章君
私ハ財產權ト解シテ居ル質權ノ性質カラ當然疑ヒハナカラウト思フテ居リマス
高木豐三君
一寸私ハ質問シマスガ表題ガ准質ト云フコトニ直リマシタガ然ウスルト此三百五十九條ハ何ウ云フモノデアリマセウ矢張リ「准質權ハ」ト云フタ方ガ適當デハアリマスマイカ
富井政章君
本條ノ規定ニ依テ准質ト云フコトガ分リマセウ權利ノ上ニ設定スル權利デアツテ然ウ云フモノガ准質ト云フコトガ分ル、始メカラ准質ト云フノデハ分ラヌ規定ガアツテ始メテ分ル
高木豐三君
定義ナノデスカ
富井政章君
准質ノ何タルコトヲ云フタノデアル
高木豐三君
私ハ然ウハ解シマセヌ准質權ト云フモノハ權利ノ上ニ設ケルコトガ出來ルヽヽヽヽヽヽヽヽヽ
横田國臣君
「准質權ハ權利ノ上ニ之ヲ設定スルコトヲ得」デハ往ケマセヌカ
元田肇君
一寸伺ヒマスガ此前三節ト云フノハ動產不動產ニ皆籠メタモノデアリマスガ然ウスルト此權利ヲ動產方ニ適用スル不動產ノ方ニ適用スルト云フコトハ何ウ云フコトデアリマセウカ
富井政章君
動產質權者ハ先取特權ノ所ニ極ツテアル如ク第一順ノ廣イ特權ヲ持ツテ居ル夫レカラ不動產質ノ方ハ抵當權ト同一ノ力ノアルモノデアルト云フコトハ不動產質ノ所デ極マツテ居ル夫故ニ動產ヲ目的トスル權利デアレバ只今申シタ動產質ト先取特權トノ規定ニ依テ其權利ノ力ガ自ラ分ツテ居ル順位ガ自ラ分ツテ居ル不動產ニ付テモ同ジコトデヽヽヽヽヽヽ
田部芳君
モウ一ツ伺ヒマスガ權利ノ目的ガ動產カ不動產カデアレバ宜イカモ知レマセヌガ動產デモナケレバ不動產デモナイ一種妙ナ權利ガアラウト思ヒマス其權利ハ例ヘバ私ノ考ヘデハ株券ノ權利ハ株主ノ權利デアル株主ノ權利ト云フモノハ動產不動產ヲ目的トセズシテ一種特別ノ權利デアル株主タル權利デアル其時ハ何ウ云フ風ニ適用シテ往キマスカ
富井政章君
只今ノ例ハ動產權デハアリマスマイカ私ハ夫レヨリ疑ハシイト思フノハ或仕事ヲサス權利デアル是ハどツちデアルカ頗ル疑ハシイ
田部芳君
株主ト云フモノノ權利ガ必ズ其金丈ケヲ受取ルモノトスレバ動產ト看テ宜シイカモ知レマセヌガ其利益ノ配當バカリヲ請ケルノデハナイ檢査ヲスル權トカ或ハ擔保スル權トカ云フモノモアリマスガ然ウ云フモノヲ併セテ株主權ト云フモノデハアルマイカト思ヒマス然ウシテ見ルト之ヲ動產權ト見ルコトハ何ウモ六ケ敷クハナイカト云フ疑ヒガアリマスガ
梅謙次郎君
夫レハ私ハ疑ハシクハナイト思ヒマス株主ガ總會ニ出席スルト云フコトハ出席夫レ自身ガ目的デナイ卽チ總會ニ出席スルノハ利益ノ配當ヲ受ク受ケタト云フ目的デアル其目的ヲ達スルニハ平生能ク監督ヲシナケレバナラヌ夫レデ總會ニ出席スルノデアルヽヽヽヽヽヽ若シヤ然ウ云フモノガ特別ナル權利デ財產權以外ノ權利デアルト見ラレルナラバ例ヘバ共有者ト云ツテモ其共有者ト云フモノハ他ノ共有者ガ物ノ濫用抔ヲシナイ爲メニ監督ヲスル權利ガアル又物ヲ處分スル時抔ハ他ノ共有者ト相續ヲスル權利ガアルト云フヤウナコトニナツテ然ウ云フコトモ所有權ノ外ニ然ウ云フ權利ガアルト云フコトニナツテヽヽヽヽヽ
田部芳君
勿論財產權デナイトハ云ヒマセヌ假リニ財產權トシテモ先ヅ一種特別ノモノガアツテ例ヘバ此法典ノ中ニ財產權ハ動產ト看做スト云フヤウナ規定デモアレバ其運ビモ付キマセウガ然ウ云フ譯ニモ往カヌ一種特別ナル色々ノモノガ含蓄シテ居ル權利デアルトシタナラバ是ハ直チニ動產權デアルト云フナラバ是ハヽヽヽヽルト思ヒマス夫レデ疑ヒヲ懷イテ居ル
穗積八束君
私ハ前ニ伺ツタコトデスガ財產權デアルト云フ御話デ意味ハ了解致シマシタガ尙ホ例ヲ擧ゲテ能ク確メテ置カヌト解釋上困リマスルカラ伺ツテ置キマスガ色々ナ權利ヲ例ヘバ漁業ノ營業ヲシテ居ル所ノ漁業區域ヲ書入ニシタトカ或ハ質入ニシタトカ云フヤウナ例モアル然ウ云フヤウナ種類或ハ版權抔ヲ質ニ入レタトカ云フヤウナトキヽヽヽヽヽ動產デアルカ何ンデアルカト云フヤウナコトニ付テモ疑ハシイト思ヒマス其他或ハ行政法ノ上ニ於テ財產ノ管理トモ云ベキ權利ヲ色々設定スルコトガ澤山アリマス然ウ云フモノニ付テ之ヲ利用スル權利ヲ一個人ニ與ヘタモノモアル然ウ云フモノハ法律上或ハ其人ヲ見テ許シテアルコトガアリマスシ或ハ其或町村ノ住民デアルガ故ニ其町村ノ共有ニ屬シテ居ル所ノ共有物ヲ使用スル權利ヲ有シテ居ル者モアリマス都テ夫レ等ノ權利ハ此一項カラ見レバ皆金錢上ノ値打チヲ以テ何ウカサレルヤウナコトニナリマスガ然ウ云フヤウナモノニ付テモ財產權トモ云フベキモノデアリマセウカ財產權デナイモノデアリマセウカ財產權ト云フ定義ヲ伺ウノデハアリマセヌガ若シ特別法ニ於テ禁ジテナイ以上ハ矢張リ一般ノ例ニ依テ往ケルト云フ御規則デゴザイマセウカ行政法ノ目的デハ或特定ノ人ヲ見込ンデ許シテアルノヲ突然夫レヲ質ニ入レルトカ何ントカ云フヤウナコトニナツテハ大變ニ公益ニ關係スルコトニナリヤシナイカト思フノデアリマスガ一寸其邊ノ所ヲ今一應御說明ヲ願ヒタイノデアリマス
富井政章君
只今例ニ御引キニナリマシタ漁業區域トカ版權ノ如キモノハ行政ニ餘程干繋ガアツテ行政上カラ取締ヲ要スルト云フヤウナコトモアリマセウケレドモ其權利自ラハ財產權デアル財產權デアレバ悉ク質ニ入レルコトガ出來ルカト云フニ公益ニ關スルモノハ或ハ特別法ニ於テ禁ズルコトモアリマセウシ或ハ又總則ノ法律行爲ノ所ニ公ノ秩序ニ反スル法律行爲ハ無效デアルト云フ規定ガアル、デ無論特別法ニ於テ禁ジテアルモノヲ質ニ入レルトカ或ハ其規定ニ反スル場合デアレバ無效デアラウト思フ左モナケレバ苟モ財產權ト云フコトノ出來ルモノハ質ニ入レルコトガ出來ルト云フ解釋ニナラウト思ヒマス一ツ々々其權利ヲ掴ヘテ之ガ財產權デアラウカナカラウカト云フ問題ニナツテ來ルト餘程六ケ敷イコトニナラウト思ヒマスケレドモ先ヅ標準ハ矢張リ財產權デ公益規定ニ反セナイ限リハ質ニ入レルコトガ出來ルト云フコトニナラウカト考ヘマス
土方寧君
財產權ト序ニ書イテ置ケバ宜イ
梅謙次郎君
夫レデモ宜イノデアリマスガ丁度占有ノ所デ同ジ問題ガ出テ「權利ノ行使」トアルノヲ「財產權ノ行使」ト云フヤウナコトニシヤウカト云フ說モアツタケレドモ一々財產權ト云フコトヲ書クノハ煩ハシイカラ疑ヒノ起ラヌ所ハ書クマイト云フノデ唯「權利」ト書イタノデアル時效ノ所抔ハ財產權ト書カザルヲ得ナイ
議長(箕作麟祥君)
本條ニ付テ別ニ修正說モ出ナケレバ可決セラレタモノト見テ先キニ移リマス
(書記朗讀)
第三百六十條 質權ノ目的タル債權ノ證券アルトキハ質權ハ其證券ノ交付ヲ爲スニ因リテ之ヲ設定ス
(參照)三四一、擔一〇二、三項、一〇三、一項、四項、商三六九、三七〇、蘭一一九八、一項、瑞債務法二一二、二一四、獨一草一二二五、同二草一一九九
富井政章君
本條ハ擔保編第百三條第一項ニ當リマス旣成法典ニ於テハ證券ノ交付ヲ質權設立ノ要件ヨリモ質權ヲ第三者ニ對抗スル要件ト見テ居ルヤウニ解シマス恰モ有體物ノ質ニ於テ占有ヲ以テ質權設定ノ要件トセズシテ居ルコトト同ジコトニ解スル併シナガラ旣ニ動產不動產質ニ付テ物ノ引渡ヲ必要トシタ以上ハ債權ノ質ニ付テモ少ナクモ證券ノアル場合ニハ―――尤モ多クノ場合ニハ證券ガアラウト思ヒマス其證券ノ交付ヲ爲スニ因リテ設定スルトシタ方ガ質權ノ性質ニモ適ヒ且有體物ノ質ニ關スル規定トモ權衡ガ取レヤウト思フテ本條ノ規定ヲ置イタノデアリマス
土方寧君
此條ノ書キ方ニ付テハ少シモ異存ハゴザイマセヌガ只今ノ御說明ニ據ルト少クモ債權ノ證券ガアツタ時分ニハ之ヲ引渡スコトヲ必要トスルト云フコトデアリマスガ證券ノナイ場合、證券ノナイ債權ヲ質ニ入レル時ニハ質置主、卽チ甲ガ乙ニ對シテ債權ヲ有シテ居ル、證券ガナイ其債權ヲ丙ニ質ニ入レタ場合、其場合ニ於テ甲ガ丙ニ向ツテ質入ノ證書ヲ作ツタ時分ニハ夫レデ成立ツテ居ルト云フコトデアリマスカ
富井政章君
證券ノナイ場合ニハ双方ノ合意ニ依テ質權ガ成立スルト云フコトニナラウト思ヒマス夫レガ本節ノ規定デアラウト思フ夫レデ前條ノ第二項ニ「本節ノ規定ノ外前三節ノ規定ヲ準用ス」トアリマスカラ何モ引渡サヌ時ニ於テモ質權ガ成立スルノハ不都合デアルト云フコトハ云ヘヌト思ヒマス證券ノナイ場合ハ夫レガ本節フ規定ニナラウト思ヒマス
横田國臣君
今ノ御答ヘニ付テ少シ疑ヒガアルノデスガ夫レハ何モナイ貸金ヲ質ニ置ク、其貸金ヲ質ニ置ク質ニ置カレルト云フト置クヤウナモノデアリマスケレドモちよつトモ第三者ニ對スル效能ガナイ
梅謙次郎君
實際ハ少シモ差支ヘヌヤウニナル
田部芳君
何時デアリマシタカ無記名證券ノ債權ノコトニ付テ御話シガアツタヤウニ考ヘマスガ今考ヘテ見マスルト云フト何ウモ無記名證券ノ債權ニ付キマシテハ例ヘバ此動產質ノ所ニアリマスル三百四十九條ノヤウナ規定ハ何ウモ矢張リ適用スル方ガ至當デアラウト思ヒマスガ其所丈ケ今一寸例ニ擧ゲルノデスガ何ウモ第三者ニ對シテハ證券、殆ンド證券ト云フモノハ動產ト同樣ニ働イテ往クモノデアリマスルカラ矢張リ此動產質ノ規定ヲ準用シタ方ガ至當デハアルマイカト云フ考ヘデアリマスルガ尙ホ充分ニ御考ヘニナツタノデアリマセウカ御意見ヲ伺ヒマス
富井政章君
恰モ只今田部君ガ述ベラレマシタヤウナ理由ガアルニ依テ本章ノ始メニ說明ヲ致シマシタ無記名證券ニ付テハ別段ノ規定ガナイ限リハ有體物ニ關スル規定ヲ適用スルト云フ一箇條カ又ハ一項ヲ通則ノ所ニ置ク考ヘデアリマス奈何トナレバ其事ハ獨リ質權ニ關セナイ種々ノモノニ付テ極ク特別ナル場合ヲ除クノ外ハ有體物ノ規定ガ當嵌ランナラヌト思ヒマス夫故ニ本章ニハ特ニ其事ヲ云フノヲ避ケテ通則ニ讓ルト云フ考ヘデアツタノデアリマス
横田國臣君
今三百六十一條ヲ見マシタガ私ハ之デ合點ガ往カヌ三百六十一條ハ私ハ斯ウ解シテ居ル例ヘバ私ガ人ニ金ヲ貸シタ然ウシテ其證文ヲ以テ外ノ人ニ質ニ入レタ其時分ニ其外ノ人ガ第三者ニ對シテ御前ガ横田ニ借リテ居ルノヲ己レガ質ニ取ルト云フコトヲ言ハナケレバナラヌ左モナケレバ無論第三者ハ知リマセヌカラ何時デモ私ニ拂ウ方ニナツテ仕舞ウ、ケレドモ私ハ然ウ云フノデハナイ今ノ債權ノ如キ此貸借トカ然ウ云フヤウナコトハ證券ノナイモノハ何ウモ質ニハ置カレヌモンジヤト思フ、デ其規定ヲ設ケタ方ガ宜クハナイカト思フノデゴザイマス必ズ今ノ債權ノ如キハ債權ノ證券ト云フモノガナケラネバナラヌ然ウデナケレバ質ニ取ルト云フテモガ何ウモ夫レハ空ナモノデ夫レハ質ニ取ツテモ宜イガ質ノ效能ト云フモノガ一ツモナイヤウニナル何カ證書ガナクテモ夫レヲ以テ他ノ者ニ對抗スルノニ極ク私ハ變デアラウト思フノデゴザイマス
田部芳君
モウ少シ附加ヘテ置キマスルガ只今御演ベニナリマシタ通リノ御考ヘデアリマスルナラバ――――只今總則ト言ハレタノハ私ノ考ヘデハ一編ノ總則デアラウト思ヒマス若シ然ウ云フコトデアルナラバ此處ニハ限リマセヌケレドモ何時カ特別ニ乙號議案トカ云フモノニシテ此會デ然ウ云フコトヲ議定シテ置クト云フコトニシテ後トデ整理ノ時ニ然ウ云フモノヲ書イテ何處ニ入レルト云フ案ヲ御出シニナルコトヲ希望致シマスルカラ其事ヲ建議致シテ置キマス
土方寧君
前條ノニ項ニ於テ此準質ノ順位ノコトガ書イテナクテハ不明瞭デアルト云フヤウナ田部君ノ御論カラシテ此「第一節」ト云フノヲ「前三節」ト云フコトニ改メルコトニナリマシタガ然ウスルト云フト不動產質ニ關スル規定ハ不動產ニ多ク適用セラルルデアラウト云フ考ヘデアリマス此準質ノ所ノ箇條ニハ債權云々ト云フコトガ書イテアリマスガ何ウモ一寸見タ所デハ何分ニモ准質ノ場合ニハ債權ヲ目的トスルモノ許リヲ見テ御書キニナツタヤウニ見ヘマスガ地上權ト云フヤウナモノヲ質ニ入レタヤウナ場合ノコトハ前條第二項ノ準用ト云フコトデ往クト云フ御考ヘデシタノデアリマスカ
富井政章君
全ク考ヘテシタコトデアリマス前三節ノ規定ニ依ルコトガ出來ズシテ特別ノ規定ヲ要スルモノハ債權デアラウト思ヒマス前條ノ第二項ニ「本節ノ規定ノ外」トアル其本節ノ規定ト云フモノハ債權ノ規定ヨリ外ニナカラウト思ヒマス其他ノモノニ付テハ「前三節ノ規定ヲ準用ス」ノ一句丈ケデ用ガ足リテ往クノデアラウト思ヒマス例ヘバ地上權又ハ永借權ヲ質ニ入レルト云フヤウナ場合ニ其不動產ヲ引渡サネバナラヌト云フコトハ總則ニアル三百四十一條、夫レハ矢張リ「準用ス」デ宜イ然ウ云フ風デ大抵前三節ノ規定デ足リテ往カウト思ヒマス
横田國臣君
モウ一ツ御尋ネヲシマスガ例ヘバ此三百六十條デスガ若シ證券ノアルノニ證券ヲ渡サナイ時分ニハ質權ト云フモノハ成立タヌ譯デゴザイマセウカ若シ成立タヌトスルナラバ例ヘバ私ガ外ノ者ニ貸金ガアル夫レヲ證書ガナイト云フテ質ニ入レタ然ウスレバ後トデ證書ガアツタ折リニ其質權ト云フモノハナクナツテ仕舞ウノデアリマスカ
梅謙次郎君
其證書ガアツタトキニナクナルノデナイ然ウ云フノハ最早始メカラ成立タヌノデアル然ウシナケレバ詐欺ガ行ハレテ仕方ガナイ
高木豐三君
證券ガナイノニ質ノ目的トナルト云フコトハ甚ダ可笑イト思ヒマス、所ガ只今梅君カ誰カノ御答ヘニハ證券ガナイ時ニハ通知ヲスル斯ウ云フコトデアリマシタガ三百六十一條ニハ「記名債權ヲ以テ質權ノ目的トシタルトキハ」トアル斯ウ云フノハ矢張リ前條ノ三百六十條ノ證券ヲ以テヤラナケレバナラヌト云フコトカラ引續イテ三百六十一條デ「記名債權ヲ以テ質權ノ目的トシタルトキハ」云々ト云フヤウニ矢張リ前ノヲ含ンデ居ルヤウニ解セラレマスガ是ハ證券ヲ交付スルコトヲ要スルト云フヤウナコトヲ前條ニ書イテ然ウシテ次ニ證券ノナイモノモ通知サヘスレバ效ガアルト云フ斯ウ云フ意味ニナルノデアリマスカ
富井政章君
三百六十條ニ於テ證券ガアルトキハ其證券ヲ交付セネバ質權ガ成立タナイト云フ以上ハ證券ノナイトキハ唯合意丈ケデ成立ツト云フコトニナラウト思ヒマス而シテ次ノ三百六十一條ニ於テ其二ツノ場合ヲ見テ居ル證券ガアツテ其證券ヲ引渡シテ質權ガ成立シタ場合夫レカラ證券ガナクテ唯合意計リデ成立シタ場合此二ツノ場合ヲ見テ居ル證券ノナイ場合ニ質權ガ成立シテモ弊害ノナカラウト思フ譯ハ夫レハ第三者ニ對シテ鄭重ナ公示法ガ定メテアル弊害ト云ヘバ第三者ガ損害ヲ蒙ムル弊害デアル此弊害ハ通知カ承諾デ防イデアルカラ双方間ニ於テハ其合意丈ケデ成立スルト言ツテモ少シモ不都合ハナイト思ヒマス加之ナラズ第一證券ノナイ場合ニハ合意丈ケデ質權ヲ設定スルコトガ出來ルトシテモ實際ハ滅多ニアルマイト思ヒマス又出來ルト云フ方ガ理論上ハ正シイト思ヒマス奈何トナレバ權利ノ質ト云フモノハ權利ヲ質ニ入レル恰モ有體物ノ場合ニ物ヲ質ニ入レルト云フコトト同ジコトデ證券ト云フモノハ唯權利ノ證明書ニ過ギナイ其證書ヲ入レネバ質權ガ成立シナイト云フ方ガ反テ變則デアル證券ノナイ場合ニ合意丈ケガ出來ルト云フノハ全ク實際ノ便宜カラ來ル、證券ノナイ場合ハ成立セシメナイト云フヨリモ權利其者ヲ質ニ入レルノデアリマスカラ何モセズニ質權ガ成立スルト云フ方ガ理論ハ正シイト思ヒマス
土方寧君
高木君ノ今ノヤウナ御心配ガアツテ三百六十一條ニハ此證券ノアツタ場合トナカツタ場合ト兩方見テ規定セラレタト云フコトノ御說明デアリマスケレドモ然ウハ見ヘナイ三百六十一條ニハ記名債權ト云フコトガアリマスカラ何カ證券ガナケレバナラヌヤウニ見ヘル三百六十一條ノ法文ノ上カラ見タナラバ證券ナキ債權ヲ質ニ入レタ場合ヲ想像シタト云フコトニハ何ウシテモ思ハレナイ其事ハ別ニ委シク論ズルニ及ビマセヌガ第三債務者ニ對シテ損害ヲ加ヘル虞ガアルト云フ方ヲ云フノデハアリマセヌケレドモ併シ此准質、權利ヲ目的トスル質權ト云フモノハ何ウモ證券ノアル場合ニ限ルト云フコトニシナケレバナラヌト思ヒマス本來物ト云フモノハ有體物ニ限ルト云フコトニ極メテアル然ウスルト權利ヲ目的トスルト云フコトハ質ノ性質カラ云フトナイノデアル併ナガラ實際外ノ動產不動產抔ヲ質ニ置クト同ジヤウニ債權ヲ質ニ入レルヤウナコトガアルノデアリマスカラ之ニ付テ同樣ノ規定ヲ設クル夫レハ卽チ准質デアル質ニ准ズル質權デアル、准ズルコトガ出來ルト云フノハ權利ト無體物デアルケレドモ權利ヲ生ズル所ノ證券ト云フ有體物ガアル恰モ動產不動產ノ質ト同樣ニ其交付ヲ爲スニ因テ卽チ引渡ニ依テ質權ヲ設定スルト同ジヤウニ權利ニ付テモ同ジク設定スルコトガ出來ル夫レデ交付ト云フノデアルカラ其引渡ヲシテ始メテ准質ト云フコトガ言ヘルノデアツテ單純ニ證書モ何モナイノニ質ニ入レルト云フコトハ何ウデアリマセウカ決シテ質ノ性質ト云フモノハ然ウ云フモノデハアルマイト思ヒマス第三者ニ對シテ抵當ニスル然ウ云フ准質ノモノデハアルマイカト思フ夫レデ私ハ證券ノナイ債權ト云フモノハ質ニ置クコトハ出來ヌ夫レヲ抵當ニスルコトハ出來ルト云フコトデナケレバナラヌト云フ考ヘデアリマスカラ此三百六十條ノ文章ヲ改メタイト思ヒマス原案ノ通リニナツテ居ルト證券ノアル時ハ何ウデアルト云フトナイトキハ何ウカト云フヤウナ裏ガ出テ來ヤウト思ヒマス夫レヲ避ケル爲メニ「債權目的トスル質權ハ其證券ノ交付ヲ爲スニ因リテ之ヲ設定ス」ト云フコトニ文章ヲ改メタイト思ヒマス
富井政章君
次ノ條ノ記名債權ト云フ文字ガ證券ノナイ場合ニ當嵌ラヌト云フ理由ニ餘程ナツテ居ラウト思フ成程此記名ト云フ字ハ面白クナイカモ知レヌガ併シ記名債權ノ「權」ノ字ニ御注意ヲ願ヒタイ旣成法典ニハ「券」ノ字ガ書イテアリマスガ夫レヲ改メテ斯ウ云フコトニシタノデアリマス然ウシテ見レバ記名債權ト云フモノハ誰ガ其證書ヲ持テ往ツテモ取立ツルコトノ出來ルヽヽヽト云フコトハ疑ヒハナカラウト思フテ書イタ夫レカラ今ノ證書ノナイ場合ニハ質權設定ハ出來ヌト云フ方ニシタ方ガ宜イト云フ御意見ハ之又別ノ御意見デアリマスカラ更ニ申ス必要ハナイト思ヒマス唯御參考ノ爲メニ申シテ置キマスルガ此處ニ擧ゲテアル法律、實ハ大抵皆然ウ云フ場合ニハ質權ハ成立スル方ノ主義デアラウト私ハ解シタ現ニ瑞西債務法抔ハ慥カニ明文ノアツタコトヲ記憶シテ居リマス
元田肇君
私共ハ成ル可ク證券ハナクテモ質ニ入レルコトガ出來ルト爲ツタ方ガ宜カラウト思ヒマス又其御積リデ御起草ニナツタコトト考ヘマスガ併ナガラ夫レデ論理上ハ立派デアルカモ知リマセヌガ實際ニ於テ法律ヲ設ケテ其働キヲ爲サシメルト云フコトニナツタ時ニハ證券ノナイモノハ何カ登記ノ手續トカ何ントカ云フモノデ本統ノ法律ノ働キガ出來ルト云フコトニナランケレバ詰リ拵ヘテ置テモ理論上ニ於テハ許シテアツテ實際上ニ於テハ禁ジタト云フヤウナ結果ニナリハシナイカト云フ感ジガアリマスガ如何デゴザイマセウカ
富井政章君
登記ト云フモノハ出來得マイト私ハ思フ債權ト云フモノハ決シテ動產ニ限ラナイデスケレドモ多クノ場合ニハ動產ヲ目的トスルダラウト思ヒマス夫故ニ登記ト云フモノハ當嵌ラナイト思ヒマス又其理由ニ依テ土方君ノ抵當トスルト云フ御說モ動產ノ場合ニハ丸デ當嵌ラヌ位ノモノデアラウト思ヒマス實際然ウ云フモノハ質ニ取ラナイト云フ方デ充分ノ堤防ハ出來テ居ラウト思ヒマス
横田國臣君
富井君ハ一體學說カラ言ヘバ何ンデモナル方ガ至當ジヤト斯ウ言ハレマスガ夫レハあつぷそとりうとゝ言ババ然ウ云ヘルカモ知レマセヌケレドモ元來此質ト云フモノハ證文ヲ要スルカト云フ場合ニハ何ウカシテ斯ウシタイノデス不動產ノ方ニ付テハ無論登記ト云フモノガアル夫レカラ此動產ノ方ニ付テハ私ハ證券ト云フモノデ質ニ置クト云フコトニシタイ夫レデ夫レハ不動產ニ付テ登記ヲセズシテ質ニ置クコトモアラウシ又動產ニ付テモアルデアラウ、ケレドモアツタ所ガ夫レハ役ニ立タヌ唯其双方間ヲ契約シタノミデ例ヘバ私ガ證券ノアルモノデモガ證券ヲ取ラズシテ質ヲ取ツタ所ガ何モ役ニ立タヌトハ云ヘマセヌ後トデ以テヽヽヽ
梅謙次郎君
夫レハ質權デハナイ
横田國臣君
丸デ無效ニハナラナイ夫レデ私ハ此動產ニ付テハ然ウシタイ不動產ニ付テハ登記スルコトモナラネバ何ウモ質權ト云フテ權モ何モナイケレドモ只權ガアルト云フノハ私ハ何ウシテモ分ラヌ第三者ニ對シテ夫レガ有效ナラバコソ質權ト云フモノノ效力ガアル、所ガ第三者ニ對シヤウトシテモ仕方ハアリヤシナイ例ヘバ私ガ人ニ金ヲ貸シテヤル夫レヲ人ニ質ニ置クト云フ時ニ外ノ債主ハ知ル譯ハナイ、知リヤウガナイ夫レデ私ハ夫レヲ質ニ置クノハ無理デアラウト思ヒマス
富井政章君
第三者ニ對シテ公示ノ方法ハ次ノ條ニ規定シテアル之レデ充分弊害ハ防ゲル
横田國臣君
夫レハちよつとモ防ゲヌ丁度差押ノ場合モ一ツデ例ヘバあなたニ私ガ債權ガアツタナラバ私ヲ差押ルト云フコトデヽヽ
梅謙次郎君
若シ横田君ノ御議論ガ事實デアレバ三百六十一條ノ適用ハナイ第三百六十一條ノ規定ハ第三債務者ガ承諾ヲスレバ第三債務者其他ノ第三者ニ對抗スルコトヲ得ルト云フコトニ爲ツテ居リマス又是迄他ノ國ニ於テ凡ソ斯ウ云フ風ナ法律ニナツテ居ルト云フモノハ第三者ガ知レバ第三債務者ノ所ニ聽キニ往ク例ヘバ私ガあなたノ證券ヲ持ツテ居ツタ、所ガ其證券ニハ千圓トアルケレドモ其内九百圓ハ旣ニ拂ツテ居ルノカモ知レヌ全額ヲ拂ツテ居ツテモ或ハ信用ノアル間デハ證券ハ請取ラズシテ先ヅ金ノ請取丈ケヲ渡シテ置テ證券ハ後日デ邊ルト云フヤウナコトモアル話デアル夫レデアリマスカラ證券丈ケデハ充分ノ信用ヲ得ラレマセヌカラ若シ債權ニ付テ權利ヲ得ヤウト思ヒ又ハ權利ヲ行ナハウト云フ者ガアレバ必ズ第三債務者ノ所ニ往ツテ御前ガ誰某ニ借リテ居ル金ハ何ウ云フ有樣ニナツテ居ルト云ツテ聽クニ相違ナイ然ウスルト第三債務者ハ自分ハモウ旣ニ義務ヲ書シテ仕舞ツタトカ或ハ是ハマダ誰某ニ質ニ這入ツテ居ルトカ云フコトヲ云フノデアラウカラ夫レデ外ノ者ハ質ニ這入ツテ居ツテモ金高ガ僅カデアルカラモウ一ツ質ニ取ツテモ宜イト云フコトニナルカラ此三百六十一條ノ規定ハ用ヲ爲ス若シ用ヲ爲サナケレバ此三百六十一條ハ必要ガナイ例ヘバ横田さんカラ私ガ金ヲ借リテ居ル幸ニ横田君ガ私ヲ信用シテ呉レタカラ證書ハ入レナイ、ケレドモ正ニ百圓ナラバ百圓ヲ借リテ居ル、所ガあなたガ都合ガアツテ其債權ヲバ長谷川君ナラ長谷川君ニ質ニ入レル長谷川君ハ其事ヲ知ツテ居ル夫レデハ宜シイ夫レヲ質ニ取ルト云フノデ長谷川君ガ私ノ所ニ通知ヲスル通知ヲスレバ第三債務者又ハ第三者ニ對シテモ效力ガアルト云フコトニナル然ウ云フコトニナレバ證券ノアルナイト云フコトハ何ウデモ宜イト云フコトニナル又證書抔ト云フモノハ有體動產ノ如クごろ々々ソコラニころガシテ置クモノデハナイ必ズ箪笥ノ抽斗カ何カニ仕舞ツテ置クモノデアルカラ夫レガ公示ノ方法ニハナラナイ夫レダカラ特ニ三百六十一條ノ規定ガ必要デアル
横田國臣君
此條ノ必要ナノハ例ヘバ今梅さんガ私ニ貸ガアル其貸金ノ證書ヲ富井さんニ質ニ置イタ、質ニ置イタ所ガ若シ私ニ通知ヲシテナケレバ私ガ梅さんニ直グ拂ウカラ梅さんガ使ツテ仕舞ヘバ何モナラナイヤウニナル其爲メニ此三百六十一條ト云フモノガ必要ナノデアル夫レデ之ヲ以テ第三者ニ對抗スルト言ツテモガ夫レハあなた方ガ此間カラ大變仰ツシヤツタ通リニ土臺是ハ外ノ者ガ見テモちよつとモ分ラヌあの人ハ此位人ニ貸ガアルカラシテ信用シテヤツテモ宜カラウトカ何ントカ云フコトハ外ノ者ガ知ラウト思ツテモ知リヤウ筈ガナイ夫レヲ又向フニ往ツテ尋ヅネル是ハ最モ弊ノアルノハ破產ノ場合抔ニハ隨分弊ガアラウト思フノデゴザイマス夫レデ記名債權サヘ質ニ取ツテ居レバ債權者ニ取ツテモ確實デアル夫レダカラシテ私ハ然ウ云フヤウニ一々云フテ御前ノ所ニ通知シテゴザルカト云フヤウナコトヲ調ベテ見ナケレバナラヌト云フヤウナ知ラセ方ト云フモノハ宜クナイ方法デアラウト思ヒマス
高木豐三君
先刻富井君カラシテ「記名」ト云フ下ニ「債權」トアル此「權」ノ字ハ旣成法典ニ謂フ手形ト云フ字デハナイ、依テ違ウト云フ御注意ガアリマシタガ旣成法典ニ所謂記名ノ債券ノ手形ト云フノハ則チ無記名債券ト云フ手形ガアルカラ之ニ對シテ記名證券、無記名證券ト云フモノガアルノデス何ウ云フモノデゴザイマセウカ之ヲ一ツ伺ヒタイ夫レカラ又先刻カラ度々御述ベニナリマシタ所ノ卽チ證券ノナイモノデモ質トシテ宜カラウ又理論モ然ウカモ知レヌケレドモ私等ノ考ヘデハ質ト云フモノハ――――是ハ准質デアリマスガ元來形ノ必要ノモノデアルト考ヘテ居ル夫レノミナラズ此債權者、今度質取主ト第三債務者トノ間ニ於テ自分ガ今度質ニ取ルカラ御前ガ拂ツテ呉レ宜シイト云フヤウナ承諾上ノコトハ法律上少シモ第三者ニ對シテ效力ヲ生ズルモノデハナイト思ヒマス其譯ハ現ニ此質契約ト云フモノハ書面契約ヲ要セヌト云フコトニナツテ居ル然ウスルト是ハ口デ通知ヲシテ口デ承諾ヲスル夫レデ以テ第三者ニ對抗スルコトガ出來ルト云フノハ何ウ云フコトニナルノデアリマスルカ外ノヽヽヽヽヽ
富井政章君
一寸御中言デスガ次ノ條ニ依テ第三者ニ對抗スルコトハ出來ルノデアリマス
高木豐三君
承諾シマシタト口デ云フ、口デ承諾シタ時分ニハ何ウ云フモノデアリマセウカ第三者ハ誰某ニどれ丈ケノ貸ガアルト云フコトヲ知ツテ居ル夫レデ差押ニ往クト是ハ誰某ニ質ニ入レテ居ルカラ往ケヌト云フヤウナヽヽヽヽヽヽ
元田肇君
三百六十一條ト前ノ條ト一緒ニヤルヤウナコトハ出來ヌモノデアリマセウカ何ウモ私共ニハ能ク分リマセヌケレドモ一寸考ヘタ所デハ第三債務者ニ通知ヲシタト云フ丈ケデ以テ第三者ニ對抗スルコトガ出來ルト云フヤウナ條ハ無論反對ヲスル積リデアリマスガ若シモ三百六十一條ガ潰レタナラバ前ノ三百六十條ニ對スル起草委員ノ御意見モ違ツテ來ヤウト考ヘマス三百六十一條ノヤウナ規定ヲ置キマスルト云フト實際ニ於テ隨分詐欺ガ行ハレヤウト思ヒマス夫レデ何ウカ是ハヽヽヽヽヽヽ
議長(箕作麟祥君)
一寸伺ヒマスガ一緒ニヤルト云フノハ二ケ條合セテ問題ニスルト云フコトデアリマスカ
元田肇君
左樣デアリマス、ト申シマスルノハ三百六十一條ニアルヤウニ唯通知ヲシテ金ヲ借リタ人ガ承諾シタト云フコト丈ケヲ以テ第三者ニ對抗ガ出來ルト云フヤウナコトニナツタラ私ハ實際上詐欺許リ行ハレルヤウニナラウト思ヒマス夫故ニ斯ウ云フヤウナル箇條ハ削リタイト云フ考ヘデアリマス若シ削ルト云フ說ガ多數デアツテ之ガ削ラルルコトニナリマシタナラバ三百六十條ニ對スル起草委員ノ御意見モ變ハリハシナイカノヤウニ思ハレマス夫レデアリマスカラ三百六十一條モ併セテ議スルヤウナコトニ願ヒタイト思ヒマス
横田國臣君
私ハ土方君ヲ贊成シマス
穗積陳重君
私ハ意見ヲ申スノデハアリマセヌガ多分土方君竝ニ高木君ノ御說ハ記名債權ト云フモノハ必ズ證書ガアルモノデアルカラ夫故ニ三百六十一條ノ場合モ矢張リ三百六十條ノ場合ト同ジ範圍デハナイカト云フヤウナ御意見デアラウト思ヒマスガ先刻富井君モ御答ヘニナリマシテ私共モ矢張リ同ジヤウナ考ヘヲ持ツテ居リマスガ或ハ文字ガ穩カナラヌ所カラ然ウ云フ御說ガ出ルノデアラウト思ヒマス實ハ此記名債權ト云フノハ指名債權ト云フタ方ガ宜イカモ知レヌ吾々ハ決シテ記名ト云フ字デこり固マツテ居ル譯デハアリマセヌカラ辭ガ惡ルケレバ直シテ宜シウゴザイマス
高木豐三君
前ニ然ウ解シテ居ツタカラ然ウ讀メタノデスガ夫レガ主義ガ違ウト云フコトデアレバ主義ヲ替ヘテ土方君ニ贊成ヲスル斯ウ云フ考ヘデアリマス
長谷川喬君
私モ土方君ニ贊成ヲシマス其譯ハ質ト云フモノノ性質カラ言ヘバ現物ヲ占有スルコトハ出來ヌカラ夫レデ債權ト云フモノヲ以テ之ニ代ヘルノデアル夫レデ旣成法典ノ御引用ニナツタ所ノ條ヲ見テモ證券ノナイモノニモト云フコトデハナイ卽チ證券ノアルモノニ限ツテ居ルト云フコトハ疑ヒハナイト思ヒマス然ウシテ見レバ旣ニ准質ト云フテ現物ハナカラウトモ債權ノアルモノヲ許シタ上ニ尙ホ債權ノナイモノ迄ヲモ許スト云フコトハ如何ナモノデアリマセウカ私ハ夫レ迄ニ及ボスト云フコトハ宜シクアルマイト思フ又其性質カラ見タ所デ言ヘバ債權證書ヲ持ツテ居ル者ト夫レカラ債權證書ノナイ者ト二人リノ質債權者ガ生ジタ場合ニハ債權證書ノアル者ニ優先權ヲ與ヘネバナルマイト思ヒマス然ルニ此三百五十二條ノ規定ヲ準用スルコトニナリマシタ以上ハ矢張リ設定ノ順位ニ依ルト云フコトニナル斯ノ如キコトハ許シタ以上ニハ實ニ詐偽ト云フモノガ夥シク生ジテ折角設定シタ所ノ質權ト云フモノヲ完全ニ保ツコトハ出來ヌト思ヒマスカラ何ウカ是ハ土方君ノ說ノ通過スルコトヲ希望致シマス
奧田義人君
一寸土方君ニ質問シタイノデスガ私モ精神ニ於テハ土方君ノ說ヲ贊成シタイト思フノデアリマス例ヘバ地上權デアルトカ或ハ永小作權デアルトカ云フモノヲ質入ニスル時ハ何ウ云フコトニナリマスカ其時ニハ固ヨリ證券抔モアリマセヌガ何モ引渡サズニヤルト云フノデアリマスカ
土方寧君
只今奧田君カラ質問ガアリマシタカラ簡單ニ御答ヘヲ致シマス固ヨリ地上權永借權ノ如キモノハ權利デアル其權利ヲ動產ト云フト云フヤウナコトハ此會ノ豫定ノ案ニハナイ、性質ハどちらニナツテ居ルカト言ヘバ地上權永借權ハ不動產物權、夫レデアリマスカラ不動產ト同視スベキモノデアル、ケレドモ是ハ旣ニ議決ニナツタ所ノ箇條ニ依テ地上權ノ目的トナリ永借權ノ目的トナルモノハ不動產ヲ引渡サナケレバ成立タナイ不動產ト云フモノヲ引渡サナケレバ何ウシテモ成立タナイ然ウ云フ風ノ場合ニハ總テ書イテナイ唯準用ト云フ一句デ以テ物ノ性質カラ見テ前ニ極ツタ所ノ箇條ト照シ合セテ見テ往クヨリ仕方ガナイ併ナガラ此案ハ――――重ネテ言ハヌデモ宜イノデアリマスガ准質ト云フコトデアルカラ准ズルト言ヘバ何カ似タ所ガナケレバ往カヌ似タモノデアルカラ准ズルト云フノデアル質ノ原則ト云フモノハ有體物ニ限ルト云フコトニナル債權ノ如キハ固ヨリ有體物デアルト云フ所デ質權ヲ設定スルコトガ出來ルト云フコトデアラウト思フ夫レデ私ノ案ガ出タ譯デアリマス
田部芳君
土方君カラ證券ノナイ債權ト云フモノハ質ニ入レルコトハ出來ヌト云フヤウナ所カラ修正案ガ出マシタガ私ハ頗ル其修正案ニ驚クノデアリマス何ウモ當事者双方間ノ關係ト第三者トノ關係ヲ誤解セラレテ居リハシナイカト私ハ疑ヒマス證券ヲ渡ストカ渡サヌトカ云フコトハ双方ノ間丈ケノ話デアツテ第三者ニ對スル關係ノコトニ付テハ卽チ次ノ條ニ規定シテアル尤モ此次ノ條ノ書キ方ノ惡ルイト云フコトニ付テハ私モ考ヘガアリマスガ是ハ別問題デアリマス何故ニ證券ガナケレバ債權ト云フモノハ質ニ取ルコトガ出來ヌノデアラウカ、次ノ條ニ於テ第三者ニ知ラシムル方法ハチヤント設ケテアル夫レニ拘ハラズ證券ノナイ債券ハ質ニ入レルコトガ出來ヌト云フコトニナルノハ頗ル奇怪ナル規定ニナラウト思ヒマス何ウカ尙ホ諸君ニ於テモ充分ニ御考ヘヲ願ヒタイモウ一ツ附加ヘテ置キマスノハ只今ノ奧田君ノ御問ヒデ考ヘ付イタノデアリマスガ登記シテアル權利ヲ質ニ入レルトキニハ是ハ矢張リ登記法ニ入レルト云フコトニスルトカセヌトカ云フヤウナ考ヘガアツテ特ニ夫レハ然ウ云フコトニセヌデモ宜カラウト云フヤウナ考ヘガ極マツテ居ラウト思ヒマスガ私モ充分ニ考ヘテハ居リマセヌガ先ヅ私ノ考ヘデハ質權ノ設定ニ付テハ矢張リ登記スルト云フコトニシタ方ガ至當デハアルマイカト思ヒマス
梅謙次郎君
序ニ只今ノ田部君ノ御說ニ對シテ御答ヘヲ致シマス田部君ノ御疑ヒハ誠ニ御尤モナ御疑ヒデアリマスルガ是ハ此處ヘ書カズシテ矢張リ不動產ニ關スル權利デアリマスレバ不動產質ノ規定ヲ準用スルノデアルカラ從テ此不動產質ト云フモノハ―――此處ニ規定シテアルモノハ抵當權ト同ジ效力ヲ持ツモノデアリマスルカラ夫レデ抵當ノ規則ガ當嵌ルヤウニナル積リデアリマス尤モ不動產ニ關スル權利ニ付テハ登記ヲ要スルモノハ總則ニ旣ニ極マツテ居リマスカラ詰リ何ウ云フ風ニ適用セラルルヤト云フコトサヘ規定セラルレバ宜カラウト思ヒマス而シテ抵當ノ所デ夫レニ類似ノ問題ガ出テ來マスルガ斯ウ云フコトニ私ハナラウト思ヒマス夫レハマダ抵當ノ方ガ極ラヌノデアリマスカラ慥カナコトハ申上ゲラレマセヌガ私ノ考ヘ丈ケヲ申シマスレバ斯ウ云フコトニナラウト思ヒマス矢張リ登記ハ卽チ第三者ニ對スル要件ト云フコトガ本案ノ主義デアツテ夫レガ總則デ一旦可決シテ居ル以上ハ今ノ場合ニハ登記ハ固ヨリ必要ニハ相違ナイ其必要デアルト云フノハ權利ノ設定ニ必要デナクシテ寧ロ第三者ニ對シテ必要デアルト云フコトニナル夫故ニ今ノ地上權又ハ永小作權ノ如キハ不動產ト云フモノト離レザル權利デアリマスカラ所有權ノ少シ範圍ノ狹イヤウナモノニ直接ニ行バレル權利デアリマス眞ノ物權トモ云フベキモノハ實ハ此二ツカモ知レマセヌガ其權利ト云フモノハ目的物ガ直接ノ不動產デアリマスカラ不動產質ノ規定ヲ準用スルト云フコトニナルト必ズ不動產ヲ引渡サナケレバナラヌト云フコトニナリマス然ウスルト其方ハ設定ハ何時カラカト言ヘバ引渡シタ日カラ、然ウシテ第三者ノ方ハ何ウカト言ヘバ登記、斯ウ云フコトニナラウト思ヒマス夫レカラ只今田部君カラモ御駁撃ガアリマシタガ土方君ノ修正說ニ大變同意者ガアルノデ實ハ私モ驚イタノデアリマスガ或ハ吾々ノ說明ノ足ラヌ爲メニ事柄ノ中ニ誤解ガアリハシナイカト私ハ疑ウノデアリマス終リニ言ハレタノデアリマスガ其方ガ強イ理由デアリマスカラ其方カラ申シマスガ長谷川君ハ三百五十二條ヲ引テ一人ハ證券ナシニ質權ヲ設定シタ他ノ一人ハ證券ヲ請取ツテ質權ヲ設定シタ場合ニ於テハ三百五十二條ニ依テ設定ノ前後ニ依ルト云フコトニナツテハ大變デアルト云フコトヲ言ハレマシタケレドモ然ウ云フ事ハアリ得ナイ始メカラ證券ノアル場合ナレバ其證券ノ交付ヲシナケレバ質權ハ設定セラレナイ又始メカラ證券ノナイ場合ハ引渡ハ出來ヌニ依テ夫レデ唯合意丈ケデ宜シイト云フコトニナル證券ノアル場合ナラバ其證券ハ成程有體物ト同ジヤウニ――――證券其者ガ有體物ト同樣デアルカラ他ノ有體物ト同樣ニ幾人モ占有スルト云フコトハ代理占有ノ理論ニ依テ悉ク出來ル其場合ニハ矢張リ三百五十二條ガ當嵌ル夫レカラ又證券ノナイ場合、證券ノナイ場合デアリマスルト云フト第三者ニ對シテハ占有デハナク次ノ三百六十一條ノ規定ガ必要デアル今田部君モ言ハレタコトデアリマスケレドモ本案ニ於テハチヤント條理ガ立ツテ居ル積リデアリマス動產質ノ方ハ設定ハ引渡デアル其代リ第三者ニ對スルニハ唯引渡許リデハ徃ケナイ引續テ占有スルト云フコトガ必要デアル不動產質ノ方ハ設定ハ引渡デ而シテ第三者ニ對シテハ登記ガ必要デアル其代ハリ占有ヲ繼續スルト云フコトハ必ズシモ要用トハシテ居リマセヌ權利質ニ於テハ何ガ必要カナラバ證券ノアル場合ニハ證券ノ引渡、證券ノナイ場合ニハ合意ニ因ル夫レガ必要デアル、ケレドモ一旦證券ヲ請取ツテ第三者ニ對抗シヤウト思ヘバ第三百六十一條ノ手續ヲ履マナケレバナラヌ、デアリマスルカラ證券ハ一旦請取リサヘスレバ必ズシモ夫レヲ持テ居ラナケレバナラヌト云フノデハナイ何故カナラバ證券ヲ持ツテ居ルト云フコトガ必ズシモ第三者ニ對シテ公示ノ方法ニハ決シテナラヌト思ヒマス第三者ガ來タ時ニ私ガ誰某カラ證券ヲ或債權ノ質ニ取ツテ居ルト云フテ見セルモノデハアリマセヌ有體動產デアレバ仕舞ツテ置クコトモ出來ルガ隨分物ニ依テハ人ニ見ラレル併ナガラ此證券抔ト云フモノハ何時モ箪笥ノ抽斗カ何カニ入レテ置クモノデアリマスカラ債務者ノ手ニ在ルカ何ウカト云フコトハ分ラヌ然ルニ證書ノナイ時ニハ弊害ガ起ルト云フコトハ私ニハ漠然ト聞エマスガ其漠然タル御議論ガ何ウモ分ラヌ第三者ニ對シテハ三百六十一條ノ規定ガアル此規定ガ若シ不完全デアルナラバ之ヲ如何樣ニモ御改正ニナルコトヲ望ミマスガ此處ニ於テ第三者ニ對スル御論ノ出ルノハ私ノ最モ了解ニ苦ム所デアリマス此債權ニ證券ノナイモノハ實際ニハ稀レデアリマセウケレドモ取引ノ頻繁ニナルニ從テ商業上抔ニ於テハ一々證券ヲ作ツテ居ル抔ト云フコトハ出來マセヌカラ隨分場合ニ依テハ證券ナシニ質權ヲ設定スルコトガアラウト思ヒマス然ルニ證券ノナイ債權ハ質ニ入レルコトガ出來ヌト云フヤウナコトニナツタナラバ極メテ不便デハアリマスマイカ土方君ハ然ウ云フ場合ニハ抵當ニ入レルト云フヤウナ御親デアリマスガ成程ソノヤウナル場合ヲ抵當ト見テ居ル國モアリマスルガ併シナガラ動產ノ抵當ト云フモノハ本案デハ多分認メナイコトニナルデアラウト思ヒマス今日動產ノ抵當ヲ認メテ居ル國ハ私ノ見タ所デハナイヤウデアリマス(本野委員「英吉利」ト呼ブ)英吉利ノハ本統ノ抵當デハアリマスマイ日本ニ於テ實際ニ於テハ稀ニアラウガ實際家ニ聽テ見ルト殆ンド有名無實ノモノデアリマスカラ餘リ行ハレナイ夫レカラ又禁ズル丈ケノ必要ガアルカモ知レヌガ禁ゼラレタ所ガ非常ニ不便ヲ感ズルト云フ程ノコトモナイト云フコトデアリマス成程夫レハ然ウデアリマセウ動ク物ヲバ抵當ニシテ置イタ所ガ仕方ガナイ故ニ動產ノ抵當ト云フモノハ多分本案デハ認メヌト云フコトニナルダラウト私丈ケハ思フ然ウスルト債權ノ抵當ト云フモノヲ認メルコトニナルト夫レガ爲メニ特別ノ規則デモ設ケヌト往ケヌ不動產ノ抵當ノ規則ガ夫レニ嵌マルト云フ譯ニハ往キマセヌカラ、夫レカラ債權ヲ抵當ト見テ居ル國デハ抵當ノ規則ト質ノ規則トヲ一緒ニシテ總則ニ置テ夫レカラ小分ケヲシテ抵當、質ト云フコトニナツテ居リマス然ウ云フ所ニ於テハ名ハ質ト言ハウガ抵當ト言ハウガ差支アリマセヌガ實際ニ於テ困ルヤウナコトハナイケレドモ理論ニ於テハ占有ヲ渡ストカ渡サヌトカ云フ違ヒ丈ケガ重モデアツテ餘程類シタモノデアリマスカラ同ジ性質ノ權利ト見ルト云フノハ理論ニ於テハ尤モト思ヒマスケレドモ是迄ノ慣習モ別ニナツテ居リマスルシヌ規定ノ方カラ云ツテモ別ニスル方ガ都合ガ宜シイ夫レデ假リニ土方君ノ御希望通リニ抵當ト云フコトニシテモ夫レヲ入レル場所ニ甚ダ窮スル夫レデアリマスカラ此處ヘ入レテモ差支ナイ何故差支ナイカト言ヘバ土方君ノ言バレル如ク準用ガ出來ヌデハナイ悉ク出來ル土方君ハ御記憶デモアラセラレマセウガ彼ノ占有ノ所デ以テ權利ノ行使ト云フモノハ占有ト同ジ規則ニ從ハセル卽チ權利ノ行使ニ占有ノ規則ヲ準用スルト云フコトニナル占有ノ規則抔ハ證券ノアルトナイトニ依テ準用セラレタリ準用セラレナカツタリスルモノデハナイ證券ノナイ債權ニ付テモ二百六條カノ準占有ノ規則ガ當嵌マル夫レト同ジヤウナ譯デ權利ヲ行使シテ居ルノガ占有デアル無體物ノ卽チ債權ノ如キモノニ付テハ權利ヲ行使シテ居ルト云フノガ占有デアリマス然ウスレバ類似セヌモノデモナイ何ウカ土方君ノ修正案ガ通過セヌコトヲ望ミマス
議長(箕作麟祥君)
休憩致シマス
午後六時五十分休憩
休憩後午後七時三十分開議
議長(箕作麟祥君)
夫レデハ先程ノ議事ヲ開キマス
土方寧君
私ハ自分ノ修正案ニ付テハ申シマセヌガ一寸大變ニ誤解ガアツタト思ヒマスカラ夫レヲ申シテ置キマスガ私ハ先刻證券ノナイ場合ハ性質ガ抵當ニ爲ルト申シタ所ガ梅君カラ夫レニ付テ御辯駁ガアリマシタガ私ハ夫レハ動產ノ抵當ト云フモノヲ許スノハ宜シイ或ハ許スト云フコトニスレバ夫レガ爲メニ特ニ動產ノ登記ヲ致シマスレバ宜シイト云フコトニ論及スル積リデハナカツタ英吉利ニハアリマスガ私ハ不動產ノ登記アルニモ拘ハラズ登記ヲ要スルト云フコトニ爲ツテ居ル名ハ質デアラウトモ性質ハ抵當デアルト思ヒマス然ウ云フ動產ノ抵當ヲ許スガ宜シイカ惡ルイカ許ストスレバ何ウ云フ方法何ウ云フ公示ヲスルカト云フコトヲ言フ積リデハナカツタノデアリマス實際性質カラ言ヘバ證書ノナイ時分ニハ質デナクシテ抵當ト云フモノデアルト云フ裏ヲ言フ積リデアツタ、實際質ト云フモノハ有體物ヲ引渡スト云フコトガナケレバナラヌ夫レガ質ト云フモノノ性質ガアルト云フ考ヘデアリマス
横田國臣君
私ハ最前梅君ノ言ハレタ事ニ付テ一言シヤウト思ヒマシタガ食事ヲ忘レテ仕舞ツタ、唯ダ田部君ハ私ノ說ヲ驚カレルト言ハレタガ私ハ其方ヲ驚ク唯ダ一言梅君ニ伺ヒタイノハ別ニ證券ノナイモノヲ質ニ置クコトガ出來ル、所ガ此證券ト云フモノハ必ズシモ金ヲ借リル時デナクテモ後トデモ出來ル然ウスルト云フト起草者ハ質ニ置クトキハ證書ハナクシテ其時分ニハ夫レデ宜カツタ後トデ以テアレハ何ウモ證書ヲ入レテ呉レンケレバナラヌトカ或ハ金ガ溜ツタカラ入レルトカ云フヤウナ場合ニハ後トカラ作ツタ證書ノ爲メニ前ノ質權ガ消ヘテ仕舞ウデアラウ或ハ消ヘヌト云フカモ知レヌ然ウスルト消ヘヌト云フト今度ハ恰度之ニ牴觸シタモノガ出テ來テ卽チ證券ト云フモノガ別ニ出テ來テ其證券ハ他ニ入レルト云フヤウナ害ガアル旁々私ハ之ハ實ニ變ナモノニ爲ラウト思ヒマス梅君ガ言ハレルニハ證券ノ如キモノヲ質ニ入レルトキニハ目ニ懸ラヌト云フヤウナコトヲ言ハレタガ夫レハ大變ナ話シデ動產ト雖モ倉ノ中ヘ入レテ置クコトガアル今ノ後トカラ作ツタモノハ何ウデゴザイマセウカ夫レハ成立チマスカ質權ガ
梅謙次郎君
夫レハ始メノ證券ノナイ時ノコトヲ言ツタノデアリマス
横田國臣君
然ウスルトヽヽヽヽヽ
梅謙次郎君
矢張リ次ノ箇條ヲ第三者ニ對シテハ通知シテカラテナケレバ效力ヲ持タヌ前ノ權利ニハ何ウシテモ及バヌ
横田國臣君
兎モ角モ此處ニハ牴觸シテ來ル
梅謙次郎君
牴觸ハシナイ
横田國臣君
牴觸ヨリモ變ナモノガ出テ來ル
井上正一君
一寸修正說ヲ主張爲サル御方ニ伺ヒマスガ此證書ノナイ債權ハ矢張リ讓渡ヲ御許シニ爲ル御積リデアリマスカ如何デゴザイマスカ
土方寧君
私ハ讓渡ハ許ス積リデアリマス證書ノナイ債權ハ讓渡スコトハ出來ル其讓受人カラシテ債務者ニ度シテ告知スルトカ云フヤウナコトニ付テハ恰度三百六十一條ニ書イテアルヤウナコトニ爲ラナケレバナラヌ、ケレドモ質ノ場合ニハ質ノ性質カラ債權ト云フヤウナ形チノナイ質ト云フモノハ出來ナイト云フコトニ爲ル
井上正一君
尙ホ伺ヒマスガ然ウスルト質ト云フモノハ譬ヘバ債權ハ無形デアリマスガ債權ヲ認メタ物ガナケレバ出來ヌト云フ所カラ債權ノ讓渡トハ違ウト云フニ止マルノデアリマスカ
土方寧君
私ノ考ハ然ウデス
田部芳君
只今大キナ議論ガ出テ居リマスカラ餘リ小サイ事ヲ云フノモ如何カ知レマセヌガ何ウ云フモノデゴザイマセウカ一ツ疑ヒヲ起シマシタガ權利デアレバ準質ノ目的ニ爲レルト云フモノデアルカラシテ譬ヘバ物權モ矢張リ這入ルト云フコトニ爲ル然ウスルト云フト物權ノ證券ガアツタナラバ矢張リ其證券ヲ渡サセル夫レハ登記ノ方デ設定デアリマスカラシテ夫レハ必要デナイカモ知レマセヌガ此處デ規定スルノハ何ウカ知レマセヌガ矢張リ其證券ヲ渡サセルト云フコトヲ設定條件トシテ矢張リ其證券ヲ渡サセルト云フ方ニシタ方ガ善クハナイカト思ヒマスガ設定ノ時カラ登記ガアルカラシテ矢張リ證券ヲ渡サセルト云フコトニシタ方ガ充分ニ其權利ガ慥カニ爲リハシナイカト思ヒマスガ
土方寧君
今田部君ノ言ハレタ事ハ大變私ノ考ヘノ方ニ近寄ツタ事ト思ヒマスデ權利ヲ目的トシテ質權ヲ設定スルコトノ出來ルト云フ其權利ハ債權ト限ル必要モアルマイ物權デモ宜カラウト云フコトデ成程前條ノ法文ニ照ラシテ見レバ然ウモ言ヘル物權ノ有體ノ目的ガアツテ之ヲ交付スルトキハ其物體ヲ交付スレバ宜シイ地上權デモ永借權デモ違ウ所ガ田部君ノハ私ガ所有者デアツテ然ウシテ其土地ヲ質ニ入レレバ固ヨリ不動產質ノ場合デアリマシテ旣ニ議決ニナリマシタ箇條ニ依テ土地ラ渡サナケレバナラヌ、ケレドモ然ウ云フコトハシタクナイ土地ヲ抵當ニシテ金ヲ借リル土地ヲ質ニ入レヌ其中ノ譬ヘバ永借權、所有權ノ幾分ヲ分ツテ擔保ニシヤウ然ウ云フコトヲスルニハ所有者ハ何ニモ其所有權ノ一部ヲ爲シテ居ル證券ト云フモノハナイ、ケレドモ其所有權ノ一部ヲ分別シテ質ニ入レヤウトスルトキニハ其支分權ト云フモノ丈ケヲ證書ニ作ツテ之ヲ引渡セバ然ウスレバ所謂物權ヲ目的トスル所ノ權利質準質ト云フ事モ出來ルヤウニ考ヘルノデアリマス
富井政章君
本條ニ旣ニ「質權ノ目的タル債權ノ」ト言ツテアル以上ハ物權ニ付テハ假令ヒ證書ガアツテモ其交付ヲ要サナイト云フコトハ明カデアラウト思ヒマス而シテ斯ク定メマシタ譯ハ物權ニ付テハ必要ガナイト考ヘマシタ何ゼナラバ物權ト云ヘバ先ヅ地上權トカ永借權トカ云フヤウナモノデアリマセウ卽チ前條第二項ノ規定ニ依テ是等ノ物權ヲ質入ヲスル場合ニハ其有體物自カラヲ引渡サヌケレバナラヌ其上ニ證書マデモ引渡サヌケレバナラヌト云フ必要ハナイニ重ニ爲ル其有體物ヲ引渡セバ夫レデ充分デアル全體權利ノ證據物ヲ引渡サナイノガ其性質ニ背クト云フコトハ何ウシテモ分ラナイ有體物ヲ質ニ入レル場合ハ有體物ヲ引渡シ形チノナイモノヲ質ニ入レヤウトスル場合ニハ何モセヌデモ宜シイト云フコトガ論理ガ正シイト思ヒマス其權利ノ證據物ヲ質ニ入レルト云フコトハ何ウシテモ變則デアラウト思ヒマス或ル場合ニ適用ヲ止メテ充分デアラウト思ヒマス
土方寧君
田部君ノハ富井君ノ述ベマシタヤウナ場合デ物權ノ場合ニ有體物ヲ引渡ス外ニ尙ホ其證書ヲ渡スト云フコトデアリマスカ
田部芳君
然ウデハナイ強テ答辯スル程ノ必要モナイカモ知レマセヌガ外ニ言フ事モアリマスカラ序デニ申シマスガ私ノ考ヘデハ強テ設立ノ條件ニシタイト云フノデハアリマセヌ譬ヘバ小作權トカ永小作權トカ或ハ地上權抔ヲ質ノ目的ニシタトキニハ
土方寧君
其中ニ前カラアツタヽヽヽヽヽ
田部芳君
然ウデス夫レヲ今ノ問題ハ別ニシテ成程此處ニ債權ノ場合ヲ見マセウ次ノ箇條デアリマス次ノ箇條デ少シ變ヘヤウト云フ考ヘカラシテ此處ノ箇條ハ實際ノ適用ハ矢張リ債權トアツテモ矢張リ權利トカ何ントカ云フ廣イコトニシテ置テ後トノ分ハヽヽヽヽヽ次ノ三百六十一條三百六十二條モヽヽヽヽニ爲ルト云フヤウナ考ヘモアリハシナイカト思ヒマスガ何ウ云フモノデゴザイマセウカ
長谷川喬君
先刻井上君カラ質問サレタ折リニ債權ノ讓渡ノ時分ニモ矢張リ其債權ト云フモノハ證書ガアルモノデナケレバ爲ラヌカト云フコトハ恰度債權ノ讓渡ノ場合デハ證書ガナクテモ宜イデハナイカ夫レニ質ノ場合ニ證書ガナクテハ爲ラヌト云フ道理ハナイト云フコトハ一應御尤モデアリマスガ私モ能ク考ヘマシタガ能ク考ヘルト違ウト思ヒマス如何トナレバ讓渡ト云フモノノ成立ニハ物ノ引渡ト云フコトハ必要デナイ乍併此質ト云フモノニ至ツテハ物ノ現有ト云フコトガ必要デアルカラシテ夫レデ物ヲ現有スルコトガ出來ナケレバせめてハ其債券ト云フモノヲ之ニ替ヘヤウト云フカラシテ質トスルニハ其證券デモナケレバナラヌ卽チ向フハ其成立ト云フモノニ引渡ト云フコトガナクテモ宜シイガ此質ト云フ方ニハ現有ガナケレバナラヌト云フ所デ違ヒガアラウト思ヒマスカラ矢張リ井上君ノ御議論モ充分ノ價値ハナイト思ヒマス
高木豐三君
勿論此議論ハ唯ダ主義ガ違ウノデアリマシテ學問ノ理論トシテハ決シテ反對ノ說ガ間違ツテ居ルノ何ンノト云フ趣意デハナイノデアリマス始メ此旣成法典ヲ改メマシテ之ハ私ノ獨リノ考ヘデアツタカモ知レマセヌガ書面契約ハ必要デナイト云フコトニ贊成ヲシタ趣意モ質契約ハ必ズ物ヲ引渡スト云フコトデアルカラシテ證書ガナクテモ引渡セバ效力アルト云フ趣意デアツタノデス夫レハ夫レニシテ置テ一ツ伺ヒタイノハ此三百六十一條ノ場合ニ債權者ガ質ニ入レタ質ニ入レタ後ニ其債務者ニ向ツテ直接ニ請求ヲシタ然ルトキニ此第三債務者ナル者ハ如何ナル地位ニ立ツテ居ルカト云フ此處ニ一ツ疑ヒガアル夫レヲ假令ヒ質ニ入レル事ヲ自分ガ通知ヲ受ケテ承諾ヲシタニモセヨ債權者ガ請求ニ來レバ勿論證文モ何モナイ唯ダ當人ガ來テ催促ヲシタトキニ金ヲ返ヘシテ仕舞ウ云々質ノ目的ト云フモノハ自分ガ債務ガアルカラ質ノ目的ニナルケレドモ夫レヲ拂ツテ仕舞ヘバ目的物ガナクナルカラ質取主ノ如何ニ拘ハラズ拂ウ事ガ出來ルヤ否ヤ又然ウデナシニ此場合ニハ一旦承諾ヲシタ場合ニハ債權者ガ來テモ拂ハヌお前一旦質ヲ解テ仕舞ハナケレバお前ニハ拂ハナイト云フ事ガ言ヘルカ言ヘル而已ナラズ義務ガアルトスレバ若シ其債權者ニ拂ツタトキノ其質取主ノ義務マデ往クモノデゴザイマセウカ否ヤ御答ヘヲ願ヒマス
富井政章君
質取主ニ於テ三百六十一條ノ手續ヲ履ンデアレバデス第三債務者ハ二度拂ヒヲセンナラヌ此場合ニ其有體物ハナイモノデスカラ賣ルト云フコトモ出來ヌ、ケレドモ三百六十四條ニ然ウ云フ場合ニ於ケル質權執行ノ仕方ヲ規定シテアル卽チ質權者ハ直接ニ債務者ニ向テ債權ノ取立テヲ爲スコトガ出來ル三百六十一條ノ手續ヲ履ンデ居ル、其時分ニ直接ニ債權者ニ支拂ヒヲシタト云フ場合デアレバ質權者ニ對シテ更ニ拂ハネバナラヌコトニ爲ラウト思ヒマス
高木豐三君
然ウ致シマスルト云フト債權ヲ質ニ入レルコトヲ承諾スルト云フコトハ債權ノ讓渡ト同ジ事デ質取主ニ辨濟ヲスルお前ニハ拂ハナイゾト云フ然ウ云フ效力ヲ生ズルモノデアリマセウカ
富井政章君
恰モ拂渡差押ト申シマスカアレヲ受ケタト同ジ事デ自分ノ直接ノ債權ニ拂ツテハ危險デアルト云フ然ウ云フ場合ニ至ツタノデアル拂ウノハ御勝手デアルケレドモ二度拂ヒヲシナケレバナラヌ唯ダ用心ヲセヨト云フ命令ヲ受ケタノデアル
井上正一君
只今ノ私ノ質問ニ對シテ長谷川君ハ債權讓渡ニ付テハ引渡ハ要ラヌガ質權ノトキニ引渡ガ要ルト云フコトデアリマシタガ債權讓渡ノ時分ニ引渡ハ要ラヌト言ハレマスガ何ウシテ引渡ヲスルノデアリマスカ
長谷川喬君
合意サヘスレバ宜シイ
土方寧君
夫レハ質權ノ性質カラ往ケヌト云フノデアル
梅謙次郎君
夫レガ間違ヒデアル
土方寧君
モウ何ントモ言ヒタクアリマセヌガ仕舞ヒノ方ニナツテ然ウ云フ質問ガ出テ採決ニ爲ルノハ遺憾デアリマスカラ一寸申シマスガ何ウモ債權ヲ質ニ入レルト云フコトハ大變違ウト思ヒマス何ゼナラバ債權ヲ質ニ入レルトカヽヽヽヽヽ權利者ガ權利ヲ行使スルノ方法デアル其點カラ言ヘバ違ウ質ノ場合ハ質ノ性質カラ言ヘバ違ツテ來ル私ハ本來質ハ有體物ヲ引渡スノガ原則其外ニハナイ、ケレドモ權利ト云フモノニ付テ矢張リ出來ルト云フ場合ハ質デハナイガ質ニ準ズル準ズルト云フノハ本來違ツタモノデアルガ似タモノデアル似タモノハ證券ガアル證券ト云フ有體物ガアル夫レヲ交付スルニ因ツテ設定スル斯ウ云フ事ニスレバ準ズルト云フ自カラ範圍ガアル似タ點ヲ掴ヘテ是ニ因ツテ本來質權ヲ設定スル似タモノガアル讓渡ト質權ト權利者ノ行爲カラ言ヘバソンナニ違ヒハナイガケレドモ質ト云フ方ノ性質カラ見テ來レバ大變性質ガ違ツテ來ヤウト思ヒマス夫レガ私ノ始メカラノ論デアリマス
議長(箕作麟祥君)
最早決ヲ採ツテ宜シイト思ヒマス土方君ノ御說ニ付テ採リマス土方君ノ修正ハ「債權ヲ目的トスル質權ハ」云々ト爲ルノデアリマスカ
土方寧君
然ウデス
議長(箕作麟祥君)
只今ノ土方君ノ修正說ニ贊成ノ方ノ起立ヲ請ヒマス
起立者少數
議長(箕作麟祥君)
少數デアリマス本條ハ外ニ御異議ガナケレバ確定セラレタモノト認メテ次條ニ移リマス
(書記朗讀)
第三百六十一條 記名債權ヲ以テ質權ノ目的トシタルトキハ債權讓渡ニ關スル規定ニ從ヒ第三債務者ニ其設定ヲ通知シ又ハ第三債務者カ之ヲ承諾スルニ非サレハ質權者ハ其質權ヲ以テ第三債務者其他ノ第三者ニ對抗スルコトヲ得ス
(參照)擔一〇三、一項乃至三項、商三六六、一項、三八六、一項、佛二〇七五、蘭一一九九、伊一八八一、瑞債務法二一五、獨一草一二〇八、一二一一、同二草一一八一、一項、一一八七
富井政章君
本條ニ付テハ隨分述ブベキ事ハアリマスガ擔保編第百三條第二項ノ通リデアリマスカラ例ニ依テ突カレルマデハ默ツテ居リマス序デニ「記名債權」トアルノハ如何ニモ言葉ガ能ク分リマセヌカラ之ヲ「指名債權」ト改ム
元田肇君
私ハ原案ニ贊成スルノデアリマスガ迚モ此三百六十條ト三百六十一條ト云フモノハ實際ニ於テハ弊害ヲ免カレヌト云フコトハ諦メテ仕舞ツテ居ルノデアリマス夫レニ付テ次條ノ三百六十二條ニ依リマスルト云フト會社ニ通知シタ上ニ帳簿ニ記入スルト云フ御鄭寧ナ事ガ書イテアリマス夫レハ通知ヲシタト云フコトデアリマスレバ理論上カラ言フタナラバ夫レデ澤山デアラウト思ヒマス然ルニ帳簿ニ記入スルト云フコトハ詐僞ノ行ハレナイヤウ豫防ノ爲メニヤツタノデハナイカト思ヒマスシマスレバ此三百六十一條ノ所モ「通知シ又ハ」ト書カズニ何ニカ詐僞ヲ防ガレルヤウナ風ニしつかり承諾ノ證書デモ取ルト云フヤウナ事ニスル譯ニハ往カナイモノデゴザイマセウカト云フ丈ケノ御尋ネデアリマス
富井政章君
本條ハ第三者ニ對スル債權讓渡及ビ質權設定ノ公示法デアリマス此公示法ハ實ニ不充分ナモノデアルト私ハ思ヒマス夫レハ白狀シテ宜シイト思ヒマス決シテ此動產ニ付テノ引渡又ハ不動產ニ付テノ登記ト云フガ如キモノ程慥カナモノデハナイ如何トナレバ今ノ債權ヲ讓受ケヤウトスル或ハ質ニ取ルト云フコトヲ第三債務ニ聞合セニ往ク夫レヨリ外ニ仕方ナイ聞合セニ往ツタトキニ正直ニ事實ヲ言ヘバ宜シイ夫レ丈ケノ面倒ヲ見ルト云フコトハ大シタ事デハアルマイ夫レ丈ケノ面倒ヲ取ラナケレバナラヌコトヲ質權者及ビ讓受人ニ與ヘル夫レハ宜シイデゴザイマセウガケレドモ折角往ツタ所デ第三債務者ガ眞實ノ事ヲ告ゲナンダトキニハ仕方ガナイ夫レデ誠ニ不完全ナ公示法デアラウト思ツテ私ハ元トカラ嫌ヒデアツタ然ニ何ガ故ニ之ヲ置イタカト云フト是ニ優ツタ確實ノ方法ヲ見着ケナイ然ウシテ是デモマダ無イヨリハ遙ニ優ル如何トナレバ第三債務者ハ必ズ嘘ヲ付ク者トハ限ツテ居ラヌ眞實ノ事ヲ言フ場合モ多カラウ然ウ云フ場合ニハ大キニ役ニ立ツ是ニ優ツタ公示法ハ或ハアルカモ知レヌデスケレドモ一寸見着カラヌ今元田さんノ御說デ承諾證ヲ是非取ルコトニシタラ宜カラウト云フコトデアリマスガ成程然ウ云フ事ガ出來レバ宜ウゴザイマスガ併シ債權讓渡トカ質權設定トカ云フモノハ必ズ第三債務者ノ承諾ガナケレバ出來ヌト云フ事ニシテハ不便極ツテ出來ヌ場合ガアラウ自分ノ權利ヲ讓渡スニ債務者ノ承諾ガ要ルト云フヤウナ窮窟ナ事デアツテハ債權讓渡モ質權設定モ出來ヌト云フ事ニ爲ル夫故ニ承諾スレバ是ニ超シタ事ハナイ承諾シナイトキハ債務者ノ合意ヲ俟タズシテ通知ヲスレバ夫レデ以テ效力ヲ生ズルト云フコトニスルヨリ外ニ仕方ナイ旣成法典ヲ採用シタノデアリマス
横田國臣君
一寸御尋ネシマスルガ此處ハ「第三債務者ニ通知シ」トアルカラ「又ハ第三債務者カ之ヲ承諾スルニ非サレハ」ト云フコトハ要ラヌ方デハナイカト思フ「其設定ヲ通知スルニ非サレハ」ト云フ事丈ケデ宜カリサウデアル夫レデ通知ヲセヌデ承諾ヲスルト云フ場合ガアリマスカ
富井政章君
通知ヲセヌデ承諾スル場合ガゴザイマス
横田國臣君
併シ何ニカ言ハナクテモ向フカラ承諾シマセウト云フコトハナイト思ヒマス
梅謙次郎君
此處ニハ方式ヲ書イテナイカラ然ウ云フ御疑ヒノ出ルノハ御尤デアリマスガ多少ノ方式ハ要スルト思ヒマス通知ト云フテモ唯ダ端書一枚デモ徃ケナイト思ヒマス斯ウ云フ通知ハ使ヒヲ遣ルトカ或ハ執達吏ヲ向ケルトカ執達吏マデニ及バヌトモ書留郵便デヤルトカ唯ダ知ラセサヘスレバ宜シイ口デ言ヒサヘスレバ宜シイト云フモノデハナイト思ヒマス其事柄ハ債權讓渡ノ場合ト同一徹ニ出テナケレバナラヌ
横田國臣君
承諾ノ方ハ
梅謙次郎君
承諾ノ方モ書面ヲ要スルコトニ爲ルカモ知レヌ然ウスレバ先刻元田さんノ御心配ノ詐僞ノコトモ餘程防ゲルト思ヒマス
横田國臣君
是等ニ付テハ別ニ何カ規則ヲ設ケニ爲ル御積リデアリマスカ承諾ノ場合ニハ斯ノ如クシナケレバ爲ラヌトカ通知ノ場合ニハ如斯クシナケレバ爲ラヌト云フヤウナ
富井政章君
何ニカ設ケルナラバ債權讓渡ノ處デアリマス
横田國臣君
私ハ「通知スルニ非サレハ」ト云フ事丈ケデ然ウシテ夫レニ方式サヘ設ケレバ宜シイト思ヒマス
元田肇君
私ノ先刻伺ヒマシタノハ次ノ三百六十條ノ社債ト云フモノト本條ノ指名債權トハ似タモノデアル會社ト一個人トノ違ヒハアルガ似タモノデハナイカ知ラン夫レヲ一方ニハ通知シタノミデナク帳簿ニ記入スルト云フ事ガ必要條件ニ爲ツテ居ツテ本條ノ方デハ唯ダ通知ヲシ放シテ宜シイト云フ事ニ爲ツテ居リマスガ之ハ會社ノヤウニ通知シ放シデナク何ントカモウ少シ確實ニスルヤウニハ爲ラヌモノデゴザイマセウカ社債ト云フモノト一個人ノ負債ト云フモノトハ同ジモノデアリサウデアリマスガ如何デゴザイマセウカ
富井政章君
會社ニハ帳簿ト云フモノガアリマス又會社ノ役員ガ此記入ヲ拒ムト云フヤウナ事ハアリサウモナイ然ルニ通常ノ場合ハ然ウ云フ物ハアリサウモナイ先刻モ申シマシタ通リ何ウモ不充分デハアルガ已ムヲ得ナイ
土方寧君
私ハ此三百六十一條ノ原案ニ付テハ異論ハナイノデアリマスケレドモ條文ノ最初ニアル「記名債權」ト云フ字句デアリマス此字句ニ付テハ何ントカ改メヌト徃ケナイト思ヒマス
梅謙次郎君
夫レハ指名ト改メマシタ
土方寧君
全體前條ニ付テノ修正案ガ潰レマシタカラ仕方ハアリマセヌガ乍併此處ニ記名債權ト云フ名ガ殘ツテ居ツタナラバ私ハ矢張リ證券ノ證據ノナイ場合ニハヽヽヽヽヽ
議長(箕作麟祥君)
「指名」ト直ツタノハ御承知ナイノデスカ
土方寧君
何時直ツタノカ分リマセヌガ唯ダ斯ウ云フ案モアルト云フコトハ先刻申サレタヤウデアリマシタガ起草委員ガ別段ニ之ヲ「指名債權」ト云フコトニ今御改メニナツタト云フコトデアリマスガ私ハ斯ウ云フ案モアルト云フ事ヲ慥カニ御說明ニ爲ツタト思ヒマス
議長(箕作麟祥君)
然ウデナイ夫レハ慥カニ「指名債權」ト云フノヲ原案ニスルト明言セラレタ
土方寧君
夫レハ何ウ爲ツテモ宜シイ「指名債權」ト言フテモ同ジコトデアリマス名ヲ指サヌ債權ガアリマセウカ誰レガ債權者デアルカ債務者デアルカ、唯ダ無記名證券ト云フモノガアツテ唯ダ證券ガアル計リデ誰レデモ夫レヲ持ツテ居ル人ガ債權者ニナルト云フ丈ケノ話デアル、ケレドモ現在債務者ガ極ツテ居ルシ債權者ハ持ツテ居ル者、夫レデ別ノモノデアリヤウガナイ、ケレドモ「指名債權」ト云フ言葉ヲ以テシタ所ガ「記名債權」ト云フコトト趣意ハ同ジコトニ爲ルノデ唯ダ文字ヲ改メタ丈ケデアツテ若シ之ヲ「指名債權」ト云フコトニ改メタナラバ證券ト云フモノガナイ場合モ這入ルト云フコトハ決シテ言ヘナイト思ヒマス「記名債權」ト云フコトヲ「指名債權」ト改メテモ無記名債權ノ裏ラデアリマス矢張リ證券ノアル場合シカ這入ルマイト思ヒマス私ハ矢張リ其方ガ宜シイト思ヒマスケレドモ前條ノ時ノ修正案ガ潰レタ以上ニハ此儘ニテハ往ケマイ證券ノナイ債權デアツテモ質ニ置ク事ガ出來ル其方法如何ト云フト質ニ入レルトキハ質入レノ證書ト云フモノモアラウト思ヒマスガ先刻來ノ御說明デハ證書ヲ作ラヌデモ宜シイ甲ガ乙ニ對シテ質權ヲ持ツテ居ル其債權ヲ甲ガ丙ニ質ニ入レル場合其場合ニハ甲丙間ニ於テハ別ニ證書ヲ作ラヌデモ宜シイ合意ニ依テ成立スルト言ハレタ然ウスルト此處ハ單ニ「債權ヲ以テ質權ノ目的トシタルトキハ」云々ト書テ宜シイト思ヒマス夫レデ何ヲ苦ンデ「記名債權」トアルノヲ「指名債權」ノ何ンノト云フコトニ變ヘヤウト云フノハ何ウ云フ譯デアリマスカ唯ダ「債權」丈ケデ宜シイデハアリマセヌカ之ハ唯ダ無記名債權ニ非ザルト云フコト丈ケデアリマスカ
梅謙次郎君
夫レ丈ケデアリマス
横田國臣君
無記名ノ債權ハ譬ヘバ鰹節ヲ預リテモ然ウ云フモノデ
梅謙次郎君
無記名ノ方ハ名ヲ指シテ居ラヌ
議長(箕作麟祥君)
本條ハ別ニ御修正モ出マセヌケレバ確定セラレタモノト認メテ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第三百六十二條 會社ノ記名株式又ハ社債ヲ以テ質權ノ目的トシタルトキハ株式又ハ社債ノ讓渡ニ關スル規定ニ從ヒ之ヲ會社ニ通知シ其帳簿ニ記入スルニ非サレハ質權者ハ其質權ヲ以テ會社其他ノ第三者ニ對抗スルコトヲ得ス
(參照)擔一〇四
富井政章君
先ヅ本條ニハ一ツ修正シテ置カヌケレバナラヌノデアリマス「記名」ノ下ニ「ノ」ノ字ヲ入レテ戴キタイ之ハ印刷スルトキニ私ノ手カラ落チテ居リマシタ本條ハ擔保編第百四條ニ少シモ修正ヲ加ヘナイノデアリマス唯ダ「會社定款又ハ法律ニ於テ」トアツタノヲ「株式又ハ社債ノ讓渡ニ關スル規定ニ從ヒ」ト云フコトニ改メマシタ會社定款ニ從テヤル場合ハ詰リ法律ノ許ス範圍内ニ於テヤルノデアリマスカラ矢張リ「法律ノ規定ニ從ヒ」ト云フコトニ歸スルト云フコトハ分ツテ居ル事デアリマスカラ載セマセヌ
高木豐三君
只今「ノ」ノ字ヲ入レルト云フコトデアリマスガ之ハ「又ハ會社ノ記名ノ株式」ト云フノハ「會社ノ」ノ三字ガ「社債」ニモ懸ルト云フノデスカ
富井政章君
「記名ノ」ガ下ニ懸ル
議長(箕作麟祥君)
記名ノ社債ニ限ルノデスネ
梅謙次郎君
然ウデス
元田肇君
一寸伺ヒマスガ「記名ノ株式」ト云フノハ能ク分ツテ居リマスガ「記名ノ社債」ト云フノハ「指名ノ債權」ト似タモノデアルヤウニ一寸見ヘマスガ然ウデスカ
梅謙次郎君
株式ヤ社債ニハ證券ヲヽヽヽヽヽ作ツテ居ルカラ一方デノ指名ト云フト云フコトガ尙ホ兩方ヲヽヽヽヽヽ
高木豐三君
一寸質問致シマスガ起草者ノ方デハ社債ト云フモノニモ矢張リ無記名ノ社債ト云フモノヲ拵ヘルト云フ御積リデ卽チ無記名株式ト同ジヤウニ社債ニ付テモ出來ルト云フ譯デゴザイマセウカ
梅謙次郎君
今ハ出來マセヌガ私抔ハ許シテモ宜シイト思ヒマス今ノ商法ニハ許シテアリマセヌガ併シ少ナクモ私丈ケノ考ヘヲ言ヘバ或ハ條件ヲ以テ許シテモ宜カラウト思ヒマス
土方寧君
今ノ用語ノ話シデアリマスガ今起草委員カラ御話シモアリマシタガ前ニ「指名」トアツテ此處デ「記名」云々トアリマスガ全體私ハ「指名債權」ト云フコトガ誠ニ私ノ心ノ落チナイノデアリマス前條デハ「指名債權」トアツテ此處デ「記名ノ株式又ハ社債」トアリマスガ然ウスルト「記名」ハ斯ウ解シテ宜シイノデアリマスカ記名證券無記名證券ト云フモノガアル夫レカラ記名證券又ハ無記名證券デモナイモノガアル夫レデナイモノガ「指名債權」デ社債債權ト云フモノハ一ツノ別物デ「指名債權」デナイモノヲ言フノデゴザイマスカ
富井政章君
然ウデスヽヽヽヽヽ
土方寧君
モウ一ツ伺ヒマスガ此三百六十二條ノ規定カラ何ントモ言フノデハアリマセヌガ先刻元田君ノ謂ハレタ通リニ會社ニ通知シタ上ニ尙ホ其帳簿ニ記入スルコトニシナケレバナラヌト言ツテモ會社ノ方デ拒メバ仕方ガナイ然ウスルト此株式社債ヲ質ニ置クコトハ出來ヌヤウニ爲ル然ウスルト會社法ハ現在ノハ何ウ爲ツテ居ルカ能ク覺ヘマセヌガ斯ウ云フコトハ許サナケレバナラヌコトニスルト云フ御趣意デアリマスカ會社ヲ拒ンデモ宜シイト云フコトニ爲サル御考ヘデアリマスカ英吉利ノ方デハ會社ノ株式ヲ質ニ入レタト云フヤウナ事ヲ記入スルト云フコトハセナイ方ニ爲ツテ居リマス日本デハ何ウデゴザイマセウカ詰リ本條ガ斯ウ云フコトニ爲ツテ居ルトキニハ會社デハ嫌ヤデモ應デモ其帳簿ニ記入シナケレバナラヌト云フコトニシナケレバ何ウモ折角ノ金融ヲ助ケル所ノ株式トカ云フヤウナモノノ質ト云フモノハ出來ナク爲ツテ仕舞ウト思ヒマスガ其邊ハ何ウ云フ御考ヘデゴザイマセウカ
富井政章君
其制裁ノ事ハ株式又ハ社債ノ讓渡ニ關スル規定ノ所デ極マルノデアリマスカラ今慥ナ事ハ言ヘマセヌガ併シ制裁ハ出來ルデゴザイマセウ少ナクモ普通ノ損害ヲ加ヘタト云フ點デ其賠償ノ責ガアル
梅謙次郎君
卽チ拒ムコトノ出來ヌノガ原則デアル
田部芳君
本條ニ「株式又ハ社債ノ讓渡ニ關スル規定ニ從ヒ之ヲ會社ニ通知シ其帳簿ニ記入スルニ非サレハ」云々トアリマスガ之ハ唯ダ帳簿ニ記入スル丈ケデハ何ニカ足リナイト云フ理由デモアツテ其上ニ尙ホ通知ガ要ルト云フコトデゴザイマセウカ何ウ云フ譯デゴザイマセウカ
富井政章君
通知ヲセズニ記入スルト云ヘバ自分ガ會社ニ飛込ンデヤレバ宜シイト云フコトデアリマスガ表向キニ會社ニ對シテ知ラスト云フ法律上方式上ちやんト定ツタ行爲ヲ爲サズニ濟ムト云フコトハ何ウモ了解スルコトガ出來ナイ
横田國臣君
一寸伺ヒマスガ何ウデゴザイマセウ帳簿ニ記入スル所爲ト云フモノハ會社ノ方ノ所爲デアル夫レデ質取者ガ記入ヲスルト云フノナラバ夫レハ宜シイケレドモ夫レデナクシテ私ハ通知サヘシタナラバ宜カリサウニ思フノデアリマス何ゼナラバ此通リニシテ置テ若シ會社ノ方デ通知ハ受ケタガ記入ハセヌ若シ誤ツテ記入ハセヌト云フヤウナトキニハ會社ニ對シテ何ニカ償ヒデモ求メルヤウナコトガアルカモ知レヌカラ夫レデ之ハ通知丈ケデ宜カリサウニ思ヒマス夫レデ何ウナルカト云ヘバ通知シタナラバ會社ノ方デ詐僞ヲ防グ爲メデゴザイマセウガ私ガ株券ヲ失フタカラト云フノデ通知ヲスル之ヲ會社デ以テ其帳簿ニ記入スルトカ何ントカ云フ外ノ人ノヤル事マデセヌデモ通知スレバ無論跡ノ事ハ會社ノ仕事デアル夫レハ必要ト云フトセナケレバナラヌヤウナ事モゴザイマセウガ唯ダ通知丈ケデハ往ケマセヌ
田部芳君
私ハ横田君ノ御說トハ違ヒマスガ只今富井君ハ公ケニ通知スルト云フコトガナケレバ往ケヌデハナイカト云フ御話シデアリマシタガ實際ノ運ビ方ハ何ウカト云フ事ヲ想像シテ見ルト之ハ何レ記入ヲスルコトハ勿論會社ノ方デヤラナケレバナラヌ併シ會社ノ人ガ記入スルニ付テハ何レ何カ據リ處ガナケレバナラヌカラ何レ證書ヲ作ルトカ或ハ其株主ト債權者ト別ニ二人ガ一所ニ往クト云フヤウニ何レ慥カデアルト云フ事ガ分ルヤウニナラナケレバ往カヌト思ヒマス夫レデ本人自分ガ往クナリ若シ自分ガ往カナケレバ何レ會社ニハ株主ノ名前株主ノ印鑑ト云フモノガ取ツテアリマセウカラ其證書ヲ出ストキニハ之ハ承諾上デ斯ウ云フ物ヲ作ツタト云フ事ガ分ルデアラウト思ヒマスカラ強ヒテ通知ヲスルト云フヤウナ事ハ必要デハアルマイカト思ヒマスガ如何デゴザイマセウカ
奧田義人君
私モ「之ヲ會社ニ通知シ其帳簿ニ記入スルニアラサレハ」云々ト云フコトヲ法文ハ重複ノヤウニ考ヘマス、ケレドモ今夫レニ付テ修正案ヲ出シタ所ガ行ハレモシマスマイカラ出シマセヌガ「其帳簿ニ記入スルニ非サレハ」ト云フノヲ「記入ヲ受クルニアラサレハ」ト云フコトニ文字丈ケ直ホシタイト思ヒマス通知ヲスルノハ誰ガスル卽チ質權者ガスルニ違ヒナイ而シテ其記入ハ誰レガスルカ卽チ會社ガ記入ヲスル質權者自カラスルノデナイ然ウスルト之レハ「其帳簿ニ記入ヲ受クルニ非サレハ」ト云フコトニ直ホシタ方ガ寧ロ至當デハアルマイカト思ヒマスカラ文字丈ケ御直ホシヲ願ヒタイト思ヒマス
元田肇君
一寸文字ノコトデアリマスガ之ハ如何デゴザイマセウカ「會社ノ記名ノ」ト云フ「ノ」ノ字ヲ止メテ「會社ノ記名株式又ハ指名社債」ト云フコトニシテハ往ケマセヌカ
梅謙次郎君
夫レナラバ寧ロ「會社ノ指名ノ株式又ハ社債」トシタ方ガ前ト揃フテ宜イカモ知レヌ其方ナラバ私一人ハ強テ反對スルノデハナイ意味ガ違フノデハナイガ唯ダ實際ノコトヲ言フト三百六十二條ノ場合ハ書付ガアルモノデスカラ必ズ記名ニナル夫レハ商法及ビ普通ノ法律ノ結果トシテ社債ニシテ債券ナキモノハナイ夫レデ自カラ證券ガアル恰度株式ニ於ケルガ如クデ株式ト言フ以上ハ株券ト云フ一ノ書付ガアルト云フノガ株式會社ノ一ノヽヽヽヽヽヽデアル
穗積八束君
「社債」ト云フノハ會社ノ社債デ商法ニ云フ「債券」ノコトデハアリマセヌカ
梅謙次郎君
然ウ云フ積リデアリマス實ハ商法ニハ債券トアリマスガ手形ト云フ字ガ書テアルノデ實質ヲ示スノデハナイ株券トシテハ極メテ便利ナ文字デハアリマスケレドモ株式ニ對スル言葉デナイノデアリマス夫レデ今度ハ「株式」ニ對スル言葉ハ「社債」トシ「株券」ニ對スル言葉ハ「債券」トシヤウト云フノデ此處カラ用語ヲ極メテ往カウト云フノデアリマス株券ト云フコトハ必ズ商法ニ言フ又債權ニ關スル特別法ニ言フ債券、文字カラ分リ得ルノデスガ夫レハ極メ次第ニ書付ノアル佛語デ言ヘバ卽チ「オブリガツシヨン」ト云フコトニ極メタイト云フ考ヘデアリマス其處デ横田君ノ御質問ハ成程一應御尤モナ譯合デ當事者カラ言フト自分ノ方デ通知サヘスレバ會社ノ方デ間違ヘテ記入セヌデモ其結果ヲ受ケルト云フノハ往カヌデハナイカト云フコトデアリマスガ夫レヲ言フト登記ノ場合デモ同ジデ登記サヘ願ツテ置ケバ登記ヲシヤウトスマイト勝手デアルト云フコトハ夫レハ當事者ニ取ツテハ誠ニ都合ガ好イカモ知レマセヌガ肝腎ノ保護ヲシヤウト云フ第三者ニ取ツテハ大變迷惑デアリマス株式會社ノ帳簿ト云フモノハ商法ノ規定デハ公ケノモノト爲ツテ居ル夫レデ會社ノ帳簿ニ記入スルト云フコトハ殆ンド登記所ノ登記ト同ジコトニ爲リマスカラ夫レデ帳簿ヲ當テニスル恰度不動產ノ登記ト之ヲ同ジヤウニ見タノデアラウト思ヒマス其處カラシテ之ハ餘計ナヤウナ事デハアリマスガ何時モ前ノ箇條ト比較ガ出マシテ私ハ始終氣ニ爲ツテ居リマスカラ申シテ置キマスガ前ノ場合ニモ何ウカ然ウ云フコトデ登記ト云フコトハシテ出來ヌコトデモナイ又丸デ例ノナイ事デモナイ白耳義ノ民法草案抔ニハ總テノ登記ガ出來ルヤウニ爲ツテ居リマスガ之ハ何ウモ煩ハシイト思ヒマス然ウ爲ルト云フト登記ガ餘リ廣ロ過ギテ實際ノ用ヲ爲サヌヤウニ爲リハスマイカト思ヒマス去レバト言ツテ會社ノ帳簿ノ如キ公ケノ帳簿ハ一個人ガ持ツテ居ラヌ商人ナラバ商業帳簿ヲ然ウ云フモノト見ルコトガ出來ルカモ知レマセヌガ併シ商業帳簿ハ矢張リ自分ノ爲メニスル帳簿デアリマスカラ會社ノ株主名簿抔トハ大變違ツテ居ルト思ヒマス夫レデ會社ハ然ウ云フ都合ノ宜イ帳簿ト云フモノガアリマスカラ夫レデ其帳簿ノ方ニ記入シテ置ク之ハ本條ニ於テ新ラシク書イタノデナク旣成法典ニモ書テアリマス旣成法典モ商法ノ規定モ然ウ爲ツテ居リマス卽チ「株式ノ讓渡ハ取得者ノ氏名ヲ株券及ヒ株主名簿ニ記載スルニ非サレハ會社ニ對シテ其效ナシ」ト云フコトニ爲ツテ居ル是レ全ク同ジコトデアリマスカラ横田さんノ御議論ガ假リニモ宜シイトスレバ讓渡ノコトモ然ウ爲ルノデアルガ之モ多分向フガ帳簿ニ記入シナクテモ效力ヲ生ズルト云フコトニハ爲ラヌト私ハ信ズル又通知ヲスルト云フコトハ削ツテハ何ウカト云フコトハ先刻田部君カラ出タ御說デ通知ヲ削ツタ所ガ矢張リ何カ通知スルト云フコトニ爲ルデアラウト云フコトデ成程夫レハ御尤モナ譯デ現ニ商法ノ株式ニ關スル所デモ通知ト云フコトヲ書カヌデ株主名簿ニ記載スルト云フコトニ書テアル或ハ夫レモ宜イカモ知レマセヌガ私共ノ考ヘデハ前ノ三百六十一條ノ箇條ニ於テハ通知計リデ第三者ニ對シテ效力ヲ生ズルト云フノデアリマスカラ此方ハ執達吏ヲ差向ケルトカ何トカ云フ方式ヲ用ヰルコトニ爲ラウト思ヒマスガ此三百六十二條ノ方ハ主タルコトハ帳簿ニ記入スルニアルノデアリマスカラ此通知ハ方式ハ要ラヌト云フコトニ爲ラウト思ヒマス方式ガ要ラヌトナレバ先刻横田君ガ言ハレタヤウナ通知ヲシナイノニ向フテ帳簿ニ付ケヤウガナイト云フコトニ爲ツテ來ル夫レデ通知ノ仕方ト云フモノハ如何ニモ田部君デアリマシタカ高木君デアリマシタカガ仰セニ爲ツタヤウニ當事者ガ自分デ出テ書付ケヲ作ルトカ何ニカ然ウ云フ方法ヲ執ルデゴザイマセウガ如何ナル方法ヲ執ラウトモ皆ナ通知ト見ル夫レデ是非ナクテハ大變困ルト云フ程ニハ思ヒマセヌガ
横田國臣君
私ハ別段主張スル積リデハアリマセヌガ一寸梅君ニ申上ゲタイノハ梅君ハ之ハ登記ト同ジヤウニ御覽ニナツタガ夫レハ大變違ウト思ヒマス何ゼナラバ登記ノ方ハ質ニ置イタ所ガ二度質モ出來ル然ウシテ昔シノヤウニ地券ト云フヤウナ物ガアルノデモ何ンデモナイ唯ダ登記丈ケデ宜イ此方ハ株式トカ何ントカ云フ物ガアル別ニ迷フコトハナイ詐僞ハ出來ヌ何ゼナラバ株式ト云フモノヲ向フニ渡シテ居ルカラ二度質ニ置カウトシテモ徃ケナイ夫レデアリマスカラ今別ニ會社ニ云フテ嘘ナ事カ何ニカシテアレバ嘘ソダトカ何ントカ言フテ書替ヘテ貰ウト云フヤウナコトガアルカモ知レマセヌガ夫レヨリ外ニ弊害ハアリマセヌ又之ヲ實際ニ徴シテ見ルト帳簿ニ記入スルト云フコトハ大變ニ厄介デ假ヘバ日本銀行ノ株券ト云フモノヲ九州當リデ質入レカ何ニカスルト云フヤウナ場合ニ夫レヲ日本銀行ヘ往ツテ帳簿ニ記入シナケレバナラヌト云フコトニ爲ルト大變厄介ナ事デアラウト思ヒマス夫レデ登記ノ方ハ双方出テ直チニヤル此方ハ夫レ程マデニスルニハ及バヌト思ヒマス此方ハ唯書面デモヤツテ夫レニ付テ慥カナ返事ガ來ルヤウニシテサヘアレバ夫レデ宜シイト思ヒマス
富井政章君
奧田君ノ御說ニ贊成シマス
議長(箕作麟祥君)
修正說ガ出テ居ルノハ奧田君ノ御說計リト考ヘテ居リマス外ニハ御議論ハ數々出マシタガ別ニ贊成モナイヤウデアリマス
奧田義人君
私ノハ唯ダ「其帳簿ニ記入ヲ受クルニ非サレハ」云々
高木豐三君
私ハ此通知ノ方ハ削ラレタガ宜カラウト思フノハ梅君ノ說明サレタヤウニ前條ノ「通知」ト云フノハ告知ト同樣ニ執達吏ト云フヤウナ者ヲ差向ケル此條ハ然ウデナイト云フコトニ見ルノハ甚ダ難イ又甚ダ可笑シイト思ヒマス夫レデ之ハナイ方ガ宜シイト思ヒマス
議長(箕作麟祥君)
高木君ノ御說ハ「規定ニ從ヒ會社ノ帳簿ニ記入スルニ非サレハ」ト爲ルノデスカ
高木豐三君
然ウデス
奧田義人君
私ハ其方ニモ贊成シテ置キマス
議長(箕作麟祥君)
夫レデハ決ヲ採リマス「會社ノ帳簿ニ記入スルニ非サレハ」ト云フ方ニ贊成ノ方ノ起立ヲ請ヒマス
起立者多數
議長(箕作麟祥君)
多數デアリマス本條ニ付テ別ニ御異讓ガナケレバ可決ト認メテ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第三百六十三條 手形其他裏書ニ依リテ讓渡スコトヲ得ヘキ債權ヲ以テ質權ノ目的トシタルトキハ其證券ニ質權設定ノ旨ヲ裏書スルニ非レハ質權者ハ其質權ヲ以テ第三者ニ對抗スルコトヲ得ス
(參照)擔一〇三、四項、商三六九、三七〇、佛二〇八四、蘭一二〇七、伊一八九〇、瑞債務法二一二、二一四、獨一草一二二五、同二草一一九九
富井政章君
旣成法典擔保編第百三條末項ニハ本條ノ場合ヲ商法ニ讓ツテアル併シ本條ノ場合ニ於テモ質權ヲ設定スルト云フコトハ商事ニハ限ラナイコトデアリマスカラ何ウシテモ此規定ハ民法ニ這入ランナラント思ヒマス夫レデ此處ニ入レマシタ
高木豐三君
之ハ極方法ハ宜イ方法デアリマスガ何ウデセウ手形ノ裏ニ部持ツテ來テ質ニ入レルト云フ裏書ヲスルノハ實際何ウデゴザイマセウカ
梅謙次郎君
今現ニヤツテ居ル
富井政章君
何處ノ國ニモアル
長谷川喬君
手形ト云フト權利ノ權ト云フ字ト合ヒマセウカ
梅謙次郎君
手形ト云フモノヲ權利ト見タ
富井政章君
始メノ四字ハナクテモ宜イノデス
穗積陳重君
此文章ノ勢ヒデハ手形ト云フモノガ權利ニナツテ居ル
梅謙次郎君
理窟ハ然ウデアル私抔ハ手形ト云フ字ヲ無形ニモ使ツテ居ルガ理窟ハ往カヌ
富井政章君
夫レデハ「手形其他」ノ四字ヲ削ルト云フコトヲ原案トシマス
土方寧君
今ノ四字ガ拔ケタ所ガ意味ハ變ラヌト思ヒマス今梅君ノ御話シニ日本ニ手形ガ行ハレルヤウニナツタノハ新ラシイコトデ質ニ入レルトキニ手形ニ裏書ヲスルト云フノハ大變アルト云フコトデアリマスガ現ニ事實ソンナ事ガ澤山アリマセウカ私ハ手形ト云フ方ノ爲替手形約束手形ト云フヤウナモノニハ英吉利デハトントナイヤウニ思ヒマス法律デ禁ジテアル質ニ入レル場合ニハ質ハ讓渡デモ宜シイ割引モ出來ルト云フヤウナコトニ爲ツテ居ルノデ何ウモ事實ナイヤウニ思ヒマス之ヲ許スト云フコトニナルト大變ニ手形ガ流通スルト云フコトニ爲ツテ手形ガ無暗ニ汚ナク爲ツテ裏書ヲスル場所ヲ喰付ケテモ宜イノデスガ夫レモ餘リ望マシクナイ
梅謙次郎君
私ハ望マシイ
土方寧君
夫レガ爲メニハ質入レト云フコトガ妨ゲニハ爲リハシマスマイカ手形讓渡ト云フコトデモ宜シイ割引ト云フコトモ盛ンニ行ハレテ居ル詰リ爲替手形約束手形ト云フモノハ其目的ハ金錢支拂デアリマスカラヽヽヽヽヽ受戻シテモ手形ノ金ヲ現金デ支拂ツテ貰ウト云フコトヲセヌデモ宜シイ然ウ云フ事情ガアルカラ事實然ウデアラウト思ヒマス英吉利デハトント聞イタ事ハナイ何ウシテモ餘計流通スルト云フ事ニ爲レバ裏書ヲスル場所ガナク爲ル夫レカト云ツテ附箋ヲスルヤウナ事ハ望マシクナイ
梅謙次郎君
夫レハ私モ今日流通シテ居ル手形ヲ質ニ入レルト云フコトハ頻繁デアルカ何ウカバ自分ニハ能クモ知リマセヌガ唯ダ商業ニ從事シテ居ル人ニ聞ケバ非常ニ多イト云フコトデアリマス唯其手續デアリマスガ元ノ手形法ニハナカツタヤウデアリマスガ兎ニ角今ノ手形法ニハ七百三十一條ニナツテ居ツテ之ガ本トデ今日ハ行ハレテ居ルト思ヒマス手形ノ質入ハ何ゼ頻繁カト言ヒマスレバ成程土方君ノ言ハレルニハ然ウ云フ場合ニハ賣レバ宜カラウト云フコトデアリマスケレドモ其値段ガ百圓ノモノデ五十圓ノ形ニ入レルコトガアル夫レヲ買ツテ呉レト言ツテモ五十圓シカナイト云フノデ擔保トシテ其手形ヲ貰ツテ置カウト云フヤウナ事ガアリマス或ハ手形ヲ賣ルコトヲ望マナイ或ハヽヽヽヽヽ外ノ人ニ夫レデハ割引ヲシテ貰ヘバ宜シイト云ツテモ手形ノコトデアリマスカラ信用ノナイ人ニ向ツテ買ツテ呉レト言ツテモ買ツテハ呉レナイ恰度其振出人支拂人ノ名前ヲ能ク知ツテ居ル者ナラバ買ツテモ呉レマセウガ知ラナイ人ノ所ニ持ツテ往ツテモ買フテ呉レナイ夫レデアリマスカラ手形ノ質入ハ頻繁デアルト云フコトヲ聞イテ居リマス英國ハ如何ヤウニナツテ居ルカ調ベテモ居リマセヌガ佛蘭西デモ其他歐羅巴大陸ノ方デハ皆認メテ居ルト思ヒマス夫レデ其場合ニ於テ流通ヲ頻繁ニスル爲メニ商法デハ七百三十一條以下ニ特別ノ規定ガ設ケテアリマス此規定ニ付テハ二十三年ニ出タ商法デハ是レヨリモモツト便利ニ出來テ居リマシタガ夫レハ餘リ便利過ギテ却テ弊害ガアルト云フコトデ修正ニ爲リマシタガ兎ニ角然ウ云フ譯デ是レガ行ハレテ居ルト云フコトハ少シモ異シムニ足リナイト思ヒマス
土方寧君
實ハ手形ヲ質ニ入レルコトヲ許ストスルト流通ガ出來ナクナル流通ヲ止メルヤウニナル英吉利抔ノ方デ見ルト手形ノ效能ガナクナルト直グニヽヽヽヽヽ何ゼナラバ殆ンド補助貨幣ト見ル位デアリマス夫レデ流通ヲ停滯スルヤウナコトハ手形ノ法律デ許サヌヤウニシタ方ガ宜カラウト思ヒマス詰リ流通スルヤウナコトハアラウケレドモ裏書ヲシテ然ウシテ流通スルコトガ出來ルトキガアツテモ附箋ヲ附ケテモ宜シイガ夫レガ爲メニヽヽヽヽヽヽ夫レハ問題外デアリマスカラ仕方ハアリマセヌ
元田肇君
一寸御尋ネ致シマス之ハ必ズ裏書ヲシナケレバ往カナイノデアリマスカ
梅謙次郎君
勿論然ウデアリマス
富井政章君
「手形其他」ヲ割ツタハ宜シイガ何ウモ往キナリカラ「裏書ニ依リテ讓渡スコトヲ得ヘキ」云々ト云フト何ンダカ債權ニ裏書ヲスルヤウデアルモウ一ツハ後トノ「其證券」ト云フコトガ利カナイ
高木豐三君
夫レハ債權ノ證券
梅謙次郎君
始メカラ然ウデス
議長(箕作麟祥君)
何ウ爲リマスカ
富井政章君
「證券ノ裏書」トデモシタノデアリマスガ
田部芳君
「裏書ニ依リテ」デ宜シイト思ヒマス
富井政章君
證券ニスルト云フコトハ極ツテ居ル
議長(箕作麟祥君)
「裏書ニ依リテ」ト云フコトハ證券ニスルト云フコトデアルカラ然ウ云フ事ハ一向無駄ナヤウニ思ヒマスガ併シ起草委員デ入レルト云フコトデアレバ兎ニ角
梅謙次郎君
皆サンガ然ウデアレバ強テ入レルト云フ譯デモアリマセヌ
横田國臣君
夫レハ後トデ御直ホシ下サイ
高木豐三君
一寸伺ツテ置キタイ前ノ三百六十一條デハ通知計リデ質入ノ效ガアツタ所ガ此處デハ殆ンド天然流通スル證書ヲ向フニ握ラシテ置テモマダ效力ガナイ其上ニ裏書ヲセンケレバ徃ケナイト云フコトデゴザイマスカ
富井政章君
夫レハ大變ナ間違ヒデアリマス本條ノ手續ハ三百六十一條ノ餘程面倒ナ通知カ承諾カニ當ルドチラモ第三者ニ對スル條件デアルノデス
議長(箕作麟祥君)
本條ハ原案通リニ決シテ之デ散會致シマス
于時午後八時五十分散會