明治民法(明治29・31年)

法典調査会 総会 第11回 議事速記録

参考原資料

第十一回總會議事速記録
出席員
箕作麟祥君
本野一郎君
本尾敬三郎君
岸本辰雄君
山田喜之助君
田部芳君
高木豐三君
末松謙澄君
奧田義人君
穗積八束君
淸浦奎吾君
中村元嘉君
長谷川喬君
磯部四郎君
尾崎三良君
三浦安君
穗積陳重君
富井政章君
梅謙次郎君
(箕作委員議長席ニ着ク)
假議長(箕作麟祥君)
今日ハ議長副議長共ニ缺席デアリマスカラ私ガ代ハリマシテ議長ノ職ヲ務メマス
梅謙次郎君
一寸假議長ニ請求シマスガ、今日皆サンノ御手許ニ配リマシタ議案ハ主査委員ノ御方ハ何ウカ成ルベクハ此次ノ火曜日位ニ之ヲ議題トシテ議シテ戴キタイ、夫レカラ査定委員ノ御方ハ何レ主査委員會ノ濟ンダ上デ會議ヲ願ウノデアリマスケレドモ豫メ充分ノ御研究ヲ願ヒタイ積リデ今日之ヲ配ツタ譯デアリマス
假議長(箕作麟祥君)
夫レデハ只今起草委員カラノ御話シガアリマシタカラ諸君ニ申上ゲテ置キマスガ、今日配付ニナリマシタ主、甲第五號ト云フノト修正案委員富井政章提出ト書テアリマス、此二ツノ議案ハ主査委員ノ御方モ次ノ火曜日ノ主査委員會ノ議案トナル、夫レカラ査定委員ノ御方ハ又追テ總會ノ通知ガゴザイマセウカ、夫レ迄ニ充分ノ御研究ヲ願フ爲メニ御提出ニナツタト云フコトデアリマスルカラ、何ウゾ左樣ニ御承知ヲ願ヒマス、夫レデハ七十三條ニ掛リマス
(書記朗讀)
第七十三條 解散シタル法人ハ淸算ノ目的内ニ於テハ其淸算ノ結了ニ至ルマテ尙ホ存續スルモノト看做ス
磯部四郎君
原案贊成
尾崎三良君
異議ナシ
假議長(箕作麟祥君)
別ニ御異論ガナケレバ本條ハ可決ト認メテ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第七十四條 法人解散スルトキハ破產ノ場合ヲ除ク外理事其淸算人ト爲ル但定款若クハ寄附行爲ニ別段ノ定アルトキ又ハ總會ノ議決アルトキハ他人ヲ以テ淸算人ト爲スコトヲ得
磯部四郎君
一寸御趣意ヲ伺ヒタイノデアリマス、七十四條ノ但書ノ終ニ「他人ヲ以テ淸算人ト爲スコトヲ得」トアリマスガ、斯ウ御書キニナリマシタノハ、詰リ定款寄附行爲若クハ總會ノ議決ト云フモノニ從フト云フ意味ナレバ淸算人ト爲スコトヲ得デハナイ、夫レニ從フ譯デアリマスカラ一寸考ヘルト之ハ要ラヌヤウニ見エマスガ、何カ之ハ別ニ趣意ガアリマスカ
穗積陳重君
御答ヘ致シマス、固ヨリ定款デ解散ノ場合ニハ或人ヲ淸算人トスル、又寄附行爲ニ於テ解散ノ場合ニハ斯ノ如キ人ヲ淸算人トスルト云フコトヲ定メテ居リマスル場合ト、社團法人ノ總會ノ議決ニ依テ理事以外ノ人ヲ淸算人トスル場合トハ場合ガ違ヒマスルカラ、此處ニ總テノ三ツノ場合ヲ并ベ掲ゲタノデアリマス、若シ此「又ハ以下」ガナイト云フト理事ガ淸算人ニナルカ、又ハ定款若クハ寄附行爲デ定メタ人ガ淸算人ニナルカ、夫レヨリ外ニ途ガアリマセヌ、夫故ニ「又ハ以下」ハ是非トモ要ルノデアリマス、但總會ノ議決ニ於テ斯ウ云フコトヲスルノハ惡ルイト云フノトハ別デアリマス
磯部四郎君
然ウスルト「議決アルトキハ此限ニ在ラス」ト云フノトハ文章ガ凡テ違ウノデアリマスカ
穗積陳重君
然ウ書キマスルト此本文ノ方ガ「理事其淸算人ト爲ル」ト云フコトガアツテ夫レニ對シテ「此限ニ在ラス」ト云フト「理事其淸算人ニナラス」トナルカラ、理事淸算人トナラズト云フコトガ第一ニ正面ニ出テ來マスカラ卽チ漠然タル方ガ分ル
磯部四郎君
唯「他人ヲ以テ淸算人ト爲スコトヲ得」トアルト云フト、尙ホ定款寄附行爲若クハ、總會ノ議決ヲ以テ斯ウ斯ウスルコトヲ得ト定メタヤウナ意味ニナル、何ンダカ此「得」トアルノガ何ウモ穩カナラヌヤウデアリマスガ、併シ差支ヘハアリマセヌカ
穗積陳重君
夫レハ差支ヘヌ積リデアリマス、理事ガ卽チ法律上ノ淸算人、謂ハバ外ニ夫レノ變則ヲ用ヰル場合ヲ書イタノデアリマスカラ「得」ト書イタノデアリマス
末松謙澄君
「定款若クハ寄附行爲ニ別段ノ定アルトキ又ハ」云々トアル、然ウスルト定款或ハ寄附行爲ニ在ルモノト總會ノ議決ト云フモノガ撞着スルコトハナイ譯デアラウカ、若シモ定款ニちやんト極メテアルコトデアツテ後トデ總會デ夫レヲ變ヘルト云フヤウナコトニナリハシマセヌカ
穗積陳重君
夫レハ總會ノ議決ト云フモノハ必ズ定款ニ依遵シナケレバナラヌモノデアル、夫レデ決シテ定款デ若シ他ノ人ヲ淸算人トスルト書テアツテ其書デアルコトガ確定シテ居ルコトナレバ總會ノ議決デハ出來ヌ譯デアラウ、定款デ他ノ人ヲ淸算人トスル、併ナガラ總會デ尙ホ其指定ヲ變更スルコトヲ許スト云フコトガ書テアレバ總會ノ議決デ往ケマス、夫故ニ定款ト總會ノ議決ト相反スルコトナレバ勿論定款ニ依ラナケレバナラヌノデアリマスカラ決シテ牴觸スルコトハアルマイト思ヒマス
末松謙澄君
寄附行爲ノ場合モ同ジデアリマスカ
穗積陳重君
寄附行爲ノ場合ハ大概財團ノ場合デアリマスカラ差支ヘナイト思ヒマス
磯部四郎君
一寸モウ一遍御相談致シマスガ、斯ウデアツタラ何ウデゴザイマセウカ、「定款若クハ寄附行爲ニ別段ノ定アルトキ又ハ總會ノ議決アルトキハ其定メ又ハ議決ニ從フ」詰リ斯ウ云フ意味デアリマセウネ
穗積陳重君
夫レハ然ウデゴザイマセウ、意味ニ於テハ夫レデモ變ハリハアリマスマイ
磯部四郎君
夫レデハ私ハ行ハレルト行ハレヌトニ拘ラズ修正案ヲ提出致シマス、只今申シマシタ通リ、「定款若クハ寄附行爲ニ別段ノ定アルトキ又ハ總會ノ議決アルトキハ其定メ又ハ議決ニ從フ」ト云フ修正案ヲ提出致シマス、其理由ハ此「他人ヲ以テ淸算人ト爲スコトヲ得」ト云フ事柄ガ何カ斯ウ爲スコトヲ得ルダカラ爲スコトヲセズトモ宜シイト云フヤウナ鹽梅ニ見エテ、淸算人トナルト云フ通則ニ全ク反對ノ變則ヲ此處ニ擧ゲタト云フ其變則ノ根ガ大變ニ浮イテ見ユル恐レガアリマスル、固ヨリ此理事ガ淸算人トナルト云フノガ通則、併ナガラ定款ニ於テ某ヲ以テ淸算人トスル、寄附行爲ニ於テハ某ヲ以テ淸算人トスルト云フコトガアレバ理事ガ淸算人トナルト云フ通則ニ依ラズシテ其定款若クハ別段ノ規定ニ從ハナケレバナラヌ、又定款若クハ寄附行爲ニ於テ別段ノ定メハアルガ併ナガラ其定メ方ハ總會ノ議決ニ依テ何ウデモ出來ルト云フコトニナツテ此處ニ定メ方ノ場合ノ議決ガアレバ無論其議決ニ從ハナケレバナラヌ、縱シヤ夫レガナクテモ謂ババ法人ハ社團ノ卽チ淸算人ト云フ者ニ付テ總會ノ議決ヲ以テ之ヲ以テ淸算人トスルト言ヘバ無論其議決ニ從フ譯デゴザイマセウカラ、詰リ根ノ浮イテ居ルヤウニ見エル嫌ノアル他人以下ヲ削ツテ仕舞ツテ之ニ代ヘルニ只今申シタ通リニ「其定メ又ハ議決ニ從フ」斯ウシマスルナレバ漠然タル此意味ノ誤解ヲ來ス恐レガナクシテ却テ元ト起草委員ノ斯ク御定メニナツタ御趣意ガ判然トナルヤウニ考ヘマスカラ、甚ダ時間ヲ妨ゲマシテ恐縮ノ至リデハアリマスケレドモ只今申シマシタ修正案ヲ提出致シマス
假議長(箕作麟祥君)
只今磯部君カラ修正說ガ出マシタガ贊成者ガナイヤウデアリマスカラ消滅ト認メマス、外ニ御異論ガナケレバ本條ハ可決ト認メマスガ如何デアリマスカ、別ニ御異論ガナイヤウデアリマスカラ可決ト認メテ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第七十五條 前條ノ規定ニ依リテ淸算人タル者ナキトキ又ハ淸算人ノ缺ケタルカ爲メ損害ヲ生スヘキ虞アルトキハ裁判所ハ利害關係人若クハ檢事ノ請求ニ因リ又ハ職權ヲ以テ淸算人ヲ選任スルコトヲ得
重要ナル事由アルトキハ裁判所ハ利害關係人若クハ檢事ノ請求ニ因リ又ハ職權ヲ以テ淸算人ヲ解任スルコトヲ得但其命令ニ對シ卽時抗告ヲ爲スコトヲ得
淸浦奎吾君
一寸質問シマスガ、此第二項ニ「重要ナル事由アルトキハ裁判所ハ利害關係人若クハ檢事ノ請求ニ因リ又ハ職權ヲ以テ淸算人ヲ解任スルコトヲ得」云々トアリマスガ、此裁判所デ解任スルコトノアルノハ七十五條ノ第一項ニ於テ裁判所自ラガ選任シタル淸算人ニ限ルノデアリマセウカ、併シ重要ナル事由ト云フト卽チ職權ヲ濫用スルトカ職務ヲ曠廢スルトカ云フコトデアリマスレバ七十四條ニ於テ定メラレタル所ノ淸算人ニ付テモ亦同樣デアラウト思ヒマス、然ルニ此七十五條ノ二項ニ依ルト裁判所自ラガ選任シタル淸算人ノミニ限ルヤウニモ見エマスルガ、御精神ハ如何デゴザイマセウカ
穗積陳重君
此第二項ニアリマスル場合ハ必ズシモ裁判所ガ自ラ選任致シマシタ淸算人ノミニテハ固ヨリ限ラヌ積リデアリマス、成程第一項カラノ連絡ヲ以テ見マスルト殊ニ依ルト然ウ讀ミ得ルト云フコトモアルカハ分リマセヌガ、事柄ノ性質且別項ニナツテ居ルノデ夫レデ裁判所ノ働キヲ規定スルノガ主トナツテ居リマスルカラ其間違ヒハアルマイト思ヒマス、卽チ此第一項ハ或場合ニ於テ裁判所ガ選任スルコトガ出來ル場合ヲ規定シ、第二項ハ或場合ニ於テ裁判所ガ解任スルコトヲ得ル場合ヲ規定シタノデアリマス、要スルニ裁判所ノ職權ノ發動ヲ規定シタノデアリマスカラ第一項ヲ受ケタモノト云フ意味ハ必ズシモ出ナイト思ヒマス、其意味ハ第二項ハ如何ナル種類ノ淸算人ニモ通ズル積リデアリマス
淸浦奎吾君
成程此「重要ナル事由アルトキハ」ト云フノカラ推シテ見レバ只今起草委員カラノ御答辯ノ通リデアルト云フコトハ格別疑ヒモナイヤウナモノノ、併ナガラ七十五條ノ第二項ニナツテ居リマスレバ如何ニモ裁判所自ラガ選任シタ淸算人ニ付テノミ解任スルコトヲ得ルト云フヤウニ見エルト云フ風ナ疑ヒガアラウト思ヒマス、デ今ノ御答ノ如ク七十四條ニ於テ定メラレタル淸算人ニ於テモ亦同樣デアルトシマスレバ此七十五條ノ第二項ハ別ニ一條ヲ起シマシタ方ガ其疑ヒガ後ニ至ツテナカラウト考ヘマスカラ、此「重要ナル事由アルトキハ」ノ一項ヲ第七十六條ト致シテ別ニ一條ヲ起スト云フ修正說ヲ提出致シマス
尾崎三良君
只今ノ淸浦君ノ此議案ノ二項ヲ別條ニスルト云フ修正說ニ贊成致シマス
穗積陳重君
只今ノ御修正說ニ對シテハ私共ニ於テハ能ク打合セヲ致シマセヌガ格別ノ異論ハ勿論アル譯ハナイダラウト思ヒマス、其理由ハ之ハ始メ別條ニナツテ居リマシタガ、併ナガラ此裁判所ノ淸算人ノ選任及ビ解任ニ關スル事柄ト云フモノハ卽チ一纏メニスルコトモ出來ル、且條數モ減ズルコトモ出來ル、一體本案ハ文章モ短クナツテ居リマスルシ項抔モ旣成法典ニゴザイマスルヨリモ餘程少ナクナツテ居リマスカラ、丁度此位ノ事ハ一ノ車柄ト看テ一纏メニシテ置ク理由モアルト云フコトデ本條ノ如クニナツタ譯デアリマス、夫レデ格別反對スル程ノコトデモアリマセヌガ、又吾々ガ之ヲ一箇條ニ纏メタト云フ理由モアルコトハアルノデアリマス
末松謙澄君
一寸質問スルガ或ハ此條ニ少シ文章ヲ入レタナラバ疑ヒモナカラウカト思ヒマス、夫レデ此處ニ二、三ノ字ヲ入レテハ何ウデアラウカ、卽チ「前項ニ依リ選任スルモノト否トヲ問ハス重要ナル事由アルトキハ裁判所ハ利害關係人」云々「解任スルコトヲ得」矢張リ斯ウ云フ風ニ第二項ノ頭ニ「前項ニ依リ選任スル者ト否トヲ問ハス」ト云フコトヲ入レタナラバ却テ能ク分カラウト思ヒマス
假議長(箕作麟祥君)
私ハ何ントモ言フ譯デハ勿論アリマセヌケレドモ、ソコヘ入レタラ妙ニナリハシマセヌカ
末松謙澄君
別ニ妙ニハナラヌト思ヒマス、其者デアルト否トニ拘ハラズト云フノデアル、或ハ此方ガ宜カラウト思ヒマス
三浦安君
之ハ條ヲ分ツ方ガ明瞭デ宜シイ、之ハ無論通過スルコトト信用シテ贊成デゴザイマス
假議長(箕作麟祥君)
夫レデハ六ケ敷イコトデモアルマイト思ヒマスカラ淸浦君ノ修正說デ條ヲ分ツコトニ付テ決ヲ採ツテ宜カラウト思ヒマスガ、何ゾ別ニ御異論ガアリマスカ
岸本辰雄君
私モ極ク贊成デゴザイマス、ト云フモノハ權利ニ關係スルコトデゴザイマスカラ左樣ナ暖昧ニシテ置クコトハ宜シクナイ、唯一條ヲ減ズル簡略ニスルト云フヤウナコト丈ケデハ惡ルイト思ヒマス、夫レデ唯文章ノ所ガ何ウデゴザイマセウカ、修正者ノ淸浦君ニ御相談ヲシマスルガ、此儘デ宜シウゴザイマセウカ、或ハ裁判所ト云フ字ヲ頭ニ持テ往ツタ方ガ宜クハナイカト思ヒマスルガ何ウデゴザイマセウカ、私モ名案ガナイノデ御相談ヲ致シマス
梅謙次郎君
文章ハ其方ガ穩カデアル
淸浦奎吾君
矢張リ同ジノヤウニ思ヒマス
岸本辰雄君
何ウモ本條ノヤウナ書キ方デハ裁判所ガ選任シタ者丈ケ解任スルコトガ出來ルト云フヤウナ風ニ見エル、寄附行爲デ定メタ者トカ、裁判所ハソコ迄立入ツテスルコトハ出來ヌト云フヤウナ風ナ議論ガ生ジヤウト思ヒマスカラ、之ハ何ウゾ修正案ガ成立ツヤウニ願ヒマス
假議長(箕作麟祥君)
之ハ別ニ込入ツタ問題ノヤウデモアリマセヌカラ決ヲ採ツテ見マセウ、夫レデハ淸浦君ノ第二項ヲ別條ニシヤウト云フ修正案ニ贊成ノ方ハ起立ヲ請ヒマス
起立者多數
假議長(箕作麟祥君)
多數デアリマス
尾崎三良君
一寸質問致シマスガ、此裁判所ト云フモノハ何處ノ裁判所ノ御積リデアリマスカ、之ハ或ハ區裁判所カトモ思フガ一寸伺ヒタイ
穗積陳重君
御尤モナ御質問デアリマスガ、此前ノ會デモ出マシタシ主査委員會デモマダ第一章ノ時ニ出マシタヤウデアリマスガ、裁判所ト單ニ書キマシタノハ固ヨリ區裁判所ノ方ニナルノデゴザイマセウ、併シ夫レハ裁判所ノ方ノ職權卽チ裁判所ノ構成職制ノ法ニ依テ定メラレルト思ヒマスル、夫故ニ商法ノ方デハ區ノ字ガ慥カ這入ツテ居ツタト考ヘマス
尾崎三良君
一寸御辯明ノ途中デアリマスガ、構成法ニハ一向斯ウ云フ事ハナイヤウデアリマスルガ、然ウスルト今ノ御趣意デアルト、此處ニハ斯ウヤツテ置イテ構成法デスルトカ或ハ別段ニ施行條例ト云フモノカ何カデ一ツ之ヲ見セルト云フ御積リデアリマスカ
穗積陳重君
固ヨリ其積リデゴザイマスル、構成法丈ケニ限ルコトモゴザイマセヌ、訴訟法ニ依テ定マルコトモゴザイマセウシ、訴訟法附屬ノ法律ニ依テ定マルコトモアリマセウ、若クハ必要ナレバ施行條例ニモ定マルコトモゴザイマセウ
岸本辰雄君
商法モ取ツテ居ルヤウデアリマス
穗積陳重君
商法施行條例ノ方ヲ採ツタノデアリマス
斯波淳六郎君
此七十五條第一項ニ「又ハ淸算人ノ缺ケタルカ爲メ損害ヲ生スヘキ虞アルトキハ」トアリマスガ、此前ノ五十七條ニハ「理事ノ缺ケタル場合ニ於テ遲滯ノ爲メニ損害ヲ生スル恐アルトキハ」トナツテ居ル、此二ツノ書キ方ヲ變ヘラレタノハ何カ理由ガアリマスカ一寸伺ヒタイ
穗積陳重君
決シテ別段ニ理由ハナイ同ジコトデアリマス
斯波淳六郎君
一方ニハ「遲滯ノ爲メニ」ト云フコトガアル、一方ニハ書テナイ、成ルベクナラバ之ハ後ニ整理委員ノ方デ直ホサレルモノデアラウトハ思ヒマスガ、併ナガラ何モ斯樣ニ辭バヲ別ニシテ置カヌデモ差支ヘナイナラバ一定ニシテ宜シイト思ヒマスガ
穗積陳重君
分カリマシタ、第五十七條ニハ「遲滯」ト云フ字ガ這入ツテ居ツテこちらニハ這入ツテ居ラヌ、其理由ハ理事ハ固ヨリ理事ガ缺ケタ時ニ於テ後任者ヲ選定スルト云フ手續ハ必ズ存シテ居ル、夫レデ成ルベク裁判所ヤ何カガ夫レニ自ラ立入ツテ理事ヲ選定スルト云フヤウナ風ノコトハナイ方ガ宜シイ、宜シイケレドモ併ナガラ後任者ヲ選定スルニハ夫レ夫レノ手續、定款寄附行爲其他ノ手續モアリマスカラ、夫レデ其手續ヲ經テ居ル間又ハ其選定セラレタル者ガ辭任スルトカ色々卽チ後任者ノ定マルコトノ遲イ場合ニ於テハ假リニ一時急ニヤラナケレバ往カヌ話シデアリマスカラ「遲滯」ト云フ辭バガ殊更ニ書テアルノデ、理事ガ缺ケサヘスレバ直グ裁判所ガ自ラ立入ツテ假理事ヲ選任シテモ宜イト云フ意味デハアリマセヌ、必ズ遲滯ノ爲メニ損害ヲ生ズルト云フ恐レガナケレバ往カヌ場合ヲ特ニ指シタノデアリマス、又本條ニ於テハ其淸算人ガナイ場合トカ又ハ淸算人ノ缺ケタル場合、此淸算人ト云フ者ニ定員ガアツテ其定員ガ缺ケテ居リマスル、其定員ガ缺ケテ居ツテモ隨分淸算ノ事務ハ往クカモ知レヌ、「遲滯ノ爲メニ」トカ云フコトガナクテモ如何ナル理由ニ依テモ損害ヲ生ズル虞アルトキニ裁判所ハ進ンデ選任スルコトガ出來ル、遲滯ト云フコトニ特別ニ重キヲ置テ此處ニ之ヲ持出サナカツタノハ損害ト云フコトニ重キヲ置イタト云フ丈ケデ、こツちノ方ガ廣イ意味デアリマス
斯波淳六郎君
私ガ考ヘマシタ所デハ此七十四條デ定款寄附行爲又ハ總會ノ議決ト云フモノデ卽チ此定メニ依テ他人ヲ以テ淸算人ト爲スコトガ出來ル、此定メハ一度淸算人ガ缺ケタ場合ハ何ウスルト云フ定メガアルカモ知レマセヌ、併シナガラ若シモ其定メガナイトカ云フ時ハ卽チ此「又ハ」ノ上ノ「淸算人タル者ナキトキハ」ト云フ所ニ當ツテ居ラウト思ヒマス、然ウスルト「又ハ」ノ下ノ「淸算人ノ缺ケタルカ爲メ」ト云フノハ丁度五十七條ノ理事ノ場合ト同ジモノデアラウト思ハレマス、夫レデ之ヲ書キ分ケルト云フト、私ノ考ヘニシテ書キ分ケルト云フト同ジコトヲ二ツニ書クヤウナコトニナリマスカラ、私ノ考ヘヲ以テハ五十七條ト同文ニシタ方ガ却テ宜カラウト斯ウ考ヘルノデアリマス、夫レデ同文ニスルト云フ動議ヲ出シマスルカラ贊成者ノアルヤウニ願ヒマス
假議長(箕作麟祥君)
一寸伺ヒマスガ、然ウスルト斯波君ノ御說デハ前ノ五十七條ノ通リニスルト、第七十五條トナツテ「前條ノ規定ニ依リテ淸算人タル者ナキトキ又ハ淸算人ノ缺ケタル場合ニ於テ遲滯ノ爲メニ損害ヲ生スヘキ恐アルトキハ」、ト斯ウナルノデアリマスカ
斯波淳六郎君
左樣デアリマス
(此時高木長谷川兩委員着席ス)
穗積陳重君
一言今ノ修正說ノアツタニ付テ補フテ置キマスガ、然ウ云フ御趣意デ御修正ニナツテ尙ホ遲滯ト云フノヲ此處ニ入レルト、遲滯ヤ何カスルト云フト後トノ選定、補缺選任等ガ遲滯シテ夫レガ爲メニト云フコトガ這入ツテ居リマスガ、此處ハ凡テ淸算人デアルト後トノ選定スル手續モ何モナイコトガアリマスカラ、夫レガ爲メニ此處ノ文ガ變ハツテ居ルト云フコトモ一ツノ理由ニナツテ居リマス
斯波淳六郎君
私ノ考ヘデハ今ノ穗積君ノ言ハレタヤウナ場合ハ卽チ「又ハ」ト云フ以上ノ所ニ當ルモノデアルト思ツテ申シタノデアリマス
假議長(箕作麟祥君)
只今斯波君カラ第七十五條ノニ行目ノ「又ハ」ト云フ所ノ以下ヲ第五十七條ノ理事ノ所ト同樣ノ文章ニスルト云フ修正案ガ出テ居リマスルガ、高木君長谷川君ハ御存ジハアルマイト思ヒマスルガ、御承知デモ御贊成ガナケレバ仕方ガアリマセヌガ、如何デアリマスカ
尾崎三良君
原案通リデ宜シイト思ヒマス
假議長(箕作麟祥君)
今ノ御兩君ハ如何デアリマスカ
高木豐三君
一寸承リタイ
假議長(箕作麟祥君)
第七十五條トシテ「前條ノ規定ニ依リテ淸算人タル者ナキトキ」迄ハ原案通リ、「又ハ」カラ下ヲ前ノ五十七條ノ理事ノ所ト同樣ノ文章ニシテ、「又ハ淸算人ノ缺ケタル場合ニ於テ遲滯ノ爲メニ損害ヲ生スヘキ恐アルトキハ」ト云フヤウニ「又ハ」カラ下ヲ修正スルト云フ說デアリマス、理由ハ本人カラデナケレバ述ベラレマセヌ、然ウシテ「虞」ノ字ヲ「恐」トスルノデアリマス
高木豐三君
起草者ノ方デハ御意見ガアリマスカ
穗積陳重君
夫レハアルノデアリマス、遲滯ト云フノハ後トノ選任ガ遲イ爲メニト云フ意味ガアリマスガ、此處ハ然ウ云フ事ガナイト云フ事モアルノデアリマス
高木豐三君
贊成者ハアリマスマイナ
假議長(箕作麟祥君)
アリマセヌ
高木豐三君
贊成者ガナケレバ宜シウゴザイマスガ、アレバ私ハ反對ヲ主張シナケレバナラヌ
假議長(箕作麟祥君)
夫レデハ只今ノ斯波君ノ修正說ニハ贊成者ガアリマセヌカラ消滅シマス
穗積八束君
一寸伺ヒマスガ、此「前條ノ規定ニ依リテ」ト云フコトヲ丸デナイヤウニシテハ意味ガ違ヒマスカ、若シ違ハナケレバ削除シタイト思ヒマスガ、一寸意味ノ所ヲ起草者ニ伺ヒマス
穗積陳重君
「淸算人タル者ナキトキ又ハ淸算人ノ缺ケタルカ爲メ」、斯ウ云フコトハ、卽チ淸算人トナルト云フコトハ前條ヨリ外ニ出タ所ハアリマセヌカラ、夫故ニ直グニ前條ヲ受ケタ方ガ明瞭デアラウト云フ事ガ一ツノ理由、夫レカラ淸算人ト云フ者ノ出來ル場合ハ前條許リニハ限リマセヌ、本條ニ復タ淸算人ノ出來ル場合ヲ言フタノデアリマスカラ、淸算人タル者ナキトキハ何ントカ外ノ者、決算人トカ云フヤウナ者ヲ規定スルト致シマスレバ卽チ「前條ノ規定ニ依リテ」ト云フ事ガナクテモ宜シイデゴザイマセウガ、斯ウ云フ淸算人ガナイトキニハ斯ウ云フ淸算人ヲ選任スルト云フ意味デアリマスカラ、此處ニ此文章ヲ加ヘタノデアリマス
假議長(箕作麟祥君)
本條ハ條ガ二ツニ分カレタ切リデ他ノ修正說ハ消滅ヲ致シマシタカラ、外ニ御異論ガナケレバ可決ト認メテ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第七十六條 淸算人ハ破產ノ場合ヲ除ク外解散後七日内ニ其氏名、住所及ヒ解散ノ原因、年月日ノ登記ヲ受ケ又何レノ場合ニ於テモ主務官廳ニ之ヲ屆出ツルコトヲ要ス
岸本辰雄君
一寸質問致シマスルガ、此處ニ「淸算人ハ破產ノ場合ヲ除ク外」ト云フコトガアリマスガ、此「破產ノ場合ヲ除ク外」ト云フコトハ何ウモ必要ガナイヤウニ考ヘマスル、今ノ破產法ニ依テ見レバ、併ナガラ或ハ破產法ヲ改正スルト云フ御考ヘガアルヤニ聞キマシタカラ夫レガ爲メニ或ハ必要ト云フノデゴザイマセウカ、或ハ今ノ破產法ニ依リマスルト云フト、淸算人ト云フ者ハナクシテ管財人ト云フ者ガアルノデアリマスルカラ當然此管理人ガ淸算ヲスルノデアルカラ其必要ハナイヤウデアリマスガ、其必要ノ所ヲ承リタイ、夫レカラモウ一ツニハ此「解散後七日内」ト云フコトガアリマスルガ、之ニハ罰則ガ付テ居ツテ七日内ニ屆出デナケレバ罰セラレル、唯此七日ト云フコトガ理事ガ淸算人ニナツタ時ハ夫レデ宜ウゴザイマセウガ、此淸算人ガナクテ裁判所ガ選任シタ時ニハ何レ之ハ幾ラカ遲延スルダラウト思ヒマスガ、然ルニ此處デハ解散カラ起算スルコトニナツテ居ルカラ或ハ解散後七日モ十日モ往ツテカラ選任スルト云フ場合ニハ罰スルコトハ出來ヌヤウデアリマスガ、夫レハ何ウ云フ譯ニナリマスカ、此處ニ在ルノハ或ハ選任ノ時カラ起算スルト云フヤウナコトニデモシタナラバ宜イコトデハナイカト云フ考ヘガアリマスガ、夫レヲ一ツ承リタイ、モウ一ツニハ「又何レノ場合ニ於テモ」ト云フコトガアリマスルガ、此「何レノ場合ニ於テモ」ト云フコトハ上ニ「破產ノ場合ヲ除ク外」と云フコトガアルカラ破產ノ場合デモ或ハ通常ノ場合デモト云フ意味デハアリマセヌカ、若シ然ウ云フ意味デアレバ上ノ一句ヲ除クヤウニナレバ之ハ無クテモ宜シイト思ヒマスガ、此「何レノ場合ニ於テモ」ト云フコトハ是非共必要デアルカ何ウデアルカヲ伺ヒタイ、卽チ右ノ三點ヲ承リタイノデアリマス
穗積陳重君
御答ヘ致シマス、始メノ「破產ノ場合ヲ除ク外」ト云フコトヲ書キマシタノハ只今御質問中ニ略ボ御陳ベニナツタ如ク之ハ破產法ノ規定ニ依テ旣ニ公示等ノコトガ定マツテ居リマスルノデ、御承知ノ通リ淸算人ト云フモノハ破產ノ場合ニ働ク者デハアリマセヌカラ餘儀ナク破產ノ場合ト云フモノヲ此處ヘ取除クト云フ必要ガ出テ參ツタノデアリマス、商法抔ニ於テモ殆ド同ジ規定ニナツテ居ルヤウニ記憶シテ居リマス、夫レカラ七日内ト云フノハ解散後、卽チ後トデ淸算人ガ選任セラレタル場合ニ於テハ淸算人ガ夫レガ爲メニ罰ヲ受ケルヤウナ場合ニ當ルカラシテ甚ダ酷デハアルマイカト云フ御尋ネデアリマスガ、併ナガラ淸算人ト云フ者ハ前ノ條ニ依リマシテ當然解散ニナルヤ否ヤ理事ガ直チニ淸算人ニナルノデアリマス、通常ノ場合ニ於テハ何ウモ解散後長ク是迄法人トシテ世ノ中ニ働テ居ツタモノガ矢張リ存在シテ居ルカノ如ク世ノ中ニ見エテハ不都合デアリマスカラ、解散ヲ期限トシテ其登記ヲ受ケルト云フ事ノ期間ヲ定メタノデ、之ハ何ウシテモ解散ト云フ事ガ起算點ニナラナケレバ往カヌノデアツテ、淸算人ト云フ者ノ選任ヲ登記スル譯デハアリマセヌカラ淸算人ノ選任ト云フ方カラデハ不都合デゴザイマセウ、淸算人ガ旣ニ期限ヲ過ギテ選任セラレタ場合ナレバ罰則ハ素ヨリ淸算人ニ當ラヌト云フコトハ明カデアリマスカラ別ニ酷ニ當ルト云フヤウナコトハアルマイト思ヒマス、又第三點ノ「何レノ場合ニ於テモ」ト云フノハ御見解ノ通リデ、破產ノ場合デモ亦破產ノ場合デナイ時デモ含ム、若シ御修正ノ結果「破產ノ場合」ト云フノヲ御除キニナレバ夫レト共ニ「何レノ場合ニ於テモ」ト云フコトモ不必要ニナルニ違ヒナイト思ヒマス
岸本辰雄君
此「破產ノ場合ヲ除ク外」ト云フ事ト夫レカラ「何レノ場合ニ於テモ」ト云フ事、此二ツヲ削除シタラバ如何デゴザイマセウ、何ニモ實害ハゴザイマセヌガ唯文章ヲ簡單ニスルト云フ事丈ケデアル、ト云フモノハ破產ノ場合ニハ破產法ニ依ルト管財人ト云フ者ガアル、管財人ガ卽チ淸算人ノ仕事ヲスル、破產ノ場合ニハ淸算人ヲ置カナイト云フ規定ニナツテ居リマスカラソコデ例ヘバ七十四條ノ場合ノ如キ時ニハ夫レハ「破產ノ場合ヲ除ク外」ト云フコトガ最モ必要デアル、併シ此處ニ至ツテハ其必要ハ毫モナイ、何ゼナレバ破產ノ場合ニハ淸算人ト云フ者ハナイ、管財人ガアツテ夫レガ何日内ニ會社ガ破產シタ、其事ニ付テノ登記ヲスルノデアリマス、故ニ此處ニ斷ラナクテモ現行法律上、現行法律ハ何ウナルカ、之ガ改正ニナルナレバ兎モ角モデアリマスルガ、未ダ之ガ改正ニナラヌナレバ此處ニハ勿論「破產ノ場合ヲ除ク外」ト云フコトヲ書ク必要ハナイ、此處ニ之ヲ書クノハ現行法ト重複スルノ嫌ヒガアリマスル、私ハ無用ノ事ヲ書クニハ及バヌト考ヘマスルカラ之ヲ省キタイ、從ツテ「何レノ場合ニ於テモ」ト云フコトモ不必要ニナリマスカラ、此二ケ所ノ削除アランコトヲ提出致シマス
高木豐三君
私ハ只今ノ岸本君ノ說ニ贊成致シマス
穗積陳重君
之ハ岸本暦ノ御陳ベニナリマシタ如キ結果ハ必ズ生ジマセヌ、「破產ノ場合ヲ除ク外」ト云フ事ヲ取ツテモ結果ハ同ジコトニナルト云フコトハ何ウシテモ分リマセヌ、素ヨリ前ニ申シタ通リ、淸算人ハ破產ノ場合ノ跡、事務取片付ケノ人デハアリマセヌガ、併ナガラ破產ノ場合デモ矢張リ解散ノ一ノ場合、然ウスルト云フト、此數文字ヲ除クト云フト、破產ノ場合デモ矢張リ淸算人ガ七日内ニ登記ヲ受ケナケレバナラヌ、又管財人ハ管財人ノ規則ニ從ツテ職務ヲ執行シナケレバナラヌ、ダカラ之ガアルナレバ破產ノ場合ニハ淸算人ガ登記ヲ受ケルニ及ビマセヌガ、此數文字ヲ削ルト破產ノ場合デモ矢張リ登記ヲ受ケナケレバナラヌ、斯ウ云フコトニナリマスカラ此數文字ガアツテモナクテモ同ジコトニナルト云フコトハ出來テ來マセヌ、破產ノ場合ハ全ク管財人ノ方ニ讓リマシタ方ガ都合ガ宜シイト思ヒマスカラシテ、夫故ニ何ウカ之ハ落トノ如ク存シ置カレンコトヲ希望致シマス
高木豐三君
私モ今贊成ヲシマシタカラ只今ノ起草者ノ御陳ベニ對シテ一言反駁ヲシテ置キマス、只今ノ起草者ノ御答辯其者ニ於テ旣ニ必要デナイト云フ事ガ明カニナルノデアリマス、其譯ハ若シ此「破產ノ場合ヲ除ク外」ノ一句ヲ除ケバ解散後七日内ニ破產ノ場合ニモ矢張リ淸算人ガ之ヲ登記シタリ何カシナケレバナラヌカモ知レヌト云フ斯ウ云フ御答ヘデアリマシタガ、破產ノ場合ニハ淸算人ト云フ者ガナイト云フコトハ起草者自ラ言ハレテ居ル、破產ノ場合ニ淸算人ガナクテ淸算人ガ其登記ヲシタリ何ヲシタリスル必要ガ出テ來ル筈ハナイ、夫レデ淸算人ト云フモノハ必ズ破產ノ以外ノ話シデアルト云フコトガ極マツテ居ルナレバ破產ノ時ニ淸算人ガ屆ケヤウトシテモ土臺其時ハ淸算人ト云フ者ハナイ、其時ハ理事ノ資格デヤル、夫レデ只今ノ御答辯其者ニ於テ旣ニ此「破產ノ場合ヲ除ク外」ト云フコトハ益々必要デナイト云フコトガ明カニナツテ來ヤウト考ヘマスルカラ、之ハ省ク方ガ宜シイト思ヒマス
穗積陳重君
夫レハ通常ノ場合ヲ御考ヘニナリマシタノデ、破產ハ此淸算ノ央バデモ屡々出テ來ル、夫レデ一旦淸算人ガアツテ夫レカラ管財人ニ移ルト云フ場合モアリマスカラ、其場合デモ破產ノ場合ト云フコトガ分カリマシタナレバ登記ヲ受ケルニ及ビマセヌ、本條ノ趣意ハ然ウデアリマス、夫故ニ破產ニ依テ法人ガ解散スルト云フ場合、他ノ原因デ解散ヲシテ居ツテ途中カラ破產ノ有樣ニナツタト云フコトガ現ハレル場合、此二ツノ場合ガゴザイマスカラ破產ノ場合ニ於テハ必ズ淸算人ガナイト云フコトハ言ヘヌノデ、始メカラ破產ガ原因トナツテ法人ガ解散ヲ致シマスル時ニハ淸算人ガ出來ナイ、夫レカラ他ノ原因ニ依テ解散ヲシテ居ツテ途中カラ破產ノ有樣ニナツテ管財人ノ方ニ事務ガ移ル場合ハ淸算人ガアル、夫レデ矢張リ本條ハ斯ノ如キ場合デモ淸算人ガアルト云フノデアリマス
岸本辰雄君
一寸承リマスガ、破產ノ場合ニ淸算人ト管財人ト同時ニ職務ヲ執ル場合ガアリマスカ、卽チ淸算人ト云フ肩書ノアル人間ト、破產管財人ト云フ肩書ノアル人間ト二人アルト云フ場合ガアレバ此箇條ハ必要デアリマセウガ、所ガ今ノ破產法ニ依ルト然ウ云フ場合ハアリマセヌ、成程會社ガ解散シテ淸算人ガ出來テ段段取調テ見タ結果之ハ徃ケナイト云フノデ途中カラ破產ニナル、併ナガラ破產ガ決定スルヤ否ヤ其瞬間ニ同時ニ破產管財人ニナツテ來マスルノデ此二ツガ兩立スルコトハアリマセヌカラ、決シテ今穗積サンノ仰ツタヤウナ、成程解散ト云フ場合ニハ最初ニハ淸算人デアリマセウガ後ニ至ツテ管財人デゴザイマセウ、ダカラ淸算人ト破產管財人ト同時ニアルト云フコトハアリマセヌカラ、決シテ今ノ御答ヘノヤウナ場合ハ生ジナイト考ヘマスルガ尙ホ御考ヘヲ願ヒタイ
磯部四郎君
只今ノ岸本君ノ修正說ハ誠ニ結構デアリマスルガ、詰リ餘ルコトヲ除ク丈ケデアリマスルガ、私ハ此條ニ付テ少シ足リヌ所ガアラウト思ヒマス、之ハ一寸起草者ニ御注意ヲ促スコト丈ケデアリマス、成程淸算人ハ解散後其氏名住所及ビ解散ノ原因等ヲ登記スルト云フコトハ誠ニ結構ナコトデゴザイマスル、所ガ此重要ナル事由ガアリマシテ然ウシテ裁判所ガ利害關係人若クハ檢事ノ請求ニ因リテ從來ノ淸算人ヲ解キ更ニ途中カラ其淸算人ヲ命ズルコトガゴザイマセウガ、其淸算人ト云フ者ニ更ニ命ゼラレタ者ハ幾日内ニ屆出ルト云フコトハ前條ノ法文ニハ見ニヌヤウデアリマスルガ、之ハ何ウナルノデゴザイマセウカ、若シ拔ケテ居リマスレバ何ウカ此處ニ文章ヲ入レル所ハナイカト先程カラ考ヘマスルガ、何ウモ其入レヤウガ面倒デアリマスガ、何ウカ其案ヲ御入レヲ願フ譯ニハ往キマセヌカ
穗積陳重君
成程之ハ始メカラ淸算人ノアリマシタ場合丈ケガ見エテアルノデ、例ヘバ解散ノ後七日目トカ八日目トカニ後トカラ補ハレマシタ場合等ノ規定ハ此處ニ見テアリマセヌ、併ナガラ之ハ矢張リ七目内位ニ登記ヲ受ケナケレバナラヌコトデアラウト思ヒマスガ、併ナガラ要スルニ始メ解散ノ時ノ方式ニ叶ヒマシタ淸算人ト云フ者丈ケガ登記ヲ受ケテ居リマシタナレバ他ニ對スル所ノ卽チ利害關係人ニ對スル所、第三者ニ對スル所ノ交渉ト云フモノハ夫レデ濟ンデ居リマスカラシテ外ニ補缺ノ場合迄モ登記ヲ受ケルト云フヤウナ細カイコト迄モ或ハシテ置カナクテモ宜シイト思ヒマスルガ、併シ夫レハ人々ノ考ヘデアリマスカラ必ズ宜イトハ申シマセヌ、夫レカラ序ニ先刻ノ岸本君ノ御演說ニ對シテ一寸御答ヘヲシテ置キマスルガ、始メニ淸算人ガアル、而シテ後ニ其淸算人ノ事務ヲ管財人ニ引繼グ時分ニ若シ破產ト云フコトガ明カデアリマシテモ若シ「破產ノ場合ヲ除ク外」ト云フコトガアリマセヌナレバ、例ヘバ五日内ニ引渡ストシテモ、登記丈ケハ受ケテ置テモ夫レハ自分ノ職務デアリマスルカラ夫レニ引渡サナケレバ往カヌコトト思ヒマスル、破產ノ場合ガ取除イテゴザイマスナレバモウ之ハ破產ノ場合ヂヤト思ヒマシタ時ハ矢張リ登記ノ事モ委ネテ宜シイト思ヒマスカラ、矢張リ同一ノコトデハナイト思ヒマスルガ、尙ホ御考ヘヲ願ヒタイ
岸本辰雄君
然ウ云フ場合ハナイト思ヒマス、淸算人ハ之ハモウ破產ヂヤト云フコトハ推測ニハ出ルカハ知リマセヌガ之ハ裁判所ノ破產開始ノ決定デ極マル、其決定デ始メテ分カルカラ其決定ガアレバ誰某ヲ以テ破產管財人トスルト云フヤウニ同時ニ命ズル法律ニナツテ居リマスル、又其場合ニ破產管財人ト淸算人トガ瞬間ノ間ニ分カレルノデアリマスカラ決シテ然ウ云フ場合ハナカラウト思ヒマス
磯部四郎君
私モ一寸修正說ヲ出サウト思ヒマスル、只今申サレルニハ成程屆ケタモ宜カラウシ又屆ケナクモ宜イヤウダト云フ御答ヘノヤウデアリマシタガ、夫レデハ私ハ少シ滿足シ兼ネマス、元來淸算人ガ一度アレバ第三者ニ對シテ夫レデ宜シイガ、併シ淸算人ガ變ハルト舊トノ淸算人ガ夫レ迄ノ事務ニ付テノ淸算人タル職權ヲ持テ居ラウシ義務ヲモ負フコトデゴザイマセウガ、其以後ハ淸算人タル職權ハナイヽ又義務ヲモ負ヒマセヌノデアリマスルガ、夫レガ尙ホ第三者ニ對シテハ淸算人タル顔ヲシテ居ルヤウナ譯デハ何分淸算ノ信用上大變關係ガアラウト思ヒマスル、旣ニ從來ノ淸算人ガ止ンデ更ニ淸算人ガ出來タ時分ニハ尙ホ其淸算人ヲシテ自分ガ其職ニ就イタト云フコトヲ第三者ニ知ラシメルノ必要ガ充分アラウト思ヒマスル、ダカラ成ルベクハ此第七十六條ノ末項ニ「淸算ノ執行中更ニ淸算人ニ選任セラレタル者ハ其選任ノ時ヨリ七日内ニ氏名住所ヲ登記スルコトヲ要ス」ト云フ位ノコトガ一寸這入ル方ガ判明スルデアラウト思ヒマス、少シ文章ガ出來掛リノ所デアリマスカラ文章ノ所ハ何ウデモ宜シウゴザイマスルガ、二項ノ所ニ持テ往ツテ途中カラ補缺淸算人トナリタル者ハ卽チ其就任ノ時ヨリ七日内ニ其氏名住所ト云フモノヲ登記スルコトヲ要スルト云フ位ノ意味ノ法文ノ這入ルコトヲ提出致シマス
假議長(箕作麟祥君)
只今ノ磯部君ノ御說デアリマスルガ、確トシタ文章ニスルト云フコトモ六ケ敷イデゴザイマセウガ、併シ大抵出來テ居リマセヌト困リマス
岸本辰雄君
私モ一寸修正說ヲ出シマス、此「解散後」ト云フノヲ「受任後」トシタラ如何デゴザイマセウカ、解散シテカラ淸算人ヲ任命セズニ然ウ長ク置テ不取締ニスルト云フコトモアリマスマイト思ヒマス、理事ガアレバ理事ガ直チニヤルコトニナリマセウシ、又裁判所ガ選任スルトキデモ然ウ長ク放ツテ置クコトモアリマスマイ、之ヲ「受任後」トスルト今ノ磯部君ノ御心配モナクナリマスルシ、又私ガ先刻申シタ七日ヲ過ギテカラ裁判所ガ選任シタト云フ場合モ生ジナイト云フコトニナリマセウ、夫レデ之ハ如何デゴザイマセウカ、之ハ協議ノヤウナ修正說ヲ出シマス
假議長(箕作麟祥君)
何ウシマセウ、之ハ大分違ツタ修正說ガ出マシタガ、兎ニ角磯部さんノ御考ヘノ事ト始メノ岸本さんノ「破產ノ場合ヲ除ク外」ト云フノヲ除クト云フコトトハ餘リ牽連シタコトデモナイト思ヒマスルカラ、先ヅ始メノ岸本さんノ御說ノ運命ヲ極メテ仕舞ツタ方ガ宜カラウト思ヒマス、夫レデ岸本君カラ提出ニナリマシタ「破產ノ場合ヲ除ク外」ト云フノヲ取ルト云フコトト、夫レカラ其次ノ「何レノ場合ニ於テモ」ト云フコトヲ削ルト云フコト、此二ケ所ヲ削除スルト云フ修正說デアリマスルガ、是ニ御同意ノ諸君ノ起立ヲ請ヒマス
起立者少數
假議長(箕作麟祥君)
少數、ソレデハ其方ハ消滅シマシタカラ、次ニ岸本さんノ「解散後」ト云フノヲ「受任後」トスルト云フ修正說ニハ贊成ガナイヤウデアリマスガ
中村元嘉君
私ガ贊成シマス
假議長(箕作麟祥君)
岸本さんノ案ハ「就」ノ方ニスルノデアリマスルカ、又ハ「受」ノ方ニスルノデアリマスカ
岸本辰雄君
「就任後」トシマセウ、後トノ方ニ「就職」ト云フコトガアリマスルカラ、然ウシマセウ
假議長(箕作麟祥君)
夫レデハ愈々どちらニシマスカ
岸本辰雄君
「就職後」ト極メマセウ
中村元嘉君
私ハ夫レハ何レデモ贊成ヲ致シマス
梅謙次郎君
今ノ磯部君ノ御說ハ必要デアルトナシトニ拘ハラズ兎ニ角充分理窟ノアルコトデアリマスガ、今ノ岸本さんノ御案ハ七十六條ノ精神ト少シ背馳スルヤウニ思ヒマス、此七十六條ノ精神ト云フモノハ商法ノ第二百三十四條ノ規定ト同ジ精神デアツテ、苟モ會社ガ解散ヲシタナラバ成ル可ク速カニ人ニ知ラセナケレバナラヌト云フノガ精神デアリマス、淸算人ノ方ノ都合カラ極メタノデハアリマセヌ、第三者ガ解散ヲ早ク知ルト云フ必要ガアルカラ極メタノデ、其方カラ言フト解散後七日ト云フノハ何ウシテモ動カシテハ惡ルイ、若シ變ヘル必要ガアレバ、先キノ御話シノ淸算人ガ大變ニ遲ク選バレタ時ハ不都合デアルト云フコトデアリマスルガ、夫レヲ變ヘルト云フコトニナツタナラバ或ハ贊成スルカモ知レマセヌガ、之ヲ「就職後七日内ニ」ト云フコトニ改メルト云フコトニスルト從ツテ第三者ガ長ク夫レヲ知ラナイト云フヤウナ恐レガアリマシテ此箇條ノ精神ト丸デ背馳スルト云フヤウナコトニナリマス、淸算人ト云フコトヲ若シヤ適當ノ文字ガアツテ替ヘルト云フコトナレバ夫レハ又考ヘテ見マスガ、「解散後」ト云フコトヲ變ヘルコトニナルト先キノ不都合ヲ變ヘルト云フノデナク夫レニ代ハル不都合ヲ生ジハシナイカト思ヒマス、序ニ磯部君ニ伺ヒマスガ、登記法ハ必ズ出來ル、今デモアリマスガ、所デ私共ノ考ヘデハ一旦登記シタコトニ變更ヲ生ズレバ又之ヲ登記セザルコトヲ得ナイト云フコトガ必要デアルト云フ登記法ニ於テ若シヤ然ウ云フ規定ガ出來タナラバ淸算人ガアツテ夫レガ登記ヲスル、夫レガ變ハルト云フコトデアレバ更ニ登記ヲシナケレバナラヌト云フコトニナラウト思ヒマスガ、私共ハ然ウ云フコトハ謂ハバ特ニ登記ノコトハ此處ニ言ハヌデモ濟ムデアラウト思ヒマスガ、如何デゴザイマセウ
磯部四郎君
夫レニ付テ伺ヒマスガ、若シモ然ウデアリマスレバ法人モ登記シテ居ルノデゴザイマセウ、其法人ガ解散スレバ人ノ身分上ニ生ジタ變更デアリマスカラ、夫レヲ登記ヲシタナラバ淸算人モ登記ヲスル、其結果ハ、然ウスルト斯ウ云フ條文ガ始メカラ要ラナクナツテ來ル
梅謙次郎君
夫レハ然ウデナイ、勿論登記スルコトハ登記法デ極マルデアラウト思ヒマスル、ケレドモ如何ナルコトヲ登記スルカ、且何時迄ニ登記スルカト云フコトハ極マラヌ、夫レデ唯此處デハ法人ガナクナツタト云フコトヲ登記スレバ宜シイト云フ丈ケデナクシテ其ナクナツタ理由、夫レカラ其ナクナツタコトノ跡始末ヲスル人間ノ氏名カラ住所等ノ登記ヲスルト云フノデアリマスカラ、尙更ラ之ハ特別ノ規定ガナケレバナラヌト思ヒマス
磯部四郎君
淸算人ガ缺ケタト云フコトハ成程前ノ淸算人ノ登記ノ所ノ欄外ナリ何ナリニ直グニ書キ入レル、ケレドモ此淸算人ヲ解テ更ニ是々ノ人ヲ以テ卽チ淸算入トスルト云フコトハ、何ウモ之ハ又一ツノ身分ノ違ツタ人間ノ責任者ガ出テ來マスカラ夫レヲ其欄外ニ書キ入レルト云フコトハ可笑シイト思ヒマス、若シ夫レニナルト法人ノ解散ト云フコトニナツテ淸算人ノ氏名住所ト云フト、法人ガ解散スレバ當然夫レデモウ今ノ登記官吏ガ解散シタト云フコトヲ一切書ク譯ニナルノデゴザイマセウネ一體ハ
梅謙次郎君
私ノ先キニ申シタノハ登記シタル事ニ變更ヲ生ズルト登記官吏ガ自分デ書クノデナイ、當事者ノ請求ニ依テ之ヲ書クト云フコトニナルノデアル、其登記ヲ變ヘテ貰ウヤウニ改メテ願ヒ出ル、今ノデモ然ウカモ知レマセヌガ、今ノデハ然ウ云フ點ハ明カニ規定シテ居ラヌ、然ウ云フ點ヲ明カニ規定スルコトハ必要ト云フ考ヘデアリマス、夫レデ是迄ハ權兵衞ト云フ淸算人ガアツタガ今度ハ八兵衞ト云フ者ガ代ツテ淸算人ニナルト言ヘバ變更デアリマスカラ、其八兵衞ガ代ツテ淸算人ニナルト云フコトヲ登記ヲシナケレバ變更ヲ登記シタトハ言ヘナイ
磯部四郎君
權兵衞ガ止メタト云フコトヲ欄外ニ登記スルデゴザイマセウ、ケレドモ更ニ八兵衞ガ其權兵衞ニ代ハツテ淸算人ニナルト云フコトハ例ノ登記法デ唯始メノ方ヘ加ヘタ許リデヽヽヽヽヽ夫レハナイト云フ御說デアリマスルガ、然ウハ往クマイト思ヒマス、夫レデ私ノハ極ク簡單デアリマスガ、「淸算中就職ノ淸算人ハ其就職ノ日ヨリ七日内ニ氏名住所ノ登記ヲ受クルコトヲ要ス」ト云フノデアル、前ノ淸算人ガ消エタト云フノデ欄外ニ更ニ出來タ淸算人ト云フ者ノ卽チ職業ヲ登記スルト云フコトハナカラウ、登記ノ論ハ更ニ新シイ者ガ出來タラ其方ヲ登記シテ、淸算人ガ變ハツテ登記シタト云フコトヲ、前ノ淸算人ノ見出シノ欄外ニ誰某ガ淸算人ニナツタト云フコトハアリマセウケレドモ、必ズ此處デ淸算人ガ更ニ定マツタ以上ニハ淸算人ハ取リモ直サズ法人其者ノ業務ヲ夫レカラ以後代表シテ往クノデアリマスカラ之ニ付テハ別段ニ登記ガナケレバナラヌト思ヒマス、併シ之ハ登記法論デアリマスルガ、要スルニ前ノ所ニ來テ變更ノ所カラ色々委シク出テ來タコトデアリマスガ、殊ニ又此淸算人ノ氏名住所解散ノ原因年月日ノ登記ヲ受ケルト云フコトハ餘程綿密ニナツテ居リマスル、兎ニ角是丈ケノ細密ノ御規則ヲ御立テニナツタノデアリマスカラ疑ヒヲ懷クヤウナコトノナイヤウナ完全無缺ノ法律ニナラウト思ヒマスル、夫レデ私ハ贊成ガアリマセヌケレバ夫レ迄デアリマスルガ、兎ニ角此七十六條ニ一項ヲ加ヘテ「淸算中就職ノ淸算人ハ其就職ノ日ヨリ七日内ニ氏名住所ノ登記ヲ受クルコトヲ要ス」トシタイ、斯ウ云フ一項ヲ別項トシテ入レンコトヲ希望致シマス
假議長(箕作麟祥君)
一寸伺ヒマスルガ主務官廳ニ屆出ヅル方ハ宜シイノデアリマスカ
磯部四郎君
之ハ困マルガ、此方ハ淸算ノ時ニモ屆出デナケレバナラヌ、夫レ丈ケハ又更ニ一ツ入レナケレバナラヌ
長谷川喬君
私ハ今岸本君ノ御說ヲバ贊成シマシタニ付テハ一應其理由ヲ陳ベマス、岸本君ノ修正案ノ如ク之ヲ「就職後」ト致シマスルト二ツノ利益ガアラウト思ヒマス、其第一ハ先キニ岸本君ガ言ハレタ通リ後ニ至ツテ淸算人ヲ裁判所カラ任ジタ場合、卽チ七十五條ノ如キ場合ニ於テ七日内ニ屆ケネバナラヌト云フコトハ隨分無理ナコトニナルデアラウト思ヒマス、或ハ解散後三日目カ五日目カ或ハ六日目ニナツテ任ゼラレタカモ知レヌ、然ウ云フ場合ニ於テモ矢張リ解散後カラ起算シテ七日内ニ登記ヲセヨ、シナイト罰スルト云フヤウナコトニナツテハ何ウモ不都合デアラウト思ヒマス、夫レカラ第二ニハ丁度磯部君ガ二項ヲ加ヘラレヤウト云フコトノ主意ト同一デアツテ、故ラニ二項ヲ加ヘズトモ之ヲ「就職後」ト致シマシタナラバ其二項ノ主意モ徹底シヤウト思ヒマス、何ゼカナラバ單ニ「就職後」ト云フト最初カラ職ニ就イタ場合モ中途カラ職ニ就イタ場合モ同一デアリマスカラ態々二項ヲ加ヘズトモ其趣意ガ通ラウト思ヒマス夫レカラ梅君ノ最初ノ御說明ニ「解散後」ト云フコトヲ出サナイト解散後久シク等閑ニセラルルヤウナコトガアツテハ不都合デアラウト言ハレマシタガ、成程久シク等閑ニスルヤウナコトガアツテハ不都合デアリマセウガ、併シ此案ニ依テ見レバ左樣ナ不都合ハアルマイト思ヒマス、何ゼナラバ始メハ理事ガアル、其理事ガ直チニ淸算人ニナルノデアリマスカラ事實上丁度解散ノ日カラ七日内ト云フコトニ至ルデアラウト思ヒマス、然ウシテ見レバ七十五條ノ如ク裁判所ガ命ジタ場合ニ於テ實際解散後數日經ツテ命ゼラレタ場合デモ矢張リ七日内ニ登記ヲシロト云フコトヲ責ムルヨリモ此方ガ實際上差支ヘナイコトデアル、卽チ理事ガ直チニ淸算人トナツテ其日カラ數ヘルノハ恰モ「解散後七日内」ト云フコトト同ジコトニナリマスルカラ殊更ニ此處ニ「解散後」ト云フコトヲ言ハナクモ差支ヘナイト思ヒマス、成程商法抔ニモ「解散後」トアリマスルガ、之ハ登記ヲスルモノハ會社デアル、會社ガ登記ヲセヨト云フ立テ方デアリマスカラ夫レハ「解散後」ト言ツテモ宜シイガ、併シ此處デハ淸算人ガ登記ヲセヨト云フノデ淸算人ガ登記ヲスルト云フコトデアレバ矢張リ「淸算人ノ就職後」トスル方ガ明カデアラウト思ヒマス
末松謙澄君
私ハ起草委員ニ質問シマスルガ、先刻カラ段々議論ノアリマシタノモ「淸算人ハ」ト云フヤウナ風ニ書テアルカラシテ詰リ色々ナ議論モ起ルヤウナ譯デアル、又「破產ノ場合ヲ除ク外」ト云フコトヲ淸算人ト云フ所ニ書テアルカラ之ヲ除テモ構ハヌト云フ議論モ起ル譯デアル、此「破產ノ場合ヲ除ク外」ト云フコトヲ中ニ狹ンデアルカラ議論ガ起ル譯デアル、此處ヲ「淸算人ハ就職後」ト云フコトニスルト云フコトデアルガ併シ之ニ反對スル論ハ「解散後」ト「云フコトユ重ミヲ付ケナケレバナラヌ、世間ガ之ニ目ヲ着ケナケレバナラヌト云フノデ何レモ御尤モナ御說デアルガ、依テ起草委員ニ御意見ヲ伺ヒタイノハ此處ノ組立ヲモ些ツト變ヘラレル工夫ハアリマセヌカ、卽チ私ノ思考ニスレバ少シ大キナ改正ニナルカラ直チニスル譯ニハ往キマセヌガ、意味ヲ斯ウ云フ風ニシテハ何ウデアラウカ、總テ法人ガ解散シタ時ニハ幾日以内ニ屆出ルト云フヤウナ文章ノ仕組ニスル、然ウシタ時ニハ誰ガ屆ケルカ、法人自分カラ解散スル時ニハ誰モ屆ケル者ハナイト云フヤウナ議論モ起リマセウガ、之ニ付テハ色々規定ヲ設ケルコトモ出來ル、解散セント欲スレバ前ノ役員カラ屆出ルト云フヤウナ規定ヲ拵ヘルコトモ出來ル、或ハ今ノ淸算人ノ定マラヌ時ハ其社員ノ重モ立ツタ人カラ屆出ルト云フヤウナコトモ出來ルト思ヒマス、何カ然ウ云フ風ノ所ニ重モニ着目シテ往ケバ此條文ハ解散ノ方ヲ重モニシテ規定シタト云フコトガ分カラウト思ヒマス、又モウ一ツノ方ハ破產ノ場合ニハ淸算人ハナイ、夫故ニ「破產ノ場合ヲ除ク外」ト云フコトガ書テアル、破產ノ場合ト云フモノハ此處ニハ見エテ居ナイヤウニアル、然ウスルト此處ノ方ハ破產ノ文句ニセズシテ「法人ハ破產ノ場合ニ於テハ破產ニ關スル規定ニ從フ」ト云フヤウナ風ニ別ノ條トシテ一ツ設ケテ置テ、其仕組ノヤウニシテ往ツタナラバ其議論モ消エテ仕舞ウデハナイカ、要スルニ解散ヲ主トシテ往クト云フ起草委員ノ御意見デアレバ其方ヲ主眼トシテ書テ往クヤウナル風ニ改メルヤウナル御考ヘハ付テ居ナカツタデアラウカ、又或ハ將來然ウ云フ風ニシテ規定スルコトガ出來ナイノデアラウカ、然ウシテ第二ノ點ハ破產ノ場合、法人ニシテ破產シタ時ニハ破產ニ關スル規定ニ從フト云フヤウナル風ニ別ニ一ツノ條トシテ設ケル、斯ウ云フヤウナ風ニ大キナ修正ヲシテ後トデモウ一ツ持出シテ貰ウト云フヤウナ風ノ譯ニハ往キマセヌカ、一寸御相談ヲシタイ
穗積陳重君
只今ノ末松君ノ御質問ハ要スルニ登記事務ト云フモノヲ淸算人ノ一ノ職務トセズシテ法人ノ職務ニシテハ何ウデアラウカト云フノガ第一ノ御問ヒデアツタト思ヒマスルガ、夫レハ固ヨリ諸君ノ御多數ニ依テ其方ノ仕組ニスルト云フコトデアレバ出來ナイコトモアルマイト思ヒマスル、固ヨリ此理事ト云フ者ガアツテ法人ガ働ク時ニハ其理事ガ働ク機關ニナルノデアリマスカラシテ、理事ニ解散後ノ登記ノ責メヲ、淸算人トナツテモナラナクテモ登記ノ責メヲ受ケサセサヘスレバ末松君ノ望マレルコトニハ格別文字ヲ動カサヌデモ出來ルカモ知レヌ、其登記ヲ兎モ角出來ルカ出來ナイカト云フコトニ付テ考ヘヲ御聽キニナルナレバ夫レハ出來ヌト云フコトヲ申サナケレバナラヌ、第二點ノ「破產ノ場合ヲ除ク外」ト云フコト、之ハ固ヨリ法人ノ破產ノ場合ニハ破產法ニ從フトカ云フヤウナ別條ハ要ラヌト思ヒマス、破產法デ自然分カルヤウニナリマスカラ夫レハ別段ニ書カヌデモ宜シイト思フノデアリマス、「破產ノ場合ヲ除ク外」ト云フ文字ガアツテモ矢張リ外ノ法カラ法人解散ノ時ニハ破產ノ場合ナレバ其規則ガ當ルヤウニナリマス、除イテアツテモ其規則ガ破產ノ場合ニハ當ルヤウニナリマスカラ、夫レハ格別別條ヲ設クルニモ及バヌト思ヒマス
尾崎三良君
色々御說ガ出マシタガ私ハ岸本君ノ修正說デ宜カラウト思ヒマス、夫レハ段々起草委員カラシテ此解散ノコトヲ早ク世間ニ知ラサナケレバナラヌカラ「就職後」トスルト云フトどんナニ後レルカモ知レヌト云フ御說デアリマシタガ、其淸算人ト云フモノガ解散ノ時直グニ極マル、極マツテ居レバ宜シイガ、中ニハ隨分遲レテ七日經ツテモ淸算人ガ極マラヌト云フヤウナコトガナイトモ言ヘヌト思ヒマス、然ウ云フ場合ハ何ウスルカ、淸算人ガ登記ヲ受ケロト云フノデアリマスガ、淸算人ガ出來ヌ中ニ縱令七日經ツテモ淸算人ガ出來ヌ時ハ登記ヲ受ケルヤウナコトハ出來ヌト思ヒマス、事實上斯ウ書イテ置イテ、此儘デ置ケバ淸算人ガ缺ケテ當事者ナリ又ハ檢事ノ請求ニ依テ裁判所ガ選任スルト云フヤウナコトニナツタ時ニハ何ウシテモ「解散後七日内」ト云フコトハ事實上行ハレナイ、依テ之デ何モ差支ヘアルマイ、ソコデ若シ成ル可ク早ク知ラセルコトガ必要デアルト云フコトデアレバ「就職後七日内」ト云フコトヲ止メテ「三日」トシテモ差支ヘアルマイ、併ナガラソンナニ三日四日ヲ爭フヤウナコトモアルマイト思フニ依テ岸本君ノ修正說デ宜カラウト思ヒマス、然ウスレバ磯部君ノ途中カラ變ハツタト云フヤウナ時デモ矢張リ自ラ當嵌マルト思ヒマスカラ、私ハ岸本君ノ修正說ヲ贊成シテ置キマス
穗積陳重君
色々御說ヲ伺ヒマシテ、始メ磯部君ノ質問ヨリシテ成程後トデ淸算人ガ選任セラレマシタル場合ト云フモノハ本條規定ノ際ニ見テナカツタト云フコトハ御答ヘシタ通リ、岸本君ノ修正案ノ理由ト云フモノモ至極御尤モナ事ト考ヘマスルガ、然ウ致シマスルト云フト或ハ此解散ト云フモノヲ登記スルト云フ精神ガ失セル、之ハ梅君ノ陳ベラレタル通リデ、私共ハ何ウシテモ解散ノ登記、斯ウ云フコトヲ本條ノ精神トシタイト思ヒマス、併シ一方ニ於テハ岸本君抔ノ述ベラレタル實際上ノ不都合モアルカラ何ウカシテ之ヲ調和スル御相談ハ出來マイカト云フコトヲ吾々ニ於テモ考ヘテ居リマス、然ウスルト今ノ末松君抔ノ御考ヘニ依テ法人ノ機關タル卽チ理事ト云フ者ガ登記ノ義務ヲ負フト云フコトニ致シマスレバ、理事ハ必ズ解散スル際ニモ法人ニ在リマスカラ通常ノ場合ニ於テハ淸算人トナル、又淸算人トナラヌ場合モアル、併ナガラ兎ニ角解散ノ場合ニアリマスル所ノ法人ノ機關ト云フ者ヲシテ登記ヲ受ケサセル、之ヲ辭バニ直ホシテ見レバ「理事ハ其淸算人トナルト否トヲ問ハス解散後七日内」、斯ウ云フコトニ致シマスルト卽チ理事ノ義務ニナリマスルカラ何レノ場合ニ於テモ解散ノ登記ハ出來マス、デ理事タル資格ヲ以テ卽チ其法人ノ機關ガ法人ノ終ハツタコトヲ公ケニ示ス手續ヲスル、之ハ淸算事務デナクシテ法人ノ終結事務デアル、理事ノ一番仕舞ヒノ仕事ヂヤ、斯ウ云フ風ニ理事ノ義務ノ仕事ニスルト何レノ趣意モ透ツテ宜クハアルマイカ、卽チ解散ノ場合ト云フ精神モ透リ、夫レカラ磯部君ヤ岸本君抔ノ言ハレタ所ノ實際上ノ不都合ヲモ除ケマスル、然ウスルト一番始メノ「破產ノ場合ヲ除ク外」ト云フコトヲ削ツテモ當然宜クナルト云フコトニナリマス、要スルニ解散ト云フコトヲ存スル積リデアレバ今ノ理事ノ方ニ其義務ヲ負ハセテハ如何デゴザイマセウカ
磯部四郎君
私ハ夫レデ往ケヤウト思ヒマス
穗積陳重君
然ウスルト他ノ文章モ違ヒマス、其氏名ト云フト理事ノ氏名ニナリマスガ
磯部四郎君
文章ハ何ノヤウニシテモ宜シイ
假議長(箕作麟祥君)
只今ノ穗積君ノ御說ハ大體ノ趣意デ此七十六條ヲ追テ修正ヲシヤウト云フ御趣意デアリマスカ
穗積陳重君
然ウデゴザイマス、大體ノ趣意ヲ言ヘバ「理事ハ淸算人トナルト否トヲ問ハス」ト云フヤウニシタイ
假議長(箕作麟祥君)
解散ヲ登記スルト云フコトヲ第一ノ主眼トシテ此文章ヲ修正シヤウト云フ趣意丈ケヲ御述ベニナツタノデヽヽヽヽヽヽ
穗積陳重君
左樣デアリマス
三浦安君
只今ノ諸君ノ御說デ看ルト歸着スル所同一ニナル、「解散後」ト言ヘバ至ツテ明瞭デ、此破產ノ場合ト云フノハ除テ仕舞ツテ、卽チ諸君ノ色々ノ宜イ意思ノ集マツタ結果ト存ジマスルカラ、願クバ穗積君ノ如キ修正通リニナルコトヲ望ミマス
關直彦君
一寸起草委員ニ只今ノ御說ニ付テ伺ヒマスガ、此七十四條カラ七十五條七十六條ニ付テ淸算人淸算人トナツテ居リマシテ、其中ニ持テ來テ解散ノ理由ヲ登記スルト云フコトハ理事デアリマスルト何ンダカ體裁ヲ得マセヌガ、どツか入レ場所ガアリハシマセヌカ
末松謙澄君
起草者ニ熟考シテ貰ツテ後トデヽヽヽヽヽ
穗積陳重君
兎ニ角理事ノ氏名ト云フコトガアリマスルカラ淸算人ノ近邊ニ置カナケレバナラヌト思ヒマス
中村元嘉君
一寸御尋ネシマスガ、今ノ修正說ニナルト中途デ溝算人ガ出來タ時ハ其氏名ト云フモノハ登記スルニハ及バヌト云フコトニナルノデアリマスカ
梅謙次郎君
夫レハ別デゴザイマス
磯部四郎君
起草委員ノ御說モ立チ又修正論ノ說モ立ツ、雙方運ンデ誠ニ御名案ト思ヒマス
中村元嘉君
贊成シマス
假議長(箕作麟祥君)
岸本君ノ御說ハ贊成ガアツテ成立ツテ居リマスガ、尙ホ御主張ニナルノデアリマスカ
岸本辰雄君
私ハ尙ホ宜クナルコトヲ望ムノデアリマスルカラ、其案ノ出マスル迄議事ヲ御延ベニナルコトヲ望ミマス
假議長(箕作麟祥君)
夫レデハ贊成ノ御方モ夫レデ宜シウゴザイマセウカ
(此時「贊成」ト呼ブ者アリ)
假議長(箕作麟祥君)
夫レデハ此七十六條ハ只今ノ穗積君ノ御說ガ出マシテ夫レデ宜シイト云フ御說モ多イヤウデアリマスルガ、夫レデ大體穗積君ノ追テ修正案ガ出來ルカラシテ夫レ迄ハ先ヅ此案ハ假ニ其趣意デ議定スルト云フコトデ宜カラウト思ヒマスルガ、併シ念ノ爲メニ原案デ決ヲ採ラウト思ヒマスルガ
(此時「異議ナシ」ト呼ブ者アリ)
岸本辰雄君
無期限デハナイノデセウ、食後迄デゴザイマセウ
梅謙次郎君
食後マデデアリマス
假議長(箕作麟祥君)
穗積さんハ何ウデゴザイマセウ
穗積陳重君
岸本さんノモアリマスカラヽヽヽヽヽ
假議長(箕作麟祥君)
食後デハ何ウデゴザイマセウカ
穗積陳重君
夫レデモ宜イデゴザイマセウ
末松謙澄君
起草委員カラ言ハレルヤウナ簡易デモナイト思フ、夫レデモウ少シ念ヲ入レテ願ツタ方ガ宜カラウト思フ、あそこノ理事許リノ所デナイト思フ、一體淸算人ノ出來タ後ニ代ハル時ニ色色關係スル所モアラウト思フカラ餘リ輕請合ハ何ウダカト思フ
磯部四郎君
夫レハ十分間モアレバ無論出來ル
假議長(箕作麟祥君)
此次ト言ツタ所ガ總會ハ一寸暫クアリマセヌガ、食後ニ出來マスレバ結構デアリマスルカラ、御議論ガナケレバ暫ク起草委員ニ御預ケ申スト云フコトニシテ先キニ往クコトニシマセウカ
本野一郎君
此一箇條丈ケ除テ先キニ往クコトヲ望ミマス
假議長(箕作麟祥君)
夫レデハ只今ノ一箇條ハ除テ先キノ條ニ移リマス
(書記朗讀)
第七十七條 淸算人ノ職務左ノ如シ
一 法人ノ現務ノ結了
二 法人ノ債權ノ取立及ヒ其債務ノ辨濟
三 殘餘財產ノ引渡
淸算人ハ前項ノ職務ヲ行フ爲メニ必要ナル一切ノ行爲ヲ爲スコトヲ得
假議長(箕作麟祥君)
此七十七條ハ如何デアリマスカ
本野一郎君
異議ナシ
磯部四郎君
此「法人ノ債權ノ取立」ト云フコトガアリマスガ、此法人ガ取立ヲ爲スコトノ權利、爲スコトノ義務ヲ債主ガアツテ爲サシメルト云フコトガアリマスガ、夫レハ矢張リ此取立ノ中ニ御入レニナルノデアリマスカ
穗積陳重君
固ヨリ其積リデアリマスガ文字ガ如何デゴザイマセウカ、確カ商法抔ニハ「未收ノ債權ヲ行用ス」ト書テアリマスルガ、取立ノ方ガ穩カデ分リ易イト思ヒマス
本野一郎君
「法人ノ債權ノ取立」トアルガ之ハ「法人ノ權利ノ請求」トシテハ如何デゴザイマセウカ
梅謙次郎君
極ク當リ前ニ言ヘバ「法人ノ債務ノ履行ノ請求」ト言フタ方ガ宜イカトモ思フ
尾崎三良君
「權利ノ執行」ハ何ウデアラウカ
本野一郎君
「法人ノ權利ノ行使」ハ何ウデゴザイマセウカ
岸本辰雄君
「債權ノ執行」デハ如何デアリマセウカ
梅謙次郎君
執行トカ何ントカ云フ御說モアリマスガ、執行ト云フト強制執行トカ云フヤウナコトモアリマスカラ夫レヨリカヽヽヽ
末松謙澄君
私ハ一ツ說ヲ持出シタイ、此處ノ第一號二號ニハ「法人ノ」ト云フコトガアリ第三號ニハ「法人」ト云フコトハナイガ、此三號モ矢張リ法人ノ殘餘財產ノ引渡ト思フ、夫レデ此第三號ニ若シ「法人ノ」ト云フコトガナクテ濟ムコトナラバ前ノ方モナクテ濟フ、夫レデ私ハ此第一號ノ「法人ノ」ト云フ三字ヲ止メテ唯「現務ノ結了」トシ、第二號モ「債權ノ取立及ヒ其債務ノ辨濟」トシタイ、此「辨濟」ト云フノモ可笑シイカラ第二號ハ「債權及ヒ債務ノ處分ノ完了」ト云フテモ宜シイガ、併シ文字ニ何カ御注文ガアラバヽヽヽヽヽヽ
本野一郎君
「債權及ヒ債務ノ處理」トシテハ何ウデゴザイマセウカ
末松謙澄君
其方ガ多數ノヤウデアレバ其方ニシマセウ
富井政章君
夫レハ往カヌ、矢張リ「行使」トシテハ何ウデアラウカ
高木豐三君
「債權ノ行使及ヒ其債務ノ辨濟」ガ宜イト思フ、一寸末松さんニ御尋ネシマスガ私モ此「法人ノ」トアル三字ヲ削ツテ仕舞ヒタイト思ヒマシタガ、所ガ之ガナイト斯ウ云フ疑ヒガ起リハシマスマイカ、淸算人ノ事務ト云フコトニナリハシマスマイカ
磯部四郎君
之ハ處理ト云フテモ宜シイト思フ、斯ウ云フ時ニ「債權ノ行使」ト云フト相手方ニ向テ訴訟デモ起シテ取立テルコト許リノヤウニ見ル者ガアルカモ知レヌ、然ウデナク場合ニ依テハ之ヲ公費ニ付シテ仕舞ツテ法人ノ權利ヲ債權者カラ債權者ニ債權ヲ讓リ渡シテ仕舞ウト云フヤウナコトモアラウト思ヒマス、然ウ云フ時ニ此「債權ノ行使」ト云フトヽヽヽヽヽヽヽ
高木豐三君
夫レハ末項デ出來ル
磯部四郎君
二項ノ「前項ノ職務ヲ行フ爲メニ必要ナル」ト云フノハ債權云々ハ這入ラヌト思フ、或ハ「債權ノ行使」ト云フト、世ノ中ニ愚ナ奴ガアツテ之ハ必ズ債務者ニ向テ訴訟ヲ起サンケレバナラヌト思フ者ガアルカモ知レヌ、夫レヨリモ寧ロ「債構及ヒ債務ノ處理」ト云フコトニナルト然ウ云フコトモナク極ク宜シイト思フ
岸本辰雄君
之ハ文字ノ爭ヒ見タヤウデアリマスガ、矢張リ之ハ職務權限ノ爭ヒニナリマスカラ矢張リ文字ハ撰ンデ置カナケレバナラヌト思ヒマスルガ現行法ニ依ルト「行用」ト云フ字ガ現ニ發布ニナツテ世人皆知ツテ結構ナ文字ニナツテ居リマスルカラ、夫レヲ替ヘル必要ガアツテ、夫レデハ不都合ダト云フコトデアレバ替ヘテモ宜シイガ、別ニ替ヘル程ノ必要モナカラウト思ヒマスルカラ、矢張リ之ハ「債權ノ行用」トシテハ何ウデゴザイマセウカ
假議長(箕作麟祥君)
民法ハ「行使」デアリマスガ
岸本辰雄君
私ハ「行用」ト云フコトニシタラ宜カラウト思ヒマス
末松謙澄君
「行用」トカ「行使」トカ云フコトハ此處ニハ甚ダ嵌ラヌト思ヒマス、奈何トナレバ此處デハ片付ケル、御仕舞ヒヲスルトカ云フ役目デアル、然ル時ニハ債權ヲ片付ケルトカ處分ヲ付ケルトカ云フヤウナ風ノ意味ガナケレバ往ケマイト思フ
奧田義人君
私ハ「債權及ヒ債務ノ處理」ト云フ說ニ贊成シマス
關直彦君
私モ贊成シマス
奧田義人君
今一ツ「法人ノ」ト云フ三字ヲ取ルト云フ說モアリマシタガ、成程取ツテモ分カラヌコトモアリマセヌガ、前ノ六十條ノ「監事ノ職務」ト云フ所ニモ矢張リ「法人ノ財產ノ現況」ト君テアリマスカラシテ文章ノ釣合ヒ上アル方ガ宜シイ、又「殘餘財產ノ引渡」ト云フ所ノ頭ニ持テ來テ「法人ノ」ト云フ三字ヲ加ヘタ方ガ宜カラウト思ヒマス、前ニモアリマスカラ矢張リ其釣合上カラ言フト其方ガ宜カラウト思ヒマス
梅謙次郎君
餘リ御丁寧デアル
磯部四郎君
私ハ末松君ノ修正說ニ贊成シマス
奧田義人君
何シロ第二號ハ「債權及ヒ債務ノ處理」ト云フノガ一番宜シイト思フ
梅謙次郎君
法典ノ例ニ依ルト是迄債權債務ト云フコトニナツテ居ツテ「及ヒ」ト云フ字ハ入ラヌヤウデアル
末松謙澄君
夫レデハ私ハ案ヲ改メテ出シマス、第一第二ノ「法人ノ」ト云フ三字ハ皆削ツテ仕舞ツテ第二號ハ「債權及ヒ債務ノ處理」ト改メマス
奧田義人君
私モ贊成
富井政章君
夫レヲ別々ニシタラ何ウデス
末松謙澄君
削ルノガ一ツ、夫レカラ「債權及ヒ債務ノ處理」ト云フノガ一ツ
假議長(箕作麟祥君)
之ハ別ニシマセウ
本野一郎君
之ハ「法人ノ」ト云フ三字ヲ削ルト云フコトカラ第一ニシナケレバナラヌト思フ
梅謙次郎君
「法人ノ」ト云フ三字ヲ削ル丈ケハ負ケマセウ
假議長(箕作麟祥君)
夫レデハ別々ニ決ヲ採リマス、第一號第二號ニ「法人ノ」トアル三字ヲ削除スル說ニ贊成ノ方ハ起立ヲ請ヒマス
起立者多數
假議長(箕作麟祥君)
多數デアリマス、次ハ第二號ヲ「債權債務ノ處理」トシタイト云フノデアリマスルカ
末松謙澄君
矢張リ「及ヒ」ハ入レマセウ
假議長(箕作麟祥君)
夫レデハ「及ヒ」ヲ入レテ「債權及ヒ債務ノ處理」ト云フ修正案ニ贊成ノ方ハ起立ヲ請ヒマス
起立者多數
假議長(箕作麟祥君)
多數デアリマス、夫レデハ此案ハ之デ可決ト認メマス、暫時休憩ト致シマス
缺席員
山田喜之助君
關直彦君
(箕作委員議長席ニ着ク)
假議長(箕作麟祥君)
是ヨリ議事ヲ開キマス
穗積陳重君
夫レデハ先刻ノ議決ニ基テ七十六條ノ按ヲ提出致シマス、其文ハ「理事ハ淸算人トナルト否トヲ問ハス解散後七日内ニ解散ノ原因年月日及ヒ淸算人ノ氏名住所ノ登記ヲ受ケ且右ノ事項ヲ主務官廳ニ屆出ツルコトヲ要ス」ト云フノデアリマス、其理由ハ先刻略ボ述ベマシタカラシテ茲ニ再ビ繰返ヘシマセヌ、場所ノコトモ關委員カラ御注意ガアリマシテ能ク考ヘテ見マシタガ、本條ハ淸算人ノ氏名住所ヲ登記スルノデアリマスカラ何ウシテモ淸算人ガ出來ルト云フコトノ後トニ來ナケレバ往カヌト云フコトモアル、夫レデ此七十四條七十五條ノ後トデナイト不都合ニナルノデアリマス、併シ之レヲ新ニ七十六條トナリマシタモノノ前ニ之ヲ當嵌メルト云フト、丁度裁判所ガ選任スルコトト解任スルコトトノ中ガ離レマスカラ矢張リ舊トノ儘ニ第七十六條ニ置カレルノガ宜カラウト思ヒマス、又此文童ノ中ニ「之ヲ」ト云フコトヲ「右ノ事項」ト改メマシタノハ「之ヲ屆出ツルコトヲ要ス」ト云フト少シク登記ヲ受ケタコトヲ屆出ルト云フヤウナ解釋ガ出來ルヤウニ見エマスカラ其間違ヒノナイ爲メニ「右ノ事項」ト云フコトニシタノデアリマス
尾崎三良君
「淸算人トナルト否トヲ問ハス」ト云フコトハ必要デナイヤウデアリマスガ、如何デゴザイマセウカ
穗積陳重君
一寸長谷川君ノ始メノ御問ヒニ御答ヘシテ置キマス、磯部君ノ始メノ御考ヘハ此處ニ直ニ此文章ノ中ニ含ミ込ムト云フコトハ何ウモ出來惡クイノデアル、其御議論ノ精神ニ於テハ決シテ反對スルノデモナイノデアリマス、之ハ別ニ尙ホ御考ヘヲ願ヒタイト思フノデアリマス
長谷川喬君
詰リ除ケル事ニナルノデアリマスガ、中途ニ理事ニ選任セラレル者ハナイト云フコトニナルノデアリマスカ
穗積陳重君
其方ノ事ハ只今案ヲ備ヘテ出セト云フ議決ノ中ニハ這入ツテ居ラヌト思ヒマスカラ實ハ考ヘテ居リマセヌ
尾崎三良君
一寸起草委員ニ御相談ヲシタイ、「理事ハ淸算人トナルト否トヲ問ハス」ト云フコトハ要ラヌ文字ノヤウニ思ヒマスガ、此理事ト云フ者ハ是丈ケノ事ヲシナクテハナラヌゾト云フコトデアルト淸算人トナルト否トヲ問ハズト云フコトハ要ラヌヤウデアリマスガ、矢張リ必要デアリマスカ
穗積陳重君
夫レハ或ハ必要ト言ヘナイカモ知レマセヌガ、ソコヘ然ウ云フ文章ヲ長クナツテまついニモ拘ハラズ入レタノハ七十四條ノ結果デアリマス、解散スルト當然直グニ淸算人トナルノデアリマスカラ其場合デモト云フコトニナルノデアリマス
磯部四郎君
只今ノ修正案ヲ御讀ミニナツタ所ヲ見レバ七十六條ヲ御改正ニナツタ趣意ガ少シモ立タナイト思ヒマス、其理由ハ元來此修正ヲ要スルト云フノハ淸算人ト云フ者ガ解散後七日以内ニ出來ルカ出來ナイカ分カラナイ、夫レデアリマスカラ兎ニ角或ハ淸算人ガ無用ナ事ニ時間ヲ經過スルヤウナ恐レガアルカラ兎ニ角解散丈ケハ登記サセナケレバナラヌト云フ事デ解散ノ事柄及ビ其原因ヲ登記スルノハ理事ノ職掌トシ、淸算人ノ氏名住所ヲ登記スルノハ淸算人ノ職掌トスル、其雙方ノ意味ガ籠モルト云フコトニ承知シテ居リマス、然ルニ只今御讀ミニナツタ所ニ依レバ「理事ハ淸算人トナルト否トヲ問ハス解散後七日内ニ解散ノ原因年月日及ヒ淸算人ノ氏名住所ノ登記ヲ受ケ且右ノ事項ヲ主務官廳ニ屆出ツルコトヲ要ス」ト云フコトニナツテ居リマスガ、今ノ文章ニ依テ見マシテモ矢張リ七日内ニ於テ其淸算人ト云フ者ガ必ズ選任セラレナケレバナラヌコトノヤウニナツテ居リマス、若シ此淸算人ト云フ者ガ解散後七日内ニ必ズ選任セラレルモノト定マツテ居ツテ其點ニ疑ヒヲ生ジマセヌケレバ今改正案ノ御編纂ノ勞ヲ要シナカツタノデアリマス、所ガ元々解散後七日内ニ淸算人ガナイコトガアルカモ知レヌ、其場合ニ解散ノ事ヲ登記シナケレバ甚ダ不都合デアルカラ然ウ云フ場合ヲ入レテ理事ヲシテ解散ノ原因年月日ヲ七日内ニ登記セシムルヤウニシヤウ、而シテ淸算人ノ登記ノコトハ其時ニ選任セラレタル者ト其中途ニ於テ職ニ就クト否トヲ問ハズ淸算人トナツタ者ハ七日内ニ登記ヲスルコトニシテ置ケバ中途ニ這入ツタ者モ最初カラ這入ツタ者モ雙方ニ引掛カルヤウナ法文ガ出來ヤウト云フ所カラ改正按ヲ要スルコトニナツタノデアラウト思ヒマス、然ルニ只今御朗讀ニナツタ按ニ依リマスルト云フト、其精神ハ矢張リ七日内ニ淸算人ノ氏名住所ヲ登記セシメルト云フコトデアルカラ、詰リ淸算人ノ業務ヲ理事ニ送ツタ丈ケデ、萬一淸算人ノ任命ガ七日内ニナイ場合ハ何ウナルト云フ事ハ矢張リ拔ケテ仕舞ツタヤウニ思ヒマス、夫レデハ元ト改正ヲ要スルト云フ理由ニ合ハヌヤウニ思ヒマスルガ、如何デゴザイマセウカ
穗積陳重君
夫レハ成程御尤モナ御疑ヒデアリマスルガ、始メ此改正按ヲ備ヘテ提出ヲスルコトニ御相談ノ極マツタノハ私ハ理事ハ解散ヲ登記シ淸算人ハ淸算人ノ氏名住所ヲ登記スル、斯ウ二段ニ別ケテ出セト極マツタトハ實ハ了解シテ居リマセヌ、此按ヲ備ヘテ出セト云フノハ諸君ノ御議論ニ於テ成程然ウデアラウト思ヒマスカラこちらカラ實ハ請ヒマシタノデアリマス、此按ヲ改メテ出シタイト請ヒマシタノハ私ガ其意味ヲ述ベマシタノデゴザイマシテ、私ハ只今ノ磯部君ノ申サレマシタル如ク登記ノ事項ヲ判然ト二ツニ分ケテ、理事ハ解散ヲ登記シ淸算人ハ淸算人ノ住所氏名ヲ登記スルト云フヤウナ按ヲ備ヘテ出セト云フヤウナ風ノ御相談デアツタトハ了解ハシマセヌガ、或ハ然ウ云フ事ガ宜イカモ知レマセヌ、今ノ御議論ノ如ク或ハ然ウ云フ場合モアリ得ルコトデアラウト思ヒマスガ、詰リ磯部君ノ今述ベラレマシタル如キコトハ前ノ御相談ノ中ニハ這入ツテ居ラヌヤウデアリマスカラ別ニ然ウ云フ按ハ出サナカツタノデアリマス
磯部四郎君
私ハ只今ノ御修正按ニ付テ更ニ修正按ヲ提出致シタイト思ヒマス
高木豐三君
私ハ修正案ニ付テ直チニ決ニナルコトカト思ヒマシタ所ガ追々議論モ出マシタガ、私モ成程何ウモ餘リ只今ノ修正案ハ極ク穩當トハ言ヘナイ、寧ロ原按ノ方ガ宜カラウト考ヘル位デアリマスカラシテ之ハ此儘デ矢張リ進行シテ往カヌト磯部君ガ修正說ヲ出シ又夫レニ論ガ出テ花ガ咲クト云フヤウナコトデハ早ク濟ミサウモアリマセヌカラ、之ハ前ニモアリマシタ通リ尙ホ起草委員ニ御熟考ヲ煩ハシテ然ウシテ極メテ貰ラウコトニシタ方ガ宜シイト思ヒマス、ト云フモノハ今ノヤウナコトニナルト此途中ノ所ニ至ツテ這入ルノモ場所モ可笑シクハナイカト云フ考ヘモアリマスルシ旁々延期說ヲ提出シマス
岸本辰雄君
贊成
穗積陳重君
固ヨリ私共ハ諸君ノ御望ミニ依テ御延期ニナルト云フコトデアレバ夫レニ從ツテ又二度デモ三度デモ考ヘマスルガ、併ナガラ只今ノ磯部君ノ御意見ノコトニ付テ大體斯ウ云フ主義デ文章ヲ書テ來イ、斯ウ云フ事丈ケハ極メテ置テ貰ヒタイ、唯名按ヲ立ツテ來イト云フ事丈ケデハ甚ダ困リマス、先刻岸本君ガ御陳ベニナリマシタ所ノ解散シテモ直グニ其登記ガ出來ヌヤウナコトモアルト云フヤウナコト丈ケハ此修正按デハ出來テ居ルヤウデアリマスルガ、モウ一ツノ淸算人ガ出來ル場合ト云フノハ固ヨリ含ンデ居リマセヌ、併ナガラ夫レハ文案ヲ備ヘテ出セト言ハレタ部分ノ中ニハ這入ツテ居ラナカツタト思ヒマスガ、尙ホ再ビ考ヘテ出セト云フコトデアレバソコラノ所モ大體ノ主義丈ケヲ御定メニナツテカラ願ヒタイト思ヒマス
三浦安君
私ハ先刻起草者ノ穗積君ノ御說明ヲ聞イタノハ七十六條ハ全ク理事ノ職掌ヲ付ケルト云フノデ、卽チ一項ハ理事デ二項ハ淸算人ノ事ガ出ルト思ツテ贊成ヲシタノデアリマスルガ、今ノ案ニ依ルト二ツ一緒ニナツテ居ツテ不分明デアリマスルカラ之ヲ取消シテ、一項ハ理事ノ職掌デ解散後七日内ニ屆ケルト云フコトニシテ、二項ニ於テ淸算人ノ就職シタル後七日内ニ屆ケル、斯ウ云フ事ニナツタラバ席上デモ出來ハシナイカト思ヒマスルガ、併シ之ハ延期ニナツテモ權ヒマセヌ、今ノ御案デハ兩方一緒ニナツテ居リマスカラ不明瞭ト思ヒマス
梅謙次郎君
今ノ磯部さんノ御說ハ御尤モデアリマスルガ、夫レデアリマスレバ先刻修正案トシテ御出シニナツタヤウナコトヲ二項ニ加ヘルト云フコトニシテ、夫レニ付テ決ヲ採ツタラ如何デゴザイマセウ、私モあの文章ハ惡ルイトハ思ハナカツタノデアリマス
磯部四郎君
夫レデハ斯ウナツタラ宜カラウト思ヒマス、第一項デ「理事ハ解散後七日内ニ解散ノ原因年月日ノ登記ヲ受ケ之ヲ主務官廳ニ屆出ツルコトヲ要ス」、夫レカラ第二項デ「淸算人ハ就職ノ日ヨリ七日内ニ氏名住所ノ登記ヲ受ケ之ヲ主務官廳ニ屆出ツルコトヲ要ス」斯ウナツタラ宜カラウト思ヒマス
三浦安君
今ノ磯部君ノ意味合ヒハ至極宜シイヤウデアル
梅謙次郎君
然ウナルト云フト私共ハ事柄ガ何ウシテモ反對デアリマス、其譯ハ必ズ登記ヲ二ツニシナケレバナラヌト云フコトニナル、後トカラ選バレタ時ハ別ニ登記スルコトガ或ハ宜イカモ知レマセヌケレドモ何時モ登記ヲ二ツシナケレバナラヌト云フコトハ甚ダ穩カデアルマイト思ヒマス、矢張リ通則トシテハ理事ガ淸算人ニナルカラ解散スルトキモ淸算人ニナル方ガ通則デアリマス、夫レデ夫レハ原案ノ儘ニシテ置ク、唯淸算人ガ淸算中ニ選バレタ時ノ事丈ケヲ二項ニ掲ゲタ方ガ宜シイ、然ウスルト解散後七日内ニ淸算人ガ出來ナカツタ場合、私ハ之ハ極ク稀レナ場合デアラウト思ヒマス、何ゼナレバ此淸算ト云フモノハ一日モ忽セニスベカラザルモノデアリマスカラ然ウ云フ場合ニハ裁判所モ極ク急イデ選任スルコトニナラウト思ヒマス、又總會デモ然ウ云フ場合ハ極ク急イデ選任ヲシテモ七日内デスルコトガ出來ヤウト思ヒマス、商法抔デモ斯ウ云フ風ニナツテ居ル、唯困マル所ハ磯部君ノ言ハレタ所ノ後トカラ變ハツタ時、其時ノ事ハ此中ニハ這入ツテ居ラヌノデアリマス、夫レハ磯部君ノ始メニ言ハレタヤウナ案ヲ二項ニデモ加ヘラレルト宜カラウト思ヒマス
磯部四郎君
梅さんノ言ハレルノハ固ヨリ御尤モナ御說デゴザイマセウ、夫レハどちらデモ宜シウゴザイマスルガ私ノ考ヘデハ寧ロ舊トノ七十六條ニシテ二項ヲ御出シニナルナラバ宜シイガ、今ノ御提出ニナツタ御改正案ニ依ルト理事カラ屆出デルコトニナル、然ウスルト淸算人ト云フ者ガ其職ヲ甘ンジナイカ分ラヌト云フ事ニナリマス、何ゼナレバ理事ガ解散ノ原因年月日ノ登記ヲスルト同時ニ他ニ出來タ淸算人ト云フ者迄登記ヲスルコトニナルト云フト或ハ淸算人ガ其任ニ當ルコトヲ好マヌト云フヤウナコトモアラウト思ヒマス、然ウ云フヤウナ恐レモアリマスカラ、解散後ノ登記ト云フモノヲ理事ノ前來ノ事務引繼ギノ手續トシテ置ク以上ハ將來淸算人ノ任ニ當ル者ハ淸算人自ラ夫丈ケノコトヲ登記スルト云フコトニナルト事實重サナルヤウデハアリマスガ重サナラヌト思ヒマス、寧ロ梅君ノ今言ハレタヤウナ御說ニスレバ原案ヲ其儘一項トシテ置テ私ノ申シタヤウナコトヲ第二項ニ加ヘラレレバ宜シイト思ヒマス、斯樣ニナツタナラバ或ハ實際上完全デアラウト思ヒマスカラ只今ノ梅君ノ御忠告ニハ少シク隨從シ兼ネマスル
梅謙次郎君
今ノ磯部君ノ御心配ハ私ハ此通リデモ要ルマイト思ヒマス、淸算人ガ未ダ承諾シテナケレバ卽チ淸算人ハ定マリマセヌ、若シモ解散後七日内ニ淸算人ガ定マリマセヌケレバ法律ハ固ヨリ不能ノ事ヲ命ズルコトハアリマセヌカラ其時ハ不能デアルト云フ事ヲ登記スレバ宜シイカラ斯ウナツテ居ツタ所ガ差支ヘナイ、唯差支ヘルノハ先キニ磯部君ノ言ハレタヤウニ後トカラ變ツタ時デアル、併シ法律ト云フモノハ然ウ重箱ノ隅ヲ箆デほじくるヤウニ圓クナツテ居ラヌデモ實際ニ差支ヘナイコトニシテ置ケバ宜シイト思フ
末松謙澄君
只今ノ磯部君ノ御心配ニ對シテ若シ理事ガ出來ナイトキニハ法律ハ不能ノ事ヲ命ズルコトハナイカラ其不能ノ事ヲ登記スレバ宜シイト云フ御答ヘデアリマシタガ、然ウスレバ理事ハ出來マセヌカラ品物ガ揃ヒマセヌト言フデ辯解モ出來ル、然ウスレバ解散ノ方モ籠モルコトニナル夫レデ之ハ斯ウ云フヤウナ事ニハ出來ヌデゴザイマセウカ、理事ノ方ハ當リ前ノ時ハ屆ケル、ケレドモ此期限内ニ於テ理事ヲ定メ難イ場合ニ於テハ或ハ裁判所ノ認可ヲ受ケルトカ何ウトカ云フヤウナル風ニシテ後トデ屆出テモ宜シイト云フヤウナル風ニスル、併ナガラ夫レハ例ヘバ十四日ヲ超エルコトハ出來ヌトカ何ントカ云フヤウナル風ノ便法ヲ設ケルヤウニシテハ何ウデゴザイマセウカ、或ハ解散後七日内ニ後トノ人ガ會ヲシナケレバナラヌトカ、解散前ニ會ヲスル場合モアリマセウガ、併シナガラソコデ到底淸算人ガ定マラナイ、或ハ誰ニ頼マウト云フヤウナコトデアツテモ夫レハ往カヌト云フヤウナコトデ或ハ七日内ニ登記ガ出來ヌト云フヤウナ場合ガアルカモ知レナイ、夫レハ極稀レナ場合デゴザイマセウケレドモ其場合ニ登記ヲスルト云フ無理ガ生ジマセウカラ然ウ云フ事情ノアル時ハ少シハ遲レテモ宜シイト云フヤウナル風ニスル、但無期限ニシテ置クコトハ出來ヌト云フヤウナル風ニシテ置ク事ガ出來レバ大ニ都合ガ宜シイト思ヒマスル、其文章ハ出來マセヌガ、然ウ云フヤウナル風ノ思考デ組立テレバ宜シイト思ヒマス
奧田義人君
磯部君ノ言ハレル所モ至極御尤モト思ヒマスル、付テハ甚ダまづいデハアリマスケレドモ今ノ起草委員カラ出サレタ修正案ヲ先ヅ其儘ニ置キマシテ、第二項ニ「淸算中就職ノ淸算人アルトキハ其就職後七日内ニ前項ニ依リ氏名住所ノ登記及ヒ屆出ノ手續ヲ爲スコトヲ要ス」、斯ウ入レタナラバ或ハ磯部君ノ御趣意モ通ルデアラウト思ヒマス、少シ一項ト二項ト不釣合ノヤウデハアリマスケレドモ斯ウスルヨリ外ニ名案ハゴザイマセヌ
田部芳君
只今起草委員カラシテ修正案ガ提出セラレマシタガ、其修正案ニ依リマスルト云フト原案ニアリマシタル所ノ「破產ノ場合ヲ除ク外」ト云フコトハナイヤウデアリマスルガ、先程岸本君カラ「破產ノ場合ヲ除ク外」ト云フコトヲ削ルト云フヤウナ案ノ出タ時ニハ起草委員ハ大層反對セラレタニモ拘ハラズ只今提出セラレタ文ニハ夫レヲ省カレテアツテ其理由ニ至ツテハ少シモ御說明ニナラヌデアリマシタガ、一寸其理由ノ所ヲ承リタイト思ヒマス
穗積陳重君
夫レハ前ニ一寸申シテ置キマシタ、之ハ淸算人ガ登記ヲ受ケマスル場合ニハ破產ノ場合ト云フモノヲ除外スルノ必要ガアリマスルガ、理事ガ理事ノ職務ノ一番仕舞ヒノ仕事ト致シテ登記スル場合ニ於テハ其後トハ淸算人ニ移リマセウガ管財人ニ移リマセウガソコハ同ジ事デアリマス、夫故ニ理事ノ職務トシテ解散後登記スル時ニハ破產ニ依テ解散ヲシヤウガ他ノ原因ニ依テ解散ヲシヤウガソコニ區別ハナイ、理事ノ職務トスレバ破產ノ場合デアル淸算ノ場合デアルト云フ區別ハナイ夫故ニ「破產ノ場合ヲ除ク外」ト云フ事ハ先キニ梅君ノ議論モアリマシタガ、尙ホ考ヘテ之ハ存セヌコトニシマシタ、夫故ニ此處ニハ除イタ譯デアリマスル
磯部四郎君
甚ダ恐レ入リマスルガ、到底此文ハ錯雜シテ居リマスルカラ何レ起草委員イ方々ノ勞ヲ煩ハサナケレバナラヌガ、兎ニ角此文ニ付テハ卽チ淸算人ハ後ニ就職シヤウガ兎ニ角就職シタ淸算人ハ必ズ登記スルヤウナ意味合ヒデ、然ウシテ解散ノ原因年月日ハ理事ナラ理事ガ登記ヲスル、屆出ヲ爲スト云フヤウナ意味合ヒノ文章ヲ作ツテ貰ヒタイト云フ、斯ウ云フ趣意ノ注文丈ケノ所ヲ一ツ表決ニ御問ヒ下サレテ其案ヲ次回迄ニ御提出ヲシテ貰ウコトニシテハ何ウデアラウカト云フ御採決ヲ望ミマス
岸本辰雄君
贊成
穗積陳重君
私モ至極只今ノ磯部君ノヤウナコトヲ望ミマスガ、夫レニ付テ私ガ願ヒタイト思ヒマスルノハ理事ハ登記丈ケヲ受ケ夫レカラ總テ淸算人ノ氏名住所ト云フヤウナモノハ淸算人ニ登記ヲサセル、斯ウ云フ主義ヲ採ルカ、又ハ解散後淸算中ニ就職スルト云フヤウナコトガアツタナラバ其場合ハ七日内ニ登記サセルト云フコトヲ第二項ニ入レルト云フ主義ヲ採ルカ、此二ツヲ別ケテ御採決ヲ願ツテハ如何デアラウカト思ヒマスル、夫レデ何ゼ夫レヲ願ヒマスルカト申シマスレバ、若シ磯部君ガ後ニ申サレタルヤウニ淸算人ノ登記ト理事ノ登記トヲ判然區別シテ仕舞ウト云フ譯ニナリマスレバ理事ノ登記ハ前ニ持テ往ク場所ガアル、然ウナリマスレバ尙ホ二項ニセズシテ別條ニ置ク方ガ私ハ宜シイト思フノデアリマス、夫レハ卽チ第七十一條デアリマスルガ、七十一條ノ後トヘ理事ノ方ノ解散ノ原因ヲ持テ往ツテ然ウシテ淸算人ノ就職云云ノ事ヲ此處ニ存シテ置クト云フ適當ナ場所ガアラウト思ヒマス、今ノ二ツノコトヲ何レカニ決セラレマスレバ文章ノ方ハ出來ヤウト思ヒマス
田部芳君
只今穗積君ノ御說明ガアリマシタケレドモ私ハ了解シマセヌ、何ゼナレバ只今淸算人ト原案ニアツタノヲ理事ト替ヘタナラバ「破產ノ場合ヲ除ク外」ト云フコトハ要ラヌヤウニナルト云フコトデアリマシタガ、主査會ノ場合デハ破產ノ場合ハ除イタ何ゼ除イタカト云フト破產ノ方ノ場合ハ破產法デ別ニ考究ヲスルカラ必要ガナイト云フ事デアリマシタガ、然ウ云フ意味デアルト淸算人トアルノヲ理事ト替ヘテモ分カラヌト思ヒマスガ、若シモ破產法ヲ改正スルト云フコトデアリマスレバ了解シマスガ、只今ノ穗積君ノ御說明デハ何ウモマダ了解シ兼ネマスルカラ尙ホ一應御說明ヲ願ヒタイ
奧田義人君
私ハ先刻修正案ヲ出シマシタケレドモ少シクまづくアリマスカラ更ニ修正案ヲ提出致シマス、第二項ニ於テ斯ウ云フ法文ヲ入レタラ宜カラウト思ヒマス、「淸算中就職ヲ爲シタル淸算人ハ就職後七日内ニ其氏名住所ノ登記ヲ受ケ之ヲ主務官廳ニ屆出ツルコトヲ要ス」、斯ウ云フ風ノ文章ヲ更ニ出シマス
本野一郎君
贊成致シマス
假議長(箕作麟祥君)
奧田君ニ御尋ネシマスガ、あなたノ今ノ案デハ第一項ハ只今ノ起草委員カラ出タ修正案通リデアリマスカ
奧田義人君
左樣デアリマス、第二項丈ケヲ只今ノヤウナ風ニシタイノデアリマス
三浦安君
私ハ之ハ何ウシテモ宜イ加減ニ極メテ延期シテモウ一遍起草者ヲ煩ス方ガ一番宜カラウト思ヒマス、夫レデ其中デ先刻末松君ノ言ハンタノガ宜シイト思ヒマスガ、七日内ニト云フト窮屈デアルカラ或ハ七日後ニナツテモ宜イト云フコトデアリマシタガ、此處ハ解散ニナツテカラ七日後ニ延ベルト云フコトハ惡ルイト思ヒマスカラ然ウ云フ意味ハ這入ラヌヤウニシタイト云フコトヲ陳ベテ置キマス
穗積陳重君
田部君カラシテ再應私ノ說明ガ分カラナイカラシテ夫レヲモウ一遍說明セヨト云フコトデアリマシタガ
長谷川喬君
夫レハ說明ヲ要セヌコトニシテハ何ウデゴザイマセウカ
高木豐三君
夫レハ止メテ貰イタイ
穗積陳重君
夫レデハ私ハ諸君ニ願ヒマスルガ說明ヲ要セヌト云フヤウナコトハ今後御質問ニナラヌヤウニ願ツテ置キマス
假議長(箕作麟祥君)
夫レデ何ウニカ決シナケレバナリマセヌガ今ノ穗積君ノハ二ツノ案ノ内どつちカニ大體ヲ極メテ貰ヒタイト云フノデアリマスカ
穗積陳重君
修正案ガ出テ居リマスカラ何ウゾ夫レヲ御採決ヲ望ミマス
高木豐三君
私ノ延期說ニ贊成モアリマスカラ此方カラ先キニ望ミマス
假議長(箕作麟祥君)
夫レデハ特別建議デアリマスカラ延期說ノ方カラ先キニ採リマセウカ
穗積八束君
修正說ノ方カラ先キニ御採リニナツタラ何ウデアリマスカ
假議長(箕作麟祥君)
奧田君ノ說カラ先キニ採リマセウカ
本野一郎君
第一起草者ノ修正說ガアリマス
奧田義人君
何ウデゴザイマセウカ、今ノ「淸算中就職ヲ爲シタル淸算人ハ就職後七日内ニ其氏名住所ノ登記ヲ受ケ之ヲ主務官廳ニ屆出ツルコトヲ要ス」ト云フヤウナ文章ヲ二項ニ入レテハ不都合デゴザイマセウカ、起草委員ノ方デハ如何デゴザイマセウ
穗積陳重君
御答ヘ致シマス、固ヨリ不都合トハ私共少シモ思ヒマセヌガ前ノ御注文ニナイ、且前カラノ磯部君ノ御注文モ尤モト思ヒマスルカラヽヽヽヽヽ
奧田義人君
夫レナラバ大抵ニシテ斯ンナ所デ御極メニナツタラ何ウデゴザイマセウカ
尾崎三良君
先刻奧田君カラ修正說ガ出マシタガ、何ウモ之ニハ贊成スル譯ニハ往キマセヌあの修正說ノ通リニナルト理事ガ七日内ニ解散ヲ屆ケテ夫レカラ淸算人ノ氏名住所ヲ屆ケナケレバナラヌ、若シ其七日内ニ淸算人ガ極マラヌ時ハ何ウスルト云フ事ハ矢張リ拔ケテ居ルヤウニ思ヒマス
奧田義人君
假淸算人ニスル
尾崎三良君
假淸算人ガ出來レバ宜イガ夫レガ出來ヌト思ヒマス、夫レデ斯ウ論ジテモ中々盡キマセヌカラ、之ハ矢張リ先刻穗積君カラ述ベラレタル通リニ極メテ置イテ後トデ何ントカ文章ヲ拵エテ貰ウ、斯ウ云フ事ニシタ方ガ宜カラウト思フ
(贊成ト呼ブ者アリ)
本野一郎君
若シ修正案ガ通リマセヌケレバヽヽヽヽヽヽ
梅謙次郎君
其時ハ本條デスナ
假議長(箕作麟祥君)
夫レデハ奧田君ノ修正案卽チ第一項ノ方ハ起草委員ノ修正案通リニスルト云フノデアリマスカラ起草委員ノ方カラ採ルコトニシマセウ
梅謙次郎君
一緒ニ御採リニナツタラ何ウデゴザイマセウ
假議長(箕作麟祥君)
夫レデハ第一項ハ起草委員ノ修正說第二項ハ奧田君ノ修正說、此二ツヲ併セテ採ツテモ宜シウゴザイマスカ
梅謙次郎君
宜シウゴザイマス
假議長(箕作麟祥君)
夫レデハ只今諸君ノ御聽キノ通リノ次第デアリマスカラ、第一項ハ起草委員ノ修正ノ通リ、第二項ハ奧田君ノ修正通リ、此二ツヲ一緒ニシテ之ニ贊成ノ諸君ノ起立ヲ請ヒマス
起立者少數
假議長(箕作麟祥君)
少數デアリマス、然ウスルト奧田君ノ修正說ハ少數デ消滅致シマシタカラ今度ハ特別建議案許リデアリマセウ
穗積八束君
建議案ガ潰レタラ何ウデアリマスカ
(此時「原案許リ」ト呼ブ者アリ)
假議長(箕作麟祥君)
夫レデハ此次ハ高木君イ建議イ說デ延期スルト云フ說、其意趣ハ先程ノ御趣意デアリマスカ
本野一郎君
趣意ハ其通リデアリマセウ
穗積陳重君
唯ノ延期デハ私共甚ダ困マリマス、夫レデ高木君ト協議シテ第一ニ其主義ヲ極メルヤウニ御願ヒ申シタイト思ヒマス
假議長(箕作麟祥君)
主義ハ極マツテ居リマセウ
穗積陳重君
主義ハ極マツテ居リマセヌ、第二項ニ始メ磯部君ノ言ハレタヤウナ事ヲ加ヘルカ或ハ理事ノ登記ト淸算人ノ登記トヲ全然別ケテ仕舞ウカト云フ主義ガ極マツテ居リマセヌ
三浦安君
別ケテスルコトニ極マツテ居ル
梅謙次郎君
極マツテ居リマセヌ
穗積陳重君
高木君ニ御協議ヲシタイノハ何ントカ其主義ヲ極メテ延期ヲスルト云フコトニ御協議ヲ致シタイ、唯名案ヲ出セト云フ主義デハ御免ヲ蒙リマス
末松謙澄君
理事ガ直チニ淸算人トナツタ場合、然ウ云フヤウナ場合ハ一緒ニシテモ差支ヘナイカラ然ウ云フ時ニハ一緒ニシテ宜シイト云フヤウナ意味ヲ加ヘサヘスレバ宜シイ、其趣旨デ往カウト云フノデアル
高木豐三君
私ノ趣旨ト云フノハ詰リ原案ガ一番宜シイト思フ、夫レハ何ゼナレバ理事ノ事ヲ書クナラバ理事ノ所ニ持テ往ツテ貰ヒタイ、此處ハ淸算人ノ事ヲ言フノダカラ淸算人丈ケノ事ヲ書テ貰ヒタイ、然ルニ解散後就職シタノハ何ウデアルカト云フ論モ出テ、併シ解散ガ表面ニ立タナケレバナラヌト云フ所カラ悶着ガ起ツテ來タノデアリマス、之ハ起草者自ラ其注文ヲ御聞キニナラヌデモ分カラウト思ヒマス、書キ方ニ付テハあなたがたニ全權ヲ御委ネ申シタイ、唯夫レ丈ケノ趣意ヲ何處カニ入レル、私ハ成ルベク淸算人ヲ表面ニ出シタイト思ヒマス
穗積陳重君
此位大勢寄ツテ之ニ付テ色々其利害得失ヲ審議ノ末何ウ云フ方針ガ宜イト云フコトハ大抵分カリサウナモノデアラウト思ヒマス、其方針ノ事丈ケハ是非御極メヲ願ヒマセヌト吾々三人ガ宜イト思フテ出シテモ、之ハ屡々アルコトデアリマスガ中々諸君ノ御氣ニ入ラヌデ再ビ斯ノ如ク紛議ヲ起スコトモアルカモ知レマセヌカラちやんと斯ノ如ク判然タルコトデ今ノ一番舊トノ原案ニ是丈ケ補フ方ガ宜イトカ、或ハ登記ノ區域ト云フモノヲ二ツニ分立サセルトカ、又ハ本體丈ケハ略ボ原案ノ如クニシテ置テ夫レカラ淸算中ニ就職シタ時ノ事ヲ入レルト云フノト、どつちニシテモ二ツニ一ツデアリマスカラどつちカノ主義丈ケヲ御極メニナリマセヌト、折角吾々ガ起草シテモ無駄ニ時間ヲ費スヤウナコトニナリマスカラ何ウカ其主義ヲ御極メヲ願ヒタイ
田部芳君
私ガ先程穗積君ニ質問ヲシマシタノハ決シテ意地ノ惡ルイコトヲ言フタノデハアリマセヌ、(此時高木委員「議長御差止メヲ願ヒマス」ト呼ブ)發言權ヲ得テ居リマス、決シテ意地ノ惡ルイコトヲ言フタノデハアリマセヌ、唯「破產ノ場合ヲ除ク外」ト云フコトガアルトナイトニ依テ、若シ夫レヲ替ヘラレルナラバ何ウ云フ主義ニ依テ替ヘラレルト云フコトヲはつきり極メテ置カヌト、之カラ修正ヲスルニ付テモ多少關係ガアラウト思ヒマスカラ、其邊ノ所ヲ能ク明瞭ニシテ置カヌト法文ヲ改正スルニ付テモ不都合デアルト云フ懸念カラシテ質問ヲシタ譯デアリマス、決シテ私ガ意地ノ惡ルイ事ヲ言フガ爲メニ言ツタノデハアリマセヌ、夫レヲ諸君ガ惡シク思ハレルノハ甚ダ間違ツテ居ル、若シモ諸君ガ斯ウ云フ譯デアルカラト云フ事デ明瞭ニ決セラレマスレバ夫レデ宜シイガ其點ガ分カリマセヌト困マリマスカラ一應述ベテ置キマス
尾崎三良君
私ハ之ヲ延期スルコトニ付テハはつきり分カツテ居ルノデアリマス、分カツタ事ヲ申シマス、之ハ何ウシテモ解散ト云フモノハ縱令淸算人ガ極マツテモ極マラヌデモ之ヲ世ノ中ニ早ク知ラセルノガ肝要デアルト云フ御說デアリマスガ、夫レハ御尤モデアル左スレバ淸算人ガ承ケ繼グカ知レヌト云フ事ヲ極メテ置クヨリ理事ト云フ者ハヽヽヽヽ修正ニナツタト思ヒマスガ、矢張リ淸算人ト云フ者ガ突然出テ居リマスカラ紛議ガ起ルノデアリマス、私ノ說ハ解散ヲ屆ケルノハ理事ガスル、淸算ノ事ヲ登記スルコトハ淸算人ガスル、斯ウ判然シテ置ケバ其淸算人ハ最初ノ淸算人デアラウガ中途ノ淸算人デアラウガ左程不明瞭ナ事ハナイト思ヒマス
奧田義人君
只今ハ之ヲ延期スルニ付テ其大體ノ主義ヲ極メルニ付テノ議論デアリマスカ
假議長(箕作麟祥君)
然ウデアリマス
奧田義人君
然ウナレバ延期スルナラバ延期スルト云フコトニ極メテデナケレバ甚ダ分カラナイ
高木豐三君
之ハ起草委員ノ御方ニ願ウノデアリマス、成程起草委員ノ方々カラシテ金玉ノ案ヲ出サレテモ成立タヌノデ御氣分ガ惡イデハアリマセウガ、こちらノ方デモ原案ニ打勝ツベキ程ノ考ヘガナイカラ御頼ミスルノデアリマス、夫レデ之ハ其趣意モ大抵分カツテ居リマセウカラ、何ウカ之ハ六ケ敷イコトヲ言ハレズニ然ウ云フ事ニ望ミマス
奧田義人君
私ハ今本案ニ付テ修正案ヲ出シテモ差支ヘナイト思ヒマスルガ宜シウゴザイマスカ
假議長(箕作麟祥君)
宜シウゴザイマス
奧田義人君
私ハ此七十六條ハ舊トノ案ニ返ヘシテ宜シイト思ヒマス、此處ヲ理事ト直サレタノデアリマスケレドモ必ズシモ理事ト直サヌデモ元ト理事ガ解散ニナツタ所ガ淸算人ニナルト云フ事ガ極マツテ居リマスルカラ、「淸算人ハ破產ノ場合ヲ除ク外解散後七日内ニ其氏名住所及ヒ解散ノ原因年月日ノ登記ヲ受ケ且右ノ事項ヲ主務官廳ニ屆出ツルコトヲ要ス」トシテ置テ第二項ニ私ガ先キニ申シマシタ法文ヲ加ヘタラ如何デアラウカト思ヒマスル
田部芳君
奧田君ノ說ニ大體丈ケ贊成シテ置キマス
穗積八束君
贊成
假議長(箕作麟祥君)
夫レデハ段々諸君ノ御說デ御明瞭ト思ヒマスルカラ只今奧田君カラ提出ニナツタ修正案ニ付テ決ヲ採ラウト思ヒマスル、奧田君ノ說ニ贊成ノ方ハ起立ヲ請ヒマス
起立者多數
假議長(箕作麟祥君)
多數デアリマス
穗積八束君
奧田君ノ第二項ノ修正案ヲモウ一遍朗讀ヲ願ヒマス
奧田義人君
第二項ハ「淸算中就職シタル淸算人ハ就職後七日内ニ前項ニ依リ其氏名住所ノ登記ヲ受ケ之ヲ主務官廳ニ屆出ツルコトヲ要ス」ト云フノデアリマス、文章ハ後トデ御直ホシ下サツテモ宜シウゴザイマスガ之デ分カラウト思ヒマス
穗積陳重君
一寸奧田君ニ御尋ネ致シマスルガ、只今ノハ勿論贊成ヲシマシタガ唯文字デアリマス、第二項ニハ「之ハ主務官廳ニ屆出ツルコトヲ要ス」トシテ第一項ニハ「主務官廳ニ屆出ツルコトヲ要ス」ト云フ事丈ケニナツテ居ツテ「之ヲ」ガナクナルノデアリマスカ
奧田義人君
第二項ノ方ハ「淸算中就職シタル淸算人ハ就職後七日内ニ前項ニ依リ其氏名住所ノ登記及ヒ屆出ノ手續ヲ爲スコトヲ要ス」ト云フコトニシマセウ
本野一郎君
之ハ斯ウシテ置カウデハアリマセヌカ、斯ウシテ置テ整理ノ時ニ於テ此意味デ後トカラあなたノ方カラモウ一遍持出シテ貰ウト云フ事ニシテ置イタラ宜シイデハアリマセヌカ、意味ハ夫レデ分カツテ居ル
磯部四郎君
私ハ緊急動議ガアリマス、夫レハ申ス迄モナク本會ノ議決ト云フモノハ詰リ確定議ト云フモノデアリマセウ、記録ニモ必ズ殘リマセウシ、然ウシテ又條ヲ作ルニ隨分重要ナル問題モ續續出マスルシ、シマスル際ニ當ツテ只今ノ多數決ノ如キハ僅カ九名或ハ十名ノ人デ多數決ニナリマスルト委員總體ニ取ルト四分一ニモ足リマセヌ所ノ多數決デアリマス、夫レデ今日ハ之デ宜シウゴザイマスルガ、他日此法律案ヲ議會ヘデモ提出スル時ニ至ツテハ甚ダ其價値ガ少ナイヤウナコトニナリマスカラ、議事ノ進行ハ只管願フ所デゴザイマスルケレドモガ、相成ルベクハ此以下ニモ種々困難ナ問題モゴザイマスルカラ、今一會更ラニ御開キニナラヌケレバ到底今晩ノ中ニ議決セラレヤウトモ思ヒマセヌ、且今晩ハ追々御歸リニナル御方モアリマスルカラ私ハ此議事ノ進行ヲ望ムト同時ニ又議決ノ最モ他日ニ勢力ヲ得ルヤウニ愼重ヲ要スルコトト思ヒマスカラ本日ハ先程カラ申シマシタル通リニ總裁副總裁共ニ出ラレマセヌシ且出席員モ誠ニ少數デアリマスルカラ、旁々以テ今晩ハ之デ閉會ヲ告ゲラレテ然ウシテ尙ホ次ノ總會ニ於テ只今ノ案ニ付テ整理シタ所ノ誠ニ意味明瞭ナル文章ヲ見ルヤウニシテ、然ウシテ此全文ヲ了ツタ方ガ大變ニ議事ニ重キヲ加ヘテ鄭重ニナルコトニナリマスルカラ、從テ他日之ガ施行ノ際ニ當テ餘程勢力ヲ得ルコトニナルト思ヒマスル、夫レデ今日ハ何ウカ閉會アランコトヲ諸君ノ御議決ニ付セラレンコトヲ建議致シマス
本野一郎君
不贊成
岸本辰雄君
私ハ磯部君ノ建議ニ贊成シマス
假議長(箕作麟祥君)
磯部君ニ御尋ネ致シマスガあなたノ御意見デハ只今ノ七十六條ハ大體ハ奧田君ノ修正通リニ決シテ置イテト云フノデアリマスルカ
磯部四郎君
左樣デアリマス
假議長(箕作麟祥君)
文字ハ起草委員ノ方デ相談ガアルカ知レヌガ、大體ハ之ニ決シテ置テ七十八條以下ヲ延バスト云フ御意見デアリマスカ
磯部四郎君
左樣デアリマス
假議長(箕作麟祥君)
夫レデハ只今磯部君ノ御說ハ岸本君ノ贊成ガアリマシタカラヽヽヽヽヽ
尾崎三良君
磯部君ノ御說ニ付テ意見ヲ述ベマスガ、成程磯部君ノ御說モ御尤モデハアリマスルガ併ナガラ折角斯ウ寄ツタノデアリマスカラモウ少シヤリタイト思ヒマス、ト云フモノハ此先キノ罰則ヤ何カモ隨分議論ガアラウト思ヒマス、ソコヲ折衷シテモウ後ト二箇條位ヤリタイト思ヒマス
中村元嘉君
贊成
本野一郎君
贊成
高木豐三君
私ハ延期說ニ贊成シテハナラヌ身分カハ知リマセヌガ贊成スル者デアリマス、ト云フモノハ如何ニモ人數ガ少ナイヤウデアリマスカラ今日ハ是デ閉會ヲ希望スルノデアリマス
假議長(箕作麟祥君)
兎ニ角磯部君ノ延期說ニ付テ決ヲ採リマス、是ニ御同意ノ方ハ起立ヲ請ヒマス
起立者少數
假議長(箕作麟祥君)
少數デアリマス、夫レデハ次ノ七十八條ニ移リマス
退席三浦安君
(書記朗讀)
第七十八條 淸算人ハ其就職ノ日ヨリ六十日内ニ少クトモ三回ノ公告ヲ以テ債權者ニ對シ一定ノ期間内ニ其請求ノ申出ヲ爲スヘキ旨ヲ催告スルコトヲ要ス但其期間ハ六十日ヲ下ルコトヲ得ス
前項ノ公告ニハ債權者期間内ニ申出ヲ爲ササルトキハ其債權ハ淸算ヨリ除斥セラルル旨ヲ附記スヘシ然レトモ淸算人ハ知レタル債權者ヲ除斥スルコトヲ得ス
淸算人ハ知レタル債權者ニハ各別ニ其申出ヲ催告スルコトヲ要ス
磯部四郎君
之ハモウ普通ノ手續デアリマスカラ贊成シマス
本野一郎君
異議ナシ
假議長(箕作麟祥君)
本條ニ付テ別ニ御意見ガナケレバ可決ト認メテ次ノ條ニ移リマス
(書記朗讀)
第七十九條 前條ノ期間後ニ申出テタル債權者ハ法人ノ債務ヲ濟了シタル後未タ歸屬權利者ニ引渡ササル財產ニ對シテノミ請求ヲ爲スコトヲ得
磯部四郎君
一寸伺ヒマスガ、此歸屬權利者ト云フノハどれヲ指シタノデアリマセウカ、或ハ上ノ此寄附行爲ニ依テ分配ヲ受ケル者トカ何ントカ云フ者ヲ指シタノデアリマセウカ
穗積陳重君
殘餘財產ノ分割ヲ受ケマスル者ノ積リデアリマス、分割ト申シマシタガ殘餘財產ヲ受ケマス者デアリマス
磯部四郎君
夫レデハ一寸伺ヒマスガ、成程此淸算人抔ハ止シテ仕舞ウノデゴザイマセウガ、斯ウナツタ以上ハ法人ニ對スル債權者ト云フ者ハ歸屬權利者其人ニ係ツテ請求スル權利ガアリマセウカ、如何デゴザイマセウ
穗積陳重君
「未タ歸屬權利者ニ引渡ササル財產ニ對シテノミ」デアリマスカラ
磯部四郎君
法律ノ精神ヲ聞キタイノデアリマス、斯ウナツタ以上ハ債權者ガ其引渡シヲ受ケタ歸屬權利者其人ニ對シテ請求ノ權ヲ持ツカ否ヤト云フ事ヲ伺ヒタイ
穗積陳重君
夫レハ歸屬權利者ニ係ツテ債權ヲ請求スルト云フコトハ出來ヌノデアリマス
磯部四郎君
ト申シマスル理由ハ
穗積陳重君
其理由ハ文字ニ現ハレテ居リマス、「未タ歸屬權利者ニ引渡ササル財產ニ對シテノミ」トアリマスルカラ、已ニ引渡シタモノナラバ最早請求スルコトハ出來マセヌ、卽チ淸算人ガ未ダ殘餘財產ヲ引渡シマセヌ間ハ矢張リ淸算人ニ對シテ請求スルコトガ出來ルト云フ意味デアリマス
磯部四郎君
意味ハ分カリマシタガ、然ウスルト斯ウ云フ次第柄デアリマセウカ、卽チ此歸屬權利者ニ引渡シタル以上ハ其法人ニ對スル債權ト云フモノハ全ク消滅スルト云フ意味デアリマセウカ
穗積陳重君
夫レハ固ヨリ此處ニ消滅スルトハ書イテアリマセヌガ、實際ニ於テハモウ其債權ヲ行用スルコトハ出來ナクナルノデアリマスカラシテ、卽チ行用ノ出來ナイ債權ト云フコトデ法理上カラ見タラ消滅スルモノデアラウト思ヒマス
磯部四郎君
事實然ウナルノデゴザイマセウカ
穗積陳重君
事實モ然ウナル、法理上モ然ウナラウト思ヒマス
磯部四郎君
モウ一ツ伺ヒマス、固ヨリあなたがたノ御考ヘヲ疑ツテ御尋ネシマスル譯デハアリマセヌガ、實際然ウ云フ先例ガアラバ尙ホ以テ確メラレル譯デアリマスルガ、卽チ法人ノ財產ヲ分割シタ後ニハ其分割ヲ受ケタ者ニ係ツテ法人ニ對スル債權者ガ辨濟ヲ請求スル權利ガナイト云フヤウナ先例ノ法文カ何カアリマセウカ如何デゴザイマセウ
穗積陳重君
夫レハ私ハ能ク知リマセヌガ、此處ニ參照致シマシタノハ唯一箇條切リナノデアリマス
磯部四郎君
夫レハ何處デアリマスカ
穗積陳重君
夫レハ日本ノ商法第二百四十五條
磯部四郎君
日本ノ商法、之ハ何ウモ餘程奇怪ナ事ト思フ
梅謙次郎君
奇怪デハナイ
磯部四郎君
奇怪デアル、何ゼナラバ詰リ歸屬權利者ト云フ者ハ謂ハバ其法人ノ相續人デアル、併ナガラ夫レハ別段修正案ト云フ譯デモアリマセヌガ、何處カ別段ニ法律ヲ置カナケレバナラヌガ意味丈ケハ分カリマシタ
田部芳君
先程質問ヲ致シマシタ、其質問ハ此場所ニ於テシテ宜シイモノカ、或ハ次ノ箇條ニ於テ致シテ宜シイモノカ少シク疑ヒガアリマスガ、兎ニ角今言フテモ遲クナイト思ヒマスルカラ只今質問ヲシテ置キマス、夫レハ外ノ事デモアリマセヌガ、此淸算ノ結了シタ時ニハ其結了シタト云フ事ハ登記シナイモノデアル、詰リ登記シナイト云フ事ノヤウニ法文上デハ見エル、夫レハどこニモ登記ヲスルト云フコトハナイカラ、夫レニ依テ考ヘルト登記ハ要シナイト云フ事デモアラウカト考ヘルガ、若シ登記ヲ要シナイモノトスルナラバ如何ナル理由デ之ヲ要シナイノデアラウカ、ソコヲ伺ヒタイ、此前ニ議決ニナリマシタ法文ニ據リマスルト云フト、淸算中ニハ淸算ノ目的ノ範圍内ニ於テハ其法人ハ矢張リ存續スルモノト看做スト云フコトニナツテ居リマスルガ、旣ニ然ウ云フ事ニ看做シテモガ法人ト云フモノハ法人ニ付テノ淸算ト云フモノガ始マツタト云フ事ノ登記ヲスルナラバ其了ツタト云フ事モ登記スルノガ必要デアリハシナイカト思ヒマスル、縱シ登記ヲシナイトシテモ其淸算ノ結果ハ主務官廳ニ屆出ヅル位ノコトハ必要デハナイカトモ思ヒマスルカラシテ、此點ニ付テ御說明ヲ仰ギタイト思ヒマス
穗積陳重君
然ウ云フ風ナ御質問ハ前ニモ出タト思ヒマスルガ、御見解ノ通リ、此處ハ勿論淸算ガ結了シタナラバ夫レヲ登記セヨト云フコトハナイノデアリマスカラ其方ノ登記ト云フモノハ固ヨリ本條ニ付テハ要ラヌ事デアル、斯ウ私共ハ見マシタノデアリマス、併シ之レガ要ル要ラヌト云フコトハ御質問ガアリマシテ夫レニ付テ色々議論ガアツテ是非之ハ要ルト云フ事ノ御考ヘデアリマスレバ何ウゾ其修正案ノ御提出ヲ願ヒタイ、斯ノ如キ利害得失ヤ何カノ事ニ付テ御答ヘヲスルト、又其言ヒ方ガ惡ルイトカ云フヤウナ種々ナ議論ガ出テ、然ウ云フ風ナ事ガ出ルト云フト長クナリマスルカラ、成ル可ク本條ヲ書キマシタ本條ノ意味抔ヲ主トシテ願ヒタイト思フノデゴザイマス、如何デゴザイマセウカ、尙ホ御異論ガアレバ申上ゲマス
田部芳君
尙ホ申マスルガ、私ノ考ヘデハ若シ起草者ニ於テ夫レガ要ラヌト云フ事ナラバ如何ニモ其要ラヌト云フ理由ガ御尤モト思ヘバ私モ別ニ修正案ヲ提出シナイカモ知レマセヌガ、若シ其理由ヲ御尤モト思ハナイ時ニハ修正案ヲ出スカモ知レマセヌ、兎ニ角御考ヘノ上御起草ニナツタコトデゴザイマセウカラ、其御考ヘヲ伺ツタ上ニシタ方ガ宜シイト思ヒマスカラ伺ツタ譯デアリマス
穗積陳重君
夫レデハ止ムヲ得ズ要ラヌト云フ所ノ理由ヲ申上ゲマス、固ヨリ登記ノ目的ハ申ス迄モナク公衆ニ知ラシメルモノデアツテ、第三者ヲ保護シ、又一方ニ於テハ當事者ヲ保護スルト云フコトニナルカラデゴザイマス、夫故ニ淸算ノ事務ヲ始メマスルトカ解散デアルトカ又ハ淸算人ノ氏名住所等ノ事ハ之ヲ第三者ガ知リマセヌト大變不都合デアリマスカラ此方ハ登記ヲ要スルコトハ固ヨリ論ヲ俟チマセヌ、然ウシテ世間ガ一度夫レヲ知ツタナラバ夫レニ依テ其申出デノ期限ト云フモノモアリマスルシ、關係者盡ク其利害ヲ感ズルモノハ其登記デ略ボ盡サレテ居ラウト思ヒマス、會社ガナクナツタト云フ事ガ分カリサヘスレバ其ナクナツタモノ又其淸算ノ事務モ濟ンダト云フコト迄モ是非登記ヲシナケレバナラヌト云フコトハ必要モナイダラウト思ツテ此處ニハ載セナカツタノデアリマス、夫レデ若シモ或ハ淸算ガ結了シタト云フ事迄モ登記シテ第三者ニ知ラセナケレバナラヌト云フ必要ガアルト云フ事デアリマスレバ御修正ヲ願ヒタイノデアリマス
磯部四郎君
私ハ此七十九條ニ一ノ修正說ヲ出シマス、夫レハ此七十九條ノ終ニ但書ヲ加ヘタイ、其但書ニ「但歸屬權利者ニ對スル求償權ハ格別ナリトス」、斯ウ云フ但書ヲ一ツ願ヒタイ、ト申シマスルモノハ旣ニ此八十條ノ法文ト照合セテ見マスルト、例ヘバ此世ノ中ニ於テ訴訟ノ長ク繼續スルコトヲ中斷スルト云フ趣意カラ純然タル法理ニ依テ權利ノアルモノデアレバ甲ヨリ乙、乙ヨリ丙ト云フヤウニ訴訟ノ引續テ往クコトヲ嫌フガ爲メニ大抵ノ所デ切リヲ付ケテ仕舞ウト云フ立法官ノ專斷ナル權利ナルヤニ存ジテ居リマス、併ナガラ此法人ガ解散シテ先ヅ知レテ居ル債務ヲ辨償シテ殘ツタ金員ハ割付スル、其割付ヲ受ケタ權利者ト云フ者ハ要スルニ法人ノ相續人デアラウト思ヒマス、就中前ニモ卽チ此歸屬權利者ト云フ者ガ國庫デアルト云フコトモアル、尤モ國庫ハ五ケ年ノ間デナケレバ償求ヲ受ケヌトカ云フヤウナ卽チ特別ノ期滿免除ヲ取ツテ居リマスル、ケレドモ兎ニ角國庫デアルカ又ハ其他ノ者デアリマスルガ、歸屬權利者ハ卽チ法人ノ財產ヲ引受ケタ人間其法人ノ財產ト云フモノヲ引受ケタ相續人ノアルニモ拘ハラズ唯六十日間ノ屆出デヲ怠ツタト云フ廉ヲ以テ自己ノ債權ガ全ク消滅シタモノトナルノハ之ハ財產ヲ承ケ繼イダル者ハ尙ホ前人ノ義務ヲ負擔スルト云フ原則ニモ少シク牴觸スルコトト思ヒマス、加之ナラズ後トノ條文ニ至ツテハ御講釋ヲ承リマセヌケレバ分カリマセヌガ、先ヅ私ノ見ル所ニ據レバ八十條ノ末項ニ依ルト、「債權者ニ支拂ヒ又ハ歸屬權利者ニ引渡シタルモノアルトキハ破產管財人ハ之ヲ取戻スコトヲ得」ト云フコトガアル、然ウスルト歸屬權利者ト云フ者ニ隨分淸算人ガ財產ヲ引渡シテ仕舞ウコトガアルカモ知レヌ、然ウデナケレバ次條ノ末項ノ如キ場合ガ出テ來ナイ、又此場合ハ歸屬權利者ノ方ニ財產ヲ引渡シテ仕舞ツテ其後ニ破產ノ原因ガ現ハレテ來テ其破產ニナツタ場合ヲ想像シテ末項ニ規定シテアルノデゴザイマセウ、シテ見ルト歸屬權利者ニ引渡シタ以上ハ夫レデ全ク法人ノ財產ニ對スル債權者ノ債權ガ盡キタト云フ御趣意モ採ツテ御出デニナラヌヤウデアル、然ルニ七十九條ノ法文ノミヲ見マスルト、歸屬權利者ニ財產ヲ引渡シタ以上ハ全ク法人ノ財產ニ對スル債權者ノ債權ガ消滅スルガ如クニモ見エル、ケレドモ八十條末項ヲ見ルト然ウデモナイ、又然ウデナイノミナラズ縱令八十條ノ法文ト七十九條ノ法文ト調和スルコトガ出來ルト見タ所ガ苟モ其法人ノ財產ヲ承ケ繼イダ相續人ガアルノニ其相續人ガ己レノ承ケ繼イダ財產ノ限度ニ於テ其法人ニ對スル義務ノ辨償ヲバ免レテ仕舞ウト云フ事ハ到底出來マスマイ、夫レデ私ハ七十九條ノ卽チ商法ノ二百四十五條ノ規定アルニモ拘ハラズ、兎ニ角法理トシテ見タ時ニハ私ノ前ニ申シマシタ但書ハ最モ必要デアリマセウカラ、先ヅ之ヲ引渡サザル以前ハ法人ニ係ツテハ勿論請求ハ出來ルケレドモ引渡シタ以上ハ最早法人ノ財產ハナクナツテ居ル、又淸算人ト云フ者モナクナツテ仕舞ウ譯デアルカラ、之ハ法人ニ係カルコトハ出來ヌト云フノハ分カツテ居リマスルガ、併シ歸屬權利者ニ引渡シタルモノノアル以上ハ其歸屬權利者ニ對シテ自分ノ債權ヲ主張セシムルノハ最モ相當ト思ヒマスルカラシテ文章ハ或ハ穩カデナイカモ知レヌガ、兎ニ角前ニ申シマシタ通リノ但書ヲ此處ニ追加セラレンコトヲ希望致シマス
田部芳君
私ハ此七十九條ノ次ニ持テ往ツテ一箇條ヲ挾ミ加ヘルコトガ必要ト思ヒマスカラシテ一ノ修正說ヲ提出致シマス、夫レハ斯ウ云フ風ニ致シタイ、「淸算事務結了シタルトキハ淸算人ハ主務官廳ニ淸算ノ結果ヲ屆出ツルコトヲ要ス」、斯ウ云フ條文デアリマス
假議長(箕作麟祥君)
豫メ被仰ルノハ宜シウゴザイマスガ、あなたノ御修正ハ此七十九條ニ付テノ修正デハナイノデアリマスカ
田部芳君
私ノ修正ハどこニ入レテモ宜シイガ、未ダ能ク分カラヌカラ豫メ申シテ置クノデアリマス
富井政章君
之ガ決シテ仕舞ツテ後ニシタラ宜カラウ
假議長(箕作麟祥君)
夫レガ宜カラウ
末松謙澄君
起草委員ニ御尋ネヲシマスガ、此七十九條ノ中ニ「法人ノ債務ヲ濟了シタル後」云々トアル、此條丈ケデ見レバ法人ノ債務ヲ濟マセタ後ニ債務ノアラウ譯ハ何ウシテモナイヤウニ聞エル、法人ノ債務ヲ濟了シタル後ニ要求スルト云フコトハ隨分可笑シイヤウニ聞エル、ケレドモ此箇條丈ケデ見タ時ニハ何ウシテモ前條ノ期間後ニ申出デタル債權者ハ前條ノ規定ニ依リテ期間内ニ申出デタル債權者ニ對スル法人ノ債務ヲ完濟シタル後ト云フ意味ニ何ウシテモナラナケレバナラヌト思フ、然ルニ斯ノ如ク御書キニナツタノハ何カナラバ前條ノ期間内ニ申出デザル者ニ付テハ其債權ハ淸算ヨリ除却セラルル所トナルカラシテ、旣ニ債權者ト見ナイカラ此文デモ差支ヘナイト云フ所カラ此文ガ出タノデアラウト思ヒマス、併シ其意味カラシテ言フタナラバ此通リニ書イタナラバ都合ガ宜イデハナイカ、依テ今ノ意味デアレバ體裁上此七十九條ハ次ニ言フガ如キ趣旨ニ至ラナケレバナラヌト思フ、卽チ前條ニ依リ除斥セラレタル債權者ト雖モ前條ノ期間内ニ申出デタル債權者ニ對シ債務ヲ濟了シタル後ニ尙ホ歸屬權利者ニ引渡サザル財產ガアルナラバ夫レニ對シテ請求ヲ許スゾト云フヤウナル風ノ意味ニ書カナイト何ウシテモ前ト合ハヌヤウナ感情ガアル、夫レデ私ハ此法文ハ此意味ニシテモ今ノヤウナ風ニ何ウカ修正ニナラヌカト云フ事ヲ一ツ起草委員ノ御考案ヲ請ヒタイノデアル、夫レカラ又次ニ至ツテ疑ヒヲ存シテ居ルノハ此條項ニ依ルト淸算ノ凡ソ時ト云フモノガ極マツテ居ラヌ、何時迄モ引ツ張ツテモ宜シイト云フヤウナル事ニナルヤウデモアル、夫レハ或ハ斯ウ云フ意味カモ知レヌ、場合ニ依テハ期限ヲ極メルト云フ事ハ甚ダ六ケ敷イ、夫故ニ此裁判所ニ監督權ガ與ヘテアルカラ時々催促デモシテモウ何ウカト云フヤウナ事デモ言ハセルト云フヤウナル事ニシテハ何ウカト云フヤウナル御考ヘデアリハシナイカト思フ、然ウスルト斯ウ云フ事ガ起リハシナイカ、其何ニシテ居ル者ガ一番終リノ何ニ迄待テ居ラナケレバナラヌ、何時迄モ待テ居ラナケレバナラヌト云フ事ガ生ジテ來ハシマスマイカ之ニ對シテ或ハ曰ク、八十條デ破產宣告ヲ爲スコトガ出來ル、斯ウ云フ議論ガ起ルカモ知レマセヌガ、其方ハ其債務ヲ完濟シ能ハザルコト分明ナル時デナケレバ宣告等ハ出來ナイ、然ル時ニハヽヽヽヽヽ這入ツテ來ル金ノ方ガ多イト云フ場合デアリマスレバ何時迄モ破產ヲ宣告スルコトガ出來ヌト云フ事ニナル、然ル時ニハ何時迄モ引張ツテ置カナケレバナラヌヤウナルコトガ出來ルト云フヤウニナルト思フ、然ウスルト之ニ對スル何カ制裁法デモ一ツ設ケテ置カナケレバナラヌデハナイカ、凡其狀況ヲ觀テ其期限ヲ定メルトカ何ントカ云フヤウナル風ニ或ハシテ置カナケレバ完全デハナイカト云フヤウナル風ノ考ヘモアル、今一ツハ淸算ト破產ト性質ハ違ウガ、併ナガラ破產ニスルノハ其債務ヲ完濟スルコトノ能ハザル場合ヨリ外破產ヲシナイト云フ原則ヲ立ツタ以上ハ隨分澤山ノ金ヲ長イ時ノ間掛ツテ取集メルト云フ事柄モアルデアラウ、然ル時ニハ之モ幾分カ破產ニ準ジタルヤウナル風ニシテ或ハ一年トカ或ハ六ケ月トカニ集ツタ金ヲ分配スルコトガ出來ルト云フヤウナル風ノ方法ヲ設ケテ置カナケレバ不都合デハアルマイカ、凡ソ淸算ト云フモノハ大抵ハ破產ニ準ジテ出來ルノデアリマスカラ然ウ云フヤウナル風ニスルト云フ必要ハアルマイカ、若シモ夫レガ出來ルト云フ事デアレバ此處ノ七十八條ト七十九條ニアル所ノ期間内ニ申出デナイ者ハ其債權ハ淸算中ヨリ除却セラルル、全ク除却スルト云フ事ノ必要ハナイト思ヒマスル、其必要ガナイトスレバ此七十九條ノ所ニ於テ期間内ニ申出ナイ債權者ハ將來分配セラルルモノ丈ケニ加ハルコトガ出來ルト云フヤウナル風ノ矢張リ分產法ノヤウナ風ニ立テテ往クコトガ必要デハアルマイカ、是等ノヤウナル事ハ唯一句ヲ修正スル丈ケデハ私ノ意思ヲ貫カヌ、之ヲ要スルニ此淸算法ハ餘リ簡略ニ過ギルデハナイカト云フヤウナル感ジガアルノデアル、此法人ナドニナルト隨分大キナモノニナルノデアル、殊ニ慈善ノ性質ノミトモ限リマセヌガ、何カ妙ナ會社トカ何ントカ云フヤウナル風ノ性質ノモノニハ長イ時ヲ以テ色々ナ金抔ヲ貸付ケテ置クモノガアル、夫等ノモノハ急ニ取上ゲルト損ヲシナケレバナラヌカラ長イ間時ヲ費シテ取上ゲナケレバナラヌト云フヤウナルモノガ法人ノ中ニハ隨分澤山出來テ來ヤウト思フノデアル、夫等ノモノニ應ズルニハ何ウモ是丈ケノ法文デハ不完全デハアルマイカト云フ考ヘガアルノデアル、故ニ此一條ヲ今斯ウ直サウト云フヤウナル修正ノ文案ヲ出スノデモアリマセヌガ、大體ニ於テ只今私ガ申シタヤウナ意思ヲ多少採ラルルト云フ事デアリマスレバ今一項デモ加ヘテモウ少シ完全ニシタイト云フヤウナル事ヲ御願ヒ申シタイヤウナル考ヘモアルノデアルガ、併ナガラ夫等ノ事ハモウ之デ充分デアルト云フ御考ヘデアレバ其事ノ御說明ヲ願ヒタイト思フノデアル
磯部四郎君
私ノ曩ニ修正シタノヲ斯ウ直シタイト思ヒマス、「前條ノ期間後ニ申出テタル債權者ハ法人ノ債務ヲ濟了シタル後未タ歸屬權利者ニ引渡シヲ爲ササル財產及ヒ殘餘財產ノ引渡シヲ受ケタル歸屬權利者ニ對シテノミ請求ヲ爲スコトヲ得」、卽チ此舊トノ法案ノ「引渡シヲ爲ササル財產」ト云フ次ニ「及ヒ」ト云フ字ヲ入レテ「及ヒ殘餘財產ノ引渡シヲ受ケタル歸屬權利者ニ對シテノミ請求ヲ爲スコトヲ得」、斯ウ云フ修正案ヲ提出致シマス
假議長(箕作麟祥君)
夫レデハ先キノ但書ハ御止メニナツタノデアリマスカ
磯部四郎君
但書ハ止メマシタ、上ハ舊トノ通リデアルガ、「引渡シヲ爲ササル財產」ト云フ下ヲ「及ヒ殘餘財產ノ引渡シヲ受ケタル歸屬權利者ニ對シテノミ請求ヲ爲スコトヲ得」ト云フノデアリマス
假議長(箕作麟祥君)
あなたノ修正デアリマスカラ決シテ妨ゲハ致シマセヌガ、財產ト財產ト二ツ重サナルノデアリマスカ
磯部四郎君
然ウデアリマス引渡サザル財產ニ對シテノミ及ビ殘餘財產ノ引渡シヲ受ケタル歸屬權利者ニ對シテノミト云フノデアリマス
假議長(箕作麟祥君)
然ウ讀メバ宜シイガ、其財產ト殘餘財產ト二ツニ讀メハシマセヌカ
磯部四郎君
財產ニ對シテノミ又歸屬權利者ニ對シテノミト云フノデアリマス
尾崎三良君
一寸磯部君ニ質問シタイ、其御答辯ニ依テ贊成ヲシヤウト思ヒマスガ、然ウ段々精密ニナツテ來ルト段々精密ニシテ置カナケレバナラヌト思ヒマスルガ、此法文ニハ「歸屬權利者ニ引渡ササル財產ニ對シテノミ」トナツテ居リマスガ、夫レヲ「殘餘財產ノ引渡シヲ受ケタル歸屬權利者ニ對シテノミ」ト云フコトニスルト、例ヘバ其歸屬シタル財產ガ百圓デアツテ其權利者ガ數人モアツタ時ニハ權利者ニ對シテト云フコトニナルトソコ迄進ンデ往キハシマセヌカ
梅謙次郎君
夫レハ勿論デアラウ
磯部四郎君
夫レハ書テナクモ分カル、私ノ言フ理窟ヲ一ツ聞イテ貰ヘバ分カル、夫レナラバ斯ウ致シマセウ、「財產ニ對シ及ヒ殘餘財產ノ引渡シヲ受ケタル歸屬權利者ニ對シ其引渡シヲ受ケタル財產ノ限度ニ於テ」トスレバ尙ホ分カリマス、兎ニ角財產ヲ承ケ繼イダ者ノアルノニ夫レニ向テ自分ノ債權ヲ主張スルコトガ出來ヌト云フヤウナ法理ハ聞イタコトハナイ、成程株式會社デ以テ數萬圓ノ財產ガアルトカ何ントカ云フヤウナモノハ徒ニ訴訟ヲ長ク繼續スルト云フヤウナコトハ宜シクナイト云フ事モ御座イマセウガ、僅カニ社團トカ或ハ寄附行爲デ成立ツテ居ル法人ノ如キモノデアレバ然ウ澤山ナ財產ノアルト云フ氣遣ヒモアリマスマイ、夫レノ殘餘財產デアルトカ或ハ夫レヲ承ケ繼イダ丈ケノ財產ニ向ツテ債權ヲ主張スルコトガ出來ヌト云フヤウナ法理ハ到底アリハシナイト思ヒマス
尾崎三良君
夫レハ分カツテ居リマスガ、前ノデハ債權ガ長ク往クヤウデアル
本野一郎君
法人ノ財產ノ存在スル限リハ誰ノ權利デヽヽヽヽヽヽ
磯部四郎君
夫レハ財產ト云フモノハ消滅シテ仕舞ウト云フモノデナイ、何處カニ在ルニ違ヒナイ、併ナガラ歸屬權利者トシテ承ケテ往ツタ者ニ向テヽヽヽヽヽヽ
穗積陳重君
先キニ末松君カラ大變大キナ質問ガ出マシタガ、矢張リ御答ヘヲ致ス必要ガアルノデ御座イマセウ、末松君ノ大體ノ御質問ト云フモノハ本案ノ如キ手續デハ淸算ノ事ヲ規定スルコトガ餘リ簡單ニ過ギハシナイカト云フコトノヤウニ歸スルヤウデアリマス、併ナガラ私共ノ見マスル所デハ淸算ト云フモノハ其手續ガ面倒ナモノデアツテ規定ニ至ツテハ甚ダ簡單ナモノデアラウト思フノデアリマス、卽チ前ニ載セマシタ三ツ丈ケノモノデアツテ、債權ノ處理抔ト云フ其仕方ニ付テハ六ケ敷イカモ知レマセヌガ、規定丈ケハ誠ニ簡單ナモノデアツテ是ヨリ尙ホ細カナ事ヲ書ケバ書ケマスケレドモ、併ナガラ徒ニ法文ノ煩雜ヲ來タスノミデアツテ是丈ケデ澤山デアラウト私共ハ考ヘマス、夫レガ大體ノ理由デアリマスガ、併ナガラ尙ホ斯ウ云フ所ガ足ラヌデハナイカト云フヤウナ事ヲ御指示下サレバ其時々ニ夫レハ色々考ヘテ見ナケレバナラヌガ、之デ完全デアルカナイカト云フコトハ自分デ固ヨリ斷言ハ出來マセヌガ、之ヨリ尙ホ細カニシナケレバ淸算ガ徃ケナイトモ思ヒマセヌ、夫レカラ本條ニアル「法人ノ債務ヲ濟了シタル後」トアルト云フト前ノト少シ合ハヌヤウニナルデハナイカ、卽チ其意味ハ法人ノ債務ニシテ前條ノ期間内ニ申出デタルモノ丈ケヲ濟了シタル後ト云フ意味デハナイカト云フコトデアリマスガ、夫レハ御見解ノ通リト御答ヲ致シマス、卽チ淸算ノ目的ノ爲メニ出タ債權債務ハ除斥シナイ積リデアリマスカラ之デ宜カラウト思ヒマス、夫レカラマダ細カイ御質問モアリマシタガ
高木豐三君
希望丈ケノヤウデアリマシタカラ夫レデ澤山デアリマセウ
穗積陳重君
夫レハ歸屬權利者ニ引渡シヲ致シマスルニハ何ウシテモ前ノ手續ヲ履ンデ債權ノ處理ト債務ノ處理ト云フモノヲ濟シマセネバ殘餘財產ノ引渡シト云フ手續ニハ往キマセヌ譯デアリマス、帳面ノ上デハ或ハ債權ノ方ガ多クテ債務ノ方ガ少ナイヤウニ見エテモ實際之ヲ請求スルト云フ上ニナツテ其取立ガ出來ヌヤウナ事ガアリマスカラシテ第七十七條ノ第二號ヲ終ツタ上デナケレバ本統ノ殘餘財產ノ引渡シバ出來ヌノデアリマスカラ、夫レデ或場合ニ於テハ大變長引ク事ガアルカモ知レマセヌガ夫レハ一向差支ヘナイト思ヒマス、何ゼナラバ其間ノ利息、卽チ法定ノ利息ノ如キモノハ矢張リ歸屬權利者ノ利益ニナルコトデアリマスカラ、其間ノ金ノ增殖シタリ何カシタリスルモノハ歸屬權利者ト云フ者ガ其益ヲ受ケルヤウニナルト思ヒマス、夫レカラ斯ノ如ク手間取ル場合ニ會社デアレバ分割、法人デアレバ其歸屬權利者ニ引渡スト云フヤウナ工合ニ時々時期ヲ切ツテ引渡スト云フヤウナ事ハ淸算人ガ充分ノ目的ガアレバ或ハ然ウ云フ事ヲシテモ後トデ不法ニナリサヘセヌケレバ夫レハ實際ハ構ハヌト思ヒマスガ、或場合ニ於テハ取戻サレルト云ウヤウナ卽チ次ノ條ノ如キ場合ガアリ得ルト思ヒマス、夫レカラ又淸算ノ期限ヲ極メナケレバナラヌト云フコトデアリマスガ、之ハ債權債務ノ處理ノ都合ニ依テ色々長イ短イガアルモノデアリマスカラシテ、之ハ何ウシテモ法律ニ依テ淸算ハ何ケ月ト云フヤウニ其期限ヲ極メルコトハ出來ヌト思ヒマスル、又夫レヲ極メタ事ノ例モ未ダ見タコトハナイノデアリマス、夫レデアリマスカラシテ何ウモ本條位ノ規定ヨリ外ニ仕方ガアルマイカト思フノデアリマス、尙ホ御答ヘ落シタコトガアルカモ知レマセヌガ若シ落シタナラバ更ニ御問ヒヲ願ヒマス
尾崎三良君
一寸起草者ニ質問致シタイガ、段々議論ヲ聞イテ考ヘテ見ルト疑點ガ生ジテ來マシタガ、「未タ歸屬權利者ニ引渡ササル財產ニ對シテノミ請求ヲ爲スコトヲ得」トアリマスルガ、此七十二條ヲ見レバ「歸屬權利者ヲ指定セサル場合ニ於テハ主務官廳ノ許可ヲ得テ法人ノ目的ト類似セル目的ノ爲メニ其財產ヲ處分スルコトヲ得」トアリ、又其次ニハ「國庫ニ歸屬ス」ト云フ事ガアリマスルガ、斯ウ云フ場合ニハ起草者ノ趣意ハ何ウナルノデアリマスカ、矢張リ歸屬權利者ニ渡シタモノト同ジヤウニ見ルト云フ御趣意デアリマスカ
穗積陳重君
左樣デアリマス、此七十二條第二項モ矢張リ一種ノ歸屬權利者ノ積リデアリマス
尾崎三良君
其目的ト類似セルモノニ其財產ヲ引渡シタト云フ場合
穗積陳重君
歸屬權利者ト看ル積リデアリマス、定款又ハ寄附行爲デ歸屬權利者ヲ指定セヌ時ニハ其次ノ人ニ遣ルコトガ出來マス、夫レモ矢張リ歸屬權利者ト看ル、夫レカラ終リニアル國庫モ矢張リ歸屬權利者ト看ル積リデアリマス
末松謙澄君
只今穗積君ノ御答ヘガアリマシタガ、私ハ未ダ其御答ヘデハ充分承服ハシマセヌ、併シ今斯ウシタラ宜カラウト云フ程ノ名案モゴザイマセヌカラシテ先ヅ其方ハ止メテ置キマス併シ此「法人ノ債務ヲ濟了シタル後」ト云フノハ誠ニ可笑シイ、如何トナレバ法人ノ債務ト云ヘバ其法人ガ負フテ居ル所ノ總テノ債務ヲ言フニ違ヒナイト思ヒマス、然ルニ此處ノ意味デハ然ウデナクテ法人ノ債務ノ或一部分トシカ見ラレマセヌ、然ル時ハ斯樣ニ「法人ノ債務ヲ濟了シタル後」云々ト云フテハ往ケヌノデアル、然ル時ニハ此處デハ「前條ノ債務ヲ濟了シタル後」ト云フヤウナル事ニナラナイト徃ケナイト思フ、夫レデ私ハ之ヲ「前條ノ期間後ニ申出タル債權者ハ前條ノ債務ヲ濟了シタル後未タ歸屬權利者ニ引渡ササル財產アルトキハ之ニ對シテ請求スルコトヲ得」ト云フ事ニシタイ、卽チ前條ノ債務ヲ濟了シタル後尙ホアレバ請求スルコトヲ得ルト云フヤウニシタイ、夫レデ「對シテノミ」ト云フヤウナル風ニハセヌ方ガ宜シイト思フ、而フシテ旣ニ法人ガ破レテモウ旣ニ後レテ仕舞ツタモノヲ斯ウ云フヤウナル風ニシテ何時迄モ何處カニ持ツテ往ツテ要求スルコトガ出來ルト云フヤウナル風ニスルト何時迄モ淸算ヲ結了スルコトガ出來ヌヤウニナツテ來ルト思フカラ斯ウ云フコトハ言ハヌ方ガ宜カラウ、私ハ飽迄モ反對ヲスルノデアル、夫レデ尙ホ今私ガ申シマシタ文案ニ付テ諸君カラ或ハモウ少シ斯ウモシタラ明瞭ニ分カルデアラウト云フヤウナル風ノ御說デモアレバ修正シテモ宜イガ、兎ニ角此儘デハ往カヌダラウト思フ、奧田君モ修正說ガアルヤウデアリマスカラ夫レガ宜イナレバ合併ヲシテモ宜イト思フ
穗積陳重君
私ハ少シモ末松君ノ御見解ニ反對ヲスルノデハアリマセヌガ、今ノデ尙ホ明カニナリマスレバ宜シウゴザイマスガ、或ハ然ウ云フ事デアリマスレバ「前條ノ期間後ニ申出テタル債權者ハ期間内ニ申出テタル債務ヲ濟了シタル後」ト云フヤウナ風ニ直ホシテハ如何デゴザイマセウカ
末松謙澄君
夫レデモ宜シイ
磯部四郎君
私ノ修正說ハ大體ノ上ニ於テ贊成ガナイヤウデアリマスカラうツちやらカシテ置キマス
中村元嘉君
私ハ大體ノ趣意ニ於テハ贊成スルガヽヽヽヽ
奧田義人君
只今七十九條ノ修正案ガ出テ居リマスルガ、此「前條ノ期間後ニ申出テタル債權者ハ其期間内ニ申出テタル債務ヲ濟了シタル後」ト云フコトニシテ「法人ノ」ト云フ事ヲ取ツテ仕舞ウト云フコトニシヤウト云フ御案ノヤウデアリマスガ、然ウスルト私モ贊成シマス
岸本辰雄君
一寸質問シマスガ、然ウスルト「淸算人ハ知レタル債權者ニハ格別ニ其申出テヲ催告スルコトヲ要ス」、卽チ七十八條ノ末項デアリマスガ、此金額ハ矢張リ保存シテ置クノデゴザイマセウカ
穗積陳重君
第二項ニ「淸算人ハ知レタル債權者ヲ除斥スルコトヲ得ス」ト書テアリマス、然ウスルト其知レタ債權者ト云フモノハ固ヨリ除ケテ置カナケレバ往カヌモノト私ハ思ヒマス
磯部四郎君
然ウスルト今ノ修正說ニ依ルト「期間内ニ申出テタル」ト云フト若シ申出デヌモノハ放ツテ置キハシマセヌカ
穗積陳重君
少シ然ウ云フ理窟ガアルカモ知レマセヌ
磯部四郎君
私ハ修正說ニ復タ修正說ヲ出シマス、「法人ノ知レタル債務ヲ濟了シタル後」トシテハ何ウデゴザイマセウカ
末松謙澄君
私ハ今ノヲ撤回ヲシテ「前條ノ債務」ト云フノハ初メノ案ノヤウニシタイ、如何トナレバ「前條ノ債務」、夫レハ何物カナレバ六十日間ニ申出デタル其債權者ノ債務、夫レカラ知レタル所ノ卽チ除却スルコトノ出來タ債務、皆含ムノデアリマスカラ「前條ノ債務ヲ濟了シタル後」トシタラ宜シカラウト思フ
假議長(箕作麟祥君)
夫レデハ末松君ノハ「法人ノ」トアルノハ「前條ノ」ト云フ事ニナルノデアリマスカ
末松謙澄君
然ウデス
假議長(箕作麟祥君)
奧田君ノ修正說ニハ贊成ガアリマシタカ
奧田義人君
私ガ修正說ヲ出シタノデハアリマセヌ、末松君ノ修正案ヲ私ガ贊成シタノデアリマスガ、其贊成ヲ取消シマシテ而シテ更ニ修正案ヲ出シマス、「前條ノ債務」トナツテハ誠ニ工合ガ惡ルイ、夫レデ「淸算ニ依リ法人ノ債務ヲ濟了シタル後」トシタナラバ淸算ノ目的ノ爲メニ濟了シタル債務ト云フ事ノ意味ニナツテ明瞭ニナラウト思ヒマスカラ斯ウ云フ說ヲ出シマス
磯部四郎君
誠ニひねくるヤウデ濟ミマセヌガ、此七十九條デアリマスル、「前條ノ期間後ニ申出テタル債權者」ト斯ウデゴザイマスル、此法文ニ依テ見マスレバ其期間内ニ申出ナタツタ債權者ハ絶對的ニ此法文ノ制裁ヲ受ケルヤウニ見エル、然ルニ前條ヲ見レバ「知レタル債權者ヲ除斥スルコトヲ得ス」トアツテ、知レタル債權者ハ期間内ニ申出デヌデモ七十九條ノ制裁ハ受ケヌト云フ事ハ明瞭ニナツテ居ル、斯ウ云フ事ニナツテ來ルト前條デハ縱シヤ申出デヌデモ知レタル債權者デアレバ除斥セラレナイモノデアルガ此處ノヤウナ文章ニスルト知レタル債權者ト云フ者ハ夫レハ全ク打消サレルヤウナ嫌ヒガアラウト思ヒマスガ、如何デゴザイマセウ
假議長(箕作麟祥君)
今ノ「前條ノ」ト云フ事ニモ贊成者ガナイヤウデアル、又奧田さんノ「淸算ニ依リ」トカ云フ事ニモ贊成ガナイヤウデアル、磯部さんノニモ贊成ガナイヤウデスガ大體ハ中村君ガ贊成セラレタルヤウデアルガ、大體丈ケノ贊成デハ少シ困マリマス
中村元嘉君
精神ハ贊成デアリマス
假議長(箕作麟祥君)
如何デゴザイマセウ、一ツモ修正說ガ成立ツタモノガナイヤウデアリマス
磯部四郎君
先程私ノ申シタ事ニ付テハ如何デゴザイマセウカ
穗積陳重君
御答ヘヲ致シマス、斯ウ云フ譯デアリマス、知レタル債權者ト云フ者ハ除斥スルコトガ出來ヌト云フ事ハ前條デ旣ニ始末ガ付テ居リマス、始末ガ付テ居リマスカラシテ此七十九條ノ中ニハ這入ラヌ、申出デヲ爲サナケレバナラヌ者丈ケガ此七十九條ニ書テアルノデアリマスカラシテ決シテ七十八條ト七十九條トガ出合ハヌト云フ事ハナイト云フ積リデアリマスガ、何ウ云フモノデアリマセウカ、固ヨリ除斥セラレナイ者ハ除斥セラレナイ者デアツテ岸本君ニモ御答ヘシタ通リ全ク夫レ丈ケノ債權ハ保存シテ置カナナンバナラヌ
磯部四郎君
然ウ云フ意味合ヒデアレバ今一層之ヲ明瞭ニスルガ爲メニ「前條ノ幾定ニ依リ除斥セラレタル債權者ハ」ト云フ事ニ直シタラ何ウデアリマセウ
梅謙次郎君
然ウスルト「除斥セラレサル債務ヲ濟了シタル後」ト云フノデスナ
磯部四郎君
然ウデス、然ウスレバ能ク分カル
末松謙澄君
私ハ前ノヲモウ一遍說明ヲシテ置キマス、「法人ノ」ト云フテハ何ウシテモ穩カナラヌト思ヒマス、ソコデ私ハ「前條ノ」トシタラ宜カラウト思フ、「前條ノ」ト云フ時ハ前條ノ期間内ニ申出デタル者ハ勿論ノ事デアル、所デ除斥セラレナイ者ハ何ウナルカト云フ疑ヒガアリマスガ、夫レハ矢張リ「前條ノ債務」ノ中ニ矢張リ這入ツテ居ルノデアル、卽チ此中ニ含ム、所デ前條ノ期間後ニ申出デタル債權者ハ何ウデアルカト云フ質問ニ對シテハ斯ウ云フ譯デアル、之ハ申出デベキ筈ノモノニシテ申出デナイモノト云フ事ノ適用ニナルノデアリマスカラ、前條ノ期間後ニ申出デタル者ハ徃ケナイト云フ事ニナルノデアル、然ウシテ「前條ノ債務」ト云フ事ニナルト六十日間ニ申出デタル者ハ除斥スル事ヲ得ナイ、夫レデ「前條ノ」ト言ヘバ一番明カナルモノト思フ
假議長(箕作麟祥君)
磯部さんノハ何ウ云フノデアリマス
磯部四郎君
「前條ノ規定ニ依リ除斥セラレタル債權者ハ適法ノ債務ヲ濟了シタル後」云々ト云フノデアリマス、「適法ノ債務」ト言ヘバ除斥セラレザルモノノ債務ト云フ事ニ當ルノデアリマス
穗積八束君
「前條ノ債務」ト云フ末松君ノ案ニハ贊成者ハアリマセヌカ
假議長(箕作麟祥君)
アリマセヌ
穗積八束君
私ハ兎ニ角、夫レニ贊成シテ置キマス
磯部四郎君
夫レデハ私ハ斯ウ云フ事ニ致シマス、「前條ノ規定ニ依リ除斥セラレタル債權者ハ他ノ債權者ニ辨濟シタル後」ト云フ事ニシタイ
尾崎三良君
モウ餘リ長引キマスカラ今ノ磯部君ノ案ニ贊成シマセウ、實ハ原案デモ然ウ間違モナカラウトハ思ヒマスガ、旣ニ起草委員ガ動ク位デアリマスカラ夫レデモ宜シイ、兎ニ角贊成セヌト論ガ盡キマセヌカラ贊成シテ置キマス
假議長(箕作麟祥君)
央レデハ決ヲ採リマセウ、末松君ノ「前條ノ」ト云フ事ニスルト云フ說ニ贊成ノ方ハ起立ヲ請ヒマス
起立者少數
假議長(箕作麟祥君)
少數デアリマス、次ニ磯部君ノ修正案ニ贊成ノ方ハ起立ヲ請ヒマス
起立者少數
假議長(箕作麟祥君)
少數、夫レデハ修正說ガナケレバ原案ニスルヨリ外ニ仕方ガアリマセヌガ、異議ハアリマセヌカ
(此時「異議ナシ」ト呼ブ者多シ)
假議長(箕作麟祥君)
夫レデハ原案通リニ可決ト認メマス、如何デアリマスカ之デ止メマスカ
磯部四郎君
贊成
末松謙澄君
此箇條ハモウ一遍起草委員ニ御考ヘヲ願ヒタイ
中村元嘉君
夫レハ然ウ願ヒタイ
假議長(箕作麟祥君)
先ヅ今ノハ原案ニ可決ニナリマシタ
末松謙澄君
之ハ何ントカ整理ノ時ニデモシタラ宜カラウ
假議長(箕作麟祥君)
夫レデハ今晩ハ之デ散會致シマス