第十回總會議事速記録
明治二十七年二月九日午後五時十分開會
出席員
伯爵伊藤博文君
侯爵西園寺公望君
穗積八束君
中村元嘉君
菊池武夫君
長谷川喬君
關直彦君
金子堅太郎君
磯部四郎君
尾崎三良君
三浦安君
本野一郎君
斯波淳六郎君
土方寧君
本尾敬三郎君
岸本辰雄君
木下廣次君
田部芳君
高木豐三君
末延道成君
奧田義人君
末松謙澄君
穗積陳重君
富井政章君
梅謙次郎君
議長(伊藤伯)
是ヨリ議事ヲ開キマス第五十六條
(書記朗讀)
第五十六條 理事ハ定款、寄附行爲又ハ總會ノ決議ニ依リ禁止セラレサルトキハ特定ノ行爲ニ付キ他人ヲシテ代理セシムルコトヲ得
田部芳君
此五十六條ノ「特定ノ行爲ニ付キ他人ヲシテ代理セシムルコトヲ得」トアリマスル「特定ノ行爲」ト云フコトヲ修正シテ斯樣ニ致シタク考ヘルノデアリマス、夫レハ「臨時特ニ指定シタル行爲ニ付キ」ト致シタイ其趣意ニ至ツテハ變ハラヌデゴザイマセウガ、唯「特定ノ行爲」ト申シマスルト包括ト云フコトニ對スルヤウニナリマスカラ此原案ノ趣意ニハ了解ガシ惡クイト私ハ解釋致シタノデアリマス、夫レデ詰リ謂ハバ其都度一個ナリ或ハ二個ナリノ行爲ト云フモノヲ特ニ極メテ其事ニ付テ代理ヲセサルコトガ出來ルト云フノガ原案ノ趣意ニ解シテ居リマス、左樣ナ趣意デアレバ之ヲ「臨時特ニ指定シタル行爲」ト言ヘバモウ少シ趣意ガ明瞭ニナラウト思ヒマス、併シ之ガ非常ナ名案ト云フノデアリマセヌカラ尙ホ此上ニ一層宜イ案ガ出マスレバ直チニ贊成シマス
磯部四郎君
一寸伺ヒマスガ「特定ノ行爲」ト云フト今田部委員ノ說明サレタ次第デアリマスカ、又ハ包括的ノ方ノ意味デアリマスカ、一寸夫レヲ伺ヒマス
穗積陳重君
此處ニ「特定ノ行爲」ト指シマスルノハ其時々一ツ一ツ命令ヲシテサセル、恰モ其代理人ガ其器械ノ如キモノデアルト云フヤウナ狹イ意味ニ使フタ積リデハアリマセヌ、此事ヲセヨト斯ウ指示スレバ此「特定ノ行爲」ト云フ中ニ這入ル積リデアリマス、夫レデ差支ヘナイト思ヒマスル所以ハ、兎ニ角、理事ト云フ者ハ法人ノ總括代理デアリマシテ其總括代理ガ復代理セシムルノデアリマスカラ、理由書ニモ述ベテアリマスル如ク他人ニ對スル代理權トハナリマセヌ、夫故ニ極ク細カイ行爲、或ハ「特定ノ行爲」ト云フ中ニ夫レヨリモ細カイ行爲ガ籠ツテ居ツテモ少シモ構ヒマセヌ
尾崎三良君
私モ少シ質問致シタイ、一體少シ時期ガ遲レテ居ルカモ知レマセヌケレドモ前カラ居リマセヌデ無據此場合ニ於テ質問シタイ、段々此理事ダノ監事ダノト云フ者ノ權限ガ定マツテ第三者ニ對シテノ利害ニ大キニ關係ヲ及ボシマスカラ、益々之ハ質問ヲシテ置キマセント是カラ先キ諸君ノ御說ヲ聽イテモ充分判斷ヲシ兼ネマスルカラ時期ハ少シ遲レテ居ルカモ知レマセヌガ質問致シテ置キマス此法人ト云フモノガ實施サレル曉ニハ卽チ官廳ノ許可ヲ得ナケレバ法人ハ認メナイト云フコトニナツテ居ル、シテ見ルト是迄ノ社寺學校等ノ類ハ何ウナルノデアリマスカ、之モ矢張リ官廳ノ許可ヲ得ネバ法人トハ認メナイト云フ御積リデアルカ總テノ條ヲ見マスレバ然ウ云フヤウニ解セラレマスガ、ソコハ矢張リ起草者ニ於テモ其御積リデアリマスカ、一寸承リタイ
穗積陳重君
只今ノハ本條ノデハアリマセヌガ矢張リ答ヘマスカ
議長(伊藤伯)
餘リ宜イ例デハナイガ特別ニ
穗積陳重君
固ヨリ社寺ヲ建テルト云フコトハ又別ニ規則ガ必ズ出來ルコトデアラウト思ヒマス、併シナガラ社寺ノ如キモノガ法人トナラントスルニハ固ヨリ第三十七條ノ許可ヲ得ナケレバ出來ナイト云フ積リデアリマス
尾崎三良君
此法文デハ然ウ讀メマスガ、然ウスルト是迄學校抔ハ格別例ハ見マセヌガ、社寺ノコトニ付テハ段々内務省或ハ是迄ノ太政官ノ達トカ布告トカ云フモノデ色々ニナツテ居リマスガ、第一寺ノコトデ申セバ之ハ法人ト認メテ居ルヤウデアリマス、ト云フモノハ寺ノ財產ハ認メテアリマス、例ヘバ本願寺抔ノ財產ハ認メテアル、ソコデ其財產ヲ處分スルニハ其寺ノ住職ト檀家總代ガ三人連署シタ上デナケレバ質入レトカ何ントカ云フヤウナコトヲシテモ效ガナイ、斯ウ云フコトニナツテ居ル、ダカラ住職ガ幾ラ借金ヲシテモ此住職ガ身代限ニナツテモ其寺ノ財產ハちやんト手ヲ着ケルコトハ出來ヌト云フコトニ今日ハナツテ居リマスガ、夫等ノ所ハ何ウナルノデアリマセウカ、夫レカラ又小サナ寺抔ハ兎モ角、大キナ寺抔ニナルト執事トカ何ントカ云フ者ガ居ツテ夫レガ大抵何ンデモ權力ヲ持テ居ル、丁度此處ニ書テアル理事ノ如キ權限ヲ持テ居ル、是等ノモノノ權ハ一向定マツテ居ラヌ、或時ハ殆ド無上ノ權限ヲ持テ取扱ツテ居リマス、夫等ノコトニ付テハ私モ是迄隨分經驗ガアツテ甚ダ困マツテ居ル、彼ノ本願寺デアリマスガ、其執事ト云フ者ガ殆ド全權ヲ握ツテ居ツテ講中ハ何モ知ラヌデ大抵やツて居リマス、所ガ此前ノ條ヲ見マスレバ「理事ノ代理權ニ加ヘタル制限ハ善意ヲ以テ取引ヲ爲シタル第三者ニ對シテ其效ナシ」、斯ウナツテ居リマスガ、所ガ彼ノ達デゴザイマシタカ布告デゴザイマシタカ忘レマシタガ、此住職ト三人以上ノ檀家總代ガ連印シナケレバ效ガナイト云フ條ガアリマスカラ、本願寺抔デハ執事ト云フ者デ大抵ノコトハやツて居リマスガ、都合ノ惡ルイ時ハぽんト遁レル、ソンナ權利ハ與ヘテナイ、夫レカラ裁判所ニ訴ヘテ來ルト、豫テノ規則ニ寺ト云フモノハ住職ト其檀家總代ノ三人以上ノ連印ガナケレバ寺ニ義務ハナイ、一向效ガナイ、執事ガ取扱ツタナレバ其執事ノ何某ノ過失ニナル、斯ウ云フ裁判ニナリマス、現ニ事實ヲ御話シシナケレバ分カリマセヌガ、京都ニ私抔少シ世話ヲシタコトガアリマス、卽チ本願寺ノ執事長何某ナル者ニ本願寺ノ入用ナリト云フノデ金ヲ五萬圓貸シマシタ、本願寺執事何某、夫レカラ會計何某ト印ガ押シテアル、然ウシテ金ヲ貸シタ、所ガあの執事ハ不都合ナ事ヲシタト云フ所カラソコヲ放リ出シテ仕舞ツタ、夫レデ裁判所ニ訴ヘタ、所ガ寺ト云フモノハ其住職ト檀家總代三人以上ノ連印ガナケレバ效ガナイト云フノデ採用ニナラナイ、斯ウ云フコトニナツタ
議長(伊藤伯)
其御議論ハ誠ニ實地論デアツテ至極宜シイガ、夫レハ今度然ウ云フ場合ガ出タ時カ否ラザレバ起草委員ナリト別段ニ御話シヲシテ御覽ニナル方ガ宜シイ、此箇條ニ付テ其話シヲ持テ來ルト少シあなたガ一人リ占メノヤウナ譯ニナツテ來ル
尾崎三良君
然ウカモ知レマセヌガ、實際ハ然ウ云フ譯デアリマス、夫レデ私ハ夫レハ止メマスガ、ソコデ寺ノコトハ今日然ウ云フ行掛カリニナツテ居リマスルカラ今之ヲ寺抔ニ當嵌メネバ以來法人ト見ナイト云フコトニナルト、是迄寺ト云フ別ニ一ツ無形人ニナツテ居ルモノガナクナルヤウナ姿ニナリマスガ、ソコハ何ンナモノデアリマセウカ
穗積陳重君
是迄旣ニ無形人ニナツテ居ルモノハ獨リ社寺ノミニ限リマセヌ、外ニモ往々アル、併ナガラ此本案ガ施行ニナリマシタナレバ必ズ此旣設法人ト又此法ニ依ルベキモノトヲ此法ノ施行ト調和スル卽チ施行條例ノ如キモノガ必ズ出來テ來ナケレバナラヌト思ヒマス、夫レデ大概ノ結ビガ付クデアラウト思ヒマス、且社寺ノ如キモノニ付テハ何ウシテモ民法ノ汎則ニ依ラズシテ特別法ガ出來ヤウト思ヒマス、之モ始末ヲ付ケル一ツノ途デアラウト思ヒマス、又此汎則ノ爲メニ特別法ガ悉ク廢サレルモノデモナカラウト思ヒマス、夫レデ社寺抔ニ對スル特別法ガ出來マスレバ夫レデ始末ガ付ク、ソコラハ差支ヘナイ積リデアリマス
尾崎三良君
唯夫レ丈ケノ事ヲ伺ツタノデアリマスガ、然ウ云フ譯デアレバ別ニ然ウ云フ特例ヲ設ケラレテ然ウ云フモノハ別ニスルト云フ御考ヘデアレバ又其時ニナツテ論ジマセウ
議長(伊藤伯)
別ニ御意見ガナケレバ原案可決ト認メテ次ノ條ニ移リマス
(書記朗讀)
第五十七條 理事ノ缺ケタル場合ニ於テ遲滯ノ爲メニ損害ヲ生スル恐アルトキハ裁判所ハ利害關係人又ハ檢事ノ請求ニ因リ假理事ヲ選任スヘシ
中村元嘉君
之ハ區裁判所ノ御積リデアリマスカ
穗積陳重君
先ヅ然ウナラウト思ヒマス、是迄ハ多ク區裁判所ト書テアリマスル法文モアリマスルガ、此處ハ態ザト斯ウ書イタノデアリマス
中村元嘉君
夫レハ何カ御趣意ガアルノデアリマスカ
穗積陳重君
然ウデハアリマセヌ
議長(伊藤伯)
之モ論ハナイネ
侯爵西園寺公望君
異議ナシ
議長(伊藤伯)
異議ガナケレバ本案可決ト認メテ次ノ條ニ移リマス
(書記朗讀)
第五十八條 法人ト理事トノ間ニ利益相反スル事項ニ付テハ理事ハ代理權ヲ有セス此場合ニ於テハ前條ノ規定ニ依リテ特別代理人ヲ選任スヘシ
出席委員
三浦安君
磯部四郎君
此處ニ「前條ノ規定ニ依リテ」トアリマスガ、之ハ矢張リ利害關係人又ハ檢事ノ請求ニ依テ特別代理人ヲ選任スルト云フコトデゴザイマセウカ、一寸伺ヒタイ
穗積陳重君
其積リデゴザイマス
磯部四郎君
然ウシマスルト此代理權ヲ有セナイ人ガ自ラ顧ミテ然ウシテ夫レ丈ケノコトヲ求ムルト云フ風ニハ出來ナイノデゴザイマセウカ
穗積陳重君
然ウ云フ場合ニハ如阿デセウナ、利害關係人ト言ヘナイデモアリマスマイ、理事ガ自ラ
磯部四郎君
利害關係人ノ中ニ這入ルト云フノデアリマスナ
穗積陳重君
其積リデアリマス
磯部四郎君
宜シウゴザイマス
尾崎三良君
一寸起草委員ニ伺ヒマスガ、是ハ請求スレバ特別代理人ヲ選任スルト云フ方ニナツテ居リマスガ、若シ請求セズニ理事ガ勝手ニヤツタ時ハ何ウナリマスカ、何カ制裁ガアリマスカ
穗積陳重君
固ヨリ其取引ト云フモノハ法律ニ反シテ居リマスルカラシテ無效ナ取引デアルト思フノデアリマス、權限ヲ持テ居ラヌ代理權ヲ有シテ居ナイ事柄デ代理權ヲ行ハントシタノデアリマスカラ無效ノコトニナリマス
尾崎三良君
夫レハ何カ明條ガアリマスカ
穗積陳重君
明條ガナクトモ斯ノ如ク書テアレバ明カデアラウト思ヒマス
穗積八束君
是ハ利益相反スルコトニ付テハ代理權ヲ有セヌトアリマスカラ、文字上デ見レバ法人ト理事トガ取引行爲ヲシマスルコトハ禁ズルト云フ趣意デハナイト心得マスルガ其通リデアリマスカ
穗積陳重君
左樣デアリマス
穗積八束君
夫レハ出來マスカ
穗積陳重君
獨逸ノ草案抔ニハ只今ノ如キ法律行爲ヲ爲スコトガ出來ナイトナツテ居リマスガ、是ハ夫レヨリハ廣ク書テアリマス、利益相反スル事柄ニ付テハ代理權ヲ有セヌト廣ク書イタノデアリマス
穗積八束君
法律行爲ト云フト必ズ利益相反スル行爲ノ中ニ這入ル御考ヘデアリマスカ
穗積陳重君
然ウデハアリマセヌ
穗積八束君
夫レハ出來ルノデゴザイマセウ
穗積陳重君
利益相反スル事項デナケレバ出來マス
穗積八束君
夫レナラ分カリマシタ
磯部四郎君
私ハ一寸將來ノ爲メニ伺ツテ置キマスガ、今一寸聽キ忘レマシタガ、甚ダ進ンダ條文ノ事ヲ伺ヒマスノハ少シ不都合カトハ考ヘマスガ、後トデ又續々出テ來マスルカラ一寸伺ツテ置キマスガ、夫レハ此五十六條ノ文例ヲ伺ツテ置キタイ、私共ノ一寸考ヘタ所デハ「理事ハ特定ノ行爲ニ付キ他人ヲシテ代理セシムルコトヲ得ス但定款寄附行爲又ハ總會ノ決議ニ依リ代理セシムル者ハ此限ニ在ラス」斯ウ云フ文例ニデモナレバ極ク穩カニ分カラウカ知ラント云フ考ヘヲ持チマスガ、是迄然ウ云フ案モ出タケレドモ夫レハ行ハレヌ文例ガアルカラト云フコトヲ今一寸二三ノ御方ニ承ツタカラ伺ウノデアリマスガ、何カ然ウ云フ文例ヲ御採リニナツタノニハ趣意ガアルノデゴザイマセウカ、一寸私共ノ考ヘカラ見ルト何ヲ禁止セラレタノカ一寸分カリマセヌヤウニ見エマス、夫レデ其文例ヲ豫テ御採リニナツタ次第柄ヲ一寸將來ノ爲メニ伺ツテ置キタイト云フ考ヘデアリマス、何ウカ御話シ下サル譯ニハ往キマセヌカ
穗積陳重君
只今ノハ前ノ御質問ノヤウニ思ヒマスガ、此文例ハ必ズシモ一定シテ居リマセヌ、旣ニ御覽ニナレバ分カリマス、併シナガラ此本則ガちやんト定マツテ然ウシテ但書デ其例外ノ餘地ヲ存スルト云フコトガ明カナ場合ニハ必ズヤルヤウニシマス、ケレドモ併シナガラ斯ノ如キ場合ニ於テハ夫程ノ本則ヲ定メ但書ヲ以テ其例外ヲ示スト云フ程ノコトデモナイ、卽チ「定款ニ特別ノ定メナキトキハ」「寄附行爲ニ反對ノ規定ナキトキハ」、ト云フ然ウ云フ風ナ場合ハ通常斯ノ如ク書ク譯ニナツテ居リマス
磯部四郎君
然ウスルト詰リ「代理セシムルコトヲ得」ト云フノガ必ズ本則ト定マツテ居ルト云フ譯デモナイ、夫レデアルカラ詰リここらハ「禁止シタトキハ」ト云フヤウナ事柄ハたいした本則ニ對スル例外トモナラヌカラ、夫レデ何時デモ一文章ニ書キ込ム例外ニナツテハ居ラヌト云フ次第柄デアリマスカ
穗積陳重君
先ヅ然ウ云フ次第柄デアリマス、先ヅ一定ノ標準ヲ持テ居ツテ其標準ニ嵌メ込ンダト云フ譯デモナイノデアリマス
磯部四郎君
畏リマシタ
議長(伊藤伯)
外ニ御異論ガナケレバ本條ハ可決ト認メテ次ノ條ニ移リマス
退席委員
三浦安君
出席委員
金子堅太郎君
(書記朗讀)
第五十九條 法人ニハ定款寄附行爲又ハ總會ノ決議ヲ以テ一人又ハ數人ノ監事ヲ置クコトヲ得
磯部四郎君
餘リ續々起チマシテ恐レ入リマスケレドモ一寸伺ヒマスガ、此寄附行爲デ然ウシテ數人ノ監事ヲ置クト云フノハ寄附シタ財產ニ付テ丈ケノ意味デゴザイマセウカ、法人其者ニ付テハ監事ト云フ者ハ寄附行爲デハ設ケルト云フ譯デハアルマイト思ヒマスガ矢張リ然ウ云フ意味合ヒノ文章デアリマスカ
穗積陳重君
然ウデアリマセヌ、法人ノ監事デアリマス
磯部四郎君
例ヘバ此處ニ基本財產ガ一萬圓モ有ル法人ガアル、其一萬圓ノ十分ノ一トカ二十分一トカ或ハ二千圓トカ云フ丈ケノモノヲ私ガ寄附行爲ヲスル、其一萬圓ノ基本財產ノ中ニ私ガ二千圓ノ寄附行爲ヲシテ其二千圓ノ財產ノ處分行爲ニ付テハ私ノ行爲デアルカラ理事ヲ定メルコトモ出來ヤウシ又監督ノ方法ヲ定ムルコトモ出來マセウガ、一萬圓ノ資本ヲ以テ成立ツ法人ニ其中ニ僅カ二千圓トカ或ハ五百圓トカ七百圓トカノ金ヲ寄附行爲ヲ以テ寄附スル、其行爲ヲ以テ法人其者ノ監事ヲ選定スルト云フコトニナツタナレバ少シク工合ガ惡ルクアリマセヌカ
穗積陳重君
夫レハ何デス、寄附行爲ハ卽チ財團法人設立ノ行爲デアリマス、あなたノ寄附ニナル所ノ一萬圓ト云フモノヲ以テ例ヘバ貧民救助ノ爲メノ法人ヲ設クル、其一萬圓ヲ貧民救助ト云フ慈善ノ目的ニ寄附スル、卽チ始メノ行爲丈ケガ寄附行爲デアリマス、卽チ財團法人設立ノ寄附行爲デアリマスカラ其一萬圓ヲ寄附スル時ニ之ヲ寄附シテ例ヘバ大審院ヲ設ケル、其大審院ノ理事ハ斯ウ云フ工合ニ選定シテ貰ヒタイ、又監事ハ二人以上置テ貰ヒタイト云フコトガ出來マス、併シ一旦法人ニナツタモノニ財產ヲ寄附スルト云フノハ贈與ニナルノデアリマス
磯部四郎君
能ク分カリマシタガ尙ホ伺ツテ置キタイ、然ウスルト此寄附行爲ト云フモノハ一個人カラ今組織スル時分ニヤルコトモゴザイマセウ、例ヘバ五人ナリ七人ナリノ人ガ相提携シテ一萬圓ナレバ一萬圓ノ資本ヲ出スノデナイ、私ガ百圓出シマセウ、あなたガ百圓、又或人ハ五百圓出ス、斯ウ云フ風ニ寄附行爲ガ幾ツモ寄ツテ財產ガ一ツニ纏マツタ寄附行爲ヲ以テ法人ヲ組織スル場合モゴザイマセウ、其寄附行爲デハ數人ノ監事ヲ置クトカ或ハ一人ノ監事ヲ置クトカ云フコトヲ定メルコトガ出來マスカ、又夫レガ出來ルナレバ然ウ云フ條件ハ採ルト採ラヌトハ法人ノ勝手デアルト云フ譯ニナリマスカ、ソコハドンナモノデアリマスカ
穗積陳重君
例ヘバ百人共同致シマシテ各々定額ノ金ヲ醵出シテ然ウシテ其百人ガ共同シテ一ノ財團法人設立ノ行爲ヲ爲ス、斯ウ云フ場合ニ於テ寄附行爲ト見ルノハ百人ノ共同ノ行爲デアツテ決シテ百ノ別々ノ寄附行爲ガアツテ其別々ノ行爲カラシテ一ノ法人ガ設立サレルモノデハナイト思ヒマス
磯部四郎君
然ウスルト是迄アリマスル寄附行爲、寄附行爲ト申シマスルコトハ、愈々茲ニ何某ノ有志者ガ寄ツテ一ノ法人ヲ組織スルト云フ相談ガアル所ヘ、夫レデハ私ガ其有志者ト提携シテ何モ發起人トカ何ントカニハナラヌガ愈々然ウ云フモノガ立ツナレバ私モ是丈ケノモノハ寄附シマセウト云フヤウナ寄附行爲ハ御許シニハナラヌト云フ御積リデゴザイマセウカ
穗積陳重君
夫レハ設立ノ前ニ共同スル行爲ナレバ固ヨリ宜シイノデアリマス
磯部四郎君
ソコデ何ンデゴザイマス、別段六ケ敷ク申上ゲルヤウデ甚ダ恐入リマスガ、決シテ然ウデハアリマセヌ、茲ニ有志者ガ四五人アツテ例ヘバ淺草ノ雷門デモ設立シヤウト云フヤウナ考ヘデ一ノ法人見タヤウナモノヲ作ツタ場合、然ウシテ發起人抔ト云フ人ガアル、未ダ夫レガ成立タヌ時ニソコヘ私ノ方カラシテ夫レデハ私ガ其雷門ノ修繕費ニ充ル爲メニ年々夫レ丈ケノ上リ高ノアル土地ヲ寄附シヤウトカ何ントカ云フコトヲ申込ンデ往ク場合モゴザイマセウ、然ウシテ其支配ヲ外ノ二三ノ人ニ隨意ニサレテハ困マルト云フ所カラ何ノ太郎兵衞トカ何ノ權兵衞トカ云フ者ヲ以テ其支配人トスル、然ウシテ年々ノ上リ高ヲ以テ修繕費ニ納メルヤウニ致シタイト云フヤウナモノモアラウト思ヒマスガ、然ウ云フモノハ採ラレヌト云フノデアリマセウカ、此寄附行爲ト云フモノハ五人ナリ七人ナリ寄附スル人ガ共同連帶デ寄附シタノデナケレバ成立タヌト云フ譯ニナルノデゴザイマセウカ
穗積陳重君
御見解通リデアリマス、法人設立ノ行爲デアリマス、其行爲ハ一人ガヤツテモ又ハ數人ガ共同シテヤツテモ財產ヲ或ル目的ニ寄附シテヤルノナラバ夫レハ宜シイガ、法人設立ノ時ノモノヘ向テ只今ノ如ク或ル篤志者ガ外カラ寄附スルノハ贈與ノ方ノ規則ニ依ルノデアリマス
磯部四郎君
然ウスルト尙ホ實際ノ適用ガ六ケ敷クナル、四十三條ヲ御覽下サルト二項ニ「遺言ヲ以テ寄附行爲ヲ爲ストキハ遺贈ニ關スル規定ヲ適用ス」、「遺贈ニ關スル」云々トアリマスガ、是抔ハ多分一人デヤルノデアリマセウガ、必ズ死ヌル時期ノ極ツタ者ガ五人ナラ五人提携シテ遺言ヲ以テ寄附スルト云フコトモ實際ナカラウト思ヒマス、然ウスルト斯ウ云フ先生達ガ卽チ寄附行爲ヲ以テ然ウシテ此寄附行爲ニ付テノ監事ト云フ者ハ誰某ニシテ呉レト云フコトハ聞エマスケレドモ、若シ一己人ガ寄附スル時ニ、其寄附行爲ヲ以テ然ウシテ其法人全體ニ關スル所ノ卽チ其監事ナラ監事ト云フ者ヲ置クコトガ出來ルト云フコトニナルト云フト餘程實際ニ不都合ガ生ジテ來ハシマスマイカ、斯ウ云フ案事ガ出マスルカラ夫レデ一寸五十九條ニ付テ御質問ヲシタノデアリマスガ、之ハ何ウ云フ工合ニナリマスカ、兎ニ角四十三條ノ法文カラ見レバ他ニ拘ハラズ一己人デ今設立セントスル財團ニ寄附行爲デ卽チ遺言ヲ以テ寄附スルコトガ出來マス、其遺言デ以テ偖私ガ是丈ケノモノヲ寄附スル以上ニハ法人全體ニ付テノ監事ニハ何某ヲ以テ監事ノ任ニ充テテ呉レト云フコトヲ遺言書ニ條件ヲ書テアツタ時分ニハ其遺言書ニ從ツテ其者ヲ以テ法人全體ノ監事ニシナケレバナラヌト云フノデアリマスカ、又然ウ云フ時ニハ寄附行爲デ利益丈ケ受ケテ監事ノ選拔ハ定款ナリ總會ノ決議ナリニ讓ルト云フ御趣旨ニナルノデゴザイマセウカ、ソコヲ五十九條ニ付テ伺ツテ置キマス
穗積陳重君
此寄附行爲ト云フモノニ付テノ御見解ガ少シあなたノ御見解ト私共ノ見解トハ違ツテ居ルカモ知レマセヌ、只今ノ御辭ニ依ルト財團法人設立ノ企ガアツテ其企ニ寄附スルノモ矢張リ寄附行爲デアルト云フヤウニ御認メノヤウデアリマスガ、寄附行爲ト云フモノハ然ウ云フモノデハナイ、全ク或ル財產ヲ或ル目的ノ爲メニ寄附スル、其寄附行爲ガ財團法人設立ノ手續ニナル、夫レ丈ケガ含ムノデアリマス、固ヨリ遺言ハ通常一人リデゴザイマセウ、數人デ同時ニ自殺デモスレバ兎モ角、左モナケレバ先ヅ一人デゴザイマセウ、遺言ヲスル、其遺言ニ何萬圓ヲ以テ一ノ學校ト云フモノヲ設立シテ夫レヲ法人トシヤウト思ツテ、夫レニ付テノ理事ハ斯ウ、監事ハ斯ウト云フコトガ自分デ出來ル、或人ガ然ウ云フモノヲ拵エヤウトシテ居ル、脇カラ夫レヘ附加ヘルノハ其寄附行爲ノ共同同意者デアルカ又ハ設立ニ付テ其法人ニ寄贈スルカどツちカニ歸スルト思ヒマス
磯部四郎君
然ウスルト詰リあなたノ方デモ寄附行爲ト云フモノハ寄附行爲其者ヲ以テ兎ニ角單獨ニ一ノ法人ガ設立スル場合ト云フコトヲ御想像ニナツテノ上デアリマスカ
穗積陳重君
左樣デアリマス
磯部四郎君
夫レデハ總會迄ニ考ヘマセウ
議長(伊藤伯)
別ニ御異論ガナケレバ
土方寧君
別ニ議論ハシマセヌガ、五十九條ノ中ニ「一人又ハ數人ノ監事ヲ置クコトヲ得」ト云フコトガアリマスガ、此「一人又ハ數人」ト云フコトハナクテモ通ズルカト思ヒマス、此前ノ五十三條ニハ「法人ニハ理事ヲ置クコトヲ要ス」ト書テアリマスカラ、此前ノ五十三條ニ照シテ見ルト此處ノモ矢張リ唯「監事ヲ置クコトヲ得」トシテ充分デアラウト思ヒマス、唯上ニ寄附行爲云云ト云フ長イコトガアリマスカラ或ハ語呂ガ惡イトカ云フヤウナ御考ヘ位デゴザイマセウガ、併ナガラ此場合ニ殊更ニ「一人又ハ數人」ト云フコトハナクテモ宜シイト思ヒマス、夫レデ之ハ矢張リ前ノ理事ノ例ニ倣ツテ「一人又ハ數人」ト云フノハ削ツタラ宜カラウト思ヒマスカラ此修正案ヲ提出致シマス、意味ハ變ハリマセヌ
關直彦君
前後照應シマスカラ私モ土方君ノ說ヲ贊成致シマス
穗積陳重君
意味ニ於テハ固ヨリ差支ヘナイコトト思ヒマスルガ、併ナガラ第五十三條ハ旣ニ第二項ニ依テ直チニ理事ガ一人以上アリ得ルト云フコトガ明カニ分カツテ居ルノデアリマス、本條ニ於テハ此法文上直チニ分カルト云フコトハアリマセヌカラシテ「一人又ハ數人ノ」ト書キマシタ方ガ明カニ分カツテ宜カラウト云フ考ヘデ此數字ヲ置イタノデアリマス、夫レ丈ケノ事ヲ御考ヘニナツテ議決ヲ望ミマス
議長(伊藤伯)
然ウスルト土方君ノ說ニ贊成ノ御方ハ起立
起立者少數
議長(伊藤伯)
少數、然ウスルト別ニ議論ハナイヤウデアリマスカラ本條ハ可決ト認メテ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第六十條 監事ノ職務左ノ如シ
一 法人ノ財產ノ現況ヲ監査スルコト
二 理事ノ業務施行ノ實況ヲ監査スルコト
三 財產ノ現況又ハ業務ノ施行ニ付キ不整ノ事アルヲ檢出スルトキハ之ヲ總會又ハ主務官廳ニ報告スルコト但此報告ヲ爲ス爲メ特ニ總會ヲ招集スルコトヲ得
田部芳君
此第六十條ノ第二號ト夫レカラ第三號ノ間ニ尙ホ一號ヲ加ヘマシテ然ウ致シテ現在ノ第三號ニ少シク修正ヲ加ヘタイト云フ考ヘデアリマス、夫レデ先ヅ此修正ノ文ヲ申シマスレバ修正ノ第三號トシテ「財產ノ現況及ヒ業務施行ノ實況ニ付キ總會ニ報告ヲ爲スコト」、夫レカラ原案ノ第三號ヲ四號ト更メテ之ニ少シク修正ヲ加ヘマス、卽チ三號ヲ今ノ如クニ修正ヲシタ結果デアリマス、卽チ原案ノ三號ヲ四號ト更メテ其文章ヲ「財產ノ現況又ハ業務施行ニ付キ不整ノコトアルヲ檢出スルトキハ之ヲ主務官廳ニ報告スルコト但此報告ヲナス爲メ特ニ總會ヲ招集スルコトヲ得」ト致シマス、詰リ此第四號ト云フモノハ總會ト云フコトガ前ニ籠リマスカラ從ツテ之ヲ削ツテ仕舞ウト云フコトニナルノデアリマス、此趣意ハ原案ノ卽チ起草者ノ御考ヘモ同一デアラウト思ヒマスルノハ主査會ノトキノ案デアリマスルガ、卽チ此案ニ理由ガ付テ居リマス、卽チ主査會ノ案ノ六十條ノ理由書ノ中ニモ現ニ監事ガ報告ヲスルト云フコトガ其第二行目ニ明カニ書テアリマスルカラシテ、私ノ解シタ所デハ矢張リ理事ト監事ト云フ者ニ報告ヲサセルト云フ考ヘモアルノデアラウト察スル、又其上ニ其財產ノ現況等ニ付テハ總テノ社團法人ノ社員悉クノ人ガ調ベテ之ヲ監査スルト云フヤウナコトハ實際上出來マセヌカラ特ニ其事ヲ調査スル人ガアルノガ大變宜カラウ、アル一部ノ人ガ調ベテ然ウシテ報告スルコトニナレバ總會等ノ時ニ他ノ社員ガ夫レニ信ヲ措イテ充分ニ事ガ分カルト云フコトニナルト思ヒマス、悉クノ入ガ實地ニ付テ調ベルコトハ六ケ敷イト云フコトハ無論ノ話デアリマス、夫故ニ特別ノ卽チ臨時ノ總會ノ時丈ケニ付テ監事ガ報告ヲスルト云フノミニセヌデ、總テ臨時總會デアラウガ通常總會デアラウガ總テ財產ノ現況又ハ業務施行ノ實地ニ付テ調ベヲシテ監事ガ報告ヲスルト云フコトニシタ方ガ適當ト考ヘル、然ウスルト第四號卽チ現在ノ第三號ト云フモノヲ何ウシテモ改正スルコトガ必要デアリマス、卽チ總テ總會ニ報告ヲスルト云フコトニ致シマシタ、然ウスレバ私ノ修正案ノ第四號ニ總會ノコトヲ言フ必要ガアリマセヌカラ除イタノデアリマス、斯樣ナ理由デ只今述ベマシタ修正案ヲ提出スルノデアリマス
磯部四郎君
私ハ只今ノ修正說ガ行ハレルト行ハレヌトニ拘ハラズ一ツ修正說或ハ、削除說デアルカ知ラヌガ是丈ケヲ除キタイ、其方ヲ先キニ御決定下サルノガ順序デアラウカ知ラント思ヒマス、ト云フモノハ第三號ノ中ニアル事デ「之ヲ總會ニ報告スルコト」ト云フ丈ケニシテ、然ウシテ「又ハ主務官廳ニ」トアル此「又ハ主務官廳」ト云フ文字ヲ削除致シタイ、夫レカラ從ツテ此但書ト云フモノハ無用ニ屬スルデアラウカ知ラント云フ考ヘデアリマス、夫レデ此「又ハ主務官廳」ト云フ文字ト但書以下ヲ削除スル、デ其理由ヲ一ツ說明致シマスルガ、成程此法人ト申シマスルモノハ主務官廳ノ許可ヲ得テ成立シテ居ルモノニハ違ヒナイガ、併シ成立シタ以上ハ純然タル民法ノ支配ノ下ニ立ツ一個人デアリマス、其一個人ノ機關ガ不整ナコトガアツタト云フヤウナ時ニハ卽チ民事裁判ナリ刑事裁判ナリニ卽チ此司法官ノ支配ヲ受クベキモノデアラウ、行政事務ノ其法人ノ純然タル民事上ノ行爲ノコトニ付テ一々之ハ主務官廳ト云フノハ必ズ行政官廳ヲ指スコトデゴザイマセウガ、夫レガ一々立入ツテ然ウシテ取調ヲスルト云フノハ餘リ干渉シ過ギタコトデモゴザイマセウシ、啻ニ干渉シ過ギルノミナラズ從テ主務官廳ノ責任ガ重クナルデアラウト思ヒマス、中々今法人ノ監事ト云フ者ガ斯ウ云フ不整ナコトガアルカラト云ツテ報告ヲスル、斯ウ云フ事ヲ報告スル、其報告ヲ受ケル行政官廳ナル主務官廳ト云フモノガ其法人ノ内部ニ立入ツテ一々取調ヲシテヤルト云フヤウナコトハ手數ニシテ行ハレルモノデナイ、又行ハレヌトスレバ報告ヲ受ケタ責任ヲ完フスルコトガ出來マセヌカラ、之カラシテ法人ト夫レカラ主務官廳トノ間ニ屡々下ラナイ縺レガ起ツテ來ヤウト思ヒマス、抑モ定款ト云フモノガ法律上必ズアル理事ノ責任等ハ法律デ極マツテ居ル、夫レデ其法人ノ業務上ノ事ニ付テ不都合ガアレバ夫レハ別段ニ今ノ民事裁判ナリ刑事裁判ナリノ支配ニ委ネテ置テ宜シイ、夫レカラ若シ又其理事等ガ權利ヲ濫用シテ不正ナ行爲デモ盛ンニヤレバ夫レハ行政警察ノ職權ヲ以テ不法ノ行爲ハ何時デモ差止メルコトガ出來ル必ズ是等ノ事ニ付テ監事ガ理事ニ斯ウ云フ不都合ガアルカラト云ツテ夫レヲ直グニ主務官廳ニ報告ヲスルガ如キ事柄ハ大變ニ輕忽ニ渉リ且手數ヲ要スルコトデアツテ爲メニ其法人ノ業務上ニ言フ可ラザル差障リヲ來タスコトニナラウ、又法律通リニ事ヲヤレバ宜シイガ、或ハ監事一己ノ情實的干渉的カラ下ラナイ擧動ヲヤレバ爲メニ業務ノ管理上ヲ妨ゲルコトガ實際ニ着々アリマスルカラ、若シ然ウ云フコトヲ見出シタ時分ニハ取リモ直サズ司法官ノ權限ニ任セテ置イタ方ガ相當ト思ヒマス、夫レデ私ハ「又ハ主務官廳」ト云フ文字ト但書以下ヲ削除セラレンコトヲ望ムノ修正說ヲ提出致シマス
尾崎三良君
私ハ今ノ磯部君ノ修正說ニ贊成致シマス、其理由ハ卽チ本人ヨリ述ベラレマシタカラ私ハ強テ述ベマセヌガ、全體私ハ此主務官廳ト云フモノハ成ルベク斯ウ云フコトニハ立入ラヌガ宜イト云フ一體ノ精神デアリマス、夫故ニ一體主務官廳ノ許可ヲ得ナケレバナラヌト云フコトハ何ウデアラウカト思フ位ノ精神デアリマスルニ依テ、全ク磯部君ノ御說ノ通リ主務官廳ト云フ文字ハ削ツタ方ガ至極穩當デアラウト思ヒマスカラシテ贊成シテ置キマス
末延道成君
私ハ此六十條ノ第一號第二號第三號ハそつくり取ツテ仕舞ツテ然ウシテ二號丈ケニ致シテ斯ノ如ク致シタイ、「法人ノ財產ノ現況帳簿及ヒ總テノ書類ヲ檢査シ理事及ヒ其他ノ役員ニ說明ヲ求ムル權利ヲ有スルコト」、然ウシテ「檢査ノ結果ヲ總會ニ報告スルコト」、此二號丈ケニスル、全體少シク質問モ致シタイノデアリマスガ、此監査役ト云ヒ或ハ商法デハ監査役ト云ヒこちらデハ監事トシテアリマスガ、之ガおーぢとるト云フ原トノ字カラ來テ居ルナレバ監事或ハ監督ト云フヤウナ風ノ字ハ甚ダ當ラナイ字デアラウト思ヒマス、丁度此職務デ見ルト殆ド理事ノ上ニモウ一ツノ理事ト云フヤウナ意味ニ取レテ理事ノ仕事ヲ始終監督シテ見テ居ナケレバナラヌ、丁度假リニ政府ヲ法人トスレバ檢査院ノ檢査院長ガ常ニ總理大臣ノスルコトヲ看テ居ルト云フヤウニ見エテ、如何ニモ其財產ノ帳簿或ハ財產ヲ檢査スルニ非ズシテ業務施行ノ實況ヲ監査スルト云フヤウナコトハ其監査役ノ職務ニ餘リ立入リ過ギテ居ルダラウト思ヒマス、全ク總會ノ前ニ帳簿及ビ財產ノ現況ヲ調ベ又夫レニ付テハ役員ニ付キ說明ヲ求ムルノ權利ヲ與ヘテ置ク然ウシテ其檢査ノ結果ト云フモノヲ總會ニ報告スル、善クモ惡シクモ報告ヲスル、此處ニ在ル丈ケデハ惡ルイ事ヲ見出シタ時丈ケニ報告スルコトニナツテ居ツテ善イ事デアレバ報告ヲセヌデ宜シイト云フヤウニ見エマスガ、之ハ矢張リ必要ト思ヒマス、全體此監査役ト云ヒ或ハ監事ト云フ職分ガ餘リ大キク成リ過ギテ居ルヤウニ考ヘマス、夫レデ字句ハ如何ヤウニモ直ホシテ宜シウゴザイマスガ、私ノ只今申シタ通リノ修正案ヲ提出致シマス
關直彦君
私ハ磯部君ニ一寸質問ヲ致シマス、只今ノ御說ニ據リマスルト主務官廳ニ報告スルコトハ要ラナクナツテ來マスガ、後ニ在ル六十七條、之ハ何ウナルカ未ダ分カリマセヌガ、之ニ依ルト主務官廳ニ法人ノ業務ヲ監督スル權ヲ與ヘテアリマス、又前ノ三十七條デアリマシタカ法人ノ設立ニハ主務官廳ノ許可ヲ得ナケレバナラヌトアル、總テ法人ノ監督ヲ主務官廳ニ與ヘテアリマスガ、あなたノ御說ニ據ルト其主義ハ削ラレルヤウニ聞エマスガ、如何デゴザイマセウ
磯部四郎君
決シテ然ウデハアリマセヌ、私ノ考ヘデハ主務官廳ハ認可ヲ與ヘテ居リマスカラ自然其法人ガ名ヲ許サレタ事柄ニ籍リテ實際上不法ノ業務ヲ行フト云フヤウナコトモ或ハアルカモ知レマセヌガ、然ウ云フ場合ニハ無論許可ヲ與ヘタ官廳デアルカラ又從ツテ公ノ秩序ヲ維持スル爲メニ夫等ノ行跡ヲ監督スル權利ハアリマス、左リナガラ報告スルト云フコトニナルト、一々其報告ヲ受ケテ下ラナイ事迄モ多少取調抔ヲシタリ何カシテ、謂ハバ監事ノ故意ニ出タヤウナ事柄迄モ尙ホ主務官廳ガ種々ノ責任ヲ負ハナケレバナラヌコトガ起ツテ來マセウ、夫レデ私ハ報告ヲ必ズ受ケルコトニシテ置クト其報告ヲ受ケテ置キナガラ等閑ニ附スルヤウナコトニデモナルト行政官廳モ亦責任ガ充分シナイダラウト思ヒマス、兎ニ角世上ノ評判ナリ又外部ニ現ハレタル行爲抔ニ於テ不都合ガアレバ何時デモ主務官廳ガ監督スル責任ガアリマス、併ナガラ一々某理事ニ斯ノ如キコトガアル、其理事ニ斯ウ云フ不正ナコトガアルト云ツテ些細ナコト迄モ一々報告ヲシテ往クト、殆ド行政官廳ガ普通ノ裁判所ノ如キ業務ヲ執ルヤウナコトニナツテ、大變煩雜ヲ來タシ且其完キヲ得ナイヤウナ結果ヲ見ルデアラウト云フ考ヘデアリマス、夫レデ私ハ此六十七條ノ如キ法文ノアルニ拘ハラズ此六十條ノ第三號ノ「又ハ主務官廳」ト云フ文字ヲ御除キヲ願ヒタイ、夫レカラ先程モ起草委員カラ御氣著キモアリマシタガ、唯監事ガ之ヲ總會ニ報告スルコトヲ得ルトナルト、理事等ニ不都合ガアツテ報告ヲシヤウト思ツテモ其理事ガ容易ニ總會ヲ招集シナカツタリ或ハ總會ノ日ガ遲レタリスルト甚ダ不都合デハナイカト云フ御注意モアリマシタガ、夫レハ私ノ考ヘデハ六十二條ニ至ツテ監事モ亦卽チ今ノ總會ヲ時期ニ依テ招集スル權利ノアルコトニシタナラバ夫レ等ノ弊ハ防グコトガ出來ル、夫レ丈ケノ事ハ先程說明ヲ致サヌデアリマシタカラ只今序ニ申シテ置キマス
關直彦君
只今ノ御說明デ能ク分カリマシタガ、其主務官廳ノ監督權ヲ認メルト云フ主義デアレバ愈々以テ此報告ト云フモノハ私ハ必要ト考ヘマスルカラ、甚ダ御氣ノ毒デアリマスケレドモ贊成ハ出來マセヌ
穗積陳重君
磯部君ノ御說ニ贊成ガアリマシタカラ一應述ベテ置キマス、主務官廳ト云フコト丈ケヲ御省キニナルト、第一只今關君ノ仰セラレル通リ主務官廳ト云フモノハ始終法人ノ事務ノ内部ニ立入ルコトガ出來マセヌカラ其監督權ハ其名有ツテ其實ガ無イヤウナコトニナリマス、自ラ進ンデ始終其法人ノ業務施行ノ實況ヲ取調ヤウトナルト却テ法人ニ煩ハシイノデ、却テ干渉ノ強イヤウナコトニナルノデアリマス、夫レデ一々報告ヲ受ケテ其報告ノ事體ノ輕重ニ從ツテ尙ホ進ンデ調査ヲスルト云フノデアルカラ、誠ニ便利ナコトデアラウト思ヒマス、殊ニ又主務官廳ニ報告ヲスルト云フコトガ財團法人ニアツテハ一層必要ガアルノデアリマス、社團法人ハ總會ト云フモノモアリ且其社員ガアツテ何時デモ其業務ノ傍ラ監督シテ居リマスルガ、財團法人ノ如キハ時トシテハ數十萬圓ノ財團法人デアツテモ其理事ノ職務、職權濫用ヲ正スベキ監事ヲ置キマシテモ之ヲ報告スル所ガナイ、主務官廳ニデモ持テ往ツテ報告ヲシナケレバ取締リノ甲斐ガナイヤウナモノデアツテ、若シ此主務官廳ト云フコトヲ廢シタ時ニハ財團法人ノ監事ト云フ者ハ殆ド唯監査ノ働キヲシテ居ル丈ケデ其監査ノ功ヲ遂ゲルト云フ手續ガ少シモナイ、謂ハバ監事ト云フ者ハ有名無實ニ歸スルヤウナコトニナルカラ之ハ是非トモ御置キヲ願ヒタイト思ヒマス、又但書以下ヲ削ルト云フコトハ如何デアラウカト思ヒマシタガ後ニ磯部君ノ御說明ガアツテ始メテ分カリマシタ、磯部君ハ後ニ至ツテ此但書ノ事柄ハ惡ルイノデハナイ後ノ六十二條ニ至ツテ加ヘルト云フ御考ヘノヤウデアリマスガ、自ラ進ンデ總會ヲ招集スル權ト云フモノヲ與ヘテ置クコトハ先刻御說明ノアツタ通リ監事ガ持テ居ラナイト理事ガ其爲メニ自分デ總會ヲ招集シテ呉レナイト云フコトガアリマス、之ハ職務施行ニ付テ居ルコトデアリマスカラ、此事柄ガ宜ケレバ本條ニ置カレタ方ガ其所ヲ得テ居ルコトト思ヒマス
尾崎三良君
今磯部君ノ修正說ニ贊成ヲ致シマシタ所ガ起草委員ニ於テハ之ハ置カヌト不都合デ必要デアルト云フ御說デアリマスガ、私ノ之ニ贊成ヲシタノハ磯部君ノ理由ノ外ニモ未ダ之ヲ削リタイト云フ理由ガアリマスカラ夫レヲ一應述ベテ置キマス、今ノ起草委員ノ御說デアルト云フト監事ト云フ者ガ之ヲバ主務官廳ニ是非報告シナケレバナラヌ、報告スルコトガ必要デアル、之ガナイ以上ハ監督ノシヤウガナイト云フヤウニ仰セラレマシタガ、然ウスルト監事ト云フ者ヲ是非置クベシト云フ精神ニナラナケレバ何ウモ合ハナイデアラウ、然ルニ其監事ト云フ者ハ置クコトモ出來又置カヌデモ宜イト云フノデアリマス、シテ見ルト其外部ニ對シテ監督ヲスル爲メノ監事デナクシテ内部デ監督スル丈ケノモノニ違ヒナイ、夫レガ其内部ニ不都合ガアツタカラト云ツテ直チニ主務官廳ヘ夫レヲ訴ヘテ出ル、屆出ルト云フヤウナコトニナルト甚ダ面白クナイ、夫レデアルト主務官廳ノ監督役ヲ見タヤウナモノニナツテ仕舞ツテ甚ダ宜シクナイト思ヒマスカラ、唯之ガ主務官廳ニ報告スルコトガ必要デナイト云フノミナラズ甚ダ惡ルイコトデアル、之ガ惡ルイコトデアルカラ是非之ハ削ツタ方ガ宜カラウト思ヒマス、何ウモ今ノ御說ニ據ルト監事ハ是非置カヌト主務官廳ニ時々報告シナケレバ監督ノシヤウガナイカラ必要デアルト云フコトデアリマスレバ是非之ヲ置クベシト云フコトニシナケレバナラヌ、所ガ一體ノ注文ヲ見ルト理事ハ置カナケレバナラヌガ監事ハ置クコトヲ得ルト云フノデ置カヌデモ宜シイトナツテ居ル、主務官廳ノ監督ト云フモノハ然ウ自分ノ出店ヲ監督スルヤウニ細カニ立入ツテ干渉スベキモノデハナイト思ヒマス、唯監督スルト云フ一ノ看板ヲ掲ゲテ置ク位ノコトデ、百ノ一ツ位監督權ヲ行フベキ場合ガアル位デ、然ウ始終主務官廳ガ監督權ヲ行フヤウナコトハナイト思ツテ居ル、斯樣ニ始終其結果ヲ報告シテ官廳ガ之ニ立入ルト云フコトハ決シテ必要デナイノミナラズ却テ煩ヒヲ來タシテ宜シクナイト考ヘマスカラ修正案ヲ贊成シタノデアリマス
金子堅太郎君
只今削除說ガ出テ其理由モ伺ヒマシタガ、私ハ原案ガ最モ至當ト考ヘマスル、其理由ヲ簡單ニ申シマスガ、今磯部君ノ御修正ノヤウニ監事ガ業務施行ノ實況ヲ官廳ニ時々報告スルト云フコトハ誠ニ會社ノ爲メニモ非常ナ煩雜デゴザイマセウ、又其主務官廳ガ其報告ヲ受ケタ所ガ一々夫レヲ見テ法人ヲ監督スルコトハ實際出來マセヌ、夫レデ今日ノ有樣デゴザイマスレバ、主務官廳ハ其業務ノ施行ニ付テ不整ノ事ノアツタ時ハ理事又ハ株主ノ或部分カラ屆出テ夫レガ曩ニ許シタ所ノ定款ニ違反スルヤ否ヤト云フコトヲ檢査シテ、果シテ官廳ニ於テ認可ヲシタ所ノ定款ニ矛盾シ又法律ニ背テ居ルト云フコトガアレバ其時ニ至ツテ主務官廳ニ於テ處分ヲスル、始終報告ヲ受ケテモ其監事ノ報告ト云フモノハ然ウ目ヲ留メテ視テ往ク譯ニハ往キマセヌ、唯不正ノ行爲ガアツタト云フ報告ガアツタト云フノデ吏員ヲ派出シ役員抔ヲ派出シテ其業務ヲ監督スルコトニナツテ居ル、例ヘバ例ヲ擧ゲテ申シマスレバ高知縣ニ郵船會社ガゴザイマスルガ其船舶ノ老朽又ハ噸數ノ不足ヲ塡補スル爲メニ特別準備金ヲ積ンデ居ルノガアリマス、其特別準備金ト云フモノヲバ今度豫備ガ出テ四分一ニ達スル迄ハ積マウト云フヤウナコトニナツテ居ル、夫レ丈ケ積ンダ殘リハずんずん株券ニ書換ヘテ往ク、株券ノ數ヲ增サウト云フコトガ旣ニ今成掛ケテ居ル、夫レヲ或役員カラ準備金ヲ株券ニ直ホシテ市場ニ出シテ然ウシテ其株券ノ相場ヲ增サウト云フヤウナ計畫デアルト云フコトノ報告ガアツテ直チニ其事ニ付テ調査ヲシテ、之ハ其船舶ノ老朽噸數ノ不足ヲ塡補スル準備金デ夫レガ餘ツタカラト云ツテ株券ヲ增スト云フコトハ出來ヌト云フテ差止メタコトモアリマス、何ウシテモ主務官廳デハ不正ノ行爲ノ報告ガナケレバ曩ニ許シタ定款ニ矛盾シテ居ルヤ否ヤヲ調査スル譯ニハ往カヌ、旣ニ本案ニ於テ官廳ノ許可ヲ得ルト云フコトヲバ御認定ニナツタ以上ハ不正ノ行爲ガアツタ時ニハ官廳ニ屆出ルト云フコトニスルノガ最モ至當ト思ヒマス、併ナガラ其業務施行ノ實況ヲ時々官廳ニ屆出ルト云フヤウニスルノハ會社ノ方デモ煩雜デアラウシ、又主務官廳ニ於テモ其報告ヲ貰ツタ所ガ夫レヲ一々見テ居ル遑モゴザイマセヌ、夫レデ不正ナ行爲ヲ屆出レバ定款ニ依テ夫レヲ照合セテ其行爲ガ果シテ官廳ニ於テ干渉スベキモノデアルヤ否ヤヲ檢査スル、今磯部君ハ頻リニ官廳ガ干渉スル官廳ガ干渉スルト仰ツタガ旣ニ今日ノ官廳ハ各個的ノ干渉ハ聊カモ致シマセヌ、株主全體ノ利益ヲ保護シ社會ノ安寧秩序ヲ維持スル爲ニハ充分干渉シマス、併シ之ハ止ムヲ得マセヌ、其點ニ至ツテハ私ハ原案ガ最モ今日ノ場合ニ於テモ亦將來ニ於テモ斯クアルベキコトハ確信致シマス、夫故ニ何ウカ只今ノ削除說ハ成立タヌヤウニ希望致シマス
磯部四郎君
只今私ガ申上ゲマシタ事ニ付テ少シ誤解ニデモナツテ居リハセヌカト思ヒマス、固ヨリ獨リ此監事ノミナラズ、此法人ト云フモノガアリマシテ夫レニ理事ト云フ者ヲモ場合ニ依テハ數人アルコトモアル、又法人ノ團體ヲ作ル、其法人部内ニ不正ナコトガアツテ夫レヲ報告スルノハ誰デモ構ハヌ、決シテ報告スルコトハナラヌト云フコトハ此法文中ニハ置カヌ積リデアリマス、卽チ不都合ノアツタ時ニハ何人ト雖モ報告ヲシテ宜シイ、又其報告ヲ承ツタ以上ニハ六十七條ニ依テ相當ノ處分アルノハ是亦人民保護ノ爲メニ最モ吾々共ノ望ム所デアリマス、併ナガラ唯此處ノ監事ト云フ者ノ卽チ一ノ職務トシテ報告事務ヲ置キマスルト、社内ノ不都合ヲ發見スル手段トシテ此法文ヲ設ケテ置キナガラ、實際ニ於テハ此報告ト云フ事柄ガ取リモ直サズ監事ノ特別ノ職務ノ如クニナツテ仕舞ツテ、殆ド他カラハ啄ヲ容レルコトガ出來ヌト云フヤウナコトニナツテ、精密ナ調査ガ却テ出來ヌデアラウト云フヤウナ恐レガアラウト私ハ思ヒマス、現ニ然ウ云フコトガアリマス、法律ヲ拵エテ何ニ其位ナ事ハ實際分カルデアラウト云フ立法官ノ考ヘデ然ウシテ御立テニナルト、モウ立ツタ法律デ一種ノ職務ト云フモノガ極マツテ仕舞ツテ他ノ者ガ持テ往ツテモ主務官廳デハ取合ハナイ、必ズ監事其人ガ言フテ來ナケレバ取合ハヌト云フヤウナ弊ガ出テ來テ、却テ此法文ノアルガ爲メニ内部ノ實況ノ調査上宜シキヲ得ナイト云フ弊ガアラウト思ヒマス、加之ナラズ、現ニ監事ノアルモノハ宜シイガ、監事ノ無イ理事ヲ以テ埋メテ居ル法人ニ付テハ何人ト雖モ報告スルト云フ職務ヲ持テ居ル人ガ無イ、無クテモ宜シイ、報告ヲスレバ夫レガ法人ト云フ無能力者ヲ保護スル爲メニ主務官廳ニ於テ監督ヲシテ居ルノデアリマスカラ、其主務官廳ニ於テ相當ノ保護ヲ爲シ手ヲ盡スト云フノハ望ムベキコトデアラウト思ヒマス、旁々監事獨リノ職務ノヤウニ此處ニ書テ報告委員ガ極マツテ仕舞ウコトニスルト、他ノ者ガ卽チ此監事ノ任ニ向テハ忽カセニスルト云フ弊ヲ生ジテ來テ、此報告事務ガ監事ノ特權ノヤウナモノニナツテ來テ、却テ其調査ノ不公平ヲ來タスト云フヤウナ恐レガアラウト思ヒマス、固ヨリ監督廳ノアル以上ハ其監督權ノアル主務官廳ニ理事ナリ監事ナリ其他ノ人カラ不正ナ行爲ガアツタ時分ニハ其事ヲ屆出タナレバ夫レヲ採ラヌト云フコトハアルマイト思ヒマス、若シ採ラヌト云フコトニナツタナレバ監督廳ガ其職務ヲ行ハナイノデアル、夫レデ却テ實際正當ノ監督ヲ爲サシメル爲メニハ斯ノ如ク特ニ監事ノ職務ニ附シタヤウナ條文ノナイ方ガ却テ宜カラウト云フ考ヘカラ削除說ヲ提出シタノデアリマス、決シテ報告スルコトハナラナイト云フ條文ヲ置テ下サイト云フ迄ニ吾々共ハ自由主義ヲ此處デ主張スルノデハ決シテアリマセヌ
田部芳君
私ハ磯部君ノ修正說ニハ全クハ贊成ハシマセヌガ、一部分丈ケ贊成シテ私ガ先キニ提出シマシタ修正案ノ一部ヲ更ニ改メテ、卽チ第四號ノ但書丈ケヲ取リマシテ此總會ヲ招集スルト云フコトハ後ノ箇條ニ讓ルト云フコトニ一ツハ贊成ヲシマス、併ナガラ磯部君ノ御說ニ皆ハ贊成デナイ一部ノ贊成デアリマスカラ之ハ本統ノ贊成デハナイ、其一部分丈ケヲ贊成シテ私ノ先キニ提出シタ案ヲ改メテ前ニ出シマシタ四號ノ但書ヲ削ツテ仕舞ツテ此總會ノ招集ノコトハ後ノ箇條ニ讓ルト云フコトニ致シタイノデアル、デ先程理由ハ述ベマシタガ尙ホ少シク貫徹ヲシナイヤウナ嫌ヒガアリマスカラ一應述ベテ置キマス、或人ハ理事ガ報告サヘスレバ夫レデ宜シイトカ云フヤウナ御考ヘモアルカト私ハ考ヘマス、ガ併ナガラ旣ニ本條ニ於テ、卽チ第一號第二號ニ於テ「財產ノ現況ヲ監査スルコト」、又「業務施行ノ實況ヲ監査スルコト」之ガ監事ノ職務ニナツテ居レバ監事ト云フ者ハ始終夫等ノコトニ付テ目ヲ著ケテ居ルカラ他ノ社員ヨリハ明ルイモノト看ナケレバナラヌ、其明ルイ人カラ報告ヲスルコトガ極メテ必要デアラウ又充分ノ報告ガ出來ヤウト思ヒマス、又同ジ監査ヲシタ人デアツテモ理事ノ方ニナルト當局者デアリマスカラ自然自身ノ都合ノ宜イヤウナ事ノミ報告ヲスルト云フコトニナラヌトモ言ヘナイ、所ガ夫レガ反對ノ地位ニ立ツテ單ニ監査ヲスル人カラ報告ヲスレバ同ジ監査ヲシタ人デモ目ノ著ケ所ガ違ウ、夫レガ調ベルト云フト理事ノ都合ノ惡ルイ所デモ報告ヲスルコトニナラウト思ヒマス、又理事ノ氣ノ著カヌコトモ監事ハ反對ノ地位ニ立ツテ居ルカラ其氣ノ著クコトモ往々アラウト思ヒマス、旣ニ本條ニ於テ監査スル事ガ監事ノ職務デアレバ其監事カラ報告ヲスルコトニシテ、其報告ハ通常ノ總會デアラウガ又臨時ノ總會デアラウガ縱令不正ノ事ガアル無イニ拘ハラズ報告ヲスルコトニシタ方ガ宜シイト云フ考ヘデアリマス、夫故ニ報告スル場合ヲ擴ゲルト云フ修正案ヲ出シタノデアリマス、旣ニ先程モ申シマシタガ、主査會ノ時ノ案ノ六十條ト云フモノハ御承知ノ通リ通常總會ノ話シデアリマス、通常總會ヲ開クニハ何ウシテモ不正ノ事ノナイ場合デモ矢張リ此通常總會ヲ開クノデアリマスカラ、此箇條ノ理由ニ依テ、卽チ「監事ノ報告ヲ受ケ其他重要ノ事項ニ付キ議定ヲ爲サンカ爲メニ」云々ト云フコトガアリマスカラ、旣ニ原案者モ私ノ考ヘデハ監事ガ一般ノ場合デモ報告スルト云フ御考ヘデハナイカト云フ考ヘモアリマスルシ、尙ホ夫レノミナラズ、前ニ述ベタ理由モアリマスカラ、此報告ヲスルコトハ監事ノ職務トシテ其報告スル場合ヲ擴ゲルコトハ極メテ必要ト考ヘマシテ此修正案ヲ提出シタノデアリマス
議長(伊藤伯)
一寸田部君ニ伺ヒマスガ然ウスルトあなたノ前ノ修正說ハ贊成者ガアツテ成立ツテ居リマスカ
田部芳君
未ダ贊成者ガナイノデアリマス
議長(伊藤伯)
然ウスルト成立ツテ居ルノハ磯部さんノ案丈ケダネ
磯部四郎君
然ウデアリマス
尾崎三良君
モウ長クハ申シマセヌガ、此修正說ノ成立タヌヤウナ模樣ガ見エマシテ甚ダ殘念ニ存ジマスカラ一言述ベテ置キマス、今田部君カラ段々御說ガ出マシタガ、田部君ハ株主、商事會社ノコトヲ始終述ベラレタヤウデアリマスガ、之ハ申ス迄モナイ、商事會社デハナイ、別段ノ規則デアル、ソコハ少シ御考ヘガ違ツテ居ラウト思ヒマス、夫レハ丁度今磯部君ノ仰セノ通リ他ノ者ガ報告スルコトハナラヌト云フノデナイ、之ハ監督官廳ガ不正ノ事ヲ聞出シタ以上ハ監督ハスルノデアル、ケレドモ故ラニ監事ト云フ者ニ之ヲ與ヘテ置クト云フコトニナルト監事ノナイモノハ何ウスルカ、監事ノナイモノハ構ハヌ、斯ウ云フ場合ガ出來ヤウト思フ、斯ウ云フコトハ甚ダ面白クナイ、旁々以テ主務官廳ニ報告スルコトヲ故ラニ監事ノ職務ニスルト云フコトハ甚ダ宜シクナイト云フノデアル
議長(伊藤伯)
モウ宜カラウ、然ウスルト磯部さんノ說ニ御同意ノ方ハ起立
起立者少數
議長(伊藤伯)
少數、別段ニ御議論ガナケレバ原案通リト認メテ次ノ條ニ移リマス
(書記朗讀)
第六十一條 社團法人ノ理事ハ少クトモ毎年一回社員ノ通常總會ヲ開クヘシ
議長(伊藤伯)
此條ニ付テハ別ニ御異論ハナササウダネ
末延道成君
ゴザイマス、私ハ旣ニ此臨時總會ト通常總會ト云フ字ハ商事會社ノ分モ斯ウナツテ居リマスルガ、斯ウナツテ居リマスル爲メニ大變意味ヲ間違ヘル人ガ往々アル、詰リ議スル事柄ニ輕重ノアル如クニ臨時ノ事ハ重イ、通常ノ事ハ輕イモノト云フヤウニ解釋ヲスル者ガ多イノデアリマスカラ臨時ト云フ字ニ反對スルヤウニ通常總會ト云フコトヲ定時總會ト變ヘタイト思ヒマス
議長(伊藤伯)
別ニ贊成ガナケレバ本條可決ト認メマス、次ハ六十二條
(書記朗讀)
第六十二條 社團法人ノ理事ハ必要アリト認ムルトキハ何時ニテモ臨時總會ヲ招集スルコトヲ得又總社員ノ五分一以上ニ當ル社員ヨリ會議ノ目的ヲ示シテ臨時總會ノ招集ヲ請求スルトキハ之ヲ招集スルコトヲ要ス但此定數ハ定款ヲ以テ之ヲ增減スルコトヲ得
末延道成君
一寸質問ヲ致シマス、之ハ理事ニ於テ請求ヲ受ケテ開カナカツタ時ハ何ウシマスカ、商法ニモ之ト同ジ規定ガアリマスガ、開カヌノハ始末ガ付カヌノデアリマスカ、或ハ五分一ノ人ガ自ラ招集スルコトガ出來ルノデアリマスカ
穗積陳重君
理事ガ勿論開カナカツタナレバ其場合抔ハ矢張リ業務ノ施行ニ不整ノ事アル場合デ、若シ監事ガアリマスレバ監事ガ必ズ夫レ丈ケノ處分ヲシナケレバナラヌト思ヒマスルシ、又斯ノ如キ場合デアリマスレバ其請求者ト云フ者ガ必ズ其監督廳ニ申告スルモノデアラウト思フノデアリマス、自ラ進ンデ總會ヲ開クト云フ權利ハ此法文デハナイ積リデアリマス
末延道成君
私ハ外ノ國抔ハ能ク知リマセヌガ、能ク之ト同ジ場合ニハ三十日以内トカ云フヤウニ日ヲ限ツタ間ニ開カナカツタ時ハ其請求ヲシタ株主自ラ招集スルコトヲ得ルト云フコトニナツテ居リマス、其方デナイト制裁ガナイ、甚ダ鈍クツテ間ニ合ハヌト思ヒマス、夫レデ監事役ト云フ者ハ惡ルイ事ヲ見出スコトハ出來マスケレドモ夫レヲ矯メ直スト云フ權利ハナイ、又セヨト云フコトヲ迫ル事モ出來ナイ、開ケト云フコトモ出來ナイノデアリマス
侯爵西園寺公望君
一寸私ハ修正說ヲ出シタイ、全ク文字斗リデアリマス、何ンダカ斯樣ニ「招集ヲ請求スルトキハ之ヲ招集スルコトヲ要ス」トカ云フヤウナコトハ頗ルくだくだしいト思ヒマスカラ、之ヲ「又總社員ノ五分一以上ニ當ル社員ヨリ會議ノ目的ヲ示シテ請求スルトキハ臨時總會ヲ招集スルコトヲ要ス」、斯ウ直シタイト思ヒマスルカラ試ニ修正說ヲ出シテ置キマス
關直彦君
私ハ一應起草委員ニ御說明ヲ請ヒタイト思ヒマス、實ハ今質問モアリマシタガ、實際商法ノ定款ヤラ何ヤラヲ解釋スルコトニ付テ困ツタコトガアリマスルノハ、若シ理事ニ於テ社員五分一以上ノ講求ヲ受ケテ總會ヲ招集シナカツタ時ニハ自ラ招集スルコトヲ得ルト云フコトヲ書キ加ヘタ定款抔ガ商法施行抔ノ前ニハ會社ニ多分ゴザイマシタガ、夫レヲ書キ加ヘテ置キマシタノハ主務官廳ガ認可ヲシナイ、夫レカラ又法律ニ於テ招集スルコトヲ得ル權利ヲ持テ居ル者ハ何ウ云フモノデアルカト云フコトヲ研究シテ見ルト、理事ト監査役ほかナイ、とうとう其仕舞ヒニ制裁ガ無クナツテ仕舞ソテとどノ詰リハ訴訟ヲ起シテ其訴訟ノ結果デ理事ヲ強制シテ總會ヲ開カセルト云フヤウナ六ケ敷イ手續ニナラナケレバナラヌト云フコトニナツテ居ルト思ヒマスガ、其邊ハ何ウ云フ御見解デアリマスカ、一寸伺ヒマス
穗積陳重君
只今ノ御質問ハ社團法人ニアツテ、社團ノ定款ニ此招集ノ要求ニ理事ガ應ゼナカツタ場合ハ自ラ招集スルコトヲ得ルト云フコトガ書テアツタラ何ウカト云フ御質問デアリマスカ
關直彦君
然ウデアリマス
穗積陳重君
固ヨリ私ハ其定款ト云フモノハ社員間ノ約束デアリマスカラ
關直彦君
然ウデアリマセヌ、此通リデ宜シイ、其請求ヲ受ケテ開カナカツタ時ニハ訴訟ノ結果ニ依ルカ或ハ今ノ御說ノ通リ監査役ガ招集スルト云フ御說デアリマスガ、若シ監査役モ招集シナカツタ時ハ何ウデアルカ、其結果ガ甚ダ明カデナイヤウデアリマスカラ伺ツタノデアリマス
穗積陳重君
固ヨリ監査役ガ招集シテモ監査役ガ招集ヲスルノト云フモノハ報告ヲナス爲メノ總會デアリマスルカラ、監査役ノ招集シタ總會デ此事ヲ議スルコトハ出來ヌト思フ、或目的ノ爲メニ招集サセタノデアリマスカラ、然ウスルト前ニ申ス通リニ本條カラハ自ラ進ンデ其社員ガ招集スルト云フコトハ出來マイ、又訴訟ノ結果デハ勿論出來ヌノデ、訴訟デハ法律ノ極メガアツテ始メテ出來ルノデアリマスカラシテ、訴ヲ起シテ理事ニ臨時總會ヲ招集セヨ、斯ウ云フ事ハ或ハ出來ルカモ知レント思フ、夫レカラ定款ニ斯ノ如キ事ガ書テアリマスレバ、私ノ見解ニ依ルト固ヨリ之ハ社團法人ナレバ出來ルノデアル、社團皆ンナガ約束シタノデアリマス、詰リ法律ニ牴觸シナイ事ヲ約束シタノデアリマスカラ出來ルノデアラウト思ヒマス
土方寧君
先刻此六十二條ノ中頃ノ「會議ノ目的ヲ示シテ臨時總會ノ招集ヲ請求スルトキハ」云々ト云フ所デ「招集ヲ請求スルトキハ之ヲ」ト云フノヲ削ルト云フ西園寺さんノ修正案ガアリマシタガ之ハ宜シイト思ヒマスカラ贊成シマス、一寸考ヘタ所デ或ハ會議ノ目的ヲ示シテ請求スルトキハト云フヤウニ極マツテ仕舞ウト何ヲ目的トスルカ分カラナイ、同ジ理窟ヲ以テ來ルト、「社團法人ノ理事ハ必要アリト認ムルトキハ」ト云フコトヲ仕舞ヒニ迄持テ往ケバ何ニ必要アルカ、くどくどシク書ケバ社團法人ノ理事ハ臨時總會ヲ招集スルコトヲ必要ナリトスルト云フ風ニ書カナケレバナラヌ、文章ノ仕舞ヒ迄讀メバ分カル、臨時總會ヲ招集スルコトヲ必要ト思ヘバト云フヤウニ仕舞ヒ迄讀メバ分カル、其次ニ總社員ノ五分一以上ニ當ル社員ヨリ會議ノ目的ヲ示シテ請求スルトキハ臨時總會ヲ開クト云フコトニシタ方ガ宜シイト思ヒマス、然ウスルト始メノ場合ト釣合ヒガ宜シイト思ヒマスカラ贊成シテ置キマス
高木豐三君
一寸起草委員ニ御相談シマスガ、先刻末延さんカラ出タ修正案デアリマスガ案ガ能ク整ツテ居リマセヌカラ直チニ贊成ヲシナカツタノデアリマスガ、私ノ考ヘデハ或ハ實際ニ於テ必要デアラウト考ヘル、其場合ガ見テナク、又制裁モ別ニ定メテナイ、夫レヲ主務官廳ニ報告スルコトデアラウト云フコトデアリマスルガ、主務官廳ハ場合ニ依テハ許可ヲ取消シ若クハ其他ノ監督ハシマセウガ、總會ヲ開クノ助ケニハナラヌト思ヒマス、夫レデ旣ニ實際ニモ理事監査役共ニ總會ヲ開カヌト云フヤウナコトガ或ハアリ得ベキコトト思フ、其譯ハ役員ト其他ノ社員ト利害ヲ異ニスルト云フコトハ實際ニ於テ往々アルコトデアリマス、其際ニ若シ役員ニ於テ總會ヲ開クコトガ不利トスル時ニハ或ハ開カヌコトモアルカモ知レヌ、今迄ノ起草委員ノ御答ヘニ依ルト此法文ニ依テノ結果ハ斯ウナルト云フ丈ケノ御說明デアリマスルガ、一體絶對的ニ然ウ云フ法文ハ要ラナイ、必要デナイト云フ御考ヘデアリマスレバ其理由ヲ尙ホ慥ニ承リタイ、或ハ然ウデナク、然ウ云フコトモアツタラ宜カラウト云フコトデアレバ例ニ依テ御熟考ノ上デ修正ヲ自ラ御加ヘニナツタラ直チニ行ハレヤウト思ヒマスルカラ念ノ爲メニ御意見ヲ伺ツテ置キタイ
穗積陳重君
願クハ然ウ云フ場合ニハ修正案ヲ御提出ニナルコトヲ望ミマスルガ、併シ其場合ニ文章ノコトヤ何カハ固ヨリ御相談ヲシテモ宜シウゴザイマスケレドモ、私共モ能ク考ヘテ見マセヌケレバ固ヨリ始メ出サナカツタノデアリマスカラ篤ト考ヘテカラデナケレバ案ヲ出ス譯ニハ往キマセヌノデアリマス
高木豐三君
私ハ規則ハ心得テ居リマスルガ、只今伺ツタノハ趣意ニ於テハ贊成ガ出來ナイ、熟考ヲ俟タナイト云フ御考ヘデアリマスルガ、或ハ熟考ノ上若シ宜シイコトデアレバ入レテ見ヤウト云フ御考ヘデアリマスレバ、寧ロ文章ノ不文ナルガ爲メト云フコトデアリマスレバ潰レルノモ殘念デアリマスカラ、起草委員自ラ是迄ノ例モナイコトデハナイノデアリマスルカラ然ウ云フコトニハナラヌカト云フ御相談ヲシタノデアリマス
穗積陳重君
夫レ程明瞭ニハ往キマセヌ
磯部四郎君
只今末延さんカラ御提出ニナツタ修正案ハ大變勢力ガアルヤウデアリマスカラ豫防線ヲ張ラナケレバナラヌト思ヒマス、私ノ考ヘデハ斯カル澤山ノ權限ヲ持タセルノハ宜クナイ、其譯ハ元來始メカラ調査ガ法人ノコトニ付テハ大變御手篤イノデ、一ニハ卽チ理事ノ權限ヲ定メ其權限ニ反シタコトガアレバ社團ガ其責ニ任ゼヌト云フコトガアル、或ハ第三者ニ對シテ效力ガナイトカ充分理事ノ職務ヲ執ル點ニ付テハ法律ノ保護至ラザルナシ、加フルニ又一年ニ一度宛ノ總會ヲ招集スルト云フコトガ法律デ極マツテ居ル、其間ニ向テ平社員ガ五分一以上位デ以テ請求ヲスレバ何時デモ總會ヲ起シ然ウシテ法人ノ機關ノ運轉ヲ妨ゲル抔ト云フコトハ、或ハ善意ヲ以テ運動スル場合ヲ想像スル時ニ於テハ必要デアルカモ知レマセヌケレドモ、實際ノ經驗カラ考ヘテ見ルト、僅カ五人ヤ七人ノ社員ガ己レノ意ノ如クナラナケレバ此奴等ガ運動ヲシテ然ウシテ其機關ノ運轉ヲ妨ゲルト云フヤウナコトハ往々見ル所デアリマスカラ、充分前ノ條文等デ其制裁モ出來テ居リマスルシ、又理事ノ權限ト云フモノモ制限シテアリマスカラ、若シ能ク能ク不都合ナコトガアツタナレバ卽チ總會ノ時ヲ俟ツテ其總會ノ決議ニ依ルト云フコトニシテ、其間ハ法人ノ機關ノ運轉ヲ自由ニ取扱ウコトガ出來ルヤウニシテ置クノガ此社團法人ノ爲メニ最モ必要デアラウト思ヒマス、ここらデ以テ五人ノ者ガ同意サヘスレバ直樣五人ノ者ガ隨意ニ臨時總會ヲ招集スルコトガ出來ルト云フヤウナコトニシテ置クノハ甚ダ宜シクナイ、之ハ原案ノ儘ガ却テ宜シカラウト思ヒマスカラ一寸一言シテ置キマス
末延道成君
私ハ之ニ第二項ヲ加ヘタイ、其文ハ「前項ノ規定ニ依リ請求ヲ受ケタル理事カ總會ヲ招集セサルトキハ其請求者自ラ之ヲ招集スルコトヲ得」トシタイノデアリマス
高木豐三君
贊成シマス
關直彦君
私ハ只今ノ末延さんノ修正說ヲ贊成スルノデアリマス、只今磯部君ガ喋々防禦線ノ理由トシテ社員ガ騒グ云々ト云フコトヲ述ベラレマシタガ、之ハ何ウシテモ社員五分一以上ノ者カラ請求ガアツタ時分ニハ理事ガ開カナケレバナラヌ、若シ理事ガ開カナカツタ時ハ其結果訴訟迄往クカ、或ハ簡便ナルコトデ處分スル手續ニスルカト云フ問題ニナルノデアリマスカラ、之ハ到底開カナケレバナラヌ事ナレバ訴訟ヲ起ス抔ノ面倒ナ手續ヲスルヨリモ法律デ以テ其規定ヲシテ置イタ方ガ寧ロ明瞭デアラウト考ヘマスカラ、末延さんノ說ヲ贊成シテ置キマス
尾崎三良君
本員モ末延さんノ說ヲ贊成シマス、成程磯部君ノ御說モアリマシタケレドモ到底開カナケレバナラヌト云フノデアリマスカラ、磯部君ノ說ヲ充分ニ目的ヲ達セントスレバ削ラント工合ガ惡ルイ、之ハ止ムヲ得ズ贊成シマス
議長(伊藤伯)
夫レデハ西園寺さんノ修正說ニ御同意ノ方ハ起立ヲ請ヒマス
起立者多數
議長(伊藤伯)
多數
穗積陳重君
只今ノ案ガ通過致シマシタナラ少シ文字ヲ改メテ貰ヒタイト思ヒマス、夫レハ「會議ノ目的ヲ示シテ請求スルトキハ」デ通リマシタガ之ヲ「請求ヲ爲ストキハ」ト云フコトニシテ戴キタイト思ヒマス
高木豐三君
贊成シマス
梅謙次郎君
只今ノ穗積さんノ御說ハ通ツタモノト心得テ宜シウゴザイマセウカ
長谷川喬君
夫レデ宜カラウ
末延道成君
私ハモウ少シ贊成ヲ得タイ爲メニ例ヲ申シマス、旣ニ先日モ或會社デ社員ガ總辭職ヲシテ總會ヲ開クコトガ出來ヌデ餘程困ツタコトガアリマス、斯樣ナ實例モ旣ニアルノデアリマスカラ、之ハ矢張リ然ウ云フ場合ニハ其請求者自ラ開クコトガ出來ルヤウニシテ置キタイト思ヒマス
奧田義人君
私モ末延君ノ說ヲ贊成シマスガ、少シ文章ニ付テ御相談シタイコトガアリマス、夫レハ之ヲ「理事ニ於テ前項ノ招集ヲ爲ササルトキハ請求者自ラ之ヲ招集スルコトヲ得」トシテハ何ウデゴザイマセウカ
磯部四郎君
大變ニ此修正說ガ多數ヲ得マシタヤウデアリマスカラ尙ホ一言申上ゲテ置キタイ、成程此六十二條ノ條文ヲ見マスルト云フト「會議ノ目的ヲ示シテ請求ヲ爲ストキハ臨時總會ヲ招集スルコトヲ要ス」トアリマスカラ、兎ニ角總社員五分一以上ノ者ガ卽チ臨時總會ノ招集ヲ請求シマシタ時ニハ必ズシモ開カナケレバナラヌノデアリマスカラ、其結果カラシテ裁判所ヲ騒ガスヨリモ寧ロ法律ヲ以テ卽チ其招集ヲ請求シタ人ニ自ラ招集スルノ權利ヲ與ヘタ方ガ宜シイデハナイカト云フ理由ガ勢力ヲ占メテ卽チ末延君ノ修正說ニ贊成ガアツタヤウデアリマス、併シ之ハモウ一應御考ヘヲ煩ハシマセヌト大キニ實際上ノ不都合ヲ來タサウト思ヒマス、卽チ其理由ハ成程今此處デ總社員ノ五分一以上ニ當ル所ノ社員ガ何故ニ總會ノ招集ヲ請求シテ來タカ、此時ニ當ツテ理事ガ夫レハ必要デナイコトト考ヘテ打棄ラカシテ置ク、其結果ガ訴訟ニナルコトハ當リ前デアリマスガ、併シ訴訟ニナツタ以上ハ事實ヲ審按シテ卽チ別段ニ總會ヲ招集スル丈ケノ價値ノナイ事柄デアル、夫故ニ招集セザルノハ當リ前デアルト云フ裁判ガ着ク、然ルニ今此法律デ第二項ヲ御加ヘニナツテ何ンデモ漢デモ總會ノ招集ヲ請求シテ來テ夫レヲ理事ガ聞カヌト云フコトニナツタ曉ニハ五分一以上ノ請求者ガ何時デモ其請求者自ラ招集スルコトガ出來ルト云フコトニナルト、尙ホ今日ノ只今申上ゲマシタ弊ヲ偶々防ガントシテ却テ法律ヲ以テ實際上言フ可ラザル不都合ヲ生ズルダラウト思ヒマスルト云フモノハ五分一以上ノ者ガ何ンデモ漢デモ同意スレバ何時デモ此總會ノ招集ト云フコトヲシテ然ウシテ此社團ノ卽チ法人ノ働キヲ幾分カ停止スルト云フコトガアリマス、先程例ヲ承レバ何トカノ會社ノ總役員ガ辭表ヲ出シテ總會ヲ招集スルコトガ出來ナカツタト云フコトデアリマシタガ、或ハ然ウ云フ弊ハアリマセウ、ケレドモ然ウ云フ弊ハ稀レニ臨ムコトデアツテ然ウ屡々起ルコトデモアルマイト思ヒマス、之ニ反シテ只今ノ第二項ノ如キモノガ出來ルト、どの法人ニモ五分一以上ノ者ガ同意ヲシテ總會ノ招集ヲ請求シテ來サヘスレバ、其際ニ理事ガ若シ開カヌ時ハ請求者ガ何時デモ自ラ招集スルコトガ出來ルト云フコトニナルト其社團法人ノ機關ノ働キニ大變ナ差障リヲ來タスト云フ恐レガアリマスカラ、寧ロ訴訟ノ結果ニ委ネルト云フ方ガ不完全ナヤウデアツテモ却テ此社員ノ亂暴ナル運動ヲ防グコトガ實際ニ於テ充分出來ヤウト思ヒマス、此裁判ト云フモノニ依レバ幾分カ名ノ無キ軍サヲ擧ゲルコトガ實際ニ出來ヌト云フ利益ガアラウト思ヒマス、夫レデ私ハ此五分一以上ニ當ル社員ニ理事ガ夫レヲ受ケヌト言フテ直チニ自ラ總會ヲ招集スルコトヲ得ルト云フ權限ヲ與ヘルト云フコトヲ第二項トシテ置カレルコトハ差置カレンコトヲ望ム者デアリマス、之ハ最終ノ意見トシテ述ベテ置キマス
梅謙次郎君
私ハ今ノ修正說ニ對シテ反對スル迄ニ至リモシマセヌ、又贊成シナケレバナラヌト云フ程ノ必要モ見出シマセヌ、其譯ハ先刻商法ノ規定ニ於テ定款デ以テ五分一トカ又ハ夫レヨリ多イトカ少ナイトカノ人ガ請求シテモ理事ガ招集シナイ時トカ、或ハ又てんで理事ニ請求スルノデナクシテ必要アリト認メタ時ハ夫レ丈ケノ人ガ同意スレバ直接ニ總會ヲ招集スルコトガ出來ルト云フコトヲ定款ニ極メテ於テモ主務官廳デ認可シナクテ不都合デアツタト云フコトデアリマスガ、或ハ商法ノ規定ハ夫レガ爲メニ不都合デアルカト考ヘマスガ、此案デ見マスルト云フト其ヤウナルコトハ無論定款デ定メルコトガ出來ル、寧ロ定ムベキ事柄ノ一ツト思ヒマス、第四十條ニ依ルト、定款ノ中ニ卽チ其第七號ニ「總會ノ招集及ヒ決議ノ方法」ト云フコトガアリマス、此招集ト云フ所ニハ或ハ今ノヤウナルコトガ必要ト認メレバ無論書テ置クコトガ出來マス、此六十二條ト云フモノハ是丈ケノ委シイ規定ガナクテモ定款ニ是丈ケノ事ハ出來ル、是丈ケノコトハ是非ナケレバナラヌ、是ヨリ外ニ尙ホ四分一ナリ五分一ナリノ社員ガ同意スレバ直接ニ總會ヲ招集スルコトヲ得ルト云フコトヲ定款ニ定メルコトハ第四十條ノ第七號ニ依テ少シモ差支ナイ、出來ルノデアル、今一ツ末延さんノ言ハレタコトデ役員ガ總辭職ヲシタ場合ニ困ル、現ニ困ツタ例ガアルト云フコトデアリマシタガ、ソンナ場合ハちやんト見テアルノデアリマス、卽チ第五十七條ニ「理事ノ缺ケタル場合ニ於テ」云々「裁判所ハ利害關係人又ハ檢事ノ請求ニ因リ假理事ヲ選任スヘシ」ト云フコトガアリマスカラ、然ウ云フ場合ニハ急ニ裁判所ニ請求シテ假理事ヲ選任シテ貰ウノデアリマスカラ、實際上差支ヘナイト思ヒマス、無論斯ウ云フコトハ裁判所ハ權利義務ノ關係ヲ取捌ク所デアリマスカラ、如何ニ緩慢ナル裁判所デモ然ウ緩慢ニシテ置クト云フコトモアルマイト思ヒマスカラ、實際上然ウ差支ヘハナカラウカト思ヒマスガ、如何デゴザイマセウカ、一寸御參考ノ爲メニ申シテ置キマス
土方寧君
磯部君ノ一番終ニ述ベラレタ理由モアリ、夫レカラ只今梅君カラ述ベラレタ理由モアリマスガ、其上尙ホ此二項ヲ加ヘルト云フ修正案ノ新ラシイ規定ヲ置クト云フコトニナルト、一寸見ルト理事ガ總會ヲ開カナカツタ時ニハ其請求シタ者ガ開クト云フヤウナコトハ明カニ區別ハ分カリマスガ、請求シタナレバ直グニ開クト云フコトモ出來マスマイ、場合ニ依テハ長短ノ場合モアル、幾日經ツテ理事ガ開カナケレバ請求者ガ自ラ開クコトガ出來ルト云フヤウナコトニデモセヌト尙ホ此二項ヲ加ヘラレルト云フコトニ贊成セラレタ人ノ目的ヲ達スルコトハ出來ヌト思ヒマス、夫レデ私ノ考ヘデハ磯部委員ノ言ハレタヤウニ五分一以上ニ當ル社員ガ同意サヘスレバ何時デモ總會ヲ開クコトガ出來ルト云フヤウナコトニスルノモ弊ガアラウト思ヒマス、夫レデ之ハ別ニ今ノヤウナ二項ヲ加ヘル程ノ必要モナイト思ヒマス、矢張リ原案ノ通リガ宜シイト思ヒマス
關直彦君
只今ノ土方君ノ御話シノ幾日經ツテト云フヤウナコトハ定款デ充分極メルコトガ出來マスルカラ法律デ此原則サヘ示セバ宜シイ、夫レカラ只今梅さんノ御說デアリマスガ、商法デハ先ヅ訴訟ノ結果ニ依ラナケレバ仕方ガナイト云フヤウナ解釋デアリマスガ、此前ノ四十條モ然ウデアリマス、解釋ガどちらニデモ出來ルト云フヤウナコトデハ困ル、往ケルヤウデモアルシ、往ケヌヤウデモアルシト云フヤウナコトナレバ往ケルヤウニシテ置キタイト思ヒマス
梅謙次郎君
夫レハ大丈夫デアラウト思ヒマス、商法ニ於テハ徃ケナイト云フコトハ第百五十七條ノ三項ニ於テ「定款ハ本法ノ規定ニ牴觸スルコトヲ得ス」トアリマス、夫レデ矢張リ商法ノ第百九十八條ニハ「取締役監査役其他本法ニ依リテ招集ノ權ヲ有スル者」ト明示シテアツテ其他ノ者ハ權ヲ持タヌ、而シテ二百一條ニ「臨時總會ハ臨時ノ事項ヲ議スル爲メ何時ニテモ之ヲ招集スルコトヲ得又總株金ノ少クトモ五分一ニ當ル株主ヨリ會議ノ目的ヲ示シテ申立ツルトキハ亦臨時總會ヲ招集セサルコトヲ得ス」トアル、又百八十八條ノ規定ニ依テモ無論分カリマスガ、之デハ差支ヘルカラ私ハ惡ルカラウト思ヒマスガ、一體此法人ノ規則ハ商法ノ株式會社ノ規則程ノ束縛的ノ規則デハナイ、寧ロ定款ニハ勝手ニ極メラレル、定款ニ極メナクトモ是丈ケノ事ハ出來ル、又之ニ反對シテ五分一以上ノ社員ガ請求ヲシテモ開カヌト云フコトハ書ケヌガ夫レヨリ外ハ書ケルト云フコトハ大概明瞭デアラウカト思ヒマス
穗積陳重君
今一言梅君ノ御說明ニ附ケ加ヘテ置キマスガ、始メ吾吾ガ起草シタ時ニハ此法人ニ關スル箇條ト云フモノハ六十幾條、殆ド七十箇條斗リアツタノデアリマス、尤モ他ノ國ノ法人ニ關スル規定ハ委シク出テ居リマスガ、本案ハ成ルベク之ヲ短クシタイト云フ精神デ此第四十條ハ殖エマシタケレドモ定款ノ方ニ讓ルト云フ精神デ餘程省イテアリマス、獨逸抔デハ現ニ斯ノ如キ場合ハ裁判所ガ非訟事件トシテ取扱ツテ招集ヲ命ズルヤウナ規定ガアツタヤウデアリマスガ、ソンナコトモ態々省イタノデアリマスカラ、固ヨリ斯ノ如キ細カイ事ヲ此處ニ入レマスルト云フト外モ矢張リ其權衡デ細カイ事ヲ規定シナケレバナラヌ、本案デハ成ルベク定款抔ノ自治ノ方ニ讓リマシタノデアリマス
高木豐三君
唯一言駁シテ置キマスガ、梅君ノ只今ノ御辯解ニ依ルト云フト、吾々ノ考ヘデハ若シ其論鋒デアリマスレバ六十二條ニ規定シテアルコトハ總テ矢張リ四十條ノ規定ニ依テ定款ヘ讓ルコトノ出來ルモノト考ヘル、若シ理事ガ必要ト認メタ時ニ臨時總會ヲ招集スルニハ斯ウ、五分一以上ノ贊成ノアル時ニハ斯ウト云フコト丈ケヲ極メルニ付テ特別ノ理由ヲ承リマスレバ格別、否ラザル以上ハ「總會ノ招集、決議ノ方法」ト云フ規定ノアル以上ハ定款ニ於テ均シク定メラレル、併ナガラ之モ此處ヘ書イタ方ガ宜シイト云フ御旨意デアツタ以上ハ臨時總會ヲ招集スルコトヲ要スト云フ義務ヲ負ハセテ置テ而シテ無制裁ト云フコトハ何ウシテモ理窟ニ合ハヌ、夫レデ此處ニ苟モヤラナケレバナラヌト云フヤウナ義務ヲ負ハセタ以上ハ少クトモ罰則ノ制裁ガ付クトカ、否ラザレバ社員ニ於テ夫レハ開クコトガ出來ルト云フヤウニスルトカ何ントカ之ニ關スル途ヲ明ケテ置カナケレバ完全ナル法律ト云フコトハ出來ヌ、片落チノ案ト言ハナケレバナラヌト思ヒマス、夫レカラ磯部君竝ニ土方君抔ノ御說ニ依ルト、夫レデハ五分一以上ノ社員ガ同意ヲシテ請求ヲスレバ何ンナ下ラナイ事デモ總會ヲ開カナケレバナラヌコトニナラウト言ハレマスルガ夫レハ法律自ラガ極メテ居ルノデアリマス、其理窟ノ下ルカ下ラナイカハ固ヨリ分カラナイ、兎ニ角五分一以上ノ社員カラ其目的ヲ示シテ請求ヲスレバ開カナケレバナラヌト言フコトニナツテ居リマス、夫レデ私ハ先ヅ此修正ハ期間ヲ入レルカ入レヌカト云フヤウナコトハ別デアリマスガ、兎ニ角本條ヲ此儘デ置ク時ニハ此修正ハ何ウシテモ入レルガ相當デアラウト思ヒマス
議長(伊藤伯)
モウ宜カラウ、夫レデハ末延さんノ說ニ贊成ノ方ハ起立
起立者少數
議長(伊藤伯)
少數、夫レデハ第一ノ修正通リニ可決ト認メマス、暫時休憩シマス
午後七時十二分休憩
休憩後午後七時四十三分開議
缺席員
伊藤總裁
關直彦君
菊池武夫君
末延道成君
議長(西園寺侯)
是ヨリ議事ヲ開キマス、第六十三條
(書記朗讀)
第六十三條 總會ノ招集ハ少クトモ五日前ニ其會議ノ目的及ヒ事項ヲ示シ定款ニ定メタル方法ニ從ヒテ之ヲ爲ス但定款ニ別段ノ定アルトキハ豫メ通知セサル事項ニ付テモ決議ヲ爲スコトヲ得
奧田義人君
異議ナシ
議長(西園寺侯)
別段御發議ガナクバ次ノ條ニ移リマスガ如何デアリマスカ
斯波淳六郎君
此條ニ「目的及ヒ事項ヲ示シ定款ニ定メタル方法ニ從ヒテ之ヲ爲ス」トアル此「定款ニ定メタル方法ニ從ヒ」ト云フコトヲ入レラレタノハ如何ナル譯デアリマスカ起草委員ニ伺ヒタイ、「定款ニ定メタル方法ニ從ヒ」ト云フコトハ無論ノコトト思ヒマスルカラ此處丈ケ別ニシタナレバ何ウデアラウカト云フ考ヘデアリマスガ、何カ之ハ別ニ理由ガアリマスカ伺ヒタイ
穗積陳重君
御答ヘヲ致シマス、「此定款ニ定メタル方法ニ從ヒテ之ヲ爲ス」ト云フコトハ勿論極マツタコトデハアリマスガ此處ニ書イタノハ或ハ此招集ト云フモノハ色々仕方ガアラウト思ヒマス、或ハ手紙ヲ發スルトカ或ハ新聞ニ廣告ヲ爲ストカ、必ズ其方法ガ一定シテ居ラヌト思ヒマスカラ、夫レデ分カリ易イ爲メニ之ヲ書イタノデアルト云フ丈ケノ理由デアリマス
議長(西園寺侯)
別段御發議ガナクバ次ノ條ニ移リマス、第六十四條
(書記朗讀)
第六十四條 社團法人ノ事務ハ定款ヲ以テ理事又ハ其他ノ役員ニ委任シタルモノヲ除ク外總テ總會ノ決議ニ依リテ之ヲ行フ
磯部四郎君
異議ナシ
土方寧君
私ハ異議ハアリマセヌガ、此六十四條ハ此前ニハ氣ガ付カヌデアリマシタガ少シ前ノ五十四條ニ書テアルコトト實際ニ違ヒハアリマスマイカ、能ク符合ヲセヌ調和セヌヤウナコトニナリハシナイカト云フ疑ヒヲ起シマシタカラ一寸伺ヒマス、法人ガスル事ハ何レ丈ケノ事ガ出來ルカト云フコトハ如何ニモ法人ノ能力ノ問題デ夫レハ法人ノ種類ニ依テ違ウ、併ナガラ此處ニ一ノ法人ガアルト見レバ法人ニハ必ズ理事ヲ置カナケレバナラヌト云フコトニナツテ居ルカラ法人ノ爲シ得ルコトハ總テ理事ガ爲スコトガ出來ル、法人ハ自ラ爲スコトガ出來ナイカラ理事ガ代ハツテスルト云フノガ五十四條ノ意味デアル、然ウシテ見ルト定款ニ何カ定メテナイ時分ニハ勿論誤テ理事ガ委任セラレタモノト見ナケレバナラヌト云フコトニナル、然ウ云フコトニナリマスルト、此六十四條ノ文デアルト、定款カ何カデ以テ理事其他ノ役員ニ委任シテアルモノヲ除ク外ハ總會デヤルト云フコトニナツテ居リマスガ、總會ノ方ガ理事ノ職務トカ職權トカヨリ強イト云フコトハ言ハヌデモ分カツテ居リマスガ、唯委任シナイ事ハ勿論總會ノ決議ニ依テスルト云フ此條ト前ノ五十四條デ、斯ウ云フ事ハ總テ理事ガスルト云フノト實際ニハ違ヒアリマスマイケレドモ辭ノ符合シナイヤウニ思ヒマスガ何ウデアリマセウカ
穗積陳重君
第五十四條ニハ代表ノ事ヲ規定シタノデ代表ト言ヒマスルト外トニ對シテノ事、夫レカラ六十四條ノ方ハ法人ノ内部ノ事務ノ規定デアリマスカラ別ニ牴觸ハシナイ積リデアリマス
議長(西園寺侯)
他ニ御發議ガナクバ次ノ條ニ移リマス第六十五條
(書記朗讀)
第六十五條 社員ノ議決權ハ定款ニ別段ノ定ナキトキハ各社員平等ナルモノトス
磯部四郎君
之ハ「社員ノ議決權ハ各社員平等ナルモノトス但定款ニ別段ノ定アルトキハ此限ニ在ラス」ト云フコトニシタ方ガ宜シイト思ヒマス、詰リ平等ガ本則デアツテ定款ノ定ニ依テ或ハ權限ニ等差ヲ付ケルノガ例外デアリマスルカラ此處ハ斯樣ニシタ方ガ明瞭ト思ヒマス、夫レデ修正說ヲ提出致シマス、贊成ガナケレバ夫レデ宜シイ
末松謙澄君
贊成
穗積陳重君
之ハ意味ニ於テ違ヒモ致シマセヌカラ格別大變ナ反對ヲスルノデモゴザイマセヌガ、此社員ト云フ字ガ餘リ近寄ルノデアリマスルカラ少シ響キガ何ウカト思フ位ノ事ガアルノデアリマス
議長(西園寺侯)
只今ノ磯部サンノ御說ノ上ノ「社員」ト云フノヲ取ツテ「各社員ノ議決權ハ平等ナルモノトス」ト云フ風ニシテハ何ウデゴザイマセウカ
磯部四郎君
贊成致シマス
末松謙澄君
之ハ「平等トス」トシテモ宜シイ
磯部四郎君
夫レデモ宜シイ
中村元嘉君
贊成シマス
議長(西園寺侯)
磯部君ノ御意見ハ夫レデ宜シイノデアリマスカ
磯部四郎君
「各社員ノ議決權ハ」ト云フノハあなたノ御加ヘニナツタ通リ、卽チ「各社員ノ議決權ハ平等ナルモノトス但定款ニ別段ノ定アルトキハ此限ニ在ラス」ト云フノデアリマス
中村元嘉君
夫レデハ私モ「ナル」ヲ付ケル方ニ同意致シマセウ
議長(西園寺侯)
夫レデハ「平等ノモノトス」ト云フノデハ往ケマセヌカ
本野一郎君
夫レデハ註釋ジミテハ居リマセヌカ
梅謙次郎君
「モノトス」ナレバ極ク法文ジミテ居リマス
議長(西園寺侯)
夫レデハ決ヲ採リマス只今ノ磯部君ノ動議ニ贊成ノ御方ハ起立ヲ請ヒマス
起立者多數
議長(西園寺侯)
多數デゴザイマス、他ニ御發議ガナクバ次ノ條ニ移リマス
(書記朗讀)
第六十六條 社團法人ト社員トノ間ニ於ケル法律行爲ニ關スル議事ニ付テハ其社員ハ議決權ヲ有セス
高木豐三君
之ハ趣意ニハ固ヨリ關係スルコトデアリマセズ意味ニ於テモ格別違ウト云フ譯デモアリマセヌガ、少シ可笑シイト思ヒマスルカラ修正說ヲ提出致シマス、「其社員ハ」トアル「其」ノ下ニ「當事者タル」ト云フ五字ヲ加ヘタイト思ヒマス、之ハたいした理由トシテ言フ程デモアリマセヌケレドモ、此法文通リニ讀ンデ字ノ如ク解スレバ法人ト社員トノ間ノ法律行爲ニ關スル規定ニ付テハ社員タル者ガ議決權ヲ有セズト云フヤウニ見エル、固ヨリ社員外ノ者ガ議決ニ加ハル理窟モナイガ、元ト前ノニモ社員ト云フノガ廣ク書テアル、之ヲ單獨ニ書分ケテモ矢張リ同ジコトデアリマスガ、併シ或場合ニ於テハ絶對的ニ總社員ト法人トガ關係ガナイトモ言ヘナイト思フ、其場合ニハ勿論誰モ議決スルヤウナ者モナイヤウデアル、夫レデ誰意味丈ケノコトデアリマス
穗積陳重君
一寸說明ヲ致シタウゴザイマスル、豫テ御參考ノ爲メニ廻ツテ居リマスル主査委員會ノ議案ト、夫レカラ主査委員會ニ於テ議決ニナリマシタ方ノ蒟蒻版ノ方ノ議案ヲ御較ベ下サイマスルト云フト、此舊トハ「法律上ノ行爲」トアリマシタノガ主査委員會ノ修正ニ依リテ「法律行爲」トナリマシタ、之ハ前ニ目錄ヲ議定ニナリマシタ時ニハ「法律上ノ行爲」ト議定ニナツテ居リマシタガ、此書ガ修正ニナリマシタ結果トシテハ「法律上ノ行爲」ガ「法律行爲」ト直ホリマス、目錄モ同ジク直ホルヤウナ結果ニナリマスカラ、此處丈ケハ御注意ノ爲メニ申上ゲテ置キマス
穗積八束君
一寸質問致シマスガ此處ニ「法律行爲」ト云フコトガ書テアリマスガ、此儘デ讀ンデ見ルト成程定款抔ヲ拵エル時法人ト社員トノ矢張リ法律行爲デゴザイマセウガ、多分法律行爲ト云フ字ヲ權利ヲ得義務ヲ負フ或ハ債權債務ノ所ノ總テノ所ニ持テ往ケバ矢張リ法律行爲ト解釋ガ出來ルト思ヒマスガ、若シ然ウデゴザイマスレバ變ナ結果ニナリハシマスマイカ、各々皆其當事者デアルト見レバえらい不都合ナコトニナラウト思ヒマスガ、夫レハ何ウ云フ風ノ解釋ヲシテ宜シウゴザイマスカ
穗積陳重君
始メ定款ヲ作リマスル、定款ヲ作リマスルノハ始メ法人設立ノ時デアリマスルカラシテ、固ヨリ本條ニ所謂財團法人ト社員トノ間ニ特別行爲ヲ爲スコトハ此處ニ籠ツテ居ラヌ積リデ書テアルノデアリマス
穗積八束君
併シ定款ヲ變更スル時ハ何ウデアリマスカ
穗積陳重君
之ハ社團ノ議決、社團ノ議事デアリマスルカラシテ、夫故ニ社團法人ト云フモノガ一方ニアツテ其社員ガ他ノ一方ニ在ツテ而シテ取扱フ所ノ法律行爲デハナイ、卽チ社團法人ト云フモノガ其定款タル契約ノ一方デ夫レカラ夫レニ對シテ又社團法人以外ノ社員タル者ト取結ブ所ノ行爲、斯ウナルノデアリマス
穗積八束君
夫レデハ一寸伺ヒマスガ、此前ノ「法人ト理事トノ間ニ利益相反スル事項ニ付テハ理事ハ代理權ヲ有セス」ト云フヤウナコトト同ジヤウナコトデアラウカト思ツテ居リマスガ、矢張リ社團部内デノコトニ付テ或特別ナ社員ガ特別ニ利益ヲ得ルヤウナコトニナリマスル處分ノ仕方ノ時ニハ其社員ガ議決權ヲ持タナイヤウナ意味デアラウカト思ツテ居リマスガ、然ウ云フ時ニハ社團部内ノ事務ノコトデアルカラ此條ニハ依ラナイト云フ御積リデアリマスカ
穗積陳重君
其積リデアリマスガ此處デ「社團法人ト社員トノ間ニ於ケル法律行爲」ト書キマスルト、例ヘバ社團ノ持テ居ル家屋ヲ或一ノ社員ガ借リマストカ、或ハ社團法人ノ持テ居リマスル物ヲ買ヒマスルトカ、然ウ云フヤウナ風ノコトヲ指シタ積リナノデゴザイマス
磯部四郎君
一寸伺ヒタイノデアリマスガ、之ハ先程穗積委員カラノ御尋ネデアリマスガ、斯ウナルト大變違ヒマセウカ、「社員トノ間ニ於ケル利益相反スル事項」ト云フ風ニ五十八條ノ文章ト同ジヤウナ風ニシテハ違ヒマスカ
穗積陳重君
實際上大變ハ違ウマイト思ヒマスル理由ハ、此理由書ノ始メニモ書テアリマスルガ、大概ハ法律行爲ヲ取結ビマスルト云フト一方ノ利益トナルト云フ事ハ必ズシモ一方ノ利益トナルモノデナイト云フコトガ多イ、併ナガラ悉ク然ウトハ申シ切レヌノデアリマス、事實上然ウ云フ場合ガ多カラウト云フ位ノコトデアリマス
磯部四郎君
宜シウゴザイマス
土方寧君
高木君ニ伺ヒマスガ、「其」ト云フノハ社團法人ヲ指スト云フノデアリマスカ
梅謙次郎君
當事者ト云フト少シ何ウモ御叮寧過ギルヤウデアル
議長(西園寺侯)
高木君ノニハ贊成ガアリマセヌカ
高木豐三君
贊成ハアリマセヌ
議長(西園寺侯)
夫レデハ別ニ御發議ガナクバ確定ト認メテ次ノ條ニ移リマス
(書記朗讀)
第六十七條 主務官廳ハ法人ノ業務ヲ監督シ何時ニテモ職權ヲ以テ其業務及ヒ財產ノ實況ヲ檢査スルコトヲ得
岸本辰雄君
一寸御尋ネシマスガ、「檢査スルコトヲ得」トアル、得タ後不都合ガアル不正ナコトガアルト云フト何トカナル次第デゴザイマセウカ、唯見テ之ハ不都合ダト云ツテ仕舞ウ丈ケノ意味デアルカト云フコトヲ伺ヒタイ
穗積陳重君
御尤モナ御尋ネデアリマスル、此主務官廳ノ監督權ト申シマスルモノノ結果ヲ規定シタ法律ハ隨分諸國ニアリマシテ、其檢査ノ結果ニ依テ相當ノ命令ヲ下スコトヲ得ルトカ或ハ其組織若クハ業務ノ施行ト云フモノニ改良ヲ命ズルコトヲ得ルトカ云フヤウナ規定モ往々諸國ニ見エルヤウデアリマスガ、本案デハ其主義ヲ採リマセヌデ、餘リ深ク立入ツテ自ラ其不正ノコトヲ正シテヤルト云フヤウナコト迄ニ立入ルト云フコトハ此法律ノ總則上デハ定メテ置カヌ方ガ宜カラウ、或種類ノ法人ニ付テ斯ノ如キコトガ要ルト云フコトデアレバ何レ特別ノ種類ノコトニ付テハ特別法ガ出來ヤウト思ヒマシテ夫レデ大概始末ガ付クコトデアラウト思ヒマスデ本條デハ檢査丈ケニ止メル、其結果ガ認可ノ取消シト云フコトニナルカモ知レヌ、改良ヲ命ズルトカ何ントカ云フヤウナ行政官廳ノ方ノ事迄ハ本案デハ止メテ仕舞フタノデアリマス、何ウシテモ往カヌト見レバ認可ヲ取消スダラウト云フ位ニ考ヘタノデアリマス
土方寧君
異議ナシ
議長(西園寺侯)
他ニ御發議ガナクバ次ノ條ニ移リマス
(書記朗讀)
第三節 法人ノ解散
第六十八條 法人ハ左ノ事由ニ因リテ解散ス
一 定款又ハ寄附行爲ニ於テ定メタル解散事由ノ發生
二 法人ノ目的タル事業ノ成功又ハ其成功ノ不能
三 破產
四 設立ノ許可ノ取消
社團法人ハ右ニ掲クル場合ノ外左ノ事由ニ因リテ解散ス
一 總會ノ決議
二 社員ノ缺亡
穗積陳重君
此處デモ一ツ說明ヲ致シテ置キタイコトガゴザイマスル、夫レハ此第一項ノ第三號ニ「破產」トゴザイマス、之ハ御承知ノ通リ固ヨリ破產ト云フ處分ハ商取引ノ結果ト是迄ナツテ居ルノデアツテ並ノ民事ノ方ニ及ブ辭デハゴザイマセヌカラ、或ハ此處ノ破產ト云フコトヲ訝リニナル御方モアラウト思ヒマスガ、之ハ主査委員會ニモ旣ニ提出致シマシタルコトデゴザイマスルガ豫決問題ト致シテ何レ若シ主査會デ議決ニナリマシタナレバ此破產ト云フモノハ商事計リデナシニ民事ニモ及ブ處分ト云フコトニ破產法ヲ特別法トスルト云フ豫決問題ヲ提出スル考ヘデ此處ノ第三號ニ「破產」ト云フ文字ガ用ヒテアルノデアリマス、萬一主査委員會若クハ總會ニ於テ其豫決問題ガ否決セラレマシタ時ニハ固ヨリ其結果ト致シテ此「破產」ハ破產ニ相當スル文字ニ改メル積リナノデゴザイマス、ソコ丈ケヲ御承知ヲ願ヒ置キマス
田部芳君
只今穗積委員カラ此第三號ノ「破產」ト云フコトニ付テノ御說明ガゴザイマシタガ尙ホ一應承ツテ置キタイコトガアリマス、夫レハ此破產ト云フモノヲ商事非商事共ニ適用スル法律ニスルト云フ豫決問題ハ先ヅ主査委員會ニ御提出ニナリマシテ其主査委員會デ議定ニナリマシタモノヲ總會ニ御提出ニナル順序ニセラルルト云フ御考ヘデアルカドウカト云フコトヲ承ツテ置キタイ
穗積陳重君
私共ニ於テハ夫レガ順序デアラウカト思ヒマスルノデアリマスガ、勿論總裁ノ御考ヘデ直チニ總會ニ其問題ヲ提出シテ宜シイト云フコトデアリマスレバ然ウナルカモ分カリマセヌ、唯吾々ノ考ヘ丈ケヲ陳ベタノデアリマス
田部芳君
尙ホ質問致シマスガ、私モ之ハ充分考ヘヲ要スル問題ト考ヘマスルカラシテ、先ヅ主査會ニ掛ケテ然ウシテ其少數ノ人ガ審議ヲシテ可決サレタ上ハ總會ニ掛ケルト云フヤウニ鄭重ニシタ方ガ宜カラウト思ヒマスカラ、其希望丈ケヲ陳ベテ置キマス
高木豐三君
私ハモウ一ツ大層ナ修正說ヲ出シマス、此四號ニ「設立ノ許可ノ取消」トアル此上ノ「ノ」ノ字ヲ削ルト云フ動議ヲ提出シマス、卽チ「設立許可ノ取消」ト直ホシマス
田部芳君
贊成
高木豐三君
御參考迄ニ述ベテ置キマス、勿論日本文トシテハ之デ少シモ差支ヘナイノミナラズ此方ガ正シイト思ヒマスガ、併シ旣ニ四十九條ニモ斯ウ云フ場合ニ「ノ」ノ字ハ削ツテ起草者自ラ御書キニナツタ例モアルカラ直ホシタイノデ、之ハ格別御反對モアルマイト考ヘテ居リマス
尾崎三良君
一寸起草委員ニ質問致シマスガ、之ハ私ハ甚ダ不案内デゴザイマスカラ承リマスガ、此解釋ノ事項ヲバ二段ニ分カツタノハ何ウ云フ譯デアリマスカ、一緒ニスルト往ケヌト云フノデアリマスカ
穗積陳重君
之ハ第一項ハ唯「法人ハ」トアリマスルカラ社團法人ニモ財團法人ニモ通ズルノデアリマス、第二項ハ社團法人丈ケニ通ズルノデアリマス、夫故ニ二段ニ分ケタノデアリマス
梅謙次郎君
高木君ノ修正ニ付テハ論ズル程ノコトデモアリマセヌシ何ウナツタ所ガ差支ヘナイ、夫レデ内輪ノ御話シヲスルト、始メ「設立許可ノ取消」トアツタノヲ衆議ノ上デ「ノ」ノ字ヲ入レタノデアリマス、夫レデ前ノ「設立許可ノ年月日」ト云フ所ニ「ノ」ガナクテ此處ニ在ルノハろじつくガ叶ハヌト云フ御說ハ御尤モノヤウニ聞エマスガ前ノハ「設立許可」ト云フノヲ一ノ客タル文字ト見ルノデナクシテ設立許可アリタル年月日ト云フノデアリマスガ、こちらハ「許可ノ」ト云フノガ主デ「設立」ト云フノガ形容詞デアリマスカラ、「設立ノ許可ノ取消」ト云フ方ガ宜シイト云フヤウナ感ジガ致スノデ、夫レ丈ケノコトデ「ノ」ノ字ガ這入ツテ居ルノデアリマス
議長(西園寺侯)
決ヲ採リマセウ、「ノ」ノ字ヲ削ル說ニ贊成ガアリマスカラ之ヲ削ルコトニ贊成ノ御方ノ起立ヲ請ヒマス
起立者多數
議長(西園寺侯)
多數デアリマス、他ニ御發議ハアリマセヌカ、大抵土方君ト磯部君ノ顔ヲ見レバ議論ガアルカナイカ分カル
長谷川喬君
私ノハ所詮通リハシマスマイガ併シ此處デ一言丈ケ修正說ヲ述ベタイ、夫レハ此第一號カラ四號迄アリマスル其次ヘ第五號ト云フモノヲバ加ヘ、其五號ト云フモノハ後ノ第一號ニアル所ノ「總會ノ決議」ト云フノデ、「五總會ノ決議」トシテ、夫レカラ六ト云フモノヲ入レテ其六ニハ「社員ノ缺亡」ト云フ所ニ當ル所デアリマスガ此六號ヲ「社員若クハ財產ノ缺亡」トシタイト思ヒマス、夫レカラ其間ニアル「社團法人ハ右ニ掲クル場合ノ外左ノ事由ニ因リテ解散ス」ト云フコトハ削除スル夫レカラ末項ヲ「法人解散ノ場合ニ於テハ理事ハ總會ヲ招集シ解散ノ決議ヲ採ル但第六號ノ場合ハ此限ニ在ラス」ト入レタイ、此修正ヲ出シマスル重モナル理由ハ、第二ノ「社員ノ缺亡」トアル所ヘ尙ホ財產ノ無クナツタ場合ヲ入レルノモ必要デアラウト思ヒマス、其譯ハ此財團法人ノ場合ニ於テ財產ガ凡テ無クナツテ仕舞ツタ場合ニハ尙ホ社團法人ニ於テ社員ガ全クナクナツタ場合ト同一デアリマスカラ自然之ハ入レナケレバナラヌト思ヒマス、夫レカラ末項ヲ加ヘタ譯ハ此條ニ依リマスルト云フト「法人ハ左ノ事由ニ因リテ解散ス」トアル丈ケデアツテ然ウシテ何ウ云フ場合カト云フト此處ニ記載シテアル通リ、或ハ解散事由ノ發生シタトカ、或ハ法人ノ目的タル事業ノ不能トカ或ハ成功スルトカ云フコトデアリマスルガ、卽チ此解散事由ノ發生シタトカ或ハ事業ノ成功シタトカ或ハ成功スルコトガ出來ヌト云フコトヲ誰ガ認メルカト云フト此處ニ認メル者ガアリマセヌ故ニ事實上必ズ總會ガ之ヲ認メナケレバナラヌト思ヒマス、故ニ旣成法典ニ依リマシテモ此解散ノ場合ニハ總會ガ解散ヲ決スルコトニナツテ居リマスカラシテ此方ガ至極穩當デアラウカト思フノデアリマス、第六號ノ社員ガ皆亡クナツテ仕舞ツタトカ云フ場合ニハ之ハ勿論總會ヲ招集スルコトノ出來ヌノデアリマスカラ、夫レガ爲メニ末項ニ於テ但書ヲ加ヘタノデアリマスル、先ヅ重モナル理由ハ其邊デアリマスルガ、所詮成立チハ致シマスマイガ修正說ヲ提出シテ置キマス
岸本辰雄君
長谷川君ニ質問致シマスガ、財產ノ缺亡シテ仕舞ツタ時ニモ總會ノ決議ガ要リマスカ
長谷川喬君
夫レハ卽チ但書ニアリマス、「但第六號ノ場合ハ此限ニ在ラス」ト云フ事ガアリマス
岸本辰雄君
私モ贊成致シマス、何モ斯ウ別ニスルノ必要モアリマセヌ、社團法人ト財團法人ノ違ヒ丈ケハアル唯總會ノ決議丈ケハ財團法人ニハ適用セント欲シテモ出來マセヌ、夫レデ斯ウ別ニ書キ分ケルノ必要ハナイト思ヒマスカラ贊成シテ置キマス
梅謙次郎君
一寸長谷川君ニ御質問ヲ致シタイガ、只今ノ長谷川君ノ案デ、先ヅ第一ニ其社員又ハ社團ダカ財團ダカノ缺亡ト云フノデアリマスケレドモ、現在ノ財產ハ無クナツテモ、例ヘバ現ニ理事ヲヤツテ居ル人トカ何ントカガ代ハリニ財產ヲ寄附シヤウ、新ニ法人ヲ立テル爲メニ、此前ニ議論ノアツタ寄附行爲デハアリマセヌケレドモ旣ニ成立ニナツテ居ル財產ニ法律行爲デ謂ハバ贈與ヲシヤウト云フノデ、少シモ其會社ノ事業ニ妨ゲヌデモ是非解散ヲシナケレバナラヌ、而シテ更ニ法人設立ノ手續ヲ履ムニ非ザレバ其事業ヲ繼續シテ往クコトハ出來ヌト云フ御考ヘデアリマスガ、モウ一ツハ只今ノ御修正案ニ依ルト、解散ノ時期ト云フモノカ何ンダカ不明瞭デアルカラ總會ヲ招集シテ夫レニ認メサセナケレバナラヌト云フコトデアリマスケレドモ、第一ニ其總會ト云フモノハ社團法人ニシカナイモノデアツテ、斯ク一般ニ書テ置イテモ差支ヘナイ御積リデアリマスカ、今一ツニハ其總會デ認メナケレバ解散ガナイト云フコトデアレバ前ノ原因ガアツテモ總會デ以テ多數ガ夫レヲ認メナケレバ明カニ法律ニ牴觸シテ居ル法人デモ矢張リ設立シテ居ツテ構ハヌモノデアル、斯ウ云フ理由デアリマスカ、其邊ノ所ヲ一應伺ツタ上デ或ハ贊成スルカモ知レマセヌ
長谷川喬君
其第一ノ財產ノナクナツタ時ニ更ニ財產ヲ加ヘルト云フヤウナコトハ尙ホ社員ガナクナツタ時ニ社員ヲ加ヘルノト同ジコトデハナイカト思フ、夫レカラ財團法人ニハ總會ガナイト云フコトハ勿論デアリマスルガ、此條ニ於テ先刻岸本君モ言ハレタヤウニ、性質上ナイモノナレバ之ニハ適用ハシナイ、夫レカラ法律ニ反シタコトガアツタ場合ニモ總會ノ決議ガアツタナレバ宜シイカト云フコトデアリマスガ、如何ナル場合デモ法律ニ反シタコトガアレバ夫レハ總會ノ決議ノ問題デハアルマイト思ヒマス
穗積陳重君
私モ序デニ御尋ネヲシマスガ、長谷川君ノ御說デ第五號ノ「總會ノ決議」ト云フコトト、夫レカラ第二項ノ「解散ノ決議ヲ採ル」ト云フコトトハ別ノモノデアリマスカ、之ガ一ツ、夫レカラ又第六號ニ「社員若クハ財產ノ缺亡」ト書テアリマスルト、之ニ依リマスルト、財產ガナクテモ事業ノ成功ニハ差支ヘナイ場合ガアル、旣ニ此財產ハ前ニ或ル事業ニ入レテ仕舞ツタガ其働キハ爲シテ居ル、縱令事業ノ成功ニハ妨ゲガナクテモ財產ノ缺亡ト云フコトガアツタナラバ解散シナケレバナラヌカト云フコトガ第二デアリマス、夫レカラ次ニ「財產ノ缺亡」ト云フノハ固ヨリ然ウデアラウトハ思ヒマスガ、社團法人デ財產ノ缺亡モ財團法人ノ財產ノ缺亡モ共ニ含ンデ居リマスカ、是丈ケノ御尋ネヲシマス
梅謙次郎君
序ニ御答辯ニナルト便利デゴザイマセウカラ私モ伺ツテ置キマスガ、之ハ若シ總會ニ於テ此處ノ六十八條ニ擧ゲテアル原因ハナイモノト見テモ若シ事實ニ於テ此原因ガアツタナラバ當然解散シタモノト見ルヤ否ヤ、不法ノ決議ナレバ夫レハ勿論往カヌト言ハレマスケレドモ實際ヤツタ時ニハ何ウナルカト云フコトヲ承ツテ置キタイ、夫レカラ今一ツハ社團法人ニ付テ此原因ノアルト云フコトヲ認メル何カ一ツ行爲ガナケレバナラヌト云フコトデアレバ定メシ財團法人デモ同樣デアラウカト思ヒマスガ、財團法人ニハ夫レハ何モナクテモ宜イト云フ特別ノ點ガアリマスカ、此二ツノ點ヲ序ニ承ツテ置キタイ
長谷川喬君
隨分澤山ノ御質問デアルカラ若シ間違ツタナラバ尙ホ御尋ネヲ願ヒタイ先ヅ穗積さんノ第一ノ御問ヒデ、修正ノ第五號ニアル「總會ノ決議」ト云フノト末項ニアル解散ノ決議ヲ採ルト云フコトトハ同一デアルカト云フ御尋ネデアリマシタガ、之ハ旣ニ總會デ以テ解散ヲシヤウト云フコトヲ決議シタ以上ハ又夫レヲ重ネテ總會ニ掛ケルト云フヤウナコトハよもやアルマイト思ヒマスカラ勿論或場合ニ於テ一旦總會デ議決ヲシタ以上ハ末項ニ於テ更ニ總會ヲ開クト云フコトハナイト云フ積リデアリマス、夫レカラ第二ノ社圍法人ノ場合ニ矢張リ其財產ガナクナツタナラバ解散スルカト云フ御尋ネデアリマスガ其事ニ對シテハ然リト答ヘル、旣ニ社團法人ト雖モ凡テ財產ガ無クナツタ以上ハ無論解散スベキモノデアラウト思ヒマス、夫レカラ財產ガナクテモ事業ノ成功ニ妨ゲナイ時ハ何ウデアルカト云フコトニ付テハ財團法人デアル以上ハ財產ガナケレバ其目的ヲ逹スルコトハ出來ヌダラウト思ヒマス
穗積陳重君
社團法人ハ何ウデアリマスカ
長谷川喬君
社團法人ノ場合デハ前ニ御答ヘヲシマシタ通リデ、社團法人ノ場合デハ財產ガナクナルト云フト解散スベキモノデアル
穗積陳重君
事業ノ成功ニ妨ゲナクテモ
長谷川喬君
事業ノ成功ニ妨ゲナイトモ解散スルノデアリマス、夫レハ現ニ會社法抔ニ依ルト資本ガナクナレバ解散スルト云フコトモアル位デアリマスカラ
梅謙次郎君
今一ツハ此處ニ掲ゲテアル事實ガ實際ニ於テ存在スルニモ拘ハラズ總會ニ於テ解散ノ決讓ヲ爲サザルトキハ何ウスルノデアリマスカ
長谷川喬君
其事業ガ存在スルヤ否ヤト云フコトハ誰ガ見ルカト言ヘバ總會ガ見ル譯デアリマス
梅謙次郎君
破產ノ宣告ガアツテモ
長谷川喬君
夫レハ當然見ルデゴザイマセウ
梅謙次郎君
見ナカツタナラバ
長谷川喬君
併シ此法律ニ於テハ總會デ見ルト云フコトニシテ置クカガ當然デアラウト思ヒマス
梅謙次郎君
モウ一點ハ法人ニ於テハ會社ノ總會カ社團ノ總會カ何カデ以テ認メナケレバ不確カデ往カヌト云フコトデアリマスガ、財團法人ニハ夫レガナクテモ宜イト云フ何カ特別ノ理由ガアリマスカ
長谷川喬君
財團法人ハ外ニ認メヤウガアリマセヌカラ夫レハ別ニ此案ノ通リノ主義デ理事ナラ理事デ宜カラウト思ヒマス
議長(西園寺侯)
只今ノ長谷川さんノ案ニ贊成ガアリマスカラ議場ニ問フテ見マス、長谷川さんノ動議ニ贊成ノ方ハ起立ヲ請ヒマス
起立者少數
議長(西園寺侯)
少數、別段ニ御發議ガナクバ次ノ條ニ移リマス
(書記朗讀)
第六十九條 社團法人ハ定款ニ別段ノ定アル場合ヲ除ク外少クトモ總社員ノ四分三ノ承諾アルニ非サレハ解散ノ決議ヲ爲スコトヲ得ス
議長(西園寺侯)
本條モ別ニ御發議ガナクバ次ノ條ニ移リマス
(書記朗讀)
第七十條 法人カ其債務ヲ完濟スルコト能ハサルニ至リタルトキハ裁判所ハ理事若クハ債權者ノ申立ニ因リ又ハ職權ヲ以テ破產ノ宣告ヲ爲ス
議長(西園寺侯)
此處ニ「至リタルトキハ」ト殊更ニアリマスガ之ハ何ウ云フ譯デアリマスカ、「能ハサルトキハ」デハ往ケマセヌカ
梅謙次郎君
文章ノ上デハ同ジヤウデアルカモ知レマセヌガ書イタ者ノ心持デハ違ウヤウデアリマス、唯一遍完濟スルコトガ出來ナカツタト云フ譯デナク完濟スルコトガ出來ヌヤウナ位地ニ至ツタトキハト云フ意味デアリマス
議長(西園寺侯)
夫レデハ「位地」ト云フコトデモ書カヌト往ケヌヤウデアル
梅謙次郎君
之ハ商法ノ文章ト同一デアリマス
穗積陳重君
全ク此處ハ商法ノ文章ト同ジニシタノデアリマス
議長(西園寺侯)
別段御發議ガナクバ次ノ條ニ移リマス
(書記朗讀)
第七十一條 法人カ其目的以外ノ事業ヲ爲シ又ハ設立ノ許可ヲ得タル條件ニ違反シ其他公益ヲ害スヘキ行爲ヲ爲ストキハ主務官廳ハ其許可ヲ取消スコトヲ得
尾崎三良君
一寸起草委員ニ質問ヲシマスガ、主務官廳ハ法人ガ公益ヲ害スルモノト見タ時ニハ後トデ其許可ヲ取消スコトガ出來ルト云フコトニナツテ居リマスガ、之ハモウ取消シタ以上ハ縱令其取消方ガ甚ダ不都合ナ仕方デアルト見テモ夫レヲ何處カヘ訴ヘルコトモ何ウスルコトモ出來ヌト云フ譯デアリマスカ
穗積陳重君
之ハ固ヨリ主務官廳ガ認メマシタナラバ取消スコトガ出來ルノデアリマスカラシテ、斯ウ云フ事ヲ行政裁判所ヘデモ訴ヘラレルト云フヤウナ明文ガ他ニアリマスレバ夫レハ兎ニ角デアリマスガ、併シ夫レハ私ハ一寸此處デハ暗記ヲシテ居リマセヌ、本條デハ丸デ主務官廳ノ職權ニアル、斯ウ云フ書キ方ノ積リデゴザイマス
尾崎三良君
何ウモ些ツト酷トイヤウニ思ヒマス成程主務官廳ト云フモノハ皆えらい人ノ寄合ヒデアリマスカラ間違ヒモアリマスマイガ、此公益ヲ害スベキ行爲ト云フヤウナコトハ隨分濫用ノ出來ルモノデアル、目的以外ノ事業ヲ爲ストカ或ハ設立許可ノ條件ニ違反スルトカ云フヤウナコトハはツきり分カツタコトデアリマスルカラ間違ヒモアリマスマイケレドモ、此公益ヲ害スルト云フヤウナコトハ其範圍ガ甚ダ廣イコトデアリマス、旣ニ商事會社デアツテモ「裁判所ハ檢事ノ申立ニ因リ又ハ其職權ニ依リ其命令ヲ以テ之ヲ解散セシムルコトヲ得但其命令ニ對シ卽時抗告ヲナスコトヲ得」ト云フコトガアリマス已ニ斯ノ如ク一番公平ナルコトヲスル裁判所ノスルコトデスラモ不服ナレバ抗告ヲスルコトガ出來ルト云フヤウニシテアリマス、然ルニ夫レガ行政官廳デアリマスレバ裁判所ノヤウナ確トシタ區域ノ定マツタ法律上ノ定メデナクシテ其箇條ヲ其人ノ腦髓デ極メルコトガアツタナレバ益々不公平ナコトモ隨分アラウト思ヒマス、之ニ少シモ抗告ノ途モナケレバ何モナイト云フヤウナコトハ甚ダ何ウモ不都合千萬ナコトデアラウト思ヒマス夫レデ之ハ行政裁判所ヘ訴ヘルコトノ出來ルヤウニシタイモノデアリマス、夫レデ只今行政裁判所ヘ訴ヘ得ベキヤウニスル箇條ノコトハシツカリハ覺エマセヌガ然ウ云フコトハナカツタト思ヒマスカ
中村元嘉君
アリマセヌ
尾崎三良君
夫レデ文字ハ御直ホシ下サツテモ宜シウゴザイマスガ試ニ一ツ修正說ヲ提出シテ見マセウ、「取消スコトヲ得但此處分ニ對シ不服アルトキハ行政裁判所ニ訴フルコトヲ得」ト云フコトニシタイ此處分ト言ヘバモウ取消シノ處分ニナル、夫レデ文字ハ諸君ニ於テドノヤウニ御直シ下サレテモ宜シウゴザイマスガ此意デゴザイマス、何ウカ御贊成アランコトヲ希望致シマス
磯部四郎君
一寸質問致シマスガ、前ノ第五十四條ニ依ルト「理事ハ總テ法人ノ事務ニ付キ法人ヲ代表ス」ト云フコトガアリマス、夫レカラ此七十一條ニ依ルト「法人カ其目的以外ノ事業ヲ爲シ」云々トアリマスガ、元來此理事ト云フモノハ詰リ法人ヲ他ニ向テ代表シテ居ル者デアル、夫故ニ此七十一條ノ如ク法人自カラハ固ヨリ其目的以外ノ事ヲ爲スコトハアリマスマイ、必ズ其代表者タル理事ガ爲ス譯デゴザイマセウ、其理事ノ爲シタコトガ法人全體ヲ組織シテ居ル總會ノ決議カ何カデアツテ其決議シタ事柄ガ目的以外ノ事業デアル時ニハ無論之デ宜シウゴザイマセウケレドモ、併ナガラ前ノ第五十四條ノ「法人ヲ代表ス」ト云フコトニナルト、縱シヤ理事ナル者ガ法人ヲ代表シテ自分一己デ不法ナコトヲ爲シテモ法人自カラ爲シタヤウナ風ニ見解ヲ下シテ解散ヲセラレルヤウナコトガアリハシナイカト云フ疑ヒヲ一寸起シマシタガ、何ウデゴザイマセウカ御說明ヲ願ヒタイ
穗積陳重君
固ヨリ法人ガ其目的以外ノコトヲ爲シテ居ルト云フコトガ萬アリマシタ時ニハ、法人ガ外ニ向テ働キマス時ハ理事ニ依テ働クノデゴザイマセウ、而シテ理事ガ其目的以外ノコトヲスルニモ自分一己ノ考ヘデスルノモゴザイマセウシ、又社團法人ニアツテハ其社團法人ノ總會ノ議決ガ目的以外ノ事業ヲ營ムト云フコトモゴザイマセウ、理事ガ夫レニ從ツテ營ムコトモゴザイマセウ、又雙方含ンデ居ルコトモアラウト思ヒマス、或ハ理事ガ自分ノ心持ヲ以テ目的以外ノコトデ少シ斗リノ事ヲスル、又ハ理事ガ自分丈ケノ心持ヲ以テ長イ間引續テ目的以外ノ事業ヲ爲スト云フヤウナコトモゴザイマセウ、然ウ云フ風ノ場合ハ雙方共ニ含ミ居ルノデゴザイマス、唯併ナガラ主務官廳ガ一旦ひよつと誤ツテ然ウ云フコトヲシタト云フヤウナ時ハ取消スト云フヤウナコトモシナイカモ知レヌ、其目的以外ノコトヲ爲シタト云フ時ハ必ズ取消スト云フノデモアリマセヌ、夫故ニ少シ斗リノコトガアツタカラト云ツテモ必ズ取消スト云フコトニハナリマスマイ
磯部四郎君
然ウスルト此條文ハ理事一己デ代表シタ行爲ガ其目的以外ニ渉ツテモ或ハ取消ス必要ガアルト云フノデゴザイマセウカ
穗積陳重君
固ヨリ然ウ云フ積リデアリマス、財團法人抔ニ付テハ固ヨリ其積リデアリマス
磯部四郎君
然ウスルト理事ガ代理權ヲ持テ居ナイト云フ外仕方ガナイ、事實ヲ審案シテ理事一己ノ權限デヤツタ時ニハ夫レハ理事其人ヲ責メル丈ケデ法人其者ニハ疵付ケヌト云フ譯ニハ此處ハ往カヌノデアリマスカ
穗積陳重君
夫レハ事柄ニ依テ大變違ウト思ヒマス、理事ハ法人ノ機關トハ申スモノノ殆ド法人單一ノ機關デアル理事ガスルコト丈ケナレバ宜イト云フテ許シテ置ク譯ニハ往キマスマイ、法人ノ理事ガ始絡引續テ目的以外ノ事業ヲ法人ノ爲メニ爲シテ居ルト云フ場合ニ於テハ矢張リ始メノ許可ノ目的モ空シクナリマスカラ夫レハ矢張リ取消サレナケレバ困マリマス、斯ノ如キ間違ツタ機關ヲ持テ居ル法人ハ矢張リ其理事ニ依テ目的以外ノ事業ヲ爲スモノト云フコトニナラウト思ヒマス
磯部四郎君
何ウデセウカ夫レデ宜イデセウカナ
穗積陳重君
ソコハ宜シク御考ヘヲ願ヒタイ
磯部四郎君
私ハ能ク考ヘテ居ル、餘程工合ガ惡ルイト思フ
穗積陳重君
然ウデナケレバ困マルト思ヒマス
磯部四郎君
夫レデハ五十四條ノモ「法人ノ目的以内ノ事務」トカ云フヤウニ書テ置ケバ宜シイ、然ウスレバ全ク法人ノ目的デナイ所ノ卽チ法人ノ機關全體ガ許サヌ事業ナレバ代表シテ居ラヌコトニナツテ來ル
梅謙次郎君
夫レデハ困マル、一體前ノ五十四條ニ於テ理事ト云フ者ハ法人ノ事業卽チ法人ノ目的以外ノ事業ニ付テシカ元ト代理權ヲ持テ居ラナイ者デアル、又持ツモノデアリマセヌ、併ナガラ實際ニ於テ目的以外ノ事ヲヤル、併ナガラ其理事ト云フ者ハ誰ガ拵エタカト云ヘバ矢張リ法人ガ拵エタ、間接ニ矢張リ法人ガ責任ヲ持タナケレバ仕方ガナイ、ソコデ財團法人デ理事ガ絶ヘズ目的以外ノコトヲシテ政府デ許可シナイコトヲ堂々遣ル、或ハ又社團法人デ理事ガ夫レヲ遣ルノヲ總會デ默許シテ居ルモノデアラウカ何ウデアラウカ默許シテ居ルト言ヘバヽヽヽヽヽヽヽ
磯部四郎君
分カリマシタ
本野一郎君
尾崎君ノ修正案ニ贊成シマス
富井政章君
先刻ノ尾崎さんノ修正案デアリマスガ、本案ハ法律ニナルノデアリマスカラ然ウ云フ規定ヲ入レテモ少シモ差支ヘナイノデアリマス併シ其事柄タルヤ性質上行政法ニ屬スルコトニ相違ナイ、夫レヲ此所ヘ入レルノハ體裁上如何ナモノデゴザイマセウカ、明治二十三年十月ノ法律第百六號ノ「行政廳ノ違法處分ニ關スル行政裁判ノ件」ト云フ中ノ第三ニ「營業免許ノ許否又ハ取消ニ關スル事件」ト云フコトガアル、此「又ハ取消ニ關スル事件」ト云フコトニ甚ダ似テ居ル、一ツハ營業ヲ目的トスルモノデアル、又一ツハ營業ヲ目的トシナイモノデアルト云フ丈ケデ何ウシテモ體裁上カラ言ヘバ之ニ倣フベキモノデアラウト思ヒマス、然ウシテ見レバ今行政裁判所ノ職權ニ付テハモウ少シ廣メナケレバナラヌト云フ說モアル位デアリマスカラ行政裁判所ノ權限ヲ極メル所ノ法律ノ方ヲ改正シタナラバ如何デゴザイマセウカ、其方ガ體裁ガ宜カラウト考ヘル
尾崎三良君
只今富井君カラノ御說デアリマシタガ、一體此行政裁判所ト云フモノハ卽チ行政裁判法ノ第十五條ニアル通リ、「行政裁判所ハ法律勅令ニ依リ行政裁判所ニ出訴ヲ許シタル事件ヲ審判ス」トアリマシテ、其精神ト云フモノハ卽チ法律ヲ作ル時ニ此件ハ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ許スト云フコトヲ其都度掲ゲテ往ク積リデアリマスカラ、之ヘ持テ往ツテ法律勅令ニ因リ出訴ヲ許シタルモノハ裁判ヲスル、斯ウナツテ居ルソコデ差當リ必要ノコトガアルト云フノデ今ノ百六號デ以テ是丈ケノモノハ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得ルトシタノデアル其精神カラ言ヘバ之カラ後追々ト法律ガ出來ル度ビ毎ニ行政裁判所ニ訴ヘルコトガ出來ルモノハ夫レヲ書キ加ヘル積リデアリマス、丁度是抔ハ夫レニ倣ツテ行政裁判所ニ訴ヘル事ガ出來ルト云フ精紳ナレバ之ニ書キ加ヘナケレバナラヌ、今ノ御說ノ通リデアルト是カラ先キ行政裁判所ニ訴ヘルコトハ總テ其方ヘ讓ツテ書カナイト云フコトニスルト誠ニ危イ、夫レヨリモ矢張リ斯ウ云フ法律ガ出ル度ビ毎ニ總テ入レテ置クト云フコトニシタ方ガ宜カラウト思ヒマス、夫レカラ營業免許云々ノコトハ之ハ社團法人ノ中ニハ籠ラヌモノデ全ク別物デアラウト思ヒマス、夫レデ許スト云フコトデアリマスレバ入レル方ガ宜シイト思ヒマスカラ何ウカ其說ニ御贊成アランコトヲ希望致シマス
梅謙次郎君
事柄自身ハ尙ホ私共モ勘考シテ或ハ贊成スル必要ガアラウカトモ思ヒマス、ケレドモ併シ之ハ此處計リデナク設立ノ許可ニ付テモ同樣デアラウト思ヒマス、設立ノ許可モ故ナクシナイト云フコトデアリマスレバ其取消シニ付テ行政裁判所ニ出ル必要ガアレバ矢張リ此許可ニ付テモ行政裁判所ニ出ル必要ガアルト言ハナケレバナラヌ、夫レカラ又商法ハ如何ニ改マルカ知リマセヌガ、假リニ株式會社全體ガ許可ヲ得ナケレバナラヌト云フ中ニ這入ラヌトシテモ或種類ノ會社ハ必ズ許可ヲ要スルト思ヒマス、例ヘバ保險會社ノ如キモノ、然ウ云フ場合ニモ矢張リ同一ノ問題ガ起ツテ來ル之ヲ一々其箇所々々ニ持テ往ツテ書キ加ヘルノハ體裁モ甚ダ面白クナイシ、殊ニ行政裁判所ノ管轄抔ト云フモノハ時世ニ依テ段々廣クナルカ知レマセヌガ、兎ニ角變ツテ往クベキ性質ノモノデアル、デ行政裁判法或ハ行政裁判所ノ管轄ニ關スル法律ト云フモノハ今後共ニ時々變ツテ往クコトモアラウト思ヒマスガ、然ウ云フ場合ハ矢張リ外ト釣合ヒヲ取ルヤウニ斯ウ云フ許可ノ取消シ抔ト云フコトモ變ハツテ往ク方ガ私共ハ宜カラウト思ヒマス、是丈ケ別ニナルト餘程不揃ノコトニナルト云フ恐レガアリマス、若シ富井君ノ言ハレタ如クニ明治二十三年ノ法律ヲ改メルコトガ出來ヌト云フコトデアリマスレバ或ハ施行條例ノ方ニ讓ツテ何條々々ノ場合ニ於テハ行政裁判所ニ訴ヘルコトガ出來ルト云フヤウナ風ニ總テノ場合ヲ網羅シテヤツタ方ガ體裁ガ宜クハナイカ、旁々此處ヘ持テ來テ今ノ文章ヲ書キ加ヘルト云フコトハ何ウデゴザイマセウカ、何ウカ然ウ云フ風ニ書キ加ヘナイデ濟ムコトナレバ加ヘナイコトニ願ヒタイト思ヒマス
本野一郎君
只今ノ起草委員カラ御說明デゴザイマシタガ、若シ起草委員ニ於テ斯ノ如キ場合ニ於テハ今ノ施行條例デモ設ケル時ニ原則トシテ行政裁判所ニ訴ヘルコトヲ許スト云フコトノ御趣意ナレバ強テ此箇所ニ於テ主張スル必要モナイト信ジマスルガ、併ナガラ其原則ガ定マリマセヌコトデアリマスルナレバ成ルベクナラバ此處デ規定シテ戴イテ置キタイト存ジマスル、先程富井委員カラノ御說デゴザイマシタケレドモ行政裁判所ノ管轄ヲ規定シタ明治二十三年ノ法律ガ改正ニナルカナラヌカト云フコトモ甚ダ覺束ナイ話シデゴザイマセウ、又先キニ尾崎君カラモ述ベラレマシタル通リニ此行政裁判ニ付スベキ事項ハ時々特別ノ法律ニ讓ツテアルノガ明治二十三年ノ法律ノ精神ト思ヒマスカラシテ斯ノ如キ場合ニ於テ規定シテ置クト云フコトハ必要ノコトデアラウト存ジマスル、此法律ハ民法デアルカラ行政上ニ關スルコトハ何ウカト云フ嫌ヒモアラウト云フ御說デゴザイマスケレドモ、此公益ニ關スル法人ノコトハ元々多少行政法ノ關係ヲ有シテ居ルコトデアリマスカラ此法人ニ關スル事柄ヲ民法ニ於テ規定スル以上ハ此處ニ行政裁判ニ關スルコトヲ規定シタカラト云ツテモ決シテ體裁ヲ失ツテ居ルモノトハ思ハレマセヌ、夫故ニ若シ起草委員諸君ガ斯ノ如キ場合ニ於テハ行政裁判所ニ訴ヘルコトヲ許スト云フ原則ヲ御採用ニナツテ、夫レハ此施行條例デカリニ極メル積リデアルト云フコトデアリマスレバ強テ主張ハ致シマセヌ、ケレドモ若シ其方針ガ定マツテ居リマセヌナラバ此處デ今ノ修正案ニ御贊成アランコトヲ希望致シマス
土方寧君
尾崎君ノ修正案ハ隨分重大ナ問題デアラウト思ヒマス、之ニ對シテ段々贊成モアリマスシ、起草委員デハ富井君梅君カラハ此箇條ニ修正ヲ加ヘルコトハ體裁ヲ得ナイト云フコトデアリマシタガ、此二君ノ起草委員ノ御說ニ依ルト行政官廳ノ職權ニ放任シテ訴ヘルベキ途ガ宜イカ惡イカト云フ問題ハ決セラレテ居ラヌヤウデアル、縱令修正案ノヤウニシテモ體裁ヲ得ヌト云フヤウニ伺ツタヤウデアリマスガ、其邊ハ何ウデゴザイマセウカ、今本野君ノ御演說モソコデアツタヤウデアリマスガ、夫レヲ一ツ伺ヒタイ、モウ一ツハ提出者ノ修正デ今問題ニナツテ居ルノハ七十一條ノ行政官廳ガ取消シヲシタ場合デアリマスガ、夫レヲ不當トスル法人ヲ設立シタ人、社團法人ノ社員トカ財團法人ノ理事トカ云フ者デアリマスガ、法人ニ關スル規定ハ始メニ主務官廳ノ許可ヲ得テ始メテ法人ヲ設立スルコトガ出來ルヤウニナツテ居ルト云フ原則ガアリマス、所デ或人ガ法人ヲ設立セントシタ、如何ニモ其理由ガ往ケヌカラ許サナイト云フト同ジ理窟デアル、夫レデ全ク始メ設立スルトキハ主務官廳ノ見込ニ任カス、法律ガ一旦法人トナツタモノヲ今度ハ取消スト云フ時ハ違ウ、卽チ行政裁判所ニ出ルコトヲ許スト云フ丈ケノ何カ區別ガアリマスカ、一寸伺ヒマス
尾崎三良君
一體本員ハ成ルベク斯ウ云フコトハ自由ニシタイト云フ精神デアリマス、ケレドモ旣ニ是迄規定シテアル所ハ官廳ノ許可ヲ得ナケレバナラヌト云フコトニナツテ居リマスカラ夫レニハ出訴ノ途ヲ開イテ置クノ必要ガアラウト思ヒマス、餘程場合ガ違ウト思フ、旣ニ設立シテ澤山ノ發起人ガ出テ色々遣ツテ居ルモノヲ無理ニ解散サセルト云フノト未ダ事ノ成ラナイ中ニ之ヲ許サヌト云フノトハ餘程事件ガ違ウト思ヒマスカラ、始メノ許可スル點ニ付テ異議ガアツタ時ハ之ヲ出訴スルト云フコトヲ許スニモ及ブマイト思ヒマス、許シテモ構ハヌ又許サヌデモ宜シイト思ヒマスガ、旣ニ設立シテ事業ヲ遣ツテ居ルノニ公益ヲ害スルトカ何ントカ云フコトデ一時ノ行政官ノ腦髓位デヤラセルト云フコトガアツテハ甚ダ之ニ關スル人民ノ利害モ容易ナラヌコトデアラウト思ヒマスカラ、夫レニハどこかヘ出訴ノ途ヲ付ケテ置カナケレバナラヌ、夫レニハ行政裁判所ニ出訴スルコトガ出來ルト云フコトヲ此處ニ規定シテ置キタイト云フ斯ウ云フ考ヘデアリマス
高木豐三君
私ハ或ハ誤解カモ知レマセヌガ一應意見ヲ陳ベテ置キマス、只今尾崎君カラノ修正說ノ當否ハ姑ク擱テ其御趣意ニ至ツテハ甚ダ私共贊成スル所デアリマス、併ナガラ私ノ考ヘデハ人民ノ事業其他ノ事ニ付キマシテ官廳ガ餘リ壓制ヲスルト云フコトハ勿論好ミマセヌ事デアリマスルガ、第一官廳ト云フモノガ然ウ謂ハレナク不法デ以テ取消シヲ命ズルモノト云フ推測ヲスルト云フコトハ如何ナモノデアラウカ、法律上ハ夫レガ推測ガ出來ヌトシテモ實際然ウ云フ恐レガアルト云フコトデアリマスレバ人民ノ權利ヲ保護スルト同時ニ又官廳ニ向テ漫ニ訴ヘヲ起スト云フコトハ是亦餘程考ヘナケレバナラヌコトト思フノデアリマス、夫レニ付テ私ハ少シ法律ノ解釋ガ違ウカモ知リマセヌガ、今日ノ日本ノ法律ノ主義デハ先ヅ行政官廳ノ處分ニ付テ不服ノアル者ハ直チニ其官廳ヲ訴訟ノ相手トシテ訴ヘルト云フコトハ少クモ訴願法ニ於テハ許サヌト云フ旨意デハナイカト考ヘル、先ヅ然ウ云フ取消シノコトトカ其他行政官廳ノ處分ニ付テ不服ガアレバ先ヅ訴願スル、其官廳ヲ經由シテスル、行政官廳ノ處分ヲ經テ而シテ後デナケレバ成ルベク訴ヘハ許サナイト云フノガ訴願法、行政裁判ノ趣意デハナイカト考ヘル、故ニ訴願法ノ第一條ノ第二項ニ「其他法律勅令ニ於テ特ニ訴願ヲ許シタル事件」トアル「特ニ訴願ヲ許シタル事件」トアツテ出訴ヲ許シタルモノトハナイノデアリマス、私ハ然ウ解シテ居ツタ、所ガ只今奧田委員カラ鑛業條例ヲ御引キニナツテ然ウ云フモノハ直チニ出訴ヲ許シテアルモノモアルト云フコトデアリマシタガ、然ウスルト私ハ其法律ハ知ラナカツタノデアリマスガ、併ナガラ若シ日本ノ公法卽チ行政法ノ主義ガ旣ニ私ノ解釋シテ居ル如クデアルナラバ特別ノ法律ヲ以テ鑛業トカ何ントカ云フ一事件ニ限ツテ其事柄ニ付テ直チニ出訴ヲ許スト云フコトヲ極メレバ格別然ウデナク行政裁判所ニ向テ認可トカ取消シトカ云フヤウナコトニ付テ一足飛ニ訴訟ノ當事者トシテ官廳ヲ相手取ルト云フ途ハ先ヅ許サズシテ訴願ノ途ヲ經テ而シテ後ニスルト云フノガ今日ノ途デハナイカト思ヒマス、夫レデ勿論出訴ヲ許スト云フコトハ不法デハアリマセヌカラ訴願法ノ範圍ヲ擴メテ入レルト云フコトニハ同意デアリマスガ、唯ダ民法ニ法人ノ總則トシテ直チニ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得ルト云フヤウナコトヲ書キ加ヘルト云フコトハ御趣意ニハ同意デアリマスルガ法律ノ上ニ於テ何ウ云フモノデアラウカ、尙ホ御一考ヲ煩シタイ積リデアル、夫レデ自分ハ直チニ贊成ヲシ難イト云フコトヲ申シテ置キマス
土方寧君
先刻起草委員ニ伺ツタコトハ何ウデゴザイマセウカ
富井政章君
先刻土方君ノ御注文ハ少シ御無理カト思ヒマス、縱令吾々ガ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ許ストシタ所ガ此法典調査會ノ職權ト云フモノハ民法商法及ビ附屬法律ヲ調ベル丈ケデアツテ行政裁判法ヲ改正スルコトハ委任シテ居ラレマセヌ、夫レデ私ノ意見ハ行政裁判法ヲ改正スルカ或ハ單行法ヲ發シテ或ハ明治二十三年十月ノ法律ヲ改正シタイト云フ考ヘデアリマス、夫レデ若シ其修正案ガ善イカ惡ルイカト云フコトヲ御問ヒニナレバ夫レハ無理ナ御問ヒデモナイ、之ハ深クハ研究シテ居リマセヌガ、一寸考ヘタ所デハ其實質上ハ御尤モナ御意見デアラウト思ヒマス、其譯ハ先刻申シマシタ所ノ明治二十三年十月ノ法律ノ第三ニ書テアルモノト甚ダ似テ居ル一個人營業ノ方ハ出訴ヲ許シテ公益法人ノ方ハ出訴ヲ許サナイト云フコトハ何ウモ明カナ理由ヲ發見シマセヌ、夫故ニ權衡上ハ出訴ヲ許シタ方ガ宜シイヤウニ深クハ研究シマセヌガ今一寸考ヘタ所デハ然ウ思ヒマス、夫レニシタ所ガ此處ノ民法ニ掲ゲルノハ甚ダ體裁ヲ得テ居ラヌト思ヒマス、夫レデ私ノ希望ハ行政裁判法ヲ改正スルカ或ハ特別法ヲ發シテ夫レヲ改メル方ガ宜イト云フ意見デアリマス、夫レハ其方ノ希望デアルニシタ所ガ此處デ決シタ所ガ其效能ハアリマセヌ
中村元嘉君
私ハ尾崎君ノ御趣意ニハ贊成致シマスルガ之ハ書キ加ヘルト云フコトニハ贊成致シマセヌ、矢張リ施行條例ニデモ入レテ斯ウ云フコトヲ出訴スルコトヲ得ルト云フコトニナリマスレバ夫レデ宜シイカト考ヘマス
末松謙澄君
私モ此處ニ加ヘルノハ不同意デアリマス、夫レノミナラズ尙ホ進ンデ宜カラウトハ思ハヌ、私ノ申ス理由ハ今日ノ時勢ヲ見マシテモ色々ナ事ニ付テ兎ニ角何ント言ヘバ爭ヒヲ起ス、代言社會、辯護士ニ頼ンデ何ンデモ起ス、如何ナル訴デモ大概ノ事ハ上告シテ居ル、一番惡ルサウナヤウナル事柄ハ大審院迄モ往ツテ居ル、夫レデ總テノ官廳ノスル處分ノ事ニ付テ行政官ガ殊更ニ色々困難ヲ感ジテ居ル模樣ガアル、モウ少シ行政權ヲ強クシテモ宜イト思フ、役人ハ兎角恐レルヤウナ有樣ガアル、ケレドモ誰カガ云ハレタ如クニ今日ノ役人社會ト云フモノハ斯ウ云フ事ニ付テ然ウ好ンデ惡ルイ事許リスルト云フコトヲ思フ迄ニハ及ブマイト思ヒマス、或ハ偶ニハ然ウ云フ過チガアルカモ知レヌガ、併シ然ウ云フ時分ニ於テハ一旦取消シヲサレテモ哀願スル抔ト云フヤウナル方法モ隨分アルノデアル、夫レニハ代言人ヲ頼ンデ官廳ニ談判スルト云フヤウナルコトモ隨分ヤルノデアル、夫レデ此箇所ノミナラズ誰カノ御說デハ許可ヲスルトキノコト迄モ或ハ矢張リ行政裁判ヲ許スガ宜シイト云フヤウナルコトモアツタヤウデアルガ、是等ハ以テノ外ノ御議論デハナイカト思フ、勿論夫レニ付テハ只今富井君カラ引用セラレタニハ營業上ノ事ニ付テハ訴ヘルコトガ出來ル、此法人ノ許可ノ事ニ付テハ何故ニ訴ヘルコトガ出來ヌカト云フヤウナル御論モアツタヤウニ思フガ、之ハ成程公益ト云フ點ニ付テハ同ジデアルガ併ナガラ一己人ガ營業ヲスルコトヲ願ウト云フニ付テ漫ニ拒絶スルト云フヤウナル事ト法人抔ヲ設立スルコトトハ自ラ事ガ違ウト思フ、法人ハ之ヲ設立スルコトヲ許スノモ勿論此案デモ其通リニナツテ居ルヤウデアルガ、許可ニ依テ始メテ許ス譯デアルデ寧ロ公益ノ爲メニ大ニ獎勵スルト云フ方ヨリモ人間社會ハ御互ヒ一己人カラ成立ツテ居ルカラ夫レデ濟ムモノナラバ夫レデ濟マセテ置キタイト思フ、是等ノ或點ニ付テ便利デアルカラ幾分カ拵エテヤラウ、併ナガラ夫レデ拵エテヤルカヤラヌカト云フコトハ役人ニ任セテヤルト云フノデアル、併ナガラ一己人ノ方トハ違ヒ此方ハ直接公益ニ屬シテ居ル性質ノモノデアル、夫レデ田ヲ作ルノモ山ニ草ヲ刈リニ行クノモ殆ド同ジコトデアル、而シテ夫レハ一己人ニ屬スルノデアルカラ一己人ト同一ニ論ゼラレヌ事柄デアラウト思フ、殊ニ又今度ノ法案ニ付テハ餘リナイヤウデアリマスルガ、他ノ國ノ法律抔ニ於テハ御承知ノ通リ隨分法人ニ付テハ色々ナ制限ガ設ケテアル、夫レデ斯樣ナ幽霊ノヤウナモノガ多ウ過ギテ幽靈見タヤウナモノガ世ノ中ニ澤山顯ハレテ來テモ困マル、夫レデ是カラ先キハ之ヲ悦ンデ澤山拵エルコトヲ獎勵スルニモ及バヌ、全ク此處ニ取消シトカ何ントカ云フヤウナコトヲ一々裁判所ニ持テ往クトカ云フヤウナルコトハ隨分面倒デアル、是等ヲ一々裁判所デ以テ爭ウト云フヤウナコトニナルト隨分困ツタコトモ出來ヤウト思フ、然ウシテ又斯ウ云フうるさい事ヲ許シテ夫レガ爲メニ大變世ノ中ニ利益ガ多イカト言ヘバ却テ世ノ中ヲ害スルコトガ多イノデアル而シテ高木君ノ御說ノ如クニ今日ノ日本ノ制度ハ如何ナルコトニナツテ居ルカ、行政官ヲ訴ヘルコトハ何ウカナレバ先ヅ訴願等ヲシテ然ウシテ徃ケナイト云フ時ニナツテ始メテ出訴スルト云フコトガ旨趣デアラウト思フ、此事ニ付テハ私モ多少最初カラモ聽イテ居リマシタガ、行政裁判法ヲ拵エル時分ニ當ツテ或ハ市町村制抔ヲ拵エタ時デモ其論ガアツタノデヽヽヽヽヲ採ルニ付テ採ルカ採ラヌカト云フ事ト直チニ直チニ權利ヲ與ヘルコトニスルカシナイカト云フコトニ付テ餘程或ル學者抔モ取調ベタコトモアルガ、詰リ澳太利抔ノ國ニ於テ官ノ處分ニ對シテ不服アルトキハ何處迄モ人民カラ歎願ヲシテ然ウシテ夫レデモ何ウシテモ往カヌト云フ時ニナツテ始メテ官ノ處分ニ付テ訴ヘルコトノ出來ル方ノ權利ヲ與ヘルト云フ方ノ主義ヲ採ツタ方ガ宜シイト云フコトデ其方ニ極マツタヤウデアル、夫レカラ又一體列記法ニ依ルカ總括法ヲ用ヰルカト云フ論モアツテ、先ヅ列記法ヲ用ヰルニ歸スルト云フコトニシタノガ今日ノ行政裁判デハ其大眼目トシタヤウニ私ハ心得テ居ル、併ナガラ御案内ノ通リ日本ノ法律ハ隨分色々ナ先生ガ銘々拵エタノデアリマスカラ時々間違ツタ主義ガ雜ツテ居ルコトハ明カデアル、故ニ或主義ニ於テ或場合ニ於テハ解釋シテモ往ケヌコトモナイト思フ、ケレドモ全體ノ主義ニ於テハ今日ノ國ノ法律ニ合ツテ居ルモノト解シテ居リマス、故ニ直チニ訴ヘル方ノコトハ餘リ採ラナイ方ガ宜シイト思フノデアル、而シテ次ニ此民法ノ上ニ置キマシテ行政裁判所ト云フヤウナル風ノ文字ヲ此處ニ出スコトハ餘リ好ミマセヌ、之ハどなたかモ御述ベニナツタヤウデアリマスガ、此方ハ成ル丈ケ官ガ許ストカ或ハ許サヌトカ云フヤウナル方ノ趣意ニ書テ置ク、行政裁判所ト云フヤウナコトハ言ハナイ、成ルベク官吏ヲ征伐スルト云フヤウナ風ノコトハ外ノ所ニ持テ往クガ宜シイト思フノデアル、夫レノミナラズモウ少シ進ンデ言ヘバ行政裁判所ハ止メルカモ知レヌ、裁判所ト云フモノハ各國必要ノモノデアルカラ民法デ認メル、普通裁判ハ必要デアル、併ナガラ此行政裁判所抔ノ如キモノハ民法上抔ニハ省ク方ヲ私ハ好ム者デアル、(此時「憲法ニアル」ト呼ブ者アリ)夫レハ其時ハ憲法ノ方カラ何ウトモナル、且又此事柄ニ付テ色々ナ弊害ガ起リ役人ノ取扱ヒニ於テ弊害ガ起ツテ此儘ニハ捨テ置クコトガ出來ヌト云フヤウナルコトガアツタ時ニハ其場合ニ於テ之ハ許シテモ宜シイト云フコトナレバ單行法デモ拵エテ救ツテ往クコトガ出來ル、何ニシロ民法抔ハ民法ノ事丈ケヲ書テ置テ今ノ役人征伐法抔ハ別ノモノニ書テ置ク方ガ宜イト思フノデアル、是迄モ然ウ云フ風デアツタト思フ、又此後ニモ餘リ然ウ云フコトハ出マイト思フガ、例ヘバ婚禮抔ヲスルコトニ付テ行政裁判所ニ訴ヘルヤウナコトモアリマスマイ、又養子ヲスルコトニ付テモ訴ヘルコトモアリマスマイ、大概民法全體ニ於テ行政裁判所ト云フヤウナ風ノコトハ書イテ置カヌ方ガ宜イト思フノデアル、是迄モ然ウ云フ風デアツタト思フ、又此後ニモ餘リ然ウ云フコトハ出マイト思フガ、例ヘバ婚禮抔ヲスルコトニ付テ行政裁判所ニ訴ヘルヤウナコトモアリマスマイ、又養子ヲスルコトニ付テモ訴ヘルコトモアリマスマイ、大概民法全體ニ於テ行政裁判所ト云フヤウナル風ノコトハ各國共見エナイヤウデアル、此處計リニ出スト云フコトハ餘リ面白クナイ事柄デアラウト思フ、我邦ノ民法計リニ斯ノ如キコトガアルト云フヤウナル風ノコトニナツテモ甚ダ面白クナイ、夫故ニ此事柄ハ如何ニシテモ此處ニハ書カヌノガ適當デアルト充分ニ信ジテ居ルノデアル、卽チ今ノ修正說ニ反對ヲスルモノデアル
磯部四郎君
詰リ此法人ト云フモノヲ生ムト云フヤウナ時ニ行政上ノ事件ニ屬シテ居ルカラ殺ス時ニモ矢張リ行政事件ニ屬シテ置テ宜イト云フノガ末松委員ノ御說ト思フ、然ウスルト一己人トスルト生ンダ親爺ガ勝手ニ兒ヲ殺ス權利ガアルト云フヤウナコトハ以テノ外ノ議論ト思ヒマス、旣ニ幽靈デゴザイマセウガ何ンデゴザイマセウガ苟モ行政官廳ガ認メテ以テ一ノ社會ニ生ミ出シテ一ノ人ト爲シタ以上ハ普通ノ人間並ニ權利ヲ持タセルノガ相當ノコトデアラウト考ヘル、只今行政主務官廳ガ公益ヲ害スベキ程ノ事業デモナイモノヲ公益ヲ害スベキ事業ト認メテ其許可ヲ取消シタ場合ニハ何レニ向テカ其行政官廳ノ處分ノ不當ヲ訴ヘルト云フコトノ途ヲ明ケテ置クト云フコトヲ此處ニ書クノハ何ンデ不都合デアラウカ、其必要ナ點ニ付テハ起草委員モ稍々認メテ居ラルルヤウデアリマスガ、唯行政裁判所ト云フガ如キコトヲ此處ヘ書クノハ不都合ト云フヤウナ御論デアリマシタガ、夫レニスルト七十條モ稍々之ト同一ノ御考ヘニハナラヌノデゴザイマセウカ、詰リ法人ガ債務ヲ完濟スルコトノ能ハザルニ至ツテ破產ノ宣告ヲ受ケルモ亦一己人ガ債務ヲ完濟スルコト能ハザル狀況ニ至ツテ破產ノ宣告ヲ受ケルモ、旣ニ破產ト云フモノヲ商人非商人ニ適用スルト云フコトデアリマスレバ矢張リ法人モ其支配ニ屬シテ宜シイ、然ルニ七十條ニ於テハ旣ニ民法ノ總則中ニ於テ全ク訴訟ニ屬スル裁判官轄或ハ裁判所ノ手續ノコト迄モ御入レニナツタ以上ハ此七十一條ニ向テ或ハ行政裁判所ト申スモノカ又ハ相當ノ法衙ト申スモノカ何ンカデ宜シウゴザイマスガ、兎ニ角主務官廳ガ生ミ出シタ法人デモ其官廳ガ勝手次第ニ殺スト云フ全權ハ持テ居ルモノデナイト云フコトヲ御示シニナルノガ相當ト思ヒマスルカラ私モ大體ニ於テハ尾崎委員ノ御提出ニナツタ修正案ニ同意ヲスル者デアリマス
本野一郎君
若シ此末松委員ノ御說ニ致シマシテ此場所ニ斯ウ云フコトヲ規定スルコトガ惡ルイト云フ御說デアリマシタナラバ更ニ私ハ辯駁スル勞ヲ採ル必要モナイト信ジマスルガ、只今行政官ノ全能主義ヲ堂々ト辯ゼラルルニ至ツテハ一言茲ニ駁撃ヲシテ置カナケレバナラヌト思ヒマス、此修正案ヲ出シタ御方又修正案ヲ贊成シタ吾々ニ於テモ決シテ只今末松委員カラ言ハレタ通リニ行政官征伐、役人征伐ト云フヤウナ考ヘヲ持テシタノデハアリマセヌ、第一ニ行政官廳ト雖モ矢張リ人間ニハ相違アリマセヌ、旣ニ人間デアル以上ハ過チアルト云フコトハ爭フ可ラザルコトデアル、夫レデ縱令惡意デシナクツテモ誤ツテ取消ス抔ト云フ命令ヲ下スコトモアリ得ルト云フコトハ爭フ可ラザルコトデアラウト思ヒマス、萬一之ヲ誤ツテ取消ノ處分ヲシタ時ニハ夫レヲ救濟スルノ途ト云フモノヲ付ケテ置カナクテハ不公平デアル不當デアルト云フ考ヘガ一ノ理由デアリマス、又第二ニハ惡意ヲ以テ爲サナイト限ツタコトモナイ、公ケノ法人デアルトカ或ハ政治上ノ動作ニ邪魔ヲスルト漫リニ認メルトカ何ントカ云フコトハ今日ノ行政官ニハナイカモ知レマセヌガ、將來ノ行政官ニハ或ハアリ得ベキ事柄ト信ジマス、夫故ニ此取消ノ處分ニ對シテ救濟ノ途ヲ付ケル原則ト云フモノハ何ウシテモ何ンカノ場所ニ於テ規定シナケレバナラヌト信ジマスル、夫レデ此處デハ往カヌト云フコトデアリマスレバ夫レハ讓ツテ他ノ場所ニ於テモ宜シウゴザイマスルガ、原則ト致シマシテハ是非何處カニ規定シテ戴キタイノデアル、夫レデ未ダ起草委員ニ於テモ外ノ所ニ置クト云フ御約束ガアリマセヌ以上ハ是非此修正案ヲ成立タセテ戴キタウ存ジマスル、夫レカラ先程此一私人ノ權利ニ付テ明治二十三年ノ法律ニ書テアルコトハ正當デアルガ公ケノ法人ニ關スルコトニ付テハ斯ノ如キ事ハ要セヌ同一ノ論デナイト云フコトヲ陳ベマシタガ、何故ニ同一ノ論デナイカ、公ケノ法人ニ關スル不當ノ處分ハ之ニ救濟ノ途ヲ與ヘナクトモ宜イト云フ理由ハ少シモ末松委員カラハ述ベラレナカツタヤウデアリマスカラ、此事ニ付テハ諸君ノ御注意迄ニ一言述ベテ置キマス、夫レデ飽迄モ此處ニ只今ノ修正案ヲ御可決ニナランコトヲ希望シテ置キマス
尾崎三良君
之ニ付テハ段々色々ナ御說モ出マシタガ、併シ正反對ノ御說ハ末松委員丈ケデアツタト思ヒマス、其外ノ御說ハ成程夫レハ必要ダガ此民法ノ中ニ入レルコトハ徃ケナイト云フ御說ノヤウニ思ヒマスガ、夫レハ其途サヘアレバ本員ト雖モ是非此處ニ入レナケレバナラヌト云フコトハ申シマセヌ、ケレドモ今日迄ノ一體ノ法律、一體ノ行政裁判ノ精神カラ言フト何ウモ此處ニ入レヌト工合ヒガ惡ルイ、先刻カラ末松君カラモ陳ベラレマシタル通リ一體列記法ヲ用ヰルカ總括法ヲ用ヰルカト云フ論モアツテ先ヅ列記法ニ依テ置カウト云フコトニナツテ居ル、ト云フモノハ先ヅ此總括法ニシテ置クトドンナコトガ出テ來ルカモ知レヌ、夫レコソ役人征伐ガ出テ來ルカモ知レヌカラ之ハ列記法ニシテ置クガ宜シイト云フノデ必要ノ分丈ケヲ此百六號ニ掲ゲタノデアル、夫レデ總括法ニスルト云フ御論ナレバ夫レハ本員等ハ其方ヘ贊成ヲ表スルノデアリマスガ是丈ケノ諸君ノ大同一致デ然ウスルト云フコトデアレバ夫レハ入レヌデモ宜シイガ夫レハ中々容易ナコトデアリマスマイシ又此處デ極メテモ夫レガ世ノ中ニ行ハレルコトデモアルマイト存ジマスルカラ之ハ容易デナイト思ヒマス、其必シ難キコトヲ恃ミニシテ此處ニ之ヲ入レヌデ置クト云フコトハ宜シクナイト思ヒマスカラ此處ヘ入レルコトヲ希望スルノデアリマス、夫レカラ又斯ウ云フコトガ民法中ニ突然一ツ出ルノハ甚ダ不都合ダトカ見惡クイトカ云フコトデアリマシタガ、是カラ先デモ入レルコトガ起ツテ來ナイトモ限リマセヌ、縱シ又ナイト限ツタ所ガ必要デアル以上ハ此處ヘ入レテモ然ルベキコトデアル、夫レカラ又訴願ヲシタ上デナケレバ行政裁判所ヘ訴ヘ出ルコトガ出來ヌト云フ規則デアルト云フコトデアリマシタガ、夫レハ何ウ云フ所カラ然ウ云フ御說ガ出ルノデアリマスカ知リマセヌガ、本員等ノ是迄ノ考ヘテ居ル所デハ訴願法ニ依テヤルモノモアリ又直チニ行政裁判所ニ訴ヘルモノモアル、夫レハ何モ一ツニ拘泥シタコトハナイト思フノデアリマスガ、併シ何カ夫レニ對シテ特別ノ法デモアツテ、凡ソ行政裁判所ニ訴ヘ出ルニハ必ズ先ヅ訴願法ニ代テヤツタ上デナケレバ往ケヌゾト云フヤウナコトガ若シアリマシタナラバ何ウカ承リタイガ、本員等ノ存ズル所デハ然ウ云フコトハナイト思ヒマス、現ニ今ノ第百六號ニモ「法律勅令ニ別段ノ規定アルモノヲ除ク外左ニ掲クル事件ニ付行政廳ノ違法處分ニ由リ權利ヲ般損セラレタリトスル者ハ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得」ト云フコトニナツテ居リマスカラ、之デ無論直チニ出ラレルコトニナツテ居ルト思ヒマス、デ何ウゾ起草委員ニモ成ルベク此原案ノ儘通シタイト云フ御精神ノヤウニ見エマスガ、併ナガラ一體ノ精神ニ於テ然ウ云フコトハ許サンケレバナラヌト云フコトデアレバ何ウカ自我ニ拘泥セズニ是丈ケハ何ウカ御許シヲ願ヒタイト思ヒマス
末松謙澄君
先程本野さんノ被仰ツタコトニ付テ申シマスガ夫レハ唯許否ノコト丈ケニ付テ言フタノデアル、私ハ矢張リ本野さんノ辯明ノアルニ拘ハラズ富井委員ノ言ハレタノハ今ノ裁判ノ營業免許ノ許否又ハ取消シニ關スル事件、此許否ト云フコトハ始メ許スカ許サヌカト云フ時ノ場合デアラウト思フ、所デ一己人ノ場合ト法人ノ場合トハ多少違ウト云フモノハ一己人ノ方ハ夫レヲ許サヌガ爲メニ人ガ死ヌルト云フコトモアルカモ知ラヌガ一法人ノ方ハ夫レヲ許サナイト云ツテモ人ガ死ヌルト云フヤウナ氣遣ヒハナイ、其生活ニハ一向差支ヘナイ、夫故ニ許サレタルモノト許サレザルモノトソコノ所ヲ私ハ論ジタ丈ケノコトデアル、之ハ私ハ堅ク信ズルノデアルノデアル、又之レハ尾崎君ノ言ハレタコトニ付テ一寸辯ジテ置キマスガ何モ私ノ申シタ所デハ何レノ場合ニ於テモ訴願ヲシテ而シテ後チニ行政裁判所ニ持テ往カナケレバナラヌト云フヤウナコトヲ言フタノデハナイ、左樣ニ廣ク言ツタ譯デハナイ、此場合ノ如キハ或ハ許可ニナラヌ時ニハ行政裁判所ニ往クコトモアリマセウ、併ナガラ何ヤラヲ調ベタ時ニ訴願ノ方法ヲ採ツテ而シテ後ニト云フヤウナコトガ市町村制ガアツタ時カラシテアツタヤウニ思フ、夫レカラ後ニ訴願法ト行政裁判法ガ出來タノデソコハ少シク辭バノ足リナイガ爲メニ然ウ云フ御解釋ニナツタヤウデアリマスカラ一言辯ジテ置キマス
土方寧君
尾崎君ノ修正案ニ付テハ此場所ニ修正案通リノ文章ヲ加ヘルコトニ付テハ反對ノヤウデアリマスケレドモ大體ノ趣意ニ於テハ起草委員ニ於テモ贊成セラレタヤウニ聞エマス
富井政章君
一寸中途デアリマスガ、私ハ代表シテ言ツタノデハナイノデアリマス
土方寧君
夫レデハ大體ノ意味ニ於テハ起草委員ノ或ル御方ハ御贊成ノヤウデアリマス、而シテ此精神ニ正反對ノ意見ヲ陳ベラレタノハ末松君一人デアリマス、其他ハ修正案通リニ贊成セラレ或ハ精神丈ケヲ贊成セラレタ方モアリマシタガ、私ハ其少數ノ方ヘ起ツ譯デ、修正案ノ場所ノコト計リデハナイ其精神ニ於テモ反對デアリマス、其理由ハ先刻磯部君ハ末松君ノ長イ演說ニ向テ生ンダ親ガ子ヲ殺ス權利ガアルトカナイトカ云フヤウナ短イ譬ヘデ御話シガアリマシタガ、私ハ然ウ云フヤウナ論鋒デ修正案ニ反對スルノデハアリマセヌ、ケレドモ一體此七十一條其他ノ法人ニ關スル規定ハ總テ營利ヲ目的トシナイ法人デアル、言ヒ換ヘテ見レバ公益ヲ目的トスル法人デアル、ケレドモ公益ヲ保護スルト云フコトハ本來國家ノ政府ノ職權デアル、其職權ヲ能ク行ウカ行ハヌカト云フノハ政府或ハ當局官吏ノ善シ惡シノ話シデアツテ、夫レヲ何ウモ一私人ノ利害ニ關スル營業ノ許否ト云フヤウナ場合ト同樣ニ論ズベキモノデハナイト思ヒマス、此處ニ規定シタル法人ノ規定ハ其法人ノ種類ニ依テ公法人ニ屬スルモノモアリ又公法人ト私法人トノ區別ノ分カリ惡クイモノモアルト思ヒマス、然ウ云フヤウナコトニ付テハ何ウモ當局官吏ノ腦裡ハ別問題デアリマスガ政府ノ職掌政府ノ採擇スル人ノ解釋ニ任カセルヨリ外仕方ガナイト思ヒマス、且先刻本野君カラ述ベラレタル中ニハ或ハ官吏ハ過失ガアルカモ知レヌカラ夫レヲ救濟スルノ途ガナケレバナラヌトカ、又往々故意ニシテ公益ヲ名トシテ解散ヲ命ズルトカ許可ヲ取消ストカ云フヤウナコトハナイトモ言ヘヌト云フヤウニ言ハレマシタガ、私ノ考ヘタ所デハ法人ノ許可ヲ取消ス前ニハ必ズ法人ノ利害ニ關係シテ居ル理事トカ何ントカ云フ者ニ付テモ右ノ事情ヲ調ベルコトデアリマセウカラ、前以テ法人ヲ代表シテ居ル理事等カラシテ官廳ノ將ニ下サントスル處分ニ付テノ内意ヲ請願スルコトモ出來ヤウト思ヒマス、故ニ誤ツテ其許可ヲ取消スト云フヤウナコトハ誠ニ少ナイモノデアラウト思ヒマス且ツ故意デヤルト云フヤウナコトハ殆ンド想像ハ付キマセヌ、若シアツタニシタ所ガ夫レハ別ニ行政裁判所ニ訴ヘル途ヲ開カナカツテモ此與論ト云フモノデモ全體ノ場合ニ付テハ將來ヲ戒メルコトハ出來ヤウト思ヒマス、非常ナ不當ノ處分ヲスレバ、夫レデ行政官吏故意或ハ過失デヤルノデアラウト云フコトヲ恐レテ行政裁判所ニ訴ヘルト云フコトニシタ所デ行政裁判官ト雖モ矢張リ官吏デアル、今日ノ所デハ大概ノ訴ヘハ行政官廳ノ方ガ勝ツノデアル、夫レデ其職權ヲ行フ人ノ當否ハ別問題デアツテ總テノ外ノコトニモ關係シテ居リマス、成程今日ノ有樣カラ先キ先キノ事ヲモ充分ニ考ヘテ極メテ置カナケレバナラヌガ併ナガラ行政宮ノ其人ガ變ツテ往ク、ソンナ人逹ガ是カラ先キ先キハ今ノ儘ニ往クト段々與論抔ト云フコトヲ大ニ恐レルヤウニナツテ來ルト思ヒマス、ダカラシテ行政裁判所ニ往クト云フヤウナ途ヲ開テ置カヌデモ別ニ事ヲ故意ニスルト云フコトハナカラウト思ヒマス、公益ト云フコトヲ圖ルノガ政府ノ職權デアル、夫レヲ行ウノデアリマスカラ夫レハ行政官廳ノ職權ニ任セテ置テモ宜シイト思ヒマス
斯波淳六郎君
今尾崎さんノ修正案ガ大分勢ヒガ宜クナツタヤウデアリマスガ私モ一言申上ゲテ置キタイ、一體法人設立ノ許可ノ取消、此法人ト云フモノハ種々雜多ノ目的ヲ以テ作ル、今行政裁判所ニ訴ヘル途ガ開ケテ居ルト云フモノハ列記的デアル、是々ト云フコトノ風ニシテ概括ニ之ヲ一般ニ許スト云フ方針ヲ執ツテ居ナイ、卽チ法人ハ種々雜多ノ目的ヲ許シテ居ル、夫レデ通常人間ノスル事デモ尙ホ其事柄々々ニ付テカラニ行政立法者ガ種類ヲ分ケテカラニ或ハ行政訴訟ヲ許スト云フコトニシテ居ル位デアリマス、所デ今之ガ種々雜多ノ目的ヲ有シテ居ル法人ト云フモノニ一般ニ行政訴訟ヲ許スト云フコトハ今ノ行政裁判法ノ趣意ニモ幾分カ背キハシナイカト思ヒマス、夫レモ今此會デあれも宜シクナイカラ削ツテ仕舞ウト云フ事ナレバ夫レハ別問題デアルガ、兎ニ角今日ノ時勢デハ未ダ其方ハ早クアリハシナイカト思ヒマス、兎ニ角末松君ノ御說程ニ絶對的ニ許サヌト云フ程迄ニ往キマセヌデモ此中ニ或ハ許スモノガアルカモ知レヌ、又許サヌモノモアルカモ知レヌ、色々ヤラネバナラヌト云フ必要モアルカモ知レヌト思ヒマス、ヽヽヽ夫レデ此處ニ於テハ先ヅ一般ニ訴ヘルト云フコトヲ許スコトニ定メルコトハ宜シクナイカラ止シタ方ガ宜カラウト考ヘマス唯一言尾崎君ニ反對スル丈ケノ說ヲ申上ゲテ置キマス
本野一郎君
斯波君ニ伺ヒタイ、各法人ニ行政裁判所ニ訴ヘルコトヲ許スカ許サヌカト云フコトヲ一々極メテ宜シイト云フノデアリマスカ
斯波淳六郎君
夫レハ色々ノ種類ニ依テト云フノデアリマス
議長(西園寺侯)
尾崎君ノ修正案ヲモウ一遍御朗讀ヲ願ヒマス
尾崎三良君
「但此處分ニ對シ不服アル者ハ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得」ト云フノデアリマス
議長(西園寺侯)
只今ノ修正案ニ贊成ノ御方ハ起立ヲ請ヒマス
起立者少數
議長(西園寺侯)
少數デゴザイマス、外ニ御發議ガナクバ次ノ條ニ移リマス
(書記朗讀)
第七十二條 解散シタル法人ノ財產ハ定款又ハ寄附行爲ヲ以テ歸屬權利者ト定メタル人ニ歸屬ス
定款又ハ寄附行爲ニ於テ歸屬權利者ヲ指定セス又ハ之ヲ指定スル方法ヲ定メサルトキハ理事ハ主務官廳ノ許可ヲ得テ其法人ノ目的ト類似セル目的ノ爲メニ其財產ヲ處分スルコトヲ得但社團法人ニ在リテハ總會ノ決議ヲ經ルコトヲ要ス
前二項ニ依リ處分セラレサル財產ハ國庫ニ歸屬ス
金子堅太郎君
旣ニ閉會ノ時期ニナリマシテ甚ハダ議事ヲ遷延セシメルノハ遺憾ニ思ヒマスガ、此事ハ少シク重大ナル事ト信ジマスルカラ充分ナル御說明ヲ起草委員ニ要メマスル、此七十二條ノ此三項ニ於キマシテ「前二項ニ依リ處分セラレサル財產ハ國庫ニ餅屬ス」ト云フコトガアリマスガ、此「國庫」ト云フノハ何ヲ指シマスルカ御說明ヲ請ヒマス、旣成法典ニハ「國」トアルヤウデアリマスルガ、此節ヲ御起草ニナツテ殊更ニ「國」ト云フ字ノ下ニ「庫」ノ字ヲ御入レニナツタ理由ヲ明カニ御說明ヲ請ヒマス
穗積陳重君
此「國庫」ト申シマスル字ハ殊更ニ私共ガ使ヒマシタノデゴザイマス、其譯ハ財產ガ歸屬スルト申シマスルト云フト、先ヅ「財產ハ國ニ静歸屬ス」トシマスル時ニ於テハ國ガ一ノ法人デアル、斯ウ看ナケレバ不都合デアルデアラウト思ヒマスル、通常是迄多クハ共和國ニ於テハ國、直チニ國ニ歸屬スルト云フヤウニ書テ居リマシタ、皆ト云フ譯デハアリマセヌ、併ナガラ御承知ノ通リ羅馬以來此國全體ガ一ノ法人トナルト云フ考ヘハ多ク行ハレテ居ラナカツタノデゴザイマシテ且理論ニモ叶ツテ居ラヌモノデアル、法人ハ御承知ノ通リ法律ガ拵エルモノデアル、法律ノ規定ニ依テ成立ツモノデアツテ且國全體ト云フモノガ法律ニ服從スルト云フコトハ何ウシテモ考ヘ得ラレマセヌ、國ノ或主格ニ於テ行ハレル、國ノ全體ガ國ノ或一部ヲ服從セシムルト云フコトハ出來マセウガ、國全體ヲ服從セシムルト云フノハ國自ラ支配スルノデアツテ本統ノ服從トハ何ウシテモ言ヘナイ、通常國ガ財產ノ主格トナルノハひすかす、國ノ國庫、或資格ニ於テ國ガ財產ノ主格トナル、斯ウ見エルヤウデアリマスル、夫故ニ此處ハ殊更ニ「國庫」ト書ク、卽チひすかすト云フ字ヲ譯シマシタル譯デアリマスル、此理論ハ申上ゲヌデモ旣ニ諸君ノ御承知ノコトデアリマスルカラ委シクハ申シマセヌガ、併シ先刻金子君カラシテ之ハ私ノ話シノ時ニ少シ御話シガアツタヤウデアリマスガ、「國庫」ト云フト金錢デナケレバ何ウモ持ツコトノ出來ヌト云フヤウナ日本ニハ是迄ノ法ニナツテ居ルト云フコトノ御話シガゴザイマシタガ、或ハ然ウ云フ工合ニナツテ居ルカモ分カリマセヌガ、併シ是迄國庫ト云フモノハ金卽チ金錢ニ屬スルモノヨリ外ニ持テヌト云フコトニナツテ居ツテモ此法ニ依テ金錢デナイモノ卽チ財產ト云フモノデモ亦國庫ガ持ツト云フコトニ定メラレヌコトモナイ併シ之ハ少シ重大ナ問題デアリマスルカラシテ能ク諸君ノ御考ヘヲ願ツテ、國庫ト云フ字ガ果シテ惡ルケレバ之ハ又能ク考ヘテ更メナケレバナラヌ、決シテ固執スル譯デハアリマセヌ、用ヰタノハ今ノひすかすト云フ字ヲ譯シタノデアリマス
金子堅太郎君
分カリマシタ、併シ共和國ニノミ國ニ財產ガ屬スルト云フコトニ至ツテハ吾輩ノ調ベタ所デハ充分デナイカモ知レマセヌガ、共和國デナクテモ官有財產ハ國ニ屬スル國ノ財產ハ其管理ヲ行フ國ニ屬スルト云フコトハ歐洲大陸ニモアルト私ハ覺エテ居リマスガ
穗積陳重君
ドノ國デアリマスカ
金子堅太郎君
ドノ國ト云フコトハ能ク覺エテ居リマセヌガ、官有財產管理法ヲ作ル時ニ調ベタ所デハ獨逸伊太利抔ニアツタト思ヒマスガ、夫レハ數年前ノ事デアリマスカラ能クモ覺エテ居リマセヌガ、先ヅ歐洲ノ各國ノ事ハ姑ク措キ本邦ノ法律ニ依レバ此國庫ト云フモノハ財產ヲ所有スル權ハアリマセヌ、國庫ト云フモノハ諸君御承知ノ通リ大藏省ニアル、租税ヲ納入スル所、總テ豫算ニ定ムル經費ヲ支出スル所、卽チ出納ノ中央ヲ國庫ト稱スルノデアル、夫故ニ總テ各官廳ニ於テ收入スル所ノ金錢ハ皆國庫ニ向テ日本銀行ヨリ代理店ヲ派出シテ納入スル然ウシテ又支拂命令ヲ國庫ニ向テ發シテ然ウシテ收入シタ金ガ又支出サレルノデアル、詰リ之ハ一ノ私立會社ト同ジモノデアル、金ガ這入ツテ又出ルト云フ金ノ溜リ場所デアル、此國庫ナルモノガ財產ヲ所有スルト云フコトハ何ウ云フ譯デアラウカ旣ニ官有財產ノ管理規則第一條ニ明カニ其事ガ書イテゴザイマスルノデアリマス、官有財產管理規則第一條ニ「此規則ニ於テ官有財產ト穗スルハ國ノ所有ニ屬スル土地森林原野營造物家屋船舶及ヒ其附屬物トス」トアル又其ニ條ニ「官有財產ハ主管ノ各省大臣之ヲ管理ス」トゴザイマス、「國ノ所有ニ屬スル」云々ト云フコトガ此處ニ謂フ歸屬權利者ノ指定サレヌ時、誰ニモ歸屬スル所ノナイ財產ハ國ニ歸屬スルト云フノガ立法者ノ趣意ト思ヒマス、卽チ官有財產ハ國ガ持ツ事ハ出來ル、其官有財產ハ國ニ屬スルト云フハ國ノ財產ト言フノデアラウト思ヒマス、若シ此寄附行爲抔ニ依テ出來タ法人ノ財產デ土地トカ森林トカ原野又ハ營造物家屋抔ガ其解散ノ時ニ歸屬スル所ガナケレバ卽チ官有財產ニ這入ル國庫ト云フモノハ嚢ニモ申ス通リ斯ノ如キ歸着スル所ガナイ財產ヲ所有スルコトハ出來ナイ、全ク金錢ニ限ツテ言フノデアル、夫故ニ若シ此處ニ森林ガアリマシテ夫レヲ寄附行爲ニ依テ淺草ノ寺院修繕費ニ其收入ヲ以テスルト云フコトニシテ置ク、然ウシタ所デ其淺草ノ寺院ガナクナツテ解散ヲシタ時ニハ夫レハ仕樣ガナイカラ第二項ニ依リ處分セラレタル森林ガ國ノ所有ニ屬スル、卽チ官有財產ノ規則ニ依ルト農商務大臣ガ之ヲ管轄スルコトニナル、若シ鑛山ニ屬シテ居ルモノハ其歸着スル所ガナケレバ是亦當然農商務大臣ノ主管ニ屬スル、決シテ國庫ニ往クト云フモノデハナイ、國庫夫レ自身ガ其所有權ヲ持ツト云フコトハ出來ナイ、併ナガラ森林原野鑛山ノ如キモノニ屬シタモノヲ國庫ガ如何ナル方法ヲ以テ如何ナル登記法ヲ以テ國庫ニ屬シマスルカ、其所在官廳ノ登記簿ニシマス、國庫ノ名義デハ出來ナイ、故ニ之ハ矢張リ其國ニ屬スルト云フ方ガ私ハ穩當デアラウト思ヒマス、今此民法ニ於テハ夫レハ共和國ノ主義ヲ採用シタノデアルカラ徃ケナイト云フコトナラバ從テ此官有財產管理規則第一條モ改正ヲシナケレバナラヌ、又訴訟法ノ第十四條、之モ改正ヲシナケレバナラヌ、又鑛業條例ノ第二條モ改正ヲシナケレバナラヌ、總テ國、國ト言ツテアル法律ハ悉ク變ヘナケレバナラヌ、旣ニ憲法制定ノ日ヨリ國ト云フモノハ共和國デ言フ國デハナイ、夫レハ日本ノ天皇ガ知食サレル所ノ國ト云フノデアツテ國ト云フタ所ガ決シテ共和國ト云フ趣意デハナイト思ヒマスカラ夫レデ「國」ト云フコトニシテ「庫」ノ字ヲ削ルコトニシタイト思ヒマスカラ、何卒滿場諸君ノ御贊成アランコトヲ請ヒタイノデアリマス
磯部四郎君
贊成
高木豐三君
一寸質問シタイ、成程是迄「國」トアルコトハ吾々モ心得テ居リマスガ、其法律ノ趣意ニ依ルト云フト「國」ト指シテアルモノハ此民法ニ云フテアル「國庫」ト云フコトト意味ハ同ジデアラウト思ヒマス、今ノ金子さんノ御說明デハ各省ノ主務大臣ガ之ヲ管理スルト云フコトデアリマスガ、之ハ唯ダ管理スルト云フ丈ケデ決シテ所有者ニナル譯デハアルマイト考ヘル、夫レデ「國庫」ト云フコトガ是迄何ウ云フ法律ニ使ツテアツテ之ガ必ズ特別ノ意味ヲ持テ參ツテ所有權ヲ代表スル、所有權ヲ持ツト云フ方ニハナラヌト云フコトガ何カニアルト云フコトナラバ御示シヲ願ヒタイ、夫レカラ又大藏省ノ御話シガアリマシタガあれは金庫ト云フモノトハ違ヒマスカ、其事モ一ツ承リタイ
金子堅太郎君
最初ノ方ヲモウ一應御陳ベヲ願ヒタイ、始メハ官省ガ所有者ニナルカト云フ御尋ネデアリマスカ
高木豐三君
然ウデナイ、所有權ハ矢張リ國ニ在ルノデアリマセウ、國ニ在ルナレバ此處デ「國庫」ト云フノハあなたノ言ハレル「國」ト同一デアル、唯法律ノ解釋上主義ノ上ニ於テ名ガ違ウ計リデアツテ事ハ同ジデアル
金子堅太郎君
說明ヲ致シマス、「國」ト云フ字ハ「國」ト云フモノガ所有權ヲ確カメル當事者ニハナレナイ、故ニ主務大臣、例ヘバ農商務大臣ガ管理スルト同時ニ官有財產ノ帳簿ニハ主務大臣ト云フ管理者ガ極マツテ居ル、内務省ナレバ内務大臣ト云フ管理者ガ極マツテ居ル、其内務省ガ國ヲ代表シテ國ニ屬シテ居ル夫レデ又鑛業條例ノ第二條ニモ「鑛物ノ未タ採掘セサルモノハ國ノ所有トス」トアリマス、夫レハ誰ガ管理ヲシテ居ルカナレバ農商務大臣ガ管理シテ居ル、故ニ國ト云フモノハ自ラ管理スル働キハ出來マセヌカラ夫レニ對スル權利義務、卽チ訴ヘヲ起シ訴ヘラレルノデアル、國ト云フモノハ自ラ訴訟ノ事ニ當ルコトハ出來マセヌガ代ツテ其主務大臣ガスル唯所有權ハ國ニ在ル、其代表者トナルノデアル、國庫トハ大變違ウ、ト云フモノハ國庫ノコトハ旣ニ會計法ノ三十一條ニモ「政府ハ國庫金ノ取扱ヲ日本銀行ニ命スルコトヲ得」トアル、夫レカラ又其十二條ニモ「國務大臣ハ其所管ニ屬スル收入ヲ國庫ニ納ムヘシ直チニ之ヲ使用スルコトヲ得ス」トアリマス卽チ郡役所カラ縣廳大藏省ト云フヤウニ、國庫ト云フモノハ日本ノ行政法ニ於テハ金ノ集マル所ニシテアツテ決シテ起草者ノ言ハルルヤウナ官有財產、卽チ森林鑛物其他ノ官有財產ヲ所有スル權能ノアルモノデナクシテ一ノ金場所デアル、夫故ニ此「國庫」ト云フ字デハ何ウモ弊ガアルダラウト思フノデアリマス
末松謙澄君
私ハ矢張リ「國庫」ト云フ字デ宜シイト思ヒマス、段段金子さんノ御說明モアリマシタガ、必ズシモ金子さんノ言ハレル通リニモ極マツテ居ラヌ、殊ニ先逹モ行政整理委員會デモ此事ニ付テ段々論ジテ往キマシタ、所ガ場所ニ依テ國庫ト云フ意味ガ違ツテ居ルノデアル、現在無形ノ大藏省トデモ言ハナケレバナラヌカト言フヤウナル風ノ事モアルノデアル、金子さんノ言ハレルヤウナ金庫抔トハ丸デ違ツタコトモアルノデアル、勿論大藏省ト言ヒマシタ所デ歐羅巴流デ申シマシタ時ハ政府デ日本デハ夫レ程ノコトモナイカモ知レマセヌガ、無形物ノヤウナ意味モ段々アツタノデアル、何ウモ夫程意味ガ明カデナイ、夫レハ斯ウ解釋シタガ宜カラウト云フヤウナルコトモゴザイマシタ、今一々其箇條ハ能ク覺エテ居リマセヌガ然ウ云フヤウナコトモアルノデアル、全體ノ事柄ガ是迄ノ法律デ國ノ行政事務ニ屬スルトキハトカ市町村ノ事務ニ屬スルトキハトカ云フヤウニ「國」ト云フ字ヲ頻リニ使ヒマシタガ、何ウモ之ハ私共ハ感服ヲシナイノデアル、面白クナイヤウニ思ツタコトガアル、併ナガラ今日使ツテ居ル場所ガアルノデアル必ズシモ穗積君ノ言ハレタルヤウナ風ノ共和國トカ云フヤウナ事カラ論ヲ立テルノデモナイガ、併ナガラ斯ウ云フ所ハ國庫ノ財產ニナルト政府ノモノ、卽チ國ノ財產ト云フヤウナ事ニナルダラウ、現ニ金子さんノ引カレタ所ノ官有財產管理規則ニ付テモ其時分ニ財產目錄ト云フモノヲ拵エヤウト云フ箇條ノ所ニ何ウシテモ一般ノモノヲ官有物ト云フコトデハ一體徃ケナイ、現ニ沖繩縣ダトカ何處ダトカ云フヤウナ所デハ目錄抔ハ拵エルコトガ出來ヌト云フ恐レガアル、又實地府縣抔デ持ツテ居ル所ノ地方税ノ財產ニ屬シテ居ルモノハ官有物ニナツテ居ルノデアル、其時分ニ此文章ヲ國家經濟ニ屬スル山林トカ土地トカ云フヤウナ風ニシテ置カウト云フヤウナコトデ大藏省デハ「國庫」ト云フ字ガ使ツテアルカラ官有物デ地方税抔ト云フモノハ入ラヌ、而シテ此「國庫」ト云フコトハ政府ハヽヽヽ損失ハ損失ヲスルト云フヤウナ品物ヲ言フノデアルト云フコトヲ大藏省ガ言ツテ居ツタ事ガアルノデアル、夫レハ其方ノ事ニ付テハ委シクハ知リマセヌカラ述ベマセヌガ、現ニ然ウ云フ事柄モアツタノデアル、現ニ大藏省抔デモ今日ハ國庫ト云フモノデモ國ノ財產ヲ所有スル所ノ或無形ノモノヲ言フト云フ主義ヲ用ヰルヤウナコトガ慣例ノ風ニ段々用ヰテ往ケバ宜シイ、此民法抔デモ國ニ歸屬スルト云フヤウナ風ニ書テ置クヨリモ國庫ニ屬スルトシテ置ケバ、國ニスルトカ國ノ所有物ダトカ何ンデアルトカ云フヤウナ風ニスルヨリモ却テ妙味ガアルダラウト思ヒマスカラ矢張リ起草委員ノ方ノ如クニ「國庫」トシテ置テ宜シイ、何モ憲法上トカ何ントカ云ツテ深ク論ズルニモ及バナイト思ヒマス、私ハ「庫」ノ字ヲ置クコトヲ好ム者デアル
尾崎三良君
多クハ申シマセヌガ私ハ此金子君ノ修正說ニ同意ヲ致シマス、其外ニモウ一ツ修正說ヲ提出致シタイノデスガ或ハ成立タヌカモ知レマセヌガ之ハ我邦ニ於テ特別ニ必要ナルコトト考ヘマスルカラ試ニ提出シテ諸君ノ御考ヘヲ煩シタイ、ト申シマスルモノハ此法人ガ解散シタ時分ニ其財產ノ歸着スル所ヲ段々極メテ往ク、寄附行爲ニ依テ成立ツタ法人ガ解散シテ其殘ツタ財產ハ誰某ニ屬スルト云フコトヲ定メテ置イタ時ニハ夫レニ歸屬スル、又定メナイ時ニハ理事ガ官廳ノ許可ヲ得テ處分スル、夫レガナイ時ニハ官廳ガ處分スル、國庫ニ屬スルト云フノデアリマスガ、日本ノ習慣デハ斯ウ云フコトガアリマス、然ウ云フ時ニハ其寄附者ニ返ヘスト云フコトガアリマス、尤モ日本ニハ斯ウ云フ法人トカ云フヤウナルモノハ是迄ナカツタガ寺抔ニ寄附シタ財產ハ其寺ガ潰レテ仕舞ツタト云フ時デアレバ其殘ツテ居ル田地抔ハ矢張リ尾崎家ガ前ニ寄附シタト云フコトデアレバ其尾崎家ヘ返ヘスト云フヤウナ習慣ガアル、之ハ是迄ノ日本ノ習慣法デアル此習慣法ハ矢張リ存シテ置キタイト思フ、ソコデ本員ノ修正說ハ「定款又ハ寄附行爲ニ於テ歸屬權利者ヲ指定セス又之ヲ指定スル方法ヲ定メサルトキハ寄附者又ハ其相續人ニ歸屬ス寄附者又ハ其相續人ナキトキハ理事ハ主務官廳ノ許可ヲ得テ」云々、斯ウ云フ一ノ條文ヲ加ヘタイト思ヒマス、ソンナ事ハ滅多ニナイコトデアル、十年ニ一遍アルカ五年ニ一遍アルカ分カリマセヌガ、有リ得ベキコトハ此處ニ掲ゲテ置クト云フコトデアリマスレバ何ウゾ日本特別ノ習慣ハ入レテ置キタイト思ヒマスカラ何ウカ御贊成アラン事ヲ希望致シマス
穗積陳重君
此「國庫」ノ修正案ニ付テ金子君ニ御尋ネ致シタイコトガアリマスガ、成程「國庫」ト云フ字ニ付テハ隨分疑ヒモアリマセウガ、「國庫」ヲ唯一ツノ金庫ト同樣ニ考テ「國庫」ハ法人デナイモノデアルト云フコトガ是迄ノ日本ノ法律ニゴザイマセウカ、隨分會計法ヤ何カニ依テ見レバ國庫ガ矢張リ一ノ法人ノヤウニ見テ居ルヤウニ解釋ノ出來ル所モアリマス、國庫ニ向テ支拂命令ヲ發スルトカ、國庫ハ支拂ヲ爲スコトヲ得ズトカ云フヤウナ然ウ云フ工合ニ書テアルノモアリマスルガ、矢張リ國庫ハ法人デナイト云フ事ナソデアリマセウカ、ソコガ明カデナイノデゴザイマス、夫レト又是迄ノ國庫ト云フモノハ金錢丈ケヨリ外ニ持ツコトハ出來ヌ、或ハ金錢ヲ入レル場所デアル、斯ウ云フ御考ヘデアツテ其御考ヘガ日本ノ是迄ノ法律ノ解釋デアルトシタ所ガ又法律ニ依テ法人ノ遺產ヲ持タセルコトモ出來ルト云フコトハ前ニ申上ゲテ置キマシタガ、夫レガ出來ヌト云フ理由ガアリマセウカ、之ハ高木委員カラモ御諮ヒニナツタヤウデアリマスガ、ソコノ所ノ御答ヘハ未ダ私ニモ何ウモ能ク分カラヌデアリマシタガ、其二點ヲ何ウゾ御說明ヲ願ヒタイ
金子堅太郎君
最初ノ御問ヒニ答ヘマスガ、「國庫ニ向テ」ト云フコトハ詰リ中央金庫ニ向テ請求ヲスルト云フコトデ、中央金庫ハ大藏省ニアル、夫レガ卽チ國庫デアル、中央金庫ガ支拂ヲ日本銀行ニ向テ出スノデアル、何故ナレバ租税ノ集マツタ所ガ卽チ國庫ト看ル、夫レガ國庫デアリマスルカラ其場所ニ向テ支拂ヲ請求スル、命ズベシト云フノハ卽チ中央金庫ガ第一銀行ニ命ズルノデアル
穗積陳重君
法人トハ看ナイデアリマセウカ
金子堅太郎君
法人トハ看テナイ、一ノ機關デアリマス、財政出納ノ機關ト看テ居ル、夫レカラ國庫ノ中ニ森林ガ這入ルト云フコトハ出來ナイ、又鑛山ガ國庫ニ這入ルト云フコトモ出來ナイ、納入スルト云フコトハ出來ナイ、故ニ若シ此寄附行爲ニ係ル物件ガ森林原野船舶營造物ノ如キモノデアツタ時ニハ國庫ニハ何ウモ納入スルト云フコトハ出來マセヌカラ何レ大藏省ノ主管ナレバ大藏大臣ガ管理スル、卽チ官有財產管理規則ニ依ルト船舶ナレバ遞信大臣ガ管理スル、森林ナレバ農商務大臣ガ管理スル、營造物、例ヘバ美術館ノ如キモノナレバ文部大臣ガ管理スル、皆夫レ夫レ種類ニ依テ主管ノ大臣ガ違ツテ居ル、夫レデ私ハ何ウモ此「國庫」ト云フモノハ今ノ有樣デ金錢ヨリ外ノ財產ヲ所有スルト云フコトハナイト思ヒマス、若シ之ガ今ノ起草委員諸君ノ御解釋ノ如キ解釋ヲ成立タセレバ從ツテ訴訟法ノ十四條モ改正シナケレバナラヌ、又官有財產管理規則第一條モ改正シナケレバナラヌ、又ハ鑛業條例ノ第二條モ改正シナケレバナラヌ、總テ今迄ノ日本ノ法律ヲ皆ナ改正ヲシナケレバナラヌト云フコトニナリマス、此民法ノ爲メニ斯ク迄ニ慣例ヲ爲シテ居ル行政法ニ係ル法律、又ハ法制ノ機關ヲ丸切リ一變シナケレバナラヌト云フコトハ餘程之ハ大キナ問題デアラウト思ヒマス、私ハ「國」ト云フ解釋ニ付テハ穗積君ノ言ハレタヤウニ共和主義デナク卽チ天子ノ知食サレル國ト云フコトニ解釋シテ置ケバ宜シイト思ヒマス夫レデ若シモ穗積君ノ如ク解釋セラルルナレバ今申シタ通リ總テノ法律ヲ一變シナケレバナラヌ事ニナラウト思ヒマス、總テノ法律ニモ皆「國」トシテアルヤウデアリマスカラ、何ウカ之ハ事情ヲ割愛爲サレテ「庫」ノ字ノ削除ニ御同意アラソコトヲ希望致シマス
穗積陳重君
此外ノ所ニ「國」ト書テアリマシテモ財產ノ主格トナリマスル時ハ矢張リ國庫タル資格ニ於テノ國ト云フヤウナ風ノ意味ヲ持テ居ラナケレバ國ノ所有權ト云フヤウナコトニハ何ウモ言ヘナイヤウニナリハシマセヌカ、夫レカラ私ノ說明ガ或ハ充分デナカツタノデゴザイマセウガ、「國」ト云フト共和國主義ニナリマセウト云フタ譯デハナイ、共和國抔デハ皆デモアリマスマイガ瑞西抔ノ國ニ於テハ「國庫」ト書テ居リマスガ、共和國抔デハ直チニ「國」ト書テ居ルノガ多イ、「國」ト書ケバ共和主義ニナルト云フコトデハナイ、一體ノ法理論カラシテ國全體ガ財產ノ所有權ヲ持ツテ居ルト云フコトハ出來ナイト思ヒマス、夫レデ國ガひすかすト云フ資格デナケレバ所有權ヲ持タナイト云フ考ヘカラシテ「庫」ノ字ヲ用ヰタト云フノデゴザイマス
金子堅太郎君
一寸伺ヒマスガひすかすト云フノハ何ウ云フ譯デアリマスカ
穗積陳重君
夫レハ釋迦ノ前ニ說法デ誠ニ恐入ツタコトデアリマスルガ、何時デモ國ガ財產ノ主格トナツテ現ハレル、夫レ丈ケノ一ノ働キ、私法上國ガ財產ヲ持ツモノトシテ夫レガ爲メニ國ヲ法人ト認ムルナレバ通常ひすかすト思ツテ居リマス、卽チ國庫タル資格ト云フ意味デ是迄モ使ツテ居ルト思ヒマス、是迄ノ外ノ法律デモ「國」ト云フノヲ變ヘレバ宜シイト思ヒマスルガ併シ變ヘナクテモ私ハ構ハヌト思ヒマス
長谷川喬君
金子さんノ御說ガアリマスルカラ序ニ申シマスガ此憲法ノ六十二條ヲ見ルト「國債ヲ起シ及ヒ豫算ニ定タルモノヲ除ク外國庫ノ負擔トナルヘキ契約ヲナスハ帝國議會ノ協贊ヲ經ヘシ」トアル、卽チ國債ヲ起ス時ニハ其起シタ負擔者ハ國庫デアル、卽チ國庫ガ一ノ主格トナツテ居ルヤウデアリマスガ、夫レハ矢張リ私ノ解釋ガ間違ツテ居リマセウカ何ウデゴザイマセウカ
金子堅太郎君
夫レハ分カツテ居ルコトデ、國債ヲ起スト云フヤウナ時ハ帝國議會ノ協贊ヲ經ル、國庫ノ負擔トナルト云フノハ國債ヲ起スノガ國庫ノ負擔ト云フノデハナイ、國債ハ國ノ負擔デアツテ國庫ノ負擔デハナイ
梅謙次郎君
今ノ金子さんノ御讀ミ方ハ何ウデゴザイマセウカ、善シ惡シノ討論ハ姑ク措テ、兎ニ角憲法六十二條ノ三項ハ長谷川君ノヤウニシカ讀メマセヌ、之ハ國庫ノ負擔トナルベキ契約ノ中デ國債ヲ起スコトト豫算ニ定タルモノヲ除ク外ト云フヤウニシカ讀メマセヌガ、夫レ共「及ヒ」ト云フ方カラ國庫ニ屬シテ居ルト云フノデゴザイマセウカ、私ハ是迄然ウ云フ風ニ讀ンデ居リマセヌガ
富井政章君
私ハ却テ此「及ヒ」ト云フ字ガ「豫算ニ定メタルモノヲ除ク」ト云フ事丈ケニ掛カルト思ヒマス、夫レデ私ハ今ノ點ハ何ウデモ宜シイノデアリマス、私ガ金子君ニ承リタイノハ「國庫ノ負擔トナルヘキ」ト云フノハ國庫ガ法人デアルヤウナ書キ方デゴザイマセウカ、夫レハ何ウ云フ風ニ說明スレバ宜シイト云フ御考ヘデアリマスカ
金子堅太郎君
國庫ノ負擔トナルベキト云フノハ契約ノ形容詞デアル
富井政章君
國庫ガ債務者トナルト云フ風ノ書キ方ニナルノデアリマスカ
奧田義人君
私カラ答辯シマセウ、全體日本ノ法律ノ中ニハ憲法ヲ始メトシテ其他諸法律ノ中ニハ法人デナイモノガ恰モ法人デアルガ如ク書テアルモノハ獨リ「國庫ノ負擔トナルヘキ」云々トアル箇條計リデハアリマセヌ、現ニ市町村制抔ヲ見ルト區ト云フモノハ何ウデアルカ區ハ決シテ法人デモ何ンデモナイ東京市ノ中ニアル所ノ區ト云フモノハ法人デモ何ンデモナクシテ然ウシテ財產ヲ所有スルコトガ出來ルコトニナツテ居リマス、又村會或ハ郡會抔ハ何ウデアルカト云フト之モ法人デモ何ンデモナイ、然ルニ訴訟ヲ起スコトヲ得ルトカ何々スルコトヲ得ルトカ云フヤウナ箇條ガ澤山アリマス、故ニ是々ハ法人デアルト云フコトヲ定メテアル時ハ兎モ角デアルガ、唯文章ノ上ニ於テ法人ノ如ク見エルトカ憲法デモ然ウ見エルト云フヤウナコトデアツテモ決シテ然ウ云フ解釋ハ許サレヌト思ヒマス、矢張リ私ハ之ハ金子君ノ說ヲ贊成シテ「國」ト直ホシタ方ガ宜カラウト思ヒマス、殊ニ多年ノ間「國」ト云フ辭バヲ使ツテ來テ今日デハ之ガ慣用ニナツテ居ルコトデモアレバ、縱シ學理上ニ於テハ多少不都合ナコトガアルニモセヨ之ヲ改正スル程ノ必要モ認メマセヌカラ、矢張リ之ハ金子君ノ言ハレル通リ「國」トシテ置ク方ガ最モ宜シイト思ヒマス
末松謙澄君
此國庫ニ歸屬スルト云フコトニ付テハ國庫ハ法人デアルヤ否ヤト云フコトヲ論ズルノハ不必要ナコトデアラウト思フ、唯政府ノ所有物ト看レバ一向差支ヘナイ、然ウスルト政府ハ法人デアルカナイカト云フヤウナ論ガ起ルカモ知レヌガソンナ論ハ構ハヌト思フ、先程モ金子さんハ會計法ノ十三條ヲ御引キニナツタガ此十三條ニハ「國庫ニ向ヒテ支拂命令ヲ發スヘシ」云々トアル、其次ノ條ニハ「國庫ハ法律命令ニ反スル支拂命令ニ對シテ支拂ヲ爲スコトヲ得ス」ト云フコトガアリマスガ、是抔モ金子さんノ御說ノ通リニスルト何ントカシテ置カヌト不都合ノヤウニナツテ來ルデアラウ、國庫ト云フモノガ有形物デアルト云フ話シデアレバ支拂ヲ爲スコトヲ得ズトカ云フヤウナコトハ出來ヌ、是抔ハ大藏省抔ニ責任者ガ幾ラモ居ツテ夫等ガ出來ルト云フヤウナコトニデモ取ラヌケレバナラヌ、夫レガ日本銀行ニ委囑シテ居ルノデアル、然ウスルト然ウ云フ事ハ直接ニ取遣リヲスルノハ各省大臣抔ガスルノデアル、其時ハ金庫ハ出來ヌト云フヤウナ風ニ當ルノデアリマスカラ、其金庫ト云フテモ必ズ大藏省卽チ國ノ財產ヲ掌ツテ居ル所ノ責任者ゾト云フヤウナ風ニ間ノ者ガ捗取ラセルヤウニシナケレバナラヌ勘定デアル、夫レデ之ハ餘程議論モノデアル此處デハ國庫ト云フモノハ國ノ財政ヲ扱ツテ居ルモノデアルト云フヤウナ風ノ外ニハ解セラレヌ、夫レデ今ノ所デ法人トカ何ントカ云フ風ノ問題ハ何ウデモ宜イ話シデアルノデアル、先ヅ此案ニ「國庫ニ歸屬ス」ト言ツテモ法人抔ヲ持出サヌデ卽チ政府ノモノニナルト云フヤウニシテ置イテ差支ヘナイ、却テ此方ガ利益デアル、矢張リ之ハ「國庫」ト云フヤウナコトニ言フテ置ク方ガ簡略デ宜イ、此處ニ書イタ所ガ國庫ハ法人デアルカナイカト云フヤウナ論ハ此處デハ起ルカ知レヌガ世間ニハ起ラナイ、夫レデ此處デハ矢張リ「國庫」ト云フコトニシテ置テ差支ヘナイト思フ
磯部四郎君
先程カラ餘程議論モ出マシタガ、成程「國庫」デモ宜イカモ知レマセヌガ、併シ「國庫」ト云フモノガ旣ニ日本ニ一ツアツテ其職權ガ極マツテ居ツテ然ウシテソコデ扱フ財產モ極マツテ居ル、ソコヘ持テ往ツテ此處ヘ「國庫」ト云フコトヲ書テ置クト詰リ實際ノ取扱ガ出來ヌト思ヒマス、之ニ反シテ「國」ト云フコトニナルト、詰リ先程カラ金子さんノ述ベラレタル通リ、官有財產ト云フヤウナ風ニ取扱ガ明瞭ニナラウト思ヒマスカラ、決シテ憲法等ヲ引用ヲシテ論ズルニモ及ブマイト思フ、加之ナラズ外國ノ例抔モ出マシタガ、佛蘭西ハ前カラ共和國デハナイデアリマス、此處等ノ例ニ依テモ矢張リ國庫ト國有トガ別ニナツテ居ル所ハ外ノ所ハ知リマセヌガ佛蘭西ニハアリマス、強テ國庫ト云フモノニ悉ク所有ヲ歸セシメヌト云フヤウナコトハ近頃ノ法理ニハアルカモ知レマセヌガ歐洲大陸デハ外ニハ例ハナイヤウデアリマス、尙ホ憲法論モ出マシタガ、此「國庫ノ負擔トナルヘキ」ト云フコトハ國庫カラ支拂ヲ爲スベキ義務ノ生ズル契約ハ卽チ帝國議會ノ協贊ヲ經ロト云フ法文デアツテ、必ズ之ハ國庫ガ國ヲ代表シテ國庫其者ガ債務者ニナルノデハナイ、國庫ト云フ所ハ國税ノ集マル所、其國税ヲ以テ辨償スベキ所ノモノデアルカラ帝國議會ノ協贊ヲ經ロト云フノデアル、卽チ國庫ト云フ租税ノ集マル所ノモノヲ以テ債務ノ辨償ヲ爲スベキ其契約ハ帝國議會ノ協贊ヲ經テ契約ヲ爲セト云フコトデアル、是丈ケノ文章デアリマスカラ、之ガ卽チ國ヲ代表シテ國ノ負擔スベキ一切ノ債務ヲ擔當スベキモノト云フ法文デアルト云フヤウナ風ニハ此六十二條ハ讀メヌヤウデアリマスカラ、之ガナイトテモ決シテ金子委員ノ論ゼラレタ所ニ牴觸スルト云フコトハナイヤウニ考ヘマス、付テハ何ウカ此「庫」ノ字ヲ一ツ削ルコトニ滿場諸君ノ御贊成アランコトヲ望ミマス
穗積陳重君
先刻奧田君カラ日本ニハ然ウ云フ風ナ文章ガ幾ラモアル、夫故ニ國庫ガ法人見タヤウニ見エル所ガアツテモ少シモ此處ニ拘泥スルニハ及バヌト云フヤウナ風ニ夫レ夫レ例ヲ擧ゲテノ御議論デゴザイマシタガ、其引用セラレタ所ト私抔ノ調ベタ所トハ凡テ違ウノデアリマス、郡會ガ財產ヲ持ツト云フヤウナ御議論デアリマシタガ
奧田義人君
ソンナコトハ言ハナイ、區會郡會抔ガ訴訟ヲ起スコトヲ得ル、恰モ一己人ガ訴訟ヲ起スコトヲ得ルト書テアルノト同ジニ然ウ云フ能力ヲ與ヘテ居ルト言ツタノデ、郡會ガ財產ヲ持ツト云フ風ニハ言ハナカツタ、又區ガ一個ノ財產ヲ持ツ時ハ云々トアルカラ區ト云フモノハ一ノ財產ヲ持ツコトハ出來ルト云フヤウニナツテ居リマス、決シテ區ハ法人デハナイノデアリマス
穗積陳重君
夫レハ丸デ私ノ見解ト違ウノデアリマス、苟モ郡デモ同ジコトデ、郡有財產トカ或ハ郡會ガ訴訟ヲ起スコトガ出來ルトカ云フノハ郡ハ法人デアルカラ郡ナル法人ガ訴訟ヲ起スコトヲ得ルト云フコトニ郡制ヲ讀ンデ居リマス、又區ナルモノハ一ノ法人ト看ナケレバ財產ヲ持ツコトモ出來ヌデアラウ、人デナケレバ何ウモ出來ヌコトデアルダラウ、町村抔モ同ジモノト私ハ思フテ居リマス、ソコハ御見解ガ違ウカモ知レマセヌ
土方寧君
「國庫」ト云フ唯「庫」ノ一字ヲ削ルト云フ修正案ニ付テえらい六ケ敷イ公法上ノ問題ガ出テ來テ、夫レガ爲メニ定刻時間ヲ三十分以上モ過ゴシマシタガ、未ダ議論ガ蓋キナイ所ヲ以テ見レバ之ハ餘程重大ナ問題ト思ヒマスルシ、又人數モ至ツテ少ケナウゴザイマスルカラ、何ウカ之ハ次回迄御延期アランコトヲ希望致シマス
奧田義人君
私ハ此問題ニ付テハ是非今晩議決スルコトヲ望ミマス、尙ホ一言申上ゲテ置キマスガ、穗積委員ノ御議論デハアルガ、成程權利ノ主格トナルモノハ法人ノ主格トナルベキ譯デアル、譯デハアルガ法人デナイモノニ矢張リ法律ノ規定ニ依テ權利ヲ特ニ持タセテ居ル、法人ノ資格ハ與ヘテ居ラヌ、夫レダカラ市町村制抔ヲ見テモ「市ハ法律上一己人ト均シク權利ヲ有シ義務ヲ負擔シ」云々トアル、市ハ法人デアルト云フコトハ特ニ示シテナイ、又區會ハ法人デアルト云フコトハ決シテ示シテナイ、若シ法人タルコトヲ示シテアルナレバ其第二條ノ如ク「市ハ法律上一己人ト均シク權利ヲ有シ」云々ト云フヤウナコトハ始メカラ言フニモ及バナイコトデアルト考ヘル、始メカラ法人トシテ置ケバ宜シイ、然ルニ法人トシテハナイ、之ハ必ズ法律ノ特別ノ規定デ然ウ云フ權利ヲ持タシメル時ハ之ハ法人デナクテモ隨分持タセルコトガ出來得ラレルト思ヒマス、一般ノ理論カラ言ヘバ一般ノ權利ヲ必ズ見テナケレバナラヌト云フコトハ明カデアリマス、一般ノ理論ヲ應用スルト云フコトハ到底今日ノ法律規則ノ上デハ萬々六ケ敷イコトト信ジテ居リマス
穗積陳重君
私ハ一般ノ理論ヲ申上ゲテ置キマス
金子堅太郎君
旣ニ休會ノ動議モ起ツテ居ル際ニ私ノ起ツノハ甚ダ恐縮デハアリマスガ、僅カ十分間デアリマスカラ何ウカ御許シヲ願ヒマス、此問題ニ付テ斯樣ナ憲法論ノ出タノハ實ニ驚イタ話シデ、今私ガ之ニ付イテ說クノハ所謂釋迦前ノ說法デハアリマスガ、此「國庫ノ負擔トナルヘキ契約」、卽チ國庫カラ金ヲ出サセルヤウナ契約ヲ各省大臣ガ豫算デ許サレテ居ルモノハ帝國議會ノ協贊ヲ經ヨト云フ話シデ、之ハ何モ私ノ喋々ヲ要セヌデモ分カツテ居ルト思ヒマス、夫レカラ國庫ハ法律命令ニ違フタ支拂命令ニ對シテ支拂ヲ爲スコトハ出來ヌト云フコトガアルトカ云フコトヲ末松君ガ言ハレマシタケレドモ、此國庫ト云フモノノ金ノ支拂ヒバ帝國議會デ内務省デ幾ラ、文部省デ幾ラト云フ決議ガアツテ、夫レガ大藏省ノ方ノ國庫、卽チ金庫ノ方ヘ積モツテアリマスカラ夫レヲ取ル權ヲ拒否スルト云フノデハナイ、唯果シテ議會ノ議決通リノモノデアルヤ否ヤト云フコトヲ監査スルノデアル、若シ違ツテ居レバ其豫算通リニ準據シテ出セト云フノデアル
中村元嘉君
私ハ尾崎君ノ說ニ贊成シマセウ
議長(西園寺侯)
決ヲ採リマセウ、文章上カラ見タ所デハ尾崎君ノ動議ノ方ガ反對ガ多イヤウニ思ヒマスカラ先ヅ此方カラ採リタイト思ヒマス、只今ノ第二項ノ尾崎君ノ修正案ニ贊成ノ方ハ起立ヲ請ヒマス
起立者少數
議長(西園寺侯)
少數デゴザイマス、引續イテ決ヲ採リマス「國庫」ノ「庫」ノ字ヲ削ルト云フ金子さんノ修正說ニ贊成ノ方ハ起立ヲ請ヒマス
起立者少數
議長(西園寺侯)
少數ト認メマス
(此時「多數」ト呼ブ者アリ)
議長(西園寺侯)
私ハ間違ヒナイト思ヒマスガ念ノ爲メニモウ一遍採リマセウカ何ウデゴザイマセウカ、モウ一度採ルト云フコトニ贊成ノ方ハ起立ヲ請ヒマス
起立者少數
議長(西園寺侯)
少數デゴザイマス、夫レデハ今晩ハ之デ散會致シマス
午後十時四十分散會