第九回總會議事速記録
明治二十七年二月二日午後四時四十分開會
出席員
伯爵伊藤博文君
侯爵西園寺公望君
箕作麟祥君
本野一郎君
土方寧君
村田保君
本尾敬三郎君
山田喜之助君
岸本辰雄君
阿部泰藏君
田部芳君
高木豐三君
末延道成君
梅謙次郎君
富井政章君
穗積陳重君
斯波淳六郎君
末松謙澄君
奧田義人君
穗積八束君
淸浦奎吾君
都筑馨六君
中村元嘉君
星亨君
長谷川喬君
關直彦君
大岡育造君
磯部四郎君
尾崎三良君
三浦安君
山田東次君
議長(伊藤伯)
是ヨリ開會致シマス
穗積陳重君
今日ノ會議ハ四十七條カラデアリマスガ此四十七條カラ五十條迄ニ對シテ一寸シタ修正說ガ出テ只今蒟蒻版ニ掛ツテ居リマスカラシテ是ハ別ニ議スルコトニシテ先ヅ五十一條カラ議事ニ御掛カリニナルコトヲ望ミマス
議長(伊藤伯)
其修正案ハ起草委員ノ方デ出來タノデスカ
穗積陳重君
左樣デアリマス
議長(伊藤伯)
夫レデハ只今四十七條カラ五十條迄ニ付テ少シ修正ガアルサウデスガ其案ハ今出來ツツアル然ウデ蒟蒻版ヲ今摺ツテ居リマスカラ、五十一條カラ始メテ夫レガ出來タ上デ四十七條カラ始メマス
(書記朗讀)
第五十一條 法人ハ名稱ヲ定メ事務所ヲ設クルコトヲ要ス
法人ノ住所ハ其主タル事務所所在ノ地ニ在ルモノトス
議長(伊藤伯)
五十一條ニ付テハ御異論ハナイネ
(此時「ゴザイマセヌ」ト呼ブ者アリ)
議長(伊藤伯)
夫レデハ御異論ガナケレバ原案可決ト認メテ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第五十二條 法人ハ設立ノ時及ヒ毎年初ノ三个月内ニ財產目錄ヲ作リ常ニ之ヲ備ヘ置クコトヲ要ス但特ニ事業年度ヲ設クルモノハ其終ニ於テ之ヲ作ルヘシ
社團法人ハ社員名簿ヲ備ヘ置キ社員ノ變更アル毎ニ之ヲ訂正スルコトヲ要ス
磯部四郎君
一寸伺ヒマス、第一項ノ但書ノ「特ニ事業年度ヲ設クルモノハ其終ニ於テ」ト云フコトガアリマスガ是ハ年々作ル外ニ何時終ツテモト云フ意味ニナルノデアリマスカ
穗積陳重君
然ウデアリマセヌ
磯部四郎君
始メカラ年限ガ極メテアルモノハ始メカラ財產目錄ハ要ラヌ、終リ丈ケニ要ルト云フノデアリマスカ
穗積陳重君
設立ノ時ハ勿論作ラナケレバナラヌ
磯部四郎君
然ウスルト是ハ斯ウ云フ譯ニナルノデアリマスカ、始メノ時ニ一遍作ツテ事業年度ニ限リノアラザルモノナレバ其間何ケ年經過シヤウト其間ハ作ラヌデモ宜シイ、三ケ年ノモノナレバ其始メト後トノ事業ノ終ツタ時ト云フノデアリマスカ
穗積陳重君
勿論然ウデアリマス、三ケ年度ニ渉ルモノデアリマスレバ此文章デハ勿論然ウデアラウト思ヒマス、其得失ハ兎ニ角措イテ
末松謙澄君
此財產目錄ト云フノハ何ウ云フ所迄及ブノデアルカ、商人ニ付テノ其基本金ト云フヤウナモノモ此中ニ入ルノデアルカ、又商品抔モ此中ニ入レルノデアルカ、或資本金ガアレバ商賣品ハ入レヌ、固定ノ資本金ヲ見タヤウナモノヲ言フノデアリマスカ
穗積陳重君
勿論財產目錄ト言ヘバ財產悉ク含ムト見ナケレバナラヌノデアラウト思ヒマス夫レデ地所家屋ノ如キモノ資金ノ如キモノ、其資金ガ働イテ居リマスル有樣ガ色々ノモノニナツテ居リマスレバ夫レハ其物迄モ作ラナクモ宜シイ商法デモ然ウデアラウト思ヒマス、資金ト云フモノヲ書イテ其資金ガ色々働イテ居ル例ヘバ商品ノ如キモノ夫レヲ一々作ラナケレバナラヌト云フコトハ適用上必ズナイコトデアラウト思ヒマス、併ナガラ如何ナル形チニ於テモ財產全部ト云フモノヲ此目錄ノ中ニ現ハサナケレバナラヌト云フコトハ明カデアリマス
星亨君
此但書ニ「特ニ事業年度ヲ設クルモノハ其終ニ於テ之ヲ作ルヘシ」トアリマスガ其前ニ作ツテハ往カヌノデアリマスカ
穗積陳重君
夫レハ勿論終デナケレバ往カヌノデアリマス、事業年度ノ終ト規定スル所以ハ丁度事業年度ヲ終リマスルト一度ビ財產ヲ運轉シタリ或ハ財產ヲ增減シタリスルコトノ區切リガ分カルノデアリマスカラ終マデニト云フノデハナイ、其終ニ作レ、其區切リノ所デ作リ爲セト云フ斯ウ意味ナノデアリマス
末松謙澄君
斯ウ云フ工合ニ書テハ何ウデアラウカ、「但毎年作ルヘキモノニアツテハ特ニ事業年度ヲ設クル場合ニ於テ」云々ト云フヤウニシテハ何ウデアリマセウカ、少シ足ラヌヤウデハアルガ
議長(伊藤伯)
一體何ンデハアリマセヌカ、商社抔、此法人デ以テ、例ヘバ郵船會社ノ如キモノ、ああ云フ會社ハ初メカラ何年トカ年限ヲ極メテ於テ特許ヲ得テヤルガ、法律ノ許ス範圍内ニ於テ年限ヲ極メテヤルガ、始終財產ガ動ク、例ヘバ船ガ沈没スルトカ、夫レカラ又沈没シナクモ價格ノ減少モ年々起ツテ來ル、或ハ又價格ノ增加モ起ツテ來ル、然ウ云フモノデアルガ、其事業年度ヲ設クルモノハ其終ニト云フノデアルガ、此事業年度ナルモノガデス、何年デ終ルト云フ事業年度カ、夫レカラ或ハ其中間ニ於テ其年度ヲ定メテ此事業ヲシツツ價格又ハ財產ノ高ト云フモノヲ取調テ然ウシテ取極メヲ爲スルコトニスルノカ
穗積陳重君
其後ノ方ニスルノデアリマス、卽チ一年毎ニ勘定ヲスル、例ヘバ學問ノ法人デアリマスルト學年ガアル、然ウスルト其學年度ノ終ニナル、然ウ云フ事ヲ指シテ事業年度ト歴年度ト云フモノノ違ウ所ヲ見タ積リデアリマス、事業年度ガ續クト云フ積リデハナイノデアリマス
議長(伊藤伯)
實際上ノコトヲ御取調ニナツテ居ルノデスカ
穗積陳重君
實例ト云フコトモアリマセヌガ、財產目錄ヲ作ル規定ハ商業上デアリマシテモ宗教デアリマシテモ其他ノ法人ノ規則デアリマシテモ、多分之ニ付テハ歴年度ト事業年度ト兩方ノ規定ガ出來テ居ルノガ通例ノヤウニ思ヒマス
末延道成君
是ハモウ少シ實際ニ合フヤウニシテ斯ウ窮屈ニセズニ「毎年少クトモ一回財產目錄ヲ作リ常ニ之ヲ備ヘ置クコトヲ要ス」トシテ毎年一回ハ是非トモシナケレバナラヌ、併シ其時ハ何時デモ構ハヌト云フヤウニ極緩ニシタ方ガ宜カラウト思ヒマスガ如何デゴザイマセウカ、何ウモ事業年度ト云ツテモ三年モ四年モ長ク續クト遂ニ此法律ノ精神ニ背テ破產ノ地位ニ在ルモノガ世人ニ迷惑ヲ與ヘル、夫レデ是ハ矢張リ一ケ年毎ニ是非作ラナケレバナラヌ併シ其時ハ何時デモ宜シイ終デモ始デモ宜シイト云フヤウニシテハ何ウデゴザイマセウカ
穗積陳重君
私共ノ考ヘマシタ所デハ然ウ云フ規定ニシテ置クト云フト此監督ガ六ケ敷イト思フノデアリマス、或一定ノ事業ノ爲メニ財產目錄ヲ作ラセルト云フコトデアリマセヌト畢竟財產目錄ヲ作ラセルト云フコトハ種々ノ財產ヲ保護サセルトカ色々ノ點モアリマスガ、財產ノ濫用ヲ防ギ且監督ヲ便ニスル、監督ヲシヤウト云フニ付テハ一定ノ時期ヲ極メテ置クガ宜イト思フタノデアリマス
末延道成君
一定ノ時期ト云ツテモ一ケ年ハ是非シナケレバナラヌト云フ事ニシタ方ガ却テ其財產ヲ整理スルノニハ監督ノ途モ却テ好ク出來ヤウト思ヒマス
山田喜之助君
起草委員ニ質問致シマスガ、事業年度ト言ヘバ一个年ノ終ハ必ズ十二个月デアラウト思ヒマスガ、三年モ四年モ續クコトニナルト其事業年度ト云フモノハ或ハ三月カラ始メテ翌年ノ三月迄ト云フコトヲ云フノデアリマスカ
穗積陳重君
通常ノ場合デハ必ズ然ウデアラウト思ヒマス併シ事業ノ性質ニ依テ此處ニ規定スル所ノ法人ハ種々樣々ノ事業ガアル或ハ十三个月ヲ以テ一年度トスルト云フ事業年度ガアルカモ知レマセヌ夫レデモ矢張リ事業年度ト云フコトニナルト思ヒマス
山田喜之助君
年度ト言ヘバ必ズ十二个月ヲ云フノデアラウト思ヒマス或ハ一月カラ始マルカ二月カラ始マルカ三月カラ始マルカ夫レハ色々アリマセウケレドモ詰リ外ノ所ハ知リマセヌガ英吉利抔デ學校トカ何ントカ色々アリマスガ年度ト云ヘバ必ズ十二个月ニ限ツテ居ルヤウデアリマス、然ウ解釋シマスルカラ此五十二條ハ差支ヘナイト思ヒマスガ、併ナガラ都合ニ依テハ或ハ十三个月ヲ以テ事業年度トスルトカ或ハ十六个月ヲ以テ事業年度トスルトカ云フコトデハ如何ニモ可笑シイト思ヒマスガ結局年度ト言ヘバ十二个月ヲ云フノデアラウト思ヒマスガ如何デゴザイマセウカ
穗積陳重君
年度ト申シマスル字ハ私共ノ作ツタ字デナイノデ通常アル字ヲ使フタノデアリマス、夫レ故ニ或ハ吾々ノ解釋ガ惡イカモ知レマセヌガ夫レデ年度ト云フ字ガ普通ノ解釋ガ出來マスル意味デ解釋ヲ願ヒタイ私一己ノ意見デアルト其事業ノ性質ニ依テ必ズ十二个月デナクトモ年度ト言ヘルデアラウカト思ヒマス
磯部四郎君
一向差支ハナイデハアリマセヌカ
大岡育造君
然ウスルト是ハ經續事業トカ云フヤウナ事業ガアツタ時分ニハ一年カラ始メテ三年ニ終ルトスルト其三年ノ終ニヤレバ宜シイト云フヤウニ先刻ノ御說明デ承リマシタガ然ウ云フ譯デアリマスカ
磯部四郎君
夫レハ事業ノ終ト云フノデモアリマスマイ
大岡育造君
夫レカラシテ詰リ十三个月デモ亦十四个月デモ宜イト云フヤウナ御意見ガ出ル譯デハアリマセヌカ
穗積陳重君
私ノ說明ガ足ラヌ爲メニ或ハ誤解ヲ來タス恐レガアルカモ知レマセヌガ、併シ事業ノ終トハ言ハナカツタノデアリマス或事業ニ依テハ十五个月ニスルト一纏マリガ付ク夫レカラ又十五个月スルト一纏マリガ付クト云フヤウナモノモアリ得ルコトデアラウト思ヒマス然ウ云フ場合ニハ其事業ニ付テハ十五个月ヲ以テ事業年度ノ一ツトスルト云フコトデアリマス
大岡育造君
然ウスルト三年デモ五年デモ同ジヤウニ見エル
山田喜之助君
一寸伺ヒマスガ、何レ此事業年度ト云フモノハ社則トカ定款トカ云フモノデ極メナケレバナラヌト思ヒマスガ、必ズ十三个月ヲ以テ一年度トスルトカ或ハ二年ヲ以テ一年度トスルトカ一定ニ極マツテ仕舞ウ、決シテ其事業ノ性質ニ依テ此事業ガ終ツタカラトカ、例ヘバ一ノ船ヲ造ル、夫レガ出來了ツタカラトテ其事業ニ依テ決定スルモノデナカラウト思ヒマス、如何ナル團體デモ必ズ始メカラ其名前ヲ極メテヤルノデアラウ、故ニ色々豫メ學校デアルトカ、其他事業ニ依テ違ヒマスケレドモ、現ニ大學校抔ハ九月カラ始テ六月ニ終ルトカ八月ニ終ルトカ云フコトニナツテ居ル、夫レデ是ハ一ノ事業ガ終ツタカラト云ツテ其年度デ始末ヲ付ケルト云フノデナクシテ、事業ノ全體ノ性質カラ豫テ極メテアルノデアルカラシテ、此事業年度ハ何ウカ十二个月ヲ以テ事業年度トスルト云フコトニ御解釋ニナルヤウニ希望致シマス、此主義ノ極メ方ニ依テ贊否ニ關係ガアリマス
穗積陳重君
大學ノ方抔デ學制ニ命ジテアル學年度ト云フノハ御承知ノ通リ九月十一日カラ七月十一日迄デアリマスガ、然ウ云フ場合ガ或ハアリ得ルコトデアラウト思ヒマス、夫レハ十二个月ヨリ少ナイノデアル
山田喜之助君
十二个月ヨリ少ナイノモコザイマセウガ決シテ十二个月ヨリ少ナイト云ツテモ矢張リ十二个月トナツテ來ルノデ夫レハ詰リ休暇ト云フモノガアルカラ其休暇ト云フモノガ極マツテ居ルノデ、夫レモ這入ルカラ矢張リ事業年度ハ十二个月デアラウト思ヒマス
侯爵西園寺公望君
御議論ヨリモ修正案ニナサツテハ何ウデアリマスカ、然ウスルト議事ガ運ンデ宜シイト思ヒマス
山田喜之助君
私ハ是ハ矢張リ十二个月ノ意味ニシタイト云フ意見デアリマス
磯部四郎君
山田君ニ贊成致シタクハアリマスガ何ウモ意味合ガ能ク分カリマセヌカラ一寸御尋ネ致シマス、何ウデゴザイマセウカ、此事業年度ハ私共ノ考ヘデハ兎ニ角此出納ノ一纏リヲ付ケテ是丈ケノ收入ガアツテ是丈ケノモノガ出タト云フ、一段落ノ付ク所デ事業年度ガ付クノデアラウト思ヒマスガ、夫レデ事業年度ト云フノハ、必ズ一年ト云フ譯デゴザイマセウカ、然ウスルト彼ノ山林抔ヲ目的トスル社團デアツタナラバ十三年トカ或ハ二十年トカ極ク大ナモノニナルト百年位デ漸ク淸算ヲスルコトニナルト云フヤウナモノモ出テ來ルカモ知レマセヌガ、然ウスルト云フコトニスルト云フト淸算ヲスルコトガ出來ナイ場合デモ矢張リ一年毎ニ必ズ極メテ、其年度ヲ極メテ、未ダ手ヲ付ケタ斗リノ所ニ以テ來テ年中財產目錄ヲ作ルト云フヤウナコトニナラウ、旣ニ此間モ裁判所デ聞キマシタガ、彼ノ高野山ノ山林ヲ作ルニハ百年計リヲ費サナケレバナラヌト云フコトデアリマシタガ、然ウスルト是等ニ對シテノ財產目錄ヲ作ルニモ矢張リ原案ノ通リデ往ケヤウト思ヒマスガ如何デゴザイマセウカ
山田喜之助君
夫レハ往ケマセヌ此條ハ私ガ申ス迄モナク多クハ學術團體デアルトカ慈善團體デアルトカ云フモノデアツテ、商法ノ會社抔ニ付テハ別ニ規定ガアリマス、然ウスルト商法ノ金錢上ノ得失ヲ主トシテ居ル所ノ會社ハ商法ノ規定ニ依テ是ハ慥カ毎年計算スルコトト考ヘテ居リマス、或年ニ依テハ計算ニ不便ナコトモアリマセウケレドモ、毎年計算スルト云フコトハ、此團體事業ニ向テ最モ必要ナコトデアラウト思ヒマス、是等ハ社團法人トカ何ントカ云フモノニ重モニ掛カルモノデアリマスガ、兎ニ角事業ガ中途デアラウガ何ウデアラウガ計算ノ出來ナイコトハアリマセヌ、唯學校事業トカ慈善事業抔ト云フモノハ他ノ營利ヲ目的トスル商業上抔トハ違ヒマスガ、兎ニ角事業年度ト申スモノハ一事業ガ終ラウガ終ルマイガ一年毎ニ計算ヲスルト云フコトハ私ハ至極適當ナコトデアラウト思ヒマス、詰リ此理由ニ獨逸ノ商法其他ヲ御引キニナツテ居ルヤウデアリマスガ其意味モ私ノ言フ意味ニ外ナラヌト思ヒマス、若シ之ヲ事業ノ終リニスルコトニナルト云フト、通常營利會社抔ニ於テハ財產目錄ヲ作ル者ハナイコトニナツテ來ヤウト思ヒマス、夫レデ私ハ十二个月ト云フコトニ若シモ語弊ガゴザイマスレバ何ウデモ宜シウゴザイマスガ、兎ニ角年度ト申ス以上ハ十二个月ヲ超ユルモノデハナカラウト思ヒマス
大岡育造君
私モ伺ヒマスガ是ハ今ノ極マリ方ニ依テ大層關係ガ違ウト思ヒマス是迄社團法人ハ特別ノ取締ヲ要スル、是非行政官ノ認可ヲ要スルト云フコトハ此案ノ精神デアルヤウデアリマス然ル所ガ今山田君ノ言ハレル所ニ依テ毎年十二个月毎ニ財產目錄ヲ作ルト云フコトニナリマスレバ危險ハ少ナカラウト思ヒマスルガ、例ヘバ横濱ノ築港ヲスルト云フコトハ實際政府ノ事業デナクシテあれガ一ノ公益ノ事業トカ慈善的ナ若シ意味ヲ以テ社團ヲ作ツテヤルト云フ時分ニハ五年ヤ十年ハ掛カラウ、隨分大キナ金ヲ扱ハナケレバナラヌ、夫レニ非常ナ信用ヲ置イテ種々ナコトヲ運ンデ居ル間ニ、所謂山師ガ出タ折ニ若シ破產ノ恐レガアラウカト云フヤウナ時分ニ一向取締ルコトガ出來ナイト云フコトモアラウト思フ、然ルニ其事業ガ終ル時デナケレバ財產目錄ヲ作ルコトガ出來ナイト云フ風ニ長クナルノモ困ルコトデアラウト思ヒマス、卽チ毎年デハナイ、其事業ノ終リ年度ガ大層長イト取締上ニ於テ困ルコトガ起ラウト思ヒマスカラ、此處ヲはつきり極メテ貰ヒタイ
穗積陳重君
大岡君ノ只今ノ御演說ハ或ハ前ニ私ガ呉々御斷リヲシテ置イタコトガ明カデナイト思ヒマスルガ或一ノ事業ヲ限ツテ其事業ガ終結スル時ト云フ意味デハナイ、其事業ヲスルニ付テ一ツ一ツノ區切リヲ付ケル其事業ノ年度ニ區切リヲ付ケルモノガアツタナラバ其終ニ於テ財產目錄ヲ作レト云フノデ、其事業全體ガ終結シタ時卽チ終ツタ時ニ作レト云フノデハナイト云フコトニ御承知ヲ願ヒマス
梅謙次郎君
實際ハ十二个月デアル、通常ハナイコトデ萬々一デアリマス
大岡育造君
然ウスルト此「終ニ」ト云フコトノ必要ガナクナリハシマセヌカ
議長(伊藤伯)
是ハ一寸言フテ見レバ法人ハ設立ノ時及ビ毎年初ノ三个月内ニ財產目錄ヲ作ル更ニ毎年初ノ三个月ニ反對シタ例ヲ示スニ過ギヌ積リデハナイカ
穗積陳重君
左樣デアリマス
山田喜之助君
私モ然ウ解シテ居リマス
議長(伊藤伯)
然ウ解シテ居レバ差支ヘナイ、五个月モアレバ九个月モアルト云フ斯ウ云フコトニ、初ノ三个月内云々ニ反對スルヤウニ解スレバ宜イノデス
星亨君
事業年度ト云フ文字ガ惡ルイヤウデアル
奧田義人君
私ハ此五十二條ノ第一項ノ法文ヲ斯ウ云フ風ニ修正シタラ宜カラウト思ヒマス、「法人ハ設立ノ時及ヒ毎年初ノ三个月内ニ事業年度アルモノハ其終ニ財產目錄ヲ作リ常ニ之ヲ備ヘ置クコトヲ要ス」、然ウシテ但書ヲ取ツテ仕舞ウト云フ修正說ヲ提出致シマス
岸本辰雄君
只今奧田君カラ修正說ガ出マシタガ、私モ丁度然ウ云フ考ヘヲ持ツテ居ツタノデアリマス、元來此事業年度ト云フモノハ先刻カラ八釜敷イ解釋ガゴザイマシタガ、私モ矢張リ此商法ノ三十二條ノ事業年度ト云フ所カラ採ラレタノデゴザイマセウガ、此事ニ依テ見マシテモ亦今日迄普通ニ用ヰ來ツテ居ル年度ト云フコトニシテモ十二个月以上ノモノハ先ヅナイダラウ、寧ロ夫レヨリ短イモノハアル、元來商法ノ三十二條ノ如キハ大概一年或ハ半年デヤルモノモアルト云フコトヲ想像シテヤツタモノデアルト云フコトヲ記憶シテ居リマス、夫レデ今奧田君ノ修正ノヤウニナルト丁度原案ノ趣意ニモ合フダラウト思ヒマス尤モ今起草委員ノ御說デハ一年以上ノモノモアルト云フコトヲ言ハレマシタケレドモ夫レハナイ方ガ宜シイト思ヒマスルシ又ナイ方ガ文字カラ言フテモ普通ト思ヒマス矢張リ其ヤウニ修正シタイト思ヒマスガ、併シ唯奧田君ニ御協議ヲ致シタイコトハ「毎年初ノ三个月内ニ」ト云フ下ニ「又ハ」ト云フ字ガアツタラ何ウカト思ヒマス、「初ノ三个月内又ハ特ニ事業年度ヲ設クルモノハ其終ニ於テ財產目錄ヲ作リ常ニ之ヲ備ヘ置クコトヲ要ス」是ハ詰リ何ンデセウ、一體毎年一回宛作レバ夫レデ宜シイケレドモ、併ナガラ例ヘバ事業年度ヲ別ニ設ケテ決シテ十二个月デ決算ヲセズニ或ハ四个月トカ或ハ六个月トカ云フヤウニ定メテ居ツタモノガアツタナラバ初ノ三个月内ニ作レト云フヤウニ中途ニ作レト云フコトハ不都合デアルト云フ所カラ畢竟出テ來タ事業年度ト云フノデアリマセウ、定則トシテハ毎年初ノ三个月内ニ作ラセル、併シ特別ニ事業年度ヲ設ケテ四个月ナラ四个月六个月ナラ六个月ト云フヤウニ定メテ居ルモノナレバ其終ト云フ意味ニシタ方ガ宜シイト思ヒマス、夫レデ奧田君ノ修正ノ儘贊成ヲシテモ宜シイガ唯文ノ所デアリマス、少シ修正ヲ加ヘテシタラ宜シイト思ヒマス
奧田義人君
私ハ何レデモ宜シイ、「又ハ」ハ這入ツテモ宜シイ、又「又ハ」ガナクテモ「三个月内ニ」ノ下ニ點ヲ打ツテ置テモ分ラウト思ヒマス兎ニ角趣意ハ今岸本君ノ陳ベラレマシタ趣意デ提出シタイト思ヒマスルカラ、若シ「又ハ」ト云フ字ヲ入レルガ宜イナレバ入レテ其方ニ贊成ヲシテモ差支ヘアリマセヌ
穗積陳重君
只今ノ修正說ハ成立チマシタカ
議長(伊藤伯)
未ダ成立チマセヌ
岸本辰雄君
私ハどちらデモ贊成シテ置キマス
侯爵西園寺公望君
「又ハ」ハ實際ナイ方ガ宜イヤウデアリマス
岸本辰雄君
夫レデハナイ方ニ贊成シテ置キマセウ
中村元嘉君
修正案ニ贊成シテ置キマス
(三浦委員着席)
議長(伊藤伯)
此毎年初ノ三个月内ニ作レト云フコトハ何カ必要ガアルカ
穗積陳重君
夫レハ例ヘバ學問ノ法人ト見ル、夫レハ文部省デ管轄シテ居ル、然ウスルト文部ガ主務官廳デ、然ウシテ學問法人ノ檢査ヲスルト云フヤウナ時ニ、例ヘバ四月ニ檢査ヲスルト云フコトガ出來ル、若シ初ノ三个月内ニ財產目錄ノ調製ガ出來テ居リマスレバ、併シ一年中何時デモ宜シイト云フコトニシテ置クト、若シ四月ニ檢査ヲシヤウト云フト私ノ所ハ未ダ出來テ居ラヌ、私ノ所ハ未ダ調製中ダト云フヤウナモノガ出來テ來マセウカラ、其一定ノ時期ヲ極メテ置カナイト監督ガ充分ニ出來ナイ、監督ヲ遁レル途ガアツテ不便デハアルマイカト思ヒマス
議長(伊藤伯)
是ハ法人ノ事業ノ性質ニ依テ定款ヲ以テ財產目錄ヲ調製スルノ時期ヲ定メナケレバナラヌト云フ義務ヲ持セテ調製スル時期ノ定マツタ時期ニ於テ一年一回ハ必ズ調製シナケレバナラヌト云フコトノ方デハナイカ
穗積陳重君
定款デ極メルト云フコトハ前ニもう定マツテ居ルノデ、其中ニハ財產目錄調製ノ時期ト云フモノハ此處ニ在ルガ爲メニ前ニハ入レテナイノデアリマス
山田東次君
原案贊成
議長(伊藤伯)
奧田さんノ修正說ハ成立ツテ居ルカ
中村元嘉君
私ガ贊成シマシタ
穗積陳重君
一寸一言簡單ニ申シマスガ、奧田君ノ修正案ノ意味ニ於テハ私等モ至極結構ト思ヒマスルガ此原案ノ文ハ何ウモ不充分デアルト云フコトモ自ラ認メテ居リマスルガ、併シ只今ノ修正案ノ文章デハ矢張リ前ノヲ改良シタト云フ程ハ手ガ行屆テ居ラヌト思ヒマス、何ゼナラバ「法人ハ設立ノ時及ヒ毎年初ノ三个月内ニ」ト云フノデ、此處デ「設立ノ時及ヒ」ト云フノデ一ツ切レテ居ル、夫レカラ「事業年度アルモノハ其終」ニト云フト、矢張リ原案ノ如クニ事業年度アルモノハ其設立ノ時ト云フノガ這入ラヌ拔ケルヤウニ思フノデアリマス
奧田義人君
「設立ノ時及ヒ毎年初ノ三个月内ニ事業年度アルモノハ其終ニ」ト云フノデアルカラ設立ノ時ト云フコトハ矢張リ初メカラ這入ル譯ニナリマス
穗積陳重君
點ガアルト設立ノ時ト續クヤウニナルガ唯「事業年度アルモノハ」ト云フノデアルカラ矢張リ原案ト同樣ニナリマス
末松謙澄君
私モ此事業年度ノコトニ於テハ此書キ方デハ少シ分カリ惡イヤウニ思ヒマスカラ斯ウ云フ風ニデモシテハ何ウデアラウカ、「法人ハ設立ノ時財產目錄ヲ作リ備ヘ置ク」ト云フコトヲ第一項ニ書イテ、第二項ニ「前項ノ目錄ハ毎年初ノ三个月内ニ於テ訂正加除スヘシ」ト云フコトニ書テ、「但特ニ事業年度アルモノハ此限ニ在ラス」、斯ウ云フヤウニ二ツニ別ケテ書イタラ極ク便利デアラウト思フ
穗積陳重君
私共モ是ハ不完全ト思ヒマスルノデ色々心配ヲシマスガ或ハ今ノ如キ意味デアレバ「但特ニ事業年度ヲ設クルモノハ設立ノ時及ヒ其事業年度ノ終ニ於テ之ヲ作ルヘシ」、少シ文章ハまづくナルガ斯ウ云フヤウニデモシタラ間違ヒハナイト思ヒマス
磯部四郎君
私ハ講釋ヲ聽ケバ明瞭ト思ヒマスルカラ餘リ御いぢりニナラヌヤウニ願ヒマス
議長(伊藤伯)
夫レデハ奧田さんノ修正說ニ贊成ノ方ハ起立
起立者少數
議長(伊藤伯)
少數
末延道成君
私ハ之ニ第三項ヲ書キ加ヘタイ、其文章ハ「法人ハ前二項ノ財產目錄及ヒ社員名簿ヲ作リ何人ニモ其求ニ應シ之ヲ閲覽セシムルノ義務アリ」ト云フコトヲ入レタイ、其趣意ハ此營利會社デナイ法人デアレバ尙更ラノコトデ營利會社ノ方デモ公然ニスルト云フコトノ趣意ガ見ヘテ居ルノデ、此營利會社デナイ法人ノ方デモ、前回ニ於テ決シタル四十五條等ニ於テモ旣ニ公然トスルト云フコトデアツテ、其會社ニ内證事ハ許サナイ、衆人ニ見ヘルヤウニスルト云フノガ其精神ト思ヒマスカラ、商法ニモ此規定ハアリマシタガ、「何人ニモ」ト云フコトハ止メテ唯「債權者」ト云フコトニナリマシタガ、此所ニハ之ハ最モ必要ガアルト思ヒマスカラ此修正案ヲ提出致シマス
岸本辰雄君
一寸質問致シマスガ、此第二項ニハ社員名簿ヲ備ヘ置クト云フコトニナツテ居リマスガ、社團ハ一體帳簿ヲ持ツコトニナツテ居リマスカ、下ノ方ニ往クト破產法ヲ適用スルトナツテ居リマスガ然ウスルト帳簿規則ニ讓ルト云フ趣意デアリマスカ帳簿ハ持タナクモ宜シイト云フ趣意デアリマスカ
穗積陳重君
帳簿ヲ持ツノ責抔ト云フコトハ當然出テ來ルノデナクシテ法律ノ明文ニ依テ出テ來ルノデアリマスカラ、此處丈ケデハ財產目錄ト社員名簿丈ケデアリマス
岸本辰雄君
持タセル御趣意デアリマセウカ
穗積陳重君
其趣意ナレバ書テ置カナケレバナラヌノデアリマス、書テナイカラ持タセナイノデアリマス
議長(伊藤伯)
別ニ議論ガナイヤウデスナ
侯爵西園寺公望君
異議ナシ
議長(伊藤伯)
別ニ御異議ガナケレバ原案ノ通リニ決シテ置キマス、夫レデハ前ノ方ニ戻ツテ四十七條
(書記朗讀)
第四十七條 法人ハ其設立後三十日内ニ各事務所所在ノ地ニ於テ登記ヲ受クヘシ
法人ノ設立ハ前項ノ登記ヲ受クルニ非サレハ他人ニ對シテ其效ナシ
法人設立ノ後新ニ事務所ヲ設ケタルトキハ七日内ニ登記ヲ受クヘシ
(左ニ記載セル修正案ハ起草委員ヨリ提出セラレシモノニシテ第五十條ヲ除ク外朗讀ヲ經サルモ參考ノ爲メ茲ニ掲載ス)
修正案 起草委員提出
第四十七條第一項「三十日」ヲ「十四日」ニ改ム
同條第二項法人ノ設立ハ其主タル事務所所在ノ地ニ於テ登記ヲ受クルマテハ他人ニ對シテ其效ナシ
第四十九條第二項「三十日」ヲ「七日」ニ改ム
第四十九條ノ後ニ左ノ一條ヲ加フ
第五十條 第四十七條第一項及ヒ第四十九條ノ規定ニ依リ登記スヘキ事項ニシテ官廳ノ許可ヲ要スルモノハ其許可書ノ到達シタル時ヨリ登記ノ期間ヲ起算ス
第五十條「前三條」ヲ改メテ「第四十七條第三項、第四十八條及ヒ第四十九條」トス
第五十條第一項ノ次ニ左ノ一項ヲ加フ
外國法人カ始メテ日本ニ事務所ヲ設クルトキ其事務所所在ノ地ニ於テ登記ヲ受クルマテハ他人ニ對シテ法人タル效ナシ
穗積陳重君
此處ニ私共カラ提出致シマシタ修正案ニ付テ一寸一言說明ヲ致シタイ、卽チ此修正案ノ第四十七條第一項ノ三十日ヲ改メテ十四日トスル、此修正ノ趣意カラ先キニ說明致シタウゴザイマス、此修正ハ第四十八條デアリマスル七日内ニ登記ヲ受ケルト云フコトト、第四十九條第二項ニアリマスル三十日内ニ登記ヲ受ケルトアル、此三箇條ニ關聯致シテ居リマスルコトデアリマス、初メ起草委員カラ主査委員會ニ提出致シタ案ニハ矢張リ商法抔ヲ參考致シマシテ、「法人ハ其設立後十四日内ニ各事務所所在ノ地ニ於テ登記ヲ受クヘシ」斯ウ書テアル夫レカラ第四十七條ノ第三項ニハ「七日内ニ登記ヲ受クヘシ」トアリマス又四十八條ニ於キマシテモ「七日内ニ」ト致シ、第四十九條ノ第二項ニ至ツテモ矢張リ「七日内ニ」トアリマス、夫レガ原案デアツタノデアリマス、然ルニ斯ウ云フ議論ガ出マシタ、法人ノ設立ハ卽チ其許可ノ日ニ成ルノデアル、許可ガアツテ其許可ハ官廳デナスノデアツテ、或ハ九州ノ果テデアルトカ又ハ沖繩縣デアルトカ然ウ云フ所デ法人ヲ設立シタ時ニハ旣ニ其官廳ノ許可ガ法人ノ所在地ニ達シマスル時ニハ十四日ハ過ギテ仕舞ウコトニナラウ、夫レ故ニ十四日ト云フ期限ハ如何ニモ少ナイカラ法ガ無理ナ義務ヲ負ハセルト云フヤウナコトニナリハシナイカト云フ議論ガ出マシタ、夫レニ贊成モ多シ夫レハ至極御尤モト思ヒマシテ吾々モ贊成ヲ致シマシタ、ソコデ四十七條ノ「十四日」ガ改マツテ「三十日」ニナツタ、三十日モアレバ日本ノ何レノ國デモ充分ニ其許可書ガ達シテ登記ヲ受ケル日ガ充分アラウト云フコトデアリマシタ、然ルニ第三項ノ「七日」ハ夫レナリニナリマシタ、其所以ハ事務所ヲ新ニ設ケルノハ其法人ガ設ケルノデアルカラ矢張リ商法ノ如ク七日デ宜シイト云フ譯デゴザイマシタ、夫レト同ジ理由デ四十八條ノ「七日」ト云フノモ改マリマセヌデゴザイマシタ事務所ヲ移轉スルト云フコトハ移轉デアル、移轉シテカラ一週間内ニ登記ヲスルノデアルカラ之デ差支ヘナイ、夫レデ之ハ「七日内」デ差支ヘナイガ四十九條ノ七日ハ登記スベキ事項ニ變更ヲ生ジタ、登記スベキ事項ノ變更ハ矢張リ官廳ノ許可ヲ要スルコトデアルカラ之モ矢張リ四十七條ノ一項ノ如クニ「三十日」ト改メナケレバナラヌト云フノデ改マリマシタ、然ルニ其修正案ガ皆可決サレマシタ後トデ追々議論ガ出マシテ斯ウ云フ不都合ナ結果ヲ生ズル、四十九條ニ事務所ト云フコトガアル、此事務所ハ勿論登記スベキ事項デアル、事務所ガ移轉シタト云フコトハ登記スベキ事項ノ變更ニナル、然ルニ事務所移轉ハ四十八條デハ「七日内」ト云フ事ニナツテ居ツテ四十九條デハ「三十日」ト云フコトニ修正ニナツタ、斯樣ニ一ノモノニ付テノ登記期間ト云フモノガ「七日」ト「三十日」トアツテハ大變違フテ居ルヤウナ修正ノ結果ニナリマシタ、其不都合ヲ發見シマシタガ爲メニ此期間ノコトニ付テハ尙ホ起草委員ニ於テ不都合ノナイヤウニ調ベテ案ヲ提出シテ貰ヒタイト云フコトデアリマシタ、夫レニ依テ吾々ガ四十七條ノ第一項モ亦舊トノ如クニ「三十日」ヲ「十四日内」ト改メ、又夫レニ關聯シテ四十九條ノ第二項ノ「三十日」ト云フノヲ舊トノ如ク「七日」ト改メマシタ、夫レデ前ニ出マシタ議論卽チ許可ノアツタ時カラ之ヲ起算シテハ如何ニモ少ナイト云フ理由ハ在シテ置テ、夫レガ爲メニ此蒟蒻版ニアルガ如ク新ナル五十條ヲ加ヘテ、其期間ハ官廳ノ許可書ノ到達シマシタ時カラ起算シテ「七日内」ト云フコトニシマシタ、然ウスルト前ニ修正案ガ出タ理由ニモ合フコトニナラウト思ヒマス、夫故ニ「三十日」ト云フノヲ「十四日内」ト改メタノデアリマス、夫レデ此第五十條ニ至ツテ登記法ノ計算法ガ議決ニナルト又前後不揃ヒナコトガ出來テ來マスカラ、此處ハ前後ノ關係ヲ以テ御考ヘヲ願ヒタイ所デアリマス、夫レデ此四十七條ノ第二項ノ修正案ハ、「法人ノ設立ハ其主タル事務所所在ノ地ニ於テ登記ヲ受クルマテハ他人ニ對シテ其效ナシ」ト云フノデ、原案ノ如クデアルト云フト第一項ニ依テ三十日内ニ各事務所所在ノ地ニ於テ登記ヲ受ケナケレバナラヌ、例ヘバ一ノ法人ガ二十箇處ノ事務所ヲ持ツテ居ル、然ウスルト其設立ノ時ニハ全國中ノ二十箇處ノ事務所デ悉ク登記ヲ受ケナケレバ他人ニ對シテ法人タル效ガナイト云フコトニナルト、何時カラ法人タルノ效ガアルカ誠ニ分カリ惡クイ、夫故ニ各事務所所在地デ登記ハシナケレバナラヌ、併ナガラ其法人タル效ノアルノハ卽チ後ノ條ニ於テ定マル所ノ法人ノ住所ノ根據タル所ノ卽チ主タル事務所デ登記ヲ經マスレバ法人トシテハ他人ニ對シテ效ガアルト云フコトニシナケレバ不都合デアラウト思ヒマスカラシテ此第二項ノ修正案ヲ提出シタノデアリマス
磯部四郎君
期間ノコトハ知レテ居リマスカラ彼是ハ申シマセヌガ此「效ナシ」ト云フノハ他人ニ對シテ法人タル權利ガ生ゼヌト云フノデアリマセウカ、又ハ自分ノ方デ設立ノ設可ヲ得テ登記ヲ受ケヌデ居ルト、縱令第三者ガ許可ノアルコトヲ知ツテ法人ト取引ヲシテモ其法人ハ義務モ負ハナイト云フノデアリマセウカ、詰リ「效ナシ」ト云フノハ不成立ト云フノデアリマスカ、夫レニ依テ大變自動ト他動ノ違ヒガアラウト思ヒマスガ
穗積陳重君
只今ノ御質問ハ少シ要領ヲ得ヌデゴザイマシタガ試ニ御答ヘシテ置キマス、若シ誤解致シテ居ツタラ尙ホ御尋ネヲ願ヒマス本案ノ意味ハ法人トシテ生マレ出ナイモノト同ジモノデアル、其結果ハ勿論權利モ得ナイ義務モ負ハナイト云フ譯ニナリマス
磯部四郎君
然ウスルト實際ハ他人ニ對シテ不成立ト云フコトニナルノデアリマスカ
穗積陳重君
然ウナリマス
磯部四郎君
一寸もう一ツ伺ヒマスガ、成立ハ此法人ノ方ノ登記ヲスルノガ先ヅ法人ノ方ノ義務ト見タノデアリマセウカ又ハ利益ト見タノデアリマセウカ、實際ニ於テハ斯ウ云フコトガ生ジヤウト思ヒマス例ヘバ何某ノ法人ト云フモノハ成立ニナツタト云フコトハ先ヅ分カツテ居ル、登記ト云フモノハ公ニスルモノデアリマスケレドモ登記ノ有無ハ殆ド分ラナイ、ソコデ社團ノ社員間デハ立派ニ設立シテ居ル、ソコヲ認メテ是丈ケノ設立ヲシテ居ルモノデアルカラ斯ウ云フ取引ヲシテモ宜シイト云フコトニナルト自分ノ登記ヲスル義務ヲ怠ツタガ爲メニ却テ法人ガ第三者ニ對シテ義務ヲ免レルト云フヤウナ嫌ヒガアラウト思ヒマスガ登記ヲ受ケルモノヲ受ケズニ居ツタト云フモノハ卽チ法人トシテ法人ノ管理上ノ義務ヲ怠ツテ居ルガ爲メニ却テ自分ガ第三者ニ對スル責任ヲ免レルト云フヤウナ結果ガ生ジハシマセヌカ、他人ニ對シテ法人タル權利ヲ主張スルコトガ出來ナイト云フヤウニ心得テ宜シイト云フコトデアレバ宜シウゴザイマスガ、然ウ云フ意味デナク、己レノ義務ヲ怠ツテ居ルガ爲メニ第三者ニ對シテ自分ノ責任ヲ免レルト云フヤウナ結果ヲ生ジテモ宜シイト云フヤウナコトニナルト大變不都合デアラウト思ヒマスガ、起草委員ノ方々ニ於テハ法人ナルモノガ自己ノ義務ヲ怠ツタガ爲メニ不成立ヲ名トシテ自己ノ責任ヲ免レルト云フヤウナコトハ實際ナイト云フ御調査ニナツタノデゴザイマセウカ、ソコヲ伺ツテ置キタイノデアリマス
穗積陳重君
法人ハ登記ヲシナケレバ往ケヌト云フコトハ御見解ノ通リデ、一方ニ於テハ固ヨリ義務デアリマス、登記ヲセヌケレバ夫レ丈ケノ制裁ガアル、又其「效ナシ」ト云フコトモ其制裁ノ中ノ最モ大イナルモノ、罰金ヨリモ大イナル制裁デアラウト思ヒマス、詰リ本條ノ第二項ガアル以上ハ法人タル資格ヲ持テ他人ト取引ヲスルコトガ出來ナイト云フノデアリマス
磯部四郎君
然ウスルト詰リ此法人ト云フモノハ登記ニ依テ生マレルノデゴザイマセウカ又ハ許可ニ依テ生マレルノデゴザイマセウカ
穗積陳重君
許可ニ依テ生マレルノデアリマス
磯部四郎君
許可ニ依テ生マレル、許可ニ依テ生マレタモノガ登記ヲスル迄ハ第三者ニ對シテ效ガナイトスルト固ヨリ登記ハ第三者ニ告知スル丈ケノモノデアツテ、第三者ガ未ダ此告知ヲ登記ニ依テ受ケズトモ旣ニ其法人ガ生マレテ居ルト云フ事實ヲ知ツテ居レバ法人タルモノニ義務ヲ負ハセテモ差支ヘナイト云フコトデハナイノデゴザイマセウカ
穗積陳重君
夫レデモ宜イカモ知レマセヌガ若シ然ウ云フ意味ナレバ知ラナイ人ニハ效ガナイト云フヤウニ善意ト云フコトヲ書カナケレバナラヌ善意惡意デ區別スルコトモアリマスガ、本條デハ然ウ云フコトハナクシテアリマス
山田喜之助君
法人トシテ效ハナクテモ何レ設立者ト云フ者ガゴザイマセウカラ、夫レ等ノ人ニ無限ノ責任ガアラウト思ヒマスカラ今ノ磯部さんノ御說ノ如キ恐レハ要ルマイト思ヒマス
磯部四郎君
夫レハあなたガ知ラヌノデス
山田東次君
私モ今ノ磯部君ノ質問ニ依テ今迄私ガ解釋シテ居ツタ所トハ大變違ツテ居リマスガ、四十七條ノ法文デ見ルト法人トシテ他人ニ對シテ權利ヲ對抗スルコトガ出來ナイト云フヤウニ見テ居リマシタガ、只今ノ穗積さんノ御說明ニ依ルト法人トシテ他人ニ對シテ權利ヲ對抗スルコトガ出來ナイノミナラズ、土臺法人トシテハ權利モナケレバ義務モ生ジナイト云フ樣ニ言ハレマシタガ然ウスルト餘程變ナコトニナラウト思ヒマス、此條ハ最モ第三者ニ對スル條デアリマスカラ能ク注意ヲシナケレバナラヌト思ヒマスルガ、詰ル所法人ト云フモノハ許可ニ依テ成立ヲスル、成立ヲシテ其登記ヲ怠ツテ居ツタ然ウシテ他人ト契約ヲ結ビ或ハ種々ノ行爲ヲ爲シタ爲シタ所ガ登記ヲ受ケナカツタモノダカラ何モ義務モ負ハナケレバ權利モ生ジナイト云フ斯ウ云フコトニナツテ來ルト云フト、登記ヲシナイト云フ所ノ失策カラシテ自然其法人自己ノ義務ヲ免レルト云フヤウナ結果ガ生ジハシマスマイカ、夫レデハ甚ダ不都合デアラウト思ヒマスカラ、私ハ之ヲ改メテ「他人ニ對シテ其權利ヲ對抗スルコトヲ得ス」、斯ウ云フコトニ致シタイ詰リ其自分ガ登記ノ義務ヲ怠ツタノデアルカラ其登記以前ニ爲シタコトハ法人トシテ他人ニ對シテ權利ノ對抗ガ出來ナイ、是丈ケノコトニシテ置カナケレバ種々ノ弊害ガ生ズルデアラウト思ヒマスカラ、今ノ案ヲ提出致シマス
磯部四郎君
贊成致シマス
山田喜之助君
私ハ弊害ハナカラウト思ヒマス、法人トシテ置ク以上ハ其法人ノ社員其者等ガ無限ノ責任ヲ負ハナケレバナラヌ、一方カラ言フテ見レバ義務ノミヲ負ハセテ權利ヲ與ヘナイト云フコトニナルト刑罰ノヤウデアリマスガ、例ヘバ爰ニ或人ガアツテ其者ニ權利ヲ與ヘヌデ義務丈ケ負ハセルト云フヤウナ非常ナルコトニスルト夫レコソ却テ色々ナ弊害ガ生ジヤウト思ヒマス尤モ幼者ノ無能力者ノ場合デモ同ジコトデアラウト思ヒマス、夫故ニ法人ノ場合ニ若シ登記ヲ怠ツテ其登記ヲセヌデ居ルモノナレバ其法人ヲ組織シテ居ル社員トカ株主トカガ無限ノ責任ヲ受ケルノデアリマスカラ、若シ之ト取引ヲシタ者ガアツタ所デ其者ガ損害ヲ蒙ルト云フヤウナコトハ萬々アルマイト思ヒマス
梅謙次郎君
今山田君カラシテ說明ガアリマシタケレドモ少シ足ラヌコトガアラウト思ヒマスカラ序ニ補ツテ置キマスガ、今ノ案ニ贊成者ガアツタノハ何ウ云フ譯デアルカ殆ド解釋ニ苦ミマスガ、「權利ヲ對抗スルコトヲ得ス」ト云フコトニナルト甚ダ不都合デアラウト思ヒマス、何ゼカナレバ一體法人ト云フモノハ能ク學校ノ講釋抔デ人ノ言フコトデアリマスケレドモ、必ズシモ其法人ノ爲メニ利益計リアルト云フ譯デハアリマセヌ、法人ノ爲メニモ利益モアリマスケレドモ直接ハ其法人ト取引ヲスル者ノ爲メニ利益ガアル、社團法人デアリマスルト云フト社團法人ヲ組織シテ居ル所ノ社員各自ガ自分ノ儲ヲ以テ取引ヲシマシタナレバ其者ノ財產ガ其取引ヨリ生ズル所ノ義務ノ擔保トナリマスケレドモ、其財產ハ慥カニ矢張リ社員ノ債權者トナツテ居ルモノト同一ノ權利ヲ以テ分タナケレバナラヌ之ニ反シテ法人ト云フモノニナツテ居ルト法人ノ財產丈ケハ法人ノ債權者ノミデ取ルコトガ出來ル、然ルニ今ノ御說明ノ如クニナルト、義務ニ付テハ法人ハ成立ツテ居ルケレドモ權利ハ對抗スルコトガ出來ナイト云フ斯ウ云フ御話シデアル、併ナガラ債權者ノ方カラ請求シテ來ル、自分ノ方デ請求シテ來ヤウト云フ時ニハ法人デアツタ方ガ都合ガ宜シイカラ法人トシテ請求シテ來ルニ違ヒナイ、其場合ニ之ハ法人デゴザラヌトハ社員ノ方カラハ言ヘヌコトニナル、若シ權利ヲ對抗スルコトガ出來ナイデ義務ノ方ノミ成立ツテ居ルト言ヘバ債權者ノ方カラハ其財產ニ付テハ殆ド特權ト云フヤウニ外ノ債權者ハ急イデ取ルコトガ出來ル、所ガ社員ノ方カラ見タラ何ウデゴザイマセウカ、社員ガ然ウ云フ法人ヲ形チ造ツテ財產ヲ入レタモノハ登記ガシテナイカラ知ラナイ、例ヘバ私ガ社員デアツテ拾萬圓ヲ持テ居レバ拾萬圓ヲ他人ニ貸ス、其モノニ對シテハ何ウデアリマス、義務ニ付テハ成立ツテ居ルト言ヘバ其モノニ對シテモ成立ツテ居ルト言ハナケレバナラヌ然ウスルト法人ノ登記ノナカツタ爲メニ社員自己ガ非常ナ損害ヲ受ケナケレバナラヌ夫故ニ登記ノナイモノハ第三者ニ對シテ效ガナイト云フコトヲ義務ト權利ト分ケルト云フト非常ナ不都合ヲ生ジヤウト思ヒマス、夫レデハ登記ニ依テ保護ヲスルト云フコトデアルニ一方ハ保護ヲ得テ便利ヲ得ルケレドモ一方ハ非常ナ損害ヲ受ケル、夫故ニ權利ト義務ト分ケルト云フコトハ甚ダ不都合デアル、今一ツハ法人ガ未ダ成立ツテ居ラヌ、夫レニ登記ヲシナイ、其場合ニ於テハ丸デ義務ガナイ、怠リヲシタガ爲メニ却テ利益ニナルト云フ斯ウ云フ御話シモゴザイマスケレドモ之ハ却テ見ヤウガ少シ惡イト思ヒマス、第一ニ其怠リヲシタノハ法人ガ怠リヲシタノデハナイ、役員ガ何カガ怠ツタノデアル、其場合ニ於テハ取引ヲシタ者ガ無限ノ責任ヲ負フト云フコトハ宜シウゴザイマセウケレドモ未ダ半分シカ成立ツテ居ラヌ法人ヲ何モ元トニシテ之ガ怠ツテ居ル義務ヲ盡サナイトカ云フテ責メルコトハ出來ナイト思ヒマス、夫故ニ此二項ハ此儘デナクテハ大變不都合デアラウト思ヒマス
磯部四郎君
梅先生ノ御說ハ平生ハ餘程理窟ノ宜イ御議論ヲ吐カレルガ今日ハ甚ダ案外ナコトヲ承リマシタ、只今言ハレルニハ債權者ガ何ウトカ斯ウトカシテ社員ヲ相手ニシテハ甚ダ不都合デアルトカ何ントカ漢トカ言ハレマシタガ之ハ不都合千萬ナ話シデ、元來社團法人ヲ成立スルニ至ラヌ前、其許可ヲ受ケル迄ニ大抵其事柄ハ明カニナツテ居ラウト思ヒマス、ト云フモノハ此目的トカ名稱トカアリマスガ、之ハ登記スベキ事項デアリマスガ、大抵目的ハ何ンデアルトカ何ウ云フ社團デアルトカ云フコトハ分リマセウ、抑モ今言ハレル事柄ハ登記ノ趣意ト云フモノニ丸デ違ヒマス、詰リ法人ノ登記ト云フ事柄ハ設立スルノデナクシテ設立シタル則チ法人ノ性質ヲ知ラシメル丈ケノ趣意デアラウト思ヒマス然ウシテ見レバ他人ニ知ラシメルト云フノガ自己ノ義務デアル其自己ノ義務ヲ怠ツテ置テ爲メニ自分ガ取引ヲシタ責ヲ免レルト云フ結果ハ何處カラモ出ナイト思ヒマス、且又先程山田君カラ色々ナ例ガ出マシタケレドモ、此登記ノコトヲ一己人ノ例ニ取ツタナラバ何ウ云フコトニナリマセウカ、詰リ登記ヲシナケレバ第三者ニ對シテ效ガナイト云フ規則ガアツテ、其時ニ賣買スレバ賣買ノ登記ヲシナイデ置ク、第三者ガ夫レヲ知ラヌデ賣買ヲスル、然ウスルト其賣買ト云フモノハ始メノ賣主ト買主ノ間デハ效ヲ生ゼヌト云フコトニナリマス、夫レデ今ノ梅委員ノ御論ニ依ルト、登記ト云フモノノ法理ト云フモノヲ此處デ丸デ紊シテ仕舞ツタ御論ダラウト思ヒマス抑モ設立シテ然ウシテ其社團ノ社員ノ間デハ現ニ成立ツテ居ル、然ウシテ其社員ナル者ノ卽チ理事トカ何ントカ云フ者ガ登記ヲ怠ツテ居ル、ケレドモ第三者ガ其設立ノ事實ヲ知ツテ居ツテ其社團ヲ信ジテ一ノ取引ヲシタ、夫レカラ其取引ノ履行ヲ求メニ往クト社團ノ方デハいや之ハ登記ノ方ヲ私ノ方デ怠ツテ居リマスカラ此事ニ付テハ丸デ無效デゴザイマスルト云フコトヲ言フコトガ出來ルト云フ法理デアリマス然ウスルト變ナ結果ニナリマス、夫レデ權利丈ケハ對抗ガ出來ルト云フコトニナルト、法人ノ方カラ請求シテ往ケバ夫レハ一方ハ義務ヲ負ハナケレバナラヌ、又一方カラ法人ノ方ニ向ツテ一ノ事ヲ請求シテ來ルト、法人ノ方デハ未ダ登記ガシテナイカラ義務ハ負ハナイト云フコトニスルト、第三者ノ一方ハ權利ハ對抗スルコトガ出來ヌデ義務計リ負フト云フコトニナル、法人ノ方デハ御前ニ對シテハ己レノ方デ未ダ登記ガシテナイカラ卽チ第三者ニ對シテ義務ハ盡サヌデ宜イト云フコトヲ言ハレマシタガ之ハ案外至極ノ話シデアラウト思ヒマス
梅謙次郎君
一寸途中デアリマスガ私ノ述ベヌコトニ付テ誤解サレテ居リマスカラ
磯部四郎君
私ガ解シテ居ル所ヲ述ベルノデアリマス、成程一寸考ヘルト義務ハ社團ニ效ガアル、權利ハ效ガナイト云フコトニナルト、例ヘバ此處デ私ガ社團ト一ノ賣買ノ契約ヲスル、然ウシテ債權ヲ請求ニ往クト、私ノ債權ニ對シテハ社團ガ拂ハナケレバナラヌガ私ノ方デハ品物ヲよこさぬ品物ヲよこさずニ法人ハ義務丈ケヲ負ハセテ權利ノ方ニ付テハ第三者ニ對シテハ效ガナイト云フ法律ハ立テラレヌト云フヤウナ御議論ヲ伺ヒマシタガ夫レハ以テノ外ノ御話シデアラウト思ヒマス私ガ第三者ノ地位ニ在ツテ、縱令其設立ノ登記ガシテナイデモ其設立ノ事實ヲ知ツテ私ノ方カラシテ設立ヲ認メテ居ツタ以上ハ其者ニ對シテハ私ハ向フカラノ請求ニ付テモ無論其設立ハ認メナケレバナラヌト思ヒマス、私丈ケニハ登記ヲ要セズシテ事實上其設立ヲ知ツテ居ルナレバ何モ之ニ對シテハ其設立ヲ認メナイト云フ議論ハナカラウト思ヒマス、要スルニ「他人ニ對シテ其效ナシ」ト云フ法文ハ、登記ト云フモノハ法人ノ義務デアツテ其義務ヲ怠ツテ置イタガ爲メニ時トシテハ自分ノ理由トシテ登記ノ欠缺ト云フコトヲ主張スルコトガ出來ルト云フ結果ガ此法文カラ生ズルノデアルカラ、夫レハ甚ダ不都合ナ法文デアルト云フコトヲ言フノデアリマス、登記ト云フモノニ依テハ生マレヌト云フコトヲ先程山田君ハ言ハレマシタケレドモ、固ヨリ登記ニ依テ生マレルノデハナイ、法人ノ設立ハ其許可ニ依テ生マレル、其生マレタト云フ事柄ヲ登記ト云フモノニ依テ第三者ニ知ラセル丈ケノ話シデアリマス、夫レヲ知ツタモノガ法人ト取引ヲシタ時分ニハ最早登記ハシテナイケレドモ其社團ト取引ヲシタモノデアルカラ其者ガ設立ヲ認メテ以テ何カ請求シテ來タ時ニハ法人ハ其義務ヲ免レルト云フコトハ到底立ツマイト思ヒマス夫レデ私ハ山田君ノ修正案ニ贊成シタノハ其理由カラ往クノデアリマス、登記ト云フモノハ其設立ヲ第三者ニ知ラセル丈ノモノデアル、第三者ガ其設立ヲ認メテ其者カラ權利ヲ主張シテ來ル以上ハ社團法人ハ己レガ義務ヲ怠ツテ置キナガラ其義務ヲ免レルト云フコトハ理窟ニ於テ立タナイト思ヒマスカラ、夫レデ山田君ノ修正案ニ贊成シテ置キマス、文字ノ足ラヌ所ハ何ウ直ツテモ宜シウゴザイマス
梅謙次郎君
私ノ先キノ說明ガ惡カツタガ爲メニ誤解セラレタト思ヒマスカラ一寸申シテ置キマス私ノ申シタノハ然ウデナカツタノデアリマス、私ノ申シタノハ法人ト云フモノガ出來マスルト云フト、法人ト取引ヲシタ者ト法人トデナク社團法人ノ場合デナク最モ例ガ多イガ其社員ト取引ヲシタ者ト必ズ出テ來ル、財團法人デモ必ズ創立者ガアツテ其創立者ガ自分ノ財產ノ一部分ヲ出スノデアリマスカラ同ジコトデアリマス、其社員ト取引ヲシタ者、卽チ此處デ言フ他人デアル、之ニ對シテ何ウデアル、若シ今ノ磯部君其他ノ御方ノ御說ニ依ルト、權利丈ケハ對抗ガ出來ヌガ義務ニ付テハ法人ハ成立テ居ルモノデアルト云フト、其結果トシテ未ダ登記ガシテナイ、登記ガシテナイナラバ法律ノ目カラ見レバ未ダ誰モ知ラヌモノト見テ居ル然ルニ其法人ノ登記ハシテナイケレドモ其法人ト云フモノハ事實成立ツテ居ルト云フコトヲ知ツテ取引ヲシタ者ガアル、外ニ社員ト取引ヲシタ者ガアル、前ニ取引ヲシタ者デモ後ニ取引ヲシタ者デモ理窟ハ同ジデアリマスガ社員ト取引ヲシタ者ガアル、其者ハ法律上未ダ法人ノ成立ツテ居ルト云フコトヲ知ラヌ者デアル、實際モ知ラヌ者ガ多イデゴザイマセウ、先キニ磯部君ハやれ支社ヲ設ケルトカ事務所ヲ設ケルトカ言ハレマシタケレドモ夫レハ設立ノ許可ノアツタ後ニ知レル、卽チ登記ガアツテカラ知レルノデアル、多クハ知レヌノデアル、其場合ノ義務ニ付テハ法人ガ成立ツテ居ルモノト見マスレバ、未ダ登記シテ居ラヌ法人デモ其法人ノ財產ガアツテ其財產ニ付テハ債權者ガ一人リデ擔保トシテ取ルコトガ出來ル然ウスルト法人トシテ取引ヲシタ社員ガ損害ヲ受ケナケレバナラヌ、然ウ云フコトハ往カヌト云フコトヲ申シタノデアリマス、夫レデ今ノ磯部君ノ御論ハ能ク分カツテ居リマスガ、權利ヲ對抗スルコトガ出來ヌト云フコトデアリマスカラ反對デアリマスガ、然ウ云フコトニシテモ法人ガ義務ヲ盡シマセヌト云フヤウナコトハ言ハレナイ、夫レハ言ハレナイ、社員ノ爲メニハ成立ツテ居ルノダカラ其成立ツテ居ルモノノ方カラハ成立ツテ居ラヌトハ勿論言ハレナイ、「他人ニ對シテ效ナシ」ト云フノハそこヲ言フノデアル、義務ニ付テモ矢張リ成立タヌモノデアル、夫レダカラ「權利ヲ對抗スルコトヲ得ス」ト書テハ徃ケナイ、商法ニモ斯ウ云フ風ニ書テアル、一箇所デハナイ澤山ニ書テアル、「何々ニ對シテ其效ナシ」ト云フ文例ハ、又外國ノ例デモ佛蘭西ノ倉社法抔デモ皆同ジコトニナツテ居ル、登記ヲシナケレバ第三者ニ對シテハ其效ナシト云フ點丈ケハ同ジデアリマス、外ノ所ハ違ウ所モアリマスガ、私ハ夫レデ宜カラウト思ヒマス
土方寧君
山田東次君ノ修正案ニ磯部君ノ贊成ガアツテ梅君ガ御反駁ニナツテ色々議論ガ出マシタガ、如何ニモ妙ナ修正案デアラウト考ヘル、夫レデ修正案提出者ノ御辯明ハ簡單デ能ク分カリマセヌデゴザイマシタガ、贊成者ノ長イ御說明デ旨意ノ所ハ伺ツタ積リデアリマス、所ガ其修正案ハ「他人ニ對シテ權利ヲ對抗スルコトヲ得ス」ト云フノデアリマス、其修正案ノ御旨意ニ付テ二ツ別ニナラヌケレバナラヌト云フコトガアラウト思ヒマス、其一ツハ先程磯部君カラ穗積君ニ御質問ニナツタ登記ノ問題、此登記ヲ要スルト云フノハ全ク第三者ニ知ラセルト云フノデアツテ、旣ニ成立ツテ居ル法人ヲ明カニスル旨意ダカラ登記ハシナクテモ知ツテ居レバ宜シイト云フコトデアリマシタガ、夫レハ一ツノ議論デ知ラセル爲メニ登記ヲ必要トスルノデアツテモ現ニ法律上成立ツテ居ルコトヲ知ツテ居ル人ノ取引ニ於テハ登記ヲシテモ登記シナクテモ同ジヤウニ見ナケレバナラヌト云フノガ一ツト、夫レカラもう一ツハ法人ガ登記ヲシナイ前ニ他人ト取引ヲシタ其取引ニ基イテ第三者ガ訴ヘテ來タ時分ニハ矢張リ第三者ニ對シテ法人ガ成立ツテ居ラヌト云フコトハ言ヘナイ筈デアル、併ナガラ法人ノ方カラハ登記ヲセヨト云フ規則ニ背テ居ルカラ第三者ニ對シテ訴ヘルコトハ出來ナイト云フ御話シデアリマスガ、夫レハ如何ニモ可笑シイコトト思ヒマス、ケレドモ或ハ修正者ノ御考ヘデハ「他人ニ對シテ權利ヲ對抗スルコトヲ得ス」、權利ト云フノハ法人ト取引ヲシタ所カラ通常ノ權利義務ノ關係ヲ言フノデナクシテ、夫レヲ言フノデナクシテ、重ニ法人デアルナレバ法人ノ種類ニ依テ有限ノモノモアル、財團法人ナラ其責任ガ財產限リ、社團法人ナラバ夫レハ定メヤウ次第デアリマスガ、有限ノモノデアレバ其社團法人ノ財產ニ限ルト云フコトニナツテ、義務ノ制限ト云フモノハ見ヤウニ依テハ法人ノ特權デアル、夫レモ不都合ト云フノデアルカ疑ハシイ、例ヘバ第三者カラ法人ヲ訴ヘル、然ウスルト義務ガナイトハ言ヘナイ、所ガ法人デアルカラ有限デアルト云ツテ社團法人ナレバ其社員ハ其關係ニ付テハ知ラヌト云フコトハ言ヘルカ、法人ダカラ五百圓丈ケシカ佛ハナイト斯ウ云フコトガ言ヘルカ何ウデアルカ、そこガ疑ハシイ
山田東次君
そこノ所ハ辯明ヲシテ置イタ積リデアリマス、法人トシテノ權利ト云ツタノデアリマス、法人ハ今ノ通リニ財產限リデアル、訴ヘテ來タ時ニ私ハ法人ダカラもう財產限リト云フテ投ゲ出シテ仕舞ツタナラバ後トハ知ラヌト云フヤウナ、法人トシテノ權利ヲ對抗スルコトガ出來ナイト云フ斯ウ云フ意味ナノデアリマス
土方寧君
其方計リデアリマスカ、然ウスルト其法人ノ方カラ訴ヘテ往ク時ニ法人ト取引ヲシタ者ト爭ヒヲ起ス、法人ガ原告トナツテヽヽヽヽヽ
山田東次君
私ハ然ウ云フコトハ構ハヌ積リデアリマス
土方寧君
先キノトハ大變違ツテ居ル
磯部四郎君
一寸梅さんニもう一應伺ヒマスガ、先程御說明ニナル時ニ、法人ヲシテ義務ヲ負ハシメテ權利ハ主張スルコトガ出來ナイト云フコトニナルト其法人ト取引ヲシタ第三者、夫レカラ法人ヲ組織シテ居ル社員ト取引ヲシタ普通ノ人ト、此人ノ權利ノ優劣如何ト云フコトニ付テ餘程結末ガ面倒ニナルト云フ御論ガ出タヤウデアリマス、夫レニ付テ尙ホ伺ヒタイノハ其社員ト取引ヲシテ居ル、人ガ社員ニ向テ持テ居ル權利ヲ主張シテ居ル然ウシテ社員ノ財產ハモウ法人ノ方ニ往ツテ居ル財產ハ法人ト取引ヲシテ居ル第三者ノ財產ニナツテ居ルカラ御前ノ方ニハ拂フコトガ出來ナイト云フヤウナコトニナルト、社員ト取引ヲシタ人ガ迷惑ヲ蒙ムルデハナイカト云フコトデアリマスカ
梅謙次郎君
然ウデス
磯部四郎君
然ウスルト詰リ社員ト取引ヲシタ人ハ法人ノ設立アツテ後登記ヲスル迄ノ間ノコトヲ言フタノデゴザイマセウカ、其前カラデアリマスカ
梅謙次郎君
先程辯ジテ置キマシタ通リ兩方デアリマス
磯部四郎君
其今ノ人ト云フノハ普通ノ債主ト云フ人デアリマスカ、將又抵當權デモ持テ居ル人ト云フノデアリマスカ、普通ノ債權者デアリマスカ
梅謙次郎君
私ノ申シタノハ普通ノ債權者デアリマス
磯部四郎君
普通ノ債權者ト云フコトニスルト、其社團ニ卽チ寄附ナラ寄附ヲシタ財產ト云フモノハ之ニ付テモ矢張リ登記迄ハ此設立ガ成立タヌト云フノデアリマスカ、「設立スル法人ニ付テ登記ヲ要スヘシ」トカ、或ハ設立、設立ト云フコトガ前ノ條文ニモ出テ居リマスガ、之ハ登記後ト云フ御考ヘヲ持テ居ラレマシタガ、將又此處ニ一ノ社團ヲ作ル人ガアル、其人ガ其社團ヘ持ツテ往ツテ財產ヲ寄附スルト云フ時ハ其社團ガ成立シテ登記ナラ登記ヲシテ仕舞ツテカラデアルカ、此設立、設立ト前カラ言フテ來タノハ登記後ノ設立ヲ言フタノデアリマスカ、將又財產ナラ財產ヲ登記前カラ寄附スルコトガ出來ルト云フ意味テゴザイマセウカ
梅謙次郎君
今ノ設立ト云フコトハ先キノ穗積さんノ御說明デ能ク明瞭デアラウト思ヒマス、卽チ其設立ノ許可ガアレバ其時カラ移ル、併ナガラ其移ツタ權利ガ此處ノ四十七條ノ第二項ノ適用デ第三者ニ對シテ對抗スルコトガ出來ナイ、併シ設立スルト云フノハ許可ノアツタ時カラ旣ニ成立ツテ居ル
磯部四郎君
之ハ隨分必要ノ問題ト思ヒマスカラ尙ホ伺ヒタイガ、若シ一寸言フテ見レバ明治二十七年二月二日ノ日ニ一ノ社團ノ設立ノ許可ガアツタ、夫レカラ私ガ此社團ト云フモノニ向ツテ一個ノ不動產ト云フモノヲ此二月二日カラ
梅謙次郎君
夫レハ私ハ出來ヤウト思ヒマス
磯部四郎君
登記モ出來マスカ、卽チ私ノ不動產ノ方ノ
梅謙次郎君
夫レハ出來ルト思ヒマス、不動產ノ方ノ登記ナレバ私ハ出來ルト思ヒマス、不動產ノ方ノ登記ノ規定ガ妨ゲナイ限リハ
磯部四郎君
然ウスルト私ノ寄附シタ物ノ讓與權ト云フモノハ其設立ノ時卽チ移轉ノ日ヨリ第三者ニ對抗スルコトガ出來ルカ何ウデアリマスカ
梅謙次郎君
夫レハ先キニ申シタノデ、不動產ノ登記法ノ固ヨリ適用ヲ受ケナケレバナラヌ、不動產ノ登記ノ規定ガ何ウ云フコトニ極マルカ知リマセヌガ、不動產ノ登記法ガ今ノ儘デアルナレバ、卽チ此第三者ニ對抗スルコトノ出來ナイト云フ四十七條ノ二項ガアル爲メニ夫レハ第三者ニこちらカラ對抗スルコトガ出來ナクナル
磯部四郎君
日本デ言フナレバ第三者デアルケレドモ佛蘭西語デ言ヘバ今ノ第三者ハちゑるト云フ語デアラウト思ヒマスガ、然ウスルトあなたノ言ハレルヤウナ場合ハ生ジナイト思ヒマス
梅謙次郎君
成程第三者ト言ヘバちゑるト云フ語デアリマスガ、此處ノ場合デハ佛蘭西ノ方ノヤウニ第三者ト見テ居リマス、佛蘭西ノ會社法抔デモ疑ヒヲ生ジタト云フコトガ昔シアツタト云フコトハ知ツテ居リマス、ケレドモ近頃ハ知リマセヌ何ゼナレバ一ノ法人ガ土臺ニナル、法人ノ方カラ見レバ第三者、法人ガ成立ツテ居ルモノト見レバ卽チ其社員ト取引ヲシタ者ハ法人カラ見レバ第三者デアル、夫レカラ法人ガ成立タヌ中ノ方カラ見ルト會社ト取引ヲシタ者ガ第三者デアル、夫レダカラ佛蘭西語デハちゑるト云フ語ガ使ツテアリマス、會社ト取引ヲシタ者ニモ之ヲ適用スルシ他人ト取引ヲシタ者ニモ之ヲ適用スルト云フ疑ヒガアル、殊ニ此處ニハ意ヲ用ヒテ他人ト云フ字ヲ使ツテ最モ廣ク書イタノデアリマス
高木豐三君
酷ク八釜敷イ議論ニナリマシタガ、之ハ磯部君ノ議論ト起草者ノ議論トガ土臺ノ見ヤウガ違ツテ居ルノデ、磯部君ハ詰リ此登記ト云フモノガ法人成立ノ必要條件トナルヤ否ヤト云フ問題、之ニ對シテ起草者ノ方デハ無論成立ノ必要條件デハナイ、成立ハ官廳ノ許可ニ依テ成立ツテ居ル斯ウ云フ事ニナル、然ウスルト磯部君ノ方デハ成立ツテ居ルモノガ他人ニ對シテ效ガナイト云フノハ可笑シイ、斯ウ云フ議論ノヤウニ思ヒマス、之ハ普通ノ登記ノ場合トハ大キニ違ウ、法人ノ成立ハ恰モ人間ノ生マレル如ク設立デ生マレル、併ナガラ之ガ權利ノ主體トナル丈ケデアリマス、未ダ他人ト有效ノ契約ヲ爲シ取引ヲ爲ス能力ハナイ、法人ハ生マレテハ居ルガ他人ニ對シテ取引ヲスル能力ガナイ、故ニ之ハ成立ノ條件デナクシテ能力ノ機關ヲ定メルト云フコトニ見レバ雙方ノ間ニ異論ハナイト思ヒマス、夫レデ大分ニ議論モアリマシタカラ速ニ採決ヲ望ミマス
磯部四郎君
只今高木君ハ大變簡易ニ御說キニナツタヤウデアリマスケレドモ、元々法人ハ自然人ノヤウニアツテ、詰リ法人ヲ保護スル爲メニ此登記ヲ要スルモノデアルト云フ御論ナレバ所謂事業ヲセザル間ハ法人ハ無能力者デアルト云フ議論ハ立ツ、所ガ然ウモ見テ居ラレナイヤウデアル、現ニ此法人ニ付テハ多少ノ責任ヲモ負ハセルト云フコトニ前回ニ四十六條デ議決ニナリマシタ位デアリマスカラ此法人ト云フモノハ詰リ速ニ法人ノ責任ト云フモノヲ定メテ然ウシテ理事ナラ理事ヲ定メテ登記ヲ急ガセルト云フコトガ主ニナラナケレバナラヌト思ヒマス、夫レデ今日修正案ヲ御提出ニナツテ期限ヲ短縮ニナサレタノハ至極結構ナコトト思ヒマスルカラ贊成ヲ致シマスガ、然ル所斯ノ如ク時間ヲ縮メタリ何カシテアリナガラ唯登記サヘセズニ置ケバ何時迄モ不成立ノ體ニ置クコトガ出來ルト云フ法文ヲ設ケラレタノハ不都合デアルト云フ考ヘガアリマス、要スルニ法人ガ登記ヲ怠ツテ義務ヲ果サヌコトニナルト其責任ハ誰ニ往クカナレバ社團カラ理事ニ掛ツテ夫レ丈ケノ權利ガ生ジテ來ル、私ガ之ヲ「對抗スルコトヲ得ス」ト云フコトニシタイト云フノハ法人ヲいじめヤウト云フ考ヘデハナイ、此修正案ノ御趣意ヲ貫徹セシメタイト云フ考ヘデアリマス、あなた方ノ方デ三十日ヲ十四日ニ改メ、又七日ト改メラレタノハ詰リ登記ヲ速ニサセタイ、之ヲ急ガセテ其設立ノコトヲ世ノ中ニ示シタイト云フ御趣意カラ來テ居ルノデ夫レヲ登記スル迄ハ不成立トナツテ權利モ義務モナイト云フ法律ニナルト折角御修正ニナツテ登記ノ時間ヲ短縮セラレタ其御趣意ヲ貫徹セズニ何時迄モ等閑ニ付シテ置クヤウナ結果ヲ來シテハ往ケマセヌカラ、却テ法人ニ義務ヲ負ハセレバ理事ナラ理事ト云フ人ニ社團カラ掛ツテ賠償ヲ求メテ往クコトガ出來ルカラ夫レデ法人ガ義務ヲ免レルヤウナコトノナイヤウニシテ往クト登記ヲ急グヤウニナリマスカラ修正案ヲ主張スルノデアリマス詰リ不成立ト云フコトニナルト、何ノ爲メニ斯樣ニ三十日トアルノヲ七日ニ縮メラレタカ、詰リ法人ノ設立ヲ登記セシメテ急ガシメント欲スルガ爲メニ是丈ケニ縮メラレタノデアラウト思ヒマス、夫レデ私ハ此法人ヲいぢめヤウトスルガ爲メニ義務ヲ負ハセヤウトスルノデハナイ、法人ヲ保護スルト云フ爲メニ此義務ヲ負ハセルト云フ考ヘデアリマス、夫レデ詰リ「登記ヲ受クルマテハ他人ニ對シテ權利ヲ對抗スルコトヲ得ス」ト云フコトニナツタナレバ其好結果ヲ得ラレルダラウト云フ考ヘデアリマス、之デ若シ御採用ガナケレバ夫レ迄デアリマス
(此時「討論終結」ト呼ブ者アリ)
山田東次君
登記ハ法人ヲ保護スル爲メニサセルノデアリマセウカ、又ハ他人ヲ保護スル爲メサセルノデアリマセウカ
穗積陳重君
固ヨリ法人ト云フモノハ無形ナモノデアリマスカラシテ此處ノ理由書ノ初ニ書テアリマス通リ、他人ヲ保護スルト云フノガ主タル目的デアリマス
土方寧君
議論ハシマセヌガ、此修正案ニ付テハ色々込入ツタ點デアリマスカラ私モ先刻質問ヲシタ譯デアリマス、夫レデ自分ノ思フ所ト同ジコトヲ高木君ガ言ハレマシタカラ私ハ最早言フノ必要ハアリマセヌガ只今ハ此四十七條ノ「他人ニ對シテ其效ナシ」ト云フノヲ「權利ヲ對抗スルコトヲ得ス」ト云フコトニシタイト云フ修正案ニ對シテノ議論中デアリマスガ、何レニシテモ今ノ議論ノ結果ニナルト格別ノ違ヒハナイヤウニ私ニハ聞エマス、ケレドモ外ニ尙ホ疑ヒガアリマス、私ハ此法文ノ儘デ疑ヒガアラウト思ヒマス、ケレドモ今箕作君ト内談ヲシマシタ所デハ解釋上疑ヒガアルマイト云フコトデアリマシタガ、念ノ爲メニ起草委員ニ伺ツテ置キタイ、先刻磯部君ノ言ハレタ話シノ中ニアルノデ、本來登記ハ他人ニ知ラセルト云フ趣意デアルカラ、縱令其登記ヲセズトモ官許ニ依テ成立ツタノデアルカラ、其法人ノ設立ヲ知ツテ居ル人ト法人ガ取引ヲシタ場合ニハ夫レハ登記ヲシタモノト見テモ同一デハナイカト云フコトデアリマスルガ、然ウ云フ場合ハ善意ト云フヤウナ御話シデ、法文ニ書テナクテモ登記ヲシナクテモ法人ハ設立シテアルト云フコトヲ知ツテ居ツタ場合ハ登記ヲシタモノト同ジモノト見ルト云フ譯デアリマスカ、然ウ云フコトハ書テナクテハ決シテ出來ヌト云フ譯デアリマスカ、私ハ出來ヌト云フ方ニ法文カラ見タイト思ヒマスガ、ケレドモ登記ヲシナクテモ知ツテ居レバ矢張リ登記ヲシタモノト同ジヤウニ見ルト云フヤウナ人モアリマスカラ念ノ爲メニ伺ツテ置クノデアリマス
穗積陳重君
是ハ登記ヲシマセヌ時ニ於テハ縱令其事柄ヲ知ツテ居ツテモ其人ニ對シテ效ガナイト云フ斯ウ云フ意味デアリマス、先刻磯部君カラ梅君ハ何時モ議論ガ尤モデアルガ登記法ノ原理ヲ誤ツテ居ルト云フヤウニ申サレマシタガ、私ハ決シテ然ウハ思ヒマセヌ此登記法ト云フモノハ必ズ公示ノ法デアルト云フコトハ一定ノ法理デナイト思ヒマス、或ハ公ニ示スヤウニ登記法ガ出來テ居ル國モアリマス、或ハ登記法ト云フモノガ一ノ權利移轉ノ原因ニナルト云フヤウナコトモアリマス、或ハ高木君ノ言ハレタ通リニ一ノ能力ヲ與ヘルコトニナルト云フコトモアリマス、夫レデ此登記ト云フモノハ人ニ知ラセル丈ケノ目的デアル、夫レダカラ其設立ヲ知ツテ居ルモノナレバ登記ヲシナクテモ同ジモノダト云フコトハナイノデアリマス、登記法ノ目的ハ人ニ知ラセルト云フノモ目的デアルケレドモ夫レ計リデハナイ、人ニ知ラセルト云フコトト或能力ヲ夫レニ與ヘルト云フコトト或ル原因ニナルト云フコトトアル、或國デハ登記ト云フモノガ讓渡ノ手續ニ必要ナル條件トナルト云フ所モアリマスカラ斯ルガ故ニ此登記ト云フモノハ唯人ニ知ラシメル目的丈ケニ過ギナイモノデアル、故ニ夫レヲ知ツテ居ル人ニ對シテハ登記ガアルモナイモ同ジモノデアルト云フヤウナ主義ハ吾々ハ採ツテ居リマセヌ、夫故ニ旣ニ其事實ヲ知ツテ居ル者ニ對シテモ本條ハ當ルト思ヒマス
議長(伊藤伯)
決ヲ採リマス、修正說ニ御同意ノ御方ハ起立
起立者少數
議長(伊藤伯)
少數、然ウスレバ四十七條ハ此修正ニ付テハ勿論起草委員ハ三人共初カラ同意ダネ
梅謙次郎君
然ウデアリマス
議長(伊藤伯)
然ウスルト此修正案ニ御同意ノ御方ハ起立
起立者多數
議長(伊藤伯)
多數然ウスルト修正ノ通リニ可決、次ハ四十八條
(書記朗讀)
第四十八條 事務所ヲ移轉スルトキハ七日内ニ舊所在地ニ於テ登記ヲ受ケ新所在地ニ於テ新ニ設立スル法人ニ付キ要スル登記ヲ受クヘシ
同一ノ登記所ノ管轄區域内ニ於テ事務所ヲ移轉スルトキハ移轉ノ登記ヲ受クヘシ
磯部四郎君
一寸伺ヒマスガ舊所在地デ登記ヲ受ケナケレバ矢張リ設立ノ效ハナイノデアリマスカ、此處ニ事務所ガ旣ニ移轉シテ七日内ニ舊所在地ニ於テハ移轉ノ登記ヲ受ケ新所在地ニ於テハ新ニ設立スル法人ニ付キ要スル登記ヲ受ケル、斯ウ云フコトニナツテ居リマスガ、然ウスルト此處ノ登記ハ前ノ登記トハ丸デ違フノデ、唯其地方ノ人ニ知ラセル丈ケナノデアリマスカ
穗積陳重君
此處ハ成立トハ違ヒマシテ兩方デ登記ヲスルト云フコトガ移轉ヲ公示スル方法ニナルノデアリマス
箕作麟祥君
一寸主査會ノ時ニ質問ヲ漏ラシマシタカラ伺ツテ置キマスガ、七日内ニ舊所在地ニ於テハ移轉ノ登記ヲ受ケルト云フコトハ分カツテ居リマスガ、「新所在地ニ於テハ新ニ設立スル法人ニ付キ要スル登記ヲ受クヘシ」ト云フノハ「七日内」デアルカ或ハ「十四日内」デアルカ不分明デアリマスガ、之ハ矢張リ前ノ「七日内」ト云フコトヲ兼ネルノデアリマスカ、前ノ「七日内」ト云フノハ舊所在地計リデ新所在地ノ方ニハ及バヌヤウナ書キ方ニ見エマスガ、如何デゴザイマセウ
穗積陳重君
「七日内」ト云フノハ新所在地ノ方ニモ力ガ及ブ積リデアリマス、成程然ウ思フテ見レバ然ウ云フ疑ヒハ起ラヌデモゴザイマセヌガ此處ハ然ウ云フ意味デアリマス
箕作麟祥君
然ウデアルトハ斟酌シマスガ「新所在地ニ於テハ新ニ設立スル法人ニ付キ要スル登記」トアリマスカラ「要スル登記」ト云フノハソコ計リデナイ、新ニ設立スル法人ト言ヘバ四十七條ノ第一項ニモ「十四日内」ト云フコトガアルカラ、一寸夫レ迄ずつと持テ來タヤウニモ見ヘタノデアリマス
侯爵西園寺公望君
然ウ云フ風ニモ見エルヤウデアル
磯部四郎君
是ハ講釋ヲ聞ケバ分カル
關直彦君
若シ今ノヤウナ疑ヒガアレバ「法人ニ付キ要スル」ノ下ニ「事項ノ」ト云フ三字ヲ御入レニナツテハ何ウデゴザイマセウカ、御參考ノ爲メニ申シテ置キマス
梅謙次郎君
一番始メニ吾々ノ案ニハ然ウ書テアリマシタ、卽チ商法ノ通リニシマシタガ、所ガ吾々ノ考ヘデハ穩カデナイ、「法人ニ要スル事項」何ノコトデアルカ分カラナイ、登記スル事項デアル、夫レデ法人ニ付キ要スル登記ト書イタノデ意味ニハ變ハリハアリマセヌガ、併シ諸君ニ言ハレテ見レバ然ウモ思ヘヌコトモナイガ、能ク見レバ然ウトハ思ヒマセヌガ尙御考ヘヲ願ヒタイ
侯爵西園寺公望君
私共ハ何度モ讀ンデ居ルカラ分カルケレドモ、之ヲ虛心平氣ニ讀ンダナレバ然ウ讀メルヤウデアル
末松謙澄君
是ハ少々語呂ガ惡クツテモ能ク分カルヤウニシテ置カヌト、現ニ商法ノ施行以來、澤山ニ疑義ガ起ツテ法制局抔デモ弱リ切ツテ居ル位デアル
高木豐三君
「新所在地ニ於テハ」ノ下ニ「同一期間内ニ」ト云フコトヲ入レレバ能ク分カル
三浦安君
是ハ愈々「七日内」ト云フノガ下迄貫徹スルト云フ事ニナルト、何ウモ之デハ聞エ惡クイ、依テ愈々其趣意デゴザイマスレバ文章ヲ少シ修正シテ、「事務所ヲ移轉スルトキハ舊所在地ニ於テ移轉ノ登記ヲ新所在地ニ於テ新ニ設立スル法人ニ付キ要スル登記ヲ七日内ニ受クヘシ」トシタラ分カルダラウ、左モナケレバ之デハ分カリ惡クイカラ「同一ノ期間内」ト云フコトヲ加ヘルカどちらデモ宜シイ、此儘デハ然ウハ聞エヌト思ヒマス
磯部四郎君
是ハ之デ宜カラウカ知ラヌト思フ、何ゼナレバ四日内デモ七日内デモ十四日内デモ宜シイ、どちらデモ宜シイト思ヒマス、夫レハ何ゼナレバ折角御修正案ガ出來テ期間ヲ縮メマシタケレドモ縮メタ間ニハ是非トモヤラナケレバナラヌト云フ制裁ハ何人ニモ斯ウ少々延ビタ所ガ不成立デ終ル、損モナク得モナク終ルト云フノデアリマスカラ、之ハ解釋者ノ隨意ニ任セテ宜シイト云フ意見デアリマス
箕作麟祥君
只今ノ磯都君ノヤウナ論ガ出マスルカラ之デハ愈々徃ケナイト思ヒマス、夫レデ只今三浦君ヨリ仕舞ニ「同一期間内」ト云フコトヲ入レテモ宜カラウト云フ御話シガアリマシタガ、私モ「同一期間内ニ於テ」ト云フ文字ヲ入レテモ宜シイト思ヒマス
三浦安君
今箕作君ノ言ハレタル通リ、何レニシテモ之ヲ加ヘサヘスレバ分カラウト思ヒマス
穗積陳重君
之デ何ウシテモ分ラヌト云フコトデアリマスレバ素ヨリ御修正ヲ請ヒマスルガ、若シ御修正ニナルコトナレバ寧ロ只今ノ場所ニ入レルヨリハ「七日内ニ舊所在地ニ於テ移轉ノ登記ヲ受ケ同期間内ニ新所在地ニ於テハ新ニ設立スル法人ニ付キ要スル登記ヲ受クヘシ」ト云フヤウニ、「同期間内ニ」ト云フコトガあそこヘ這入リマシタナラバ一番穩カデ宜シイト思ヒマス
箕作麟祥君
夫レデモ宜シイ
村田保君
私ハ却テ斯ウ云フ風ニシタラ何ウカト思ヒマス、「七日内ニ舊所在地ニ於テハ移轉ノ登記ヲ受ケ新所在地ニ於テハ新設立ニ付キ登記ヲ受クヘシ」斯ウシタラドウカト思ヒマス、七日内ト云フコトガアリマスカラ舊所在地ハ移轉シタト云フ丈ケデアリマス、新タノ方ハ新設立ノコトニ付テ受ケレバ宜シイト思ヒマス、此方ガ簡單デハナイカト思ヒマス
議長(伊藤伯)
然ラバ穗積君ノ修正說ニ御同意ノ方ハ起立
起立者多數
議長(伊藤伯)
多數
箕作麟祥君
末項ノ移轉ノミノ登記ヲ受ケル期限ハナイノデアリマスカ
穗積陳重君
勿論アリマス、四十八條ノ第一項ガ當ルノデアリマス
梅謙次郎君
若シ夫レ丈ケデ不明瞭ナレバ四十九條ノ第二項ガアリマスカラ明瞭デアラウト思ヒマス
磯部四郎君
併シ此處モ矢張リ書イタ方ガ宜シイト思ヒマス
梅謙次郎君
文章上カラ言ヘバサウデス
磯部四郎君
文章上甚ダ不體裁デアル
侯爵西園寺公望君
休憩ハ如何デゴザイマセウカ
議長(伊藤伯)
然ウスレバ後トハ御議論ハナイヤウデスナ、然ウスレバ原案可決ト認メマス、夫レデハ今度ハ次ノ四十九條
(書記朗讀)
第四十九條 登記スヘキ事項左ノ如シ
一 目的
二 名稱及ヒ事務所
三 設立許可ノ年月日
四 存立時期ヲ定メタルトキハ其時期
五 理事ノ氏名、住所
六 資本ノ總額
七 資本拂込ノ方法アルトキハ其方法
前項ニ掲ケタル事項中ニ變更ヲ生シタルトキハ三十日内ニ其登記ヲ受クヘシ登記前ニ在リテハ他人ニ對シテ其變更ノ效ヲ生セス
磯部四郎君
四十九條ノ「資本ノ總額」ト云フコト、之ハ登記スルマデハ社ノモノニナラヌノデアリマスカ
穗積陳重君
此財產ハ素ヨリ登記以前ニ社ノモノトナツテ居ルノデアリマス、併ナガラ此處ニ登記致シマスル資本ノ總額丈ケガ旣ニ法人ノモノニナツテ居ルカ、總額全體ガナツテ居ルカト言ヘバ夫レハナツテ居ラヌコトモアル、要スルニ此事業ト云フモノハ百萬圓デヤル事業ト見込ム然ウスルト卽チ「資本百萬圓」ト斯ウ書クノデアリマス
磯部四郎君
寄ツテ居ル金、例ヘバ百萬圓ノ事業ニ付テ現在ハ五萬圓シカ寄ツテ居ラヌト見ル、段々寄ツテ來ルト見タ所ガ現在登記スベキ事項ノ所ニ持ツテ來テ現在寄ツテ居ル總額丈ケヲ出スノデゴザイマセウカ
穗積陳重君
登記事項ノ方ニハ出シマセヌ、財產目錄ノ方デ分カル
磯部四郎君
一寸承リタイノハ先程梅さんカノ御答ヘニ付テ確メテ置キタイ、登記スベキ事項ハ斯ウナツテ居リマスルガ、登記前ニ兎ニ角其社團ニ向テ財產ガ少シハ寄ツテ居ル所ガ其間ニ社員ガ身代限リヲシタ、其時分ニ社員其人ニ掛カル財產ハ未ダ登記以前デアルカラト云ツテ社團ニ寄ツテ居ル財產ヲ差押ヘルコトガ出來ルカ出來ナイカ御尋ネヲ致シタイ
穗積陳重君
夫レハ其社團法人ノ財產ト云フモノニ付テハ差押ヘハ出來マセヌ
磯部四郎君
社團法人ノ設立カラ登記スル迄ノ間ノ事ヲ言フノデアリマス
穗積陳重君
夫レハ權利ヲ對抗スルコトハ出來ナイ、四十七條ノ第二項ニ付テ、之ハ法人ノ財產ニナツテ居ルカラ差押ヘヲスルコトハ出來ヌゾト主張スルコトハ出來ヌノデアリマス
磯部四郎君
然ウスルト設立ノ許可ヲ得テ設立スル迄ニ財產調ベガ出來テ此處ニ幾ラノ資本ガ寄ツテ居ル、夫レデ私ガ丁度其社ヘ持テ往ツテ五千圓ナラ五千圓ノ公債證書ヲ寄附ヲシタ、然ウスルト社員間デハ立派ニ其社團ノ財產ニナツテ居ル、併シ未ダ登記ヲシナイノデアル、其時分ニ私ガ破產ヲシタ、然ウスルト債權者ガ私ノ方ニ來テ見ルト私ノ財產ハナイ然ウスルト社團ニ掛ツテ往ク、社團ノ方デハ登記ヲシテ居ラヌカラ未ダ其讓與權ガ移ツテ居ラヌト云フノデ取ツテ來ル、ケレドモ實際社團其者ヘ寄附シタト云フコトハ登記ガシテアル、斯ウ云フ場合デモ往ケマセヌカ
穗積陳重君
夫レハ往ケヌノデアリマス
磯部四郎君
ソコハあなた方ハ法律ノ適用ヲ御示シ下サルコトガ出來マスカ、あなた方ノ思召ハ如何デゴザイマセウ、例ヘバ二月二日ニ於テ私ガ一個ノ不動產ヲ淺草ノ雷門トカ何ントカ云フヤウナ社團ニ贈與ヲシタ、其贈與ヲシタト云フコトニ付テハ登記ヲシテアル、贈與其者ニ對シテハ第三者ニ對シテ效ヲ生ズルト云フコトハ立派ニ出來テ居ル、贈與ノ登記ハ出來テ居ツテモ社團設立ノ登記ガ出來テ居ナイ、其際ニ私ガ身代限リヲシタ、破產ヲシタ、夫レデ旣ニ贈與ノ登記ガアルニモ拘ラズ其社團ニ持テ往ツテ寄附シタ財產ナレバ其財產ヲ私ノ債權者ガ取ツテ來ルコトガ出來ルト思召デアリマスカ
穗積陳重君
夫レハあなたノ御質問ニ依テモ趣意ハ能ク分カツテ居リマス、固ヨリ只今ノ通リ差押ヘガ出來ルト云フ考ヘデアリマス
山田喜之助君
殊ニ依ルト誤解デハアリマセヌカ
磯部四郎君
私ハ誤解ト云フ考ヘハアリマセヌカラ端タカラ彼是言フニハ及ビマセヌ
穗積陳重君
私ハ斯ウ思ヒマス、只今ノ御話シデ贈與ノ登記ハ不動產デすつかり出來テ居ル、夫レハ法律行爲ノ登記デアリマス、或人ニ對シテ或法律行爲ヲスル、其結果ガ登記ヲシテアル、然ウシテ其贈與ヲ受ケル者ガ法人ト見ル、人ノ方、其人ノ成立チノ登記ノ方ハ未ダ濟ンデ居ラヌ、受ケル人ノ方ノ登記ノ方ガ尙ホ重イ、未ダ夫レヲ貰ウ人ガ成立ツテ居ラヌノデアリマス
磯部四郎君
あなた方ハソコマデこちつけるノデアリマスカ
穗積陳重君
私ハ決シテこちつけデハアリマセヌ、然ウ信ジテ居ルノデアリマス
末延道成君
一寸伺ヒマスガ、商事會社ノ定款ハ公ニスルト云フコトガ擧ゲテアリマスガ此處ニハ定款ヲ見セルト云フヤウナ箇條ハナイカラ是丈ケデハ第三者ガ定款ヲ見ルト云フヤウナコトガ出來ルカ出來ナイカ分カラナイ、此處ニハ登記ノ箇條ガアリマスケレドモ、第三者ハ其社ノ登記簿ニ關スルヤウナコトハ詰リ其定款ヲ見ナケレバ分カラヌ、其登記ヲ何ウスルト云フコトハ規定シテイナイ、第三者ガ定款ヲ見ルト云フ必要ガアラウト思ヒマス、現ニ四十五條ニモ「法人ハ法令及ヒ定款若クハ寄附行爲ニ因リテ定マリタル目的ノ範圍内ニ於テ」云々トアル、何ウシテモ此定款ガ第三者間ニ知レナイト云フト之ハ何ンナ會社デ何ウ云フコトガアルカ更ニ分カラナイヤウニナルカラ、何處カ定款ヲ登記役場デ公ニスルトカ、或ハ見ニ往ケバ見セルトカ何處カニ公ニスルト云フ途ガ付ケテナイト徃ケナイ、唯此通リニシテ置クト第三者ガ見ニ往クト見セナイト云フヤウナコトガ起ルカモ知レヌ、故ニ之ハ何處カニ公ニスルト云フ途ヲ立テテ置カナイト四十五條ノ規定ニモ反スルカト思ヒマス
穗積陳重君
御答ヘヲスル前ニ一寸一ツ伺ヒタイコトガアリマスガ、商法ノ方デ定款ガ公ニナルト仰セラレルノハ百六十八條カラ來テ居ルノデアリマスカ
末延道成君
見ニ往ケバ見ラレルノデアリマス
穗積陳重君
百六十八條カラデアリマスカ
末延道成君
左樣デアリマス
穗積陳重君
夫レハ商法ノ專門家ガアリマスルカラ若シ私ガ間違ヒマシタナラバ御直シヲ願ヒマスガ、兎ニ角商法ノ百六十八條カラハ定款ガ公ニナルト云フ解釋ハ出ナイト解釋ヲシテ居リマス、如何トナレバ「登記シタル事項ハ公ニシテ且裁判所ノ認知シタルモノトス」ト云フコトガ其第二十二條ニアリマス、而シテ登記スベキ事項ト云フモノハ百六十八條ノ第二項ニアリマス、第三項ノ所デアリマスルト添ヘテ出シマスル書類、添ヘテ出ス書類迄モ公ニスベキモノト云フコトガ法律ノ上カラアルトハ全ク思ヒマセヌ、併ナガラ裁判所デ見セルガ宜イト云フノデ見セルカモ知レマセヌガ、法律ノ力カラ見ルコトガ出來ルカラ見セナケレバナラヌト云フノデ見セルト云フノデハナイト認メテ居ルノデアリマスガ、若シ間違ヒマシタナラバ商法ノ專門家モ澤山居ラレルコトデアリマスカラ御直シヲ願ヒタイ、夫故ニ此處デモ定款ト云フモノヲ一々公ニスル程ノ必要ハアルマイ、公衆ノ知ルノハ法人ノ組織ノ根本トナルモノ、例ヘバ財產ノ總額デアルトカ其機關ノ組織デアルトカ其財產ト云フモノヲ段々拵ヘテ往ク方法デアルトカ、極他人ノ知ルコトヲ要スル事柄、之ヲ知ルト知ラヌトデ大キナ信用上ニ關スル事丈ケハ登記事項ニシテ置クノデ其方デ十分デアラウト思ヒマス、故ニ定款ヲ公ニスルト云フ義務ハ茲ニハ負ハセナカツタノデアリマス、四十五條ノ「法令及ヒ定款若クハ寄附行爲ノ範圍内」丈ケデ以テ往クノデアリマスカラ、夫故ニ定款ト云フモノハ矢張リ公ニシナケレバナラヌデハナイカト云フコトデアリマシタガ、併ナガラ此取引ヲ致シマスルニ付テ先ヅ矢張リ登記事項デ大體ノコトハ分カルコトデアラウト思ヒマス、四十五條ノ所謂あるとらぶイれす、卽チ越權行爲抔ニ付テノ規定抔ハ之ハ定款ヲ公ケニスルト云フ制度ノナイ所デモ同ジ規定ガ行レテ居ルト存ジマス夫故ニ實際上差支ヘナイト思ヒマシテ定款ヲ公ニスルト云フコトハ示サナカツタノデアリマス
山田喜之助君
一寸起草委員ニ伺ヒタイ、先刻磯部君ノ質問ニ對シテ法人ノ設立ノ許可ヲ得マシタ後デ未ダ其登記ヲ經ザル前ニ法人ニ財產ヲ寄附シタ場合、其場合ニ寄附者ト云フ者ガ破產處分等ヲ受ケタ時ハ一旦寄附シタ財產デモ差押ヘルコトガ出來ルト云フコトニ御答ヘニナツタヤウデアリマスガ、然ウデアリマスカ
穗積陳重君
左樣デアリマス
山田喜之助君
然ウスルト四十四條トハ御答ヘガ牴觸シナイカト思ヒマス、四十四條ニ據ルト固ヨリ生前處分ト云フコトニナツテ居リマスガ、此疑問ニ付テハ第二ニ於テ、寄附財產ト云フノハ法人ノ設立ノ許可ガアツタ時ヨリ法人ノ財產ニナルトアリマスルカラ、決シテ登記ヲ要スルモノデハナカラウト思ヒマスガ
穗積陳重君
勿論夫レハ其通リデアリマシテ、設立ノ許可ガアツテカラハ法人ノ財產デナイトハ申シマセヌ、法人ノ財產ハ組成シテ居リマスルガ、四十七條ノ第二項ガアリマスル爲メニ其財產ニ關シ其他ノ權利デアリマシテモ登記ヲシナケレバ第三者ニ對シテハ力ガナイト云フノデアリマス、兩立シテ行ハレルト云フ積リデアリマス、夫レデ財產デナイトハ言ハヌノデアリマス
山田喜之助君
夫レデハ可笑シイ
穗積陳重君
財產デナイトハ言ハヌノデアリマスカラ財產デアリマス
山田喜之助君
法人ノ財產ヲ法人以外ノ債權者ニ取ラレルト云フコトハナイデセウ
磯部四郎君
夫レハアリマス
梅謙次郎君
夫レガ卽チ登記ノ效力デ登記ノナイ中ハ然ウナル、設立ノ許可ガアレバ登記ガナクテモ誰ニ對シテモ成立セラレタルモノト言フコトナレバ格別デアリマス、ケレドモ如何ニモ登記ハ必要デアル、併ナガラ其設立ノ許可ガアツタナレバ原則トシテハ成立ツテ居ルノデ、「他人ニ對シテ對抗スルコトヲ得ス」ト言ヘバ無論他人ニ對シテ效力ガナイガ内輪ニ對シテハ效力ガアルト云フノデ、他人ニ對シテハ、其結果ガはんぱなモノニナルト云フコトハこぢ付ケデモ何デモナイ、何處ノ國デモ同ジデアル
山田喜之助君
私ガ只今言フノハ法人ノ債權者トシテ言フノデハナイ、夫レデアリマスカラ現ニ四十四條ニ付テ特ニ質問ヲシマシタガ、私ガ之ヲ質問シマシタ時ハ起草委員ノ御一人ノ中デ斯ウ云フコトヲ答ヘラレマシタ、法人ノ設立ノ許可ガアツタ後ハ最早其法人ノ財產デアル、現ニ寄附者ノ債權者ガ來タ時ハ差押ヘラレルヤ否ヤト云フコトノ例ヲ擧ゲテ質問ヲシタ時ニ、夫レハ法人ノ財產ヲ組成スト此處デ極メタ以上ハ最早其時カラシテ法人ノ財產トナル、固ヨリ法人ハ或部分ニ於テハ登記ヲ經テ居リマセヌカラ完全ニ組織シテ居リマセヌ、併ナガラ其設立ハ完全ニ出來テ居ル、設立ガ出來テ居レバ之ニ財產ヲ持タセルコトガ出來ルト云フコトデアツタ、若シ起草委員ノ只今ノ御答ヘノヤウニスルト此四十四條ノ書キ方ガ惡ルイト思ヒマス、法人ノ財產デハアルガ法人ニ縁モゆかりモナイヤウナ債權者ト云フ者ガ差押ヘルコトモ出來ルト云フコトハ單純ニ法人ノ財產ヲ組成スルトハ書カレヌ、ソコデ或ハ斯ウ云フ御考ヘカモ知レヌ、法人ト云フモノハ登記ヲセヌケレバ財產ハ持テナイト云フヤウナ法理ヲ持テ居ルカモ知レマセヌ、私ハ決シテ然ウ云フ法理ハ立タナイト思ヒマス、唯得失論トシテ「法人ノ財產ヲ組成ス」ト書テアルカモ知レヌガ、然ウ云フ得失論ハ構ハヌノデアリマス、之ハ矢張リ今穗積君ノ御答ヘニナツタ通リ、明文ヲ以テ爲サウトスレバ一ノ策略論デアリマスガ、兎ニ角「法人ノ財產ヲ組成ス」ト云フノミデハ意味ガ分カリマセヌ、若シ只今穗積君ノ御答ヘニナツタ通リデアレバ「寄附財產ハ法人設立ノ許可ヲ受ケ登記ヲ經タル時ヨリ」云々ト書イタ方ガ能ク分カラウト思ヒマス
穗積陳重君
一寸承リマスガ、山田君ノ御論ノヤウニスルト、一度ビ人ノ財產トナツタモノハ取ラレルコトハナイモノ、斯ウ云フ議論ニナルノデアリマスカ
山田喜之助君
私ノ積リデハ私ノ財產トナツタモノハ私ニ關シタモノデナケレバ取ラレヌト思ヒマス、私ノ財產ハ私ナリ私ノ代理者ナリ或ハ後見人ナラ後見人、縁モゆかりモナイ者ヨリシテ取上ゲラレルコトハナイト思ヒマス、私ノ財產ナラバ私ノ代理人トカ私ノ後見人トカ云フヤウナ民法上ノ者ガアリマセウガ、一旦私ノ財產ニナツタモノナラバ私自身ノ行爲デナケレバ外ノ者ノ行爲デハ取ラレルコトハナカラウト思ヒマス
穗積陳重君
私ハ「法人ノ財產ヲ組成ス」ト云フノハ矢張リ私ノ意味ニ於テモ「登記シタル時ヨリ法人ノ財產ヲ組成ス」ト書ク必要ハ少シモナイト思ヒマス、私ノ考ヘデハ一度ビ財產ヲ組成シテモ他ノ法律ノ規定ニ依リ、夫レヨリ尙ホ權利ノ強イ法律カラ取ラレルコトガアラウト思ヒマス、此場合ニ於テ何モ縁モゆかりモナイモノカラ差押ヘラレルト云フコトハナイノデ、寄附シタル人トカ何ントカ云フ者カラ差押ヘラレルコトニナルト思ヒマスカラ少シモ牴觸ハセヌト思ツテ居リマス
議長(伊藤伯)
此處ノ「三十日」トアルノヲ「七日」ニスルト云フ說明ハ要リマセヌカ
穗積陳重君
「三十日」ヲ「七日」ニスルト云フ修正案ヲ出シテ置キマシタガ、夫レハ前ニ說明ヲ致シマシタカラ別ニ說明ハ致シマセヌ
議長(伊藤伯)
夫レデハ外ニ御議論ガナケレバ四十九條ノ二項ノ「三十日内」ト云フノヲ「七日内」ニ改メルト云フコトニ御同意ノ方ハ起立
起立者多數
議長(伊藤伯)
多數、夫レデ別段ニ御論ガナケレバ後トハ原案ノ通リニ決シマス
箕作麟祥君
私ハ一旦決定ヲシタル四十八條ニ戻ツテ彼是言フコトハ出來ヌト云フコトハ承知シテ居リマスカラ別ニ修正說デモ何ンデモアリマセヌガ、夫レハ先程修正ニナツタ文字ニ付テデアリマス之ハ起草委員ガ或ハ整理委員ノ御參考迄ニ供シタイト思ヒマスカラ一言御許シヲ願ヒマス、先程穗積委員ノ御說ニハ私モ同意ヲ表シテ「同期間内」ト云フコトヲあそこニ入レルト云フ事ニナツタノデアリマスガ、能ク考ヘテ見ルト之デハ此處ニ入レルノハ工合ガ惡ルイト思ヒマス、夫レデ私ハ斯ウシタラ何ウカト思ヒマス、「事務所ヲ移轉スルトキハ舊所在地ニ於テハ」トシタイ、卽チ「ハ」ノ字ヲ入レテ「舊所在地ニ於テハ七日内ニ移轉ノ登記ヲ受ケ新所在地ニ於テハ同期間内ニ新ニ設立スル法人ニ付キ」云々トシタラ宜カラウト思ヒマス、何ウモ「同期間内ニ新所在地ニ於テハ」ト云フノデハ如何ニモ工合ガ惡ルイ、之ガ一番文章ガ宜シイト思ヒマスカラ、自然起草委員ニ於テモ御採用ニナリマスレバ此方ガ宜シイト思ヒマス
議長(伊藤伯)
夫レハあなた方ノ方デ同ジ趣意ノコトデ唯文章論ノコトデアルカラ後トデ能ク直シタラ宜カラウ、夫レデハ休憩ト致シマス
午後七時五分休憩
休憩後午後七時三十五分開議
退席員
伊藤總裁
山田東次君
本野一郎君
三浦安君
高木豐三君
議長(西園寺侯)
議長ガ缺席セラレマシタカラ本員ガ代理ヲシマス、引續テ新五十條ヲ始メマス
(書記朗讀)
第五十條 第四十七條第一項及ヒ第四十九條ノ規定ニ依リ登記スヘキ事項ニシテ官廳ノ許可ヲ要スルモノハ其許可書ノ到達シタル時ヨリ登記ノ期間ヲ起算ス
箕作麟祥君
一寸起草委員ニ質問致シマス、豫テ御話シノアツタ趣キニ依リマスルト云フト、到達ノ時カラトカ或ハ發信シタ時カラトカ云フヤウナコトハ官廳ノ許可デアラウガ何ンデアラウガ斯ウ云フコトハ總テ意思ノ表示ト云フ所ニ規定スル御積リデアルト云フコトヲ承ツテ居リマシタガ、夫レナレバ總テ是等ノ官廳ノ許可トカ云フヤウナモノハ只今ノ問題デナクシテ總テニ適用スル所ノ意思ノ表示ノ所ニ掲ゲラレタナラバ敢テ此所ニ此五十條ノ如キモノヲ掲ゲル必要ハナイヤウニ思ヒマスガ、何ンゾ夫レデハ往ケヌ、意思ノ發表ノ所ニ五十條ノヤウナモノヲ掲ゲル譯ニハ往カヌ、是非トモ之ヲ此所ニ特ニ掲ゲテ置カネバナラヌト云フ必要ガアツテ御書キニナツタコトト思ヒマスルガ、意思ノ發表ト云フ所ニ掲ゲル、規定スルコトガ出來ナイ、不都合デアルト云フ所ノ理由ヲ一ツ承リタイノデアリマス
穗積陳重君
之ハ固ヨリ豫テ富井君カラ主査委員會ノ時ニ御話シニナツテ居ツタ事柄デアリマスルガ、何レ意思ノ表示ト云フモノニ付テノ通則ハ固ヨリ定マルコトデアリマセウ、其通則ト云フモノガ例ヘバ離隔地ノ間ニ於テハ其意思ノ表示ガ到達シタ時カラ其效ヲ生ズルトカ或ハ發信シタ時カラ效ヲ生ズルカト云フコトノ通則ガ出來ヤウト思ヒマス、併シナガラ其通則ニハ必ズ其通則ニ民法中ノコトヲ悉ク規定スルコトガ出來ルトモ思ヘナイ、何レニシテモ數多ク變例ガ出來ルト思ヒマス、或場合ニハ發信主義ヲ採ルノガ便利ノ場合モゴザイマセウシ、又或場合ニハ到達シタ日カラト云フコトニセヌト不便ト云フコトモゴザイマセウ、夫レデ只今ノ所デハ起草委員ノ間デ學說トシテハ色々變ハツテ居ルヤウデアリマスルガ、原案トシテ提出スル通則ハ離隔地ノ間ニ書信等ヲ以テスル時ニハ理論ニ拘ハラズ其通信ヲ發シマシタル時ヨリ起算スルト云フコトヲ通則トシテ出ス見込デアリマス、然ウスルト到達シタ時カラ效ヲ生ズル場合ト云フモノハ特ニ規定スル部分ニ這入ル、其特ニ規定スル部分ガ多フゴザイマス、併シ此處ハ夫レニ拘ハラズ此規定ガ要ルノデアリマス、官廳ト云フモノガ一ノ法人デアリマスレバ官廳ノ意思ノ表示ト云フコトニナツテ或ハ其通則ノ中ニ這入ルコトガ出來ルカモ知レマセヌガ、官聽ト云フモノハ一ノ法人トハ何ウモ思ヘマセヌノデ、夫故ニ官廳ノ許可トカ云フモノハ唯意思ノ表示ヲ規定シタ所ニ直チニハ這入ルマイト思ヒマスルノデ、夫レ故ニ通則ノ如何ニ拘ハラズ此所ニ規定シナケレバナラヌト云フ必要ガアルト云フノガ一ツノ理由、今一ツハ本條デハ官廳ノ許可ト云フモノハ到達シタ時カラ效ヲ生ズルト定メルト云フコトハ少シモナイ、登記丈ケノ規定、登記ノ期間丈ケヲ起算スル點、此起算點ヲ定メル丈ケノ規定デアリマス、矢張リ二月一日ニ許可ガアリマスレバ其二月一日ノ日附カラト云フコトニナリマセウ、夫故ニ意思ノ表示ノ通則ヲ規定スルニ拘ハラズ本條ハ是非トモ此處ニ斯ウ云フ工合ニ書カナイト往カヌト思ヒマスカラ此修正案ヲ提出シタノデアリマス
箕作麟祥君
能ク分カリマシタガ、私ノ考ヘデハ意思ノ表示ト云フ所ノ原則トハ違ウコトデモアルシ旁々此處ニ入レルコトガ必要デアルト云フ御說明デアリマスケレドモ、併シ之ハ一體法人ノコト斗リデナク民法ノ中ノ他ノ部分ニ於テ何ウ云フコトガアルカ未ダ證言ハ出來マセヌガ、必ズ官廳ノ許可ヲ得テカラ幾日内ニ何ウ云フ手續ヲスルト云フコトハ隨分アルダラウト思ヒマスガ、ソコハソコデスルト云フコトハ隨分煩ハシイコトデアラウト思ヒマス、然ウ云フ場合ノコトヲ意思ノ表示ノ所ニ斯ウ々々云フ場合ハ何ウ云フ時カラ起算點ヲ定メルトカ云フヤウナコトハ隨分書キ得ラレルト思ヒマス、夫レデ此處丈ケハ之デ宜シウゴザイマスガ、又官廳ノ許可ヲ得ルト云フ場合ガアツタ時ニ其處ロ所ロニ於テ幾日内ニ其手續ヲシロト云フヤウナコトヲ書カナケレバナラヌト云フ煩雜ガアラウト思ヒマスカラ、其煩雜ヲ來サヌヤウニ縱令原則デアラウガ取除法デアラウガ民法ニ適用スルモノヲ規定セラレンコトヲ希望スル、夫レデ私ノ考ヘデハ先ヅ此事ハ法人ノ登記ノコトノミヲ掲ゲヌデ、吾々ノ精神ハ到達ノ日カラ起算スルトカ云フコトニシテ置テ、然ウシテ意思ノ表示ノ所ニ至ツテ何ウシテモソコヘ入レルコトガ出來ナイト云フコトニナツタ時ニ於テハ又此處ヘ戻テスルコトハ宜シイト思ヒマスガ、今日カラ斯ウ云フコトヲシテ置クト後ニナツテ色々煩雜ガ起ラウト思ヒマスガ、夫レデモ何ンデモ斯ウ云フヤウニ規定スルノガ必要ト云フ譯デゴザイマセウカ
富井政章君
只今ノ問題ニ付テハ意思表示ノ所デ餘程考ヘタノデアリマス、ロハ今穗積君ガ言ハレマシタ離隔地ニ在ル人ニ對スル意思ノ表示ハ何レノ時カラ效ヲ生ズルカト云フコトニ對シテ原則トシテ極メタ條文ノ第二項ニ此官廳ノ許可ノ如キモノ或ハ官廳ニ對スル屆出其他意思ノ表示ノ規則ヲ掲ゲルコトニ書テ見タノデアリマス、吾々共ハ、併シ如何ニモ只今穗積君ノ言ハレタ通リ一己人ノ意思表示トハ餘程性質ガ違ツタモノデ、之ハ官廳ガ爲ス所ノ公ノ處分デアル、如何ニモ此性質ノ違ウモノヲ並ベテ書クト云フコトハ體裁ヲ得ナイ、民法上ノ關係ヲ有スルモノデアルケレドモ其本體ハ何ウシテモ行政上ノ事柄デアラウト考ヘル、夫レカラ官廳ノ處分ハ許可丈ケデアレバ宜シイケレドモ許可モアリマセウシ或ハ或事ヲ命ズルコトモゴザイマセウシ或ハ或事ヲ禁ズル事モアラウシ、或ハ又或管理者ノ如キモノヲ選任スルト云フガ如キコトモアリマセウカラ、如何ニモ一括シテ適當ナ字ヲ見付ケルト云フコトニ餘程困難ヲ感ジタ、官廳ノ處分ト書テ見ヤウカトモ考ヘマシタガ、處分ト云フコトモ如何ニモ充分ナ辭デナイト考ヘル、兎ニ角第一ニハ先刻穗積君ガ言ハレタ通リ性質ガ丸デ違ウ、公法上ノモノデアル、第二ニハ官廳ノ處分ヲ一括シテ參ルヤウナ適當ナ字ガナイ、列記スレバ甚ダ見苦クナリ且脱漏ノ恐レガアル、此二ツノ理由デ意思表示ノ通則ト云フモノハ發信主義ニ極マラウガ到達主義ニ極マラウガ之ハ何ウシテモ別ニ規定シタ方ガ宜シイ、其所ニ於テ規定シタ方ガ宜シイト云フ考ヘデ此條ガ出來タノデアリマス
箕作麟祥君
同ジコトガアツタナレバ、例ヘバ命令ナラ命令、其度ビ毎ニ此事ガ出ルノデアリマスカ
富井政章君
萬一然ウ云フ箇條ガ非常ニ澤山ニナリマスレバ、何レ此案ガ後ニ議會ニ出セルヤウナ有樣ニ迄進ンダ時分ニ如何ニモ然ウ云フ條ガ數ガ多クテ體裁ヲ失フト云フコトガアリマスレバ整理委員ニ於テ之ハ一ケ所ニ纏メテ仕舞ツタ方ガ宜カラウト云フヤウナコトモ或ハ出テ來ルカモ知レヌト思ヒマス、今ノ所デハ然ウ非常ニ多クモナカラウト思ヒマスカラ、先ヅ假リニ斯ウシテ置イタ方ガ穩カデ宜カラウト云フ考ヘデ斯ウ書イタノデアリマス
議長(西園寺侯)
如何デゴザイマス、他ニ御發議ハアリマセヌカ、他ニ御發議ガナクバ確定致シタモノト見テ次ノ條ニ移リマス
(書記朗讀)
第五十條 前三條ノ規定ハ外國法人カ日本ニ事務所ヲ設クル場合ニモ亦之ヲ適用ス但外國ニ於テ生シタル事項ニ付テハ其通知ヲ受ケタル時ヨリ登記ノ期間ヲ起算ス
梅謙次郎君
此處ニ蒟蒻版摺ヲ以テ御廻ハシヲシテアリマスル修正案デアリマス、此「前三條」ト云フノヲ「第四十七條第三項第四十八條及ヒ第四十九條」ト改メマシタノハ別段深イ意味ハアリマセヌ、此前主査會デモ色々議論ノアツタコトデアリマスガ、四十七條ノ一項二項ハ性質上當嵌ラナイト云フ所カラ寧ロ明カニ「第四十七條第三項」ト書イタ方ガ宜イト云フコトデ斯ウ書イタノデアリマス、又「外國法人カ始メテ日本ニ事務所ヲ設クルトキ其事務所所在ノ地ニ於テ登記ヲ受クルマテハ他人ニ對シテ法人タル效ナシ」、斯ウ云フ二項ヲ加ヘマシタノハ之ハ主査會デモ餘程議論ノアツタ事柄デアリマシテ、外國法人ハ一般ノ原則トシテハ認メナイト云フコトニ此案デハナツテ居リマスルガ、國、國ノ行政區劃及ビ商事會社丈ケハ認メルコトニナツテ居ル、且又外國ノ法人ト雖モ法律又ハ條約ニ依テ認メラレルコトガアルト云フコトヲ法文ニ現ハシテ居ルノデ、斯ク法人ニ認メラレテ居ル所ノ外國法人ガ、日本ニ於テ成立シテ居ルモノト認メラレテ居ツテモ夫レニ對シテ如何ナル手續ヲモシナイデモ宜シイト云フコトデハ色々不都合ヲ生ズルデアラウ、日本ノ法人ハ登記其他ノ事ニ依テ何ウ云フ種類ノモノデアルカト云フコトハ分カルノデアルガ、外國法人ハ其本國デ何ノヤウナコトガシテアルカ分ラナイデアラウ、殊ニ國ニ依テハ登記ヲ必要トシナイ所モアリマセウガ、之ハ是非トモ日本ニ於テ日本ノ登記ヲサセルコトガ場合ニ依テハ起ルデアラウ、其場合ト云フノハ外國法人ガ賣買ノ取引ヲスル、日本人ヲ相手取ツテ裁判所ニ訴ヘヲ起スト云フヤウナ時ニハ差支ヘハアリマスマイガ、特ニ事務所ヲ置タ場合デアレバ、其事務所ト云フモノハ丁度會社デ云ツテ見ルト支店ノヤウナ部分デアツテ夫レガ直接ニ日本ニ來テ新ニ事務所ヲ置テ殆ド日本ニ於テ設立シタ法人ト同ジヤウニ一ノ住所同樣ナ工合デ以テ働クモノデアリマスカラ、其場合丈ケハ少ナクトモ登記ノ手續ヲサセルコトハ必要デアルト云フノデ、之ハ外國ノ學者ノ間ニモ行ハレテ居ル說デアリマス、彼ノ商事會社ニ於テモ是丈ケノ手續ヲ履マセルト云フノガ多クノ說デアリマス、夫故ニ主査委員會ノ時ニモ然ウ云フ議論ガ出マシテ吾々モ尤モト存ジマシテ元トナカツタ所ニ今ノ原案ノ五十條ヲ加ヘマシタ、所ガ其五十條ニハ唯前三條ノ規定ニ依テ登記ヲシロト云フコトガアリマスルガ、其登記ヲシナカツタ時ノ制裁ハ特ニ規定シテナイ、其結果トシテ解釋上何ウモ穩カデナイ、穩カナ解釋トシテハ後チノ罰則ガ當嵌マル、夫レカラ又登記ノ普通ノ結果トシテ登記シナイモノハ世間ニ知ラレナイ、事務所ヲ設ケテモ其事務所ガアルト云フコトハ一般ニ認メラレナイコトニ過ギヌト斯ウ云フコトガ此前ノ主査委員會ノ時ニ一般ノ議論デアツタ、且前ノ四十七條ガ今度ノヤウニ變ハリマシタナレバ解釋上法人タル效力ガナイト云フコトハ決シテナイ、法人タル效力ハアル、ケレドモガ唯登記シナケレバ過料ニ處セラルルトカ或ハ世間ニ知レナイモノト看做サルルトカ云フ位ノ制裁シカナイ、夫レデハ元々外國法人ガ日本ニ於テ事務所ヲ設ケタ時ニハ登記ヲサセルト云フ精神ニ違ゴウ、外國法人ガ日本ニ於テ事務所ヲ設ケタナレバ一般ノ人ガ知ルヤウナ方法ヲ採ラナケレバ日本デ認メナイト云フヤウナ制裁ガ出ナイト云フコトモ殆ド多數ノ學者ノ認メテ居ル所デアリマス、立法論ニ於テモ商事會社ニ付テハ多數ノヤウニ思ヒマス、然ウ云フ譯デアリマスルカラ五十二條ノ二項、今度改マレバ五十一條ニナリマスルガ、今申シタヤウナコトヲ設ケレバ夫レデ其點ガ充分ニ明瞭ニナルデアラウト云フ考ヘデ斯ウ云フ事ヲ加ヘタ譯デアリマスカラ左樣ニ御承知ヲ願ヒマス
土方寧君
只今梅君カラノ御說明デ五十條ヲ改メテ五十一條トシテ更ニ二項ヲ加ヘラレタ趣意ヲ承ツテ能ク分カリマシタガ、尙ホ此二項ノ仕舞ヒノ方ニ在ル文字ニ付テ伺ヒタイ、夫レハ「他人ニ對シテ法人タル效ナシ」トアル、斯ウ申シマスルノハ三十九條ノ外國法人ニ關スル規定ニ於テ原則トシテハ日本ノ法律上デハ外國ノ法人ハ認メナイト云フコトデアル、特ニ認メラルルモノノ種類ハ掲ゲテアル、卽チ商事會社デアル、之ハ一番關係ノ多イモノ、其一番關係ノ多イ商事會社ガ日本ニ事務所ヲ設ケタ場合ニハ登記ヲ受ケナケレバナラヌ、若シ之ヲ受ケナイ時ハ法人タルノ效ガナイ、此效ガナイト云フコトハ詰リ其支店ヲ設ケタ場合デアレバ其支店ト日本人トノ取引ヲスルコトガ頻繁デゴザイマセウガ、其時分ニ支店ガ日本人ヲ訴ヘテモ亦日本人ガ支店ヲ訴ヘテモ若シ登記ヲ經テナイ時ニハ日本ノ裁判所デハ法人タルノ資格ガナイカラ認メナイコトニナルト云フ御趣意デアラウト考ヘマスガ、併ナガラ支店ガ設ケテアツタニモ拘ハラズ其支店ヲ經ズシテ然ウシテ其法人ノ本國ノ本店ト直接ニ取引ヲシタト云フヤウナ場合ニハ、若シ三十九條ノ規定ニ於テ日本ノ法律ニ於テハ商事會社デアレバ認メルト云フコトナレバ矢張リ認メルト云フ考ヘデアラウト思ヒマスガ斯ウ書テアレバ三十九條ニ於テハ日本ノ法律デ認メル、外國法人デアレバ三十九條ノ規定ニ依テ認メラレル、併ナガラ三十九條ノ外國法人ガ日本ノ法律デ認メルモノデアルト見テモ其法人ガ日本ニ事務所ヲ設ケ然ウシテ其事務所デ登記ヲシテ居ラヌ時ニ於テ訴ヘヲ起ス、其場合ニ於テハどちらガ原告ニナツテ訴ヘ出ルトシテモ日本ノ裁判所デハ認メナイコトニナラウト考ヘマスガ如何デアリマスカ
梅謙次郎君
之デハ登記ヲ受ケル迄ハ他人ニ對シテ法人タル效ナシト云フコトニナツテ居リマス、夫レデ之ハ前ノ四十七條ノ第二項ト同一ノ書キヤウデアリマス、其法人ノ方カラシテ私ハ成立ツテ居リマセヌト云フ抗辯ハ出來マセヌ、夫レダカラ法人ヲ相手取ツテ訴ヘル時ニ私ハ法人デナイカラ訴ヘルコトハ出來ナイト云ツテ刎付ケルコトハ出來マセヌ、ソコデ「他人ニ對シテ」ト特ニ書イタノデアリマス、勿論之ニ依テ其本國ノ法人ヲ認メヌト云フコトニハナリマセヌ、夫レデ今ノ事務所ノ點ニ於テモ本國ノ法人ニ對シテハ矢張リ法人ハ成立ツテ居ル、夫レダカラ日本人ノ爲メニハ不利益ナコトハ少シモナイ、日本人ノ爲メニハ利益計リアルヤウニ書イタ積リデアリマス、日本ニ事務所ヲ設ケタ場合デモ其本國ニ於テ法人ガ成立ツテ居ラヌト云フコトハ日本ノ法律ニ於テ認メナイト云フコトハ別ニ書カナクテモ之デ明瞭デアラウト思ヒマス
磯部四郎君
法人ノ名義デ起スコトハナラヌト云フノデアリマスカ、他人ト云フノハ第三者ト云フノトハ違ウノデアリマスカ
梅謙次郎君
他人ト第三者ノ間ノ事ニ付テハ大變ニ議論ノアツタノデアリマスガ、今日ハ幸ニ議論ガ出マセヌノデアリマスガ、私共ノ考ヘデハ第三者ト書イテハ穩カデナイト思ヒマス、其譯ハ社團法人ノ方ハ第三者デモ差支ヘナイト思ヒマスガ、財團法人ニ至ツテハ第三者トハ言ハレナイト思ヒマス、何ゼナレバ第三者ト言ヘバ第一者ト第二者トナケレバナラヌ、然ウスルト二人又ハ夫レヨリ多クノ人デ以テ契約ヲ結ンデ其契約ノ結果トシテ法人ガ出來レバ第三者ト言ヘバ卽チ設立ニ關係ヲシナイモノデアルカラ宜イケレドモ財團法人ト云フモノニナルト、例ヘバ一ノ人ガ財產ヲ出シテ財團ヲ拵ヘヤウト云フ時ニハ第二者ガナイ、夫レダカラ第三者トハ言ヘヌカラ他人トシタノデ、併シ意味ニ至ツテハ殆ド同ジヤウニナルノデアリマス
磯部四郎君
一寸伺ヒタイノハ、此處デ「法人タル效ナシ」ト云フノハ先キノ效力トハ違ウヤウニ思ヒマスガ如何デアリマスカ
梅謙次郎君
全ク同ジデアリマス
磯部四郎君
不成立ト云フノデアリマスカ
梅謙次郎君
第三者ノ方カラハ不成立ト見ルコトガ出來ル
磯部四郎君
第三者ガ知ツテ居ル時ハ何ウデゴザイマセウカ
梅謙次郎君
知ツテ居ラウガ知ツテ居ルマイガ些ツトモ關係ハナイ
磯部四郎君
今ノ土方君ノ言ハレタヤウナ場合デハ
梅謙次郎君
土方君ノ御質問ニナツタヤウナ場合ニ於テ、例ヘバ夫レト取引ヲスル相手ガ訴ヘヲ起ス、其場合ニこちらノ法人デハ吾吾ハ未ダ成立ツテ居ラヌカラ其訴ヘハ受ケナイト云フテ抗辯スルコトガ出來ルカト云ヘバ出來ナイ
磯部四郎君
前ノ四十七條ノ方ハ何ウデアリマセウ
梅謙次郎君
四十七條モ同ジ理窟デアリマス、自分ノ方カラ成立ツテ居ラヌト云フテ抗辯スルコトハ出來マセヌ
磯部四郎君
然ウスレバ成立ハ何ウデゴザイマセウカ、穗積委員ニ伺ヒマス
穗積陳重君
法人ノ設立ハ其許可ノアツタ時カラ始マルノデアリマス、併シ其登記ガナイ時ニハ第三者ニ對シテハ丸デ成立タヌモ同ジコトデアルト云フコトヲ申シタノデアリマス、此五十條修正案ノ第二項ニ置キマシテモ外國法人ハ矢張リ前ノ箇條ノ結果トシテ認メル部分ニ這入ツテ居ル、併ナガラ他人ニ對シテハ成立ツテ居ラヌト同樣デアル
磯部四郎君
一口ニ言ヘバ詰リ自分カラハ法人ノ名義ヲ以テ權利ヲ主張スルコトハ出來ナイ、ケレドモ他人カラ主張サレタ時ニハ法人ノ成立ツタ以上ハ外國人デモ日本人デモ構ハヌ其成立ヲ拒ムコトハ出來ヌト云フコトデアリマスカ
穗積陳重君
無論然ウデアリマス
磯部四郎君
前ノモ然ウデアリマシタカ
梅謙次郎君
然ウデアリマス
都筑馨六君
三十九條ニ記載セル外國法人ガ事務所ヲ設ケナイ時分ニハ卽チ其第二項ニ依テ日本ニ設立シテ居ル同種類ノ法人ト同一ノ權利ヲ持テ居ル、然ウスルト始メテ事務所ヲ設ケテ登記ヲ受ケタ時ニハ他人ニ對シテ法人タルノ效力ハナイ、若シ此法人ガ事務所ヲ設ケサヘシナケレバ日本ノ法人ト同一ノ權利ヲ持テ居ル、事務所ヲ設クルニ至ツテ事務所ノ登記ヲ受ケナケレバ他人ニ對シテ法人タルノ效力ガナイト云フヤウニ二ケ條ヲ併セテ見ルト解釋ガ出來ルヤウデアリマスルガ、如何デアリマスカ
穗積陳重君
御見解ノ通リデアリマス、始メ第五十條ガ設ケラレタ時モ然ウ云フ趣意デ設ケラレタノデアリマセウ、日本ニ事務所ヲ設ケルト云フコトニナルト、其事務所ヲ設ケル法人ニハ特別ニ必要ガアツテ特別ノ義務ヲ負ハセル必要ガアル、日本ニ於テ夫レ丈ケ働キマスル一ノ根據ヲ拵ヘナガラ尙ホ一向取締法ノコトモ守ラズシテ尙ホ法人タルノ働キヲ充分サセ日本ノ同種類ノ法人ト同一ノ權利ヲ有セシメルト云フコトニスルト同一ノ權利所デハナイ、日本ノ法人ハ登記ヲシナケレバ效力ハナイト云フノデアルノニ外國法人ハ却ツテ宜クナル、同一ノ權利所デハナイ、尙ホ多クノ權利ヲ有スルヤウニナリマスカラ、夫故ニ外國法人デモ日本ニ一ノ事務所ヲ設ケ働ク根據ヲ据ヘヤウトスル時ニハ日本ノ法人ト同ジ制限ヲ加ヘルト云フヤウニシタイト云フ第一項ノ意カラ出テ居ル、夫レデアリマスカラ第二項ハ矢張リ然ウ云フヤウニ解釋ヲシナケレバナラヌノデアリマス
都筑馨六君
前ノ二項ニ於テモ他人ニ對シテ法人タルノ資格ハ持テ居ルノデアラウト思ヒマス、故ニ五十條ニ來テ事務所ヲ設ケテ七日内ニ登記ヲシロ或ハ十四日内ニ登記ヲシロ、其十四日内ト云フコトハ前ノ三十九條ニ依テ法人タル資格ハ持テ居ルノデアルカ、或ハ其間ハ何ウナルノデアリマスカ
梅謙次郎君
說明致シマス、夫レハ斯ウ云フ譯デアリマス、固ヨリ其他人ニ對シテハ法人タル效ハナイノデ、事務所ヲ設ケルト云フト、夫レデ事務所ヲ設ケナイ中ニハ法人デアツタモノガ事務所ヲ設ケタナラバ俄ニ他人ニ對シテ效ヲ失ウト云フヤウニナツテハ可笑シイト云フ御話シモアリマシタガ、私共ハ可笑シイトハ思ヒマセヌ、勿論之ハ法律ガ制裁トシテ作ルノデアルカラ事務所ヲ設ケナイ位デヤルトスルト偶マニ或日本人ヲ相手取ツテ訴訟ヲ起ス位デアルカラ、其事務所ノナイ時ニ取引ヲスル位ナレバ向フノ法人ハ何ノヤウナ法人デアルト云フコトヲ充分調ベタ上デナケレバ取引ヲシナイカラ構ヒマセヌ、ケレドモ事務所ヲ日本ニ設ケテ日本ノ法人ト同ジヤウニ働イテ居ル、而シテ其外國法人ノ組織ハ如何ナル組織デアルカト云フコトガ分カラヌト云フヤウデハ困ル、日本ノ法人ハ登記ヲ受ケナケレバ他人ニ對シテ效ガナイトシテアルノニ外國法人ハ然ウデナイ、本國デハ登記ヲシテ居ルカモ知レヌガ日本デハ登記ヲ受ケヌデモ宜シイト云フヤウニナツテハ、先刻穗積君ガ言ハレタヤウニ日本ノ法人ヨリ餘計權利ヲ持ツヤウニナリマスカラ斯樣ニシタ譯デアリマス、夫レデ其移リ變ハリハ少々可笑シイヤウデハアリマスケレドモ、夫レハ吾々ハ格別差支ヘナイト云フ考ヘデアリマス
土方寧君
先刻ノ質問ニ對シテ梅さんノ御辯明中他人ト云フ、此他人ト云フコトニ重キヲ置テ外國法人ガ日本人ヲ訴ヘテ來タ場合、日本人ガ外國人ヲ訴ヘテ來タ場合ノ區別ニ付テ御說明ニナツタノハ如何ニモ能ク分カリマシタガ
議長(西園寺侯)
御質問デアリマスカ
土方寧君
念ヲ押シタイノデアル、外國法人ト取引ヲシタ日本人ヲ相手取ツテ外國法人ガ日本ノ裁判所ニ訴ヘテ來タ時ニハ縱令外國ノ法人ガ日本ニ事務所トカ支店トカヲ設ケテアツタ場合デアラウトモ場合デナカラウトモ卽チ其法人ノ名前ヲ以テ來ルニ相違ナイ、其時分ニ日本ニ事務所ヲ設ケテ居ツタ場合ニハ登記ヲシナケレバ制裁トシテ認メナイト云フコトニナル、夫レハ如何ニモ夫レデ差支ヘナイヤウニ考ヘマスガ、併ナガラ然ウスルト云フト三十九條ノ規定ニ依テ或種類ノ外國法人ハ例外トシテ日本ノ法律デ法人ト認メル、併ナガラ支店或ハ事務所ヲ設ケタ場合ニ其登記ヲ受ケヌ時ハ其法人ハ或格段ナルコトニ付テ原告ノ位地ニ立テ日本ノ裁判所ニ訴ヘヲ起ス時分ニハ日本ニ在ル支店デモ本國ノ本店デモ其法人ノ名トシテハ一切其格段ナル事件ニ付テハ認メヌト云フ結果ニナラウト思ヒマスガ、夫レハ制裁デアリマスガ、然ウ云フ意味デ此第二項ノ修正案ヲ出サレタノデアラウト思ヒマスガ如何デアリマセウカ
梅謙次郎君
兎ニ角其通リデアリマス
穗積八束君
甚ダしつこいヤウデアリマスガ、分カリマセヌカラ一寸伺ヒマス、今都筑君カラ御尋ネニナツタニ付テ御答ヘニナリマシタガ、其時ニ外國法人ガ事務所ヲ設ケテ其登記スルコトヲ怠ツテ置イタ、其間ハ法人タル效ガナイ、法人ハ消滅シテ仕舞ウ、登記ヲ受ケタナラバ其登記ニ依テ蘇生シテ法人タル效ガアルト云フヤウナ御辯解デアツタト心得テ居リマシタガ、然ウスルト此規定ヲ設ケレバ事務所ト云フモノノ解釋ハ大變ニ六ケ敷クナツテ此解釋デハ非常ナ爭ヒモ起ルコトデアラウト思ヒマスルガ、此事務所ト云フモノニ付テハ何カ特別ナ解釋ガアル譯デゴザイマセウカ、例ヘバ或外國ノ會社ノ出張員ガ帝國ほてるニ宿ヲ取ツテ居ツテ日本人ト取引ヲシタ後トデ問着ガ起ツテ來タ、あれハ事務所ヲ帝國ほてるニ設ケテ居ツタケレドモ登記ヲシナイデ居ツタカラ法人ノ所爲デナイ、其效ガナイ、或ハ之ハ事務所デナイ、之ハ唯自分ガ住居ヲシテ居ツタ丈ケノ事デアルト云フヤウナ種々疑ハシイコトガ起ルデアラウト思ヒマスガ、此法文デハ事務所ト云フモノニ付テ何カ特別ノ解釋ガアリマスルカ、一寸御聽キ申シタイ
梅謙次郎君
何ウモ事務所ト見ルカ見ナイカト云フコトハ事實問題デアリマス、成程只今穗積さんノ仰ツタ通リ疑ヒガ起ラウト思ヒマスガ、夫レハ獨リ外國法人斗リデナク内國法人デモ然ウデアラウト思ヒマス、現ニ日本ノ商事會社デモ然ウデアラウ、現ニ斯ウ云フモノハ事務所デアルカ何ウデアラウカト云フ疑ヒモ起ツテ居ツテ私共ハ度々質問ヲ受ケタ位デアリマス、夫レハ何ウモ免レマセヌコトデ、左レバト云ツテ之ヲ明ニ法文ニ掲ゲルコトハ出來ナイ、只今例ヲ御出シニナツタヤウナコトハ私ノ考ヘニスレバ帝國ほてるニ出張員ガ泊ツテ居ツテ自分ガソコヲ出這入リヲシテ居ツタ所ガ夫レハ私ナレバ事務所トハ見ナイ、左リナガラ帝國ほてるニ何々ノ事務所トカ何々ノ出張所トカ云フ札ヲ掲ゲルトカ、又ハ札ヲ掲ゲナイニシタ所ガ帝國ほてるノ一部分ヲ借受ケテ毎日人ガ出這入リヲシテ取引ヤ何カヲスレバ夫レハ事務所ト認メナケレバナラヌト思ヒマス、唯泊ツテ居ツテ其人ガ本店ヲ代表シテ取引ヲスルト云フ位ノコトナレバソコヲ以テ出張所ナルモノ或ハ事務所ナルモノト認ムルカト云ヘバ夫レハ認メラレヌト思ヒマス
穗積八束君
只今ノ御辯解デ大分分カツテ來マシタガ、今ノ御說明ニ據ルト此事務所ニ付テ疑ノアルト云フコトハ日本ノ法人デモ同ジク疑ヒガアルト云フコトデアリマシタガ、成程法人ノ主タル事務所ヲ一ツ拵エテ夫レカラ後諸々方々ニ事務所ヲ拵ヘタ、其屆出デヲ怠ラウガ怠ルマイガ其法人ノ存在ノ有無ニハ左程關係セヌ、併シ此外國法人ノ事務所ハ絶對的ニ法人其者ノ存在ニ關スルト云フコトニナルト解釋ガ六ケ敷イヤウニ考ヘル、夫レガ故ニ此法文ヲモウ少シ明瞭ニ仕樣ハナイカト思ヒマシテ御質問ヲ致シタノデアリマス
梅謙次郎君
只今ノコトハ誠ニ穗積さんノ仰ツル通リデ、總體ニ於テハ、夫故ニ此事務所ト云フモノニ付テ一層問題ガ大キクナリマスガ、吾々ニ於テ何ウモ此事務所ト云フ文字ヨリモウ一層明瞭ナ文字ハ是迄考ヘ付キマセヌ、夫レデ諸君ニ於テモ尙ホ御考ヘ下サツテ之ヨリ尙ホ明瞭ナ文字ガアツテ御出シ下サレバ喜ンデ贊成致シマス
都筑馨六君
夫レハ事務所サヘ設ケナケレバ他人ニ對シテ法人タル效ガアル、併シ事務所ヲ設ケタナラバ其登記ヲセヌ時ニハ法人タル效ガナイ、消滅スルト云フコトニナリマスルト云フト今穗積委員ガ申サレタヤウナ疑問ガ起ルノデアリマスガ、然ウスルト兎ニ角日本ニ事務所ヲ設ケサセヌト云フ御趣意デ出來タヤウナ結果ニナリハシマセヌカト思ヒマスルガ、然ウ云フ譯デゴザイマセウカ
梅謙次郎君
強テ夫レヲ妨ゲルト云フ譯デハアリマセヌ、ケレドモ日本ノ爲メニハ事務所ヲ設ケヌ方ガ利益カモ知レマセヌ、又必ラズ利益ニナルトモ申サレマセヌ、例ヲ以テ言ヘバ宗教上ノ法人抔ハ多クノ場合ニ於テハ却テ事務所抔ハ設ケテ呉レヌ方ガ宜イト思ヒマスガ、併シ商事會社ノ如キモノハ設ケテ呉レタ方ガ日本ニ取ツテ便利デアラウト思ヒマス、併シ向フデモ事務所ヲ設ケテ登記ヲシタ所ガ左程面倒デモナシ其費用モ多分モ掛カラヌカラ多分ハ登記ヲスルコトデアラウト思ヒマス、唯向フガ登記ヲシ兼ルト云フヤウナコトガアレバ其時ハ必ズ登記ヲシテ直グニ其法人ハ日本デ充分ニ信用ヲ受ケルコトガ出來ヌヤウナ危險ナ法人デアラウト思ヒマス、然ウ云フモノハ成ル丈ケ成立タセナイ方ガ宜シイ、併シ事務所ヲ設ケヌデ唯時々向フカラ出張シテ取引ヲスルト云フヤウナモノデアレバ澤山ノ取引モ出來ヌデアラウ、又日本人モ左程信用ヲセヌデアラウカラ然ウ云フ時ハ夫レデ宜イダラウガ、事務所ヲ設ケタ場合ニ限ツテ登記ヲサセル、且又登記ヲサセルト云フテモ何處ヘ登記ヲサセテ宜シイカ場所モ定メ惡クイト云フヤウナモノデアリマスルカラ、外國ノ法律デモ商事會社ニ付テハ多ク斯ウ云フ風ニナツテ居リマスルシ學者ノ意見モ多ク斯ウ云フ意見デアリマスカラ、之デ差支ヘナイト思ヒマスルノデアリマス
長谷川喬君
私モ此修正案ニ付テ伺ヒタイ、原案ニ依リマスト云フト登記ニ付テノ起算點ガ特別ニ書テアリマスガ、修正案ニ依ルト別ニ記載シテナイ、然ウスルト例ヘバ第四十九條ニ列記シタル事項中、或ハ資本ノ總額ヲバ本社ニ於テ增減シタト云フガ如キ場合ガアツテモ矢張リ四十九條ニ依ルト云フト變更ヲ生ジタル時ヨリ七日内ニ登記ヲ受ケロト云フ事ニナツテ居リマスルガ、夫レハ實際外國法人ニハ出來ナイト思ヒマスガ、何ウ云フ譯ニナツテ來マスカ
梅謙次郎君
夫レハ前ノ箇條ハ些ツトモ改メテ居リマセヌ、此處ニアル五十條ハ其儘殘ツテ一項トナル、然ウスルト今ノ御話シノ事ハ一向差支ヘナイヤウニナツテ來マス、卽チ「但外國ニ於テ生シタル事項ニ付テハ其通知ヲ受ケタル時ヨリ登記ノ期間ヲ起算ス」トアリマスカラ此方デ差支ヘナイト思ヒマス
磯部四郎君
餘程之ハ重大ナ問題デアリマスルガ如何デゴザイマセウ、出張所ノ看板ヲ掲ゲテアレバ夫レヲ以テ事務所ト看做スト云フヤウナ定義ヲ見タヤウナモノヲ掲ゲタナレバ尙ホ能ク分カラウト思ヒマスガ
議長(西園寺侯)
質問デアリマスルカ御修正デアリマスルカ
磯部四郎君
私ハ實ハ先程ノ箕作委員ノ例ニ倣ツテ起草委員ニ建白ヲ致サウト思ヒマスルノデ、御採用ノアルナイハ起草委員ノ御意見次第デアリマスカラ夫レハ仕方ガナイ
議長(西園寺侯)
他ニ御發議ガナケレバ次ノ條ニ移リマスガ
梅謙次郎君
異議ガアレバ決ヲ採ツテ貰ヒタイ、修正案ノ方ノ第二項丈ケニ付テ採決ヲ望ミマス、序ニ全體ヲ
土方寧君
舊トノ五十條ハ原案デアリマスルシ、夫レカラ又一項中ノ或部分ガ修正ニナル、夫レデ皆聯關シテ居リマスルカラ願クバ纏メテ起草委員ノ御修正ト舊トノ案ト一緒ニ爲サツテ採決ヲ望ミマス
穗積八束君
今ノ事務所ノ事ニ付テハ能ク分カリマセヌデゴザイマスケレドモ何ウモ此修正案ノ出タノハ畢竟制裁ヲ加ヘタイ、事務所ヲ無闇ニ設定セシムルコトヲ爲サセマイト云フ御趣意カラ出タノカモ知レマセヌガ、何ウモ之デハ其制裁ノ結果法人ヲ殺スト云フ結果ニナリマスカラ、事務所ヲ設ケントスル場合ニハ日本官廳ノ特別ノ許可ヲ受ケナケレバ設ケルコトガ出來ナイト云フヤウナ制裁ニシテ法人格ヲ滅セヌト云フヤウナコトニシテハ如何デゴザイマセウ、起草委員ニ於テ御異存ガアレバ承リマス、若シ御異存ガナケレバ然ウ云フヤウナ文章ニ改メテ見タイト思ヒマスガ
穗積陳重君
起草委員ハ始メ三十九條ヲ立案スルトキ又之ヲ議定セラルル時ニモ其事ヲ述ベテ置キマシタガ、外國法人ノ成立ト云フモノヲ一々認許スルト云フ主義ハ採ラナイコトニナツテ居リマス、其委シイコトハ理由書ニモ出テ居リマスルカラ御覽下サレバ分カリマス、夫故ニ外國法人ガ一々日本政府ノ認許ヲ得テ成立ツト云フ主義ハ始メカラ採ルト云フ精神デハナイ、夫レ故ニ此處丈ケニ入レルト云フコトハ何ウモ御同意致シ兼ネマスル
長谷川喬君
今土方君カラ建議ガ出テ併セテ決ヲ取ツテ貰ヒタイト云フコトデアリマスガ、然ウ云フコトニナリマシタナレバ私共ハ困リマスカラ別々ニ採ツテ戴キタイ、現ニ本條ノ一項ノ改正案ハ主査會ニ於テ私ガ提出シタノデアリマスカラ、之ハ直チニ贊成致シタイ、併ナガラ第二項ノ新案ニナリマスルト云フト、之ハ別ニ私ガ辯ズル迄モナク先刻都筑君カラ辯ゼラレタノデ此新案ノ不當ヲ鳴ラスニ足リルト思ヒマス、短ク申セバ旣ニ外國法人ハ認メルト云フ事ヲ言フテ置キナガラ事務所ヲ設ケタ爲メニ認メナイ、事務所ヲ設クルニ當ツテ認メナイト云フコトニナリマスルノハ私ハ甚ダ不都合ト思ヒマスカラ之ニ付テハ贊成シナイ、夫故ニ之ハ二ツニ分ケテ決ヲ御採リニナルコトヲ望ミマス
土方寧君
採決方ハ議長ノ決スル所デアリマスカラ別ニ申上ゲマセヌ、併シ只今別ニシテ貰ヒタイト云フコトニ付テ一寸一言申シマスガ、如何ニモ外國法人ヲ認メルケレドモ支社ヲ設ケ事務所ヲ設ケタ時ニ登記ヲ受ケヌト認メナイト云フコトニナルト如何ニモ可笑シイ、事務所ヲ設ケテ登記ヲ受ケヌ時ハ認メヌト云フ事ハ如何ニモ可笑シイト云フ御話シデアリマスガ、併ナガラ支社或ハ事務所ヲ設ケタ時分ニハ其事實ノ上ニ於テ其支社或ハ事務所ヲ日本ニ於テ獨立シタ一ノ法人トシテ盛ンニ取引ヲシヤウト云フノデアルカラ、成ル可クハ日本ノ法人ト同樣ニ取締ヲ致シタイト云フノデ登記ヲ要ス、其制裁ノ規則ヲ履マセタイ、若シ其制裁ノ規則ヲ履マヌ時ニハ制裁トシテ其全體ノ法人ヲ認メナイト云フコトニナルノデハアリマセヌ、併シナガラ其時ハ其法人ガ困マル、不利益ノアルノハ其訴ヘヲ起ス時、何カ格段ナルコトニ付テ日本ノ裁判所ニ向ツテ訴ヘヲ起スト云フ權利、其權利ニ付テ主張スルコトガ出來ナイト云フコトニナル、其制裁ト云フモノハ餘程必要ト思ヒマス
穗積陳重君
只今ノ長谷川君ノ御論ニ付テ述ベテ置キマスガ、之ハ格別可笑シイコトハナイ、外國法人ハ認メルトシテ置キナガラ事務所ヲ置テ登記ヲシナイ時ニハ夫レヲ認メヌコトニナル、卽チ「他人ニ對シテ其效ナシ」ト云フノハ可笑シイト云フ御話シデアリマシタガ、外國法人丈ケデ云フ時ハ一寸可笑シイヤウニモ思ヘマスガ、日本デモ同ジコトデアツテ設立ハ旣ニ認メテ居ル、ケレドモ登記ヲセヌト他人ニ對シテ效ナシト云フコトハ日本法人ニモアルノデ矢張リ同ジ理窟デアリマス、日本法人ハ設立ヲシタ時、外國法人ハ事務所ヲ別ニ設ケタ、設立ノ後ニ別ニ設ケタ時、其違ヒガアル丈ケデ其代リニ「始メテ」ト云フ文字ガ這入ツテ居リマス、始メテ事務所ヲ設ケル時ト云フノハ丁度日本デ始メテ設ケタ時ト同一デアリマス、事實上日本カラ見レバ始メテ設立シタヤウナモノニナルノデアリマスカラ別ニ差支ヘナイノデアリマス
大岡育造君
只今ノ御說明デ少シ疑ヒヲ生ジマシタガ、日本ノ法人ノ場合ニ於テハ其設立ヲ認メテモ尙ホ登記ヲ經ナケレバ全ク第三者ニ對シテノ法人タル働キガ出來ナイト云フヤウナ場合ガアル、夫レト同ジヤウデアルト云フ御說明デアツタヤウニ思ヒマスガ、之ハ少シ違ヒハ致シマスマイカ、日本デハ法人ノ設立ダケ認メラレタ場合デハ夫レガ法人タルノ働キヲ爲スコトガ出來ナイ、然ルニ外國ノ法人ニ至ツテハ事務所サヘナケレバ法人タルノ働キヲ爲スコトガ出來ルト云フヤウニ日本ノ法律ガ認メテ居ル、此法律デハ、然ウスルト恰モ外國ノ人ハ事務所ヲ設ケサヘシナケレバ人デ言ヘバ成年者ト認メラレテアル、然ルニ日本ノ場合ハ幼者ノヤウナ場合、夫レト同ジニ適用スベキモノデアルト云フコトニナルト私ハ解釋ノ仕方ガ違ツテ居ルカ知ラヌガ甚ダ解シ惡クイト思ヒマス、或ハ穗積君ガ日本ノ法人ト同ジモノト言ハレルノハ法人トシテハ認メルケレドモ其登記ヲスル迄ハ其法人トシテ權利ヲ主張スルコトガ出來ヌト云フ斯ウ云フ意味デゴザイマセウカ
穗積陳重君
其通リデアリマス
大岡育造君
夫レデハ可笑シクナリハシマセヌカ、外國法人ハ取引ヲスル、外國法人ト云フモノガ出來ヌト云フコトハナイ、矢張リ取引ハ出來ルト思ヒマスカ
穗積陳重君
辯明ヲ致シマスル、夫レハ前ニモ呉レ呉レモ申シタ通リデ、日本ニ於テ特別ニ働ク根據ヲ定メル時ニハ日本ニ於テ特別ニ制裁ヲ加ヘナケレバナラヌト云フノデ之ヲ加ヘマシタノデアリマス、畢竟私ノ辯明ハ長谷川君ノ御論ニ對シテ申シマシタノデ長谷川君ノ御論ト較ベテ御考ヘニナランケレバ分ラナイ、一方ニ於テハ外國法人ヲ認メテ置キナガラ一方ニ於テハ他人ニ對シテ其效ナシ、認メヌト云フノハ變ナモノデアルト云フ御話シデアリマスガ、日本ノデモ設立ヲシテモ登記ヲシナイト矢張リ第三者ニ對シテ效ガナイト云フノデ其點ニ於テハ同ジデアル、唯違ウノハ其設立ノ時ニ登記法ガ日本ニ於テハ違ウト云フコト丈ケデ、日本ノハ後ニ事務所ヲ設ケル、外國法人ハ始メテ事務所ヲ設ケルト云フノデアリマス
梅謙次郎君
今度ノ修正案ニ付テ一寸一ノ例ヲ申セバ、例ヘバ禁治產者デアリマス、病氣デ以テ氣ガ違ウ、全ク其氣ノ違ツテ居ル時ニハ契約モ何モ出來マセヌガ、氣違ヒノ種類ニ依ツテハ善クナツタリ惡クナツタリスル、其病氣ノ宜イ間ニ於テハ通常人ト同ジヤウニ取引ガ出來ル、夫レガ今度一旦禁治產ニナルト一切出來ナクナル、矢張リ夫レト同樣デ外國法人ガ日本ニ事務所ヲ設ケナイデ人間デ言フテ見レバ旅行ト同ジヤウニ日本ヘ一寸來タ時ナレバ宜シイガ、日本ニ於テ居所ヲ極メテ日本ノ法律ノ保護ノ下ニ働ラカウト云フノデアレバ特別ノ制裁ヲ受ケナイト働クコトガ出來ナイト云フノデ、恰モ禁治產ノ例ト同ジト思ヒマスルノデ、可笑シイト云フノハ幾ラモアルノデ、法律家ノ目カラ可笑シイト云フノハ少シ解セナイト思ヒマス
磯部四郎君
私モ修正案ニハ極ク贊成デ、現ニ吾々辯護人デモ他ノ管轄デ事務ヲ取扱ウト云フヤウナ時ハソコデ當然ノ義務ヲ負ハナケレバナラヌノデアリマス、ケレドモ客員トナツテスレバ日本中何處ヘ往ツテモ事務ヲ行フコトガ出來ル、ケレドモソコデ以テ事務所デモ置テ事務ヲ取扱ウト云フ時ニナルトソコデ以テ登録ヲセヌト出來ヌト云フヤウナモノデ、丁度夫レト同ジヤウニ思フノデアリマス
議長(西園寺侯)
決ヲ採リマセウ、之ハ建議モアリマシタガ矢張リ別ニ採ル積リデアリマス、初メノ修正案、卽チ第一項ノ修正案ニ御贊成ノ御方ノ起立ヲ請ヒマス
起立者多數
議長(西園寺侯)
多數デアリマス、夫レカラ引續テ第二項ヲ入レルト云フ修正案ニ御同意ノ御方ノ起立ヲ請ヒマス
起立者多數
議長(西園寺侯)
多數デゴザイマス、次ハ第二節ニ移リマス
(書記朗讀)
第二節 法人ノ管理
第五十三條 法人ニハ理事ヲ置クコトヲ要ス
理事數人アル場合ニ於テ定款ニ反對ノ規定ナキトキハ其管理ニ關スル事項ハ理事ノ多數ヲ以テ之ヲ決ス
磯部四郎君
一寸質問致シマスルガ、此處ニ「多數」トアリマスルノハ全體ノ過半數ト云フコトニナルノデアリマスルカ、又ハ比較多數ト云フコトニナルノデアリマスルカ
穗積陳重君
之ハ矢張リ過半數ノ積リデ書キマシタノデアリマス
都筑馨六君
質問ヲシマスガ、理事ガ其法人ノ目的以外ノコトヲシマシタ時分ニハ其議決ニ加ハツタ者ガ連帶責任ヲ負フ、其不同意ヲ唱ヘタ者迄モ矢張リ連帶責任ヲ負フノデアリマスカ
穗積陳重君
然ウデハアリマセヌ、不法行爲デアルトカ又ハ目的ノ範圍外ノ行爲デアツタナラバ其議決ニ贊成ヲシタ者丈ケデアリマス、議事ニ加ハツタト云フ丈ケノ者ハ宜シイノデアリマス
阿部泰藏君
多數ト云フコトガ只今起草委員ノ御說明ノヤウデゴザイマスレバ此多數ト云フコトハ甚ダ疑ハシイト思ヒマスルカラ過半數ト修正致シマス
磯部四郎君
贊成
穗積陳重君
若シ多數ト云フコトガ比較多數迄モ取レルト云フ考ヘデアリマスレバ私共モ過半數ノ積リデアリマスルカラ素ヨリ贊成ヲシマス、且只今梅君カラ伺ヒマスレバ商法デモ多少疑ヒガ生ジテ居ルト云フコトデアリマスカラ、然ウ云フコトガアレバ別シテ明カニ書テ置ク方ガ宜シイト思ヒマスカラ、私モ只今ノ修正案ニ贊成シテ置キマス
岸本辰雄君
一寸伺ヒマス、此理事ノ數ニ何ニカ何名以上トカ云フコトガアリマスカ見着カリマセヌガ
穗積陳重君
夫レハゴザイマセヌ、一人デモ宜イト云フコトハ第二項ノ始メノ「理事數人アル場合ニ於テ」ト云フ所カラ自ラ分カルコトデアラウト思ヒマス
箕作麟祥君
少シ錯雜スルカモ知レマセヌガ他ノ點ニ付テ伺ヒタイ、此處ニ「定款ニ反對ノ規定ナキトキハ」トアリマスルガ、先キノ五十四條五十六條等ニ於テハ「定款又ハ寄附行爲ニ反對ノ規定ナキトキハ」トアリマスガ、之ハ寄附行爲ノコトハ要ラヌノデアリマセウカ、之ハ社團法人丈ケデ財團法人ニハ要ラヌノデアリマスカ
穗積陳重君
之ハ寄附行爲ニ於テ其事ガアレバ勿論社團法人ニ數人ノ理事ノアル時丈ケヲ見タ積リデハナカツタノデアリマス、實ハ始メ吾々ガ定款ト書キマシタ所以ハ其原因ヲ申上ゲマスルト云フト寄附行爲デモ矢張リ定款ト云フモノヲ作ラセル積リデアツタノデアリマス、夫故ニ唯定款ト書キ放シテ置キマシタ、此處ハ吾々ノ見落シデアツテ御氣付キニ依テ始メテ吾々ガ其缺點ヲ悟ツタコトニナルノデ之ハ大ニ謝サナケレバナラヌト思ヒマス、夫レデ之ハ「定款又ハ寄附行爲ニ反對ノ定ナキトキハ」トシテハ何ウデゴザイマセウカ
箕作麟祥君
夫レデモ宜イデゴザイマセウ
大岡育造君
大概ノ修正ハ固ヨリ通ルコトハアリマセヌガ御相談的ノコトハ何時デモ通ルヤウデアリマス、此譯合カラ見レバ今ノ阿部君ノ案ノ「過半數」ト云フノハ多分立タウト思ヒマスガ、會社ノ創立トカ云フヤウナ株主ノ總會抔ハ成ルベク過半數ト云フヤウナ明瞭ナ文字ガ宜シイ、併ナガラ理事抔ニ於テハ成ルベク便利ヲ與ヘタイノデ、相當ノ信用ヲ得タル者又相當ノ事務官ヲ置カナケレバナラヌ、夫レガ若シ營業等ノアル爲メニ過半數ニナラヌト云フヤウナコトモアラウト思ヒマス、大勢ノ人ハ使ハナイ、理事ハ僅カニ一人カ若クハ二人カ三人デ足リルノデアラウト思ヒマスカラ之ハ矢張リ原案ノ儘デ置イタ方ガ宜シイト思ヒマス、下ラナイ屁理窟ト申シテハ失禮デアリマスガ文字ガ使ハレテアツテ現ニ市町村制抔デモ非常ニ困ツテ居ル、夫レデ之ハ理事ノコトデアリマスルカラ却テ原案ノ方ガ宜シイト思ヒマスカラ原案ヲ贊成シテ置キマス
阿部泰藏君
只今大岡君ノ御說ガアリマシタガ、商事會社抔デハ事ヲ迅速ニヤラナケレバナラヌカラ過半數ト云フヤウナコトハ誠ニ困マリマセウガ、之ハ商事會社デアリマセヌカラ過半數デモ一向差支ヘハナイ、僅カ一時間ヤ半時間位延バサレヌコトモアルマイト思ヒマス、且此文言デ多數ト云フコトハ甚ダ分カラヌト思ヒマス「出席理事ノ多數」ト云フ文字ナレバ分カリマセウガ、出席シテ居ル者モゴザイマセウシ又缺席シタ者モゴザイマセウ、夫レデ多數ト云フナレバ出席者ノ多數デナケレバ分カラヌ、唯理事ノ多數デハ分カラナイ、全體ノ理事ノ數ノ多數ト云フコトハ最モ分カラナイト云フノデアリマスカラ其點カラシテモ過半數トシナケレバナラヌト思ヒマス
村田保君
私モ矢張リ大岡君ト同ジ考ヲ持テ居ル、私抔ハ協會抔ノ事デ能ク實際ヲ知ツテ居リマスルガ、協會抔ノ理事トカ何ントカ云フ者ハ殆ド名譽職ノ者ガ多イ、義務的ニヤルノガ多イ、中々集メル事ガ出來ナイ、夫レニ是非過半數デナケレバナラヌトスルト容易ニ事ヲ決スルコトガ出來マイト思ヒマス、矢張リ原案ヲ贊成シテ置キマス
穗積陳重君
一寸村田君ニ御注意シマスガ、之ハ出席シナクテモ宜シイ、理事ノ過半數ト云フコトデアリマス
磯部四郎君
大變ニ何ンダカ分カリ切ツテ居ルコトヲ嫌ヤニ苦情ヲ付ケラレルガ、何モ之ガ名譽職デアルトカ二三ノ人ガ實務ヲ執ツテ居ルカラ多數デ宜イト云フノハ夫レコソ却テ之ハ危險デアラウト思ヒマス、夫レデ之ガ營利的ノ事業デアルト出席モ多イデゴザイマセウガ、營利的ノ事業デアリマセヌノデ、唯四五名ノ人ガ集ツテ夫レデ一人ノ意見ガ割レ二人ノ意見ガ割レ唯比較的ノ多數ト云フヤウナコトガ出來テ容易ク管理ノ方法ヲ動カスヤウナコトガアリ得ルト云フコトヲ恐レマスカラ夫レデ「過半數」ト云フコトガ必要ニナツテ來ル、殊ニ起草委員ニ於テモ贊成ノコトデアリマスカラ吾々共ノ喋々ヲ要セズ「過半數」ガ成立ツコトト思ヒマス
土方寧君
「過半數」トスルト云フコトノ修正案ニ付テハ起草委員ノ贊成ガアリマシタカラ或ハ通リハシナイカト思ヒマスガ、私モ原案ノ通リニ願ヒタイ、唯斯ウ多數ト書テアルト出席シタ、シナイニ拘ハラズ理事ガ五人アレバ三人丈ケ贊成スレバ多數ニナル、又三人ノ時ナレバ二人丈ケ、夫レデ其出席ノ有無ニ拘ハラズニスルノガ營利ヲ目的トシナイ法人ノヤウナモノニ取ツテハ宜シイト思ヒマス、然ウ云フ趣意デ原案ヲ贊成シマス
議長(西園寺侯)
隨分之ハ議論ガ澤山出マシタカラ決ヲ採リマセウ、如何デゴザイマセウ、定款ノ下ニ「又ハ寄附行爲」ト云フコトヲ入レルト云フノモ矢張リ決ヲ採リマセウカ
(此時「決ヲ採ルニ及バヌ」「異議ナシ」ト呼ブ者多シ)
議長(西園寺侯)
夫レナレバ夫レハ可決ト認メテ採決ヲ致シマセヌ、夫レデハ「多數」ト云フノヲ「過半數」ト云フコトニ改メルト云フ說ニ贊成ノ諸君ノ起立ヲ請ヒマス
起立者少數
議長(西園寺侯)
少數デゴザイマス、他ニ御發議ガナクバ次ノ五十四條ニ移リマス
(書記朗讀)
第五十四條 理事ハ總テ法人ノ事務ニ付キ法人ヲ代表ス但定款ノ規定又ハ寄附行爲ノ趣旨ニ違反スルコトヲ得ス又社團法人ニ在リテハ總會ノ決議ニ從フコトヲ要ス
穗積八束君
一寸些々イナ文字ノ質問デアリマスガ承リタイ、此處ニ「法人ヲ代表ス」ト云フコトガ書テアリマスガ、此代表ト云フ辭ハ、此法律上デハ成丈ケ同ジ意味ノコトハ同ジ文字デ御書キニナルト云フ御趣意デアリマセウガ、之ヲ「代理ス」ト云フ辭ニ書クト何カ意味ガ違ウト云フノデゴザイマセウカ、外ノ所デハ「代理」ト書テアツテ此處ハ「代表」ト書テアリマスガ、夫レハ何カ違ウト云フ御趣意ニナルノデアリマスカ、モウ一ツハ「定款ノ規定又ハ寄附行爲ノ趣旨ニ違反スルコトヲ得ス」、夫レカラ又下ニ「總會ノ決議ニ從フコトヲ要ス」トアルガ、之ヲ唯直接ニ書キ放シテ見ルト「定款ノ規定寄附行爲ノ趣旨又ハ總會ノ決議ニ背クコトヲ得ス」トシテモ宜イト思ヒマスルガ、斯樣ニ殊更ニ一方ニ「得ス」ト書キ一方ニ「要ス」ト云フヤウニ分ケテ書カレタノハ何カ理由ガアツテ御書キ分ケニナツタノデゴザイマセウカ、モウ一ツハ先刻都筑君ガ質問セラレタコトデアリマスルガ前ノ四十六條ニ置キマシテ法人ノ目的以外ノコトヲ爲シタ時ニハ夫レヲ贊成シタ理事社員ノミガ連帶責任ヲ負フト云フコトガ規定サレテアリマスルガ、併シ此處デ總會ノ決議ニハ必ズ從ハナケレバナラヌト云フモノデアルトシタナラバ縱令其決議ニ不同意デアル理事デモ自分ノ意思デナイコトヲ履行シナケレバナラヌト云フコトニナラウ、然ウシテ其法律上ノ義務ハ夫レニ贊成ヲシタ者丈ケ責任ヲ持ツト云フコトニナルト何ンダカ可笑シイヤウデアリマスルガ、如何デゴザイマセウ、右ノ三點ニ付テ御答ヘヲ願ヒマス
穗積陳重君
只今ノ第一ノ點カラ一ツ一ツニ御答ヘヲシマス、第一ノ點ノ「代表」ト云フ辭ヲ使ツテ他ノ所デハ「代理權」トカ云フ辭ガ使ウテアル、殊更ニ此處ニ「代表」ト云フ字ヲ使フタノハ何カ意味ガアルカト云フ御質問デアリマシタガ、此處デハ「代理」ト云フ文字ガ使ヘヌト思ヒマシテ殊更ニ斯ウ「代表」ト書イタノデアリマス、代理スルト云フト事務ヲ代理スルコトデナケレバ使ヘナイ、人ヲ代理スルト云フコトハ略シタ辭デアツテ至當デナイ、人ノ資格ヲ代ハツテ外ニ現ハス時ニハ代表トシタ方ガ宜シイト云フノデ殊更ニ「代理」ト書カズニ「代表」ト書イタノデアリマス、又第二ノ點デ「定款ノ規定又ハ寄附行爲ノ趣旨竝ニ總會ノ決議ニ從フコトヲ要ス」ト斯ウ書キ下ダシテモ宜ササウデアルニ夫レヲ二段ニ書キ分ケテアルノハ何ウ云フ譯デアルカト云フ御問ヒデアリマシタガ、夫レハ二ツノ理由ガアルノデアリマス、其一ツハ理事ノ行爲ヲ禁止シタ方デ一ツハ命令シタ方デ事柄ガ違ウカラ斯ウ別ニ書分ケタ方ガ明カニナルト云フ理由ガ一ツ、今一ツノ理由ハ「總會ノ決議ニ從フコトヲ要ス」ト云フノハ社團法人ノ理事丈ケニ當ル事柄デアリマスルカラ書分ケタノデアリマス、此二ツノ理由デ斯ウ云フ文章ニ書イタノデアリマス、夫レカラ第三ノ點デアリマスルガ、此處ニ「社團法人ニ在リテハ總會ノ決議ニ從フコトヲ要ス」ト書テアルト云フト法人ノ目的ノ範圍外ノ事ノ議決デモ從ハナケレバナラヌト云フヤウニナルデハナイカト云フ御說デアリマスルガ、夫レハ私共ニ於テハ法人ノ働キト云フモノハ素ヨリ目的ノ範圍内デナケレバ出來ヌト云フコトハ四十五條デ明カデ、法人ノ目的ノ範圍内ノミノ事デナケレバ其本統ノ議決デナイ、不正當ノ議決、越權行爲ヨリ生ズル所ノ議決ニ從フコトヲ要スト云フコトハ這入ラヌノデゴザイマセウ、他ノ場合ニ於テモ「命令ニ從フコトヲ要ス」ト書キマシテモ其命令權ノ範圍内デナケレバ從フコトヲ要セヌト解セナケレバナラヌノデアリマスカラ、本條ニ「決議ニ從フコトヲ要ス」トアルノハ其範圍外ノ決議ニ迄從フコトヲ要スト云フ意味デハナイノデアリマス
穗積八束君
モウ一遍御說明ヲ煩ハシタイ、只今ノ御說明ニ依ルト「代表」ト云フコトハ「代理」デハ徃ケナイ、此處ハ「代表」デナケレバ往ケヌト云フコトデアリマスガ、此處ニ御書キニナツタ理由書ニ依ルト「理事ハ法人ノ法律上ノ代理人ニシテ」云々ト云フコトガアリマスカラ理事ハ矢張リ無論代理人ト云フモノデアラウト思ヒマスガ、然ウシテ人ヲ代理スルト云フコトガ何ンゾ酷ク御耳障リニデモナルノデゴザイマセウカ、私ニハ能ク其御趣意ガ分カリマセヌガ、若シモ夫レガ文章ニ障ラヌコトデアレバ此處モ矢張リ理事ハ法律上ノ代理人デアレバ「代理」ト御書キニナツタ方ガ宜シクハアリマセヌカ、「代表」ト云フコトハ公法抔ニ往々書テアツテ、公法抔デハ「代理」ト「代表」トハ違ウト云フ論ガアリマスルガ、決シテ然ウ云フ意味デ斯ウ云フヤウニ御書キニナツタノデモアリマスマイト思ヒマスルガ、皆さんハ如何デアリマセウカ
穗積陳重君
只今ノハ皆さんニ御問ヒニナツタノデアリマスカ
穗積八束君
起草委員及ビ全體ノ御方ニ伺ツタノデアリマス
穗積陳重君
夫レデハ御答ヘヲ致シマスルガ、此代理人、代理權ト云フト其事柄ヲ代ハツテスル、卽チ代ハツテ事務ヲ理ムル權、斯ウ云フコトデアラウト思ヒマス、人ヲ代理スルト云フ辭ハ通常ハ用ヰマスガ委シク言ヘバ人ノ事務ヲ代理スルト云フコトデアツテ人ヲ代理スルト云フコトデアツテハ理ノ字ガ少シ當ラヌヤウニ思ヒマス、併シ若シ當ルト云フコトデアレバ修正案ヲ御出シ下サツテモ宜シイ、尙ホ又「代理」ト云フ文字ノ御說明ヲ下サレテモ宜シイ
末延道成君
商法ノ方ニモ「代理」ト云フコトガアリマス、理事ト云フ者ハ單數モ複數モ含マレテ居リマスルガ、例ヘバ理事ガ九人アル時デモ一人デモ代理スルコトガ出來マスカ、又六人アル時ニ一人デモ代理スルコトガ出來ルト云フコトデアリマセウカ、商法ニハ三名以上デナケレバナラヌト云フ制裁ガアリマスガ、私共ノ考ヘデハ一人デハ代理スルコトガ出來ナイト思ツテ居リマスガ、之デハ矢張リ定款デ三名ト極メテアレバ其三名ノ中ノ一人デ代理スルコトガ出來ルト云フ御積リデゴザイマセウカ、其邊ハ如何デゴザイマセウ
穗積陳重君
御答ヘヲ致シマス、理事ト云フ者ハ法人ニ依テ一人デアリマスルモノモアリマスルシ又ハ數人ヨリ成立ツモノモアルノデアリマス、夫故ニ此理事ト云フ者ハ一體デ法人ヲ代表スルモノデアル、一體デ法人ノ事務ヲ代理スルモノデアル、斯ウ云フ考ヘデアリマス、夫故ニ數人アルトキニハ理事ガ皆ンナ相談シテ始メテ其管理事務ヲ行フコトガ出來ルト云フ趣意デ五十三條ガ出テ來タノデアリマスカラ、私共ノ考ヘデハ矢張リ數人ガ一體ヲ爲ス、斯ウ見テ居リマスル、謂ハバはしるどばいれツどト云フヤウナ字ヲ外國デモ使ツテアリマス、此處モ一體ヲ爲スノガ通例ノヤウニ思ヒマス
穗積八束君
今一應申シマスガ、「代表」ト云フコトト「代理」ト云フコトト大層違ツタコトガアレバ尙ホ說明セヨト云フ反問デアリマシタガ、夫レハ多少アルコトデハアリマスルガ、夫レハ調査會問題デナク大學校問題カモ知レマセヌガ、委シイコトハ申シマセヌ、夫レハ法人夫レ自身ガ意思ヲ持ツテ居ルモノデアルト云フ說ト法人ハ元來無意思ノ者デアル、卽チ他人ノ意思ヲ以テ補フ者デアルト云フ說、此二ツアルコトハ勿論デゴザイマセウ、夫レガ爲メニ例ヘバ公法上ノ團體ニ至ツテハ、例ヘバ町村會ガ町村ノ意思、町村ノ意思ヲ代表スト云ヒマスルト之ハ代理人デナクシテ其町村會トカ何ントカ云フモノガ卽チ其法人ノ意思機關デアル、他人ガ代表スルノデナクシテ其意思ガ法律上其町村ノ意思デアル、代理ト云フ關係ハ人ト人トノ間ニアリマス、ケレドモ町村ト町村會トノ間ニハ人ト人トノ關係デナクシテ町村會決議ノ意思ガ卽チ町村ノ意思デアルト云フ時ニ「代表」ト云フ文字ヲ用ヰルト思ツテ居リマス、夫レデ若シ理事ト云フ者ガ其法人ノ意思機關デアツテ其機關ガ理事ノ意思デアルト云フコトデアレバ其間ニ法律行爲ヲ以テ代表スルト云フノデナイト云フ意味デアリマスカラ「理事ハ法人ヲ代表ス」ト云フ辭ガ當ツテ居ルカモ知レマセヌガ、若シモ法律上ノ代理人デアルト法人ニ意思ガナイカラ理事ノ意思ヲ以テ法人ヲ代理スルト云フノデアルカ疑ヒガ起ル、夫レデ私ハ之ヲ「理事ハ總テ法人ノ事務ニ付キ法律上ノ代理人トス」ト云フコトニ修正シタイト思ヒマス
末延道成君
代理ト改メルコトニ贊成致シマス
議長(西園寺侯)
贊成ガアリマシタカラ決ヲ採リマス、只今ノ穗積君ノ案ニ贊成ノ方ノ起立ヲ請ヒマス
起立者少數
議長(西園寺侯)
少數デゴザイマス、此條ハ最早充分議ヲ盡シタト思ヒマスルガ、他ニ御發議ガナクバ次ノ條ニ移リマス
(書記朗讀)
第五十五條 理事ノ代理權ニ加ヘタル制限ハ善意ヲ以テ之ト取引ヲ爲シタル第三者ニ對シテ其效ナシ
奧田義人君
私ハ文字ノ修正デアリマスルガ、此處ニ「善意ヲ以テ之ト取引ヲ爲シタル」云々トアリマスルガ、「之ト」ト云フ字ヲ除イテ仕舞ツテ「善意ヲ以テ取引ヲ爲シタル」云々トシタラ宜カラウト思ヒマス、「之ト」ト云フト何ウモ「代理權ニ加ヘタル制限」トナツテ居リマスルカラ何ンダカ制限ト取引ヲスルヤウニ見エマス、夫レデ「之ト」ト云フ字ハ省ク方ガ宜カラウト思ヒマス
都筑馨六君
今ノ奧田君ノ說ニ贊成スルト同時ニ尙ホ質問致シマスルノハ、此五十五條ハ隨分日本ニ取ツテハ餘程危險ナ條デハナイカト思ヒマス、成程商事會社トカ其他營利ヲ目的トスル會社デアツテ見レバ第三者ヲ保護スル爲メニハ是非斯ウ云フ規定ガ必要ト思ヒマスガ、然ルニ此處ニ吾々ガ論ズル法人ハ營利ヲ目的トスルモノデナクシテ或ハ慈善或ハ宗教抔ニ關スルコトヲ目的トスルモノデアツテ見ルト、其取引ニ至ツテモ餘リ大キナ取引モゴザイマスマイシ、又此中ニハ信用組合ノ如キモノモアリ、或ハ秋田ノ觀音講ノ如キモノモアリ、或ハ報徳講ノ如キモノモゴザイマセウ、是等ノモノ又ハ貧民ヲ救濟スル爲メノ法人抔モ總テ這入ツテ來ルト思ヒマス、貧民ヲ貯蓄ニ依ツテ然ウシテ其災害ニ遇ツタ貧民ヲ救フト云フヤウナ會社モ這入ツテ來ヤウト思ヒマス、所デ此法人ヲ代表スル所ノ理事ガ職務ヲ行フニ際シテノ責ニ付テハ法人ガ其責任ヲ持ツ、犯罪ヲ犯シテモ法人ガ其責任ヲ持ツト云フヤウニ前ノ方ニ規定シテアルト、此處デ「善意ヲ以テ之ト取引ヲ爲シタル」云々トスルト、幾ラ定款デアレ何ンデアレ制限ヲ加ヘテモ其制限ハ無效デアルト云フ原則ヲ設ケテ、總テ理事ガシタコトニ付テハ法人ヲシテ其責任ヲ負ハセルト云フヤウナルコトハ最前申上ゲマシタル所ノ慈善抔ヲ目的トスル法人ニ取ツテハ隨分危險デハアリマスマイカ、例ヘバ明治十年ノ太政官布告四十三號ト覺エテ居リマスガ、是抔ニモ旣ニ法律ニ依テ一定ノ規則ニ從ハザル所ノ取引、卽チ一定ノ規則ニ從ハズシテ社寺ヲ代表スル所ノ取引抔ハ總テ其取引ガ無效ニナツテ居リマス、然ウ云フヤウナ規定ヲ定款ナリ何ナリニ設ケテ之ヲ公ニ登記ナリ何ナリ經マスレバ有效ナラシメルト云フコトニシタ方ガ、今日ノ如キ報徳講トカ觀音講トカ云フ如キモノガアツテ正直ナ田舎者ヲ相手ニシテ居ル今日デアル以上ハ此處ニ掲ゲテアル所ノ原則ハ少シ早過ギハシナイカト云フ疑ヒヲ持ツテ居リマスガ、起草委員ノ御考ヘハ如何デゴザイマセウカ、此理由書ノ中ニモ三ツノ理由ガ書テアツテ其中ノ第一カト思ヒマスガ、其方ノ原則ヲ採ツタ方ガ或ハ適當デハナイカト思ヒマスガ、併シ專門ノコトデモアリマセヌカラ修正ヲ出ス勇氣ハアリマセヌガ、起草委員カラ充分御辯明ヲ承リタイノデアリマス
穗積陳重君
只今ノ御質問ニ對シテ申シ上ゲテモ理由書ニ書テアル通リデ是ヨリ外ニ說明ハ出來マセヌカ知リマセヌガ、此代理權ニ加ヘタ制限ヲ登記ヲシタモノハ總テ有效ト云フコトニナルト、法人ヲ保護スルコトニ付テハ厚クナルガ第三者ニ對シテハ保護ガ薄イト云フコトニナツテ來ル、卽チ第三者ガ法人ト取引ヲスルニ付テハ一々登記簿ヲ檢メナケレバナラヌト云フコトニナル、一々登記簿ヲ檢ベルト云フヤウナコトハ餘程大キナ取引デナケレバ實際斯ノ如キ注意ヲ爲ス者ハナカラウト思ヒマス、夫故ニ善意ヲ以テ、卽チ其制限ヲ知ラズシテ理事ト云フ者ハ總括代理ノ權限ガアルモノト信ジテ取引ヲシタ者丈ケヲ保護スレバ夫レデ宜カラウ、斯クノ如クスルコトガ却テ日本今日ノ實際ノ有樣デハアリハシナイカト思ヒマス、先刻ノ御質問ノ御趣意ニ依ルト、成ル丈ケ御質問ノ趣意ヲ貫クヤウニスレバ理事ノ代理權ニ加ヘタ制限ト云フモノハ書カヌヤウニスルカモ知レマセヌ、然ウスルト其法人ト云フモノハ丸デ第三者ヲ欺ク位ノコトニナル結果ヲ生ズルカモ知レマセヌ、或ハ一方ニ於テハ法人ト云フモノノ取引、働キト云フモノガ餘程窮屈ニナツテ來ルト云フコトモゴザイマス、夫レデ之ガ中央ノ所デ穩カデアルト思ツタノデアリマス
磯部四郎君
一寸此善意ノ程度ノコトデアリマスルガ、此程度ハ唯代理權ノ制限ヲ知ラナカツタト云フ丈ケデ何ンナ事ヲシテモ今日矢張リ其狀ヲ知ラナカツタナラバ悉ク善意ト云フ程度ニ這入ルノデアリマスカ、又例ヘバ普通ノ所カラ見レバ其理事ノ卽チ職權内ニアルベキコトデアル、左リナガラ特別ニ是丈ケノ制限ヲ加ヘタモノデアルカラ要スルニ知ラナカツタノハ尤モデアルト云フ位ノ所デアリマセウカ、卽チ其取扱フタ事務ノ性質ガ其理事ニ於テ其權利ヲ以テ居ルノガ普通デアルガ夫レヲ特別ニ制限ヲシタカラ夫レヲ知ラナイノモ尤モト云フ位ノ善意デゴザイマセウカ、其善意ノ程度ガ極ク狹イ御見解デアリマセウカ、何ウデゴザイマセウカ
穗積陳重君
此處ニ「善意」ト書イタノハ制限アルコトヲ知ラズシテト云フヤウニ廣イ方ノ意味ニ書イタノデアリマス、私共ノ考ヘニハ特別ニ注意アル善意、大概ノ人ハ知リ然ウナ事ヲ夫レヲ知ラナカツタモノハ善意デナイト云フヤウナ事迄ニ進ムコトハ之ハ明文カ又ハ法令ノ精神ガ特別ニ要ルト思ヒマス、唯善意ト云フコトニ解釋シテ居リマス
磯部四郎君
夫レデアリマスルト隨分只今都筑君ノ御話シニナツタヤウナ危險ガアラウト思ヒマス、元來此度ノ法律ノ定メ方ガ管理行爲ハ一般ノ普通規則モアリマセヌシ、第五十三條ニ依ルト管理行爲ノ事項ハ理事ノ多數ニ依ルトナツテ居リマスルガ、動モスレバ理事ト云フ者ハ其財產ヲ處分スル權利モ實際ニアルシ、又純然タル慣習丈ケニナツテヤツテ居ルト云フモノモゴザイマセウ、其場合ニ詰リ其社團ナラ社團ノ性質ヲモ辨ヘズ普通ノ範圍カラ見レバ範圍外ニ渉ルベキヤウナ事柄、其制限ヲ知ラズシテヤツタモノヲ尙ホ善意ノ取引ト看做シテ其社ニ責ヲ負ハセルト云フコトニスルト餘程法人ノ責任ガ廣クナツテ只今都筑君ノ御話シニナツタヤウナ危險ナコトニナルト云フ嫌ヒガ生ジヤウト思ヒマス、夫レデ私モ何トカ一寸修正シタイト思ツテ修正案ヲ今考ヘテ居リマスルガ、普通ノ善意ヲ以テト云フコトハ、事實ノ認定デハアリマセウガ、然ウ云フ廣イ意味ニ取ラレルノデアリマスネ、然ウスルト詰リ此理事ノ權限ハ是丈ケノモノデアルト云フコトヲ知ラズニヤツタ以上ハ何ヲヤツテモ詰リ會社ノ責任ニ歸スルト云フノデゴザイマセウカ、法律デ許ス法律行爲、權利行爲デアレバ理事ノ權内ニアラウトナカラウト其權内ニアルナイト云フコトヲ知ラズシテヤツタ時分ニハ總テノコトガ社ノ責任ニ取ツテ有效デアルト云フ論結ニナルノデゴザイマセウカ
穗積陳重君
斯ウ云フコトニナリマセウ、總テ法人ノ事務ニ付テ法人ヲ代表スト云フ文章ガ前條ニアリマス、然ウスルト理事ハ總テノ代理權ヲ持テ居ルト見ナケレバナラヌ、併ナガラ其理事ノ代理權ニ制限ガアル、卽チ其事務ノ範圍内ニ於テノ制限、其制限ヲ知ラズシテ取引ヲ爲シタ者ニ對シテハ效ガアルト云フコトニナラウト思ヒマス
磯部四郎君
詰リ第二節ニ「法人ノ管理」ト云フ事ガアリマスカラ管理ノ事ニ付テデアル、然ル所段々伺ヘバ然ウ云フ次第柄デアリマスカラ、私ハ此五十五條ト云フモノハ前ノ四十六條ガアリマスレバ同ジモノト思ヒマスルカラ削除セラルベキモノト云フ考ヲ持テ居リマスカラ削除案ヲ提出致シマス、其理由ヲ述ベマスルガ、元來今迄此代理人ノ權限ノ事ニ付テ是迄代理ヲサセテ置タ、然ル所突然其代理ノ任ヲ解イタト云フガ如キ場合、第三者ガ其代理ノ任ヲ解カレタト云フ事ヲ知ラズシテ從來ノ如ク代理者ト認メテ契約ヲシタ時ニハ本人ガ其責ニ任ズルト云フガ如キ事ハ豫テ聞テ居ル、夫レデ此處ノ如キハ此前ニハ卽チ定款ト云フモノモアルシ又寄附行爲ノ趣旨ト云フ事モゴザイマス、是等ノ事ガ一旦定マツテ居ツテモ獨リ此定款ノ規定ト云フモノガアル、此定款ノ規定ト云フモノガ是迄アツテ、夫レヲ途中カラ總會ノ決議ガ何カデ變更シテ、定款ノ規定内ノ許ス限リデ行用シテ居ツテ其前ノ定款ノ規定ヨリモ後カラ其定款ノ規定ヲ變更シテ爲メニ理事ノ代理權ヲ制限サレタ、其前ノ定款ガ支配スル位ノ善意ナレバ原案デモ差支ナイト思ヒマスガ、只今起草委員ノ御說明ヲ承ツテ見マスレバ、兎ニ角法人ト契約ヲスル者ガ其法人ノ理事ハ如何ナル權利ヲ持ツテ居ルヤト云フコトデナク、兎ニ角此理事ハ總ベテ是丈ケノ取引ヲスル權限ノアル者ト認メテ取引ヲシタ時ニハ何時デモ總テ其責任ヲ法人ガ負フト云フコトニナルト第三者ヲ保護スルノ厚キニ失シテ法人其者ノ保護ヲ顧ミザルコトニナルヤウニ思ヒマスル、夫レデ私ハ此五十五條ヲ御削除ニナツテモ前ノ四十六條ノ法文デ以テ第三者ヲ保護スルニ充分足リルト思ヒマスカラシテ本條ノ削除說ヲ提出致シマス
山田喜之助君
一寸質問ヲ致シタイ、或ハ私ノ誤解カモ知レマセヌガ、英吉利ノ法律ニ依ルト斯カル法人ト取引ヲスル者ハ定款ノ規定ヲ知ラナケレバナラヌヤウニ心得テ居リマスガ、若シ私ノ誤解デアリマセヌトスルト、此處ニ三ツ理由ガ掲ゲテアリマスガ、此外ニモウ一ツ說ガアルト云フコトヲ申シタイノデアリマス、ソコデ私ノ質問ヲシタイノハ理事ノ代理權ト申シマスルト云フト明白ナヤウデアリマスルガ、之ハ實際餘程六ケ敷イコトデアラウト思ヒマス、斯カル法人ノ理事ハ當然何ウ云フ代理權ヲ持テ居ル、又斯カル法人ノ理事ハ當然何ウ云フ代理權ヲ持テ居ルト云フコトヲ知ルノハ餘程六ケ敷イモノデアラウト思ヒマス、此法律上理事ノ代理權ハ何ウ云フ種類カ、甲ノ種類ノ法人ナレバ斯ウ云フ代理權ヲ持テ居ル、又乙ノ種類ノ法人ナレバ斯ウ云フ代理權ヲ持テ居ル、又丙ノ種類ノ法人ナレバ斯ウ云フ種類ノ代理權ヲ持テ居ルト云フコトヲ知リマセヌナレバ夫レニ加ヘテアル制限ヲ明カニ知ルコトモ中々六ケ敷イコトトナラウト思ヒマス、之ハ起草委員ノ方デハ理事ノ代理權ト申シマスレバ隨分明瞭ニ今日ノ法學ノ進歩ニ於テ甲ノ種類ノ法人ナレバ是程ノ代理權ヲ持テ居ルトカ、乙ノ種類ノ法人ナレバ是程ノ代理權ヲ持テ居ルトカ、或ハ學術技藝ノ法人デアレバ是丈ケノ代理權ヲ持テ居ルトカ、慈善ノ法人ナレバ是丈ケノ代理權ヲ持テ居ルトカ、今日ノ法學ノ進歩ニ於テ是丈ケノコトガ定ツテ居ルカト云フコトヲ承リタイ、現ニ英吉利ノ裁判例抔ノコトヲ考ヘルト、理事ト云フ者ノ當然ノ代理權ト云フモノニ付テハ餘程爭ヒノ起ツテ居ルコトト思ヒマスカラ、其御答ヘヲ願ツテ置テ、其御答ヘニ依テハ或ハ修正案ヲ出サウト思ヒマス
穗積陳重君
今日ノ學術ノ進歩ノ有樣ニ依テ各種類ノ法人ノ各理事ノ權限ガ明カニナツテ居ルヤ否ヤト云フコトガ御質問ノ要點デアルヤウデアリマスガ、固ヨリ御承知ノ通リ、一ツ一ツノ法人ノ事業ノ性質ニ依テ其實際ノ代理權ガ違ツテ居ツテ學問上一定ノ標準ガアルト云フコトハ言ハレナイト思ヒマス、唯此一事丈ケハ斷言ガ出來ヤウト思ヒマス、法人ノ理事ハ諸國ノ法制ニ於テ其多數ハ總括代理、其目的ヲ貫クニ必要ナル事業丈ケハ悉クスル權利ガアルト云フ事丈ケハ定マツテ居ルト思ヒマス、夫レヨリ細カイコトハ定マツテ居ルト云フ程ニハ言ヘマイト思ヒマス
都筑馨六君
最前磯部委員カラ之ヲ削除スルモ尙ホ四十六條ノ方デ充分デアルト言フ御說デ一寸疑ヒヲ起シマシタガ、此五十五條ト云フモノハ勿論之ハ何ンデゴザイマセウ、私ハ斯ウ解シテ居ルノデアリマスガ、四十六條ノ場合トハ違ツテ此場合ハ其法人ノ目的ノ範圍内ノ事項、其範圍内ノ事項ヲ爲スニ付テ特ニ其代理權ニ加ヘタ制限デアル、ソコデ其時ハ此五十五條ガアルガ爲メニ惡意ヲ以テ取引ヲシタ者ハ其法人ニ迷惑ヲ掛ケナイト云フ意味ガ加ハルヤウニナルト思ヒマスガ
穗積陳重君
其通リデアリマス
山田喜之助君
夫レデハ私ハ修正說ヲ出シマス、「定款又ハ寄附行爲ノ制限以外ニ」云々ト云フヤウナコトヲ一番始メニ入レタイト思ヒマス、其理由ハ此五十五條ハ隨分能ク出來テ居ルケレドモ之ハ寧ロ第三者ノ保護ニ過ギテ居ル傾キガアリハシナイカ、民法上ニ於テハ總テ此事ニ限ツタコトハゴザイマセヌ、單ニ是ノミデゴザイマスルト云フト、代理權ニ制限アルコトヲ知ラナイト云フ事實ノミヲ以テ看做サルルト云フコトハ磯部委員ニ對スル御說明デ分カリマシタガ、本案ノ如クスルト多クノ取引ヲスル者ノ保護ハ行屆イテ居リマスルガ法人ノ保護ハ行屆イテ居ラヌト思ヒマスル、付テハ取引ヲスル者ヲ保護スルコトモ必要ト思ヒマスルガ、各學術團體トカ何ントカ云フヤウナモノハ最モ法律上ノ保護ヲ要スル團體デアリマスルカラ此者ヲモ保護スルコトガ必要ト思ヒマス、故ニ定款又ハ寄附行爲ヲ以テ制限ヲ加ヘマシタナラバ之ト取引ヲスル者ハ社會公衆ノ爲メニ其義務ヲ負ハセテ宜シイト思ヒマス、若シ然ウ云フコトニ理事ノ爲メニスルト慈善學術トカ云フ團體ハ成立ツコトガ出來ナイト云フコトニナラウト思ヒマス、夫故ニ前ニ申上ゲタヤウニ修正シタイト思ヒマス、卽チ定款又ハ寄附行爲ヲ以テ制限ガ加ヘテアレバ之ト取引ヲスル人ハ遵奉シナケレバナラヌ斯クノ如ク致シマスルト云フト或ハ法人ヲ保護スルニ過ギテ之ト取引ヲスル者ノ保護ヲ失スルト云フヤウナ疑ヒガ起ルカモ知レマセヌガ其疑ヒハ不必要ト思ヒマス、凡テ法人ト取引ヲスルナレバ其取引者ハ兎ニ角其代表者ノ資格ヲ取調ベルト云フ義務ガアラウト思ヒマス、例ヘバ山田喜之助君ノ代理者ナレバ其代理者ト取引ヲスル者ハ代理者タル者ノ資格ニ付テ夫レ丈ケノ注意ヲシナケレバナラヌ、卽チ今日一個人ノ場合デゴザイマシテモ代理者ト取引ヲスル者ハ其代理者ノ代理資格ヲ取調ベル義務ガアリマス、不幸ニシテ代理者ノ權限外ノ事ヲ取引ヲシタナラバ其取引ヲシタ者ニ夫レ丈ケノ責ガアル、個人卽チ一個人ニシテモ然ウデアリマス、殊ニ法人デアリマスレバ之ト取引ヲスル人ハ詰リ夫レ丈ケノ注意ヲスルコトガ必要デアル、例ヘバ現ニ幼者ト取引ヲスル者ハ他ノ成年以上ノ人ト取引ヲスルトハ違ツテ、幼者ト取引ヲスルナレバ其者ニ幼者ヨリ尙ホ夫レ丈ケノ重キ責任ガ持タセテアル、又婦人ト男子ト取引ヲスル時ハ矢張リ男子ノ方ニ夫レ丈ケ重キ責任ガ持タセテアリマス、之ト同樣ニ此處ノ法人、卽チ學術團體トカ慈善團體トカ云フモノニ向ツテハ幼者及ビ婦人ト同樣ニ保護シテヤラナケレバナラヌト考ヘル、夫レ故ニ定款又ハ寄附行爲ヲ以テ理事ノ代理權ニ制限ヲ加ヘタナレバ是等ノモノハ法人ヲ相手ニ取引ヲスル人ガ取調テ取引ヲスルヤウニスルガ宜シイト思ヒマス、或ハ一方カラ言ヘバ定款トカ何ントカ云フヤウナモノデ不都合ナ制限ヲシテ居ルカモ知レヌト云フヤウナ議論ガアルカモ知レマセヌガ、之ハ旣ニ定款トカ何ントカ云フモノハ法人ガ拵エタラ直グニ效力ガアルノデハアリマセヌ、監督官廳ノ許可ヲ請ハナケレバ定款ガ成立チマセヌ、若シ定款ニ無理ナ制限トカ何ントカ云フコトガシテゴザイマシタナレバ監督官廳ガ夫レヲ許サナイニ違ヒナイ、夫レデ先ヅ定款ニ出テ居ルコトナレバ正當ノ制限ガ出來テ居ルモノト見ナケレバナラヌ、然ウスレバ定款ニ依テ理事ノ代理權ニ制限ヲ加ヘラレタルモノハ先ヅ正當ニ出來テ居ルモノト見ナケレバナラヌ、夫レデ私ハ斯カル場合ニ於テどちらヲ保護スルカ、其保護ハどらちニ傾クカナレバ寧ロ取引者ノ保護ニ傾クヨリモ法人ノ方ヲ保護スル方ニ傾クガ至當ト思ヒマシテ修正說ヲ出シタノデアリマス
磯部四郎君
更ニ伺ヒマスルガ、先キノ第二段ノ御答ヘニ依ルト目的ノ範圍外ニナル行爲ニ付テモ尙更ニ加ヘタル制限ガアルトシテ其制限ヲ知ラヌ者ニハ效力ハナイト斯ウ云フ意味デアリマスガ、然ウスルト此善意ト云フコトハ兎ニ角目的以外ノ事柄ヲヤツタ時分ニ目的以外ノ事柄デアルト云フ事實ヲ知ラヌデ約束ヲシタ者ハ此五十五條ノ所謂善意ノ中ニハ這入ラヌト云フコトデアリマスルカ
穗積陳重君
固ヨリ先刻此事ニ付テ御答ヘシマシタ通リニ御述ベデアリマシタガ、修正案トシテ削除說ヲ御出シニナリマシタガ、夫レニ贊成デモアリマシタナレバ陳ベヤウト思ヒマス
磯部四郎君
實ハ然ウ云フ狹イ意味ノ善意ト云フコトガ何處カニ見エル處ガアレバ宜シイ、敢テ削除說ヲ提出スルノデハアリマセヌガ、唯此處ニ「理事ノ代理權ニ加ヘタル制限」云々トアリマシテ、丁度今山田委員カラ提出ニナツタヤウナコトニデモナラヌト唯「理事ノ代理權ニ加ヘタル制限」ト云フノハ代理權ヲ定款ヤ寄附行爲ヲ以テ加ヘラレマシタ制限ニモ當嵌ルコトデアルヤラ、又四十六條ノ如ク此法人ノ職務ヲ行フ時ニ其職權上ノコトニ定款等ヲ以テ加ヘラレタ制限モ同ジク此五十五條ノ制限中ニ這入ルモノカ、其制限ヲ知ラズニヤツタモノハ矢張リ其制限ハ效ヲ持タナイト云フヤウナ意味ニナリマスルカラ、私ハ修正說ヲ提出スル勇氣ハゴザイマセヌガ、然ウ云フ廣イコトデゴザイマスレバ寧ロ四十六條ガアルカラ此方ハ御削除アランコトヲ望ミマス
議長(西園寺侯)
あなたハ削除ノ理由ニ付テ再ビ御述ベニナルノデアリマスカ
磯部四郎君
全ク然ウ云フ譯デモアリマセヌ、此制限ガ極ク狹イ、普通ノ代理權ヨリモ尙ホ一層更ラニ加ヘタ制限ト云フコトヲ知ラナカツタト云フ位ノ善意ト云フコトデアリマスレバ私ハ敢テ削除說ヲ提出スルノデモアリマセヌガ、今然ウデナイト云フコトデアリマスカラ夫レガ何處デ見エルカト云フコトヲ質問スルノデアリマス
穗積陳重君
御答ヘ致シマス、夫レハ五十四條ノ第一項カラ出テ來タコトデアツテ、五十四條ニ始メテ理事ノ權限ガ出テ居リマス、「理事ハ總テ法人ノ事務ニ付キ法人ヲ代表ス」トアリマスルト、法人ノ事務ト中シマスルト固ヨリ法人ノ目的ノ範圍内ノ事務デアル、其法人ノ總テノ目的ノ範圍内ニ於テ制限ヲ加ヘテアル場合、夫レデ「總テ法人ノ事務ニ付キ法人ヲ代表ス」ト云フノデアリマスカラ四十六條ト少シ違ウヤウニ思ヒマスルガ、願クバ之ハ何ウカ御動カシニナラヌヤウニ願ヒマス
磯部四郎君
私ノ削除說ハ矢張リ繼續致シマス
關直彦君
山田委員ノ御說ノ意味丈ケデモ宜シイ御質問致シタイガ、定款及ビ寄附行爲ニ依テ制限セラレタル外理事ノ代理權ニ加ヘタル制限云々ト云フ御說デアリマシタガ、此處ニアリマスル理事ノ代理權ニ加ヘタル制限ト云フモノハ定款若クハ寄附行爲ニ依テ加ヘル制限モ這入ツテ居ルノデハアリマセヌカ、自然這入ツテ居ル譯デハアリマセヌカ、果シテ然ウデアレバ夫レハ蛇足ニ屬シハシマセヌカ、夫レハ定款及ビ寄附行爲ヨリ外ニ制限ヲ加ヘルコトガアルト云フノデアリマスカ
山田喜之助君
夫レハ幾ラモアラウト思ヒマス、理事ガ仕事ヲスル制限ハ會社ノ定款以外ニ議決ヲ以テスルコトモゴザイツセウ、定款ト云フモノハ會社組織ノ憲法デアリマス、其外ニ會社總會ノ決議、臨時總會ノ決議幾ラモアラウト思ヒマス、併シ私ノハ贊成者ガナイヤウデアリマスカラ取消シマセウ
議長(西園寺侯)
決ヲ採リマセウ、然ウスルト最早外ニ成立ツテ居ル說モアリマセヌカラ「之ト」ト云フ二字ヲ削ルト云フ奧田さんノ說ニ贊成ノ諸君ノ起立ヲ請ヒマス
起立者多數
議長(西園寺侯)
多數デ削ルコトニ決シマシタ、夫レデハ今晩ハ之デ散會致シマス
午後十時散會