民法主査會第十九回議事速記録
明治二十七年一月十九日午後四時四十分開會
出席員
伯爵伊藤博文君
箕作麟祥君
穗積陳重君
横田國臣君
長谷川喬君
高木豐三君
富井政章君
梅謙次郎君
田部芳君
村田保君
菊池武夫君
元田肇君
本野一郎君
土方寧君
議長(伊藤伯)
是レヨリ議事ヲ開キマス、六十七條
(書記朗讀)
(左ノ理由及參照ハ朗讀ヲ經サルモ參考ノ爲メ茲ニ之ヲ掲載ス以下之ニ倣フ)
第三節 法人ノ解散
(理由)本節ニ於テハ法人解散ノ原因ヲ列敍シ其解散シタル法人ノ財產ノ歸屬スヘキ者ヲ定メ又淸算事務ノ範圍及ヒ淸算人ノ職分ヲ示シ且債權者、債務者及ヒ歸屬權利者ノ保護ニ必要ナル規定ヲ掲ケタリ
第六十七條 法人ハ左ノ事由ニ因リテ解散ス
一 定款ニ定メタル解散事由ノ發生
二 法人ノ目的タル事業ノ成功又ハ其成功ノ不能
三 破產
四 設立ノ許可ノ取消
社團法人ハ右ニ掲クル場合ノ外左ノ事由ニ因リテ解散ス
一 總會ノ決議
二 社員ノ缺亡
(參照)取一四四、一四五、商一二六、二三〇、グラウブユンデン九五、ツユーリヒ三五、モンネグロ七四六、七六二、獨二草三八三九、四〇、六三、普國法二部六章一八九、一九〇、索五六、紐草四二四、四二五
(理由)一、本條ハ法人解散ノ場合ヲ列記シタルモノナリ近世諸國ノ民法ニ於テ法人解散ノ原因トスルモノ概ネ本條ニ掲ケタル六箇ノ事由ニ出テス蓋シ第一項第一號及ヒ第二項第一號ハ法人ノ設立者又ハ其社員ノ意思ニ基キタル解散ノ場合ヲ示シ第一項第二號、第三號及ヒ第二項第二號ハ法人ノ性質又ハ其業務ノ狀況ヨリ生スル自然ノ結果ニ因ル解散ノ場合ヲ示シ第一項第四號ハ國ノ監督權ヨリ生スル解散ノ場合ヲ示シタルモノナリ
二、定款ニ定メタル解散事由ハ存立時期ノ經過其他總テ豫メ定款中ニ掲ケタル解散ノ原因ヲ包括ス故ニ第一項第二號及ヒ第二項ノ如キ原因ニシテ若シ定款ニ特別ノ規定アルトキハ之ニ依ルヘキハ論ヲ俟タス
三、社團法人カ任意ノ解散ヲ爲ス場合ハ次條ニ於テ之ヲ說明スヘシ
四、法人ハ總テ或目的ヲ達スル爲メニ存スルモノナルヲ以テ其目的タル事業ヲ成功シ又ハ法令ノ變更其他世態ノ變遷等ニ因リ其事業ヲ成スコト能ハサルニ至ルトキハ自然ノ結果トシテ解散スヘキモノナリ
五、社團法人ノ社員カ死亡退社等ニ因リ全ク存在セサルニ至リタルトキハ其法人ノ解散スヘキヤ論ヲ俟タス或ハ社員カ一人ニ減少シタルトキハ社團法人タルノ性質ヲ失フモノナルヲ以テ其法人ハ當然消滅スヘキモノナリトスル者アリト雖モ社團法人ハ總テ或目的ノ爲メニ存スルモノニシテ一旦設立シタル以上ハ全ク社員各自トハ別箇ナル無形人ヲ生スルモノナルヲ以テ法人ノ設立ニハ數人ノ社員アルコトヲ要スルモノトスルモ其存在ニハ必スシモ之ヲ要スルモノトスヘカラス故ニ假令其社員ハ漸次減少シテ僅ニ一人ヲ殘スニ至ルモ苟モ其目的タル事業ノ成功ニシテ妨ナキ以上ハ之ヲ解散セシムルノ理由アルヲ見ス故ニ本案ニ於テハ社員ノ全ク存在セサルニ至ルコトヲ以テ解散ノ原因トセリ
六、法人ノ破產及ヒ政府カ其設立ノ許可ヲ取消ス場合ハ別條ニ於テ之ヲ說明ス
箕作麟祥君
此六十七條ノ第二項ニ「社團法人ハ右ニ掲クル場合ノ外左ノ事由ニ因リテ解散ス」トアリマスガ、之ハ「事由」デ宜シイノデアリマセウカ
穗積陳重君
事由ノ生ジタル場合ヲ言フノデアリマス
梅謙次郎君
理窟ハ事由ノ方ガ宜イガ句調ガ少シ惡イヤウデアル
土方寧君
此一號ニ定款トアリマスガ、之ハ財團法人ノ方ニハ定款ハナイヤウデアリマスガ
穗積陳重君
一寸申シマスガ、第一號ハ定款トアル下ニ「又ハ寄附行爲ニ於テ」ト云フノガ拔ケテ居リマスカラ加ヘナケレバナリマセン
田部芳君
此六十七條ノ第一項第三號ニ破產ト云フコトガ掲ゲテアリマスガ、此點ニ付テ少シク疑ヒガ起リマシタ多分然ウデアラウト思ヒマスケレドモ念ノ爲メニ伺ヒマス、只今ノ商法ハ御承知ノ通リ「商ヲ爲スニ當リ」云々トアリマシテ、商取引ヲ致シマシタル結果ニ因リテ支拂ヲ停止シタ者ニ斯ウ云フ破產ヲ宣告スルコトニナツテ居リマスガ、之ハ私ガ云フ迄モアリマセヌガ此現行法ニ斯クアルニモ拘ハラズ此處ニ破產ト云フモノヲ以テ解散ノ理由トセラレタ以上ハ多分此破產法ヲ改正スルノ御意見デハアラウト思ヒマスケレドモ、然ウ云フコトニ付テハ嘗テ私ガ前ニ刑法上ノ禁治產ノ事ニ付テ案ヲ出シタ所ガ餘程反對サレタノデアリマスガ、夫レニモ拘ハラズ此處ニ事由トシテ掲ゲテアリマスガ、多分然ウデアラウト思ヒマスガ破產法モ此結果デ改正スルノ御意見デ斯樣ナ案ヲ御出シニナツタノカ、其點ヲ一ツ伺ヒタイ
穗積陳重君
御尤モナ御質問デアリマスル、此事ニ付テハ吾々ヨリシテ進ンデ說明ヲ致スベキノデアリマスルガ定メテ諸君ノ中カラ之ニ付テ御疑ヒガ出ルト思ヒマシテ態々待テ居ツタノデアリマス、固ヨリ御考ヘノ通リ破產ハ商法ニノミ屬シテ居リマスル處分法トナツテ居リマスルガ、併ナガラ夫レニ付テハ甚ダ不便デアリマシテ、矢張リ破產ト云フモノハ商事取引ノ結果トシテ生ズルノミナラズ、何ンノ場合デモ無資產ノ處分ト云フモノハ破產トスル、卽チ破產處分ト云フモノハ商事民事共ニ通ズル方ガ宜カラウ、夫故ニ豫決問題トシテ吾々ヨリシテ何レ破產法ト云フモノハ特別法ニ致シテ商法民法共ニ通ズルモノニシタ方ガ宜カラウ、然ウ云フ考ヘヲ以テ之ヲ豫決問題トシテ提出シヤウト云フ考ヘガ吾吾ノ中ニアリマス、其考ヘテアルニ據ツテ殊更ニ民事ノ方デモ第三號ニ破產ト書キマシタノデアリマスガ、併ナガラ其豫決問題モ通リマセズ、矢張リ破產ト申シマスルモノハ商事取引ノ結果ノミニ當ルモノデアルトシタナラバ其節ニ何ウゾ此第三號ヲ適要ノ字ニ取替ヘラルルヤウニ御願ヒ申シタイト思ヒマス、夫故ニ此破產ト云フモノモ之ニ相當スルモノノ一ツノ事由トシテ此處デ認メルト云フ事ノ御認メヲ望ミマス
箕作麟祥君
夫レデハ破產法ヲ變ヘヤウト云フ御考ヘデアルノデアリマスカ
穗積陳重君
其考ヘガ此處ヘ籠ツテ少シ早マリマシタケレドモ書キマシタ、若シ夫レガ否決サレレバ此字ヲ取替ヘル積リデアリマス
議長(伊藤伯)
分產ト云フモノト破產ト云フモノト二樣ハナイノデアルカ
梅謙次郎君
今ノ法典ニハ然ウナツテ居ルノデアリマス
議長(伊藤伯)
外國デハ何ウナツテ居ルカ
梅謙次郎君
まちまちデアリマス、古イ國デハ多ク二樣ニナツテ居リマス、併シ近頃ハ就中獨逸法デハ一緒ニナツテ居リマス、又英吉利モ然ウデアリマス
箕作麟祥君
二ツニスルト云フコトハアリマセヌ
梅謙次郎君
佛蘭西抔ノ多數ノ學者ノ說ニ依ルト一緒ニシテモ宜イト云フコトデアリマス
田部芳君
只今ノ穗積君ノ說ニ依テ御趣意ハ分カリマシタガ、左樣シタナラバ此處ニ於テ起草者カラシテ破產法ト云フモノハ商事非商事ニ通ズルト云フ所ノ主義ヲ一ノ豫決問題トシテ出サレンコトヲ建議致シマス
穗積陳重君
是ハ一ニ議長ノ御意見ニ依ルコトデアリマスガ、今日ハ主査委員會デアリマシテ漸ク定足數ニ充チタ位デアリマスガ、斯ノ如キ問題ヲ提出シテモ宜シイモノデゴザイマセウカ、實ハ出席者ガ充分アリマシタ時ヲ待ツテト思ヒマシテ吾々モ差扣ヘテ居ツタ譯デアリマス
長谷川喬君
是ハ大問題デアリマス、已ニ旣成法典卽チ商法ノ出來ル時ニモ別ニ破產法ヲ拵ヘヤウト云フ問題ガ續々起リマシタケレドモ遂ニ旣成法典ノ如クナツタコトデアリマスカラシテ成ルベク之ハ多數ノ人ノ寄ツタ時ニ提出サレンコトヲ望ミマス
箕作麟祥君
只今長谷川君ノ述ベラレマシタ通リ、以前ノ法律取調委員會ノ時ニ漏レタノデ、然ウ云フ說ハ宜イデアラウガ何分時ガナイカラ仕方ガナイト云フノデ打消サレタ、簡單ニ申セバ然ウ云フコトデゴザイマセウ
高木豐三君
併シ當時ノ理由ハ或ハ然ウデアツタカモ知レマセヌガ、又學問上ノ實際ニ於テハ今日ハ民事ト商事トノ區別ヲ付ケルノ理由ガナイトカ必要ガナイトカ云フ議論モアリマセウガ、御承知ノ通リ此破產ノ手續ト云フモノハ非常ニ嚴密ナ煩ハシイモノデアリマス、夫レヲ唯此法人丈ケニ當嵌メルト云フ事デアリマスレバまだしもデアリマセウガ、民事商事ノ區別ヲセズニ悉ク此破產ノ方法ニ依テヤルト云フコトハ今日ノ日本ノ實際ニ於テ何ウデアラウカト云フコトハ餘程ノ大問題デアラウト考ヘル、又夫レ迄ニ私ノ積リデハ民事訴訟法ノ強制執行ト云フモノヲ幾ラカ改正シテ矢張リ民事ハ民事ナリニ破產ノ如キ手續ヲ經ナイデモ何ウカ宜イ方法ハナイカト云フ一ノ考ヘモアリマス、今之ヲ豫決問題トシテ突然ニ商事民事ノ區別ナク破產法ヲ適用スルト云フ事ヲ經々ニ議決スルト云フヤウナコトハ私ハ甚ダ危險ナヤウニ考ヘル之ハ何ントカもう少シ仕樣ハアリマセヌカ
土方寧君
今ノ高木君ノ御說ニ同意デアリマス、併シナガラ此六十七條ノ三號ノ場合ニ此大問題ヲ決シタ所ガ字句ノ修正ニ過ギマセヌカラ起草委員ノ述ベラレマシタル如クニ此場所デハ今ノ大問題ノ民事商事ノ區別ナク決スルト云フ御旨意デアルト假定シテ此問題ヲ決スル、然ウシテ他日適當ノ場合ニ於テ論ズル時ニ若シ往カヌヤウナラバ又變ヘルト云フコトニシテ今ノ問題ヲ此處デ決スルコトハ延期シテ置イタ方ガ宜カラウト思ヒマス
高木豐三君
夫レデハ總裁ニ建議致シマス、只今少シデモ人ノ寄ツタ時ニスルガ宜シイト云フ說モアリマスルカラ、之ハ總會ヲ御開キニナル前ニ之ニ付テノ一ノ特別ノ案ヲ豫メ出シテ置テ然ウシテ此場所ニ來タ時ニ總會ノ時ニデモ議決スルヤウニデモ致シタラ如何デアリマスカ
穗積陳重君
其事ヲ案ニシテ廻ハシテモ宜シウゴザイマス
梅謙次郎君
是ト共ニ豫決問題ニシテハ何ウデゴザイマセウカ
箕作麟祥君
斯ウ云フコトハ何ウデゴザイマセウカ、破產ト云フモノハ民事商事ニ通ジテ用ヰルヤウニスルトカ、此事ハアリマセヌケレドモ、乙號議案ト云フモノデ始メ澤山出マシタガ只今ノ御說ニ依テ見レバ是等モ乙號議案ノ中ニ御入レニナル御積リデアツタカト思ヒマスガ、破產ノ場合ハ段々實驗上乙號議案ニナリハセンカト思ヒマスガ
穗積陳重君
吾々モ之ハ乙號議案ニシテ出サウト云フ考ヘモアリマス
田部芳君
私ノ建議シタノハ此案ヲ確定シテ置クト云フ旨意デハナイ、前ニ單獨デ極メタあの例ニ倣ツテト云フ旨意デアツタノデアリマス、詰リ此主査會デモ別ニ特別ノ一ノ案トシテ豫決問題トシテ出シタ方ガ一番適當ト考ヘル、然ウシテ主査會デ極メタナラバ其案ヲ又更ラニ總會ノ議案トシテ出シテ極メテモ宜カラウ
穗積陳重君
夫レハ然ウデアリマス、此處ハ主義ヲ會社ノ破產ハ其解散ノ一ノ事由トナルト云フコトニシテ置ケバ宜カラウト思フ
議長(伊藤伯)
事實上ニ於テハ何ウシテモアル事デ之ハ免カレナイコトデアル、夫レデ大概土方君ノ論モ高木君ノ論モ同ジナモノデアルネ
高木豐三君
大概同ジヤウデアリマス
田部芳君
私ハ強イテモ申シマセヌガ、獨立ノ案トシテ出シタイト云フノデアリマス
議長(伊藤伯)
ソンナラ然ウ云フ事ニシタラ何ウデス
高木豐三君
一寸起草委員ニ御尋ネ致シマス此第一項第四號ニ「設立ノ許可ノ取消」ト云フコトガアリマスルガ、之ハ商法ノ二百三十條第六號ノ「裁判所ノ命令」ト云フコトニ當ルモノカト考ヘルガ、之ハ此六十七條ニハ法人ノ解散ノ事ヲ定メルト云フコトニナツテ居リマスガ、之ハ「解散ノ命令」トデモナツタレバ宜カラウカト云フヤウニ考ヘルガ、解散ノ命令デハ不都合デ矢張リ「設立ノ許可ノ取消、」恰モ未ダ設立セザルモノノ如クニ取消ト云フ如クニセント不都合ガアルト云フ何カ別ニ理由ガアリマスカ、一寸伺ヒマス
穗積陳重君
商法ノ方ハ裁判所ガ解散ヲ命ジマスル權ヲ持テ居リマスル、併ナガラ法人ハ公益ニ關スルモノデ行政監督ニ屬シテ司法監督ニハ屬シナイ、公益ノ方デアリマスルカラ、夫レ故ニこちらハ行政官廳ノ監督、行政官廳ノ職權デ解散ヲ命ズルコトガ出來ル、デ之ヲ「解散ノ命令」ト書キマスル時ニハ何處カラ其命令ガ發スルカ分カリマセヌノデアリマスカラ然ウ書テモ強テ惡ルイト云フコトデハアリマセヌガ「設立ノ許可ノ取消」ト書クト寔ニ簡單ニアツテ、且設立許可ハ行政主務官廳ガ之ヲ與ヘルト云フコトガ前ニアリマスカラ、前ト照應シテ此處デ直チニ其許可ガ止ンデ仕舞ウト云フ方ガ短クテ宜シイト思ヒマシテ斯ウ書イタノデ、夫レデ之ヲ「主務官廳ノ解散ノ命令」ト書テモ惡ルイコトデハアリマセヌガ、唯少シ文字ガ長クナル丈ケノ事デアリマス
村田保君
私モ少シ御尋ネ致シタイノデアリマス、例ヘバ此法人デ何ンデゴザイマスネ、法律ニ背クヤウナ事モゴザイマセウ、又ハ隨分治安ヲ害スルヤウナモノ、或ハ風俗ヲ害スルヤウナモノ、然ウ云フ法人ハ無論置ク事ハ出來マセヌガ、然ウ云フ場合ニハ無論解散ヲサセナケレバナラヌト思ヒマスガ、然ウ云フ場合ハ何處ニ御定メニナツテアリマスカ、一寸伺ヒマス
穗積陳重君
夫レガ卽チ第一項ノ第四號ノ所デアリマス、卽チ此說明ニモ書テ置キマシタル通リ、公益ヲ害スル設立許可ノ條件ニ反スルト云フヤウナモノガアリマシタ時ニハ其許可ヲ取消ス、第七十條ヲ御覽下サルト尙ホ細カニ分カリマス
横田國臣君
一寸御尋ネシマスガ、此第一項ノ第二號ニ「法人ノ目的タル事業ノ成功又ハ其成功ノ不能」トアル夫レデ此事業ノ成功ノ方ハ先ヅ大概分カラウガ、不能ノ方ハ何時カラ不能ニナツタト云フコトガ隨分分カラナイヤウナ事モアラウ、成功ニシテモ隨分然ウ云フ場合ガアラウト思ヒマスガ、之ハ夫レヲ極メルニハ何ンナ風ニ極メルノデアリマスカ、成功ノ不能トカ云フコトハ最モ分カラナイ、何時カラ不能ニナツタカボンヤリシテ分ラナイヤウナコトガアラウト思ヒマスガ、何ニカぴちやつト極メラレルヤウナコトガアリマスカ
穗積陳重君
其目的タル事業ガ成功ヲシタトカ或ハ到底其成功ノ見込ミガナクナツタトカ云フヤウナコトハ之ハ事實問題デアリマシテ、固ヨリ御考ヘノ通リ、之ヲ極メルニハ何カ標準ガナカラネバナラヌ、併ナガラ之ニ付テハ手續法ト云フモノガ何レ出來ルノデアリマス、デ解散ノ時ニハ適當ノ場所ヘ屆ケ出マスル或ハ夫レニ或ル場所ノ許可ヲ得ルトカ云フヤウナ事ガ出テ來ナケレバナルマイ、夫レハ矢張リ商法抔デモ同ジデアリマス、其目的ト云フモノヲ到底遂ゲルコトガ出來ナイヤウナ時ニハ解散ニナル、其時ニハ殊更ニ議決ヲスルトカ云フヤウナ風ニ其事抔ヲ極メル、又其定メト云フモノガ必ズ出來テ來ルデアラウト思ヒマス、夫レデ此處デ以テ何レ丈ケハ成功トナル、何レ丈ケハ成功ノ不能ニナルト云フコトヲ此法文ニ書キ顯ハスコトハ出來ナイ事デアラウト思ヒマス
長谷川喬君
私モ夫レニ付テ疑ヒヲ懷イテ居ツタノデアリマス、今商法ヲ御引キニナリマシタガ、商法デハ解散ノ場合ハ總會ヲ招集シテ總會ノ決議デ解散スルヤウナコトニナツテ居リマスガ、其趣旨ハ御採用ニナツテハ居リマセヌカ
穗積陳重君
夫レハ社團法人ノ場合ニハ商法ト同ジ規則ヲ當嵌メルコトモ出來マセウガ是ハ財團法人社團法人共ニ通ジテ居リマスルカラ、卽チ財團法人ノ場合ニハ全ク其事業ガ出來ナイトカ、或ハ其事業ガ終ラナイトカ、斯ウ云フ時ニハ總會ヲ開テ解散ノ決議ヲ爲スト云フヤウナ商法ノ規則ハ當嵌メラレヌカラ、夫レ故ニ此處デハあの條ニ倣フタ法文ハ設ケナカツタノデアリマス
長谷川喬君
今一ツ御尋ネシマスガ此財團法人ノ場合ニ財產ガ消滅シタ場合ハ或ハ之ニ籠メル譯デアリマスカ、若シ籠メルナレバ何處ニ這入ルノデアリマスカ、社團法人ニ付テハ此處ニ區別ヲ立テラレテ卽チ第二項ノ第二號ニ「社員ノ缺亡」ト云フコトガアル、此缺亡ハ全ク無クナツタ場合ト云フ事ハ分カルヤウニアリマスガ、シテ見ルト之ニ均シク財圍ノ財產ノ消滅ノ場合モ何處カニアリサウニ思ヒマスガ、夫レハ如何デアリマスカ
穗積陳重君
商法ニ於テハ商事會社ノ資本ガ例ヘバ四分ノ一未滿ニ減ジタトカ云フコトガ明カニ定メテアル、併シ財產ヲ以テ一ノ公益事業ヲスルノハ夫レガ四分ノ一位迄ニ減ジタナラバ其事業ガ出來ルカ出來ナイカト云フ見込モ分カリマセウ、半分位ニ減ジタナラバヽヽヽヽヽヽ
長谷川喬君
財產ノ全ク無クナツタ場合ヲ聽クノデアリマス
穗積陳重君
全ク無クナリマシタ場合ハ固ヨリ第一項ノ第二號ニ這入ツテ「成功ノ不能」ト云フコトノ一番著シイ場合デアラウト思ヒマス、社團法人ニシテ社員ガ全ク無クナツタ、財團法人ニシテ其資本ガ全ク無クナツタト云フコトデアリマスレバ之レヨリ著シイ成功ノ不能ハアリマスマイ
長谷川喬君
議論ヲスルヤウデアリマスガ、「社員ノ缺亡」ト云フモノハ理由書ニ依ルト全ク無クナツタト云フコトノヤウデアリマス、然ウスルト云フト前ノ第二號ニ「成功ノ不能」ト云フ事ガアルカラ此方ハ必要ハナイヤウデアリマスガ
穗積陳重君
夫レハ固ヨリ社團法人デアレバ其社員ガ全ク無クナツタ、斯ウ云フコトハ其事業ノ成功ノ不能ト云フ事ニナリハ致シマセウ、併シ通常ノ場合ニ於テ此社員ガ何分ノ一ニ減ジタ時ニハ之ヲ解散スルトカ云フヤウナ事ガ幾ラモアリマセウ、デ且社團法人ト云ヒマスルト二人以上、少ナクトモ二人以上ナケレバ社團タル性質ガナクナツテ仕舞ウ二人以下ニナツタラ其性質上解散スルト云フ風ナコトモアリマス、又他ノ國ニ於テハ五人以下ニナツタラ解散スルトカ三人以下ニナツタラ解散スルトカ色々ナ事ガアリマスルガ、兎ニ角一人シカ存シテ居リマセヌデモ外ニ原因ガナケレバ社團法人ハ解散シナイモノデアルゾト云フ事ガ裏カラ明カニナツテ來ルカラ缺亡ト書テアル、今ノ問題ハ獨リデモアリサヘスレバ其社團法人ハ成立ツテ居ルモノデアルト云フコトハ明カデアリマス、夫レデ社員ノ數ト云フモノト事業ノ成功若シクハ成功ノ不能ト云フコトトハ其見ル點ヲ異ニシマス、規定スル點ヲ異ニシマス、夫レ故ニ此處ニ別ニ擧ゲタノデアリマス
横田國臣君
此「社員ノ缺亡」ト云フ事ニ付テ御尋ネシタウゴザイマスガ、「社員ノ缺亡」ト云フ字モ可笑シイ、此註ヲ見ルト缺亡ハ何ンデ無クナツタカ、缺亡ト云フノハ然ウ見マイト思フ此字デハ或ハ缺ケタヤウニ見ルノデアラウト思ヒマス、夫レデ私ハ社員ガ一人デモアレバ其會社ト云フモノハ成立ツト云フ利益ガアルカ知ラヌガ夫レハ無論利益ハアラウガ、夫レナラバ獨リデシテモ宜カリサウニ思フ、然ウシテ夫レヲ又矢張リ缺ケテ其一人デモ宜イト云フ事デアレバ缺亡ト云フ事ハナクテモ或ハ其繼承人カ何ンカアツタラヤラセテモ宜シイト思フ、夫レデ夫レニ付テモ御考ヘヲ聽キタイ、一人デモ成立セテ置クノガ何カ非常ニ利益ガアルカ、夫レデモ一人デモアレバ一人デヤラセテモ宜カラウ、通常人デハヤレヌト云フ事柄デモアルカ、其處ノ利益ノ所ヲ一ツ承ハリタイ
穗積陳重君
此事ハ往々議論ノアル事デアリマシテ、法人ハ勿論公益ノ爲メデ、或ハ慈善ノ爲メ或ハ學問ノ爲メ或ハ技藝ノ爲メニスルトカ、然ウ云フ事ノ爲メニ立ツテ居ルノデ、時トスルト社員ノ數ガ非常ニ減ル事ガアリマス、併シ社員ハ減ツテモ其事業ハ隨分行ハレテ往クト云フモノガアリマス、夫レハ或ハ寺院ノ如キ慈善教育抔ノ事業ニ關係シタモノ、然ウ云フモノデアリマスガ、商事會社ノ方デハ幾ラカ斯ウ云フ場合トハ違ツテ、商事會社デハ五人以下トカ七人以下トカ十人以下トカ書イテアリマス、亞米利加抔デハ十三人ト云フコトガアリマスルガ、多クハニ人以下トカ或ハ三人以下トカ云フ規定ガアル、或國ニ於テハ獨リデモ存シテ居レバ宜シイト云フヤウナ國モアリマス、デ社員ガ非常ニ減ズルト云フコトガアリマスカラ夫レ故ニ二人以下トカ何ントカ云フヤウナ少シノ所ノ區別ヲシマセヌデ獨リデモ存シテ居リ且其事業モ出來ルトカ云フ事デアリマスレバ之ヲ解散サセナクモ宜カラウト云フ考ヘデ缺亡ト云フコトニシマシタ、缺ト云フ字ハ缺ケルト云フ字デアリマスガ乏シイデナク無クナル方ノ積リデ書キマシタ
横田國臣君
是ハ私ハ理論カラシテ何ウモ此處ニ疑ヒヲ懷ク、何故ナレバ此社團法人ニ於テハ此法人ト云フノニハ人ガ澤山集マルカラシテ代表者ガナケレバナラヌ、卽チ法人ト云フモノヲ作ルニデス、又此財團ノ方ハ財團ト云フモノガ一ツアツテ其財產ヲ代表スルノダカラ宜イケレドモガ、今ノ社團法人ハ一人デアル其一人ノ者ガ其一人ヲ代表スル一人ガ何ニスルノハ少シ私ハ理論ニ乏シイト思ヒマス、夫レハ續クモノハ宜イ、何モ夫レハ一人デ左樣ナ事業ヲシサヘスレバ宜イ、無理ニ夫レヲ會社トシテ置カナクテモ宜カラウ、然ウ云フ事ハ一人デハスルコトガ出來ヌト云フ事デモアルナレバ格別、併ナガラ學校ナレバ學校、一人デシテモ宜カラウ
梅謙次郎君
只今ノ横田さんノ御議論ハ詰リ法人タル社團ト夫レカラ商事其他ノ營業ヲ目的トスル會社ト同ジヤウナ見方デハナイカト私モ疑ウ、商事會社其他ノ私ノ利益ヲ目的トスル會社デアリマスレバ、詰リ其會社ノ財產ト云フモノハ社員ノ財產デアツテ獨リ獨リニヤルヨリカモ大勢集ツテヤル方ガ利益ガ多イカラ大勢集ツテヤルニ過ギナイ、然ルニ此處ノハ目的ガ公益デアルカラ、社團ト云フテ社員ガアツテモ其社員ノ利益ノ爲メニ設ケテアルノデナイ、從ツテ純然タル社員ノ利益ヲ目的トスルモノトハ逹ウ、斯樣ナ譯合デアリマスカラ、縱令獨リデ以テヤツテ居ツタ所ガ矢張リ其社團ト云フモノハ一ノ獨立ナル法人デアル、夫レガ其者ノ私有物デハナイ營利會社ナラバ其社員ノ私有物デアル、夫レデアリマスカラシテ苟モ其社團ノ事業ニ妨ゲナキ限リ而シテ其事業ガ公益上ニ望マシイ事業デアレバ成ルベク解散ヲシナイ方ガ宜カラウト思ヒマス、ケレドモ社團法人デアツテ社員ガ獨リモナイヤウニナリ、夫レヲ監督スル人モナクナリマスレバ夫レハ止ムヲ得マセヌケレドモ、苟モ獨リデモアツタナラバ其人ガ社團ノ本尊トナツテ、夫レガ卽チ自分ノ物デハナイケレドモ、夫レガ公益ノ事業ヲ扱ツテヤツテ往ク事ガ出來ル、序ニもう一ツ申シマスガ、若シ「社員ノ缺亡」ト云フコトヲ削ラレルト云フコトニナルト、六十七條ノ第一項第二號ノ中ノ「成功ノ不能」ト云フ方デ無論然ウ云フ場合ハ濟ンデハナイカト云フ先キニ長谷川君ノ議論モアリマシタケレドモ、私共ハ然ウハ見ナイ、社員ガ凡テ無クナツタカラト云フテモ必ズシモ此六十七條ノ第一項第二號ノ「成功ノ不能」ト云フモノデハナイト思ヒマス、例ヘバ宗教上ノ事業デアツテ其爲メニ別ニ寺トカ云フ風ニ類似ノ建物デモアツテ其建物ニ於テ宗教上ノ或仕事ヲ爲シテ居ル、其仕事ヲスルニ社員ガ從來ハ主トナツテやつて居ツタガ後チ社員ガ無クナツテ或人ガ之ニ從事スルト云フコトデアレバ縱令其社員ガ獨リモ無クナツタ所ガ其事業ノ成功ノ不能デハナイ其場合ハ官廳ガ直接ニ支配ヲスルトカ、又ハ官廳ヨリ夫レニ適當ナル人ヲ擇ンデ充テテヤリサヘスレバ其事業ノ成功シテ往クコトガ充分出來ルト思ヒマス夫故ニ「社員ノ缺亡」ト云フ事ト前ノ「成功ノ不能」ト云フ事トハ違ウ、之ニ反シテ財團ト云フ方デ其財產ガ無クナツテ仕舞ツタナラバ、元々或事業ノ爲メニ或財產ヲ集メテ其財產ノアル爲メニ設ケタルモノデアルカラシテ、若シ其財產ガナクナツタナラバ其財團法人ノ要素ヲ無クシタト云フ事ニナルノデアリマスカラ、夫レハ成功ノ不能ノ最モ大イナルモノデアルト云フコトハ先刻穗積君ノ言ハレタ通リデアリマス、斯樣ナ譯デアリマスカラ「社員ノ缺亡」ト云フ事ト「成功ノ不能」ト云フ事トハ各々最モ必要ナルコトデアルト考ヘルノデアリマス
高木豐三君
先刻モ質問致シマシタガもう一應質問シマス、此第一項第四號ノ「設立ノ許可ノ取消」ト云フ辭ニナルト云フト、私ハ自分ノ考ヘ違ヒカ知リマセヌガ法人ト云フモノハ許可デ成立ツ、其許可ノ取消ト云フ事ニナルト恰モ法人ガ未ダ嘗テ成立タザルモノノ如キ地位ニ復ヘスト云フ意味ニナルヤウナ恐レハアリハシマセンカ夫レヲ一ツ伺ヒタイ
穗積陳重君
此處デハ決シテ然ウ云フ意味ニハナラヌト思ヒマス、明カニ「左ノ事由ニ因リ解散ス」ト書テアリマスカラ、許可ノ取消ガアツタナラバ其取消ニ依テ解散スト云フコトニナリマスカラ、夫レデ此處デハ決シテ然ウ云フ意味ニハ解釋ハセマイト思ヒマス
土方寧君
財團法人デモナイ、又二人以上ノ人ヲ以テ成立ツ社團法人デモナイ、始メカラ一人デ以テ法人ト云フモノガ出來ルカ何ウデアリマセウ
穗積陳重君
夫レハ然ウデナイ、夫レデ社員ト云フ者ガナケレバ社團法人ガ出來ナイ、社團ガ出來タ以上ハ其社員トハ別ニ一ツノ無形ナ物ガ出來ルノデアリマス
議長(伊藤伯)
夫レデハ御異論ガアリマセヌケレバ可決ト認メテ次ノ條ニ移リマス、夫レデハ「又ハ寄附行爲ニ於テ」ト云フコトヲ加ヘルコトニナツタノダネ
穗積陳重君
左樣デアリマス
(書記朗讀)
第六十八條 社團法人ハ定款ニ別段ノ定アル場合ヲ除ク外少クトモ總社員ノ四分三ノ承諾アルニ非サレハ解散ノ決議ヲ爲スコトヲ得ス
(參照)商一六四、二〇三、グラウブユンデン九五、ツユーリヒ三四、モンテネグロ七四六、獨二草三八、同營業條例九三
(理由)社團法人ハ其社員ノ存セサルニ至リタルトキニ於テ消滅スヘキモノナリトスレハ總社員一致ノ決議ヲ以テ法人ヲ解散スルコトヲ得ヘキハ固ヨリ當然ナリトス是レ他ナシ其決議ハ總社員ノ退社ニ均シキヲ以テナリ然レトモ社員ノ多數カ其解散ヲ必要ナリト認メタル場合ニ於テ猶ホ強ヒテ其事業ヲ繼續セシメント欲スルモ頗ル困難ナルコト多カラン然レトモ亦一方ニ在リテハ商法ノ規定ノ如ク單ニ株主ノ半數以上ニシテ株金ノ半額以上ヲ代表スルモノ出席シ其議決權ノ過半數ニ依リテ解散スルコトヲ得ルモノトスルハ(商一六四、二項、二〇三)之ヲ公益ヲ目的トスル法人ニ適用セハ些シク輕易ニ失スルノ虞アリ是レ本條ニ於テハ四分三以上ノ多數ノ承諾ヲ要スルモノトセル所以ナリ
議長(伊藤伯)
此處デ一寸餘計ナ事ヲ聽クヤウデアリマスガ、其社員ガ唯一人ニナツテ居ル時ニ當ツテ「四分三ノ承諾アルニ非サレハ解散ノ決議ヲ爲スコトヲ得ス」ト云フヤウナ事ガアツタ時ニハ其一人ニナツタモノハ解散ガ出來ナイト云フヤウナ事ニナツテ來ハシマセヌカ
穗積陳重君
一人デアレバ全數ニナツテ來マス
高木豐三君
三人ノ折ハ
梅謙次郎君
三人ノ折ハ三人共
高木豐三君
四人ナケレバ此中ニ當ルマイ
梅謙次郎君
當ツテ居ル、夫レヨリ多イナレバ當ツテ居ル
議長(伊藤伯)
議論ガナケレバ可決ト認メテ次ノ條ニ移リマス
(書記朗讀)
第六十九條 法人カ其債務ヲ完濟スルコト能ハサルニ至リタルトキハ裁判所ハ理事若クハ債權者ノ申立ニ因リ又ハ職權ヲ以テ破產ノ宣告ヲ爲ス
(參照)商九七八、モンテネグロ七四六、二號、獨二草三九
(理由)公益ヲ目的トスル法人ト營利ヲ目的トスル法人トハ其平素ノ事業ヲ異ニスト雖モ其債務ヲ完濟スルコト能ハサル場合ニ於ケル處置ニ付テハ二者ノ間ニ區別ヲ設クヘキ理由アルヲ觀ス故ニ本法中特ニ其規定ヲ掲ケスシテ破產ニ關スル一般ノ規程ヲ適用スヘキモノトセリ
田部芳君
私ハ此六十九條ヲ削除スルト云フノ修正案ヲ提出致シマス、何レ此破產ト云フモノヲ廣ク改正スル事ニナレバ自然ニ本條ニ規定シテアル如キ事務ハ破產法ノ中ニ自カラ規定サレルヤウニナラナケレバナラヌト思ヒマスカラ、此民法ニ於テ斯ノ如キ條ヲ規定スルノ必要ハナイト思ヒマス、夫レ故ニ本條ノ削除說ヲ提出致シマス
横田國臣君
私ハ一寸質問シマスガ、此處ニ「債務ヲ完濟スルコト能ハサルニ至リタルトキハ」トカ「職權ヲ以テ破產ノ宣告ヲ爲ス」トカ云フコトガアリマスガ、最早之ガ外ノ事デアルナレバ破產ヲ命ゼネバナラヌガ之ガ或ハ公益ニ背イタ法人デアルトカ何ントカ云フノナラバ宜シイガ、之ヲ職權デ以テヤルニハ及ブマイト思ヒマス、或ハ何レ債權者ガ言フカ理事ガ言フカ夫レデヤツテモ宜カリサウデアル、夫レニ態々職權ヲ以テ破產ノ宣告ヲスル場合ハ何ウ云フ場合デアリマセウカ、之ハ必ズ必要デアリマスカ
穗積陳重君
御答ヘ致シマス、法人ハ固ヨリ大小ハアリマスケレドモ公益ニ關スルモノデアリマシテ、若シ債務ヲ完濟スルコト能ハザル有樣ニナツテ夫レヲ長ク殘シテ置クト云フコトハ矢張リ公益ニ關スルコトデアラウト思ヒマス、故ニ法人ノ場合デ斯ノ如キ公ケノ事業ヲ爲ス者ガ債務ヲ完濟スルコトガ出來ナイヤウナ場合ニナツテ、裁判所ガ夫レヲ適當ニ知リマシタ場合ハ其職權ヲ以テ破產ノ宣告ヲ爲スト云フコトハ適當ノ事デアラウト思ヒマス、且此理事若クハ債權者ト云フ者ノ申立ノ場合ニハ勿論裁判所カラ宣告ヲシマス、其他ノ場合デモ同ジヤウナ事ニナラウト思ヒマス、獨リ自ラ進ンデヤルコトガ出來ルト云フノハ矢張リ公益ニ關係ガアリ且人ノ權利ヲ保護スルト云フ所ノ裁判所ノ職務ノ關係ガアルカラデアラウト思ヒマス
長谷川喬君
私モ此破產法ヲ改正スル起草者ノ御旨意デアルト云フ事デアリマスル以上ハ此六十九條ヲ置カレタ理由ガ分カリマセヌガ、此破產法ヲ改正スルト云フ御考ヘナルニモ拘ハラズ此六十九條ヲ置カレタ理由ハ何ウ云フ譯デアリマスカ
穗積陳重君
固ヨリ場所ノ議論デアリマスガ、卽チ特ニ法人ニ關スルモノデアリマスカラ此處ニ置キマシタ、尙ホ一ツ此處ニ置キマスル利益ノアルノハ、此債務ヲ完濟スルコトガ出來ナイヤウナ有樣ニナツタ時ニハ理事カ或ハ債權者ガ夫レヲ裁判所ニ申立ツル事ガ出來ル、獨リ理事ニ置キマシテハ夫レガ出來ルノミナラズ、夫レヲ申立ツルコトガ職務デアルト云フコトヲ第八十二條ト照應シテ知ラセルノ利益ガアル、旁々此處ニ置キマシタル譯デアリマスルカラシテ、何ウゾ本條ハ此儘ニ存シテ置カレタイト思ヒマス、別シテ此破產法ヲ特別法ニスルヤ否ヤハ未ダ未決ノ問題デアリマスカラ、若シ其問題ガ議決サレレバ必ズ此處ニ之ガ殘ラナケレバナラヌ、之ヲ直チニ此處デ削除スルト云フコトハ不都合デアラウト思フ、破產法ガ改正ニナツテそちらニ入レタ方ガ宜シイト云フコトニナツタナラバ、其時ニ之ヲ御拔カシニナルト云フコトデアリマスレバ或ハ私共モ贊成スルカモ知レマセヌガ只今ノ場合ニ於テハ贊成ハ出來マセヌ
梅謙次郎君
只今ノ穗積君ノ御說明ニ補ヒヲスルコトガアリマス、私モ此六十九條ヲ贊成シテ原案トシタ理由ハ今穗積君ノ言ハレタ外ニ今一ツアル、夫レハ私共ノ考ヘデハ破產法ヲ民事商事ニ通ジテ適用スルト云フコトニナツタナラバ裁判所ガ職權ヲ以テ破產ヲ宣告スルト云フヤウナ事ハ或ハ止メネバナラヌカト思ヒマス、商事會社抔ニ付テハ特ニ然ウ云フ事ヲ許シテモ宜イカモ知レマセヌケレドモ、一般ニ何人ト雖モ債務ヲ完濟シナイ時ニハ之ニ對シテ裁判所ガ宣告ヲスルト云フヤウナ先刻高木君ノ言ハレタ通リ嚴密ナル法律ハ適用シ難イト思ヒマス、然ウスルト一般ノ場合ニハ債務者カ又ハ債權者ノ申立テト云フ事ニナルカモ知レマセヌ然ウナツテモ法人ハ公益ニ關スルモノデアリマスカラ、裁判所ガ其職權ヲ以テ破產ノ宣告ヲスルコトガ出來ルヤウニナツテ居ラナケレバナラヌ、夫レデ先刻横田君ガ言ハレタ事ニハ私ハ寧ロ反對デ、今ノ通常ノ商人ガ支拂ヲ停止スル時ニハ裁判所ガ職權ヲ以テ破產ノ宣告ヲスル事ガ出來ルヤウニナツテ居ルガ、私ハ横田君ノ此職權云々ニ付テノ御說ニハ反對デ私ハ然ウデナイ通常ノ商人ノ方ハ止メタ方ガ宜カラウト思フ、就中商人デ無イ者ニ付テハ其方ガ宜イカモ知レマセヌ、併シナガラ法人ハ特別ニ裁判所ニ之ヲ許シテ置キタイト考ヘル、夫レデ之ハ必要デアル、夫レデ縱令破產法ガ豫決問題ニ於テ可決セラレヤウトモ此箇條ハ矢張リ此通リニ存シテ貰ヒタイト云フコトヲ私共ハ希望スルノデアリマス
高木豐三君
私モ矢張リ此六十九條ノ削除說ニ贊成スル者デアリマス、先刻起草委員中穗積君並ニ梅君ノ御說モアリマシタガ、矢張リ之ハドチラニナツテモ不必要ト考ヘル、其譯ハ若シ此六十七條ノ第一項第三號卽チ「破產」ト云フモノガ今日ノ現行ノ破產法ガそつくり行ハレルモノ、適用ノ出來ルモノトスレバ此六十九條ハ或ハ必要デアラウ、夫レハ何故ナレバ破產法デハ支拂ノ停止ト云フモノガ破產申立ノ一ツノ點ニナツテ居ルノデアリマス、所ガ法人ノ方デハ支拂ノ停止ト云フコトハナイ、「其債務ヲ完濟スルコト能ハサルニ至リタルトキハ」ト云フ事ヲ支拂ノ停止ニ代ヘルト云フ理由デ此處ニ此條ヲ設ケルノ必要ガアルノデアリマス、然ルニ此六十七條ノ破產ト云フモノガ未ダ未定ノモノデアル、夫レデ若シ之ヲ適用スル、破產法ヲ適用スルモノト極マリマスル時ニハ今梅君自カラ仰セラレタル如ク、是非トモ此破產法ヲ餘程變ヘナケレバナラヌト思ヒマス、第一ニ法人ニ適用スル時ニハ斯ウスルトカああスルトカ云フ事ヲ定メルノデアリマセウカラ、其條ガアレバ總テノ適用ガ出來ル、何ンゾ故ラニ斯々ル六十九條ノ如キモノヲ設クルノ必要ガアラウカ又夫レト反對デ、破產法ヲ現狀ノ儘デ商事ノミデ民事並ニ商事ニ通ジテ適用スベキモノデナイト云フ事ニナレバ六十九條ハ尙更ラ不必要デアラウト思ヒマス、何レニシテモ削除說ヲ贊成致シマス
穗積陳重君
簡單ニ一言シテ置キマス、今高木君ノ御考ヘノ如ク若シ現行破產法ノ如キモノヲ適用スルコトガ出來ナイ場合デアレバ斯ノ如キ箇條ハ要ラヌト云フ事ハ吾々共ハ然ウハ考ヘマセヌ、法人ノ如キ公ケノ事業ヲ爲シテ居ルモノガ其債務ヲ完濟スルコトガ出來ナイヤウナコトニナリマシタナラバ必ズ此破產若クハ破產ニ相當スル所ノ處分、之ヲ家資分產ト致シマスルカ、何ニカ他ノ名ガ出來マスルカ、兎ニ角此破產ト同ジ處分ヲ爲サシメルト云フ事ハ公益上必要デアラウト思ヒマスルカラシテ、夫レ故ニ此箇條ハ必ズ此處ニ置カナケレバナラヌコトデアラウト思ヒマス、夫レデ前ニ申シマシタ理事ガ自ラ進ンデ其處分ヲ請ハナケレバナラヌ、適當ノ處分ヲ請ハナケレバナラヌト云フ事ノ外ニ尙ホ然ウ云フ理由モアリマス
高木豐三君
夫レニハ全ク御同意デアリマス、私モ必要デアラウト思ヒマスガ、唯破產ト云フモノヲ破產法ニそつくり持込ムト云フコトニナルナレバ此條ハ不必要デアル、又破產法ヲ用ヰヌナレバ卽チ外ニ破產ノ處分ニ代ヘベキ方法ヲ定メルナレバ卽チ別ノ規則ヲ加ヘナケレバナラヌ、唯破產ニ付テノ六十九條ヲ適用スルコトニナツテモ適用セヌ事ニナツテモ此六十九條ヲ存シテ置ク事ハ不必要デアリマス、他ニ方法ヲ設ケルヤ否ヤト云フコトハ別問題デ、破產法ヲ設ケルト否トノ決着ノ上デ極マルコトデアリマス
長谷川喬君
私ハ田部君ノ說ヲ贊成シマス、只今起草者ノ御說明ヲ承リマスレバ、旣ニ高木君ノ辯駁セラレタ外ノ梅君ニ言ハレルニハ、此六十九條ニ於テ職權ヲ以テ破產ノ宣告ヲスルト云フコトハ商事ノ場合デハ必要デアル、若シ商事以外デアレバ不必要デアル、故ニ若シモ此案ノ變ハツタ場合ニハ故ラニ職權ヲ以テ云々ト云フ事ヲ置カネバナラヌト云フヤウニ言ハレタヤウニ聽キマシタガ、若シ然ウデアルナレバ
梅謙次郎君
長谷川君ノ御演說中デハアリマスガ、私ハ決シテ商事計リトハ言ハヌ、商事會社ノ如キモノニナレバ或ハ必要カモ知レマセヌガ、商事一般卽チ商人或ハ商人ナラザル者ニ於テハ不必要ト申シタノデアリマス
長谷川喬君
商事會社ニハ必要デアル、故ニ此處ニ置クコトモ必要デアルト云フノデ
梅謙次郎君
故ラデナイ、商事會社位ニハ然ウ云フコトハ宜イカモ知レヌガ、一般ニハ然ウ云フ事ハ要ラヌ、故ニ之ハ要ル
長谷川喬君
其主タル所ハ商事會社ニ適用スルコトハ必要デアラウト云フ事ニ聽取リマシタガ、併シ此商事會社ニ付テモ私ハ此六十九條ヲ絶對的ニ適用スベキモノデハナイト思ヒマス
梅謙次郎君
夫レハ誤解デアル、然ウデハナイ、商事會社ノ破產ノ方法ニ關スル規定ハ勿論商法ニ置ク、外ノ商人一般就中商人ナラザル者ハ今ノ破產法デ裁判所ノ職權ヲ以テ破產ヲ宣告スル規則ハ適用シナイ方ガ宜シイト思ヒマス、夫レデ一般ニハ然ウ云フ事ハナイガ法人ノハ公益ニ關スル理由ガアルカラ矢張リ裁判所ガ職權ヲ以テ破產ノ宣告ヲスル事ガ出來ルヤウニナツテ居ラナケレバナラヌ、商事會社ノ規則ハ別ニ商法ニ設ケルノデアツテ六十九條ヲ夫レニ適用スルト云フコトハ私ノ念頭ニハ毫モナカツタノデアリマス
長谷川喬君
夫レデハ其問題ハ止メテ置キマスガ、現行ノ破產法ニハ明カニ職權ヲ以テスルト云フ事ガアリマスルシ、又之ヲバ一般ニ用ヰルト云フコトニ改正スルニシタ所ガ、法人ノ爲メニハ職權ヲ以テ宣告スルコトガ必要デアレバ然ウ云フ事ヲ書キ加ヘテ差支ヘアリマセヌカ、夫レガ爲メニ此處ニ斯ル六十九條ヲ存シテ置ク必要ハナイ、夫レカラ穗積君ハ八十二條ト照應シテ呉レトカ云フコトデアリマシタガ、夫レハ若シ此六十九條ヲ削ツタナラバ八十二條ニ於テ其事ヲ言ハヌデ置ケバ一向差支ヘナイト思ヒマス、唯爰ニ合點ノ行兼ネルノハ前ノ場合ニハ三號デ破產法ガ立派ニ行バレルモノノ如クニ考ヘラレル又此處ニ於テハ行ハレナイト云フコトヲ豫想シテ然ウシテ他日直ホスニ便利デアルト云フコトハ隨分通ラヌコトデハアルマイカト思フ
穗積陳重君
前ニ私共ノ願ツテ置キマシタ趣意ハ、此破產ト云フモノガ若シ商事ノミ當ル事トナリマシタナレバ之ニ相當スルコトヲ其場所ヘ加ヘル、卽チ文字ヲ變ヘルト云フコトデアリマス、其主義ハ此處ヘモ矢張リ牽連シテ認メテ置テ御貰ヒ申シマスルト云フ積リデアリマス、若シ六十七條ノ第一項第三號ガ破產ト云フ字ガ變ハリマスル時ニ於テハ此處モ「職權ヲ以テ破產ノ宣告ヲ爲ス」ト云フコトハ言ハヌカモ知レマセヌ併ナガラ之ニ相當シタルモノハ此處ニ存シテ置キタイト云フ旨意デアリマス
土方寧君
先刻田部君ノ提出シタ案デアリマスガ、贊成ガアツテ議題ニナツテ居ル其議題ハ二ツノ問題ヲ含ンデ居ル、田部君ノ旨意ハ六十九條ノ規定デナクシテ旣ニ前々條ノ六十七條ノ第一項第三號ノ處デ破產法ハ民事商事ニ通シテ適用スルト云フコトヲ假定スルト云フ旨意デ原案ノ通リニ三號ヲ通過シタルモノデアルカラ、同ジコトデアリマスレバ六十九條ハ別ニ破產法ニ置クベキモノデ此場所ニ置クベキモノデナイト云フ理由デアツタヤウニ考ヘル、其考ヘニ對シテ設令他日破產法ガ民事商事ニ通シテ適用セラルルヤウニ極ツテモ職權ヲ以テ破產ノ宣告ヲスルト云フヤウナコトハ法人ノ場合ニハ適當デアルカハ知ラナイガ、外ノ場合デハ適當デナイト云フコトデアリマスレバ、夫レナレバ議論ニナルガ、夫レガ一ノ問題デ、もう一ツノ方ノ破產法ガ果シテ民事商事ニ通ジテ適用スルモノデアルヤ否ヤハ未定デアルカラト云フ事デゴザイマスレバ之ハ三號ノろじつくニ合ハヌヤウニナリマスカラ、矢張リ此豫定問題カラ先キニシナケレバナラヌ、其豫定問題ト云フモノヲ他日ニ讓ルト云フ事デアレバ、前ノ第三號ノ議事ヲ今此處デ續ケテモ一向用ヲ爲サヌト思ヒマス、夫レデ若シ提出者ノ意デ破產法ハ民事商事ニ通ジテ適用スルト云フ事ヲ假定シタ所デ、夫レデモ起草委員ノ說明ノ職權云々ト云フコトガアルカラ、其理由カラ來ナケレバナラヌト云フ事デアレバ今ノヤウニナルガ、夫レデ二ツニ分ケテ相談ヲシタイト思フ
高木豐三君
私ハ詰リ此事柄ガ必要デナイト云フノデハナイ
土方寧君
夫レデハ私ハ意見ヲ述ベマス、今ノ成立ツテ居ル修正案ガ場所ノ事ナレバ然ウデアリマスガ、先刻ノ第三號ニ付テノ豫定問題カラ決セヌト往ケマセヌカラ、あの三號ヲ原案ノ通リト豫定スルト同ジ考ヘデ、先ヅ此處デハ原案ノ儘デ通過スルコトヲ希望シマス
長谷川喬君
今ノ土方君ノ議論ニスルト、場所ノ問題ト言ハレマスガ、私ハ決シテ然ウハ思ヒマセヌ、若シ此事ガ必要デアレバ現行ノ商事會社法ニ明カニ書テアル夫レ故ニ其儘職權ヲ以テト云フ事ガ適用ガ出來ル、又之ヲ民事商事ニ合セテ用ヰルヤウニスルナレバ又其時ニ出來ルカラシテ、此處ニ之ヲ置クニハ及バヌト云フ吾吾ノ意見デアリマス
富井政章君
今ノ長谷川君ノ御說ハ誤リデアリハセヌカ、此處デ言フ法人ハ商事會社デナイ從ツテ破產法モ當嵌マラヌ、又先刻高木君ノ言ハレタ通リニ商法ノ中ノ破產法ニハ支拂停止ト云フ事ガアル此處デハ債務ヲ完濟セヌト云フノデアル、其點モ違ウ、故ニ商法ノ破產法ガアルカラ足リルト云フ事ハ到底言ヘナイ話シデアル
議長(伊藤伯)
夫レデハ田部さんノ御說ニ御同意ノ方ハ起立ヲ請ヒマス
起立者少數
議長(伊藤伯)
少數
箕作麟祥君
是ハ理事計リデ監事ノ方ハ要ラヌト云フノデアリマスカ
穗積陳重君
監事ハ仕事ヲスル方ニハ一ツモ啄ヲ容レナイヤウニスル
高木豐三君
然ウスルト、之ハ土方君ノ言ハレタヤウニ前條ノ破產ノ豫決問題ガ極マルマデ此儘ニシテ置クト云フ事デアレバ議事ノ必要ハアリマセヌガ、若シ然ウデナクシテ此儘議スルト云フ事ニナレバ私ハ裁判所ガ此事ニ關スル手續上ニ付テ伺ヒタイ事ガアリマスガ之ハ御中止ニナルノデアリマスカ何ウ云フ事ニナリマスカ
本野一郎君
豫定デナイ
穗積陳重君
後トカラ整理ノ必要ガ出テ來ルカモ知レヌ
横田國臣君
是ハ後トノ何レノ條ニアルカ、「其債務ヲ完濟スルコト能ハサルニ至リタルトキハ」ト云フノハ何ウ云フ風ニ見ルノデアリマスカ、其財產ト社債ト釣合ハヌト云フ時ヲ云フノデアリマスカ、又ハ何カ外ニ理窟ガアルノデアリマスカ
穗積陳重君
夫レハ法律問題ノヤウニハ思ヒマセヌ全ク事實ノ問題デ、一時大キナ借金ヲスルヤウナ事ガ會社抔ニハ幾ラモアル、併ナガラ或ル有樣カラシテ夫レヲ完濟スルコトノ見込ミガ着カヌヤウナ事ニナツテ來ル、夫レガ一番分カリ易イ
横田國臣君
此處デハ法律問題トシテ決シテ置カナケレバナラヌ、何故ナレバ法律デハ完濟スルコトガ能ハヌト云フコトハ何ウ云フ事ナリト云フ、卽チ法律上ノでひにしよん丈ケナケレバナラヌ、支拂ヲ停止スルト云フヤウナ事ハあれハ制限ガアツテ分カル、併ナガラ此完濟スル事ガ能ハヌ時ニハ裁判所ガ職權ヲ以テヤルヤウニナル時ニハ、夫レハ完濟スルコトガ出來ナイトキハ何モ標準ト云フモノガ一ツモ立タナイ、何ウモ私ハ夫レハ事實問題ト言ハレルケレドモ、事實問題ハ夫レハ法律ヲ當テテノ上デアルガ、完濟ト云フ事ハ何ウ云フ事ヲ言フト云フ事ノ法律上ノ解釋ガナケレバナラヌト思フ
穗積陳重君
夫レハ議論ダラウ
横田國臣君
質問スルノデアル、其でひにしよんガナイナレバナイデ宜シイ
穗積陳重君
私ハ然ウ云フ事ヲ法律ニ掲ゲル必要ハナイト思フノデアル
田部芳君
只今六十九條ヲ削除スルノ修正案ヲ提出致シマシタガ惜ヒ哉消滅致シマシタ、夫レデ此六十九條ハ未ダ何ウモ未練ガ殘ツテ居リマスルカラもう少シク違ツタ所ノ修正案ヲ提出致シマス、此六十九條ト七十九條トヲ較ベテ見マスルト云フト大分其工合ガ違ツテ居ルヤウニ見ヘマス、之ハ第七十九條ト凡テ同ジデアリマセヌガ、七十九條ノ第一項ノヤウナ工合デアリマスレバまだ此處ヲ置クモ宜イカモ知レマセヌガ現在ノヤウナ有樣デハ頗ル奇径ノ箇條ノヤウニ私ハ考ヘマスル夫故ニ此六十九條ヲ修正致シテ斯樣ニ致シタク存ジマスル、夫レハ「法人カ其債務ヲ完濟スルコト能ハサルニ至リタルトキハ理事ハ直チニ破產手續ノ開始ヲナシテ其旨ヲ公告スヘシ、」斯樣ニ改メタ方ガ宜シイト思ヒマス、然ウスルト八十二條ノ方ニモ能ク合ウト思ヒマス、卽チ理事ニ然ウ云フ義務ヲ負ハセルノデアリマス、債務ヲ完濟スルコトガ出來ナイト云フ場合ハ理事ハ然ウ云フ義務ガアル、斯樣ニ破產手續ノ開始ヲセンケレバナラヌト云フコトデアレバマダシモ此處ニ置クノハ可笑シクナイガ、此處ノ現在ノヤウニ恰モ破產法ノ初メニデモ置クヤウナコトヲ此處ニ置クノハ頗ル奇怪ト思ヒマス、夫レデ七十九條ニ倣ツテ理事ハ斯ウ云フ場合ノ時ニハ斯ウ云フ義務ガアルゾ、其手續ヲセヌト八十二條ノヤウナ如キ制裁ガアルゾト云フ事ヲ云ツテ置クガ至極穩當ト思ヒマス、夫レ故ニ前ニ陳ベマシタ所ノ修正案ヲ提出致シマス
土方寧君
然ウスルト債權者カラハ直チニハ出來マセヌガ、債權者カラ理事ニ迫ラセルノデアリマスカ
田部芳君
理事ニ義務ヲ負ハセル、もう一言述ベテ置キマスガ、尙ホ其細カイ事ハ或ハ破產法ト云フモノヲ變ヘルト云フ主義デ私ハ然ウ云フ事ニ假定シテ論ズルノデアリマスガ、然ウスレバ此處デハ理事丈ケノ義務ヲ極メテ置ク、破產法ヲ廣ク適用スルト云フ事デアリマスレバ破產法デ職權ヲ以テ破產ノ宣告ヲスルト云フ事ニ極メテモ差支ヘナイ、未ダ其事ノ問題ハ只今此處デハ見ナイ詰リ理事ト云フ者ニ斯ウ云フ義務ガアルト云フ事ヲ極メテ置キタイト考ヘマスルカラ夫レデ只今ノ土方君ノ述ベラレマシタル事ニハ一向關係ハナイト思ヒマス
菊池武夫君
私ハ之ヲ「又ハ職權ヲ以テ」ト云フコトハ削ル方ガ宜シイト考ヘマス、元ト法人ト云フモノハ成程公益ノ爲メニ存シテ居ルト云フ譯デアリマスケレドモ、此處ノ旨意ハ借金ガ拂ヘナクナツタト云フ場合デアリマスカラ、其借金ノ拂ヘナイ場合ニハ公益ヲ害スルトカ何ントカ、卽チ不法ノ事、法律ニ違ツタヤウナ事ヲスルトカ云フヤウナ、卽チ此次ノ箇條ニアリマスルヤウナ事ヲシタ場合トハ同ジニ見ルコトハ出來ナイト思ヒマス、詰リ借金ノ返ヘセヌト云フ時ニハ其事ヲ理事ガ言フカ債權者ガ言フカ何レ利害ノ最モ大イナル人逹デアリマスルカラ、此人逹カラ申出ルニ相違ナイ、又此人逹ガ申出ヌ位ノ場合ニハ裁判所ガ公益ヲ保護スル目的ヲ以テ態々之ニ立入ツテ破產ノ宣告ヲシナケレバナラヌト云フヤウナ事トハ、實際ノ事情ニ照ラシテ考ヘテ見テモ左樣ナル場合ニハ必要ハアリサウモナイヤウニ考ヘマスルカラシテ、之ハ恐ラク此處ニ御置キニナツテモ空文ニ屬スルモノデアラウト思ヒマスカラ此「又ハ職權ヲ以テ」ト云フ事丈ケハ御削リニナツタ方ガ宜シイト思ヒマス
横田國臣君
贊成シマス、夫レハもう最初カラ贊成ナノデアリマス、夫レデ此利益ヲ目的トスル方ノ法人ニ付テハ今ノ商法ニ從ウ、商事會社ノ規則ニ從フト云フコトガアリマスカラ、夫レダカラシテ夫レニ付テハ要ラナイ、當然職權ニ這入ツテ居リマセウ、夫レカラ又其他ノモノニ於テハ元ト主務官廳ノ許可ヲ得テ立テタノデアリマスカラ夫レガ公益ニ背クト云フヤウナ事ハアルマイ、アル譯ハナイ、若シ又公益ニ背キ公益以外ノ事ヲスルモノナレバ七十條ガアル、シテ見レバ此「又ハ職權ヲ以テ」ト云フコトハ要ラナイ、夫レニ先刻破產ノ所ヲ御引キニナツタケレドモ、夫レハ通常ノ何ニトハ大變違ウ、夫レハ此間モアリマシタガ例ヘバ慈善社トカ云フヤウナモノガアツテ内實ハ私利ヲ營ンデ居ルモノガアル、夫レハ然ウ云フ場合ニハ無論裁判所カラヤラナケレバナラヌ、併ナガラ官カラ定メテヤツタ目的、官カラ定メテヤツタ目的ト言ツタラ惡ルイカモ知レヌガ、夫レニ背クヤウナ事ガアレバ其許可ヲ取消スヤウナコトハ宜カラウガ、唯借金ガ濟セヌト云フヤウナ時ニ此職權ヲ以テヤルト云フヤウナコトハ往ケヌト思ヒマスカラ贊成ヲスルノデアリマス
穗積陳重君
横田君ニ伺ヒマスガ、商事會社又ハ商人ノ支拂ヲ停止シタ場合ニ於テハ矢張リ職權ヲ以テ破產ノ宣告ヲ爲スト云フ方ノ規定ハ存シテ御置キニナル御積リデアリマスカ
横田國臣君
商事會社デアレバ其支拂ヲ停止シタ時ハ其通リデアル
穗積陳重君
法人ニハ職權ト云フコトハ却テ要ラナイ、一己人又ハ一會社ニ在ツテハ職權ガ要ルト云フ理由ハ
横田國臣君
夫レハ一方ハ商事卽チ利益ヲ目的トスルモノ、此會社ハ利益ヲ目的トセヌモノヲ云フ、其利益ヲ目的トスル會社ニハ總テ商事會社ノ規定ヲ適用スル、夫レダカラ其方ハ當然往ク、此場合ハ往ケヌ、夫レデ商事會社ト違ウノハ商事ト非商事トノ違ヒデアル
穗積陳重君
商事ノ方ハ職權ヲ存シテ置テ公益ノ方ハ職權ヲ取ツテ仕舞ハレルト云フ理由ハ何處ニアリマスカ
横田國臣君
其理由ハ同ジ商事會社デナクテモガ利益ヲ目的トスル方ハ商事會社ノ法ニ依ル事ニナツテ居ル、夫レダカラ夫レハ此處ニ言ハヌデモ宜シイ、後トニ殘ルモノハ何ウカナラバ商事デモ何ンデモナイ、唯斯ウ云フモノデ、今ノ公益ノ爲メニスルトカ何ントカ云フ會社デアル、夫レダカラ其方ハ許可ヲ得テヤツテ居ルノデあぶない事モ何モナイ、若シ目的外ノ事ヲシタナレバ七十條ガ當ル
梅謙次郎君
私ハ先刻商人ヤ又商人ナラザル者ガ破產ヲ爲スト云フニ付テハ裁判所ガ職權ヲ以テ破產ノ宣告ヲ爲スガ如キ必要ハナカラウト思ヒマスルニ拘ハラズ、法人ニ付テハ其必要ガアルト云フコトヲ申シテ置キマシタガ、只今横田君ノ言ハレル所デハ全ク夫レト反對ノヤウデアリマス、尤モ只今始メテ言ハレタノデアリマセヌガ、私共ノ考ヘデハ破產ノ制度ト云フモノハ直接ニ債權者ヲ保護シ間接ニ其債務者ヲモ保護スルコトニナルデアラウト思ヒマス、商事會社ニ付テ私ガ職權ヲ以テ裁判所ガ破產ヲ宣告スルコトガ出來ルヤウニシタ方ガ宜カラウト云フコトヲ言フタノハ、之ハ一ツニハ會社ト云フ大キナ機關トモ言フベキモノハ一個人ニ較ベテ見レバ概シテ其事業モ大キイ、夫レニたづさわツテスル事業ハ概シテ數モ多イ、利益モ多イモノデアル、夫レヲ直接ニ保護スルト云フ目的モ勿論這入ツテ居リマスルガ、尙ホ間接ニ會社ハ今日ノ商事世界ニ在ツテハ極必要ノモノデアツテ、若シ之レ無クテハ商事ノ發逹ヲ圖ルコトガ出來ナイ、其會社ガ不幸其他ノ理由ニ依テ破產ヲシヤウト云フヤウナ場合ニナツタ時ハ、其破產ト云フモノヲバ早ク宣告スレバ殘ツテ居ル財產ヲ債權者ガ分ケ取ルコトガ出來ルモ、若シ手遲レニデモナツタナラバ最早債權者ガ取ルコトガ出來ナイト云フヤウナコトガ多イノデアリマス、若シ然ウ云フコトガ毎々アツタナレバ最早人ガ會社ト云フモノヲ信用シナイ、會社ヲ人ガ信用シテ取引ヲシテ呉レヌヤウニナツタナレバ會社ト云フモノハ全ク立ツテ往クコトガ出來ナイヤウニナル、夫レデアリマスカラ間接ニハ會社ヲ保護スル事ニナルノデアリマス、夫レ故ニ私ハ商事會社ニ付テハ特ニ裁判所ガ職權ヲ以テ破產ヲ宣告スルコトハ最モ必要ガアルト思フノデアル、夫レト同一ニ法人ハ公益ノ爲メニ立ツテ居ルモノデアル、成程菊池君ノ言ハレル通リニ、今破產ヲスルニ當ツテ直接ニ公益ニ關係スル問題ハ起ツテ來ナイヤウデアリマスガ、去リナガラ元々公益ノ爲メニ立ツタ法人デアル、其法人ガ仕事ヲ爲シタ、其仕事ニ依テ第三者卽チ此處デ謂フ債權者ノ地位ニ立ツタ所ノ者ガ損害ヲ受ケルト云フコトハ事柄自身ガ旣ニ宜シクナイニ、尙ホ間接ニハ若シ然ウ云フ法人ト云フ者ガ毎々アツテ、旣ニ破產スベキ地位ニナツテモガ尙ホ取續カレルデアラウト云フノデ理事ノ方デハ種々ノヤリ繰リヲ致シテ居ル、裁判所ノ目カラ見レバもう往カヌト云フコトヲ認メテ居ツテモ理事ノ種々ノ窮策ヲ行ツテ可成夫レデ長ク續ケサセヤウト云フ事デアリマシタナレバ愈々益々其法人ノ財產ヲ滅茶々々ニシテ仕舞ウ、然ウ云フ場合ニナツテ愈々破產ヲ宣告スルヤウナ場合ニ最早債權者ノ取ル物ガ無クナツテ仕舞ウト云フ事ガ毎々アツタナレバ人ガもう法人ト云フモノヲ信用セヌヤウニナツテ來ル、然ウナツテハもう法人ガ世間ニ向ツテ事業ヲ爲スコトガ出來ヌヤウニナル、元々公益ヲ目的トシテ法律ガ保護ヲシテ居ル法人デアリナガラ世ノ中ノ信用ヲ得ヌヤウニナツテハ相成リマセヌカラ、尙更ラ以テ破產デモスルヤウナ場合ニナツタナラバ、法人ハ速ニ破產ヲ宣告シテ然ウシテ以テ債權者ニ成ルベク少ナク損害ヲ掛ケルト云フヤウナ事ニ努メルノガ抑モ立法者タル者ノ務デアラウト思ヒマス、其爲メニ公益ニ關スル法人ノ破產ノ時ニハ特ニ裁判所ガ職權ヲ以テ破產ヲ宣告スルコトハ最モ必要デアラウト思ヒマス、夫レデ私ハ通常ノ商人抔デ利益ヲ目的トスルモノナレバ必ズシモ裁判所ノ職權ヲ以テ宣苦スルニモ及バヌト思ヒマスケレドモ、此法人ノ破產ニ付テハ特ニ裁判所ニ此職權ヲ與ヘルノガ最モ必要デアラウト思ヒマス
横田國臣君
もう一言分ツタ事デアリマスガ申シマス、通常ノ商人デアルト夫レニ向ツテ主務官廳ガ許可ヲ取消スト云フヤウナコトハ少シモ出來ハシナイ、ケレドモ早ク氣ノ着クモノハ行政官デアル、之ハ裁判所ヨリ行政官ノ方ガ早ク氣ガ着ク、其時ハ其主務官廳デ其許可ヲ取消シサヘスレバ宜イ、何モ構ウ事ハアルマイト思ヒマス
菊池武夫君
私ハもう一應理窟ヲ言フノデハアリマセヌガ、梅さんノ言ハレタヤウニスルト裁判所ハ餘程目ノ鋭イヤウデアリマスガ、併シ實際ニナルト裁判所ハ一番後トデ知ルノデアル、卽チ一番後トニ知ツテ仕事ヲスル職掌デアル其者ニ向ツテ債權者ヨリモ先キニ知ルヤウナ趣意ヲ以テ此箇條ヲ御置キニナツテモ或ハ空文ニ屬シバセンカト思ヒマス
梅謙次郎君
横田君ニ伺ヒマスガ、七十條ハ法人ガ其目的以外ノ事業ヲ爲シ又ハ設立ノ許可ヲ得タル條件ニ違反シ又ハ公益ヲ害スベキ場合ノミニ對シテ居ル唯財產ガ少シ減ツテ其債務ヲ完濟スルコトガ出來惡ククナツタト云フヤウナ場合ハ如何ニシテ此七十條ニ當嵌メルコトガ出來マセウカ
横田國臣君
尙更ラ宜イト思ヒマス、當リ前ノ事ヲシテ官ガ許可ヲスレバ大概此事業ハ斯ウ云フ事業ヲスルト定メテアツテ之デ宜シイト認メテアル、若シ夫レガ許可ヲセヌト云フ事デアレバ何カ妙ナ會社ヲ目論ムトカ何ントカ云フヤウナモノモゴザイマセウケレドモ、當リ前ノ事ヲシテ又當リ前ニ金ガ少ナクナツテ居ルノデアリマスレバ必ズ夫レハ債權者ガ最モ早ク知ルベキコトデアリマス、そんなニ八釜敷言フニハ及バヌト思ヒマス
(此時高木委員「討論終結」ト呼ブ)
議長(伊藤伯)
然レバ採決シマス、菊池君ノ修正デ「又ハ職權ヲ以テ」ト云フ字ヲ削ルト云フ事ニ御同意ノ方ハ起立
起立者少數
議長(伊藤伯)
少數、然レバ此條ハ最早討論ノ要ハナイヤウデアリマスカラ原案ノ通リニ決シテ次ノ七十條ニ移リマス
(書記朗讀)
第七十條 法人カ其目的以外ノ事業ヲ爲シ又ハ設立ノ許可ヲ得タル條件ニ違反シ其他公益ヲ害スヘキ行爲ヲ爲ストキハ主務官廳ハ其許可ヲ取消スコトヲ得
(參照)商六七、二項、瑞債務法七一六、四項、グラウブユンデン九四、九五、ツユーリヒ三五、三七、四七、モンテネグロ七四六、七四八、七四九、七六三乃至七六五、白草五三二、獨二草四〇、普國法二部六章一九〇、索五六、紐草三八一
(理由)一、法律カ特ニ法人ナル擬制ヲ設ケテ無形體ニ權利義務ノ主格タルコトヲ許ス所以ノモノハ其公益ヲ進捗スヘキモノナルヲ以テナリ故ニ苟モ公益ニ反スルコトアルトキハ法人ハ其存在ノ理由ヲ失フモノト謂ハサルコトヲ得ス若シ法人ニシテ慈善、技術等ヲ名トシテ實ハ社員カ私利ヲ營ムノ機關タリ又ハ宗教、學問等ヲ目的トスルモノニシテ政治上ノ事業ヲ爲シ其他治安ヲ害シ風俗ヲ紊ルカ如キコトアルトキハ國ハ其監督權ニ依リ其許可ヲ取消シ之ヲ解散セシムルコトヲ得ヘキモノトス
二、商事會社及ヒ之ニ準スヘキ營利的法人ノ事業カ公安又ハ風俗ヲ害スヘキ虞アルトキハ商法ノ規定ニ依リ裁判所ノ命令ヲ以テ之ヲ解散セシムルコトヲ得ヘキモノナリト雖モ本法ニ依ルヘキ法人ハ主トシテ行政ノ管轄ニ屬スル事業ヲ目的トスルモノナルヲ以テ諸國ノ法制ノ多ク執ル所ノ主義ニ隨ヒ之ヲ主務行政官廳ノ職權内ニ屬セシメタリ
(此時「異議ナシ」ト呼ブ者多シ)
議長(伊藤伯)
別ニ御異論ガナケレバ次ノ條ニ移リマス
(書記朗讀)
第七十一條 解散シタル法人ノ財產ハ定款又ハ寄附行爲ヲ以テ歸屬權利者ト定メタル人ニ歸屬ス
定款又ハ寄附行爲ニ於テ歸屬權利者ヲ指定セス又ハ之ヲ指定スル方法ヲ定メサルトキハ理事ハ主務官廳ノ許可ヲ得テ其法人ノ目的ト類似セル目的ノ爲メニ其財產ヲ處分スルコトヲ得但社團法人ニ在リテハ總會ノ決議ヲ經ルコトヲ要ス
前二項ニ依リ處分セラレサル財產ハ國庫ニ歸屬ス
(參照)取三一五、瑞債務法七一六、三項、グラウブユンデン九三、九六、ツユーリヒ三七、三八、四六、モンテネグロ七五二、七五三、七六二、西三九、白草五三二、獨二草四一、四二、普國法二部六章一九二、一九三、一九五、索五七
(理由)法人ハ自然人ノ如ク相續人ヲ有スル者ニ非ス且遺言ヲ爲ス能力ヲモ有セサルモノナルヲ以テ其解散ノ場合ニ於ケル遺產ノ處分ハ特ニ法律ヲ以テ之ヲ規定セサルヘカラス本案ニ於テハ法人創立者ノ意思ニ基キテ遺產歸屬ノ順位ヲ定ムルノ主義ヲ採リ第一ニ定款ノ規定ニ依リ指定セラレタル人ヲ歸屬權利者トシ次ニ其法人ノ目的ト類似セル目的ノ爲メニ其遺產ヲ處分スルコトヲ許シ終リニ國庫ニ歸屬スヘキモノトセリ
一、法人ノ創立者カ定款中ニ歸屬權利者ヲ指定シ又ハ之ヲ指定スル方法ヲ定ムルトキハ法人ノ遺產ハ其者ニ歸屬スルヲ當然トス是レ他ナシ法人ノ創立者カ創立行爲ヲ以テ或公益事業ノ存續期間ハ自己ノ財產ヲ其目的ニ供シ其事業ノ廢止シタル後ハ之ヲ豫定ノ人ニ與ヘントスル意思ヲ表シタルトキ法律カ之ニ效力ヲ與フルモ公益上敢テ妨ナキノミナラス此ノ如ク公義心ヲ有スル者ノ意思ヲ保護スルハ公益事業ノ發逹ヲ獎勵スルノ一途タレハナリ
二、營利的法人解散ノ場合ニ於テ若シ定款ニ歸屬權利者ヲ定メサルトキハ其遺產ハ創立者若クハ其子孫又ハ社員ニ復歸スルヲ當然トスヘキカ如シト雖モ純然タル公益ヲ目的トスル法人ニ於テハ其創立者又ハ社員ハ各公共ノ利益ノ爲メニ自己ノ財產ヲ義捐シタルモノナルヲ以テ之ヲ其出資者又ハ其子孫ニ還付スルハ却テ其本意ニ背クモノト言ハサルヲ得ス加之若シ法人ノ遺產ヲ創立者又ハ社員ニ分配スルコトヲ得ヘシトスルトキハ或ハ私利ノ爲メニ公益事業ヲ廢止スルカ如キ弊ヲ生スルコトナキヲ保スヘカラス然リト雖モ直チニ其財產ヲ國庫ニ沒入スルモ亦創立者ノ意思ニ反スルノ虞アルヲ以テ本案ニ於テハ成ルヘク創立者ノ意思ヲ貫徹セシメンカ爲メニ其遺產ヲ類似ノ目的ノ爲メニ處分スルコトヲ許シ或ハ之ヲ資本トシテ新ニ法人ヲ設立シ或ハ之ヲ公益事業ニ寄附スルコトヲ許スモノトセリ
三、法人ノ財產ハ固ト公益ノ目的ニ供シタルモノナルヲ以テ若シ前二項ニ掲ケタル歸屬權利者ナキトキハ其遺產ヲ國庫ニ收入シテ一般ノ國用ニ供スルハ蓋シ其創立者ノ意思ニ適合スルモノト謂ハサルヘカラス或ハ一地方ノ利益ヲ目的トシタル法人ト一般ノ利益ヲ目的トシタル法人トヲ區別シ前者ノ遺產ハ其地方ニ收入シ後者ノ遺產ハ國庫ニ收入シ且成ルヘク之ヲ其法人ノ目的ト類似セル目的ニ使用スヘキノ規定ヲ設クル國アリト雖モ此ノ如キ規定ハ徒ラニ國庫若クハ地方庫ニ用途指定ノ費目ヲ增シ或ハ煩雜ヲ招クノ虞ナシトセス故ニ恰モ無相續遺產ノ國庫ニ歸屬スル場合ノ如ク無主物、國庫ニ屬スルノ原則ニ據リ之ヲ國庫ニ收入シテ一般ノ國用ニ供スルノ簡ニシテ且創立者ノ意ニ適フノ優レルニ如カサルナリ
高木豐三君
一寸御尋ネシマスガ、本條ニ歸屬權利者ノ定ツテナイ時ニハ主務官廳ノ許可ヲ得テ其法人ノ目的ト類似セル目的ノ爲メニ云々ト云フコトガアリマスガ、之ハ無論成ルベク其寄附者トカ遺贈者トカノ意思ヲ貫カウト云フ御趣意ニ相違ナイト考ヘル、又至極結構ナ事ト考ヘルガ、併シ實際ニ於テハ例ヘバ是迄ハ彼ノ士族授產ノ爲メニれーす製造ノ爲メニ金ガ出シテアル、所ガ例ヘバれーすト云フモノガ悉ク賣レナクナツテ其目的ガ往カヌト云フ事ニナツタ時ニ矢張リ夫レニ類似ト云フ所ノ條件ヲ付ケルト云フコトガ果シテ必要デアラウカ、主務官廳ノ許可ヲ得テヤル時ナレバ唯其主務官廳ト協議シテ其目的ヲ定メテ其財產ヲ處分スルト云フ事丈ケデハ不都合デゴザイマセウカ、私ハ或ハ却テ實際ニハ寧ロ利益ノ方ニ用ヰサセル便利ヲ與ヘラレル方ガ利益ガアリハセヌカト思ヒマス、多分外ノ國デモ斯ウ云フ事ガ多カラウト考ヘルガ
穗積陳重君
御答ヘ致シマス、此類似セル目的ノ爲メト云フノハ御察シノ通リ諸國ノ例ニ依リマシタノデアリマス、最モ近イ目的トカ或ハ類似ト云フ字ガ使フテアル國ガ多イヤウデアリマス、唯其元トノ目的トハ關係ノナイモノニ直チニ處分スルコトヲ得ルト云フコトヲ掲ゲマスルト云フト、理事ガ隨分勝手ナ事ヲ表面キノ宜シイ理由ヲ付ケテスルコトガ出來ルデアラウ、夫レ故ニ主務官廳ノ許可ヲ經ルト云フコトト且許可ヲ經ルニ付テモ其財產ヲ處分スル目的ト云フモノハ始メノ目的ニ成ルベク能ク近寄ツテ居ル目的デナケレバナラヌト云フコトヲ定メル必要ガアリマス、要スルニ其理事ガ其財產ヲ濫用スルヤウナ事ノナイヤウニ妨グノト、且初メ設立シタ者ノ意思ヲ何處迄モ貫徹サセルノ必要ガアルト云フ所カラ出タノデアリマス、例ヘバ貧民ノ爲メニ起シタ法人ガ解散サレル、然ウスルト何カ又貧民ノ利益ニナルコトトカ或ハ何カ宗教ノ爲メニ立テタ法人ガ解散サレタナラバ其宗教ノ爲メトカ、又ハ病院ト云フモノガ解散サレタナラバ其遺產ト云フモノハ成ルベク衞生トカ又ハ病院トカ云フ風ノ事ニ向ケル、斯ウ云フ事ヲ豫メ定メテ置クト云フ積リデ類似セル目的ト云フ事ヲ本案ニ掲ゲタノデアリマス、デ其類似セル目的ト云フコトヲ掲ゲナイデ置クト初メノ設立者ノ意思ヲ貫カヌト云フ事ト、又裏ニ於テハ其理事抔ガ濫リナ事ヲセヌヤウニシタイト云フ意見モアリマス、成ル程官廳デ許可ヲシナイカラ宜イト云フヤウナ御考ヘモアルカモ知レマセヌガ、主務官廳抔ニ於テハ何分其目的ヲ立ツテ來タモノヲ悉ク調ベル事モ出來マスマイ、唯表向ヨリ理由ヲ以テ許可ヲ請求スレバ矢張リ相當ノ理由ガ付テ居レバ必ズ許可センケレバナラヌト云フ事ニナラウト思ヒマスカラ、矢張リ是丈ケノ制限ヲ設ケテ置クノガ必要デアラウト思フノデアリマス
横田國臣君
一寸御尋ネシマスガ、「其財產ヲ處分スルコトヲ得」トナツテ居リマスルガ、之ハ何ウ云フ所カラ理事ガスルノデアリマセウカ、然ウスルト此處ノ「得」ト云フノハ理事ガ然ウ云フ事ガ出來ルト云フ權利カラ唯言フタノデスカ、又ハ理事ハ然ウ云フ事モ出來ル外ノ事モ出來ルト云フヤウナ風ニ見ルノデアリマスカ、理事ハ然ウ云フ風ニシナケレバナラヌト云フノデアリマスカ、理事ハ其財產ヲ處分スル事ガ出來ルト云フト、若シ斯ウ云フ事モ出來ルト云フト、又何ンダカ是ヨリモ外ノ事モスルヤウナ事モアルト云フヤウナ風ニ見ヘハシナイカト思ヒマスガ如何デアリマスカ
穗積陳重君
固ヨリ法人ガ消滅シタ場合ニハ其遺產ヲ理事ガ勝手ニ處分スルコトハ出來ナイノガ當リ前デ、此法文ガアツテ始メテ是丈ケノ事ガ出來ル併ナガラ必ズ處分スベシトハ此處ニハ命令ハシテナイ、夫レニ類似セル目的ノ事業ガナイカモ知レヌ、又類似セル目的ノ事業ノ爲メニ處分スル程ノ財產ガ殘ツテ居ラヌカモ知レナイ、色々ナ事ガアリマスカラシテ理事ニ夫レ丈ケノ權利ヲ與ヘタ丈ケデ強チ斯ノ如キ處分ヲスルコトハ卽チ理事ノ爲スベキモノトスルノデモナイ、夫レデ若シ理事ガ斯ノ如キ處分ヲシマセヌ時ニ於テハ則チ其遺產ハ國庫ニ歸屬スルモノトナリマス、隨分或國ノ法ニ於テハ直チニ國庫ニ歸屬シテ國庫ガ然ウ云フ類似ノ目的ニ其財產ヲ使ウト云フ規定ガアル、又地方ガ目的ナレバ其地方ノ目的ノ類似ノ事ニ使ウト云フ事モ隨分アル其方ハ必ズ斯クノ如キ人人ニ其財產ヲ向ケナケレバナラヌト云フ事ガ掲ゲテアル事モアリマスガ、此處ノ理事ノ場合ニ於テハ唯是丈ケノ事ガ出來ル、外ノ事ハ出來ナイト云フ意味デアリマス
横田國臣君
今御問ヒ申シタノデ後トノ御答ヘヲ惹起サナケレバナラヌガ然ウスルト無論ナイ金ヲ使ウ事ガ出來ナイカラ然ウ云フ時分ニハ處分スルコトハ出來ナイ、夫レハ當リ前デアリマス、併ナガラ私ガ茲ニ御尋ネシヤウト思フノハ若シ起草者ガ類似ノ目的ノ爲メニ必ズ使ハナケレバナラヌト云フ意デアルカ此第一項ノヤウニシテアレバ宜イガ、其他ノ場合ハ總テ處分ヲシナケレバナラヌト云フ事デアツテ見ルト、社團法人ト云フモノハ其總會ノ決議ヲ經ル事ヲ要スルト云フト無論決議ヲ經テスルトナル、然ウスルト此社團法人ト云フモノハ類似ノ目的以外ノ事ニ使ウ事ハ出來ナイト云フ意味ニナツテ來マスガ、夫レデモ宜イト云フ御意見デゴザイマセウカ
穗積陳重君
固ヨリ其積リナノデアリマス、此處ハ法人ノ解散シタ場合、卽チ遺產處分デアリマスカラシテ、其遺產ヲ斯ノ如ク極メル譯ハ、若シ遺產ヲ勝手次第ニ處分スルコトガ出來ルト云フコトニスルト或ハ其社員抔ガ宜イ加減ナ議決ヲシテ然ウシテ分ケ取ヲスルヤウナコトヲスルカモ知レマセヌ、法人ノ遺產ト云フモノヲ法人關係者ガ自由ニ處分スルコトガ出來ルト云フコトニ致シテ置クト、折角ノ公益事業ヲ止メテ分ケ取ヲシヤウト云フヤウナ問題ガ出テ來マスルカラ、何處迄モ其關係者ニ歸ラヌヤウナ規定ヲ拵ヘテ置カヌト公益ノ爲メニナラヌ、且一旦公益ノ爲メニ寄附シタモノデアルカラシテ何處迄モ公益ノ爲メニ使バレルノガ其設立者ノ本意ニ叶フモノデアリマス、故ニ社團法人デアツテモ其目的ト類似スル事ノ外ニ財產ヲ處分スルヤウナ議決ヲ爲ス事ハ出來ナイノデアル
村田保君
私ハ一寸文字上ノ事デアリマスガ「歸屬權利者ト定メタル人ニ歸屬ス」トアリマスルガ、私ハ之ハ唯「權利者」ト言ヘバ歸屬ト云フ事ハ別ニ言ハナクテモ歸屬スルモノト思ヒマスガ「歸屬權利者」ト云フ事ハ何ウデゴザイマセウカ、餘リ目新シイ文字ガ「歸屬權利者」ト云ツタ所ガ矢張リ自然ニ其人ニ歸屬スルノデアリマスカラ、之ハ唯「權利者ト定メタル人ニ歸屬ス」ト書テハ何ウデゴザイマセウカ、現行法デハ何ウ云フヤウニ書テアリマスカ
箕作麟祥君
現行法ニハナイ
村田保君
夫レナレバ之ハ新ニ拵ヘラレタ字デアリマスナ
穗積陳重君
併シ尙ホ適當ナ語ガアレバ宜シウゴザイマスガ、何カ結構ナ符牒ヲ拵ヘヌト往カナイト思ヒマス
高木豐三君
私ハ「歸屬」ト云フ字ハ大變ニ宜イ御發明ガ出來タト思フ
議長(伊藤伯)
原語デハ何ウ書クネ
穗積陳重君
あんふアるどとれえしよん、矢張リ「歸屬」デアリマス夫レデ若シ此病院ガ往カヌヤウニナツタナラバ此地面ハ誰ニ遣ツテ呉レトカ、始メニ定メル、然ウスルト其病院ガ廢メラレタ時ニ夫レガ往クノガ「歸屬權利者」デアル
本野一郎君
或ハ病院ガ往ケヌケレバ學校ニ遣ツテ呉レトカ云フヤウナ事モアラウ
土方寧君
此七十一條ハ解散ヲシテ最早淸算ノ目的ノ範圍内ニ於テノミデ、其法人ガ無クナツタ場合デアルガ、總會ト云フモノハ淸算ノ目的ノ爲メニスルト云フノデゴザイマセウカ、何ウデゴザイマセウ
穗積陳重君
解散ノ爲メデス
土方寧君
淸算ノ目的ノ爲メニハ其法人ハ成立ツテ居ルノダカラ矢張リ總會デ宜イト云フノデアリマスカ
穗積陳重君
夫レデ宜シイ積リデアリマス
箕作麟祥君
理事ハ總會ノ決議ニ從ツテ理事ガ夫レニ類似ノ目的ニ處分シタイト思ツテモ主務官廳ガ夫レヲ許サヌト云フ時ニハ其遺產ハ何ウ云フ風ニナリマスカ
穗積陳重君
國庫ニ歸屬スルノデアリマス
箕作麟祥君
然ウ云フ場合ハ何ウデゴザイマセウカ、國庫ニ歸屬スルト云フヨリハ相續人ト同ジ譯デアルカラ國庫ニ歸屬スルヨリハ寧ロ初メニ寄附シタ者、卽チ社員ニ分配スルトスル、夫レガ往ケナケレバ國庫ニ歸屬スルトシテハ何ウデゴザイマセウカ
穗積陳重君
本條ノ旨意ハ丁度夫レヲ妨ガウト云フ旨意デアリマス、社團法人抔ガ解散スルト其遺產ガ直グニ社員ニ歸屬スルト云フコトデアルト、或ハ公益事業ヲ止メテ分ケ取ヲシヤウト云フヤウナ事ノ起ルノヲ恐レマスカラ夫レハ宜シクナイ、社員ノ分ケ取ヲスルコトハ許サナイ、營利ヲ目的トスル所ノ法人、卽チ商事會社ノ如キ法人ハ何處デモ解散スルト社員ガ其遺產ノ分ケ取ヲスル、公益ノ方ノ法人デアリマスルト云フト態々社員ニ返ヘサヌ爲メニ斯ウ云フ規定ガ要ルノデアリマス
箕作麟祥君
國庫ニ遣ル位ナラ社員ニ遣ツタ方ガ宜ササウデスガ獨逸抔デハ國庫ニ往ク前ヽヽヽヽヽ
穗積陳重君
あれハ各自ノ目的ヲ主ニスルモノ丈ケデアリマス、地方ノ利益ナラ地方、一般ノ利益ナラ國庫ト云フヤウニ分ケテアル國モアリマス
議長(伊藤伯)
別ニ御異論ガナケレバ原案可決ト認メテ次ノ七十二條ニ移リマス
(書記朗讀)
第七十二條 解散シタル法人ハ淸算ノ目的内ニ於テハ其淸算ノ結了ニ至ルマテ尙ホ存續スルモノト看做ス
(參照)商一三〇、二四七、二五〇、二五一、二五四、獨二草四四、同組合法四九、一項、普千八百七十九年四月一日法四二、八一、索千八百六十八年六月十五日法三六
(理由)法人ハ解散ニ因リテ消滅スルモノナリ故ニ淸算人ハ固ヨリ法人ノ代理人タル資格ヲ有スルモノニ非スシテ特ニ法律ノ規定ニ依リテ、解散シタル法人ノ殘務ヲ整理スルノ職務ヲ有スルモノナリ然レトモ若シ此法理ヲ貫徹セント欲スルトキハ次ニ掲クルカ如キ種々ノ不都合ヲ生スヘキヲ以テ近世諸國ノ立法ハ實際上ノ必要ヨリ本條ノ如キ規定ヲ設クルニ至レリ
一、若シ淸算人ハ其職務上自己ノ資格ヲ以テ淸算ヲ行フモノナリトスレハ解散シタル法人ノ住所ハ旣ニ全ク消滅シタルモノナルヲ以テ住所ニ於テスヘキ債務ノ辨濟ハ法人ノ住所ニ於テセスシテ淸算人ノ住所ニ於テセサルヘカラス又法人ノ普通裁判籍ハ其解散ニ因リテ消滅スルモノナルヲ以テ淸算事務ノ終結ニ至ルマテ之ヲ保續スルコトヲ得ス爲メニ淸算事項ニ係ル訴訟ハ法人ノ裁判籍ニ於テセスシテ淸算人ノ裁判籍ニ於テセサルヘカラス是等ノ場合ニ於テハ數人ノ淸算人アルトキハ其不便更ニ大ナリトス
二、社團法人解散ノ場合ニ於テハ其淸算ニ付キ社員ハ利害ノ關係ヲ有スルコト頗ル厚キモノナルヲ以テ社員ノ總會ヲシテ直接ニ淸算ヲ監督セシムルヲ最モ便利ナリトス然レトモ法人旣ニ消滅シタルモノトスルトキハ當然其社員ナルモノ存スルコトナキヲ以テ若シ總會ヲ必要トスルトキハ必ス其法人ヲ存在セルモノト規定セサルヘカラス商法ニ於テハ暗ニ本條ノ主義ヲ採リタリト雖モ之ヲ法文ニ明記セスシテ單ニ淸算人ハ會社ヲ代理スヘキコトヲ言ヒ又總會ノ事ヲ掲ケタルヲ以テ淸算人ハ旣ニ消滅シタル會社ヲ代理シ又旣ニ消滅シタル會社カ總會ヲ開キ決議ヲ爲スコトヲ得ルカ如キ奇觀ヲ呈スルニ至レリ其他淸算人カ淸算ノ目的ノ爲メニ新ニ取引ヲ爲シ又ハ訴訟行爲ヲ爲スカ如キ場合ニ於テモ自己ノ資格ヲ以テスルモノトスルヨリハ寧ロ法人ノ代理人タル資格ヲ以テスルモノトセンコト能ク實際ニ適合シ且當事者ノ爲メニ便利ナルハ敢テ論ヲ俟タス要スルニ本條ノ規定ハ淸算人ノ行爲ニ關シテ生スヘキ種々ノ疑問ヲ解クノ標準ト爲リ爲メニ之ニ關スル詳細ノ規定ヲ設クルノ煩ヲ省クノ利アリト信ス
高木豐三君
是ハ實際上必要ノ條デアル
横田國臣君
結了ノ公告ハ何ウデゴザイマセウカ
穗積陳重君
結了シタト云フ事ヲ公告スルト云フコトハ這入ツテ居ラヌ、七十八條抔デ略ボ見當ガ付ク
横田國臣君
夫レガ分カラヌト第三者抔ハ誠ニ困ル
穗積陳重君
結了シタト云フコトヲ公告スルト云フコトハ之ニハ書テナイガ、七十八條抔デ分カラウト思ヒマス
土方寧君
夫レハ必要ハナイト思ヒマス、何ゼナラバ解散ヲシタ法人デ其淸算ニ關係スルモノナラバ兎モ角モデアルガ、解散前カラ關係ノアル者デナケレバ新シク取引ヲスル者モナイ、又新シクヤル人モナイト思フ
横田國臣君
是ハ「存續スルモノト看做ス」ト云フノデアルカラ何ウデアラウカ
穗積陳重君
夫レハ淸算ノミニ存續スルノデアルカラ宜カラウ
横田國臣君
淸算ハ仕舞フタト云フコトヲ公告ヲセヌト、第三者ハ矢張リ未ダ會社ト思ツテ居ルカモ知レナイ、之ヲ公告スベキコトハ一ノ問題デ之ハ要ラウト思フ
高木豐三君
要ハ詰リ法人ガ無クナツテ仕舞ヘバ後トデ處分ノシヤウガナイ、有ル物ヲ取ル事モ出來ナケレバヽヽヽヽヽ
横田國臣君
夫レヲ分カラセヤウト云フノハ第三者ニ對シテ必要デアル
梅謙次郎君
夫レハ加ヘルト云フ事ナラバ先キヘ加ヘルト云フコトガ必要デアル
議長(伊藤伯)
本條ニ付テ異論ガナケレバ原案可決ト認メテ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第七十三條 法人解散スルトキハ破產ノ場合ヲ除ク外理事其淸算人ト爲ル但定款若クハ寄附行爲ニ別段ノ定アルトキ又ハ總會ノ議決アルトキハ他人ヲ以テ淸算人ト爲スコトヲ得
(參照)取一五〇、商一二九、二三二、グラウブユンデン九七、獨二草四三、紐草四二六
(理由)法人解散スルトキハ理事ハ當然其法律上ノ代理人タル資格ヲ失フヲ以テ法令ニ依リ特ニ之ヲ定メサレハ其殘務ヲ結了スヘキ者ナシ商法ニ於テハ商事會社ノ社員之ヲ選定スヘキモノトスレトモ此規定ハ財團法人ノ解散及ヒ社團法人カ社員ノ缺亡ノ爲メニ解散スル場合ニ適用スヘカラス故ニ法人ノ解散ト共ニ管理人ハ其資格ヲ變シテ直チニ淸算人ト爲ルモノトスルヲ最モ便利ナリトス然レトモ理事或ハ淸算人ノ職務ニ適セサルコトアルヘキヲ以テ本條ニ於テハ定款、寄附行爲又ハ總會ノ議決ニ依リ他人ヲ選定スルノ餘地ヲ存セリ而シテ破產ノ場合ヲ除外セルハ此場合ニ於テハ裁判所カ職務上破產管財人ヲ選任スヘキヲ以テ別ニ淸算人ヲ置ク必要ナキヲ以テナリ
議長(伊藤伯)
本條モ別ニ異論ガナイヤウデアリマスカラ可決ト認メテ次ノ七十四條ニ移リマス
(書記朗讀)
第七十四條 前條ノ規定ニ依リテ淸算人タル者ナキトキ又ハ淸算人ノ缺ケタルカ爲メ損害ヲ生スヘキ虞アルトキハ裁判所ハ利害關係人若クハ檢事ノ請求ニ因リ又ハ職權ヲ以テ淸算人ヲ選任スルコトヲ得
重要ナル事由アルトキハ裁判所ハ利害關係人若クハ檢事ノ請求ニ因リ又ハ職權ヲ以テ淸算人ヲ解任スルコトヲ得但其命令ニ對シ卽時抗告ヲ爲スコトヲ得
(參照)商一三一、二三三、獨二草二八、四三
(理由)前條ニ於テ淸算人タルヘキ者ヲ指定シタリト雖モ尙ホ或ハ淸算人ナキ場合ヲ生スルコトナシトスヘカラス例ヘハ社團法人ノ社員缺亡ノ爲メ解散ヲ爲ス場合理事カ淸算人ト爲リタル後死亡シタル場合定款ニ於テ之ニ關スル別段ノ規定ナク且社團ノ總會ニ於テモ其選定ヲ爲ササル場合ノ如キ是レナリ又淸算人ノ死亡、辭任、解任其他ノ原因ニ由リ淸算人全ク缺亡シ又ハ其定數ニ缺員ヲ生シタルトキ第七十二條ノ規定ニ依リ法人ハ尙ホ存續スルモノト看做シ得ヘキヲ以テ其後任者ヲ選任スルコトヲ得ヘシト雖モ財團法人ノ場合又ハ社團法人カ社員ノ缺亡ノ爲メニ解散セル場合等ニ於テハ其後任者ヲ選任スヘキ者ナキコトアリ此ノ如キ場合ニ於テ淸算人缺亡ノ爲メ法人ノ遺產ヲ管理、處分スル者ナキトキハ獨リ債權者、債務者、歸屬權利者等ノ損害ヲ蒙ルヘキノ虞アルノミナラス亦一般ノ經濟上ニ害アルモノト云ハサルヲ得ス是レ本條ニ於テ裁判所ハ自動的又ハ他動的ニ淸算人ヲ選任スル職權ヲ有スルモノトセル所以ナリ
二、第二項ノ重要ナル事由トハ淸算人カ其職權ヲ濫用シ其職務ヲ曠廢シ其他職任ニ堪ヘサル重大ノ理由アルヲ言フ是等ノ場合ニ於テハ裁判所ハ其命令ヲ以テ淸算人ヲ解任スルコトヲ得ルモノトセリ而シテ其命令ニ對シ卽時抗告ヲ爲スコトヲ許シタルハ其事タル淸算人ノ名譽及ヒ法人ノ利害ニ大ナル關係ヲ有スルコトアルヘキヲ以テナリ
三、本條ニ於テ裁判所カ職權ヲ以テ淸算人ノ選任及ヒ解任ヲ爲スコトヲ得ルモノトセルハ第八十一條ニ依リ裁判所ハ解散及ヒ淸算ノ實況ヲ監視スルノ權アルニ因レルナリ
横田國臣君
「抗告ヲ爲スコトヲ得」ト云フノハ誰ガ抗告スルノデアリマスカ
穗積陳重君
淸算人ガ抗告ヲ爲スコトガ出來ル
村田保君
此處ニ「損害ヲ生スヘキ虞アルトキハ」トアリマスガ、必ズシモ損害ヲ生ズベキ虞アルナイニ拘ラズ淸算人ガナケレバ淸算スルコトガ出來ナイト云フノデアリマスカ
穗積陳重君
「淸算人タル者ナキトキ」ト云フノデアル、「淸算人ナキトキ又ハ淸算人ノ缺ケタルカ爲メ」云々トアリマスノデ淸算人ガ缺ケテ居ルガ爲メニ損害ヲ生ズルノ虞ガアル、淸算人ト云フ者ハ必ズシモ一人リトモ限ツテハ居ラヌ、理事抔ガ淸算人ナレバ三四人ノ時モアラウ、夫レデ損害モ何モ生ゼヌト云フ事デアリマスレバ裁判所ガ態々自ラ進ンデヤラナクモ宜イカト思ヒマス
土方寧君
始メカラナイノデナイ、無クナツタ時ヲ言フノデアリマスカ
穗積陳重君
双方ヲ言フノデアリマス
菊池武夫君
此二項ノ如ク「重要ナル事由」ト云フト大變廣イ話シデアルガ、其實ヲ言ヘバ之ハ淸算人ニ不當ナ行爲デモアツタ時ト云フノデアリマスカ
穗積陳重君
不當ノ行爲ト云フト少シ行爲許リデハナイ場合ガアリ得ルト思ヒマス、色々身體ノ有樣ヤラ或ハ法律ノ働キヤ何カデ種種樣々ノ事デ何ウモ本人ガ辭シモ何ウモシナイケレドモ退イテ貰ハナケレバ往カナイ、裁判所ニ於テモ退カセルノガ必要デアル最モデアルト認メタト云フヤウナ廣イ意味ヲ以テ書イタノデアリマスガ、モウ少シ判然スル字ガアレバ宜イノデスガ、何ウモ私共モ見當ラヌノデアリマシタ
横田國臣君
第一項ノ方ハ「又ハ淸算人ノ缺ケタルトキハ」デ宜イノデハアリマセヌ
高木豐三君
「淸算人タル者ナキトキ又ハ其多數ヲ要スルトキハ裁判所ハ」云々トシテハ何ウデゴザイマセウカ
穗積陳重君
夫レデハ分カリマセヌ
高木豐三君
併シ起草者ノ說明ニ依レバ不足ト云フノデアルカラ此方ガ宜イヤウニ思フ
横田國臣君
不足ト云フタ所ガ今迄理事ガ五人アツタノガ三人ニナツタト云フヤウナ時デアラウ
穗積陳重君
然ウデアリマス、五人ノ中三人殘ツテ居レバずツト淸算ガ出來テ往ケルヤウナ場合モアルカモ知レマセヌガ五人ガ三人ニナツタ夫レデハ不都合デアル、何ウシテモ五人ニシナケレバナラヌト云フヤウナ時デアル
箕作麟祥君
是ハ「缺ケタルトキハ」トスルト裁判所ニ出テ請求スル時ニモ理由ナシニ唯缺ケマシタカラト云フコトニシテ何モ理由ガナクテ濟ムコトニナル
梅謙次郎君
然ウデアリマス
箕作麟祥君
矢張リ「缺ケタルトキハ」デ宜クハナイカ
土方寧君
五十六條ニ斯ウ云フ事ガアル、「理事ノ缺ケタル場合ニ於テ遲滯ノ爲メニ損害ヲ生スル恐アルトキハ」云々トアル
梅謙次郎君
夫レト同ジ理由デ書イタノデアル、
(此時「原案贊成」ト呼ブ者アリ)
議長(伊藤伯)
夫レデハ原案可決ト認メテ次ニ移リマス
(書記朗讀)
第七十五條 淸算人ハ破產ノ場合ヲ除ク外解散後七日内ニ其氏名、住所及ヒ解散ノ原因、年月日ノ登記ヲ受ケ又何レノ場合ニ於テモ主務官廳ニ之ヲ屆出ツルコトヲ要ス
(參照)商一二九、二三四、モンテネグロ七五〇、七五一、七六四、獨二草四五、六四
(理由)一、法人ハ固ト法律ノ擬制ニ依リテ設ケタルモノナルヲ以テ其存立ノ有無ハ登記其他ノ公示法ニ依ルニ非サレハ之ヲ確知スルコト能ハス故ニ其設立ニ登記ヲ要スルカ如ク其解散モ亦登記ヲ要スヘキモノトセリ
二、商法ニ於テハ會社解散ノ登記ヲ受クルヲ以テ會社ノ取締役ノ任トシ淸算人ノ職務ハ登記ノ時ヨリ始マルモノトセリ然レトモ登記ヲ受クルハ法人解散後ノ事務ニ屬スルモノナルヲ以テ之ヲ淸算人ノ任トスルヲ適當トス殊ニ社團法人ノ社員存在セサルニ至リテ解散スル場合ニ於ケルカ如キハ之ヲ理事ノ職務トスルコト能ハサルナリ
三、本條ヨリ破產ノ場合ヲ除外セルハ其公示ハ破產法ノ規定ニ從フヘキモノナルヲ以テナリ登記ノ期間ヲ七日内トセルハ其速カナランコトヲ欲シテナリ
四、解散ノ原因ハ解散ノ事實ヲ明カニシ解散ノ年月日ハ淸算事務ノ開始、權利ノ移屬等ノ時ヲ明カニシ淸算人ノ氏名、住所ハ殘務ヲ處理スル人ヲ明カニスルモノナルヲ以テ皆之ヲ登記ノ必要事項トセリ主務官廳ニ屆出ヲ爲サシムルハ法人ハ固ト主務官廳ノ許可ニ由リテ設立シ其監督ニ屬スルモノナルヲ以テナリ
高木豐三君
一寸御尋ネシマスガ、「又何レノ場合ニ於テモ」トアリマスガ、之ハ破產ヲ取除ケタ場合ト破產ノ場合トヲ併セテ言フタ譯デアリマスカ
穗積陳重君
其積リデアリマス
議長(伊藤伯)
是モ別ニ議論ハナイヤウデアリマスカラ原案可決ト認メテ次ノ七十六條ニ移リマス
(元田委員着席)
(書記朗讀)
第七十六條 淸算人ノ職務左ノ如シ
一 法人ノ現務ノ結了
二 法人ノ債權ノ取立及ヒ其債務ノ辨濟
三 殘餘財產ノ引渡
淸算人ハ淸算ノ爲メニ必要ナル一切ノ行爲ヲ爲スコトヲ得
(參照)取一四九、一五一、商一三〇、二四〇、獨二草四三、二項、四四
(理由)一、本條ニ於テハ淸算事務ニ屬スル事項ノ範圍ヲ定メ第一項ニ於テハ淸算人ノ職務ヲ掲ケ第二項ニ於テハ其職權ヲ掲ク抑淸算人ハ法人ノ終局事務ヲ整理スヘキモノナルヲ以テ旣ニ着手シタル法人ノ事務ヲ決了シ其債權ヲ取立テ其債務ヲ辨濟シ其殘餘財產ヲ歸屬權利者ニ引渡スヲ以テ其職務トス商法第百三十條其他外國ノ法典中ニ於テハ往々特ニ換價處分ヲ淸算事項ノ一トスルモノアリト雖モ是レ必竟債務ノ辨濟及ヒ分割ノ爲メニ必要ナルコトアル事項ニ過キスシテ之ヲ以テ直チニ淸算事務ニ屬スルモノトスルハ聊カ其當ヲ得ス營利的法人ニ在リテハ其目的固ト金錢上ノ利益ニ在ルヲ以テ或ハ其殘餘財產ヲ賣却シテ其代價ヲ社員ニ分割スルヲ便利ナリトスルコト多カルヘシト雖モ公益ヲ目的トスル法人ニ在リテハ或ハ第七十一條ノ規定ニ依リ其殘餘財產ヲ類似ノ目的ニ寄附スルコトアルヘク又豫メ歸屬權利者ヲ定メタルトキト雖モ營利的法人ノ解散ノ場合ニ於ケル如ク必スシモ其殘餘財產ヲ多數ノ社員ニ分割スルニ非サルヲ以テ之ヲ現狀ノ儘ニテ歸屬權利者ニ引渡スヘキ場合尠シトセス故ニ本案ニ於テハ換價處分ヲ淸算ノ必要事項中ニ掲ケス若シ之ヲ必要ナリトスルトキハ第二項ノ規定ニ依リテ之ヲ爲スコトヲ得ヘキモノトセリ
二、第二項ハ淸算人ノ職權ヲ概括的ニ規定シテ旣成法典及ヒ商法ノ如ク淸算人ノ職權ヲ列記スルノ方法ニ據ラス總テ第一項ニ掲ケタル職務ニ必要ナルコトハ淸算人之ヲ爲スコトヲ得ルモノトセリ故ニ前ニ擧ケタル換價處分ハ言フヲ俟タス苟モ淸算ノ目的ニ必要ナルトキハ新ニ取引ヲ爲シ又ハ訴訟行爲ヲ爲シ和解契約、仲裁契約ヲ爲スコトヲ得ルカ如キ總テ此條文中ニ包含スルモノトス
長谷川喬君
一ツ質問致シテ置キマスガ、此七十六條ニハ「淸算人ノ職務左ノ如シ」トアツテ職務ヲ定メテアルガ、其第二項ニ至ルト「淸算人ハ淸算ノ爲メニ必要ナル一切ノ行爲ヲ爲スコトヲ得」トアツテ必要ナル行爲ヲ爲シテモ宜イトアリマスガ、私ノ考ヘデハ必要ナル行爲デアレバ淸算人デアルカラ是非トモ一切爲サネバナラヌカト思ヒマスガ夫レヲ「爲スコトヲ得」ト云フノハ何ウ云フ譯デアリマスカ
穗積陳重君
此第二項ノハ商法抔デハ大變斯ウ云フ事モスルコトガ出來ルああ云フ事モスルコトガ出來ルト云フヤウニ細カニ書テアリマスガ、あれデハ餘りくどくどシイコトデアリマスル、要スルニ前ノ一二三ノ事項ニ必要ナモノデアリマスルカラ夫レヲ纏メテ短ク書イタニ過ギマセヌ、商法ト同ジデ其職務カラ出タ職權、其職務ヲ行フガ爲メニハ斯ウ云フ事モ出來ルト云フ、斯ウ云フ事ヲ第二項ニ規定シタノデアリマス
長谷川喬君
是ガ職權ト云フコトニナリマスレバ淸算人ハシテモシナクテモ勝手ナ事ニナリマスカラ、之ヲ「爲スコトヲ得」デナク「爲スコトヲ要ス」トシテハ何カ不都合デモアリマセウカ
穗積陳重君
固ヨリ職務ト云ヒマスル前ノ三ツハスルコトヲ要スルノデアリマス、其處デ以テ旣ニ「要ス」ト云フコトハ云ツテアル積リデアリマス、夫レ故ニ此處デハ「爲スコトヲ得」ト云ツテ夫レ丈ケノ權限ガ固ヨリアルト云フコトヲ概括的ニ言フタ方ガ宜シイト云フ考ヘデアリマス
長谷川喬君
「要ス」ト云フノデハ往カナイト云フノデアリマスカ
穗積陳重君
「要ス」ト云フヲ要セヌト思ヒマス
長谷川喬君
私ハ何ウモ此淸算人ガ淸算ノ爲メニ必要デアル行爲ト云フモノハ是非トモ爲サネバナラヌ事ダラウト思ヒマスガ、夫レヲバ此處ニ淸算人ノ職務ヲ掲ゲル場合ニ於テ「爲スコトヲ得」ト書クノハ如何ニモ穩カデアルマイト思ヒマス、左レバトテ單ニ「行爲ヲ爲スコトヲ要ス」ト言フタナレバ重複ノ恐レガアリマスルカラ、第二項ノ淸算人トアル上ニ「右ノ外」ト云フ字ヲ加ヘ夫レカラ「爲スコトヲ得」ト云フノヲ「爲スコトヲ要ス」ト云フコトニ更メタイト思ヒマス
穗積陳重君
私共ノ考ヘハ決シテ別ノ事デナイト思フノデアリマス、淸算ト云フモノモ前ノ三ツニ淸算ト云フ全部ガ含ンデ仕舞ウ、夫レカラ出タノデアリマス、夫故ニ斯ウ書イタノデアリマス、商法百三十條抔ニハ「淸算人ハ會社ノ現務ヲ結了シ會社ノ義務ヲ履行シ未收ノ債權ヲ行用シ現存ノ財產ヲ賣却ス又淸算人ハ淸算ノ目的ヲ超エテ營業ヲ保續シ又ハ新ニ取引ヲ爲スコトヲ得ス又淸算人ハ裁判上會社ヲ代理シ且會社ノ爲メ和解契約及ヒ仲裁契約ヲ爲スコトヲ得、」斯ウ云フコトガすツト又デ書テアリマスケレドモ、私共ノ考ヘハ淸算ノ範圍ト云フモノハ詰リ此三ツニ極マツテ仕舞ツテ夫レカラ出來事項ハ一二三ノ淸算ノ爲メニ必要ト云フコトデ盡シテ仕舞ヒタイ積リデアリマス
箕作麟祥君
第二項ノ「淸算人ハ淸算ノ爲メニ必要ナル」云々ト云フノハ第一項ノ事項ニ必要ナルト云フ意味デアリマセウカ
穗積陳重君
然ウ云フ意味デアリマス
高木豐三君
私ハ長谷川君ニ贊成ト云フテモ少シ工合ガ惡ルイノデアリマスガ、兎ニ角多少ノ改正ヲ望ム其譯ハ淸算人ハ淸算ノ爲メニ必要ナル行爲ト云フコトデアルナレバシナケレバナラヌ行爲ト見ナケレバナラヌ、夫レヲ「爲スコトヲ得」ト云フト、其裏ハ爲サヌデモ宜イ、必要ナル行爲ヲ爲サヌデモ宜シイト云フコトヲ此處ニ書クノハ如何ニモ可笑シイト思ヒマスカラ、「必要」ト云フ字ヲ取ツテ貰ラウカ「得」ト云フ字ヲ替テ貰ラウカシナケレバ「必要ナル行爲ヲ爲ササルコトヲ得」ト云フヤウナ事モ見エテ誠ニ可笑シイ
土方寧君
高木君ノ御說ハ先刻ノ穗積さんノ御說明デ能ク分カリマシタガ「要ス」ト云フコトデナク「得」デモ旣ニ前ノ一二三デ蓋シテ居ルノダカラ、出來ルコトヲシナカツタナレバ一二三ノ職務ヲ盡サヌ事ニナル、一二三ノ職務ヲ盤サナケレバナラヌ、夫レニ付テノ必要ナルコトハシナケレバナラヌト云フ當然ノ意味デアリマスカラ、然ウ云フ意味デ宜シイトハ思ヒマスガ、併シナガラ此形チデハ何ンダカ少シ可笑シイノデ、先刻長谷川君ハ「右ノ外」ト云フコトヲ入レテ「得」ト云フノヲ「要ス」ト改メルト云フコトヲ言ハレタガ、「右ノ外」ト云フ意味ニモ讀マレナイト思ヒマスガ、然ウ云フ風ニ讀ンデハ三ツノモノデナイト云フコトニナツテ、其他ハ別ノ事ノヤウニ見エルカラ、夫レデ之ハ少シ形チヲ替ヘネバナラヌト思ヒマスガ、高木君ハ何ウ云フ御注文デアリマスカ
高木豐三君
一二三ノ當然行フベキ職務ヲ行フガ爲メニ必要ナル行爲デアルナレバ或ハ然ウカモ知レヌ、夫レナレバ此二項ハ全ク不必要デアル、此一二三ノ職務ヲ行フガ爲メニ必要ナル行爲ナレバ勿論其權ハ其中ニ籠ツテ居ルノデアリマスカラ、斯ヤウナ事ハ別ニ言フニモ及バヌト思ヒマス
梅謙次郎君
今ノ御疑ヒノ事ハ之ヲ「淸算人ハ淸算ノ爲メニ必要」云々ト書テアルカラ成程三寸高木君ヤ長谷川君ノ御說モ出マスガ併ナガラ意味ハ分カツテ居ルノデアリマスカラ之ヲ斯ウ書イタナレバ尙ホ能ク分カラウト思ヒマス、「淸算人ハ前項ノ職務ヲ行フ爲メニ必要ナル一切ノ行爲ヲ爲スコトヲ得」其意味ハ何ウカナレバ先キニ穗積さんカラ旣ニ御說明ニナリマシタガ、一項ハ職務ヲ示シ二項ハ職權權限ヲ示ス、其淸算人ノ權限如何ト云フコトハ隨分外國デハ大問題デアツテ、佛蘭西抔デハ明文ガ無イ爲メニ尠ナカラザル議論ガ起ツテ居ルノデアリマス、其權限ノ方ヲ商法ノヤウニ規定シヤウト云フコトハ吾々ノ間ニ於テモ考ヘガ起ツタガ、商法ノヤウニスルト大變煩ハシクナツテ來ル而シテ之ヲ煎ジ詰タナラバ此通リニナツテ來ル、卽チ淸算ノ目的ニ外レタコトハ出來ナイ、其方ノ管理行爲ハ總テ出來ルト云フコトニナル、今ノ書キ方ニ於テモ然ウデアル、然ウシテ見ルト此通リニ「一切ノ行爲」トシテ置ケバ處分行爲モ管理行爲モ一切這入ル、唯淸算ノ目的以外ノコトハ出來ナイ、其方ガ宜カラウ、何ウモ淸算人ノ仕事ヲ餘リ窮窟ニシテ置テハ却テ不便デアル、處分行爲抔ハ出來ヌト云フテ置クト財產ヲ生ム事モ出來ナイヤウニナツテ不都合デアル、夫レデ之ハ「淸算人ハ前項ノ殘務ヲ行フ爲メニ必要ナル一切ノ行爲ヲ爲スコトヲ得」トシテハ何ウデゴザイマセウカ
土方寧君
贊成シマス
富井政章君
贊成
議長(伊藤伯)
「淸算」トアル代ハリニ「前項ノ職務ヲ行フ」ト云フコトニナルノデアリマスカ
梅謙次郎君
左樣デアリマス
長谷川喬君
今梅君カラ出タ所ノ修正案ニ據ルト先刻穗積君ノ御說明トハ少シ違ヒハセヌカト思ヒマス、穗積君ハ商法ニハ澤山アル、併ナガラ夫レヲ約シテ此二項ニ含マセルト云フ政略デアルト云フ旨意デ答ヘラレタト思ヒマス、又果シテ淸算人ノ職務ト云フモノガ此三ツ丈ケニ限ツテ居ルト云フ御積リデ其外ニハ無イト云フ御考ヘデアリマスカ、引カレタ所ノ商法及ビ旣成法典ノ民法ニ依テモ「淸算ノ事務ハ左ノ如シ」トシテアル其中ノ事モ幾ラカ含ンデ居ルヤウデアリマスカ、如何デゴザイマセウカ
穗積陳重君
私共ハ固ヨリ此淸算ト申シマスルモノハ此第一項ニ規定シテアル三ツノモノデ盡シテ居ラウト思ツテ居リマス、或人ノ說デハ或ハ少シ盡シ過ギテ居ル第三抔ニ在ツテハ淸算以外ノ事デアツテ分割ニ屬シテ居ルコトデアルト言フカモ知レマセヌ、此條文デハ此三ツヨリ外ニ淸算人ノスルコトハ必要トモ思ヒマセヌ、商法抔ノ書キ方ハ甚ダ不完全デアルト思フ、要スルニ此一二三デ充分デアラウト思ヒマス、或ハ商法ニでたでたト書テアル所ヲ一項二項ト分ケテ書イタト御聽取ニナツタカモ知レマセヌガ前ノ說明ノ不充分デアルガ爲メニ御疑ヒヲ來シタカモ知レマセヌガ今申シタコトヲ引繰リ返ヘシテ申セバ之デ充分デアルト云フコトヲ尙ホ更メテ申シテ置キマス
長谷川喬君
私ハ御兩君ノ御說ガ違ヒハセヌカト思ヒマスカラ御尋ネシマシタガ、今ノ穗積君ノ御說ハ梅君ノ御說ト同ジダト云フコトデアリマスガ、此處ノ理由書ニ引例シテアル所ヲ見ルト、一例ヲ擧レバ「商法第百三十條其他外國ノ法典中ニ於テハ往々特ニ換價處分ヲ淸算事項ノ一トスルモノアリト雖モ是レ畢竟債務ノ辨濟及ヒ分割ノ爲メニ必要ナルコトアル事項ニ過キスシテ之ヲ以テ直チニ淸算事務ニ屬スルモノトスルハ聊カ其當ヲ得ス、」斯ウ云フ註デアル、夫レカラ第二項ヲ設ケタ旨意ヲ說明シタ其中ニ云々「故ニ前ニ擧ケタル換價處分ハ言フヲ俟タス苟モ淸算ノ目的ニ必要ナルトキハ新ニ取引ヲ爲シ又ハ訴訟行爲ヲ爲シ和解契約、仲裁契約ヲ爲スコトヲ得ルカ如キ總テ此條文中ニ包含スルモノトス」斯ウアリマシテ、此第二項ト云フモノハ第一項ノ三ツカラ分カレテ出タヤウニハ文字ニ依テモ見エナイヤウデアリマスガ、矢張リ誤解デアリマセウカ
穗積陳重君
其文字ニ依テ見エル積リデ書キマシタガ或ハ文章ノ書キ方ガ惡ルイ爲メニ然ウ見エルカモ知レマセヌガ、換價處分、卽チ財產ヲ賣拂フト云フヤウナコトハ淸算ノ一ノ事項ニ當ラヌ、何ゼ殘餘財產ヲ賣拂ハナケレバナラヌカト云フト、債務ノ辨濟ヲ致シタイ、債務ノ辨濟ヲ金ニ換ヘルト云フ事ガ書テアリマス、夫レガ決シテ獨立ノ淸算事項ト云フモノデナイ、獨立ノ淸算事項ナレバ財產ニ歸シテ仕舞ウ、決シテ獨立ノ淸算事項トハ思ヒマセヌ、若シ此三ツノ事項ノ爲メニ必要デアレバ之ヲ金ニ換ヘルガ宜イト云フ事ニ思フノデアリマス、商事會社ニ在ツテハ又少シク之ハ異ナツテ居リマシテ、此換價處分ト云フコトヲ必要事項ニ充テテアリマス、之ハ固ヨリ御承知ノ通リ、商事會社ハ各自ノ利益ヲ目的ト致シ且其財產ヲ分配スル必要ガアリマスカラ換價處分ト云フモノヲ淸算ノ必要事項トシテ書テアリマス、此處ハ必要事項トシナイ、若シ必要デアレバ賣拂ウ、必要デナケレバ其財產ヲ其儘デ歸屬權利者ニ引渡シテモ構ハヌ夫レデ私ハ換價處分ト云フモノハ淸算事項トハ思ヒマセヌノデ斯ウ書キマシタ、若シ淸算ニ必要ナレバ換價事項ガ出テ來ルノデアルガ、淸算ノ事項ハ此三ツニ限ルト思フテ居リマス
村田保君
私ハ梅さんノ先刻ノ御修正ニ贊成デアリマスガ矢張リ「前項」デ宜シウゴザイマスカ
梅謙次郎君
前項ト言ヘバ一二三ニ當ル、商法抔ニモ其例ガアル
村田保君
「前項」ト云フト一寸第三號ノヤウニモ見エル
梅謙次郎君
然ウハ見ルベキモノデモナイカラ宜シイ
議長(伊藤伯)
梅君カラ出タ修正說ニ同意ノ方ハ起立
起立者多數
土方寧君
一寸質問シマス、此第三號ニ「殘餘財產ノ引渡」トアリマスガ、之ハ前ノ七十三條ノ場合ニ當ルコトデアラウト思ヒマスガ七十一條ノ一項ノ時ニハ伺ツテ居リマスルガ、之ハ淸算人ハ要ラヌ、二項ノ場合ハ夫レヨリ外ノコトヲシナケレバナラヌ、夫レデ之ハ「殘餘財產ノ引渡」ト云フヨリハ「殘餘財產ノ處分」ト云ツタ方ガ七十一條ニ照シテモ能ク當ルト思ヒマスガ何ウ云フモノデアリマスカ
穗積陳重君
夫レハ全ク違ヒマセウト思ヒマス、七十一條ニ「前二項ニ依リ處分セラレサル」トアル、あの條文ト云フノハ歸屬スルト云フノデアリマセヌ、定款ガ寄附行爲デ是々ノ處分デヤル、第一項ノ處分、第二項ノ處分ハ理事ガヤリマシタ事ヲ處分ト云フノデアリマス、歸屬スルト云フノ方ハ法律ノ働キノ方ヲ指シタノデアリマス、淸算人ガ之ヲ處分スルコトモアリマスガ、此處デハ法律ノ働キデ旣ニ歸屬權利者、ニヤル行爲、斯ウ云フ意味デ「引渡」ト書イタノデアリマス
高木豐三君
第一項ノ第三號ニ「法人ノ現務ノ結了」トアリマスガ、「現務」ト云フノハ可笑シイカラ「事務」ト云フコトニ改メタイト思ヒマス、「現務」ト云フト淸算人ガ法人ノ新タナル事務ヲ起ス事ハ出來ナイト云フ意味デ現在ニ着手スル、現在シテ居ル事務ヲ結了スルト云フ旨意カラ此「現」ノ字ガ付イタノデアラウト思ヒマスガ、之ハ申ス迄モナク、淸算ガ結了トカ終結トカ云フ事ナレバ「現在ノ事務」ト言ヘバ自ラ分カラウガ、「現務」ト云フ字ハ何ンダカ變ナヤウニ聞エルヤウデアリマスカラ、「法人ノ事務ノ結了」トカ若クハ「終結」トカ云フコトニ修正シタイト思ヒマス
村田保君
是ハ現行ノ商法抔ニモアリマス
高木豐三君
現行ノ商法ニ在ルコトハ決シテ變ヘルコトガ出來ヌト云フコトデアリマスレバ仕方ガアリマセヌガ
箕作麟祥君
「債權ノ取立」トアルノモ隨分可笑シイ
高木豐三君
其方ハ宜イ、取立ハ能ク言フコトデアル
(此時「取立ハ行使デハ往カヌカ」ト呼ブ者アリ)
梅謙次郎君
此處ノ所デハ何ンデモ早ク取立テルト云フノデ、行使ト云フト何ンダカ然ウモ見エヌヤウデアル
高木豐三君
「現務」ノ方ハ如何デゴザイマセウカ、之ハ何ウシテモ改ムベカラザルモノデゴザイマセウカ
土方寧君
何カ案ヲ出シテハ何ウデス
高木豐三君
私ハ「事務」ト更メタイガ却テ「現務」ト云フト現在中止シテ居ルノハ宜イカト云フヤウニモ見エル
横田國臣君
「業務」ト云フ事デアレバ贊成スルガ、事務ト云フコトデハ何ウモ贊成ガ出來ナイ
高木豐三君
夫レハどつちデモ同ジコトデアリマスカラ「業務」トシマセウ
横田國臣君
「現務」ト云フト今仕居ルヤウニ見エル
梅謙次郎君
私ハ「業務」ヨリカ「事務」ノ方ナラバ贊成スル、「業務」ト云フト是迄シタモノカ之カラハ出來ヌト云フヤウニモ讀メル、夫レデ如何デアリマスカ、「法人ノ事務ニ付キ」云々トシテハ
土方寧君
文字ガ代ハル丈ケデ旨意ニハ些ツトモ變ハリハナイカラ、夫レハ後トデ整理委員抔デ能ク整理スルコトニシテモ宜シイト思ヒマス
高木豐三君
夫レハ然ウシテ置テモ宜シイ
議長(伊藤伯)
夫レナラバ原案通リニシテ置クカ
菊池武夫君
原案通リデモ宜シイト思ヒマス
議長(伊藤伯)
夫レデハ原案可決ト認メテ休憩シマス
午後七時十分休憩
休憩後午後七時三十分開議
議長(伊藤伯)
是レヨリ議事ヲ開キマス
(書記朗讀)
第七十七條 淸算人ハ其就職ノ日ヨリ六十日内ニ少クトモ三回ノ公告ヲ以テ債權者ニ對シ一定ノ期間内ニ其請求ノ申出ヲ爲スヘキ旨ヲ催告スルコトヲ要ス但其期間ハ六十日ヲ下ルコトヲ得ス
前項ノ公告ニハ債權者期間内ニ申出ヲ爲ササルトキハ其債權ハ淸算ヨリ除斥セラルル旨ヲ附記スヘシ然レトモ淸算人ハ知レタル債權者ヲ除斥スルコトヲ得ス
淸算人ハ知レタル債權者ニハ各別ニ其申出ヲ催告スルコトヲ要ス
(參照)商二四三、獨二草四五、四六、同商二〇二、二四三、二四五、同組合法三六、四七、普千八百七十九年四月一日法三二、四一、八六、八七、索千八百六十八年六月十五日法三八
(理由)本條ハ淸算事項中債務ノ辨濟ニ必要ナル手續ヲ定メ且債權者ノ利益ヲ保護スルヲ目的トスルモノナリ公告ノ期間ヲ六十日内トセルハ淸算人ニ財產ノ現況ヲ取調フルノ猶豫ヲ與フルコトヲ要スルヲ以テナリ債權請求ノ申出期間ヲ六十日以上トシ知レタル債權者ニ特別ノ催告ヲ爲サシムルハ皆債權者ノ利益ヲ保護センカ爲メナリ知レサル債權者カ催告期間内ニ申出ヲ爲ササルトキ之ヲ淸算ヨリ除斥スルハ三回以上ノ公告六十日以上ノ催告期間ヲ以テ債權者ニ充分ノ注意ヲ與ヘタルニモ拘ハラス猶ホ申出ヲ爲ササルトキハ淸算事務徒ラニ遲延ニ渉ルノ虞アルヲ以テ其結了ノ爲メ止ムヲ得サルノ處置ニ出テタルモノナリ
長谷川喬君
原案贊成
高木豐三君
異議ナシ原案贊成
議長(伊藤伯)
御異議ガナケレバ原案可決ト認メテ次ノ七十八條ニ移リマス
(書記朗讀)
第七十八條 前條ノ期間後ニ申出テタル債權者ハ法人ノ債務ヲ濟了シタル後未タ歸屬權利者ニ引渡ササル財產ニ對シテノミ請求ヲ爲スコトヲ得
(參照)商二四五
(理由)本條ハ前條ノ期間内ニ申出ヲ爲ササル債權者ノ權利ヲ定メタルモノナリ前條ノ規定ハ淸算事務ノ結了ノ爲メ止ムヲ得サルニ出ツルモノナルヲ以テ債權者カ右ノ期間内ニ申出ヲ爲スコトヲ怠リシカ爲メニ全ク其權利ヲ失フモノトスルハ頗ル苛酷ニ失スルモノト言ハサルヲ得ス故ニ本案ニ於テハ申出ヲ怠リタル債權者ハ他ノ債權者竝ニ旣ニ引渡ヲ受ケタル歸屬權利者ニハ讓ラサルコトヲ得サルモ旣ニ他ノ債權者ニ辨濟シ未タ歸屬權利者ニ引渡ササル財產アルトキハ之ニ對シテハ請求ヲ爲スコトヲ得ルモノトセリ
議長(伊藤伯)
是モ御異議ガアリマセヌケレバ可決ト認メテ次ノ七十九條ニ移リマス
(書記朗讀)
第七十九條 淸算中ニ法人ノ財產ヲ以テ其債務ヲ完濟シ能ハサルコト分明ナルニ至リタルトキハ淸算人ハ直チニ破產手續ノ開始ヲ爲シテ其旨ヲ公告スヘシ
淸算人ハ破產管財人ニ其事務ヲ引渡シタルトキハ其任ヲ移リタルモノトス
本條ノ場合ニ於テ旣ニ債權者ニ支拂ヒ又ハ歸屬權利者ニ引渡シタルモノアルトキハ破產管財人ハ之ヲ取戻スコトヲ得
(參照)商二五三、獨一草五五、同二草三九、二項、四三、二項、
(理由)本條ハ淸算人カ旣ニ淸算ニ著手シタル後法人ノ資力到底其債務ノ全額ヲ辨濟スルニ足ラサルコトヲ發見スルトキハ各債權者ハ其債權ノ全額ノ辨濟ヲ受クルコトヲ得サルカ故ニ尤モ公平ニ其間ニ法人ノ財產ヲ分配スルコトヲ要ス而シテ破產手續ハ其目的ヲ以テ設ケタルモノナルカ故ニ簡易ナル淸算手續ヲ止メテ綿密ナル破產手續ニ依ルヲ以テ至當トシタリ而シテ破產ノ場合ニ於テハ總債權者平等ニ辨濟ヲ受クルヲ通則トスルヲ以テ旣ニ支拂ヲ受ケタル債權者ノミ特別ノ利益ヲ受クルコトヲ得ス故ニ旣ニ支拂ヒタルモノト雖モ之ヲ取戻スコトヲ得ルモノトセリ又此場合ニ於テハ歸屬權利者其遺產ヲ受クヘキ權利ナキヲ以テ旣ニ引渡ヲ爲シタルモノト雖モ亦之ヲ取戻スコトヲ得ルモノトセリ
本條第二項ヲ設ケタル理由ハ他ナシ破產手續ヲ開始スルトキハ必ス破產管財人ナルモノアリ若シ此外ニ淸算人仍ホ存スルトキハ其兩者ノ權限ニ付多少ノ疑議ヲ讓スコトナキヲ保セサルノミナラス無用ノ人ヲ置キテ之ニ給料ヲ與フルカ如キハ全ク冗費ト謂ハサルコトヲ得サレハナリ
横田國臣君
此處ニ「淸算人ハ直チニ破產手續ノ開始ヲ爲シテ其旨ヲ公告スヘシ」トアル、此「破產手續ノ開始」ト云フコトハ破產手續ヲ爲シテ裁判所ニ出テ然ウシテスルノデアリマスカ、開始ト云フ字ガ使ツテアル以上ハ自分デ直グ破產手續ト云フコトヲスルノデアリマスカ
穗積陳重君
勿論裁判所ヘ申出ル手續ヲ直チニスルト云フ意味デアリマス
梅謙次郎君
商法ニ此通リニ言フテアル
穗積陳重君
商法ノハ開始ヲ促スト云フ事ノ意味ニナルノデゴザイマセウ
高木豐三君
開始ト云フ事ハ屆出ノ事デアルカ或ハ破產宣告ノ決定ノ事デアルカ、夫レガ極ラヌト開始ガ決定デアルナレバ此文章ハ裁判所ノ行爲ヲ淸算人ガスルト云フ事ニナツテ來ル
穗積陳重君
然ウデナイ申出ノ方デアル
高木豐三君
破產手續ノ開始ヲ爲シテト言ヘバ何ウシテモ自分ガヤルコトニナル
穗積陳重君
之ハ全ク商法ニ據ツタノデアリマス
梅謙次郎君
ケレドモ裁判所ノ決定ナレバ破產ノ決定デアル、之ハ無論屆出ノ方デアル
穗積陳重君
此處ハ直シテモ宜シイ
高木豐三君
「破產ノ手續ヲ爲シテ」デハ往ケマセヌカ
箕作麟祥君
夫レガ一番宜イヤウデアル
田部芳君
其方ヨリモ「破產手續ノ申立ヲ爲シテ」トスル方ガ宜シイ
梅謙次郎君
夫レヨリハ「破產宣告ノ申立ヲ爲シテ」ノ方ガ宜シイ
高木豐三君
夫レデハ今ノ梅君ノ御說ノヤウニシテハ何ウデゴザイマセウカ
(此時「夫レガ宜シイ」ト呼ブ者多シ)
高木豐三君
起草者ノ方デ御同意ナレバ起草者ノ方デ御出シニナレバ直グニ極マリマスガ
箕作麟祥君
夫レナレバ誠ニ正直ニ言ツタノデアル
横田國臣君
是レ丈ケハ淸算人ニサセルノデアリマスカ
穗積陳重君
左樣デアリマス
梅謙次郎君
夫レデハ只今ノデ別ニ御異議ハアリマセヌカ
(此時「異議ナシ」ト呼ブ者多シ)
高木豐三君
一寸質問致シタウゴザイマス、此第二項ニハ「淸算人ハ破產管財人ニ其事務ヲ引渡シタルトキハ其任ヲ終リタルモノトス」トアツテ、第三項ニハ「本條ノ場合ニ於テ旣ニ債權者ニ支拂ヒ又ハ歸屬權利者ニ引渡シタルモノアルトキハ破產管財人ハ之ヲ取戻スコトヲ得」トアリマスガ、此文面カラ見マスルト云フト、淸算人ト云フ者ガ此破產宣告ノ所謂申出ヲ爲ス前ニ歸屬權利者ニ物ヲ引渡ス事ガアルト云フコトヲ假定シタヤウニ見エルノデアリマスガ、然ウ云フ意味デアリマセウカ
穗積陳重君
左樣デアリマス
高木豐三君
其場合ハ何ウ云フ場合其事ヲ許ス積リデアリマスカ
穗積陳重君
勿論其積リデアリマス、七十九條ハ旣ニ淸算ノ手續ヲ始メテ居リマスルカラ、夫レデ先ヅ第七十六條ノ一、二ハ濟ンデ仕舞フタ積リデアツテ、債務ノ辨濟モ濟ンデ仕舞フタ積リデアリマス、所デ債務ノ支拂ヒ申込ミガアツタ、然ウ云フコトデ債務ヲ完濟スルコトガ出來ヌト云フヤウナ事ガ分明ニナツタ時デアリマスカラ、之ハアリ得ルコトデアラウト思ヒマス
高木豐三君
然ウスルト少シ疑ヒガ起リマス、前條ノ七十八條ヲ見マスルト、債權申出ノ催告ヲ爲シ然ウシテ法人ノ債務ヲ濟了シタル後デナケレバ引渡ハセヌコトデアラウト思ヒマス、又前ノ七十六條ノ手續ヲ見テモ之ハ畢竟順序丈ケデゴザイマセウケレドモ、兎ニ角法人ノ解散ノ時ニハ債務ト債權ノ關係ヲ盡シテ而シテ後チニ歸屬スベキ所ニ引渡スト云フノガ至當ノ順序デアラウト云ヒマス、殊ニ七十八條デハ今申シマシタ通リニ定メテアツテ、其申出ガアツテモ歸屬權利者ニ引渡ササル財產ニ對シテデナケレバ往カナイ、旣ニ引渡シテ仕舞ツタ時ニハ最早請求ハ出來ナイト云フ規定ニナツテ居ル然ルニ七十九條ニハ「淸算中ニ法人ノ財產ヲ以テ其債務ヲ完濟シ能ハサルコト分明ナルニ至リタルトキハ」云々トアル、此分明ナルニ至リタル場合ニ於テ旣ニ權利者ニ引渡シタルモノガアルト云フノハ少シ論理ニ牴觸ハシナイカト思ヒマスガ
穗積陳重君
御尤モデアリマスガ、此場合ハ前ノ七十七條七十八條ノ手續ヲ履マナイ場合ノ事ガ勿論這入ツテ居ルノデアリマス、然ウ云フ場合ノ適用ガアリ得ルト思ヒマス、早ク引渡シタリ何カスルト云フヤウナ事ガアリ得ルト思ヒマス
高木豐三君
一體然ウ云フ事ヲ許スノガ宜シクナイト思ヒマス、法人ノ解散、淸算ヲスル場合、未ダ淸算モセズ債務ヲ完濟シ了フセルヤ否ヤガ分カラナイ中ニ歸屬權利者ニ法人ノ財產ヲ引渡スト云フヤウナ事ハ抑モ宜シクナイ事ト思ヒマス
富井政章君
事實シタラバト云フノデアル
高木豐三君
事實シタラバト云フノガ旣ニ往カナイ
横田國臣君
其完結後ニ申出タ債權者ガアツタ時ニハ何ウスル御積リデアリマスカ
高木豐三君
夫レハモウ前ノ七十八條デ之ヲ言ヒ出シテ來テモ採リ上ゲナイ、淸算ガ濟ンデ完結シテ引渡ガ濟ンデ仕舞ツタノナラバ七十八條デ幾ラ言ヒ出シテ來テモ採リ上ゲナイ
横田國臣君
夫レハ出來ル
梅謙次郎君
まだ斯ウ云フ場合ガアル、財產ハ幾ラ幾ラアルト云フコトヲちやんト計算シテ立派ニアル積リデアツタ、夫故ニ片ツ端シカラどんどん拂ツテ往ツタト云フヤウナ事モアラウ
高木豐三君
支拂フノハ宜イ、唯歸屬權利者ニ引渡スノガ可笑シイ
梅謙次郎君
其場合ハ則チ夫レハ其債務ヲ請求シテ何レ夫レハ多少淸算人ガ其手續ニ缺ケル事ヲシタ場合ニハ然ウ云フコトハアリ得ルノデアリマス、大丈夫ト思フモノダカラヤツテ見タ、所ガ後トカラ往ケナクナツタ、夫レハ淸算人ノ過失デアルカラト云フ事ナラバ別問題デアリマス
高木豐三君
然ウ云フ不正ノ處分ガ假定シテアルノハ最モ可笑シイ、「破產管財人ハ之ヲ取戻スコトヲ得」トアル、若シ此淸算人ガ惡ルイ者デアツテ無闇ニ歸屬權利者ニ引渡シ或ハ支拂ヒヲ爲シタ時ニ管財人ガ夫レヲ取戻サナケレバ夫レ迄ノ話、私ノ考ヘハ支拂ヒハ固ヨリ宜シイ、淸算人ガ順々ニ支拂ツテ往クノハ宜シイガ、併シ歸屬權利者ニ引渡スノハ兎ニ角淸算ノ結了ノ後デナケレバナラヌト云フノガ法律ノ主義デハナイカト思ヒマス
土方寧君
主義ハ然ウダラウガ、併ナガラ君ノ言フヤウニ惡意ヲ以テヤル者ガアルカモ知レヌガ、多クハ此三項ノ場合デ現ニ支拂フベキモノガナイ、或ハ支拂フベキモノガ充分ニアル、夫レデ歸屬權利者ニモ渡シタ、所ガ後トニナツテ見レバ然ウデナイ、充分ニハナイ、未ダ拂フベキモノガアツテ足ラヌト云フ事ヲ發見シタ時ノ場合デアラウ
高木豐三君
夫レハ七十八條デ分カル
土方寧君
七十八條ハ期限ノ場合デアル、債權者ガ過失アル場合、債權申立ノ期限ノコトニ付テハ七十七、八條デ定メテ制裁モアル、七十九條ハ然ウデナイ、期限ノ有無ノ所デハナイ
高木豐三君
唯斯樣ニ書テ置クト恰モ債權者ニ支拂ヒヲ爲スガ如ク淸算結了前ニ歸屬權利者ニ引渡シヲスルコトガ出來得ルト云フガ如キ旨意ガ見エル
穗積陳重君
支拂ヒハ宜イト言ハレマスガ、支拂ヒモ此破產ノ有樣ニナツタトキハ矢張リ不法デアル
高木豐三君
不法デナイ、取戻スコトガ出來ルト云フノデアル
穗積陳重君
夫レデ何ウシテモ淸算人ガ手續ヲ誤ツタ場合ニ適用スルコトガ出來ルノデアル
高木豐三君
贊成者モナササウデスカラ引籠メマセウ
菊池武夫君
一寸御尋ネシマスガ、此管財人ノ權利ヲ定メルヤウナ風ニ自ラ然ウ云フ風ナ結果ニナラネバナラヌヤウナ風ニアリナガラ、此處ハ唯「得」ト譬テアルノハ何ウ云フ譯デアリマスカ
穗積陳重君
此第三項ガナケレバ取戻ス事ガ出來ヌヤウニナラウト思ヒマス、兎ニ角歸屬權利者ノ場合ハ此明文ガナクテモ出來ル場合ガアラウトモ考ヘマスガ、債權者ニ支拂ツタ者ハ此明文ガ無イト取戻スコトガ出來ナクナリハシナイカト思ヒマス
田部芳君
私ハ此七十九條ノ第三項ヲ削除スルノ案ヲ提出致シマス、其譯ハ無論此七十九條ノ第三項ハ破產ノ所ノ原則ニ據リマシテ、無論破產ノ前ニ支拂ヒ或ハ其他ノ行爲ヲ爲シテ其行爲ガ無效トナルカラ取戻スコトモ出來ルト云フ事ノ旨意デアラウト私ハ考ヘマス、然ウスレバ強テ此處ニ斯カル規定ヲ置クノ必要モ無イト考ヘマス、夫レ故ニ本項ヲ削除スルノ修正說ヲ提出致シマス
菊池武夫君
私モ其旨意デ質問シタノデアリマスカラ贊成ヲ致シマス
富井政章君
矢張リ先キノ豫決問題ニ關係スル
梅謙次郎君
加之ナラズ、破產ノ方ニハ或ハ何カ不正ナコトガアツタトカ惡意ガアツタトカ云フヤウナコトハ夫レハ破產ノ方デ置レルカモ知レヌデアラウガ、斯ウ云フ規定ヲ破產法ノ所ニ持テ往クノハ私ハ當ヲ得テ居ラヌト思ヒマス、矢張リ之ハ特別ノモノデアラウト思ヒマスカラ、矢張リ特別ノ所デ規定スルノガ相當ダラウト考ヘマス
長谷川喬君
田部君ノ說ニ贊成致シマス
高木豐三君
商法ノ期定ニ據ルト、斯ウ云フ場合ニハ情ヲ知ツテ支拂ヒヲシタ、然ウシテ其支拂ガ取戻ス事ガ出來ナイ時ニハ淸算人ガ責任ヲ負フト云フ規定ガアツタヤウデアリマスガ、此場合抔モ若シ之ガ必要トスレバアル方ヲ宜イヤウニ思ヒマスガ、之ヲ置カヌ所以ハ何カ外ニ理由ガアリマスカ
穗積陳重君
夫レハ明文ヲ要セズシテ其結果ガ生ズルノデアラウト思ヒマス
高木豐三君
一體ノ民法ノ原則ニ依テ
穗積陳重君
ハイ、往ケルモノダラウト思ヒマス
議長(伊藤伯)
採決シマス、田部君ノ說ニ御同意ノ方ハ起立ヲ請ヒマス
起立者少數
議長(伊藤伯)
少數
田部芳君
私ハ七十九條ノ三項ヲ削除スルノ說ヲ提出致シマシタガ、不幸ニシテ少數消滅トナリマシタ、夫故ニ更ラニモウ少シ趣ノ違ツタ所ノ修正案ヲ提出致シマス、夫レハ此第三項ニハ「本條ノ場合ニ於テ旣ニ債權者ニ支拂ヒ又ハ歸屬權利者ニ引渡シタルモノアルトキハ」云々トアリマスルガ、此「モノ」ト云フ事ハ勿論財產ト云フコトデアラウト思ヒマス、所デ前項ニハ「法人ノ財產」ト云フ事ガアル、斯ウ云フ遠イ所ニ前ノ事ヲ受ケテ「タルモノ」ト云フヤウナコトヲ書クノハ文章上少シ奇怪デハアリハシナイカト思ヒマス、故ニ此三項ノ「引渡シタルモノアルトキハ」トアルノヲ「引渡シタル財產アルトキハ」ト云フヤウニ修正致シタイト思ヒマス
梅謙次郎君
「モノ」ト云フノハ何モ財產抔ニ掛ツテ居ナイ、獨逸語デざつくト云フノデアリマス
田部芳君
夫レナレバ夫レデ宜シイ
議長(伊藤伯)
夫レデハ原案ノ通リデアルカ
長谷川喬君
原案ニ贊成贊成デハナイ止ムヲ得ズデアル
議長(伊藤伯)
夫レデハ原案可決ト認メテ次ノ八十條ニ移リマス
(書記朗讀)
第八十條 解散及ヒ淸算ノ費用ハ現在ノ財產中ヨリ最モ先キニ之ヲ支拂フモノトス
(參照)商二三九
(理由)法人ノ解散及ヒ淸算ノ費用ニ關スル債權ニ先取特權ヲ附シ他ノ債權ニ先チ辨濟スヘキモノトシタルハ其費用ノ法人終結事務ノ爲メニ必要ニシテ殊ニ債權者ノ爲メニ缺クヘカラサルモノナルヲ以テナリ
穗積陳重君
之ハ商法ト同ジデアル
村田保君
次ノ條ニ移ルコトヲ望ミマス
議長(伊藤伯)
夫レデハ原案可決ト認メテ次ノ八十一條ニ移リマス
(書記朗讀)
第八十一條 裁判所ハ法人ノ解散及ヒ淸算ヲ監視シ何時ニテモ職權ヲ以テ其實況ヲ檢査スルコトヲ得
(參照)商二三五
(理由)法人ノ業務ハ公益ニ關スルヲ以テ第六十六條ノ規定ニ依リ行政官廳ハ平素其業務ヲ監督スル職權ヲ有スルモノトセリ然レトモ法人解散スルニ至リテハ其業務ヲ停止シ其終局事務ヲ開始スルヲ以テ行政上ノ監督ヲ離シテ司法上ノ監督ヲ受ケシメ裁判所ハ私權保護ノ爲メ之ヲ監督スル職權ヲ有スルモノトセリ
高木豐三君
今迄ノ模樣ニ依ルト云フト、主務官廳ト云フモノガ解散迄ノ何ハ總テ任シテ居ル、夫レカラ此破產ノ時ニ始メテ裁判所ガ這入ルト云フ事ニ斯ウ云フコトニナツテ居ル、ソコデ解散ト云フモノヲ主務官廳ガ命ジタナレバ直グニ裁判所ニ通知スル、或ハ淸算ト云フモノモ之ハ破產ノ手續デハナイ、破產以前ノ手續ト考ヘル、夫レヲ裁判所ガ監視スルコトヲ得ルダカラ嫌ヤナラバシナケレバ宜イト云フヤウナコトニナルト、少シ是迄ノ主義トハ一歩進ンデハ居リハセンカト考ヘル
梅謙次郎君
之ハ未ダ法人ノ成立ツテ居ル間ハ其法人ノ事務ガ公益ニ關シテ此案デハ主務官廳デ管轄シテ居ル事柄ト見テ居ル、併シ法人ガ一度ビ解散ヲスレバ其事業ハ消ヘテ仕舞ツテ義務丈ケデアル、公益事業ハシナイ、夫レデアリマスカラシテ解散後ハ何ウ云フ所ニ氣ヲ着ケナケレバナラヌカナラバ、權利者ノ權利ヲ平等ニ保護ヲ爲シ、債權者ハ債權者丈ケノ保護ヲ爲シ、歸屬權利者ハ歸屬權利者丈ケノ保護ヲスルト云フヤウニ純然タル司法問題デアツテ、行政官廳ハ平等公平ト云フ事ハ一ニ裁判所ニ任セルノガ是迄ノ多クノ國ノ例デモアルシ、又斯ウ云フ場合デハ公益ニ關スル法人ノ解散セラレタル場合デアツテモ、又元ト私益上ノ理由ニ基イタル會社、間接ニハ公益ニ關スルケレドモガ、商事會社ノ解散ノ場合デモ少シモ變ハル事ハナイ、最早其事業ハ無クナツテ仕舞ツタノデアル
高木豐三君
夫ヨリ以前ハ保護ヲ與ヘルノデヽヽヽヽヽヽ
梅謙次郎君
以前ハ公益事業ハ關係スルカラ夫レ迄ハ行政官廳ノ方ガ其方ニ適當シテ居ルト見タノデアリマス
高木豐三君
御尤モトシテ置キマセウ
議長(伊藤伯)
夫レデハ本案ハ可決ト認メテ次ノ八十二條ニ移リマス
(書記朗讀)
第四節 罰則
(理由)法人ノ理事、監事又ハ淸算人ニ於テ本法ノ規定ニ反スル行爲アルトキハ其行爲ハ固ヨリ無效ニシテ且之ニ因リテ他人ニ損害ヲ及ホシタル場合ニ於テハ之ヲ賠償スルノ責ニ任スヘキヤ言フヲ俟タス然レトモ法人ノ事業タル公益ニ重大ナル關係ヲ有スルモノナルヲ以テ其理事、監事及ヒ淸算人ヲシテ嚴ニ其職分ヲ守ラシメサルヘカラス然ルニ純然タル民事上ノ制裁ノミニテハ未タ充分ニ本章ノ規定ヲ遵守セシムルノ保障ト爲スニ足ラス是レ本章ノ末尾ニ於テ罰則ノ一節ヲ附加シテ法人ノ機關ノ匪行ヲ制止シ以テ其職務ノ勵行ヲ期スルノ必要アル所以ナリ
第八十二條 法人ノ理事、監事又ハ淸算人ハ左ノ場合ニ於テハ五圓以上貳百圓以下ノ過料ニ處セラル
一 本章ニ定メタル登記ヲ受クルコトヲ怠リタルトキ
二 第五十一條ノ規定ニ反シ財產目錄若クハ社員名簿ヲ備ヘス又ハ之ニ不正ノ記載ヲ爲シタルトキ
三 第六十六條又ハ第八十一條ノ場合ニ於テ檢査ヲ妨ケタルトキ
四 官廳又ハ總會ニ對シ不實ノ申立ヲ爲シ又ハ不正ノ隱蔽ヲ爲シタルトキ
五 第六十九條又ハ七十九條ノ規定ニ反シ破產手續ノ開始ヲ爲スコトヲ怠リタルトキ
六 第七十七條又ハ第七十九條ニ定メタル公告ヲ爲スコトヲ怠リ又ハ不正ノ公告ヲ爲シタルトキ
(參照)商二五六乃至二六二
(理由)本條ハ法人ノ理事、監事又ハ淸算人カ本章ノ規定ニ反シ其職務ヲ怠リタルカ爲メニ公益ヲ害スヘキ場合ヲ列擧シテ之ニ制裁ヲ附シタルモノナリ而シテ商事會社法ノ罰則ニ於ケル如ク其匪行ヲ數級ニ分ケテ其制裁ニ差等ヲ設クルノ主義ヲ採ラスシテ之ヲ一條ニ纏括シテ同等ノ罰ヲ科シタル所以ノモノハ其匪行ノ情狀ニ輕重アリ其公益上ニモ及ホスヘキ影響ニ於テモ亦必スシモ豫メ其程度ヲ測知シ得ヘキモノニ非サルヲ以テ強ヒテ其匪行ヲ區別シテ之ニ對スル制裁ニ差等ヲ設クルハ却テ膠柱ノ誠アルヘキヲ以テナリ故ニ本條ニ於テハ敢テ其匪行ノ間ニ細微ナル區別ヲ設ケス極メテ其制裁ノ範圍ヲ廣クシ其情狀ニ從ヒテ之ヲ處斷スルニ充分ノ餘地ヲ與ヘンコトヲ期セリ
穗積陳重君
一寸此處ニ修正シテ置ク事ガアリマス、此第五號ハ前ノ修正ノ結果トシテ矢張リ「破產宣告ノ申立ヲ爲スコトヲ怠リタルトキ」トナル事ト思ヒマス
横田國臣君
此處ニ過料トアリマスカラ何モ何ンデスガ、一ツ伺ヒタイノハ、此不正ト云フテアルト一寸見ルト故意デ惡ルイ事ヲシタヤウニ見ヘル、夫レデ眞ニ故意デ惡ルイ事ヲシタ時斗リヲ言フノデスカ、此第四號ノ如キハ「不正ノ」デ宜シウゴザイマスカ、前ノニ號ノ「不正ノ記載ヲ爲シタルトキ」ト云フノハ眞ニ故意ト云フ事ヲ認メルノデスカ、又ハ然ウデナイト云フ意味デアリマスカ
穗積陳重君
之ハ此處デハ其記スベキ事ヲ記サナカツタト云フ事、又夫レニ職務ヲ違フテ掲載ノ式ヲ履マナカツタ事、夫等ノ事ノ不正ト云フ意味デアツテ、故意ニ虛偽ノ記載ヲ爲シタ場合ヨリモ廣イ場合ヲ言フ積リデアリマス
村田保君
此過料ハ五圓以上貳百圓以下デハ餘リ飛ンデ居ルヤウデアリマスガ如何デスカ
穗積陳重君
商法ト較ベテ見ルト分カリマス、商法ニハ五圓以上五十圓以下十圓以上百圓以下二十圓以上貳百圓以下、斯ウ三段ニシテアリマスガ、其必要ハナイト云フコトヲカンガヘタノデアリマス
村田保君
唯少シ可笑シイト思ヒマスコトハ此處ニ「過料ニ處セラル」トアツテ後チノ條ニハ「科ス」トアル、之ハどちらニカ一定ニシタイト思ヒマスガ、如何デアリマスカ
穗積陳重君
主客ガ違ヒマスカラ其動詞ノ使ヒヤウモ自ラ違フテ來ルノデアリマス
村田保君
然ウスレバ後チノモ「處ス」トシテ宜イヤウデアル
横田國臣君
「不正ノ隱蔽」ト云フノハ事實ヲ隱蔽スルノデアリマスカ又ハ物ヲ隱蔽スルノデアリマスカ
穗積陳重君
檢査ノ時ハ事實ノ隱蔽モ物ノ隱蔽モアリマス、物ノ隱蔽ハ商法抔ニモアツタヤウニモ思ヒマスガ、何ンデモ問ニ答ヘナケレバナラヌ事ヲ答ヘヌトカ、又ハ帳簿ヤ何ニカノ事ニナルト物ノ隱蔽ト云フ事ニナル、兩方含ムノデアリマス
高木豐三君
梅君ニ御尋ネシマスガ、是迄ニ處セラル的ノ文例ハアリマシタカ
梅謙次郎君
アツタト思ヒマス
高木豐三君
アツテモ將來之ヲ必ズ用ヰナケレバナラヌノデアリマス
梅謙次郎君
夫レハ別問題デアル
高木豐三君
左ノ場合ニ於テハ是々ニ處セラルトカ是々ハ是々ニ處スト云フヤウニ直譯的ニシテハ何ウデゴザイマセウカ
箕作麟祥君
此場合ニ於テハ是々ノ「過料ニ處セラル」デナクテモ「處ス」トシテモ宜シイ、此儘デ置テモ二百圓以下ノ過料ニ處スト言フテモ宜イ
穗積陳重君
「處ス」デハ何ンダカ淸算人ガ他人ヲ處スルヤウニ見ヘル
箕作麟祥君
淸算人ト云フ人ガ外ノ人ヲ罰スルト云フ事ニハ見ヘナイト云フ事ハ分ツテ居ル
梅謙次郎君
此處ノ「處セラル」ト云フコトハ宜イカモ知ラヌガ、「ラルル」文ハ一體私共ハ好マヌ方デアリマスガ、併シ丸デ避ケル譯ニハ往カヌト思ヒマス、夫レハ七十一條ニモ「前二項ニ依リ處分セラレサル財產」云々トアリマス
高木豐三君
夫レハ宜イノデス
梅謙次郎君
夫レガ宜イナレバ矢張リ此處デモ宜イ、然ウ云フ所ヘ持テ來テ結末ヲ「セサル」ト云フノデハ可笑クハナイカ
横田國臣君
モウ一ツ伺ヒマスガ、「社員名簿ヲ備ヘス又ハ之ニ不正ノ記載ヲ爲シタルトキ」トアリマスガ、此「不正ノ記載」ト云ヘバ記載スベキ事ヲ記載セヌト云フノデ、不正ノ事ヲシタノデナクシテ其中ニ記載スベキ事柄ヲ漏ラシタリスルトキハ何ウデゴザイマセウカ
高木豐三君
夫レハ怠リデアリマス
穗積陳重君
社員名簿ニ書クベキ事ヲ書キマセヌノハ矢張リ官廳ニ對シテ不正ノ隱蔽ヲ爲シタト云フ事ノ中ニ這入ルダラウト思ヒマス
横田國臣君
官廳ニ對シテデアリマスカ
穗積陳重君
社員名簿ヲ官廳ニ差出ス時ニ於テハ然ウナルカモ知レヌ、然ウデナケレバ社員名簿ト云フモノハ必ズ社員ノ名ガ皆載ツテ居ランケレバ往カヌノデアリマスカラシテ、矢張解釋上百人アルモノヲ五十人シカ記載シテナケレバ夫レモ矢張リ「不正ノ記載」ト云フ中ニ這入リハシナイカト思ヒマス
梅謙次郎君
商法モ矢張リ其通リニ往カナケレバナラヌト思ヒマス
横田國臣君
之ハ「不實ノ記載」デハ往ケマセヌカ
梅謙次郎君
文字カラ言ヘバ矢張リ同ジデアル
富井政章君
不正若クハ不備デアル
高木豐三君
矢張リ之デ宜イダラウ、能ク考ヘテ見レバ分カル、記載スベキ事ヲ書カナイ、附加ヘタ事ヲ言フノデナク正シク記載スベキ事ヲ記載セヌト云フノデアルカラ之デ宜イダラウ
議長(伊藤伯)
脱漏ヲ言フノデアラウ
菊池武夫君
唯理窟カラ言ヘバ如何ニモ
議長(伊藤伯)
皆籠ルネ
長谷川喬君
一寸御尋ネシタクゴザイマスガ、此第四號ハ隨分所爲ガ惡ルイコトデアツテ、殊ニ現行法デハ重禁錮ニ處スルコトニナツテ居リマスガ、夫レヲ今單ニ民事上ノ制裁ニ付セラレタヤウデアリマスガ、之ハ何カ理由ガアツタノデアリマスカ
穗積陳重君
之ハ別段夫レニ對シテ立入ツタ理由ハナイノデアリマス、民法上デ是丈ケノ事ハ行ハレナケレバナラヌト思ヒマスル爲メニ此處ニ制裁ヲ載セタ丈ケノコトデアリマス
長谷川喬君
修正說ヲ出シテモ通リマセヌカラ輕イ所デ御相談ヲ致シマスガ此第四號ニ在ル「不正ノ隱蔽」ト云フコトデアリマスガ、「不正ノ隱蔽」ト云フト如何ニモ可笑シイヤウデアリマス、隱蔽ト云フコトハ不正デアラウト思ヒマスガ、併シ隱蔽ト云フ事丈ケデハ分ラナイカラ、前ノ所デモ旣成法典ノ文字ニ倣ハレテ來タナレバ此處デモ願クバ旣成法典ノ文字ニ倣ハレテモウ少シ明カニハナラヌ事デゴザイマセウカ、卽チ旣成法典ニ於テハ「不正ノ意ヲ以テ其現況若クハ實況ヲ隱シタルトキ」トゴザイマスガ
梅謙次郎君
「事實ノ隱蔽」ナレバマダ宜シイガ
長谷川喬君
「不正ノ隱蔽」ト云フコトデハ如何ニモ聽取レヌコトデアリハシナイカト思ヒマス、迚モ修正說トシテハ通リマセヌカラヽヽヽヽヽヽ
穗積陳重君
長谷川君ノ商法ノ文字ヲ其儘用ヰヌ方ガ宜シイト云フノデスカ
長谷川喬君
左樣デアリマス
横田國臣君
此箇條ハ起草者ニモウ少シ文字ヲ替ヘテ貰ヒタイ
穗積陳重君
こちらハ成ルベク短カクシタノデスガ、若シ宜イ修正案ヲ御出シ下ダサレバ或ハ贊成スルカモ知レマセヌ
高木豐三君
私ハ第一項ヲ「左ノ場合ニ於テハ法人ノ理事監事又ハ淸算人ヲ五圓以上貳百圓以下ノ過料ニ處ス」ト云フ修正說ヲ提出致シマス、「左ノ場合ニ於テハ」ト云フ文字ヲ頭ニヤル丈ケデアリマス、詰リ外ノ條デモ「前條ノ場合ニ於テハ」云々トアルノデ、此次ノ條ノ場合ニ於テモ同ジ事デアル、必ズシモ人間ヲ先キニ書カナケレバナラヌト云フコトモアルマイト思ヒマス
田部芳君
贊成シマセウ
村田保君
贊成
穗積陳重君
夫レハ字句ノ事デナイカラ今ノ修正案ヲ御取消ニナツテハ如何デアリマスカ
議長(伊藤伯)
夫レナラバ高木サンノ修正案ニ贊成ノ方ハ起立ヲ請ヒマス
起立者少數
議長(伊藤伯)
少數
箕作麟祥君
私ハ第一項ノ意味ハ原案通リデアリマスガ、唯下ノ「處セラル」ヲ「處ス」ト云フ事ニ修正致シマス
村田保君
贊成
議長(伊藤伯)
夫レデハ「處セラル」ヲ「處ス」ト云フ箕作さんノ說ニ贊成ノ方ハ起立
起立者少數
議長(伊藤伯)
少數
横田國臣君
私ハ第二號ノ所ニ「又ハ之ニ不正ノ」トアルノヲ「又ハ不備不實ノ」トシテ貰ヒタイト思ヒマス
高木豐三君
「不備ノ記載」上言ヘバ何ンナ事ヲ記載スルノデアリマスカ
横田國臣君
例ヘバ横田ト云フノデ横山トカ何ントカ云フ風ニ書クノヲ言フノデアル
長谷川喬君
私ハ第四號ノ「不正ノ」ト云フノヲ「實況ノ」ト云フ事ニ致シタイト思ヒマス
田部芳君
贊成致シマス
梅謙次郎君
何ンノ實況カさつぱり譯ガ譯ラナイ
村田保君
若シ「不正」トアルト云フト不正デナケレバ隱蔽シテモ宜イト云フ事ニ見ヘテ可笑シイ
横田國臣君
此處ノ不正ト云フノト外ノ所ノ不正ト云フノトハ意味ガ違ウト云フノガ可笑シイ
長谷川喬君
夫レデハ私ハ尙ホ之ヲ更メテ「事實ヲ隱蔽シタルトキ」ト直ホシマセウ、起草委員ハ何ウデゴザイマセウカ
高木豐三君
「不實ノ申立又ハ隱蔽ヲ爲シタルトキ」トシテハ何ウデゴザイマセウカ
議長(伊藤伯)
「不正ノ隱蔽」ト云フト可笑シイカラ、「又ハ隱蔽ヲ爲シタルトキ」丈ケデ宜シイノデハナイカ
土方寧君
長谷川君ノ案ニ贊成
穗積陳重君
仲右シ「事實ヲ隱蔽シタルトキ」ト直ホルナラバ「事實ノ隱蔽ヲ爲シタルトキ」トシテ前ト同樣ニシテハ何ウデゴザイマセウカ、併シ夫レハ其修正案ガ決シテカラデ宜シウゴザイマス
議長(伊藤伯)
長谷川君ノハ何ウ云フ修正案デス
長谷川喬君
「又ハ事實ヲ隱蔽シタルトキ」トスルノデアリマス
議長(伊藤伯)
宜シイ、夫レナラバ採決シマス、長谷川君ノ說ニ同意ノ方ハ起立
起立者多數
議長(伊藤伯)
多數、夫レデハ本條ハ別ニ議論ガナケレバ可決ト認メテ次ノ八十三條ニ移リマス
(書記朗讀)
第八十三條 前條ニ掲ケタル過料ハ裁判所ノ命令ヲ以テ之ヲ科ス但其命令ニ對シ卽時抗告ヲ爲スコトヲ得
(參照)商二六一
(理由)本節ノ規定ハ民法上ノ罰則ニ係リ其所爲ハ皆單純ニシテ且顯然タルモノナルヲ以テ敢テ複雜ナル證明法ヲ要セス故ニ別ニ刑事訴訟法ノ手續ニ依ラス管轄裁判ノ命令ヲ以テ之ヲ科スヘキモノトセリ
議長(伊藤伯)
異議ガナケレバ原案可決ト認メテ之デ散會致シマス
午後八時三十分散會