明治民法(明治29・31年)

法典調査会 民法主査会 第18回 議事速記録

参考原資料

民法主査會第十八回議事速記録
出席員
箕作麟祥君
穗積陳重君
横田國臣君
本尾敬三郎君
長谷川喬君
富井政章君
梅謙次郎君
田部芳君
菊池武夫君
鳩山和夫君
本野一郎君
土方寧君
(原田書記)
今日副總裁カラ斯樣ナ書翰ガ參ツテ居リマスルデ一寸申上ゲマス
拝啓過日以來風邪ニテ臥辱罷在本日法典主査會ニハ押シテ出席ノ企ニ有之候處朝來惡寒殊甚頭痛亦極烈執筆ニモ困却ヲ感ジ候程故本日ハ不參候此段諸公ヘ可然御傳聲被下度候右要用而已草草頓首
一月十二日西園寺公望
原田眞義殿
又白萬一總裁不參候ハバ議長席ハ委員諸公ニテ臨機代理有之ハ無論ナルヘシ又今後ハ一週兩度開會ニ復スルハ是又無論ナルヘシト存候得共可然御評決有之度趣小生ノ傳言ヲ以テ諸公ヘ御話シ置被下度候但右等ノ事ハ總裁出席ナラバ心配ニ不及事臥辱中非常辭筆御推讀ヲ乞フ
横田國臣君
夫レデハ箕作さんニ議長ヲ御願ヒ申シマセウ
箕作麟祥君
不足カモ知レマセヌガ諸君ガ御同意ナラバヤリマセウ
(此時箕作委員議長席ニ着ク)
假議長(箕作麟祥君)
夫レデハ今日ノ會議ヲ開キマス、是ハ何ウ致シマセウカ、起草委員ニ御相談致シマスガ、此前ノ五十條ノ修正案ガ出テ居リマスガ、之ヲ先キニ致シマセウカ、何ウデゴザイマセウカ
梅謙次郎君
今日會議ヲ開クカ開カヌカヲ先キニ御極メヲ願ヒマス
假議長(箕作麟祥君)
夫レデハ今日ハ總裁副總裁トモ缺席デアリマスガ、夫レニモ拘ハラズ定員數ニ充チテ居リマスカラ議事ヲ開クカ否ヤト云フコトニ付テ先キニ御極メヲ願ヒマス
(此時「討論ヲ用ヰズニ採決ヲ望ミマス」ト呼ブ者アリ)
假議長(箕作麟祥君)
夫レデハ決ヲ採リマス、議事ヲ開ク事ニ御同意ノ諸君ハ起立ヲ請ヒマス
起立者多數
假議長(箕作麟祥君)
多數デアリマスカラ是レヨリ開キマス
鳩山和夫君
尙一ツ今後一週二回開會ト云フコトハ無論タルベシト云フコトデアリマシタガ、之モ一ツ極メテ貰ヒタイ
假議長(箕作麟祥君)
夫レデハ副總裁カラ毎週火金兩議ノ二回ニ復スルト云フ書翰デアリマシタガ、此二回ニ復スルト云フ事ニ御同意ノ諸君ノ起立ヲ請ヒマス
起立者多數
假議長(箕作麟祥君)
多數デアリマスカラ二回ニ決シマス、夫レデハ何ウ致シマセウカ、本會議ヲ開クニ當テ此五十條ノ修正案ヲ前ニ議スルコトニ致シマセウカ、何ウ致シマスカ、
穗積陳重君
五十條ハ此前ノ殘リデアリマスカラ先キニ願ヒマス
假議長(箕作麟祥君)
夫レデハ此五十條ノ修正案ヲ先キニ議スルコトニ致シマセウ
穗積陳重君
一應五十條ノ修正案ニ付テ申述ベテ置カウト思ヒマス
假議長(箕作麟祥君)
一寸朗讀ヲサセマセウ
(書記朗讀)
第五十條 前三條ノ規定ハ外國法人カ日本ニ事務所ヲ設クル場合ニモ亦之ヲ適用ス但外國ニ於テ生シタル事項ニ付テハ其通知ヲ受ケタル時ヨリ登記ノ期間ヲ起算ス
穗積陳重君
此第五十條ノ修正案ヲ提出スル前ニ一言附ケ加ヘテ陳述致シテ置キタウゴザイマス、前回ニ此第四十七條第四十八條第四十九條、此三箇條ノ期間ニ付テハ若シ其期間ト云フモノヲ通知ノアリマシタ時、例ヘバ此第四十七條ニ於キマシテ原案ニハ十四日トアリマシタノヲ三十日ト直スガ宜イト云フコトニナリマシタ、第四十八條ニ於テ七日内ト云フ期間ガアリマス、デ之モ此事務所ノ移轉シタ時カラ之ヲ起算スルト云フ事ニ極マツテ居リマス、併シナガラ此事務所移轉、其他官廳ノ許可ヲ得ナケレバ徃ケナイ事項ニ付テ其許可ト云フモノガ其許可ヲ請ヒマシタ人ニ逹シマシタ、卽チ到逹シマシタ時カラ之ヲ起算スルヤ否ヤト云フ事ニ付テ疑ヒガ生ジマシタ、依テ此期間ノ事ニ付テハ尙起草委員ニ再考ヲセヨト云フ事ガ議場ノ一體ノ意向デアリマシタ、夫故ニ吾々再ビ此事ヲ考ヘテ見マシタ、所ガ若シ此官廳ノ許可等ガ到逹致シマシタ時カラシテ其期間ヲ起算致シマスル事デアリマスレバ其期間ガ短クテ宜シイ、併ナガラ其許可ノアリマシタ日カラ直チニ之ヲ起算致シマスル時ニ於テハ其期間ガ長クナクテハナラヌト云フコトニナリマスルガ、夫レハ何レ後ニ離隔致シマシタ地ニ之ヲ通知致シマスル時ニ、其通知ヲ發シタ時ヨリシテ之ヲ起算スルヤ或ハ到逹シタ時カラ之ヲ起算スルヤト云フ事ノ定メガ出來ルデアラウト思ヒマス、此一般ノ定メガ出來マスルニ付テ官廳ノ規定、特別規定モ事ニ依ツタラ出來ルカモ知レマセヌ、其時ニ期間ニ因テ此方ヲ定メナケレバナラヌガ、此方ハ謂ハバ末デ、此通知ニ關スル期間ノ計算法ガ定マルノガ本デアリマスカラ、其本ガ定マツタ時ニ何レどつちカニ定メテ起草委員カラシテ之ヲ提出スルヤウニスル、卽チ此修正案ト云フモノハ成立ニ屬スル方デアリマスカラシテ本日之ヲ持出サズシテ其本トガ定マリマシタ時ニ持出シマスルヤウニ御願ヒ申シタイ、其事ハ此前ニモ略ボ申述ベテハ置キマシタガ尙ホ今日持出シマセヌト云フ理由デ提出致シテ置キマス、第五十條ハ此前修正案ヲ提出致シマシタル時ニ、尙ホ此事ニ付テハ其期間ノ計算法ガ何レノ時ヨリ起リマスルトシマシタル所ガ之ハ外國ニ事ガ關係シテ居リマスカラシテ、先キニ本ノ定マルノデ之ヲ直チニ先キニ定メルト云フ譯ニハ往クマイ、是丈ケハ卽チ通知ヲ受ケタ時カラ起算スルト云フ事ニ、如何樣ニ先キデ定マツタトテモ然ウ定メナケレバナラヌト云フコトヲ吾々考ヘマシタカラシテ、夫故ニ此前ノ案ヲ改メテ本案ヲ提出シタノデアリマス、此前ト變ハリマシタ所ハ但書丈ケデアリマス、「但外國ニ於テ生シタル事項ニ付テハ其通知ヲ受ケタル時ヨリ登記ノ期間ヲ起算ス」ト致シマシタ、此外國ニ於テ生ジタル事項ト殊更ニ書キマシタノハ日本デ事務所ヲ移轉致スト云フ如キハ外國ニ於テ生ジタ事項デアリマセヌカラ、後ニ定マル所ノ期間ノ計算法ニ依リマス、併ナガラ例ヘバ目的ガ變ハルトカ、其法人ノ名稱ガ變ハルトカ、サウ云フヤウナ事ハ外國デ生ズル事柄デアリマスカラシテ、斯クノ如キ事柄丈ケハ其通知ヲ受ケタ時カラ計算スルト云フノデアリマス、此通知ヲ受ケタ日ト云フモノガ充分ニ分カラナカツタ、或ハ取締ガナルマイト云フヤウナ掛念モアリマシタケレドモ、併ナガラ登記ヲ致シマセヌ時ニ於テハ夫丈ケノ登記ヲシナイモノニ不利益ノ事ガアリマスカラシテ之ハ格別六ケ敷イ事ハアルマイト思ヒマシテ本案ノ如ク但書ヲ加ヘタノデアリマス
假議長(箕作麟祥君)
一寸伺ヒマスガ、此期間ノ事ノ定メト云フモノハ何條ノ所ニ御規定ニナルノデアリマスカ
穗積陳重君
是ハ意思ノ表示ノ所デ一般ノ規定ガ定マルモノト思ヒマス
横田國臣君
一寸御尋ネシマスガ、此「前三條」ト云フモノハ四十七條カラ四十九條迄デアリマスカ
穗積陳重君
ハイ
横田國臣君
然ウシマスルト、四十七條ハ私ガ直ホシマシタノデアリマスルガ、第一項ハ「法人ハ其設立後三十日内ニ各事務所所在ノ地ニ於テ登記ヲ受クヘシ」ト云フノデアル、又第二項ハ「法人ノ設立ハ前項ノ登記ヲ受クルニ非サレハ他人ニ對シテ其效ナシ」ト云フノデアル、然ウスルト此箇條ガ入用デゴザイマスカ、(此時「其處ハモウ濟ンダ」ト呼ブ者アリ)濟ンダ所ガ「前三條ノ規定ハ外國法人カ」云々ト云フノデアリマスカラ
穗積陳重君
御答致シマス、其箇條ノ第三項ガ入用ニナリマス、四十七條第三項及四十八條四十九條ノ期間、斯ウ云フ工合ニ書キ分ケルノハ如何ニモ煩雜デアリマス、且ツ外ノ所ニモ、旣成法典ニモアラウト思ヒマスガ、其中ノ或ル事項ガ這入リマスルト矢張リ其條ノ全體ガ引イテアリマス、前ノ一項二項ト云フノハ適用ガナイノデアリマス、夫故ニ前三條ト書イタノデアリマス
鳩山和夫君
外國ノ法人ハ何時デモ登記ガ出來ルノデアリマスカ
穗積陳重君
左樣デアリマス
梅謙次郎君
日本ニ新ニ事務所ヲ設ケタ時ニハ七日内ニ登記ヲ受ケル、夫レヲ受ケヌト日本ニ於テハ其效ガナイ
鳩山和夫君
其登記ヲ受ケルニ付テハ期間ノ定メハナイ、第一項ノ適用ハナイト云フノデアリマスカ
梅謙次郎君
卽チ其事務所ヲ設ケレバデアリマス
假議長(箕作麟祥君)
一寸起草委員ニ御尋ネ致シマスガ、「前三條ノ規定」トアツテモ四十七條ノ一項ノ規定ハ全ク適用ガナイト云フコトデアリマスカ、外國法人ガ日本ニ事務所ヲ設ケル場合、例ヘバ只今ノ居留地制ノヤウナ時ニ横濱ノ居留地ニ設ケタヤウナ場合ハ何ウデゴザイマセウカ
穗積陳重君
夫レモ固ヨリ條約ニ於テ取除ケガナイ時ニハ此中ニ這入ルノデアリマス
假議長(箕作麟祥君)
然ウスルト矢張リ四十七條ノ一項ガ這入ルノデアリマスカ
穗積陳重君
夫レハ設立ハ外國ニ於テ生ズル事項デゴザイマスカラ、外國ニ於テ生ジマシタル事項ハト云フモノニ付テハヽヽヽヽ
假議長(箕作麟祥君)
私ノ御聞キ申スノハ然ウデハナイ、外國デナイ、其本國デハナイ、日本ノ横濱ナラバ横濱ノ居留地ニ於テ外國法人ガ事務所ヲ設ケルト云フコトガアツタナラバ何ウナルノデゴザイマセウカ
梅謙次郎君
然ウ云フ場合ハ一項ガ嵌マル、今ノ條約ニ明文ガナケレバ然ウナル
假議長(箕作麟祥君)
今ノ條約デ然ウ往キマセウカ
鳩山和夫君
今ノ條約ニハナイノデアリマス
本野一郎君
法人ノ事ハ何トモ書テナイ
梅謙次郎君
明文ガナケレバ然ウナルベキ筈デアル
本野一郎君
四十七條ノ第二項ニ「他人ニ對シテ其效ナシ」ト云フ事ガアリマスガ、是ハ外國法人ノ時ノ事ニ付テハ別ニ關係ハナイヤウデアルガ、何ウナルノデアリマスカ
穗積陳重君
登記ト云フモノガナケラネバ他人ニ對シテ其效ナシト云フノハ固ヨリ外國法人ニモ當ル積リデアリマス、前ニ横田君ニ對シテ前ノ二項ハ其關係ガナイト申シマシタノハ期間ノ事ニ付テ御話シヲ致シタカラデアリマス
本野一郎君
「前項ノ登記」ト明カニ書テアルノデアリマスカラ、第三項ノ登記ト云フモノハ前項ノ登記ト云フモノニハ這入ラヌノデアリマセウカ、何ウデゴザイマスカ、之デ分カリマセウカ
穗積陳重君
是ハ若シ其疑ヒガ起レバ日本ノ法人ニモ同ジ事ガ這入ルノデアリマスガ、此「前項ノ登記」ト云フノヲ受ケテ第四十七條第三項第四十八條モ矢張リ其如クニ規定シタ積リデアリマス
横田國臣君
此何ハ何ウデゴザイマセウ、外國デ此會社ナラ會社、法人ヲ作ツタ、然シテ其外國ニハ登記ノ方法ハナイ、之ハ大概ハアルガ、例ヘバ支那ノ如キモノ、然ウシテ此處デハ此五十條デ「前三條ノ規定ハ外國法人カ日本ニ事務所ヲ設クル場合ニ於テモ亦之ヲ適用ス」トシテアル、然ルニ起草委員ノ說明ニ據レバ無論四十七條ノ一項二項ト云フモノハ適用スル場合ガナイ、斯ウ云フ何ンデアリマシタガ若シ外國法人ハ例ヘバ支那デハ登記ハシナイ、然ウスルト矢張リ此二項モ適用スルト云フ事ニナリヤシマセヌカ、夫レデこちらノ或人ガ其會社ニ對シテ不服ヲ言フ、御前ハ支那デハ夫レハ效ガアルカモ知レヌガ日本ニ於テハ登記ノナイモノハ他人ニ對シテ效ナシ、夫レダカラ御前ハ支那デ立ツタノデアルカラ日本デハ他人ニ對シテ效ガナイト云フ、斯ウ云フ事ガ言ヘハシマセヌカ
穗積陳重君
勿論然ウ云フ事ハ言ヘルデアラウト思ヒマス、日本ニ於テ事務所ヲ設ケテ、夫レカラ日本ニ於テ其事務所ト云フモノノ登記ヲシナイ時ニ於テハ他人ニ對シテハ法人タルノ效ナシト云フ事ニハ言ヘルダラウト思ヒマス
横田國臣君
私ハ其事ヲ言フノデハナイ、其方ハ三項デ言ヘル、ケレドモ元來其法人ト云フモノガ一體ニ登記ヲ受ケテ居ラナイ、然ウスレバ起草者ノ御意見デハ外國デ登記ヲ受ケテ居ラヌモノハ矢張リこちらデモガ他人ニ對シテ效ナシト御認メニナレバ夫レデ宜シイ、併ナガラ一項二項ハ適用ガナイト云フ事ヲ先刻仰ツシヤツタ所ヲ以テ見ルト然ウデモナイヤウデアル、又然ウデナイ方ガ至當カモ知レヌ、どちらカ定メテ置カナケレバナラヌ
穗積陳重君
先刻本野君ニ御答ヘヲシマシタノハ期間ノ事ニ付テ御答ヘヲシタノデアリマス、元ト此本案ヲ提出シタ時ニハ外國法人ト云フモノハ登記ガナクテモ勿論認メル積リデアリマスガ、登記ノ制ハ外國法人ニハ及ボサヌ積リデアリマス、且諸國ノ法ニ於テモ外國法人ト云フモノニ向ツテ登記ノ制ヲ及ボサシムルト云フ事ハ未ダ見マセヌノデアリマス
本野一郎君
商事會社ハアリマセウ
穗積陳重君
商事會社ハアリマスカモ知レマセヌガ、外國法人ハ登記ヲシナケレバ認メヌト云フ斯ウ云フ事ハ私ハ未ダ曾テ聞キマセヌ、縱シアツテモ私ハ誠ニ少數デアラウト思ヒマス、併ナガラ外國法人ガ事務所ヲ設ケタ場合ニハ此登記ノ制ニ服サセヤウデハナイカト云フ原案デアリマス、吾々モ夫丈ケノ事ナラバ至極穩當ノ事デアルダラウ、事務所ヲ設ケタ時ニハ其事務所ニ關スル登記ト云フモノ、並ニ此登記ヲスルニ付テハ第四十九條ニ書テアリマスル事柄、事務所ヲ設ケタ時ニハ是丈ケノ事ヲ登記サセヤウ、斯ウ云フ案ニナツタノデアリマス、事務所ヲ設ケヌ場合ニ於テハ其本國法ニ依テ本國デ登記ヲシテ居ラヌカラ外國法人ハ認メヌ、然ウ云フ事ハ總テ本案カラハ出ナイト云フノデアリマス、矢張リ法人トシテハ些ツトモ其事務所ヲ設ケテ居ラヌ、例ヘバ横濱ニ一寸商賣ニ來タ或ハ倫敦デ日本ノ商人ト外國法人トガ契約ヲ結ンデ夫レニ付テ訴ガ起ツタ然ウ云フ場合ニハ外國法人ハ認メヌ、然ウ云フ事ニハシナイ、日本ニ來テ事務所ヲ設ケル場合丈ケ此五十條ハ當ルノデアリマス
横田國臣君
私ノ問ヒガ御分リニナラヌヤウデ夫レガ爲メニ私モあなたノ御答ガ能ク分カラナイ、斯ウ云フノデアリマス、今支那ノ或ル會社ガ日本ニ來テ新ニ事務所ヲ設ケテ屆ケ出タトカ何ントカ云フ時ニ七日以内ニ登記ヲ受ケル斯ウ云フノデス、然ウシテ其會社ガ事ヲ行フ時分ニ其會社ト或日本人ト取引ヲスル時ニ、御前ハ此處デ登記ハ受ケタケレドモ一體御前ノ國デ以テ法人ノ設立ニ付テ御前ハ登記ヲ受ケテ居ラヌ、夫レハ此處デハ受ケテ居ル、日本デモ然ウデゴザイマセウ、例ヘバ會社ノ設立ト云フモノガ何モ一ツモセヌデハナイ、唯内證カ何カデシテ居ル、然ウシテ新ニ分社カ何カ設ケタ折ニ夫レニ就テノ登記ハ受ケタ、然ウ云フ事ガアリモシマイガ、アツテモ夫レハ往カナイト思ヒマスガ、丁度然ウ云フ場合ガ出テ來ハシマセンカ、若シあなた方ノ御趣意ヲ逹スルナラバ五十條ニ四十七條ノ三項ト判然言フテ仕舞ハナイト然ウ云フ事ガ出テ來ハシマセンカ
穗積陳重君
御問ヒノ所ハ分カリマシタ、夫レハ決シテ出テ來ナイ積リデアリマス、四十七條ニ唯法人ト書テアリマスノハ日本ノ法人ニ違ヒナイ、然ウデナケレバ外國法人ト云フ事ヲ故ラニ謳ウ事ハナイ、夫レデ支那デ出來マシタ法人ト云フモノハ支那デハ登記ヲ受ケテ居ラヌ、若シ支那デ登記ヲ要スルノニ登記ヲ受ケテ居ラヌト云フ時ハ夫レハ支那ノ法人デナイカラ、外國法人デモナイ、固ヨリ此處ニ外國法人ト云フノハ其本國ニ於テ適法ニ設立シタ法人、適法ニ出來テ居ツテ本國ニ於テ法人ト認メルモノハ日本ニ於テモ亦法人ト認メルト云フノデアリマスカラ、其本國デ法人ト認メテ居ラヌモノハ矢張リ日本デモ認メナイ、夫レデ又外國法人デモ何ンデモ其設立ノ時ニハ事務所々在ノ地ニ於テ登記ヲ受ケヨ、斯ウ云フ規定ヲ設ケル積リデハナイ、又設ケタ所ガ無效ニ屬スルノデアル、ト云フモノハ外國ニハ國長特許主義トカ或ハ法律特許主義抔デ以テ設立スル國モアル、又準則主義トカ自由設立主義ノ國モアル故故ニ其本國ニ於テ適當ニ法人トシテ設立セラレタモノハ日本ニ於テモ固ヨリ認メル、但日本ニ來テ其事務所ヲ設ケタ場合ハ斯クノ如クシナケレバナラヌト云フ事ヲ規定シタノデアリマス、夫故ニ此第四十七條ト云フモノハ外國デ法人ノ設立ガアツタナラバ各事務所、例ヘバ英吉利ノ法人ガ支那ノ上海ニモ事務所ヲ置キ、又日本ノ横濱、神戸ニモ置ク、然ウ云フ時ハ各事務所トアルノニ支那ノ上海ニ在ル事務所ハ登記ヲ受ケテ居ラヌ、夫レダカラ日本ニアル事務所モ縱令日本ノ法ニ從ツテ登記ヲ受ケテモ他人ニ對シテ效ガナイ、又日本ニ於テ認メヌ、然ウ云フ意味ニハ取レマイト思ヒマス
横田國臣君
何ウデゴザイマセウカ、此五十條ノ規則ガアル爲メニ矢張リ外國法人ニモ四十七條ノ二項トカ一項トカモ適用サレルヤウニ認メラレルジヤラウト思ヒマス、何ゼナレバ五十條ニ唯「前三條ノ規定」トシテアル、然ウスルト今支那ノ會社ガアル、夫レガ日本ニ來テ新ニ事務所ヲ設ケタ、夫レデ四十七條ノ第三項ニ依テ登記ヲ受ケタ、其場合ニ或人ガ難ジテ曰ク、五十條ヲ見ルト「前三條ノ規定」トアルデハナイカ、然ウスレバ四十七條ノ二項モ籠ツテ居ル、夫故ニ之ヲ適用スル場合ガアル、夫レニ元來支那デ以テ設立シタ法人ハ日本ノ規則ニ當テテ見ルト成立ツテ居ラヌ卽チ四十七條ハ日本ノ法人ノ事ヲ言フタノダケレドモ此五十條ニ以テ來テ之ヲ外國法人ニモ適用スルト云フテ居ルデハナイカト云フ者ガアルカモ知レナイ、ダカラ之ヲ曖昧ニシテ置クヨリモ、若シあなた方ガシツカリ三項計リト云フコトデアレバ此處ノ所ハ三項計リトシテ置カナイト其適用ト云フモノガ今ノヤウナ場合ガ出テ來ルカモ分カリマセヌ、夫レカラもう一ツ言ヒタイ事ガアル、此四十七條ノ一項ハ適用ハシナイト云フ斯ウ云フ何ンデアリマスガ之モ想像カラ言フト又出テ來ル場合モアル、或ハ日本ニモ支那ニモ一緒ニ事務所ヲ設ケル樣ナ場合ガアルダラウ、設立シテ居ル唯支那計リニ本トヲ置クト認メタ場合ハ宜イケレドモ、然ウデナクシテ支那ニモ置カウシ日本ノ横濱ニモ置カウシ何處ニモ置カウト云フヤウナ場合ニ此一項ヲ適用サレルヤウナ場合ガナイトモ言ヘナイ、想像ノ方アラバ、唯夫レガ餘程稀レデアルトハ言ハレナイト思ヒマス
穗積陳重君
法人設立ノ始メヨリ致シテ、例ヘバ支那デ許可ヲ得ルトカ、其他支那ノ法律ニ依テ法人設立ノ手續ガアルヤ否ヤ直チニ其仕事ヲ始メル、家モ豫メ買込ンデ居ル、事務所モ豫メ充テテ居ル、萬事ノ設備悉ク整フテ居ル、然ウシテ其許可ガアルト其本國ヨリシテ各外國ノ事務所ニ宛テテ電報ヲ發シ直チニ事業ヲ始メルト云フヤウナ然ウ云フヤウナ場合ハナイトモ申サレマセヌ併シ然ウ云フヤウナ場合ニナツタナラバ尙更ニ「前三條」ト云フ事ガ生キテ來ルカモ知レヌ、斯クノ如キ場合ハ私ハ前ニ想像シナカツタノデアリマス
横田國臣君
唯併ナガラ「前三條ノ規定」トアルカラ此四十七條ノ一項ガ適用ガ出來ルト云フ事ニスルト二項ノ場合ハ可笑シクナツテ來ハセヌカト思ヒマス
梅謙次郎君
其場合ニモ可笑シクナラナイダラウト思ヒマス、日本ニ事務所ヲ設ケル場合デナケレバ當嵌マラヌノデアツテ、日本ニ事務所ヲ設ケル場合ニハ夫レヲ設ケテカラ七日内ニ登記ヲシナケレバ其會社ハ會社トシテ働ケナクナル
横田國臣君
私ノ言フノハ然ウデハナイ、登記ヲシタ後チノ事ヲ言フノデ、登記ハ勿論シタデアラウ、御前ハ登記ハシタラウガ、御前ノ會社ハ本國デハ設立ノ時ニ登記ガナイ、夫レデ認メヌ、何ゼカナレバ御前ノ本社ガ本國デ登記ヲ受ケテ居ラヌカラデアルト云フ事ガ起ラウ
梅謙次郎君
夫レハ大丈夫デアリマス、ト云フモノハ本國ノ法律ニ依テ適法ニ設立シタモノデナケレバ外國法人デナイ、又本國ノ規則ニ依テ適法ニ設立シタ會社デアレバ外國法人ニ相違ナイ、其本國デ登記抔ノ要ラナイ場合デアレバ登記抔ハシナクテモ外國法人デアル、其外國法人ガ日本ニ來テ事務所ヲ設ケル場合ニハ今度ハ日本ノ法律ニ依テ登記ヲシナケレバナラヌト云フ事ガ起ル、ケレドモ其設立スルモノニ登記ガ要ルト云フコトハ起ツテ來ナイ
横田國臣君
所ガ夫レハ唯理窟上カラ言フノデ、此五十條ノ文面カラハ然ウ云フ事ハ言ヘマイト思ヒマス、夫レハ唯「前三條」トシカナイカラデアル、夫レデ若シあなた方ノ御趣意ニ從ツテ本國デ適法ニ設立シテ居ルモノハこちらデモ認メルト云フノナラバ其文ヲ分カラセルヤウニシナケレバ往カヌト思ヒマス
假議長(箕作麟祥君)
是ハ「第四十七條第三項及ヒ第四十八條第四十九條ノ規定」トシテハ徃ケナイノデアリマスカ
横田國臣君
若シ起案者ガ其意デ書イタナラバ然ウ書イタ方ガ宜イト思ヒマス
梅謙次郎君
夫レデモ宜カラウト思ヒマスガ、唯一ツ私ノ懸念スルノハ、此四十七條ノ第二項ノ規定ハ此處ハ文章ノ書キヤウデ止ムヲ得ズ「前項ノ登記ヲ受クルニ非サレハ他人ニ對シテ其效ナシ」トヤツタノデアリマス、ケレドモ勿論精神ハ疑ヒナイト思ヒマスガ總テ此法人ニ付テハ登記ガナケレバ他人ニ對シテ效ハナイト云フノデアリマスカラ、然ウスルト外國法人デモ矢張リ日本ニ事務所ヲ設ケル場合ニハ登記ヲシナケレバ日本ニ於テ法人トハ認メラレヌト云フ事ニナラナケレバナラヌ、夫レガ四十七條ノ二項ヲ明カニ除イテ仕舞ヘバ幾ラカ疑ヒガ生ジヤセヌカト思ヒマス
横田國臣君
其疑ヒハアルマイト思ヒマス、如何トナレバ外國法人ハ當然認メテ居ル、ナゼナレバ事務所ヲ設ケル時分ハ此規則ニ從ヘト云フノデアリマスケレドモ事務所ヲ設ケヌ奴ヲ認メテ居ル、夫レデ外國法人ト云フモノニ付テハ私ハあなた方ノ御說ハ最初カラ認メテ居ルノダラウト思ヒマス、此處ハ事務所ヲ設ケル場合ヲ言フノデアル、之ヲ設ケヌモノハ認メヌ、其法人ハ無クナツテ仕舞ウト云フノデモアリマスマイ、夫レト取引ヲシタ者ハ矢張リ法人トシテ往カナケレバナラヌ、夫レデ此處ノ其事務所ノ效ガナイトカ何ントカ云フ事ヲ言フノナラバ未ダシモ宜イ私モ亦少シ曖昧ニナツテ來タガ、之ハ中々六ケ敷イ事デ困マル
梅謙次郎君
是ハ四十七條ノ書キヤウガ惡クテ然ウ云フ風ニ見エルト云フ事デアリマスレバ止ムヲ得マセヌガ、私共ノ之ヲ起草シタ精神ハ、第一外國法人ハ認メヌ方ガ寧ロ原則ニ合ツテ居ツテ實際ノ適用ハ認メル方ガ多イデゴザイマセウガ、夫レハ商事會社デアツテ外ノ會社ハ認メナイト云フノデアリマスガ、併ナガラ特別ノ規定、條約ニ依テ認メルモノガアル、然ウ云フ時ニ於テ此適用ガ當嵌マツテ來ルノデアリマス、然ウ云フ場合ニ於テ此四十七條ヲ當嵌メル時ニハ事務所ヲ設ケナイ場合ハ夫レハ登記スベキ事ハナイ、日本ノ法人デアツテモ事務所ノナイ所ニ往ツテ取引ヲスル場合ニハ先ヅ登記ヲシテカラ取引ヲシナケレバナラヌト云フノデアリマセヌ去リナガラ事務所ヲ設ケテ置クト云フ場合ハ必ズ其所ニ於テ登記ヲシナケレバ働キガ出來ヌト云フ事ニナルデアラウト思ヒマス、外國法人デモ日本ニ事務所ヲ設ケル以上ハ其事務所々在地デ以テ登記ヲ受ケナケレバ矢張リ働キガ出來スト云フ事ニハ寧ロナルノデアラウト思フ
横田國臣君
其處ハ少シ御考ヘヲ願ヒタイ、何ゼカナレバ私ガ先ヅ外國ノ會社ト看テ、其處デ商ヒヲシタ折ニ夫レハ敷ガアル、然ウスルト事務所ヲ設ケタ時分ハ登記ヲシナケレバ效ガナクナルト云フ譯ニハ何ウシテモ往ケヌト思ヒマス、夫レデ效ノ有ル無イト云フ事ハ其事務所ノ事ニ付テノ事ナラバ宜イケレドモ純然其何ガナクナルト云フ事ハアルマイト思ヒマス、夫レハ勿論三十九條ノ通リニこちらデ認メヌモノナラバ勿論認メヌケレドモ、旣ニ認メテ居ルモノデアレバ商事會社トカ何ントカ云フモノデアルト云フト前カラ當然成立ツタモノト看ナケレバナラヌト思ヒマス
鳩山和夫君
起草委員ニ伺ヒマスガ、先刻穗積さんカラ出タ御說ト只今ノ梅君ノ御意見トハ若シヤ違ツテ居リハシナイカト思ヒマス、穗積さんノ說ヲ承ハツタ時ニハ、外國法人ト云フモノヲ法人トシテ認メル場合ニハ其登記如何ト云フモノハ問ハナイノデアル、卽チ外國法人ト云フモノハ登記ガナクモ法人トシテ認メ得ラレルト言ハレタヤウニ伺ツテ居リマス然ルニ只今梅君ノ御說ニ依ルト、其外國法人ガ事務所ヲ日本國ニ設ケル場合ニハ登記ヲ要スルト云フヤウナル御說デアル、其登記ヲ要スルト云フ事柄ハ事務所ヲ設ケルト云フ其事務所ノ登記ト云フ事丈ケデアルノカ、又ハ日本ニ事務所ヲ設ケル場合ニハ總テ登記ニ關スル日本ノ法律ヲ適用スルノデアルト云フ御趣意ノヤウニモ受取レルノデアリマス、其處ノ所ガ強ク極マツテ居ラヌケレバ此五十條ヲ極メルニ甚ダ困マルデアラウト思ヒマス、其處ハ何ウ云フ御趣意デアリマスカ承リタイ
穗積陳重君
私ノ說明致シマシタ方カラ御答ヘヲ致シマセウ、萬一違フテ居リマスレバ尙ホ梅君カラ直オシテ貰ヒタイ、私ノ考ヘマスル所デハ第一三十九條ニ於キマシテ外國法人ト云フモノハ或場合ニ於テハ之ヲ認許スル、斯ウ定マツテ居リマス、夫故ニ其外國法人ト云フモノハ登記ノ有ル無イト云フ事ニ拘ハラズ一般ニ認メル、固ヨリ三十九條ノ範圍内ニ於テ一般ニ認メル、斯ウ云フノガ通則デアラウト思ヒマス、併ナガラ此修正案ノ出マシタノハ其事務所ヲ設ケタ場合丈ケニ登記ヲサセルト云フ事デアリマス、デ事務所ヲ設ケマシテ其事務所ト云フモノノ登記ハ必ズシナケレバ往カヌ、其事務所ノ登記ノ怠リマスレバ夫丈ケノ罰則ト云フモノヲモ之ニ附隨シテ居ル事デアリマス、デ其事務所ト云フモノニ關スル規定ヲ若シ其認メラレ得ル外國法人ト云フモノガ守リマセヌ場合ニ於テハ何ウデアルカ、其規則ヲ守ラナイ、守ラナクテモ尙ホ此外國法人ヲ認メテヤラナケレバナラヌカ、夫レハ日本法人デモ認メナイノデアル、外國法人モ之ハ矢張リ登記ヲ受ケナケレバ其登記ヲ受ケヌト云フ事ニ付テ罰則トカ其效ナシトカ云フヤウナコトハ之ハ同樣ニ受ケナケレバナラヌ、斯ウ云フ考ヘナノデアリマス、私ノ前ニ說明致シマシタ事ハ、此外國法人ト云フモノガ事務所ヲ日本ニ置カヌ場合、其事ヲ言フタノデアリマス、日本ニ事務所ヲ置キマセヌ場合デモ當然此三十九條ノ範圍内ニ於テ認メルノデアリマス、事務所ヲ置キマシタ場合ハ其事務所丈ケノ規定ニ從ハナケレバナラヌ、其規定ニ背ケバ其規定ノ制裁丈ケハ受ケナケレバナラヌト云フ斯ウ云フ意味ナノデアリマス
鳩山和夫君
夫レデ起草委員ハ御異論ハナイノデアリマスカ、少シ梅君ノ御說ハ違ウヤウデアリマスガ
梅謙次郎君
私ハ同ジヤウニ云フタト思ヒマス、卽チ登記ヲセヌデモ宜イヤウナ場合ハ固ヨリ登記ヲセヌト云ツテモ認メヌト云フ事ニハナリマセヌ、ケレドモ唯登記ヲスベキ所デ登記ヲシナケレバ第三者卽チ此處デ言フ他人ニ對シテ效ナシト云フ事ニナル、日本ノ會社卽チ現行ノ法律ニ付テ言ヘバ「會社ノ各事務所ニ於テハ登記ヲ受クヘシ」其登記ヲ受ケザルトキハ第三者ニ對シテ效ガナイトアリマシテ、事務所ヲ置キナガラ或事務所ニ付テハ登記ヲシタ、ケレドモ或事務所ニ付テハ登記ヲシナイ、其登記ヲシナイト云フ時ニ於テハ其登記ヲセヌ土地ニ於テハ其會社ガ働キタイト思ツテモ働ク事ガ出來ナイト思ヒマス、夫レト同ジ事デアリマス、夫レデ穗積さんノ言ハレル通リ、夫レハ内國ノ法人ニ付テモ外國ノ法人ニ付テモ同ジデアルト云フ事ハ同ジ事デアラウト思ヒマス
長谷川喬君
先刻穗積さんノ御說明ニ、此一項ト二項ハ適用シナイト云フ事デアツタ、私モ然ウ思ヒマシタガ、然ウスルト此文章ヲ明カニ「四十七條第三項」云々ト云フ事ニシテハ起草者ノ方ハ徃ケナイト云フ事デアリマスカ
(此時「適用ハナイ」ト呼ブ者アリ)
本野一郎君
「他人ニ對シテ其效ナシ」ト云フノハ矢張リ三項ニモ引掛ツテ來テ居ラウト思フ、夫レデ若シ此四十七條ヲ修正スル事ガ出來マスレバ四十七條ノ第二項ト第三項トヲ入レ替ヘル譯ニハ往キマセヌカ
梅謙次郎君
夫レハ其方ガ宜カツタカモ知レマセヌ
穗積陳重君
夫レハ困マルデアリマス、第三項ニシテハ私ハ初メカラ困マルデアラウト思ヒマス、何故ナレバ設立ノ事ニ關シテ他人ニ對シテ其效ナシト、斯ウ云フ事ガ第二項ノ規定デアリマス、デ第三項ハ其後ニ事務所ヲ設ケタ場合、四十八條ハ其後ニ事務所ヲ移轉シタ場合、デ若シ其後ニ新ニ事務所ヲ設ケタ場合ニ七日内ニ登記ヲ受ケナイト致シマスルト云フト法人ノ設立ガ效ガナイト云フ意味ニナツテハ甚ダ困ル、夫レカラ又四十八條デモ同ジ事デアリマス、事務所ヲ移轉シタ時ニ其期間内ニ登記ヲシナイ時ニハ其法人ノ設立ガ效ガナイト云フ事ニナルト甚ダ困マル、夫レデ此第三項及ビ四十八條ト云フモノハ何ウシテモ其事務所ニ付テ效ガナイト云フノデアツテ且此仕舞ヒニ出テ來ル所ノ八十二條デアリマスガ、彼ノ過料ト云フモノデ之ヲ制裁スルヨリ外ニ仕方ガナイト思ヒマス
長谷川喬君
二項ハ適用シナイト徃ケナイト云フ御論デアリマスカ
鳩山和夫君
今ノハ本野君ニ對スル御答デあなたニ對シテデハナイヤウデアリマス
假議長(箕作麟祥君)
あなたニ對シテノ答デハナイ
横田國臣君
然ウ云フ事デアレバ尙更ラ三項ト限ツタ方ガ宜クハナイカト思フ、二項ハ「法人ノ設立ハ」云々トナツテ居ル、然ウスルト之ハ三項ニハ適用ハ出來ナイ、三項ハ當然唯事務所ヲ設ケタ時分ニ登記ヲセネバ認メヌト云フノデアル、夫レダカラシテ之ハ當然日本ニアツテモガ此二項ト云フモノハ三項ニ適用ハ出來ナイ、然ウシテ見レバ三項ト限ツタ方ガ宜シイト思フ
本野一郎君
三項ト云フ事ニシテ其七日内ニ登記ヲシナクモ外國法人ガ登記ヲセヌ時ハヽヽヽヽヽヽ
長谷川喬君
起草者ガ同意ヲシナケレバ成立タヌト云フ事ガ慣例デアリマスカラ何ウカ御相談ハ出來マセヌカ、如何デゴザイマセウ
富井政章君
私モ少シ疑ヒヲ生ジテ來マシタガ、第三項ノ場合ニ七日内ニ登記ヲシナイ時ニハ何ウ云フ制裁ガアルカ、法人ハ其本國ノ法律ニ據レバ登記ヲ要サナイト假定ヲスル、デ此場合ニ先刻穗積さんノ御說明ニヨレバ唯罰則ノ制裁ガアル丈ケデアルト云フヤウニ聽取レタノデアリマス、私ノ解シカガ惡カツタノカモ知レヌガ、梅君ノ說明ニ依レバ事務所ノ登記ヲシナカツタ時ニハ矢張リ縱令其外國法人ハ本國ノ法律ニ依テ登記ヲ要セナイニ拘ハラズ曰本ノ法律ハ法人ト見ルトシテモ夫レハ實際法人デナイト云フ事ニナツテ仕舞ウ、日本ニ事務所ヲ置テ其事務所ノ登記ヲシナケレバ矢張リ其事務所ハ有效ニ法人ノ働キヲ爲ス事ガ出來ナイト云フ意味ニ私ハ解シタ、私モ初メカラ其意味ニ解シテ居ツタ、今デモ然ウ解シテ居リマス、デ其事務所ト云フモノヲ日本ニ置イタ、其事務所ガ日本ニ於テ種々ノ取引ヲスル、而シテ其登記ガシテナイト云フヤウナ場合ニハ實際權利義務ノ主體ニナル事ハ出來ナイデアラウト思フノデアル、縱令外國ノ法人ハ本國ノ法律ニ依テ登記ヲ要セヌ、要セナクモ此第三十九條ニ依テ法人ト認メルト云フ規定ガアツテモ、日本ニ事務所ヲ設ケタ場合ニ其登記ヲ受ケヌト原則ハ行ハレナイト云フ事ノ結果ニナラウト解シテ居リマス、其事務所ガ實際取引ヲスルコトガ出來ナイ、事務所ガ事務所トシテ取引ヲスルコトハ殆ンドアルマイ、其本國ノ法人ノ名ヲ以テ取引ヲスルノデアラウ、事務所ヲ置キナガラ然ウ云フ取引ヲスルナラバ日本ノ法律ハ矢張リ認メナイト云フ事ニ解シテ居ツタ、然ウスレバ若シ五十條ニ於テ四十七條ノ第三項ト云フト制裁ハ何ウナラウカト云フ疑ヒガアル、唯「前三條ノ規定ハ」ト書テアルト勿論「他人ニ對シテ其效ナシ」ト云フ所ガ適用セラルルト思フテ安心スルノデアリマスガ、唯第三項ト書テ仕舞ツテハ何ウ云フ制裁ガアルデアラウト云フ點ニ付テ疑義ガ生ジハセンカト云フ事ヲ思フタノデアリマス
横田國臣君
一體私ハ外國法人ニ付テハ斯ウ云フ風ニシナイ考ヘデアリマシタ、ケレドモ旣ニ斯ウシテアル以上ハ夫レニ付テ論ジナケレバナラヌ、若シ富井君梅君ノ御說ガ夫レデアルナレバ大變妙ト思フ、夫レハ日本デモガ法人ト云フモノガ成立ツテ居ル、夫レガ新ニ事務所ヲ設ケタ時分ニ其事務所ヲ登記シナケレバ法人ガ成立タヌト云フ事ハ決シテ言ハレナイト思フ、唯其事務所ガ登記ヲ受ケテ居ラヌカラシテ其事務所ノ地ニ於テハ訴ヲ起ス事ガ出來ヌトカ何ントカ色々ナ事ハアラウガ然ウ云フ事ハ出來ナイノデアリマス、事務所トシテノ働キガ出來タノデアリマス、併シ其法人ト云フモノハ成立ツテ居ルモノト看ナケレバ何ウシテモろじつくガ貫ケナイト思ヒマス、夫レデ若シ今ノ通リノ御說デアルト、却テ事務所ヲ設立シナイデ居レバ其法人ハ法人トシテどんどん通ツテ往クガ事務所ヲ設立シタ爲メニ通ツテ往カナイト云フヤウナ事ニナラウト思ヒマス
富井政章君
夫レハ實際ノ理論丈ケデアラウト思ヒマス、事務所ヲ置カズニどんどん取引ヲスル事ハ出來ナイ、どんどん取引ヲスルモノナレバ事務所ヲ置テ取引ヲスル、事務所ヲ置ケバ登記ヲセンケレバナラヌ、其事務所ハ通常本國ノ法人ノ名ヲ以テスルデアラウ、若シ登記ガシテナイトスレバ夫レト取引ヲスル日本ノ商人抔ハ非常ニ迷惑ヲ蒙ルデアラウト思ヒマス、詰リ實際ノ結果ヲ云ヘバ事務所ノ登記ヲシテ居ナケレバ法人タル働キヲスル事ガ出來ナイノデアラウ、斯ウ解シテ居リマス、理論ハ認メルニシテモ實際ハ然ウ云フ事ニナラウト解シテ居ツタノデアリマス
横田國臣君
私ハ然ウハ思ヒマセヌ、非常ニ働クニハ事務所ヲ置テ働クガ宜イニ相違ナイガ、併ナガラ向フノ會社カラ直グニ横濱ニ品物ヲ持テ來テ賣ツタリスルモノガアル、然ウスルト然ウ云フ者ハ何ウナルカ、然ウ云フ者モ矢張リ法人ト認メラレルノデアラウト思フ、夫レデ本案ノ趣意モ若シ事務所ト云フモノヲ設ケナケレバ法人ハ決シテ働ク事ガ出來ルモノデナイト云フ事デアンバ夫レデ宜イガ、併シナガラ然ウデナクトモ矢張リ働クコトガ出來ルノデアリマス、然ウシテ見レバ何ウ云フ意味ニナツテ來ルカ分カラナイヤウナモノニナツテ來ル
土方寧君
横田君ノ今ノ御疑ハ理窟ハ大變宜イヤウデアリマスケレドモ、前ノ三十九條ハ外國法人ニ關スル草案ノ原則トモ言フベキモノデアリマスガ、此箇條ガ出來ル時ニ大切ナ事柄ト云フノデ色々御說モ出マシタガ、格別一定ノ修正案ガ出タノデナシスルカラ、之ハ他日復タ議論ガ起ルデアラウト思ヒマスガ、夫レデ此三十九條ノ質問ノ時分ニ日本デ法人ヲ設立スル時ハ色々ノ手續カラ監督スル方法抔モ日本デ出來ル、外國ノハ出來ナイ、ダカラシテ日本人ガ外國ニ往ツテ會社ヲ設立スル、然ウシテ夫レヲ日本ニ持テ來テモ日本ノ法律デハ夫レヲ取締リヤウガナイト云フヤウナ事ガアリヤセヌカト云フ事ヲ横田君ハ殊ニ心配セラレタノデアリマス、夫レデ此三十九條ノヤウナ原則ガ假リニ定マツタモノト見テモ、後トノ五十條ノ今度ノ追加ニナツタ所ノ修正案ノ所デ支店ヲ設ケタ時分ニ登記ヲシナケレバ矢張リ其法人トシテ働ク事ガ出來ナイ、富井君ノ解セラレル通リニ見テモ些ツトモ差支ナイ、然ウシタナラバ横田君ノ三十九條ニ付テノ御疑ノアツタノハ尤モダケレドモ夫レハ構ハヌト思ヒマス、何ゼナレバ三十九條ハ然ウ云フ場合デナイ、支店モ何モ設ケナイ場合モ澤山ニ在ル、夫レデ然ウ云フ場合ニハ後トノ五十條ニ往ツテ三十九條ノ原則ヲ打破ルヤウナ事ガ出來テモ構ハヌ、夫レデ全體ノ主義ニ付テハ總會ノ時ニハ議論モ澤山出マセウガ、何ウモ支店ヲ設ケタ場合ニハ其支店ヲ以テ日本ノ法人ト見ルト云フ位ニシタイ、夫レガ六ケ敷イ話シデアル、支店デ仕事ヲシテ居ルモノヲ日本ノ法人ト見ルト云フ事ハ六ケ敷イ話シ、夫レガ本ニナツテ横田君ガ議論ヲシテ居ラレルノハ丁度富井君ノ言ハレル事ニ同意セラルルノガ宜カラウト云フ事ニナラウト思ヒマス
梅謙次郎君
尙ホ附加ヘテ申シマスレバ、其時ニ恰モ本野君ガ心配セラレテ、外國ノ法人ノ方ガ日本ノヨリ餘計法律ノ保護ヲ受ケル事ニナリヤシナイカト云フ御心配ガアツタノニ、夫レニ對シテ斯ウ云フ箇條ヲ設ケタナラバ然ウ云フ心配ハアルマイ外國法人ガ日本ニ事務所ヲ設ケヌ場合ニハ宜イガ之ヲ設ケル場合ニハ其登記ヲ受ケザル、然ウスルト日本ニ於テ認メル、然ウシテ其法人ハ如何ナル組織ヲ持テ居ルカト云フコトヲ外ノ者ガ知ル事ガ出來ル、夫レナラバ不都合ハナカラウ宜シイト云ツテ本野君ガ一旦出サレントシタ案ヲ引カレマシタ、其位デアリマスカラ恰モ此處デハ前ノ第三十九條ノ原則ニ一ノ制限ヲ設ケタノデアル、恰モ今可笑シイト言ハレル所ノ結果ガ此案ノ出マシタ理由ニナツテ居リマス
横田國臣君
然ウ云フコトヲ言フタノデハナイ、夫レハ此處デ論ジタイケレドモ夫レヲ論ズル日ニハ丸デ事柄ガ變ハツテ仕舞ハナケレバナラヌ、外國法人ヲ認メルガ宜イカ惡ルイカト云フ事ノ議論ニナツテ來マセウカラ、私ハ夫レヲ言フノハ好マナイ、夫レハ言ハヌ、外國法人ヲ認メズト云フ事ニ付テ私ハ其例ヲ引イタノデ例ヘバ香港ニ往ツテ香港ナラ香港何處デモ宜イガ、外國ニ往ツテ會社ヲ立テ法人ヲ拵ヘテ夫レガこちらノ横濱ナラ横濱ニ來テ其會社ノ事務所ヲ設ケ日本ニ於テ會社ノ組織ヲヤツテ然ウシテ自由自在ニ商賣ヲスル、日本ノ法律ニ從ハヌデ自由自在ニヤルト云フヤウナモノガ出來ヤウト云フ懸念ガアル爲メニ引イタノデアリマス、ケレドモ其議論ハ立タナイノデアツタカラ今日ハシマセヌ、旣ニ外國法人ハ認メルト云フ事ニナツテ居ルカラ其點ニ付テハ今日ハ論ズルニ及バヌト思ヒマス、夫レデ私ガ唯今日論ズルノハ旣ニ認メルト云フ事ニナツテ居リマスカラ其認メルト云フ事ニ方向ヲ向ケテ論ジナケレバナラヌ、夫レヲ論ズルニ當テ此處ノ所ガ一寸何ンダカ分カラナイヤウニナツテ居ルト云フノデアリマス
穗積陳重君
先刻富井君カラ出サレマシタ議論ニ付テ其議論ハ私共ガ唱ヘル所トハ別ニ違ハヌヤウニ思ヒマスガ、併ナガラ修正論トシテノ結果ガ或ハ違フカモ知レマセヌ、富井君ノ言ハレマスル所ニ據ルト、外國法人ニシテ日本ニ事務所ヲ設ケ若シ其事務所ノ登記ト云フモノヲ致シマセヌ時ニ於テハ其外國法人ト云フモノノ成立ヲ認メヌ、夫レカラ四十七條ノ第三項丈ケトシテ第一項第二項ハ適用セヌト云フ事ニ往カヌト云フ事ニナルノデ、四十七條ノ第二項ハ他人ニ對シテ其效ナシト云フノガ當ルノデアル、成程然ウシテモ宜イガ、夫レナラバ然ウ書カナケレバ、四十七條ノ第一項第二項ハ法人ノ設立ニ關スル規定デアル設立スルコトハ外國法人ニ關シテハ本法ノ規定スル所デハナイ、外國法人ノ設立ハ外國法ニ依テ成立ツ、四十七條ノ第二項ノ設立シテモ其效ナシト云フノハ其設立ノ效ガナイト云フ斯ウ云フ事ヲ言フノデアリマスル、若シ其外國法人モ日本ニ事務所ヲ設ケテ而シテ此登記ノ規則ニ從ハナカツタ時ニハ之ヲ認メヌト云フ事ガ宜シイト云フ事デアレバ夫レヲ別ニ箇條ヲ設ケナケレバ四十七條ノ第二項カラハ私ハ出テ來ナイト思ヒマス、如何トナレバ其明文ニ「法人ノ設立ハ前項ノ登記ヲ受ケルニ非サレハ他人ニ對シテ其效ナシ」ト云フノデアル、之ハ設立登記ニ關スルノデアル、日本ノ法人ニ付テモ移轉ノ時ニ其期間内ニ登記ヲ受ケナカツタナラバ其設立ノ效ガナイ、新タニ事務所ヲ設ケタ時ハ七日内ニ登記ヲ受ケナケレバ其設立ノ效ガナイト云フヤウニ、皆斯ウ歸ツテ來テ讀ンデハ餘リ法律ノ明文以外ニマデ制裁ヲ及ボシバ致シマスマイカト思ヒマス、之ハ卽チ仕舞ヒニアル罰則丈ケニ當ルモノデアツテ途中デ事務所移轉ノ時ノ登記ヲ怠レバ其法人ハ消滅シテ仕舞ウト云フ事ニ看ヌ、少ナクモ他人ニ對シテハ其效ガナイト云フ事ハ同ジデアリマス然ウシテ事務所ニ關スル規定ハ其事務所ニ關スル登記ノ制裁丈ケガ當ル、卽チ事務所トシテ働ケヌデアリマス、夫レカラ罰金ト云フモノガ付キマス、夫レ丈ケノ事デアツテ、私ハ四十七條ノ第二項ハ何ウモ其場合ニハ當ラヌト斯ウ思フテ居ルノデアリマス、其處ガ富井君ト考ヘノ違ウ所デハアルマイカト思ヒマス
富井政章君
少シ辯明ノシヤウガ惡ルカツタカモ知レマセヌ、私ノ述ベマシタ意見ハ第三項ノ登記ヲシナカツタ時ハ其法人ノ設立ヲ認メナイト云フ解釋デハ決シテナイノデアリマス、此法人ハ第三十九條ニ依テ縱令本國ノ法律ニ於テ登記ヲ要セザルモノトシテアツテモ日本ノ法律ハ法人ト認メルノデアル、唯其實際ニ於テ殆ンド認メナイト云フ結果ニナルデアラウト云フ事ヲ言フタ丈ケノ事デアル、夫レガ第二項ガアレバ安心ガ出來ルト云フ事ヲ言ツタノガ少シ惡ルカツタカモ知レヌ、如何トナレバ穗積君ノ言ハレル通リ、第二項ハ「法人ノ設立ハ」ト書テアリマスカラ其處ガ少シク說明ガ不充分デアツタカモ知レヌ、兎ニ角私ガ解シテ居ツタ所ハ罰則丈ケガ制裁デナイト云フヤウニ解シテ居ツタ、事務所ガ其法人タル働キヲ爲ス事ガ出來ナイ、第三十九條ハ原則丈ケデアツテ實際ハ法人デアツテモ法人デナイト云フヤウナ結果ニナラウト云フノデアル、夫レハ三十九條ト矛盾ヲスルデアラウト云フ事ヲ横田君ハ言ハレタノデアリマスガ、三十九條ハ一般ノ原則ヲ示シタノデアル、夫レカラ其法人ガ何ウシテ働ケルト云フ條件ノ事ガ後ニ極マル、夫レガ五十條ニ依テ極マルデアラウト斯ウ解スルデアリマス
長谷川喬君
私ハ一ツ修正案トシテ提出致シマス、卽チ其修正案ハ此五十條ノ「前三條ノ規定ハ」トアル所ヲバ「第四十七條第三項第四十八條及第四十九條ノ規定ハ」ト云フ事ニ修正ヲ致シタイ、夫レデ先刻穗積君ノ御辯明ガアリマシタガ、後チノ穗積君ノ御辯明ノ通リト私ハ思フテ居リマス、卽チ第一項ニ第二項モ適用スベキモノデハナイ、若シ之ヲ適用スルニ至ツテハ私ノ看ル所デハ少シ撞着シバセナイカト思フノデアリマス、其譯ハ三十九條ニ於テ或場合ニハ外國ノ法人ハ認メル、斯ウ云フ事ヲ言フテ置キナガラ又此四十七條ノ第二項ノ如キモノヲバ置テ之ヲモ適用スルト云フ事ニ至ツテハ設立ノ場合ニ登記ヲシナケレバ其法人ヲ認メナイト云フ事ニナラナケレバナラヌト思ヒマス、然ウシテ看レバ少ナクモ撞着スル如キ不都合ガアリマスカラ、寧ロ夫レヲ適用スベカラザルモノト認メタ以上ハ明カニ適用スベカラザルモノトシテ置ク方ガ宜ラウト思ヒマスカラ此修正案ヲ提出スルノデアリマス
鳩山和夫君
長谷川君ノ修正說ニ贊成
土方寧君
私ハ今修正案ガ出テ夫レニ贊成ガアリマシタカラ原案ヲ維持スルニ付テ述ベテ置キマス、此五十條ノ出來タノハ三十九條ニ對シテ大切ナ問題デ色々質問等モ出テ假リニ議決ニナツタノデアリマスガ、若シ此三十九條ノヤウニナルト或ハ其支店ヲ設ケタリスル場合ニハ誠ニ不都合デアルカラト云フノデ此五十條ガ出來タノデアリマス、夫レデ外國法人ガ其事務所ヲ設ケテ登記ヲ受ケタ時ニ於テハ唯罰金ヲ拂フト云フヤウナ事丈ケデアツテハ折角此五十條ガ出來タ趣意ガ通ラナイ、夫レデ四十七條ノ一項二項ノ文面通リデハアルマイケレドモ、矢張リ支店デモ設ケテ其登記ヲ受ケタ時ニ於テハ土臺其本國ノ法人ヲ認メヌト云フ事ニ私ハ理解シテ居ル、夫レデ此五十條丈ケヲ單獨ニ離シテ置ク事ハ困難デアル、三十九條ニ付テ一體ニ論ジテ往キタイト思ヒマスカラ、其時ニ此五十條ト一緒ニ三十九條モ論ジタラ宜シイ、夫レデ今ノ所デハ止メタイ、其時ニ一緒ニ論ズルト云フ意見ヲ以テ此五十條ハ今日ノ所ハ原案ノ通リニ贊成シテ置キマス
梅謙次郎君
四十七條ノ書キ方ハ今ニナツテ考ヘテ見レバ或ハ少シ不完全ノヤウニ思ヒマスガ、若シ只今ノ長谷川君ノ案ノ通リニナツテ、而カモ其精神タルヤ縱令外國法人ガ日本ニ事務所ヲ置テモ唯事務所ガ事務所トシテ效力ヲ持ツ爲メニ登記ガ必要デアルガ、法人トシテ働クニハ少シモ登記ハ要ラズト云フ事ニナツテハ此五十條ヲ書イタ精神ト背馳スルノデアリマス、夫レハ今土方君ガ言ハレタ通リデアリマスガ、其事ハ現ニ行ハレテ居ル所ノ商法ノ規定ニ付テ御考ヘ下ダサレバ實地分カラウト思ヒマス、併シ私ノ解シ方ガ惡イト云フ事デアレバ仕方ガナイガ、私ノ是迄解シテ居ツタノハ商法ノ第六十九條ニ「會社ノ設立ハ適當ナル登記及公告ヲ受クルニ非サレハ第三者ニ對シテ會社タル效ナシ」トアリマス、會社ノ設立ハ適當ナル登記ヲ經ナケレバ第三者ニ對シテ其效ナシ、而シテ其適當ナル登記ハ何ウカト言ヘバ、例ヘバ其七十八條ニ於テ「會社ハ設立後十四日内ニ本店及支店ノ地ニ於テ登記ヲ受クヘシ」ト云フコトガアル、夫レカラ株式會社ニ付テハ第百六十八條ニ矢張リ云々「十四日内ニ登記ヲ受クヘシ」ト云フ事ガアツテ、其次ノ百六十九條ニモ「會社支店ヲ設ケタルトキハ其所在地ニ於テ亦登記ヲ受ク可シ」ト云フコトガアル、之ニ付テ唯モ疑ヒバ起サヌデアラウト思ヒマス、始メカラシテ會社ガ事務所ヲ二ツ置ク時ニハ其一ノ事務所丈ケニ付テ登記ヲ受ケタ時ハ其土地デハ會社ガ設立シタル效力ヲ持チマセウ、ケレドモモウ一ツノ登記ヲ受ケナイ事務所ノ土地ニ於テハ會社ハ會社タル效力ヲ第三者ニ對シテ持タヌト云フ事ハ蓋シ疑ヲ容レザル所ト思ヒマス、何ゼカナレバ夫レハ適當ナル登記デナイ、事務所ガ二ツ有ルノニ其一ツシカ登記ヲ受ケヌト云フノハ適當ナル登記デナイ、元來登記ノ精神ハ第三者ニ知ラシムル爲メデアリマスカラシテ其登記ヲシタ土地丈ケニ於テハ效力ノアルト云フ事ハ明カデアラウガ未ダ登記ヲ受ケナイ土地ニ在ツテハ會社タルノ效力ハ無イ、又同ジ登記デモ期限ガアリマスカラ其期限ノ中ニスルノデアルカラ必ズ同時ニ登記シテ同時ニ效力ヲ生ズルト云フ事ハ極マツテ居ラヌ、例ヘバ甲ノ土地デハ今月ノ一日ニ登記ヲ受ケル、然ウスルト夫レハ其一日カラ第三者ニ對シテ效力ガアル、又乙ハ今日受ケル、然ウスルト乙ハ今日カラ始メテ第三者ニ對シテ會社タルノ效力ガアル、此事ハ決シテ疑ヒハアルマイ、唯多少疑ヒノアルノハ後日ニ事務所ヲ設ケタ時デアリマス、併シ其場合デモ株式會社ノ方ハ最モ明カデアリマス、「會社支店ヲ設ケタルトキハ其所在地ニ於テ亦登記ヲ受ク可シ」トアル、支店ノ地ニ於テ其登記ヲ受ケナケレバナラヌ、其登記ヲ受ケヌ時ニハ少ナクモ其土地ニ於テハ會社ノ效ガナイ、外ニ會社ノ事務所ガアツテ其事務所ニ登記ガシテアル場合ニ於テハ其處ヘ出テ往ツテ働ク事ハ出來ルケレドモ、其外ニ事務所ヲ置テ働クト云フ場合ニハ其事務所ニ付テ登記ヲ受ケナケレバ第三者ニ對シテ會社タル事務所ノ效力ハナイト私共ハ解シテ居ル、夫レデ此處ノ法人モ矢張リ同樣デアツテ、此第四十七條ノ第二項ト云フモノガ間接ニ三項ニモ當嵌マルト思ツテ居ツタノガ間違ヒカモ知レマセヌガ、夫レガ當テラレルトスルト此四十七條ノ書キ方ヲ變ヘナケレバナラヌ、何ゼカナレバ四十七條ノ第一項ハ各事務所所在地ニ於テ登記ヲ受ケロト云フ事デアツテ之ガ事務所ヲ同時ニ設ケル場合ハ差支ヘナイガ、後トカラ設ケタ時ハ何ウデアラウト云フノデ此三項ヲ設ケタノデアリマス、夫レデ後トカラ設ケタナラバ一項ノ如ク十四日ハ要ラヌカラ七日内ト云フ事ニシタノデ第三項ノ登記ハ第一項ノ適用ニ過ギナイ、何ゼナレバ第一項ニハ各事務所トアルカラデアル、夫レデアリマスカラ此第二項ノ制裁ガ籠ツテ居ツタカト思フ、其處ニ至ツテ今疑ヒガ起ルカラ成程書キヤウガ惡ルカツタロウト云フ事ヲ悟ツタノデアリマス、如何トナレバ會社法ノ方ハ「適當ノ登記ヲ受クルニ非サレハ第三者ニ對シテ其效ナシ」トアルカラ宜イガ、こちらガ「前項ノ」ト書イタノデアルカラシテ第三項ト云フモノハ當嵌マラヌト云フ事ニナル、此處デモ始メカラ各事務所所在地ニ於テ登記ヲシナケレバ他人ニ對シテ法人設立ノ效ノナイト云フ事ハ疑ヒハナカラウ、前項ノ登記ヲ終ツテ居ラヌ、新ニ後トカラ事務所ヲ設ケタ時ニハ矢張リ夫レト同樣ニ所在地ニ於テ登記ヲシナケレバ會社設立ノ效ガナイノデアル、之ガ嵌マラヌト困マル、夫レデ若シモ今四十七條ヲ變ヘル事ガ議事法カラ六ケ敷イト云フ事デアレバ總會ノ時ニ變ヘテモ宜シイト思ヒマスガ、私ノ今解スルヤウニシタイ、此文ノ通リデハ然ウハナラヌ、夫レデ今私ノ解スルヤウニスルナレバ愈以テ前三條ト云フ事ヲ單ニ四十七條ノ第三項ト云フ事ニナツテハ困マル、旁々以テ原案ノ通リニ願ヒタイ
長谷川喬君
私モ解釋ヲ違ヘテ居ルカモ知レマゼヌガ、今梅君ガ商法ヲ引カレタ中ニ例ヘバ支店ヲ設ケタ時ニハ其支店ニ付テノ登記ヲ受ケナケレバ徃ケナイト言ハレタ、夫レハ若シ支店ヲ設ケタ場合ニ其登記ヲ受ケナケレバ會社其者ノ效ガナイト云フコトヲ言ハレマシタガ、私ハ然ウハ思ハヌ、支店丈ケノ效ガナイ、會社ト云フモノハ一度ニ登記ヲ受ケ一ノ事務所ヲ定メタ以上ハ何處ニ往ツテモ效ガアル、卽チ會社ノ代表者トシテ、例ヘバ大阪ノ會社ノ者ガ東京ニ來テモ其東京ニ來テスル所ノ仕事ハ卽チ其會社ノ仕事デアル、明カニ會社タルコトハ誰カラ見テモ間違ヒナイ、併ナガラ若シ東京ニ來テ其支店ヲ設ケル、其時ニ若シ其支店ニ付テノ登記ヲ受ケナケレバ其支店丈ケノ效ガナイト云フノデアル、其會社ト云フモノハ最初登記ヲスレバ其一度ノ登記デ充分會社タルノ效ガアルト思ツテ居ツタ、其考ヘデアリマスカラ四十七條デモ第三項ニ云フ所ハ登記ヲ受クベシト云フノデ、其制裁ハ何ウカト云フト決シテ其會社ノ設立ニ付テ利害ヲ及ボスト云フ事デハアリマセヌト思ヒマス、卽チ事務所ヲ設ケタ時ニ登記ヲ受ケナケレバ其事務所ノ設立ニ付テノ效ハナイデアラウガ、併ナガラ法人其者ノ設立ニ付テノ效ノアルト云フ事ハ疑ヒガナイ、又四十八條ニ至ツテモ登記ヲ受クベシト云フ事ガアリマスガ、此四十八條ノ登記ヲ受ケナイカラト云ツテモ絶對的ニ法人其者ガ設立シナイト云フ譯デハナイ、唯變更ヲシタ其事務所丈ケガ效ガナイト云フ意味デアラウト思ヒマス、然ウシテ今成立ツタ所ノ案ノミデハ四十七條第三項及四十八條ノ案ノ如キモノニ付テモ其登記ヲ怠ツタ場合ノ制裁ハ單ニ罰金ノミノヤウデアリマスガ、之ハ旣ニ御承知ノ通リ、登記ヲシタ時ニハ云々ト云フ事ヲ明示スルノデアラウト思ヒマス、現ニ商法ニ於テモ登記ニ付テノ總則第二十二條ニアリマスガ、登記シタル事項ハ公ケニシテ且裁判所ノ認知シタルモノトス、何人ト雖モ夫レヲ知ラヌト云フ事ハ出來ナイトアリマス、之ハ卽チ會社デモ或ハ商業デモ其他一般ニ向ツテ設ケテアル總則デアリマスカラシテ、然ウ云フヤウナ事ガ出來テアリマシテ、此四十七條第三項ノ如キモノモ制裁ガアルノデアツテ夫レニ當嵌マルノデアリマス、夫レデ此四十七條ノ第三項ヲ怠ツタガ爲メニ旣ニ成立ツテ居ル所ノ法人タル會社其者ノ設立ニマデ影響ヲ及ボスト云フコトハナイト思ヒマス、夫レデ此案ハ四十七條ノ第三項丈ケヲ適用スレバ一向不都合ハナイ事デアラウト思ヒマス
梅謙次郎君
一寸長谷川君ニ御質問致シマスガ、商法ノ會社ト云ツテモ何處カ一箇處ニ登記ヲ受ケレバ夫レデもう第三者ニ對シテ效ガアルト言レマスガ、然ウスレバ始メカラ二ツ事務所ヲ設ケテ居ル、其場合ニ一ツ丈ケノ登記ヲ受ケテ居ツテモもう一ツノ方ハ受ケテ居ラヌ、其場合ニ日本國中何處ヘ往ツテモ第三者ニ對シテ成立ツテ居ルモノト言ハレマセウカ若シ然ウ言ハレルナラバ適當ナル登記ト云フ事ガアルガ何ウデ御座イマセウ而シテ登記ノ規則ニハ各事務所ノ登記ヲ受クベシトアリマスガ、夫レヲ唯一箇所丈ケノ登記ヲシタノデモ矢張リ適當ト言ハレマスカ、夫レカラもう一ツ御意見ヲ伺ヒタイノハ、抑モ登記ト云フモノハ會社ノ成立ヲ第三者ニ知ラシメル爲メデアリマス、其登記ヲセヌケレバ制裁ノ一トシテ第三者ニ對シテハ成立タヌト看ルノデアリマス、夫レデアルノニ例ヘバ仙臺デ事務所ヲ設ケタナラバ仙臺ニ於テ登記スベキモノデアル、仙臺ニ於テ登記ヲスベキモノデアレバ其處デ登記ヲシテ其會社ノ成立ヲ人ニ知ラセルノデアル、夫レヲ知ラシメナイデ置テ其制裁ハ罰金其他ノ事ガアルニモセヨ矢張會社設立云々ノ制裁ハ會社トシテ第三者ニ對シテ效力ガアルヤ否ヤト云フ事ニ付テ制裁デアルヤ否ヤ、夫レデ果シテ適當ナル登記ト云フ事ニ對シテモ其意味ニ叶フト云フ御考ヘデアリマスカ
長谷川喬君
今ノ御質問ハ先刻ノ商法ヲ指サレタノデアラウト思ヒマスガ、之ニ依テ見マスルト云フト梅君ノ言ハレタ如クニ各事務所ニ於テ登記ヲ受ケルトハアリマセヌ、各事務所ト云フノハあなた方ノ御拵ヘニナツタノニハアリマスガ、現行法ニハ各事務所トハアリマセヌ、夫故ニ會社タルモノハ一ノ事務所ヲ設ケ然ウシテ夫レニ付テハ登記ノ手續ガアル、其手續ニ依テ登記ヲ經タルモノハ卽チ適當ナル登記ヲ經タモノデアリマスカラ夫レデ立派ニ成立ツモノデアリマス、夫故ニ數多ノ事務所ガアラウトモ一ノ事務所デ以テ登記ヲ經タナラバ先ヅ商法ニ於テハ立派ナル會社デアリマス、然ウスルト御尋ネノ如ク日本全國何處ニ往ツテモ會社タルノ效ガアリマス、夫レカラ登記ノ效能ガナイ云々ト云フ事ヲ言ハレマシタガ、登記ノ效能モ明カニ分ツテ居ル、卽チ二ツノ事務所ヲ拵ヘタナラバ其一ツノ事務所シカ登記ヲ受ケテ居ラナイト其一ツノ事務所ノ效能シカナイ、故ニ其他ノ事務所ニモ效能ヲ及ボサシメントスルナレバ矢張リ其登記ヲ受ケナケレバナラヌ、登記ヲ受ケサヘスレバ效力ヲ生ズルノデアリマス、決シテ登記ニ付テ不都合ハアルマイト思ヒマス
梅謙次郎君
只今ノ長谷川君ノ御說明ハ誤解デハアリマスマイカ、商法ノ七十八條ニ本店及ビ支店トアル、各事務所トハ書イテナイケレドモ之ガ事務所ニ當ル事ト思フ、第百六十九條ニモ「會社支店ヲ設ケタルトキハ其所在地ニ於テ亦登記ヲ受ク可シ」トアル、本店ト支店ト双方デアル、本店ト支店ト云フコトハこちらデ言フ事務所ノ事デアリマス、こちらハ店デナイカラ事務所ト言ツタノデアリマス會社ノ方ハ商賣デアリマスカラ本店支店ト云ツタノデアリマス、こちらハ法人デアリマスカラ各事務所ト云ツタノデアリマス
長谷川喬君
然ウスルト梅君ト私トハ解釋ガ逹ウノデアリマス、私ノ考ヘデハ登記ノ事ニ付テハ會社法ノ總則ニハ元來斯ウ云フ事ガ書テアリマス、「會社ノ設立ハ適當ナル登記及ヒ公告ヲ受クルニ非サレハ第三者ニ對シテ會社タル效ナシ」トアル其處デ本店支店ヲ設ケタ時ニハ兩方トモ登記ヲ受ケル、其登記ヲ受クルニ非サレバ抑モ會社ガ成立タヌカ否ヤト云フ事ニ付テハ夫レハあなた方ト私トトノ解釋ガ違ウカモ知レマセヌガ、若シ本店ト支店トヲ設ケタ時ニハ各々二ツトモ登記ヲ徑ナケレバ抑モ其會社ハ成立タヌト云フノハ梅君ノ御論デアルカモ知レナイガ、私ハ支店ノ方ハ受ケナイ所ガ其本店丈ケノ登記ヲ受ケタナラバモウ立派ニ會社タルノ效ガアラウト思ヒマス、若シ然ウデナケレバ後ニ支店ヲ設ケタ場合ガアル、其場合ニ若シ其支店ノ登記ヲ受ケナケレバ先キニ本店ノ登記ヲ受ケテ夫レガ成立ツテ居ルニモ拘ハラズ其本店ノ登記迄モ無效ニナツテ矢張リ其設立ノ效ガナイト云フ事ニハナラヌト思ヒマス、要スルニ私ノ看ル所デハ本店支店ヲ設ケタ場合ニ縱令其支店ノ登記ヲ受ケナイカラトテモ本店ノ登記サヘアレバ其會社ノ設立ニハ寸毫モ害ハナイト思ヒマス
梅謙次郎君
私ノ先キニ申シタノハ後トカラ事務所々在地ニ於テ登記ヲシナカツタ爲メニ前ノ登記迄效力ヲ失ヒ、或ハ二箇所アツテ其一箇所ノ登記ヲセヌ爲メニ一方ノ方ノ登記迄全ク效力ヲ持タスト云フノデハアリマセヌ、登記ノ性質ニ於テハ登記ト云フモノハ一區域内ニシカ效力ハアリマセヌカラ其區域内ニ於テハ勿論效力ヲ持ツケレドモ、一ノ事務所ヲ設ケテ其處デ登記ヲ受ケル、然ウシテ其效力ヲ他ノ區域ニ迄及ボサントスレバ適當ノ登記ト云フ以上ハ矢張リ其處デ登記ヲ受ケナケレバ適當ノ登記トハ言ヘヌデアル、夫レデ長谷川君ハ會社ノ設立ニハ本店丈ケ登記ヲスレバ支店ノ方ハ要ラヌト言ハレマスガ、然ラバ之ヲ反對ニ支店丈ケ登記ヲ受ケテ本店ノ方ハ登記ヲ受ケナイ、夫レデモ成立ツト云フノデアリマセウカ
長谷川喬君
決シテ支店丈ケノ登記ヲ受ケニ往ツタ所ガ夫レデハ登記官吏ガ許サヌト思ヒマス
横田國臣君
私ハ大概分ツテ居ル、一體梅君ノ御說ハ何時デモ甚ダ能ク分カリマス、夫レデ私ハ何時デモ物ヲ言フ時ニハ梅君ニ向テ聽キマス、然ルニ此事丈ケニ付テハ梅君ハ甚ダ分カラナイ事ヲ言ハレルト思フ、本店ガ無クテ支店ノアラウ筈ハナイ、夫レハ無效デアリマスガ、本店ガ旣ニ在ル以上ハ他ノ支店ハ何ウデアラウトモ其本店ノ成立ツテ居ルト云フ事ハ一言デ分カツテ居ル話シデアル、併ナガラ夫レニ付テ梅君ハ五十條ハ矢張「前三條ノ規定ハ」ト云フ事ニシテ置クト云フ事ヲ言ハレマスケレドモ之ハ甚ダ分カラナイ事デアル、梅君ハ何ント言フテ宜カラウカヽヽヽヽ少シ妙デアラウト思フ、夫レハ何ゼカナレバ梅君御自身モ此四十七條ト云フモノハ往カナイ、變ヘネバナラヌト云フ事ヲ言ハレテ居リナガラ、然ウシテ此處ハ矢張リ「前三條ノ規定」ト云フ事デ置カナケレバナラヌト云ハルルガ、御自分デスラ旣ニ四十七條ハ往カナイト言フテ居ラレル、其往カナイト云フ所ニ從ツテヤレト言ハルルノハ何ント云フ事デアラウカ、一向分カラナイ話シデアル、夫レデ私ハ外國法人ハ制限スルコトハ好ムガ到底ろじつく的ニ往カレタモノヲ然ウ云フ事ニシタ所ガ仕方ガナイ、故ニ今日ノ所デハ三項ト云フ事丈ケニシナケレバ仕方ガナイ、併ナガラ尙ホ名案ガアツテもう少シ之ヲ檢束スル事ニ起案者ガ此五十條ヲ別段ニ改正シテ出スト云フ事デアレバ格別デアルガ、併ナガラ此儘ノ四十七條デ而シテ五十條ヲ「前三條」ト云フ事ニシテ置ケト云フ事ニハ一向服サレナイ、之ハ梅君御自身デサヘモ今ノ四十七條ノ儘デハ徃ケナイト云フテ居ラレルニ尙ホ此五十條ニ從ヘト言ハレル事ハ少シ可笑シナ御議論ト思フ
鳩山和夫君
先刻穗積君カラ五十條ノ御說明ノアツタ時ニ「前三條」ト書イタノハ四十七條ノ中デ第三項計リヲ指ス積リデアル、斯ウ云フ文例ハ現行法ニモアルカラ四十七條ノ一ツガ五十條ニ引用サルルト云フ事デ、四十七條ノ第三項計リデ全體ヲ指スデハナイ、斯樣ナ趣意デ書イタト云フ事デ、之ヲ起草委員ノ意見トシテ述ベラレマシタカラ私モ四十七條ノ三項丈ケデアルト思ヒマシタ然ルニ其後議論ガ出テ梅君ノ議論ト富井君ノ議論ヲ聽クト、第四十七條ノ三項丈ケデハナイ、第二項ニアル其設立ノ效ナシト云フ事柄モ矢張リ五十條ノ中ニ引用スルモノデアルト云フガ如キ御意見デアツタ、其處カラ出テ長谷川君ト討論ガ始マツテ來ルノデアリマス、全ク最初ニ穗積君ガ起草委員ヲ代表シテ仰シヤツタ說明ト只今ノ御議論トハ違ツテ居ルヤウデアリマス、其處ヲ極メテ置カナイト之ハ文字上ノ爭ヒデナク一體ノ爭ヒニナラウト思フ、私ハ穗積君ト同說長谷川君トモ同說、卽チ事務所ノ登記ト云フモノハ其事務所ノ登記ヲ受ケヌト事務所丈ケノ效力ガナイト云フ意味ニ相違ナイト思ヒマス、唯事務所丈ケノ登記ヲ爲サヌガ爲メニ其設立ノ效ヲ爲サヌト云フ事ハ妙ト言ハウカ少シ可笑シイト思フ、夫レデ尙ホ起草委員ノ三君ガ御相談ノ上デ其極マツタ所ノ御意見ヲ伺ヒタイ
富井政章君
私ハ強テ修正案ニ反對デハナイノデアリマス、何ゼカナレバ只今鳩山君ノ言ハレタノトハ反對デ、私ガ先キニ申シタ意見ハ設立ヲ認メナイト云フノデハナイ、設立ハ第三十九條ガ認メテ居ル、而シテ此第三項ノ登記ヲ受ケナケレバ其設立ヲ認メナイト殆ド同樣ノ結果ニナルデアラウト云フ意見デアル、夫レデ先刻中シタ事ハ第二項ノ所ノ「他人ニ對シテ其效ナシ」ト云フノハ理論上適當デアルカラ夫レガ少シ欲シイノデアリマス、ケレドモ第三項丈ケニナツテモ私ハ矢張リ私ノ意見ノヤウニ解釋ヲスル、横田君ト長谷川君ト違ツタ解釋ヲ下ダサルルケレドモ唯解釋ニ付テ違ツタ說ノ生ズルノハ如何ニモ殘念デアル、ケレドモ「受クヘシ」トアリマスカラ私ハ何處迄モ夫丈ケノ制裁ト云フモノヲ持テ居ルモノト思ヒマス
穗積陳重君
尙ホ一言申シマスガ、此「前三條」ト君ク時ニ於テモ吾々ノ間デモ實ハ氣ノ付カヌ事デモナカツタノデアリマス、實際設立ハ本店ノ事丈ケニ當ルノデ新ニ其事務所ヲ設ケル事ガ當ルノデハナイト云フ事ヲ吾々ガ研究シタノデアリマス、併ナガラ其結果ト云フモノガ第二項ノヤウナ事ニナルカナラヌカト云フ事ニ付テ此處デモ或ハ夫レニモ少シ及ブト云フ解釋ノ違ウト云フ事ヲ吾吾ノ中ニモ生ジタヤウニ見エルノデハナイカト思フノデアリマス、デ本條ヲ只今長谷川君カラ出サレタ所ノ修正案ノヤウナ文章ニ書カウカト云フヤウナ說モアリマシタガ、夫レモ餘リ長クナルト云フ考ヘモアリマシタカラ斯ウシタノデ、決シテ私一己ノ獨斷デ此處ヲ斯ウシタノデハアリマセヌ
菊池武夫君
今ノ御話シモアリマシテ別ニ違ハヌト仰ツシヤラレマシタガ私ハ或ハ違ウカト思ヒマス、之ハ何モ今ニ限ツタ事デハアリマセヌカラ、總會ノ時迄ニ充分御考ヘヲ練ラレテカラ出サレルト云フ事ニシテ貰ツテハ如何デゴザイマセウカ
土方寧君
總會ノ時ニハ話シガ付クダラウト云フヤウナ事デハ往ケマセヌカラ、之ハ總會前ニ極メル事ヲ望ミマス、夫レデ私ハ旣ニ諸君ガ充分ニ御議論ニナツテ居リマスカラ此處デ終結ノ動議ヲ出シマス
假議長(箕作麟祥君)
長谷川君ノ修正案ニ付テ決ヲ採テ見テ若シ多數ナラバ然ウ極マル、少數ナラバ又議論ガ出マセウカラ、一旦長谷川君ノ案ニ付テ決ヲ採ツテ見マセウ
菊池武夫君
私ハ起草委員ニ於テ說ヲ纏メラレル爲メニ之ハ一旦御退キニナツテハ如何カト思ヒマス
假議長(箕作麟祥君)
然ウ云フ事デアレバ菊池さんノハ五十條ト四十七條ト牽連シテ居ルト云フノデアリマスカ、或ハ五十條計リデアリマスカ
菊池武夫君
五十條計リデアリマス
梅謙次郎君
第一項ハ這入ラヌ、第二項ハ間接ニ這入ル
假議長(箕作麟祥君)
如何デアリマスカ、長谷川君ノ修正案ガ問題ニナツテ居リマスカラ一ツ決ヲ採ラウト思ヒマス、長谷川君ノ修正案ハ旣ニ諸君ニ於テモ御承知ノ通リデ之ニ御同意ノ方ハ起立ヲ請ヒマス
起立者少數
假議長(箕作麟祥君)
少數デアリマス
本野一郎君
起草委員諸君ニ御相談ガアリマス、之ヲ變ヘラレタ御方ノ内ニモ第三項丈ケガ當嵌マルト云フ事ト又第二項モ當嵌マルト云フ事ト二ツアリマスガ、若シ此意味ガ第二項ハ這入ラヌ、第三項丈ケデ第三項ハ罰金丈ケノ制裁ト云フ事デアリマスレバ此五十條其儘ニハ贊成スル譯ニハ往カヌノデアリマスガ
假議長(箕作麟祥君)
本野さんノ御相談モ應ジナケレバ仕方ガナイカラあなたノ一ノ動議ニシテ御出シニナツタラ如何デアリマスカ
富井政章君
然ウスルト四十七條カラ變ヘテ往カナケレバナラヌ
本野一郎君
然ウスルト四十七條ニ付テノ修正案ヲ此處ニ更ラニ出ス事ヲ許サレン事ヲ望ミマス
假議長(箕作麟祥君)
五十條ト四十七條ト牽連シテデアリマスカ
本野一郎君
然ウデアリマスガ、夫レデハ總裁ノ御出デノ時ニ四十七條ニ付テノ修正案ヲ出シテ二項ヲ三項ニ三項ヲ二項ニシタイト思ヒマス
鳩山和夫君
夫レハ然ウ云フ譯ニハ往カヌ
横田國臣君
設立ガ效ガナイト云フ梅さんノ御話シバ可笑シイ
梅謙次郎君
私ハ此四十七條ニ付テ總會ノ節ニ修正說ヲ自分ノ說トシテ出スカ或ハ外ノ人カラシテ出サレルト云フ事ニ至ラウト思ヒマスガ、矢張リ此處ハ「前三條ノ規定ハ」トシテモ宜イト思ヒマス、夫レデ穗積君ノ御說ニシテモ何レ此處ハ「前三條」デ決シテ貰ヒタイ
土方寧君
五十條ニ付テノ修正說モ旣ニ消滅シテ別ニ御說ガアリマセヌカラ、何ウカ速カニ採決ニナラン事ヲ希望致シマス
鳩山和夫君
私ハ五十條ニハ反對デアリマス、其理由ハ此五十條ハ修正案デアリマスガ、之ハ否決シタナラバ何ウカ又後トデ始末ガ付カナケレバナラヌ、然ウスルト後トカラ起草委員ノ方カラ何ウトカシテ出シテ來ラレルト思ヒマスカラ、此案丈ケハ否決ヲ望ミマス
横田國臣君
贊成シマス、之ガ削除ニナルト起草委員カラ復タ出サレルト思ヒマス
梅謙次郎君
唯否決ト云フ事ハナイ、削除說デアリマス
鳩山和夫君
削除說デアリマス
梅謙次郎君
削除說ナラ吾々ハ出シヤシナイ、構ハヌデ置ク
假議長(箕作麟祥君)
鳩山君ノ削除說ニ贊成ノ方ガアリマシタカラ決ヲ取リマス、之ニ贊成ノ方ハ起立ヲ請ヒマス
起立者少數
假議長(箕作麟祥君)
少數デアリマス、夫レデハ本條ニ對シテハ原案ニ決スルヨリ仕方ガナイト思ヒマス、次ハ第二節ニ移リマス
(左ニ記セル參照及ヒ理由ハ朗讀ヲ經サルモ參考ノ爲メ茲ニ是ヲ掲載ス以下之ニ倣フ)
第二節 法人ノ管理
(理由)本節ハ法人ノ機關ニ關スル事ヲ規定セリ法人ノ機關ハ之ヲ業務施行ノ機關ト業務監督ノ機關トニ別チ理事ヲシテ其業務施行ノ任ニ當ラシメ監事ヲシテ其業務監督ノ事ニ任セシム前者ハ法人ノ法律上ノ代理人ニシテ其常務ノ施行ニ缺クヘカラサル機關ナルヲ以テ必ス之ヲ置クコトヲ要スルモノトシ後者ハ業務ノ監督上必要アル場合ニ於テ之ヲ置クコトヲ得ルモノトセリ又社團法人ニ在リテハ社員ノ合同意思ヲ以テ法人ノ意思ト爲スコトヲ得ヘキヲ以テ社員ノ總會ヲ以テ法人ノ意思ヲ確定スヘキ最高機關トシ法人ノ業務ヲ指揮、監督セシム又主務官廳ヲ以テ法人ノ最高監督府トシ各法人ヲシテ皆其監督ノ下ニ立タシメ以テ公益保護ノ目的ヲ貫徹セシメンコトヲ謀レリ
第五十二條 法人ニハ理事ヲ置クコトヲ要ス
理事數人アル場合ニ於テ定款ニ反對ノ規定ナキトキハ其管理ニ關スル事項ハ理事ノ多數ヲ以テ之ヲ決ス
(參照)取一二四、商八七、一四三、グラウブユンデン八九、ツユーリヒ二九、モンテネグロ七三一、獨一草四四、五項、同二草二五、一項、二項、二七、一項、普國法二部六章一三七、一三八、索五三、紐草四一一、四一八
(理由)一、法人ハ限定セラレタル權利能力ヲ有スルモノナルモ行爲能力ニ至リテハ全ク之ヲ缺クモノナリ故ニ其權利ヲ行使セントナラハ必ス之カ機關ヲ設ケサル可ラス而シテ一ノ行爲ヲ爲ス毎ニ特別ノ代理人ヲ選任スルカ如キハ獨リ其繁ニ耐ヘサルノミナラス他人ヨリ法人ニ對スル行爲ヲ爲スニ當リ常置ノ代理人ナキトキハ其不便尠カラス又社團法人ニ於テハ或ハ社員ヲ以テ常置代理人ト爲スコトヲ得ヘシト雖モ通常其人員ノ多キカ爲メニ或ハ事務ノ統一ヲ缺キ或ハ事業ノ澁滯ヲ來スノ不便アルヲ免レサルヲ以テ前記ノ二法ハ共ニ適當ナル方法ト稱スヘカラス是レ法人ニハ必ス常置ノ行爲機關ヲ設クルコトヲ要スル所以ナリ
二、理事ハ法人ノ事業ノ性質ニ依リ或ハ一人ナルヲ便利ナリトシ或ハ數人ナルヲ必要トスルコトアルヘキモ理事ノ代理權ハ通常總括代理ナルヲ以テ假令數人ノ理事アル場合ト雖モ一體ノ代理人ニシテ各理事ハ其全體ノ議決ニ依リテ動クヘキモノナリ且一箇ノ法人ニ數箇ノ總理代人アルコトヲ許ササルナリ但本條ノ規定カ特別法令ニ依リ法人ニ特別ノ代理人アル場合ヲ含マサルハ固ヨリ言フヲ俟タサルナリ
三、理事數人アル場合ニ於テハ其業務ノ取扱ニ關シ理事中意見ヲ異ニスルコト屡之アルヘキヲ以テ今茲ニ之ヲ決定スルノ方法ヲ定メサルヘカラス而シテ若シ其決定ハ理事總員ノ同意ニ依ルヘキモノトスルトキハ一ノ事務ニ付キ一人之ヲ非トスレハ他ノ理事盡ク之ヲ是トスルモ之ヲ決行スルコトヲ得サルカ如キ不便アルヲ以テ通常ニ行ハルル團體ノ意思決定ノ方法ニ從ヒ多數決ニ依ルノ外他ニ適當ナル方法アルヲ見ス現ニ獨逸民法第一讀會草案(四四)ニ於テハ總員ノ同意ヲ要スルヲ通則トセシモ第二讀會草案(二七)ニ於テ之ヲ改メテ多數ノ方法ヲ採ルニ至リシハ蓋シ此理由ニ基キシモノナリ而シテ理事總員ノ同意ヲ要スヘキ場合或ハ各理事カ業務ヲ分擔シ理事全體ノ議決ヲ要セサル場合等ノ如キハ定款ヲ以テ之ヲ本條ノ規定ヨリ除外スルノ餘地アルヲ以テ多數決ノ議定法ハ敢テ實際ニ不都合ヲ生スルノ虞アラサルナリ
横田國臣君
一寸質問シタイト思ヒマス、之ハ一般ノ事デアリマスガ、此規則ノ中ニ是非ニ從ハセネバナラヌ規則ト夫レカラ互ヒノ契約デ何ウデモナル事トカ云フ事ノ區別デアリマスガ、此區別ヲ何カ御書キ別ケニナル御積リデアリマスカ、夫レハ何カ規則ニ依テ見テ往クヤウニセラルル御積リデアリマスカ、五十二條ノ如キハ勿論「定款ニ反對ノ規定ナキトキハ」トアルカラ其他ノ事デモ宜イノデセウカ、往カヌトハ解釋ハシマスルガ、併ナガラ斯ウ御書キニナルノニ何カ印シデモ付ケラルル御積リデアリマスカ、又ハ何ウデモ見ヤウニ依テどちらニカナルト云フヤウナ風ニ爲サル御積リデアリマスカ、之ハ必要ト思ヒマス
穗積陳重君
其事ニ付テハ前回デアリマシタカ、或ハ何日カノ會デ一寸御話ガ出タコトト思フテ居リマスガ、併シ其時ノ算ハはつきりトハ覺エテ居リマセヌガ、併シ成ル丈ケ「ヘシ」ト書クガ明カデアルト云フヤウナ時ハ成ルベク多ク使ヒタイ、或ハ「反對ノ規定ナキトキハ」ト云フヤウナ時ハ、卽チ契約ニ殘スヤウナ場合ニハ其事ヲ成ル可ク明カニ書クノ方針ヲ採ルト云フヤウナ風ノ御相談ニ殆ンド纏ツタヤウニ略ボ記憶シテ居ツタノデアリマス、慥ニ議決ト云フ事モアリマセヌデアリマシタガ、慥カ話ノ序ニそんな事ニシヨウト云フコトニナツタト漠然承知シテ居リマス
假議長(箕作麟祥君)
第五十二條ハ何ウデアリマスカ、別ニ御發議ガナイヤウデアリマスカラ之ハ確定ト認メテ次ノ五十三條ニ移リマセウ
(書記朗讀)
第五十三條 理事ハ總テ法人ノ事務ニ付キ法人ヲ代表ス但定款ノ規定又ハ寄附行爲ノ趣旨ニ違反スルコトヲ得ス又社團法人ニ在リテハ總會ノ決議ニ從フコトヲ要ス
(參照)商一〇九、一四三、一八六、モンテネグロ七三二、七三三、獨二草二五、普國法二部六章一四一
(理由)理事ハ法人ノ法律上ノ代理人ニシテ其權限ハ總括代理ナルヲ常則トスルヲ以テ苟モ其本人タル法人ニ屬スル權利ハ盡ク之ヲ行使スルコトヲ得ルモノトス然レトモ其代理行爲ハ定款ノ規定、寄附行爲ノ趣旨又ハ總會ノ決議ニ依リテ制限セラルルコトアリ此場合ニ於テ理事ハ其總理代人タルノ故ヲ以テ其制限ニ服セサルコトヲ主張スルヲ得ス是レ但書ノ規定ヲ要スル所以ナリ
假議長(箕作麟祥君)
起草委員ニ御尋ネシマスガ、此次ノ條ニハ代理權トゴザイマスガ此處ハヽヽヽヽヽヽヽ
穗積陳重君
制限ト云フノデアルカラ代理權ト言ハヌト不都合デアラウト思ヒマス
假議長(箕作麟祥君)
「法人ヲ代表ス」ト云フ事デアルカラ其代表スル事ノ權利ト云フ事ニナルノデアリマスカ
富井政章君
人ヲ代表スルト云フ事デナク事務ヲ代理スルノデアル
長谷川喬君
一寸御尋ネ致シマスガ、此理事ハ誰ヲ擇ンデモ宜シイデアリマスカ
穗積陳重君
固ヨリ本案デハ其積リデアリマス
假議長(箕作麟祥君)
第五十三條ニ付テ別ニ御異論ガナケレバ可決ト認メテ次ノ條ニ移リマス
(書記朗讀)
第五十四條 理事ノ代理權ニ加ヘタル制限ハ善意ヲ以テ之ト取引ヲ爲シタル第三者ニ對シテ其效ナシ
(參照)取二五〇、二項、三號、商一一一、一四四、一八六、モンテネグロ七三三、獨二草二五、三項、五六、二項
(理由)法人ハ本來無能力者ナルヲ以テ理事ノ代理權ハ其法人ノ目的ノ範圍内ニ於ケル行爲ニ付テハ無制限ナルヲ本則トスヘキモノナリ故ニ若シ定款ノ規定、寄附行爲又ハ總會ノ議決ヲ以テ或種類ノ行爲ヲ禁止シ又ハ或行爲ヲ爲スノ條件若クハ方法ヲ定ムルカ如キ制限ヲ設クルコトアルトキハ其制限ハ前條ニ規定セルカ如ク固ヨリ理事ヲ羈束スヘキモノナリト雖モ第三者ニハ其效力ヲ及ホスヘキモノニ非ス故ニ近世諸國ニ於テハ之ニ關シ種々ノ規定ヲ設ケタリト雖モ要スルニ次ノ三種ノ一ニ出テサルモノノ如シ或ハ(一)其制限ヲ登記セシメ第三者ニ對シ總テ之ヲ有效ナリトスルモノアリ或ハ(二)取引ノ安全ヲ圖リ第三者ヲ保護センカ爲メニ其制限ハ全ク無效ナリトスルモノアリ又或ハ(三)其當事者ノ善意惡意ヲ區別シ其制限アルヲ知ラスシテ取引ヲ爲シタル者卽チ善意者ニ對シテハ之ヲ無效トシ其制限アルヲ知テ取引ヲ爲シタル者卽チ惡意者ニ對シテハ之ヲ有效トスルモノアリ前擧三種ノ規定中第一種ノ如キ規定ニ依レハ法人ト取引ヲ爲サントスルトキハ登記ヲ檢閲スルノ必要アルカ如キ煩アリ又此煩ヲ厭フノ第三者ハ爲メニ損失ヲ被ムルノ危險アルヲ以テ法人ノ保護ニ厚クシテ第三者ノ保護ニ薄キノ弊アリ又第二種ノ規定ニハ定款ノ規定、寄附行爲又ハ總會ノ議決ト雖モ理事ノ擅恣ヲ制シ代理權ノ行用ヲシテ其適度ヲ得セシムルコト能ハサルヲ以テ第三者ノ保護ニ厚クシテ法人ノ保護ニ薄キモノト云ハサルコトヲ得ス特ク第三種ノ規定ハ法人ニハ其代理權ニ制限ヲ加ルコトヲ許スト雖モ之ニ由リテ善意者ヲ害スルコトヲ得サルモノナルヲ以テ最モ衡平ヲ得タルモノト稱スルコトヲ得ヘシ是レ本案ニ於テ第三種ノ規定ヲ採リシ所以ナリ
横田國臣君
一寸御尋ネシマスルガ、此「善意」ト云フコトハ宜カラウトハ思ヒマスガ、登記シテ居ルモノハ何ウ御覽ニナル御積リデアリマスカ、若シ定款ニ於テ登記ヲスルコトハ何ニカアリヤシマセヌカ
穗積陳重君
四十九條ニアリマス
横田國臣君
夫レト牴觸シナイ箇條ガアレバ宜イガ、善意デアツテモ夫等ニ付テ不都合ガナケレバ宜イガ、善意デアレバ登記ハシテアツテモ役ニ立タヌノデアリマスカ
穗積陳重君
夫レハ登記法ノ總則ノ方カラ定メテ出テ來ルヤウニナラウト思ヒマス、登記シテ居ル事柄ノ效力ハ商法ノ方カラ言ツテ見ルト登記シタモノハ知ラヌト云フ事ニハナラヌト思ヒマス
横田國臣君
是ハ勿論然ウデナケレバナラヌト思ヒマス
梅謙次郎君
併シ此代理權ノ制限抔ハ登記官吏ガ登記ヲ承諾シテ登記スベキ事柄デアリマセウカ、私ハ然ウデハナカラウト思ヒマス、夫等ハ登記法ノ定メヤウ次第デアリマスガ、私ハ然ウ云フ風ニ定メラレンコトヲ望ミマス、ケレドモ横田さんノ言ハルルヤウナ問題ハ起ツテ來マイト思ヒマス、登記シテアル事柄ナレバ登記簿ヲ見マスガ、法律ニ數ヘテナイ事ヲ誰モ登記シテ居ラウトハ思ヒマセヌ
鳩山和夫君
五十三條ノ中ニ「社團法人ニ在リテハ總會ノ決議ニ從フコトヲ要ス」と云フ如キ事ガアル、之ハ五十四條ノ「代理權ニ加ヘル制限」ト云フ中ニ這入ツテ居ルモノデアリマスカ、或ハ這人ツテ居ルモノデハアリマセヌカ
穗積陳重君
固ヨリ代理權ヲ制限スルノハ定款ヲ以テシ或ハ總會ノ決議ヲ以テシ或ハ寄附行爲ヲ以テスルノデアリマスカラ、「總會ノ決議ニ從フ事ヲ要ス」ト云フコトモ卽チ此中ニ這入ツテ居リマス、卽チ理事ハ若シ總會ノ決議ニ依テ其代理權ヲ制限セラレ、或ル事ハセヨ或ル事ハスルナ、斯ウ斯ウ云フ方法ニ依テ行クト云フヤウナ決議ガアリマシタナラバ理事ハ夫レニ從ハナケレバナラヌ、夫レガ第三者ニ對スル時ハ第三者ハ總會ノ決議ハ知リマセヌカラ何ウ云フ效ガ有ルト云フ事ヲ規定スルノモ本條ノ目的ノ一ツデアリマス
假議長(箕作麟祥君)
第五十四條ハ如何デアリマス
横田國臣君
異議ナシ
假議長(箕作麟祥君)
御異議ガナケレバ可決ト認メテ次ノ五十五條ニ移リマス
(書記朗讀)
第五十五條 理事ハ定款、寄附行爲又ハ總會ノ決議ニ依リ禁止セラレサルトキハ特定ノ行爲ニ付キ他人ヲシテ代理セシムルコトヲ得
(參照)取二三五、獨二草二九
(理由)前二條ニ於テ述ヘタル如ク理事ノ權限ハ包括的ノモノナルヲ以テ其委任事件ニ屬スル代理行爲ヲ悉ク自ラ取扱フノ難事タルヤ論ヲ俟タス獨逸民法草案ノ如ク理事ノ外ニ特別ノ代理人ヲ置クコトヲ得ルモノトスレハ法人ノ代表權一途ニ歸セス第三者ニ對シテハ殆ト理事ノ代理權制限ト同一ノ結果ヲ生スヘキヲ以テ本案ニ於テハ復代理ニ關スル規定ニ從ヒ理事ニ他人ヲシテ自己ニ代ハリテ特定ノ行爲ヲ爲サシムルコトヲ許セリ唯之ヲ代理ノ部ニ讓ラスシテ茲ニ掲クル所以ノモノハ復代理ニ關スル規定ニ依レハ委任事件ノ全部又ハ一分ヲ代理セシムルヲ得ヘシトスルコトアルヘキモ茲ニハ此ノ如キ包括的ノ復委任ヲ許サスシテ一個又ハ數個ノ行爲ヲ單獨的ニ指定シテ代理セシムルコトヲ許スニ止マルヲ以テナリ
假議長(箕作麟祥君)
本條ニ付テモ別ニ御異議ガナケレバ可決ト認メテ次ノ五十六條ニ移リマス
(書記朗讀)
第五十六條 理事ノ缺ケタル場合ニ於テ遲滯ノ爲メニ損害ヲ生スル恐アルトキハ裁判所ハ利害關係人又ハ檢事ノ請求ニ因リ假管理人ヲ選任スヘシ
(參照)獨二草二八、索千八百六十八年六月十五日法七六
(理由)理事ノ死亡、辭任、解任其他ノ原因ニ依リ理事中ニ缺員ヲ生シ又ハ理事全ク缺亡シタル場合ニ於テ其後任者ヲ選任スルニハ前條ノ規定ニ依リ定款又ハ寄附行爲ニ定メタル手續ヲ踐ムヘキヲ以テ或ハ直チニ其人ヲ得難ク爲メニ其選任ヲ遷延スルコトナシトセス此場合ニ於テ法人又ハ他人ニシテ一定ノ期間内ニ爲スヘキ行爲アルモ理事ヲ缺クカ爲メニ之ヲ爲スコト能ハサルカ如キコトアルヘキヲ以テ本條ニ於テハ此ノ如キ場合ニ於テ不都合ヲ生セサラシメンカ爲メニ利害關係人又ハ檢事ハ假管理人ノ選任ヲ請求スルコトヲ得ルモノトセリ
土方寧君
五十六條デ假管理人抔ハ何ノ位ノ事ヲスルト云フ事ハ何處ニモナイヤウデアリマスガ、之ハ理事ト同ジ事デアリマスカ
穗積陳重君
夫レハ固ヨリ然ウデアリマス
鳩山和夫君
假管理人ト理事トハ同ジ權利ハ持タヌデアラウ
土方寧君
理事ト云フ者ハ總會デ選任スルノダロウガ、此假管理人抔ハそんな手續ハセヌデアラウ、何カ事ガアツテ迫ツテ居ツテ差支ル爲メニ置クノデゴザイマセウ
穗積陳重君
左樣デアリマス
土方寧君
然ウスルト並ノ理事ト同樣ニナルト其權限ガ少シ廣過ギルヤウニナラウト思ヒマスガ
梅謙次郎君
夫レハ然ウデス、其方ガ宜シイ、其事丈ケニ看ルガ宜カラウ
土方寧君
理事ト同ジヤウナ者ニ看ルト云フノハ可笑シイ、何カ其事ガ書テナケレバ往ケヌト思フ
鳩山和夫君
之ハ遲滯ノ爲メニ云々ト云フノデアルカラ何カ少シナケレバ往カヌト思フ
梅謙次郎君
一體ノ代理權ノ方デ管理人ハ是々ノ事シカ出來ヌトカ何ントカ云フ事ガ出來ルデアラウト思フ、其方デ極メタ方ガ宜シイト思ヒマス、理事ト同樣ニスルコトハ不都合デアラウ
穗積陳重君
次ノ條ニ於テ特別管理人ト云フノガアルカラ之ト分ケテ書テアルノデ、假ト云フト若シ早ク處分ヲシナケレバ往ケヌトカ云フヤウナ風ノ事ニ付テ矢張リ一時理事ニ代ハル者トシテ置カネバ或ハ往ケマイト思ヒマス
假議長(箕作麟祥君)
一寸御尋ネシマスガ、之ハ管理人ト云フ者ガアツテ夫レガ差支ヘルカラ假管理人ヲ置クト云フノデアリマスカ理事ガ差支ヘルカラ假管理人ヲ置クト云フノデアレバ少シ可笑シイヤウデアルガ矢張リ之ハ理事ガ缺ケタ時ニ假管理人ト云フ者ヲ置クト云フノデアリマスカ
穗積陳重君
然ウデゴザイマス
鳩山和夫君
然ウスルト之ハ「假ノ理事ヲ選任スル事ヲ得」トシテハ何ウデゴザイマセウカ
土方寧君
其方ガ宜カラウ
梅謙次郎君
「假理事」デモ往ケヌヤウデアル
本野一郎君
「假理事」トシテモ宜イデハナイカ
長谷川喬君
「臨時管理人」トシテハ何ウデゴザイマセウカ
土方寧君
「臨時ニ理事ヲ選任スヘシ」トシテハ何ウデゴザイマセウ
富井政章君
「假理事」位ナラ宜シイ
横田國臣君
「假理事」デモ宜カラウ
本野一郎君
其權限ガ同ジデサヘアレバ宜シイ
假議長(箕作麟祥君)
夫レデハ「假理事」ト修正スルコトガ御多數デアリマスカ
本野一郎君
起草委員ノ御方ハ何ウデゴザイマセウカ
梅謙次郎君
「假理事」ガ名ハ宜シイヤウデス
(此時「贊成」ト呼ブ者多シ)
假議長(箕作麟祥君)
夫レデハ「假理事」トシテ御異議ガナケレバ可決ト認メマス、外ニ御發議ガアリマセヌケレバ本條ハ「假理事」ヲ除クノ外原案通リ可決ト認メテ次ノ五十七條ニ移リマス
(書記朗讀)
第五十七條 法人ト理事トノ間ニ利益相反スル事項ニ付テハ理事ハ代理權ヲ有セス此場合ニ於テハ前條ノ規定ニ依リテ特別管理人ヲ選任スヘシ
(參照)人一九九、獨二草一四九、索千八百六十八年六月十五日法二八
(理由)本條ハ專ラ法人ト理事トノ間ニ利益ノ牴觸アル場合ニ於テ理事ノ權力濫用ヲ防止センカ爲メニ設ケタルモノナリ抑代理人カ自己ノ資格ヲ以テ其委任者ト取引ヲ爲スハ固ヨリ法律ノ禁止セサル所ナリト雖モ法人ノ場合ニ於テハ其本人タル者全ク意思ヲ缺ケルヲ以テ其利益ノ相反スル場合ニ於テ理事ハ一方ニ在リテハ法人ノ相手方タリ又一方ニアリテハ法人ノ代理人ト爲リ一身主客ノ位地ヲ兼ヌルカ如キハ最モ忌避スヘキノ事タリ故ニ茲ニ之ヲ禁止シ特別管理人ヲ以テ之ニ代ハラシムルコトトセリ蓋シ法人ハ之ニ依リテ其取引ノ安全ヲ得理事ハ之ニ依リテ嫌疑ヲ免レ充分ニ自己ノ權利ヲ主張シ得ヘキヲ以テ此規定ニ依リテ法人、理事共ニ其便益ヲ受クルモノト謂フヘシ
田部芳君
此五十七條ニ「特別管理人ヲ選任スヘシ」トアリマスガ此「特別管理人」ト云フノヲ修正致シテ「特別代理人ヲ選任スヘシ」ト云フ事ニ致シタイ、其譯ハ管理人ト云フ事ニ付テハ前條ニ於テモ議論ノアリマシタ事デ、唯管理行爲シカ出來ナイヤウナ話シデ、尤モ此場合ハ少シハ違ウカモ知レマセヌガ特別代理人ニシタラ宜カラウト思フ、其例ハ現ニ民事訴訟法ノ四十六條ニ在ル如ク或事ニ付テ特別ニ代理スルノデアリマスカラ「特別代理人」ト云フ事ニシタ方ガ却テ宜シイト思ヒマス
穗積陳重君
贊成致シマス
梅謙次郎君
贊成
土方寧君
一寸文字ノ事ニ付テ伺ヒマスガ、五十七條ニ在ル所ノ「此場合ニ於テハ前條ノ規定ニ依リテ」トアリマスガ、前條ノ規定ノ場合ハ理事ノ缺ケタ場合デ、其場合ニ裁判所ハ利害關係人又ハ檢事ノ申立ニ依テスルト云フノデ其事ヲ言フノデアラウガ、卽チ此方モ缺ケタト云フ事ニナラウト思ヒマスガ、如何デゴザイマセウカ
穗積陳重君
前條ノ規定ニ依リテ選任セヨトアリマスカラ其選任法ヲ指タノデアル、缺ケタ場合ハ遲滯ノ爲メニ損害ヲ生ズルト云フ事ニ牽連スルノデアリマス
田部芳君
私ハ今ノ土方君ノ御質問ニ付テ考ヘガ付キマシタガ、五十七條ノ終リノ「此場合ニ於テハ前條ノ規定ニ依リテ」トアルヲ「前條ノ手續ニ依リ」ト云フ事ニシタナラバ却テ明瞭デアラウト思ヒマス、手續ト云ヘバ卽チ選任ノ手續デアリマスカラ、卽チ裁判所ハ利害關係人又ハ檢事ノ請求ガアレバ裁判所ガ致シマスルノデ、夫レデ「前條ノ手續ニ依リ」ト致シマシタ方ガ明瞭デアラウト思ヒマス
梅謙次郎君
此處ハ矢張リ規定ノ方ガ宜イノデアリマス
假議長(箕作麟祥君)
田部君ノ案デ「特別代理人」ト云フ事ニハ贊成ガアリマシタガ、「前條ノ規定」ヲ「前條ノ手續」ニ直スト云フコトニハ贊成ガナイヤウデアリマス、夫レデ今ノ「特別代理人」ト云フ事ニハ別ニ御意見モアリマセヌカラ是丈ケハ可決ト認メマス、其他ニ付テハ別ニ御異論ガナイヤウデアリマスカラ次ノ五十八條ニ移リマス
(書記朗讀)
第五十八條 法人ニハ定款、寄附行爲又ハ總會ノ決議ヲ以テ一人又ハ數人ノ監事ヲ置クコトヲ得
(參照)人一六九、一七〇、商一九一
(理由)理事ノ職務ハ頗ル廣闊ニシテ或ハ擅横ノ弊ナキコトヲ保セサルニ法人ハ固ト意思ヲ有セサルモノナルヲ以テ自ラ其業務ノ施行ヲ監督スルコト能ハス且營利ヲ目的トセサル社團法人ニ於テハ社員ハ動モスレハ理事ヲ信任シテ自ラ其業務ヲ監督スルコト少ク殊ニ財團法人ニ於テハ屡其業務ノ施行ヲ監督スヘキ者ナキコトアルヲ以テ必要ナル場合ニ於テハ定款、寄附行爲又ハ總會ノ決議ヲ以テ監事ヲ置クコトヲ得ルモノトセリ而シテ之ヲ定款、寄附行爲又ハ總會ノ議決ニ一任セスシテ特ニ之ヲ規定スル所以ノモノハ法律上ノ代理人タル理事ノ職務ヲ監督スヘキ重任ヲ負フ者ヲ私設ノ役員トセスシテ之ニ法律上ノ位置ヲ與フルヲ適當ト認メタルヲ以テナリ
長谷川喬君
一寸御相談致シマスガ「一人又ハ數人ノ」ト云フ事ハ必要デアリマスカ
穗積陳重君
是ハ決シテ必要ト云フ譯デモナイノデアリマスガ、併ナガラ明瞭ニ致シマスル爲メニ此數字ヲ加ヘタノデアリマス、誠ニ監事トカ云フヤウナ風ノコトハ外國語デアリマスルト云フト能ク書キ分ケルニ易イノデアリマスガ、日本語デ唯監事トカ理事トカ云フト一寸一人ノヤウニ讀メテ困リマスカラ、夫レ故ニ此數字ヲ入レタノデアリマス
長谷川喬君
前ノ五十二條ニハ「法人ニハ理事ヲ置クコトヲ要ス」トシカナイヤウデアリマスガ
穗積陳重君
第二項ニ在リマス
富井政章君
有ルト云フコトヲ示シタノデアリマス
横田國臣君
一寸御尋ネシマスガ、理事ニ付テハ何ンダトカ決議ヲスルトカ何ントカ云フヤウナコトガアリマシタガ、監事ノ方ハ銘銘ニヤルト云フ御積リデアリマスカ
穗積陳重君
理事ガ數人アル場合ニハ一體ニ付テ或事柄ヲ行ハナケレバ往ケヌデアリマスガ、監事ノ方ハ必ズ一ツノ事ヲ行ハナケレバ往カヌト云フコトハ出來マイト思ヒマスカラ、此處ニハ何モ言ハヌデ若シ其必要ガアレバ定款ニ讓ツテ仕舞ウ、且理事ハ是非トモナケレバ其法人ガ生存シテ働ク事ガ出來ナイガ、併シ監事ノ方ハ有ツテモ無クテモ生存ニハ關係シナイ、夫レ故ニ監事ノ働ク方法ハ極メズシテ唯監事ノ爲スベキ職務丈ケニ止メテ置イタノデアリマス
横田國臣君
然ウスルト特ニ總會ヲ招集スルト云フヤウナトキデモ矢張リ一人デヤレルト云フノデアリマスカ
穗積陳重君
夫レハ固ヨリ定款ニ反對ノ規定ガアリマセヌケレバ出來ルデアラウト思ヒマス、又然ウ云フ事ガ或ハ必要カモ知レヌ
横田國臣君
此處デハ無論ヤレルト云フ御積リデアリマスカ
穗積陳重君
夫レハもう皆共同デナケレバ出來ヌト云フコトハ此箇條カラハ少シモ見エヌノデアリマスガ、若シ必要トスレバ定款ニ規定スル、又定款ニ何モナイ時ニ於テハ夫レモ出來ルヤウナ立テ方ト思フノデアリマス
土方寧君
私ハ「一人又ハ數人ノ」ト云フ文字ヲ削ツテ仕舞ウト云フ修正案ヲ提出致シマス
長谷川喬君
贊成致シマス
假議長(箕作麟祥君)
決ヲ採リマセウ、夫レデハ第五十八條ノ中ノ「一人又ハ數人ノ」ト云フ是丈ケノ文字ヲ削ルト云フ土方君ノ修正案ニ贊成ガアリマシタ、之ニ贊成ノ方ハ起立ヲ請ヒマス
起立者少數
假議長(箕作麟祥君)
少數デアリマス、夫レデハ本條ハ可決ト認メマス、暫時休憩ヲ致シマス
假議長(箕作君)
是レヨリ議事ヲ開キマス、第五十九條
(書記朗讀)
第五十九條 監事ノ職務左ノ如シ
一 法人ノ財產ノ現況ヲ監査スルコト
二 理事ノ業務施行ノ實況ヲ監査スルコト
三 財產ノ現況又ハ業務ノ施行ニ付キ不整ノ事アルヲ檢出スルトキハ之ヲ總會又ハ其主務官廳ニ報告スルコト但此報告ヲ爲ス爲メ特ニ總會ヲ招集スルコトヲ得
(參照)人一九八、商一九二
(理由)一、本條ハ監事ノ職務ヲ規定シ之ヲ分チテ財產ノ監査及ヒ業務施行ノ監査トセリ而シテ單ニ之ヲ監視、檢査ニ止ムル所以ノモノハ監事ノ職務ト理事ノ職務トノ分界ヲ明カニシ互ニ相牴觸スルコト勿ラシメンカ爲メナリ
二、監事若シ財產ノ現況又ハ業務施行ニ不整ノ事アルヲ發見スルモ自ラ之ヲ整理スル職權ヲ有セスシテ單ニ之ヲ總會又ハ主務官廳ニ報告スル責ヲ有スルニ止マルノ理由亦前項ニ同シ
横田國臣君
此處ニ現況ト實況ト書キ分ケタノハ何ウ云フ譯デアリマスカ
假議長(箕作君)
商法ノ條項ヲ御採用ニナツタノデアリマセウ
穗積陳重君
一寸申シマスガ、此第三號ノ中ニ「其主務官廳」云々ト云フコトガアリマスガ、「其」ト云フ字ハ無イ方ガ宜シイヤウデアリマスカラ御削リヲ願ヒタイ
本野一郎君
異議ナシ
假議長(箕作君)
夫レデハ「其」ト云フ字ヲ削ルト云フ事ニ別ニ御異議ガ無イヤウデアリマスカラ、本案ハ可決ト認メマシテ次ノ六十條ニ移リマス
(書記朗讀)
第六十條 社團法人ノ理事ハ少クトモ毎年一回社員ノ通常總會ヲ開クヘシ
(參照)商一四八、一九八、二〇〇
(理由)社團法人ノ社員ハ平常其業務ヲ理事ニ一任スルモノナルヲ以テ其業務施行ノ報告及ヒ監事ノ報告ヲ受ケ其他重要ノ事項ニ付キ議定ヲ爲サンカ爲メニ社員ノ總會ヲ開クヲ必要トス故ニ理事ニ負ハシムルニ少クトモ毎年一回之ヲ開クノ義務ヲ以テシタリ
本野一郎君
是ハ社團法人ノ事斗リデ財圍法人ハ要ラヌト云フノデアリマスカ
梅謙次郎君
御見解ノ通リデアリマス
(此時「異議ナシ」ト呼ブ者多シ)
假議長(箕作君)
本條モ可決ト認メテ次ノ六十一條ニ移リマス
(書記朗讀)
第六十一條 社團法人ノ理事ハ臨時ノ必要アルトキハ何時ニテモ臨時總會ヲ招集スルコトヲ得又總社員ノ五分一以上ニ當ル社員ヨリ會議ノ目的ヲ示シテ臨時總會ノ招集ヲ請求スルトキハ之ヲ招集セサルコトヲ得ス但此定數ハ定款ヲ以テ之ヲ增減スルコトヲ得
(參照)商二〇一、モンテネグロ七三五、獨二草三四、三五
(理由)一、社團法人ハ定期ノ通常總會以外ニ於テ臨時ニ議定又ハ報告スヘキ事項ノ爲メ總會ヲ開クヲ要スルコトアルヘキヲ以テ本條ニ於テ理事ニ臨時總會ヲ招集スル職權アルモノトセリ
二、總會ハ法人ノ事務ヲ議定スル最高機關ニシテ理事ト雖モ其決議ニ依リテ羈束セラルヘキモノナルヲ以テ其招集ヲ理事ノ隨意ニ任シテ他ヨリ之ヲ促スコトヲ得サルモノトスレハ臨時緊急ノ場合ニ於テ社員カ其開會ヲ欲スルトキト雖モ理事之ニ同意スルニ非サレハ開會スルコトヲ得サルノ不都合ヲ生スルコトアルヘシ殊ニ理事ノ意見ニ反スル事項ヲ議定セントスル場合ニ於テハ到底開會ノ途ナカルヘキヲ以テ茲ニ定數以上ノ社員カ必要又ハ有益ト認メタルトキハ其招集ヲ請求スルコトヲ得ルモノトシ且理事ニ負ハシムルニ招集ノ義務ヲ以テシタリ
三、定數ヲ五分一トセルハ商法ノ規定ニ倣ヘルナリ然レトモ社團ノ種類、事業ノ性質、社員ノ多寡等ニ依リ若シ之ヲ不便トスルトキハ定款ヲ以テ別ニ之ヲ定ムルノ餘地ヲ存セリ故ニ本條ハ定款ニ別段ノ定ナキ場合ニ於テノミ之ヲ適用スヘキモノトス
横田國臣君
一寸質問シマスガ、此處ニ「臨時ノ必要アルトキハ何時ニテモ」云々トアリマスガ、此「臨時ノ必要アルトキハ」ト云フノハ格別要ラヌヤウニ思ヒマスガ
梅謙次郎君
口デ言ツテ見レバそんナモノデアル
長谷川喬君
此時ニ「臨時總會」トアリマスガ、此「臨時」ト云フノモ矢張リ必要デスカ
穗積陳重君
臨時ノ總會ト通常ノ總會トヲ區別シタノデアリマス
長谷川喬君
前ノ五十九條ニハ唯總會トシカアリマセヌガ
穗積陳重君
どつちデモ宜シイ
鳩山和夫君
「臨時ノ必要アルトキハ」ノ「臨時」ハ除ケル方ガ宜イヤウニ思フ
長谷川喬君
夫レハ削ツタ方ガ宜シイ
横田國臣君
五十九條ノ方ハ臨時ダカ何ンダカ能ク分ラナイ、此處デ以テ臨時ト云フ事ガ分ツタヤウデ可笑シイ
本野一郎君
憲法ノヤウニ此處ノ所ヲ臨時ト云フ事デナク緊急トシタラ何ウデゴザイマセウカ
穗積陳重君
商法抔デモ皆斯ウ書クノガ是迄ノ文例ノヤウデアリマス、併シ皆然ウ書イテアルカ何ウカ知リマセヌガ
鳩山和夫君
是ハ強イテ云フノデモナイガ「必要アルトキハ」ト書テ置クトキハ其必要ノ有無ハ誰ガ極メルカ分ラナイ、「必要アリト認ムルトキハ」トスレバ理事ガ自分デ極メルヤウニナリマセウカラ此方ガ宜イト思ヒマスガ
穗積陳重君
是レデモ然ウ云フ意味デアリマスガ、極ク堅クスルニハ夫レガ宜イヤウデアル
梅謙次郎君
夫レハ堅クテ宜イヤウデアルガ、然ウスルトキハ上ノ「臨時ノ」ト云フコトガ要ラヌヤウニナリマス
穗積陳重君
理窟ハ宜イヤウデアリマスカラ夫レニ從ヒマセウ
鳩山和夫君
夫レデハ私ガ之ヲ「社團法人ノ理事ハ必要アリト認ムルトキハ何時ニテモ臨時總會ヲ招集スルコトヲ得」云々ト云フ事ノ修正說ヲ提出致シマス
土方寧君
贊成
假議長(箕作君)
夫レデハ然ウ極マルトシテ置キマス
菊池武夫君
其先キノ方ニ「之ヲ招集セサルコトヲ得ス」ト云フヤウナ文章ガアルガ之ハ何ウデゴザイマセウカ
横田國臣君
是レモ困ルヤウデアル
長谷川喬君
商法ノ二百一條ニモ斯ウアルヤウデアル
假議長(箕作君)
「招集スルコトヲ要ス」トシテモ宜シイ
梅謙次郎君
夫レデモ宜イヤウデアル
(此時「夫レデ宜シイ」ト呼ブ者多シ)
假議長(箕作君)
夫レデ宜イナレバ然ウ極メマセウ、他ノ部分ハ御異論ガアリマセヌケレバ確定ト認メテ次ノ六十二條ニ移リマス
(書記朗讀)
第六十二條 總會ノ招集ハ少クトモ五日前ニ其會議ノ目的及ヒ事項ヲ示シ定款ニ定メタル方法ニ從ヒテ之ヲ爲ス但定款ニ別段ノ定アルトキハ豫メ通知セサル事項ニ付テモ決議ヲ爲スコトヲ得
(參照)商一四九、一九九、グラウブユンデン八九、獨二草三一、一項、同商二三八、普國法二部六章五四乃至五六、索千八百六十八年六月十五日法二三、一項
(理由)一、總會招集ノ目的ヲ豫メ會日前ニ通示セシムルハ獨リ社員ニ調査及ヒ考慮ノ時間ヲ與フル爲メノミナラズ苟モ多數決ノ主義ヲ執ル集會ニ於テハ此方法ニ依ルヲ以テ最モ至當トス何トナレハ社員ハ其議事ノ性質ニ依リ他ノ要務ヲ措キテモ會議ニ出席スヘキヤ否ヤヲ決スルコトヲ得ヘキヲ以テナリ
二、招集ハ定款ニ定メタル方法ニ從ヒテ之ヲ爲スモノトセルハ社員ノ多寡ニ依リ其通知ノ方法ヲ異ニスルカ如キコトアルヘキヲ以テナリ
三、若シ商法第百九十九條、普國國法、獨逸商法等ノ規定ノ如ク豫メ通知ヲ爲シタル事項ニ非サレハ議決スルコトヲ得ストスルトキハ或ハ不便ヲ生スルコトアルヘク然レトモ索遜法ノ如ク法律ヲ以テ通知ヲ要セサル事件ヲ示スモ亦煩雜ニ渉ルノ嫌アルヲ以テ本條ニ於テハ定款ヲ以テ除外例ヲ設クルコトヲ得ルモノトセリ
鳩山和夫君
商法ハ之ト同ジヤウニ「五日前」トアツタノヲ削除シタカノヤウニ覺ヘテ居リマスガ、何ウデゴザイマス
梅謙次郎君
十四日トアルノヲ削除シマシタ卽チ百九十九條ノ方デアリマス
鳩山和夫君
慥カ衆議院ノ委員會ノ席デ其議論ヲ出シタ人ハ松田源五郎ト云フ人デアリマスガ、夫レハ「五日前」ト云フヤウニ五日トカ十四日トカ云フ事ヲ法律ニ定メテ置クト困ルカラ會日前ト定メテ置テ其日ハ定款デ極メサセタ方ガ宜カラウト云フ趣意デ修正ヲシタヤウニ覺エテ居リマスガ、之モ然ウスル方ガ宜シイト思ヒマス
梅謙次郎君
「定款ニ定メタル方法」ト云フコトガアルカラ之デ宜シイ
鳩山和夫君
定款デ定メルコトガ出來ルト云フ事デアレバ夫レデモ宜シイ
土方寧君
但書ハ必要デアリマスカ
穗積陳重君
夫レハ通知シテ置カナイ事デ或ハ緊急動議抔ヲ出シテ議事日程變更ト云フ事デヤリ出サレテ、夫レデ困ツタ事ガ獨逸抔デモ隨分有ルカラ之ハ必要ト思ヒマス
富井政章君
緊急動議モ出ルノダカラヽヽヽヽヽ
梅謙次郎君
若シ然ウ云フ事ガアルト云フ事ヲ定款デ豫想スレバ「緊急ノ事件ニ付テハ此限ニ在ラス」ト云フ事ヲ書テ置ケバ宜シイ、丸デ通知シナイ事ガ出來ルノデ一日カ二日前ニ通知シテ置ケバ尙更ラ宜イ
土方寧君
是ハ外ニ何カ目的ヲ示シテ豫メ通知ヲシテ開イタ上其目的ノ外ノ事ト思フ、鳩山君ノ方ハ然ウデナイ、只一ツノ事ヲ議スルニ就テヽヽヽヽヽヽ
梅謙次郎君
然ウ云フ事ガアルト豫想スレバ定款ニ斯ウ云フ事ヲ書テ置ケバ宜イ、「若シ臨時緊急ノ必要アル場合ニ於テハ豫メ通知スルコトヲ要セス、」斯ウ云フ事ヲ書テ置ケバ前日ニ通知シテモ前々日ニ通知シテモ夫レハ法律ノ命ジナイ事デヤルノデアルカラ無論宜イ事デアル
鳩山和夫君
五日前ト云フ事ヲ示シテ置クト無論之ニ牴觸スル定款ハ無效デアルト云フ議論ガ出ハシナイカ、卽チ定款ニハ五日ト云フ事ヲ或ル事柄丈ケハ三日デ宜イトカ或ハ會日前デモ宜イトカ云フ事ヲ極メテ置テモ、其定款ガ無效デアルト云フヤウナ議論ガ出ハシナイカト思ヒマスガ
穗積陳重君
夫レハ成程然ウ云フ事ガ解釋ニハナラウガ、梅君ノ言ハレルノハ通知ガアツテモ之々ノ事柄ニ付テハ別段ニ通知ヲ要セヌトカ云フ事ヲ豫メ書テ置ケバ其心配ハ實際上必ズ避ケル事ガ出來ル、此但書デ此日限ヲ定款デ定メル事ガ出來ルト云フ解釋デハ必ズナイデアラウト思ヒマス
梅謙次郎君
然リ
土方寧君
實際今ノ穗積君ノ御話シデモ往キサウモナイ
鳩山和夫君
五日前ニ通知ヲシナイト其會ガ開ケヌト云フヤウナ事ガ出來ハシナイカ
土方寧君
一寸伺ヒマスガ、之ハ五日前ニ通知ヲ發シサヘスレバ、夫レデ宜イノデアリマスカ
穗積陳重君
夫レハ吾々ノ方デモ餘程考ヘテ見マシタガ、夫レモ此通知ノ事ニ就テハ何レ原則ガ定マルカラト云フノデ此處ニ置タノデアリマスガ、固ヨリ總會ノ招集ハ免ニ角發信主義カ受信主義ト同樣ナモノデナケレバナラヌ、到逹主義デモ往カヌト云フノモ少シ無理ナ話シダラウト思フ、社員一同ニ五日前ト云フ事デハ不都合デアラウ、例ヘバ社員ノ中ニハ外國ニ往ツテ居ル人モアリマセウ、彼ノ水利組合條例ノ中ノ二十五條ニ依ルト「招集狀ハ遲クトモ會議ノ三日前ニ之ヲ發スヘシ」ト書テアル、斯ウ云フ工合ニ書イタラ何ウデアラウカト云フ事モ考ヘテ見マシタガ、併シ總會ノ招集ト云フモノハ必ズシモ手紙ヲ以テスルモノトハ極マラヌ、或ハ新聞ニ廣告ヲシタリスルト云フヤウナ事モアルカラ、水利組合條例ノヤウニ「招集狀ハ遲クトモ會議ノ三日前ニ之ヲ發スヘシ」ト云フテモ差支ヘナイガ、夫レヨリ今ノ通知ノ原則ノ方ニ何カ別段ニ拵ヘタ方ガ宜シイト云フノデ斯ウシタノデアリマス
假議長(箕作君)
豫メ通知ヲシタ事項デ五日内、例ヘバ二日トカ三日トカ云フ譯デ定款デ定メサヘスレバ宜シイト云フ意味ガ這入リマセウカ、所謂大ハ小ヲ兼ネルト云フ樣ナ論法デゴザイマセウカ
梅謙次郎君
通知サセル事ニ付テモ決議ヲスルコトヲ得ルト云フノデ勿論鳩山君ノ言ハレルヤウニ一般ニ此法人ノ總會ハ三日前ニ通知ヲ發スレバ宜イトカ前日ニ通知ヲ發スレバ宜イトカ云フ事ハ違法デアリマスガ、事柄ヲ定メテ或ハ緊急ノ必要アル場合トカ或ハ斯ウ云フ種類ノ事柄ニ限ツテハ前日ニ通知ヲ發シテ宜シイトカ云フヤウナ事柄ハ此但書ニ悉ク這入ラウト思フノデアリマス、其事ハ吾々三人ノ間デモ議論ガアツタノデ、之ヘ這入ルカ何ウカト云フノデ、夫レハ無論デアルト云フノデゴザイマシタ、此日限ヲ丸デ書カナイト云フ事モ吾々ノ間デモ出テ居リマス、夫レハ則チ商法ノ修正セラレタル文章ニ倣ツタノデアリマス、其理由ハ旣ニ今鳩山君ガ言ハレル通リデアリマスケレドモ、私共ノ考ヘタノハ若シ然ウ云フ事ナレバ丸デ規定ハ要ラナイヤウニナル、會日トカ或ハ前日位デ宜イト云フコトデアレバ丸デ其制限ヲスルコトハ要ラヌヤウニナル、定款ニ一任シテ宜シイ、斯ウ云フ事ヲ書クノハ何ウ云フ譯デアルカト言ヘバ定款ハ多數デ極マル、所ガ此定款ニ就テハ所謂多數ノ壓制デ極メテ置クト云フコトハ不利益デアル、少數ヲ保護スル方法ガナケレバナラヌト云フノデ、夫レデ會社法抔モ綿密ナル規定ニナツテ居ルノデ、社團法人ニ付テモ然ウデアツテ、社團法人ニ於テハ多數ノ人ガ宜イトサヘ思ヘバ何ンデモ宜イト云フヤウニナツテハ困ル、夫レデ少數者ヲ保護スル爲メニ少ナクモ前カラ多少勘考スル暇ヲ必ズ與ヘル、夫レデ多數ノ人ガ徃ケナイト思フテモ後ニ至ツテ宜シイト云フ事ガ起ツテ來ルカモ知レヌカラ、之ハ寧ロ放任主義ヨリモ干渉主義ニシタ方ガ宜イト云フノデアリマス、夫レデ若シ會日前ト云フ事ヲ書クヤウナ事デアレバ丸デ書カヌ方ガ却テ宜シイト思ヒマス
横田國臣君
一寸質問致シマスガ、此但書ニ依ルト招集ヲシタ、例ヘバ甲ナラ甲ト云フ事項デ招集ヲシタ、其招集ヲシタ序ニ通知ハシナイケレドモ是々ノ事モアルカラ之モヤツテ呉レト云フヤウナ事ニ此文デハ見エルガ、併ナガラ起案者ハ最初カラ唯寄ツテ來イト云フ斯ウ云フ丈ケデモ宜イト云フ意デアルカ、此處ハ是々ノ事項ニ付テ招集ヲスルガ、此事ニ付テモ決議ヲシテ呉レト云フ事ヲ言ツテモ宜シイト云フヤウニ見エマスガ、
穗積陳重君
御見解ノ通リデアリマス、唯寄ツテ來イト云フ事丈ケヲ通知シテ置テ、然ウシテ其事柄ハ少シモ示サヌデ置クト云フヤウナ斯ウ云フヤウナ事ハ本條ノ精神デハナイノデアリマス、若シ然ウ云フ事デアリマスレバ書キ方ヲ替ヘナケレバナラヌ、卽チ但書デアリマス、本則ト云フモノハ必ズ其議事ノ目的及ビ事項ヲ示スノガ本則ニナツテ居ル、豫メ其議事ノ目的及ビ事項ヲ示スト云フノハ苟クモ多數決ヲ以テ事ヲ定メルト云フ主義ヲ採リマスル集會ト云フモノニハ必ズ之ニ依ラナケレバ往カヌ事デアラウト思ヒマス、此但書ノ出マシタノハ前ニモ申ス通リ、一二ノ事柄丈ケヲ示シテ然ウシテ寄ツタ序デダカラ外ノ事モ決シヤウト云フ事モ屡屡出テ來ル、夫レガ或ル策略ヲ行ヒマスル一ノ手段トナツタリ何カシタ事モアツタヤウデアリマス、現ニ普漏西法トカ獨逸民法抔デハ通知シタ、其通知ヲシタ事シカ決議ハ出來ナイト云フ事ガアル位デアリマス、併シ夫レデハ餘リ不便ト云フノデ、夫レデ此處デ目的及ビ事項ヲ示スト云フ所ニ稍々餘地ヲ付ケルガ爲メニ此但書ヲ加ヘタノデアリマスカラ、本條ハ目的及ビ事項ヲ示スト云フ事ハナクテモ宜イ、唯寄ツテ來イト云フ事丈ケヲ通知シタラ夫レデ宜イト云フ事ニスルト云フヤウナ箇條デハナイノデアリマス
富井政章君
先刻土方君カラ招集ハ發シタ日カラ起算スルカ或ハ夫レガ書イタ時カラ起算スルカト云フ御問ヒガアリマシタガ、後ニ意思ノ表示ニ關スル議案ガ出マス、其處デ一般ノ原則ヲ定メル事ニナリマセウガ、多分受信主義ニ依テ到着シタ時ニ意思ノ表示ノ通知ハ效ヲ奏スルト云フ案ニナルデアラウト思ヒマス、併シ此條ノ場合ハ何ウシテモ發信主義デナケレバナラヌト思ヒマス、然ラバ夫レデハ何ウシテモ書替ヘネバナラヌト云フ御意見デアリマセウカ或ハ此招集ト云フモノハ自カラ然ウ云フモノダト云フ事ハ言ヘマスマイカ、例ヘバ帝國議會ノ議員ヲ招集スルト云フヤウナ場合ニハ何レ各議員ニ通知ガ往クデゴザイマセウ、併シ其通知ガ逹シタ時カラ其招集ノ期間ヲ起算スルト云フ事デハ決シテナカラウト思ヒマス、其招集令ノ出タ日カラ起算スルノデアラウト思ヒマス、招集ト云フモノハ之ハ意思ノ表示ニハ違ヒナイト思ヒマスケレドモ通常ノ意思ノ表示トハ違ヒマス、是抔ハ法律ガ命ジテ置ク行爲デアリマス、然ウシテ又招集ト云フ行爲カラ考ヘテモ其出シタ時カラ起算スルト云フ事ガ或ハ當然デハナイカト思ヒマス、併シ少シ不安心デアリマスカラ諸君ノ御意見ヲ此所ニ於テ承ハツテ置ケバ大ニ便利デアラウト思ヒマス
横田國臣君
私ハ前ノ方ノモもう少シ變ヘネバナラヌト思ヒマスガ、先ヅ此但書ノ方ヲ變ヘタイ、其譯ハ私ガ今問フタ通リノ意デアルナラバ此「別段ノ定アルトキハ」ト云フ事ハ餘計ナ事デアル、之ハ「總會ニ於テ多數ノ同意アルトキハ」トカ何ントカ云フヤウナ意味ニ書キタイ、文字ハ何ウデモ宜イガ其方ニシタイ、左モナケレバ寄ツテ來タ時分ニ定款ニナイカラ之ハモウ何モカモ議シテ宜カラウト云フト先ヅもう一遍招集シナケレバナラヌト云フ事ガ出テ來ヤウ、夫レデアリマスカラ之ハ「但總會ニ於テ多數ノ同意アルトキハ」トカ云フヤウナ風ニ修正ヲシタイ
梅謙次郎君
然ウ云フト丸デ要ラヌ事ニナル、但書デナイ、本文ノ意味ヲ丸デナクシテ仕舞ウ、丸デ削ツテ仕舞ハナケレバナラヌ、ヤウニナル
横田國臣君
併ナガラ或ル事柄ニ付テ出テ來タ場合、本文ハ無論事柄ヲ指示サナケレバナラヌ、例ヘバ右ノ事ナラ右ト云フ事ヲ示シテヤルノデアルカラ本文ハ要ラヌト云フ事ハナイ、若シ何モカモ示サズシテヤルト云フ事デアレバ夫レハ本文ハ要ラヌ、ケレドモ出テ來タ序デニ此事モ議シタイト云フノデアル、夫レデアリマスカラ、本文ハ要ラヌト云フ事ハナイ、出テ來タ以上ハ之モ議サウジヤナイカ、夫レハもう一遍招集ヲシナケレバナラヌト云フヽヽ
穗積陳重君
丁度今横田君ノ言ハレルヤウナ事ヲ避ケルタメニ但書ガ入レテアルノデアリマス、卽チ甲ノ事ヲ議スルト云フノデ喚ンデ置テ、卽チ理事デアルトカ其他招集ノ權ヲ持テ居ル者ガ甲ノ事ヲ議スル爲メニ招集スルト云ツテ置テ、然ウシテ其寄ツタ後ニ皆ノ相談デ以テ乙ノ事ヲ議スルト云フ事ニナルト、前カラ會議ノ目的及ビ事項ヲ示シテ居ルカラ此事ナラバ自分ハ格別異論ハナイ、其事ハ略ボ斯ウナルデアラウト思ツテ出席シナイデ居ル、然ウスルト丸デ其人ノ知ラヌ事ヲ其時議決セラレテ仕舞ウト云フヤウナ事ニナルト、卽チ其社員ノ權利ヲ奪ウヤウナ事ニナリマスカラ、夫レ故ニ或國デハ殊更ニ其通知シタ事項ノ外ハ議ス事ハ出來ナイト云フ風ニ定メテ居ル所サヘアリマス、若シ此明文ガナケレバ、但書ガナケレバ然ウ解釋スル方ガ穩當デアラウト思ヒマス、夫レデアリマスカラ殊更ニ個樣ナ餘地ヲ與ヘタノデアリマス、寄ツタカラ其序デニ此事モ議シヤウト云フ事デアルト、其出席シナイ社員ノ權利ト云フモノヲ丸デ無クシテ仕舞ウヤウナ結果ヲ生ジマスカラ、之ハ何ウカ此通リデ置テ御貰ヒ申シタイト思ヒマス
長谷川喬君
富井君ノ御尋ネガアリマシタカラ私丈ケノ意見ヲ御答ヘシテ置キマス、此六十二條ノ文章丈ケデ以テ招集ト云フタナラバ發信ノ時カラヤルト云フ事ハ私ハ出來ナイト思フ、故ニ若シモ其趣意デアルナラバ更ニ改マツタル案ヲ出サレル事ヲ望ミマス、今帝國議會ノ招集ノ事ヲ御引キニナツタケレドモあれハ官報ニスル、卽チ法令デ其期限ガ必ズ計算シテアルカラ發信ノ日カラ數ヘルノデ、夫レデアリマスカラ之ハ帝國議會ノ招集ノヤウナ譯ニハ往クマイト思ヒマス
穗積陳重君
官報ノハ法令デハナイノデセウ
長谷川喬君
法令デハナイ、詔勅デアリマスガ、之モ矢張リ法令ト云フノ外アリマスマイ
穗積陳重君
富井君ノ問ハレタノハ是レカラ吾々ガ案ヲ拵ヘルニ付テ參考ノ爲メニ尋ネラレタノデアリマスガ、商法抔ニ付テハ餘程其邊ニ疑ヒガアリマス、例ヘバ商法ノ百四十九條ニ「總會ヲ招集スルニハ會日ヨリ少クトモ七日前ニ各社員ニ會議ノ目的ヲ通知シ及ヒ提出スヘキ書類ヲ送付スルコトヲ要ス、」斯ウ云フ風ニ書テアリマス、是抔ハ何ウシテモ殆ド到逹主義ノヤウナル風ノ文章デアルノデアリマス、併ナガラ此百四十九條デモ多分實際上ノ解釋ト云フモノハ七日前ニ目的ノ通知ヲ發シ夫レカラ送附ノ手續ヲ爲スト云フ外ニハ是レデモ矢張リ讀メマイト思ヒマス、然ウスレバ此六十二條ガ若シナイニシタ所ガ矢張リ五日前ニ其手續ヲ爲スト云フヨリ外ニ讀メナイカト云フ考ヘガ吾々ノ中ニハアルノデアリマス、併シ進ンデ言フノデハナイ、
長谷川喬君
夫レカラ先キハ議論ニナリマスカラ申シマセヌ
横田國臣君
五日前ト云ツテモ郵便デモ五日デハ行カナイト云フヤウナ所モアリマセウガ、然ウ云フ風ナ所ヘハ電信デモ打ツト云フ譯デアリマスカ
穗積陳重君
夫レハ人々ニ依テ特別ノ通知ヲスルヤ否ヤト云フ事ハ理事ノ取計ヒニ依ルノデ、到底此處デ定メルノハ何ンナ方法ニ依ルモ招集ノ手續ヲスル、其手續ヲスルト云フノガ五日前少クトモ五日前デナケレバナラヌト云フ事丈ケヲ極メテ置クノデアリマス
横田國臣君
然ウスルト何ウモこちらカラ發シテ向フニ行クノニハ七日モ掛ラナケレバ行着カヌ、然ウスルトすつかり夫レガ出テ來ル迄ニハ少シハ暇ガ掛ルコトモアラウカラ然ウスルト到底達セラレヌ事ヲ此處ニ極メルヤウデハアリマセヌカ
穗積陳重君
夫レハ或ハ然ウ云フ場合モアリマセウガ、併シ社員ト云フ者ガ日本計リデナク諸國ニ居ル者モアラウ、數百里或ハ數千里モアル所ニ往ツテ居ル者モゴザイマセウガ、大概寄ツテ來ラレル人ニ通ズルヤウニ極メテ置イタラ宜カラウト思ヒマス
横田國臣君
如何デゴザイマセウカ、夫レハ歐羅巴抔ニ往ツテ居ルトカ、外國ニ往ツテ居ルトカ云フ者デアリマスレバ夫レハ然ウデゴザイマセウガ日本國内丈ケニハ通ズルヤウナ風ニシタラ宜シイト思ヒマス
穗積陳重君
赤十字社ノ總會抔ニナルト困マラウト思ヒマス
横田國臣君
其爲メニハ定款ニ別ニ定メル
假議長(箕作君)
起草委員ニ御尋ネシマスガ、此社團總會ト云フモノハ頼母子講ダノ無盡ダノト云フモノハ無論之ニハナイ、あれハ法人デハナイト云フノデアリマスカ
穗積陳重君
此三十七條デアリマスガ、其目的ノ中ニ這入ツテ許可ヲ得マスレバ然ウ云フモノデモナレル積リデアリマス、旣ニ英吉利抔デ極ク簡單ナ手續デ設立スル事ノ出來マスル法人ノ中ニハ却テ貧民ノ救濟財團抔ト云フヤウナモノモアルノデアリマスカラ、必ズ夫レニ這入ラヌト云フ事ヲ御答ヘスルコトニハ往カヌト思ヒマス
假議長(箕作君)
日本デハ赤十字社ノ如キモノモアツテ大變ナ社員デアリマスガ
梅謙次郎君
然ウ云フ時ニハ定款デ極メルノデスナア
土方寧君
定款ニ從ヒ、方法ニ從ヒ、法人ノ性質ニ依テ餘リ大勢ノ時ニハ保護スルトカ何ントカ云フヤウナ事ガアルダラウ
鳩山和夫君
夫レハ定款ニ極メルトスル
穗積陳重君
今一ツ富井君カラノ御注意デ一言御承知ヲ願ヒ置キタイコトガアリマス、卽チ若シ先キデ此離隔地ヘ手紙抔ヲ發シマスル時ニ發信主義ヲ採ルヤウニナツタナラバ此儘デ勿論通ル、此文章ヲ變更スルコトニモ及ビマスマイガ、併シ若シ到逹主義ヲ此會デ愈々採ルト云フコトニナリマシタナラバ夫レガ爲メニ先キヘ別段ノ規定ヲ設ケマスルカ或ハ主義ニ依テハ此條迄ニモ立戻ル事ガアルカモ知レヌト云フコトノ御承知ヲ願ヒ置キタイ
土方寧君
然ウ云フ趣意デ原案ヲ贊成シマス
假議長(箕作君)
別ニ御異論ガナケレバ可決ト認メマスガ如何デアリマスカ
(此時「贊成」ト呼ブ者多シ)
假議長(箕作君)
夫レデハ可決ト認メテ次ノ六十三條ニ移リマス
(書記朗讀)
第六十三條 社團法人ノ事務ハ定款ヲ以テ理事又ハ其他ノ役員ニ委任シタルモノヲ除ク外總テ總會ノ決議ニ依リテ之ヲ行フ
(參照)獨二草三一、普國法二部六章五一
(理由)本條ハ社員ノ總會ハ社團法人ノ最高機關タルヲ示シタルモノナリ然レトモ總會ノ議決權ハ固ヨリ定款ノ範圍内ニ於テ存スルモノナルヲ以テ特ニ定款ヲ以テ之ヲ理事其他ノ役員ニ委任シタル事務ハ通常ノ決議ヲ以テ之ヲ變更スルコトヲ得サルモノトセリ
鳩山和夫君
理事ノ外ニ役員ヲ置イテモ宜イノデスカ
穗積陳重君
理事ハ是非置クノデアリマスガ、外ノ役員ハ置カヌト云フ事モアリマス
土方寧君
一寸疑ヲ起シマシタ、此六十三條デアリマスガ、總會デ爲ス事ガ出來得ル趣意ニナツテ居ラウト思ヒマスガ、一體法人ノ爲シ得ルコトハ總テ理事ニ依テ爲スノデ第三者ニ對シテ、ケレドモ内向キデハ理事ニモ任セナイ、總會デ決シテ必ズヤル、總社員總掛リデヤルヤウナ事ガアルダラウ、所ガ此前ニ「理事ハ總テ法人ノ事務ニ付キ法人ヲ代表ス」トアル中ニ矢張リ總會ノ決議ニ從ハナケレバナラヌトアル、其場合ト照ラシ合セテ見ルト、第三者ニ對シテハ兎モ角モ法人ノ中ニ就テ、社員ノ間柄ニ付テ言フ時ニハ定款ノ上デ理事ノ任免ハ極マツテ居ルノデ、法人ニ其能力ハナイ、能力ト云フモノハ無イト云フヤウニ定メテ居ツタ時ニハ、總會デ議決ヲシテ理事ニ定款デ定メテアル所ヨリ、マ些ツト廣イ權限ヲ與ヘヤウト思フテモ定款デナケレバ往カナイト云フノデアリマスカ
穗積陳重君
定款以外ノ行爲ナラ勿論本人ガ出來ナイノデアリマス
土方寧君
其定款デ以テ理事ノ委任權限ハ定マツテ居ル、其定マツテ居ル權限ノ事ヲサセヤウト云フ事ヲ總會デスルト云フノハ何ウカト云フ質問デアリマス
穗積陳重君
夫レハ勿論定款ヲ變更シナケレバ其事ハ私ハ出來ナイト思ヒマス、此處ハ其理事ノ權限ヲ定メタモノデナクシテ總會ト云フモノガ法人ノ事務ニ就テハ一番高イ機關デアルト云フ事ヲ示ス爲メニ本條ノ如ク規定スルノヲ必要トスルノデアリマス
梅謙次郎君
今ノハ誤解デハアリヤシマセヌカ、土方君ノ御問ヒハ斯ウ云フ事デハアリマセヌカ、定款デ以テ理事ト云フ者ハ例ヘバ十丈ケノ事ガ出來ルト書テアル、其定款ニ依テ理事ノ出來ベキ事柄ノ外ハ總會デ決スベキノガ本則デアル、然ルニ總會デ定款ニ極メテアル十ヨリ外ノ事ヲ理事ニサセヤウト云フヤウナ場合、其場合ニハ無效カト云フ御尋ネデアツタラウト思ヒマスガ(此時土方委員ハ「然ウダ然ウダ」ト呼ブ)夫レハ私ノ考ヘデハ勿論有效トナルト思ヒマス、總會デ何ウ決シテモ定款ニハ觸レナイ、併ナガラ定款デ以テ與ヘテ居ル其職權ヲバ唯通常總會デ以テ殺グト云フヤウナ事ハ夫レハ定款ニ背クカラ出來ナイ、ケレドモ總會ノ決議デ出來ル事柄ナレバ夫レヲ總會ガ理事ニ命ズルコトガ出來ルカ出來ナイカト言ヘバ夫レハ勿論出來ルト思ヒマス、今穗積さんノ御答ヘニナツタノモ其積リデアラウト思ヒマス
穗積陳重君
本案ノ趣意ハ今梅君ノ御答ヘニナツタヤウナ趣意デアリマス
假議長(箕作君)
今ノ土方君ノ御問ヒハ何ウモ分カラナカツタ
土方寧君
今ノ梅君ノ御答ヘデ分カツタ
假議長(箕作君)
夫レデハ六十三條ハ宜シウコザイマスレバ可決ト認メテ次ノ六十四條ニ移リマス
(書記朗讀)
第六十四條 社員ノ議決權ハ定款ニ別段ノ定ナキトキハ各社員平等ナルモノトス
(參照)商八九、二〇四、ツユーリヒ二一、二二
(理由)社員ノ議決權ハ或ハ出資ノ多寡ニ因リ或ハ發起者タルト贊同者タルトノ區別ニ從ヒ等差ヲ立テ或ハ或社員ニ特權ヲ與フル等ノ事アリ又或ハ女子、幼者、罪囚、資金怠納者等ニ議決權ナキモノトスルコトアリト雖モ若シ定款ニ此ノ如キ規定ヲ設ケサルトキハ各社員皆議決權ヲ有シ且其議決權ノ平等ナルヲ以テ最モ穩當ナリトス故ニ本條ニ於テハ表面ニ於テ議決權ノ平等ナルコト竝ニ各社員皆議決權ヲ有スルノ通例ナルヲ示シ裏面ニ於テ事情ニ依リ定款ヲ以テ等差ヲ設クルコトヲ得ル旨ヲ示セリ
假議長(箕作君)
是モ別ニ御異議ガナケレバ次ノ六十五條ニ移リマス
(書記朗讀)
第六十五條 社團法人ト社員トノ間ニ於ケル法律上ノ行爲ニ關スル議事ニ付テハ其社員ハ議決權ヲ有セス
(參照)五七、獨二草三一、三項、索五五
(理由)法律上ノ行爲ノ當事者間ニハ利益相反スルコトアルヲ通常トスルヲ以テ社員若シ一方ノ當事者タルトキハ之ニ關シテ公平ナル判斷ヲ下スコト能ハサルノ虞アリ且若シ社員ノ多數カ其當事者ナルトキハ其危險殊ニ多シトス故ニ其社員ハ議決權ヲ有セサルモノトセリ
穗積陳重君
一寸一言此處デ申述ベマス、吾々ノ間デ此原案ヲ段々起草致シテ參リマスルニ付テ再ビ此「法律上ノ行爲」ト云フ辭ニ付テ色々相談ヲ致シマシタコトデゴザイマス、元ト此辭ハ目錄ヲ議定ニナリマシタ時ニ色々議論ガアリマシテ途ニ「法律上ノ行爲」ト云フ事ニ決シマシタヤウナ譯デアリマス、然ルニ此次ニ出マスル案ニ付テ此「法律上ノ行爲」ト云フ辭ヲ始終使フテ參リマスルニ付テハ甚ダ難儀ナ事ガ澤山出マス、之ハ文章ノヤウナモノデアツテ實ハ一ノ熟語デアル、之ヲ法文ノ中ニ書キ加ヘテ往クト色々不都合ナ事ヲ發見シマシタルガ爲メニ吾々三人ノ間ニハ再ビ此辭ヲ少シ短クシテ御貰ヒ申シタイト云フ案ヲ持出ス考ヘデアリマス、卽チ「法律行爲」ト云フ案ヲ持出シタイト思フノデアリマス、併シ何レ本トノ意思表示ノ所ニ出テ參リマスル事デアリマスカラ、其時ニ議決ヲ願ウ事ニシテ、斯ウ云フ事モアルト云フ事丈ケノ御承知ヲ只今願ヒ置キタイノデアリマス
假議長(箕作君)
夫レハ先キノ方ニナツテ後トヘ戻ルト云フ豫言デスナア
梅謙次郎君
左樣デアリマス
長谷川喬君
今起草委員ノ御說明ニ依ルト、先キヘ往ツテ「法律上ノ行爲」ト云フノヲ「法律行爲」ト云フ事ニスルコトガアルカモ知レヌト云フコトデアリマスガ、夫レデアリマスレバ「法律上ノ行爲」ト云フノヲ「法律行爲」ト云フコトニ改メルト云フコトニシテ置テ、此處ハ「社團法人ト社員トノ間ニ於ケル事項ニ關スル」云々ト云フコトニ改メラレタ方ガ宜クハナイカト思ヒマス
横田國臣君
夫レデハ分カラヌ、此處ハ「法律行爲」ト云フ字ガ見エテ始メテ此箇條ガ分カル
田部芳君
夫レデハ私ハ此所デ「法律上ノ行爲」ト云フノヲ「法律行爲」ト云フ事ニ修正スルノ案ヲ出シマス
梅謙次郎君
贊成シマス
穗積陳重君
夫レハ反對ヲスルコトハ出來マセヌ
假議長(箕作君)
前ニ「法律上ノ行爲」ト云フコトガアリマスガ、夫レハ又直ホスト云フノデアリマスカ
梅謙次郎君
夫レハ後トカラスルコトニシマス
假議長(箕作君)
夫レハ先キヘ往ツテカラデハ何ウカト思ヒマスガ、今ノ穗積君ノハ豫言丈ケデ此處ハ之デ往ツテハ何ウデアリマセウカ
富井政章君
其不都合ト思フノハ實ハ「ノ」ノ字ガ澤山使ツテアルノデアリマス、夫レデ此處デ直グニ決スルカ、或ハ次ノ標題ノ所ニ來ルノデアリマスカラ其標題ノ所デ決シテ戴イテモ何レデモ宜イト思ヒマス
鳩山和夫君
今日決シテ貰ウ方ガ宜シイト思ヒマス
土方寧君
此處デ決シテ置テモ後トデ整理委員デモ整理スルト思ヒマス
假議長(箕作君)
決ヲ採リマス、田部君ノ說ニ贊成ノ諸君ハ起立ヲ請ヒマス
起立者多數
假議長(箕作君)
多數デアリマス、夫レデハ他ノ部分ハ御異存ハナイモノト認メテ次ノ六十六條ニ移リマス
(書記朗讀)
第六十六條 主務官廳ハ法人ノ業務ヲ監督シ何時ニテモ職權ヲ以テ其業務及ヒ財產ノ實況ヲ檢査スルコトヲ得
(參照)商二二四、二二七、グラウブユンデン九二、ツユーリヒ四四
(理由)法人ハ總テ公益ニ關シ其業務ノ景況如何ハ國家ノ治安及ヒ經濟ニ影響ヲ及ホシ公衆ノ利害ニ關係ヲ有スルコト頗ル大ナルヲ以テ行政上ノ監督ヲ要スルモノトス
本條ハ法人ノ設立ニ主務官廳ノ許可ヲ受ケシメ又主務官廳カ許可ノ取消ヲ爲スコトヲ得ルノ條ト照應シテ法人ノ設立ヨリ生スル濫弊ヲ防制スルノ旨意ニ出テタルモノナリ
本野一郎君
異議ナシ
鳩山和夫君
之ハ文章論ノヤウダガ、業務及ビ財產ノ實況ヲ檢査スルト云フ事ガ卽チ監督ト云フコトデアリマスカ、又ハ監督ト云フノハ別ナコトデアリマスカ
穗積陳重君
夫レヨリハ尙ホヽヽヽヽヽ
鳩山和夫君
監督ト云フ中ニ「何時ニテモ」云々ト云フコトガ含蓄スルト云フノデアリマスカ
穗積陳重君
夫レハ勿論然ウデアリマス、監督スルト云フニ付テハ是丈ケノコトガナクテハ往カヌ
梅謙次郎君
其重モナル事柄デ且多少疑ヒノ起ル事柄デアリマスカラ斯樣ニ書イタノデアリマス
假議長(箕作君)
實況ヲ檢査スルトアルカラ之ハ帳面迄モ調ベルト云フ御積リデアリマセウ
梅謙次郎君
左樣デアリマス
横田國臣君
商社ノハ株式會社丈ケデスカ
梅謙次郎君
株式會社丈ケデアリマス
假議長(箕作君)
別ニ御發議ガナケレバ本條ハ確定ト認メマス、然ウシテ今日ハ是レデ散會スルト云フコトニ贊成ノ方ハ起立ヲ請ヒマス
起立者多數
假議長(箕作君)
多數デアリマスカラ是レデ散會致シマス