第七回總會議事速記録
明治二十六年十一月十日午後五時二十分開會
出席員
箕作麟祥君
岡村輝彦君
本野一郎君
土方寧君
岸本辰雄君
阿部泰藏君
田部芳君
高木豐三君
末延道成君
高田早苗君
梅謙次郎君
富井政章君
穗積陳重君
侯爵西園寺公望君
穗積八束君
淸浦奎吾君
都筑馨六君
横田國臣君
中村元嘉君
星亨君
長谷川喬君
南部甕男君
大岡育造君
小中村淸矩君
男爵千家尊福君
磯部四郎君
木下周一君
山田東次君
議長(西園寺侯)
マダ總裁ハ出席ガアリマセヌガ時刻ガ立チマスカラ開會致シマス、二十五條
(書記朗讀)
第二十五條 無能力者ノ相手方ハ其無能力者カ能力者トナリタル後之ニ對シテ二週日以上ノ期間内ニ其取消シ得ヘキ行爲ヲ追認スルヤ否ヤヲ確答スヘキ旨ヲ催告スルコトヲ得若シ其期間内ニ確答ヲ爲ササルトキハ其行爲ヲ追認シタルモノト看做ス
無能力者カ未タ能力者トナラサル時ニ於テ夫又ハ法律上ノ代理人ニ對シ右ノ催告ヲ爲スモ其期間内ニ確答ヲ爲ササルトキ亦同シ但法律上ノ代理人ニ對シテハ其權限内ノ行爲ニ付テノミ此催告ヲ爲スコトヲ得又特別ノ方式ヲ要スル行爲ニ付テハ若シ其期間内ニ其方式ヲ踐マサルトキハ之ヲ取消シタルモノト看做ス
自治產未成年者、準禁治產者及ヒ妻ニ對シテハ第一項ノ期間内ニ保佐人ノ同意若クハ夫ノ許可ヲ得テ其行爲ヲ追認スヘキ旨ヲ催告スルコトヲ得若シ其期間内ニ右ノ同意若クハ許可ヲ得サルトキハ之ヲ取消シタルモノト看做ス
梅謙次郎君
一寸議事ニ先立ツテ申上テ置キマスガ此二十五條中ノ自治產未成年者ト云フ文字ハ前ノ決議ノ結果トシテ當然削ラレルノデアリマスカラ、之ヲ削ツテ原案トシテ戴キタイ
淸浦奎吾君
此第二十五條ノ第一項ニ催告期限ノ「二週日以上ノ期間内ニ」云々ト云フ事ガアリマスガ、之ハ甚ダ短縮ニ過ギルト思フノデアリマス、成程之ガ旣成法典ノ如ク五ケ年ト云フヤウナ事デアリマスレバ相手方ノ權利ガ永ク不確定ノ間ニ居ルト云フ事ニナツテ、相手方ノ權利ニ取ツテ甚ダ不幸デゴザイマセウガ、併ナガラ此催告期限ガ餘リ短カ過ギマスレバ無能力者ガ僅ニ無能力ヲ免レテ能力者ニナツタ計リデ、卽チ此無能力者中ニ取結ビタル所ノ事柄ヲ認ムルヤ否ヤト云フコトヲ最モ早ク確答センケレバナラヌト云フノデゴザイマセウガ、夫レニ付テハ或ハ自分デ其事ニ付テ考ヘナケレバナラヌコトモアラウシ、又親族ノ協議ヲ經ナケレバナラヌ事モ御座イマセウ、且日本ノ如ク交通ノ不便ナル所デハ餘リ此期限ト云フモノガ短キニ過ギレバ僅カニ無能力ヲ脱シテ能力ノ位地ニ達シタ所ノ人ノ爲メニ取ツテ不都合デアラウト考ヘマス、卽チ十五日目ナラ十五日目ニ催告ヲ請ケテ其間ニ決スル事ガ出來ナイデ確答ヲセヌノナラバ詰リ夫レヲ追認シタルモノト倏チ認メラレル次第デアル、併ナガラ之ヲ又極メテ短縮シナケレバナラヌト云フ外ニ起草者ニ於テ格別ナル理由モアツテ斯ウ強イテ起草セラレタノデ御座イマセウカ、一應其邊ノ所ヲ承ツタ上デ時宜ニ依ツテハ二週間ト云フ事ニ對シテ修正ヲ加ヘタイト思ヒマスガ、起草者ノ意見ヲ一應承ツテ置キタイ
梅謙次郎君
只今淸浦君カラノ御質問デ御座イマシタガ、此二週間ト云フ事ヲ之ヨリ永クシナカツタ理由ハ之ハ是非二週日デナケレバナラヌト云フ理由ハ決シテアル可カラザル事デアリマスガ、兎ニ角餘リ永クテハ往カヌト云フ理由ハ、詰リ第三者ヲ保護スルト云フ點カラデアル卽チ第三者ノ權利ガ何時迄モ不確定ノ位地ニ居ルト云フ事デハ困マルデアラウト云フノデ元々此規程ガ出來タノデアリマスカラ、何ウカ是レカラ二週間ノ内ニ確答ヲシテ呉レ夫レヨリ永ク待ツテ居ルト此方デモ大變差支ヲ來タスト云フガ如キコトガ隨分アラウト云フ、唯成ルベク此不確定ノ有樣ヲ短クシ得ラレル樣ニシタイノデ、詰リ大抵二週間モ有ツタナラバ其間ニ其行爲ガ利益デアルカラ認メヤウトカ、或ハ不利益デアルカラ取消サウト云フ決心モ出來ルデアラウト云フ考ヘデアリマシタ、夫レデ之ハ是非二週間デナケレバナラヌト云フ事モ御座イマセヌガ、前申スガ如ク詰リ第三者ノ權利ヲ永ク不確定ノ位地ニ置キタクナイト云フ精神カラ斯ウシタノデアリマス
淸浦奎吾君
只今起草委員ノ御說明ヲ承リマシタ所丈ケノ理由デハ私ハ此二週間デハ甚ダ短縮ニ過ギルダラウト思フ、夫レデ別ニ細カイ理由ハ重ネテ申シマセヌガ、詰リ此文案ヲ「其無能力者カ能力者ニナリタル後之ニ對シテ一月以上ノ期間内ニ於テ」ト斯ウ修正ヲ致シタイト思ヒマス
長谷川喬君
私ハ只今ノ修正案ニ贊成ヲ致シマス、卽チ此二週間ヲバ延バシテ一ケ月トシナケレバナラヌト云フ事ハ、只今淸浦君ガ辯明セラレタヤウデアリマスカラ其必要ノ事ニ付テハ別段申シマセヌガ、主査會ニ於テモ旣ニ此問題ガアツタ事デアリマシタカラ其事ヲバ一應主査會ニ御出席ノ無カツタ御方ニ申上ゲテ私ガ之ニ贊成スル理由ヲ明カニシヤウト思ヒマス、卽チ此外國ノ法律ニモ旣ニ起草者ノ辯明セラレタ如ク二週間ト云フノモアレバ又一ケ月ト云フノモアルト云フ事デアル、然ウシテ旣ニ此一ケ月ト云フ事ガ問題ニナツタ所ガ其一ケ月ト云フ說卽チ修正說ト原案トガ半數ニ分レテ遂ニ此原案ガ議長ノ決セラレル所ニ依テ可決トナツタノデアル、夫レデ私ノ考ヘデハ旣ニ歐羅巴ノ交通ノ便利ナル所デサヘモ一ケ月ト云フ例ノ有ル以上ハ、一ケ月ト云ヒ二週間ト云ヒ之ヲ極メル所ノ標準モ無ク且日本ノ如キ交通ノ不便ナル地位ニ在ル所ニアツテハ、是レハ矢張リ一ケ月ニ極メタ方ガ實際ニ於テ適當スルカト考ヘマス
阿部泰藏君
私モ此期限ヲ延バスト云フ事ニ贊成ヲ致シマス、其理由ハ旣ニ淸浦君ヨリ御陳ベニナリマシタカラ別段ニ申述ベルノ必要モアリマセヌガ、私ハ之ヲ四週間トスル積リデアリマシタガ、之ヲ一ケ月ト云フコトニスルト或ハ永イ時モアルシ又短イ時モアリマシテ、卽チ二月ノ如キ短イ時モアリマシテ少シ狂イガ出ルガ、四週間ト云フコトニスルト何時モ同ジヤウナ日ニナリマスカラ四週間ト云フ事ニハナリマスマイカ、一寸發議者ニ御相談ヲ致シマス
磯部四郎君
私ハ原案贊成者デ御座イマスガ、此法文ヲ見マスレバ二週日以上ト云フ事デアリマスカラ必ラズシモ二週日ト積ツテアルノデハアリマセヌ、四週間五週間ト云フ事ニナツテモ差支ナイノデアリマス、詰リ是ハ何時デモ二週日ハ必ズ猶豫ヲ與ヘルノデアツテ通例十日以内トカ何トカ云フ事モアリマセウカラ、是レ丈ケデ充分デアラウト考ヘマス、詰リ之ハ私ハ追認シマセヌト確答スレバ夫レカラ先キハこちらデ以テ訴ヲスルトカ何トカ云フ事ニナリマスカラ、是レデ以テ權利ガ確定スルトカ何トカ云フ事デハ御座イマセヌ、尙ホ是レデ追認スル事ガ出來ナイト云フコトデアレバ是レカラ先キハ何トカナルノデ御座イマスカラ、私ハ原案ヲ贊成デ御座イマス
高木豐三君
私ハ主査會ノ時ニモ矢張リ一ケ月以上ト云フ改正案ノ方ニ贊成者ノ一人デアリマシタガ就キマシテハ只今阿部君カラ說ガ出マシタガ、此一ケ月ト云フノハ孰レ期間ノ所ニ往カナケレバ確定ハ致シマスマイガ是迄ノ法律ノ例ヲ以テ看テモ一ケ月ト云ヘバ三十日ヲ以テ算ヘル事ニ必ズナルデアリマセウカラ、是レハ矢張リ淸浦君ノ修正案ノ儘ニ御贊成アランコトヲ希望スルノデアリマス、次ニ只今磯部君カラ原案維持ノ說ガ出マシテ、二週間以上ト云フ事デアルカラ孰レ三週間トカ四週間トカ云フ期間ヲ定ムルノデアルカラ差支ハナイト云フ事デアリマシタガ夫レハ勿論我々ト雖モ承知シテ居リマス、ケレドモ二週間以上ト言ヘバ十五日以内ニ確答ヲシロト云フ事ノ催告デモ出來ルノデアリマス夫レデ我我ハ斯樣ニ十五日以内デハ餘リ短縮ニ過ギルカラ幾ラ縮メテモ三十日以内ニ縮メルト云フ事ハ出來ナイト云フヤウニ改正ヲシタイノデアリマスカラ私モ矢張リ淸浦君ノ案ニ贊成ヲ致シマス
大岡育造君
一寸起草委員ニ御尋ネ致シマスガ、此催告期限ノ計算方デアリマス、交通ノ便不便ト云フ事ノ理由モ出テ居リマスガ、其距離ニ付テハ相當ナ矢張リ、例ヘバ裁判所ノ期限ノ勘定ヲスルガ如クニ里程ニ應ジテ猶豫スルガ如クニスルト云フノ御見込デ御座イマスカ、果シテ然ラバドウ云フ風ナ計算ヲ御用ヰニナルノデアリマスカ一應伺ヒマス
梅謙次郎君
此期限ニハ里程ニ依テ別段ニ延バスト云フ樣ナ如キ事ハ多分莫カラウト思ヒマス、夫レハ此期間ト云フ所デ規定スベキモノデアリマセウケレドモ、裁判所ノ手續抔ニハ里程ニ依テ時ヲ延バスト云フ事モアリマスガ、外ノ場合ニハ通常サウ云フ事ニハナラヌト思ヒマスガ此處ラノ場合ニハ距離ニ依テ延バスト云フ事ニナラナイダラウト思ヒマス、併ナガラ距離ト云フコトニ付テハこちらカラ催告ヲ發シタ日カラ向フノ人ガ答ヲ出シテこちらニ到着スルマデ、夫レマデトシテ見レバ遠イ所ハ大變短クナリマスガ、サウ云フ事ニハナラヌト考ヘマス、孰レ期間ハ向フニ到看シテカラ計算シ始メル事ニナラウト思ヒマス、矢張リ郵便ノ屆ク間ト云フモノハ取除カレル事ニ、兎ニ角サウナラウト考ヘマス、尤モ受取ルト云フ方ハこちらカラ向フニ到着スル時カラ計算ヲスルト云フ事デアツタナラバ向フモ其期間内ニこちらニ屆クヤウニ出サナケレバナラヌト云フ事ニナルカモ知レマセヌ、ケレドモ其邊ハマダ能ク極マリマセヌ、幾ラカ其距離ノ爲メニ期限ガ延ビルト云フ結果ニハどつち途ナルダラウト思ヒマス、今一ツ序デデアリマスカラ申シテ置キマス、決シテ議論デハアリマセヌ、何ウモ日數抔ノ事ニ付テハ格別議論スル程ノ事モナイ只餘リ永イヤウニ思フトカ或ハ短イヤウニ思フトカ云フノミデアル、只餘リ永過ギテハト云フ意見デ私共ハ考ヘテ二週日ト云フ事ニ致シタノデアリマス、只今ノ高木君ノ御說ニ依ルト一ケ月トスレバ三十日ト極マルデアラウト云フ事デアリマシタガ之ハ一寸必ズ然ウナルト云フコトニモ信ジラレマセヌ、成程民事訴訟法ニハ然ウナツテ居リマスガ、是レデハ必ズ然ウナルカドウカ、私ハ然ウハナラナイト思ヒマス、今ノ民法ニハ年、月ヲ算ヘル場合ニハ暦ニ從フトアツテ必ラズシモ三十日トハナツテ居リマセヌ、矢張リ之ハ期間ノ所ニ至ツテ何ウ極マリマスルカ分カリマセヌ、今一ツ餘計ノ例ノヤウデハアリマスケレドモ、外國ノ例デハ三十日ト云フ事ハ有ルガ一ケ月トハ書イテアリマセヌ、夫レハ索遜ノ民法ノ例デアリマス、ケレドモ其方ハ三十日立テバ當然追認シタルモノト看ルノデアル、こちらノ方ハ二週日以上ノ期間ヲ相手方ノ方デ極メテ返辭ヲシテ呉レロト云フノデアルカラ、必ズ二週日立テバ當然追認シタモノト看ルノデハアリマセヌ、故ニ實際ニ於テハ三十日モ立テバ當然追認シタモント看ルト云フ事ニナルダラウト思ヒマス、詰リ平均シタナラバ同ジ事デアリマス
大岡育造君
只今御說明ニナリマシタ理由ヲ承リマスルト愈々修正ノ說ニ贊成ヲ致シタイト思ヒマス、成程二週間以上トアレバ四週間デモ五週間デモ若シクハ一年デモ催告者ノ隨意ニ屬スル事デ御座イマスケレドモ、孰レモ己レノ利益ノ爲メニ發スル以上ハ成ルベク短クスルヤウニシタイト云フノハ是レ人情ノ免レザル所デアリマス、シテ看レバ或ハ三週間モ四週間モ與ヘル者モアルカモ知レナイガ、併ナガラ多クハ二週間稍々十五日位ノ所デ極メルデアラウ、果シテ然ラバ之ヲ發シテヨリ其受取ル所ノ人ガ大變遠方ニ居ルノト近イ處ニ居ルノト違フノデ、若シ其人ガ旅行中デデモアリマスレバ是ニ向ツテ答ヲシヤウト思フ時ハ旣ニ其期限ヲ過去ツテ居ルト云フ事モアラウ、況ンヤ其本統ノ書面ガ着ク其經過ノ日數ハ尙ホ二週間ト云フ中ニ勘定セラルル事ニナリマス、之ハ甚ダ短縮ナル事デアリマス、唯ダ同一ナル地方ニ在ル場合ニ於テハいと永イト思フ人ガアルカモ知レマセヌガ、併ナガラ遠方ニ在ル所ノ人ハ甚ダ困難デアリマス、今日ハ郵便モ甚ダ便利デ御座イマスケレドモ土地ニ依ツテハ甚ダ不便ヲ極メテ居ル所モ御座イマス、故ニ是レハ無論三十日以上、若シ一ケ月ト云フ事ニ不安心デアリマスレバ之ヲ三十日以上ト發案者モ修正セラルルヤウニ御忠告ヲ申上ゲテ兼テ御贊成ヲ致シマス
淸浦奎吾君
此期間ノ所ハ三十日デモ亦阿部君ノ御協議ノアツタ如ク四週間デモ五週間デモ永イ方ハ孰レデモ宜シイ、宜シイケレドモ先ヅ一ケ月ト云フ事ニ付テ段々御贊成下サル方モアリマスカラ、私ハ先ヅ一ケ月デ宜カラウト思ヒマス
末延道成君
私ハ此第一項ノ全文ヲ修正致シタイ、其修正シタイト云フ趣意ハ、ドウモ此相手方ガ丁年ニナルト云フ事ヲ知ルノハ誠ニ六ケ敷イ事デアル夫レデ今起草者ノ御一人ノ仰セラレル通リノ事ヲ反對ニ極メタイ、卽チ「無能力者カ能力者トナリタル後二十日以内ニ其取消シ得ヘキ行爲ヲ豫テ相手方ニ通知セサレハ其行爲ヲ追認シタルモノト看做ス、」斯ウ云フ樣ニ更メタイノデアリマス、斯ウシナイト先ヅ第一ニ無能力者ガ已ニ丁年ニナリタルヤ否ヤト云フ事ヲ相手方ノ知ル事ハ至ツテ難イノデアル、故ニ之ヲ更メテ貰ヒタイノハ、私ノ只今ノ修正案ノ通リニ改正スルト云フ必要ノアルノミナラズ、最ウ一ツハ際限ガアリマセヌ、卽チ此期間内ニ催告セヨト云フノハ後トニアリマスガ、夫レハ丁年ノ後一年ノ後デモ尙ホ爲ス事ガ出來ルノカ若シクハ二年三年ノ後デモ尙ホ爲ス事ガ出來ルノカ少シモ際限ガ無イ、夫レニ對シテ規定シタモノハ御座イマセヌ、夫故ニ是レハ無能力者ノ方カラ取消スナラバ取消スト云フ事ニシナケレバナラヌト思フ
梅謙次郎君
未ダ末延君ノ案ハ成立チマセヌガ、其御辭バノ中ニ依テ見テモ又外ノ御方モ或ハ御疑ヲ起サレルカモ知レナイト思ヒマスカラ一言辯ジテ置キマスガ、夫レハ此處ノ第一項ニ在ル所ノ「二週日以上ノ期間内ニ其取消シ得ヘキ行爲ヲ追認スルヤ否ヤヲ確答スヘキ旨ヲ催告スルコトヲ得」トアリマスガ、此外ニマダ極マツタ事デハアリマセヌガ、多分是レハ無效及取消ノ所ニ以テ參ツテ、旣成法典ニ據レバ五年トナツテ居リマスガ、成年ニナツテカラ五年立テバ之ヲ取消ス事ガ出來ヌト云樣ナ規定モ出來ヤウト思ヒマス之ガ出來レバ決シテ際限ガナイト云フヤウナ事ハナイト思フ、五年立ツタ後デアレバ斯樣ニ催告スル事モ何モ要ラヌ、當然有效ノ行爲トナツテ來ル、卽チ完全ナル行爲トナルノデアリマスカラ此事丈ケヲ一寸申シテ置キマス
中村元嘉君
是レハ無能力者ガ能力者トナリタル事ヲ相手方ガ知ツテカラ二週間ト云フノデアリマスカ
梅謙次郎君
此催告ト云フ事ハ孰レ向フガ成年ニ達シタト云フ事ヲ知ツテカラデナケレバシナイ筈デアリマス
中村元嘉君
夫レヲ知リ得ルノハ成年ニナツテカラ幾日立ツテ知リ得ラルルカ何ウカバワカラヌト思ヒマスガ
梅謙次郎君
夫レハ分カリマセヌ
中村元嘉君
夫レデハ催告ノ到達後二週間ト云フノデゴザイマセウネ
梅謙次郎君
夫レハ無論然ウナルデアラウト思ヒマス
高木豐三君
先刻起草者カラ期間ノ定メ方ハ多分一ケ月トハ定メナイデアラウト云フ事デアリマシタガ、成程然ウナリマスレバ當然ノ結果デ後トハ改マルデアリマセウガ、主査會ニ於テモ私ガ陳ベマシタガ如ク、週ヲ以テ期間ヲ算ヘルト云フ事ハ私ニ言ハシムレバ多分誤ツテ居ラウト思フ、夫レハ唯商法ニ一箇所認メタ丈ケデアツテ未ダ法律ノ慣例上週ヲ以テ期間ヲ計算スルト云フ事ハナイト思ヒマス、慣例ニ少ナクモ無イト思ヒマス尤トモ後日此期間ノ所デ愈々日本ノ法律上期間ノ計算ニ週ヲ以テスルト云フ事ニ定マリマスレバ夫レニ引直セバ宜イ譯デアリマスカラ、先ヅ今日迄アル所ノ月ヲ以テ計算スル事ハ變ヘラルルデアラウト云フ積リデ、今迄ノ法律上ニ慣例ノナイ所ノ週ト云フモノヲ用ヰルノハ如何ナモノデアラウカト思ヒマスルデ、此處ハ矢張リ一ケ月トシテ置イテ、若シ後トデ改メルト云フ事ニシテ往ツタナラバ相當カト思ヒマス
梅謙次郎君
只今ノ高木サンノ御話ハ少シ事實相違ガアラウト思ヒマス、是迄ノ法律デ以テ週ヲ以テ期間ヲ定メタモノハナイトカ云フ事デアリマシタガ
高木豐三君
夫レハアル事ハアリマスガ、期間ノ計算法トシテ定メタルモノハアリマセヌ
梅謙次郎君
夫レハ商法ニアリマス、商法ノ破產ニ關スル所ノ千三十八條ノ第二項ニ「第一ノ集會ハ普通ノ調査會ヨリ四週日後ニ之ヲナス云々」トアツテ、卽チ週日ト云フモノヲ以テ期間ヲ定メテアリマス、夫レカラ又商法ノ第三百八條ニ「期間ヲ定ムルニ日數ヲ以テシタルトキハ其期間ノ末日ヲ滿期日ト看做シ週數、月數又ハ年數ヲ以テシタルトキハ最後ノ週、月又ハ年ニ於テ結約ノ日ニ應當スル日ヲ滿期日ト看做ス」トアリマス、斯ウ云フ事ガアリマスカラ序デナガラ申シマスガ、月ノ計算モ此處デハ週、年ト同ジヤウニシテアル、丸デ例ノナイ事デモアリマセヌカラ、夫レ丈ケ申シテ置キマス、夫レカラ先刻どなたカ誤解ガ有ツタカト思ヒマスガ、原案ニ「無能力者ノ相手方ハ其無能力者カ能力者トナリタル後之ニ對シテ二週日以上ノ期間内ニ云々」ト云フ事ガアリマスガ、此二週日以上ト云フ事ヲ能力者ニナリテヨリ二週日以上ト云フ事ニ若シヤ御讀ミニナル方ガ有リヤセンカト思ヒマスガ併シナガラ之ハ然ウ云フ譯デハアリマセヌ、能力者ニナツテカラ五年マデ、夫レ迄ノ間ハ何時デモこちらカラ二週日以上ノ時ヲ定メテ催告スルコトガ出來ルノデアリマスカラ念ノ爲メニ申シテ置キマス
横田國臣君
大概最ウ宜カリサウナモノト思ヒマスガ、一寸一言シテ置キマス、只今ノ問題ニ付テハ一ケ月トカ、或ハ四週間トカ三十日トカ云フコトニナツテ居リマスガ、之ハ二週間ト云フモノヲ延ベルト云フ事ヲ言ハレタ提出者モ唯ダ延ベサヘスレバ宜シイ然ウスルト此處ニ一ケ月ト書クト、又先キニナツテ其一ケ月ノ計算ノ仕方ニ依テ此處ヲ變ヘナケレバナラヌヤウニナル夫レハ變ヘテモ構ハヌガ、併ナガラ大岡君モ三十日ニシタイト云フ事デアリマシタガ、三十日ト極メテ置ケバ別ニ先キニ往ツテ變ヘルニハ及ビマセヌ、夫レデ暦デ算ヘル事ニスルト月ガ重ナツテ、七月トカ八月トカ云フ時デアレバ宜シイガ僅ニ一ケ月ト云フ事デアリマスカラ、若シ暦デ算ヘルト云フ事ニナルト三十日ニ足ラヌ時ガ出テ來マス、夫レデアリマスカラ兎モ角モ此處ハ別ニ提出者モ異論ノアルベキ事トモ考ヘマセヌカラ、三十日ナラバ三十日デ宜カラウト思ヒマス
磯部四郎君
私ハ一寸質問致シタウ御座イマスガ只今期間ノ事デ何カ旣成法典ニアルトカ法律ニ無イトカ云フ事デアリマスガ、是レハ矢張リ慣例ニ必ズ有ルトカ無イトカ云フ事デナケレバ法律ニ定メラレヌト云フ事デアリマスカ、大變議論ガアリマスガ一寸心得ノ爲メニ伺ヒマス
梅謙次郎君
夫レハ成ルベク慣例ノ文字ヲ用ヰヤウト云フ事ニナツテ居リマスカラ斯ウシタノデアリマス
議長(西園寺侯)
一寸淸浦君ニ御尋ネシマスガ淸浦君ハ今ノ三十日デ宜シイト云フノデアリマスカ
淸浦奎吾君
私ハ二週間ノ期限ヲ永メルト云フノガ趣旨デアリマスカラ三十日デ宜ケレバ三十日デモ宜シイ
大岡育造君
サウスレバ私ハ三十日ト云フ事ニ贊成シテ置キマセウ
土方寧君
一ケ月ト云フ事ハナクナリマシタカ
議長(西園寺侯)
阿部君ハドウデアリマスカ
阿部泰藏君
三十日デモ宜シウ御座イマスガ
議長(西園寺侯)
夫レデ先ヅ淸浦君ノ三十日ニスルト云フ說ニ贊成ノ諸君ハ起立ヲ請ヒマス
起立者多數
議長(西園寺侯)
多數デゴザイマス、夫レカラ末延君カラ一ノ修正說ガ出マシタガ是レニハ別ニ贊成ガナカツタヤウニ考ヘマス
田部芳君
私ハ此二十五條ノ三項ト云フモノハ別ニ一ノ箇條ニシタイト思ヒマス、卽チ三項ヲ別ナ箇條ニシテ其中ニ在ル「第一項ノ期間内ニ」ト云フノヲ「前條ノ期間内ニ」ト云フ事ニ修正シタイ考ヘデアリマス、夫レハ別ニ理由ハアリマセヌガ、元來此二十五條ハ成程一ツノ事デアルカラ一ノ箇條ニシテモ宜イヤウナモノデアリマスガ、餘リ永キニ過ギル樣デアリマスカラ、此箇條ヲ成ルベクナラバ最ウ少シ簡便ニ致シタイト考ヘマス、夫レニハ此第三項ト云フモノハ御承知ノ通リ始メノ第一項第二項トハ違ツテ、第一項第二項ハ無能力者ノ方デアリマスガ、第三項ハ上ノ無能力者トハ少シ違ウ、卽チ準禁治產者及ビ妻ト云フノデアリマス、夫レデ少シ違ヒマスカラ此第三項ヲ別ナ箇條トスル、所謂二十六條トシテ「第一項ノ期間内ニ」ト云フノヲ「前條ノ期間内ニ」ト更メタイト云フノデアリマス
箕作麟祥君
只今ノ御說ヲ贊成致シタウ御座イマスガ少シ御相談ガ御座イマス、夫レハ唯少シ條ガ變ハリマシテ「第一項」ト云フノガ「前條」トナリマスルト、いきナリ「準禁治產者及ヒ妻ニ對シテハ」トナリマスカラ、夫レデハ少シ突然ニナルヤウナ嫌ヒガ有リハシマスマイカ如何デ御座イマセウカ
田部芳君
私ハ別段主客ガ無クトモ差支ハナイダラウト思ヒマスガ、併シ御考案ガアラバ贊成致シマセウ
箕作麟祥君
私ノ考ヘデハ餘リ突然ノヤウニ思ヒマスカラ然ウナルヨリハ矢張リ之ヲ「準禁治產者及ヒ妻ニ對シテハ相手方ハ」ト云フヤウニシタナラバ宜カラウト思ヒマスガ如何デ御座イマセウカ
田部芳君
別ニ相手方ト云フ事ハ言ハヌデモ分カラウト思ヒマス同ジ事ニナラウト思ヒマスガ
議長(西園寺侯)
箕作君ハ田部君ノ說ニ贊成デスカ
箕作麟祥君
マア贊成ヲシテ置キマス
田部芳君
夫レデハ私ハ只今ノ贊成ヲ得マスル爲メニ少シク前ノ案ヲ更メタイト思ヒマス、卽チ「準禁治產者及ヒ妻ニ對シテハ其相手方ハ前條ノ期間内ニ於テ」ト改メタイト思ヒマス
箕作麟祥君
贊成ヲ致シマス、其理由ハ發議者ヨリ述ベラレマシタカラ別ニ申シマセヌガ如何ニモ此條ハ長過ギル樣ニ考ヘマスシ、又事柄モ第三項ハ別ノ事デアリマスカラ、旁以テ是ハ別條ニシタ方ガ宜イヤウニ考ヘマス
磯部四郎君
一寸質問致シマス、第二項ノ但書ニ「法律上ノ代理人」ト云フ事ガアリマスガ之ハ其立法ノ趣旨サヘ聞ケバ宜シウ御座イマスガ、夫レハ無限ニ何ンデモ許ス事ガ出來ルト云フ譯ニナリマスカ、法律上ノ代理人ニ限ツテハ權限内ト云フ事ガアリマスガ、第二項ノ初ヲ見レバ「夫又ハ法律上ノ代理人」ト云フ事ガ御座イマスガ、夫ハ無論法律上ノ代理人デナイト云フノデアリマセウカ、詰リ妻ノ動產不動產ヲ夫ガ處分スルニ於テハ此但書ノ下ニモ夫ト云フ文字ハ入リマスマイカ如何デ御座イマセウカ其趣旨ヲ伺ツタ上デ或ハ修正說ヲ出サウト思ヒマス
梅謙次郎君
御尤モノ御問ヒデアリマス、私共ノ看ル所デハ夫ハ無論法律上ノ代理人デモナイ、妻ハ他ノ無能力者ノ如ク智能ノ足ラナイ者デモ何ンデモナイ、唯夫ニ從フ義務ガ有ツテ重大ノ行爲ヲナスニハ夫ノ承諾ヲ得ル事ニナツテ居リマスカラ、妻ハ飽迄モ其事ヲナシタイト云フ意思ハアリマスガ、唯夫ノ許諾ヲ受ケヌト云フ事丈ケガ缺ケテ居ルノデアリマスカラ、如何ナル事柄デアラウガ、動產不動產ノ讓渡ノ行爲デアラウガ、夫ガ其レハ宜イト言ヒサヘスレバ宜イデ御座イマス
磯部四郎君
夫レハ立法ノ精神ナンデスカ
梅謙次郎君
左樣デ御座イマス
磯部四郎君
夫レデハ其時ニ往ツテ議論スレバ夫レデ宜シイ
議長(西園寺侯)
決ヲ採リマセウ、只今ノ田部君ノ發議ニ贊成ガアリマシタガ、是レニ贊成ノ諸君ハ起立ヲ請ヒマス
起立者少數
議長(西園寺侯)
少數、夫レデハモウ此條ハ確定ヲシタモノト認メマス、次ハ二十六條
(書記朗讀)
第二十六條 無能力者カ能力ヲ有スル旨ヲ明言シタルノミニシテ之ヲ信セシムル爲メ自ラ詐術ヲ用ヰタルニ非サレハ其無能力ニ因リテ其行爲ヲ取消スコトヲ妨ケス
田部芳君
私ハ此二十六條ト云フモノヲ削除スルト云フノ修正案ヲ提出致シマス、其理由ヲ申シマスレバ、此法文ニ據リマスレバ解釋上無能力者ガ若シ詐術ヲ用ヰタナレバ其行爲ヲ取消ス事ガ出來ナクナルト云フ事ノ趣意ニ歸スルデアラウト思ヒマス然ウ致シマスルト云フト無能力者ガシタ行爲ヲ取消ス事ガ出來ルト云フノハ卽チ無能力者ヲ保護スル趣意ニ違ヒナイ、所ガ若シ無能力者ガ惡イ事ヲシタナラバ其制裁トシテ其行爲ヲ取消サレヌヤウニナルト云フ一ノ罰ヲ設ケル事ニナル之ハ何ウモ奇ナ事デアラウト思フ夫レデ若シモ然ウ云フ事デアツテ無能力者ガ不正ノ行爲ヲナシテ相手方ニ損害ヲ加ヘルトカ云フ事デアツタナレバ則チ其原因ニ依テ相手方ガ損害賠償ヲスルト云フ所ノ規定ヲ他ニ設ケテ宜シイト思ヒマス、其事ヲ爲サズシテ無能力者ヲ保護スルト云フ趣旨ハ罰ノ爲メニ消ヘテ仕舞ウト云フノハ甚ダ不都合デ之デハ其意ガ充分貫徹セヌト思フ、夫レ故ニ此箇條ハ甚ダ能ク其趣旨ヲ貫ヌカナイ箇條デアラウト思ヒマス、夫レカラ又モウ一ツ此箇條ノ不完全ト思ヒマスル理由ハ此處ヘハ無能力者ノ事丈ケガアリマスルガ其他縱令バ此妻ダトカ或ハ準禁治產者トカ云フ者ガ保佐人ノ同意ヲ得タト云フ事ヲ詐術ヲ以テ人ヲ瞞マシタ時ノ制裁ガ御座イマセヌカラ、若シモ設ケルナレバ夫レヲ設ケテ置ク方ガ宜イト思ヒマスガ、併シ私ノ考ヘデハ夫レ迄ニ及バナイ、之レハ全クナクシテオイテ差支ハナイデアラウ、若シモ相手方ヘ損害ヲ加ヘタナラバ其原因ニ依テ賠償ヲ要ムルト云フ事ニシテ足リルト思ヒマス、然ルニ此無能力者ヲ保護スルト云フ趣意デ以テ拵ヘタモノヲ詐術ヲ用ヰタト云フ罰ノ爲ニ其保護ガ消ヘテ仕舞ウト云フ事ハ笑止クハアリマセヌカ、兎ニ角此二十六條ト云フモノノ全文ハ削除シテ置キタイト思ヒマス、其他相手方ヘ損害ヲ蒙ラシメタ時ハ何ウカト云フ事ハ夫レハ別ナ所デ以テ規定スベキガ必要ト思ヒマスカラ、此處ニ於テハ此條ハ全ク削除シテ置クガ宜カラウト考ヘマス
横田國臣君
田部君ニ御尋ネヲ致シマス、田部君ノ御趣意ハ詐術ヲ用ヰヤウガ、何ウシヤウガ矢張リ無能力者ハ無能力者トシテ取扱フ、卽チ取消サセルト云フヤウニスルト云フノデアリマスネ
田部芳君
左樣デ御座イマス
横田國臣君
然ラバ贊成致シマス
梅謙次郎君
只今二十六條ノ削除說ガ出マシタガ之ヲ削除シテハ、不都合デアルト考ヘマス、其理由ヲ申シマスル前ニ一言辯ジテ置キマスノハ此處デ無能力者ト云フカラ準禁治產者又ハ妻ハ這入ラヌデアラウト云フ事デアリマスケレドモ夫レハ少シ違ヒマス、成程無能力者ト云フ事ニ付テハ學者ニ依テ色々使ヒ樣ガアリマセウ、ケレドモ本案ニ於テハ矢張リ旣成法典ノ法ニ倣ツテ便宜ノ爲メニ限定能力ヲ有スル者モ倶ニ無能力者ト唱ヘテ居リマス、夫レデナケレバ未成年デアツタ所ガ矢張リ限定無能力者デアル、今提出者ガ準禁治產者ト無能力者トヲ別ニセラレタノハ如何ナル理由デアルカ殆ド了解ニ苦シムノデアリマス、或ハ前條ノ第一項ト二項トハ先刻ノ修正案ノ中ニモ然ウ云フ意味ガアツタヤウニ思ヒマスガ其時ハ別段辯ズル迄モナイコトト思ヒマシタケレドモ、只今ノ御論ニ據レバ愈々然ウデアルト云フ事ヲ發見シマシタ、固ヨリ限定能力者ヲ無能力者ト云フ事ハ惡ルイ、矢張リ限定能力者ト云フ事ハ勿論デアリマスケレドモ併シ是レ迄限定無能力者ト云フ者ハ完全ノ能力ノ無イ者デアル、卽チ此處ニ無能力者ト云フノハ勿論準禁治產者モ這入ツテ居ルノデアリマス、此規定ニ付テハ私共モ餘程考ヘマシタガ、矢張旣成法典ノ例ニ倣ツテ然ウ致シタノデアリマス、其譯ト云フモノハ如何ニモ田部君ノ御論ノ如ク、未成年トカ其外ノ理由デ以テ保護スベキモノデアルト云フ事デアル、妻ハ少シ理由ハ違ヒマスケレドモ兎ニ角保護スベキ者デアリマス、其保護スベキ者ガ成年デ法律ノ保護ヲ免カレルヤウナ所爲ガ有ツタカラト云ツテ、其罰トシテ保護ヲ取消ス事ハ何ウモ理窟ガ立タナイト云フコトデアリマスガ、罰トシテ其保護ヲ取消サレルト云フ事デアツタナラバ如何ニモ理窟ノ立タヌ事デアリマセウガ、之ハ然ウ云フ譯デハナイデアリマス、田部君ガ後トデ言ハレタ如ク、假令ヒ無能力者ト云ヒナガラ不正ノ行爲ヲナシタナラバ必ズ夫ヨリ生ズル損害賠償ヲスル義務ガアルト云フ事ハ羅馬法以來人ノ爭ハザル所デアツテ、無論是レハ田部君モ御聞キニナツテ居ル所デアラウト思フ、然ウナレバ田部君ノ御說ノ如ク之ヲ削ツテ置イテ不正ノ行爲ニ付テハ其責任ガ有ルト斯ウ云フ事ニナル、假令バ未成年者ガ或人ト契約ヲ結ブ、其時ニ未成年者ガ詐術ヲ用ヰテ自分ハ成年デ有ルト云ツテ契約ヲスル、然ウシテ後日ニナツテ其時自分ハ未成年者デアツタカラト云ツテ其契約ヲ取消ス、然ウスルト其契約ハ取消サルル、ケレドモ契約ヲ取消シタガ爲メニ第三者ニ與ヘタル損害ト云フモノハ不正行爲ノ損害賠償ト云フモノデ償ハナケレバナラヌ、損害賠償ト云ヘバ金デアリマスガ然ウスルト其賠償ヲ金ニ積ツテ償ハナケレバナラヌ、若シモ其損害賠償ト云フモノガ丁度契約ニ依テ第三者ノ得ベカリシ利益ト同ジモノデアルナレバ、夫レハ第三者ニ取ツテモ通常損ハナイ事デアルカモ知レマセヌ、ケレドモ實際損害ヲ金高ニ見積ル事ハ六ケ敷イ事デアツテ、動モスレバ其損害ト損害賠償ノ高ト合ハヌト云フ事ハ覺悟シナケレバナラヌ、加之ナラズ金高ニ見積ツテ極公平ノ損害ノ高ニナツテ居ツテモ、一體契約ニ付テハ何時モ金錢上ノミデアリマセヌカラ、夫レニ付テ無形ノ利益ヲ持ツテ居リマスレバ到底其損害ヲ免レル事ハ出來マセヌ、而シテ未成年者ニ取ツテ見ルト矢張リ賠償ハシナケレバナラヌト云フノデアリマスカラ、金錢カラ云フテ見レバ若シ損害ノ高ト賠償ノ高ガ同ジニ往ケバ未成年者ニ取ツテ損得ハアリマセヌ、若シ裁判所ノ判決ニ依テ實際ノ損害ノ高ガ多ケレバ損害ガ多イ、是レト反對ニ少ナケレバ無論損ガ有ル、然ルニ此不正ノ行爲ニ於テ得ヲスルト云フ事ハ縱令ヒ未成年者ト雖モ許スベキコトデハナイ、然ウシマスレバ一旦契約ノ取消ヲシテ置イテ夫レヨリ生ジタ損害ヲ償ハシムル樣ナ事ヲスルヨリカ、其損害ノ生ズベキ原因ヲナクシテ其時ハ取消サセヌヤウニシテ置ク方ガ却テ利益デアラウ、況ンヤ損害賠償ト云フモノニ付テハ未成年者ナリ何ナリ能力者ト云フモノガ能力ガ無クナツテ仕舞ウト仕方ガナクナツテ仕舞ウ、若シモ契約ヲ取消ス事ガ出來ナケレバ、其後ニナツテ無能力者ガ能力者ニナツテカラ取消スト云ツテモ第三者ガ損害ヲ蒙ル事ハナイ、夫故ニ旁々以テ此方ガ甚ダ以テ便利デアラウ且ツ最モ公平デアラウト云フ所カラ出來タ規定デアリマスカラ今日私ハ之ハ旣成法典ノ如ク存スル方ガ宜イト云フ考ヘカラ、此處ニ本條ヲ置キマシタ次第デアリマス
横田國臣君
私ハ贊成バカリシテ置キマシタガ贊成ガアツタナラバ起草委員ガ辯ズルデアラウト思ヒマシタカラ陳ベヌデアリマシタガ、只今起草委員カラ陳ベラレマシタカラ一言シテ置キマス、其處デ是レハ之レハ何ウモ削ツタ方ガ餘程道理ニモ適シ且ツ實際ニモ却テ宜カラウト思ヒマス、夫レハ無能力者ト云フ者ハ全體詰ラヌ事ヲスル者デアル、完全ノ智識ヲ具ヘナイ者デアル、夫故ニ保護ヲスル者デアル、卽チ智識ヲ具ヘヌ者デアルカラ何ンナ事ヲヤルカモ知レヌト云フ所デ斯ウ云フ保護ノ途ガ立ツテ居ルノデアル、夫レヲ詐術ジヤカラト云フテ取消サレヌトスルト取モ直サズ法律ガ無能力者ハ土臺詰ラヌ事ヲヤル者デアルト云フ事ヲ認メテ居ルニモ拘ハラズ、夫レヲ此處デハ斯ウ云フ場合ハ往カナイト斯ウ云フヤウニスルノト同ジデアル、今起草委員ガ辯ズルニハ或ハ損害ノ高ノ方ガ太イ樣ナ事モアル然ウスルト之レハ最早詐術ヲ以テヤツタ折リハ其契約ハ成立ヌモノデアルトスレバ、極簡便デハナイカト言ハレマシタガ、無論詐術デアルカラ己レハ然ウデナイ本統ニシタト其時分ニハ必ズ言フデアラウ、契約ヲ取消シテ然ウシテ自分ニ大變ナ賠償ヲシヤウト云フ事ハ必ズ言フマイト思ヒマス、夫レダカラ無論損害ノ方ガ多カツタ折ニハ此損害ハ別ノ損害デナイ、唯ダ嘘ヲ言ツタノデアルカラ自分ハ嘘デナイト云ヒサヘスレバ夫レデ後トデ何モ殘ル譯ハナイ、夫ジヤカラ損害ノ方ガ多イト思ヘバ其儘契約ヲ成立タタセレバ宜イノデ、夫レガ爲メニ斯ンナ細工然タルモノヲ作ルヨリハ寧ロ條理ニ依テヤツタ方ガ宜シイト思ヒマス
磯部四郎君
一寸起草委員ニ質問ヲ仕リマスガ、只今私ハ原案ニハ贊成ヲシマスルガ、立法ノ理由トシテ御述ベニナツタ事ニハ大變ニ迷ヒマス、何ウ云フ所ガ迷ヒマスルカト云フト、唯是ハ詐術ヲ用ヰタ時ニハ取消ス事ガ出來ヌト云フ丈ケノ意味合ヒノヤウニナルノニ、只今ノ御說明ニ據リマスレバ不正行爲ト云フ事ニナルト、若シ無能力者ガ暴行ヲ加ヘタ時モ亦タ同ジク不正行爲ニナルガ、又如何ニ無能力者デアラウトモ詐欺ヲ行ナツタ時ハ却テ相手方ノ方カラ未成年者ニ向ツテ詐欺ニ基ク事ヲ請求ヲシテ來ル事ガ出來ヤウト思ヒマス、シテ看レバ私ノ考ヘデハ原案ハ固ヨリ贊成スルノデアル、夫レト云フモノハ詰リ無能力者デアルノニ其法律ノ保護ヲ受クベキ無能力者ガ詐術ニ巧ミニシテ却テ能力者ヲ欺クヤウナ者迄モ法律デ以テ保護スルト云フ事ノ誤解ヲ來タスト云フ恐レモアラウト思ヒマス、故ニ若シ未成年者ニ不正ノ行爲ガアツテ第三者ニ損害ヲ蒙ラシメタ時ニハ第三者卽チ相手方ノ方ヨリ處分スルノ途ガ有ル、卽チ無能力者ニ向ツテ其損害ノ賠償ヲ要求スル權利ハ相手方ニアラウト思ヒマスカラ、只今御述ベニナツタ理由ハ此條ノ通リデアレバ詐術丈ケニハナルマイカト思ヒマス、又只今御述ベニナリマシタ所ニ據レバ相手方ガ如何ニ損害ヲ蒙ツテモ損害賠償ガ出來ナイト云フヤウナ御說明ニナツテ居リマスケレドモ、夫レハ案外至極ノ話デアル、夫レハ詐欺ヲ行ツテ若シ無能力者ガ損害ヲ受ケタナラバ無能力者ヲ保護シヤウシ、又無能力者ガ蒙ラシメタナラバ相手方ノ方ヲ保護シヤウト云フ事ニナリマセウカラ、其理由ノ所ヲ誤ラレタノデハアリマセヌカ、其處ヲ一ツ御聞キ申シタイ、私ガ考ヘデハ此場合ニ限ツテハ無能力者ヲ保護スル必要ハナイト云フ所カラ此條文ガ要ルデアラウト思ヒマスガ如何デアリマセウカ
梅謙次郎君
其理由ハ如何ナル理由デモ御贊成デアレバ私ノ大ニ滿足スル所デアリマス孰レ法律ノ理由ハ此處計リニハ限ラズ、各々違ツタ理由カラシテ贊成モシ又反對モスルノデアリマスカラ決シテ夫レハ構イマセヌ唯ダ私ノ申シタ事ハ只今磯部サンノ御述ベニナツタ御趣意トハ少シ違ツテ居リマス、此處デハ「無能力者カ能力ヲ有スル旨ヲ明言シタルノミニシテ之ヲ信セシムル爲メ自ラ詐術ヲ用ヰタルニ非サレハ」云々トアツテ、自分ガ無能力者デアルニモ拘ラズ却テ能力ヲ持テ居ルト云フ事ヲ信ゼシムルガ爲メニ詐術ヲ用ヰタ、假令ヘバ無能力者ガ嘘ノ出生證書ヲ持テ來タトカ、又ハ替玉ヲ使ツテ自分ヨリ背ノ高イ人ヲ使ツテ之ガ契約ノ本人デアルトカ何ントカ云ツテ詐術ヲ用ヰテ契約ヲ結ンダヤウナ場合ヲ云フノデアル、或ハ暴行モアルカモ知リマセヌガ、暴行ヲ以テ人ニ信ゼシムルト云フヤウナ事モ少シ事實上ニハ無カラウト思ヒマスカラ、夫レデ暴行ト云フ事ハ書イテハ惡イノデアリマス契約ヲ結ブガ爲メニ詐欺又ハ暴行ト云フモノヲ用ヰタノデナクシテ、無能力者デアルノヲ能力者デアルガ如クニ信ゼシムル爲メニ詐術ヲ用ヰタノデアル、夫レデ何故不正行爲ガ賠償ヲ生ゼシムルカト云ヘバ、己レガ無能力者デアルノヲ能力者デアルト云フ事ヲ信ゼシムルガ爲メニ詐術ヲ用ヰタ、卽チ能力者デアルト云フカラ第三者ハ之レト契約ヲシタ、所ガ一旦契約ヲシテ後日ニ至ツテ無能力者デアルカラト言ツテ夫レヲ取消シタトキニ、若シ夫レガ爲メニ第三者ニ於テ損害ヲ受ケタナラバ其賠償ヲ要ムル事ガ出來ル、夫レデ磯部サンバ尙ホ夫ヨリ外ニ損害ヲ生ズル事ガアツタナラバ夫レハ請求スル事ガ出來ルデアラウト云フ事ヲ言ハレマシタガ夫レハ勿論ノ事デアル、併シ若シ行爲ヲ成立タセタナラバ未成年者ガ成年者デアルガ如ク思ハシメタト云フ其詐術カラシテ多分ハ他ニ損害ヲ生ゼシムルト云フヤウナ事モ無カラウト思ヒマスガ、若シアツタラ無論賠償ヲサセナケレバナラヌ話デアル夫レカラ序ニ横田サンノ御論ニ付テ辯ジテ置キマス、横田サンハ詐術ト云フ事ニ付テ矢張リ私共ノ解シテ居ル所トハ少シ違ツタ解シ方ヲナサレテ居ラウト思ヒマス、無能力者ト云フモノハ法律ガ保護スルガ爲メニ無能力トシテアル、夫レハ何カナラバ詰リ不利益ナル事ヲヤル、不都合ナ事ヲヤル人間ト思フカラ保護スルノデアル、之ハ皆ニ付テ然ウ言ヘルカ何ウカ知レマセヌガ概シテサウ言ハレルデアラウ、ケレドモ不都合ト云フ事ハ自分ノ身ノ爲メニ不都合ヲ爲スト云フ事デアリマセウガ、詐術ヲ用ヰルガ如キ不正ノ行爲ト云フモノ迄モ保護スル事ニ見ルト云フ事デアレバ其不正行爲ト云フ事ニ付テ責任ノ無イト云フ事ニナランケレバナラヌ、夫レデ此不正行爲ニ付テハ責任ノアルト云フ事ハ勿論夫レハ無クテハナラヌ、假令ヘバ未成年者ト雖モ十八、九歳ニナツタ者ガ人ヲ擲ツタ、夫レガ爲メニ其人ガ家業ヲ休マナケレバナラヌ療治ヲシナケレバナラヌト云フ事ニナツテモ其損害ハ償ハヌデモ宜イト云フ事ハナイト思ヒマス、夫レト同ジ理窟デアラウト思フ、其處デ詐術ニ依テ損害ヲ加ヘル、詐術ト云フモノハ人ヲ欺クニ足リルモノ、又之ヲ用ヰルニ容易イモノデアル、今ノ例ニ申シタ如クニ段々充分ニ探ツテ見レバ分カルニ相違ナイケレドモ、此詐術ヲ以テスル所ノ年齡ニ付テハ分カリ惡イモノデアル、ダカラ第三者ガ欺カレ易イノデアル、然ウ云フ時ニハ第三者ヲ保護シナケレバナラヌ、夫レ故ニ此保護ハ双方共保護セラルルノデアリマスカラ、此法ガ公平デ宜イト思イマシテ規程ヲシタノデアリマス
大岡育造君
私モ此法文ヲ讀ンダ時ニハ至極御尤トモノヤウニ思ヒマシタガ、熟ラ考ヘルト削除說ニ同意ヲ表サナケレバナラヌト思ヒマス、何故カナラバ只今起草委員ノ御說明ヲ再度迄拜聽シマシタガ、要スルニ幼年者タリトモ詐術ヲ用ヰルニ至ツテハ保護スルノ途ヲ盡スニ及バヌ、卽チ夫レガ爲メニ不利益ガアツテモ取消ス事ガ出來ヌト云フ方ニ規定ヲ定ムル方ガ宜イト云フ斯ウ云フ御趣意ニ外ナラヌヤウデアリマス、換言スレバ元ト取消ス事ガ出來得ベキ所ノ不完全ナル所ノ契約モ幼年者ノ不正ナル行爲、詐術ノ爲メニ法律ハ完全ナルモノト認メル、斯ウ云フ事ニナル、幼年者ノ惡イ事ヲシタルニ依テ法律ハ之ヲ善良ナルモノト認メルト云フ判斷ガ下ルヤウニナリマス、若シ此論法ヲ用ヰレバ幼年者ガ惡事ヲ爲ス迄ニ進歩シテ居レバ保護スルニ及バヌ、然ラバ幼年者ガ犯罪ヲ犯シタル場合ニハ丁年者一般ノ能力者ト同ジ刑ヲ用ヰテモ差支ナイト云フノト何ンゾ擇ブ所アラヌダラウト思ヒマス、全體此民法ガ修正セラルルニ付テハ諸先生方ノ最モ研究セラレル上ニ於テ最トモ充分ナル最モ公平ナル理由ヲ採用セラルル事ト思フ、然ルニ幼年者ノ保護ハドノ法律デモ皆之ヲ努メル事ニ極マツテ居ルニモ拘ラズ、夫レガ詐術ヲ用ヰルト云フニ依テ、卽チ不正ナ行爲ガ有ルト云フ事ニ依テ法律ハ己レガ定メタル所ノ確カナル主義ヲ打消シテ却テ夫レト反對ナル、卽チ惡事ガアレバ不完全ナル契約モ有效トナルト云フガ如キ結果ヲ來スト云フ事ハ如何ニモ遺憾千萬ナル次第ナリト私ハ思ヒマス、デ之ガ爲メニ生ジタル所ノ損害ハ償フノ法ガアル、其償フノ法ノアル事ハ旣ニ起草委員モ認メテ居ラルル而已ナラズ之ヲ主張セラルルノデアル、旣ニ然レバ其惡事ハ以テ惡事トシテ之ヲ懲ラシムルノ法ヲ採ラレルガ宜シイ、是レ無ケレバ救濟ノ途ガナイト云フ場合ニハ或ハ一歩ヲ枉ゲルノ必要ガアルカモ知レナイガ、唯ダ僅ニ面倒デアル、損害賠償ノ事ハ甚ダ測ルニ難イモノデアルト云フノガ一ノ理由デアツタノデアリマス、夫レハ或ハ測ルニ難イ場合モアルカモ知レナイ、ケレドモ夫レガ難イカラト云フテ當テニナラヌモノナラバ損害賠償ヲ許サヌガ宜イ、併ナガラ旣ニ損害賠償ハ法律ノ上デ確カニ往ケルモノト認メテ進行シツツアル一ノ方法デ御座イマスルカラシテ、今日此法ヲ定メルニ於テモ卽チ損害ヲ加ヘタル場合ニハ賠償ノ方法ニ依テ其救濟ヲ爲スト云フ事ニ極メ置テ契約ヲ保護スル、幼者ヲ保護スルト云フ事ニ於テハ適當ナル理由ヲ以テセラルルノガ此上モナキ宜イ事デアラウト思ヒマス、要スルニ詐術ヲ助ケルノ結果ヲ以テ此法案ヲ生カス事ハ私ノ好マザル所、又本會ノ採ラレザルヤウニ願フ所デアリマスカラ結局此二十六條ヲ刪除スルト云フ事ニ同意ヲ表シマス
磯部四郎君
餘程此削除說ニ勢力ガアツテ私共モ如何ニモ心配ヲ致シマスルガ、一體、損害賠償ノ問題ハ決シテ此條ニハ關係ハアルマイト考ヘマス、勿論無能力者中ニ妻ト云フ字ガ含蓄シテ居リマスカラ夫レニハ少シ嫌ヒガアリマスルガ、要スルニ無能力者ト云フ者ハ取リモ直サズ人ニモ騙サレ易イカラ法律ガ保護スル、然ルニ斯ノ如キ無能力者デアリナガラ自分ガ能力者デアル如ク人ニ信ゼシムル丈ケノ詐術ヲ用ヰルニ巧ミナル人間モアル、然ウ云フ者ニハ一般ノ無能力者ヲ法律デ保護スルノ必要ハナイト云フヤウナ唯一ノ理由ヲ以テ斯ノ如キ條ガアルノデハナイ、損害賠償ノ埋合セノ爲メニ此條ガ存在シテ居ルノデハナイト思ヒマス、現ニ己レガ無能力者トシテ一般ノ無能力者ノヤウニ保護ヲ受ケテ居リナガラ、却テ詐術ヲ用ヰテ能力者ヲ欺クヤウナ事ニマデ智能ガ發達シテ居ルモノデアルカラ、夫レ等ノ者ニハ法律ノ保護ヲ要サヌト云フ一點ト、又若シモ詐術ヲ用ヰタルガ爲メニ或ハ相手方ニ損害ヲ加ヘル事ガアレバ夫レハ此條文内デ詐欺ニ依テ損害ヲ及ボシタ者ハ夫レヲ償ハナケレバナラヌ、或ハ詐欺抔ガ進ンデ居レバ却テ相手方ノ方カラ請求シテ來ルト云フ樣ニ御定メニナルデアリマセウ、決シテ問題中ニ損害ガアレバ賠償セシムル事ハ面倒ダト云フ所カラ此法文ヲ置カナケレバナラヌト云フ理由デハナイ、然ウ云フ次第柄デアリマスカラ此條文ハ何處迄モ此處ニ置カナケレバナラヌ、夫レデ全ク損害賠償ノ問題ヲ混淆シテ此法文ノ理由ヲ御說明ニナツタノハ少シク遺憾千萬ノ事ト私ハ考ヘマス
山田東次君
私ハ只今着席ヲ致シマシテ如何ナル議論ガ出マシタカ存ジマセヌガ、私モ此二十六條ハ存シテ置ク方ガ至當デアラウト考ヘマス、併ナガラ聊カ文字ヲ修正シタイ考ヘデアリマス、何ウモ此處ニ案トシテ御廻ハシニナツテ居ルノデハ誠ニ講義録ノ拔書キヲシタヤウナ景況ガアリマシテ如何ニモ面白クナイト思ヒマスカラ、斯ウ云フ風ニ修正致シタイト考ヘマス、「能力者カ詐術ヲ用ヰテ能力アルコトヲ信セシメタルトキハ其行爲ヲ取消スコトヲ得ス」ト云フ事ニシタイ、詰リ明言シタルノミデハ徃ケナイト云フコトハ詐術デナイカラ徃ケナイト云フヤウナ解釋ニ過ギナイノデアラウト思ヒマス、唯ダ詐術ヲ用ヰテヤツタ時ニハモウ能力ガアルヤウナ事ヲ相手方ニ信ゼシメタ時ニハ其行爲ハ取消ス事ハ出來ナイ、其詐術ノ如何ハ事實ノ問題デ裁判官ノ判定ニ任ズルノデアリマスカラ、法律ハ詐術ヲ用ヰテ能力アルヤウニ信ゼシメタル時ハ取消ス事ガ出來ナイト云フヤウニシテ置ケバ宜シイ、夫レデ別ニ趣意ニハ變ハリハアリマセヌガ、私ハ文章ノ修正丈ケヲ致シタイデアリマス
岡村輝彦君
只今提出ニナツタ修正案ハ丁度私モ出サウト思ツテ居ツタ通リノ案デアリマスカラ贊成ヲ致シテ置キマス、併シ是レハ啻ニ文字計リデナク起草者ノ意トハ大變ニ違ツテ居ル、起草者ノ趣意ハ唯ダ能力ニ付テ明言ヲシタ時丈ケヲ言フノデアツテ其外ノ事デアツテハ這入ラヌト云フ御趣意デアル、起草者ノ方ノ趣意ハ能力以外ノ事デ詐術ヲ用ヰテモ其場合ハ別デアルト云フヤウニ私ハ解シテ居ル、若シモ私ガ解シテ居ルノガ間違ヒデアレバ御直シヲ願ヒマスガ、先刻ノ御說明ニ據レバ能力ガ有ルト云フ事ニ付テ詐術ヲ用ヰタ場合ハ取消ス事ガ出來ヌケレドモ、能力ノ外ノ事ニ付テ詐術ヲ用ヰタ時ハ此中ニ這入ラヌト云フヤウニ聽キマシタガ、果シテ然ラバ何故能力ノ別ノ事ヲ規定セヌノデアラウカ、獨リ能力ノミナラズ其行爲全般ニ付テ、其他ノ事柄ニ付テ詐術ヲ用ヰル位ノ智力ノアルモノナレバ均シク其行爲ハ何ウアツテモ之ヲ取消ス事ガ出來ヌト云フ樣ニシテ置クガ穩當ト思ヒマス、今一ツハ此條ハ元來取消ス事ガ出來ルト云フノガ一般ノ趣意デアル、詰リ取消ス事ガ出來ナイト云フ例外ヲ其目的トシテ居ラヌ條ト思ヒマス、然ルニ此文言ニ據レバ然ウハ見ヘナイ、唯ダ取消ス事ガ出來ナイト云フ事ハ「詐術ヲ用ヰタルニ非サレハ」ト云フ文言ノ中ニ含マシテ然ウシテ取消ス事ガ出來ルト云フ事ヲ規定シテ居ルノハ抑モ其主眼トスル目的ヲ大變ニ誤ツテ居リハセヌカト思ヒマス、夫レ故ニ此條ノ事ハ總テノ場合ニ於テハ取消ス事ハ出來ルケレドモ斯ウ云フ時ニハ出來ナイト云フ事ガ眼目デアレバ何處迄モ其趣意ヲ明確ニ擧ゲルノガ最モ必要デアラウト思フ、而已ナラズ此條ハ人ガ讀ンデ見テ迷ヒ易イノデアリマス、卽チ「無能力者カ能力ヲ有スル旨ヲ明言シタルノミニシテ」ト云フ事ガ一ニ此條ノ眼目ニデモナツテ居ルヤウニ見ヘル、又普通ノ極マツタ詐術ハ無論之レハ取消ス事ハ出來ルケレドモ唯ダ明言丈ケデハ徃ケナイゾト云フ事ヲ示ス爲メニ拵ヘタヤウナ條ニモ見ヘル、明言ト云ツテモ色々アル、口デ言フノモ文字デ書クノモ手紙デ言フノモ同ジデアル、併シ先刻言ハレタ所ノ「詐リノ」ト云フヤウナ場合ニハ或ハ詐術ニナルカモ知レマセヌガ、其詐術云々ト云フ事ニナルカナラヌカト云フ事ハ一ニ裁判官ノ判定ニ任カスベキ事デアル、夫レデ明言位ハ宜イゾト書イテ置クノハ誠ニ立法者ガ人ヲ誤ラシムル事ニナルト思ヒマスカラ「明言」云々ト云フ事ハ徃ケナイト考ヘマス、之ヲ要スルニ本條ノ目的トシテ規定スル眼目ハ何カナレバ取消ス事ガ出來ナイト云フノガ眼目デアル、然ウシテ詐術ヲ用ヰルト云フノハ唯ダ獨リ能力ニ付テノ詐術ノミニ拘ハラズ一般ニ擴メタイト云フ趣旨デアリマス、然ウシテ取消ス事ヲ得セシムルト云フ事ニ付テハ旣ニ充分辯論モアリマシテ私モ其說ニ同意デアル、詰リ此修正ハ單ニ文字ノミダト云ハレマシタケレドモ獨リ文字ノミナラズ意味ニ於テ大改正ヲナス事ニナリハシナイカト思ヒマス
横田國臣君
先刻磯部君ハ人ヲ欺クヤウナ者デアルカラ然ウ云フ者ニ付テハ法律ハ保護スルニハ及バヌト云フ事ヲ言ハレマシタガ、私ハ夫レニハ何ウモ甚ダ感服シナイ、其感服シナイ所以ト云フモノハ、之ハ只今岡村君ノ言ハレタル通リ、無論能力ト云フ事ニ付テ詐術ヲ用ヰタ、其實ハ何ウカナレバ孰レこちらカラ取消ス場合デアレバ唯ダ金ヲ使フ爲メニ、何ウカシテ使ウ爲メニ、夫レニ付テ自分ガ無能力者デアルニ無能力デナイヤウニ言ツテ、然ウシテ金ノ高キモノヲ安クシタト云フ樣ナ場合ニ生ズルモノデアラウ、然ウ云フ者ハ救フベキ者デアツテ、決シテ唯ダ詐術デアルカラ大變惡イヤウニアルケレドモ外ノ詐欺取財トカ何トカ云フヤウナ事ヲヤツタ場合トハ違ウ、元トハ其爲シタ所作ガ損ヲシテ居ル、夫レヲ後カラ取消スノデ御座イマセウカラ、決シテ然ウ云フ場合ヲモ取消ス可ラザルモノトスルノハ無理ナ事ト思フ、夫レカラ今山田君カラモ出マシタガ、夫レモ一寸御尤モノヤウニ聞ヘマスケレドモ、若シ然ウ云フ風ニスルナラバ唯ダ詐術計リデハ往カヌ、不正ノ行爲ハ悉ク然ウ言ハナケレバナラヌ、こちらカラヤツタ場合ニハ必ズ取消ス事ガ出來ヌ、詐術計リデナイ、又外ノ不正ナ事ヲヤツタ場合ニハ悉ク取消ス事ガ出來ヌト云フ事ヲ此處ニ書カネバ其意味ヲ盡ス事ガ出來ヌト思フ(此時(山田東次君)「私ハ然ウ云フ事ハ言ハヌノデ御座イマス」ト呼ブ)夫レデ私ハ其說ニハ贊成スル事ハ出來マセヌ
磯部四郎君
山田君ハ「明言シタルノミニシテ」ト云フ事ヲ削ルト云フ事デ御座イマスガ、之ハ相成ルベクハ然ウナクシタイ、併ナガラ削除說ヨリハ甚ダシイ害ハアリマセヌケレドモ餘程害ガアラウト思フ、何故カナラバ隨分此法律抔ト云フモノハ沿革ガ大變ナ勢力ヲ持ツモノデ、旣ニ此「成年ナル事ヲ明言シタルノミニテ」ト云フ事ハ佛蘭西ノ法文ニモアリマスシ其他ノ法律ハ能ク知リマセヌガ、旣成法典ニモ現ニアリマス、然ルヲ此處デ削ツテ仕舞ツテ單ニ無能力者ガ能力ヲ有スルヤウナ事ヲ信ゼシムル爲メニ詐術ヲ用ヰタル事ノミニシテ置テ「明言シタルノミ」ト云フコトヲ削ルト云フト、明言モ亦タ簡單ナル詐術ニ違ヒナイ、然ウスルト却テ然フ云フ事迄モ卽チ取消ス事ヲ得ザル方ノ所謂詐術ノ中ニ籠ツテ居ルカラ削ツタノデアルト云フヤウナ疑ヒヲ生ズルカラ、矢張リ大體ノ趣意ニ於テ差支ヘナイナラバ何處迄モ原案ノ通リニ差置カレン事ヲ希望致シマス、大體ノ趣旨ハ旣ニ山田君並ニ岡村君モ御贊成下スツテ誠ニ難有イ次第デアリマス、然ルニ是レ丈ケ御削リニナツテハ實ニ歎ハシイ話デアリマス
山田東次君
只今磯部君ハ沿革ト云フヤウナ事ヲ言ハレマシタガ、成程之ハ佛蘭西ノ民事抔ニハ書イテアリマシタカラ、佛蘭西デ今俄ニ之ヲ削ツタナラバ何ウ云フ譯デ削ツタカト云フ譯デ疑ヒモアラウト思ヒマスガ、日本ノ旣成法典ト云ツテモ未ダ實施ニハナツテ居リマセヌガ、アレニモアリマスケレドモ、今迄裁判所デ適用シテ來タト云フ譯デモナイカラ沿革ト云フ事ニハ餘リ御心配ハ要ルマイト思ヒマス、詰リ詐術ト云フ事ハ裁判官ノ認定ニ委ネテ置タ方ガ宜カラウト思ヒマス、何レ程ノ範圍ガ詐術カト云フ事カ夫レハ裁判官ノ認定ニ任カス事ガ相當ノ事デアラウト思フ、決シテ然ウ云フ御心配ハ要ラヌト考ヘマス、願クバ沿革論ハ御引戻ニナルヤウニ希望シマス
田部芳君
私ガ削除說ヲ出シマシタ所ガ大分反對論モ現ハレマシタケレドモ、旣ニ私ノ申立ツタ通リ卽チ罰トシテ法律ガ與ヘタ所ノ保護ヲ或ル一方カラ取ルノハ穩カデナイト云フコトハ起草者自身ニ於テモ是認セラレテ居ル、其考ヘニ於テハ同意見デアル、併ナガラ起草者ノ言ハレルニハ損害賠償ノ點ニ付テハ斯ウ云フ風ニシテ置ク方ガ宜シイト云フ事デアリマシタガ、併ナガラ夫レハ却テ正當ノ損害賠償ヲ相手方ニ與ヘルト云フコトニハナルマイト思ヒマス、場合ニ依テハ契約上非常ノ損害ヲ受ケルト云フヤウナコトモアラウガ、夫レハ別ニ取レヌ事モアリマスマイケレドモ、併ナガラ夫レハ筋途ガ違フト思フ、夫レハ不正ノ損害トシテ、卽チ相手方ガ損害ヲ受ケタナラバ夫レハ不正ノ損害ト云フ事デ別ニ請求スルガ至當ナ話デアル、夫レデ其原則ヲ認メタナラバ此處ニ夫レ丈ケノ事ヲ置クノ必要ハナイ、一般ノ規程ニ依テ足リルデアラウト思フ、夫レカラ又起草者ノ言ハルルニハ、何ウモ損害賠償ヲ求メルトシテモ宜イガ其賠償ノ額ヲ定ムルニ付テ困難ナ事デアルト言ハレマシタガ、夫レハ成程或主義ノ如ク金錢上ニ積ル事ノ出來ナイ場合デアレバ夫レハ損害ニハナラナイト云フヤウナ主義ヲ採レバ宜イガ、併ナガラ裁判官ニ全權ヲ與ヘテ縱令ヒ損害賠償ハ金錢上ニ積レヌ事デアツテモ無論裁判官ニ一任シテ相當ノ物ヲ與ヘルト云フ事ニスル、卽チ不正行爲ノ損害賠償トシテ夫レヲ渡セバ宜シイ、然ウスルト却テ適當ノ損害賠償ヲ求ムル事ガ出來ヤウト思ヒマスカラ、是レハ何處迄モ削除ヲ望ミマス
議長(西園寺侯)
モウ大抵議論モ盡キタヤウデスカラ決ヲ採リマス、削除說ガ本案ニ遠イト思ヒマスカラ削除說カラ採決シマス、田部君ノ削除說ニ贊成ノ方ハ起立ヲ請ヒマス
起立者少數
議長(西園寺侯)
少數デゴザイマス、次ニ山田君ノ修正說ニ贊成ノ方ハ起立ヲ請ヒマス
起立者少數
議長(西園寺侯)
少數デアリマス
田部芳君
私ハ削除說ヲ出シマシタガ少數デ消滅致シマシタ、依テ勢ヒ此原案ノ旨趣ヲ採用スル事ニシナケレバナラヌガ、原案ノ旨趣ヲ存スルコトニシテモ文章ニ修正ヲ加ヘタイト思ヒマス、其文章ハ「無能力者カ能力ヲ有スル旨ヲ明言シタル時ト雖モ無能力ニ因リテ其行爲ヲ取消スコトヲ妨ケス但能力者ナルコトヲ信セシムル爲メ自ラ詐術ヲ用ヰタルトキハ此限ニ在ラス、」斯ウ云フ樣ニ修正ヲ致シタイト思ヒマス
土方寧君
然ウスルト詰リ詐術ヲ用ヰタトキニハ取消スコトガ出來ナイト云フ原則ニ戻ツテ往クノデアリマセウカ
田部芳君
私ノ考ヘマシタノハ或ハ原案者ノ趣意ヲ誤解シタカモ知レマセヌガ、私ノ解釋ニ據リマスレバ此原案ノ旨趣ハ唯ダ自身ニ能力ガアルト云フコト丈ケヲ云フタ丈ケデハ縱令ヒ夫レヲ云フタトテモ矢張リ無能力者ハ取消ス事ガ出來ルゾ、併シ詐術ヲ用ヰタトキニハ格別デアルゾト云フ旨趣デアラウト思ヒマス、夫レダカラ明言シタルノミデ詐術サヘ用ヰナケレバ行爲ノ取消ハ出來ル、併ナガラ若シ無能力者自ラガ能力者デアルト云フ樣ナ詐術ヲ用ヰタトキハ格別デ、其時ハ取消ス事ガ出來ナイト云フノガ第二段ニナツテ居ラウト思フ、趣意ハ明言シタルノミデハ往カヌト云フノ趣意デアリマス
議長(西園寺侯)
田部君ノ修正說ガアリマシタケレドモ贊成者ガナイヤウデ御座イマス、本案ハ最早之デ確定ト認メマス、暫時休憩致シマス
午後六時五十分休憩
休憩後午後七時十五分開議
議長(西園寺侯)
是ヨリ議事ヲ開キマス
(書記朗讀)
第三節 住所
第二十七條 各人ノ生活ノ本據ヲ以テ其住所トス
議長(西園寺侯)
別段ニ御發議ガナケレバ次ノ條ニ移リマス
(書記朗讀)
第二十八條 住所ノ知レサル場合ニ於テハ居所ヲ以テ住所ニ代用ス
高木豐三君
此前條ノ住所ニ付テハ議論ガ出樣ト思ヒマシタガ別ニ出ズニ仕舞ヒマシタ、私ハ此二十八條ニ於テ主査會ニモ一寸述ベタノデアリマスガ、「住所ノ知レサル場合ニ於テハ居所ヲ以テ住所ニ代用ス」トアル、是レハ卽チ旣成法典ニモ矢張リ同樣ノ文字ガ用ヰテアルノデアリマスガ、何ウモ「住所ニ代用ス」ト云フ辭ガ穩カデアルマイカト考ヘル、何故カト申スノニ、代用スルト言ヘバ私ノ考ヘデハ住ンデ居ル者ガ代用スルト云フナレバ辭ガ通ズルガ、誰ガ代用スルノデアルカ、代用ト云フ働キノ辭ガ甚ダ可笑シイト思フ、併シ私ハ日本人デアリナガラ日本文ヲ能ク知ラヌノデアリマスガ、幸ヒ今晩ハ小中村サンガ御出ニナツテ居リマスガ、是レハ何ントカ改メヤウノナイモノデアリマスカ、私ノ考ヘデハ「居所ヲ以テ住所ニ代フ」トカ何ントカ云フヤウニナツタラ何ウカト思ヒマスガ
議長(西園寺侯)
只今ノハ修正案ヲ御提出ニナルノデアリマスカ、將又唯俗ニ謂フ御こぼしニナルノデアリマスカ如何デアリマス
高木豐三君
御相談ノ方デアリマス
議長(西園寺侯)
御相談ハ御免ヲ蒙リタイ
高木豐三君
夫レデハ「住所ニ代フ」ト云フ修正案ヲ出シマス
中村元嘉君
私ハ「居所ヲ以テ住所ト看做ス」ト云フ修正案ヲ出シマス
大岡育造君
贊成致シマス
磯部四郎君
只今高木君ノ說ガ出マシタケレドモ是レハ「代用ス」デナイト往ケヌト思ヒマス、誰ガ代用スルノカト云ヘバ詰リ法律ガ代用スルノデ一々法律ガ住所ノ知レザル場合ハ居所ヲ住所ニ代用スト云フコトハ書カヌデモ分カツテ居ル、又「看做ス」ト云フ說モ出マシタガ此「看做ス」ト云フ事ハ假リノ辭デアル、是レハ詰リ法律ノ效用ヲ全カラシムル爲メニ住所トスルト云フコトデアリマス、併ナガラ何處カニ住所ガ有ルカ知レヌガ兎ニ角住所トスルト云フノデアリマス、故ニ「看做ス」ト云フヨリカ力ヲ強メテアリマスカラ、是レハ矢張リ原案ノ通リデナケレバ往カヌト思ヒマス
岡村輝彦君
私ハ「住所トス」ト云フ事ニ致シタイ
大岡育造君
是ハ格別議論ヲ費ス程ノ事デハゴザイマセヌガ、私ハ「代用ス」ト云フ文字ヲ「看做ス」ト云フ文字ニ替ヘルコトニ贊成ヲ表スル者デゴザイマス、今磯部君ハ「看做ス」ト云フ場合ニハ何處カ有ルデアラウガ云々ト假定スルノデアルカラ甚ダ弱イトカ不充分デアルトカ言ハレマシタガ元來之ハ何處カニ在ルカモ知レナイ、ケレドモ夫レガ知レナイカラシテ一時之ヲ假ニ使フノデアル、代用ト云フテモ矢張リ假リニ使フノデ、其辭ガ稍々穩カナラヌカラ之ヲ避ケル爲メニ「看做ス」ト云フ事ニ致シタイ、是等ノ文字ハ平生法律ノ文字ニ使ヒ慣レタル文字デゴザイマスルカラ、願クハ「看做ス」ト云フ修正案ガ成立タンコトヲ希望シマス
議長(西園寺侯)
決ヲ採リマス岡村サン幷ニ高木サンノ發議ガアリマスガ贊成ガゴザイマセヌニ依テ消滅致シマス、只今中村さんノ御說ニ贊成ガゴザイマシタカラ之ヲ採リマス、是レニ贊成ノ方ノ起立ヲ請ヒマス
起立者少數
議長(西園寺侯)
少數デアリマス、外ニ御發議ガナケレバ次ノ條ニ移リマス、二十九條
(書記朗讀)
第二十九條 日本ニ住所ヲ有セサルモノハ其日本人タルト外國人タルトヲ問ハス日本ニ於ケル居所ヲ以テ住所ニ代用ス但法例ノ定ムル所ニ從ヒ其住所ノ法律ニ依ルヘキ場合ハ此限ニ在ラス
箕作麟祥君
私ハ本條ニ修正ヲ加ヘル積リデアリマス、夫レハ但書ノ所デアリマス、本文ハ此儘デ宜シイ、「但法例ノ定ムル所ニ從ヒ」云々ト云フノヲ「但法律ニ特別ノ規定アルモノハ此限ニ在ラス」ト改メタイ、其理由ハ二ツアリマスガ其一ハ原案ニ依リマスト「法例ノ定ムル所ニ從ヒ其住所ノ法律ニ依ルヘキ」云々ト云フ事ガアリマスガ、法例ト云フモノハ何ウナリマセウカ、何レ吾々委員等ニ於テ卽チ規定スルモノデアラウト思ヒマスガ併シ今日發布シテアル所ノ法例ノ通リニ果シテナルヤ否ヤ、之ハ多少修正セラルルモノデアラウト思ヒマス、之ハ起草委員諸君ト雖モ必ズ今日發布シタ儘デハ御滿足ニナルモノデハアルマイト思ヒマス、又縱令ヒ起草委員諸君ガ此儘デ宜シイト言ハレタ所ガ他ノ諸君ニ於テ此儘デハ往カナイト云フ方モアラウト思ヒマス、詰リ今日ノ法例ト云フモノモ他日多少ノ修正ヲ經ルモノデアラウト思ヒマスカラ今日カラ此民法ノ文ニ「法例ノ定ムル所ニ從ヒ」云々ト云フヤウニスルト其通リニスルト云フ嫌ヒガアリマスカラ修正スルノデアリマス、今一ツハ「法例ノ定ムル所ニ從ヒ」ト云フ事ハ今日發布ニナツテ居ル所ノ法例第八條ヲ言ハレタモノデアラウト思ヒマスガ、此法例ノ第八條ニハ「本國法ヲ適用ス可キ諸般ノ場合ニ於テ何レノ國民分限ヲモ有セサル者又ハ地方ニ依リ法律ヲ異ニスル國ノ人民ハ其住所ノ法律ニ從フ」ト云フ事ガアリマスガ是ヲ受ケタ事ト思ヒマス、扨此書キ方ガ「法例ノ定ムル所ニ從ヒ其住所ノ法律ニ依ル可キ場合」トアル場合ト云フ事ト又法例ノ八條ニ書イテアル「本國法ヲ適用ス可キ諸般ノ場合」ト云フ場合トハ違フノデ、此草案ニ書イテアル「場合」ト云フ事ト法例ノ八條ニアル「諸般ノ場合」ト云フノトハ同ジモノデナイト思ヒマス、而シテ法例ノ八條ガ今日發布セラレタ儘ニ極マツタナラバ場合ト云フ事ガドチラニモアルガ、其場合ト云フ意味ガ各々違ツテ居ルト思フノニどちらモ同ジ事ノヤウニ見ヘル樣ナ嫌ヒモアル樣ニ思ヒマス、是ハ何ウモ不分明ナ事ニナルト思ヒマスカラ、然ウ云フ不分明ナ事ヲ書イテ置クノハ宜クナイト云フ理由デアル、詰リ繰リ返スヤウデハアリマスガ、一ノ理由ハ法例ガ未確定ノモノデアル、又一ノ理由ハ縱令ヒ夫レガ其通リニ極マルニシテモ、何ウモ此法例ノ八條ニアル場合ト原案ニアル場合トハ意味ガ違フダラウ、頗ル疑ハシイカラ宜シクナイ、故ニ之ヲ「法律ニ特別ノ規定アルモノハ此限ニ在ラス」トシテ置ケバ、縱令ヒ法例デ何ウ極マラウガ萬一法例ノ外ニ其他ノ法律ヲ以テ極メル事ガアツテモ、「日本ニ於ケル居所ヲ以テ住所ニ代用ス」ト云フ事デハ不都合ト云フ事ヲ法例ノ外ニ極メル事モナイトモ云ヘマセヌ、法例ガ如何ニ變ハラウガ斯樣ニシテ置ケバ差支ナイ事ニナルト考ヘマス、デアリマスカラ只今申シタ樣ナ案ニ修正シタイト思ヒマス
磯部四郎君
箕作君ノ修正案ニ贊成ヲ致シマス
末延道成君
私ハ別段ニ修正案ヲ提出致シマス、夫レハ「其日本人タルト外國人タルトヲ問ハス」ト云フ十七文字ヲ削除スルト云フ案デアリマス、矢張リ日本ニ住所ヲ有セザルト云フノデ、日本人ト外國人ト言ハズシテ分カラウト思ヒマスカラ、「日本ニ住所ヲ有セサル者ハ日本ニ於ケル居所ヲ以テ住所ニ代用ス」トシテ但書以下ハ總テ削除シタイ、全體但書ヲ置カレタノハ現行ノ法律ニモ牴觸スルシ亦之カラ後ニモ牴觸スル法律ガ出樣カラ此處ヲ斯ウ書イテ置クト云フノデアルカ知リマセヌガ、何ウモ今日以後ニ出ル法律ニ牴觸スルコトガアルカモ知レヌト云フノデ斯ウ云フ事ニ書クト云フ事ナラバ各條皆「此限ニ在ラス」ト書イテ置カナケレバナラヌト云フ事ガ起リマセウ、又茲ニ記載シテアル事柄ハ法律ノ適用何如ト云フ事ヲ但書ニ書イテアツテ、本文ノ方ハ「住所ヲ有セサル者ハ居所ヲ以テ住所ニ代用ス」ト云フ事デアツテ、一向居所ノ法律ヲ住所ニ適用スルトカ或ハ住所ノ法律ヲ居所ニ適用スルトカ云フ事デナクシテ別段ノ事ガ書イテアルヤウデアリマスカラ、此但書ヲ削リ尙ホ「其日本人タルト外國人タルトヲ問ハス」ト云フノヲ削除シタイ意見デアリマス
穗積八束君
私モ場合ニ依テ今ノ末延サンノ說ニ贊成シタイト思ヒマスガ一寸起草委員ニ御尋ネ申シタイ、分カツテ居ル樣ニ書イテアリマスケレドモ、此「日本人タルト外國人タルトヲ問ハス」ト云フ事ハ無論日本ニ居ル者デ外國人デナイ者ハ皆日本人ぢやト云フ事ニ解釋ヲシテ宜イダラウト思ヒマスガ、果シテ然ウデアリマスカ起草委員ニ伺ヒマス
梅謙次郎君
只今ノ御問ヒハ外國人デナイ者ハ日本人、日本人デナイ者ハ外國人デアルカト云フ御問ヒデアリマスカ
穗積八束君
然ウデゴザイマス
梅謙次郎君
夫レハ無論然ウデアリマス
穗積八束君
夫レナレバ私ハ削ツテ宜シイト思ヒマス、普通日本人タル資格ハ別ノ法律デ定マルト云フ事デアリマセウカラ、何ウ云フ資格ト云フモノガ日本人ノ分限ニナルカ知レマセヌガ、通常何レノ國籍ニモ這入ラヌ者トカ法例ニモ何レノ國籍ヲモ有セザル者ト云フヤウナコトガアリマスカラ、一寸人ガ疑ツテ日本人デモナイ、英吉利人デモナイ、佛蘭西人デモナイ、亞米利加人デモナイト云フ事ガ有ル場合ニハ矢張リ迷ハレルヤウナ感覺ガ生ジマスカラ、是ハ寧ロ除テ仕舞ツタ方ガ宜イカト思フ、私ハ「其日本人タルト外國人タルトヲ問ハス」ト云フ事丈ケハ削除スル、夫レカラ又但書ノ方ハ少シ勘考シタイト思ヒマス
議長(西園寺侯)
然ウスルト贊成デハアリマセヌカ
穗積八束君
左樣
山田東次君
一寸今ノハ聞キ兼ネマシタカラ質問致シマスガ、然ウスルト何ンデスカ、何處ノ國ノ者デモナイト云フ者ガアラウガ、夫レハ外國人ト云フ辭ノ中ニ總テ這入ツテ居ルト云フ御積リデゴザイマセウカ
梅謙次郎君
左樣デアリマス、卽チ日本人デナイ者ハ皆外國人ト看做スノデゴザイマス、只今但書ニ就テ削除ト修正トノ御論ガ出マシテ其理由ハ提出者カラ委シク御陳ベニナリマシタガ、箕作さんハ但書ヲ改正スルト云フ事デアリマス、又末延さんカラ削除ト云フ說ガ出マシテ贊成ハアリマセヌケレドモ、其御辭ノ中ニアツタ事ハ但書改正ノ御論ノ御方ニモ主査會ノ方ニハアツタカラ序デニ其事ヲモ辯ジテ置キマス、「其日本人タルト外國人タルトヲ問ハス」ト云フ事ハ離シテハマダ贊成ニナツテ居リマセヌカラ按ニハナツテ居リマセヌケレドモ、是レハ些細イナ事デアリマシテ、此方ガ一層明瞭デアルトカ然ウデナイトカ云フ丈ケデ格別辯ズル必要モアリマセヌ、私共モ始メハ然ウシテ見マシタガ斯ウシタ方ガ一層判然シテ宜イカト思フテ書イタノデアリマス、又此法例ト云フ文字ヲ此處ニ入レルノハ吾々ニ於テモ嫌ツタノデ何ウカ避ケル工夫ガアルマイカト思フテ種々考ヘタノデアリマスガ、何ウモ避ケル工夫ガ六ケ敷イ、去レバト云フテ之ヲ削ツテ仕舞ツテモ差支ニナラヌケレバ夫レモ宜シイガ削ツテ仕舞ウ譯ニモ往キ兼ネルト思フノデアリマス、只今箕作さんノ御說ノ如ク「法律ニ特別ノ規定アルモノハ此限ニ在ラス」ト云フ事デアレバ是ハ今迄ノ未成年者、禁治產者ノ條ノ如ク削ル方ガ宜イノデアリマス、然ウ云フ時ニ特別ノ規定ガアルナラバ其特別ノ規定ニ依ルト云フコトハ夫レハ言ハヌデモ分カツテ居ル、左樣ナ教科書然タル事ハ往カナイト云フ御趣意ガ是迄通ツテ居リマスカラ、然ウスルト此但書ハ削ルト云フ事ニナランケレバナラヌト思フ、所ガ夫レヲ吾々ガ何ウモ削ルニ付テ安心スル譯ニハ往キマセヌノハ、法例ノ規定ハ只今箕作さんカラ御讀ミニナツタ通リデアリマス、此法例ノ八條ハ御承知ノ通リ所謂國際私法問題ト云フモノガアツテ規定セラレテ居ツテ、其中ニ或場合ニハ本國法ヲ適用スト云フ事ガアル、假令ヘバ人ノ身分及能力ハ本國法ヲ適用スルコトニナツテ居リマス、然ウ云フ時ニ本國法ト云ヘバ其國ガ分カツテ居ラナケレバナラヌガ夫レガ分カラナイコトガアル、其時ハ住所ノ法律ヲ適用スルト云フ事ニ斯ウ云フ風ニ書イテアリマス、所ガ其住所ト云フモノハ夫レハ外國人、何レ外國人ニハ相違ナイ、外國人ニハ相違ナイノデアルカラ日本ニハ住所ヲ持テ居ラナイ、夫レダカラ日本ニ於ケル居所ヲ以テ住所ニ代用スルト云フ事ニナツタナラバ日本ノ法律ヲ適用スルト云フ事ニナツテ仕舞ウ、夫レデハ法例ノ意味ニモ違フ、去レバト云ツテ法例ハ改メラレルモノデアルカラあちらノ方ヲ改メテ何ウカ書キヤウハナイカト思ツテ今日カラ心配シテ見ルノニ少シバ變ハルカモ知レヌガ丸デ書キ方ヲ變ヘルト云フコトハ隨分困難デモアルシ、又法例ニ持ツテ參ツテ民法ノ二十九條ノ規定ハ之ヲ適用セズト云フヤウナ事モ書ケナイ、法例ノ方ガ民法ヨリモマダ適用ノ廣イモノデアルカラ然ウ民法ノ規定ヲ夫レヘ引イテ往ク事ハ極メテ穩カデナイ、夫レデ無據法例ト云フ字ヲ使ヒ出シタノデアリマスガ、萬ニ一ツ斯ウ書イテ置イテモ箕作先生ノ御心配ニナル如ク法例デどんな規定ガ出來ルカ、今ノ八條ノ如キ規定ニナルカ又ハ丸デナクナルカ何ウカ知レヌト云フコトデアリマスレバ決シテ斯ウ云フコトニハ書ケヌノデアリマスガ、私共ノ信ズル所デハ法例ト云フモノガ丸デ然ウナクナルト云フコトハ萬々ナカラウ、而シテ又あれが何ウ變ハツテモ住所ノ法律ニ依ルト云フ易合ハ必ズアルデアラウ、隨分本國法ト云フ代ハリニ其住所ノ法律ニ依ルト云フ方ニ改メルト云フ方ガ宜イト云フ說ハ法例ヲ改メルニ當テ出テ來ルカト思ヒマスガ此本國法ニ據ランケレバナラヌトシ置イテモガ其國籍ガ知レナイト云フヤウナ時ニハ住所ニ依ル外仕方ガナイト思フ、ダカラ住所ノ法律ニ依ルト云フコトハあれのヨリハ多クナルカモ知レマセヌガあれヨリモ少ナクナルト云フ事ハナカラウ、況ンヤ丸デ無クナルト云フ事ハ何ウシテモ想像ハ出來マセヌ、夫レダカラ斯ウ書イテ置テモ後日ニ至ツテ差支ル事ハ萬々ナカラウ、夫レカラ體裁ガ是レデハ望マシクナイト云フ說モアリマスケレドモ、外ノ文字ヲ用ヰテハ差支ルカラト云フ、斯ウ云フ譯デ期ウ云フ事ニ決シタノデアリマス、今一ツハ其住所ノ法律ニ依ルト云フ事ヲ居所ヲ以テ住所ニ代用スルト云フ事ノ但書ニシテハ穩カデナイト云フ說ハ是ハ主査會ニモ能ク出タ說デアリマスガ末延さんノ御說デアリマシタカ、但書ヲ改正スルト云フ事ハ前ニモ出マシタガ少數デアリマシタ、成程是レ計リヲ讀ンデ見レバ然ウ云フ感覺モ起ルカモ知レマセヌガ併シナガラ之ハ斯ウ云フ風ニナリマス、法例ノ箇條ニ依ツテ見ルト或場合ハ住所ノ法律ニ依ルト云フ事ガ書イテアル、其場合ノ住所ト云フノハ二十六條ノ規定ハ適用セヌノデアル、ダカラ「此限ニ在ラス」ト云フノデアル、居所ヲ以テ住所ニ代用スルト云フノデ法律ニ依ルト云フコトハ例外ニナラヌガ、他ノ住所ト云フコトハ同ジ住所ト云フ事ガ使ツテアツテモ法例デ云フ斯ウ云フ場合、卽チ住所ノ法律ニ依ルト云フ事ハ此處ニ云フ住所トハ違フ、卽チ居所ヲ以テ住所ニ代用スルモノデナイゾト云フ事ニナリマスカラ矢張リ例外ニナルト思ヒマス、故ニ此通リデ宜シイ事デハアリマスマイカ何ウカ尙ホ御一考ヲ願ヒマス
箕作麟祥君
私ノ說ハ幸ニ贊成ガアリマシテ問題ニナリマシタ、只今起草委員カラ辯明ガアリマシタガ、其本旨ハ未ダ問題トナラザル末延サンノ御說ニ對シテ御辯駁デアリマシテ、私ノ修正說ニ付テハ唯一言セラレタガ、夫レハ直チニ私ノヤウニスレバ今迄モ削ツテ仕舞ツタヤウニ講譯文ノヤウニナルカラ夫レナラバ寧ロ削ツテ仕舞ツテ宜イト云フノデ唯是レ丈ケノ御辯駁デアリマシタガ、私共モ起草委員ノ說ニハ同意ヲ表スルガ、唯私ノ修正說ニ付テ御考ヘヲ願ヒタイノハ、卽チ起草委員ノ御心配セラレタル通リ法例ト云フモノハ民法トハ違フ、民法ヨリ適用ノ廣イモノデアル、國際私法ヲ適用スル、其適用ノ廣イ法律ニ住所ノ事ヲ規定スルコトガアツタ時分ニ民法ノ二十九條ト牴觸スルコトガアツタナラバ法例ノ方ニ以テ往ツテ民法ノ規定ノ事ヲ云フノハ不體裁デアルト云フノハ私モ同意デアル、去レバト云ツテ法例ヲ一條カラ十七條マテ丸デ削ツテ仕舞ウト云フコトハアリマスマイケレドモ、法例ノ八條ト云フモノハ今日發布サレタ儘デ存スルヤ否ヤ頗ル疑ハシイ、夫レデ民法ト法例ト牴觸シタ時分ニ法例ニ持ツテ往ツテ「民法ノ規定ニ牴觸スルモノハ」云々ト云フコトハ書ケナイカラ民法ノ方ニ何トカ法例ノ方ノ始末ヲ付ケテ置カナケレバナラヌ、而シテ此法例ハ何ウナルカ分カラナイ夫レデ之ヲ法律トシテ置ケバ先程陳ベマシタ如ク法例モ矢張リ法律ノ中デアリマスカラ、法例ニ何ノ樣ナ事ヲ書カウトモ「法律ニ別段ノ規定アルモノハ此限ニ在ラス」ト云フ事ヲ明示シテ置ケバ、法例ニ何ントカ特別ノ規定ヲ定メルト云フ事ノ今カラ餘裕ガ付テ居ルノデアリマスカラ、但書ヲ削ツテ仕舞ツテハ往ケヌト云フ御心配ハ御尤モノ話デハアリマスガ、私モ其御心配ノ旨趣ヲ受ケテ、而シテ此法例ト云フモノハ如何ニ定マルカ其運命ノ分カラナイコトデアリマスカラ、是ヲ「法律ニ特別ノ規定アルモノハ」云々トシテ置ケバ都合ノ宜イ話デアリマスカラ、是レニハ起草委員モ悦ンデ贊成シテ下サル事ト考ヘマシタノデアリマス
山田東次君
私ハ末延君ノ「其日本人タルト外國人タルトヲ問ハス」ト云フノト但書ヲ削ルト云フ事ト併セテ贊成シテ置キマス
梅謙次郎君
只今箕作さんノ御說ニ其法例ニ特別ノ規定ガアレバ夫レデ之ト違ツテ居ツテモ宜イト云フコトデアリマスガ、特別ノ規定ト言ハレルヤウニ判然特別ニ書イテアリサヘスレバ無論私ハ其時ハ削ルヤウニシマス、一體前ノ未成年者、禁治產者ノ方ニ付テ但書ヲ削ルト云フコトニナリマシタカラ勿論削ルヤウニハシタイガ如何セン此處ハ然ウ云フ風ニ書カレナイ、文字ハ牴觸シテ居ラヌ、居ラヌケレドモ立法者ノ精神カラ看テ、何ウシテモ是レハ文字ノ牴觸シテ居ラヌト云フコトニ依テ斯ウ云フ二十九條ニ依テ當嵌メルトシテハ意味ニ於テ差支ヲ起スカラ豫防ヲ致サナケレバナラヌ、兎ニ角八條ヲもう一遍讀ンデ見マスガ、唯之ヲ讀ンダ所デハ二十九條ニ一向牴觸モ何モシテ居ラヌト思ヒマス八條ニハ「本國法ヲ適用スヘキ諸般ノ場合ニ於テ何レノ國民分限ヲモ有セサル者又ハ地方ニ依リ法律ヲ異ニスル國ノ人民ハ其住所ノ法律ニ從フ若シ住所知レサルトキハ其居所ノ法律ニ從フ」トアル、此「若シ」以下ハ殆ド二十八條ト同ジコトデアル、夫レカラ「其住所ノ法律ニ從フ」ト云フコトガ書イテアルカラ唯住所ト云フ字ガ使ツテアリマス、其住所ト云フ意味ハ一般ノ規則トシテハ文字ノ上カラハ二十七條又二十九條ノ場合ニナルト云フ事ニナル、夫故ニ今ノ但書丈ケデハ到底法例ノ八條ノ如キ場合ヲ見タモノトハ言ヒ難イデアリマセウ、寧ロ然ンナ事ヲ書ク位ナラバ削ツタ方ガ宜イノデアリマス、ケレドモ今申シタ通リノ理由デアリマスカラ何ウカ原案ノ通リニ存セラレンコトヲ希望致シマス
磯部四郎君
私モ箕作さんノ修正說ヲ贊成シタノデアリマスガ、只今箕作さんカラ此修正說ニ付テ充分理由ヲ述ベラレマシタカラ更ニ私ガ喋々スル必要ハアリマセヌケレドモ、要スルニ只今起草委員ハ詰リ法例ハ民法ヨリ適用ガ廣イ、其法例中ニ規定シテアルコトヲ此處ニ以テ來テ特別ト云フ文字ハ附ケラレヌト云フ理由ヲ御述ベニナツタヤウデアリマスガ果シテ然ウデアリマスカ
梅謙次郎君
夫レハ誤解デアリマス
磯部四郎君
夫レデハ何ウ云フ理由デアリマシタカ一寸伺ヒマス
梅謙次郎君
只今ハ然ウ申シタノデハアリマセヌ、八條ノ通リデアレバ二十九條ノ本文ニ牴觸シテ居ルヤウニハ文字ノ上デハ見ヘナイ、夫故ニ箕作君ノ言ハレタ如ク牴觸シテ居ルトキハ法例ニ依ルトカセンケレバナラヌガ、併シ法例ハ何ウナルカ知ラヌト云フコトデアリマスガ、私ハ然ウハ思ヒマセヌ、若シヤ特別ノ規定ト明カニ牴觸スルト云フコトデ書イテ置ケバ特別法ガ一般法ヲ廢スルノデアリマスカラ、夫レハ無論書イテナクトモ解釋上疑ヒハ起ラヌ、唯文字ノ上ニ於テハ牴觸シテ居ラヌ、牴觸シテ居ラヌノデ困ル、牴觸シテ居ラヌト云フノデ是ヲ適用シテハ困ル、夫レデハ意味ニ於テ差支ヘヲ起スヤウニナルカラ此處ハ斯ウ云フ文字ヲ書クノ必要ガアルト云フノデアリマス
横田國臣君
私ハ末延君ニ贊成ヲ致シマス、夫レデ今箕作君ガ但別段ノ法律ニ於テ規定シテアルモノハ此限ニ在ラズト云フ修正說ヲ御出シニナツタ、所ガ夫レハ能ク起草委員ガ辯ゼラレタノデ特別ニ斯樣斯樣スト書イテアルノナラバ夫レハ然ウ云フテモ宜イケレドモガ、丁度法例ヲ見レバ何モ牴觸シテ居ル所ハナイト云フ事ハ能ク分カリマシタガ、爰ニ一ツ御注意ヲ願ヒタイ事ハ此處ハ住所ニ代用スルトアツテ唯平生日本デ住所ダトカ訴訟上ノ住所トカ云フヤウナコトニ當嵌メルノデ、彼處トハ違ウ、彼處ハ夫レヲ代用スルノデナクシテ住所ノ法律ニ從フ、斯ウ云フノデアル、何ウモ意味ガ私ハ少シ違フト思フ、又縱令ヒ違ハヌニモセヨ、法例ハ法例デ別段ノ法律デ、此法律ノ意味ト云フモノハ斯樣ナリト解釋シテ宜カラウト思フ、此民法ノ規則ハ斯樣ナリ、夫レデ此處ニ居所ヲ以テ住所トスルトアレバ尙ホ疑ヒハ幾分カアルケレドモ、然ウデナクシテ唯代用スト云フ外ナイ、故ニ此場合トあの場合トハ丸デ違ウト云フ事ハ誰レガ見テモ分カル、あれは萬國私法ニ付テ極メタ、是レハ民法ノ條章ニ付テ極メタ夫レデ私ハ此處ハ取ツテ宜カラウト思フ、此但書ハ頗ルまづい但書デアル、誠ニ能ク當ツテハ居ルガ、此書方ニ於テハ如何ニモまづい
高木豐三君
私ハ末延君ヲ贊成致シマス
岡村輝彦君
私モ此「其日本人タルト外國人タルトヲ問ハス」ト云フコトヲ削ルノハ少シ殘念ナ樣デス詰リ但書ヲ削ルト云フ旨趣ヲ贊成ヲシマス、原按ノ旨意デハ詰リ法例ヲ讀ンデ此意味ト混淆スルト云フコトデアリマスガ私ハ毫モ混淆ハ致サナイト思フ、何故ナレバ法例ノ方ハ詰リ本國法ヲ適用スベキ諸般ノ場合ニ於テ云々ト云フコトデアツテ、其場合ニ本國ノ知レナイトキニハ其人ガ住居シテ居ル國ノ法律ニ從フト云フノデアルカラ、本國ハ分カラナイケレドモ英吉利ニ居ルト云フ場合ニハ英吉利ノ住所ノ法律ヲ適用スルト云フノデアル、又此處ノ二十九條ノ方ハ日本ニ住所ヲ有セナイ者ハ日本ニ於ケル居所ヲ以テ住所トスルト云フノデアルカラ、双方ヲ讀ンデ見レバ其意味ハ明カニ分カルト思フ、果シテ分ルモノトスレバ體裁上ニ於テモ、旣ニ第三條ノ如ク「滿二十年ヲ以テ成年トス但法令ニ特別ノ規定アルモノハ此限ニ在ラス」ト云フヤウニ、然ウ云フコトヲ書クヤウニナツテハ仕方ガナイト云フノデ削ツタト云フ例ガ旣ニ前ニモアルノデアリマス、此意味サヘ分カレバ宜シイ、何ウシテモ趣意ガ異ツテ居ルト云フ事ガ分カルダラウト思ヒマスカラ、矢張リ之ハ分カルマイカト云フ心配丈ケニ止マツテ居ルノデ、能ク見レバ分カルコトト思ヒマスカラ、私ハ但書削除ニ贊成シテ置キマス
末延道成君
私ノ修正案ニハ雙方ニ贊成スル者モアリ又一方ニ贊成スル者モアリマスガ、私ハ成ルベク此二十九條ノ文章ノ宜イヤウニト思ツテ出シマシタガ、何ウカ二ツノ修正說トシテ二度ニ採決ヲ望ミマス
議長(西園寺侯)
夫レハあなたノ說ガ若シ消ヘタナラバ後カラ御出シニナツタラ宜イデハアリマセヌカ
末延道成君
何ウカ二度ニ採ツテ貰ヒタイ
議長(西園寺侯)
夫レハ採リマスガ、但書ノ方ハ何ウカ後トデあなたカラ出シテ貰ヒタイ
末延道成君
私ハ然ウ致シマスルガ、尙ホ辯ジテ置キタイノハ今ノ「日本人タルト外國人タルトヲ問ハス」ト云フコトデアリマス、此字ハ今編纂委員ノ御方カラ之ハ元トハ無カツタ字デアルガ此方ガ意味ガ能ク分カルデアラウト云フ御話デアリマスケレドモ、何ウモナンダカ只分カルダラウト云フ事デハ却テ外ノ條ノ邪魔ニナルダラウト思ヒマス、夫レデ前ノ二十七條ノ各人ノ生活ト云フコトモ矢張リ日本ニ居ル人ハ誰レニモ區別セズニ日本ニ居ル人ニ向ツテ言フ辭ニ違ヒナイノデアリマセウカラ、夫レデ「日本人タルト外國人タルトヲ問ハス」ト云フ事ハ云ハナクトモ分カリマセウ、此處ニ斯ウ書クト外ノ所ニモ亦書カナケレバナラヌト云フ憂ヒガ生ジテ來マスカラ、却テ外ノ條ノ邪魔ニモナルト思ヒマス、夫レデ是レハ削除ヲ望ミマス
横田國臣君
夫レデハ前ノ方丈ケ御出シニナツタノデスネ
末延道成君
雙方出シマシタ
議長(西園寺侯)
何ウモ雙方修正說ヲ出スノハ差支ナイヤウデハアリマスガ、何ウモ一人ノ委員ガ二ツ出シテ置クノハ如何デアラウト思ヒマス、願クバ萬一始メノ方ガ成立タヌ時ニ又後ノ方ヲ御出シニナル譯ニハ往キマセヌカ、然ウナルト頗ル穩カニ往クト思ヒマスガ
末延道成君
宜シウゴザイマス
箕作麟祥君
但書削除說ガ勢力ヲ持チ居リマスガ就テハ尙ホ一言シマス、成程前ノ三條ト云フ條デハ詰リ民法ハ法律デアルカラ同ジ力ノ法律デモ別ナ規定ヲ設クルノハ分カツテ居リマスガ、夫レハ民法ト他ノ法律ト牴觸スレバ別段但書ヲ加ヘテ豫防セヌデモ充分ニ分カツテ居ルト云フコトハ如何ニモ尤御モデアリマスガ、此法例ト云フモノガ只今ノ八條ノ通リデアレバ場合ガ全ク違フ、國際私法ノ問題ト此民法ノ條章ト云フ問題トハ一向牴觸スルコトハナイト云フ御說デアリマスケレドモ全ク違フ、此法例ノ八條ト云フモノガ何ウ變ハルカ、あの儘ニナルカ何ウナルカ分カラヌ、詰リ未確定ノモノデアル若シ法例ガ變ハツテ此法例ガ民法ノ二十九條ト牴觸スル條ヲ設クルト云フ事ニナツテハ如何デゴザイマセウカ、斯ノ如キ場合ニ於テハ法例ハ同ジ法律デアルガ、憲法デハナイガ殆ド憲法ト力ヲ同ジクスル位ノモノデアル民法而已ナラズ各法律ノ一番ノ上ニ立ツモノデアツテ並ノ法律トハ力ガ違ウ、斯ク憲法ニ類似シタ位力ノ強イ法例ニ民法ノ二十九條ト反對ノ規定ヲ設ケタナラバ或ハ民法ノ箇條ガ潰レテ仕舞ウト云フヤウナ恐レガアリマス、故ニ特別ノ法律ト云フコトヲ書イテ置ケバ差支ナイ、夫レデ法例ト云フモノハ並ノ法律トハ少シ違ウト思ヒマスカラ、私ハ但書ニ付テ修正說ヲ出シタノデアリマスカラ其處丈ケハ御考ヘヲ願ヒマス
土方寧君
但書幷ニ本文ノ「日本人タルト外國人タルトヲ問ハス」ト云フ削除說ヲ伺ツテ見マシタガ其「日本人タルト外國人タルトヲ問ハス」ト云フコトハ明カナ話デ是ハ言フテ置カヌデモ分カルト云フ事デアリマスガ、色々考ヘテ見マシタガ、一寸疑ヒヲ起シマシタ、元トノ原案ニハ「住所ヲ定メサル外國人ハ」トアツタノヲ起草委員ノ方カラ御訂正ニナツテ「其日本人タルト外國人タルトヲ問ハス」ト云フ事ニナツタノデアリマス、是レハ法例ニ在ル八條ノ規定ノ定メヤウデアリマスガ、強イテあの八條ニ書イテアル樣ナ事ヲ書カナケレバヽヽヽヽヽ
議長(西園寺侯)
御質問デアリマスカ御修正デアリマスカ
土方寧君
質問デアリマス、日本人ト云フノハ日本ニ住所ヲ有セザル者、卽チ外國ニモ住所ヲ有シテ居ラヌ日本人デ日本ニ居所ガ有ル、夫レハ無論其日本ニ在ル居所ヲ以テ住所トシテ日本ノ法律ヲ適用スル、併シ、國際私法デ本國法ヲ適用スルト云フ場合ニハ本國ノ籍ガ知レヌ、卽チ國民分限ノ知レヌト云フ場合ニハ本國法ノ代リニ住所ノ法律ヲ適用スルト云フ事ニナルガ、日本人ト云フ易合ニハ日本ノ法律デアルカラ日本人ト云フ事ハ要ラナイヤウニナル、其處デ此「日本人タルト外國人タルトヲ問ハス」ト云フコトガ書イテアルノハ日本人ニ取ツテハ一向意味ノ通ジナイヤウデアリマスガ如何デアリマセウカ
梅謙次郎君
只今ノ土方君ノ御問ヒバ但書斗リナラバ或ハ然ウ云フ事ニナルカモ知レマセヌガ、但書ノ方ハ日本人ニハ適用ハナイ、本文ノ方ハ外國人ト日本人トヲ問ハズ適用ガアリマス、夫レデ二十七條ニ在ル如ク「各人ノ生活ノ本據ヲ以テ其住所トス」ト云フノデ日本人ガ日本ニ生活ノ本據ガナクテ外國ニ生活ノ本據ヲ持テ居ル、卽チ住所ヲ有シテ居ル、然ウ云フ場合ニ於テハ其日本人ガ一時日本ニ來テ居ルノデ日本ハ住所デナイ、一寸來テ居ル、然ウ云フ時ニ矢張リ適用ガアリマスカラ、夫レデ矢張リ日本人ト外國人ト雙方ニナランケレバナラヌト云フノデアリマス
横田國臣君
私ハあちらデ相談ヲシテ來マシタガ、私ガ此但書ヲ削ルト云フ說ヲ出シマス、夫レデ末延君ノ「其日本人タルト外國人タルトヲ問ハス」ト云フ事ヲ削除スルト云フ說ニモ贊成デアリマス、夫レニ付テ一寸一言述ベテ置キマス、其處デ其「其日本人タルト外國人タルトヲ問ハス」ト云フ辭ハ却テ能クナイ、何故カナレバ日本人デモナイ外國人デモナイ所謂無籍ノ奴ハ夫レハ外國人デアリマスガ、併シ夫レハ無クテモ此處ハ分カラウト思ヒマスカラ夫レデ私ハ無イ方ヲ贊成シテ置キマス
穗積八束君
私ハ先刻起草委員ニ日本人デナイ者ハ外國人、外國人デナイ者ハ日本人、此事ニ付テ質問致シマシタガ、此事ニ付テ最ウ一應委シク御說明ヲ願フ事ハ出來マスマイカ
梅謙次郎君
私共ノ解シテ居リマスル所、又法例ノ精神或ハ國民分限ニ關スル規則抔モ然ウデアラウト思ヒマス、此日本ニ國籍ヲ持テ居ル者ハ無論日本人デアリマスガ、然ウデナイ者ハ總テ外國人、夫レハ何モ何處ノ國ノ人ト云フコトハ極マラヌデモ宜イ日本人デナケレバ日本ノ國ノ外ノ人ト云フ事ニナル、日本人デナイト云フコトガ極マレバ宜シイ、夫レデ若シ原案ノ通リニシテ置カナケレバ法律デ無籍人ハどちらニモ當嵌ラヌト云フ事ニナル、是ハ無論日本ノ規則ガ當嵌ラヌト云フコトモゴザイマセヌガ、今迄モ然ウデアリマシタカラ之カラ先キモ然ウデアラウト思ヒマス、吾吾ガ第二條ニ持ツテ往ツテ「外國人ハ法令又ハ條約ニ禁止アル場合ノ外私權ヲ享有ス」ト書イタノモ矢張リ然ウ云フ廣イ意味デ書イタノデアリマス、必ズ何處ノ國ノ人ト極マラヌ人ハ外國人ト云ヘヌト云フ積リデ書イタノデハナイ、私共ハ斯ウ云フ積リデ居リマス
議長(西園寺侯)
夫レデハ決ヲ採リマス、末延君ノ方ハ雙方續テ居リマスカラ之レハ一緒ニ採ルコトニシマセウ此ノ說ニ贊成ノ方ハ起立ヲ請ヒマス
起立者少數
議長(西園寺侯)
少數デゴザイマス、次ニ横田君ノ但書ヲ削ルト云フ事ニ贊成ノ方ハ起立ヲ請ヒマス
起立者少數
議長(西園寺侯)
少數デゴザイマス、次ニ箕作君ノ但書ノ修正說ニ贊成ノ方ハ起立ヲ請ヒマス
起立者少數
議長(西園寺侯)
少數デゴザイマス
穗積八束君
私ハ「其日本人タルト外國人タルトヲ問ハス」ト云フ事ヲ削ルト云フ說ガ出マシテ、夫レニハ御贊成ノ人ガアツタデハナイカト思ヒマスガ
(此時「夫レハモウ一緒ニ採ツタ」ト呼ブ者アリ)
議長(西園寺侯)
夫レデハ御苦勞デゴザイマスガ、「其日本人タルト外國人タルトヲ問ハス」ト云フノヲ削除スルト云フ事ニ贊成ノ方ハ起立ヲ請ヒマス
起立者少數
議長(西園寺侯)
少數デゴザイマス
磯部四郎君
私ハ更ニ修正ヲシマス、「但法例ノ定ムル所ニ從ヒ其住所ノ法律ニ依ルヘキ場合ハ此限ニ在ラス」ト云フノハ法例ノ文章ヲ重ネテ持テ來タヤウデ餘リくどいヤウニ思ヒマスカラ、是ヲ改メテ「但法例ノ定ムル場合ハ此限ニ在ラス」ト云フ、斯ウ云フ修正說ヲ提出致シマス
議長(西園寺侯)
只今ノ磯部君ノ修正案ニハ別ニ贊成モナイヤウデゴザイマスカラ、本條ハ原案ニ決シマス、次ノ三十條ニ移リマス
退席大岡育造君
本野一郎君
(書記朗讀)
第三十條 或行爲ニ付キ假住所ヲ選定シタルトキハ其行爲ニ關シテハ之ヲ以テ住所ニ代用ス
田部芳君
私ハ此假住所ノ事ヲ規定シテゴザイマスル第三十條ト云フモノヲ削除スルト云フノ案ヲ提出致シマス、其理由ハ主査會ニモ段々出タ事デゴザイマスガ不幸ニシテ多數ヲ得ズシテ消滅シマシタガ段々ニ考ヘルニ此處ニ假住所トシテ特ニ規定スルノ必要ハアルマイト信ズルノデアリマス、其譯ハ假令ヘバ第一ニ契約等ノ事ニ付テ或ル住所ヲ定メルト云フ事ニハ、此契約ニ付テハ何處其處ニ於テ何々ヲスル、其行爲ヲ行フ場所ト極メルト云フ事ハ當事者間デ相互ニ極メタナラ極メラレル話ダラウ、其他訴訟上ノ事ニ付テハ御承知ノ通リ、現ニ訴訟法ニ假住所ノ事ガ規定シテアリマスカラ夫レニ依テ訴訟ヲスル、卽チ起訴スル、其起訴スル便利ガ卽チ訴訟法中ニ裁判籍ト云フ項ガ設ケテアリマス、其中ニ契約ノ履行、取消或ハ解除抔ノ事ニ付テハ其時ノ裁判籍ト云フモノガ設ケラレテアツテ、旣ニ便利ニナツテ居リマス、然ウスルト此住所ノ所ニ假住所ト云フモノヲ特ニ設ケテ置クノハ不必要デナイカト思ヒマス
山田東次君
私モ其說ヲ出サウト思ツテ居リマシタガ、幸ニ只今田部君カラ出マシタカラ贊成シテ置キマス
梅謙次郎君
是ハ主査會デモ出タ說デアリマス、極ク簡單ニ此箇條ヲ置イタ理由ヲ陳ベマス、如何ニモ田部君ノ言ハレタ通リニ、今日ノ民事訴訟法ノ規定ガアリマスルト餘程此假住所ト云フモノノ必要ガ減ジテ居リマスガ、其譯ハ成程只今田部君ノ言ハレタル如クニ、事柄ハ說明サレマセヌケレドモ、民事訴訟法ノ第百四十三條デシタカ此百四十三條ニ「受訴裁判所ノ所在地ニ住所ヲモ事務所ヲモ有セサル原告若クハ被告ハ其所在地ニ假住所ヲ選定シテ之ヲ屆出ツ可シ」ト云フ事ガアルノデアリマス、夫レデ此場合ハ此處ニ規定ガアル、其外契約ノ履行抔ニ付テ履行地ガ極メテアレバ其履行地ガ裁判籍所在ノ地トナル、ダカラ不都合ハナイト斯ウ云フ事デアツタノデアリマシタガ、其外ハ契約デ極メルカラ此處デ唄ハヌデモ宜イト云フ斯ウ云フ事デアリマシタ、ケレドモ是丈ケデ果シテ此三十條丈ケノ用ヲ爲シマセウカ、民事訴訟法百四十三條ノ場合ハ旣ニ訴ガ起ツテカラ、其訴ノ起ツテ居ル裁判所ノ管内ニ住所ノナイ時ハ假住所ヲ設ケルト云フ丈ケデ之ハ極ク適用ノ場合ガ狹イノデアツテ、無論三十條ニ言フ場合トハ場合ガ違ウト云フノデ履行地ヲ定メタ時ハ履行地ノ裁判所ニ屆ケ出ルト云フ事モアリマス、又契約デ以テ履行地ヲ定メルト云フ事ニモナル、夫レハ仰ノ通リデアリマス、ケレドモ當事者ガ何レ然ウ云フ風ニ何時モ極メナイカモ知レナイ、毎々取引ヲスル人デ、縱令ヘバ大阪ノ人デアルガ東京ノ人トモ毎々取引ヲスル、豫テ契約ヲシテ曰ク、私ハあなたトノ取引ニ付テハ東京ニ斯ウ云フ平生自分ノ矢張リ取引先キニ懇意ナ所ガアル、其處ヲ何時デモ住所ト見テ呉レロ、法律上總テ住所ノ效力ト云フモノハ卽チ其處ニ附ケテ呉レト云フ事デ契約ヲ結ブ、或ハ東京ノ人デモ宜イガ大阪ノ人ト然ウ云フ工合ニ契約ヲ結ブ、然ウ云フコトガ隨分アリハセヌカト思フ、若シアツタナラバ何ウナラウカト云フニ、夫レハ民事訴訟法ノ規定斗リデハ往ケマスマイ、然ウ云フ場合ハナイト斷言ガ出來レバ宜シイガ、私共ハ然ウ云フ場合ハ隨分有リサウニ思フカラ、此規定ハ矢張リ存シテ置イタ方ガ宜カラウト思フ、實ハ旣成法典ニモアリマスガ之ハ無クテ濟ムナラバ削リタイ、外國ニモ何處ニモナイ、併ナガラ引テアル國々ニハ皆有ル、何ウモ之ハ實際上ニアルコトハ兎ニ角アラウト思ヒマスカラ、夫レデ此一箇條ヲ加ヘタ譯デアリマス
高木豐三君
私ハ原按贊成者デアリマスカラ、別ニ蛇足ヲ添ヘルニハ及バヌヤウデアリマスルガ少シ理由ガ違ヒマス或ハ間違ツテ居ルカモ知レマセヌ、私ノ考ヘデハ住所ノ規定ト云フモノハ實體法卽チ民法、此民法ニ定ムベキモノデアルト考ヘル、旣ニ訴訟法ニ假住所ト云フ文字ヲ用ヰテアル、併シ私ノ主義カラ考ヘレバ民法ト云フモノニ假住所ト云フモノガ定メテアル、卽チ夫レヲ定ムル事ガ出來ルト云フ事ヲ訴訟法ニ書イタモノト看ル方ガ相當デハアルマイカト考ヘル、其處デ獨逸抔ハ何ウカト云ヘバ、獨逸デハ訴訟法ニあの場合ニハ假住所ト云フ事ハナイ、詰リ送達ノ代理人、送達ヲ受ケル代理人ト云フモノガアリマシテ假住所ト云フ事ハナイ、佛蘭西ノ如キどみしるえりゆート云フモノハアリマセヌ、矢張リ實體法ニ此事ガ定マツテアツタカト考ヘル、旁私ハ民事訴訟法ニ假住所ト云フモノガアリマスカラ實體法ニハ定ムルニ及バヌト云フ議論デハナイ、寧ロアツタ方ガ宜シイト思ヒマス
横田國臣君
贊成
議長(西園寺侯)
削除說ガゴザイマシテ贊成モアリマシタカラ決ヲ採リマス、田部君ノ此條ヲ削除スルト云フ說ニ贊成ノ方ハ起立ヲ請ヒマス
起立者少數
議長(西園寺侯)
少數デゴザイマス、外ニ御發議ガナケレバ本條ハ確定ト認メマス、次ハ三十一條
(書記朗讀)
第四節 失踪
第三十一條 從來ノ住所又ハ居所ヲ去リタル者其財產ノ管理人ヲ置カサリシトキハ裁判所ハ利害關係人又ハ檢事ノ請求ニ因リ其財產ノ管理ニ付キ必要ナル處分ヲ命スルコトヲ得但本人後日ニ至リ管理人ヲ置クトキハ其管理人利害關係人又ハ檢事ノ請求ニ因リ其命令ヲ解クヘシ
本人ノ不在中管理人ノ權限消滅シタルトキモ亦前項ノ規定ニ依ル
末延道成君
私ハ「從來ノ」ト云フ三字ヲ削除致シタイ、是ハ何ウモ先ヅ失踪ト云フ節デアリマシテ、現今ノ住所ガ知レテ居ルカモ知レヌト云フ事ガ此參考書ノ解釋ニモアリマスガ、住所ガ知レテ居レバ失踪デナイト云フ事ガ判然シテ居リマスカラ、單ニ住所デ宜カラウト思ヒマス、又「從來」ト云フ字ハ法律上ノ文字ニ使フノハ誠ニ曖昧デアリマス以前ト云フノカ或ハ是迄ト云フノデアルカ、兎ニ角是迄ノト云フ事ハ今日ノ住所ガ分カツテ居ラヌト是迄ノ住所ト云フモノガ分カラヌ、矢張リ單ニ住所トシタ方ガ宜シイ、旣成法典ニモ矢張リ單ニ住所トアリマスカラ、夫レデ此「從來ノ」ト云フ三字ヲ削ル事ノ修正說ヲ提出致シマス
議長(西園寺侯)
只今ノ末延さんノ發議ニハ別ニ贊成モナイヤウデアリマスカラ本條ハ確定ノモノト認メマシテ次ノ三十二條ニ移リマス
(書記朗讀)
第三十二條 不在者カ管理人ヲ置キタル場合ニ於テ其不在者ノ生死分明ナラサルトキハ裁判所ハ利害關係人又ハ檢事ノ請求ニ因リ管理人ヲ改任スルコトヲ得
議長(西園寺侯)
本條モ別段ニ御發議モナイヤウデゴザイマスカラ直ニ確定ノモノト認メマシテ次ノ三十三條ニ移リマス
(書記朗讀)
第三十三條 前二條ニ依リ裁判所ニ於テ選定シタル管理人ハ其管理スヘキ財產ノ目錄ヲ調製スヘシ其費用ハ不在者ノ財產ヲ以テ之ヲ支辨ス
不在者ノ生死分明ナラサル場合ニ於テ利害關係人又ハ檢事ノ請求アルトキハ裁判所ハ不在者カ置キタル管理人ニモ前項ノ手續ヲ命スルコトヲ得
右ノ外總テ裁判所カ不在者ノ財產ヲ保存ニ必要ナリト認ムル處分ハ之ヲ管理人ニ命スルコトヲ得
淸浦奎吾君
一寸起草者ニ質疑致シマスガ、一項ニ「其費用ハ不在者ノ財產ヲ以テ之ヲ支辨ス」ト云フコトガアリマスガ、之ハ財產ノ目錄ヲ作ルニ付テノ費用ノミデアリマセウカ、是ニ付テノ財產ノ外ニ費用ト云フノハ別ニ御定メニナルノデアリマスカ
梅謙次郎君
其事ハ此處ヘ定メハ致シマセヌデアリマス、定メハ致シマセヌデアリマスケレドモ、其方ハ總テ管理人ノ一般ノ規則ト致シテ、管理人ガ人ノ財產ヲ管理スル以上ハ自腹ヲ切ラナケレバナラヌト云フ事ハ通常ナイノデアリマスカラ規定セズニ宜イカト思ヒマス、之レニ反シテ目錄ヲ作ルコトハ詰リ裁判所カラ管理人ニ命ジタ一ノ手續デアリマス、裁判所ガ管理人ニ命ジタモノダカラ管理人自身ガ出スノデハアルマイカト云フコトヲ或ハ解釋ヲスル人ガアルカモ知レナイ、夫レデ之ハ管理人ノ作ル目錄デハアルガ、其費用ハ不在者ノ財產ヲ以テ支辨スルガ先ヅ至當デアルト云フ所カラ斯ウ規定シタノデアリマス
高木豐三君
私ハ「其費用ハ」ト云フ以下カラヲ削除スル說ヲ出シマス、其理由ハ只今御辯明ニナリマシタ通リ、成程一寸考ヘレバ裁判所ノ職權ヲ以テ命ジタル事柄デアルカラ或ハ其費用ハ自分ノ義務ニ屬シハセヌカト云フヤウニ解スル者ガアルカモ知レヌト云フ事デアリマシタガ、其理由カラ言ヘバ總テ此後見人デアルトカ、總テ裁判所カラ命ジタ場合ニハ皆其疑ヒガ起ランケレバナラヌト謂ハナケレバナラヌ、之ハ一體ノ原則デ當然不在者ノ財產ヲ以テ支辨スルモノト解スル方ガ至當デアルト考ヘル、此總則ノ中ニ以テ來テ費用ノ支辨法ヲ並ベ出スノハ何分不體裁デ、之ガ無クテ宜イモノナラ削除スル方ガ宜シイト思ヒマス
淸浦奎吾君
私モ是レハ削除シタイト云フ考ヘデアツタカラ夫レデ理由丈ケヲ尋ネマシタガ、幸ニ只今高木君カラ削除說ガ出テ居リマスレバ全ク同意ノ事デゴザイマスカラ之ニ贊成ヲ致シマス
梅謙次郎君
只今削除說ガ出マシタガ、原案ノ理由ハ始メニ御質問ニ御答ヲ申シタ通リデアリマスガ、尙ホ一言シテ置キマス、費用ノコトヲ總則ニ並ベルト云フ事ハ體裁ガ惡ルイト云フ事デアリマスガ、之ハ何ウモ避ケラレヌ事ト思ヒマス、此事ハ法人ノ所デモ矢張リ免レル事ハ出來ナイ、矢張リ費用ノ事ハ出テ來ルト思ヒマス、此處斗リデハナイノデアリマス、夫レデ之ヲ總則ノ中ニ掲ゲル事ヲ得ズト云フ事ニナルト法人ノ所抔デハ大變ニ差支ヲ生ズルノデアリマスカラ、何ウカ此通リニ存セラレンコトヲ望ミマス
高木豐三君
只今ノ起草者ノ御說明ニ據ルト、今ノ所ヲ削除スルコトニナルト、法人ノ所デ大變不都合ガアルカラ存シテ貰ヒタイト云フコトデアリマスガ、之ハ必ズシモ要用デナイト考ヘマス、夫レデ其理窟ヲ以テ推セバ起草委員ノ必要ト思フテ御座ル所ノ法人ノ場合ノ事モ吾々カラ言ヘバ或ハ不必要デアルカモ知レマセヌ、併シ其所ニ至ツテ果シテ必要デ削ル事ガ出來ヌト云フ事ニナレバ夫レハ止ムヲ得マセヌガ、先ヅ此所ニ於テハ必要デナイト云フ事デアレバ削ル事ニシタイト思ヒマス
中村元嘉君
私ハ此「右ノ外總テ」トアルノヲ「其他」ト云フ事ニ修正ヲ致シタイ
星亨君
贊成致シマス
横田國臣君
贊成シマス
磯部四郎君
起草委員ニ質問致シマスガ、管理人ノ卽チ管理行爲ト云フモノハ三十四條ニ定マツテ居リマスガ、此三十三條ノ第三項デ「裁判所カ不在者ノ財產ノ保存ニ必要ナリト認ムル處分ハ之ヲ管理人ニ命スルコトヲ得」ト云フ事ガゴザイマスガ、之ハ管理人ナル者ハ唯管理行爲ノミデ必要ノ處分ト認メテ貰フ事ヲ申請スルトカ、シナイトカ云フ事ニ付テ管理人ノ何カ責任ハナイノデアリマスカ、設令ヘバ動產物デアルトカ或ハ地所ヲ有スル保存物デアルトカ云フ場合ニ自分ノ方カラ申請セズニ居ツテモ別段ニ責任ガナイノデアラウカ、又別段ニ自分ノ方カラ申請シテ裁判官ノ方ヘ認可ヲ要ムルノデアリマスカ
梅謙次郎君
勿論管理人ト云フ者ハ財產ノ保護ニ注意スル責メガアリマスカラ、若シ或ル動產抔ヲ速ニ賣ツテ金ニシナケレバ無クナツテ仕舞フトカ云フヤウナ場合ニハ賣ルト云フコトハ大變必要デアリマスカラ、若シ自分ノ權内ニ無イコトデアレバ裁判所ニ申請シテヤラナケレバナラヌ、夫レヲヤラヌケレバ固ヨリ管理人ニ責任ハアルノデアリマス、夫レデ後チノ三十五條ニ至ツテ「裁判所ハ管理人ヲシテ財產ノ管理及ヒ其返還ノ擔保ヲ供セシムルコトヲ得」トアリマス、此處ノ場合抔ハ卽チ然ウ云フ場合ヲモ含ム積リデアル、管理ニ付テ爲スベキ行爲ヲ怠ツテ爲サヌデアツタガ爲メニ不在者ノ財產ガ無クナツタト云フヤウナ時ニハ責任ガアリマス、去リナガラ此第三十三條ノ第三項ヲ置キマシタ譯ハ責任ガアツテモ夫レヲヤラヌデ若シ損害ヲ生ジタトキニ夫レヲ賠償サセルト云ツテモ啻ニ手數ガ掛ルノミナラズ或ハ無資力ナル管理人モアリマセウカラ、其前ニ於テ裁判所ガ御前ハ是丈ケヲ怠ツテ居ル、斯ウ云フ事ハ速ニセネバナラヌト云フ事ヲ特ニ命ズル事モアラウ、然ウ云フ場合ヲ見タモノデアリマス
磯部四郎君
私モ其事ガ三十五條ニアルノハ知ツテ居リマスガ、實ハ後トカラ賠償ヲ求ムルヨリモ豫メ損害ヲ來タサヌヤウニ救濟スルノ方法ハ最モ必要ト思フノデゴザイマス、又こちらカラ其修正ヲ御注文スルノハ甚ダ恐縮デアリマスガ、實ハ然ウ云フヤウナ所作ノ認可ヲ求メルヤウナ事ニ管理人ノ方カラ申請スルヤウナ條文ヲ置イタラ如何デアラウカト考ヘマスガ、一寸御相談ヲ致シマス
梅謙次郎君
夫レハ成程宜イカモ知レマセヌ、ケレドモ、總テ管理人ト云フ者ハ然ウ云フ義務ノ有ルモノトシテ置カナケレバナラヌト思フ、此處計リデナイ、夫レデアリマスカラ或ハ代理ト云フ所デ然ウ云フ箇條ヲ置クカモ知レマセヌ、若シ此處ヘ然ウ云フ事ヲ置クト云フ譯ニナレバ、管理人ノ事ガ出ルト直グニ然ウ云フヤウニシナケレバナラヌト云フ事ニナツテ少シ煩ハシクナリハシナイカ、其處ラハ何處カ管理人ノ一般ノ事ニ付テ一緒ニ規定ヲスル所ニ載セタ方ガ穩カデアラウト思ヒマス、故ニ此處ニハ入レヌ方ガ宜シイト考ヘマス
議長(西園寺侯)
別段說ガナケレバ決ヲ採リマス高木君ノ「其費用ハ」以下ヲ削ルト云フ御說ヲ先キニ採リマス之ニ贊成ノ方ハ起立ヲ請ヒマス
起立者少數
議長(西園寺侯)
少數デゴザイマス、次ニ中村君ノ「右ノ外總テ」ト云フ字ヲ「其他」ト修正スルニ付テ贊成ガアリマスカラ之ニ付テ決ヲ採リマス中村君ノ說ニ贊成ノ方ハ起立ヲ請ヒマス
起立者少數
議長(西園寺侯)
少數デゴザイマス、本條ニ付テハ直ニ確定ノモノト認メマシテ次ノ三十四條ニ移リマス
(書記朗讀)
第三十四條 裁判所ニ於テ選定シタル管理人ハ管理行爲ノミヲ爲ス權限ヲ有ス但他ノ行爲ヲ必要トスルトキハ裁判所ノ許可ヲ得テ之ヲ爲スコトヲ得
不在者カ其管理人ノ權限ヲ定メ置カサリシトキ亦同シ
不在者ノ生死分明ナラサル場合ニ於テ其管理人カ定メ置カレタル權限外ノ行爲ヲ必要トスルトキハ裁判所ノ許可ヲ得テ之ヲ爲スコトヲ得
小中村淸矩君
此三十四條ノ三項中ニ「定メ置カレタル」云々トアリマスガ、之ヲ「定メ置キタル」ト云フ事ニ修正ヲシタイト思ヒマス
横田國臣君
只今ノ說ニ贊成致シマス
梅謙次郎君
一寸只今ノ修正案ヲ御提出ノ御方ニ伺ヒタイ事ガゴザイマス、斯樣ニ「定メ置カレタル」トスルノモ甚ダ面白クナイヤウニハ思ヒマスケレドモ、併シ之ヲ「定メ置キタル」ト云フ事ニスルト、何ンダカ管理人ガ定メ置キタルト云フヤウナ意味ニナリハシナイカト云フ疑ヒガアリマス、無論然ウ云フヤウナ意味デナク、之ハ不在者ノ方デ定メ置キタト云フ意味ニナラヌト困マルノデゴザイマスガ、如何デゴザイマセウ
小中村淸矩君
夫レナラ宜シイノデアリマス
高木豐三君
夫レデハ私ハ之ヲ「其管理人カ不在者ノ定メ置キタル權限外」ト云フコトニ修正ヲ致シタイト思ヒマス
横田國臣君
贊成致シマセウ
末延道成君
是ハ「定メ置カレタル」ト云フノヲ削除シテ「管理人カ權限外」云々トシテハ如何デセウカ
梅謙次郎君
夫レハこちらノ方デモ何ウカ然ウシタイト云フ考ヘヲ持テ居リマシタガ、夫レデハ少シ差支ガアリマス、一項ニ以テ參ツテ裁判所ニ於テ選ンダ管理人ノコトヲ規定シテ仕舞ツテ、其場合ニハ一般ノ管理行爲ノミシキヤ出來ナイケレドモ、若シ外ノ行爲ガ必要デアレバ裁判所ノ許可ヲ得テ爲ス事ガ出來ルト書イテアル、所ガ不在者ガ定メ置イタ管理人デ其權限ヲ定メ置イタモノガアル、其時ハ其權限丈ケシキヤナイ、其權限ハ持ツケレドモ管理人ハ定メ置イタガ其權限ヲ定メ置カナカツタ時ハ矢張リ第一項ノ規定ヲ適用スルト云フ事ニナル、又第三項ニ至ツテハ矢張リ不在者ガ定メ置イタ管理人デアツテモ不在者ガ生キテ居ルト云フコトガ確カデアレバ自分デ權限ヲ狹クシタイト思ヘバ狹クスルコトガ出來ルガ、若シ其生死不分明デアレバ仕方ガナイカラ、其時ハ裁判所ニ請求シテ不在者ノ定メテ置イタ權限外ノ事ガ出來ルト云フコトデアルデス、斯ウ云フ事デアリマスカラ唯權限外ト云フ丈ケデハ少シ足ラヌト思ヒマスガ
星亨君
矢張リ三項デ「分明ナラサル場合ニ於テ」トアル下ノ「其」ト云フ字ヲ取ツテ「管理人カ」ノ下ニ「其」ヲ入レテハ何ウデセウカ
高木豐三君
「不在者ノ生死分明ナラサル場合ニ於テ」ト云フ事ト「定メ置カレタル權限外」云々ト云フ事トハ全ク縁ガ切レテ居リマス、夫レデ何ウモ文章ノ上ニ於テ「定メ置カレタル」ト云フコトハ誰ガ定メテ置カレタルト云フ事デアルカ文章ニナイカラ分ラナイ、夫レデ私ガ前ニ出シタヤウナ修正案ニスレバ一向差支ハナイト思ヒマス
議長(西園寺侯)
決ヲ採リマス只今ノ高木君ノ說ニ贊成ノ方ハ起立ヲ請ヒマス
起立者多數
議長(西園寺侯)
多數デゴザイマス
磯部四郎君
此三十四條ノ三項ノ場合ハ不在者ガ管理人ヲ設ケテ之ニ權限ヲ托シテ置イタ其場合デアリマセウカ
梅謙次郎君
然ウデゴザイマス、之ハ「不在者ノ定メ置キタル」ト直ホリマシタガ、之ハ第二項ノ場合ヲ受ケタノデアリマス
磯部四郎君
夫レナラバ如何ニモ「不在者ノ、不在者」ノト云フヤウニナリマスカラ「場合ニ於テ」ノ下ヲ「其管理人カ委任ヲ受ケタル權限外」云々ト云フ修正說ヲ出シタイト思ヒマス
山田東次君
私ハ修正デナイ質問デゴザイマスガ、今ノ末項ノ所ハ不在者ガ定メテ置イタ時デゴザイマスガ、若シ不在者ガ定メモ何モセズ其上ニ生死ノ分明ナラザル時ハ何ウナリマスカ
梅謙次郎君
生キテ居ルコトガ知レテ居ツテモ第二項ヲ適用スルノデアリマス、況ンヤ生キテ居ルカ死ンダカ知レナイ場合ニハ勿論第二項ガ嘗田ルノデアリマス
議長(西園寺侯)
他ニ御發議ガナケレバ本條ハ確定ト認メテ次ノ三十五條ニ移リマス
(書記朗讀)
第三十五條 裁判所ハ管理人ヲシテ財產ノ管理及ヒ其返還ノ擔保ヲ供セシムルコトヲ得
裁判所ハ管理人ト不在者トノ關係其他ノ事情ニ依リ不在者ノ財產ノ中ヨリ相當ト認ムル報酬ヲ管理人ニ與フルコトヲ得
議長(西園寺侯)
本條モ別段ニ御發議ガナケレバ直チニ確定ノモノト認メマシテ次ノ三十六條ニ移リマス
(書記朗讀)
第三十六條 十年間不在者ノ生死不分明ナルトキハ利害關係人ハ失踪ノ宣言ヲ請求スルコトヲ得
戰地ニ臨ミタル者、沈沒シタル船舶中ニ在リタル者其他死亡ノ原因タルヘキ危難ニ遭遇シタル者ニ付テハ戰爭ノ止ミタル後、船舶ノ沈沒シタル後又ハ其他ノ危難ノ去リタル後三年間生死不分明ナルトキ前項ノ請求ヲ爲スコトヲ得
阿部泰藏君
一寸質問致シタウゴザイマス、此「十年間不在者」云云トアリマスガ、之ハ十年間不在ト云フノデアリマスカ又ハ十年間生死不分明ト云フコトニナルノデアリマスカ
梅謙次郎君
是ハ無論十年間生死不分明ト云フ積リデゴザイマス
阿部泰藏君
然ラバ私ハ此文字ヲ修正致シマス「不在者十年間生死不分明ナルトキハ」ト云フ事ニシタイ、之デハ不在ト云フ字ニモ係ルヤウニナリマシテ第二項ノ三年間生死不分明ト云フ事トモ違フヤウニ見ヘマス、夫レデ斯ウスレバ第二項ノ文字トモ同ジヤウニナリマス
磯部四郎君
阿部君ノ說ニ贊成ヲ致シマス
末延道成君
私ハ此十年間ノ「十」ノ字ヲ六年ノ「六」ト改メタイ、之ヲ永クシタ理由ガ段々參考書ニモ見ヘルガ、此項ハ大變ニ交通ガ外國ヘモ便利ニナツテ内國人デモ外國ヘ往ク人ガ多イカラ夫レデ永クシタ理由ダト云フ御話シデアリマスガ私ハ此交通ノ繁クナツタト云フ理由ハ寧ロ之ヲ短クスルノ理由ト思ヒマス、又外國ニモ斯ウ云フ例ハ英吉利ニモ何處ニモ六年トカ若クハ七年トアルヤウデアリマスガ、其例ヲ見マシテモ之ハ皆餘程前ニ極マツタ年數ガ今日迄續イテ居ルヤウナ有樣デアリマス、多クハ帆前船ヤ或ハ汽車抔デ旅ヲセズ車ヤ馬車デ旅ヲスル時代ニ定メタモノガ今日迄夫レナリニ續イテ居ルヤウナ有樣デ、今日是等ノ諸國ガ新ニ法律ヲ作ルナレバ必ズ短クシタデアラウト思ヒマス、今日ハ最早世界中デモ大抵六十日間モ立テバ郵便ガ屆カヌ所ハナイト云フ位ニ交通ガ繁ク且早クナツテ居ル、此交通ノ繁ク且早クナツタノハ之ヲ延バスノ理由ニハナラヌ、却テ短縮スル理由ニナツテ居ル、夫レデ旣成法典ニモ六七年、五年ト云フコトモアリマスカラ其間ヲ取ツテ六年ト云フコトニシタイ
箕作麟祥君
只今阿部君ノ修正說ガアリマシタガ夫レデモ宜シイカモ知レマセヌガ、成程阿部君ノ言ハルル如ク、「十年間不在者」ト云フコトハ何ウモ前カラ不分明ト思ツテ居リマシタガ、第二項ト並ベルト云フ事ハ至極御尤デアラウト思ヒマスガ、第二項ハ何何シタル後「三年間」云々トアリマスカラ何ウモ此處ハ斯ウナラナケレバナラヌト思ヒマスガ、一項ハ今ノ御說ハ面白クナイト思ヒマス、夫レデ私ハ「不在者ノ生死十年間不分明ナルトキハ」トシタイ、斯ウ致シマスレバ阿部君ノ御疑ヒモ自ラ解ケルダラウト思ヒマス
小中村淸矩君
贊成
田部芳君
贊成
阿部泰藏君
夫レデハ私モ說ヲ引キマシテ箕作さんノ御說ニシマス
磯部四郎君
夫レデハ私モ阿部君ノ修正說ニ贊成スル事ハ引キマス
淸浦奎吾君
私ハ箕作さんニ贊成デゴザイマスガ、序ニ箕作さんニ御相談ヲシタイコトハ、比處モ「不在者ノ生死十年間分明ナラサルトキハ」トシテハ如何デゴザイマセウカ、「不在者ノ生死不分明」ト云フコトハ或ハ明瞭カモ、知レマセヌガ、前ノ第三十三條ニ「不在者ノ生死分明ナラサル場合ニ於テ」云々トアリ、第三十四條ニモ「不在者ノ生死分明ナラサル場合ニ於テ」云々トアリマスカラ、之モ同樣ノ書キ方ニシテハ如何デゴザイマセウカ
箕作麟祥君
夫レハ氣ガ付キマセヌデゴザイマシタガ淸浦君ノ相談ハ至極御尤モト思ヒマスカラ其通リニ致シマス
梅謙次郎君
只今箕作さんノ修正說ニ付テ復淸浦さんノ修正說ガ出マシタガ私共ニ於テモ贊成ヲ致シマス、私共ハ此處ハ度々書キ替ヘタノデアリマスガ何ウモ面白ク往キマセヌデアリマシタ、夫レデ只今ノ御說ハ宜シイト思ヒマス
山田東次君
私ハ第二項ノ中ニ「其他死亡ノ原因タルヘキ」云々ト云フコトガアリマスガ、此「死亡ノ原因タルヘキ」ト云フノヲ削除致シタイ、之ハ却テ無イ方ガ宜シイト思ヒマス、併シ之ガ無ケレバ起草者ニ於テ餘程差支ヘルト云フ理由ガアレバ其理由ヲ承リタイ
梅謙次郎君
夫レハ差支ヘルダラウト思ヒマス、阿故ナレバ唯危難ト云フト上カラ石ガ轉ロガツテ來タトカ木ガ飛ンデ來タトカ云フノモ危難デゴザイマス、先ヅ通常然ウ云フコトヲ云フノデナクシテ、何カ地震トカ或ハ火事デモ隨分大火抔ニナルト劇場カラ火ガ出タ時ニハ能ク人ガ死ヌ、或ハ洪水ノ時ニハ人ガ流サレル、然ウ云フ場合ヲ重モニ見タヤウナ譯デ唯危難ト云フト何ンデモ這入ルヤウデ少シ廣ロ過ギテ面白クナイカラ斯ウシタノデアリマス
箕作麟祥君
只今淸浦さんカラ御說ガアツテ一項ノ方ノ「不分明」ト云フノヲ「分明ナラサル」ト云フコトニシマシタガ、二項ノ三年間トアル所モ矢張リ「分明ナラサルトキハ」トシタイト思ヒマス
梅謙次郎君
夫レハ言フヲ俟タザルコトデアリマス
箕作麟祥君
私ハ言フヲ俟タザルコトデモ念ノ爲メニ云フテ置ク
磯部四郎君
私ハ此第二項ノ中ノ「其他死亡ノ原因タルヘキ」云々トアルノヲ「其他死亡ヲ推測スヘキ危難」云々ト云フコトニ改メタイト思ヒマス
穗積八束君
一寸質問致シマス、此「十年間生死不分明」ト云フコトハ勿論不在者ノ年齡ニハ無關係デアツテ譬ヘバ赤ン坊ガ十年間不在デアツテモ又七、八十ノ老人ガ十年間不在デモ矢張リ同ジデスカ
梅謙次郎君
如何ニモ左樣デゴザイマス之ハ外國ニハ色々例ガアリマスガ、吾々ノ間ニ於テモ餘程考ヘテ見マシタガ、何ウモ若イ者ハ長生キヲスル年寄ハ早ク死ヌルト云フコトモ斷言ハ出來マセヌ、夫レデ七十年トカ二十年未滿トカ年齡ヲ極メルニシテモ詰リ杓子定規デ、夫程ノ理由モ發見シマセヌカラ、寧ロ同等ニシタ方ガ宜シイト云フノデ、年齢ニ拘ラズ十年間トシタノデアリマス
山田東次君
成程唯危難ト云フト上カラ石ガ轉ロガツテ來タト云フコトモ危難ト云フ事ニナツテ、後トデ裁判官ガ適用上ニ危難ト云フ範圍ニ付テ困ルコトモアリマセウカラ私ハ前キノ「死亡ノ原因タルヘキ」ト云フ事ハ面白クナイト思ヒマシテ、之ヲ削除スルノ說ヲ出マシタガ、尙ホ改メマシテ「其他死亡ヲ致スヘキ危難ニ遭遇シタル者ニ付テハ」云々ト云フ事ニ修正シタイト思ヒマス
磯部四郎君
私ハ夫レニ贊成致シマス
議長(西園寺侯)
然ウスルト箕作さんノ方カラ採リマセウカ、此方ハ殆ド全一般デ極ツテ居ルヤウデハアルガ
土方寧君
二項ノ所ハ何ウナリマスカ
梅謙次郎君
夫レモ矢張リ「分明ナラサルトキ」トナリマス
議長(西園寺侯)
然ラバ決ヲ採リマス、只今ノ箕作君ノ說ニ贊成ノ諸君ハ起立ヲ請ヒマス
起立者總員
議長(西園寺侯)
起立滿場デアリマス、次ハ山田君ノ修正デ「其他死亡ヲ致スヘキ危難ニ遭遇シタル者ニ付テハ」云々ト修正スルト云フコトニ贊成ノ諸君ハ起立ヲ請ヒマス
起立者少數
議長(西園寺侯)
少數デゴザイマス
田部芳君
夫レデハ私ハ之ヲ「其他死亡ヲ來タスヘキ危難ニ遭遇シタル者ニ付テハ」云々ト云フコトニ修正シタイト思ヒマス
星亨君
贊成
議長(西園寺侯)
夫レデハ只今ノ田部君ノ說デ「死亡ヲ來タスヘキ」云々ト云フ事ニ修正スルト云フ之ニ贊成ノ諸君ハ起立ヲ請ヒマス
起立者少數
議長(西園寺侯)
少數デゴザイマス
穗積八束君
私ハ場合ニ依テハ末延君ニ贊成シヤウト思ヒマスガ、一寸末延君ニ伺ツテ置キマス、何ニカ年齡ニ依テ區別スルヤウナコトハナクテ大概若イ者ダカラ六年デモ宜イト云フコトデハアリハシマセヌカ
末延道成君
然ウ云フ積リデハナカツタノデアリマス
議長(西園寺侯)
他ニ御發議ガナクバ次ノ條ニ移リマス
(書記朗讀)
第三十七條 失踪ノ宣言ヲ受ケタル者ハ前條ノ期間滿了ノ時ニ死亡シタルモノト看做ス
議長(西園寺侯)
本條モ別段御發議ガナケレバ確定ト認メマシテ次ノ條ニ移リマス
(書記朗讀)
第三十八條 失踪者ノ生存セルコト又ハ前條ニ定メタル時ト異リタル時ニ死亡シタルコトノ證明アルトキハ裁判所ハ本人又ハ利害關係人ノ請求ニ因リ失踪ノ宣言ヲ廢棄シ又ハ之ヲ變更ス但失踪ノ宣言アリタルヨリ其廢棄又ハ變更アルマテニ善意ヲ以テ爲シタル行爲ハ其效力ヲ變セス
失踪ノ宣言ニ因リ財產ヲ得タル者ハ其廢棄又ハ變更ニ因リ權利ヲ失フモ現ニ利益ヲ受クル限度ニ於テノミ其財產ヲ返還スル義務ヲ負フ
磯部四郎君
此處ニ「變更ス」トアリマスガ之ニ付テ說明ヲ願ヒマス、變更スルト云フノハ何ウ云フコトデアリマスカ
梅謙次郎君
是ハ實ハ主査會ニ於テ修正說ガ通過シタノデアリマス、吾々ノ說ハ少數デ負ケタノデアツテ發案者ノ方ガ能ク知ツテ居ラレマスガ私ガ了解シテ居ル事丈ケヲ申シ上ゲマス、若シ間違ヒ又ハ足ラザル所ガアリマシタナラバ起案者卽チ修正案ノ提出者ノ方カラ補ヒ又ハ御說明ノアルヤウニ望ンデ置キマス、私共ノ解シマシタル所デハ變更ト云フコトハ、假令ヘバ後トカラ死ンダト云フ證據ガ出タノデアル、死ンダコトハ死ンダケレドモ前條ニ依テ失踪ノ宣言ガ效力ヲ有スベキトキニハ死ナナイ、夫レヨリハ前ニ死ンダトカ或ハ後トカラ死ンダト云フヤウナ事ガアル、或ハ又失踪中ハマダ不分明デアルケレドモ今ノ失踪ノ年限、卽チ十年ナラ十年、三年ナラ三年、此年限ノ日數ヨリカモ後チニナツテマダ生キテ居ツタト云フ證據ガ出ル、夫レカラシテ今度ハ又新ニ期間ノ計算ヲスルト云フ然ウ云フ事ヲ言ツタモノダト云フ事デゴザイマシタ
磯部四郎君
然ウ致シマスト兎ニ角變更ニナルト云フト前ノ宣言ハ廢シニナルノデゴザイマセウネ
梅謙次郎君
甚ダ無責任ノヤウデハアリマスガ然ウダラウト思ヒマス
磯部四郎君
只今此「變更ス」ト云フノ文字ノ講釋ヲ聽クト大變六ケ敷イト思ヒマスカラ是ハ變ヘタイト思ヒマス要スルニ更ラニ宣言スル譯ニナルノデアレバ無用ノ長文ト考ヘマスカラ第一項中ノ「シ又ハ之ヲ變更」ト云フ七字幷ニ「又ハ變更」ノ四字、夫レカラ第二項ノ「又ハ變更」ノ四字、是等ノ文字ハ總テ無用デアルト思ヒマスカラ削除スルト云フ意見ヲ提出致シマス
箕作麟祥君
私ハ此箇條ハ諸君ノ參照トシテ廻ツテ居ル卽チ始メ起草委員ノ起草セラレタ舊原案ニ全ク復サウト云フ案ヲ出シマス、此前ノ主査會ニ於テ本條ノ如ク修正ニナリマシタケレドモ、能ク考ヘテ見ルニ、前條デ「失踪ノ宣言ヲ受ケタル者ハ前條ノ期間滿了ノ時ニ死亡シタルモノト看做ス」ト云フ事ニナツテ居リマス、前條ト異ツテ居ル時ニ死亡シタト云フ證據ガ有ツタトキニハ、又其本人ヤ何カノ請求デ以テ一旦宣言シテモ其宣言ヲ廢棄シ又ハ變更スルト云フトキニ縱令ヒ後ニ復タ裁判デ以テ夫レヲ廢棄シ變更シナケレバナラヌト云フヤウナ事ハやつて出來ナイ事モアリマスマイガ、夫レヨリハ前條ノ期間滿了ノ時ニ死亡シタモノト看做スガ、併ナガラ其前條ト異ツタ時ニ死亡シタト云フ證據ガ後日出タ時ニハ則チ一旦失踪ヲ宣言シマシタ其宣言ト云フモノハ當然效力ヲ失フト云フ事ニスルノハ至當ノ話シデアラウト思フ、夫レヲ何ンデモ本人ガ何カノ請求デ一旦宣言ヲシタノヲ其宣言ヲ廢棄又ハ變更スル時ニモ亦裁判デ以テ宣言シナケレバナラヌト云フ煩雜ナル事ハ無用デアラウト思ヒマス、夫故ニ私ハ本條ハ總テ舊原案卽チ起草委員ノ起草セラレタ案ノ通リニ復活スルコトヲ希望シマス
岡村輝彦君
此處ハ專ラ行爲ノミノ規定ニナツテ居リマスガ、假令ヘバ婚姻ヲシタ妻ガ其夫ノ行爲ヲ失踪ト認メラレタ後ニ他人ニ婚姻ヲシタト云フヤウナ場合ハ別ニ御規定ニナルノデアリマスカ、之ハ最モ大切ナコトト思ヒマスカラ伺ツテ置キマス
梅謙次郎君
勿論此失踪ノ場合ニハ其失踪ノ宣言ノ有ルマデハマダ生キテ居ルモノト看ル、失踪ノ宣言ガアルト云フト、卽チ此三十七條ノ規定ニ依テ死ンダモノト看ル、斯ウ云フコトニナルノデゴザイマス、其規定ハ矢張リ人事ニモ當嵌メルノデアリマスガ、併ナガラ離婚ニ付テハ旣成法典ニモ特別ナル規定ガアリマシテ、三年間生死不分明デアレバ離婚ヲ請求スルコトガ出來ルト云フコトハ、三年間デモ其年限ハ何ウデモ宜イノデスガ、何ニカソンナトキノ規定ハ必要デアラウト思ヒマス、然ウスレバ三年間生死不分明ナレバ妻ハ離婚ヲ請求スルコトヲ得ル、併シナガラ夫レハ自分ノ考ヘデ離婚ヲシナイデ居ルナレバ生キテ居ルモノト見テ離婚ヲシナイデ他人ト婚姻スルコトハ出來ナイ、斯ウ云フ事ニナル、尙ホ序ニ箕作さんノ只今ノ說ニ贊成致シマス、之ハ此前ノ主査會ノトキニハ脆クモ敗ヲ取リマシタケレドモ何ウモ此原案ノ通リデハ色々ナ不都合ガ起ラウト思ヒマス、現ニ生キテ其處ヲ歩イテ居ル者ヲ此者ハ死人デアルト見ルノハ如何ニモ不都合ナ話シデアリマス、併シ法律上デハ然ウ云フコトハ幾ラモアリマスケレドモ、夫レハ必要ガアレバ止ムヲ得マセヌガ一向必要ハナイ、證據ニ付テ爭ヒアレバ必ズ裁判所ニ出ナケレバナラヌノデアリマスカラ、明カニ其者ガ生キテ歩イテ居レバ、假令ヘバ私ナレバ私ガ何處ニ往ツタカ分カラナイデ居ツタガ、十年間立ツテ歸ツテ來タ、誰ガ見テモ梅謙次郎ト云フコトガ分カリマスカラ、然ウ云フ時ハモウ裁判所ニ出ナクモ宜イノデアリマス、夫レダカラ之ハ舊ノ原案通リニ復サレンコトヲ希望スル、尤モ文字ハ何ウデモ宜シイガ、例ヘバ此前ニ「證據出ツルトキハ」ト云フノハ穩カデナイト云フヤウナ御說モアリマシタカラ、之ハ或ハ「證據分明ナルトキ」ト云フヤウナ事ニナツテモ宜シイト思ヒマス、此修正案ノ主義デハ如ニモ面白クナイヤウニ思ヒマス、御參考ノ爲メニ申シマスガ、此通リノ主義ハ外國ニハアリマセヌ、唯獨逸ノ草案ニハ幾ラカ夫レニ類似ノヤウデハアルガ手續ハ丸デ違ヒマス、公示催告手續ヲ採用シテアリマスカラ手續ハ違ヒマス、其外此處ニ引イテアル法律ハ皆證據ガアレバ失踪ハ當然其效力ヲ失フト云フ規定ニナツテ居リマス、矢張リ外國ニ於テモ其方ガ便利デアルト思ツタカラ然ウ云フヤウナ事ノ規定ニナツテ居ルト私共ハ思ヒマス、夫故ニ何ウカ箕作さんノ說ガ通過スルヤウニ希望致シマス
山田東次君
私モ主査會ノ時ノ原案ニ復活スルコトヲ望ム者デアリマスガ、先ヅ之ニ復活スル事ニナツテ、而シテ後チニ文字丈ケニ付テ修正案ヲ出スコトハ差支ハアリマセヌカ
議長(西園寺侯)
夫レハ出セマス
山田東次君
夫レデハ先ヅ私ハ復活問題ニ贊成シテ置キマス
高木豐三君
私ハ前回ニ於キマシテモ、此問題ノ提出者デハアリマセヌガ贊成者ノ一人デゴザイマシタガ、今夜ハ不幸ニシテ同論者ガ甚ダ少ナイ、然ル時ニ箕作さんデゴザイマシタカ、舊トノ原案ニ復スルト云フ御說ガ出マシテ起草者ハ無論之ニ御贊成ノ筈デアリマスガ、議長ニモ無論御贊成ノヤウデアリマスガ(此時「西園寺大贊成」ト呼ブ)夫レハ議場ノ有樣デアリマスカラ何ウナルカハ知レマセヌガ、我々ハ唯無暗ニ理由ナシニ斯ウ改正ヲシタト云フコトニ思ハレテハ困リマスカラ其旨趣丈ケヲ陳ベテ置キマス、就キマシテ諸君ハ先ヅ第一ニ舊トノ原案ノ第四十條ト云フモノヲ御一讀ヲ願ヒタイ、之ヲ讀メバ失踪者ガ生キテ居ルト云フ事、又ハ前條ニ定メタル期間、卽チ十年ノ中若クハ三年ノ中デナイ、其外ノ時ニ死亡シタト云フ事ノ證據ガ出タトキニハ何ニモセズトモ失踪ノ宣言ハ當然其效力ヲ失ウ、卽チ然ウナクテハナラヌト云フヤウニ、今箕作君ガ言ハレタ如クニ何事ヲ爲サヌデモ證據ガ出タ時ニハ其效力ガ無クナツテ仕舞ウト云フ斯ウ云フ原案デアル、然ルニ我々ガ之ニ反對シタル理由ハ二ツアル、其第一ニ「證據出ツルトキハ」ト云フコトガアル、證據ト云フモノハ何ウ云フモノデアルカ、今梅君ノ言ハレタノハ都合ノ宜イ例ヲ出サレマシタガ、生キテ歸ツテ來タ、目ノ前ニ歩イテ居ル、之デモ死ンデ居ルト云フ事ガ言ハルルカト云フコトハ誠ニ都合ノ宜イ例デアルガ、併ナガラ證據ト云ツテモ書面ノ證據モ有ル、假令ヘバ何之某ハ亞米利加デ生キテ居ル、現在私ガ見テ來タ、其人ノ書イタ書面モ持ツテ居ルト言ツテ其書面ヲ出シタ卽チ是モ一ノ證據ト見タナラバ何ウデアリマセウ、あの人ガ確カニ亞米利加デ見テ來タカラ生キテ居ルノデアルト云フ事デ當然裁判所ノ宣言ノ效力ガ無クナルト云フノハ實ニ危險デアルト云フノガ一ツ、第二ニハ苟クモ裁判官ガ裁判權ヲ以テ宣言シタル事柄ガ唯其外ノ事柄ガ出テ來タ、卽チ一ノ證據ト名ヅクル所ノモノヲ以テ裁判所ノ一旦宣言シタ、其宣言ノ效力ガ當然消滅スルト云フノハ何ウ云フモノデアラウカ、決シテ然ウ云フ理窟ハナイ、夫レデ箕作先生ノ言ハレタルニハ手數ト云フ事デアルガ、此手數ト云フ事ハ如何ニモ修正者ハ固ヨリ承知デアル、夫レハ承知デアリマスルガ、今申シタル如ク、證據ガ出タト云ツテモ夫レヲ誰ガ證據ニ力ガ有ルカ無イカト云フコトヲ判斷スルノデアルカ、是ヲ判斷スル者モ無イ、又裁判所ノ宣言ノ效力ヲ勝手ニ無クシテ仕舞フト云フコトハ如何ニモ理窟ニ合ハヌ事柄デアル、モウ一ツ言ヘバ梅君ノ言ハレタ所ノ現ニ當人ガ歸ツテ來タ、成程其本人ヲ知ツテ居ル人ハ宜カラウガ知ラナイ人ニ以テ往ツテ此人ガ死亡ノ宣言ヲ受ケテ居ル人デアルト言ハレテモ果シテ然ウデアルカ分ラナイ、若シ知ラナイ人デアレバ或ハ人違ヒデアルヤラ何ウヤラ分カラヌ、生キテ居ルヤラ死ンデ居ルヤラ分カラナイト云フ事ガ言ハレルノデアリマス、然ルニ此法文通リデハ或ハ違ツタ人ヲ連レテ來テ死亡ノ宣言ヲ受ケタ人ハ此人デアル、確カニ己レガ證人ニナルト云フヤウナ事ヲ言フタ時ニハ其宣言ノ效力ハ當然消滅スルト云フ事ニナツテ來ル然ウ云フ事ハ不都合デアル、夫レデ夫等ノ弊ヲ避ケルガ爲メニ此原案ノ如ク死亡シタ事ノ證明ガアル時ハ其證明ハ何處デスルノカト言ヘバ裁判所ニ於テ確カナル證明アリト認ムル時ハ裁判所ハ本人又ハ利害關係人ノ請求ニ依リ前ノ失踪ノ宣言ヲ廢棄シタリ又ハ變更スルト云フノデアル、夫レデ此變更ト云フコトニ就テモ疑ヒガ有ルヤウデアリマシタガ、上ノ廢棄ト云フノハ梅君ノ言ハルル通リ、現在當人ガ生キテ居ルト云フ證據ノアツタ時ハ裁判所ハ夫レヲ廢棄シテ仕舞フ、又其死亡ノ時ガ違ツテ來タト云フ場合ニハ矢張リ其死亡ノ宣言ヲ變更スルノデアル、早ク言ヘバ其時期ヲ改正スルノデアル、卽チ前ノ宣言ヲ變更スル、斯ウ云フ旨趣デアリマス、故ニ我々ハ唯無闇ニ多數ヲ頼ンデ無茶苦茶ニ舊トノ原案ヲ押潰シタト云フノデハナイノデアリマスカラ此段ヲ申シテ置キマス
磯部四郎君
一寸質問スルガ、私ハ舊トノ四十條ノ法文ハ大變宜イト思ヒマスガ、斯ウ直ホリマシタカラ迚モ舊ニ復スル事ハ出來ヌト思ツテ只今ノ變更等ニ付テ修正案ヲ出シマシタノデスガ、尙ホ伺ヒマスルノハ舊トノ原案ノ四十條ノ意味デゴザイマスガ、只今高木君ノ御說明ニ依レバ證據サヘ出レバ夫レデ以テ直グニ其效力ヲ失フト云フノ意味合ヒデアルト云フ事デゴザイマスガ、果シテ然ウデアルカ、私共ノ考ヘルニハ生存シテ居ルトカ、或ハ未ダ失踪者ガ生キテ居ルモノカ又ハ失踪者ノ死亡シタ時期ガ異ツテ居ルモノデアルカ否ヤト云フ事ノ證據ノ確カニナルノハ之ハ裁判ノ上ノ事デアラウト思ヒマス、生死ガ定マリ其上時期ガ定ツテ後チ始メテ其事ガ裁判上確カニナツテ始メテ失踪ノ宣言ト云フモノガ效力ヲ失ウト云フノデアツテ、唯事實何某ガ生キテ居ル唯事實何某ガ死ンダト云フ其死ンダ時期ノ異ツテ居ルト云フ事丈ケデ、唯世上ノ評判丈ケデ其效力ヲ失フト云フ事ハナイト思フテ此四十條ノ法文ヲ讀ンデ居リマシタガ是ハ何ウ云フ意味合ヒナノデゴザイマシタカ、一寸意味合ヒヲ承リタイ
梅謙次郎君
舊トノ原案デハ「證據出ツルトキハ」トアツタノデゴザイマスガ、是ハ文字ガ面白クナケレバ變ヘテモ宜シイガ、其考ヘハ誰レモ能ク知ツテ居ル人デ、其人ガ其處ヘ歸ツテ來テ居ル、誰モ疑ヒヲ容レヌ、實際ニ於テ斯ウ云フ問題ノ起ルノハ、例ヘバ失踪ノ宣言ヲ受ケタ、爲メニ死ンダモノト見ル、其爲メニ相續人ヲ置ク、其外ノ人ハ關係ハナイガ相續人ハ大キニ利害ノ關係ガ有ル、其處デ其本人ガ目ノ前ニ出テ來タ時ニ、若シ相續人ガ惡イ人デナケレバぬしハ御歸リカ夫レぢやあ私ノ相續シテ居ツタ財產ハ御返ヘシ申スト云フノデ夫レデ濟ム事ニナリマスガ、然ウ云フ場合ニ於テ若シ此原按ノ通リデアツタナラバ是非裁判所ニ出ナケレバナラヌト云フ事ニナル、舊トノ四十條デアルト、裁判所ニ出ナクモ濟ム、併ナガラ高木君ノ言ハレタ如キ多少爭ヒノ起ツタ時ニハ夫レハ裁判所ニ出テ證據ガ明カニナルノデアリマスガ、何時モ、裁判所ニ出テ決定ヲ受ケルマデハ假令ヒ其本人ガ目ノ前ニ生キテ歩イテ居ツテモ死ンダモノト見ルト云フノハ大キニ不都合デアラウ、又弊害モアラウ、併シ此四十條ト云ツテモ裁判所ニ出ル事モアリマスガ、多クノ場合ニ於テハ裁判所ニ出ヌデモ然ウ云フ事ニナルノガ旨趣デアリマス、序ニ一寸申シテ置キマスガ、此文字ノ所ハ此前ニモ穩カデナイト云フ御論ヲ承ツテ吾々ニ於テモ御尤モト思ツタ點モアリマスデ、充分ニ考ヘテ見タイノデアリマシテ、此處デ卽席ニ議決シテモ後トデ差支ヲ來タスヤウナ事ガアツテハ往ケマセヌカラ、此處デ幸ニ舊トノ原按ノ如ク復活スルト云フコトニナツタナラバ、此文字ノ所ハ今迄ニモ例ノアツタ事デアルカラ、假リニ議決シテ置イテ、此次ノ總會ノ始メ迄ニ吾々モ充分考ヘテ、是レヨリ宜イ文章ヲ考ヘテ夫レヲ持テ出テ諸君ノ御目ニ懸ケル、尙ホ今日諸君ニ於テ此處ガ斯ウデアツテ往カヌト云フ御考ヘガ付テ居レバ御示シヲ願ヒマシテ、夫レヲ承ツテ直ホスベキ所ハ直ホシタイ考ヘデアリマスカラ、何ウカ然ウ云フ事ニシテ復活ニナランコトヲ望ミマス、夫レデ再ビ起チマスルト徒ラニ時ヲ費シマスカラ序ニ高木さんノ御說ヲ駁シテ置キマス、今迄主査會ニ出タノヲ今高木君カラ出マシタカラ簡單ニ申サウト思ヒマス、高木君ノ金城鐵壁トシテ言ハレル所ハ、詰リ裁判所デ宣言シタモノハ突然或事實ガ生ジタカラト云フテ其爲メニ當然效力ヲ失フテ仕舞ウト云フコトハ甚ダ穩カデナイ、裁判所デ一旦宣言シタモノナレバ亦裁判所ノ行爲ニ依ラナケレバ之ヲ取消スコトハ出來ナイト言ハレマシタ、ケレドモ是ハ必ズ然ウデナクテハナラヌト云フコトモナイト思ヒマス、通常ハ然ウカモ知レマセヌケレドモ、併ナガラ此處ノ一體失踪ノ宣言ト云フモノハ性質上そんなノデアツテ、前ノ三十七條ニ於テハ死亡シタルモノト看做スト云フ性質ノモノデアツテ、斯ウ云フコトト明カニ定メタノデナク唯看做スト云フ性質デアツテ、卽チ次ノ箇條ニ依テ此決定ト云フモノハ反證ヲ許スト云フ決定デアルト云フコトヲ始メカラ言ハバ條件付デアリマスカラ、其條件ガ到來スレバ其決定ノ效力ガ無クナツタ所ガ少シモ可笑クナイ、夫レカラモウ一ツハ唯證據ガ出ルト言ツタ所ガ其證據ハどんなモノカ、假令ヒ一人リノ者ガ證據ガ出タト信ジテモ他ノ人ガ夫レハ證據デアルマイト言フコトモアラウ、夫レデ唯一人リノ人ガ證據デアルト言フタ所ガ當テニナラナイト云フ御話デアリマス、之ハ如何ニモ御尤モノヤウデハアリマスケレドモ、夫レハ私ノ言フタヤウナ證據ノ性質ノ明カデナイ時ノ例デアル、然ウ云フヤウナ事ガアレバ必ズ實際ニ於テハ爭ヒガ起ル、私ノ先キニ申シタヤウナ例デ其相續人ガ聞カナイ、御前ハ何某デアルト云ツテモ私ハ然ウハ思ハナイトカ、唯人カラ傳聞シタノミデハ當テニナラヌト云フヤウナ時トカ、又一旦自分ガ相續シタモノヲ夫レヲ本人ガ歸ツタト云フテ本人ガ出シテ呉レト云ツテモ容易ニをいそれト言ツテ出シテ呉レヌト云フヤウナ場合、然ウ云フ場合ニハ必ズ爭ヒニナツテ裁判所ニ出ルヤウニナルデゴザイマセウ、ケレドモ生キテ居ツテ爭ヒモ何モナイ、裁判所ニ出ヌデモ濟ムト云フコトモアル、兎ニ角裁判所ヘ出ヌモノナラバ失踪ノ宣言ノ效力ハ失ハヌト云フコトニシタナラバ爲メニ弊害ガ起ツテ來テ其間ニハ詐欺抔モ行ハレル、詐欺ノ證據抔ト云フモノハ中々擧ゲルノモ六ケ敷イカラ何ウシテモ然ウ云フコトハ成ルベク避ケ得ルヤウニシテ置キタイト思ヒマスカラ、然ウスルニハ矢張リ舊トノ原案ノ如ク復活シタガ宜シイト思ヒマス
土方寧君
本條ニ付テ舊トノ原案ノ四十條ノ通リニ復活シタイト云フ說ガ出テ起草委員モ夫レニ贊成ヲセラレテ其事ニ付テ辯明ガアツタトキニ字句ハ仍ホ能ク考ヘタ上ニシタイガ先ヅ只今ノ議題ヲ舊トノ原案ノ四十條ノ通リニシテ置クカ、又ハ今日ノ原案ノ通リニシテ置クカ孰レカニ極メテ貰ヒタイト云フコトデアツテ、其字句ノ事ニ付テハ幾ラカ考ヘテ見タト云フコトデ例ヘバ「證據出ツルトキハ」トアルノヲ「證明アリタルトキハ」トシテモ宜シイト云フ事デアリマシタガ、併シ左樣ナ事ハ字句ノ修正トハ少シ違フト思ヒマスガ、其字句ニ於テ極メラレナイデ然ウシテどつちカニ極メテ貰ヒタイト云フ事ハ大變ニ迷惑シマスカラ、何ウカ「證據出ツルトキハ」ト云フ事ヲ「證明アリタルトキハ」トシテ宜シイカ何ウカト云フ事ノ御答ヘヲ望ミマス
梅謙次郎君
只今ノ土方さんノ御尋ネノ事ニ付テハ能ク考ヘテ見タコトデアリマスガ、「證明アルトキハ」ト云フコトデハ何ウモ文章上ニモ差支ルヤウデアリマスカラ孰レカ定メラレテ貰ヒタイト云フノデアリマスガ、字句ハ斯ウ云フコトニシテ原文ノ旨趣モ然ウデアツテ又然ウ云フ意味ニ讀メルト思ヒマスガ、其證據モ明カデアツテ利害關係人モ皆證據ト見ルモノガアレバ夫レハ裁判所ニ出ナクモ宜シイケレドモ其利害關係人ガ然ウハ看ヌト言ツテ爭ヒガ起ツタトキニ裁判所ニ出テ極メルト云フ時ノ證據モ卽チ爰ニ謂フ證據ト云フノデ、斯ウ云フ事ニ御承知ヲ願ヒマス
磯部四郎君
私ハ先キノ修正說ヲ取消シテ舊トノ原案ニ復活スルト云フ說ニ贊成致シマス
高木豐三君
私ハ一ツ建議ヲ提出致シマス、其譯ハ只今起草者ヨリ申出デラレタ事柄デアリマス起草者自ラモ此四十條ノ文ニ付テハ少シ不都合ナ所ヲ感ジテ居ラルルヤウデアルシ亦吾々モ固ヨリ四十條ニハ反對ヲスルノデ穩カデナイ意味ノ所モアルト思ヒマス夫レデ之ハ先ヅ協議ノ整フヤウニ改正ヲシタイ、卒カニ改正ヲシテハ往カナイカラ次ノ總會ノ節迄延ベテ呉レロト云フコトデ、之ハ至極穩カナ說ト考ヘル、併シナガラ今晩是非トモ復活ト云フコトヲ議決シテ呉レロト云フ事デアリマスガ、之ハ甚々吾々反對論者ノ方デハ迷惑デアリマスカラ、何ウカ然ウ云フ御趣意デアリマスレバ議長ノ權ヲ以テ今晩此條丈ケハ議決ヲセヌデ次ノ總會ノ時ニ於テ、起草委員ニ於テ出サレタ所ノ改正案ヲ吾々ガ見テ一言ノ反對論ガ出ズシテ感服スルヤウナ名案ガ出レバ或ハ其時ニハ反對ヲセヌデ直グニ贊成ヲスルカモ知レヌカラ、今晩ハ復活スルト云フ事ニ付テノ議決ハシナイデ此儘ニ置イテ、然ウシテ新ニ修正案ガ出レバ其上デ議スル事ニ願ヒタイト思ヒマス
梅謙次郎君
先刻私ノ申シタ事ガ分カラナカツタカ知リマセヌガ、私ノ申シタノハ只今高木君ノ言ハレタヤウナ事ヲ陳ベタノデアリマセヌ、私ノ請求シタノハ兎ニ角四十條ニ復活スルト云フ事ニ決シテ貰ヒタイ、然レドモ是迄モ例ノアツタ如クニ文字ニ於テハ穩カデナイ所ガアツタナラバ先ヅ之デ以テ決シテ置イテ、文字上抔ニ付テハ尙ホ考ヘサセルト云フ例モアリマシタカラ、夫レデ此處ハ一旦四十條ニ復活スルコトニ決シテ貰ツテ置キタイト云フコトヲ請求シタノデアリマス
箕作麟祥君
只今高木君ノ御說モ出マシタガ、高木君ノ御說ハ辭ヲ換ヘテ言ヘバうつちやらカシテ置クト云フ事ニナルノデアリマス、尤モ大體ノ旨趣ガ極マツテ文字ノ修正ハ後トニシテ置クト云フコトハ今迄ノ例ニアリマスガ、今一ツノ修正ガ出テ居ルノニ其決モ採ラヌデ置クト云フ例ハアリマセヌ固ヨリ議長ノ都合ガアツテ今日ハ是レ切リト言ハレタナラバ格別デアリマスガ、兎ニ角此事ハ一旦極メルコトヲ望ミマス
土方寧君
只今復活論ノ修正案ガ成立ツテ是非之ヲ決シタイト云フコトデアリマスカラ簡單ニ一言述ベマス、舊トノ四十條ノヤウニ致ス時ニハ其復活論者ノ言ハレル所ニ據レバ、元々失踪ノ宣言ト云フモノハ裁判所デ成ツタモノデ然ウシテ死ンダ者ト認メタモノガ後チニ生キタト云フヤウナ時デモ又裁判所デ宣言ヲ取消スコトヲシナケレバ其效力ハ失ハナイ、失踪ノ效力ハ宣言デ以テ生ジタナラバ又宣言デ以テセンケレバ其效力ハ失セナイト云フヤウナコトガ現在ノ三十八條ノ修正案ヲ出サレタ人ノ重モナル理由ノヤウニセラレテ居リマスガ、私ハ其點ニハ夫レ程重キヲ置クノデアリマセヌ、舊トノ四十條デアレバ證據ノ出タ時ニハト云フノデアリマス、證據ガ出タト云フコトハ如何ニモ曖味ト思フ、成程本人ガ目ノ前ニ出タト云フ時ハ證據ガ明カデアリマスガ、生キテ居ツテモ目ノ前ニ出ナイモノモアル、又死ンダモノト推定シタ外ノ時ニ死ンダト云フ者モアラウ、或ハ其利害關係人ガ知ラナイ死ンダカ死ナナイカ、何時死ンダカ何ウデアルカ本統ノ事ハ分カラナイト云フコトモアル、又生キテ居ルト云フタ所ガ夫レガ本統ノ事デアルカ何ウカ分カラナイ、然ルニ或ハ其死亡ノ時期等ニ付テ爭ヒガ生ジタナラバ其時ハ訴訟ニナルカラ吾々ガ望ムヤウニ前ノ失踪ノ宣言ニ付テ裁判ガアルカラ宜シイ、若シ爭ヒガナケレバ證據ガ出タカラ夫レデモウ宜イヂヤナイカト云フコトデアリマスガ、併シ四十條ノ一項ノヤウニシテ置クト現ニ失踪ノ人ガ生キテ居ルト云フ證據ガ出タト云フ事ヲ或人ハ知ツテ居ルガ他ノ人ハ知ラナイ、其知ラヌ時分ニ失踪者ガ死ンダモノト見テ其人ガ相續シテ居ルナラバ夫レモ無效ニナル、無效ニサレレバ始メテ死ンダモノト看做シテ其財產ヲ受ケタ者ガ夫レヲ知ラヌデ其財產ヲ第三者ニ賣ル、其場合モ矢張リ無效トナル、然ウスルト夫レハ如何ニモ第三者ニ對シテ害ヲ加ヘル事ニナル、夫レダカラ私ノ考ヘルニハ強チ失踪ノ宣言ハ又宣言ヲ以テシナイデハ夫レヲ打消ス事ガ出來ナイト云フ事ニハ餘リ重キヲ置クノデハアリマセヌ、併シ唯證據ガ出タト云フ事丈ケデハ實ニ漠然タルモノデ、縱令ヒ生キテ居ルト云フ證據ガ出タト云フテモ其利害關係人デ知ラヌト云フ事モアル此利害關係人ト取引ヲスル第三者モ夫レヲ知ラヌト云フ事モアル、又死ンダ時期ヲ異ニシテ、或ル人ハ違ツタ時ニ死亡ヲシタト云フ事ヲ知ツテ居ルガ他ノ人ハ知ラヌ、知ラヌ者ガ其死ンダ者ト看タ失踪者ノ財產ヲ處分ヲシタト云フ事モアル、夫レモ亦無效ト云フ事ニナル、夫レデハ誠ニ其本人ハ勿論夫レト取引ヲシタ第三者モ迷惑ヲ蒙ルノデアル、夫レ故ニ推定ヲシタ時ニ死ンダトカ生キテ居ルトカ云フ事ヲ裁判所デ其證據ヲ認メラレタ時ニ失踪ノ宣言ノ效力ヲ失フト云フ事ニシナケレバ第三者ヲ害スル事ニナルト云フ憂ヒガアル、然レドモ其第三者デモ其失踪者ノ財產ヲ受繼イデ居ル場合ニ現ニ惡意ヲ以テやつた場合、相手方モ知ツテ居ツタト云フ場合、然ウ云フヤウナ時ハ何モ保護スルニハ及ビマセヌ、三十八條ノ一項ノ中ニハ文字ハ私ハ其方ニ取替ヘテモ宜イノデアリマスガ、違ツタ時ニ死ンダトカ又生キテ居ルトカ云フ證據ガアツタ、其事ヲ爭フ事ノ出來マセウナ時トカ、又情實ヲ知ラナイ人デ眞實死ンダモノト看テ居ツタ人ノ爲シタ行爲、又相手方ノ爲シタ行爲ニ付テハ有效デアル、卽チ「善意ヲ以テ爲シタル行爲ハ」云云ト書テアル、夫レデ唯「證據出ツルトキハ」ト云フ丈ケデハ何時死ンダト云フ事ヲ知ラナカツタ所ノ本人ハ勿論、其相手方ニナツタ所ノ第三者ニ於テモ迷惑ヲ掛ケルダラウト思ヒマスカラ、舊トノ四十條デハ不都合デアラウト思ヒマス
田部芳君
只今箕作さんカラ本條ノ修正說トシテ舊トノ原案ノ四十條ニ復活シタイト云フ說ガ出マシテ、之ニ非常ニ贊成者ガアリマシテ大分勢力ガアルヤウデアリマスガ、是ハ餘程御考ヘノ上ニ御考ヘヲ願ヒタイノデアリマス、私ハ主査會ニ於テ此條ノ如ク修正說ヲ提出シマシタ一人デアリマスガ、其理由ニ付テハ旣ニ高木君ヤ土方君カラ段々述ベラレマシタガ、尙ホ一言ヲ加ヘテ置キタイト考ヘマス、何レ此失踪ノ宣言ヲ致シマスルニ付テハ民法ヘハ失踪ノ事ハアリマスルガ尙ホ其手續ニ關スルヤウナ法律ヲ拵ヘナケレバナラヌ、夫レデ丁度只今ノ民法ニ附屬シタ所ノ明治二十三年ノ法律第九十五號ト云フモノガアリマス、勿論此法律ハ更ヘネバナラヌ事ハ分カツタ話シデアリマスガ、併シナガラ何ウ云フ風ニナツテモ失踪ノ宣言ト云フモノハ公ニスルト云フ事ハ其方法ノ如何ニ因テ違フカモ知レマセヌガ、兎ニ角之ヲ公ニスルト云フ事ハ必要ト思フ、夫レ故ニ此法律第九十五號トシテ出タ所ノ非訟事件手續法ノ第八條ニモ「失踪ノ推定又ハ宣言ヲ言渡ス決定ハ裁判所ノ掲示板ニ掲示シ且官報又ハ公報ニ掲載シテ之ヲ公示ス可シ」ト云フ事ガアリマシテ、官報ヤ公報モアリ又ハ裁判所ノ掲示板ニ掲示シテアルカラ、誰某ハ失踪者トナツテ居ルト云フ事ヲ世間ノ人ハ知ツテ居ル、所ガ何時ノ間ニカ死ンデ居ルト思ツタ者ガ生キテ居ツタリ又死ンダコトハ死ンダガ其死ンダ時期ガ違ツタ時ニ死ンダト云フコトモアツテ、何時ノ間ニカ知ラヌ時ニ然ウナツテ居ルト云フ事デハ困ル、夫レデ之ハ何ウ云フ風ニ變ハルカ知リマセヌガ、失踪ノ宣言ハ矢張リ夫レヲ公ニスルト云フ事ノ方法デ有ツタナラバ、今度前ノ決定ト違ツタ事ヲスルニハ矢張リ其違ウタ事ヲ知ラセルヤウニシナケレバ不都合ト思ヒマス、夫レ故ニ是ハ矢張リ今ノ原案ノ如クニセンケレバナラヌト思ヒマス夫レデ諸君モ俄カニ復活論ニ御贊成ニナラヌヤウニ望ミマス
磯部四郎君
今非訟事件ノ法律ノ說明ガゴザイマシタガ、是ハ失踪者デ申出ロト云フ爲メニ規定ガ成ツタノデ一旦失踪ノ宣言ヲ公ニシタナラバマダ其者ガ生存シテ居ツタ時ニハ又其宣言ノ效力ヲ失フコトニ就テハ公ニシナケレバナラヌト云フ事ノ爲メニハ決シテ規定ガ成ツタノデハナイ、若シ生存シテ居ツタ時ハ卽日ニ失踪ノ宣言ハ止ムト云フコトニナツテ居リマス、兎角宣言セラレタルモノハ公ニスルノ必要ガアリマスガ、失踪ノ宣言ノ效力ヲ失フ爲メニ裁判所ヘ騒ギ廻ラナケレバナラヌト云フ必要ハアリマセヌ、是ハ其財產ノ占領シテ居ル者ノ財產ヲ又取戻スニ付テ必要デアルノデ、決シテ失踪ノ宣言ノ效力ヲ失フ非訟事件トカノ爲メニ今日ノ原案ガ必要デアルト云フ事ハアリマスマイト思ヒマス、此非訟事件ニ付テハ少シク私共ハ說明スル責任ガアリマスカラ一應述ベテ置キマス
横田國臣君
もう大概議論モ盡キタヤウデアリマスガ、私モ矢張リ復活論ニ反對スル方デゴザイマス、其理由ハ大概述ベラレマシタガ、先ヅ此四十條ニ復活スルト云フコトハ實ニ困難デゴザイマス、夫レハ以前ニモ少シ計リ述ベタコトモアリマスガ、是ハ「證據出ツルトキハ」トシテモ又「證據アルトキハ」トシテモ何ウ云フコトデアルカ一寸分リマセヌ、唯純粹ニ「證據出ツルトキハ」トシテモ「證明アルトキハ」トシテモ、一體生キテ居ル時ニハ何時モ證據ガ有ル、夫レカラ證明スルト云フコトハ何處ニ證明スルカト云ヘバ夫レハ利害關係人ニスルノデアリマセウ、併ナガラ利害關係人ト云ツテモ一人デハナイ、相續人デモ二人モ三人モアル時モアラウ、夫レデ其「證據出ツルトキハ」ト云フノハ何時ヲ云フノデアルカ、一番最初ニ出タ時ニ言フノカ、又ハ歸ツテ來タ時ヲ云フノカ、或ハ證據ヲ云フテヤツタ時ヲ以テ證據ガ出タ時ト云フノカ、能ク想像シテ云ヒマスレバ必ズ其相續人トカ何ントカ云フ人ノ所ニ言フテ來タ時ヲ言フカモ知レマセヌガ、夫レニシテモ言フテ來ラレタ其人ハ知ルデゴザイマセウガ、其人獨リデナイカラマダ外ニ知ラヌ者ガ出來テ來マセウ、其知ラヌ者マデモ其效力ヲ及ボスト云フ事ハ可笑シイカラ之ハ及ボサナイト云フ事ニナラウ、然ウスルト一人ニ對シテハ效力ヲ失フガ他ノ人ニ對シテハ效力ヲ失ハヌト云フコトモ起リマセウ、夫レカラ但書ノ所ニシテモ中々疑ハシイ、其證據ノ出ルト云フノハ何レ言フテ來タ時分ニ出タト云フノデゴザイマセウ、然ウスルトシテモ片一方ノガ夫レハ證據デハナイ、己レハ認メヌト云ツテ爭ヒガ起ル、其處デ裁判所ニ出テ裁判所デ其判決ガ有ツタ時ヲ以テ證據ノ出タ時トスルノカ、或ハ前ニ證據ノ出タ其時ヲ言フノデアルカ、然ウシテ夫レ迄ニシタ行爲ノ效力ガナクナルトカナクナラヌトカ云フコトニ就テ大變困難デゴザイマス、若シ實際問題ガ起ツタナラバ夫等ハ餘程六ケ敷イ問題ト思ヒマス、成程起草者ノ言ハルル通リニ、もう其人ガ出テ來タカラ分カルデハナイカト云フコトデアルガ、併ナガラ夫レハ一體訴訟ト云フモノガ起ラズシテ皆ノ者ガ夫レハ其通リダ其通リダト云フ事デアレバ夫レハ宜シウゴザイマスガ、併ナガラ能ク考ヘレバ其通リニ能ク分カツタ場合ナレバ爭ヒモ生ジマスマイカラ裁判所ニ一寸出レバ間ニ合フ話デそんなニ夫レニ付テ手數ト云フ事モアルマイト思ヒマス、爭ヒガナクテ明カナ證據ト云フコトガ能ク分ツテ居リサヘスレバ夫レデ何ウシテモ四十條ガモウ少シ能ク明カニナツテ餘程判然トシテ來ルナラ兎モ角、此儘デハ到底贊成ノ出來ルコトデハゴザイマセヌ
土方寧君
一寸もう一言述ベマス、一體此失踪ノ宣言ヲスルト云フノハ人ガ居ナクナツタカラト云ツテモ直グニ死ヌルノデハナイ、後トノ財產ノ始末ヲスルニ付テ居ナクナツタト見テ始末ヲスルノデ卽チ本人ノ居ナイ爲メニ其財產ノ始末ヲ付ケル所ノ宣言ヲスルコトニナル、本人ノ財產ヲ何時迄モ捨テ置イテ、其財產ノ權利ヲ何時迄モ未定ニシテ置ク譯ニモ往カナイカラスルノデアル、然ウ云フコトニナツテ、失踪ノ宣言ヲ受ケタ者ノ財產上ノ權利ヲ受ケタモノヲ假リニ相續人ナラ相續人トスル、夫レヲ相續人ト見レバ其者ハ其財產ヲ自分ノ物ト同樣ニ處分スルヤウニシナケレバナラヌ、然ウスレバ其者ガ失踪者ノ財產ヲ自分ノ財產同樣ニ處分スルコトニナレバ其相手ニナツタ人ノ行爲モ有效トナラナケレバナラヌ、所ガ其失踪者ガ生キテ居ツタト云フコトノ證據ガ出タ、其證據ガ出タト云フ事ヲ利害關係人ガ皆知ル事ガ出來レバ宜シイガ然ウハ往カナイ、夫レデ失踪者ガ生キテ居ツタト云フ事實ガ明カニナツテモ其事ヲ知ラナイ人ハ矢張リ善意デ取引ヲスル、然ウスルト其取引ハ矢張リ有效トシナケレバナラヌ、且又失踪者ガ生キテ居ツテモ何年間モ自分ノ住居ヲ去ツテ一向其財產ヲ顧ミナイデ居ツタナラバ夫レ迄デ、若シ其財產ヲ抛棄スル考ヘデナケレバ自分デ生キテ居ルト言フ事ヲ主張シテ宜シイ、何レニシテモ其證據ガ出タ時ト言フ事ノミデハ夫レヲ知ラヌ人ガアツタナレバ夫レト取引ヲスル第三者ガ困ル、起草者ハ生キテ居ツテ目ノ前ニぶら付イテ居レバ夫レデ充分分カルデハナイカト言ハルルケレドモそんな下手ナ事ヲ言フテ舊トノ原案ヲ保護セラルニモ及バナイト思ヒマス
田部芳君
只今非訟事件ノ事ヲ申シマシタラ夫レニ對シテ磯部君カラ御攻撃ガゴザイマシタガ、磯部君ノ解サレタノハ何ウ言フ事デアルカ知ラヌガ私ノ引キマシタノハ詰リ失踪ノ宣言ヲシタト言フ其宣言ヲ官報ヤ公報デ公ニスルト言フコトガアツタナラバ、是ヲ更ヘ又廢棄スルト言フヤウナ時モ亦同ジク其事ヲ公ケニシテヤラセナケレバ其迷惑デアルト言フ趣意デ申シタノデ、若シモ其趣意ガ最初ニ宣言ヲシタトキ丈ケ公ニスルト云フコトデアレバ惡ルイト申シタノデアリマス、夫レデ詰リ一度宣言ヲシタ時ニ公ケニシタナラバ夫レヲ更ヘ又取消ス時ニモ矢張リ公ニシナケレバ極メテ不都合デアルト云フコトノ例ヲ一寸引イタ丈ケデゴザイマス
梅謙次郎君
もう大分皆さんノ御論ガアツタヤウデスケレドモ、横田さんノ言ハレタコトハ外ノ御方ノ力ヲ入レヌ所ニ力ヲ入レラレタ事ガアリマスカラ其點丈ケニ付テ申シマス、横田さんハ獨リノ爲メニ證據ガ出テモ其外ノ人ノ爲メニハ證據ガ出ナイ、先ヅ利害關係人ガ二人リ居ル時ハ一人リガ知ツテ居ツテモ一人リガ知ラヌ時ハ何ウスル、三人有ツタ時ハ一人リガ知ツテ二人リガ知ラヌト云フヤウナ場合ニ於テハ何ウカト云フ事デアリマスガ、起案者ノ考ヘデハ其知ラヌ人ニハ效力ハ及バヌ、知ツテ居ル人丈ケニシカ效力ハ及バヌ、相續人ガ二人リモ三人モ有ツタ場合トカ、又ハ其相續人デナクトモ外ノ利害關係人デモ宜シイガ、兎ニ角二人リモ三人モアツタ場合ニ其一人リノ人ノ目前ニ出テ來ル、然ウスルト其一人リノ持ツテ居ツタ財產ハ無論返ヘサナケレバナラヌ又第二ノ人ガ知ツタナラバ其持テ居ル財產ヲ返ヘサナケレバナラヌ、又第三ノ人ガ知ツタナラバ其持ツテ居ル財產ヲ返ヘサナケレバナラヌ、之レデ誠ニ都合ガ宜シイ、夫レデ一人リノ人ガ知レバ夫レト同時ニ天下ノ人皆知ラナケレバナラヌト云フヤウニシタナラバ夫レハ不都合デゴザイマセウガ、然ウデナイ以上ハ決シテ不都合ハナイ、夫レデ一人リノ人ガ知ツテ後トノ人ガ知ラヌト云フ時ニハ其後トノ人ガ迷惑ヲスルトカ何ントカ云フヤウナ御議論ノ出ルノハ、此四十條ノ精神ヲ解セヌ所カラ起ルノデアル、又充分ニ知ラヌ人ガアツテ疑ヒヲ抱ク人ガアレバ其時ニハ裁判所ニ出テ決シテ貰ウ、若シ爭ヒガアツテ裁判所ニ出タ場合ニハ何時カラ失踪ガ效力ヲ失フカト云フコトデアリマスガ、夫レハ卽チ其失踪ヲシタ人ガ、例ヘバ目ノ前ニ出テ來タ、夫レヲ相續人ノ方デ以テ失踪人デナイト思ツテ居タナラバ夫レハ仕方ガナイノデスケレドモ、夫レヲ知リツツ唯自分ノ利益ノ爲メニ詐ヲ申立ツテ居ツタト云フ事ノ證據ガ出テ居レバ、夫レハ其前ニ旣ニ證據ガ出テ居ツタノデアツテ、其人ガ認メナイト言ツタノハ惡意デアツタト云フ事ニナツテ來ル、又眞ニ疑ツテ居ツタナラバ夫レハ裁判所ニ出テ宣言ノアツタ時ニ始メテ證據ノアツタモノト認メル、卽チ宣言ノ效力ヲ失ツタモノト見ル、又占有者ノ權利ニ付テハ占有ノ所デモ尙ホ其足ラヌ所ヲ補フ事デアラウト思ヒマスカラ、其方デ以テ充分ナル規定ガ出來ヤウト思ヒマス
横田國臣君
舊トノ四十條デハ失踪ノ宣言ハ其效力ヲ失フト云フノデアル、之カラ見ルト一人ニ其效力ガ消ヘレバ必ズ其他ノ人ノモ消ヘナケレバナラヌト思フ
高木豐三君
私ハ只今ノ梅君ノ御辯解ニ付テ辯駁ヲシタイ、梅君ハ當人ガ生キテ歸ツタ時ノ例ヲ申サレマシタガ、吾々ノ申ス所ノ一人ニ付テハ效ヲ失ヒ其他ノ者ニ付テハ效ヲ失ハナイト云フヤウナ事モアラウト云フノハ然ウ云フ場合ヲ言ツタノデナイ、例ヘバ亞米利加カラ歸ツテ來タ人ガ言フニ誰某ハ亞米利加ニ居ツテマダ生キテ居ルガ其財產ヲ管理シテ呉レロト云フ委任ヲ受ケテ來タト言ツテ僞書ヲ持テ來タトスル、其場合ニ一人ノ相續人ハ然ウデアルカト信ジテ其財產ヲ渡ス、所ガ二番目ノ相續人ガ言フニ夫レハ僞筆デアルカラ己レハ承諾ヲシナイト言フ、又三番目ノ相續人モ矢張リ承諾ヲシナイト云フヤウナ時ニナルト、一人ノ相續人ニ對シテハ其效ヲ失ヒ其他ノ者ニ對シテハ其效ヲ失ハナイト云フ事ニナルト云フコトヲ横田君ハ言ハレタノデアラウト思ヒマス、一寸一言述ベテ置キマス
梅謙次郎君
只今高木君ノ申サレマシタ事ハ夫レハ僞書デアル、卽チ詐リノ事ヲ以テ人ヲ欺ク抔ト云フコトハ夫レハ吾々ハ無效ト見ルノデ詐欺取財ニナルノデアル
議長(西園寺侯)
最早議論モ盡キタト思ヒマスカラ採決致シマス、此復活問題ニ贊成ノ御方ハ起立ヲ請ヒマス
起立者少數
議長(西園寺侯)
少數デゴザイマス
磯部四郎君
夫レデハ私ハ修正說ヲ提出致シマス、三十八條ノ第一項ノ卽チ「シ又ハ之ヲ變更」ノ七字及ビ其次ノ「又ハ變更」ノ四字、夫レカラ二項ノ「又ハ變更」ノ四字、是レ丈ケヲ削除スル修正說ヲ提出致シマス
梅謙次郎君
吾々モ贊成シマス
田部芳君
此「廢棄」ト云フ事ト「變更」ト云フコトガ少シモナクテ宜イ一ツデ宜イト云フコトナレバ夫レハ磯部君ノ修正說ハ宜シウアリマスガ、併シ廢棄ト變更トハ是迄ノ慣用上ノ辭ニ於テ區別ガアルコトト考ヘマス、廢棄ト言ヘバ丸デ取消ス、卽チ此處ノ例デ申スト、死ンダモノト思タ者ガ生キテ歸ツテ來タト云フヤウナ時ハすつかり其宣言ヲ取消ス、又變更ト云フ事ハ死ンダ事ハ死ンダガ其死ンダト見ル時期ガ違ウ、ダカラ其失踪ノ宣言ヲ幾ラカ變更シナケレバナラヌ、卽チ幾ラカ宣言ノ仕方ガ違ツタト云フテ變更スルノデアル、夫レデ磯部君ノ御說ニ依テ見レバ、磯部君ハ此變更ト廢棄ノ二ツノモノヲ誤解シテ居ラルルコトト思ヒマス
磯部四郎君
私ハ別段述ベナイ積リデアリマシタガ只今田部君カラ御說ガ出マシタニ付テ一言シナケレバナヲヌ必要ヲ感ジマシタ、固ヨリ私ハ廢棄ト變更ノ區別ノアル位ノコトハ能ク承知シテ居リマス、併シ三十八條ノ場合ニ於テハ決シテ變更ト云フ事ハアルマイト思フ、變更ト云フコトハ前ニ宣言ニナリマシタ、卽チ失踪ト云フモノガ其儘ニナツテ其中ノ一條件ガ變ハルト云フ時ニ變更ト云フ事デ現ハレル、夫レデ死ンダ時ニ失踪ノ宣言ハ維持セラレルカモ知レマセヌガ、夫レハ其元ノ宣言ハ其儘デナイ、死ンダ時期ガ異ツテ居レバ前ニ遡ルカ或ハ又別ニ時期ヲ遲ラシテ宣言ヲシナケレバナラヌト思ヒマス、何ゼナラバ然ウ云フ實際ノ問題ガ起ツタ時ハ丁度前ニ死ンダ時ト看做スト云フ宣言ヲシタ時ト後チニ宣言ヲシタ時トハ其相續ノ仕方ガ違ツテ來ルト云フヤウナ事モアラウ、例ヘバ前ノ時ニハ甲ガ相續ヲシタノデアルガ後チノ時ニハ其甲ノ相續人ガ旣ニ死ンダトスルト乙ガ夫レヲ相續スルト云フヤウナコトモアラウ、兎ニ角元トノ失踪ノ宣言ト云フモノガ消滅シテ仕舞ツテ更ニ正當ニ其財產ヲ相續スルト云フ事ニナル、夫レデ勿論變更ト廢棄トハ區別ガアルト考ヘマスケレドモ、其失踪ト云フモノガ元トノ失踪其儘ガ存在シテ唯一二ノ綾丈ケガ變ハルト云フコトハアルマイト思ヒマス、矢張リ之ハ廢棄丈ケデ宜シイト思ヒマス
田部芳君
只今磯部君カラ辯解ガゴザイマシタガ、變更ト云フ事ハ決シテ唯一二ヲ更正スルノデナイ、訴訟法抔ノ辭デ云フト、矢張リ前ノ宣言ハ取消スガ前ノ宣言ヲ取消シテ別ニ宣言ヲスルノデアリマス、廢棄ト云フノハ取消シ廢スノデアル、廢棄ト變更トノ區別ハアルノデアル、夫レヲ取消シ廢スルノト變ヘルノトノ區別ガアル、夫レデ變更ハ決シテ更正デナイ、若シモ此處デ然ウ云フ事ニシマスレバ全ク廢棄ト云フ中ニ變更ト云フコトガ籠ルト云フコトハ現在ノ裁判所ノ用語トハ違ヒマスカラ誤解ヲ來スト云フ虞ガアリマス、故ニ磯部君ノ修正說ハ不都合デアル、決シテ變更ト云フコトハ更正ト云フコトデハナイ
議長(西園寺侯)
もう大概ニシテ採決シマセウ、夫レデ磯部さんノ修正說ニ贊成ガアリマスカラ是ニ付テ採決致シマス、磯部さんノ修正說ニ贊成ノ諸君ハ起立ヲ請ヒマス
起立者多數
議長(西園寺侯)
多數デゴザイマス、夫レデハ之デ散會シマスガ、議案モ盡キマシタカラ總會ハ之デ暫ク休會シマス
午後十時二十分閉會