明治民法(明治29・31年)

法典調査会 総会 第1回 議事速記録

参考原資料

第一回法典調査委員總會議事録
○議長(伊藤博文君)
主査委員諸君ハ拝命以後旣ニ二回ノ會合ヲ爲シタルモ査定委員諸君ハ今日始メテノ會合ナルヲ以テ法典調査會ノ今日迄ノ手續ヲ一應述ベ置クベシ而シテ主査會ニ於テ今日迄ニ議定シタル所ノモノヲ尙ホ一應本會ノ議ニ付セント欲ス然ルニ法典調査ノ事ニ付テハ旣ニ勅令ノ在ルアリテ勅令ニ依テ調査規程ハ總理大臣ノ職權ニ委ネラレタルヲ以テ總理大臣ニ於テ之ヲ定メタリ又議事規則モ同樣ノ次第ナリ然シテ之ヲ定ムルニ付テハ主査會ノ協議ヲ經タレドモ元來法典調査ノ總裁ハ總理大臣ノ職務ヨリ兼任シ居リテ總理大臣ノ職務ヲ以テ定ムベキ事柄ヲ主査委員ニ相談シタル譯ナリ而シテ今日之ヲ謄寫シテ諸君ニ配布スル能ハザリシバ事務員ノ不行屆ニシテ甚ダ遺憾トスル所ナレドモ今更致方ナキヲ以テ之ヲ朗讀セシムベシ
尙一言シ置クベキハ査定委員諸君ハ主査委員ノ手ニ在ル案ヲ一覽セラレタシ其中ニハ第一ニ法典調査ノ方針ヲ掲ゲ其次ニ規程ヲ掲ゲアリ此案ハ元ト主査委員中ニ於テ特ニ三名ニ命ジテ起草セシメタルモノニシテ是レニハ方針ト規程トヲ合シテ起草シアルヲ其中ヨリ勅令ニ基キ總理大臣ノ職權ヲ以テ定ムベキ所ノ調査規程ヲ抽キ來リ内閣ニ於テ制定シタルモノト看做シテ本會ニ下付シタリ故ニ今マ殘ル所ノ調査方針ヲ本會ノ議ニ付セント欲ス然ルニ前陳ノ如ク調査規程ヲ配布スル能ハザリシガ故ニ先ヅ規程ヲ朗讀セシムベシ
(書記朗讀)
本年勅令第十一號法典調査會規則第五條ニ依リ左ニ法典調査規程ヲ定ム
明治二十六年四月二十七日
内閣總理大臣 伯爵伊藤博文
法典調査規程
 第一章 調査規程
第一條 法典ノ修正ハ單獨起草合議定案ノ方法ニ依ル
第二條 主査委員中ニ起草委員三名ヲ置キ專ラ修正案ノ起草ニ任セシム但必要アルトキハ協議委員ヲ置キ立案ノ協議ニ與カラシム
第三條 主査委員中別ニ整理委員及報告委員ヲ設ク
第四條 整理委員ハ特ニ法典修正案各部ノ關係及法典修正案ト他ノ法律命令トノ關係ヲ審査ス
第五條 報告委員ハ特ニ左ノ事務ヲ掌ル
 一 帝國議會議事錄、法律書雜誌新聞紙等ニ揭載セル法典實施延期ノ理由及法典ノ批評等ヲ査閲シ之ヲ起草委員ニ報告スルコト
 二 委員以外ヨリ提出スル修正意見書ヲ審査シ其參考ノ資料トナルヘキモノハ要領ヲ摘記シテ之ヲ起草委員ニ報告スルコト
 第二章 委員
第六條 法典調査委員會ヲ主査委員會及委員總會ノ二種トス
第七條 主査委員會ヲ別チテ定期委員會及臨時委員會トシ定期委員會ハ每週一囬之ヲ開キ臨時委員會ハ必要アル每ニ總裁之ヲ召集ス
第八條 委員總會ハ必要アル每ニ總裁之ヲ招集ス
第九條 起草委員ハ定期ノ主査委員會ニ起草事務ノ進行ヲ報告シ且ツ其意見ヲ問フ
第十條 豫メ議定ヲ要スヘキ重要ノ問題アルトキハ起草委員ハ之ヲ定期若クハ臨時主査委員會ニ提出シテ其意見ヲ問フ
第十一條 總裁ハ起草委員其他ノ主査委員ヨリ提出シタル問題ニシテ必要アリト認ムルモノハ委員總會ノ會議ニ附スルコトアルヘシ
第十二條 法典修正草案ノ議決ハ主査委員會ノ議決ヲ以テ豫定議決トシ總會ノ議決ヲ以テ確定議決トス
第十三條 法典修正草案ハ必ス豫定議決及確定議決ヲ經ヘシ
第十四條 總裁ハ必要アリト認ムルトキハ已ニ豫定議決ヲ經タル草案ヲ幾回ニテモ委員會ノ審議ニ附スルヲ得
第十五條 確定議決ヲ經タル修正案ニシテ缺漏錯誤アリ又ハ他ノ法令ニ牴觸スルモノアリト認ムルトキ總裁ハ之ヲ委員總會ノ再議ニ附スルヲ得
 第三章 議事規則
第十六條 委員會ハ總裁ヲ以テ議長トス議長事故アルトキハ副總裁之ヲ代理ス
第十七條 議長ハ議場ヲ整理ス
第十八條 委員會ノ議事及配付ノ議案ハ總テ祕密トス
第十九條 委員會ハ委員半數以上ノ出席ヲ以テ定足數トス
第二十條 委員會ノ議案ハ會議ヨリ三日以前ニ之ヲ各委員ニ配付ス但シ緊急ノ事件及法案外臨時ノ動議ニシテ議長ノ許可ヲ得ルモノハ此限ニアラス
第二十一條 發言ハ議長ノ許可ヲ得起立シテ之ヲ爲スヘシ
第二十二條 一委員ノ發言中ハ他ノ委員ノ發言ヲ許サス
第二十三條 法案ノ會議ハ議長各條每ニ之ヲ議題ト爲ス但シ便宜數箇條ヲ一束シテ議題ト爲スコトヲ得
第二十四條 議題ト爲ス所ノ條項ハ議長書記ヲシテ之ヲ朗讀セシム但シ議長ノ意見ニ依リ便宜朗讀ヲ省クコトアルヘシ
第二十五條 一議題ノ議事終結ノ前ニ於テ他ノ議題ニ論及スルコトヲ許サス但他ノ條項ニシテ討論中ノ議題ニ連關スルモノハ此ノ限ニ在ラス
第二十六條 法案ニ修正ヲ加ヘント欲スルモノハ先ツ修正ノ成案ヲ提出スヘシ
第二十七條 修正ノ動議ハ贊成者アルニ非レハ議題ト爲スコトヲ得ス
第二十八條 議長ハ議題ノ事項ニ就キ其席ヨリ自己ノ意見ヲ逑フルモ妨ケナシ
第二十九條 同一ノ議題ニ就キ數箇ノ修正ヲ提出セラレタルトキ其表決ノ順序ハ議長ノ定ムル所ニ依ル
第三十條 會議ノ可否ハ過半數ヲ以テ之ヲ決ス可否同數ナルトキハ議長之ヲ決ス
第三十一條 出席員ハ可否ノ數ニ加ハラサルヲ得サルモノトス
第三十二條 表決ノ際議場ニ現在セサル委員ハ表決ニ加ハルコトヲ得ス
第三十三條 此規則ハ主査委員會及委員總會ニ通用ス
○議長(伯爵伊藤博文君)
次ハ卽チ本會ノ議ニ付スル所ノ調査ノ方針ナリ而シテ此案ハ旣ニ主査委員ガ二回ノ會合ヲ以テ議定シタルモノナリト雖モ頗ル重大ノ問題ナルヲ以テ尙ホ總會ニ於テ意見ヲ有セラルル諸君ハ十分ニ之ヲ吐露セラレタシ而シテ其ノ決議ヲ以テ法典調査ノ基礎ト爲シ此基礎ニ依テ調査ノ事業ヲ進行セント欲ス
法典調査ノ方針
第一條 旣成ノ法典ニ就キ各條項ヲ査竅シ必耍ノ修補删正ヲ施スヲ以テ調查ノ目的トス其編別並ニ順序ハ第二條及第八條ノ定ムル所ニ據リ法規ノ分屬並ニ排置ハ特ニ委員會ノ議定スル所二據ル
第二條 民法全典ヲ五編ニ分チ其順序ハ左ノ如ク定ム
 第一編 總則
 第二編 物權
 第三編 人權
 第四編 親族
 第五編 相続
第三條 民法總則ニ於テハ私權ノ主格目的得喪及行使等ニ關スル通則ヲ揭ク
第四條 民法物權編ニ於テハ物權及其得喪行使並ニ物上擔保等二關スル規程ヲ揭ク
第五條 民法人權編ニ於テハ人權及其得喪行使並ニ對人擔保等ニ關スル規程ヲ揭ク
第六條 民法親族編二於テハ家族及親族ノ私法的權利關係二關スル規程ヲ揭ク
第七條 民法相續編二於テハ家督相續及遺產相續二關スル規程ヲ揭ク
第八條 商法ノ順序及排列法ハ槪ネ旣成法典二據ル
第九條 商法ノ規定ニシテ民法ト重複スルモノハ之ヲ刪除ス
第十條 法典修正案着手ノ順序ハ左ニ之ヲ定ム
 一 民法總則
 二 民法物權編
 三 民法人權編
 四 民法親族編
 五 民法相續編
 六 商法
第十一條 民法ハ各編每ニ其法規ノ條數ヲ記算ス
第十二條 法典ノ條文ハ原則變則及ヒ疑義ヲ生スへキ事項ニ關スル規則ヲ揭ケルニ止メ細密ノ規定ニ渉ラス
第十三條 法典ノ文章ハ簡易ヲ主トシ用語ハ成ルへク普通慣用ノモノヲ採ル
第十四條 法典中文章用語ニ關シ立法上特ニ定解ヲ要スルモノヲ除ク外定義種別引例等二渉ルモノハ之ヲ刪除ス
○山田喜之助君
本員ハ只今始メテ此議案ニ接スルコトナルヲ以テ未ダ遽カニ意見ノ有無ヲ明言スル能ハズ乍併成ルベクハ本員モ熟考ノ上相應ノ意見ヲ述ベント欲ス付テハ本案ハ今日中ニ是非共確定セラルル譯ナルヤ否ヤヲ聞タシ
○議長(伯爵伊藤博文君)
必ズシモ今日ニ限ル譯ニアラズ乍併本案ハ成ルベク速カニ確定センコトヲ望ム其譯ハ旣ニ前回ニ於テ三名ノ起草委員ヲ命ジ置キタリ而シテ其委員ガ起草ノ業ヲ擔當シテ進行スルニハ先ヅ其從フ所ノ方針ナカル可カラズ故ニ起草着手ノ急ヲ望ム以上ハ勢ヒ方針ノ確定ヲ急ガザルヲ得ズ乍併諸君ノ意見ヲ一定スルハ大切ノ事柄ナルヲ以テ強テ今日中ニ確定セシムル譯ニハアラズ
○淸浦奎吾君
主査委員諸君ハ疾クヨリ承知ノコトナルモ査定委員ハ本案ニハ今日初對面ノコト故咄嗟ノ間ニ意見ヲ述ブル能ハズ深ク考慮ヲ要スルコトト信ズ旣ニ議事規則ニモ「委員會ノ議案ハ會議ノ三日以前ニ配布ス」トアリテ固ヨリ今日ノ場合ト事柄ハ異ナルモ其精神ハ同樣ナルヲ以テ議案配布ノ上更ニ開會セラレテ然ルベキコトト信ズ
○議長(伯爵伊藤博文君)
是ハ尤至極ノ事故多數ニ問フヲ待タズ左樣取計ラフベシ
○澁澤榮一君
此方針ニ依テ調査ヲ爲ストキハ民法商法共ニ結了ノ後發布セラルル筈ナルヤ或ハ編ヲ追テ出來衣第順次發布セラルル譯ナルヤ若シ順次發布スルモノトセバ本員ハ先ヅ商法ヨリ着手アランコトヲ望ム者ナリ其點ハ如何
○議長(伯爵伊藤博文君)
果シテ一部分宛別ツテ發布シ得ルヤ否ハ修正ノ結果ヲ見タル上ニ非レバ決定シ雖キコトト信ズルナリ而シテ修正ノ結果之ヲ別チ得ルヤ否ヤヲ定ムルハ固ヨリ本會ノ決定ニ任カス意見ナリ序ニ一言シ置クベキハ調査ノ方針ニ就テ主査會ノ意見ハ旣ニ一定シ居ルコトナルモ本席ハ更ニ諸君ニ協議セント欲スルコトアリ其ハ他ニ非ズ單獨起草ニテ順序ヲ追テ進ムトキハ商法ノ全備スルニ至ル迄ニハ非常ノ歳月ヲ要スルコトナルヲ以テ本席ノ意見ニテハ矢張リ單獨起草ノ法ニ依テ今一箇ノ起草委員ヲ設ケ民法ノ起草ト商法ノ起草トヲ二箇ノ委員ニ別ツテ托スルコトト爲シ而シテ其牴觸等ハ整理委員ニ於テ十分整理スルコトト爲サバ事業進行ノ上ニ利益アラント信ズ故ニ此事ハ本席ヨリ更ニ諸書ニ諮ル積リナリ元來此案ハ三名ノ委員ニ付シテ起草セシメタル上主査會ノ決議ヲ經タルモノナルモ起草者三名ノ中ニモ多少意見ヲ異ニスル者アリタル趣ナリ就テハ本席ニ於テモ爾後考慮ヲ費シタルニ前陳ノ如ク民法ト商法トハ別ノ委員ニ托スルヲ以テ便利ト信ズルナリ
○梅謙次郎君
只今山田君淸浦君等ヨリ本案ハ今日初對面ナルヲ以テ今日ノ會議ヲ延バスベシトノ意見アリシガ此點ニ就テハ本員モ異議ナシ乍併只今總裁閣下ノ意見及ビ澁澤君ノ意見等モアリテ商法ニ就テ云々ノ議論アリ此事ハ今日ニ於テ各自ノ意見ヲ吐露シ置クトキハ次回迄ニ各自意見ヲ定ムルノ參考トナルベシト信ズ故ニ本員モ一應意見ヲ述ベ置クベシ只今總裁閣下ノ意見ニヨレバ民法ト商法ヲ別ノ委員ニ托スルトノコトナルガ本員ハ之ニ反對ナリ如何ニモ民法ト商法トハ一ノ法典ニハアラズシテ自ラ別物ノ如クナリト雖モ民法ニ規定スル事柄ト商法ニ規定スル事柄トハ全ク無關係ニアラズ謂ハバ商法ハ民法規定ノ取除ケトモ云フベキモノナレバ民法ノ規定ト商法ノ規定ト牴觸若クハ重複等ナキ樣整理シ置カザレバ之ヲ適用スルニ當リ不都合ナラン此點ヨリ論ズルトキハ却テ民法中ノ人權物權ト親族編相續編トノ關係ハ民法ト商法トノ關係ヨリモ薄シト言ウテ可ナラン如之旣ニ調査規程ニ於テ單獨起草合議定案ノ法ヲ取ルコトト定メラレタル以上ハ是非共民法商法ハ同一ノ委員ニ付托スベキモノト信ズ論者或ハ言ハン調査規程ヲ改ムレバ差支ナカラント然レ共之ヲ改ムルハ本員ノ望マザル所ニシテ本員ハ必ズ單獨起草ヲ取ラザル可カラズト信ズ然ラザレバ各受持ノ委員ガ分擔起草シタル部分ガ互ニ牴觸ヲ生ジ或ハ重複ヲ來シ若クハ體裁文章等ノ不揃ヲ來スコトアルベシト信ズ尤モ整理委員ニ於テ整理スル法アリト雖モ其整理ハ甚ダ困難ナルベク若シ又鄭重ノ整理ヲ爲サントスレバ非常ナル時間ヲ要シ却テ速成ヲ主トシテ別ノ委員ニ托シタルノ本旨ニ反スルモノナリ又之ヲ速カニセント欲スルトキハ再ビ今日ノ法典ガ非難ヲ受クルガ如キ非難ヲ招クノ恐レアリ故ニ今回ハ斯ル非難ヲ受ケザル樣完全ナル修正ヲ加ヘント欲スル以上ハ必ズ單獨起草ノ法ヲ採ラザル可ラズト信ズ次ニ民法ヲ先ニスルヤ商法ヲ先ニスルヤノ問題ニ付テハ本員モ多少ノ意見ヲ有スルモ是レ重要ノ問題ニ非ザルヲ以テ次回ニ於テ之ヲ述ブルコトト爲シ此際調査方針中第二條第十一條ニ付テ本員ノ意見ヲ述ベテ諸君ノ參考ニ供セント欲ス第二條中他ハ格別議論ナキモ本員ハ第四編ニ在ル親族ヲ第二編ニ改メント欲ス其理由ハ親族上ノ權利義務ハ物權人權トハ性質ノ異ナルモノニシテ物權人權ハ所謂財產權ニシテ親族權ハ或ハ人事權トモ稱スベキモノナリ而シテ反對論者ノ趣旨ハ旣ニ性質ヲ異ニスル以上ハ何レヲ先ニスルモ差支ナシト云フニアリト雖モ今日日本ノ有樣ヲ見ルニ身分ノ事ト財產ノ事トヲ比較スルトキハ十中八九ハ重キヲ身分ニ置ケリ故ニ此點ヨリ見ルトキハ必ズ親族ヲ先キニ置カザル可カラズ次ニ原案者ノ說ニヨレバ親族法ハ特別法ニシテ物權人權ハ一般法ナルヲ以テ一般法ヲ先キニシテ特別法ヲ後ニス可シトノコトナリ然レ共所謂特別法一般法ナル稱ハ本員ノ甘諾シ能ハザル所ナリ何トナレバ若シ親族權ナルモノガ或ル身分ヨリ生ズル物權人權ナラバ或ハ特別法ト稱シテ可ナルベキモ決シテ然ルモノニ非ズ勿論親族上ノ關係ヨリ物權人權ヲ生ズルコトナキニ非ザルモ先ヅ人事ノ權利ヲ生ズベキモノナルガ故ニ何レヲ以テ特別法トシ何レヲ以テ一般法トスベシトノ理由ヲ見出ス能ハズ殊ニ親族ニ於テ親タリ子タリ夫タリ妻タル如キハ人間ノ常ニシテ人間トシテ之ナキ者ハ殆ド無シト謂ウテ可ナリ故ニ必ズシモ之ヲ特別法ト言フ可カラズ右ノ理由ヲ以テ本員ハ親族ヲ第二編ニ置カント欲スルナリ次ニ第十一條ニ「民法ハ各編毎ニ其法規ノ條數ヲ起算ス」トアリ若シ此ノ如クスルヲ以テ便利ナリトセバ何故ニ商法ニ於テモ各編毎ニ條數ヲ起算セザルヤ是レ本員ノ解スル能ハザル所ナリ且ツ本員ノ意見ヲ以テスレバ各編毎ニ條數ヲ起算スルハ大ナル不便アリ其理由ハ常ニ民法ノ條ヲ呼ブ毎ニ必ズ民法何々編第何條ト稱セザルヲ得ズ其煩思フベシ況ヤ又一タビ之ヲ誤ルトキハ非常ナル間違ヲ生ズベク之ヲ口ニシ之ヲ筆ニスル上ニ於テ非常ノ不便ヲ感ズ可シ故ニ民法商法共ニ各編ヲ通シテ條ヲ算フルヲ以テ便トス乍併原案ニ於テ各編毎ニ算フルコトトシタルハ偶然ニハアラズ其趣旨ハ將來法典ノ改正ヲ要スル場合ニ於テ若シ全編一貫シテ條數ヲ付シ置クトキハ一二ノ條ヲ加減シタル爲メニ全編ノ條數ニ異動ヲ生ズルノ不便アリトノ意ナラン然レ共之ヲ西洋各國ノ例ニ徴スルニ佛獨二國ノ商法ノ如キ皆全編一貫シテ條ヲ算ヘタルモノナルニモ拘ハラズ之ヲ改正スルノ際別ニ困難ノ聲ヲ聞カザリシナリ又民法商法等ニ於テ前ノ條ヲ引抽キテ之ニ換フルニ他ノ條ヲ以テスル等ノ大修正ヲ要スル場合ニハ佛國ニ於テ特別法ヲ以テ之ヲ改正シタル例モアリ要スルニ條數ノ一貫シ居ルガ爲メニ後日法典改正ノ妨害ヲ爲ストノ說ハ恐クハ杞憂ニ過ギズ右等ノ理由ヲ以テ本員ハ第二條第十一條ニ修正ヲ加ヘンコトヲ望ム尙又第一條中ニ「第二條及第八條」トアルハ言フ迄モナク「第二條乃至第八條」ノ誤ナラン
○箕作麟祥君
梅君ノ說ハ全編一貫シテ條數ヲ算ヘントスルモノノ如シ然ル時ハ第十條ノ修正案着手ノ順序ハ如何スル意ナルヤ
○梅謙次郎君
第十條ノ着手ノ順序ハ原案ノ儘ニテ差支ナシ若シ本員ノ說ニシテ行ハレ全編一貫スル事トト爲シ而シテ第十條ノ順序ニ依テ一部分宛發布スルコトトナラバ先ヅ假リニ各編毎ニ條數ヲ附シ置キテ全編發布ノ日ヲ侯チ條數ノミヲ改ムレバ差支ナシト信ズ
○箕作麟祥君
然ラバ之ヲ調査スルニハ矢張原案ノ如ク各編毎ニ法規ノ條數ヲ起算スルモノナルヤ
○梅謙次郎君
否然ラズ假設ノ案ハ勿論各編毎ニ起算スルモ民法ナルモノハ矢張リ條數ヲ一貫スルヲ以テ原案ノ精神トハ異ナレリ
○箕作麟祥君
梅君ノ說ハ第二條ニ於テ修正ヲ加ヘテ親族ヲ第二編ニ改ムベシト言ヒ乍ラ第十條ノ順序ヲ其儘ニ据置クトキハ親族編ハ第二編ニ列シテ條數ヲ附セラル可キモノナルニ着手ノ順序ニ於テ第四ニ廻ルガ故ニ其間ノ條數ヲ付スルニ差支ヲ生ズルナラント信ズ梅君ノ意見ニテハ其間ノ條數ハ脱シ置ク積リナルヤ
○梅謙次郎君
本員ノ考ニテハ親族ハ餘程考慮ヲ要スルヲ以テ後廻シト爲シ置キ第十條ノ順序ニ依テ着手シ假ニ條數ヲ附シ置キ全編出來ノ後條數ヲ改ムレバ差支ナシト信ズ
○箕作麟祥君
矢張不都合ヲ免レザルガ如シ
○岡村輝彦君
調査ノ方針ニ順序ヲ定メタルハ只ダ便宜ノ爲メニシテ法典トナリタル以上ニ於テ之ヲ動カスハ差支ナキモノト信ズ
○議長(伯爵伊藤博文君)
否十一條ニ於テ各編毎ニ法規ノ條數ヲ起算ストアル以上ハ何處迄モ之ヲ以テ貫カザルヲ得ズ故ニ若シ全編通シテ條數ヲ算スルコトトナラバ最初ヨリ順序ヲ追フテ定メ置キ例ヘバ第一編ガ三百六十五條ニテ終ラバ第二編ハ三百六十六條ヨリ起算スル樣爲シ置カザル可カラズ
○岡村輝彦君
本員ハ十一條ノ如キハ只ダ起草ノ際便宜ノ爲メ各編毎ニ條ヲ設ケ置クノ趣意ニシテ決シテ確定ノモノニ非ズト信ジ居タリ然ルニ若シ之ヲ以テ確定ノモノトセバ發布ノ際ニ至リ親族ヲ前ニ置クノ必要ヲ見出スガ如キコトアリタル場合ニ於テ甚ダ不都合ナラン
○議長(伯爵伊藤博文君)
梅君ノ說ニ依レバ假リニ一編毎ニ條數ヲ設ケ置キ他日全編完成ノ後條數ノミヲ修正スレバ差支ナシトノ說ナルモ若シ都合ニ依テ順次一編ヅツ發布スルコトトナラバ全編完成ノ後條數ヲ修正スル爲メニ特ニ議會ノ協贊ヲ經ザルヲ得ズ
○梅謙次郎君
然リ佛國ニ於テ現ニ其通リ爲シタリ
○議長(伯爵伊藤博文君)
修正案ヲ提出シテ議會ノ協贊ヲ經ルコトトセバ其度毎ニ條文ニ付テ種々ノ修正說ヲ出ス者アルトキハ容易ナラザル煩雜ヲ惹起スナラン去レバトテ條數以外ニ渉ルコトヲ得ズトノ制限ヲ設ケテ議會ニ付スルコトモ難カラン
○梅謙次郎君
其事ハ法律案ノ書キ方ニテ如何トモナルベシ
○穗積陳重君
本日議決セラルル譯ニハ非ザルベキモ大切ノ事柄ナルヲ以テ一言シ置カン旣ニ法典調査規程第一條ニ法典ノ修正ハ單獨起草合議定案ノ方法ニ依ルト定メラレタルモノニシテ今更之ヲ打破スル能ハザルヲ以テ一箇ノ法典ニ付テハ固ヨリ單獨起草ノ法ヲ彩ラザル可カラズ彼ノ獨逸帝國民法ノ編纂ノ如キハ現ニ一法典ヲ五分シテ之ヲ起草シ中央整理委員ノ手ニ於テ之ヲ整理シタルモノナルニ充分ニ整ヒ居リテ毫モ木ニ竹ヲ接シタルガ如キ文章ノ不揃モナク且ツ牴觸重複等ノ不都合モナシ斯ル好結果ヲ得タル實例ナキニアラズト云ヘドモ前陳ノ如ク旣ニ規程ニ定メラレタル今日ニ於テハ之ニ服從セザルヲ得ズ乍併彼ノ單獨起草合議定案ナル意味ヲ二箇ノ法典ニ及ボシ一本ノ串ニ數箇ノ團子ヲ貫クガ如キ解釋ヲ爲シ二箇ノ法典ヲ同一委員ニ起草セシムルガ如キハ法典編纂ノ歴史ニ於テ未ダ曾テ聞カザル所ナリ若シ又民法ト商法ハ關係アル法典ナルガ故ニ一ノ委員ニ托スベシトノ理由ナラバ獨リ民法商法ノミナラズ凡ソ一國ノ法律ハ悉ク一ノ起草委員ニ立案セシメザル可ラザル理ナルヲ以テ其理由ヲ是認スル能ハズ要スルニ此單獨起草ナル文字ノ解釋廣キニ失シタルノ說ト信ズ乍併若シ一ノ委員ニ付托シテ出來得ルモノナランニハ敢テ異論ナシト雖モ法典延期ノ期限ハ明治三十年迄ニシテ其間ニ於テ此二大法典ヲ修正決了シテ議會ニ提出スルハ我々委員ノ責任ニシテ我々ハ必ズ此責任ヲ盡サザル可カラズ是レ我々ノ考慮ヲ置クベキ點ナリ而シテ各國ノ實例ヲ見ルニ民法商法ヲ別ノ委員ニ托シテ敢テ不都合アルヲ見ズ是ニ由テ見ル時ハ今ニ於テ二箇ノ起草委員ヲ設ケ別ツテ之ヲ托スルヲ以テ適當ノ事ト信ズルナリ付テハ方針第九條ニ商法ノ規定ニシテ民法ト重複スルモノハ之ヲ刪除ストアリテ此點ニ於テ同時ニ兩法ヲ起草スルハ不便ナルガ如シト雖モ其ノ堺目ノ如キハ主査委員會及委員總會ノ議ヲ經テ決定スルモノナルヲ以テ其前ニ當リ整理委員ニ於テ十分注意ヲ加ヘテ之ヲ委員會ニ提出スルヲ得ベシト信ズ之ヲ要スルニ餘リ完全ヲ望ムガ爲メニ却テ期限ニ迫ツテ結了スル能ハザル如キ不都合ヲ生ズルヲ恐ルルナリ而シテ發布ノ順序ニ至リテハ商法ハ少クトモ民法物權人權ノ確定シタル後ニ非ザレバ之ヲ確定シテ發布スル事能ハズ蓋シ其以前ニ於テ之ヲ豫定議ニ付スル如キコトハ或ハ一ノ便宜法ナラン又民法ノ條數ヲ各編毎ニ起草スル事ニ付テ反對ノ論アリト雖モ元來社會ノ人事ハ段々複雜ニ趣クモノナルガ故ニ法律ハ成ルベク社會ノ進歩ニ伴ヒテ之ヲ動カシ得ル樣編成シ置カザル可ラズ民法中ニ於テモ親族編ハ動キ易ク人權ニ關スル部分ハ其動キ少ナキ等ノコトアルハ勿論ニシテ民法ト稱スル廣キ物ヲ作リテ社會萬端ノ人事ヲ一束シテ首尾一貫セシムルガ如キハ本員ハ之ヲ未開時代ノ遺物ナリト考ルナリ現ニ法律ナルモノハ社會ノ進歩ニ伴ヒテ段々分裂シ行キテ社會ノ變化ト共ニ修正ヲ加フルノ便ヲ生ズルノ傾向アリ例ヘバ初メハ民法商法モ同一ノモノナリシ後ニ至リテ分裂シ又別ニ鑛業法鑛山法ヲ產ミ出シタルガ如ク法律ハ段々分裂シ行クモノナリ故ニ今日ニ當リ強テ古來ノ遺物ニ依リ前後貫通シテ之ヲ一束シ置カントスルハ本員ノ同意スル能ハザル所ナリ次ニ親族ヲ第二編ニ置クベシトノ說アリト雖モ本員ハ矢張リ原案ノ如ク第四編ニ置クヲ以テ相當ト信ズ乍併此點ニ於テハ敢テ熱心ナル反對者ニアラザルヲ以テ之ヲ述ベズ
○星亨君
本員ハ一ノ動議ヲ提出ス我々査定委員ハ今日初テ調査方針ノ趣旨ヲ聞キタルノミナルヲ以テ尙ホ議案ヲ熟讀シタル上ニテ討議スベキモノト考フ故ニ本日ハ質問ノミトシテ意見ヲ吐クコトヲ止メ後日更ニ開會セラレンコトヲ望ム
○横田國臣君
本員モ星君ノ說ニ同意ナリト雖モ只民法商法ヲ別々ノ委員ニ托スルヤ否ヤノ事ハ此際議決セラレンコトヲ望ム本員ノ考ニテハ元來此事ハ法典調査方針ニ入ル可キモノニアラズシテ調査規程中ニ入ル可キモノト信ズ故ニ調査規定中「主査委員中ニ民法起草委員三名商法起草委員三名ヲ置ク」ト規定セラレンコトヲ望ム
○議長(伯爵伊藤博文君)
毫モ差支ナシ調査規程第一條ニ「法典ノ修正ハ單獨起草合議定案ノ方法ニ依ル」トアリテ第二條ニ「主査委員中ニ起草委員三名ヲ置キ專ラ修正案ノ起草ニ任セシム」トアルヲ以テ之ヲ各法典ノ修正ハ云々トノ意ニ解釋スレバ差支ナシト認ム
○横田國臣君
各法典ト言ハズシテ單ニ法典ト言フ以上ハ民法商法ヲ總括セルモノナルヲ以テ左樣ニ解釋スルハ無理ナラン
○議長(伯爵伊藤博文君)
其位ノ疏通ハ爲シ得ルモノト信ズ乍併之ヲ修正スルハ總裁ノ職權内ニアルコトナルガ故ニ之ヲ詳述スルモ差支ナシ
○某君
星君ノ說ニ贊成ス
○某君
以上ノ議論ハ全ク無用ニアラザルモ要スルニ唯業務ノ進行上差支ナキ事ヲ望ム
○議長(伯爵伊藤博文君)
此方針ニ就テハ今一應熟考ヲ要スルヲ以テ更ニ一回ヲ促シ以テ決議セラレン事ヲ望ム其期日ノ如キハ餘リ遠キニ延バス可ラズ二日或ハ三日ノ後トセバ如何
○某君
贊成ヲ表ス
○某君
民法ト商法トニ就キ起草委員ヲ分別スルヤ否ヤニツキ決ヲ採ルベシ
○某君
旣ニ大方針一定スル以上ハ文字等ニツキ牴觸スルコトナキヲ要スルガ故ニ分別スルヲ好マズ
○澁澤榮一君
商法ハ七月一日ヲ以テ施行スルモノナレバ先ヅ商法ノ方ヲ修正スルノ方針ヲ採リ且起草委員ノ如キモ固ヨリ區別スルヲ要スルナリ
○岡村輝彦君
民法ト商法トヲ一貫シテ單獨起草委員ニ附スルトノ梅君ノ說ヲ贊成ス何トナレバ民法ト商法トハ起草者ガ異ナルヲ以テ自然佛獨ニ傾キ彼是牴觸スルノ點ヤ法典ヲ一讀スル毎ニ發見スルナリ故ニ今單獨起草委員ニ任セテ順序ヲ履ミ貫聯センコトヲ望ム
○富井政章君
民法ト商法トノ起草委員ヲ異ニスルハ別ニ差支ナキコトナレドモ先ヅ民法人權ノ原則ヲ定メザル以上ハ之ヲ編纂スルコトヲ得ザルガ故ニ物權人權編ノ成立スル上ニアラザレバ完全ナルモノヲ編纂スルコトヲ得ザルナリ梅君ノ御說ニヨルトキハ單獨方法ヲ採ルトキハ却テ早ク終了スト云フモ第九條ニ牴觸スルノ嫌ヒアリ又澁澤君ハ商法ヲ以テ先ニ修正ストノ御說ナレ共是ハ順序ニ關スルモノナレバ別ニ親族編及ビ相續編モアレバ是等ヨリハ寧ロ商法ノ方ヲ先キニスルヲ可ナリト思フ然レドモ孰モ着手順序ニ於テ陳スベキ事ト考フ唯同時ニ着手スル時ハ各委員廻シ等ニテ往復スル爲メ不便ヲ生ズルコトモアリ然レドモ實際左程ニナキヤモ豫知シ難シ
○某君
民法及ビ商法ヲ孰ガ先キニスベキヤト云フニ之ヲ分割スルトキハ速成ニハ相違ナキモ之ヲ二分スルトキハ同一ノ委員ニテ各自修正スル如キハ大ニ不都合ナラン何トナレバ雙方共ニ微力ニテハ困難ナレバナリ且ツ岡村君ノ御說ノ如ク民法ニ豫メ着手セザレバ商法ト牴觸スルヲ以テナリ加之調査ノ方針ニヨレバ民法ハ改造ヲ要スルヲ以テ商法ト牴觸スルコト多ケレバナリ
○星亨君
元來單獨起草トスレバ一編毎ニ之ヲ分擔セシメテ可ナリ或ハ極端ノ說トセバ止ムナクンバ澁澤君ノ說ノ如ク民法ト商法トヲ分擔シテ單獨起草シテ之ヲ進行セザレバ何時迄カカルヤモ知ル可ラズ故ニ澁澤君ノ說ヲ贊成ス
○富井政章君
商法ハ委員ヲ置テ之ヲ修正シ總則ハ物權及人權ノ修正ヲ爲スマデ延バスコトヲ可トス
○某君
此規則ニヨレバ商法ハ第六番目ニナリヲル故ニ何程委員ヲ拵ヘルモ六番目ニ位スル以上ハ速ニ定ムルノ必要ヲ見ザルナリ
○某君
穗積君ノ御說ニヨレバ民法ト商法トヲ一人ニ全擔セシムルハ各國ニモ其例ナク又一ノ法典ガ確定シテヲレバ之ニ據テ定ムルヲ得ルトノコトナレドモ然レドモ今日ハ民法商法同時ニ改正スルモノナレバ商法ヲ先ニシタル例ヲ聞カズ殊ニ重複又ハ牴觸ナキヤ否ヤ適用上疑義ヲ生ズルヲ免レザルナリ故ニ今日ハ雙方完全ナラシメンニハ同一ノ委員ニ之ヲ托センコトヲ望ム
○三崎亀之助君
民商兩法ヲ分擔スルヤ否ヤハ其根原ハ調査ノ進歩ニアリ而シテ民法ト商法ト重複スルコトハ商法ノ方ヲ刪除セザル可ラズ故ニ一方ノ民法ガ成立シタル以上ニアラザレバ商法ガ重複スルヤ否ヤハ之ヲ定ムルヲ得ズ委員ヲ別ルモ結果ハ同一ニ歸スルモノナリ
○某君
分擔方ヲ可ナリトス否ラザレバ商法ハ大ニ遲引スレバナリ從來ノ慣習ニ依リ且ツハ實際日本旣成ノ法典ニヨリテ判斷スルモ民法ハ殊ニ力ヲ用ヒ商法ニ至リテハ親切ヲ缺クノ嫌ヒアリ抑モ本會ハ牴觸又ハ重複ヲ論ズル如キハ整理委員ノ職ニシテ敢テ起草委員ヲ異ニスルモ差支ナシ
○議長(伯爵伊藤博文君)
此順序ノ事ニ就テハ大分議論モアリテ其得失ハ充分了解シタレドモ諸君ノ說ニヨレバ人權及ビ物權等ヲ分ツコトハ尙熟考セラレタシ又起草委員ハ調和シテ之ヲ調ベザレバ大ニ困ルナリ旣ニ起草委員ハ諸君ニハ御吹聽ハ申サルモ主査會ニ於テ梅君富井君及ビ穗積君ニ指命屬托セリ三名ハ辭退シタレドモ遂ニ是ヲ受ケラレタリ故ニ別ニ商法起草委員ヲ設クルトキハ意見ノ異ナル爲メ却テ不都合ナレバ目下ノ處ニテハ順序ハ諸君ノ御熟考ヲ乞フモノナレドモ今少シ進行ニ關シテハ餘リ之ヲ定メ置クモ不可ナレバ商法ト民法ト同時ニ之ヲ着手スルヤ否ヤハ其時ニ當リ之ヲ定メテ然ルベシ故ニ方針ノ事ハ暫ク之ヲ後日ニ迴サレタシ
○村田保君
分擔ノ事ハ是ヲ取消シタル姿ナレドモ若モ分擔ノ方多數ナレバ之ニ從フモ可ナルベシト思フナリ
○澁澤榮一君
法典修正トアルハ孰レヲ含有スルカ議長是ニ答ヘントスルニ當リ某委員曰ク其ハ確言シ難カラン何トナレバ總裁ノ思召ニテ如何トモ變更スルモノナレバナリト此時笑聲起リ其儘トナリタリ
○議長(伯爵伊藤博文君)
此目的ノ主要タル處ハ修正宜數ヲ得テ完全ナル法典ヲ作ラザレバ數年ノ後ニ至リ世人ノ笑ヲ遺スヲ恐ル殊ニ社會ニ對シテ面目ナキ事ナリ故ニ實際進行サヘスレバ以上ノ如キ規則ハ如何ヨウニテモ諸君ノ御說ニ從ハン此規則ノ不完全ナル點ヲ發見スルトキハ之ヲ改良シ充分ノ勉勵ヲ爲ス筈ナリ總裁モ勉勵シ得ルダケハ勉勵スルハ勿論ナレドモ各委員ニ於テモ隨分御勉勵セラレン事ヲ希望ス如斯事ハ歸一スルコト難キモノナレバ勉テ歸一センコトヲ望ム然ラザレバ此法典ニ自然大關係ヲ及ボスモノナレバナリ唯成ルベク纏ルヨフニ致度キモノナリ追々纏ルニ從ヒ報告委員ノ如キモノモ設クル場合トナルモ兎モ角方針ノ事ニ就テハ次回迄御熟考セラレタシ仍テ次回ニ於テ是非徹宵シテモ之ヲ確定セラレタシ又商法ノ事ニ就テモ御熟考セラレタシ最モ次回ハ來五月二日午後四時ヨリ開會此旨御了知セラレタシ