民法(~2019年)

民法(債権関係)部会資料78A 民法(債権関係)の改正に関する要綱案のたたき台(12)

参考原資料

第1 錯誤
民法第95条本文を次のように改めるものとする。
1 意思表示に錯誤があり、その錯誤がなければ表意者は意思表示をしていなかった場合において、その錯誤が意思表示をするか否かの判断に通常影響を及ぼすべきものであるときは、表意者は、その意思表示を取り消すことができる。
2 ある事項の存否又はその内容について錯誤があり、その錯誤がなければ表意者は意思表示をしていなかった場合において、次のいずれかに該当し、その錯誤が意思表示をするか否かの判断に通常影響を及ぼすべきものであるときは、表意者は、その意思表示を取り消すことができる。
ア 表意者が法律行為の効力を当該事項の存否又はその内容に係らしめる意思を表示していたこと。
イ 相手方の行為によって当該事項の存否又はその内容について錯誤が生じたこと。
○中間試案第3、2「錯誤」
民法第95条の規律を次のように改めるものとする。
(1) 意思表示に錯誤があった場合において、表意者がその真意と異なることを知っていたとすれば表意者はその意思表示をせず、かつ、通常人であってもその意思表示をしなかったであろうと認められるときは、表意者は、その意思表示を取り消すことができるものとする。
(2) 目的物の性質、状態その他の意思表示の前提となる事項に錯誤があり、かつ、次のいずれかに該当する場合において、当該錯誤がなければ表意者はその意思表示をせず、かつ、通常人であってもその意思表示をしなかったであろうと認められるときは、表意者は、その意思表示を取り消すことができるものとする。
ア 意思表示の前提となる当該事項に関する表意者の認識が法律行為の内容になっているとき。
イ 表意者の錯誤が、相手方が事実と異なることを表示したために生じたものであるとき。
(3) 上記(1)又は(2)の意思表示をしたことについて表意者に重大な過失があった場合には、次のいずれかに該当するときを除き、上記(1)又は
(2)による意思表示の取消しをすることができないものとする。
ア 相手方が、表意者が上記(1)又は(2)の意思表示をしたことを知り、又は知らなかったことについて重大な過失があるとき。
イ 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
(4) 上記(1)又は(2)による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができないものとする。
【第3ステージ:第76回会議(部会資料66B)第86回会議(部会資料76A)で審議】
(説明)
1 表示の錯誤と動機の錯誤に共通する要件(要素の錯誤)について
部会資料76Aでは、錯誤と意思表示との主観的因果性とその錯誤の客観的重要性によって要素の錯誤に該当するか否かを判断する判例法理を踏まえ、錯誤を理由とする取消しが認められるための要件を「その錯誤がなかったとすれば表意者はその意思表示をせず、かつ、それが取引通念上相当と認めるとき」と表現する案を提示していた。
これに対して、第86回会議では、客観的重要性の要件の表現ぶりについて、錯誤に関する規定が遺言等でも問題となることを踏まえると、その判断基準は
「取引通念」ではなく「社会通念」と表記すべきであるとの意見が出されたが、これに対して、「社会通念」を判断基準とすることには、従前「社会通念」との用語では判断基準が不明確であるとの議論がされたこと等を踏まえ、消極的な意見も示された。
今回の素案では、以上の議論等を踏まえつつ、判例法理が主観的因果性に加えて、客観的重要性を要求しているのは、その錯誤があれば表意者だけでなく、他の一般的な人も意思表示をしないのが通常であることを要求するためであると考えられることから、端的に「その錯誤が意思表示をするか否かの判断に通常影響を及ぼすべきもの」とする案を提示している。なお、同様の表現は、消費者契約法における「重要事項」の定義にも用いられている(同法第4条第4項参照)。
2 動機の錯誤について
(1) 「動機の錯誤」について
部会資料76Aでは「動機の錯誤」との言葉を用いていたが、第86回会議では「動機の錯誤」との言葉を用いることについて異論も見られたところである。
今回の素案では、以上を踏まえつつ、そもそも「動機の錯誤」とは、意思表示ではなく、意思表示以外のある事項について錯誤があり、その錯誤がなければ意思表示をしない(逆にいえば、錯誤を前提として意思表示をしている)ものとして理解されていたものであること等を考慮して、端的に、意思表示ではなく、「ある事項の存否又はその内容」について錯誤があり、「その錯誤がなければ表意者は意思表示をしていなかった場合」としている。
(2) 「表意者が法律行為の効力を当該事項の存否又はその内容に係らしめる意思を表示していたこと」(素案2ア)について
部会資料76Aでは、「動機が法律行為の内容になっているとき」を要件
としていたが、これに対しては、第86回会議で、その意味内容が明確でないなどの異論もみられたところであるし、判例法理において「意思表示の内容」又は「法律行為の内容」との用語が用いられているとしても、法律上その規律を明文化するためには、その内容をより具体的に検討する必要があると思われる。
そこで、今回の素案では、従前の判例を踏まえつつ、その内容をより具体的に表すために、「表意者が法律行為の効力を当該事項の存否又はその内容に係らしめる意思を表示していたこと」を要件とすることを提案している。これは、判例法理が動機を表示するだけでは足りず、意思表示の内容又は法律行為の内容となる必要があるとしているのは、その動機が当該法律行為の効力を左右するものであることが前提となっていなければならないことを意味していると思われること、その動機が法律行為の効力を左右することを表示していれば、動機の錯誤を理由として当該法律行為を無効としても相手方にとって不意打ちにはならない(動機が法律行為の効力を左右することに異論があれば、相手方は、当該法律行為をしないこともできる。)こと等を考慮したものである。
そして、ここでいう「表意者が法律行為の効力を当該事項の存否又はその内容に係らしめる意思を表示していたこと」とは、要するに、動機を表示しただけでは足りず、その動機が当該法律行為の効力を左右することを表示していれば、動機の錯誤であってもその意思表示を取り消し得るとするものであり、例えば、マンション(実際には、富士山が見えない)を買う際に、そのマンションから富士山が見えると思うので買いますというだけでは足りず、マンションから富士山が見えるから買うが、マンションから富士山が見えるのでなければ売買契約をするつもりはないと表示していなければ、錯誤を理由として取り消すことはできないものとするものである。もちろん、ここでいう表示は明示でなくても、黙示でも足りるものであるし、実際上多くの場合には黙示で表示されたかどうかが問題となると思われるところ、例えば、上記の事例で、明示の表示がない場合には、その契約締結までのやり取りや、値段等の契約内容等を総合的に考慮して、「マンションから富士山が見えるのでなければ売買契約をするつもりはないと表示していた(逆にいえば、マンションから富士山が見えるのでなければ売買契約は締結されないことを相手方が認識し得た)」といえるのかを判断することになる。このような判断の枠組みは、現在の一般的な実務運用とも合致しているように思われる。
(3) 「相手方の行為によって当該事項の存否又はその内容について錯誤が生じたこと」(素案2イ)について
ア これは、部会資料66B等では、「動機の錯誤が相手方によって惹起された場合」という項目名で取り上げ、議論されてきたところにつき、具体案を提示するものである。
この点に関して、中間試案では、「表意者の錯誤が、相手方が事実と異
なることを表示したために生じたものであるとき」を要件の一つとすることを提示していた。しかし、そもそも、ここで検討しようとしていたのは、その表意者の錯誤が相手方に起因する場合に、その錯誤によって生じ得るリスクは相手方において負うべきかどうかということであって、問題とすべきであるのは表意者の錯誤と相手方との間の因果性であると思われる。そこで素案では、その錯誤が相手方に起因することを問題としていることを端的に示すため、表意者の錯誤が相手方の行為によって生じたことを要件とすることとし、その錯誤と相手方との因果性が問題となることを強調するものとしている。もっとも、相手方の行為によって表意者の錯誤が生じたといえるのは、実際上は、相手方が表意者に対してその錯誤が問題となる事項につき真実とは異なる説明(表示)をしたか、又は真実とは異なる説明(表示)をしたと評価できるような行為があった場合がほとんであり、それ以外の場合はあまり想定できないようように思われる。
イ ところで、相手方の行為によって錯誤が生じたような場合には、基本的には、それによって生ずるリスクは相手方が負うとするのが相当ではないかと思われるが、相手方の行為に着目して要件を設定することについては、これまでも、実務上悪影響が生じ得るとして反対する意見が出されていたところである。しかし、このように相手方の行為によって錯誤が生じたことを要件としても、それによって、相手方が誤解を生み得るような行為をした場合に、直ちに表意者が錯誤を理由とする取り消しをすることができるようになるわけではなく、表意者を過当に保護し、相手方に不当に不利益を及ぼすことにはならないと思われる。すなわち、相手方が、ある取引において、当該事項の存否又はその内容を保証するような行為をしても、その取引が事業者間の取引でその取引の双方がそれぞれ必要な情報を収集することが想定されるような場合や、表意者の方が相手方より情報力において優位にあり表意者においても必要な情報を収集することが想定される場合などには、表意者においても当該事項の存否又はその内容を把握することについて一定の調査等を行ってしかるべきである。それにもかかわらず、表意者において一定の調査等をしていないようなときには、表意者にある事項の存否又はその内容につき錯誤を生じたとしても、その錯誤は相手方の行為ではなく、表意者の調査義務の懈怠によって生じたものであると考えられる。また、仮に、その錯誤が相手方の行為によって生じたと評価されても、表意者には錯誤につき重過失があると評価され得るなど、相手方の行為と錯誤の因果性や、表意者の重過失の有無等の要件が別途検討されることになる。以上のような事情を考慮すると、表意者を過当に保護し、相手方に不当に不利益を及ぼすことにはならないと思われる。
そこで、今回の素案では、「相手方の行為によって当該事項の存否又はその内容について錯誤が生じたこと」を、「表意者が法律行為の効力を当該事項の存否又はその内容に係らしめる意思を表示していたこと」とは別
の一つの要件とすることを提案している。
なお、これまで、現在の実務上、表明保証違反となった場合は、損害賠償又は過失相殺等を行うことで柔軟な解決を図っていること等を踏まえ、いわゆる表明保証との関係で、このような要件の下で錯誤を理由とする取消しを認めることに対する懸念が示されていた。しかし、表明保証違反がある場合に錯誤を理由として当該取引の効力を失う結果となるかどうかは、動機の錯誤が判例法理として確立している現在においても生じ得る問題であり、「表意者が法律行為の効力を当該事項の存否又はその内容に係らしめる意思を表示していたこと」を要件とすることによって初めて生ずる問題ではない。すなわち、現在の実務において、約定内容から、表明保証違反となった場合であっても、損害賠償等で対応することが予定され、当該取引の解除等が予定されていないような場合には、その表明保証違反にかかわらず当該取引が存続することが予定されており、錯誤を理由として当該取引は無効とならないと考えられているのであれば、同様の理由から、新たに上記の要件を置いても、錯誤を理由として当該取引を取り消すことはできないと思われる。そうすると、表明保証のようなケースでは、そもそもその表明保証がどのような内容であるのか、すなわちその表明保証にどのような効果を付与することが当事者間で合意されていたのかを探求することにより問題の解決が図られる(例えば、表明保証が真実に反していれば、契約の解除や損害賠償により対応することが予定されているか否かなど)と思われ、そもそも錯誤の規定が問題となることはあまりないのではないかと思われる。
(4) 錯誤者に重過失がある場合の例外及び第三者保護要件について
本資料では、錯誤者に重過失がある場合の例外及び第三者保護要件を取り上げていないが、この点については、部会資料76Aの内容を維持することを前提としている。
第2 消滅時効 1 債権の消滅時効における原則的な時効期間と起算点 民法第166条第1項及び第167条第1項の債権に関する規律を次のように改めるものとする。 債権は、次に掲げる場合のいずれかに該当するときは、時効によって消滅する。 (1) 債権者が権利を行使することができること及び債務者を知った時から5年間行使しないとき。 (2) 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。 【第3ステージ: 第74回会議(部会資料6 3)  第79回会議(部会資料6 9A)で審議】 (説明)  1 これまでの審議における議論の状況 この論点は、第74回会議(平成25年7月16日開催)及び第79回会議 (同年1 0月29 日開催)において取り上げられ、第79 回会議において用いた部会資料69A では、「権利を行使することができる時」から10年という現行法における起算点と時効期間(民法第16 6条第1 項、第16 7条第1 項) を維持しつつ、「債権者が権利を行使することができること及び債務者を知った時」から5年間という主観的起算点と時効期間を新たに設け、いずれかの時効期間が満了したときに消滅時効が完成するという案が提示された。 第79 回会議では、この提案の考え方を支持する意見が増えつつあることを紹介する意見があったものの、なお検討すべき問題があるとの指摘もあった。そこで、本資料では、第79回会議において指摘があった点を中心に、更に検討を加える。 2 問題点の検討 (1) 第79回会議では、素案の考え方に対し、これを採用した場合における主観的起算点の解釈にはまだ不明確な点があることから、起算点の解釈を更に 明確にする必要があるとの指摘があった。 ア まず、「権利を行使することができること… を知った」というためには、 「権利を行使することができる時」( 民法第1 66条第1項)が到来した ことを認識する必要があると考えられる。その具体的な認識の対象につい ては、同法第724 条前段の「損害…を知った時」の解釈が参考になると考えられる。 判例は、「損害…を知った時」とは、被害者が損害の発生を現実に認識した時をいい(最判平成1 4年1月29日民集56号1巻21 8号)、単に加害者の行為により損害が発生したことを知ったのみではなく、その加害行為が不法行為を構成することも知った時との意味に解するのが相当 であり( 最判昭和42年1 1月30 日裁判集民事89 号279 頁)、損害を被ったという事実及び加害行為が違法であると判断するに足りる事実 を認識した時点から時効が進行するとしている(最判平成23年4月2 2 日裁判集民事23 6号44 3頁)。学説上は、不法行為を基礎づける事実については被害者が現実に認識していることが必要であるが、不法行為であるという法的評価については一般人ないし通常人の判断を基準とすべ きであるとする見解が多数説である。そして、その認識の程度については、 損害賠償請求訴訟で勝訴する程度にまで認識することを要しないと理解 されている。 上記判例の解釈は、素案(1)の主観的起算点の解釈にも基本的に妥当すると考えられる。なぜならば、素案(1)の主観的起算点は債権者の現実的な権利行使の機会を確保する趣旨で設けるものであって、民法第72 4 条前段の主観的起算点と全く同じ趣旨に基づくものであると考えられるか らである。そして、上記判例の解釈を前提とすれば、素案(1)の「権利を行使することができること…を知った時」とは、債権者が当該債権の発生と履行期の到来を現実に認識した時をいうと考えられる。当該債権の発生を現実に認識したというためには、債権者が当該債権の発生を基礎づける事実を現実に認識する必要があるが、当該債権の法的評価( 例えば、債務不履行に基づく損害賠償請求権であれば、債務不履行の要件を充足すること)については、一般人の判断を基準として決すべきであると考えられる。 以上の理解を前提として、次のイ以下で具体的に検討する。 イ 確定期限の定めのある債権 まず、確定期限の定めのある債権については、債権者が債権の発生時に、 これを基礎づける事実を現実に認識しているのが通常であり、期限の到来によって現実的な権利行使が可能になることから、主観的起算点は期限の到来時となり、客観的起算点と一致することになると考えられる。 ウ 不確定期限付き債権、条件付き債権 不確定期限付きの債権における主観的起算点は期限の到来を現実に知った時、条件付き債権については条件成就を現実に知った時となると考え られる。 エ 期限の定めのない債権 期限の定めのない債権について、民法第166 条第1項の「権利を行使 することができる時」は債権の成立時であると理解されている( 大判昭和17年1 1月19 日民集2 1巻10 75頁など)。これを前提にすると、 「権利を行使することができることを知った時」は債権の成立を知った時となり、契約に基づく期限の定めのない債権の場合には、基本的には客観 的起算点と一致することになると考えられる。 もっとも、期限の定めのない消費貸借契約に基づく貸金返還請求権につ いては、契約成立から相当期間の経過後でなければ返還を請求することができないため、「権利を行使することができる時」とは、消費貸借契約の成立から相当期間が経過した時であるとする考え方がある(東京高判昭和41年6 月17日金融法務事情44 9号8頁、東京高判昭和51 年8 月3 0日判タ344号201頁など)。この考え方を前提にすれば、期限の定 めのない消費貸借契約における主観的起算点は、消費貸借契約の成立から 相当期間が経過したことを知った時と解釈されるものと考えられる。 オ 契約に基づく債務の不履行による損害賠償請求権 判例は、契約に基づく債務の不履行による損害賠償請求権について、民法第16 6条第1 項の「権利を行使することができる時」とは、本来の債務の履行を請求し得る時をいうとしている(契約の解除に基づく損害賠償請求権につき最判昭和35 年11月1日民集14巻2 781頁、履行不能による損害賠償請求権につき最判平成10年4月24 日判時1 661号66頁)。この解釈は、債務不履行に基づく損害賠償請求権のうち、契約に基づく本来の債務の不履行による損害賠償請求権に妥当するものであることから、債務不履行に基づく損害賠償請求権であっても本来の債務とは異なる債務の不履行に基づく損害賠償請求権(例えば付随義務違反など)については妥当しないと考えられる。 上記解釈を前提とすると、素案の考え方を採った場合の主観的起算点は、 本来の債務の履行を請求することができることを知った時になると考え られる。例えば、履行期から一定の期間が経過した後に目的物が滅失した 場合の履行不能による填補賠償請求権の主観的起算点は、本来の債務の履 行を請求することができることを知った時となる。このように解釈しても、 債権者が本来の債務の履行請求権について時効中断の措置をとれば、填補賠償請求権の時効も中断されることから、債権者に実質的な不都合はない ものと考えられる。 カ 金融商品の取引における債務不履行に基づく損害賠償請求権 第79回会議において、金融商品の取引に関して債務不履行に基づく損害賠償を請求する場合の消滅時効について、主観的起算点がどのように判断されるのかが不明確であるとの指摘があった。そこで、ワラント取引や 商品先物取引などにおいて適合性違反や説明義務違反があり、債務不履行 に基づく損害賠償を請求する場合の損害賠償請求権の消滅時効について検討する。 まず、現状においては、ワラント取引や商品先物取引に関する債務不履 行に基づく損害賠償債権について、「権利を行使することができる時」(民 法第16 6条第1 項)からの消滅時効は、損害額が確定した時点から起算されるとの判断が下級審裁判例において定着しているものと考えられる (大阪地判平成1 1年3月30日判タ102 7号16 5頁など)。他方で、その時効期間については、民法第16 7条第1 項の10 年の時効期間が適用されると判断したもの( 前掲大阪地判平成1 1年3月30日、津地判平成21年3月27 日証券取引被害判例セレクト33巻83頁など)と、商法第52 2条の5 年の時効期間が適用されると判断したもの(名古屋地判平成24 年8月2 4日先物取引裁判例集68 号83頁、東京高裁平成2 5 年4月1 0日など)とがあり、必ずしも10年の時効期間の適用が実務上定着しているものではないと思われる(ここでも民法・商法の時効期間の適用関係の不明確さという問題が顕在化していると考えられる)。 素案の考え方を採用した場合に、この種の取引に関する債務不履行に基づく損害賠償請求権の主観的起算点が具体的にどの時点になるのかとい う問題については、不法行為責任が認められた事案における「損害及び加害者を知った時」( 民法第7 24条前段)の判断が参考となる。下級審裁判例においては、一連の取引が終了した時が「損害及び加害者を知った時」 であると判断された事案がある一方で(大阪高判平成8 年4月2 6日判タ931号260頁など)、弁護士に相談するまでは損害が発生した事実を知っていたとはいえないと判断された事案(広島地判平成25年1月1 1 日)や、弁護士から違法な商品先物取引による被害である可能性がある旨指摘された時点から起算されると判断された事案(名古屋高判平成2 5 年2月27 日先物取引裁判例集68号104頁)もあり、必ずしも損害確定時から消滅時効が起算されると判断されているわけではない。これは、一般的な不法行為責任であれば、債権者が不法行為を基礎付ける客観的な事 実を知れば、通常は違法性を認識することができると考えられるのに対し、 この種の取引においては、不法行為を基礎付ける客観的な事実を知ったと しても、専門的知識のない一般人にとって、それが違法な行為であると判 断することが困難であることを考慮したものと考えられる。これを前提に すれば、この種の取引に関する債務不履行責任についても、単に債務不履 行を基礎付ける客観的な事実を知ったのみでは、一般人にとって、それが 債務不履行に該当すると判断することは困難であることから、主観的起算点は、損害の確定時から起算されるとは限らず、当該事案における債権者 の具体的な権利行使の可能性を考慮して判断されるものと考えられる。 キ 雇用契約上の安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権 まず、現状において、雇用契約上の安全配慮義務違反に基づく損害賠償 請求権の時効期間については、民法第167条第1項の10年の消滅時効が適用されると理解されている(最判昭和50 年2月2 5日民集29 巻2 号143 頁)。また、消滅時効の起算点は、使用者の安全配慮義務違反によりじん肺にかかったことを理由とする損害賠償請求権の消滅時効の起算点について、じん肺法( 昭和35年法律第30 号)所定の管理区分についての最終の行政上の決定を受けた時(最判平成6年2 月22日民集4 8 巻441 頁)あるいは死亡時( 最判平成16年4 月27日民集58 巻10 32頁) と判断されている。 仮に、主観的起算点が導入された場合に、債権者が具体的にどのような 事実を認識した時点から起算されるのかが問題となるが、この点についても、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求において民法第72 4条前段の「損害及び加害者を知った時」の解釈が問題となった事案が参考になる と考えられる。 まず、陸上自衛隊員が徒手格闘訓練中に死亡した事案について、亡自衛官の両親が「加害者を知った」のは、早くとも事故調査委員会が作成した 調査報告書等を入手した平成20年8月頃であると判断したもの( 札幌地判平成2 5年3月29日労働判例1 083号61頁)がある。また、使用者の安全配慮義務違反によって労働者が石綿に曝露し、中皮腫により死亡した事案について、労働者の遺族が「損害及び加害者を知った」のは、どれほど遅くとも石綿健康被害救済法特別遺族年金支給請求書を作成した時点であると判断したもの( 横浜地判平成23 年4月2 8日労働経済判例速報21 11号3 頁)もある。 このように、下級審裁判例においては、債権者が「損害及び加害者を知った」時期について、損害賠償請求をすることが可能な程度の認識があっ たか否かが債権者の具体的な事情に即して判断されており、必ずしも債権者が客観的な損害の発生という事実を知った時であると判断されているわけではない。これは、単に損害の発生という事実を知ったのみでは、一般人にとって不法行為に該当するかどうかの判断が困難な場合があり得ることを考慮したものであると考えられる。そうすると、債務不履行に基 づく損害賠償の請求を行う場合においても、単に損害の発生という事実を知ったのみでは、一般人にとって、それが安全配慮義務に違反し、債務不 履行に該当するかどうかの判断が困難な場合もあり得ることから、主観的 起算点は、債務不履行に該当するか否かの判断が可能な程度に事実を知ったといえるか、当該事案における債権者の具体的な権利行使の可能性を考慮して判断されるものと考えられる。 ク 事務管理に基づく費用償還請求権 現状では、民法第166条第1項の「権利を行使することができる時」は、事務管理の成立の時( 最判昭和43年7 月9日判時530 号34 頁) であると理解されており、素案の主観的起算点を導入した場合には、事務管理の成立を知った時から起算されるものと考えられる。そして、通常は、 事務管理の成立時において債権者は事務管理の成立を知っていることか ら、客観的起算点と主観的起算点とが一致すると考えられる。 ケ 不当利得返還請求権 現状では、民法第166条第1項の「権利を行使することができる時」 は、不当利得返還請求権の発生時(大判昭和12 年9月1 7日民集16巻21号1 435頁)であると理解されている。また、過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引については、同取引継続中は、過払金充当合意が権利行使の法律上の障害となることから、同取引により発生した過払金返還請求権の消滅時効は、特段の事情がない限り、同取引が終了した時点から進行すると理解されている(最判平成2 1年1 月22日判タ128 9号77 頁)。 素案の主観的起算点を導入した場合には、基本的には債権者が不当利得 返還請求権の発生を知った時から起算されるものと考えられる。もっとも、 過払いの事案では、単に不当利得返還請求権の発生原因となった事実( 弁済を行ったこと)を知ったのみでは、一般人が不当利得返還請求権を行使 することができるか否かを判断することは困難な場合もあり得ると考え られる。そのような場合には、不当利得返還請求権を行使することができ るか否かの判断が可能な程度に事実を知ったといえるか、当該事案における債権者の具体的な権利行使の可能性を考慮した判断がされるものと考えられる。 (2) なお、第79回会議において、高齢者が自己の債権を適切に管理すること が困難となった場合には、どの時点が主観的起算点となるのかが不明確であ るとの指摘があった。 素案において、権利を行使することができることの認識を要求する趣旨は、権利行使の現実的な機会を確保する点にある。そうすると、当該債権者が債 権の発生を基礎づける事実と履行期の到来を現実に認識しない限り、主観的 起算点からの時効期間は起算されない。もっとも、例えば、確定期限の定め のある債権の場合に、債権者が弁済期以前のいずれかの時点において債権の 発生を基礎づける事実と弁済期を認識していれば、後は弁済期が到来しさえ すれば権利行使の現実的な機会が確保されているといえることから、基本的 には、弁済期の到来時に債権の存在を忘れていたとしても、それによって主 観的起算点が後れることはないと考えられる。ただし、債権者が行為能力を 喪失したという事情がある場合には、民法第1 58条により時効が停止し得る。 (3) 債権者に相続が生じた場合における主観的起算点からの時効について 第79回会議において、債権者に相続が生じた場合に、被相続人が有していた債権の主観的起算点に影響があるのかが不明確であるとの指摘があった。これは、民法第7 24条前段の時効の起算点について現在でも問題となり得る。 民法第160条は、相続財産について、相続人が確定した時から、また、 相続人がいない場合は管理人が選任された時から6か月を経過するまでの間は、時効の完成が猶予されることを規定している。そうすると、現行法は、 相続による権利・義務の主体の変更は時効の進行自体に影響を及ぼさず、時効の完成を一定期間猶予することによって権利行使の機会を確保することとしていると考えられる。したがって、債権者に相続が生じた場合であっても、主観的起算点からの時効の進行に影響はなく、同条によって時効の完成が猶予され得るにすぎないと考えられる。 (4) 債権の原則的な時効期間を実質的に短期化することの理由 ア 部会資料69 Aの考え方に対しては、債権の原則的な時効期間を実質的に短期化することの積極的な理由を示す必要があるとの指摘がある。 イ その理由は、債権の消滅時効について時効期間を統一する必要性がある ことにある。 (ア) 現行法には、1 0年の原則的な時効期間(民法第16 7条第1 項)のほか、職業別の様々な短期消滅時効の規定(同法第170 条から第17 4条まで)が設けられているが、列挙された債権とその他の債権との時 効期間の差異を合理的に説明することが難しい上に、短期消滅時効の適 用を受ける債権であるか否かの判断が困難なケースが少なくなく、実務 上も支障が生じているという問題がある(部会資料3 1第1、1 (1)参照)。そこで、これらの規定を削除し、適用される時効期間について煩雑な判断を要しないようにする必要がある。部会のこれまでの議論にお いても、職業別の短期消滅時効の規定を削除することについては、特段の異論は見られなかった。 商法第5 22条についても、同様の問題が生じている。まず、同条には、民法の10年の時効期間( 同法第1 67条第1項)と商法の5年の時効期間( 同法第5 22条)の適用関係が明確ではなく、いずれの時効期間が適用されるのかの判断が必ずしも容易ではないという問題がある。同条の短期消滅時効が適用されるためには、債権が商行為によって 生ずれば足り、債権者にとっての商行為によるか債務者にとっての商行為によるかを問わないと理解されている(大判明治44 年3月2 4日民録17輯159頁など)。また、判例は、商行為によって生じた債権に 「準ずるもの」にも同条が類推適用されるとしており( 最判昭和5 5年1月24 日判時9 55号5 2頁など)、「準ずるもの」に該当するか否かの判断は、当該取引が迅速な解決を必要とするか否かの観点から個別具体的に判断されるものと考えられる。そのため、同条と民法の10 年の消滅時効との適用関係は不明確であり、いずれの時効期間が適用されるのかの判断が容易でない事案が少なくない。また、商法第522条の適 用を受ける債権と受けない債権との時効期間の差異を合理的に説明することが困難な事案が生じているという問題もある。例えば、農業協同組合や信用金庫は、その業務として組合員や会員に対する金銭の貸付け を行っているが、商人である銀行の貸付債権に同条の5 年の時効期間が適用されるのに対し、農業協同組合及び信用金庫の貸付債権については取引の相手方が商人でない限り民法の10年の時効期間が適用される。もっとも、金銭の貸付けという事業の内容は銀行の事業と類似していることからすれば、時効期間の5年の差は合理的な区別とは言い難い。仮に、職業別の短期消滅時効のみを削除し、商法第522条を維持した場合には、これらの問題が解消されないまま残ることになる。そこで、商法第52 2条についても、民法の原則的な債権の消滅時効と統一することが望ましいと考えられる。 (イ) そうすると、次に、1 年、2 年、3年(民法第17 0条から第1 7 4 条まで)、5 年( 商法第52 2条)、1 0年(民法第16 6条第1 項、第167条第1項) の時効期間をどのように統一すべきかが問題となる。 まず、民法第167 条第1項の10年の時効期間を単純に5年に短縮することによって、これらの時効期間を統一するという考え方がある (中間試案における甲案)。この考え方を採った場合には、債権者が権 利行使の可能性に気づかないまま時効期間が徒過する事案が現在よりも増えるおそれがあることから、反対意見が多い。 次に、「権利を行使することができる時」から10年の時効を維持した上で、事業者間の契約に基づく債権については5年、消費者契約に基 づく事業者の消費者に対する債権については3年の時効期間を新たに設けるという考え方がある(中間試案における甲案の別案)。この考え方についても、事業者の側の債権のみを取り出して短期の特則を設ける理由が合理的に説明されていないことや、「事業者」及び「消費者」の定義が必ずしも明確ではなく、3年と5年のいずれの時効期間が適用されるのかの判断が難しい場面が生じ得ることなどの問題点が指摘されている上、「事業者」と「商人」との関係をどのように整理するのかという問題も残されている。 以上に対し、素案の考え方を採った場合には、債権者が権利行使の可能性を知っている場合にのみ5年間の短期の時効期間が適用され、これを知らない場合には現状と同じく1 0年間の時効期間が適用されることから、この(説明)2(1)で検討したように債権者の権利行使の機会を不当に奪うことなく、比較的早期に法律関係の安定を図ることができると考えられる。また、適用される時効期間についての煩雑な判断は不 要となる。 ウ 前記のとおり、素案の考え方に対しては、いくつかの問題点も指摘されているが、現行法の問題点を解消することができ、かつ、改正した場合の デメリットが他の案と比較して少ないという点で、相対的に最も多くの賛 成を得られる見込みがあるものと思われる。 (5) 素案の考え方が採用されない場合について 素案の考え方の是非について検討する際には、採用が見送られる場合の帰 結や、その場合に生ずる問題点についても留意する必要がある。 仮に、今回の改正において素案の考え方の採用を見送ることとする場合には、職業別の短期消滅時効(民法第17 0条から第174 条まで)の規定が削除され、債権の原則的な消滅時効の時効期間と起算点に関する規律( 同法第166 条第1項、第167 条第1項)及び商事消滅時効( 商法第5 22 条) はそのまま維持されるという帰結となることが考えられる。その場合には、次のような問題が生ずると考えられる。 職業別の短期消滅時効の規定が削除された場合には、現在その適用を受け ている債権の多くが商法第522条の適用を受けることになるが、例外も数 多く生ずると考えられる( 15頁の一覧表を参照)。例えば、民法第17 3 条第1号が適用されている債権のうち、生産者が売却した産物の代価につい ては同法第167 条第1項が適用され、時効期間は10 年となると考えられる。また、同法第1 74条第5号が適用されている債権について、動産の賃貸が営業として行われた場合には商法第52 2条が適用されて時効期間が5年となるが、そうでない場合には民法第16 7条第1 項が適用されて時効期間が1 0年になると考えられる。 このように、職業別の短期消滅時効の規定が削除された場合に、民法の1 0年の消滅時効が適用されることになる債権については、時効期間が大幅に長期化するため、証拠の保存が難しくなり、弁済の立証が困難になるおそれがある。また、民法と商法の消滅時効の判断の困難という問題が解消されずに残されるため、当事者は取引の相手方が商人にあたるか否か、あるいは当該取引が営業として行われるものか否かという煩雑な判断を今後も強いられるという問題もある。 (6) まとめ 以上を踏まえると、債権の原則的な時効期間と起算点について、現行法の問題点を解消しつつ、改正した場合のデメリットも相対的に少ないという点で、素案の考え方が最も適切であると思われる。 (一覧表)  条文 時効 期間 単純に削除した場合の時効期間 170 条  1号  医師、助産師又は薬剤師の診療、助産又は調剤に関する債権  3年  10 年(民法167 条1 項。公立の病院については 5 年という考え方もあり得る。会計法 30 条、地方自治法236 条1 項) 2号  工事の設計、施工又は監理を業とする者の工事に関する債権 営業として行う場合は5 年 (商法502 条5 号、522 条) それ以外は10 年(民法167 条1 項) 171 条 弁護士、弁護士法人、公証人の書類返還債務  10 年(民法167 条1 項) 172 条  1 項 弁護士、弁護士法人又は公証人の職務に関する債権  2年  10 年(民法167 条1 項) 173 条  1号 生産者、卸売商人又は小売商人が売却した産物又は商品の代価に係る債権 生産者:10 年(民法167 条1 項) 卸売商人・小売商人:5 年(商法501条1 号・ 2 号、522 条) 2号 自己の技能を用い、注文を受けて、物を製作し又は自己の仕事場で他人のために仕事をすることを業とする者の仕事に関する債権  営業として行う場合は5 年(商法502条2 号、 522 条) それ以外の場合は10 年(民法167 条1 項) 3号  学芸又は技能の教育を行う者が生徒の教育、衣食又は寄宿の代価について有する債権 付属的商行為にあたる場合は 5 年(商法 503 条、522 条) その他は10 年(民法167 条1 項。公立の学校の場合は5 年という考え方もありうる。会計法30 条、地方自治法236 条1 項) 174 条  1号 月又はこれより短い時期によって定めた使用人の給料に係る債権  1年 2 年(労基法115 条、退職手当は5 年) 労基法の適用を受けない使用人については 10 年(民法167 条1 項) 2号 自己の労力の提供又は演芸を業とする者の報酬又はその供給した物の代価に係る債権 10 年(民法167 条1 項) 付属的商行為にあたる場合は 5 年(商法 503 条、522 条) 3号  運送賃に係る債権 営業として行う場合は1 年(商法502条4 号、 567 条、589 条、569 条、765 条) それ以外は10 年(民法167 条1 項) 4号 旅館、料理店、飲食店、貸席又は娯楽場の宿泊料、飲食料、席料、入場料、消費物の代価又は立替金に係る債権 営業として行う場合は5 年(502 条7 号、522 条) それ以外は10 年(民法167 条1 項) 5号  動産の損料に係る債権 営業として行う場合は5 年(商法502条1 号、 522 条) それ以外は10 年(民法167 条1 項) 2 不法行為による損害賠償請求権の消滅時効(民法第724条関係) 民法第724条の規律を次のように改めるものとする。 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合のいずれかに該当するときは、時効によって消滅する。 (1) 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき。 (2) 不法行為の時から20年間行使しないとき。 【第3ステージ: 第74回会議(部会資料6 3)  第79回会議(部会資料6 9A)で審議】 (説明)  1 これまでの審議における議論の状況 第79 回会議では、不法行為の時から20年の期間制限が消滅時効についての規律であることを条文上明らかにするという中間試案の考え方に対し、仮に、 民法第7 24条前段の時効期間を3 年のまま維持するのであれば、債権の原則的な消滅時効における主観的起算点からの時効期間よりも短くなることにつ いての理由を説明する必要があるとの指摘があった。 2 問題点の検討 そもそも、現行法が民法第7 24条前段において主観的起算点から3年の短期の時効期間を設けた趣旨は、不法行為に基づく法律関係が、通常、未知の当事者間に予期しない偶然の事故に基づいて発生するものであり、加害者は極めて不安定な立場に置かれることから、被害者において損害及び加害者を知りながら相当の期間内に権利行使に出ないときには損害賠償請求権が時効にかかるものとして加害者を保護することにあると理解されている(最判昭和49年12月1 7日民集28巻1 0号20 59頁)。上記の考え方が一般論として妥当でないとの指摘は見当たらないことからすれば、少なくとも、不法行為に基づく損害賠償請求権の時効期間を債権の原則的な時効期間よりも短期のものとすること自体には一定の合理性があるものと考えられる。 パブリック・コメントの手続に寄せられた意見等には、民法第72 4条前段 の3年の時効期間を長期化すべきであるとの指摘が見られることや、時効期間 の統一という観点からすれば、同条前段の時効期間を5 年とすることが望ましいという考え方も十分検討に値する。もっとも、不法行為に基づく損害賠償請求権の時効期間を長期化することに反対する意見も少なくないことからすれば、後記3 のとおり、保護の必要性の高い生命又は身体の侵害による損害賠償請求権に限って主観的起算点からの時効期間を5年とするにとどめ、債権一般 と不法行為に基づく損害賠償請求権の主観的起算点からの時効期間の統一については今後の検討課題とするのが適切であると考えられる。 3 生命・身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効 人の生命又は身体の侵害による損害賠償の請求権について、特則として次の規律を設けるものとする。 (1) 前記1(2)に規定する時効期間を20年間とする。 (2) 前記2(1)に規定する時効期間を5年間とする。 【第3ステージ: 第74回会議(部会資料6 3)  第79回会議(部会資料6 9A)で審議】 (説明)  1 これまでの審議における議論の状況 部会資料69Aでは、人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権( 不法行為による損害賠償請求権のみでなく、債務不履行に基づく損害賠償請求権も 含む)について、主観的起算点からの時効期間を[5 年間/1 0年間]、客観的起算点からの時効期間を20年間とする案が提示された。 第79回会議においては、特に主観的起算点からの時効期間について意見が分かれた。生命又は身体の侵害については、債務不履行に基づく損害賠償請求権の10 年の時効期間を実質的に短期化するのは相当ではないとして、ブラケット内の10年を選択すべきであるとの意見がある一方で、身体の侵害の程度 に限定がなく、軽微なものまで含まれ得ることを前提にすれば、ブラケット内の5年を選択するのが相当であり、1 0年とするのは現状の不法行為に基づく損害賠償請求権の時効期間が3年であることと比較して長すぎるとの意見もあった。 2 問題点の検討 仮に、原則的な時効期間と起算点に関して前記1の考え方を採用する場合に は、特に労働契約における安全配慮義務違反の事案において債務不履行に基づ く損害賠償を請求するときに、現在の10年という時効期間が短期化するとし て、現状よりも時効が短期化することを避けるために、特則における主観的起 算点からの時効期間を10 年間とする必要があるとの指摘がある。 確かに、前記1の考え方を採る場合には、現状よりも時効期間が短期化する 事案が生ずることを例外なく避けることはできない。もっとも、時効期間が現 状よりも短期化するとしても、現実的な権利行使の機会は5年間保護されてい ることや、被害者が権利行使の具体的な可能性を知った後、時効中断の措置を とることができない状況が5年以上継続することは実際上それほど多くはないと考えられることからすれば、時効期間が短期化する場合が生ずることによ る実質的な弊害はそれほど大きくないと考えられる。 また、仮に主観的起算点からの時効期間を10 年とした場合には、軽微な身体侵害も特則の適用対象に含まれていることとの関係で、現状と比較して債務 者側の負担が重いものになる事例が生ずることにも留意する必要があると考えられる。例えば、労働契約上の安全配慮義務違反の事案において、使用者側が労働者側に対し、事故発生後速やかに事故状況についての具体的な説明を行ったり、関係書類を開示したりしていたとしても、その後10年間は訴訟を提起されるかもしれない不安定な立場に置かれることになり、長期にわたり証拠 を保全する必要性が生ずることとなる。 これらの事情を踏まえ、債権者側及び債務者側双方の利害を考慮したバラン スのよい特則を設けるという観点からすれば、主観的起算点からの時効期間は 5年とすることが適切であると考えられる。 第3 保証 1 個人保証の制限 個人保証の効力に関して、次のような規定を新たに設けるものとする。 (1) 主たる債務者が事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約又は根保証契約であってその主たる債務の範囲に主たる債務者が事業のために負担する貸金等債務が含まれるものは、保証人が法人又は次に掲げる者である場合を除き、その効力を生じない。 ア 主たる債務者が法人その他の団体である場合のその理事、取締役、執行役又はこれらに準ずる者 イ 主たる債務者が法人である場合のその総社員又は総株主の議決権の過半数を有する者 ウ 主たる債務者が個人である場合の主たる債務者と共同して事業を行う者又は主たる債務者の配偶者(主たる債務者が行う事業に従事しているものに限る。) (2) 主たる債務者が事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約又は根保証契約であってその主たる債務の範囲に主たる債務者が事業のために負担する貸金等債務が含まれるものの保証人の主たる債務者に対する求償権についての保証契約は、保証人が法人又は上記(1)各号に掲げる者である場合を除き、その効力を生じない。 (3) 保証契約の締結に先立ち、次に掲げる方式に従った公正証書が作成されていたときは、当該保証契約に関しては、上記(1)及び(2)は、適用しない。 ア 保証人になろうとする者が、次に掲げる事項を公証人に口授すること。 (ア) 保証人は主たる債務者がその債務を履行しないときにその履行をする責任を負うことを理解していること。 (イ) 連帯保証である場合には、連帯保証人は催告の抗弁、検索の抗弁及び分別の利益を有しないことを理解していること。 (ウ) 主たる債務について保証契約を締結する意思を有していること。 イ 公証人が、保証人になろうとする者の口述を筆記し、これを保証人になろうとする者に読み聞かせ、又は閲覧させること。 ウ 保証人になろうとする者が、筆記の正確なことを承認した上、署名し、印を押すこと。ただし、保証人になろうとする者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。 エ 公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。 【第3ステージ: 第80回会議(部会資料7 0A)  第86回会議(部会資料7 6A)で審議】 (説明)  1 個人保証の制限の対象(素案(1)柱書)について 部会資料76 Aでは、「事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約」のほかに、「貸金等根保証契約」( 民法第46 5条の2 第1項参照) を個人保証の制限の対象としていたが、第8 6 回会議において、事業と関係がない根保証には比較的少額のものが少なくないこと等を理由として、貸金等根保証契約全体を個人保証の制限の対象とすることに異論も見られた。 そこで、今回の素案は、「貸金等根保証契約」に代えて、保証人が法人であ るものを除く「根保証契約であってその主たる債務の範囲に主たる債務者が事業のために負担する貸金等債務が含まれるもの」を個人保証の制限の対象とすることを提案するものである。なお、素案(1)における「事業」とは、一定の 目的をもってされる同種の行為の反復的継続的遂行を意味し、営利という要素は必要ではなく、「事業のために負担した( 負担する)債務」とは、事業の用に供するために負担した(負担する) 債務を意味している。 ところで、本素案でも、根保証契約のうち「その主たる債務の範囲に主たる債務者が事業のために負担する貸金等債務が含まれるもの」に限定するとしても、主たる債務の融資の目的が特定されておらず、その債務が事業のために負担するものである可能性が排除されていない場合の根保証(例えば、その使用目的が特定されていないキャッシングカードを用いた貸金債務の根保証)は、個人保証の制限の対象となる。この点に関して、第86回会議においては、キャッシングカードを用いた貸金債務の根保証を個人保証の制限の対象とする ことについて否定的な意見が出されたが、キャッシングカードを用いた貸金債務はその使用目的が特定されておらず、事業のために使われる可能性が排除されていないことからすると、主たる債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる他の根保証と区別することはできないと思われる。 なお、以上で説明した点のほかは、個人保証の制限の内容につき部会資料7 6Aから特段の変更をしていない。 2 個人保証の制限の例外(素案(1)ア、イ、ウ)について ( 1) 「債務者と共同して事業を行うもの」( 素案(1)ウの前半部分)について素案(1)ウの前半部分では、「主たる債務者が個人である場合の主たる債務 者と共同して事業を行うもの」を個人保証の制限の例外として列記する案 を取り上げている。これは、第8 6回会議において、主たる債務者が個 人事業主である場合におけるいわゆる共同事業者を個人保証の制限の例 外とすべきであるとの意見があったことを踏まえたものである。 「共同して事業を行う」という要件が認められるには、共同の事業( 民法第66 7条)等と同様、いずれの当事者も、業務執行の権限や代表権限、業務執行に対する監督権限など、事業の遂行に関与する権利を有するとともに、その事業につき利害関係を有することが認められる必要があると解される。このような共同事業者であれば、定型的に見て、素案(1)アに掲げる者と同様に扱うのが相当であると考えられる。 (2) 「主たる債務者の配偶者(主たる債務者が行う事業に従事しているもの に限る。)」(素案(1)ウの後半部分)について 素案(1)ウの後半部分では、主たる債務者が個人である場合の「主たる債務者の配偶者( 主たる債務者が行う事業に従事しているものに限る。)」を個人保証の制限の例外として列記する案を取り上げている。これは、第86回会議において、主たる債務者が個人事業主である場合における配偶者を保証制限の例外とすべきであるとの意見があったことを踏まえたものである。主たる債務者が個人事業主である場合には、経営と家計が一般に未分離であるため、配偶者を保証人とする必要性が定型的に認められると考えられることや、配偶者が事業に従事している場合に限定すれば、自ら又は他方の配偶者である事業主を通じて事業の状態を知ることができること、自らが従事する配偶者の事業のための貸金等債務等に保証をすることは、事業を継続することに主眼があり、情義に基づくという側面が弱いこと等を考慮したものである。 (3) いわゆる後継者について 素案(1)ウでは、いわゆる後継者については個人保証の制限の例外とはしていない。第86 回会議では、後継者を保証制限の例外とすべきであるとの意見が出されたが、後継者が理事、取締役、執行役又はこれらに準ず る者(素案(1)ア)に就任しておらず、共同事業者(素案(1)ウの前半部分) でもないような場合には、情義により保証人となるおそれや事業内容等の把握という観点を踏まえつつ、定型的に例外として括り出す要件を設定することが極めて困難である。このため、後継者が取締役等に就任する前に保証人となるのであれば、素案(3)に従って公証人による保証意思の確認という手続を要するものとする必要があるように思われる。 (4) 素案(1)ア及びイについて 主たる債務者が法人その他の団体である場合のその理事、取締役、執行役又はこれらに準ずる者(素案(1)ア)や、主たる債務者が法人である場合のその総社員又は総株主の議決権の過半数を有する者(素案(1)イ)については、部会資料76 Aから特段の変更をしていない。なお、理事、取締役、執行役又はこれらに準ずる者につき、代表権を有する者に限定すべきであるとの意見もあるが、部会資料76A での説明と同様の理由(例えば、取締役は、取締役会の一員として会社の意思決定に関与することができるなど)から、代表権を有する者に限定することとはしていない。 3 求償権保証の制限(素案(2)) について 素案(2)では、「主たる債務者が事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約」のほか「根保証契約であってその主たる債務の範囲に主たる債務者が事業のために負担する貸金等債務が含まれるもの」の求償債務を主たる債務とする保証についても、主たる債務者が事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約等と同様の制限を課すこととしている。これ は、求償債務の保証自体には素案(1)の規律が適用されないが、その求償債務 の内容は、素案(1)で規制対象としているものと実質的に同一であるからであ る。 なお、求償権保証の制限に関するその余の点については、部会資料76 A と変更したところはない。 4 保証意思の確認等(素案(3)) について ( 1) 素案(3)について 素案(3)( 保証意思の確認等) については、原則として、部会資料76A から変更はない( 素案(1)及び(2)の変更に伴う変更を除く。)。ただし、素案 (3)ア(ウ)につき「上記(ア)及び(イ)を理解した上で主債務について保証契約を締結する意思を有していること」としていたのを、(ア)、(イ)との重複を避けて、単に「主たる債務について保証契約を締結する意思を有していること」 に改めている。 (2) 根保証契約を対象とすることの当否について 素案(3)では、根保証契約であってその主たる債務の範囲に主たる債務者が事業のために負担する貸金等債務が含まれるものについても、公証人が保証意思等を確認すれば、これを締結することができることとしている。この点に関し、第86回会議では、貸金等根保証契約には素案( 3)を適用せず、第三者が貸金等根保証契約を締結することを一律に禁止すべきであるとの意見が出された。しかし、保証人の予測可能性を確保するために貸金等根保証契約については極度額を定めなければならないなどの手当てがされていること等を踏まえると、いわゆる経営者保証以外の貸金等根保証契約を一律に否定するまでの必要性があるのか疑問があり、素案(3)に従ってその保証意思の確認等を適切に行うことを前提として、これを肯定すべきではないかと思われる。 (3) 保証意思の確認主体について 第86回会議では、保証意思の確認主体として、公証人のほか弁護士を活 用することも検討すべきであるという意見が出されたが、弁護士一般に対し て公証活動という役割を付与するのは、現在の法制度との乖離が大きく、今 回の法改正のテーマとするには過大であるという問題があるように思われる。このこと等を踏まえて、素案(3)では、公証活動を本来的な役目とする公証人を保証意思の確認主体としている。 5 保証人等の行為によって債権者が要件の判断を誤った場合 例えば、当該債務は事業のために主たる債務者が負担するものであるが、債権者が、事業のための債務ではないと誤信して、公証人による意思確認を経ずに、素案(1)アからウまでの例外に該当しない者を保証人とすることを前提として、金員を貸し付けてしまうという事例が、あり得る。このように、債権者 が要件等につき判断を誤った場合については、特別の規律を置かず、不法行為等の一般的な規定により対応することを想定している。すなわち、例えば、上記のような事例において、債権者が誤信したことにつき保証人に故意又は過失 があるような場合( 事業のために使うことを保証人が知りながら、そのことを偽っていた場合など)に、そのような誤信がなければ債権者がそもそも貸付けをすることはなかったと認められるときに、貸付金を回収できないなど債権者に損害が生じたとすれば、保証人につき不法行為が成立し、債権者は、保証人に対し、不法行為に基づく損害賠償を請求することができると考えられる。他方で、不法行為等が成立しない場合には、債権者は、保証人に対し、損害賠償 を請求することができないことになる。 2 主たる債務の履行状況に関する情報提供義務-主たる債務者が期限の利益を喪失した場合の情報提供義務 (1) 主たる債務者が期限の利益を有する場合において、主たる債務者がその利益を失ったときは、債権者は、保証人(法人を除く。)に対し、主たる債務者がその利益を失ったことを知った時から[2か月以内] に、その旨を通知しなければならない。 (2) 債権者は、上記(1)の通知をしなかったときは、保証人(法人を除く。)に対し、主たる債務者が期限の利益を失った時からその旨の通知をした時までに生じた遅延損害金(期限の利益を失わなかったとしても生じていた遅延損害金は除く。)につき保証債務の履行を請求することができない。 【第3ステージ: 第80回会議(部会資料7 0A)  第86回会議(部会資料7 6B)で審議】 (説明)  1 通知義務について 素案(1)は、債権者に対して主たる債務の履行状況に関する通知義務を課す ものである。素案(1)は、基本的に、部会資料76 B第1 、1 の本文(1)と同内 容であるが、次の各点が異なっている。 (1) 期限の利益について 部会資料76 B第1 、1 の本文(1)では、「主たる債務者が分割払の定めによる期限の利益を有する場合において、主たる債務者がその利益を失ったとき」としていたが、今回の素案(1)では、「主たる債務者が期限の利益を有する場合において、主たる債務者がその利益を失ったとき」と変更している。これは、分割払の有無にかかわらず、期限の利益を喪失した場合には通知義務を課し、保証人が知らない間に、遅延損害金が積み重なることは避けるべきであると考えられるからである。 (2) 通知期間の起算点 素案(1)では、通知期間の起算点を「主たる債務者がその利益を失ったことを知った時」とし、債権者がその利益を失ったことを知らない間は、通知期間が起算されないこととしている。これは、第8 6回会議で、期限の利益を喪失したことを直ちに知り得ないとの指摘等があったことを踏まえたものである。 (3) 通知期間について 上記(1)では、通知期間を「2か月以内」とする案を提示している。 部会資料76B(1)では、通知期間を「2週間以内」としていたが、①第86回会議では通知期間について再考を促す意見が出されていたこと、②上記(1)の通知期間は通知を発するための期間ではなく、あくまでも通知が到達するための期間であり、その期間内に通知が到達しなければならないところ、2週間以内に必ず通知が到達するようにするには期限の利益が喪失したことを知って直ちに通知を発送するなどしなければならないが、そのように対応していくのは現実的に困難であることが予想されること、③ 保証人が知らない間に、遅延損害金が積み重なることは避ける必要があるが、他方で、その期間が2か月程度であれば、積み重なる遅延損害金の額は予想外に多額とならないとも考えられること等を考慮すると、その通知期間を「2 か月以内」とすることが考えられる。 2 通知義務違反の制裁 素案(2)は、通知義務違反の制裁を定めるものであり、その内容は、部会資料76B 第1 、1 の(説明)欄で示した代替案のイメージ( 部会資料76B・3頁)と同じである( なお、保証人に対して請求することができなくなるのは遅延損害金そのものではなく、その保証債務の履行であるので、その点を明確にしている。)。 ただし、期限の利益を失わなかったとしても生じていた遅延損害金については、保証債務の履行を請求することができるものとするのが相当であると考えられるので、その点を明記している。 3 保証人が弁済した場合に保証人との関係では期限の利益が回復するという 案について 部会資料76 B第1 、1 の本文(2)(3)では、主たる債務者が分割払の定めによる期限の利益を有する場合において、主たる債務者が支払を怠ったときに、保証人が一定の期間内に弁済したならば、保証人との関係では主たる債務につき期限の利益が喪失しないこととするという案を取り上げていた。しかし、この点については、部会資料7 6B の(説明)にも記載があるとおり、保証人との関係で再度期限の利益を喪失させる方法をどのように考えるのかといった 問題があるほか、主たる債務者と保証人との債権債務関係を別個に管理する必要が生じ、債権者の負担が重くなるなどの弊害も考えられるところであり、第86回会議においても、実際に管理を行うことは困難であるとの指摘もあった。 加えて、この案を前提としても、支払を怠ったこと以外を理由として主たる債務者が期限の利益を失った場合には、保証人との関係でも、期限の利益が失われることになるし、主たる債務者が支払を怠るような場合には他の期限の利益喪失事由に該当することも多いと思われることからすると、支払を怠った場合についてのみ特段の規定を置いたとしても、保証人保護の実効性は低いと思われる。したがって、本資料では、主たる債務者が支払を怠ったときに、保証人が一定の期間内に弁済した場合には、保証人との関係では主たる債務につき期 限の利益が喪失しないこととする案は取り上げていない。