商法草案議事速記第八回
自第百三十八條至第百五十二條
明治廿年十二月十五日午前第九時開會
（委員長）
初メマス
○第百三十八條朗讀ス
（議案入）
（淸岡）
處分スト云フト大層事カアリソウニ見ヘル
（本尾）
解散ノ場合テ御座イマスカラ總社員テ相談シテ甲カ預カルトカ乙カ預カルトカ或ハ何處ノ倉ニ入レヨウトカ總社員テ定メマス會社カ存在中ナレハ宜シイカ解散スレハ誰レカ預カルトカ倉ヲ借リテ入レナケレハナラント云フノカ處分スルコトニナリマス
（淸岡）
規定ニ從ヒハ
（本尾）
規定ニ從ヒ十年間存シテ置キマス、ソレヲ云ツタノテ御座イマス
（尾崎）
之ハ解散シテ十ケ年ハ貯ヘテ置カナケレハナランカ
（本尾）
左樣テ御座イマス
（村田）
貯ヘルハカリテナイソレヲ亡失シナイ樣ニシナクテハナラン
（委員長）
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ原案ニ決ス
○第百三十九條朗讀ス
（議案入）
（淸岡）
但以下ハ五年カ過キテモト云フノテスカ
（本尾）
左樣會社財產カ分タレスニ存シテ居ル間ハ財產ニ對シテ請求カ出來ルト云フコトテ御座イマス
（淸岡）
解散カラ起算ニセスニ分ツ分タサル處ニ依ツテヤルト解散ノ字ノ据ハリ方カ上ツタリ下ツタリシハシマセンカ
（本尾）
會社カ解散致シマスノハ百二十九條ニ云ツタ事項ノアリマシタトキテ御座イマス、ソレモ未タ終リマセン淸算ノトキカ御座イマス期滿ハ一二三四五ノアリマシタトキカラ起算シマスソウスルト解散シタトキカラ起算シマス大キナ會社テハ淸算カ長ク續カントモ限リマセン
（鶴田）
トウシテモ分リマセンカ書キ樣ハアリマセンカ五年未滿ノ免除時效ノ存セサルトキニ限ルト云フコトカ分ラナイ
（本尾）
義務ノ性質ニ依リマシテ早ク期滿免除ノアルモノカアリマス、賣掛代金ハ五ケ月トカ何ケ月トカテ其事ノ期滿免除ニナルモノハ五ケ月ナラ五ケ月テ切レテ仕舞ウ
（鶴田）
存スルト云フコトカアルカラ存セサルトキニ限リトホカ書ケナイ
（南部）
免除時效カ存セント云フノタカラ免除時效ハナイト云フノテス、若シ免除時效カ存スレハ免除時效テ行キマス
（西）
會社ノコトハ何ンテモ免除時效ト云フノテハナイソレヨリ短イモノハ短クヤルト云フノテアリマシヨウ
（本尾）
左樣テス
（鶴田）
一體此項ハナクテモ宜シイ
（西）
之カナイト會社ニ付テハソレヨリ短イモノカアツテモ何ンテモ箇テモ五年ニ持ツテ來ルト云フ疑カアル
（村田）
賣掛代金ニハ短イモノカアリマスケレトモ十年ノモノハ五年テ切レテ仕舞ウ樣ニナル
（鶴田）
五年未滿ニシテ免除時效ヲ得ルモノノ外トスレハ良ク分ル
（本尾）
意味ニハ障リハアリマセンカ原語ハ斯ウ云フニ書イテアリマス
（松岡）
ソウ云フコトニシテハトウテス
（渡）
分ランコトハナイ
（村田）
原文ニハ構ハスヤルヤレハ斯ンナ所ハ分リ易イ樣ニスルカ宜シイ
（委員長）
但書ハ
（淸岡）
未タ財產ノアルトキヲ云フノテス
（南部）
會社ノ財產ニハ係レルケレトモ本人ニハ係レン
（本尾）
併シ社員ヘ對シテハ係レナイ
（委員長）
債權者カ幾人モアツテ皆請求ニ行クト自然及ハナケレハナランカラ途ニ其中一人テ拂ツテヤルコトカ出來ナクナル
（本尾）
縱令ハ會社ノ部分カ一萬圓アル處カ二萬圓ノ債主五人カ出テ來タトキハ割付ケテ渡ス丈ケニ止ツテ不足ノ處ハ社員ニ係ツテ行クコトハ出來マセン
（南部）
淸算中ノ財團ト云フコトカアリマシタ卽チソレテ御座イマス
（委員長）
ソウスルト一箇丈ケノ責任カ免レタ丈ケテ連帶シテ居ルモノカ何時テモ係ラレル
（本尾）
何年テモ係レマス
（委員長）
分配シナイ間ハ何時迄モ期滿效テナイノタ
（本尾）
左樣テス
（松岡）
此解散ト云フノハ何處ヘ規定ニナツテ居リマス
（本尾）
百二十九條ニアリマス
（松岡）
ソウスルト之ハ其時效カ生シテカラ解散スルモノト云フ意見テソレテモ何レ會社ノ破產ト云フモノテモ段々手數カアツテ彌彌破產ト云フモノノ起ツタトキヲ云フカ纏ツタトキヲ云フカ
（本尾）
昨日削ラレマシタ三十條カアリマス、其レヲ削リマシタカラ破產ニ移ツテ宣吿ノ日カ解社ニナリマス、宣吿ノ日カラ時效カ起算サレル
（松岡）
獨逸テハ登記ノ日ヲ以テ始メルト云フコトカ明記シテアリマス
（鶴田）
此度ハ矢張リ登記ニ現ハレル
（松岡）
登記ノ日カラ起算スルカ
（本尾）
解散ノ日カラ起算シマス
（松岡）
ソウスルト淸算ノ日カ定マラナイ
（本尾）
破產ノ場合テハ破產法テ極ク密ナ規則カ御座イマス、淸算テハ長クナルカ知レマセンカ
（鶴田）
是レマテ使ヒ來ツタ限リト云フ字ハ何々ニ限リ之ヲ得ルト云フノテ其外ハ得ナイト云フコトニ使ツテアル此處ハ本文ニ得ナイトアツテ但書ニアルト云フコトカアル幾ラ西洋文ニ合ハセルト云ツテモ日本文ニ合ハナイ
（本尾）
斯ウ云フ意味ニ使ツタ處カ御座イマス
（委員長）
本尾サン跡テ御考ヘナスツテ下サイ、書ケレハ書クカ宜シイ書カナケレハ此儘テ宜シイ
本條ハ「經過」ヲ「滿了」ト改ム
○第百四十條朗讀ス
（議案入）
（本尾）
社員ノ責任金錢又ハ有價物ノ出資ノミニ限ルモノヲ合資會社ト爲ス但一人ノ社員カ這入ラン場合ハソレテモ宜シイ
（松岡）
此條ニ付イテハ修正ヲスル程テハ御座イマセンカ充分諸君ノ御考ヲ願ヒマス、起案者ノ「ロヱスレル」カ佛蘭西法律ヲ日本ニ譯シテアル差金會社ヲ大ニ性質ヲ變更シタモノテ普通歐羅巴テ皆云フ差金會社ハ註解ニアル無限責任ト有限責任トノ違テ無限責任ハ人カ業務ニ關係シ有限ノ人ハ差金ヲシタハカリテ成立ツカ一般テアル、其レニ付テハ不要用ナ處カアルカラ英國法ヲ是ナリトシテ採ツタト云フ原案者ノ論テ御座イマス成程此中ハ無限責任ヲ主ニ立テスシテ出資ノミノ有限責任ヲ本體ニ立テアリマス、此通リテモ宜シイカ無限責任ヲ主ニ立テ有限ヲ客ニスルカ各國ニハ行ハレン此法ニモ利益カアル合體ノミテ有限ニスルノト又有名ナル信用アル人カ主ニナツテ差金ヲ合ハセテ會社ヲ拵ヘルノト此二ツニ於キマシテハ信用アル人カ主ニナツテ無限責任テ差金ヲ以テ爲スノカ信用ヲ得ラレル信用ヲ得レハ事業ヲ擴張スルコトカ出來ヨウト思ヒマス、今ヨリ後ノ經濟上ニ無限責任者カ主ニナツテ有限責任ノ人カ差金ヲシテ會社ヲ立テレハ有益トナルト思ヒマス私ノ希望スルノハ英國ノ合本會社ノ「ロエスレル」ノ云フ處ノモノモ歐羅巴ノ差金會社ト成立チカ變化シテ來テ居ルト思ヒマス、其方カ惡ルイトハ致シマセンカ排擊サレテ居ル差金會社モ有益ト思ヒマスカラ希望スル處ハ原案者ノミナラス「ボアソナード」ナリ又ハ其他ノ人ニナリ原案者ノ方テ差金會社ヲ排擊シテ是レノミニスル利害得失ヲ良ク評議サセテ見テ其說ヲ聞イテ尙ホ諸君ノ御參考ニナリタイコトヲ希望シマス
（鶴田）
貴君ノ御說ニスルト合資會社ハ議セスニ先キヘ行カナケレハナランカラ今此處テ御意見カ出レハ利害ヲ硏究シマス
（松岡）
之カ强イテ惡ルイト云フノテハナイ尙ホ一方ノ排擊シタ說モ良イト思フ其コトナシニ是レハカリテ通ツテ仕舞ウノハ後チ後チノ爲メニ恐ルヘキコトテアル
（鶴田）
此通リモ出來有限モ出來ル建言シテアル私ハ前ニ斯ウ自由カ付キ過キテハ困ルト云テ差金會社トシテ政府ニ出シタコトモアルカ一應ハ宜シカロウト云フコトテアツタカ「ロエスレル」ニ排擊サレテ大ニ叱ラレタコトカアリマス
（松岡）
「ロエスレル」一人ノ考ニスレハ彼ノ人カ案ヲ立テタノタカラ
（鶴田）
貴君ノ御說ハ私共カヤツテ見タノカアルカ迚モ行ハレナイ、我々ハ實ハ知ランテ想像テヤツタノタカラ御說ノ通リニスレハ合資會社ハ止メテ株式ノ方ニ係ラナケレハナラン
（本尾）
「ロエスレル」ノ意ハ註解ニ陳ヘテアリマスカ只今鶴田サンノ御說ノ通リ「ロエスレル」ノ組立ノ通リ差金會社ハ是レテ置キマス、處カ此條ニ當テ篏マラント云フ御尋ネカ出ルカ知レマセンカソレハアルト申サナケレハナリマセン此前差金會社テ餘程長イ議論カ御座イマシタ、其レヲ補ウノハ二百三十條以下ニ二ツノ組合カ御座イマス、第三ニ居ル匿名會社カ其代ハリヲ爲スモノニナリマス、獨逸佛蘭西抔ニアル匿名會社ヨリ意味ヲ擴ケテ居リマス、其レハ獨逸佛蘭西邊テ云フ差金會社ハ權力ノナイモノタト云フコトニ當テ篏マリマス、ソウスルト組合以下ヲ存シテ居リマス、ト「コンチネント」ヨリ廣イモノカ出來テモ宜シイ又「コンチネント」通リノモノカ出來テモ宜シイ御參考ノ爲メニ申シマス
（鶴田）
出來ナイコトハナイ此合資會社ハ本體カ差金會社ト違ツテ居ル
（尾崎）
有限ハカリテアルカラ私ハカリ無限ニナルト云フモノカアルカ、アルマイ
（松岡）
私ハ是レニ付テ一條二條テ利害得失ヲ論スル積リハアリマセン此合資會社フ性質カ惡ルイト云フノテハナイ、若シ此外ニ差金會社ト唱ヘテ居ルモノカ前途ニモ有益ナリ日本ニモ必要ナレハ更ニ明瞭ニ書キ示ス方カ良カロウ、此案ハ「ロエスレル」ノ起案テアリマスカラ今一ツ「ボアソナード」ニテモ良ク聞イテ評議ヲサセテ其意見ヲ此處ヘ持チ出サセルコトヲ希望致シマス
（委員長）
其希望ハ今日テハ既ニ遲シテアリマスカラ「ボアソナード」ニ相談ハシマスカ其㸃カラ云ヘハ二人テモ足ランカ知レン「ボアソナード」ニセヨ「ロエスレル」ニセヨ學者テアツテ商業上萬國普通之カ適當ト云フコトハ擧者テモ出來ナイ實地家テモ出來ナイ兩方合シナケレハ適當ノモノヲ見出スノハ難イト思ヒマス今日テハ「ロエスレル」ノ案カ元老院ノ議定ヲ經テ居ルカラ動スコトハ出來ナイ、充分ノ時間ヲ持テ居ルナレハ元老院ノ議決ヲ經テモ他人ニ見テ貰ウコトカ出來ルカ其レハ時間カナイ貴君カ此席テ云フ丈ケノ豫備ヲシテ來レハ出來ルカ人ノ力ヲ以テ取調サセルコトハ出來マセン、其レテ其方ノ希望ハ此骨組ヲ毀ハサスシテ救ウ道カアレハ考究シテ御出シナスツテ宜シイカ歐羅巴ノ差金會社ヲ編纂シナケレハナラント云フト骨組カ違ウ此「ロエスレル」ノ案ハ歐羅巴ノ差金會社ハ良クナイ、此方カ便利テアル其レテ合資會社ノ巾ヲ廣クシテ匿名會社ヲ置ケハ却ツテ差金會社ヨリ働キカ餘計出來ルト云フ考テヤツタノテ御座イマスカラ左樣ニ毀ハスコトハ出來ナイ
（松岡）
場合カナイト云フナレハ致シ方カアリマセンカ毀ハスト云フ譯テハアツマセン、併シ排擊シタ者カ必ラス惡ルイト云フノテハナイ、之ニ引イテ立テラレレハ利益カアロウト思ヒマス、併シ私カ其レヲ拵ヘテ合資會社ノ跡ヘナリ先キヘナリ置コウト云フ考モ付イテ居リマセン、利益ニナレハ人ノカテモ借リテヤリタイト云フ考テアリマスカラ時間モナシ考モ入レラレスト云フナレハ致シ方カアリマセンカラ引キマス
（委員長）
種々考究モシテ見マシタカ東洋テハ歐米ノアルコトヲ主トシテヤツテ居ルカラ澁澤榮一益田孝抔ニ見セタカ彼等モ良イト云フツ差障リモナイト云フ、學者連中テ攻擊スルノモ佛蘭西ノ商法ニ斯ウアルト云フノテ實際上カラ攻擊スルノモ澁澤益田抔ハ實際法律ヲ學ソテ居ルノテハナイカラ其レヲ以テ評決スルコトハ出來ナイカ大槪良カロウト云フノテ定マリマシタ
（鶴田）
之ハ「ロエスシル」ノ商法中ノ一番得意ノ㸃タカラ捆ツテ放サナイ
（尾崎）
又ハ數人ニ對シト云フト無限責任ト云フ人カ他ノ人ニ對シ契約スル意味テスカ
（本尾）
一人又ハ數人ノ爲メト云フ意味テ御座イマス
（尾崎）
數人ニ對シト云フト妙ニナリハシマセンカ
（本尾）
契約ヲ主ニシテ五人ノ中ノ一人カ二人ニ對シ別段ノ定カナイトキハト云フノテ御座イマス
（委員長）
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ原案ニ決ス
○第百四十一條朗讀ス
（議案入）
本條ハ原案ニ決ス
○第百四十二條朗讀ス
（議案入）
修正案本條中「第二ヨリ第七マテ」トアルヲ「第六マテ」ト修正ス
（本尾）
第七ヲ第六ニ御直シヲ願ヒマス
（淸岡）
百四十一條ニハ合資會社ハ簡單テ合名會社ニ讓ツテアリマスカ、ソウ云フ譯ニナレハ餘程束縛ヲ受ケ過キルモノカ出テ來ル黑慊ニ思ヒマス
（本尾）
此前モ其處ヲ充分比較致シマシテソウ云フモノカアリハセンカト調ヘマシタ
（淸岡）
引合ハシテハ見ナイカ餘程束縛シテアル
（本尾）
束縛シテアルコトハ大抵取除テ御座イマス
（松岡）
併シ束縛ノ方カラ云ヘハ合名會社ヨリ此方ヲ餘程束縛シナケレハナラン、有限テアツテ餘程危險テアルカラ束縛シテ置カナケレハナラン
（村田）
會社各社員ノ氏名住所トアリマシタカ此處ニハ無限責任トアルカ有限テ一遍書イテ無限ノアルトキハ又重ニ書キマスカ
（本尾）
重ニ書キマス
（淸岡）
各社員ノ氏名抔ハ入リソウモナイモノタ
（本尾）
有限責任テヤツテ居ル以上ハ是レ丈ケノ人數カラ成立ツテ居ルト云フコトハ極ク要用テ御座イマス、株式會社抔ハ出來マセン
（松岡）
併シ資本ノ流轉シテ行クコトハ株式ト變ツタコトハアリマセン、獨逸テハ無限責任ノ人カ主ニナツテ居ルカラ氏名ヲ公吿スル然ルニ此方ハ無限ノナイノカ本則テアルト始マリノ組立抔ニハ誰某カ集ツテヤルト云フコトカナイト御花主ヲ引ク種子カナイ
（淸岡）
合資會社ハ百人寄ツテヤルカ二百人寄ルカ其氏名ハ何ヲ必要トスルカ出資額トカ何ントカアレハ別段數十百名ノ社員ニソレヲ公吿シタ處カ效能カナイ
（本尾）
本尾カ一萬圓出スト云ツタ處カ誰モ信用シナイ三井カ一萬圓出スト云フト人カ信用シマス
（鶴田）
私ハ各社員ノ氏名住所ハ入リマスカ第三ニ是レ丈ケノモノハ何某カ幾ラ鶴田カ幾ラ本尾カ幾ラト書クトニ度書カナケレハナラン
（本尾）
其レハ本尾ト書イテ頭ヘ百圓ト書イテ業務擔當ノ任アルト書ケハ差支アリマセン、亦其中ニ無限責任ノモノカアレハ其事モ書キマス
（委員長）
良ケレハ先キヘ行キマシヨウ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第百四十三條朗讀ス
（議案入）
（渡）
商號ハトウシマス
（委員長）
併シ會社ノ方ハ何ウテモナケレハナリマセン
（松岡）
商號ノ方ノ割合ヲ殘シテ置カナケレハナラン、氏ヲ用フルト云フコトカアルカラ
（委員長）
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ原案ニ決ス
○第百四十四條朗讀ス
（議案入）
修正案本條ヲ左ノ如ク修正ス
業務擔當社員及取締役ニアラサル社員ハ第百六條ノ規定ニ從フノ義務ナシ
（本尾）
是レニハ修正ヲ出シテアリマス修正致シマシタ理由ヲ申シマスルト合名會社テハ會社ノ商業區域內ニ屬シマスル取引ハ總社員ノ承諾ヲ得ナケレハナラナイ、此會社テハシテ宜シイト云フコトニナツテ居リマス、成程會社ノ性質カ違ツテ居リマスカラ區別カ要用テ御座イマスカ合名會社ハ其間ニ不正カナイカト云フ懸念カアルカラテ御座イマス、合資會社テモ其懸念カ御座イマス、其レ故ニ業務擔當人又ハ取締役ニ選マレタ者ハ合名會社ノ如ク總社員ノ承諾ヲ得ナケレハ營業部內ニ關スル取引ハ出來ナイトスルカ宜シイ又代務人テモ出來マセン、ソウスルト其レトモ權衡カ取レル
（淸岡）
原按テハ擔當人テモ這入ルノテスカ
（本尾）
擔當人テモ何ンテモ構ハント云フコトテ御座イマス
（淸岡）
其レテハ甚イカラ擔當人ノ外ノ人丈ケニシマシタカ
（村田）
其レハカリテ宜シウ御座イマシヨウカ、無限責任ノ社員ハ出來マスカ
（本尾）
業務擔當人取締役テナケレハ出來マス
（村田）
ソウスルト合名會社ト權衡カ取レナイ
（本尾）
詰リ業務擔當人トカ取締役トカカ惡ルイコトヲスル
（村田）
合名會社テハ唯ノ社員テハ出來マセンカ
（本尾）
出來マセン、處カ合名會社テ違ウノハ普通七人ト云フ制限カアツテ殘ラスノ社員カ寄リ合テヤル、此場合テハ大勢テヤル、業務擔當人カ取締役カ置カレマス
（淸岡）
修正ハ良イカ知レンカ「百六十條ノ規定ニ從フ」ト云ノト裏カラ云フ樣ニナル、此處ヘ定メタラトウタロウ
（鶴田）
之ハ良カロウケレトモ淸岡サンノ云フ通リ業務擔當社員及ヒ取締役ハ百六十條ノ規定ニ從フヘシト雖モ其他ノ社員ハスルニ及ハストシテハトウテス
（松岡）
其他ノ社員ハ無クテモ宜シウ御座イマシヨウ
（村田）
無限責任社員モ入レテハトウタロウ
（松岡）
無限責任ト云フト責任ノ多イ人タカラ若シ無限責任ヲ入レハ全體同營業ヲサセテハナラヌト云フノハ會社ノ業務ヲシテ居ル者カ自分ノ家テ同シコトヲヤルト得ノ行キソウナコトハ自分ノ家ヘ擔イテ來ル、損ノ行キソウナコトハ會社ニ押シ付ケル、ソウスルト若シ業務ヲ擔當シテ居ラント其恐レハナイ
（村田）
其レテハ百六條モ業務擔當ハカリニスレハ良イテハナイカ
（本尾）
百六條ハ社員殘ラスカ業務ヲ取扱ウノカ當然テアルカラテ御座イマス、業務擔當ヲ許シテアルノハ僅力ノコトテ御座イマシヨウ私カ蒼蠅イカラ許シテ吳レヌカト云フノハ業務擔當人ヲ置クノテ御座イマス、私ニシロ自分ノ財產ヲ擧ケテスルノタカラ人ニ任カセテ置クコトハ出來マセン
（尾崎）
合資會社ハ成年者ノ營業ヲスル人ハ所有ノモノヲ差金スルノテアルカラ此社ヘ差金ヲシタ爲メニ自分ノ業務カ出來ナイコトニナツテハ甚タ困ル、ソウスルト業務擔當人ハ自分ノ業務ヲスルコトカ出來ナイ甚タ困ル、合名會社ナレハ責任ノアラン限リハ出サナケレハナランカラ宜シイカ、之テ見レハ餘裕カアルカラヤルノテ自分ノ營業ハヤラナケレハナラン、其レヲ業務擔當人ヲ限ツテ合名會社同樣ニセラルルノハ擔當人カ迷惑タ
（本尾）
其㸃モ論究致シマシタカ、百六條モ徹頭徹尾シテハナラント云フノテアリマセン、總社員ノ承諾ヲ得レハ宜シイ、若シ有限責任社員カ取締役ニ選マレテ同シ商業ヲシテ居タトキハ會社ノ方テ其人テナケレハ出來ヌト云フタラ會社ノ方カラ許シテヤル、許サヌトキハ取締役ニ選フノハ有リ難イカ、其レカ爲メニ自分ノ商業ヲ止メルノハ困ルカラ改選シテ吳レト云フテ出ルタロウ差支ナイト云フノテ御座イマス
（松岡）
合名會社テサヘ禁スルノニ合資會社モ禁シナケレハナラン
（渡）
事柄ハ宜シイカ文字ヲ少シ直シテ貰ヒ度イ
（淸岡）
此處テナルトカ、ナラヌトカ定メレハ宜シイ
（本尾）
提出按ノ精神カ御採用ニナツテ文字カ宜シクナイカラ修正シテ修正委員カラ提出セヨト云フコトテ御座イマスカ
（委員長）
修正ノ旨意カ良ケレハ、ソウシマシヨウ
本條ハ報吿委員ノ修正ノ旨意ヲ採用シ尙ホ文字ノ穩カナラサル處ハ報吿委員ニ於テ調査スルコトニ決ス
○第百四十五條朗讀ス
（議案人）
（本尾）
「代表」ハ「代理」ト御直シヲ願ヒマス
（松岡）
前條テ業務取引ヲスル人ハ云々トアツテ此處テ會社ヲ代理スルコトニナル
（本尾）
「他ノ定メナキトキハ」ト云フ中二種々ノ意味カ含ンテ居リマス、合名會社ト同シコトテ御座イマス契約上テ業務擔當人ヲ置クトカ取締役ヲ置クトカ云フト同等ノ權利義務カ缺ケルコトニナツテ來マス
（鶴田）
契約カアレハ業務擔當人カスル、無ケレハ社員カスルト云フテ、アツテモ無クテモ同シコトニナル
（本尾）
合資ハ有限責任テアル、又無限責任社員ト有限ト混シタ場合カアル、シテ見レハ權利義務ニ等カアリハシマイカト云フ疑ヒカアル、能ク見レハ八十八條カ適用ニナルカラ宜シイカ此處テ云フテ置ク方カ良カロウト思ヒマス
（淸岡）
之ハ實際出來ナイ、銘々會社ヲ代理スルト云フト治マリカ付カン
（松岡）
英國ノ會社法テハ合資會社ハ業務擔當人ヲ定ムヘキト云フ法律ノ規定カアル、合資會社ハ其レカ良クハナイカ、實際出來ント云フテ若シ契約カ粗漏ナレハ危險テアルカラ
（本尾）
此前一度直シタコトカ御座イマス、合資會社ハ二人テ成立テハ必ラス取締役ヲ置クコトニ變ヘマシタ「ロエスレル」モ不鮮不祥同意シマシタカ、三讀會ニ其事カ出テ來テ社員七分ノ三ヲ以テ取締役ヲ定メルハコトコトシイテハナイカト云フノテ「ロエスレル」ノ按ニ戾リマシタ「ロエスレル」ニ話シマシタ處カ其レハ其レテ宜シイト云フノテ又元トヘ戾リマシタ
（淸岡）
私ハ一人テモ二人テモ三人テモ二人テ協議ヲスルカトウカシテ三人ノ中代表者ヲ拵ヘル方カ宜シイ
（本尾）
前ノ委員テ熟考シマシタカ、七人以下テ法律テ取締役ヲ置カナケレハナラヌト云フト實際困ル、五人三人テヤツタトキハ銘々手明キノ者ナレハ銘々テヤル、ヤレナケレハ信用ノアル者ニヤラセル方テ便利テアルト云テ今日五人カ七人テ合資會社ヲ組ンテ其合資會社ニ必ラス取締役ヲ置カナケレハナラヌト云フト銘々テ出來ナクナル
（鶴田）
多クナレハ必ラス置クタロウ、トウシテモ置カスニハ濟マン、必ラス置ケト云フノモ少ナイモノニ對シテ困ルコトニナル
（松岡）
少ナイトキモ支ヘルコトハアリマセン、少ナイ人テ若シ二人テスレハ一人ハ取締役、一人ハ業務擔當人ニナル、多イ方カ目的ト云ハナケレハナラヌ、多數ノ人カ合本テ大業ヲ行フモノト見ナケレハナラン、小イサイ八百屋カ豆腐屋ノ合本會社ハナイ
（鶴田）
多イ方ハ置カセルコトニナル
（渡）
七人以下テモ置カナケレハナラント云フト向ウカ困ル
（委員長）
唯業務擔當人ヲ置カナケレハ皆計算テモ何テモスル樣ニナル
本條ハ「代表」ヲ「代理」ト改ム
○第百四十六條朗讀ス
（議案入）
修正按本條中左ノ如ク修正ス
第一項「多數決ニ因テ生ス」ノ下ニ「若シ四分三以上ノ多數ヲ得サルトキハ從前ノ業務擔當ノ任アル社員ヲ以テ之ニ充ツ」ノ三十六字ヲ加ヘ又第三項トシテ左ノ一項ヲ加フ
取締役ハ何時ニテモ會議ノ決議ニ依テ解任セラルルコトアル可シ其決議ノ效力ハ亦總社員四分三以上ノ多數決ニ因テ生ス
（本尾）
之レモ修正カ御座イマス
（南部）
四分ノ三以上ト云フノハ
（淸岡）
七人ヲ超ヘタルトキハ從前ノ取締役ハ居リマセンセ
（本尾）
其レハトウシテモ無ケレハナリマセン
（渡）
七人以上ニナツタトキハ四分ノ三以上ノ多數ヲ得ナイトキハ前ノ業務擔當人カ取締役ニナルト云フト後チニ這入ツテ來タ者ハ其儘置イテ從前ノ者カ取締役ニナル
（本尾）
四分ノ三ハトウシテモ出來ントキハ解散スルカ七人以下ニ戾スカシナケレハナラン、併シ唯頭取ノ得ラレン爲メニ解散スルノハ惜シイカラ多數カ得ラレンカラ御前出テ往ツテ吳レンカト云フノハ困ルカラ、トノ樣ニカ方法ヲ立テナケレハナラン、新入社員ノ來ナイ時分ハ七人ノ內三人カ擔當シテ居タカラ其レカ嫌忌ナラ四分ノ三ニナサルカ宜シイ
（渡）
今新タ二七人置クコトカ出來ナカツタトキハトウシマスカ
（本尾）
其レハ總社員ノ承諾ヲ得ナケレハナリマセン
（渡）
七名カ八名以上ニナツタトキハ初メカラ規則ヲ變ヘテ置クト同シニナル
（本尾）
理窟上ハ御說ノ通リテ御座イマスカ、是レ迄利益ノアル會社ヲ其レ丈ケノ爲メニ潰スノハ困ル、新タニ出來ルノテナク、アルノヲ殖ヤスノタカラ良イテハナイカト云フコトテ御座イマシタ
（渡）
トウシテモ拵ヘテ出サナケレハ社カ續カン、然ル二四分ノ三ヲ得ラレナイ、之ヲ書カスニ置ケハ今迄ハ續イテ來タカ一名除ケルト社ヲ解カナケレハナラヌ、社ヲ解クノハ甚タ不都合テアルカラ、保護シテヤラナケレハナランカラ之ヲ書クト仰シヤルカ四分ノ三ヲ得ナケレハ社自ラカ解クカ一人ヲ出サナケレハナラヌ樣ニナルカラ協議シテ成立タセル樣ニスル、成立ナケレハ自抛自棄テ仕方カナイ
（本尾）
報吿委員ノ考ヘハ再應申上ケマシタ、其意味ヲ以テ揭ケマシタ、百五十六條ニハ當篏リマセンカ、コウ云フ便法カ設ケテアリマス、トウシテモ四分ノ三ト云フト成立タントキカ御座イマス、其トキノ定メヲ拵ヘテ置カント困リマス
（南部）
七人迄ハ合名會社テ其レカラ上ヲ超ヘルト合資會社ニナルスルト云フ性質カ違ツテ來ルカラ修正ノ仕方カ狡猾イ樣タ
（鶴田）
原按カ宜シイ
（委員長）
一項ノ修正ハ採用ナランテスカ、三項ハトウテス
（鶴田）
三項ハ宜シイ
（村田）
三項ハアツタ方カ宜シイ
（淸岡）
四分三ト云フコトハ必要テ御座イマスカ私ハ社員ノ多數決テ良カロウト思フ
（本尾）
過半數ニ依ルト云フト契約ヲ以テト云フ處ト合ハンコトニナリマス、契約ヲ以テ定メル程ノコトテアリマスカラ總員ノ同意ヲ以テ定ムヘキモノテアリマスカ、合資會社ハ人數カ多イカラ總員同意ハ迚モ出來マイト云フコトテ御座イマス
（淸岡）
四分ノ三ト云フト積々ノ議論カ起ツテ議決ノ傾キカ妙ニナツテ四十人ノ內三十人ノ同意ヲ得ナケレハ多數ニナラント云フト實際困ルト思フ、社員ノ總會議ヲ開クニハ社員何程以上テナケレハ開ケント云フ制限ヲ付ケテ多數ト云フコトニスレハ澤山タロウト思フ、幾ラ多數テモ四十人テ二十九人テハ多數ニナラン十一人ノ爲メニ二十九人ノ決議カ行ハレント云フコトニナル
（松岡）
私ハ四分ノ三ト云フコトハ必要ノモノト思ヒマス何セト云フト、若シ多數決ニスルト重イ事柄テアルカラ人數カ一人位テスルト云フコトハ大變タロウ、多數決ト云フト一人違ヒテモナレル
（淸岡）
半數以上ニナラントキハ會議カ決シテヤラナケレハ其レハ四十人ノ內三十人テナケレハナラヌ、二十九人テハ一人ノ爲メニ多數決ヲ得ラレナイ、會議カ多人數ニナツタトキ四十人ノトキハ三十人、八十人ノトキハ六十人ノ同意ヲ得ナケレハナランカラ二十人ノ爲メ二六十人ノ意見ヲ排斥シナケレハナラン
（南部）
全體此事件ハ關係カ大タカラ總員ノ議決ヲ要シ度イ、併シナカラソレハ行ハレナイカラ四分ノ三カ出マシタノテ御座イマスカラ百五十三條ト參照スレハ必要テ御座イマス
（淸岡）
必要ト云ヘハ總員ト云フニ若クハナイ、四分ノ三ヨリ多クシテ協議ノ屆ク方ヲ冀望スルニ至ツテハ誠ニ結構テアルカ、多數ノ人カソウ行カヌカラ半數以上ト云フコトニナツテ居ル
（南部）
當リ前ノコトハ半數テ決スルコトニナツテ居リマス
（淸岡）
實際四分ノ三ヲ得ナイトキハ何遍モヤツテ途ニハ會社ヲ解散シナケレハナラント云フ樣ニナル、誠ニ困難テアル、其レテ修正按ノ樣ナコトカ出テ來ル、半數位ナレハソンナコトハナイ
（渡）
其㸃ニナレハ五十步百步テアリマシヨウカ貴君ノ御心配ハ四分ノ三カ取レントキハ困ルト云フカ、其心配ハ過半數テモ得ラレントキカアル
（淸岡）
淸岡ヲ選フト云フカラ過半數カ得ラレナイカ、其レヲ今度ハ渡君ニシ樣ト云フト渡君ハ人望カアルカラ得ラレル若シ得ラレナケレハ又尾崎サンニ行キマス
（渡）
其處ニ至ツテハ同シコトタ、唯物ハ黑クスルカ白クスルカト云フトキハ分ルカ、人ヲ指ストキハ四分ノ三モ過半數モ其結果ハ同シコトタ、其レテ之ハ成ル可ク差支カナケレハ手厚クシテ總人員ヲ以テシナケレハナラン
（村田）
總社員ノ承諾ヲ得ル場合ヲ合資會社テハ四分ノ三トスル
（南部）
之ハ百五十六條テ行キマシヨウ、「定數ノ社員出席セサルトキ其總會議ニ於テ爲シタル決議ハ之ヲ總社員ニ通知シ再ヒ總會ヲ招集スヘシ」トアリマスカラ
（委員長）
之テ置イテ食事ニ致シマシヨウ
本條ハ末項ヘ左ノ一項ヲ加フルコトニ決ス
取締役ハ何時ニテモ會社ノ決議ニ依テ解任セラルルコトアルヘシ其決議ノ效力ハ亦總社員四分ノ三以上ノ多數ニ因テ生ス
于時正午休憩ス
午後第一時十五分開會
（委員長）
初メマシヨウ
○第百四十七條朗讀
（議按入）
（南部）
總テノ會社ノ裁判上トアツテ、又會社ヲ代理スト云フノハ可笑シイ
（淸岡）
專權ト全權トハ意味カ違ヒマスカ
（本尾）
違ヒマス此處ハ專ラナル權利ト云フコトテ御座イマス
（鶴田）
全權ト云フト穩カテ、專權ト云フト勝手ノ樣ニナル
（本尾）
全權ナレハ一ノ事柄ニ付イテ申シマスカ專權ハ總テト云フ
（村田）
「總テ」ト云フ字ハ無クテ宜シイ
（委員長）
會社ノ事務ノ裁判上ト裁判外トヲ問ハスト云フコトタカラ「事務」ト云フ字ハ上ニアカル方カ宜シイ
（本尾）
「會社ノ事務ニ付キ裁判上及ヒ裁判外トヲ問ハス」トスルト宜シウ御座イマシヨウ
（渡）
意味カ變ランケレハ全權カ宜シイ
（本尾）
「全」ト云フ字ハトウシテモ當リマセン
（村田）
「專權」ノ方カ宜シイ
（委員長）
「會社ノ事務ニ付キ裁判上ト裁判外トヲ問ハ」トヤリマスカ
（鶴田）
ソレテ宜シイ
本條ハ左ノ如ク改ム
業務擔當ノ任アル社員又ハ取締役ハ會社ノ事務ニ付キ裁判上ト裁判外トヲ問ハス會社ヲ代理スルノ專權ヲ有ス然レトモ會社契約又ハ會社ノ決議ヲ遵守スルコトヲ要ス
○第百四十八條朗讀
（議按入）
（本尾）
合名會社ハ善惡ハ問ハナイ、合資會社ハ善意ト惡意トテ區別ヲ立テル
（淸岡）
云ヒ回ハセハ全體道理ハソウナツテ來ルカ知レンカ、縱令善意ニシテモ制限ノアルコトヲ知テ居レハ效ハナイ
（本尾）
先キテ知テ居タ場合ハ其取引ハ有效テアル、制限外ト云フコトヲ知ラスシテ取引ヲスレハ善意テアルカラ有效タ
（鶴田）
ケレトモ知テ居レハ惡意ニナルカラ無效ニナル
（南部）
百十三條ノ所ハ知テ居テモタ
（本尾）
善意惡意ニ拘ハラステ御座イマス、合名會社ナレハ合名會社ノ社員カ所作ヲ致シマス、先キノ相手方カ善意者ト惡意者トヲ問ヒマセンテ、會社カ義務ヲ盡サナケレハナラン、此方ノ合資會社ノ方ハ制限ヲ立テ置イテ其制限ハ全體云ヘハ第三者ヘ對シテハナイト同シテアル、唯第三者カ知ツテ爲シタ場合ハ第三者ニ落チ度カアルカラ御前知ツテ居ルカラ御前ノ方ノ權利ヲ伸長スルコトハ出來ナイ、何故ソウカト云フト會社卽チ社員テ社員カ承諾主人テアリマス、自分ノ事ヲスルト同シテ御座イマス合資會社ハ有限テ御座イマスカラ責任カ少ナイカラ會社ヲ代表シタ丈ケノモノタト云フ弱身カアリマス、其處テ善意惡意ノ區別カ立チマス
（淸岡）
唯善意ト云フノミテ制限ノアルコトヲ知ラスシテヤツタ方ハ持テ回ハルト云フノハ大分苦シイ樣ナ心持カスル
（本尾）
法律上テ善意惡意ト云フコトハ一ノ事柄ニナツテ居リマスカラ
（委員長）
制限ノ效カナイ
（村田）
取引キノ效ハナイ
（本尾）
制限ノ效カナクナリマス
（村田）
取締役一人テ獨斷テヤルコトハ出來ナイ、他人カソンナコトヲ知ラスニ取引ヲシタトキハ他人カ知ランカラ善意テアルカラ第三者ニ對シテ效カアル
（委員長）
何處ヤラ可笑シイト思フ樣タカ分ルコトハ分ル
（尾崎）
善意ト云ヘハ無我無心テヤツタコトタ
（淸岡）
善意ト云フ反對カ惡意ト見テハ惡ルイ普通善意ハ惡意ノ反對トナツテ居ルケレトモ必ラス制限ノアルコトヲ知ツテモ、惡意ト云フコトハカリテハナイカラ
（委員長）
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ原按ニ決ス
○第百四十九條朗讀
（議按入）
（鶴田）
「襲承ス」ハ「承襲ス」ト云ヒ度イ
（本尾）
之ハ漢學先生ニ尋ネマシタラ良カロウト云フコトテアリマシタ顚倒スルト却テ良クナイ
（淸岡）
認可不認可ト云フコトテハ困ルカラ承認ヲ纏メル丈ケテハナイカ
（本尾）
屆ケノミテヤツテ仕舞フト云フノテハアリマセン、私カ私ノ持分ヲ讓リ度イト云フ、其レハ宜シイト云ヘハ讓ラレマス
（村田）
持分ヲ半分ヤルコトハ出來マセンカ
（本尾）
其レハ出來マス、百二條カ適用サレマス表向ハ出來マセンカ相對テ出來マス
（淸岡）
此者カ身代カ惡ルクナツテ破產ヲスル場合ニハ此金ハ會社ヘ置キ付ケノ儘テ公賣スルコトニナリマスカ
（本尾）
ソレハ退社ノ原因ニナリマス、合名會社ノ百二十三條ヲ適用シマス
（村田）
認可ヨリ承諾ノ方カ良クハナイカ
（本尾）
之ハ原文ヲ書キ分ケタノテ御座イマス「アイイム、ヒリーヴ」ハ承諾「ケリーニヴ」ハ認可ト書キマス
（委員長）
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ原按ニ決ス
○第百五十條朗讀
（議按入）
修正按本條中「多數決ヲ以テスル」ノ八字ヲ刪除ス
（本尾）
之レハ修正カ御座イマス
（南部）
御說明モ御座イマスカ、四分三以上カ加ハル積リテ尙ホ多數決ハ要用テハアリマセンカ
（本尾）
多數決ヲ以テスルト云フト多數決ヲ以テスル樣ニナル、百四十六條ニ定メタル決議ニ依レハ宜シイ、贅文ニナリハセヌカト思ヒマス
（渡）
之ハ削ツタ方カ宜シイ
（村田）
要用ハナイ、四十六條ヲ見レハ分ル
（委員長）
多數決ヲ以テ採リマスカ
（南部）
取締役ニ限ツテ總員數員若クハ一員トシタノハ如何ナル譯カ、業務擔當人ハナイ樣タ
（本尾）
「業務擔當ノ任アル社員又ハ」ト御座イマス
（南部）
「又ハ」ト云フト大括リニナルカラ「若クハ」ノ方カ宜シイ
（本尾）
「總員數員若クハ一員」ト云フト小俣キニナリマス
（委員長）
一人ニテト云フト、トウナリマス
（本尾）
一人テト云フコトテ御座イマス、三人取締役カ居ル、此三人トモ在任中生シタル義務ヲ負フト云フテモ二人テモ一人テモ宜シウ御座イマス
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第百五十一條朗讀
（議按入）
（本尾）
「經過」ヲ「滿了」ト御改メヲ願ヒマス
（委員長）
此處テハ免除時效ヲ云ハンテスカ
（本尾）
中斷シナイ性質テ御座イマス、如何ナル事情カアツテモ一年テ無クナツテ仕舞ウ性質テ御座イマス
（南部）
社外カラ係ツテ來ル者カ期滿效ヲ以テ居レハ無論テ御座イマシヨウ
（本尾）
之ハ無論テ御座イマス中斷スヘキ時效カアツテモ新ラシク始マラナイ
（尾崎）
獨乙ハ二年テスカ
（本尾）
獨乙ハアリマセン
（淸岡）
之ハ二年ニシテハ酷イカラ一年ニシタノカ
（本尾）
合名會社ト權衡ヲ取ツタノテ御座イマス
（淸岡）
退社シタラトウシマスカ
（本尾）
退社スレハ合名會社ノ方ノ退社ノ條カ適用サレテ二年ニナリマス
（淸岡）
之モ二年ノ方カ權衡カ良クハナイカト思フ、合資會社ノ無限責任ニシテモ合名會社ニシテモ同一テアルカラ滿了ノ期限モ同一ニスル方カ良カロウト思フ
（本尾）
合名會社ノ責任ト此場合トハ大變違ヒマス、全體有限責任テアツテ業務擔當カ取締役ニナツテ無限責任ニナルノテアリマスカラ合名會社ノ無限トハ違ウ
（淸岡）
其處テ擔イタ荷物ノ上カラ云フト少シモ變リハナイカラ一年ニシテ吳レハ有リ難イト云フ樣ナモノタ
（南部）
併シ之ハ契約ナレハ格別テ御座イマスカ會社ノ決議テヤラレマスカラ無理壓シ付ケニヤラレマスカラ無限責任カラ成立ツタモノトハ違ヒマシヨウ
（淸岡）
無理ナレハ無限責任ヲ拵ヘナイカ宜シイ、併シ無限責任ヲ我慢シタ以上ハ無限責任ノ棚ヘ上ケタ上ハ仕方カナイ
（西）
之ハ會社ト其人トノ間テアツテ他ニ對シタコトハ此人ニ限ラン會社ニ向テ來ラレル
（鶴田）
前ノ二年ノ無限責任ト同シコトテ
（本尾）
株式會社ト之ト同一ニ御座イマス百三十六條ニ御座イマス、前ノ合名會社ヘ醬シタ處テハ社員カ持分ヲ變更シタトキヲ標準トシ株式會社ニ對シテハ之カ標準トナツテ居ツマス、向ウハ存在シナイ此方ハ存在シテ居ルカラ其レ文ケノ區別ハシナケレハナリマセン一
（委員長）
社員テアツテ役人ニ取ラレテ役人ヲ止メテ其義務タ
（尾崎）
役人ヲシテ居タ時分ニ失錯ヲシタノタカラ
（鶴田）
業務擔當社員ナルモノカ若シ株ヲ人ニ讓ツテ退社シタトキハ二年居ルコトハナイ、一年タ
（本尾）
退社シタトキハ無限社員テ退社スルコトカナイトハ云ヘソ、其レハ百二十六條テ二年間義務ヲ負ハナケレハナラン
（鶴田）
退社スレハ有限責任、退社シタ譯テ此者カ退社スレハ取締役ノ解任シタ譯タカラ決シテ二年行ク道理ハナイ
（本尾）
此者カ退社スレハ矢張リ一年テス無限テ合資會社ニ這入ツテ居ルトキハ退社スレハ二年テ御座イマス
（淸岡）
責任ノナイ者ハ退社シテモ有限タカラ其時カラナイ譯タ
（本尾）
其レハ其時分持歸リマシタ額丈ケニ對シテ二年間ノ責任カナケレハナリマセン
（淸岡）
ソウスルト無限ハ一年テ消滅スルカ持歸ツタ者ハ二年ニナル、ソウスルトニツ責任ヲ持テ居ルコトニナル
（西）
假令ハ業務擔當ヲヤツテ居ル千圓ノ失錯ヲシタトキ五百圓自分ノ持テ居ル物ヲ出シタ上二五百圓出サナケレハナラン、其レテスカラ之カ止シテモ一年ノ間ハ千圓ヲ出サナケレハナラン一年經テ仕舞ヘハ五百圓ハ誰カ補ウカト云フト總社員テ償ハナケレハナラン內外ノ割合カ餘程違ウ此責任ハ會社ノ爲メニ拵ヘタノテアル、一年過キレハ會社總體ヘ係ツテ行ク、ソレテスカラ前トハ餘程違ウ
（淸岡）
會社總體カ持ツタトキナレハ宜シイカ、無イトキハ全財產ニ係ツテ行ク
（委員長）
當然其最初カラ無限責任テ約束シタ者カ若シモ此前項ノ場合テ取締役トカ業務擔當人トカニナツテ其人ハ素ヨリ無限責任ヲ帶ヒテ居ルカラ恰度合名會社ト同シ理窟ニナリマスカ
（本尾）
退社スレハ二年ノ責任ヲ負ヒマス、若シモ役員ナレハ役員ヲ止メマスカ、役人ノ義務ハ役ヲ止メラレタ翌日ヨリ一年ヲ帶ヒテ居リマス、退社スレハ二年ニナリマス
（委員長）
五十一條テ見ルト其人カ事務擔當者テアルカ取締役テアツタトキニシタ事ニ付イテト云フコトハ見ヘン
（本尾）
前條ニ御座イマス
（委員長）
議論カナケレハ先キヘ行キマス
本條ハ「經過」ヲ「滿了」ト改ム
○第百五十二條朗讀
（議按入）
（淸岡）
之ハ總會員モ會計ノ年度モ此法文テハ見ヘマセンカ之ハ便利ニ任カスト云フ旨意カ知リマセンカ普通今日ノ勘定テハ六分ノ一、ニテ御座イマスカ
（本尾）
百五十四條ニ何時開クト云フコトカアリマス
（淸岡）
年度ハ
（本尾）
年度ハ會社ノ隨意テ六月カラ六月マテモアリ一月カラ一月迄モアリ會社ノ都合忙任カセテ法律ハ問ヒマセン
本條ハ原按ニ決ス
于時午後第二時二十分閉會