商法草案議事速記第三回
第五十九條修正案及ヒ目第六十三條至第七十七條
明治廿年十二月七日午前第九時開會
（本尾報吿委員）
今日ノ會議ヲ御開キニナリマス前ニ「ロエスレル」ト「カルクート」ト商法ヲ翻譯スルトキ見出シマシタコトカ御座イマス、私モ其序ニ參リマシタカ、原案ヲ修正致シマシタ處カ御座イマス、其場所ヲ一應報吿致シテ置キマシタラハ如何テ御座イマシヨウ
（委員長）
宜シウ御座イマシヨウ
（本尾報吿委員）
十八條ハ已ニ御議定ニナリマシテ「ロエスレル」、ノ修正ハ無用ニ屬シマスカ申上マス「當事者事務所ノ」ト改ヘマシタ、其理由ハ會社テ御座イマスレハ事務所ト一緖テアルシ、商人ナレハ倫敦テモ他ニ住ンテ居テ事務所ト違ウカラコ「事務所」ト書ク方カ宜シカロウト云フコトテ御座イマス、ソレカラ「第一審ノ裁判權ヲ有スル」ト云フ字ヲ刪除シテ「登記事件ヲ管轄スル」ト致シマス、全ク構成法ニ依リマシテ氣付キマシタノテ御座イマスハ其次ハ二十三條、之モ既往ニ屬シマスカ「五圓以上五十圓以下ノ」ト致シマス、其理由ハ會社ノ登記公吿ヲ怠ツタトキハ五圓以上五十圓以下ト云フコトカ御座イマス、ソレニ因リマシタノテ御座イマス、其次ハ二十九條ノ二項「商號引受ケノ公吿中ニ」ト御座イマス、之ハ公吿テナク「通知又ハ廣吿中ニ」ト致シマス次ニ三十六條ニ「破產ノ場合ヲ除クノ」ト御座イマス「ノ」ノ間ヘ「又ハ會社精算」ト云フ字ヲ入レマス、同條テ「開始又ハ」ヲ刪除ヲ願ヒマス、次ニ三十七條「取扱ニ關スル爭訟ニ付テハ裁判所ノ命令ニ應シ」トシテ「相手方ヨリ申立ルトキハ」ヲ刪除致シマス、三十八條ハ「相手方」ヲ削リマシテ「原吿又ハ被吿ノ」ト致シマス「訴訟ヲ審問スル裁判所ハ」ノ下タヘ「相手方ノ商業帳簿ヘ」ト入レマス
（淸岡委員）
「開始」ヲ削ル理由ハ
（本尾報吿委員）
破產又ハ會社精算ノ場合ニ至リマシテハ唯開始丈ケテハ分ラナイ交付サセテ全部ヲ拵ヘサセテ見ナケレハナラヌ必要カアルカラ開始丈ケテハ狹クナツテ、イケナイト云フ意味テ御座イマス、次二五十三條ノ「其他ノ倉庫」ノ下タヘ「帳場」ト云フ字ヲ入レテ貰ヒタイト云フコトテ御座イマス、其次ハ七十一條ノ二項三項ヲ刪除致シマス此理由ハ前ニ已ニ此事カアルカラ削除シテ宜シイト云フコトテ御座イマス、二十四條二十六條ニアルカラ此處ニ設ケルノ必要カナイト云フコトテ御座イマス、七十一條ノ「住所ヲ定ムルヲ要ス」カ「事務所ヲ定ムルヲ要ス」トナリマス、七十四條ノ二項ヲ刪除致シマス、之ハ全ク構成法訴訟法ニ極メラルヽコトテアルカラ此方ニ入ラナイト云フコトテアリマス次ニ七十六條ニ二項ヲ新設シテ「會社若シ已ニ現存スル他人ノ商號ヲ繼續スルトキハ其舊商號ヲ保續スルコトヲ得ス」ト致シマス次二百條ノ「然レトモ」以下ヲ刪除致シマス其代ハリニ二項ヲ設ケマシテ「相續人又ハ承繼人ハ契約ニ於テ反對ヲ明示セサルトキハ亡社員ノ地位ニ代ハルコトヲ得然レトモ總社員ノ認可ヲ得ルニ非サレハ業務ヲ擔當スルノ權利ナシ」ト致シマス、是レ丈ケテ御座イマス此レカラ後チニモ澤山變更カ御座イマスカ、ソレハ別段ニ申上ケマセスニ原案ノ方テ直シマス
（委員長）
今日ハ濟ンタ處ノ五十九條ノ修正カラ議シマシヨウ
第五十九條修正案朗讀ス
第五十九條商業主人ト商業使用人トノ間ノ權利義務ニシテ其雇傭ニ關スルモノハ此法律ニ規定シタルモノヲ除クノ外總テ雇傭契約ノ原則ニ從フ習業人ヲ置ク契約ハ書面ヲ以テ之ヲ爲ス
（委員長）
之ニ付テ御異存ハアリマセンカ
（村田委員）
同意テ御座イマス
（南部委員）
「習業人ヲ置ク契約ハ書面ヲ以テ之ヲ爲ス」ハ別項ニシテハ如何テス
（委員長）
ソレカ宜カロウ、次キニ行キマセウ
第六十三條朗讀ス
第六十三條商業使用人就業中疾病ニ罹リ又ハ傷痍ヲ被ムルモ其責ヲ商業主人ニ歸スヘカラサルトキハ主人治療費ヲ給シ又ハ償金ヲ與フルノ義務ナシ
（本尾報吿委員）
或ル職工カ機械ノ側テ仕事ヲシテ居ル、機械ノ性質カラ見レハ其處ニ欄干カ拵ヘテナケレハナリマセン、欄干カナケレハ怪我ヲスル恐レカアリマス、ソレヲ主人カ拵ヘスニ置キマシテ、然ウ云フトキハ主人カ責ニ任シマス、處カ主人カ欄干ヲ拵ヘテ置イタニ職工カ陷チタトキハ責ニ任シナイ、爆發ナレハ充分蓋ヲシテ道運ヒヲサセヘキテアリマスカ、主人カ充分蓋ヲシテ擔♂イテ行ケト云ヘハ責ニ任シナイカ、蓋ヲシナイテ擔イテ何ツテ火ノ子テモ落チタトキハ主人カ責ニ任スルト、註ニ解イテアリマス
（委員長）
先キヘ參リマシヨウ
第六十四條朗讀ス
第六十四條商業使用人ヲ何時ニテモ解任シ得ヘキ場合左ノ如シ
第一不實ノ行爲ヲ爲シ又ハ商業主人ヨリ受ケタル信用ニ背戾シタルトキ
第二自己ノ計算又ハ第三者ノ計算ニテ取引ヲ爲シタルトキ但些少ノ取引ハ此限ニ在ラス
第三正當ノ理由ナクシテ其命セラレタル仕事ヲ爲スコトヲ拒ミ又ハ之ヲ怠リタルトキ
第四不當ノ擧動又ハ不品行ノ爲メニ指斥ヲ受ケ又ハ不治ノ疾病ニ罹リタルトキ
（本尾報吿委員）
「共同又ハ」ヲ「若クハ」ト致シマシテ「受ケ」ヲ「受ケタルトキ」ト致シマス
（村田委員）
少シ計リ犯シタ奴ハ解任シナイテモ宜シイ
（南部委員）
却テ實際ニ適シテ宜シイ
（淸岡委員）
「信用ニ背戾シタルトキ」ト云フノハ誠二六ケ敷イ隨分厚薄ノアルモノテ、深ク信シテ居ルトキモ淺ク信シテ居ルトキモアツテ、鳥渡月ニ見ヘヌ少シテモ背戾シタトキハ背戾シタト云ヘル
（本尾報吿委員）
之モ判事ノ活眼ニ任カセルヨリ外ニ仕方カナイ一例ヲ擧ケレハ本尾敬三郞ハ盜賊ヲセヌ奴ト思ツテ主人カ使ツテ居リマスカラ百圓カ千圓ヲ華主先キヘ持タセテヤル、ソレカ信用ニ背戾致シマス、信用ノ厚薄ハ主人ト雇人トノ關係テアリマスカラ法律テ極キルコトハ出來マセン、其場合々々テ判事カ認メルヨリ外ニ仕方カナイ
（淸岡委員）
盜賊抔ハ重イ
（本尾報吿委員）
店ヘ始終本尾カ坐ツテ居ル其側ニ始終判箱カアル、必ラス不當ナコトニハ使ハナイト思ツタ處カ何萬圓ト云フ手形ニ主人ニ話サスニ判ヲ押シテ仕舞ツタ場合モ背戾テ御座イマシヨウ
（淸岡委員）
ソレカラ玆ニ權衡ノ不釣合ト思フコトカアリマス不治ノ疾病ニ罹リタルトキハ解任セラルト云フト病ノ付イタ日ニ直ク不治ノ症ト云フコトハ分ラヌ、半年トカ一年トカ歲月ヲ積ンテ不治ノ病ト決スルコトカ多イ、所カ此處テハ不治ノ疾病ト云フ鑑定カ付ケハ解任サレル、所カ六十二條テ給料ヲ請求スルコトカ出來ナイ、處カ六十二條テハ格別ニ不治ト云フコトテモナイケレトモ時宜ニ依テ解任サレル、併シ二ケ月間ノ給料ヲ請求スルコトカ出來ル、容易ニ解任モサセヌ、請求ノ權利カアル、此方ハ容易ニ解任サレテ請求モ出來ヌ
（本尾報吿委員）
之ハ初メカラ不治ノ症ト云フ症カ極ツテ居リマスカラ給料ヲ與ヘナイ
（南部委員）
不治ノ疾病ト云フノハ、一月煩ツテ濟ムト云フノテナイ、幾分カ間カアル、疾病ニ罹ツタ間ハ給料ヲ受ケテ保養ヲシテ居ルコトカアル
（淸岡委員）
六十二條ノ二ケ月ハ病氣ノ二ケ月テナク解任後ノ二ケ月タ
（本尾報吿委員）
六十二條ハ寢マシタ日カラ給料カ貰ヘナイ
（淸岡委員）
十日ヤ二十日テハ給金ヲ渡サナケレハナラヌ、其トキハ病中ノ二ケ月カヤツテアルカラ丸ルテヤラヌト云フト六十二條ヲ押ヘテ病中ノ二ケ月ヲ云タコトテハ御座ラヌト云テ怒ツテ來ル
（南部委員）
之ハ報吿委員ノ方ニ於テ修正カ出テ箇樣ニナリマシタカ解任スルコトヲ得ト云タラ差支カ出來マスル、前ノ樣ナレハ差支カナイカ、之テハ牴觸スル
（本尾報吿委員）
六十二條ヲ「解任スルコトヲ得」ト致シマシタノハ「ロエスレル」ノ說解ニ御座イマス、此場合ニハ二ケ月間ノ給料ヲヤツテ何ウシ樣ト云フ疑ヒカ起リマシタ
（村田委員）
六十二條ヘ「解任」ヲ入レタノハ惡ルイ樣タ
（本尾報吿委員）
然ウスルト不治ノ病或ハ他ノ病氣テ業務ニ堪ヘヌコトカアリマス、然ウスルト一年立トウカ、三年經ウカ、解傭ハ出來ヌト云フト困ルコトカ出來マス、大勢ノ職工ヲ抱ヘテ流行病テモアルト差支ヲ生シマス
（淸岡委員）
六十二條ハ結好テ御座イマシヨウカ、ソレカ爲ニ權衡カ惡ルケレハ先キヲ削ルカ何ウカシナケレハナラヌ、私ノ樣ニ足ヲ打チ折ツタカ一年ヤ、ソコラテハナイ、二年モ三年モ勉强シテ居ル
（本尾報吿委員）
六十四條ノ四ニ若シモ自己ノ過失ニ因テ不治ノ病ニ罹ツタトキハトスレハ分ル樣テ御座イマス
（南部委員）
六十二條ハ給料ヲ二ケ月間ホカ拂ハナイト云ヘハ宜シイ
（村田委員）
六十二條ノ修正ハ惡ルイ
（南部委員）
豫吿ヲシテ解任シナケレハ直ク解任スルコトハ出來ナイ
（本尾報吿委員）
豫吿ヲスルナレハ宜シイカ、解任テハ直ク投リ出ス樣ニナルト云フコトヲ云ハレマシタカ、六十條ニモ御座イマス、其精神ヲ推テ見レハ縱令解任カ出來ルト致シマシテモ、六十一條二條ノ原則ハ崩レマセン
（岡村報吿委員）
修正ヲ致シマス、六十條ハ無期ノトキハ豫吿ヲシテナケレハ六十一條ハ有期テアリマスカラ、契約ノ體面カラ云ヘハ何ウ云フ事故カアツテモ契約中ハ雙方トモ解クコトノ出來ナイ場合テアリマス、六十四條ハ契約ニ拘ハラス解ケル場合ヲ極メタノテアリマスカラ六十一條ノ場合テハ六十四條ノ外ハ契約ヲ解クコトハ出來マセン、六十四條カラ生レテ六十二條カ出來タノテ六十二條ハ有期ノ契約テアルカラ此契約ハ六十四條テ解ク譯ニモ行カナイ、六十四條テハ或ハ病氣テ十ケ月不參シテモ有期ノ契約テアルカラ解クコトカ出來ナイトスレハ病氣サヘ癒レハ鳥渡出テ來ル、然ウスルト前ニ置イタ者ハ又出サナケレハナラヌ、給金ハヤルカ契約ハ解クコトハ出來ナイ、五ケ年ノ年限中ハ豫備ヲシテモ其人カ出テ來ルト入ラナクナルカラ復タ解任ヲシナケレハナラヌト云フコトハ各國ノ法律カ許シテアル、六十四條ニ依リマシテモ疾病三ケ月以上ニ涉ルトキハ雙方トモ契約ヲ解クコトヲ許スト云フコトニシナケレハ不都合テアルト云フ所カラ原案者モ契約ヲ解クコトヲ認メタニ違ヒアリマセン、然ルニ此原案テハ解クコトカアリマセンカラ二ケ月ノ給料ヲヤレハ契約ハ現在シテ居ルソト云フト六十四條ヲ適用スルコトカ出來マセン、斯ウナツテハ甚タ差支ヲ生シマスカラ、六十二條テ二ケ月以上疾病テ就業スルコトノ出來タ者ハ解任スルノ權利カ主人ニナケレハナラヌト云フコトハ起草者ノ意テアリマスカラ其意味ヲ現ハサナケレハナラヌト云フノテ、報吿委員カ此改正ヲ加ヘタノテ御座イマス、六十四條ハ有期契約テ其間解クコトカナラヌ性質ノモノテアルカ其他ノ場合ハ解クコトカ出來マス、解ク場合ニハ豫吿シテ解クノト疾病テ解クノト不行跡テ解クノト三段ニ分ツテ居リマスカラ修正ノ文章カ穩カテナイカ知レマセンケレトモ起案者ノ旨意ト變ツタコトハ御座イマセツ、ソレカラ不治ノ症ト云フモノハ何セ第四ニ入レタカト云フト起草者ノ意ヲ推シテ見マスルニ神經病カ何カテ、神經カ狂ツテ來タ、然ウスルト不治ノ症タト云フコトカ明々瞭々テ最早勤マラヌトキハ契約ヲ結ンテ置ク必要カナイカラ自然解ケテ仕舞フ法律上ノ法理カアルカラ豫吿モ何モ入ラヌ所ヘ加ヘマシタカ、不治ノ疾病ニ罹リ怪我ヲシテ足カ折レタトカ、手カ折レタトカ、何トカ主人ノ責ニ歸スルトキハ給料ヲヤラナケレハナラヌ、何シロ此㸃ハモウ用ヲ爲サヌト云フコトカ明カテアルカラ其道理カラ何ウシテモ解カナケレハナラヌト云フ道理カラ六十四條ノ中ヘ編入シタノテアリマス
（南部委員）
獨乙ノ商法ノ六十四條カ當ツテ居リマス、第四ニ「長病又ハ多病、又ハ長キ覊絆刑又ハ久シキ不在ニ因リ其勤務ヲ爲スコトヲ妨ケラルルトキ」トアリマス、成程久シク居ラヌト云フ事故カ疾病ノ外ニアリマス、ソレタカラ解任スルコトノ出來ルノハ六十四條ニ止ツテ、少シノ疾病ニ因テ妨ケラルヽトキハ給料ヲ受クルコトカ出來ルト云フコトカ六十條ニ云テアツテ、六十四條ハ長イ間ノ事ヲ云フノテアリマスカラ此方カ能ク分リマス
（本尾報吿委員）
六十四條ノ不治ノ疾病ハ僅力ノ部分ニ止メテ仕舞ヒマシタ、不治ノ疾病ト云フノハ何ウ云フ譯カト云フニ極ク偶ニアル場合テアツテ、或ハ精神病ニ罹ルトカ、或ハ身體ニ毀傷ヲ生シタル場合ニ限ル、獨乙ノハ餘リ寬ニ過キル、或ハ酷ニ過キルト云フノテ御座イマシテ箇樣ニ致シマシタ
（淸岡委員）
ソレハ不權衡テハ御座イマセンカ、六十二條ト六十四條ノ四ト足ノ折レタ人ハ別シテ憫然ノ者テアル、暇ヲ出スノハ宜シイケレトモ有期無期モ更ニ論セス、勝手次第ニ匠ル々々遒出ス樣ナコトヲシテハ憫然ノミナラス六十四條ニ對シテ權衡カオカシカロウ、原案ヲ考ヘレハ唯業務ニ就クニ堪ヘサルニ至ルト云フノテ僅カ休ンタカラト云テ、貴樣ハ五日休ンタカラ給料ヲ引去ル十日休ンタカラ引去ルト云コフトハ出來ナイ、二ケ月丈ケハヤルト云フノテ是レハ餘程主人ノ方カラ寬ニ取扱ウ至極道理ニ於テ宜カロウ、其理窟カラ解任ノコトヲ云ハスシテ十日ヤ二十日煩ツテモ引去ルコトカ出來ル樣ニ見ヘル、解任ヲ加ヘテ見レハ第四ト權衡カ合ハヌ
（南部委員）
「又ハ不治ノ疾病」ト云フ字ヲ削ツテハ如何テ御座イマス、然ウ入ルト六十二條ニ這入ツテ仕舞ヒマス
（委員長）
不治ノ病氣テモ二ケ月ハ置カナケレハナラヌ、癲狂ニナツテモ二ケ月位ハ置テ見ルニ違ヒナイ、其方カ宜カロウ
（淸岡委員）
然ウスレハ起案者ニ何ウ云フ不都合カアルカ知レヌ
（岡村報吿委員）
極別不都合ハアリマスマイ、此者ハ使ヘヌ者テアル、不治ノ症テアルト云フト使ヘヌ、然ウスレハ何程契約カアツテモ解カレルニ違ヒナイカラ之ヲ御削リニナツテモ、六十四條テ二ケ月丈ヤリマシテ差支アリマスマイ
（本尾報吿委員）
唯御注意迄ニ申上マスカ大勢職工ヲ使ツテ居ル者ニナルト、不治ノ疾病ニ罹ツタトキ、自己ノ過失ニ因テ疾病ニ罹ツタトキ六十四條ヲ適用スル樣ニナル先キニ二ケ月ノ給料ヲヤルヤラヌノ論カ起ツテ來マス、若シモ窟己ノ過失ナレハ二ケ月ノ給料ヲヤランテ六十四條テをつぼり出シテ仕舞ヒ二ケ月ヤラナケレハナラヌ、主人カ迷惑スル
（村田委員）
自分テ女郞買ヲシテ黴毒ヲカイテモ六十四條ニ當ル
（南部委員）
然ウスレハ自己ノ過失ヲ六十二條ニ入レテモ宜シイ
（淸岡委員）
職工ヲ使ウニ期限ヲ定メテヤルノハナイ
（委員長）
有期ノ奴ハ六十二條テ行クカ、無期ノ奴ハ一生涯置カナケレハナラヌ
（岡村報吿委員）
豫吿テ行キマスカラ差支アリマセン
（松岡委員）
私カラシテ見マスト性質上カラ六十條ノ豫吿テ解クノハ雙方ノ都合カラ解クノヲ目的ニシタノテ六十四條ハ其身分上カラ獨リテニ解イテモ宜イト云フノヲ生シテ來タノテアロウト思ヒマス、豫吿トナルト相對示談ノ念ノ入ツタ位ノモノテアリマス此處ヘ持テ來タノハ種々ノモノカアリマスカ基本體ハ自ラ契約ヲ解クニ足ラヌ丈ケノコトヲ持テ來タノカト思ヒマス、給料ヲ取ラヌコトヲ調ヘテ見レハ有期ノ者ハ二ケ月ノモノカ取レル、期限ヲ定メナイ者ハ、一ケ月ノ豫吿丈ケニナル
（村田委員）
終身ノ者テモ六十二條テ取レル
（松岡委員）
期限中ト云フコトカアルカラ無期限ト云フコトハ出來ナイ
（南部委員）
註ニ無期限ノ場合ハ六十條ヲ適用スルトアリマス
（委員長）
ソンナラ適用サヘスレハ宜シイ
（松岡委員）
ソレカラモウ一ツ承知シタイノハ不治ノ疾病ト云フノハ途中テ遽カニ彈丸ニ當ツテ目ノ見ヘナクナツタトカ、足ノ折レタトカハ疾病ニナリマスカ
（本尾報吿委員）
ナリマス
（松岡委員）
怪我ヲシタノモ病ニナリマスカ
（本尾報吿委員）
疾病ノ中ニ怪我ヲシタノハ這入ツテ居リマス、ソレハ六十四條ノ四項ニモ這入ツテ居リマス
（松岡委員）
之ヲ削ツテ見タ處カ、滿足スルコトハ出來ナイ、六十條ト六十二條ハ有期ト無期ノ區別カアツテ無期ノ方ハ豫吿、六十馬二條ハ期限中解ケナイ者ハ此條テ解ケル、六十四條ノ解ケル者ヲ六十二條ニ引入レルト云ヘハ矢張リ不權衡テ、五十步百步テ御座イマス
（南部委員）
原案ノ通リニシテモ不權衡テ御座イマス
（委員長）
削ツタ方カ不權衡カナイ樣ニナル
（村田委員）
削ルト寬ニナル
（委員長）
寬ニナラナイ、良イ說カ出レハ宜シイカ、ソレハ六ケ敷イ
（南部委員）
「又ハ自己ノ過失ニ因リ不治ノ疾病ニ罹リタルトキ」トシテモ宜シイ
（村田委員）
然ウスルト六十二條カオカシクナル
（委員長）
怪我ナレハ自己ノ過失テモ宜シイカ、病氣ハ自己ノ過失、ト云フコトハナイ
（岡村報吿委員）
契約面カラ云ヘハ契約ノ目的物カナクナツタカラ解ケルト云フノテアリマス
（委員長）
多數ナレハ削リマス、先キヘ行キマシヨウ
第六十五條朗讀ス
第六十五條商業主人商業使用人ニ相當ノ給料ヲ與ヘス又ハ之ニ反法若クハ不適當ノ業務ヲ命シ又ハ其身體ノ安全健康又ハ名譽ヲ害シ若クハ害セントスル取扱ヲ爲ストキハ其使用人ハ何時ニテモ辭任スルコトヲ得
殊ニ習業人ハ其受クヘキ營業上ノ敎導ヲ受ケス又ハ久シク家事ニ使役セラルヽトキハ期限前ニ解約スルコトヲ得
（村田委員）
「反法」ト云フ字カ入ルカネ、社稷ヲ危ウス抔ノ所ヘ使ウ謀反タ
（本尾報吿委員）
法律ニ反對スルト云フ字テ御座イマス
（委員長）
ソレチヤア違法タネ、翻譯局テ相談シテ見テ下タサイ先キヘ行セマシヨウ
第六十六條朗讀ス
第六十六條雇傭契約ハ商業主人ノ死亡ニ因テ解クルモノニアラス然レトモ商業使用人ノ死亡ニ因テ解クルモノトス又雇入レラレタル時ノ營業ヲ廢止スルトキハ亦解クルモノトス但其營業ヲ他人ニ移サントスルトキハ第六十條ニ從ヒ雙方豫吿ノ權利ヲ有ス
（淸岡委員）
死ンタトキハ無論ノコトト云フノテアリマシヨウ四十四條ノ代務人テモ死亡ニ因テ解ケルノテアリマス、使用人カ解ケテ、代務人カ解ケルト云フコトカ書イテナイト、代務人ハ解ケナイト云フ樣ニ見ヘル心配カアル
（南部委員）
之ヲ置テ前ヘ入レテハ何ウテス
（本尾報吿委員）
詰リ修正ニスレハ主人ノ死ンタ折ハ解ケナイ、死ヌニ依テ解ケルト云フコトヲ消シテ仕舞ツテ解ケルコトニナル
（委員長）
四十四條ニ書キ足スカ、此方ヲ削ルカ
（南部委員）
四十四條ヘ書キ足スカ宜イ
（本尾報吿委員）
其論モ報吿委員テ致シマシタカ、代務人ヤ使用人ノ總テノ結果ヲ揭ケレハ死亡ノミテハ足ラヌノテハナイカ、破產シタトキモ揭ケナケレハナラヌ、又破產ノミナラス治產ノ禁ヲ受ケルコトモアル、其場合モ揭ケナケレハナラヌ、若シモ民法上ノ原則カ極レハ此處ニ揭ケテナイ方カ宜イ
（鶴田委員）
ナクテ宜シイ
（委員長）
修正案ニ從ウ方カ宜カロウ
（淸岡委員）
豫吿ノ權利ヲ有スト云フノハオカシイ
（本尾報吿委員）
自分カ行クト云ヘハ、イケル
（村田委員）
契約ハ商業主人カ死ンタカラト云テ解ケナイ、跡ノ相續人カ使用人ニ鉗シテ契約ヲ履ンテ行カナケレハナラヌ、處カ商業使用人カ死亡ニ因テハ解ケテ仕舞フト云フノハ契約ハ何ウ云フ契約カアロウトモ使用人カ死ンテ仕舞ツタトキハ仕方カナイト云フ旨意カラ這入ツタノテアリマシヨウ
（本尾報吿委員）
然ウテ御座イマス、商業主人ノ死亡ニ因テ解ケルモノニ非ラスト云フノハ民法ノ原則トハ違ヒマス、民法テアルコトハ商法テ取テ仕舞フ
（委員長）
先キヘ行キマシヨウ
第六十七條朗讀ス
第六章商事會社
總則
第六十七條商事會社ハ共同シテ商業ヲ營ム爲メニノミ之ヲ設立スルコトヲ得
（委員長）
之ハ宜カロウ
（松岡委員）
「商事ヲ營ム爲メ」ト書ケレハ「ノミ」ト云フ字ハ妙ナ字
（委員長）
オカシイケレトモ無クテハナラヌ、別ニ仕樣カナイテシヨウ
（松岡委員）
「ノミ」ト云フト、上ノ商事カ弱クナル
（淸岡委員）
「ノミ」ト云フ字カナイト、商業ヲ營ム爲メニシタ併シ傍ラ斯ウ云フコトヲ營ム樣ニナル
（委員長）
害ニナル氣遣ヒハアリマセンカラ先キヘ行キマシヨウ
第六十八條朗讀ス
第六十八條法令ニ背戾シ又ハ禁止セラレタル事業ヲ目的トスル會社ハ初ヨリ無效トス公安又ハ風俗ヲ害スヘキ營業ヲ爲ス會社ハ裁判所ノ命令ヲ以テ之ヲ解散セシムルコトヲ得
（委員長）
「法令」ノ原語ハ
（本尾報吿委員）
法律或ハ勅令ト云フ字テ御座イマス、ソレヲ法令ト譯スルコトニシマシタ
（委員長）
然ウスルト、是レ迄「勅令ヲ以テ定ム」ト云フコトカアリマシタ、之ハ極メ次第テ論ハアリマセンカ、是レカラ先キニ一緖ノトキハ必ラス斯ウナツテ居ルト云ヘハソレテ宜シイ、先キヘ移リマシヨウ
第六十九條朗讀ス
第六十九條法令ニ依リ官廳ノ許可ヲ受クヘキ營業ヲ爲サントスル會社ハ其許可ヲ得ルニアラサレハ之ヲ設立スルコトヲ得ス
株式會社ニ關シテハ第四節ノ規定ニ從フ
（本尾報吿委員）
「第四節」トアルハ「第三節」ノ誤リテ御座イマス
（委員長）
先キヘ行キマシヨウ
第七十條朗讀ス
第七十條會社ハ適當ナル登記公吿ヲ受クルニアラサレハ第三者ニ對シ法律上ノ效ナキモノトス
（淸岡委員）
二十九條ヲ「公吿」ヲ「廣吿」ト致シマスネ
（本尾報吿委員）
此方カ廣ク出來ルノテアリマス
（松岡委員）
「受ケル」ト云フノハ裁判所ノ手續ニナルカラ「登記廣吿ヲ爲ス」方カ宜クハナイカ
（村田委員）
少シ讀ミ馴レルト何モナイ
（南部委員）
會社カ登記ヲ爲スト云フコトハナイ
（委員長）
宜ケレハ先キヘ行キマシヨウ
第七十一條朗讀ス
第七十一條會社ハ商號ヲ設ケ社印ヲ製シ住所ヲ定ムルコトヲ要ス
一地內ニ於ケル數箇ノ會社ノ商號ハ同一ナルコトヲ得ス
其商號ハ社店ノ前面ニ揭示スルコトヲ要ス
（本尾報吿委員）
商號ヲ加ヘレハ入用ニナリマス
（南部委員）
重複ニナツテモアツタ方カ宜シイ
（委員長）
商號ノ方ヲ置ケハ此方ヲ削ツテ仕舞フ商號カ用ヒラレナケレハ置クト云フコトニシテ今ハ先ツ削ツテ於タ方カ宜カロウ商人一個ノ人ト會社ヲ成シテ居ル人ト違ウカ知レヌ、之ハ一地方テハナイ、日本國中ニツ名カアツテハ困ルト云フ論カアルカ知レナイ
（本尾報吿委員）
起案者ニ聞イテ見マシタ處カ一地方ニ於テ同シ商號ハナラナイ、ソレニ反シテ商人普通ノ所ニ書イテアルノハ同一ノ地方テ同一ノ商號ハナラヌトアル、ソレテモ削除シテ宜シイカト聞イテ見マシタ處カ、差支ナイ、全體七十一條ノ一地方ノト云フノハ私ノ意味テハナイ、一個人テアロウカ、一會社テアロウカ、一地方テ同一ノ商號ハナラヌ、成程商社ハ大キナモノテアルカ商人テモ大キナ者カナイトハ云ヘヌカラ此區別ニ於テ商社ト一個人ノ區別カ違ウト云フコトテ御座イマシタ、此沿革ヲ申シマスルト、商社ニ付テハ一地方ニ於テハ同名ノ商業カ有ル無シニ拘ハラス、同一ノ商號ハナラヌト極メマシタカ、全國テモナラヌト云フ論カ御座イマス、株式ノ如キハ全國同一ノ商號カナランテモ宜シイカ合名會社、合資會社ハ宜カロウト云テ「ロエスレル」ニ相談ノ上二項ヲ置キマシタ
（鶴田委員）
二項丈ケハ活カシテ置キタイモノタ
（村田委員）
別ノ方カ宜シイ
（委員長）
置クカ置カヌ力ノ論ニナル
（松岡委員）
私ハ起草者ノ意ノ通リテ貫クカ宜カロウト思ヒマス會社ト云フモノハ直ク先キニハ二人以上テ會社ヲスルコトカ出來マス、薩摩屋トカ、或ハ會津屋トカ屋號ニ關係スルテアリマスケレトモ然ウ云フモノヲ防カントスルト却テ煩ハシクナル、依テ一地方ニ限ツテ置クノハ良イコトテアル且孰レ商號ヲ極メ樣ト云ヘハ一個人ノ商號ヲ極メルコトカ出來ナイ、會社ノ商號モ極メナケレハナラヌカラ一個人ノ處ヘ讓ツタ方カ宜シイ
（委員長）
密ニシテ置ク方カ宜シイ、別ニ論カナケレハ先キヘ行キマス
第七十二條朗讀ス
第七十二條社印ニハ商號ヲ刻シ商業登記簿ニ添ヘテ保存スル爲メ其印鑑ヲ第十八條ニ揭ケタル裁判所ニ差出スコトヲ要ス社印ヲ變更シ又ハ改刻スルトキモ亦此手續ヲ爲ス
（松岡委員）
「商業登記簿ヘ添ヘテ保存スル爲」ハ削ツテハ何ウテス、印鑑ヲ戶長役場ヘ出スノ何處ヘ出スノト云フコトハ分ツテ居ル
（委員長）
宜ケレハ先キヘ行キマス
第七十三條朗讀ス
第七十三條商號及ヒ社印ハ官廳ニ宛テタル文書又ハ報吿書又ハ株劵爲替手形約束手形及ヒ其他總テ會社ニ於テ權利ヲ有シ義務ヲ負フヘキ一切ノ書類ニ之ヲ用ユ
（委員長）
之モ申分ナイ
第七十四條朗讀ス
第七十四條會社ハ特ニ財產ヲ所有シ又獨立シテ權利ヲ有シ義務ヲ負フモノトス殊ニ其名義ヲ以テ貸借ヲ爲シ動產不動產ヲ得取シ又訴訟ニ付キ原吿又ハ被吿トナルコトヲ得
會社ノ通常ノ裁判管轄ハ其住所ヲ管轄スル裁判所ニ屬ス
（淸岡委員）
末項ハ置イタ方カ宜シイ、訴訟法ヲ見タ人テモ分ツテ便利テ宜サソウナモノタ
（本尾報吿委員）
此商法ヲ議定致シマス時分ニハ訴訟法モ御座イマセン、民法モ御座イマセン、委員長カラ御注文カ御座イマシテ獨立シテ發布ノ出來ル樣ニシテ吳レト云フ御注文カ御座イマシタ、今日ニ至リマツテハ置ク必要ハアリマセン
（委員長）
宜ケレハ之テ食事ニシマス
正午十二時喫飯ノ爲メ休憩ス
午後第一時開會
（委員長）
ヤリマシヨウ
第七十五條朗讀ス
第一節合名會社
第一款會社ノ設立
第七十五條二人以上七人以下共通ノ計算ヲ以テ商業ヲ營ム爲メ金圓又ハ有價物件又ハ勞力ヲ出資ト爲ツテ共有資本ヲ組成シ責任其出資ニ止マラサルモノヲ合名會社ト爲ス
（本尾報吿委員）
「商業ヲ營ム爲メ」ハ「爲メ」「金圓」ハ「金錢」「有價物件」ハ「有價物」テ御座イマス、制限ヲ立マシタ旨意ハ合名會社ハ銘々資產ヲ以テ自分ニ事務ヲ孰テヤルト云フノカ旨意テアル、處カ多數ノ人數カヤレハ名丈ケニ止ツテ一、ニノ有カ者ニ壓制サレテ惡結果ヲ生スル、ソレ故二七人トカ何トカ上ヲ限ツテ置カヌト弊カアル、之ハ英國ニアルモノテ御座イマス、獨乙佛蘭西アタリニハ御座イマセン
（松岡委員）
此條テハ七人ト云フコトカ大變差支ヒノアル樣ニナリマスナ
（本尾報吿委員）
合名會社設立ノ一要件ト申シテ宜シイ
（松岡委員）
七人ト云タ所カ七人カ各業務ヲ擔當シテ甲乙ナクヤラセルカ、七人テモニ、三人カ擔當テヤルニ違ヒナイ、七人ト云フ制限ヲ必ラス設ケナケレハナラヌモノテアルカ、契約トシテ八人アツテモ、十人アツテモ、相對ノ自由ニ任カセテ置タ方カ宜イ位ノモノテハナイカ
（本尾報吿委員）
此前モ七人ヲ取ルト云フ旨意テ起草者ニ質問致シマシタカ起草者ノ主張致シマスノハ右ノ理由テ御座イマス、又「コンチネント」テハ弊害ノアツタコトカアル獨乙語テ「コルン、テル、サイト」ト云フコトヲ申シマスカ、貴族ノ富豪ニ「御前サソ御這入ンナサイ」ト云テ無限責任ニシテ懷ニ金ヲ入レテ破產ニ至ラシメタノカ多イ、ト云テ私カ取リタイト云テモ何處迄モ承知致シマセント申シテ居リマス
（南部委員）
縱令殃ヒカアツタニシロ尠イ
（鶴田委員）
銘々ノ資本限リノモノテアルカラ
（委員長）
大變富豪タロウト思テ豈計ラン何モナイ奴抔カアル、日本ノ華族抔ハ大變ヤラレテ居ル
（西委員）
モウ華族サンモ手懲リヲシマシタロウ
（尾崎委員）
之ハ「ロエスレル」ノ考カ宜カロウ
（松岡委員）
專賣免許ト同シ樣ニ政府カ保證ヲスルモノタト思フカラ政府ヘ屆濟ニナレハ信用ヲ得ル、政府カ人民ヲ誤ラセル話シテ、政府ハ保證ヲセヌ、監督スルト云ヘハ宜クナル、日本ノ經濟上ニ於テモ必要ナコトテ宜イ處テス
（委員長）
宜ケレハ先キヘ
第七十六條朗讀ス
第七十六條商號ハ總社員又ハ其一人若クハ數人ノ氏ニ會社ナル文字ヲ附ス
（松岡委員）
之ハ商號ノ元トカ極マランケレハ困ルタロウ
（委員長）
成丈ケ斯ウ云フ處ヲ現在ノモノニ適用シ良イ樣ニシテ置タ方カ宜シイ、何モ箇モ新タニシテ印版モ彫リ改ヘ、帳面モ新タニシナイ樣ニスルカ宜イ
（松岡委員）
二人以上ノ人カ寄合テ無限責任テヤルニモ尾崎松岡抔ト云フコトハ出來ナイ
（村田委員）
組ト云フノモアル、何商會トカ云フノカアル
（岡村報吿委員）
報吿委員ハ原案ノ通リニ極メテハ惡ルイト云フノテ一旦「會社ナル性質ヲ表スヘキ文字ヲ附ス」ト云フ修正ヲ加ヘマシタ、尙又議シテ見マシタ處カ、然ウ云フニスルト萬一其性質ヲ表スルト云フノテアルカラ、組トカ、會社トカ協會トカ色々ノモノカ起ツテ來ル、會社テナイモノ數人ト、會社ト區別ヲ付ケラ一レナイ、然ウスルト會社ト混同シテ仕舞ウ樣テアル、寧ロ當リ前ノ樣ニ會社ト云フ丈ケヲ用フル方カ今ハ必要テアルケレトモ是レカラ後チ判然スルカラ原案カ宜カロウト云フノテ原案ニ決シマシタ
（本尾報吿委員）
「會社ナル文字ヲ」ト改ヘマスル時分ニ之テハ現在ノ商社組合ハ難澁シヤシマイカ、氣ノ毒テアルト云フ論モ出マシタカ、其折凡ソ困リマシタノハ今日迄ノ處ハ「組」トカ「會社」トカ云フモノヲ用ヒテ居ルノハ特別ニ看做シテ宜カロウ、此商社條例發布以後ハ必ラス設ケナケレハナラヌト云フ、其意味テ「會社ノ文字ヲ用フ可シ」ト致シタ方カ宜カロウト云フノテ致シマシタ、是レ迄大倉組トカ云フカアル、是レハ合名カ合資力分ラヌトキハ大倉組ノ方ヘ行ツテ、有限トカ、無限トカ、株式トカ書ケレハ宜イテハナイカ、然ウスレハ社名ヲ變ヘンテモ分ルテハナイカト云フ處迄論究カ御座イマシタ
（委員長）
是レカラ後チ計リナレハ宜カロウ、そんなら舊ノモノヲ丸ルテ分ラヌコトニスルノモ困ルカラ合名會社トカ、或ハ有限無限ヲ分ケテ書クカ、舊ノモノハソレテ存シテ後チノモノハ此法律通リニスレハ宜イカ知レマセン、「合名大倉組」ト書ケハ宜シイ
（松岡委員）
斯ウ云フコトハ心配ニ及ヒマセンカ、七十三條テ商號ハ權利義務ノ一切ノ書類ニ用ヒナケレハナラヌ、一々「何々會社」ト云フ迄略記カ出來ヌト云フ憂ヘカアリマシヨウ
（本尾報吿委員）
略記ハ出來マセン
（松岡委員）
英國ノ樣ニ「何々コンパニー」ヲ「C」ト書クコトハ出來マセンカ
（本尾報吿委員）
ソレハ出來マセン
（松岡委員）
略記テ物ヲ濟マシテ居ルノカ大變多イ、一々書カナケレハナラヌノ、悉ク書カナケレハナラヌト云フト「會社」ト云フ字ハ隨分六ケ敷イ字テアルニ略記ヲ法律ニ背クモノタト云フト隨分害カアリヤシナイカ
（本尾報吿委員）
コ人又ハ數人」ト御座イマス、甲乙丙丁ト行クノテ御座イマスカ、一人テモ二人テモ宜シ、併シ略記ハ出來マセン、西洋ノハ「CO」テ「コンパニー」ト讀メマスカラ宜シウ御座イマスカ、日本ノハ然ウハ行キマセン
（松岡委員）
西洋ニハ親子テヤルノニ「本尾磐良松岡」ト云フノカ御座イマス
（本尾報吿委員）
ソレハ外ニ「本尾」ト云フノカアリマスカラ「本尾及ヒ松岡」ト書クノテアリマス
（松岡委員）
此處テ二ツノ問題ニナツテ、略記ハ許スカ許サヌカソレト必ラス會社トシテ組合ト云フモノモ會社ト直スカ直サヌ力ノ岐ルヽ處テス
（委員長）
安田銀行抔ハ合名會社ナレハ「安田銀行會社」ト云ハナケレハナラヌ
（松岡委員）
尤モ銀行ト云フノハ物ノ名テスナ
（委員長）
「ハンク」ト云フ字ノ譯字ニナツテ居ルカ然ウテハナイ
（南部委員）
二項ノ舊商號ト云フノハ他人ノ持テ居タ商號テスカ
（本尾報吿委員）
然ウテス
（委員長）
法律以前ノモノハ元老院カ何カテ硏究シタコトカアリマシタカ
（本尾報吿委員）
會社條例ノトキモ其論カ出マシタ、之ヲ極メマス時分ニ然ウ云フ旨意テ極ツテ居リマス、併シ未タはっきりハ極ツテ居リマセン
（委員長）
其處ヲ組合テ講究シテ舊來ノモノハ「有限」「無限」ノ字テモ付ケルカ、ソレハ單行布吿テヤルカ何ウカ、其處ヲ能ク講究シテ置テ下タサイ
（委員長）
「已ニ」ト云フ字ハ意味ハアリマセンカ
（本尾報吿委員）
アリマセン
（委員長）
無ケレハ削リマス
（南部委員）
二項モ商號ノコトカ極ランテハ完全致シマセン、舊商號ノ中ニハ會社テナイ尋常ノ商號モアリマシヨウカラ
（委員長）
會社號モ這入ルカラ之ヲ今取除ケルコトハ出來マセン之ヲ置イタカラト云テ、商號ヲ置ク置カヌニ關係ヲ持チマスマイ
（南部委員）
併シ若シ無クナリマシタトキハ他人ノ商號ハ商社計リノコトニナル
（委員長）
商社計リニナツテモ宜イテハナイカ
（鶴田委員）
「松田」カ變ツテ「山田」トナツテハ「松田」トシテ置クコトハ出來マセン
（委員長）
ソレハ一個人ナレハ宜シイ
（松岡委員）
之ハ二十九條ヲ極メルトキ見合セテハ何ウテス
（委員長）
ソレテ宜シイ、次キヲヤリマシヨウ
第七十七條朗讀ス
第七十七條會社ハ契約書ヲ作ルニ因テノミ之ヲ設立スルコトヲ得其契約書ハ總社員之ニ連署シ各自一ニ通ヲ所持ス
右ノ規定ハ會社契約ノ變更ニ於テモ亦之ヲ遵守ス
（松岡委員）
「各自一通ツヽヲ所持ス」ト云フノハ
（本尾報吿委員）
皆契約者ニナリマスカラ一通ツヽ持テ居レト云フノテアリマス
（松岡委員）
持テ居レハ證明スルコトカ出來ルト云フノテ持テ居ラナケレハ契約ニナラヌト云フノテアリマスカ
（本尾報吿委員）
然ウテハアリマセン、一通出來レハ宜シイカ、銘々持テ居ルト云フノテアリマス持テ居ラヌカラ、貴樣ハ社員テハナイト云フノテハアリマセン
（松岡委員）
然ウスルト證劵印紙ヲ貼ラナケレハナラヌカネ
（本尾報吿委員）
左樣テス、貼ラナケレハナリマセン
（淸岡委員）
旨意カ反對ニ聞ヘル樣ニナル、唯契約書サヘ作レハ出來ルト云フ樣ニ見ヘル、ケレトモ起案者ノ旨意ハ然ウテハナイ契約書カ大切テアルト云フノテアル
（本尾報吿委員）
左樣テ御座イマス、全體ノ契約ハ民法上テ必ラス書面ヲ要スルカ、必ラス書面テナクテモ有效ノモノテアル、併シ會社ハ然ウテナイ、契約書カナケレハナラヌト云フコトテ御座イマス、民法上ノ原則ヲ頭ヘ入レテ置テ會社ノ契約ハ然ウチヤナイトスレハ能ク分リマス
（松岡委員）
各國ノ內ニモ一通ツヽ持ツト云フ例カアリマスカ
（本尾報吿委員）
一向アリマセン
（松岡委員）
佛蘭西ノ雙務ノ契約ハ何ウスルト云フノハ遠クノ方カラ云ヘハ利益カアリマシヨウカ、相對ノ上ノコトテアレハ會社ノ契約ハ書面ニ作レ、其書面ニハ總社員カ連署シロト云ヘハソレテ澤山ト思ヒマス各自一ニ通ヲ所持スルト云フノハ立派ナコトテハナイカト思フ
（南部委員）
併シ會社ノ社員ノ間ニ爭論テモ出來タトキ各自一通ツヽ持テ居レト云フ制限ハナクモ此處ニ敏ヘテ居ル方カ宜シイ、向ウテ持テ居レハ自分テ持テ居ランテモ宜シイト云フ社撰ナル日本人ニハ言テ置イタ方カ甚タ親切ニ起ツタコトテ、差支ナケレハ御置キニナツタ方カ宜カロウ
（淸岡委員）
差支ハナイ樣タ、若シ誤ツテ一通ヲ持テ居ナカツタラハ效カナイト云フコトテハナイカラ
（松岡委員）
併シソレハ法文ノ上カラ云ヘハソレカ出テ來マセン上ハ命令法テ下ハ注意ト云フコトハ見分カラヌ、又社撰ト云フコトモ御座イマスカ日本ノ取引位書面ヲ以テスル所ハナイ、顏ツクテ行クコトハナイ、近頃書面ヲ以テスルコトカ多クテ信用カ薄クナツテ來タ、詰リ言ハストモ宜イコトテ、上ノ方テハ法律ノ制裁テ斯ウシナケレハナラヌト云フノテアルカラ、書クナラ斯ウ分ケンテモ此儘ニシテ置ケハ此上ニ響キカアルト云フコトハ字カ讀マセルカラ
（委員長）
之ハ各自ニ持テ居ラナケレハナラヌト云フコトニ見ヘマスセ
（松岡委員）
原案ノ意味テハ一通出レハ效能カアルト云フコトテ御座イマス
（委員長）
效能ハアルカ知レヌカ命シテヤラセル
（松岡委員）
登記ノ上テヤリマスカラ皆隱シテ仕舞ツテモ、持テ居ル居ラヌニハ關係シナイ唯仲間同士ノ爭ヒカ出來タトキノコト丈ケタロウト思ヒマス
（南部委員）
契約ヲシタ以上ハ各自持テ居ルノカ當リ前ト思ヒマス
（村田委員）
若シナケレハ一通作ツテ置クカ知レヌ
（本尾報吿委員）
或ハ辭カ足ラヌカ知レマセンカ若シモ一人所持シテ居ラヌ者カアレハ契約ハ無效テハナイカト云フ御問ヒト心得マシタカ、一通無クナツテモ無效トスルコトハ出來ナイ、併シ各自ニ持テ居ルト云フノカ雙務ノ契約テアリマスカラ持テ居ルモノトシテ宜シイ
（松岡委員）
併シ上ノ方ハ持テナイト成立タヌノテ御座イマシヨウ
（本尾報吿委員）
左樣テス
（松岡委員）
然ウスルト一通持テ居ランテモ無效トナリマシヨウカ
（本尾報吿委員）
然ウテハアリマセン
（南部委員）
無效ノモノニ非ラスシテ自分一人カ規則ニ載ツテ居タトキハ雙務ノ契約ノ場合ニ於テ一方丈ケ持テ居タ場合ノ結果カ生スル直チニ無效トハ云ヘナイ
（本尾報吿委員）
原文カラ申上マスカ「一ノ合名會社ノ契約カ書付ケニ爲シタル契約ニ依テノミ設立セラルヽ」トアリマス、ソレテ意味カ切レマシテ「各社員ニハ一人各人カラ署名セラレタ處ノ一通ヲ交附セラルヘクアル」ト御座イマスルテ、實ノ處カ「會社ハ契約書ヲ作ルノミニ依テ成立ツ」ト云フ處テ切リマシテ「其一通ハ銘々所持シテ居ル」ト云フノテ御座イマスカラ「得ル」迄テ一ツ切レルコトニ御藹唄ミヲ願ヒマス
（委員長）
日本ノ文ニ書ケレハ契約書ヲ所持シテ居ルコトハ別項ニスレハ能ク分ル
（南部委員）
但ニシテハ如何テス
（委員長）
但ト云フモノテハナイ
（村田委員）
之テ宜カロウ
（鶴田委員）
「得ル」ト云フ處テ一ツ切レルカラ差支ナイ
（委員長）
之テモ意味ニ違ウコトハナイ、今日ハ是レ迄テスカ
于時午後第二時閉會