商法草案議事速記第二回
自第四十八條至第六十二條
明治廿年十二月二日午前第九時開會
（委員長）
ヤリマセウ
第四十八條朗讀ス
第四十八條代務人ハ代務權ノ全部若クハ一分ヲ他人ニ轉付スルコトヲ得ス但商業使用人ヲ置クノ權アリ
（淸岡委員）
「分」ノ字ハトウカネ
（本尾報吿委員）
以前ハ「全部」「一部」ト皆ナ「部」ニシマシタカ段々硏究スルニ「全部」「一部」ト申シマシテハ詞ヲナサヌト申シマスカラ
（淸岡委員）
「幾部」ト云フカ前ニモ「全部」「幾部」ト云フ字ハ何ノ法律テシタカ、八釜敷カツタネ
（本尾報吿委員）
「全部若クハ一部」ヲ解シマスト「一部」ト申スノハ、玆ニ御座イマス此ノ一部ヲ幾ツモ寄セマシタ物カ「一部全部」テ御座イマスソウテ、此處ハ然ウテ御座イマセン「全部」アル內ノ「幾分」ト云フノテ、或ハ其內ヲ一分ト云フ意味ニナラナケレハナラヌ、然ウ致シマスト「全部若クハ一分」ト書キマセント、意味カ通シマセント云フ翻譯局ノ決定テ御座イマス
（淸岡委員）
然ウスルト二分ノ折ハ何ウテスカ
（本尾報吿委員）
二分ノ折ハ又其書キ樣モ御座イマセウカ、此處ハ幾分ト云フノテ御座イマス
（委員長）
之ハ「全部幾分」ト書イテ居ルハ、注意シテ書イタニ相違ナイ
（村田委員）
「幾分」トシタラ尙ホ宜サソウナモノタ
（本尾報吿委員）
幾分テハ御座イマセン
（南部委員）
必ラス全部ノ內、單純ナル一部分テハナイテセウ
（本尾報吿委員）
全部ノ內ノ一分テ御座イマス
（村田委員）
原文ニモ幾分ヲ給與スルトアリマスカ
（淸岡委員）
「全部」ト云フハ一カラ十迄アルヲ云フ
（細川委員）
全キモノト、分ケタモノト云フノテス
（本尾報吿委員）
之ハ民法ニ關係カ御座イマスソウテス
（村田委員）
民法ハコ分」テ御座イマスカ
（本尾報吿委員）
左樣テス
（村田委員）
ソレチヤア一樣ニシナケレハナラヌ、之テ分ラヌコトハ御座イマセン
（委員長）
本文ニ異議カナケレハ先ヘ行キマセウ
第四十九條朗讀ス
第四十九條商業主人ハ代務人其主人ノ營業上ニ於テ爲シタル取引及ヒ行爲ニ因リ直接ニ權利ヲ得義務ヲ負フ但主人ノ之ヲ承諾セシト否ト又ハ主人ノ名ヲ以テ爲シタルト否トヲ問フコト無シ又主人ハ代務人其主人ノ營業上ニ於テ爲シタル不法ノ行爲若クハ代務人ノ名ヲ以テ爲シタル取引ト雖モ其時ノ情況及ヒ相手方ノ意思ニ因リ主人ノ計算ヲ以テ爲シタリトスヘキモノニ付テハ亦同シ
（村田委員）
元トノハ「總テ代理人或ハ」ト云テアルカ同シテスカ
（細川委員）
同シテス
（淸岡委員）
「行爲」ト云フ字テスカネ「行ヒ爲ス」ト云フ字、之ハ假ヘハ「所業」或ハ「所爲」抔ト云フ字ヲ書キマスルカ「行爲」ト「所爲」トハ違イマスカ
（本尾報吿委員）
總テ原文テ獨乙テハ「ハンテルク」ト申ス語テソレカラ又「アツクシヨン」ト云フ意味ニナル、卽チ働キト云フ意味テ其字カアレハ、總テ「行爲」ト云フ字ニ翻譯局ト極メマシタ、或ハ「行爲」或ハ「所業」ト書クト、何カ原文モ變ハツテ居ルテセウ、又意味モ變リハシマイカト云フ疑ヒカ御座イマスカ獨乙ノ「ハンテルク」トカ「アツクシヨン」トカ云フ字カアレハ、總テ「行爲」ト譯スル樣ニ極メマシタ
（淸岡委員）
「不法ノ行爲」抔ト云フト能ク當ルカ、然レトモ、或ハ行爲ヲ爲ス抔ト云フト、嫌ヒカアリマス
（細川委員）
橫文字テ云フ「取扱ヲ爲ス」ト云フコトテス
（南部委員）
變ナ行爲ヲ爲ストカ、行爲ヲ爲ストカ云フト耳ニ障ハル
（本尾報吿委員）
耳ニ障リマス
（鶴田委員）
「所業」ト云フ字ハ御座イマセン、初メハ「所業」トシタカ、シレカラ「行爲」トシテ、ソレカラ「所爲」ト種々變リマシタ
（本尾報吿委員）
御座イマセン「業」ノ字ハ商法ニハ「商業」トカ「營業」トカ云フ所ヘ使ウモノテ御座イマスカラ
（細川委員）
大槪分リマス
（委員長）
分ルコトハ分ル、論カナケレハ先ヘ行キマセウ
第五十條朗讀ス
第五十條代務委任ヲ僞稱シ又ハ代務權ヲ踰越シテ取引ヲ爲シタル者ハ相手方ニ對シ其相手方ノ擇ヒニ從ヒ契約履行又ハ損害賠償ノ責任ヲ自己二負フ其代務權踰越ノ場合ニ於テ第四十六條第二項ニ從ヒ商業主人其義務ヲ負フヘキトキハ主人モ亦其責ニ任ス此場合ニ於テハ主人又ハ代務人ノミニ對シテ其取引ヲ途ケシムルコトヲ得
相手方ニ於テ代務權ノ缺ケタルコトヲ知テ爲シタル取引ハ雙方ニ在テ無效トス
（西委員）
前ノハ「主人又ハ代務人ノミニ對シテ其取引ヲ途ケシムル」トアリマスカ、之ハ何ウ云フ譯ニナルノテ御座イマセウカ
（本尾報吿委員）
主人又ハ代務人ハ、第三者ノ方カラハ、主人ニ對シテ取引ヲ途ケシムルトモ、亦代務人ニ途ケシムルトモ第三者ノ意ニアルノテス
（西委員）
「ノミニ」ト云フハ
（本尾報吿委員）
代務人ニ係レハ主人ニハ係ラセナイソ、主人ニ係菰ハ代務人ニ係ラヤナイソヨト云フ、意味テ御座イマス
（南部委員）
「若クハ」ノ例テハ御座イマセンカ
（本尾報吿委員）
「若クハ」ト云フハ細カイ所ニ使フコトニ決定シ「又ハ」ト云フハ大キイ所ニ使ウコトニ極メマシタ
（南部委員）
主人カ代務人カト云フ場合テ「若クハ」ノ場合テハナイカト思ヒマスカ
（本尾報吿委員）
「又ハ」「若クハ」ニ付キ困難致シマシタカ、五ツモ、六ツモ並ヘタ內、連ナツテ居ル場合ハ「若クハ」ヲ使ヒ其他ハ總テ「又ハ」ニシマシタ
（村田委員）
「缺ケタル」ハ元トノ案ハ「不完全ナル」トアルカ「缺ケタル」ト云フハ何ウ云フノカ
（本尾報吿委員）
「マソケル」ト云フ原語テ、丸ルテナイト云フ字テ御座イマス、所カ丸ルテナイ意味ハ全部丸ルテナイ意味ニ適用シ、又一分丸ルテナイトキモ適用カ出來ルノテ、恰度「マソケル」ト云フウ字ハ「缺ケル」ト云フ意味カアルカラ「缺ケル」ト書キマシタ、然ウスレハ丸ルテナイトキモ、亦一分ナイトキテモ當ル意味テ御座イマス、之ハ一部分カ丸ルテナイノテ御座イマス
（渡委員）
缺ケタルハ「マソケル」テハ足ラヌ、恰度「不完全」ト云フノテ、少シ之ハ何ウカト思フ
（長森報吿委員）
ニ語テナケレハ意味ヲナサヌノテ御座イマス
（渡委員）
過キタルハ猶ホ及ハサルカ如シテ御座イマスネ
（尾崎委員）
恰度缺ケルテ當ツテ居ルノテスネ
（渡委員）
一分少ナイノハ、勿論缺ケテ居ル不完全ナモノテアリマス、踰越ト云ヒ、此ノ外ヘ張リ出タモノテ、ソレヲ以テ缺ケタトナルノテ御座イマス
（鶴田委員）
全ク詐ツタモノタ
（淸岡委員）
二ツニナツテ居ルカラ、實際ヲ省ルニ何ウカ知ラヌ
（鶴田委員）
全クナイノタカラ、ナイト云フ方カ宜クハ御座イマセンカ
（渡委員）
ナイト云フト、丸ルテナイ、關係ナキヲ關係アルト云フノテ、此レハ然ウテナイ、八分ハアルカ、ニ分カナイノタカラ
（鶴田委員）
一、二分テモ、ナイ所ヲ云フタカラ
（南部委員）
缺ケルト云フカ當ラヌト、踰越ノ方ナレハ宜イ
（鶴田委員）
踰越シタ丈ケハ無イ方ヲ云タノテ、全ク無イノト、一分ナイノトタカラ
（細川委員）
「マンケル」ト云フ、不具ノ場合ニモ使ヒハシマセンカ
（本尾報吿委員）
廣イ意味ニ使ウコトモアリマス、其時分ニハ矢張リ不具ト云フニモ使ヒマス
（淸岡委員）
缺ケタ部分丈ケテスカ、缺ケタコトヲ知テ爲シタモノハ無效ト云フノテスカ
（本尾報吿委員）
其取引全部カ無效テ御座イマス
（細川委員）
僞稱、踰越シテモ代務權ヲ振リ廻ハシタノテ、其振リ廻ハシタ權ハ、缺損カアルノハ、本當ノ權ヲ振リ廻ハシタノト違ウ、權利カ缺ケタノテアリマスネ
（本尾報吿委員）
左樣テス
（淸岡委員）
僞稱、踰越シタトキハ擇ミニ從ヒタカラ、主人テモ代務ヘテモ、何方ヘモテスカ
（本尾報吿委員）
然ウテナイ、相手方ニ對シテ、契約履行ヲ取ルカ、賠償ヲ取ルカト云フノテス
（細川委員）
混雜シテ居ルカラ分リ惡イ樣タ
（鶴田委員）
本尾サン「代務委任ヲ僞稱シ、又ハ代務權ヲ踰越シテ取引ヲ爲シタル者ハ」ト云フ「者」ハ代務人ト稱シテ、自分カ詐ツタモノテ、詐ツタモノニ對シテ無效力、損害賠償ノ責ハ其者カ負ウト云フノカ
（本尾報吿委員）
僞稱シタ者カ、踰越シタル者カハ、代務踰越ノ場合ニ於テ、四十六條二項ニ從テ、商業商人義務ヲ負フヘキトキハ任シ、其場合ニ於テ、主人又ハ代務人ト、三段ニ切レルノテ御座イマス
（鶴田委員）
契約又ハ損害賠償ト云フハ、擇ヒノコトテスカ
（本尾報吿委員）
然ウテ御座イマス
（鶴田委員）
ソレナレハ分リマス
（本尾報吿委員）
相手方カ契約履行、損害賠償ヲ擇ヒ、責任ヲ其者カ負ハナケレハナラヌトナリマス
（長森報吿委員）
責任ハ相手方ノ擇ヒニ從テ、契約履行カ、損害賠償カ、其者カ一ノ責ヲ負フト云フノテス
（細川委員）
旨意ハ聞イタ樣タカ代務權ハ斯ンナモノタロウ、或ル代務權ヲ濫用シ、其濫用シタカラテ、僞稱ノ場合ニハ其樣ニヤレヌト行ケマセン
（鶴田委員）
主人、代務人ノミニ對シテハ、二ツニ切レテ「主人ノミ」又ハ「代務人ノミ」ト書クカ
（村田委員）
主人ト、代務人ト、孰レカ一人ニ對シテテ、分ラヌコトハナイ
（委員長）
主人ト、代務人ノミト云フハ代理人ノミニシテモ宜イノテ御座イマスネ、主人カ、又ハ代務人ノミカ
（南部委員）
主人ト代務人ト相手取テ宜イ、代務人ノトキハ代務人ノミ相手取テト、解スレハ宜シイ
（細川委員）
元トノ方ハ、翻譯カ意譯ニナツテ居リマスネ
（本尾報吿委員）
長ク說キ明シヲシテアリマス
（村田委員）
能ク讀メハ間違イナイ樣テ御座イマスネ
（委員長）
「ノミ」ト云フ字ハ何時テモ分ルトハ思ハヌカ、間違ウ恐レカアレハ「ノミ」ト入レテモ宜イ南部サンノ解釋見タ樣ニ主人ノトキハ代務人モ這入ルト見レハ「主人又ハ代務人ノミニ」トシテモ宜イ、宜ケレハ先ヘ行キマセウ
第五十一條朗讀ス
第五十一條代務人ハ自己ノ計算ニテモ又ハ第三者ノ計算ニテモ商業ヲ營ムコトヲ得ス若シ此規定ニ背キタルトキハ第六十四條ニ規定シタル結果ノ外商業主人ノ望ニ從ヒ其商業ノ取引ヲ主人ノ計算ニ移シ且損害アラハ之ヲ賠償セサルヘカラス
（村田委員）
此場合ニハ附着シテモ宜ウ御座イマセウ
（長森報吿委員）
附着シテ置テテス
（村田委員）
規定ニ背キタルトキハ、六十四條テ必ラス退業スルノテスカ
（本尾報吿委員）
必ラス退業シナケレハナラヌト云フ譯テハ御座イマセン
（委員長）
異論カ無ケレハ先ヘ行キマセウ
第五十二條朗讀ス
第五十二條商業上商業主人ノ業務ヲ辨センカ爲メニ置カレタル商業使用人ハ營業ノ全部若クハ一分ノ爲メニ置カレタルト否ト又ハ一種若クハ數種ノ取引ノ爲メニ置カレタルト否トヲ問ハス特別ノ委任ヲ受ケスト雖モ尋常其擔當ノ職分範圍內ニ屬スヘキ總テノ取引及ヒ行爲ハ主人ニ代ハリ十分ノ效力ヲ以テ之ヲ爲スコトヲ得但其取引及ヒ行爲ニ付テハ主人獨リ權利ヲ得義務ヲ負フ
使用人主人ノ爲メニ訴訟ヲ起シ又ハ裁判所ニ出テ或ル行爲ヲ爲スハ特別ノ委任ヲ受ケタルトキニ限ルヲ通例トス
使用人署名スルトキハ主人ノ代理タル旨ヲ書添エヘシ
（長森報吿委員）
修正案カ提出シテアリマス
（淸岡委員）
場合ニ依リ至急ヲ要スルトカ、出先キテ何ウトカ云フコトカアルノテ、通例ナレハ委任ヲ受ケルニ限ルカ、若シ其委任ヲ實際受ケルコトカ出來マセンテ、例ヘハ遠方ヘ取集メニ出テ居ルトカ、賣上ケヲ何ウカシテ居ルトカ云フトキハ、直ク區裁判所ヘ出ナケレハナラヌ爲メニヤツタノテセウカ
（本尾報吿委員）
其積リテ御座イマス
（長森報吿委員）
慣習カアレハト云フノテス
（淸岡委員）
實際委任ヲ受ケルニ、四十里モアルカラ、急ニ得ル譯ニモ行カス、ソンナコトヲシテ居レハ、時機ヲ過クルト云フトキハ、菟ニ角裁判所ヘ飛込マナケレハナラヌ場合カアル、其トキ何ウシテモ委任ヲ受ケタトキニ限リ、裁判所テソレカナイト出來ヌトスレハ、大變商業ノ活機ヲ失ウコトカアルト云フ心配ト思フカ
（本尾報吿委員）
ソレモ御座イマスカ、併シ修正ノ理由ハ、何レ改メテ委任ヲ渡シテモ宜イ積リテアツタノテ
（長森報吿委員）
然ウ云フ場合ハ少イ場合テ、宜イト云テ許シテ置クト、其便利ヨリモソレヲ取リ得ニシテ、却テ物好キコトヲ働キ出スノ弊カアルカモ知レヌカラ
（淸岡委員）
ソレハ裁判官カ通例ナレハ許サヌ、委任狀カナクツテハ行カヌト云フコトハ云ヘル
（長森報吿委員）
通例ノ外ニ今ノ樣ナ場合ニ依レハ、出來ルトナレハヤル奴ハ取リ得ニシテヤルニ違ヒナイ
（淸岡委員）
ヤツテモ東京カラ出テ、委任狀カナクツテモ見ス々々取レヌノミナラス、打棄テ置ケハ、其品物モ何所ヘ舞ヒ込ムカ知レヌ
（長森報吿委員）
便利ノ㸃カラ云ヘハ何テスカ、又一方ニモ便カアル然ウ云フ場合ニハ、電報テ通スルトカ、又豫メ委任狀ヲヤルコトモ出來ルタロウ、電報ニテモ大キナ仕事ヲスル位ノモノナレハ出來ヌコトハナイ筈タカラ、先ツ成丈ケ危險イコトハ、要心シテ置クカ、一般ノ爲メニ宜イト思ヒマス
（南部委員）
訴訟ノ代人カ、委任狀ノ無イトキハ、先ツ假リニ取テ置テ、然ウシテ期限ヲ極メテ代理ノ條件ヲ判然ナサシムルト云フ法カ立テ居ル草案テアレハ、其トキハ假リニセシムルコトカ出來ル
（鶴田委員）
主人ノ名ヲ以テスルニハ、主人ノ委任狀カナケレハナラヌカ、自分カ盜マレタトカ云フトキハ、自分ノ名テヤツテモ出來ル
（本尾報吿委員）
ソレハ商業外タカラ、盜マレタトキハ然ウタカ此處ハ然ウテナイノテ御座イマス
（淸岡委員）
訴訟ヲスル場合ニハ委任ヲ受ケナケレハナラヌカ、商業ハ斯ウ云フ所ハ商業裁判所テモ設ケテヤル方ノ精神テ、畢竟外ノ文字抔ト違ウト云フカ、大體商業ノコトハ頗ル至急ヲ要スルコトカアル、ソコテ此ノ主人ノ云ヒ付ケテヤルコトノ稀レニナイトハ云ヘナイカ、然ウ云フ特別ノコトニ、通例ノ規則ニ依テハヤレナイ、通例ハ此レタケレトモ然ウ云フ場合ニ於テハ、或ハ其事ハ委任ヲ受ケストモ、出來ルト云フノテハナイカト思フ
（南部委員）
然ウテ御座イマセウ、代務人ハ民法ノ代理人ト違ヒ帳簿ニモ記載シテアル譯タカラ、特別委任ヲ受ケテ、而シテとん々々訴訟カ出來、何トナレハ與ヘテ居ルカラ代務人ノ旨意ヲ達セラルヽコトニナツテ居ル、商業帳簿ニモ書イテ居ル者タカラ、特別ノ所ヘ擧ケテ居タラ、利モアリマセウカ、又害カ出來テ、主人ノ名ヲ以テ訴訟ヲシテ、訴訟カ勝テハ宜イカ、或ハ負ケタ場合ニハ、主人ニ對シテ困ラセル樣ニナツテ、却テ危險カ生シヤシナイカ
（細川委員）
代務者ナレハ宜イカ、使用人タカラ違フ
（淸岡委員）
代務者ハ總理代人ノ方カ
（長森報吿委員）
代務者ハ委任ヲ受ケルカラ宜イ、使用人ハ主人ノ爲メ訴訟ヲ起ス、一種ノ事柄テ、ソレヲ委任ヲ受ケス、勝手ニサセルハ道理上行カヌト云フノテ、便利上カラ云ヘハタケレトモ主人ノ爲メニ起スノハ主人ノ權利上、大變關係カアルノテ、使用人位カ出先キテ、勝手ニ勝手ニサセルハ、不充分テハアリマスマイカト思ヒマス
（本尾報吿委員）
使用人ノ內ニハ、丁稚モ這入テ居リマスカラ
（淸岡委員）
實際ヲ省ルニ、使用人ハ大變多カロウ、日本抔ニハ代務人ノ名ハアリマセン、實際ヲ見ルニ、代務人ニ於ル幼年者カ或ハ婦人カ支店等ヲ澤山持テ居ル者ノ代務人ト思ヒマスカ、代務人ハ卽チ自分ノ權利行爲ヲ一切任カセルノタカラ、其人ヲ得ルニモ難イシ、又ソレ丈ケノ人ナレハ多分ノ俸給モヤラナケレハナラヌカラ、總理代人トカ云フヲ以テ、商賣スルモノハ實ニ國中僅々タルモノテ、使用人カ澤山アル、私カ商賣ヲシテモ、代務人ヲ置クトハ思ハヌ、從前カラアル大丸トカ三井トカ云フノハ、子飼カラヤツテ居ル家ハ隨分代務人トアルカ中々俄ニ開イタ見世ニハ、代務人ニ實際管理サセルコトハナイテ御座イマス、代務人ト云フ規則カアルカラ宜イケレトモ、其實極ク少イ、大抵ハ九分マテハ使用人テアリマス、使用人ハ今日現場ノ所ヲ見ルト、餘程働キカナケレハナラヌ樣テアルカ、使用人等ハ丁稚子僣ト見ルカ、然ウテナイ、立派ナ奴カヤツテ居ル、俸給抔モ三、四十圓モ貰ツテ手代番頭ト云フノモ使用人ノ中ニナルタロウト思ヒマス
（西委員）
併シ然ウ云フ場合ニハ、委任シテ居ラヌ
（長森報吿委員）
見世ニ使ハルヽ者ハ、悉ク使用人トハ云ハレナイ、見世ニ使ハルニ者ヲ包含シテ使用人ト云ヒ、市場ノ相場ヲ吿ケタリ、又ハ手代モ這入ツテ居ルノテス
（南部委員）
五十三條ヲ見テモ、斯ウ云フ場合ハ主人カラ止メナイトカ制限シテ居ル
（淸岡委員）
函館ヘヤルニハ委任シテヤルニハ相違ナイ
（村田委員）
委任シテヤレハ宜シイ
（南部委員）
荷物ヲ包ンタリ、掃除ヲシタリスル者カ、使用人テス
（長森報吿委員）
三項ニアル如ク「主人ノ代理タル旨ヲ書キ添ユヘシ」トアリマス、受取モ一名テハ出來マセン、主人ノ代理ト云フ肩書キヲシロトアリマスカラ、況ンヤ訴訟抔ヲスルニ勝手ニシテハ權衞ヌテ御座イマス
（村田委員）
署名シロト云フト、名前計リテハ行カヌ、印カ入ルカ、此間モ「署名捺印」トナリマシタカ、之ハ印カナケレハ日本テハ證據ニシナイ
（本尾報吿委員）
「捺印」トシテモ差支アリマセン
（渡委員）
此レハ捺印スル場合テナイ
（鶴田委員）
然ウテアリマス
（渡委員）
構成法テハ「ヘシ」ヲ禁シタカ、此方テハ「ヘシ」ハ專有物テアリマスカ
（本尾報吿委員）
「此旨書添ユ」ト云フモ何テスカラ止ヲ得ス「ヘシ」トシマシタ
（西委員）
「ヘシ」アル所ト、ナイ所ト、意味カ違フタロウト云フ、疑ヒカ起ル
（鶴田委員）
法律ハ命令シタ詞タカラ「ヘシ」テ宜シイ
（渡委員）
此法律ハ贊成スルノテ、構成法ト少シ「マンケル」ノ意味カ變リハシナイカト思ヒマス
（委員長）
アレハ構成法ノ專有物タカラ、之ハ異論カナケレハ「ヲ通例トス」ヲ削ル修正ニ決シテ先ヘヤリマセウ
第五十三條朗讀ス
第五十三條商業使用人商業主人ノ爲メニ舖店倉庫及ヒ其他ノ營業場ニ於テ或ル業務ヲ辨シ又ハ他ニ使スルトキ若クハ帳場ニ於テ第三者ト取引ヲ爲スニ際シ主人ヨリ制止セラレス又ハ第三者ノ問ヲ受ケテ己レ之ヲ爲スノ權アリト答ヘタルトキハ特ニ其一職分ノ爲メニ置カレタルモノト看做ス
（本尾報吿委員）
初メノ「若クハ」ハ「又ハ」二次ノ「又ハ」ヲ「若クハ」ニシマス、他ニ使ヒスルトキハト云フトキノ役ニ證スルノテ、帳場ニテ第三者ト取引スル際、主人ヨリ制止セラレス「又ハ」ハ小切レテ「際シ」「第三者ノ間ヲ受ケテ」斯ウト、內輪ニ連ルカラ「若クハ」ニシナケレハナラヌ
（淸岡委員）
原案テハ「己レ執行スル權利アリト答ヘ、主人ヨリ制止セラレサルトキ」ソンナコトハ答ヘテナラヌト、主人ヨリ止メラレナカツタカラ、斯ウナルノテアレハ、之ヲ直シテ「主人ヨリ制止セラレス」ノ上ヘ以テ「答ヘタルトキ」トシタイ
（本尾報吿委員）
前ノ翻譯ハ粗漏テアツテ、主人カラ制止セラレナイ獨立テ見世テ以テ、貸金ヲ受取テ宜イカ惡イカ、主人カ上カラ見テ居テ、默止テ居タラ權利カアルノテ、又第三者ノ問ヲ受ケテ、己レ之ヲ爲スノ權アリト答ヘタトキハ、主人ノ家ヲ出テ家ノ外ノトキヲ云フノテス
（委員長）
他ニ論モナケレハ先ヘヤリマシヨウ
第五十四條朗讀ス
第五十四條商業使用人商業主人ノ代理者トナリタルトキ之ト取引ヲ爲シタル第三者善意ナルニ於テハ使用人其委任又ハ豫定セラレタル取引手續ニ依ラサルモ之カ爲メ第三者ニ責ヲ負ハシムルコトヲ得ス
（村田委員）
代理者ト云フハ、前ノ代務人ト云フコトテセウネ
（本尾報吿委員）
主人ノ代理トナツテト云フ意味テ代務テハアリマセン
（長森報吿委員）
之ハ一番仕舞ヒニ修正ヲ提出シテ御座イマス
（南部委員）
之ハ修正案カ宜イ
（村田委員）
修正案テ宜イ
（細川委員）
修正カ宜イ
（委員長）
修正案ニ決シテ先ヘヤリマセウ
第五十五條朗讀ス
第五十五條商業主人商業使用人ヲシテ商業習慣上ニ定マレル職分範圍ヲ擴メテ其代理ヲ爲サシムルトキハ之カ爲メ特別ノ委任ヲ爲シ其相當ノ手續ヲ以テ之ヲ第三者ニ吿知スルコトヲ要ス商業上ノ通信爲替手形約束手形及ヒ其他ノ債務證書ニ使用人ノ署名シタルヲ以テ主人其義務ヲ負フヘキトキハ特ニ右ノ規定ヲ遵守スヘシ
（淸岡委員）
第三者ヘ吿知スルト云フハ、例ヘハ新聞テ吿知スルト云フコトテセウネ
（本尾報吿委員）
左樣テ、相當ノ手續ト云フ內二萬般ノ事ヲ包含シテ居リマス
（委員長）
論カナケレハ先ヘヤリマセウ
第五十六條朗讀ス
第五十六條營業場ニ於テ第三者善意ヲ以テ商業使用人ニ對シ金錢ノ受渡ヲ爲シタルトキハ何レノ場合ヲ問ハス商業主人之ヲ承認スルノ義務アリ商品證劵及ヒ其他ノ有價物件ニ付テモ亦同シ
受取ノ證アル勘定書及ヒ其他ノ受取證書ヲ持參スル者ハ拂金及ヒ其他書中記載ノ物件ヲ受取ルノ權アルモノト看做ス但情況ニ因リ右ニ異ナル推測ヲ起スヘキ事由アルトキハ此限ニ在ラス
（淸岡委員）
二項ハ何ウ云フノテスカ
（本尾報吿委員）
意味ハ斯ウ云フノテス、勘定書ト申スノト、受取證書トノ區別カ御座イマス、反物ヲ持テ參リマセウ、品物ノ數ヲ並ヘテ、上ヘ金高乄ヲ書イテ持テ來ル、アレハ勘定書、又同シ樣ニ書イテモ金額ノミ書イテ「右ノ通リ受取申條」ト書イテアルハ、受取書テ、書出シニ受取證ヲ持テ來レハ、主人カ金ヲ受取テ來イト命シタモノト看做スト云フノテス
（淸岡委員）
誰レカ持テ來テモ同シテスカ
（本尾報吿委員）
其樣テス
（淸岡委員）
前項ニハ使用人ノコトヲ頻リニ云テ居ルカ、二項ニハ先キカラ持參シタ使用人カ代理人カ分ラヌカ、拂ヒヲ頂戴シタイト云テ持テ來タモノハ、渡シテ宜イト書イテ居ルカ、使用人ノコトハ云テナイ
（本尾報吿委員）
使用人ニハ相違ナイカ、或ハ隣リノ八兵衞カ來ルカモ知レヌ、其場合ニハ使用人ト看做シテモ宜シイ
（淸岡委員）
例ヘハ酒屋、魚屋カ取リニ來ル、受取カアルカラ渡スノテ、スレハ使用人ニ關係ハナイ樣ニ見ヘルカ
（本尾報吿委員）
使用人カ來テ、現ニ上總屋ニハ斯フ云フ使用人カ居ルト知ツテ居テモ、受取證モナイ者ニ拂ツテハ、其責任ハ拂ツタ方カ負フノテ、受取證ヲ持テ來タ者ニ拂フノタカラ、矢張リ前項ノ使用人ニ關係ヲ及フノテ御座イマス
（淸岡委員）
若シ渡ス者カ跡テ彼レテ見レハ、成程變ナ所業テアツタカラト推測ヲ起シテ、渡サスニ置クヘキハ、當然ノコトト思テモ、其トキニ何心ナク酒屋カラ來タト云フカラ子僭タト思テ渡シタコトカアツテ、隨分爭ヒニナリソウナコトカアル、イヤ何ウモソンナ者ニ渡シテ吳レテハ困ルト理窟ヲ云フ、此方ハ成程然ウ云ハレテ見レハ、少シハ其氣味モアツタカモ知レヌカ、別ニ考ヘモ思ヒ付カナカツタカラ渡シタト云ヒ、再ヒ拂ハナイト云フ樣ナルトキニ、此所爲ハ何フ云フコトニナリマスカ、裁判所ヘテモ持テ行カナケレハナラヌカ
（本尾報吿委員）
其折リ受取證ノアル者ヘ渡シタノナレハ、主人ノ方ノ責任ハ免カレル、併シ受取ヲ持テ來テモ如何ニモ乞食ノ樣ナ者カ來タトキハ、右ニ異ナル推測ヲ起スヘキトアレハ、之ニ適用カ出來ル、通側手代ラシイ者テアツテ、受取證ヲ持テ來タトキハ渡シタ方ノ責任ハ免カルヽ
（淸岡委員）
所カ騙リ抔ハ乞食ノ樣ナ身形ハシナイ、隨分美麗身形ヲシテ居ル
（本尾報吿委員）
ソレハ仕方カナイ、騙ラレタノハ商人カ騙ラレタモノテ御座イマス
（淸岡委員）
然ウ云フコトテハ代理ノコトカ狹クナリマセウ
（箕作委員）
使用人トハ「持テ參ツタモノ」ト原文ニアルノテセウ
（淸岡委員）
使用人ト限ラレマセンネ
（尾崎委員）
使用人カ復タ使ヒヲ出スカモ知レヌ、スルト怪シイ奴カ來ルト、推測スヘキ使用人ニナル
（淸岡委員）
一時依賴シタ者テモ、使用人ノ內ニナリマスカ、鳥渡人カ車夫ヲ賴ンテモ然ウナルカ
（本尾報吿委員）
一向構ヒマセン、使ヒニ行ク丈ケニ雇ハレタ、使用人ト云フテ差支ナイ
（淸岡委員）
持參スル使用人ト見ル丈ケニナリマスカ
（西委員）
勘定書ハ委員狀見タ樣ナモノテス
（本尾報吿委員）
先ツ然ウナルノテ御座イマスネ
（委員長）
宜ケレハ先ヘ行キマセウ
第五十七條朗讀ス
第五十七條商業使用人ハ其職分上ノ權ヲ他人ニ轉付スルコトヲ得ス又商業主人ノ承諾ヲ得ルニアラサレハ他人ヲ代理トシテ其權ノ全部若クハ一分ヲ行ハシムルコトヲ得ス但商業習慣上之ヲ許スモノハ此限ニ在ラス
（本尾報吿委員）
「一分執行セシムル」トアリマスカ「若クハ」カアレハ「行ハシムル」ノ方カ宜イノテ御座イマスカラ、御直シヲ願ヒマス
（委員長）
異論カナケレハ先ヘヤリマセウ
第五十八條朗讀ス
第五十八條第四十六條第二項第四十九條第五十條及ヒ第五十一條ノ規定ハ商業使用人ニモ亦之ヲ適用ス
（箕作委員）
斯ウ云フコトハ商法テ極メルハ、誠ニ宜ウ御座イマス
（委員長）
宜ケレハ先ヘヤリマセウ
第五十九條朗讀ス
第五十九條商業主人ト商業使用人トノ間ノ權利義務ニシテ其雇傭ニ關スルモノハ雇傭契約ノ原則ニ從フ習業人ヲ置ク契約ハ書面ヲ以テ之ヲ爲ス
（箕作委員）
民法ニモアリマスカ（ボアソナード）ノ草案ノ習業人ノ旨意ハ何ウテスカ
（本尾報吿委員）
民法ニアリマシテ、其上ニ「習業人ヲ置ク契約ハ書面ヲ以テ之ヲ爲ス」ト此レニアリマスカ、民法ノ草案ニ依レハ書面ヲ要サナイノテ御座イマス、併シ「其慣習ニ從フコトヲ得」ト云フ區別カ御座イマス、又其上書面ヲ以テスルト云フハ何カナレハ、習業人ハ大抵歲ノ行カヌ者カ多ウ御座リマスルカラ、丁年者ノ如ク、充分理解力ヲ持テ居ル者テ御座リマセンカラ、確實ノ約束ヲ結ハナケレハナラヌ、若シ酷ナ約ヲ結フト、爲メニ未丁年者ノ心ト異ツテ不都合テアリマス、ソレ故別ニ書面ヲ以テ爲スト云フノテス
（箕作委員）
民法ト牴觸シテ居ルト云フノハ商業習業人ノコトヲ民法ニ書カヌト牴觸シナイカ「ボアソナード」ノ草案ニハ、商業習業人ハ書面ヲ以テ爲ナイテモ宜イトナツテ居ル、然ウスルト之ト牴觸スル
（村田委員）
見習ト親方ノ契約ハ八釜敷イ、其家テハ日ニ二時間ツヽハ學校ヘヤラナケレハナラヌ、又折節ハ警察官ヘモ行カナケレハナラヌ何所ヘ行クニモ書面ヲ以テ行カナケレハナラヌ身分ヲ確カメルノテ孛漏生テモ八釜敷イ警察官カ時々八釜敷イノテ、書付ケサヘ持テ行ケハ何所ヘテモ轉シラレル
（本尾報吿委員）
民法ニ書面ハ契約書面テナケレハナラヌト云フコトハアリマセン筈テ、若シアレハ書面テナクツテモ宜イ
（細川委員）
最初大キ二六ケ敷カツタノハ「雇入契約ノ原則ニ從フヘシ」ト民法ノ規定ニ依ルトシテ、下ノ「習業人契約ハ書面ヲ以テ爲ス」ト云フ書面ト云フカ出テ來タカラ
（長森報吿委員）
民法ノ千四百六十五條ニアリマス
（南部委員）
之ハ民法ノ方ヲ除イテ仕舞ツテハトウカ
（委員長）
除キマセウ
（箕作委員）
皆ナ除イテハイケマセン
（委員長）
南部サン、能ク覺ヘテ居テ下サイ
（南部委員）
畏リマシタ
（淸岡委員）
之ハ商法ニ必要テ御座イマス
（渡委員）
商業主人ト使用人トノ權利義務テ、雇傭ニ關スルモノハ、雇傭契約ノ原則ニ從フト云フノカ
（本尾報吿委員）
民法ニ御座イマス、其雇傭ニ關スルモノハ、普クテ、之ハ營業上テ雇フト云フコトニ關シテハト云フ意味テ御座イマス
（箕作委員）
民法ノ雇傭契約ハ子曾ノ雇傭契約テハ御座イマセン民法ノハ使役人賃貸ト云フ契約テ御座イマス
（委員長）
先キヘヤリマセウ
第六十條朗讀ス
第六十條期限ヲ定メス又ハ商業主人若クハ商業使用人ノ終身ヲ期シテ取結ヒタル雇傭契約ハ雙方何時ニテモ之ヲ解クノ豫吿ヲ爲スコトヲ得但其豫吿ハ一ケ月前ニ之ヲ爲スコトヲ要ス
（細川委員）
之抔ハ民法ニ御座イマスカ
（箕作委員）
御座イマス
（淸岡委員）
終身トスル利益ハ何處カラ出マシタカ
（本尾報吿委員）
五年トカ、八年トカ云フハ次ノ條ニ極メテアリマス、六十條ノ方ハ無期限ノ契約テ御座イマス、若シ終身ヲ期シテ雇フタ場合ニハ、雙方カラ豫吿シテ契約ヲ解クコトカ出來ル、若シ終身ヲ期セスシテ、契約ヲシタナレハ效ハナイトシナケレハナラヌ、斯フ云フ場合ヲ云タノテス
（細川委員）
終身ト云フハ、現行法ト牴觸スル、ソレヲ終身トシタハ利益カアルノカト云フノテセウ
（淸岡委員）
ソレカナイナレハ商法ニ限ツテ終身ト殊更ニ出スニハ及ハヌ
（南部委員）
雇傭規則ニ從テ結ヒ、雇傭契約ノ原則ハ民法ニアレハ、民法テ年限ヲ極メナケレハナラヌスルト、六十條ハ無用ニナリ、適用スルコトハ出來マセン
（委員長）
私ハ斯ウ見テ宜シイト思フ、商法二年限ヲ定メス、終身ヲ期シテ雇ハナケレハナランコトハ民法ニ異ツテ、然ウ云フ場合カアルナレハ、民法テ期限ヲ定メ、商法テハ期限カナイ、終身ヲ期シテヤルコトハ、商法テ定メテ宜イト云テ宜シイ
（南部委員）
ソレナレハ出來ルト云フコトカナケレハナラヌ、雇傭契約ハト云フカラ、其契約ハ何所カラ出タカナレハ、民法ニト云フ民法ニナケレハナラヌ
（本尾報吿委員）
了解シマシタ、併シナカラ南部サンノ御尋ネノコトハ此前質問シタコトモアル、必ラス終身ヲ期スルト云フカ日本ノ現行テ何年以上ハナラヌトナツテ居ルコトハ何ウカト尋ネタカ、雇傭契約ハ決シテ終身ヲ期シテハナラヌト云フ制限ハ無用ニナル、現行法律カアルト談シマシタカ、ソレハ全ク汎ソ奴隸ヲ防カナケレハナラヌ、終身契約ハナラヌト云テモ、弊害ハ防ケヌカラ、終身ヲ期シテ雇フモ宜イチヤナイカ、互ヒニ承諾シテ雇ヒ、雇ハルニナレハ宜シイ、幾ラ制限シテモ、奴隸ヲ防クコトハ出來マセン、私ニ云ハセルト、現行法ハ宜クナイト云フ返答カアリマシタ
（委員長）
全體大丸ノ者ハ、終身テナケレハ行カヌト云フコトテスネ
（村田委員）
三井抔ハ終身テ御座イマスネ
（淸岡委員）
彼レカ十年經ツタラ何ウシテヤルト云フ、其トキハ雇ヲ解クノテ御座イマスカラ
（村田委員）
通イ番頭見タ樣ニシテ通ツテ居ル
（淸岡委員）
例ヘハ十年勤メレハ見世ヲ出シテヤル、二十年勤メレハ商賣ヲサセテヤルト云フノミテ、縱令三井テモ何所テモ、終身使ヒ廻ハスト云フ契約ハナイ
（西委員）
終身使ハルヽコトハアル、此ノ人ニ身ヲ托ソウト使用人モ思ヒ、又主人モ此者テナケレハナラヌト思テ居ル、互ヒニ意思カ合タトキハ、終身テモ何テモ宜シイ、商賣上必用テアリマス
（南部委員）
「商業雇傭ハ終身ヲ期シ、或ハ期限ヲ定ムルコトヲ得」トシテ、民法ノ取除ケ法ヲ改正シテハトウカ
（箕作委員）
其方カ宜シイ
（本尾報吿委員）
成程五十九條ト六十條ト牴觸スルト申スカ、之ハ「契約ノ原則ニ從フ」ト、ソレハ何所ニアルカナレハ、則チ民法千四百五十八條以下テアリマス、千四百五十九條二年期ノ制限カアリマス、然ウスルト商業上テモ、民法ノ制限ヲ守ラナケレハ雇ハレナイト思フ、六十條ハ終身ヲ期シテトアルハ、何ウシテ牴觸ヲ免カル、カナレハ二ツノ原素カアル、第一ハ行ハレヌコトカハ知ツヌカ、雇傭契約ノ制限ヲ立ルハ、宜シクナイ、立法官ノ精神ナレハ民法ノ方ノ精神ハ何ウカ、然ウスレハ五十九條、六十條ハ此儘採用シテ、民法ニ規定シタ制限ヲ解イテナラヌ精神ナレハ民法ハ其儘置カナケレハナラヌ左スレハ五十九條ヲ變更スレハ差支ナイ「其雇傭ニ關スルモノハ雇傭契約ノ原則ニ從フ但民法ノ制限ニ及ハス」ト但書ヲ入レテ「習業人ヲ置ク契約云々」ヲ二項ニ置ク、然ウスレハ六十條ニモ響キヲ及ホサス、民法ノ制限ハ存在シテ、商事上ニハ民事上ノ制限ニ從フニ及ハストナリマセウ、此ノ二ツノ內御撰擇カアツタラ宜シカロウト思ヒマスカ
（箕作委員）
名說テ御座イマスカネ、雇期限ハ存シテモ宜イ、先キニ又コンナコトカアルシ、一々何條ト委ハシク調ヘナイカ、多少民法ト牴觸スルカ、重複スルコトハ先キノ條ニアル單リ此條ノミナラスタカラ、五十九條ハモウ少シ前說ヲ擴張シテ、此商法ニ規定シテナイモノハ、民法ノ雇傭契約ニ從フトシタラ何ウカ
（本尾報吿委員）
成程
（南部委員）
宜シイ
（箕作委員）
然ウスレハ重複シテモ構ハヌ
（本尾報吿委員）
至極結構テ御座イマスカラ、只今箕作サンノ仰シヤル精神テ報吿委員ノ方テ、案ヲ付ケルコトニ致シマセウ
（委員長）
ソレカ宜カロウ、先キヘヤリマセウ
第六十一條朗讀ス
第六十一條期限ヲ定メテ取結ヒタル雇傭契約ハ雙方ノ承諾アルニアラサレハ其期限前ニ之ヲ解クコトヲ得ス但法律ニ依リ其期限前ニ辭任又ハ解任ヲ爲シ得ヘキ場合ハ此限ニ在ラス
雇傭期限中ハ商業主人ニ於テ商業使用人ヲ全ク使役セス又ハ僅カニ使役スト雖モ使用人ハ契約上ノ給料又ハ地方習慣ノ給料ヲ受クルノ權利アリ
（渡委員）
「辭任」「解任」ト云フハ何ウカ
（本尾報吿委員）
是レカラ先キハ始終之ニ譯シマスカ「辭任」ト申スト雇ハレテ居ル者カラ御斷リヲスルノテ「解任」ト云フハ雇フ方カラ斷リヲスルノテ御座イマス
（箕作委員）
民法ニハ「時間ヲ定メテ使役ノ賃貸ヲ約サスト雖モ其賃貸義務執行ヲ缺クヨリ云々」トアリ、精神ハ同シテ、素ヨリ期限ハナイカラ、解クコトハナイ、唯タ義務ノ不執行ト云フ原因カアレハ滿期ニナランテモ停職カ出來ル、唯タ言ヒ方カ少シ違ツテ居ル丈タ
（細川委員）
「ボアソナード」ト「ロエスレル」ト協議シタラ何ウカシ樣ト云フ讀カ起リハシマセンカ
（委員長）
起ルカモ知レヌ、併シ然ウナラ未タアルカモ知レヌカニ卷マテハナイト「ロエスレル」カ云タ
（箕作委員）
此邊ハ牴觸等カ出テ來ルカモ知レヌ
（委員長）
併シ五十九條ハ名案テアルト思フ
（箕作委員）
地方習慣ノ給料ト云フモノハアリマセンカ
（尾崎委員）
アリマセン
（委員長）
田ノ草ヲ取テ何ウスルト云フコトハアルセ
（長森報吿委員）
半年テ仕着セヲヤルトカ云フ彼ハ習慣ト云テ宜シイ
（淸岡委員）
子僭ヲ雇ウ習慣ハ多イ、京都テハ、十ニ、三ニナルト、イケナイ、十一位マテハアル
（委員長）
異議カナケレハ先ヘマイリマセウ
第六十二條朗讀ス
第六十二條商業使用人雇傭期限中疾病ニ罹リ又ハ其他ノ事故ニ因リ一時業務ニ就クニ耐ヘサルニ至ルト雖モ既ニ一年以上雇使セラレタルトキハ二ケ月間ハ給料ノ拂渡ヲ請求スルノ權利アリ
（長森報吿委員）
此所ハ修正案ヲ提出シテアリマス
（本尾報吿委員）
說明書中ニ御座イマスカ、本文ニ現ハレタ旨意ニ過キマセン、精神ハ同シテアリマス
（淸岡委員）
前ニハ三ケ月求メルトアルカ、此度ハ二ケ月テスネ
（本尾報吿委員）
前三ケ月間ニテハ過キルテハナイカト云フ論カアツテ、起草者ニ相談シタラ、成程少シ過キル樣タカラ、二ケ月ニ改メ樣ト云テ、起草者カ改メマシタノテ御座イマス
（淸岡委員）
修正ハ宜シイ樣タネ
（村田委員）
判然シテ宜シイ
（箕作委員）
修正ハ能ク分リマス
（鶴田委員）
修正カ宜シイ
（委員長）
ソレテハ修正ニ決シマス
（箕作委員）
之テ十五ケ條ヤリマシタ
（委員長）
ソレテハ今日ハ是レテ置キマス
于時正午十二時閉會