商法第二編（海商）ニ對スル管船局意見

第八百二十四條ニ依レハ日本ノ國旗ヲ掲クルノ權利ハ一個私人ニ在テハ其所有權ノ全部日本人ニ屬スルモノニ限リ會社其他ノ無形人ニ在テハ其所有權悉ク外國人ニ屬スルトキト雖モ之ヲ許與スルモノヽ如シ第一ノ場合ニ於テハ固ヨリ間然スル所ナシト雖モ第二ノ場合ニ於テハ本邦今日ノ現狀ニ照ラシ大ニ不可ナキニアラサルナリ我政府夙ニ海運事業ヲ保護シ僅カニ今日ノ進歩ヲ見ルニ至リシモ若シ本條ヲシテ實行セシムルニ至ラハ政府ノ保護ハ其目的ヲ逹スルヲ得サルノミナラス偶々外人ノ海運事業ニ從事スルモノヲ益スルモノト云フモ可ナラン今假リニ外人ヲシテ日本政府ヨリ保護金ヲ與ヘル海運會社株券ノ全部ヲ所有セシメンカ政府我海運ヲ保護スルノ目的ハ翻テ外人ヲ益スルノ結果ヲ見ルニ至ラン抑モ海上貿易ハ可成的自國人ヲ利シ可成的他國人ヲ制スルハ歐米諸海國ニ於テモ尚ホ然リ其一二ノ例ヲ擧クレハ佛國ハ其所有權ノ半ハ佛人ニ屬シ伊國ハ三分ノ二伊人ニ屬シ米國ハ全ク米人ニ屬スルニアラサレハ其國旗ヲ掲クルノ權利ヲ許サス且本條末文日本ノ船舶ニシテ日本ノ國旗ヲ掲クル云々ハ其順序ニ附テ論スレハ日本ノ船籍ニ編入シ然ル後日本ノ國旗ヲ掲クルノ權利ヲ附與スルモノナルヲ以テ本條左ノ如ク修正アリタシ

　第八百二十四條　日本人民ノ所有ニ專屬シ又ハ日本ニ營業所ヲ有シ日本ノ裁判權ニ服從スル會社其他ノ無形人ニシテ所有權ノ三分二以上日本人民ニ專屬スル商船其他ノ海船ハ日本ノ船籍ニ編入シ日本ノ國旗ヲ掲クルノ權利ヲ有ス

第八百二十五條ニ依レハ船舶登記ノ事務ハ船籍港ヲ管轄スル裁判所ニ於テ掌理スルモノトセリ蓋シ其法意ノアル所ヲ察スルニ船舶ノ初メテ日本船籍ニ編入スルヤ權利義務ニ關スルヲ以テ裁判所ヲシテ之ヲ掌理セシムヘシト云フノ旨趣ナルヘキモ登記ノ事タル第三者ニ對シ其所有權ヲ詳明スル爲メノ者ナレハ賣買讓與若クハ抵當ノ場合ニ於テハ登記セシムルハ必要ナルヘシト雖モ初メテ日本船籍ニ編入スルノ場合ニ於テハ其必要ヲ見サルナリ且船籍編入ニ屬スル事務ヲ掲クレハ大略左ノ事項ヲ要ス

第一　測度證書ヲ調査シ其誤謬アルモノハ或ハ書面ノ往復ニ依リ或ハ實地再測ノ爲メ其筋吏員ヲ派出スル事

第二　船名ヲ船首船尾ニ掲記セシムル事

第三　船首船尾ニ吃水ノ度ヲ掲記セシムル事

第四　番號ヲ船梁ニ彫刻セシムル事

第五　信號符字ヲ點付スル事

第六　船名ヲ公示シ船名簿ヲ調製スル事

右ハ船舶ヲ船籍ニ編入シ船籍證書ヲ交付スルニ當リ管海本廳ノ指揮監督ヲ受ケテ施行スヘキ技術上ニ關スル行政事務ニ屬スルヲ以テ裁判所ニ於テ之ヲ管掌セントスルモ或ハ行フヘカラサルノミナラス船籍ノ管理ハ當然管海官廳ノ職權ニ屬スルカ故ニロイスレル氏ノ原按ヲ採用シ左ノ如ク修正アリタシ

　第八百二十五條　總テ日本船舶ハ航海ノ用ニ供スル已前ニ法律命令ニ從ヒ職權アル者ノ測度ヲ受クヘシ若シ其積量拾五噸已上ナルトキハ船籍港ヲ管轄スル管海官廳ヨリ船籍證書ヲ受有スヘシ

第八百二十六條ヨリ第八百三十一條マテハ船籍規則ニ讓リ削除スル方可ナラン何ントナレハ前數條ヲ存スルモ未タ以テ船籍ニ關スル事項ヲ網羅シタルモノニアラサレハ更ニ船籍規則ノ制定ヲ要スレハナリ

第八百三十條　日本領事ニ差出シタル陳述書ト領事ヨリ受取リタル證書云々誤リアルニ似タリ

第八百三十二條及ヒ第八百三十三條中船舶登記證書トアルハ船籍證書ト改メ船舶登記簿トアルハ船舶登録簿ト改メラレタシ

第八百五十七條第二項ハ第八百二十五條修正ニシ採用セラレタルトキハ「其登記ヲ受クルニ至ルマテ」ノ拾參字ヲ削リ且登記管廳トアルハ裁判所ト修正アリタシ

第八百六十四條中船舶登記證書ハ船籍證書ト船員名簿ハ海員雇入證書ト航海日記ハ航海日誌ト船員ハ海員ト改メラレタシ蓋シ雇入證書航海日誌及ヒ海員ハ從來ノ用語ナルヲ以テナリ

第八百六十五條ノ後段第二項ノ水先案内者トアルハ水先人ト改メラレタシ是レ從來ノ用語タレハナリ

第八百六十七條ニ依レハ船長ハ到逹地ニ到着ノ後二十四時内ニ其地ノ管海官廳若クハ地方官廳ニ出頭シ航海日記ニ檢閲ヲ受ケ且之レト同時ニ報告ヲ爲スニアラサレハ荷卸ヲ爲スヲ得スト云フニ在リ其報告ヲ爲サシムルハ勿論到着ノ後二十四時内ニ前陳ノ手續ヲ爲スニアラサレハ荷卸ヲ爲スヲ得サルニ至リテハ本邦ノ實況ニ照ラシ運航ノ澁滯ヲ來タシ從ツテ船主ヲシテ不利ヲ被ラシムルノ恐アレハ本條ハ只タ航海日誌ニ檢印ヲ受クルノミニ止メタシ否ラサレハ英國商法條例第二百八十六條及二百七十三條ノ如ク外國航ニ在テハ航海毎ニ沿海航（支那朝鮮トモ）ニ於テハ毎半ケ年ニ航海日誌ヲ差出シムル事ト修正アリタシ依テ左ノ如ク二樣ノ修正案ヲ具ス

　第八百六十七條　船長ハ到逹地ニ到着ノ後二十四時間内ニ其地ノ管海官廳其他時ニ定メタル官廳ニ出頭シ航海日誌ノ檢閲ヲ受クヘシ

　第八百六十七條　海外航船ノ船長ハ其到逹地ニ到着ノ後二十四時内ニ又沿海航船ノ船長ハ毎年六月三十日十二月三十一日迄ニ到逹地ノ管海官廳若クハ其他特ニ定メタル官廳ニ出頭シ航海日誌ヲ差出シ其檢閲ヲ受クヘシ

第八百六十七條乃至第八百七十二條ニ管海官廳若クハ地方廳ノアル場所ハ地方官廳ニ提供シ管海官廳ノナキ場所ハ地方官廳ニ提供スヘシトノ注意ナランナレトモ地方廳ハ一府縣管下ニ僅カニ一ケ所アルノミナレハ之ニ提供ヲ命スルハ甚タ不便ナリ故ニ其他殊ニ定メタル管海官廳トアルハ修正アリタシ

第八百六十八條ノ報告ハ現行法ニテハ外人ニ屬スル貨物ヲ積載スル船舶ハ税關若クハ領事ニ提供シ内人ニ屬スル貨物ヲ積載セル船舶ハ浦役場ニ提供スル事トナレリ

第八百七十五條ニ依レハ船員雇入雇止ハ管海官廳等ニ於テ船員名簿ニ登記シ若クハ其登記ヲ削除スルニ依リ之ヲ爲スモノト定メラレタリ本邦ノ成規ニ據レハ英米等ノ現行法ニ於ケルカ如ク當該官ノ面前ニ於テ雇入證書ヲ以テ其雇入ヲ爲サシメ雇止證書ヲ以テ其雇止ヲ爲サシム蓋シ船員ハ其約定ノ條件ヲ解得スルモノ稀レナルカ故ニ當該官ノ面前ニ於テ其約定ヲ爲サシメ其公認ヲ與フルハ海員ヲ保護スルノ主旨ニ外ナラス又雇止ハ雇止證書ヲ以テ之ヲ爲サシムルハ海員ノ履歴品行ヲ證明スルモノニシテ或ハ轉雇或ハ試驗等ノ場合ニ於テ必要缺クヘカラサルノ證書タリ海員ノ技倆品行ハ實ニ此證書ニ依リテ善良ノ氣風ニ向ハシムルモノト云フモ不可ナカルヘシ單ニ簿册中ノ名ヲ削除スルヲ以テ足レリト爲スヘカラサルナリ故ニ左ノ如ク修正アリタシ

　第八百七十五條　海員ノ雇入及雇止ハ其雇入地ノ管海官廳其他殊ニ定メタル官廳ニ於テ海員雇入證書若クハ雇止證書ニ依リテ之ヲ爲ス

第八百七十七條（第二項）差押トハ債權者ノ差押ニアラスシテ政府ノ抑留ニハアラサルカ果シテ然ラハ修正ヲ要ス

第九百四條中測度證書トアルハ第八百二十五條ノ修正ノ模樣ニ依リ修正ヲ要ス

第九百十三條第二項ノ末文ニ然レトモ船舶及ヒ運送賃ハ贖戻ノ爲メニ云々トアリテ貨物ハ之レカ分擔義務ヲ免ルルモノヽ如シ其理由如何

第九百三十四條中鑑定人ノ撰定ニ付爭アル時ハ官ヨリ之ヲ命ストアリ其官ト云フハ何レノ官ヲ稱スルカ治者被治者共ニ其解釋ニ苦シムヘシ故ニ判然ト何官タルヲ明示セラルヽ方可ナラン

第九百四十三條ハ海難ノ際救助ノ人ノ權利及其賃額ヲ定ムルモノニシテ海上法中ノ一要件ナリト雖モ抑モ海難救助ニ關スル條件頗ル巨多ニシテ此一條ヲ以テ足レリト爲スヘカラス加之本法ハ十五噸已上ノ船舶ニ對シ施行スルモノナレハ本條ヲ存スルモ其已下ノモノハ勿論人命救助ニ關シ別ニ成法ヲ設ケサルヘカラス故ニ伊佛等ノ法律ニ倣ヒ特別ノ法律ニ讓リ規定スル方可ナラン本省ニ於テ目下特別法ノ起草ニ從事ス仍テ本條ハ削除アリタシ

第九百六十九條第二項ニ於テ若シ其申込ノ承諾ヲ得サル場合ニ於テハ云々トアルハ被保險者ヲシテ保險者ノ奸計ニ陷ラシムル、ノ弊害アルヘシ何トナレハ被保險者ハ正當ノ事由ニ依リ法律ニ從ヒ六ケ月内ニ委棄ノ申込ヲ爲スモ保險者ニ於テ其責ヲ免レンカ爲メ特更ニ諾否ノ回答ヲ怠リ慢然六ケ月間ヲ徒過スルトキハ被保險者ニ於テハ毫モ過失トスル所ナキモ保險者ノ惡意ノ爲メニ其訴權ヲ失フニ至ラン仍テ左ノ如ク修正アリタシ

　第九百六十九條　第二項　若シ前項ノ期間ニ委棄ノ申込ヲ爲サヽルトキハ被保險者ハ其訴權ヲ失ヒ保險契約ヨリ生スル通常ノ請求ノミヲ主張スル事ヲ得