○第二讀會第三十一回
明治廿年四月十八日
欠席 長森委員
仝 箕作委員
仝 周布委員
仝 岸本委員
○午前
○第六章 海失
○第九百八十三條
共同ノ危險ヲ免レン爲メ直接ト間接トヲ問ハス故ラニ船舶又ハ積荷ニ加ヘタル非常ノ損失非常ノ費用ハ總テ之ヲ共同海失トス
○異議ナシ
○第九百八十四條
共同海失ニ屬スルモノ殊ニ左ノ如シ
第一 船舶又ハ積荷ノ危險又ハ其既ニ遭遇シタル危險ノ有害ナル結果ヲ避ケン爲メ避難港ニ入港スルコト
第二 船舶ヲ輕クスル爲メ積荷ヲ海中ニ投シ若クハ陸揚スルコト之ニ由テ船舶或ハ積荷ニ加ヘタル損害
第三 船舶ノ沈沒又ハ蠻掠ヲ避クル爲メニシタル故意ノ座礁
第四 船舶及積荷ノ買戾費用並二人質ノ給養及贖解ノ費用
第五 共同大海失ノ費用ヲ辨セン爲メ第九百三十六條ニ從ヒ調達シタル金額ノ利息若クハ保險ヲ受ケタル金額ノ保險料又ハ商品賣却ニ付テノ損失並ニ共同大海失ノ調査及計算ノ費用
（細川委員）
保險ヲ受ケタル金額ノ保險料トハ如何ナルモノヲ云フヤ
（本尾委員）
與船利金ノコトヲ云フナリ卽チ保險ヲ受ケタルトハ抵當ヲナシタル場合ニシテ金額ノ保險料トハ與船利金ノコトヲ云フナリ
（細川委員）
然ラハ典船利金ト改ムル方可ナリ
（本尾委員）
然リ
○本條ハ第五項「保險ヲ受ケタル金額ノ保險料」ヲ「典船利金」ニ改ム
○第九百八十五條
共同海失ノ處分ヲ行フ前ニハ成ルタケ船員會議ヲ開キ其會議ノ結果ハ之ヲ航海日記ニ記載ス可シ
○異議ナシ
○第九百八十六條
船舶及積荷ノ全部又ハ一部ヲ救得シタルトキハ積荷ノ全額船舶及運送賃ノ半額ヲ以テ到達港其他航海ノ極地ニ於ケル價額ノ割合ニ從ヒ共同海失ヲ共擔ス
○異議ナシ
○第九百八十七條
共同海失ニシテ關係者一方ノ過失ニ歸ス可キトキハ共擔ニ依テ其責任ヲ免ルルコトヲ得ス
（鶴田委員）
共擔ヨリ他ニ辨償ヲ爲サシムルコトヲ得ルヤ
（本尾委員）
然リ共擔金ヨリ尙ホ多ク出金セサルヘカラサルニ至ルヘシ卽チ自己ノ過失ニ依テ海失ヲ生シタルトキハ共擔ノ外其過失ノ㸃ニ於テ全部又ハ幾部ヲ負擔セシムルニ至ルヘシ
（細川委員）
假令ハ船長ノ過失ニ依テ海失ヲ生シタルモ荷主等ハ矢張共擔ノ責任ハ免ルルコトヲ得サルヤ
（本尾委員）
然リ尤モ荷主ハ更ニ船長ニ向テ損害要償ヲ請求スルコトハ妨ケサルナリ
○第九百八十八條
共同海失ノ算定及配當ハ到達港其他航海中ノ極地ニ於テ之ヲ爲ス若シ爭論アルトキハ官ヨリ命セラレタル鑑定人ヲシテ之ヲ爲サシム可シ
○異議ナシ
○第九百八十九條
船舶ノ軍用品及食料、乘組員ノ給料、所有品及旅客ノ旅荷物ハ共同海失ヲ負擔スルノ限ニ在ラス其損失ハ他ノ共擔義務アル物品ヲ以テ之ヲ負擔ス
○異議ナシ
○第九百九十條
損失及共擔額ハ其抛棄シ又ハ救得シタル物品ノ實價ニ從テ之ヲ算定ス但抛棄シタル貨物ハ其實價運送狀ニ記載スル價額ヨリ貴キトキハ其記載ノ價額ニ從ヒ辨償ス
運漕狀又ハ陳吿ナク又甲板ノ下ニ積入レサル積荷ハ之ヲ辨償スルコトナシ
○異議ナシ
○第九百九十一條
救得シタル船舶或ハ積荷後ニ喪失若クハ損害シタルトキ又ハ更ニ海失若クハ救得ノ爲メ義務ヲ負擔シタルトキハ前ノ海失ニ對スル共擔義務消滅セサル以上ハ其義務ノ割合ハ變更スルコトナシト雖モ後ノ喪失若クハ損害又ハ海失若クハ救得ノ要求ヲ扣除シタル殘餘ノ價額ニ從ヒ前ノ海失ヲ算定ス可シ
（本尾委員）
本條及次條ハ未定ナリ何ントナレハロエスレル氏ヨリ追テ改案呈出ノ筈ナレハナリ
○本條及次條ハ改案呈出ノ後修正スルコトニ決ス
○第九百九十二條
海中ニ投シ又ハ其他抛棄シタル貨物ハ後ニ生シタル共同海失ヲ共擔スルノ義務ナシ又船船後ニ沈沒シ或ハ廢物トナリタルトキハ積荷ノ其船舶ニ對スル共擔義務消滅ス
○第九百九十三條
配當ノ後ニ於テ海中ニ投シタル貨物再ヒ其所有者ノ手ニ戾リタルトキハ其所有者ハ救得費用ト其抛棄ノ爲メニ生シタル損害ノ額トヲ扣除シテ前ニ受ケタル割前ヲ關係者ニ還スノ義務アリ
○異議ナシ
○第九百九十四條
故意ニ出テス又ハ獨リ船舶若クハ積荷ノ爲メニ生シタル損失及費用ハ總テ之ヲ別箇海失トシ各其所有者ノ擔當スル所トス
○本條ハ「擔當」ヲ「負擔」ニ改ム
○第九百九十五條
水先案內料、挽船料、解氷費、稅金手數料等及檣、帆又ハ機關ノ使用過度ナルカ爲メニ生シタル船舶ノ損害等總テ通常及臨時ノ航海費用並ニ其損害ハ反對ノ慣習アルニ非サレハ獨リ之ヲ船舶ニ負擔セシム
○異議ナシ
○第九百九十六條
船舶ノ衝突ニ依リ又ハ爆發若クハ其他ノ原因ニ因リ船舶及積荷ニ加ヘタル損害ノ責ハ之ヲ起シタル者ニ歸ス但偶變又ハ雙方ノ過失ニ依テ其災難ヲ生シタルトキハ雙方各其被リタル損害ヲ擔當ス
雙方ノ過失不同ナルカ或ハ災難ノ原因不明ナルトキハ公平ノ酌量ヲ以テ其損害ヲ分擔セシム
○本條ハ「原因ニ因リ」ヲ「原因ニ依リ」ニ「擔當」ヲ「負擔」ニ改ム
○第九百九十七條
海難ノ時乘組員ノ既ニ退去シ若クハ抛棄シタル船舶又ハ貨物ヲ救テ之ヲ保全シ又ハ其救援若クハ救拾ニ付キ乘組員ヲ助ケテ其功ヲ奏シタル者ハ救濟賃若クハ助カ賃ヲ要求スルコトヲ得可シ其額ハ危險ノ大小ト費用ト時間ト其救濟助力ノ難易安危トニ依リ裁判官ノ意見ヲ以テ之ヲ定ム其救援シ又ハ拾得シタル物品ノ價額ノ三分一ヲ通例トシ其半額ヲ最上限トス
○異議ナシ
○第九百九十八條
海失其他ノ損害ノ爲メ保險者ニ對スル要求ハ其損害共同海失ニ在テハ船舶ト積荷トノ保險額合計ノ百分一以上別個海失ニ在テハ損害ヲ被リタル物件ノ保險額百分一以上ニ當ルトキニ非サレハ之ヲ爲スコトヲ得ス
○異議ナシ
○第九百九十九條
海失無義務ノ條目アルトキハ保險者ハ總テ海失ノ責ヲ免ル但放讓ノ事由アルトキハ此限ニ在ラス此場合ニ於テハ放讓ト海失要求トノ內被保險者ノ擇フ所ニ任ス
（委員長）
海失無義務ノ條目トアレトモ契約中ニ於テノ條目ヲ云フヘシ故ニ契約中海失云々トセハ如何（之ニ決ス）
○本條ハ海失無義務ノ上ニ契約中ノ三字ヲ加ヘ「放讓」ヲ「委棄」ニ改ム
○第七章 典船債約
○第千條
典船債約ハ第九百三十六條ニ依リ定繫港外ニ在テ船舶若クハ積荷ノ已ムヲ得サル需用ノ爲メ債主典船利金ヲ受ケテ航海中其抵當トシタル物品ノ海上保險ヲ擔當スルトノ約束ヲ以テ船長之ヲ取結フモノトス
許可書及典舶債約書ニハ其債約ノ事實、目的、船名、航海並ニ抵當物品及其價額ヲ明記ス可シ
典船債額其抵當物品ノ價額ニ超ユルトキハ債主ハ其過上額ニ利息ヲ合セ若シ負債者ニ詐僞ノ幽恩アリタルトキハ全債額ニ利息ヲ合セテ如何ナル事情アルヲ問ハス之ヲ取戾スコトヲ得但豫期ノ利得ハ積荷ノ價額ニ算入スルコトヲ許サス
○本條ハ「擔當」ヲ「負擔」ニ改ム
○第千一條
船舶運漕賃及積荷ハ或ハ合シ或ハ個々ニ或ハ部分シ之ヲ抵當トスルコトヲ得但積荷ノミヲ抵當トスルハ特別ニ積荷ノ需用ニ充ルトキニ限ル
船舶ノ抵當ハ自カラ其附屬品ト航過ノ終局ニ得ヘキ運漕賃トニ及フモノトス
○異議ナシ
○第千二條
同一ノ物品ヲ種々ノ需用ノ爲メ數度抵當トシタルトキハ後ノ要求ハ並剛ノ要求ニ先ツモノトス
（周布委員）
本條ハ普通ニ反シ後ノ要求ヲ第一トスルハ如何
（鶴田委員）
船舶ニ於テハ海失ノ主義ニ基キ普通ニ反シ前者ヨリ後者ヲ先トセリ何トナレハ後ノ要求ノ爲メニ其船舶ヲ保護スルコトヲ得兼テ前負債ノ用ニ供スラルヽ所アルヲ以テナリ
○第千三條
典船債約金ハ需用ニ應シ數通又差圖證劵ニ之ヲ作ルコトヲ得差圖證劵ニ作リタルトキハ裏書ヲ以テ之ヲ讓渡スコトヲ得但裏書人ハ唯元金支拂ノ責アルニ止マリ典船利金ハ明約ヲ以テ其責ヲ引受ケタルニ非サレハ之ヲ支拂フノ義務ナシ
（委員長）
「讓渡スコトヲ得可シ」ヲ「移轉スルコトヲ得」ト爲スヘシ（之ニ決ス）
○第千四條
典船債並ニ利金ノ支拂ハ特約アルニ非サレハ船舶投錨シタル時ヨリ八日內積荷ニ付テハ陸揚シタル時ヨリ八日內ニ之ヲ要求スルコトヲ得若シ此期限內ニ支拂ハサルトキハ典船物件ニ付キ質主ノ權利ヲ施行スルコトヲ得
典船シタル總テノ物件ハ其債主ニ對シ連帶責任アルモノトス
（細川委員）
物件カ連帶無限責任ヲ負フハ本條ノミナリ
（委員長）
「典船物件」ヲ「抵當物件」ニ「與船シタル」ヲ「抵當ト爲シタル」ニ改ムヘシ（之ニ決ス）
○第千五條
航海ヲ變更シ又ハ商品ヲ他船ニ積換ユル等總テ危險ノ變更ヲ生シタルトキハ避ク可カラサル必要ニ起因シタルニ非サレハ債主海上危險ノ責ヲ免ル
○異議ナシ
○第千六條
航海中海上危險ノ生シタルカ爲メニ抵當物品全ク喪失シタルトキハ典船債ノ支拂ヲ要求スルヲ得ス抵當物件ノ損害ヲ受ケ又一部分喪失シタルトキハ其殘ル所ノ價額マテヲ限トシ之ヲ要求スルコトヲ得但海失費及救濟費ヲ扣除ス可シ
右兩場合ニ於テ海失ノ辨償額ハ與船債主ノ所得ニ歸ス
○本條ハ「物品」ヲ「物件」ニ改ム
于時正午第十二時閉會