○第二讀會第二十九回
明治廿年四月十四日
○午前
○第二款 船舶所有者ノ權利義務
○第九百五條
船舶ノ所有權、商業無能力者若クハ數人ノ持分所有者ニ屬スル時ハ航海上一切ノ事務代人トシテ船舶管理人一名ヲ置ク可シ
○異議ナシ
○第九百六條
船舶所有者ハ船舶及其運送賃ヲ以テ船長及船員ノ執務上ノ行爲ニ付キ責任アル者トス若シ船長ニシテ併セテ所有者若クハ持分所有者タルトキハ其責任無限トス但持分所有者タル場合ニ在テハ自己ノ過失ノ爲メニ全責任ヲ負フニ非サレハ唯タ其持分ノ割合ニ應シテ責任アルモノトス
（委員長）
但書以下ト雖トモ責任ハ無限ナルヤ
（本尾委員）
然リ其持分ニ對シテ無限ナリトス
（鶴田委員）
船長持分所有者ナルトキ過失ノ爲メニ際シ連帶責任ヲ負フノ理ハ如何
（本尾委員）
通例ノ所有者ニテモ船及運送賃ヲ以テ責任ヲ負ハサルヘカラス然ルニ三人ニテ所有シタルトキハ責任ヲ負フハ其三人ナレトモ之ヲ一體ト看做スヲ以テ孰レニ對シ要求スコトヲ得卽チ此ニ連帶責任トハ其三人ノ內何レニ要求スルモ差支ナキモノナルニヨリ之ヲ連帶トナシタルモノナリ
（箕作委員）
過失ハ船長之ヲ爲シタルニ他ノ所有者ニモ無限責任ヲ負ハシムルハ不都合ナルカ如シ
（長森委員）
註解ニ依テ見ル時ハ船長一己ノ責任ニシテ連帶責任ニハアラサルナリ
（箕作委員）
其註解ニ依ルトキハ本文明瞭ニ解セラルヘシ
（本尾委員）
註ニ依ルトキハ能ク了解セラル故ニ原文ノ改正ヲ求メテ之ヲ全責任トスヘシ
（箕作委員）
然リ
（鶴田委員）
持分ノ割合ニ應シテトハ假令ハ三人ノ所有者ニシテ各持分ニ應シ責任ヲ負擔スルモノナルヘシ然ルニ持分ニ應シ辨償シタルモ未タ不足ヲ吿クルトキハ其不足丈ハ船長ニ於テ無限責任ヲ以テ負擔スルモノナルヤ
（本尾委員）
然リ
（鶴田委員）
但以上ニ於テハ過失ナキ場合ナルヘシ然ル時ハ矢張但以下ト同シク無限責任ヲ負擔スルハ少シク穩當ナラサルカ如シ
（周布委員）
船長ハ過失ナキモ士官以下ノ爲メニ責任ヲ負フノ場合ナルヤモ知ラス
（長森委員）
曾テ繪圖ニモ記載ナキ暗礁ニ衝突シタルトキノ如キハ行爲トアル中ニ包含スルヤ
（箕作委員）
然リ過失トハ云フヲ得ス又風波ノ爲ノ如キ扼抗力ニ依テ爲シタルモノニアラサレハ無限責任トハ爲スコトヲ得サルヘシ
○本條ハ質議スルコトニ決ス
○第九百七條
船舶所有者ハ船長ヲ雇入レ又隨意ニ雇止ヲ爲スコトヲ得別ニ契約書ヲ以テ定メタルニ非サレハ解雇ノ爲メ賠償ノ義務ナキモノトス
○第九百八條
拜分所有者タル船長ニシテ解雇セラルトキハ持分ノ價額ヲ要求スルコトヲ得其價額鑑定人ヲ以テ評定セシム可シ
○異議ナシ
○第九百九條
持分所有者ノ間ニ於テ船舶ニ關スル事件ヲ決定スルニハ過半數ヲ以テス可シ但其數ハ各自持分高ノ割合ニ依テ算ス
過半數ノ可決ヲ得サル時ハ半數ノ可決ヲ以テ船舶ノ糶賣ヲ請求スルコトヲ得
持分所有者ノ一人新タニ必要ナル支出ニ同意セサル時ハ自己ノ持分ヲ自餘ノ持分所有者ニ讓リ其義務ヲ免ルルコトヲ得但剩餘アルトキハ請求スルコトヲ得
（細川委員）
第二項ノ過半數トハ第一項ノ過半數トハ異ナルモノナルヘシ
（鶴田委員）
否前項ノ過半數ナルヘシ
○第九百十條
航海營業ノ利得ハ總テ費用及損失ヲ扣除シタル後ニ非サレハ船舶所有者之ヲ要求スルコトヲ得ス
○第九百十一條
船舶持分所有者ハ自餘ノ持分所有者及船舶管理人ノ承諾ナクシテ隨意ニ其持分ヲ賣讓スルコトヲ得
○第九百十二條
持分ノ所有權移轉ノ爲メニ船舶其國籍ノ資格ヲ失ハントスル時ハ自餘ノ持分所有者ハ該持分ヲ自己ノ計算コ引受ニ又ハ船舶所有ノ能力フル人ニ糶賣センコトヲ要求スルノ權利アリ但其自己ノ計算ニ引受ル場合ニ於テ止ヲ得サルハ裁判上ニ於テ其價額ヲ確定ス可シ
○異議ナシ
正午十二時中止
午後一時開會
○第三章 船舶債主
○第九百十三條
船舶及其附屬品並ニ未濟ノ運送賃ハ假令ヒ第三者ノ現有ニ在ルモ左記ノ要件ニ對シ各項ノ其順序ニ從ヒ義務ヲ負フモノトス
第一 裁判處分上ノ賣却ニ係リ及代金ヲ債主ニ分配スルコトニ係ル裁判其他ノ費用並ニ裁判處分上ノ賣却手續ニ着手シタル以來ニ係ル船舶及附屬品ノ看守保存ノ費用
第二 航海上ノ稅卽チ港稅、噸稅、燈臺稅等
第三 入港以來船舶及附屬品ノ保存儲藏ノ費用、水先料、船挽料
第四 最後航海中ノ大海失、救援、救拾其他救助ノ費用
第五 最後ノ契約期中ニ係ル船長及船員ノ雇契約上ノ要求
第六 最後ノ航海中船用ノ爲メニ船長ノ起シタル負債賣却シタル積荷、買入レタル物品及使用シタル勞役ノ辨償
第七 未タ出航セサル船舶ノ賣却、製造、艤裝ノ爲メ又ハ之レカ爲メ生シタル工賃ノ要求及工賃並ニ將來ノ航海ノ爲メニシタル修繕艤裝儲糧ニ由テ生シタル要求ニシテ未タ出航セサルトキ
第八 船舶ノ製造及其艤裝ノ爲ニ爲シタル貸金又ハ其船舶製造依賴者ヨリ爲シタル代價ノ割拂ニ係ル要求ニシテ未タ其船舶ヲ製造依賴者ニ引渡ササル時
第九 最後ノ航海又ハ最後ノ保險期ニ係ル船舶及其附屬品保險料ノ要求
第十 船長若クハ船員ノ過失ニ出テ積荷若クハ旅客ノ旅荷物ヲ引渡サス又ハ之ヲ損傷シタル爲メニ起リタル要求
第十一 船舶ノ衝突其他船長若クハ船員ノ過失ニ出タル損害賠償ノ要求
第十二 質物登記簿ニ記入シタル要求但其記入日付ノ順序ニ從フ
第十三 右ノ外總テ船舶所有者若クハ船舶買主ニ對スル要求同項內ノ債主ハ別ニ其項ニ明文アルニ非サレハ同一ノ割合ヲ以テ辨償ヲ受ク可シ
○本條ハ第十一項ノ「辨償」ヲ「賠償」ニ第十二項ノ「日付」ヲ「日附」ニ改ム
○第九百十四條
義務ヲ負フ可キ運送賃ハ最後ノ航海ニ係ル運送賃ヲ以テ限トス一航海ノ爲メ又ハ一航海中ニ生シタル要求ニ付テハ其航海ニ係ル運送賃ヲ以テ限トス
○異議ナシ
○第九百十五條
無登記ノ要求ニ對スル船舶及運送賃ノ義務ハ其船舶ノ賣讓ノ場合ニ於テ新所得者ノ名義及計算ニテ且賣主ノ債主ヨリ異議ヲ受ケス定繫港ヨリ發航シ發航後六十日ヲ過キタルトキハ消滅スル者トス
○異議ナシ
○第九百十六條
船舶ニ係ル要求ノ登記ハ第九百二十一條ニ記載シタル場合ヲ除クノ外登記シタル船舶ニ限リ特別ノ質入證書ニ依リテ之ヲ爲スコトヲ許ス其登記ハ特別ノ質登記簿、船舶登記簿、登記證、及質入證書中ニ附記ス可シ
（細川委員）
第九百十三條ノ十二項ニハ質物登記簿トアリ本條ニハ質登記簿トアリ同一原文ナレハ何レカ同一ニ改メタル方可ナリ
（本尾委員）
然リ本條ヲ質物登記簿ト改ム可シ（之ニ決ス）
○第九百十七條
登記ハ船舶登記簿ヲ執ル官廳ニ於テ之ヲ爲シ其登記スル事ハ左ノ如シ
第一 債主ノ氏名及住所
第二 要求ノ金額及事由
第三 質入證書ノ日附及署名
第四 登記ノ時日
（周布委員）
時日トアルハ年月日ト時刻モ記スルノ意ナルヤ
（本尾委員）
否時刻ハ記入スルニ及ハサルナリ
（長森委員）
本條ノ登記ハ前條ノ質物登記簿トハ異ナルヘシ何ントナレハ前條ニハ其登記シタルコトハ特別ノ質物登記簿云々ニ附記ス可シトアレハ本條ニ特ニ其場合ヲ示スニ及ハサルヘシ
（本尾委員）
否其特別登記簿ノ手續順序ヲ規定シタルモノニシテ之ト別異ノ登記ニハアラサルナリ
（細川委員）
然ラハ前條ノ登記シタルコトトアル文字不可ナリ
（周布委員）
就テハ前條但以下ヲ特別質物登記簿ニ記入シ其他船舶云々ニ付記ス可シト改ムヘシ
（本尾委員）
然ラハ前條ハ但書ヲ削リ其登記ハ特別ノ質物登記簿ニ記入シ且船舶云々ト修正スヘシ（之ニ決ス）
○本條ハ異議ナシ
○第九百十八條
登記シタルコトニ付テハ證書ヲ下付ス若シ其以前ニ登記シタル要求アルトキハ併セテ之ヲ記ス可シ此證書ハ裏書ヲ以テ他人ニ賣讓スルコトヲ得此裏書ハ質物登記簿ニ登記スルニ非サレハ第三者ニ對シテ無效トス
○異議ナシ
○第九百十九條
登記シタル要求ハ債主ノ承諾書又ハ裁判所ノ判決ニ由テ消滅ス此場合ニ於テハ登記證書ハ登記官廳ニ還納シ該官廳ハ其消滅ノ旨ヲ其證書中ニ付記ス可シ
（細川委員）
承諾書トハ如何
（本尾委員）
債主ヨリ登記ヲ取消モ差支ナシト云フ承諾書ナリ
○第九百二十條
各船舶債主ハ其要求ニ相當ノ明證アルトキニ限リ裁判所ノ命令ニ因テ船舶ヲ糶賣スルコトヲ得其法律上ノ特權ハ之レカ爲メニ變スルコトナシ但其要求唯タ船舶ノ持分ニ對スルトキハ其持分船舶所有權全部ノ半額ニ超ユルトキヲ除クノ外唯該持分ヲ糶賣スルコトヲ得
○第九百二十一條
船舶債主ノ權利ハ製造中ノ船舶ニ對シテモ之ヲ執行スルコトヲ得製造中ノ船舶ヲ質入スル場合ニ在テハ船舶ノ登記ヲ受ル迄其登記官廳ヘ必要ナル届出ヲ爲シ船舶ノ登記ニ代ユ可シ
○第九百二十二條
船舶沈沒シ或ハ航海ニ堪ヘサルニ至リタルトキハ船舶債主ノ權利ハ其救ヒ得タル部分、尙ホ現存スル部分、若クハ其代價及保險額ニ移ルモノトス
船舶債主ノ要求權ニ付テハ特ニ其債主ニ於テ保險ヲ受クルコトヲ得
○異議ナシ、
○第九百二十三條
船舶已ニ出航ノ準備ヲ終リタルトキハ負債ノ爲メニ之ヲ差押ヘ又ハ其乘組員ヲ拘留スルコトヲ得ス但其航海ノ爲メニ起シタル負債ニ付テハ此限ニアラス
（岸本委員）
拘留トハ少シク嚴ニ過クルカ如シ故ニ留ムルコトヲ得ストセハ如何
（周布委員）
拘留ハ抑留ト改ムヘシ（之ニ決ス）
于時三時四十五分閉會