○第二讀會第二十三回
明治廿年四月六日
欠席 箕作委員
○午前第時開會
○第二款 火災震災保險
○第七百二十二條
動產又ハ不動產ハ賃借人收利者保管者其他々人ノ爲メニ現有若クハ監守スル者ニ於テ自己ノ爲メ又ハ所有者ノ爲ニ之ヲ保險ニ付スルコトヲ得其自己ノ爲メニスル場合ニ在テハ自己ノ利益ノ關セサルモノニ限リ被保險者ヲ以テ所有者ノ代人ト看做シ被保險者ノ債主ハ其保險額ニ對シ要求
（細川委員）
自己ノ利益ノ關セサルモノトハ如何
（本尾委員）
例ヘハ家ヲ借受ケ雜作ヲ爲シタルカ爲メ保險ヲナシタルトキハ其雜作ニ付テハ自己ノ利益ノ爲メナシタルモノナレトモ家屋ニ至テハ家主ノ爲メナリトス此ヲ以テ家屋等卽チ自己ノ利益ニ關セサル所ニ在テハ家主ノ代人ト看做サルヘキナリ故ニ燒失ノ場合ニ於テハ雜作ハ要求權ヲ自己ニ有スレトモ家屋ニ付テハ然ラサルナリ又全ク自己ノ所有ニアラサルモ自己ノ利益ニ關スルモノニ在テハ皆保險ニ付スルコトヲ得ルモノナリ
○本條ハ自己ノ爲ニスル場合ニ在テハノ「ハ」ヲ削リ「利益ノ關セサルトキハ」ヲ「利益ノ關セサルモノニ付テハ其者ニ限リ」ト改ム
○第七百二十三條
不動產ノ保險ニ於テ法律若クハ契約ニ依リ被保險者ニ破滅若クハ破損シタル物件ノ再建若クハ修繕ヲ爲ス可キ義務アル時ハ保險者ハ被保險者若クハ其權利相續人ノ右義務ヲ履行スルノ期限ヲ定ムルコトヲ裁判所ニ申立テ又其建築若クハ修繕ヲ監査シ其事業ノ捗取ニ應シテ保險額ヲ支拂フコトヲ得
又其支拂フ可キ保險額ニ應シ自費ヲ以テ再建若クハ修繕ヲ保險者ニ於テ自カラ行ヒ又ハ他人ヲシテ行ハシムルコトヲ契約ヲ以テ定ムルコトヲ得
○本條ハ異議ナシ
○第七百二十四條
動產ハ箇々又ハ總體ヲ以テ保險スルコトヲ得總體保險ノ場合ニ於テハ期限中其物件ヲ增減シ又ハ他ノ物件ヲ以テ其全部若クハ一部ニ代ユルモ保險契約上ニ關係ヲ及ホササルモノトス
（本尾委員）
總體ト個々トノ區別ハ總體ナレハ其內ノ物件ヲ交換シテ存シ置クモ保險額ニ差違ヲ生スルコトナシト雖トモ個々ナルトキハ一品タリト雖トモ交換スルトキハ必ス其新ニ購入シタルモノニ付テ保險額ヲ定メサルヘカラス而シテ總體保險ニシテ物品百個ノモノ五拾個ニ減少シタル場合ニ於テハ假令百個ノ保險ト雖トモ之ヲ支拂フトキハ五拾箇丈ノ額ヲ拂フニ過キス然レトモ保險料ハ矢張百個ノ料金ヲ仕拂ハサルヘカラサルナリ要スルニ本條ハ物件ヲ增減スルモ又ハ他ノ物件ヲ以テ全部又ハ一部ニ代ユルモ其保險契約上ニ於テハ毫モ關係ヲ及ホササル旨ヲ規定シタルモノナリトス
（細川委員）
假令ハ五年間ヲ期シ保險ヲナシタルトキ其年期間中ニ僅カツツ破損滅盡スル時ハ其丈ノ額ヲ仕拂契約ハ五年間存續スルノ意ナルヤ
（本尾委員）
ロエスレル氏ノ精神ニ於テハ假令五ケ年間ト定ムルモ其前ニ僅少ノ㸃破滅シタルトモ其契約ハ證ルモノトスルノ意ナリ故ニ其場合ニ於テハ殘リ物件ニ付テハ更ニ契約ヲ爲ササルヘカラサルモノトス
（細川委員）
本條ノ物件ヲ增減シ又ハ交換スルモ第七百二十三條ノ破損破滅モ同一ナリ何ントナレハ增減モ亦等シク破損ナルモノナレハナリ然ルニ一方ハ契約上ニ關係ヲ及ホサス一方ハ之レカ爲メニ其契約ハ終ルモノトスルハ少シク權衡上當ヲ得サルカ如シ
（岸本委員）
若シ保險ヲ爲シタル物件ノ破損シタルカ爲メニ之ヲ新調シタルトキハ其價格ハ必ス以前ヨリ高價ナルヘシ此場合ハ其高價ニ付テ價格ヲ定ムルヤ
（本尾委員）
否一體保險證劵中ニ記載ノ價格ハ變換スルヲ得ス故ニ新調シタリトモ之レカ爲メ保險額ヲ增加スルコトヲ得ス又特約ヲ爲ストキハ更ニ雙方ニ於テ取結ハサルヘカラス證劵中ニ記載シタルモノヲ以テ特約ノ價格ト爲スコトヲ得サルモノナリ
于時第十二時中止
午後第一時開會
○第七百二十五條
動產ノ保險ハ保險證書中ニ記載シタル住地若クハ其他ノ場所ニ於テノミ效力アルモノトス但保險物ヲ一時他ノ場所ニ移シ又ハ保險場所內ニ於テ其位置變更スト雖モ保險ハ之レカ爲メニ廢止スルコトナシ
（長森委員）
第七百八條中ニハ住地等ヲ記スルノ規定ナシ
（本尾委員）
第七項ノ重大ノ關係アル事件トアルニ含ム
○第七百二十六條
自燃若クハ爆發ノ危險アル物件ニ付テハ被保險者契約上若クハ相當ノ警戒法ヲ爲ササルシ時ニ非サレハ第六百九十六條ヲ適用スルコトヲ得ス
○本條ハ「時ニ非サレハ」ヲ「時ニ限リ」ニ改メ結文ノ「得ス」ヲ「得」ニ改ム
○第七百二十七條
火災ノ時消防或ハ救濟ノ處置又ハ窃盜又ハ之ニ類似ノ因由ニ依リ被保險者ノ受ケタル損害ハ其火災ノ被保險者ノ許ニ起ルト近傍ニ起ルトヲ論セス亦火災損害ト看做ス可シ
○第七百二十八條
雷電、火藥、爆發、器械破裂其他之ニ類似ノ危險及地震ノ危險ハ爲メニ火災ノ起リタルト否トヲ論セス之ヲ火災危險ト同幌ス可シ
（岸本委員）
地震ニ依テ窃盜ニ逢ヒ損害ヲ受ケタルトキハ如何
（本尾委員）
本條ニ依テ火災ト同樣ニ看做ス可シ
○第七百二十九條
證據法殊ニ證人ヲ以テ十分ニ損害ノ多少ヲ斷定ス可カラサル時ハ裁判所ハ被保險者ノ申立ヲ確實ニセン爲メ其請求ニ依リ之ニ宣誓セシムルコトヲ得
○前三條トモ異議ナシ
○第三款 地產物ノ保險
○第七百三十條
土地ノ收獲物及其他天產物ノ保險ハ洪水、旱魃、暴風雨ノ如キ人間ノカト警戒トヲ以テ防ク能ハサル非常ノ天變ニ付テノミ之ヲ爲スコトヲ得
保險セラレタル危險ノ種類ハ保險證劵中ニ明記ス可シ
（鶴田委員）
山火事ノ如キハ本條ニ包含スルヤ
（本尾委員）
包含スヘシ
○第七百三十一條
保險ノ期限ハ一年トス但之ヨリ短キ期限ヲ約定スルモ妨ナシ
○第七百三十二條
被保險者ハ損害ノ生シタル時保險額ノ割合ニ從ヒ損害ナクシテ成熟シタル場合ノ價額ヨリ減シタル額ニ値ル賠償ヲ受ク可シ
○前二條トモ異議ナシ
○第七百三十三條
損害ノ價額ニシテ損害ヲ受ケサリシ場合ニ於テ收獲シ得可キ物ノ價額ノ四分一ニ滿タサル時ハ保險上ノ義務ヲ履行スルヲ要セス
（鶴田委員）
我民度ニ依テ考フルトキハ四分一ハ少シク酷ナリト云フヘシ何ントナレハ百俵ノ內二十五俵損害ヲ受クルハ實ニ多額トセサルヘカラス我邦ノ農民ニ於テ二十五俵ハ全ク小作人ノ作德ニテ得ル處ヲ盤ク亡滅セシムルモノニシテ當其利益額ヲ受クルハ得サルニ至ルハ酷ト云ハサルヲ得ス
○第四款 運送保險
○第七百三十四條
運送中ノ物件ニ付テハ運送人及ヒ其物件ノ無事到達スルニ付テ利益ヲ有スル人其保險ヲ受ルコトヲ得
○第七百三十五條
保險者ハ運送物件ノ保險ニ由リ運送期限中其亡失若クハ損害ノ各種危險ノ責ニ任スルモノトス若シ明約ヲ以テ特別ノ危險ヲ取除キタルニ非サレハ火災、窃盜及暴カ等亦此危險中ニ算ス
運送ノ期限ハ他ノ約定アルニ非サレハ運送人ニ物件ノ引渡ヲ初ムル時ニ始マリ受取人ニ物件ヲ引渡シ了ハリタル時ヲ以テ終ル但何レモ其引渡ノ何人ノ手ニ於テスルヲ問ハス
○第七百三十六條
運送期限中ニ運送物件ヲ賣却シタル時ハ其保險ハ第七百一條ニ從ヒ其賣却者ヨリ新所得者ニ移轉スルモノトス
○第七百三十七條
運送物件ニ付キ保險證劵中ニ屬セサル亡失若クハ損害ノ生シタル時ハ其保險タルノ證據ヲ擧クルノ義務ハ保險者ニ在ルモノトス
○第七百三十八條
保險證劵中ニ價額ヲ明記セサル時ハ最初ノ購買費又ハ積込ノ地ト時トノ普通價若クハ市價ト諸稅、保險費用、積込費及保險者ノ擔當スル運送費用トヲ併セタル額ヲ以テ損害確定ノ基トス可シ
○第七百三十九條
保險證劵中ニハ第七百八條ニ揭載シタル條件ノ外尙運送ノ性質運送具、其運送ヲ執行スル運送受負人及運送人ノ氏名、其保險物ヲ運送スル線路及差立地名、到達地名ヲ記ス可シ又必要ノトキハ其中間地名ヲ記シ運送期限ノ約定アレハ其期限ヲモ記ス可シ
保險證劵中ニ記載シタル運送期限又ハ普通ノ期限ニ後レ又ハ其他本條ニ揭載シタル保險證劵中ノ條件ニ戾ルモ反對ノ明約アルニ非サレハ其保險物劵ハ無效トナラサルモノトス但之カ爲ニ生シタル被保險者ノ要求權ニシテ運送人若クハ運送受負人ニ對スルモノハ保險者ニ移轉スルモノトス
○前諸條異議ナシ
○第五款 生命保險、病患保險、年金保險
○第七百四十條
人ノ生命若クハ健康ニ付テハ終身若クハ定期ヲ以テ保險ヲ爲スコトヲ得
（岸本委員）
病患ヲ疾病トセハ如何
（本尾委員）
原文ニハ疾病ノミナラス不仕合モ亦之ニ含ム
（岸本委員）
病ハ全病ノ場合ト解シテ可ナルヤ
（本尾委員）
然リ
○第七百四十一條
保險ハ自己ノ生命若クハ健康ニ付キ又ハ保險ヲ受ル時ニ方テ財產上ノ利益ノ關係アル他人ノ生命若クハ健康ニ付テ之ヲ爲スコトヲ得
夫婦兄弟姊妹尊屬親、卑屬親ノ生命健康ニ係ル相互財產上ノ利益ハ法律上ノ證據ヲ擧クルコトヲ要セス
第七百四十二條
他人ノ生命若クハ健康ニ係ル保險ヲ受クルニハ其人ノ承諾若クハ了知スルヲ要セス
○異議ナシ
○第七百四十三條
保險額ハ支拂期限ノ來リタルヤ直チニ被保險者又ハ保險證劵ノ條款ニ依リ保險ノ利益ヲ受ク可キ者又ハ保險額ノ要求權ヲ讓受ケタル瀞着ニ拂渡ス可シ
被保險者ノ死亡ニ由テ保險額支拂ノ期ニ至リ之ヲ請取ル可キ者ナキ時ハ保險額ハ死亡者遺產ノ一部トシテ之ヲ處分ス可シ
○本條ハ「來リタルヤ」ヲ「來リタルトキ」ニ改ム
○第七百四十四條
他人ノ生命若クハ健康ニ付テハ其人ノ利益ノ爲メ又ハ第三者ノ利益ノ爲メ契約上ノ義務ニ基キ保險ヲ爲スコトヲ得
○第七百四十五條
保險ハ左ノ場合ニ於テ無效トシ又ハ無效トナルモノトス
第一 保險セラレタルノ死亡若クハ病患既ニ契約取結ノ時ニ生シタル時但保險申込人ニ於テ之ヲ知ラサリシ時ハ此限ニ在ラス
第二 自己ノ生命若クハ健康ニ付テ保險ヲ受ケ又ハ受ケシメタル者ニシテ其契約上ノ義務ヲ犯シ又ハ放蕩若クハ標悍其他故意ノ所業ニ由テ生命ヲ失ヒ又ハ健康ヲ害シタルトキ
第三 處刑ノ爲メ或ハ處刑中或ハ重輕罪ヲ犯シタル直接ノ結果トシテ死亡シ若クハ病患ニ遭ヒ又ハ決鬪其他隨意及ヒ故意ヲ以テ死亡シ若クハ病患ニ遭フタル時
○第七百四十六條
渾テ保險無效ノ場合ニ於テハ保險契約中ニ定メタル金額若クハ被保險者ノ爲ニ積立テタル儲金額ノ半額以上ヲ被保險者ニ償還ス可シ但被保險者詐僞若クハ惡意ヲ以テ自ラ無效ヲ速キタル時ハ此限ニ在ラス
○第七百四十七條
保險者契約ノ無效トナル可キ事實ヲ知テ猶契約ヲ續行シタル時ハ被保險者ニ對シテ其契約ノ效力ヲ異議スルコトヲ得ス
○第七百四十八條
死亡若クハ病患ノ時ノ外尙契約ニ依リ一定ノ年齡若クハ期限ニ至リタル時ヲ以テ保險額支拂ノ期限トスルコトヲ得又保險額支拂ニ換ヘ年金支拂ヲ約定スルコトヲ得
○第七百四十九條
年金保險ハ保險者一定金額ヲ領收シテ被保險者ニ其死亡後ニ於テハ該保險ニ參加シタル者ニ終身若クハ一定期限內確定ノ年金ヲ支拂フ可キ義務ヲ負擔シタル所ノ契約トス
○第七百五十條
被保險者ハ第七百二條ニ從ヒ其權利ヲ有スル範圍及條件ニ準シ年金拂受ノ權利ヲ他人ニ讓渡スコトヲ得
○第七百五十一條
總テ生命保險、病患保險及年金保險ニ在テハ被保險者若クハ其權利相續人ハ適當ノ期日前ニ豫吿シタル上保險契約若クハ解約シ又ハ契約ヲ利息付ノ預金ニ變換スルコトヲ得
保險料ノ不拂ハ保險者ニ於テ之ヲ解約ノ豫吿ト看做スコトヲ得
○異議ナシ
于時午後二時三十分閉會