○第二讀會第二十回
明治廿年四月一日
欠席 箕作委員
仝 周布委員
仝 岸本委員
午前
○第三款 糶賣
○第六百二十條
他人ノ爲メニ公ケノ糶賣ヲ爲スコトヲ常業トスル者ハ法律上ノ理由アルニ非サレハ糶賣ノ委託ヲ拒ムコトヲ得ス
（細川委員）
法律上ノ理由ハ或ハ至當ノ理由ト譯セシ文字ナリ法律上ト云フトキハ例ヘハ阿片賣却ヲ委托セラレタル如キモノノミト解スルノ恐アリ第四百八十八條ニ於テハ正當ノ理由トアリ
（本尾委員）
正當ナル理由ト爲ス方可ナリ否ラサレハ法律上ノ理由ハ如何ナル區別アルヤノ疑ヲ生セサルヲ保セス就テハ正當ナル理由ト改正セラレンコトヲ質問センカ
（委員長）
可ナリ
○第六百二十一條
相場會所ニ於ケル糶賣ハ獨リ相場會所仲立人之ヲ執行スルコトヲ得
（細川委員）
相場會所ニ於テ公賣スヘキモノヲ云フナルヘシ
（本尾委員）
然リ例ヘハ公債證書等ヲ云フ
○第六百二十二條
公ケノ糶賣ニ於テハ支拂無資力ノ嫌疑及ヒ惡意ニ付因由アル嫌疑ナキ者ハ糶賣スルコトヲ得
出席鶴田委員
（長森委員）
黑字ノ方却テ明瞭ナルカ如シ
（本尾委員）
伯林府ノ如キハ猶人共同シテ他人ヲ入レス獨リ買入ヲ爲ス等ノ弊屢々アリ之レ等ヲ慮リテ本條ヲ設クルモノナルヘシ
（細川委員）
「無資力ノ嫌疑及ヒ惡意ノ證明スヘキ嫌疑」トセハ如何（之ニ決セリ）
又「糶」ハ「糴」ニ改ムヘシ（之ニ決ス）又「之ヲ許ス」トアルハ「糴買スルコトヲ許ス」ニ改ムヘシ（之ニ決ス）
○第六百二十四條
若シ明言シテノ制限ヲ立テサルトキハ糶賣品ハ其定メタル期日ニ於テ最高ノ申込人ニ賣拂ハサル可ラス
○第六百二十五條
糶賣ノ物品每ニ又ハ番號每ニ最終ノ申込人ニ落タル時ヲ以テ賣買契約ヲ取結ヒタルモノトス
○第六百二十六條
數人同時ニ最高ノ申込ヲ爲スニ方リ共同シテ其物品ヲ引受ルコトヲ欲セサルトキハ其數人ノ中更ニ最高ノ申込ヲ爲シタル者ヲ以テ先トス
○本條ハ異議ナシ
○第六百二十七條
最終ノ申込無效ニ屬シ又ハ糶賣人之ヲ承諾セサルトキハ之二次ク最高ノ申込人ニ落チタリト看做ス可シ
（細川委員）
無效トハ如何
（本尾委員）
第六百二十三條第六百二十三條等ヲ云フ
○第六百二十八條
糶賣執行前ニ糶賣人ヨリ廣吿シタル糶賣ノ條件ハ法律ニ戾ラサルモノニ限リ糶賣者皆之ヲ守ラサル可カラス印刷其他書面上ノ條件ハ糶賣人ノロ述ヲ以テ之ヲ變更又ハ廢止スルコトヲ得ス
○第六百二十九條
糶賣人ハ糶賣ノ時及ヒ賣買契約ノ取結又ハ其履行ノ時ニ當リ併セテ買主ノ代人タルコトヲ得然レトモ糶賣未了ノ前ニ其委託セラレタル糶費品ヲ引當トシテ賣主ニ前貸ヲ爲スコトヲ得ス
（委員長）
前貸ヲ許ササル理由如何
（細川委員）
前貸ヲ爲シタル物品ナルトキハ自己ノ物品ヲ賣ルト異ナラサルニ出ルナルヘシ
（長森委員）
之ヲ要スルニ高價ニ賣却スルノ弊ヲ防ク爲メナルヘシ
（本尾委員）
然リ
○第六百三十條
糶賣ノ費用ハ特約アルニ非サレハ賣主之ヲ擔任ス可シ
○本條ハ異議ナシ
○第六百三十一條
糶賣人ハ約定若クハ慣行ノ糶賣手數料ト其支拂ヒタル糶賣ノ費用及立替金ニシテ糶賣手數料ニ含蓄セサルモノトノ辨償ヲ賣主ニ要求スルコトヲ得此要求及法律ニ從ヒ賣主ニ對シテ爲シタル前貸ノ爲メニ糶賣品ハ其代價ニ付テ留置權ヲ有スルモノトス
（本尾委員）
前貸トハ公賣ニテ代價確定後ト至リテ爲シタルモノヲ云フ
（細川委員）
代價ニ付留置權ヲ有スルハ買主ニ對スル場合ノ如シ
（本尾委員）
買主又ハ賣主タルトニ個ノ場合アリ
（鶴田委員）
買主ニ對シ留置權ヲ有スルト云フハ理論上穩當ナラサルナリ
○第六百三十二條
糶賣人ハ怠慢若クハ不練熟若クハ惡意ニ依テ生シタル財產上ノ損害ニ付テ賣主ニ對シ責任アルモノトス
○本條ハ異議ナシ
○第四款 追及權
○第六百三十三條
賣主ハ賣買契約取結ノ後買主支拂停止トナリ又ハ既ニ支拂停止トナリシヲ聞知シ他ノ方法ニテ全額ノ支拂若クハ其指名者ニ向ケ運送中ニ在ル賣品ヲ取戾スコトヲ得但其賣品既ニ買主若クハ其代理人ノ現有ニ歸シ又ハ當然ノ方法ヲ以テ他ニ再賣シ若クハ抵當トナシタルトキハ此限ニ在ラス
（細川委員）
「業ヒ」ヲ「既」ニ改ムヘシ（之ニ決ス）
○第六百三十四條
再賣ハ後ノ買主惡意ナク且其價額ノ相當誠實ナルトキニ限リ有效トス若シ其買主未タ代價ヲ支拂ハサルトキハ最初ノ賣主ハ自己ノ要求額ニ滿ツル迄ノ支拂ヲ之ニ請求スルコトヲ得
（本尾委員）
買主ノ現有シタルト否ヲ問ハサルナリ
（細川委員）
前條ノ再賣トハ買主未タ現有セサル內ニ再賣シタルモノヲ云フナルヘシ
（本尾委員）
然リ
○第六百三十五條
追及權ハ賣主ニ於テ掛賣ヲ爲シ又ハ內拂ヲ受ケ又ハ買主トノ間ニ交互計算ヲ爲ストキモ亦其執行ヲ妨ケラルルコトナシ又買主又ハ其代理人ヨリ振出シ又ハ承諾セラレタル手續若クハ債劵ニ依テ支拂ヲ爲シタルトキモ亦同シ
然レトモ賣主支拂領收ノ爲メ代價金額ノ爲替ヲ振出シ又ハ買主ヨリ爲替其他ノ債劵ヲ領收シ其爲替若クハ債劵面ニ賣主ノ外買主若クハ其代理人義務者トシテ記載セラレス又ハ其爲替若クハ債劵未濟賣價ノ一部分ノミノ承諾ニ非ラサルトキハ此限ニ在ラス
○本條ハ異議ナシ
○第六百三十六條
買主方ニ支拂無資力タルノ相當ナル嫌疑アルトキ又ハ取引ノ情況困難ナルカ爲メニ支拂無資力タラントスルノ計リ難キトキハ裁判所ノ宣吿ヲ受ケタルト否トヲ問ハス眞ノ辨償無資力ト同視ス可シ
○第六百三十七條
物品ヲ買主ノ倉庫ニ入レ又ハ買主ノ名義ヲ以テ之ヲ貸藏ニ預ケタルトキハ運賃、關稅又ハ其他物品ノ負擔スル手數料ヲ拂ヒタルト否トヲ論セス買主若クハ其代理人ニ於テ之ヲ現有シタルト看做ス可シ
（細川委員）
「又ハ」ヲ削ルヘシ（之ニ決ス）
○第六百三十八條
追及權ハ權利者ニ於テ運送ノ爲メ又ハ運送ニ關シテ物品ニ負擔スル費用、立替金其他ノ要求金殊ニ運賃、仲買手數料、運送受員手數料、關稅保險料、若クハ海失共擔金ヲ支拂ヒ若クハ償還スルニ非サレハ之ヲ執行スルコトヲ得ス
○本條ハ異議ナシ
○第六百三十九條
追求權ハ物品賣却ノ委託ヲ受ケタル仲買人ニ於テ既ニ物品ヲ現有シ又ハ之ヲ第三者ニ賣却シタル後ト雖トモ仲買人若クハ其代理人ニ對シ委託者之ヲ執行スルコトヲ得購買ノ委託ヲ受ケタル仲買人ヨリ其委託者ニ對シテモ亦同シ
（本尾委員）
本條ハ仲買人ノ破產シタルトキ又ハ委托者ノ破產シタルトキトノニ個ノ場合ナリトス
○第六百四十條
左ノ場合ニ於テモ亦追及權ヲ執行スルコトヲ得
第一 交互計算ノ爲メ又ハ保管、取立、保證ノ爲メ若クハ自己ノ爲メ指定シタルトキ支拂ヲ爲サシメシカ爲メ手形又ハ債劵ヲ他人ニ送リ其送付者被送付者ノ負債者ニアラス且其手形又ハ債劵未タ金圓ニ變更セラレスシテ被送付者ノ現有ニ存スル時
第二 同一ノ場合ニ於テ金圓ヲ送付シ其金圓未タ被送付者ニ到達セス又ハ到達ノ後ト雖トモ未タ被送付者ノ計算ニ移サレス若クハ其他ニ處分セラレサル時
○本條ハ異議ナシ
正午第十二時中止
○第十章 信用
○第一款 消費貸
○第六百四十一條
消費貸ハ債主ヨリ負債者ニ又ハ債主ヨリ負債者ノ計算ヲ以テ他人ニ又ハ債主ノ計算ヲ以テ他人ヨリ負債者ニ又ハ債主負債者トノ計算ヲ以テ他人ニ之ヲ爲スコトヲ得
（本尾委員）
民法頒布ノ上ハ本款ハ商法ニ必要ナラサルナリ
（委員長）
然ラハ付箋ノ部分ナリトス
（本尾委員）
原則ハ民法ヨリ出ツルモノナレハ商法ニ特權ノモノノミ本法ニ記スレハ足レリトス
（委員長）
商法ニ特種ノモノノミヲ揭クルコトニ質問センカ
（本尾委員）
諾
（細川委員）
「又ハ債主ノ計算ヲ以テ他人ヨリ云々」ヲ「債主ト負債者トノ計算ヲ以テ他人ヨリ他人ニ」ト爲セハ如何（之ニ決ス）
○第六百四十二條
負債者ノ爲メ又ハ其計算ヲ以テ前貸若クハ支拂ヲ爲シ又ハ義務ヲ引受ルコトハ直接ノ約定ヲ以テシタルト雙方間ニ存立スル契約上ノ關係ニ由ルトヲ論セス總テ消費貸ト同視ス可シ
（鶴田委員）
直接ノ約定ト存立スル契約上ノ關係ナキトキハ消費貸ト云フヲ得サルノ意ナルヤ
（本尾委員）
矢張リ消費貸ト爲ス之レ本條ハ勿論ナレハトテ記セサリシナラン
（細川委員）
否其主義ハ講議ニハ適スルカ知ラサレトモ本條ノ精神ニテハ消費貸トセサルノ意ナルヘシ
（本尾委員）
說明ニ係レハ矢張リ消費貸ト云ヘリ
（細川委員）
然ラハ存立ヲ「成立」ト改ムヘシ（之ニ決ス）
○第六百四十三條
負債者ハ貸付品ノ領收ニ依リテ唯タ常ニ同種類及ヒ同數量ノ償還ヲ爲ス可キ義務ヲ負フモノトス但雙方ノ意旨ニ從ヒ償還スルヲ要セス又ハ償還シ能ハサルトキハ此限ニ在ラス
○本條ハ異議ナシ
○第六百四十四條
商品其他有價物件ノ貸付ニ於テ特約ナク又ハ其受ケタルモノ特定品ナルトキハ其價額ヲ償還セサル可ラス但負債者其物件ヲ領收シタル其時及其地ノ價格ニ依ル可シ
○本條ハ「領受」ヲ「領收」ニ改ム
○第六百四十五條
負債者ノ名ヲ記シ又ハ負債者ノ計算ヲ以テシタル債劵ニシテ負債者若シ其負債額ヲ償還スルノ義務アルトキハ負債者ニ於テ又ハ負債者ノ計算ヲ以テ之ヲ賣讓ス若クハ之ヲ引渡スニハ必ス其劵面額ヲ以テス可シ但割引ヲ算入スルハ禁スル所ニ非ス
出席周布委員
（鶴田委員）
劵面通リトアレトモ義務者ノ隨意ニテ何圓ニ賣却スルモ差支ナカルヘク敢テ法律ノ禁スルニ及ハサルヘシ
（委員長）
本條ハ質問ノ上決議スヘシ就テハ付箋ヲ爲シ置クヘシ
○第六百四十六條
裏書其他流通ノ債劵ヲ以テスル消費貸付ニ於テ劵面記載ノ人ヲ以テ債主及負債者ト看做ス可シ
（鶴田委員）
無記名證劵ハ如何
（本尾委員）
所持人ヲ以テ債主ト看做スナリ
（長森委員）
看做スヘシト爲シタル理由如何
（本尾委員）
現實ハ甲乙ノ間ニテ爲替ヲ以テ貸借ヲ爲シタランニ其爲替兩ノ手ニ移ルトキハ丙ト支拂人トヲ以テ債主負債主タル關係ヲ問ハサルヲ以テナリ
○第六百四十七條
負債者ハ雙方ノ意旨ニ依リ又ハ其取引ノ性質ヨリシテ反對ヲ認ム可キニ非サレハ別ニ明約ナキモ其領收シタル貸付品ヲ償還ス可キ義務アルモノトス
○第六百四十八條
約定ノ豫吿期限又ハ相當ノ時期ヲ以テ豫吿シタル後貸付品ヲ隨時償還スルノ權利ハ契約ヲ以テ負債者ヨリ奪フコトヲ得ス然レトモ債主ハ特約アルニ非サレハ元金及ヒ利息ヲ併セタル全債額ヲ割引ナク一回ニ領收スルノ權アリ
○第六百四十九條
無定期ノ消費貸ニ於テハ負債者ハ豫吿ノ後隨時之ヲ償還スルコトヲ得然レトモ債主ハ相當ノ時期ヲ以テ豫吿シ且惡意ナキトキニ非サレハ償還ヲ要求スルコトヲ得ス
○第六百五十條
第六百四十六條ニ揭載シタル場合ニ於テハ期限ヲ立テ償還義務ヲ約定ス可シ
○本條ハ異議ナシ
○第六百五十一條
負債者契約上支拂フ可キ利息ヲニ期以上延滯シ又ハ辨償無資力ト爲リ又ハ其財產ノ實況困難ニ至リタルトキハ契約上ノ期限前又ハ反對ノ契約アルニ拘ハラス貸付品ノ返還ヲ要求スルコトヲ得
（細川委員）
債額ヲ「貸付品」ト改ムヘシ（之ニ決ス）
○第六百五十二條
第六百四十二條ノ場合ニ於ル債主ノ要求權ハ債主ト負債者トノ間ニ存立スル契約上ノ關係ニ依テノミ之ヲ施行スルコトヲ得
（細川委員）
「存立」ハ「成立」ニ復スヘシ（之ニ決ス）
午後第三時閉會