○第二讀會第十七回
明治二十年三月廿九日
欠席 箕作委員
仝 岸本委員
午前
○第五百二十二條
仲買人必要ノ前貸ヲ遲滯ナク受領シ又ハ取引ヨリ生スル自己ノ要求ニ封スル補償若クハ擔保ヲ得タルトキハ自己ノ通常業ニ屬スル總テノ委託ヲ承諾シ又ハ執行スルノ義務アリトス
（細川委員）
第百九條ニハ前貸ヲ貸付ト改メタリ本條モ同樣修正スヘキカ同一文字トナス方可ナルヘシ又第四百八十九條ニ於テハ前貸ヲ立替トセリ
（本尾委員）
原文ハ皆同一ナルヲ以テ皆前貸トナス方可ナリ
第四百七十七條又第四百八十九條ノ立替ト第五百九條ノ貸付ヲ皆前貸ト改ム
（周布委員）
通常營業トハ如何
（本尾委員）
例ヘハ日本木綿商ナレハ其木綿ニ關スル委托ヲ受クル時ハ之ヲ辭スル事ヲ得ス然レ供天笠木綿ヲ注文シタル時ハ經驗ナキヲ以テ之ヲ辭スル事ヲ得卽チ通常トハ日本木綿ヲ商フ場合ヲ云フナリ
（細川委員）
前貸ノ意味ハ假令甲ノ仲買人ニ於テ乙ノ委托者ヨリハ終始委托ヲ受クルニヨリ仲買人ニ於テ必要ナル場合ニ於テ乙ノ爲メニ仕拂ヲ爲シタルニヨリ後ニ於テ乙ハ之ヲ仕拂ハサルヘカラス若シ仲買人ノ自己ノ要求ニ付スル補償若クハ擔保ヲ失フタル時ハ假令必要アルモ乙ノ爲メニ之ヲ仕拂フ事ヲ謝絕スルニ至ルノ順序ナラス
（本尾委員）
委托者ヨリ依賴アラサレハ漠然仲買人ニ於テ拂ヲ爲スノ理ナシ本條ノ場合ハ委托者ヨリ依賴ヲ受ケタル後ニ於テ必要ノ仕拂アルカ爲メニ委託者ヨリ受取ル場合ヲ云フ又細川委員ノ說ノ如クスル時ハ一回モ受領シタル時ハ如何ナル事ト雖モ辭スル事ヲ得サルニ至ルヘシ
（周布委員）
前貸ト爲ス時ハ種々誤解ノ弊アルヲ以テ前拂ト修正シテハ如何
（細川委員）
取引ヨリ生スル自己ノ要求トハ將來ヲ云フヤ又ハ過去ノ事ヲ云フヤ
（本尾委員）
將來ノ事ヲ云フナルヘシ
（周布委員）
本條ハ委托者ヨリ買入方ヲ依賴セラレタル場合ナルヲ以テ前貸トナスモ强テ不都合ハナキカ如シ
（本尾委員）
然リ賣ル事ヲ委托シタル場合ニアラスシテ買入ヲ委托シタル時ノ事ナレハ前貸トナスモ不可ナシトス
（本尾委員）
本條ハ兎ニ角意味ヲ質問シテ後修正セン（之ニ決ス）
○第五百二十三條
仲買人委託ノ承諾若クハ其續行ヲ拒ム時ハ直ニ之ヲ委託者ニ通知ス可シ之ヲ通知セサル時ハ委託執行ノ責ニ任シ且附託ノ物品ヲ相當ニ保存ス可キ義務アルモノトス
○本條ハ異議ナシ
○第五百二十四條
仲買人ハ特約アルニ非レハ委託者ニ前貸ヲ爲シ又ハ委託者ノ計算ヲ以テ第三者ニ對シ前貸ヲ爲スノ義務ナキモノトス然レ供委託者ノ承諾ヲ得又ハ商業慣習アル時ハ委託者ノ計算ヲ以テ第三者ニ前貸ヲ爲シ又ハ保信ヲ與フルノ權利アルモノトス
○本條ハ「保信」ヲ「信用」ニ改ム
○第五百二十五條
仲買人ハ委託者ニ對シ第四百七十四條ニ定メタル原則ニ從ヒ第三者ノ支拂資力ニ付キ責任ヲ有スル者トス然レ供第三者ノ責ニ歸ス可キマテヲ以テ限リトス
○本條ハ異議ナシ
正午時中止
午後一時開會
○第五百二十六條
委託買人ニ與ヘタル委託ノ未タ施行セラレサル間ハ何時テモ之ヲ取消シ又ハ變更スル事ヲ得仲買人ハ第五百二十二條ニ定メタル要件ニ基キ預吿シテ委託ヲ解クノ權利アリ但相當ノ手續ヲ以テ之ヲ解キタル後ト雖モ惡意又ハ怠慢ノ責ハ委託者ニ對シ尙ホ之ヲ負フモノトス
○本條ハ「要件ニ基キ」ヲ「要件アル時ニ限リ」ニ「手續」ヲ「理由」ニ改ム
○第五百二十七條
委託者ト仲買人トノ關係ハ一方ノ破產ニ由テ解ルモノトス死亡其他委託施行ノ能力ヲ失ヒタル場合ニ於テハ之カ爲メニ解約ス可キ事ヲ一方ヨリ明言シタル時ニ限リ解ルモノトス
○本條ハ異議ナシ
○第五百二十八條
仲買人ハ仲買取引ノ外自己ノ計算ヲ以テ同種類又ハ他ノ取引ヲ爲ス事ヲ得其仲買取引ヲ常業ト爲サニル商人ニハ第五百二十二條中委託承諾ノ規定ヲ適用スル事ヲ得ス
○本條ハ異議ナシ
○第五百二十九條
仲買人ハ委託者ニ於テ反對ノ明言ヲ爲サヽル時ハ其受ケタル委託ヲ自己ノ計算ヲ以テ施行スル事ヲ得然レ供場合ニ於テ委託者ニ對スル責任及要求權ハ尙ホ變更セサルモノトス
○本條ハ異議ナシ
○第五百三十條
前條ノ場合ニ於テハ仲買人ヨリ委託承諾ノ通知ヲ委託者ニ送出シタル時ヲ以テ其委託ノ施行セラレタルモノト看做ス可シ
（細川委員）
委託執行トアルハ總テ委託施行ト改ムヘシ第五百二十一條第五百二十三條及第五百二十六條等之レナリ（之ニ決ス）
○第五百三十一條
仲買人ハ委託施行ノ後之ヲ委託者ニ通知シ其取引ニ依テ得タル金額ヨリ自己ノ取前ヲ引去リ之ヲ委託者ニ支拂ヒ又ハ其計算ニ立ツ可シ
○本條ハ異議ナシ
○第五百三十二條
買入レタル商品其他委託者ノ計算ヲ以テ引受ケタル商品ハ他ノ取極アルニ非サレハ仲買人直ニ之ヲ委託者ノ處分ニ付ス可シ其處分ヲ爲スマテハ適當ニ之ヲ保存ス可シ更ニ之ヲ送付スルハ明言ノ委託ヲ受自己ノ要求權ヲ害セラレサル時ニ限ルモノトス
（細川委員）
「委任」ハ「委托」ト改ムヘシ（之ニ決ス）
○第五百三十三條
仲買人ノ取引ニシテ委托者之ヲ承認セサル時ハ仲買人自己ノ計算ヲ以テ之ヲ擔當シ委托者ニ加ヘタル總テノ損害ハ仲買人之ヲ賠償セサル可カラス但第四百三十六條ノ規定ハ之カ爲メニ變スル事ナシ
（細川委員）
本條ハ第一讀會ニ於テモ議論アリシ處ナルカ文字上ニ於テハ何分意味ヲ了解スル事能ハス故ニ但書以下ハ再質問セハ如何
（本尾委員）
諾（之ニ決ス）
○第五百三十四條
仲買取引ヨリ生シタル權利及義務ハ仲買人ノ權利及義務タルヲ通例トス然レ供仲買人其權利ヲ委託者ニ讓渡シ又ハ支拂資力ヲ失ヒタル時ハ委託者直チニ第三者ニ對シ其權利ヲ主張スル事ヲ得
○本條ハ異議ナシ
○第五百三十五條
仲買人ハ委託者ニ爲シタル前貸ノ償還及利息ノ外尙ホ左ノ金額ヲ要求スルノ權アルモノトス
第一 必要又ハ有益ニシテ商ヒノ慣習ニ從ヒ現ニ支拂ヒタル費用及立替金ノ償還
第二 仲買手數料但第一項ニ記載シタル費用及立替金ヲ取引ノ總額ニ加算シ其合額ニ對シ約束上又ハ慣習上ノ割合ニ從テ計算ス可シ
第三 仲買人ニ於テ保證ヲ負擔シタル時ハ其保證料
仲買人ハ右ノ要求權ニ付キ第四百四十四條及第四百四十五條ニ從ヒ留置權ヲ有スルモノトス
○本條ハ異議ナシ
○第五百三十六條
仲買人ノ過失ニ非スシテ委託實行セラレサリシ時ハ慣習アル時ニ限リ通常ノ仲買手數料半額以內ヲ請求スル事ヲ得
（本尾委員）
慣習ハ手數料ヲ受クルノ慣習ニシテ其額ノ慣習ニ從フノ意ニアラス又其慣習ナキ時ハ之ヲ受クルヲ得サルナリ
○第五百三十七條
仲買人ハ委託ニ由テ取扱ヒタル商品ニ自己ノ商標又ハ商號ヲ附スル事ヲ得然レ供之ニ附シタル他ノ商人又ハ造人ノ商標或ハ製造標ヲ本人ノ承諾ヲ得スシテ變更又ハ除去スル事ヲ得ス又自己ノ商品或ハ委託商品ニ他人ノ商標或ハ商號ヲ附スル事ヲ得ス又他ノ商人或ハ製造人ノ商標或ハ商號アル委託商品ニ區別ヲ表セスシテ自己ノ商標或ハ商號ヲ附スル事ヲ得ス
○本條ハ異議ナシ
○第五百三十八條
仲買人見本若クハ雛形ニ從ヒ委託ヲ施行ス可キ時ハ反對ノ契約アルニ非サレハ見本若クハ雛形ノ法律上登記ヲ受タルト否トヲ問ハス其正當ノ所有者又ハ發明人ヲシテ施行セシム可シ之ニ反スル時ハ委託者ハ其商品ノ見本若クハ雛形ニ合フト否トヲ問ハス其契約ヲ履行セサル事ヲ得
○本條ハ異議ナシ
○第五百三十九條
書籍其他器械ヲ以テ複製スル書畵藝術上物品ノ發行引受營業ハ仲買營業ノ規則ヲ以テ論ス可シ
○本條ハ異議ナシ
○第六款 運送受負人
○第五百四十條
運送受負人ハ自己ノ名義ヲ用ヒ他人ノ計算ヲ以テ商品其他貨物ノ運送ヲ營業トスル商人トス
○本條ハ受員營業ノ外尙ホ自己ノ計算又ハ他人ノ計算ヲ以テ他ノ商業ヲ營ム妨ナキモノトス
○本條ハ異議ナシ
○第五百四十一條
運送受負人ハ確定ノ運送賃ヲ約束シタルト否トヲ問ハス又其受負ヒタル運送ヲ爲シ又ハ爲サシムルニ自己ノ運送具ヲ以テスルト借用ノ運送具ヲ以テスルト他人ノ運送具ヲ以テスルトヲ問ハス仲買人タルノ責任及運送人ノ同一ノ責任アルモノトス
○本條ハ異議ナシ
○第五百四十二條
運送受負人ハ特約アラサル時又ハ總テ直接ノ運送ヲ受負ヒタル時ハ其物品ヲ遞送スル事ニ從事スル運送受負人、取次人、運送人及其他ノ人ニ代リ運送人タルノ責任アルモノトス
運送受負契約上ノ要求權ニ付テハ運送受負人及前項ニ揭載シタル各人連帶ノ責任ヲ負フモノトス
○本條ハ異議ナシ
○第五百四十三條
運送受負人ハ運送狀ヲ發行シ左ノ諸件ヲ之ニ記載ス可シ
一 月日及運送受負人ノ氏名住所
二 運送人ノ氏名住所
三 運送品ノ種類及重量
四 行李アル時ハ其各行李ノ員數、性質及記號
五 約束上送達ノ地及期日
六 運送賃額
左ノ諸件ハ運送狀中ニ之ヲ記載スル事ヲ得
一 運送品ノ價額
二 受取人ノ氏名
三 送達遲延ノ時ニ拂フ可キ償金額
各項ハ百ニ「第」ノ字ヲ加フ
于時三時閉會