○第二讀會第十回
明治廿年三月十七日
欠席 箕作委員
午前第 時
○第三百二十一條
雙方ノ明約意思ハ書面又ハ口演ヲ以テ之ヲ陳述スル事ヲ得可シ
（委員長）
「得ヘシ」トアレ供「ス可シ」ノ意味ニアラサルヤ
（本尾委員）
「得可シ」トハ書面ナリ又ハナリヲ以テスルヲ得ルト云ヒ其方法ヲ示シタルニ、過キサルナリ
（鶴田委員）
「雙方ノ」ノ「ノ」ヲ削ル可シ（之ニ決ス）
（本尾委員）
口演ハ口頭トセハ如何（之ニ決ス）
○本條ハ「ヘシ」ヲ削ル
○第三百二十二條
契約ノ物件本價五拾圓ニ過キ卽時履行スルニアラサルモノハ書面ニシテ之ヲ交付セサル可カラス
此商法中契約ニ付特ニ設ケタル規定ハ前項ト牴觸セサル者トス
（本尾委員）
五拾圓ナル時ハ未タ書面ヲ必要トセス五拾圓ヨリ以上ハ書面ヲ以テセサルヘカラス
（細川委員）
原案ノ方可ナリ修正文ニテハ原文ト齟齬スルノ㸃ナキニアラサルナリ
（周布委員）
然ラハ「物件ノ本價五拾圓ヲ超エ卽時履行スルニアラサル契約ハ書面ニシテ之ヲ交付セサル可カラス」トセハ如何（之ニ決ス）
○第三百二十三條
契約ノ書面ハ正式ノ契約證書ニ限ラス契約上ノ義務ヲ負擔スル者又ハ其代理者ノ氏名ヲ記載シタル書簡、電報、端書、勘定書其他各種ノ文書類ヲ以テスル事ヲ得可シ
（岸本委員）
端書ト云フ時ハ郵便葉書ト混同スル事ナルヘシ
（本尾委員）
郵便葉書ト異ナレリ卽チ書付ト云フ意味ナリ
（岸本委員）
「正式」ハ民法草案ニハ「有式」トアルヲ以テ同一ニ改メハ如何
（長森委員）
本條ノ書類ニハ印紙ヲ貼付スルナルヘシ
（本尾委員）
然リ印稅規則ノ方ヨリ之ヲ云フモノナレハ本條ニ關係ナシ
（鶴田委員）
然ラハ手紙ニモ印紙ヲ貼付スルニ至ルナリ甚タ不都合ナラスヤ
（本尾委員）
貼付セサル可カラス
（細川委員）
否貼付セサルモ可ナルヘキ精神ナルヘシ
（本尾委員）
正式トハ「ソランネール」ニアラス只證書タルノ式ヲ具フル證書ヲ云フナリ
○本條ハ「端書」ヲ「片書」ニ改メ「可シ」ヲ削除ス
○第三百二十四條
第三百二十二條ニ揭載シタル契約證據ヲ證明又ハ其反對ノ證據ハ必ス書面ノ證據ヲ以テセサル可カラス但第三百二十條ニ從テ契約旨趣ヲ解釋シ又ハ錯誤脅迫若クハ詐僞ノ證據又ハ契約書中ノ事項ニシテ雙方ノ意想ヲ表示スル目的ニ非サルモノニ付キ證據ヲ擧ル時ハ此限ニ在ラス
其目的ナルト否トハ其情況ノ如何ニ依リ之ヲ判定ス可シ
○本條ハ異議ナシ
○第三百二十五條
第三百二十二條ニ揭載シタル契約ハ假令ヒ之ヲ書面ニ記セスト雖供後ニ至リ契約者ニ於テ特ニ雙方ノ契約ナル時ハ雙方ニ於テ實際之ヲ履行シ又ハ書面ヲ以テ之ヲ承認シタル時ハ其效力アル者トス
（本尾委員）
片務契約ト雖供義務者ニ於テ履行シ又ハ承認シタル時ハ效力アルナリ
（周布委員）
雙方契約ナル時モ一方ノ履行ニテ之ヲ效力アラシメテ差支ナカル可シ
第三百二十六條
契約上ノ提供ニ對シ默過スル場合又ハ或ル事ヲ爲シ或ハ爲サヽルニ依リ慣習上權利義務ヲ生スル場合ハ默約アル者トス
（本尾委員）
「默過」トアルハ「默諾」ト爲スヘキ何トナレハ默過シタルヲ以テ直ニ默諾トスル事ヲ得サレハナリ（之ニ決ス）
○第三百二十七條
契約ノ提拱ヲ受ケタル者ノ業體又ハ雙方間ノ平常ノ取引又ハ總テ商業慣習及德義信用ニ照考シテ通例許諾シタル者ト推測スヘキ場合ノ外槪シテ默過シタルヲ以テ契約ノ提拱ニ對スル默諾ト看做ス可ラス
（鶴田委員）
本條ノ修正文ニ依ル時ハ先ツ默過ノ事ヲ云ハサルヘカラス然ルニ後段ニ至リテ默過トアルヲ以テ少シク解シ難キナリ
（細川委員）
然リ原案ノ法文ヲ可トス
○本條ハ左ノ如ク修正セラレタリ
第三百二十七條契約ノ提拱ニ對スル默過ハ槪シテ默諾ト看做ス可ラス但其提供ヲ受ケタル者ノ業體又ハ雙方間ノ平常ノ取引又ハ總テ商ヒノ慣習及德義信用ニ照考シテ通例許諾シタル者ト推測スヘキ場合ハ此限ニ在ラス
○第三百二十八條
雙務ノ契約ノ場合ニ於テ相手方ノ供給ヲ承諾シタル時ハ自己ノ義務ヲ履行スルノ默約ヲ爲シタル者トス
○本條ハ異議ナシ
○第三百二十九條
凡ソ契約上ノ義務ハ明約又ハ默約ニ拘ハラス適法ノ原由アルニアラサレハ成立セサルモノトス
○本條ハ異議ナシ
○第三百三十條
契約ノ義務未必條件ノ發生スル事又ハ生セサル事又ハスル事ニ依テ自ラ消滅スルモノトス
○本條ハ異議ナシ
○第三百三十一條
契約ニ附シタル未必條件又ハ期限ハ其利益ヲ蒙ムル一方ノ者明言シテ之ヲ抛棄スルニアラサレハ無效ニ歸セシムル事ヲ得
（細川委員）
未必ノ語ハ第四十七條ノ未定ノ語ト同一ナルヘシ
（本尾委員）
然リ尤モ本條ノ未必トアルハ第四十七條ノ偶生ノ文字ト同一ナリ
（岸本委員）
第四十七條ヲ「未定ノ期限若クハ未必條件ノ生スル」ニ改メハ如何
○第三百三十二條
商事上ノ契約ニ於テ數人共同シテ權利ヲ得又ハ義務ヲ負フタル時ハ反對ノ明約アルニアラサレハ權利者ハ各獨立シテ其全權利ヲ行フ事ヲ得又義務者ハ獨立シテ其全義務ヲ履行スルノ責アルモノトス
（委員長）
利益ノ語ハ「ハーフール」ニシテ「アンテレー」ニアラサルヲ以テ譯語ヲ改ム可シ
○第三百三十三條
前條ニ揭載シタル規則ハ保證ヲ以テ附從義務ヲ負擔シタル場合ニ於テモ亦適用ス可キモノトス卽チ數名ノ權利者ヨリ一名ノ保證人ニ對スル場合又ハ一義務者ノ爲メ數名ノ保證人アル場合又ハ義務者ノ爲メ數義務者保證ヲ爲シタル場合ニ適用ス可シ
（委員長）
本條ハ民法上ト異ナリテ保證人ニ義務ヲ負擔セシムル事共同義務者ト同一ナリ商事上ナリトテ如斯義務ヲ重劇ナラシムルニ及ハサルナリ
（岸本委員）
然レ供反對ノ明約アル時ハ此條ヲ適用スヘカラサル事ハ前條ニ示スヲ以テ敢テ恐ルヽニ及ハス
（委員長）
本條ハ上申ノ際付箋ヲ爲スヘキ一ト爲ス可シ
○第三百三十四條
商事上他人ニ對シ盡ス可キ注意ハ他ノ規定又ハ約定アルニアラサレハ履行地ノ慣習ニ於テ慧敏且勉勵ナリトスル商人ノ爲ス可キ注意ナリトス
（委員長）
「注意ハ」トアリ「注意トハ」トセハ如何（之ニ決ス）
○第三百三十五條
反法ノ意思又ハ甚シキ怠慢ニ依テ生シタル過失ノ責任ハ預メ契約ヲ以テ之ヲ免除スルコトヲ得ス
○本條ハ異議ナシ
○第三百三十六條
偶生ノ危險ノ損害又ハ特別ニ注意ヲ爲スヘキノ義務ハ此商法ニ正條ナキトキト雖供別ニ明約ヲ以テ之ヲ負擔セシムル事ヲ得
○本條ハ左ノ如ク修正セリ
第三百三十六條偶生ノ危險又ハ特別ノ注意ハ此商法ニ正條ナキ時ハ明約ヲ以テ之ヲ負擔セシムル事ヲ得
○第二款 契約ノ取結
○第三百三十七條
一方ノ提供ヲ他ノ一方ニ於テ異議ナク承諾シ默諾ノ場合ノ外當然ノ方法ヲ以テ報答シタル時ハ其契約ヲ取結ヒタル者トス
○本條ハ異議ナシ
○第三百三十八條
契約ノ提供ヲ受ケタル者直チニ又ハ提供者ヨリ示シタル期限內ニ承諾ノ旨ヲ報吿セサル時ハ其提供ハ承諾セラレサルモノト看做ス可シ
○本條ハ異議ナシ
○第三百三十九條
提供ヲ默諾シタル者ト推測スルヲ得可キ場合ニ於テ（第三百二十七條）提供ヲ受タル者直チニ又ハ提供者ヨリ示シタル期限內ニ不承諾ノ旨ヲ報答セサルハ其提供ハ承諾セラレタルモノト看做ス可シ
○本條ハ異議ナシ
○第三百四十條
面接ニアラスシテ提供ヲ受ケタルモノ遲ク供其營業日午時迄ニ普通ノ方法ニ依リ提供者ニ承諾ノ報答ヲ發シタル時ハ直チニ報答シタルモノトス可シ
○本條ハ異議ナシ
○第三百四十一條
提供ニ對シ未必條件ヲ付シ又ハ其旨趣ヲ變更シテ報答シタル時ハ提供者ハ自己ノ撰擇ニ依リ之ヲ承諾セラレサルモノト看做シ或ハ提供ヲ受タル者ヨリ更ニ提供ヲ爲シタルモノト看做ス事ヲ得
○本條ハ異議ナシ
○第三百四十二條
提供者ハ提供ヲ受タル者ヨリ直チニ又ハ期限ニ從ヒ發シタル報答ノ通例達シ得可キ時期迄ハ提供ヲ受ケタル者ニ對シ其提供ヲ守ラサル可ラス然レ供其提供未タ提供ヲ受クル者ニ對セサル前又ハ達スルト同時ニ反對ノ通知ヲ以テ之ヲ取消ス事ヲ得
○本條ハ異議ナシ
○第三百四十三條
提供ノ承諾ヲ報答シタル上ハ相手方ノ承諾ヲ得ルニアラサレハ之ヲ取消ス事ヲ得ス然レ供面接ニ非サル場合ニ在テハ承諾ノ報吿未タ提供者ニ達セサル前又ハ達スルト同時ニ提供者ニ取消ヲ通知シタル時ハ其取消ノ效アルモノトス
○本條ハ異議ナシ
第三百四十四條
面接ニ非スシテ互ニ提供ニ關スル書ヲ送付スルニ當リ過誤遲延アリタル時ハ之ヲ生セシメタル者其責任ヲ負ヒ遞送引受人ニ過誤遲延アルモ其責任ヲ負ハサル場合ハ其遞送ニ因テ利益ヲ得ル者責任ヲ負フ可シ
○本條ハ異議ナシ
于時午後第時