○第二讀會第九回
明治廿年三月十六日
欠席 委員長
仝 箕作委員
仝 周布委員
午前
○第四十九條
代務者主人ノ營業上ニ於テ爲シタル取引及ヒ所業ニ付主人ノ承諾セシト否ト又主人ノ名ヲ以テ爲シタルト否トヲ論セス其所爲ニ依リ主人直接ニ權利及ヒ義務ヲ得ル者トス
代務者主人ノ營業上ニ於テ爲シタル不正ノ行爲ニ付代務者自己ノ名ヲ以テ爲シタル行爲ニシテ其情況及ヒ相手方ノ見込ニ依リ主人ノ計算ヲ以テ爲シタリトス可キモノニ付テモ亦前ニ同シ
（岸本委員）
所業ノ文字ハ行爲ノ語ト同一ノ原語ニアラサルヤ
（本尾委員）
然リ同一ナリ
○本條ハ左ノ如ク修正セラレタリ
第四十九條代務者主人ノ營業上ニ於テ爲シタル取引及所爲ニ付テハ主人ノ承諾セント否ト又主人ノ名ヲ以テ爲シタルト否トヲ論セス主人直接ニ權利及義務ヲ得ルモノトス
代務者主人ノ營業上ニ於テ爲シタル不正ノ行爲又自己ノ名ヲ以テ爲シタルモノト雖モ其情況及相手方ノ見込ニ依リ主人ノ計算ヲ以テ爲シタリトスヘキ行爲ニ付テモ亦前ニ同シ
○第五十條
代務委任ヲ僞稱シ又ハ代務權ヲ踰越シテ取引ヲ爲シタル者ハ相手方ノ撰ヒニ從ヒ其契約履行又ハ損害賠償ノ責任ヲ自己二負フモノトス其代務權踰越ノ場合ニ於テ第四十六條第二項ニ從ヒ主人其義務ヲ負フ可キ時ニ限リ主人モ亦其責ヲ菟カルニ事ヲ得ス此場合ニ於テハ主人又ハ代務者ニシテ其取引ヲ途ケシムル事ヲ得ヘシ若シ相手方ニ於テ代務權ノ缺乏ヲ以テ觜シタル取引ハ雙方ニ對シ無效ノモノトス
（岸本委員）
主人モ亦トアリテ從タルカ如キ嫌ヒアリ故ニ亦ノ文字ヲ削ルヘシ
（細川委員）
代務者ハ本ヨリ義務アリ本人モ亦責アリト云フニ過キサルナリ
（鶴田委員）
雙方トハ代務者ト相手方トヲ云フヤ
（本尾委員）
主人ト相手方トヲ云フナリ
（細川委員）
然ラス代務者ト相手方ノ間ニハ效アルヤ
（本尾委員）
效力ナシ何トナレハ成立セサル契約ナレハナリ
（長森委員）
然ラハ雙方トハ主人及代務者ヲ云ヒ相手方トハ契約シタル一方ヲ云フヤ
（本尾委員）
然リ
（長森委員）
說明ニ依レハ雙方ト代務者トヲ云フナリ
○本條ハ「對シ」ヲ「於テ」ニ「ノ缺乏」ヲ「ナキ事」ニ改ム
○第五十一條
代務者ハ自己ノ計算又ハ第三者ノ計算ヲ以テ商業ヲ營ム事ヲ得ス若シ此規則ニ背キタル時ハ第四十四條ニ規定シタル結果ノ外主人ノ望ニ從ヒ其爲シタル商業取引ヲ主人ノ計算ニ振リ替ヘ且ツ損害ヲ生シタル時ハ之ヲ賠償セサルヘカラス
（本尾委員）
「商業取引」ハ例ニ從ヒ「商ヒノ取引」ト爲スヘシ
○本條ハ「商業取引」ヲ「取引」ニ「振リ替ヘ」ヲ「移シ」ニ改ム
○第五十二條
商業上主人ノ業務ヲ辨センカ爲ニ雇入レラレタル使用人ハ營業ノ全部若クハ其一部ノ爲ニ雇ハレタルト否又ハ一種若クハ數種ノ爲ニ雇ハレタルト否トヲ論セス特別ノ委任ヲ受ケスト雖モ尋常職掌內ニアルヘキ總テノ取引及ヒ所業ヲ主人ニ代リ十分ノ效力ヲ以テ爲ス事ヲ得ヘシ其取引及ヒ所業ニ付テハ主人獨リ其權利ヲ得義務ヲ負フモノトス
商業使用人主人ノ爲メニ訴訟ヲナシ又ハ裁判所ニ出ルニハ特別ノ委任ヲ受クルヲ以テ通例トス
商業使用人署名スル時ハ主人ノ代理タル旨ヲ書添エヘシ
○本條ハ「所業」ヲ「所爲」ニ改ム
○第五十三條
使用人主人ノ爲メ舖店倉庫其他ノ營業場ニ於テ業務ヲ辨シ或ハ他ニ使スルトキ又ハ帳場ニ於テ第三者ト取引ヲ爲スニ際シ主人ヨリ制止セラレサル時又ハ第三者ノ問ヲ受ケテ己レ之ヲ執行スルノ權利アリト答ヘタル時ハ特ニ其職掌ノ爲メニ雇入レラレタル者ト看做スヘシ
（細川委員）
使用人トアレ供之ヲ何人ト雖モト云フ時ハ本條ノ必要アリト雖モ使用人ナル時ハ當然ノ事柄ナリ敢テ明揭スルニ及ハサルカ如シ
（岸本委員）
使用人トシテ特ニ雇ハレタルモノヲ除ク場合ト解セハ可ナリ
出席委員長
○第五十四條
使用人主人ノ代理トナリタル時之ト取引ヲ爲シタル第三者善意ナルニ於テハ使用人其委任又ハ豫定セラレタル手續ニ依ラサルカ爲メ第三者ニ其責任ヲ負ハシムル事ヲ得ス
○本條ハ異議ナシ
出席周布委員
○第五十五條
商業慣習ニ於テ或ル職掌ノ爲メ定マレル區域ヨリモ尙ホ之ヲ擴充シテ使用人ニ代理ヲ爲サシムル時ハ之レカ爲メ委任ヲ與ヘ且ツ相當ノ手續ヲ以テ之ヲ第三者ニ吿知ス可シ商業上ノ通信並ニ爲替其他ノ負債證書ニ使用人ノ署名シタルヲ以テ主人其義務ヲ負擔ス可キ時ハ特ニ右ノ規則ヲ遵守ス可シ
（鶴田委員）
主人本條ノ手續ヲ盡サヽル時ハ其責ヲ負擔スルハ勿論ナルヘシ
（本尾委員）
然リ
○第五十六條
營業場ニ於テ第三者善意ヲ以テ使用人ニ對シ金錢ノ受渡シヲ爲シタル時ハ何レノ場合ヲ問ハス主人之ヲ承認スルノ義務アリトス商品、證書其他ノ有價物件ニ於ケルモ亦同シ
請取證アル勘定書又ハ其他ノ請取證書ヲ持參スル者ハ拂金又ハ其他書中記載ノ物件ヲ請取ルノ權利アルモノト看做スヘシ但其時ノ景況ニ依リ他ノ推測ヲ起ス可キ事由アル時ハ此限ニ在ラス
○本條ハ異議ナシ
○第五十七條
使用人ハ其業務上ノ權利ヲ他人ニ移轉スル事ヲ得ス又主人ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ他人ヲ代理トシテ此權利ノ全部又ハ一部ヲ執行セシムル事ヲ得ス但商業習慣ニ於テ之ヲ許スモノハ此限ニ在ラス
（細川委員）
移轉スルヲ得サルト執行セシムルヲ得サルトノ區別如何
（本尾委員）
使用人ノ權ヲ他人ニ移スト自己ノ爲ス事ヲ代リテ行ハシムルトノ區別アリ
○第五十八條
第四十六條第二項及ヒ第四十九條第五十條第五十一條ノ規定ハ商業使用人ニモ亦適用ス可シ
○本條ハ「商業」ヲ削ル
○第五十九條
主人ト商業使用人トノ間ノ權利義務ニシテ其雇入レニ關スルモノハ雇入契約ノ原則ニ從フ可シ
見習人ヲ置クノ契約ハ書面ヲ以テ之ヲ爲ス可シ
（細川委員）
雇入契約ノ原則トハ民法中ニ規定アルモノヲ云フヤ
（本尾委員）
然リ若シ民法ニ規定ナケレハ慣習ニ從フナリ
（細川委員）
原則トハ趣旨ト云フ意味ニハアラサルヤ
（岸本委員）
然リ使用人ノ約ハ無論契約書面アルモノニシテ見習人ハ必ス書面ヲ要スト云ヒシニアラサルカ
（長森委員）
使用人ノ內ニハ家族アリ又ハ雇人アリ故ニ若シ雇人ニテアル時ハ民法ノ雇入契約ノ規定ニ從フヘシト云フナリ
○本條ハ見習人云々ヲ別項ト爲ス
○第六十條
期限ヲ定メス又ハ主人若クハ使用人ノ終身ヲ期シテ取結ヒタル雇人契約ハ雙方何時ニテモ之ヲ解カン事ヲ預吿スルノ權利アルモノトス但シ預吿ハ一ケ月前ニ之ヲ爲スヘシ
（委員長）
終身ノ契約ハ初メヨリ禁スルニ若カサルナリ何トナレハ預知シテ解約スルヲ得ルニ於テハ契約ノ效ナケレハナリ
（岸本委員）
人身ノ自由ヲ束縛スルノ契約ハ效ナキモノナレハ無定期ノ契約ト同一ニ取扱ヲ爲スナリ
（周布委員）
契約ハ雙方間ニ效ヲ生スル事法律ノ如シトノ原則ニ依ル時ハ或ハ契約ニ反スルト雖モ是レ人ハ自由ナリ人ノ自由ハ私ノ契約ヲ以テ束縛スルヲ得サルハ普通ノ法理ナレハ本條ハ決シテ差支ナキモノトス
○第六十一條
期限ヲ定メテ取結ヒタル雇入契約ハ雙方ノ承諾アルニアラサレハ期限前之ヲ解クコトヲ得ス但シ法律ニ照シテ其期限前ニ退去セシム可キモノハ此例ニ在ラス
雇入期限中ハ假令ヒ主人ニ於テ其使用人ヲ全ク使役セス又ハ僅カ使役スト雖モ使用人ニ在テハ契約上ノ給料又ハ地方慣習ノ給料ヲ請取ル可キ權利アルモノトス
（鶴田委員）
「習慣」ハ總テ「慣習」ト改ムヘシ（之ニ決ス）
○第六十二條
使用人契約上ノ雇入期限中疾病ニ罹リ其他一時業務ニ就クニ堪ヘサルニ至ルト雖モ既二一年以上雇使セラレタル時ハ二ケ月間ハ給料ノ拂渡ヲ請求スルノ權利アルモノトス
○第六十三條
使用人執行中疾病ニ罹リ又ハ傷病ヲ受クルトモ主人過失ニ歸ス可カラサル時ハ主人治療費ヲ給シ又ハ償金ヲ與フルノ義務ナキモノトス
○第六十四條
左ノ場合ニ於テハ何時ニテモ使用人ヲ退去セシムル事ヲ得
一 不實ノ所業ヲ爲シ又ハ其身ニ受ケタル信用ニ背戾スル時
二 自己ノ計算又ハ第三者ノ計算ヲ以テ取引ヲ爲ス時但些少ノ取引ハ此限ニ在ラス
三 正當ノ理由ナクシテ其命セラレタル業務ヲ爲ス事ヲ拒ミ又ハ之ヲ怠慢スル時
四 不應當ノ擧動又ハ不規則ノ品行ノ爲メ指斥セラルヽ時又ハ不治ノ疾病ニ罹リタル時
（委員長）
些少ノ取引ノ如キハ斷然之ヲ禁シテ差支ナカルヘシ
（長森委員）
然リ信用ニ關スル事ナレハ寧ロ禁シタル方可ナリ
（周布委員）
同種類ノ商業ニアラサル時ト雖モ同一ナルヤ
（本尾委員）
然リ
（細川委員）
第五十一條ノミヲ見ル時ハ些少ノ取引ノ取除ケナキハ不都合ナリ此取除ハ本條ニ記スルヨリハ第五十一條ニ記スル方適當ナルヘシ
○本條ハ「所業」ヲ「所爲」ニ改ム
○第六十五條
主人相當ノ給料ヲ與ヘス或ハ反法若クハ不當ノ業務ヲ命シ或ハ其安全健康若クハ名譽ヲ害シ又ハ害セントスル取扱ヲ受クル時ハ使用人ニ於テ何時ニテモ退去スル事ヲ得可シ
見習人ハ營業上ニ於テ受ク可キ教導ヲ受ケサルカ或ハ常ニ家事ニ使役セラルヽ時ハ契約期限中ト雖供退去スル事ヲ得可シ
（周布委員）
僅カニ家事ニ使役セラルヽ如キハ取除ナルヘキハ勿論ナリ故ニ「家事ノミニ」トセハ如何
（委員長）
相當ハ約定ト解スヘキヤ
（本尾委員）
然リ
○第六十六條
雇入契約ハ主人ノ死亡ニ依テ解クルモノニ非ス然レ供商業使用人ノ死亡又ハ雇入レラレタル營業ノ廢止ニ依テ解クルモノトス若シ其營業他人ニ移ル時ハ第六十條ニ從テ雙方ニ預吿退去ノ權利ヲ有スルモノトス
○本條ハ異議ナシ
○第七章 商事上ノ契約
○第一款 契約ノ種類
○第三百十九條
商事上ノ契約ハ明約又ハ默約ニ取結ヒ得ルモノトス
○本條ハ「ニ」ノ下ニ「テ」ヲ加フ
○第三百二十條
商事契約ノ旨趣ハ商賣慣習ト商人タル者ノ當然ナル思想トヲ以テ解釋シ得可キ眞實明確ナル雙方ノ合同意思ニ依テ定マルモノトス
○本條「商事上ノ契約」トアルハ總テ「商事契約」ト改ム
于時午後第三時散會