○第二讀會第七回
明治廿年三月十一日
欠席 箕作委員
仝 岸本委員
午前
○第二十九條
營業ト商號トヲ併セテ賣讓スルニ際シ特約ナキ時ハ買主讓受主ニ於テ舊商號ヲ保續スルト變更スルトニ拘ハラス第三者トノ關係及負債得意先並ニ商業帳簿モ併セテ附從スルモノト看做ス可シ
商號買受讓受ノ時特約アリト雖トモ之ヲ公吿中ニ明揭セサル時ハ其契約ハ第三者ニ對シテ無效トス
（細川委員）
本條ノ場合ニ於テハ登記公吿ヲ爲スナルヘシ
（本尾委員）
然リ
（細川委員）
變更トアリ營業ハ變更セサルモ商號ノミヲ變更スル場合ナルヤ
（本尾委員）
然リ賣讓ノ當時タルト後日タルヲ問ハス營業ヲ其儘ニ爲シ屋號ヲ變シタル場合ヲ云フナリ
（細川委員）
原文ニハ後トアリ故ニ「後」ノ語ヲ挿入セハ如何
又營業ト商號トヲ併セテ讓受タル者後日ニ至リ兩者ヲ改メタルトモ其負債ヲ免ルヽ事ヲ得サルナリ
（本尾委員）
然リ
（細川委員）
負債ト商業帳簿ノ事ハ特約ナキ時ハ從屬セサルモノト爲ス方可ナルカ如シ
（本尾委員）
實際ハ必ス特約ヲ爲ス事多カルヘシ歐州ノ慣習モ亦同一ナルカ如シ
（委員長）
八百善ヲ八百膳ト云ヒ又ハ精養軒ヲ西洋軒ト云フカ如キハ同音ニシテ前者ノ營業ヲ害スル事大ナリ是等ノ取締ヲ付ケタキモノナリ
（本尾委員）
此取締ヲ付クルニハ紛ハシキ商號ヲ禁スルノ條ヲ設ケサルヘカラス
（周布委員）
省令ヲ以テ商號條例ヲ領布シ之ヲ保護スルヲ正當トス
（長森委員）
然リ本法ノミニテハ紛ハシキモノハ禁セサルニ依リ文字異ナリテ同音ノモノ出テ」營業上ニ妨害ヲ爲ス事多キナリノ文字ハ保續トアル以上ハ挿入スルニ及ハサルナリ
○本條ハ「舊」ヲ削リ後來「其」ニ改ム
（鶴田委員）
帳簿ヲモ附從スルモノト看做ストハ假令ヒ受取ラサルモ受取リタルモノトスルノ意ナルヤ
（細川委員）
否帳簿ヲモ賣讓シタルモノトスルナリ故ニ法律上自ラ帳簿ヲ移轉シタルモノト爲スナリ
○第三十條
營業ト商號トヲ併セテ賣讓シ賣主讓主ニ於テ再ヒ其營業ヲ爲サヽルノ契約ヲ結ヒタル時ハ其契約ノ履行ハ爾後十年間一地方內ニ限ルモノトス
（細川委員）
一地方內ハ「其地方內」ト改ムヘシ（之ニ決ス）
（本尾委員）
商社法及第二十五條第二十六條ノ一地方トハ原語異ナリト雖モ意味ハ同一ナリトス
（周布委員）
契約ヲ以テ土地ヲ限リタル時ハ其契約ニ從フハ勿論ナルヘシ
（本尾委員）
然リ若シ契約ニ明記セサル時ハ其契約ヲ爲シタル土地內ヲ限リトス
○第三十一條
他人ノ商號ヲ濫用シタル者又ハ第二十九條及ヒ第三十條ノ規定ニ違ヒ義務ヲ履行セサル者アル時ハ被害者ハ之ニ對シテ其所爲ノ排除及損害ノ賠償ヲ要求スルコトヲ得可シ其損害ノ有無及ヒ多寡ハ該營業ノ品等及大小並ニ所爲ノ度數又ハ時限ノ長短ヲ參照シ敢テ證據ノミニ依ラスシテ判事之ヲ判決ス可シ
（周布委員）
要求トハ裁判所ニ求ムルニアラスシテ本人ニ對シタル語ナルヘシ
（本尾委員）
然リ
○本條ハ「排除」ヲ「停止」ニ復シ「敢テ」ヲ削ル
出席岸本委員
○第四章 商業帳簿
○第三十二條
各商人其業體ノ慣例ニ從テ商業帳簿ヲ設備スルノ義務アルモノトス其帳簿ニハ順序ヲ立テ見易キ方法ヲ設ケテ每日ノ取引他人ト取結タル權利義務商品ノ出入及金錢ノ出納ヲ日々記入シ又家事費用商業費用ノ各總額ヲ月々記入スヘシ
小賣ハ現金賣掛賣ノ別ナク逐一ニ之ヲ記入スルヲ要セス日々ノ賣上總高ノミヲ記入ス可シ
（細川委員）
家事費用トハ卽チ民事ノ費用ナリ商業帳簿ノ部ニ民事ノ事ヲ命スルハ尙ホ得タルモノトセス
（本尾委員）
家事費用ハ營業上ノ計算ト密接ノ關係アルヲ以テ之ヲ記セシムナリ又破產ノ場合ニ於テハ最モ必要トナルナリ
（細川委員）
然ラハ商事ニ關係アル家事費用ト爲スニ於テハ敢テ不可ナリトセス
（長森委員）
慣習ニ於テハ家事費用ハ別段ノ帳簿ニ記スルナリ
（岸本委員）
佛ニテハ家事入費ヲ記載スルハ營業ト關係アルモノヲ云フ婚禮ノ入費ノ如キハ此語ニ包含セサルナリ
（長森委員）
注ニ依レハ營業上ニ關係アルト否ヲ問ハス總テノ家事入費ヲ云フナリ
（本尾委員）
商社法ニ於テハ本條ヲ獨法ノ如ク改正セリ其改正ニ依レハ簡易ニシテ盡セリ
（細川委員）
其改正ニ依レハ民商就レ共明瞭ニ記載スルノ義務アルニ依リ本條ト異ナリテ疑團ヲ氷解スル事ヲ得ルナリ
本條ノ「金錢ノ出納」トアルニ依レハ家事費用ノ語ハ重復スルカ如シ
（本尾委員）
金錢ノ出納トハ商業上ノモノヲ云ヒタルモノナレハ重復セサルナリ
（周布委員）
本條ハ商社法ニ記スル條ト同一ニ改正スルヲ可トス
（委員長）
然リ就テハ商社法第九條ノ如ク改正スヘキ樣質問スヘシ
（本尾委員）
諾
○本條ハ改正ヲ質問スル事ニ決セリ
○第三十三條
各商人ハ開業ノ時及每年三月以內ニ不動產動產ノ財產目錄並貸借對照表ヲ作リ共ニ之レカ爲メ設ケタル帳簿ニ記入シテ署名捺印スヘシ
財產目錄及ヒ對照表ヲ作ル時ハ商品及要求權其他總テノ財產ニ當時ノ相場又ハ常價ヲ附スヘシ辯償ノ慥カナラサル要求權ニ付テハ其推知シ得ヘキ損失額ヲ控除シテ之ヲ記シ又到底損失ニ歸スヘキ要求權ハ全ク記スヘカラス
（細川委員）
當時ノ相場ト常價トノ區別如何
（本尾委員）
當時ノ相場トハ相場會所ノ相場表ヲ云フ若シ其相場表ナキ時ハ常價ヲ記スルナリ
（委員長）
不動產動產ノ總目錄トアリ日本ニテ之ヲ記載スルハ隨分困難ナリ且動產ヲ悉ク記載スルカ如キハ尤モ不可ナルモノトス
（岸本委員）
商人社會ニ於テハ此目錄ヲ記スルカ如キハ決シテ困難ナリトセス
（細川委員）
日本ニテハ到底實行シ難シ何トナレハ動產ニ逐一時價ヲ付スルハ能ハサル事ト云フモ不可ナカルヘシ
（委員長）
本條ハ何ノ爲メ如此困難ナル手續ヲ命スルヤ
（本尾委員）
相手方ニハ勿論公衆ニ對シテ信用ヲ失ハサラシメンカ爲メナリ又獨法ノ說明ニ依ル時ハ臺所ノ茶碗マテモ記スヘシトノ意味ニハアラサルナリ
（長森委員）
本條ナキ時ハ商業帳簿ノ規定ヲ設クルモ效力ナキナリ
（岸本委員）
然リ本條ノ手續ヲ爲サシメンカ爲メ商業帳簿ノ規定ヲ設タル所以ナリ
（委員長）
小商人ニ此手續ヲ爲サシムルハ困難ナル事ト云フヘシ
（長森委員）
故ニ小商人ノ取除ヲ今少シク擴張スヘシ尤モ大小商人ヲ問ハス帳簿ヲ設ケサル時ハ自己ノ損失トナルノミナレハ敢テ强令スルモノトハ同視シテ論スルヲ得サルナリ
○本條ハ修正ナシ
于時午後第三時十分散會