○第一讀會第七十四回
明治十九年十一月廿四日
欠席 周布委員
仝 岸本委員
午前十時開會
○第千十八條
乘客賃ノ保險ハ被保險者ヲシテ航海ノ延長乘客ノ船移シ避難港ニ於ケル乘客ノ住賄他船ヲ以テスル乘客ノ運漕食料ノ損失又ハ損害等總テ海難ノ爲ニ生シタル乘客運漕費運上額ノ辨償ヲ要求スルノ權アラシム
（箕作委員）
運上額ハ過上額ノ誤リナルヘシ
（本尾委員）
然リ
（委員長）
乘客賃ノ保險トハ如何
（本尾委員）
乘客賃ノ保險トハ例ヘハ無客ノ運賃ニシテ若シ海失ニ罹ルトキハ非常ノ損失ヲ蒙ムルナリ卽チ若シ途中港ニ於テ滯留スルトキハ乘船客ハ之ヲ賄ハサルヘカラス而シテ之ヲ當乘船客ヨリ之ヲ取ル事ヲ得ス故ニ大ニ損害ヲ蒙ムルニ至ル
乘客ノ船移シトハ例ヘハ長崎迄行クノ途中ニテ難破ニ罹リ不得止他船ヲ以テ長崎迄運漕スル場合後ノ他船ヲ以テ乘客ノ運漕云々トハ到達港ニ至リ艀ヲ以テ陸ニ上ケシムル場合ヲ云フ
（箕作委員）
白國法ニ依ルトキハ本尾委員ノ說明ト全ク反對ナリ前文ハ艀ノ費用ニシテ後文ノ方他ノ船ニテ運漕スル事トセリ此意義ヲ以テ原案者モ立案セシニハアラスヤ
（本尾委員）
例ヘハ長崎迄五圓ノ船賃ヲ以テ保險シタルニ難破ノ爲メ他船ニ移シテ到達港迄至ラ營メタルトキ尙他船ニハ五圓ヲ支拂ヒタルトキハ之ヲ要求スルノ權アルモノトス
（細川委員）
就テハ辨償ヲ要求スルトアルヲ以テ其乘船客ノ賃ノ全額ニアラスシテ其途中ヨリ生シタル差額丈ニ止マルモノナルヘツ（本尾委員》然リ五圓ノモノ難破ノ爲七圓トナリタルトキハ其差額ニ圓ヲ辯償セシムルモノトス
○本條ハ乘客賃ソ保險ノ下ニ「ヲ爲シタルトキ」ヲ加ヘ「ヲシテ」ヲ「ニ於テ」ニ「住賄」ヲ「賄料」ニ「食料」ヲ「糧食」ニ改メ「又ハ」ヲ削リ結尾ノ「アラシム」ヲ「アルモノトストニ改ム
○第千十九條
通常ノ船賃又ハ乘客賃ノ增加ヲ以テ積荷若クハ乘客旅荷物ノ危險ヲ擔當シタルトキハ保險ノ原則ヲ以テ之ヲ論ス
（本尾委員）
本條ハ船長カ運漕賃等ヲ增加シテ積荷等ヲ保險スルヲ云フ
（箕作委員）
普通ト反シ船長荷主ノ爲メ保險者トナルモノナリ
○本條ハ「船賃」ヲ「運漕賃」ニ「乘客賃ノ增加ヲ以テ」ヲ「乘客賃ヲ增加シテ」ニ「原則ヲ以テ之ヲ論ス」ヲ「原則ニ依ル可シ」ト改ム
○第三款 放讓
○第千二十條
放讓ハ全保險額ノ支拂ヲ受ケテ其保險シタル物件ヲ保險者ニ抛與スルニ在リ
放讓ハ左ノ場合ニ於テ之ヲ爲スコトヲ得
一 船舶沈沒シ若クハ破碎シ若クハ行方知レス若クハ官認ヲ以テ廢物トシタルトキ
二 船舶奪掠セラレ又ハ國ノ處置ニ因リ抑留セラレタルトキ
三 損失ノ價額ノ四分三ニ超ユルトキ
放讓ハ或ハ一部分ニ於テシ又ハ制限ヲ立テヽ之ヲ爲スコトヲ許サス且之ヲ取消ス事ヲ得ス
（鶴田委員）
本條ハ三項共ニ生シタルトキニ限ルヤ
（本尾委員）
否一項每ニ適用スルモノニシテ三項併生セサレハ能ハサルノ意ニハアラサルナリ
（長森委員）
奪掠中ニハ交戰國ノ爲メノミナラス海賊ノ爲メニ奪ハルヽモ亦包含スルヤ
（本尾委員）
然リ
（長森委員）
政府トハ重ニ敵國ノ事ヲ指スヤ
（本尾委員）
然リ
○本條ハ「放讓」ヲ「委棄」ニ「抛處ハスルニ在リ」ヲ「抛與スルモノトス」ニ「國ノ處置」ヲ「政府ノ處分」ニ改メ第三項ハ「價額ノ四分三ニ超ユル損失アル時」ト改メ末項ノ「或ハ」ノ二字ヲ削ル
○第千二十一條
船舶到達港ニ達セス且出航後又ハ其船舶ニ係ル最後ノ音信ヲ得タルヨリ十ケ月其沿岸航海ニ在テハ六ケ月ヲ經過シタルトキハ其船舶行方知レサルモノト視做スヘシ
期限ヲ定メテ保險ヲ受ケタル場合ニ於テ右ノ期限經過シタルトキハ其船舶保險期限內ニ喪失シタルモノト思料スヘシ
（箕作委員）
第二項ハ前項ソ行方知レサル船舶ニ付テノ規定ニシテ一般ノ事ヲ云フニハアラスヤ
（本尾委員）
然リ
（箕作委員）
思料ハ推測ト改ムヘシ（之ニ決ス）前數條ニ思料トアルハ皆推測ニ改ム
○本條ハ「右」ヲ「前項」ニ「思料」ヲ「推測」ニ改ム
正午時中止
午後一時開會
○第千二十二條
坐礁ノ船舶ハ之ヲ引卸シ修復ヲ加ヘテ到達港マテ航海ヲナスコトヲ得且保險者其必要ノ費用ヲ前貸スルトキハ廢物トシテ放讓スルヲ得ス但坐礁ノ爲メニ生シタル費用及ヒ海失ニ係ル要求權ハ被保險者之ヲ失フコトナシ
（本尾委員）
本條且以下ハ被保險者遺棄セントスルトキ保險者ヨリ必要ノ費用ヲ出スヘシトテ前貸ヲ爲ストキノ場合ヲ云フ
○本條ハ「得且」ヲ「得可クシテ」ニ改メ「放讓」ヲ「遺棄」ニ改ム
○第千二十三條
廢物ト認メラレタル船舶ノ積荷ヲ放讓シ得ルハ船長他船ヲ以テ之ヲ到達港ニ送達スルヲ得サルトキニ限ルヘシ但船長之ヲ借入レタルトキハ海失及ヒ積荷ノ救濟、積換、倉入、船賃增加等ニ因テ生シタル費用ハ保險者之ヲ負擔ス
出席周布委員
（長森委員）
送達スルヲ得サルトキトハ他船ハアルモ荷物ノ損傷シテ之ヲ送ル事ヲ得サルヲ云フヤ
（本尾委員）
否他船ヲ見出シ能ハサル場合ナリ
○本條ハ左ノ如ク改ム
廢物ト認メラレタル船舶ノ積荷ヲ遺棄シ得ルハ船長之ヲ到達港ニ送達ス可キ他船ヲ得サルトキニ限ル可シ但艦長他船ヲ借入レタルトキハ海失及積荷ノ救濟積換倉入運漕賃增加等ニ因テ生シタル費用ハ保險者之ヲ負擔ス可シ
○第千二十四條
被保險者ハ通知ヲ得タル日又ハ第千二十一條ニ定メタル期限ヲ經過シタル日ヨリ三日內ニ放讓ノ理由タル事實ヲ保險者ニ通知シ六ケ月內ニ放讓ヲ陳吿スルノ義務アリ若シ被保險者此期限ヲ愆マリタルトキハ唯タ保險契約ヨリ生スル尋常ノ要求權ヲ有スルノミ
（鶴田委員）
尋常ノ要求トハ保險額ヲ受クルヲ云フヤ
（本尾委員）
然リ
（鶴田委員）
然ラハ保險者ニ通知シタル結果ト同一ナラスヤ
（本尾委員）
否若シ其船舶後日存在シタルトキハ其保險額ハ保險者ニ還付セサルヘカラス淸愚棄シタル場合ニ於テハ例ヘ後日見出ス事アルモ保險額ハ還付スルニ及ハサルナリ
○本條ハ「通知ヲ得タル」ヲ「變故ヲ知リ得タル」ニ改ム
○第千二十五條
保險者ハ別ニ契約上ノ期限アルニ非サレハ放讓ヲ陳吿シタル後三箇月內ニ保險額ヲ支拂フヘシ但放讓ノ理由ニ供スル書類ヲ受取ラス且放讓シタル物件ニ附帶スル他ノ保險船舶抵當債約登記シタル要求及其他ノ要求ニ係ル通知ヲ得サル前ニハ此限ニアラス
右放讓ノ理由ニ供スル書類ニ對シテハ反對證ヲ立ツルヲ許ス
（本尾委員）
假令三ケ月後ニ至ルモ但以下ノ手續ヲ爲サヽルトキハ保險額ハ仕拂フニ及ハサルナリ凾
○本條ハ「物件ニ附帶」ヲ「物品ヲ負擔」ニ改メ「通知ヲ得サル前ニハ云々」トアルヲ「以前ニ在テハ之ヲ仕拂フ事ヲ要セス」ニ改ム第二項ノ「立ツルヲ許ス」ヲ「立ツル事ヲ得」ニ改ム
○第千二十六條
放讓ノ陳吿詐欺ニ出テタルトキハ被保險者ハ其保險上ノ權利ヲ失ヒ其放讓シタル物品ニ附帶スル要求ニ自ラ當ルヘシ
（本尾委員）
船カ第三者ニ貸金シタルトキ船ハ保險者ノ手ニ入ルトキハ其貸金ハ保險者ノ右回トナル若シ第三者其金員ヲ返サヽルトキハ被保險者之ヲ擔當シ返辯スルノ義務アルヲ云フ之ニ反シ船ノ借主ナルトキハ其船保險者ノ有トナツ保險者此ノ負債ヲ返辯セサルヘカラサルニ被保險者詐欺ノ陳吿ヲナシタルカ爲メ其負債ヲ自力ヲ「負擔シテ返辯スルヲ云フ
○本條ハ「物品ニ附帶」ヲ「物品ノ負擔スル」ニ改ム
○第千二十七條
放讓承諾又ハ有效ナル放讓陳吿ニ依リ其放讓物件ニ係ル被保險者ノ權利ハ保險者ニ移轉ス船舶ノ放讓ニハ救得シタル積荷ノ船賃ヲ含有ス但其船賃ニ附帶スル義務及ヒ費用ハ之ヲ扣除ス
（箕作委員）
有效ナル委棄トハ初メ保險者ニ於テ之ヲ拒ミタルモ法律上又ハ裁判々決ニ依リ有效ト認定セラレタル場合ナルヤ
（本尾委員）
然リ
（箕作委員）
但以下ノ意味如何マ
（本尾委員）
救得シタル費用ハ其救得セラレタル船賃ノ負推スルモノナレハ之ヲ差引ヲ云フ
○本條ハ「但以下」ヲ「其運漕賃ノ負擔スル義務及費用ハ此限ニ漏仕ラス」ニ改ム
○第千二十八條
被保險者ハ放讓ヲ陳吿シタル後ト雖トモ保險物件ノ救濟或ハ放還ノ爲メ及一層ノ損害ヲ避ル爲ニ可及的盡力スルノ義務アリ但保險者ハ其救得シタル價額ヲ限トシテ右ノ爲ニ用ヒタル費用ヲ負擔スヘシ
（本尾委員）
放還トハ奪掠セラレタル物品ヲ取戾スヲ云フ
（細川委員）
政府ノ抑留ノ解放モ亦之ニ入ルヘシ
（本尾委員）
然リ海賊ノ場合モ亦同シ「物件」ヲ「物品」ニ「或ハ」ヲコヽハ」ニ「放還」ヲ「回復」ニ「可及的」ヲ「成可ク」ニ改ム
○第千二十九條
奪掠又ハ國ノ抑留ニ遇フタル場合（第千二十條第二項）ニ於テ放讓ノ事實ヲ保險者ニ通知シタル後六ケ月內ニ裁判所判決又ハ沒收ニ至ラサルトキハ此期限內ニ放讓ヲ陳吿スルヲ得其奪掠ノ場合ニ於テハ已ヲ得サルトキニ限リ被保險者豫メ通知ヲ爲サス且保險者ノ委托ナクシテ買戾ヲ爲ス事ヲ得但此買戾ヲ以テ自己ノ計算トスルト否トハ保險者ノ隨意トス
（細川委員）
本條ノ裁判所ハ如何ナル裁判所ナルヤ、殼
（鶴田委員）
六ケ月ノ期限ハ已輔ニ定ノ期限ヲ示セリ然ルニ本條ニ於テハ六ケ月以凸剛ニ於テ舸刋決ヲ爲スノ場合ニハ其亠剛ニ爲スヘシトスルノ意ナルヘシ一
（本尾委員）
否六ケ月前ノ判決アルトキハ陳吿スル事ヲ得サルヲ云フナリ又六ケ月後ニ於テ判決シタル亦キニ當リ其船舶等ヲ所有主ニ下付スルニ決シタルトキト雖モ六ケ月ノ期限ヲ以テ委棄ハ有效ニナサヽルモノナリ
（箕作委員）
六ケ月ノ期限トアルヲ以テ通知ノ翌日ニテモ差支ナカルヘシ、气馳賄幽圈
（本尾委員）
然レトモ六ケ月中ニ若シ船舶ノ存在スルトキハ其委棄ハ無數ケトナルモノナリ又通例ハ被保險者ハ涌仙知ノ後ハ直ニ陳吿スヘシト雖モ保險者ハ裁判ノ都合アレハ六ケ月ノ期限迄ハ之カ承諾ノ有無ヲ被保險者ニ通吿セサルヘシ
（箕作委員）
白國法三依レハ六ケ月ヲ過サレハ委棄スル事ヲ得ス然レトモ若シ此期限內ニ判決アルトキハ直ニ之ヲ爲ス事ヲ得トセリ本條ハ六ケ月內ノ期限ニシテ之六ケ月內ノ判決アルトキニ到リ甚タ比較上不穩當ナル分如シ
（細川委員）
本條六ケ月ノ場合ハ一應質問セハ如何（之ニ決ス）
○本條ハ「國」ヲ「政府」ニ改メ其他ハ質議ノ上改案ノ事ニ決ス
○第千三十條
一タヒ陳吿シタル放讓ノ效力ハ他日船舶ノ救得又ハ歸航ノ爲メニ變スルコトナシ
○本條ハ異議ナシ
○第九卷 期滿得免
○第千三十一條
舩舶債主ノ要求權並ニ舩舶抵當債海失救濟ノ爲メノ要求權（第九百九十七條）ハ假令船舶所有者、船長又ハ船員ノ一身ニ對スル者タリトモ其權ヲ施行シ得ヘキ日ヨリ起算シ一ケ年ヲ以テ期滿得免トナル但登記シタル質主權（第九百十三條第十二項）ハ登記ノ日ヨリ起算シ三ケ年ヲ以テ期滿得免トナル
○本條ハ「期滿得免」ヲ「免除」ニ改ム
○第千三十二條
損失ニ係リ船長及保險者ニ對スル要求權ハ制限ナク積荷ヲ受取リ船賃ヲ支拂フタル時ヲ以テ消滅ス又海失或ハ救濟ニ係ル要求權ハ制限ナク積荷ヲ引渡シ其船賃ヲ受取リタル時ニ限リ亦然リ
其制限ハ積荷ヲ受取リ又ハ引渡シタル時ヨリ二十四時間內ニ申立ルニ非サレハ無效トス
（本尾委員）
制限ハ故障ト改ムヘシ
（鶴田委員）
又以下モ荷主ヨリ云フニアラスヤ
（本尾委員）
否船長ニ付テ言辭ヲ立テタルモノナリ
○本條ハ「損失」ノ下ニ「損害」ノ二字ヲ加ヘ「制限」ヲ「故障」ニ「受取リタル時ニ限リ亦然リ」ヲ「受取リタル時ヲ以テ消滅ス」ニ改ム
○第千三十三條
放讓ニ係ル訴訟ハ第千二十四條ニ定メタル期限ヲ以テ期滿得免トナル
（箕作委員）
本條ハ六ケ月內ニ陳吿シ加之其期限內ニ相手方ニ爭議アルトキハ之ヲ改メ寧ルヘカラス若シ否ラサルトキハ委棄ノ權ヲ失フナリ
（本尾委員）
然リ
○本條ハ「期滿得免」ヲコ免除」、ニ改メ普通手續卽チ陳吿ヲ以テ中斷一スル事ナキ理由ハ駈鳳議ニ決ス
于時三時閉會