○第一讀會第七十三回
明治十九年十一月廿二日
欠席 岸本委員
○午前第十時開會
○第千四條
船舶抵當債幷ニ其保險料ノ支拂ハ船舶投錨シ又ハ積荷ヲ陸揚シタルトキヨリ八日內ニ之ヲ要求スルヲ得若シ此期限內ニ支拂ハサルトキハ抵當ノ物品ニ就テ質主ノ權利ヲ施用スルヲ得
（箕作委員）
投錨シ又ハ陸揚トアリ通例投錨ノ後陸揚スルモノナリ
（本尾委員）
投錨スルモ陸揚池サル事アリ例ヘハ物品ノ相場下落シタルトキ又ハ投荷シタルトキ等是ナリ
（箕作委員）
佛法ニハ船ノ抵當ナルトキハ投錨シタルトキトシ積荷ヲ抵當トシタルトキハ陸揚シタルトキト爲セリ本條モ佛法ト同一ノ精神ニハアラサルカ一
（本尾委員）
獨法ニ案スルニ陸揚ト投錨トノ區別ナク唯八日內ニ之ヲ要求スルヲ得其八日後ハ普通ノ利息ヲ付スルモノトストアリ
（箕作委員）
投錨ト陸揚トハ抵當品ノ異ナルヨリ揭載シタルモノナルヤ若シ果シテ然ラハ之ヲ區別セラレソ事ヲ質問セラレタシ
（本尾委員）
諾
退席周布委員
（細川委員）
原文ニ依レハ積荷ナケレハ投錨シタルトキト解セラルルナリ
○本條ハ「船舶抵當」ヲ「與船債」ニ「保險料」ヲ「利息」ニ「用」ヲ「行」ニ改ム
○第千五條
航海ヲ變更シ或ハ商品ヲ他船ニ積換ユル等總テ危險ノ變更ヲ生シタルトキハ避ク可カラサル必要ニ起因シタルニ非サレハ債主海上危險ノ責ヲ免ル
（本尾委員）
例ヘハ東京ヨリ長崎迄ノ危險ヲ以テ契約シタルニ長崎一一至ラスシテ他ノ地方ヘ航路ヲ變シタルトキヲ云フ但シ其變更ハ已ムヲ得サルニ出テサル略キハ債主ハ危險ノ責任ヲ免ルニナリ
（箕作委員）
本條ノ場合ニテハ債主ハ船ノ安着シタルモノト看做シ元金及利息ヲ得ルヲ云フナリ又佛法ハ積荷ニ就テノミ規定セリ
○本條ハ「或」ヲ「マハ」ニ改ム
○第千六條
航海中海上危險ノ生シタルカ爲メニ抵當物品全ク喪失シタルトキハ船舶抵當債ノ支拂ヲ要求スルヲ得ス唯タ其損害或ハ一部分ノ喪失ニ止マルトキハ其殘ル所ノ價額マテヲ限トシ之ヲ要求スルヲ得但此場合ニ於テハ海失費及救濟費ヲ扣除ス
右兩場合ニ於テ海失ノ辨償額ハ船舶抵當債主ノ所得ニ歸ス
（箕作委員）
第二項ハ第一項ニテ債主ノ海失費ヲ負擔スルニ依リ海失ヨリ生スル利益モ亦債主ニ歸セサルヘカラストスルニ在ルヘシ
（本尾委員）
然リ》ヒ
（箕作委員）
損害或ハ云々トアルハ抵當物ニ損害ヲ受タルニ止マルトキ又ハ一部分ノ喪失ニ至リタルトキト云フ意ナルヘシ
（本尾委員）
然リ
○本條ハ左ノ如ク修正ス
第千六條航海中海上危險ノ生シタルカ爲メニ抵當物品全ク喪失シタルトキハ與撫闇債ノ支一拂ヲ要求スル事ヲ得ス祇當物品損由舌ヲ受ケ又ハ一部分ノ亠喪失シタルトキハ其殘ル所ノ價額マテヲ限リトシ之ヲ要求スル事ヲ得但海失及救濟費ヲ扣除ス可シ
右兩場合ニ於テ海失ノ辯償額ハ典船債主ノ所得ニ歸ス
○第八卷 海上保險
○第一款 保險契約ノ取結
○第千七條
凡ソ航海ノ危險ニ當ル正當ノ財產上ノ利益ニ就テハ航海ノ全部又ハ其一部ニ係リ平時ト戰時トヲ問ハス航海前又ハ航海中ニ於テ保險ヲ受クル事ヲ得
（細川委員）
正當ノ財產上ノ利益トセシハ賭事トナラサルヲ要スルカ爲メナルヘシ
（本尾委員）
然リー
（長森委員）
利益ノ原語ノ義務如何
（箕作委員）
原語アンテレツセート云フ卽チ利害ノ關係アルト云フ意ニシテ其利害ハ金圓ニ積ルヲ得ヘキモノトノ義意ナリ
○原案ノ儘
○第千八條
殊ニ保險ニ付スル事ヲ得ルモノハ船舶（其附屬品トモ）船賃、乘客賃、積荷、積荷ノ賣却利益仲買手數料、仲立人手數料、船舶抵當債ニ係ル要求海失ニ係ル要求其他船舶債主ノ要求幷ニ保險者ノ利益トス但或ハ合シ或ハ個々ニ或ハ部分スル事ヲ得
船舶乘組員給料ノ保險ハ無效トス
（本尾委員）
仲買人手數料トハ例ヘハ船ノ到着スル前ニ於テ到着地ノ仲買人ニ預メ賣却ヲ委托シタルトキ途中ニテ其物件消失スルモ荷主卽チ委託者ハ仲買人ニ既ニ爲シタル手數料ヲ拂ハサルヲ得サルニ依リ荷主ハ其手數料ヲ保險ニ付スル事ヲ得ルヲ云フナリ
○本條ハ「保險ヲ受ル事ヲ得ルモノハ殊ニ船舶及附屬品、運漕賃、乘客賃」ニ「利益」ヲ「益金」ニ「船舶抵當」ヲ「典船」ニ改メ「部ト」ノ下ニ「シテ保險ヲ受クル事」ト爲ス
（箕作委員）
船員ト乘組員トノ區別ハ如何
（本尾委員）
船員ト云フトキハ船長ヲ包含セサルナリ
○第千九條
船舶ノ保險價額ハ危險ノ始マル時及地ニ於テ船舶ノ有スル價額トス
○本條ハ原案ノ儘
○第千十條
船舶ノ危險ハ積荷又ハ底荷ノ積入ヲ始ムルトキニ始マリ其陸揚ノ終リタル時又ハ不當ノ延滯ナクシテ終リ得ヘキトキニ終ル但別ニ契約アレハ此限ニアラス
（本尾委員）
不當ノ延滯ナクシテ終リ得ヘキトキハ例ヘハ十五日ヲ以テ陸揚ノ終ルヘキヲ船長ノ過失ニテ二十日マテ延引セシトキハ十六日以後ノ責任ハ保險者ニ於テ負擔セサルヲ云フ
○本條ハ原案ノ儘
于時正午十二時中止
午後零時三十分開會
○第千十一條
船舶抵當債及海失上ノ要求ハ唯タ其抵當トシ或ハ共擔義務アル物品ニ就テ保險ヲ受クル事ヲ得
（箕作委員）
佛法ヲ援引セシハ註ノ爲メナルカ如シ
（本尾委員）
然リ註ニ無效トアル其援引タルニ過キスシテ本文ニハ關係セサルナリ
（細川委員）
本條ハ當然ナル場合ニシテ別段揭載ヲ要セサルカ如シ
（本尾委員）
案スルニ典船債ノ要求ハ金圓ニアラスシテ抵當品タル物件ノ價額ニアリトスルニ在ラン例ヘハ無事ナルトキハ千圓ヲ拂フヘシトアル契約ハ千圓ナル物件ノ價額ヲ償フ契約ナリト解スルヲ云フナルヘシ
○本條ハ左ノ如ク修正
第千十一條典船債及海失ニ係ル要求ハ其抵當トシ又ハ共擔義務アル物品ニ付テノミ保險ヲ受クル事ヲ得
○第千十二條
保險契約ヲ取結ヒタル後戰爭起リ又ハ國ノ處置ニ出ツル危險生シタルトキハ保險料ヲ相當ニ增加スル事ヲ豫メ定メ又ハ其時約定スルニ非サレハ雙方契約ヲ解クノ權アリ
解約ノ場合ニ於テハ既ニ支拂ヒタル保險ヲ還付スヘシ
○本條ハ「國ノ處置」ヲ「政府ノ處分」ニ改ム
○第二款 保險者及被保險者ノ權利及義務
○第千十三條
被保權者ハ危險ノ始マル前ニ航海ヲ止メタルトキハ保險額ノ二百分一ヲ賠償シテ契約ヲ解ク事ヲ得
本條ハ「二百分一」ヲ「百分ノ五厘」ト改ム
○第千十四條
保險者ハ暴風、難破、坐礁、氷流、衝突、投荷、火災爆裂、盜難、奪掠、已ヲ得サルニ出タル航海、線路又ハ船舶ノ變更乘組員ノ不正、過失等總テ海上危險ニ因テ生シタル損失ヲ負擔ス但契約上例外ヲ立テタルモノハ此限ニアラス保險者ハ戰爭又ハ其他殊ニ奪掠宣戰報讎封港鎖港差押等ノ如キ總テ戰爭其他國ノ處置ニ出ル危險ハ明約ヲ以テ其責ヲ擔當シタルニ非サレハ之ニ任スルコトナシ
（箕作委員）
第一項ノ奪掠トハ海賊等ニ係リ本項ハ敵國ノ奪掠ヲ云フカ
（本尾委員）
然リ
（箕作委員）
字典ヲ案スルニ封港トハ敵國ノ處分ニリ鎖港トハ自國ノ處分ニテ出入ヲ禁スルノ區別ナルカ如シ
（本尾委員）
然ラン
（箕作委員）
第一項ノ奪掠ハ却奪ニ改メ以テ戰時ノ奪掠ト區別スヘシ（之ニ決ス）
○本條第一項「奪掠」ヲ「却掠」ニ改メ第二項ハ左ノ如シ
保險者ハ奪掠、宣戰、反槍、封港鎖港、捕掌等ノ如キ總テ戰爭其政府ノ處分ニ出ル危險ハ明約ヲ以テ其責ヲ擔當シタルニアラサルハ之ヲ任スル事ナシ
○第千十五條
保險者ハ水先案內料、挽船料、船舶又ハ積荷ヨリ支拂フヘキ手數料、諸稅、經年、腐朽又ハ虫蝕ニ因テ生シタル損害、通常ノ使用ニ因テ生シタル耗損船長又ハ船員ノ行爲ニ起因スル舩舶所有者ノ責任、航海不能力及艤裝又ハ乘組員ノ不足及ヒ成規上書類ノ不備ニ因テ生シタル損害ヲ負擔セス
（鶴田委員）
航海不能力トハ船ノ老朽ニ因ル等ヲ云フヤ
（本尾委員）
老朽ノ外製造ノ粗惡又ハ小船ナルカ如キ場合ヲ云フ
○本條ハ「諸稅」ノ上ニ「及」ヲ加ヘ「經年、腐朽」ヲ「老朽、腐壞」ニ改メ「不能力」ノ下ノ「及」ヲ削除ス
退席箕作委員
○第千十六條
損害ヲ賠償スヘキ保險者ノ義務ハ被保險者ノ損害ニ就テ船長又ハ其他ノ者ニ對シ賠償要求ノ權アルカ爲メニ消滅スルコトナシ
（鶴田委員）
被保險者ハニ重ノ利益ヲ得ルニ至ルナリ
（本尾委員）
否第七百二十條ニ依リ被保險者ノ船長ニ封スル要求權ハ保險者ニ移轉スルニ依リニ重ノ利益ヲ得サルナリ蓋シ第七百八十六條ノ末項ニ從ヘハナリ
○本條ハ原案ノ儘
○第千十七條
契約ニ定メタル期限外若クハ到達港外ニ航海ヲ延長シタルトキハ相應ニ保險料ヲ增加スヘシ但之ヲ短縮シタルトキハ減少スルコトナシ
○本條ハ「シタル」ヲ「スル」ニ改ム
出席周布委員
（細川委員）
短縮トハ期限又ハ航海ヲ短縮スルノ原語ナルヤ
（本尾委員）
然リ
于時午後三時閉會