○第一讀會第七十二回
明治十九年十一月十九日
欠席 岸本委員
午前十時開會
○第九百九十三條
配當ノ後ニ於テ海中ニ投シタル貨物再ヒ其所有者ノ手ニ戾リタルトキハ其所有者ハ救得費用ト其抛棄ノ爲メニ生シタル損害ノ額トヲ扣除シテ前ニ受ケタル割前ヲ關係者ニ還スノ義務アリ
（本尾委員）
抛棄ノ爲メ生シタル損害トハ假令石炭ヲ投入レタルトキ此代價五十斤ナリシニ水入レノ爲メ三十圓トナリシ場合ヲ云フ
○本條ハ異議ナシ
○第九百九十四條
故意ニ出テス或ハ獨リ船舶若クハ積荷ノミニ生シタル損失及費用ハ總テ之ヲ特別海失トシ各其所有者ノ擔當スル所トス
（本尾委員）
或ハ獨リ云々ノ損失及費用ハ故意ト否ラサルトヲ問ハサルナリ卽チ隨意ノ損失ト雖モ本條ニ包含スルモノトス
（細川委員）
故意ノ損失ハ何ヲ云フヤ
（本尾委員）
獨法ニ於テハ大海失ニ屬セス又第六百二十二條ノ水先港又ハ港航ノ如キモノヲ除クノ外ハ都テ小海失ニ屬ストセリ
（長森委員）
積荷ヲ投入シタルトキハ大海失ニ屬スルモノニアラサルヤ
（本尾委員）
然レトモ大海失ニ屬スルモノハ該條ニ記列セリ故ニ本條ハ大海失ニ屬セサル場合ト見サルヘカラス
又故意ニ出ル損失トハ例ハ荷主材木ヲ送ラン下スルニ餘リ長過キルヲ以テ之ヲ斷チテ積込ムカ如キ荷主一人ノ損失ニシテ其者ノミ擔當スルモノナリ
（周布委員）
本條ハ若シ船舶ト積荷トヲ論セス船ヲ救クル爲メニ積荷ヲ海中ニ投入シタルトキハ卽チ大海失ニ屬獵ルモノナラスヤ
（本尾委員）
否本條ノ場合ハ自己ニ於テ投入スル場合ニツテ共同危險ニハ入ラス其例タル獨リ荷物又ハ船舶ニノミ係ル損失ニ付テ云フ
（箕作委員）
特別海失ニ對スル如ク大海失ヲ共同海失トセハ如何（之ニ決ス）
（細川委員）
特別海失トハ少シク通常ノ樣ニ考ヘラレ又非常ナルハ平凡ナルトノ意味ニテ楷級上ヨリスルモ特別トスルヰキハ非常ニ上級ナルカ如ク思意ス故ニ特別ヲ別箇ト改ムヘシ（之ニ決ス）
○本條ハ「或ハ」ヲ「又ハ」ニ改メ「積荷」ノ下ニ「ノ爲メ」ヲ加ヘ「特別海失」ヲ「別箇海失」ニ改ム
○第九百九十五條
水先案內料、挽船料、解氷費、稅金、手數料等及檣、帆又ハ機關ノ使用過度ナルカ爲メニ生シタル船舶ノ損害等總テ通常及臨時ノ航海費用幷ニ其損害ハ反對ノ慣習アルニ非サレハ獨リ之ヲ船舶ニ負擔セシム
（箕作委員）
一解氷費トハ如何
（本尾委員）
北海等ニ於テ進航ヲ妨クル氷ヲ破毀スル費用ヲ云フ
（鶴田委員）
例ヘハ海失ノ爲メ水先料等ノ費用ヲ爲シタルト雖モ本條ニ記列スル場合ニ於テハ獨リ船舶ニ於テ負擔スル事ヲ定メタルモノナルヘシシ一
（本尾委員）
然リ通常及臨時ノ航海トアルヲ以テ海失ニ包含スルモノト見サルヘカラス
○本條ハ異議ナシ
○第九百九十六條
船舶ノ衝突、爆發若クハ其他ノ原因ニ因リ船舶及ヒ積荷ニ加ヘタル損害ノ責ハ其之ヲ起シタル者ニ歸ス但偶變又ハ雙方ノ罪過ニ因テ其災難ヲ生シタルトキハ雙方各其被ムリタル損害ヲ擔當ス
雙方ノ罪過不同ナルカ或ハ災難ノ原因不明ナルトキハ公平ノ認定ヲ以テ其損害ヲ配當ス
（箕作委員）
雙方トハ如何
（本尾委員）
ニ艘ノ問又ハ一艘中ト雖モ船ト荷物トノ間ヲ云フ又衝突ノトキ一方ノ荷物ニマテ損害ヲ生シタルトキハ先方ノ船ト此方ノ荷物トノ關係ヲ生ス故ニ雙方三方マテ關係ヲ生スルモノナリ
（長森委員）
公平ノ酌量トハ必スシモ裁判官ノ判定ヲ請フ場合ヲ云フニハアラサルカ如シ
（本尾委員）
然リ
○本條ハ「衝突」ノ下ニ「ニ依リ又ハ」ノ五字ヲ加ヘ「其之ヲ」ノ「其」ヲ削リ「罪過」ヲ「過失」ニ「認定」ヲ「酌量」ニ「配當ス」ヲ「分擔セシム」ニ改ム
○第九百九十七條
海難ノ時乘組員ノ既ニ退去シ又ハ抛棄シタル破船又ハ貨物ヲ救テ之ヲ保全シ或ハ其救援又ハ救拾ニ就テ乘組員ヲ助ケテ其功ヲ奏シタル者ハ救濟賃若クハ助力賃ヲ要求スル事ヲ得ヘシ其額ハ危險ノ大小ト費用ト時間ト其救濟並ニ助力ノ難易危安トニ依リ裁判官ノ意見ヲ以テ之ヲ定ム但其救援シ又ハ救拾シタル物品ノ價額ノ三分一ヲ通例トシ其半額ヲ最上限トス
○本條ハ「退去シ」ノ下ノ「又ハ」ヲ「若クハ」ニ「破船」ヲ「船舶」ニ「或ハ」ヲ「又ハ」ニ「救援」ノ下ノ「又ハ」ヲ「若クハ」ニ「就テ」ヲ「付キ」ニ「危安」ヲ「安危」ニ改メ「並ニ」ヲ削ル
于時十二時中止
午後一時開會
○第九百九十八條
海失其他ノ損害ノ爲メ保險者ニ對スル要求ハ其損害大海失ニ在テハ船舶ト積荷トノ保險額合計ノ百分一特別海失ニ在テハ損害ヲ被リタル物件ノ保險額百分一以上ニ當ルトキニ非サレハ之ヲ爲スコトヲ得ス
（本尾委員）
本條ハ船ハ投セサルモ荷物ノ損シタルトキハ船ト荷トヲ合シテ百分一以上ニ當ラサレハ保險者ニ對シ求ムル事ヲ得サルナリ
○本條ハ「大海失」ヲ「共同海失」ニ改メ「合計百分一」昏アル下ニ「以上」ノ二字ヲ加ヘ「特別」ヲ「別個」ニ改ム
○第九百九十九條
「海失無義務」トノ細條アレハ保險者ハ總テ海失ノ責ヲ免ル但放讓ノ事由アルトキハ此限ニアラス此場合ニ於テハ放讓ト海失要求トノ間被保險者ノ擇フ所ニ任ス
（本尾委員）
放讓トハ荷物ヲ保險者ニ渡シテ保險料ヲ取ルヲ云フ然レトモ之ヲ爲スニハ其場合アリ第千二十條ニ規定スル所是ナリ
○本條ハ「」ヲ削リ「無義務」ノ下ノ「ト」ヲ削リ「細條」ヲ「條目」ニ「要求」トノ間ヲ「要求トノ內」ニ改ム
○第七卷 船舶書入契約
○第千條
船舶抵當債約ハ第九百三十六條ニ依リ定繫港外ニ在テ船舶若クハ積荷ノ已ヲ得サル需用ノ爲メ債主保險料ヲ受ケテ航海中其抵當トシタル物品ノ海上危險ヲ擔當スルトノ約束ヲ以テ船長之ヲ取結フモノトス
許可書及ヒ船舶抵當債約書ニハ其債約ノ事實、目的船名、航海並ニ抵當物品及ヒ其價額ヲ明記スヘシ
船舶抵當債額其抵當物品ノ價額ニ超ユルトキハ債主ハ其過上高若シ負債者ニ詐僞ノ意アリタルトキハ全債額ニ利金ヲ合セテ如何ナル事情アルヲ問ハス之ヲ取戾ス事ヲ得但豫期ノ利得ハ積荷ノ價額ニ算入スルヲ許サス
（委員長）
保險トノ異別ハ如何
（本尾委員）
本條ハ若シ船舶カ無難ニ到達港ニ至ルトキハ其債金ハ返濟スヘシ若シ難破シタルトキハ別ニ返戾スルニ及ハサルノ契約ナリ種類ハ保險ト雖モ幾分カ異ナル所アリ何ントナレハ保險料ナルモノハ一モ受取ルモノニアラサレハナリ
（箕作委員）
書入契約ト揭クルトキハ普通ノ書入契約ト同一ナルノ疑ヒナキニアラス故ニ何トカ名義ヲ異ニスル方可ナルヘシ
（委員長）
典船契約ト改ムヘシ（之ニ決ス）
（箕作委員）
如何ナル事情アルヲ問ハストハ削除セハ如何
（本尾委員）
若シ其事情アリトスルトキハ削除セサル方可ナルカ如シ
（鶴田委員）
合セテト云フハ過上高ト全債額トニ付テ云フモノニシテ利息ハ過上高ヲモ付スルノ意ナルカ如シ
（本尾委員）
然リ
（箕作委員）
全債額ノ利息ハ契約上ノ利息ヲ以テ取戾ス事ヲ得ルハ當然ナレトモ過上高ニ至テハ法律上ノ利息ヲ以テ取戾スカ如シ
（本尾委員）
然レトモ尋常ノ契約トハ異ナルヲ以テ契約上ノ利息ヲ付シテ受取ル事ヲ得ヘシ
（箕作委員）
利息トハ法律上ノ利息ナルカ如シ
（本尾委員）
然リ
○本條ハ左ノ如ク改ム
○第七章典船債約
「船舶抵當債約」ハ「典船債約」ニ「保險料」ヲ「典船利金」ニ改メ第二項ノ「許可書」ノ上ハ「官署ノ」三字ヲ加ヘ第三項ノ「過上高」ヲ「過上額」ニ「利息ヲ合セ」ト改メ「利金」ヲ「利息」ニ改ム
○第千一條
船舶（附屬品トモ）船賃及積荷ハ或ハ合シ或ハ個々ニ或ハ部分シ之ヲ抵當トスル事ヲ得但積荷ノミヲ抵當トスルハ特別ニ積荷ノ需用ニ充ルトキニ限ル
船舶ノ抵當ハ自カラ其附屬品ト航海ノ終局ニ得ヘキ船賃トニ及フモノトス
（本尾委員）
船舶ヲ祇啟田中ニ入ルヽトキハ附屠冨叩ハ虹鑛跚句〕含スルモノナレハ割書ハ之ヲ削除スヘシ
○本條ハ「割書」ヲ削リ「船賃」ヲコ連漕賃」ニ改ム
○第千二條
同一ノ物品ヲ種々ノ需用ノ爲メ數度抵當トシタルトキハ後ノ要求ハ前ノ要求ノ上ニ在リ
○本條ハ「要求ノ上ニ在リ」ヲ「要求ニ先ツモノトス」ニ改ム
○第千三條
船舶抵當債約書ハ需求ニ應シ數通之ヲ交付シ且指名證劵トシテ之ヲ振出ス事ヲ得指名證劵トシテ振出シタルトキハ裏書ヲ以テ之ヲ讓渡ス事ヲ得ヘシ但裏書讓渡人ハ唯タ元金支拂ノ責アルニ止マリ保險料ハ明約ヲ以テ其責ヲ引受ケタルニ非サレハ之ヲ支拂フノ責ナシ
（細川委員）
指圖證劵ハ何某之ヲ振出シ何某之ヲ受クルヤ
（本尾委員）
船長之ヲ振出シ債主之ヲ受ルナリ
（細川委員）
但書以下ハ如何
（本尾委員）
甲者金千圓ヲ船長ニ貸付ケ證書ヲ振出シタル時ハ其後所持人ニ於テ支拂ヲ求ム伽トキハ金千圓丈ヲ支拂ヒ若シ其利息ヲ求ムルモ明約ナキニ於テ之ヲ支拂ハサルナリ
○本條ハ左ノ如ク改ム
與船債約書ハ需求ニ應シ數通又指圖證劵ニ之ヲ作ル事ヲ得指圖證劵ニ作リタルトキハ裏書ヲ以テ之ヲ讓渡ス事ヲ得ヘシ但裏書人ハ唯タ元金支拂ソ責アル鹽ニ止マリ典船利金ハ明約ヲ以テ其責ヲ引受ケタルニ非サレハ之ヲ支拂フノ責テシ
于時三時閉會