○第一讀會第六十八回
明治十九年十一月十五日午前十時開會
○第九百五十二條
繫船場碇泊期限及ヒ過碇泊期限並ニ過碇泊ノ賠償ハ別ニ契約書中ニ定ムル所ナキニ於テハ其地ノ慣習ニ依テ之ヲ論ス
（箕作委員）
過碇泊トハ如何
（本尾委員）
例ヘハ二日ノ期限ヲ三日又ハ四日碇泊シタル場合ヲ云フ
（長森委員）
繫船場トハ例ヘハ橫濱港中ニ或ル場所ニ繫船スルヲ云フカ
（本尾委員）
然リ
（鶴田委員）
孵示船場モ契約書ヲ以テ定ムルヤ
（本尾委員）
然リ
○本條ハ左ノ如ク改ム
鰐勳飢加ノ場所始眦胎但ノ定加期及碇始但ノ過加期並二一駈泊過加期ノ吐頬償ハ別ニ契約書中ニ定ムル所ナキニ於テハ其地ノ慣習ニ依テ之ヲ定ム
○第九百五十三條
碇泊期限及過碇泊期限ヲ算スルニハ日曜日及一般ノ休日並ニ風雨其他天然若クハ法律上ノ障碍ノ爲メニ荷物ノ積卸ヲ妨ケラレタル日ヲ除ク
○本條ハ「碇泊期限」ヲ「碇泊定期」ニ「過碇泊期限」ヲ「碇泊過期」ニ改メ結尾ニ「可シ」ノ二字ヲ加フ
○第九百五十四條
一ケ月若クハ其他時限ニ從ヒ定メタル運漕賃ハ別ニ反對ノ約定アルニ非サレハ其船ノ出航シタル日ヨリ起算ス
（周布委員）
一ケ月ト定ムルモノナルヤ
（本尾委員）
否一ケ月又ハ厂ケ月半或ハ二ケ月ノ契約ヲ定メタルヲ云フ嚴二一ケ月ト限リタルニアラス卽チ月ヲ以テ定メタルモノト解セサルヘカラス
○本條ハ「一ケ月若クハ其他時限ニ從ヒト」アルヲ「月ヲ以テ定メ其他時限ヲ以テ」ト改ム
○第九百五十五條
航海ヲ始ムル前ニ到達港トノ貿易及交通ヲ禁セラレタルトキハ其契約ハ無效ニ屬シ雙方共ニ賠償ヲ要求スルヲ得ス
航海中右ノ禁ニ依リ其船舶還航セラルヲ得サルトキハ航海ノ往返ヲ併セテ其船舶ヲ借切リタルトキト雖モ唯往路ノミノ運漕賃ヲ支拂フヘシ
前二項ノ場合ニ於テハ借主其積卸ノ費用ヲ擔當ス
（委員長）
交通トハ單二人民ノ交通ヲ禁シタル場合ヲモ入ルヤ
（本尾委員）
然ウ
（周布委員）
貿易モ交通モ俱ニ禁スル場合ニハアラスシテ貿易ト交通ト格別ニ芯不セラレタル場合ヲ云フナルヘシ
（本尾委員）
然リ
又無效トアレトモ其契約フ成立タサルニアラス貿易及交通ヲ禁セラレタルカ爲メ自カラ解除ニ屬スル旨ヲ定メタリ故ニ鈕加數伊ハ解除トスヘシ（之ニ決ス）
（長森委員）
例ヘハ橫濱ヨリ長崎ニ米ヲ送ラントスルニ橫濱ニ船ナキヲ以テ上海ニ碇泊スル船ヲ借入レ已ニ橫濱ニ米ヲ積込マン爲メニ來ル途中ニシテ長崎ハ惡疫ノ爲メ交町遞ヲ愁不シタルトキハ其船ノ廻漕シタル丈ノ費用ハ如何スルヤ
（周布委員）
其場合ハ呼出セタル曹ハ用ト運漕費トハ別ナルヲ以テ呼寄セタル費用ハ支拂ハサルヘカラス
（本尾委員）
然リ」第二項ノ場合トハ異別ナルヲ以テ其契約ハ格一別ノモノト見サルヘカラス
（鶴田委員）
第二頂ハハ其港ニ在ル所ノ船ニ付テホス所ニシテ他ヨリ呼寄セタル船舶ニハ適用シ難シ
（周布委員）
一體第二項ヲ適用スル事ヲ得サルト雖モ若シ他港ヨリ呼寄セタルトキハ其費用ハ往航ノミナルヤ往復トモナルヤ豫メ之ヲ定メ置カサルトキハ必ス議論ノ種子トナルニ至ルヘシ
（鶴田委員）
然リ荷物運漕ノ夥多ナル場合ニ於テハ必ス是等ノ事ナキ鼻アラス肥前沿海ニ於テハ和船ナレハ呼寄セラレタル港ニ迄至ルトキハ其入費用ハ船長自ラ支辯スルノ習慣ナリ
（本尾委員）
本員ハ往返ナラス片道ノミノ費用ニテ可ナルカ如シ然レトモ此疑問ハ一應質議スヘシ又第二項ニ包含セシムルヤモ慥ムヘシ
○本條ハ「交通」ノ下ニ「ノ」ヲ加ヘ貿易ノ下及ヲ若クハニ改ム無效ヲ解除ニ改メ借切リヲ借入レニ結尾ニ可シヲ加フ
○第九百五十六條
封港若クハ其他ノ處分ニ因リ到達港鎖閉セラルヽトキハ船長ハ別ニ指揮ヲ受ケサルニ於テハ鎖閉セラレサル最寄ノ港ニ入航スヘシ
（周布委員）
指揮トハ何某ソ指揮ナルヤ
（本尾委員）
船所有主ノ指揮ヲ云フ
○本條ハ「處分」ヲ「方法」ニ「鎖閉」ヲ「閉鎖」ニ改ム
○第九百五十七條
抗拒スヘカラサル威力ノ爲メ航海ヲ始メ或ハ繼續スル事ヲ一時阻遮セラルヽトキハ其契約變スル事ナク互ニ賠償ヲ須ヒス但借主ハ自己ノ計算ヲ以テ積荷ヲ處分スルノ權アリ
（鶴田委員）
積荷ヲ處分スルトハ例ヘハ大阪ニ送ルヘキモノヲ橫濱ニ荷揚クルヲ云フヘシ然ルトキハ契約ハ變宙入ニ至ルヘシ
（長森委員）
否變更ニアラス自己ノ便宜ヲ以テ荷揚シタルモノナレハ運漕賃ハ大阪迄ノ分ヲ拂ハサルヘカラス
（委員長）
運送賃ハ全額ヲ支拂フモノナルニ依リ船長ハ毫モ迷惑ヲ蒙ムル事ナシ然ルヲ借主ニ處分スルノ權アリトハ他ニ意味ノ存スル事ナキヤ
（本尾委員）
船長ハ全ク迷惑スル事ナシトモ云ヒ難シ
（箕作委員）
已ニ契約ヲナシタル以上ハ到達地迄ハ決シテ動スヘカラサルモノナリ然リヲ運送賃ヲ支拂フ以上ハ途中ニ於テ處分スルヲ 得セシメタルヲ以テ奇妙ナル醉罹ナレトモ 特ニ其處分權一アルヲ示シタルモノナリ
（周布委員）
變通ノ場合ニ於テモ爲シ得ラルヘキヤ
（本尾委員）
然リ
○本條ハ「始メ」ヲ「始ムル事」ニ「或ハ」ヲ「又ハ」ニ互ノ上ニ「又」ノ字ヲ加ヘ「賠償ヲ須ヒス」ヲ「賠償スルノ義務ナシ」ニ「借主」ヲ「運漕委託人」ニ改メ結尾ニ「トス」ノ二字ヲ加フ
○第九百五十八條
荷積ニ着手スル前ニ在テハ借主其契約上ノ運漕賃半額ヲ支拂ヒ契約ヲ解ク事ヲ得但其荷物ヲ渡サヽルトキハ契約ヲ解キタルモノト看做ス
（本尾委員）
但書以下ニ於テ契約ヲ解キタルトキハ本文ニ依テ矢張半額ヲ支拂ハサルヘカラス
（委員長）
荷物ヲ積込ミタルトキハ如何
（箕作委員）
全額ヲ支拂ハサルヘカラス
○本條ハ「借主」ヲ「運漕委託人」ニ改メ結尾ニ「可シ」ノ二字ヲ加フ
于時十二時中止
午後一時開會
○第九百五十九條
積荷沒收或ハ差押ヘニ遭フモ借主ハ契約上定メタル運漕賃ノ全額ヲ支拂フノ義務ヲ免レス且其罪過ニ因テ損害ヲ船舶ニ加ヘタルトキハ之ヲ賠償スルノ義務アリトス
（細川委員）
過失ニ依テ損害ヲ船舶ニ加ヘタルトハ如何
（本尾委員）
火藥ハ勿論流動物醬油又ハ硫酸等ノ流出シテ他ノ物件ヲ損害シタルトキノ如キ之ナリ
（箕作委員）
注釋ニ依レハ前文ト同一樣ニシテ武器ヲ積ミ之レカ爲メ船舶等ヲ差押ヘラレタル場合ノ如シ
（本尾委員）
矢張流動物ノ場合モ亦適用セラルヘシ而シテ注意ナクシテ積込ミタルトキハ委託人ニ於テ之ニ損害ヲ賠償シ否ラサルトキハ受託人ニ於テ擔當セサルヘカラス
（細川委員）
積荷ト共ニ船舶ノ沒收ニ逢ヒタル場合ニシテ他ノ物件ニ傷害ヲ與ヘタル場合ハ此ニ入ラサルカ如シ
（本尾委員）
本條ハ但以下ノ意味明了ナラサルヲ以テ一應質議スヘシ
（細川委員）
然リ（之ニ決ス）
○本條ハ「罪過」ヲ「過失」ニ改ム
○第九百六十條
船長ハ借主契約ヲ解クニ非サレハ契約シタル積荷ノ全量ヲ積入レサルモ航海ヲナスノ權利及義務アリ但之カ爲メニ被ムリタル損害ノ賠償ヲ要求スル事ヲ得
（鶴田委員）
一部ヲ積込ミ出航スルモ運賃ハ全額ヲ支拂ハサルヲ得サルヤ
（本尾委員）
然リ
（箕作委員）
義務トハ如何
（本尾委員）
例ヘハ一部ヲ積入レタル荷主ニ封スルノ義務ニアラスシテ他ノ荷物ヲ積入レタル場合ニ於テハ船長ハ必ス出航スルノ義務アルヲ示ス要スルニ單ニ船長ノ義務ヲ示シタルモノナリ
○本條ハ「借主」ヲ「運漕委託人」ニ改ム
○第九百六十一條
他ノ積荷ヨリノ收入及航海ヲ止メタルカ爲メニ節約シタル費用ハ第九百六十九條ノ場合ヲ除クノ外船長ノ受クヘキ運漕賃中ニ之ヲ算入スル事ナシ
（本尾委員）
例ヘハ千俵ノ積荷スヘキ二百俵丈ヲ積込ミタルニ依リ他ノ九百俵ヲ積入ルヘキ場所ノ空虛ニ依リ他ノ物件ヲ積入レタルトキ之レカ運賃ハ別ニ計算スヘキモノニシテ積入レサルモ運賃ハ全額ヲ支拂ハサルヘカラス其ノ他ノ荷主ノ運賃ト合計シテ運漕賃中ニ算入スル事ナキヲ云フ
（長森委員）
本條ハ前條ノ場合ヲ示シタルモノナルヘシ然ラサレハ他ニ於テ本條ノ場合ノ生スル事ナシ何ントナレハ前條ニ於テ半額丈甲荷主ノ積込マサルカ爲メ船長ニ於テ乙荷主ノ物件ヲ積入レタルトキハ甲荷主ニ於テ已ニ他ヨリ半額ヲ積入レタルヲ以テ半額丈ノ外ハ支拂ハサルト云フモ船長ハ之ヲ承諾シテ蓮漕賃中ニ組入レ差引スル事ヲナスノ義務ナキヲ云フナリ
（細川委員）
一髓本條ハ甲ナルモノ船ヲ借切リタル吶ニ部分ヲ積込ミ殘リハ此後ノ航海ニ於テ全部ヲ積込ムヘシ故ニ他ノ荷主ト契約シテ物件ヲ積入ルヘカラサル契約ヲ結ヒタルトキハ他ノ荷物ヲ積込ムニ於テハ九百六十九條ニ依テ荷主ノ承諾ヲ得サルヘカラス若シ其契約ナキトキハ本條ニ於テ勝手ニ積入レヲ爲スノ意ニアラスヤ
（箕作委員）
本員ノ考フル所ニ依レハ第九百五十八條ト第九百五十九條ノ結果ト信ス何ントナレハ荷物ニ着手スル前ニ於テ半額ヲ委託人ヨリ支拂フトキハ契約ヲ解除シテ全ク關係ナキモノトス而シテ六十條ニ於テハ全額ノ運賃ヲ支拂フノ義務アルヲ以テ之ヲ使用スルノ權利ハ存在スルモノトス此ヲ以テ第九百六十一條ハ第五十八條ノ解約ノ場合ニ適用スルモノニシテ此場合ニ荷主ニ於テ半額差引等ノ事ヲ云フモ船長ニ於テハ已ニ解除ノ上ナレハ之レカ計算ヲ他ノ荷物ト合計スル事ナシ而シテ五十九條ノ場合ニ於テハ荷主ニ全額丈使用ノ權アルヲ以テ此場合ハ第六十九條ニヨルヲ荷主ノ承諾ヲ受ケサルヘカラサルナリ故ニ第五十八條ハ第六十一條ノ關係ニシテ第六十條ハ第六十九條トノ關係ナリト信ス要スルニ第九百五十八九ノ兩條ハ解約ノ場合ナルヲ以テ第六十一條ヲ適用シ第六十條ハ未タ解約セサルモノナルヲ以テ第九百六十九條ニ關係スルモノトス
○本條ハ質議ニ決ス而シテ「運送賃中ニ之ヲ算入スル事ナシ」トアルヲ「運漕賃ヨリ之ヲ差引事ヲ得ス」ト改ム
○第九百六十二條
船舶借切契約ノ原則ハ貨物運輸ニ非ラサル目的ヲ以テ航海ヲナス爲メニ船舶ヲ借切リタル時ニモ適用ス
○本條ハ「借切」ヲ「借入」ニ改メ結尾ニ「可シ」ノ二字ヲ加フ
○第二款 運漕狀
○第九百六十三條
運漕狀ハ運漕ノ爲メ船長ニ交付シタル積荷ノ受取證ニシテ左ノ件々ヲ之ニ記スヘシ
船舶ノ名及ヒ屬籍
船長ノ氏名
荷主ノ氏名及荷受取人
積入港及ヒ到達港
貨物ノ種類、積量若クハ重量、荷物（行李）ノ數、表章番號幷ニ包裝方法
運漕賃ニ關スル約條
交付シタル運漕狀ノ數
運漕狀ハ請求ニ應シ幾通モ之ヲ交付スヘシ其中ノ一通ニハ荷主署名シ其他ハ船長之ニ署名ス
運漕狀ハ所持人ヲ記シ又ハ指名若クハ無記名タルヲ得
（鶴田委員）
運漕狀トハ我國ノ送リ狀ト同一ナルヤ
（本尾委員）
否送リ狀トハ異ナレリ我國ノ送リ狀ト稱スルモノハ別ニアリ
（鶴田委員）
=通荷主署名スルトハ如何
（本尾委員）
運漕狀ハ船長ヨリ皆之ヲ出スナレトモ荷主其內一通之ニ署名シテ再ヒ船長ニ歸シ其他ハ船長署名シテ荷主之ヲ所持スルナリ運送狀ノ尤モ少キトキハニ通トス一ハ船長一ハ荷主之ヲ所有ス而シテ荷主ノ分ヲ受取人ニ送付スルモノトス又數通ナルトキハ關係人各別ニ所持スルモノトス
○本條ハ「左ノ件々ヲ之ニ記載スヘシ」トアルヲ「左ノ事項ヲ記載ス可シ」ニ「屬籍」ヲ「國籍」ニ「荷主」ヲ「運送委託人」ニ「荷受取人」ヲ「荷物受取人」ニ「表章」ヲ「記號」ニ改メ「包裝」ノ下ニ「ノ」字ヲ加ヘ「所持人」ヲ「名宛人」ニ「指名」ヲ「差圖」ニ改ム
于時三時閉會