○第一讀會第六十六回
明治十九年十一月十一日午前十時開會
○第九百二十一條
船舶債主ノ權利ハ製造中ノ船舶ニ對シテモ之ヲ執行スルヲ得此場ニ在テハ船舶ノ登記ヲ受ル迄其登記官廳ヘノ相當ノ申立（第八百九十條第三項）ヲ以テ之ニ代ユヘシ
（本尾委員）
本條ハ第八百九十條ノ三項ノ場合ニ於テ例ヘハハルク製造中ナルトキハ其旨ヲ届出ル事ハ登記ニ代ユル事ヲ得ルヲ云フ
（長森委員）
本條ノ場合ハ必スシモ申出ヲ要スルニハアラスシテ若シ製造中ノ船舶ヲ抵當ニナサントスルトキニ當リ登記ニ代ユル爲メ申立ルモノニシテ必スシモ申出ヨト云フニハアラサルヘシ
（本尾委員）
然リ其抵當ニ入レシ爲メニハ申出ヲ爲ストキハ船舶ノ登記ヲ受ケタルト同一ノ效アル旨ヲ示シタルナリ而シテ之ヲ爲スモノハ債主ノ權利ヲ登記スルニ其モノナキヲ以テ製造中ニ係ルモノハ申出ヲ登記ニ代ヘ而シテ其申出ニ基キ債主ノ權利ヲ登記スルモノトス
（箕作委員）
佛ノ第千八百七十四年ノ法律第五條ヨリ生シタルモノナルヘシ何ントナレハ該條ニハ船舶ノ製造中ニ係ルモノモ書入ヲ爲ス事ヲ得然レトモ其船舶ハ他ノ船ニアラサル卽チ東京丸ト云フカ如ク確定スルヲ必要トス然ルトキハ充分其效ヲ有スヘシトアリ故ニ漠然船舶トノミニテ孰ヲノ艚皿ナルトキハ謹儁利ハ成立タサルナリ必ス甲ノ船ナレハ甲ナル事ヲ慥ムルニアラサレハ不可ナリ
（本尾委員）
本條ハ此場合以下ノ文意文明ニシテ少シク語ノ不足ナルヲ覺フ依テ一應質問ノ上改案ヲ望ムヘシ
○本條ハ此場合以下ヲ左ノ如ク改ム
製造中ノ船舶ヲ質入スル場合ニ在テハ船舶ノ登記ヲ受クル迄其登記官廳ヘ必要ナル届出ヲ爲シ船舶ノ登記ニ代ユ可シ
○第九百二十二條
船舶沈沒シ或ハ航海ニ堪ヘサルニ至リタルトキハ船舶債主ノ權利ハ其救ヒ得タル部分若クハ尙ホ現存スル部分若クハ其代價及ヒ（保險アルトキハ）保險額ニ移ル
船舶債主ノ要求權ニ就テハ特ニ其債主ニ於テ保險ヲ受クル事ヲ得
（周布委員）
第一項ノ末文ニ移ルトアルハ如何
（本尾委員）
船舶ノ全部ヲ保險シタルニ破壞ニ依テ其全部ノ現存セサルトキハ其殘存ノ部分ニ對シテノミ保險額ノ移ルヲ云フ卽チ船舶全部ノ保險ハ其物ナキニヨリ保險者ニ向テ移ルトナシタルモノトス
○本條ハ「救ヒ得タル部分」ノ下ノ「若クハ」ヲ削リ「移ル」ノ下ニ「モノトス」ノ四字ヲ加フ
○第九百二十三條
船舶已ニ出航ノ準備ヲ終リタルトキハ負債ノ爲メニ之ヲ差押ヘ又ハ其乘組員ヲ拘引スルヲ得ス但該航海ノ爲メニ起シタル負債ニ係ルモノハ此限ニアラス
○本條ハ拘引ヲ拘留ニ該ヲ其ニ係ルモノヲ付テハニ改ム
○第四卷 船長及船員
○第一款 船長
○第九百二十四條
船長其他船舶指揮者ハ其職務ヲ行フニ係ル些少ノ過失ニ就テモ其責ニ任ス殊ニ積荷ニ係リ及旅客ノ安全及荷物ニ係リ責任アリ
○本條ハ「荷物」ヲ「旋 荷」ニ結尾ニ「トス」ノ二字ヲ加フ
○第九百二十五條
船長ハ事情ヲ知ル者ノ指揮ヲ受ケテ爲シタル行爲ニ就テハ其指揮シタル者ニ對シテ責任ナキモノトス
船長ハ其特別ナル職務上ノ義務ヲ犯シタルトキハ抗拒スヘカラサル威力若クハ偶然ノ事由ニ記因スルニ非サル一切ノ變事ニ就テ責任アリ
（箕作委員）
事情ヲ知ルモノトハ如何
（本尾委員）
事情ヲ知ル者「トハ例ヘハ艚長ヨリ乘員ニ其荷物ハ藏ニ入レ置クヘシ然ラサレハ損害ヲ受クヘシトノ注意ヲ爲シタルニ之ヲ止目セスシテ植逐ニ損害ヲ受ケタルトキヲ云フ
（箕作委員）
特別ナル職務トハ如何
（本尾委員）
法律上ニ於テハ第九百二十四條ノ場合ヲ云ヒ其他職務上ニ付指圈シタル義務ヲ犯シタル場合ヲ云フ
○本條ハ第一項ノ「船長ハ事倩ヲ知ル者」トアルヲ「船長ハ被害ノ事楠情ヲ挽鳳知シタル者」ニ改メ第二項ハ末尾ニ「トス」ノニ堂ヲ加フ
于時十二時中止
午後一時開會
○第九百二十六條
船長ハ航海ヲナス每ニ其船舶航海ニ堪ユル事艤裝乘組員及ヒ糧食充分ナル事積荷ノ配置相當ナル事並ニ積荷及ヒ旅客ノ過分ナラサル事ニ配慮スヘシ
○本條ハ乘組員ノ下ノ「及ヒ」ヲ削リ糧食ノ下ニ「ノ」ヲ加ヘ「相當」ヲ「適當」ニ「過分」ヲ「過度」ニ改ム
○第九百二十七條
船長ハ乘組員ヲ編成シ船員ヲ撰雇シ船舶ヲ修繕艤裝シ及ヒ運送契約ヲ取結フノ權アリ但船舶所有者若クハ其代人ノ指圖ハ之ヲ守ルヘシ
○本條ハ「但」ノ下ニ「此事ニ關シテ」ノ六字ヲ加ヘ「之ヲ」ノ二字ヲ削ル
○第九百二十八條
船長ハ航海ヲナス每ニ登記證書、航海日記、船員名簿、稅官ノ納稅受取書、運漕契約及ヒ積荷ニ係ル書類、旅客名簿ヲ船中ニ備フヘシ
（本尾委員）
稅官ノ受取書トハ視關ノ受取書ヲ云フ
○本條ハ「ナス」ヲ「爲ス」ニ「運漕」ヲ「運送」ニ改ム以下「運漕」トアルハ「運送」ト改ムヘシ
○第九百二十九條
航海日記ハ船長ノ監察ヲ以テ一等士官之ヲ執リ總テ船舶、船員、旅客及ヒ積荷ニ關スル狀況及ヒ變事ヲ日々記載ス殊ニ左ノ事項ヲ必要トス
船舶ノ出航地、寄航地、通航地ノ名
風及ヒ天氣ノ狀
通航シタル線路及距離
測定シタル經度及ヒ緯度
其他其事アレハ
海水ノ深淺及ヒ熱度
喞筒ノ水位
水先案內者若クハ挽船ノ雇人
船中會議ノ決議
乘組員ノ變更
百般ノ變故及ヒ特別所遇ノ事並ニ船中ニ於テ犯シタル犯罪及ヒ之ニ加ヘタル罰
（箕作委員）
一等士官トアリ現今郵船會社ニモ士官ト稱スルヤ
（本尾委員）
士官ト云フヲ聞カス
（委員長）
一等役員トスヘシ（之ニ決ス）
（箕作委員）
通航地トハ如何
（本尾委員）
例ヘハ遠州洋ノ如キ神戶ニ行クニハ必ス通航セサルヘカラス之ヲ云フ
（長森委員）
喞筒ノ水位トハ如何
（本尾委員）
ホンフニテ水ノ量ヲ何程立シヤヲ云フ
（委員長）
喞筒ノ各位トハ如何ナルモノヲ云フヤ質議スヘシ（之ニ決ス）
（本尾委員）
船會議ニ列スルハ重ナリ海員ナリ
○本條ハ一等士官之ヲ執リヲ「等役員之ヲ掌リ」「變事」ヲ「事故」ニ「其他其事アレハ」ヲ「其他時宜ニ依リ左ノ事項ヲモ記載ス可シ」ニ「熱度」ヲ「溫度」ニ「水位」ヲ「水度」ニ「船中會議」ヲ「船員會議」ニ「百般ノ變故」ヲコ切ノ變事」ニ「特別所遑ノ事」ヲ「特別ノ事故ニ犯シタルヲ爲シタル」ニ改ム
○第九百三十條
船長ハ航海ノ始ヨリ終マテ船中ニ在ルヘシ又其委任セラレタル航海ハ延滯ナク迂回ナク之ヲ始メ之ヲ終ルヘシ
○本條ハ「延滯ナク」ヲ「遲滯ナク」ニ改ム
○第九百三十一條
船長ハ到達港ニ到着ノ後二十四時間內ニ航海日記ヲ管海官衙若クハ地方署ニ差出シテ檢査證ヲ受ケ併セテ報吿書ヲ差出スヘシ此報吿ニハ船舶ノ名及ヒ噸數、積荷、出航時日、通航線路、風及天氣ノ狀、其他其事アレハ死亡其他ノ變故若クハ船舶ノ狀況ノ變更及著シキ航海中所遇ノ事ヲ記スヘシ
危急ノ時ニ非サレハ此報吿書ヲ差出サヽル前ニ荷卸ニ着手スルヲ許サス
○本條ハ左ノ如ク改ム
船長ハ到達港ハ到着ノ後二十四時內ニ航海日記ヲ檢査ノ爲メ管海官署若クハ地方廳ニ差出シ併セテ報吿書ヲ差出ス可シ此報吿書ニハ船舶ノ名及喞筒積荷出航地出航時々通航線路風及天氣ノ狀ヲ記ス可シ其他死亡及變事若クハ船舶狀況ノ變更並ニ航海中ノ著シキ事故アレハ之ヲ記ス可シ
急迫ノ時ニ非サレハ此報吿書ヲ差出サヽル前ニ荷揚ニ着手スルヲ許サス
○第九百三十二條
避難ノ爲メ已ヲ得スシテ入港シタルトキハ船長遲滯ナク其港ノ領事館又ハ地方署ニ其事由ト事情トヲ供述シ其筆記ヲ受クヘシ但其筆記ハ公文ト爲シテ船舶所有者又請求アレハ他ノ關係者ニ其者ノ費用ヲ以テ下付スヘシ
（本尾委員）
筆記ヲ受クヘシトハ筆記シ貰フナリ船長ハ單ニ供述ニ止マルモノナリ
○本條ハ地方署ヲ地方廳ニ其事由ト事情トヲ供述シトアル以下ヲ左ノ如ク改ム
供述ス可シ領事館又ハ地方廳ハ之ヲ筆記シ其筆記書ノ公寫ヲ船舶所有者又請求アレハ他ノ關係者ニ其者ノ費用ヲ以テ下付ス可シ
○第九百三十三條
航海中危難ノ起リタルトキハ船長豫メ乘組士官及ヒ水夫ノ諸長ト協議シタル後ニ非サレハ如何ナル事情アリト雖トモ其船ヲ去ルヲ得ス但此場合ニ於テモ可及的人員書類貨物及船舶ヲ救濟スルノ責アリ
○本條ハ「乘組士官及水夫ノ諸長」ヲ「役員及重立タル船員」ニ「可及的」ヲ「可成」ニ改メ末尾ヲ「アルモノトス」ニ改ム
于時三時閉會