○第一讀會第六十二回
明治十九年十月廿七日午前十時開會
○第二編 海商
○第一卷 船舶
○第八百八十八條
專ラ日本人民ノ所有又ハ專ラ日本內ニ在リテ日本裁判權ニ服從スル商社或ハ組合ノ所有ニ屬スル商船及其他ノ船舶ハ日本船舶ニ屬シ日本國旗ヲ用ユルノ權利アル者トス
（本尾委員）
若シ日本ノ裁判權ニ服從スルノ會社ナルトキハ其社員ノ內國人ト外國人トハ問フヲ要セサルナリ
又例ヘハ三人ノ組合ニシテ一ノ船舶ヲ有スルトキ其組合ノ一人外國人ナルトキハ第八百九十二條ニ依リ日本船舶トスル事ヲ得サルカ如シ
（箕作委員）
然ラハ日本船舶ニ爲シ置キ度トキハ外國人ハ組合トナサス單ニ金主トスルトキハ日本人民ト所有トスル事ヲ得ルヤ
（本尾委員）
然リ
○本條ハ左ノ如ク改ム
「第一卷」ヲ「第一章」ニ「或ハ組合」ヲ「其他ノ集合體」ニ「屬シ」ヲ「シテ」ニ「者」ヲ「モノ」ニ改メ又ハノ下コ專ラ」ノ二字「及」ノ字ヲ削ル
○第八百八十九條
日本船舶ハ航海ニ用ユル前ニ法律及布達ニ從ヒ其官任アル人ノ測量ヲ受ケ其積載力十五噸以上ノ船舶ハ其航海ノ根據トスル港（登記港、定繫港）ノ管海官衙ニ於テ船舶登記簿ニ記入ヲ受ケサル可ラス
端舟其他專ラ楫櫂ヲ用ヒ若クハ主トシテ楫櫂ヲ用ユル船舶ニハ本條及以下諸條ヲ適用セス
（本尾委員）
獨國ノ法ニ依ルトキハ重ナル港ニハ管海官衙ヲ置クモ其他ハ郡區役所又ハ戶長役場ニ於テ取扱フモノトセリ
（周布委員）
楫櫂ヲ櫓楫トシテ彼ノカイト稱スルモノモ亦包含セシムルトセハ如何
（本尾委員）
然リ
（鶴田委員）
例ヘハ十五噸以上ト雖モ楫櫂ヲ用ユルモノナレハ本條ノ規則ヲ適用セサルヤ
（本尾委員）
然リ
（細川委員）
噸ノ數量ノ事ハ何レヲ用ユルヤ質議アリタシ
（本尾委員）
諾
○本條ハ「布達」ヲ「命令」ニ「官任アル人」ヲ「職權アル者」ニ「官衙」ヲ「官署」ニ「端舟」ヲ「端船」ニ「楫櫂」ヲ「櫓楫」ニ改メ「諸條」ノ下ニ「ノ規定」ノ三字ヲ用ユ
○第八百九十條
船舶登記簿ニハ日附ノ外左ノ諸件ヲ記入ス可シ
一 船舶ノ名及定繫港
二 製造ノ時日及場所
但製造ノ時日及場所ノ明ナラサルモノハ日本ノ所有ニ歸シタル時日及事情
三 官ノ測量證書ニ基キ船舶ノ種類、大小、積載力等（汽船、帆船「バルリ」三桅船「ブリツク」兩桅船「シヨー子ル」同上鐵製、木造等ノ類）
四 船長ノ氏名及屬籍
五 所有者ノ氏名（屋號）住地等所有者ノ其船舶所有權ニ與カル持部ノ割合所有權所得ノ權利起由
（本尾委員）
屋號モ氏名ノ內ニ入ル何ントナレハ本尾會社ト云フヲ以テ船舶ヲ所有スル事ナシトセサレハナリ
○本條ハ左ノ如ク改ム
「諸件」ヲ「事項」ニ改メ「基キ」ノ下ニ「タル」ノ二字ヲ加ヘ「屬籍」ヲ「國籍」ニ「住地」ヲ「住所」ニ「持部」ヲ「持分」ニ「所得ノ權利起由ヲ」ヲ「得タル原由」ニ改ム
○第八百九十一條
登記ハ必要ノ證明書ヲ付シタル所有者若クハ委任狀ヲ有スル代人ノ書面ノ陳述ニ據リ之ヲ爲ス其登記ノ事項ニ就テハ同一ノ文言ノ證書（船舶登記證）ヲ作リ之ヲ所有者ニ下付ス
○本條ハ左ノ如ク改ム
登記ハ所有者若クハ委任狀ヲ有スル代理人ヨリ必要ノ證明書ヲ付シテ差出タル屈書ニ據リ之ヲ爲シ其登記ノ事項ニ付テハ同一文言ノ登記證ヲ作リ之ヲ所有者ニ下付ス可シ
于時十二時中止
午後一時開會
○第八百九十二條
船舶登記證下付前ニハ國旗ヲ揭クルノ權利ヲ執行スルヲ得ス
船舶沈沒シ又ハ其所有權ノ全部若クハ一部外國人若クハ外國會社ニ移轉スル時ハ船舶登記簿中ノ記入ヲ削除シ且成ルヘキハ船舶登記證ヲ還納ス可シ
○本條ハ異議ナシ
○第八百九十三條
記入事件（第八百九十條）ニ後來變更ヲ生スル時ハ登記簿及登記證ニ之ヲ附記ス可シ記入ノ船名ハ官衙ノ許可ヲ得ルニ非サレハ之ヲ改ムル事ヲ得ス
○本條ノ「官衙ノ許可」ヲ「官許」ト改ム
○第八百九十四條
日本境土外ニ於テ日本人民若クハ會社若クハ組合外國ノ船舶ヲ所得シタル時ニ初メテ日本定繫港ニ到着スル迄ハ其所得ノ地又ハ其最寄ニ駐在スル日本領事ニ申出テ領事ヨリ下付スル所ノ證書ヲ以テ船舶登記證ニ代用スル事ヲ得此場合ニ於テ領事ハ直ニ其證書ノ寫ヲ定繫港ノ管海官衙ニ送付ス可シ但シ代用期限ハ一年ヲ過クルヲ得ス
○本條ハ「日本」ノ下ニ「ノ」字ヲ加ヘ「會社若クハ組合」ヲ「商社其他ノ集合鮑凪」ニ「官衙」ヲ「官署」ニ改メ「過クルヲ」トアルヲ「過クル事ヲ」ト改ム
○第八百九十五條
登記證ノ紛失、毀滅又ハ其他亡失シ若クハ廢紙トナリタル時ハ更ニ登記證若クハ假證書（第八百九十四條）ノ下付ヲ請求スル事ヲ得
（本尾委員）
紛失トハ盜難等ニ罹リ失ヒタルモノ毀滅トハヽ噛ヒノ爲メ滅壞シタルモノ亡失トハ自ラ其所藏所ヲ遺亡シタルカ如キ場合ナリ
（箕作委員）
假證書トアレハ目本國土內ニ於テスルトキハ直ニ本證童自外國ナルトキノ假脚證童ロヲ受クル事ヲ云フヤ
（本尾委員）
然リ
○本條ハ左ノ如ク改ム
登記證ノ亡失若クハ毀損シタル時ハ更ニ登記證若クハ前條ノ證書ノ下付ヲ請求スル事ヲ得
○第八百九十六條
船舶其權利ナクシテ（第八百八十八條）日本國旗ヲ用ユル時ハ千圓以下ノ罰金ニ處ス事情ニ依リ殊ニ不正當ノ登記證ヲ使用シタル時ハ其船舶ヲ沒收ス
日本船舶ニシテ外國國旗ヲ用ヒ外國ノ屬籍ヲ冒シタル時亦同シ但敵ヲ避クル爲メニスルモノ此限ニ在ラス
（周布委員）
敵ヲ避クル爲メニ日本國旗ヲ用ヒタルモノアルトキハ如何
（本尾委員）
其場合ハ外國ノ法ニ於テ處分スルモノナルヘシ我邦ニ於テハ敢テ屬セスシテ可ナルヘシ
○本條ハ「モノ」ヲ「トキハ」ニ改ム
○第八百九十七條
日本船舶ニシテ船舶登記證下付前ニ（第八百九十二條）日本國旗ヲ用ヒ或ハ船舶登記簿中ニ其實ニ非サル記入ヲ爲サシメ若クハ此ノ如キ記入ヲ申立テタル者及其他本卷ノ諸規則ヲ犯シタル者ハ百圓以下ノ罰金ニ處ス
○本條ハ「船舶登記證」ヲ單ニ「登記證」ニ「或」ヲ「又」ニ改メ「及」ヲ削リ「本卷ノ諸規則」ヲ「本章ノ規定」ニ改ム
○第二卷 船舶所有者
○第一款 船舶所有權ノ所得及讓渡
○第八百九十八條
商船及其他船舶ハ動產ト視ル但本法ニ例外ヲ定ムル者ハ此限ニ在ラス
○本條ハ「第二卷」ヲ「第二章」ニ「讓渡」ヲ「移轉」ニ「觀ル」ヲ「看做ス可シ」ニ「定ムル者ハ」ヲ「場合」ニ改メ「及」ヲ削ル
○第八百九十九條
船舶ノ製造及ヒ賣買其他權利上ノ取引ヲ以テスル全部若クハ一部ノ所得ニ係ル契約ハ必ス特別ノ契約書ヲ以テ之ヲ取結フヘシ
相續結婚若クハ其他ノ事由ニ出ル船舶所有權ノ移轉ハ裁判所ノ證書ヲ以テ公證スヘシ
○本條ハ「其他權利上ノ取引ト」アルヲ「其他ノ取引」ニ改ム
○第九百條
船舶ノ所有者ニアラサル者ニシテ其船舶ヲ賣却スルハ其所有者ノ委任狀ニ依ラサルヘカラス但船長ハ已ヲ得サルニ出テヽ官認ヲ經タル必要ノ場合ニ於テハ委任狀ヲ要セス此場合ニ於テハ公然ノ糶賣ヲ以テスヘシ
（細川委員）
已ヲ得サルニ出テ季ハ例ヘハ漁鑵ヲ損シ之ヲ修復スルモ益ナキ場合ヲ云ナルヤ
（本尾委員）
然リ
○本條ハ異議ナシ
○第九百一條
船舶ノ期滿領得ノ期限ハ二十年トス但船長ハ期滿領得ニ由テ船舶ヲ所得スルヲ得ス
○本條ハ「領得」ヲ「得有」ニ改ム
○第九百二條
桅檣、帆具、綱具、機關、錨、機械、端舟、貯蓄品、糧食其他總テ航海用ノ裝備ハ船長及船員ノ私有ニ屬スルモノヽ外船舶所有權中ニ屬ス但シ特別ノ場合ニ於テ特別ノ約定アル者ハ此限ニアラス
（細川委員）
特別ノ場合トハ何ヲ指スヤ
（本尾委員）
特別ノ場合ハ削除シテ可ナリ
○本條ハ「端舟」ヲ「端船」ニ改メ但以下ヲ「特約アルモノハ此限ニ在ラス」ト改ム
○第九百三條
航海中船舶ヲ賣却シタルトキハ特別ノ約定アルニ非サレハ該航海ヨリ生スル損益ハ新所得者ニ移ル
（周布委員）
新所得者ノ受クル損益ハ買受ケタル日ヨリ以後ナルヘシ
（本尾委員）
然リ
○本條ハ左ノ如ク改ム
航海中船舶ヲ賣却シタルトキハ特約アルニ非レハ該航海ノ損益ハ新所得者ニ移ルモノトス
○第九百四條
契約上ノ船舶賣却ハ債主ノ要求ニ對シ船舶卽チ其賣價ニ附帶スル責任（第三卷）並ニ賣主一身上ノ義務ニ變更ヲ生スル事ナシ裁判處分ニ出テ又ハ已ヲ得サルニ出ル賣却ニ在テハ船舶ニ附帶スル責任自ラ賣價ニ歸スル者トス
（箕作委員）
本條ハ要スルニ任意ノ賣却ハ船舶ニ追及權ヲ行フモ裁判上ノ賣却等ハ船舶ニ追及權ヲ行フ事ヲ得サルヲ示スナリ
（本尾委員）
例ヘハ船ニ就テノ負擔ト代價ニ付テノ負擔トアリ此場合ニ於テ船ヲ賣却スルモ敢テ債主權ヲ傷クル事ナク恰モ船ノ所有ト等シク其義務ヲ負擔スルモノナリ又裁判處分ニ出テトハ一身上ニ就テノ責任ハ前項ト異ナル事ナク只タ其抵保物ナキヲ以テ單ニ其代價ニ就テノミ責任ヲ有スル旨ヲ定ムルナリ
（委員長）
本條ハ裁判處分以下ニモ一身上ノ義務ハ關係ヲ及ホスヤ否而シテ少シク了解シ易カラシムル爲メ改案モ併セテ求ムヘシ
（本尾委員）
諾
○本條ハ質議ノ上修正ニ決ス
○第二款 船舶所有權ノ權利義務
○第九百五條
船舶ノ所有權商業不能力者若クハ數人ノ持部所有者ニ屬スル時ハ航海上一切ノ事務代人トシテ船舶管理人一名ヲ置クヘシ
○本條ハ「不能力」ヲ「無能力」ニ「持部」ヲ「持分」ニ改ム
○第九百六條
船舶所有者ハ船舶及其運漕賃ヲ以テ船長及船員ノ執務上ノ行爲ニ就キ責任アル者トス若シ船長ニシテ併セテ所有者若クハ持部所有者タルトキハ其責任無限トス但持部所有者タル場合ニ在テハ自己ノ罪過ノ爲メニ連帶責任ヲ負フニ非サレハ唯タ其持部ノ割合ニ應シテ責任アル者トス
（鶴田委員）
但以下ノ持分所有者ニハ船長ヲモ入ルヤ
（本尾委員）
然リ船長ニシテ持分所有者タル場合ヲ云フ
（箕作委員）
但書以下モ無限責任ナルヘシ故ニ責任連帶ノ場合ノ外自己ノ持分ニ對スルモノハ其持分ハ無限責任ヲ有スルモノニアラスヤ
（岸本委員）
然リ其ノ如ク解鯉忙セサルヘカラス
然レトモ此蓮帶責任ヲ通常ノ場合ノ如ク看做シ例ヘハ甲乙丙ノ持分所有者ニシテ甲ノ船長ナルモノハ無資力ナルヲ以テ其內ノ富有ナル乙ニ係リテ辨償ヲ受クルカ如ク見ルトキハ少シク困難アルカ如シ
（箕作委員）
此ニ記スル連帶責任ハ岸本委員ノ如ク解セサルナリ卽チ船長ハ他ト連帶責任アルヲ以テ若シ他ノ持分者船舶ト運漕賃ト抛棄シテ其責任ヲ免カルヽトキ未タ不足アルトキハ卽チ連帶ナルヲ以テ其不足ヲ當船長ヲシテ辨償セシムルモノトスルノ意ナルヘシ
○本條ハ質議ニ決ス
于時三時