○第一讀會第六十一回
明治十九年十月廿六日
欠席 箕作委員
午前十時開會
○第十二章 爲替訴訟
○第八百七十二條
爲替ニ署名シタル者ハ皆連帶義務ヲ負フ者トス爲替訴訟ハ其總員ニ對シ又ハ其一員ニ對シ之ヲ起ス事ヲ得但其一員ニ對シ起ス場合ニ在テハ他ノ諸員ニ對スル要求權ハ消滅スル事ナシ
總員ニ對スル訴訟ハ原吿ノ隨意ヲ以テ其內一員ノ管轄裁判所ニ於テスルヲ得
（長森委員）
注ニ「證據ノ其種云々」トアリ如何ナル意義ナルヤ
（本尾委員）
手形上ノ訴訟ニ就テハ爲替ヲ發シタル原由例之ハ賣買代金ヨリ起因セシトキニ於テ其賣買無效トナリタルトキト雖モ手形上ノ訴權ニハ變更ヲ生スル事ナキヲ云フ卽チ單ニ證書面ニノミ就テ裁判スル事ヲ指示スルナリ
（）本枚休ハ原安未ノ出盤ニ決セリ
○第八百七十三條
爲替訴訟ニ於テハ爲替法ニ基キ且直ニ證明シ得ヘキ故障申立又ハ反訴ニ非レハ之ヲ爲ス事ヲ得ス
支拂又ハ其他ノ方法ニテ原吿ノ要求ヲ辯シタリトノ故障申立權ハ總テ連帶義務者共有ノモノトス
爲替授受ノ原由タル取引ニ强制詐僞又ハ反法アリトノ故障ハ其罪ニ該ルヘキ者ニ對シテ之ヲ申立ル事ヲ得
（本尾委員）
本條ハ假令ヒ手形ヲ發行シタル原由消滅スルモ手形面上ノ義務ハ消滅スル事ナキニ依リ其原由ヲ以テ故障ヲ申立ル事ヲ得サルナリ
（細川委員）
本條ハ手形上ノ訴訟ニ付キ被吿トナリタル者ヨリ故障又ハ反訴ヲ爲ス場合ヲ云フカ如シ
（本尾委員）
然リ
（岸本委員）
未項ニ錯誤ナキハ如何
（本尾委員）
手形法上ニ於テハ錯誤ヲ以テ無效申立ヲ爲スヲ許サヽルノ結胴祚ナルヘシ
○本條ハ左ノ如ク修正セリ
第八百七十三條手形訴訟ニ於テハ手形法ニ基キ且直ニ證明シ得可キ抗辯又ハ反法ニ非サレハ之ヲ爲ス事ヲ得ス
支拂又ハ其他ノ方法ニテ原吿ノ要求ヲ辨償シタルトノ抗辯ハ總連帶義務者ノ爲メ敷カアルモノトス
手形授受ノ行爲ニ付キ强制詐爲又ハ反法アリトノ抗辯ハ其事ヲ爲シタル者ニ對シテノミ之ヲ申立ル事ヲ得
○第八百七十四條
爲替訴訟ニ於テ許サヽル故障申立及ヒ反訴ハ通常訴訟法ニ依リ同一ノ裁判所ニ於テ之ヲ爲ス事ヲ得
（本尾委員）
本條ハ爲替法上ニテ許サヽル抗辯ハ同一ノ裁判所ニ通常訴訟法ニ依リ民事訴訟トシテ訟ヲ爲ス事ヲ得ルヲ云フナリ例之ハ手形ニ署名シタルトキハ其義務ヲ盡サヽルヘカラス然トモ其義務ヲ鑑シタルカ爲メ損害ヲ受ケタル者ハ其裁判所ニ民事賠償ノ訟トシテ之ヲ爲ス事ヲ得ルヲ云フ
○本條ハ「故障申立」ヲ「抗辯」ニ「爲ス」ヲ「主張スル」ニ改ム
○第二款 自拂爲替
○第八百七十五條
自拂爲替ニ記スヘキモノ左ノ如シ
一 日附
二 支拂フ可キ金額
但本字ヲ用フ
三 拂受クヘキ人又ハ其指名人
四 支拂期日
五 爲替ト引替ニ支拂フヘキ事
六 振出人ノ署名
（本尾委員）
第三ハ第七百七十七條ノ第四ト原文同一ナレハ該條ノ第四修正ト同一ニ之ヲ記載スヘキヤ
○本條ハ左ノ如ク修正セラレタリ
第八百七十五條約束手形ニハ左ノ事項ヲ揭載ス可シ
第一年月日
第二支拂フ可キ金額
第三受取人ノ氏名及差圖又ハ所持人拂ノ旨
第四一支拂ノ期日
第五手形ト引換ニテ拂渡ス可キ旨
第六振出人ノ署名
于時正午第十二時中止
出席周布委員
○第八百七十六條
自拂爲替ハ振出人ノ指名トシテ振出ス事ヲ得ス
（本尾委員）
自己ヨリ振出シテ自己ノ指名杢スルヲ得サルハ性質上自ラ然ラシムルナリ
○本條ハ「自拂爲替ヲ約束手形」ニ「指名」ヲ「差圖」ニ改ム
○第八百七十七條
自拂爲替ハ別ニ支拂地ヲ記スルニ非サレハ日附ニ記スル地ニ於テ支拂フヘシ
（細川委員）
日附ニ記スル地トハ如何
（本尾委員）
歐洲ノ慣例ハ「千八百八十六年十月二十六日東京ニ於テ之ヲ記ス某手署」ト爲スヲ通例トスルナリ故ニ支拂地ヲ揭ケサルトキハ東京ニ於テ支拂フカ如シ尤モ日本ニテハ振出人ノ住地ヲ以テ支拂地ト爲ス方可ナルカ如シ
（細川委員）
我慣例ニナキ事ナルヲ以テ適當ニ之カ修正ヲ質問セラレタシ
（本尾委員）
諾
○本條ハ「自拂爲替」ヲ「約束手形」ニ「日付ニ記スル」ヲ「振出」ニ改ム
○第八百七十八條
自拂爲替振出人ハ其振出ニ由テ支拂期日ニ支拂ヲ爲ス義務アリ振出人ニ對スル爲替權利ヲ維持スル爲メニハ承諾ヲ受ケ支拂ノ爲メノ提示ヲ爲シ又拒證書ヲ作ルヲ要セス但一覽後定期或ハ他所拂人ヲ揭クル自拂爲替ニ在テハ其振出人ニ就テモ第七百九十六條及ヒ第八百三十七條ヲ適用ス
○本條ハ「自拂爲替」ヲ「約束手形」ニ「爲替權利ヲ維持」ヲ「手形上ノ權利ヲ保存」ニ「期或ハ」ヲ「期拂又ハ」ニ改メ末尾ニ「可シ」ヲ加フ
○第八百七十九條
右ノ外他拂爲替ニ關スル規則ハ事ノ性質相適スルモノニ限リ之ヲ自拂爲替ニモ適用スヘシ
○本條ハ「右」ヲ削リテ「前數條」ニ改「他拂爲替」ヲ「爲替手形」ニ「自拂爲替」ヲ「約束手形」ニ改ム
○第三款 支拂切手
○第八百八十條
支拂切手ハ保管物又ハ其他連續計算上ノ借方ヲ有スル所ノ銀行ヲシテ記名ノ人又ハ其指名者又ハ所持人ニ其提示ニ依リ某金額ヲ支拂ハシムル傳票トス
（本尾委員）
交互計算上ノ借方トアレトモ信用ヲモ包含スルモノナリ故ニ交互信用ト爲スヲ可トス
○本條ハ左ノ如ク修正セラル
第八百八十條支拂切手ハ保管其他交互信用アル所ノ銀行ヲシテ記名ノ人又ハ被差圖人又ハ所持人ニ其提示ニ依リ一定ノ金額ヲ十又拂スシムル傳啻不トス
○第八百八十一條
支拂切手ハ日附ヲ記シ振出人之ニ署名シ一覽直拂トシテ振出ス可シ其他ハ銀行ト明約又ハ默約シタル所ノ振出法式ニ從フ可シ
○本條ハ「記シ」ヲ「爲シ」ニ改メ「直」ヲ創ク
○第八百八十二條
支拂切手ハ裏書ヲ以テ讓渡ス事ヲ得又白地裏書又ハ無記名ナル時ハ引渡ヲ以テ讓渡ス事ヲ得
○本條ハ原案ノ儘ニ決セリ
○第八百八十三條
支拂切手ニハ承諾及拒證書ヲ要セス其期滿得免ノ期限ハ日附後三年トス
○本條ハ原案ノ儘ニ決ス
○第八百八十四條
正當ノ所持人及各裏書讓渡人ニシテ其提示ノトキ支拂ヲ受ケサルトキハ其遲滯ノ責ナキトキニ限リ日附後十日以內ニ裏書讓渡人及振出人ニ對シテ償還要求ヲ爲ス事ヲ得但其振出人貸方ヲ有セス或ハ他ニ其貸方ヲ消費シ或ハ其差圖ヲ取消シタル時ハ右期限經過後ト雖トモ之ニ對シテ償還要求ノ權ヲ有ス
振出人ハ訴訟ノ時其支拂切手通帳ヲ裁判所ニ差出スノ義務アリ
（委員長）
日附後トハ如何
（本尾委員）
振出ノ日付後十日間ヲ云フナリ
（周布委員）
遲滯ノ責ナキトキ云々トハ過失ノ責ナケレハ十日後ト雖モ償加速要求ヲ爲ス車丁ヲ得ヘシトノ意義ニシテ若シ遲一滯ノ責アルトキハ十日內ト雖モ償還要求ヲ爲ス事ヲ得サルモノナルヘシ
（本尾委員）
註ニ依レハ遲滯ノ責アルトキトハ十日後ト解釋スルヲ得ルナリ然ル時ハ十日後ニアラサレハ償還要求ヲ爲スヲ得ルトアリ法文ト比照スルトキハ途ニ其精神ヲ得サルナリ
就テハ質問シテ說明ヲ求ムヘシ
○本條ハ「讓渡」ヲ削リ「差圖」ヲ「傳票」ニ改ム
○第八百八十五條
振出人又ハ所有者ハ支拂切手ニ記名又ハ無記名ノ斜線ヲ畵シテ銀行ノミニ支拂フヘキ旨ヲ表示スル事ヲ得
（本尾委員）
本條ノ切手ハ銀行ニアラサレハ支拂ヲ受ケ又ハ支拂フヘカラサルモノヲ云フ例ヘハ大阪三井銀行ト署名アルトキハ所持人之ヲ三井銀行ニ持參シ其三井銀行ハ他ノ銀行ニ之ヲ支拂フ事ヲ云フ尤モ何レノ銀行ニテモ宜敷トキハ銀行ト爲シ孰レノ銀行ニテモ之カ支拂ヲ受クヘキモノトスルヲ得ルナリ之レ英法ニ於テ專ラ利用スル所ノモノナリ
○本條ハ「有者」ヲ「持人」ニ改ム
○第八百八十六條
支拂切手ハ支拂ヲ受ルトキ請取證ヲ記シテ之ヲ交付ス可シ
○本條ハ原案ノ儘シ
○第八百八十七條
日附ヲ記セス或ハ日附ヲ僞書シタル支拂切手ヲ振出シ或ハ裏書讓渡シ或ハ之ニ請取證ヲ記スル者又ハ日附ナキノ切手ヲ領收シ或ハ之ヲ支拂ヒ或ハ之ニ請取證ヲ記スル者又ハ相當ノ貸方ヲ有セスシテ支拂切手ヲ振出シ又ハ正當ノ理由ナクシテ之ヲ取消ス者ハ其支拂切手ノ金額百分十ノ罰金或ハ之ニ當ル禁錮ニ處ス但別ニ刑法ヲ犯シタル者ハ併セテ其刑ニ處ス
（岸本委員）
之ニ當ル禁錮トハ如何
（本尾委員）
罰金ヲ納メサルトキハ之ニ相當スル禁錮卽刑法ニ從テ一圓ヲ一日ニ處分スルナリ又或ハ初メヨリ罰金ニ相當スル禁錮ニ處スル事ヲモ得ルナリ
○本條ハ左ノ如ク修正セラレタリ
第八百八十七條日付ヲ爲サス若クハ僞リノ日付ヲ爲シテ支拂切手ヲ振出シ又ハ裏書シ又ハ受取證ヲ記スル者又ハ日付ナキノ切手ヲ領收シ若クハ之ヲ支拂ヒ若クハ之ニ受取證ヲ記スル者又相當ノ信用ヲ有セスシテ支拂切手振出シ若クハ相當云々以下原案ノ通リ
于時午後第三時ナリトキ