○第一讀會第五十二回
明治十九年十月十三日
午前第十時開會
○第六款 保險營業ノ公行
○第七百五十二條
各保險會社ハ其領收スル所ノ保險料及其他ノ收入ヲ年々積立テ年々支拂フ可キ平均保險額ノ一倍以上ニ當ル準備金ヲ作ル可シ此準備金ハ安全ナル證劵トナシ之ヲ裁判所ニ預ケ置ク可シ但此金額ヨリ生スル收入ハ會社ニ歸スル者トス
（本尾委員）
本節ハ重ニ公ニ顯ハレテ爲ス營業ノミテ卽チ會社ニ付テノ規定ヲ示シタルナリ
而シテ起草者ノ意ハ特別ノ法律ヲ以テ營業ヲ緊束セスシテ英國法ニ倣ヒテ立案シタルモノナリ
（長森委員）
平均保險額トハ如何
（本尾委員）
例ヘハ十年間ヲ平均シ年々支拂フヘキ金額ヲ算出シテ其平均額ノ一倍ヲ作ルヲ云フ例ヘハ廿年ヲ平均スルニ會社ニ於テ收入スヘキ金額四萬圓トシ年々支拂ノ金額ヲ十五萬圓トスルトキハ其ニ倍三十萬圓ハ必ス準備金ニ積立ヲ置カサルヘカラス而シテ殘リ十萬圓ヲ以テ社員ニ配當スヘキモノトスルノ意ナリ
（箕作委員）
安全ナル證劵トハ預金局ニ預クルカ又ハ公僚證書トナシ其證書ヲ以テ裁川刋所ニ預ルヲ云フカ
（本尾委員）
然リ
又準備金ハ銀行ノ如ク始終積立置キ動カスヘカラサルモノニアラス保險支拂ノ爲メニハ之ヲ支出スルモノナリ然レトモ其補缺ハ直ニ之ヲ爲サヽルヘカラス
○本條ハ款ヲ節一ニ倍ヲニ倍ニ改ム
○第七百五十三條
各保險會社ハ每年一回以上其年ノ收入支出槪算書及貸方借方ノ比較書ヲ製シテ之ヲ公吿シ且之ヲ各社員及各被保險者ニ送付スルノ義務アリ
○本條ハ貸方借方ノ比較書ヲ貸借對照表ニ「公」ヲ「廣」ニ改ム
○第七百五十四條
裁判所ハ何時タルヲ問ハス被保險者若クハ官廳ノ請求ニ依リ鑑定人一名若クハ數名ヲシテ各保險會社營業ノ狀況取引ノ盛衰貸方借方ノ比例及保險業ヲ營ムノ原則ヲ檢査セシメ其檢査ノ結果ヲ被保險者ニ通知シ及之ヲ公吿スルノ權利アリ但裁判所ニ於テ右ノ請求至當ノ理由ニ出テタリト認ムル時ハ保險會社ニ於テ其檢査及吿知ノ費用ヲ擔當スヘシ
（本尾委員）
原則トハ會社ノ定款ヲ云フ
（細川委員）
吿知トハ通知ト廣吿トヲ含ムヤ
（本尾委員）
然リ
○本條ハ「何時タルヲ問ハス」トアルヲ「何時ニテモ」ニ改ム
○第七百五十五條
一種ノ保險業ノ外ニ尙他種ノ保險業若クハ他ノ業ヲ營ム會社ハ其各保險業ヲ別異シテ之ヲ營ミ其收入ハ專ラ其業每ニ積立及使用スヘシ
（長森委員）
各別ニ計算ヲ立ルトキハ之ヲ適用スルヲ得サルヤ
（本尾委員）
然リ全ク計算上ニ付テハ各別トナスヲ以テ之ヲ通用スルコトヲ得ス依テ例ヘハ火災保險ト尋常保險トヲ營業スルニ火災保險ノ方ニ於テ損失ヲ生シ破產スルコトアルモ尋常會社ノ名依然營業ヲ保續スルコトヲ得然レトモ合名ヲ以テ尋常保險ノ會社ヲ結ヒ火災保險ト共ニ營業センニ若シ尋常ノ會社破產スルニ至リタルトキ合名ナルヲ以テ社員ハ都テ無限責任ナルカ故ニ之レカ爲メ火災保險會社モ自カラ破產ヲ免カレサルヘシ此場合ニ於ケル少シク不都合ナルカ如シト雖モ直接ニ火災保險會社ヲシテ破產ノ慘狀ヲ蒙ラシムルニアラスシテ尋常會社ノ組織ニ依テ自カラ破產ヲ免カレサルニ至ルモノナレハ又致方ナカルヘシ尤モ其破產ヲ爲スモ同時ニ之ヲ爲スニ非ス先ツ直接ニ受ケタルモノ破產ヲナシ然ル後他ノモノニ及スモノナルヲ以テ其間自カラ遲速アルモノナリ
（周布委員）
破產ノ場合ハ一應質問セハ如何
（本尾委員）
諾
○本條ハ原案ニ決ス
○第七百五十六條
保險會社ニ於テ第七百五十二條ヨリ第七百五十五條ニ至ル規則ヲ犯シ或ハ豫メ總被保險者ノ承諾ヲ經スシテ同業若クハ他業ノ會社ト合併シ或ハ一旦確定シテ被保險者ニ吿知シタル保險業ノ原則ヲ變更シ若クハ實際犯ス時ハ各被保險者ハ豫吿ヲ爲サスシテ隨時保險契約ヲ廢シ且其拂込ミタル期限內ノ保險料全額ノ償還及其拂込期日以來ノ法律上ノ利息トヲ要求スルノ權利アリ
（本尾委員）
期限內ノ保險料全額ノ償還トハ例ヘハ生命保險ナレハ一期ヲ一年トナスニアラスシテ終身ナレハ終身年限アレハ其年限中ヲ一期トナスナリ故ニ拂込ミタル金額ハ皆返濟ヲ受クルモノナリ然レトモ火災保險等ノ如キハ一年ヲ以テ一期トナス故ニ已ニ拂込、タル料金ハ保險者ノ所有ニシテ其拂込ヲナス一期中ニアラサレハ請求スルコトヲ得サルモノナリ
○本條ハ規則ヲ規定ニ「或ハ」ヲ「又ハ」ニ改メ利息ノ下ノ「ト」ヲ削ル
于時十二時中止
午後一時開會
○第七百五十七條
被保險者ハ將來義務ヲ踐行シ能ハサルコトヲ豫期シ得可キ狀況ニ至リタル保險會社ニ對シ支拂停止ヲ爲スヲ俟タス倒產處分ヲ請求スルコトヲ得
○本條ハ「倒產」ヲ「破產」ニ改ム
○第七百五十八條
本店ノ所在地外ニ商業取次人ヲ置キ保險契約ヲ取結フ保險會社ハ其契約ニ就テハ其商業取次人ノ屋號又ハ住居ヲ有スル地ノ裁判所管轄ヲ受ケ其裁判所ニ差出ス可キ代人ヲ定メ置ク可シ若シ之ヲ定メサル時ハ其商業取次人ヲ以テ代人ト視做ス
○本條ハ屋號ヲ商號ニ住居ヲ住所ニ改メ裁判所ノ下ニ「ノ」字ヲ加ヘ「視做」ヲ「看做ス可シ」ニ改ム
○第七百五十九條
第七百七條ニ從ヒ獨立シテ保險契約ヲ取結ハシメンカ爲ニ外國ノ保險會社ヨリ日本內ニ置キタル商業取次人ハ該保險會社ノ支店ト視做シ支店ニ關スル一般ノ規則及本款ノ規則ヲ適用ス可シ
（本尾委員）
一般ノ規定トハ登記公吿及裁判所管轄等ヲ云フ
○本條ハ「日本內」ヲ「日本國內」ニ「視」ヲコ君」ニ「規則」ヲ「規定」ニ「本款」ヲ「本節己ニ改ム
○第七百六十條
本款ノ規則ハ一箇人ニシテ他人ト保險取引ヲ爲シ及ヒ組合ニシテ其組合員ノ爲メニ保險取引ヲ爲スモノニモ之ヲ適用ス
（本尾委員）
本條ニハ反譯當ヲ得サル所アリ卽チ組合ニシテノ下ニ「他人又ハ」ノ四字ヲ加ヘサルヘカラス
（長森委員）
注解ノ結尾ニ商法上ノ保險原則ト背馳スルノ程度トアリ如何ナル意味ナルヤ
（本尾委員）
官立ヲ以テ保險所ヲ設クルトキハ幾分カ商法ノ原則ト背馳スルトキアルヘキヲ示シタルモノナリ
○本條ハ左ノ如ク改ム
本節ノ規定ハ一箇人ニシテ他人ト保險取引ヲ爲シ及ヒ組合ニシテ他人又ハ其組合員ト保險取引ヲ爲スモノニモ之ヲ適用ス可シ
○第十二卷 爲替手形及支拂切手
總則
○第七百六十一條
爲替手形ハ幾許ノ金額ヲ相違ナク指人名又ハ所持人ニ拂渡ス可キ旨ヲ記シタル債劵ニシテ其權利起由ヲ自カラ有スルモノトス
（本尾委員）
權利起由トハ權利ノ起由ヲ證劵自ラ之ヲ有スルモノナルコトヲ云フ卽チ其債劵タル商品ナルカ計算ナル力ヲ記載セサルモ此等ノ事タル自然ニ之ヲ有スル旨ヲ定メタルナリ
○本條ハ左ノ如ク改ム
第十二章手形及切手
總則
第七百六十一條爲替手形及約束手形ハ差圖又ハ無記名ニテ一定ノ金額ヲ相違ナク支拂可キ證劵ニシテ其權利ノ原由ヲ自カラ有スルモノトス
○第七百六十二條
爲替義務ハ商業ヲ營ミ得ル者（第十條）皆之ヲ引受ルコトヲ得ヘシ
（長森委員）
商業ヲ營ミ得ルトアリ原案ノ意モ然ルヤ
（本尾委員）
否商重事ヲ爲シ得ル者トスルノ意ナリ故ニ官吏モ亦振出ノ支拂ヲ爲スコトヲ得ルナリ
○本條ハ左ノ如ク改ム
手形義務ハ商事ヲ爲シ得ル者皆之ヲ引受クルコトヲ得可シ
○第七百六十三條
爲替手形上ニ爲替不能力者ノ署名アルカ爲メニ他ノ署名ノ效力ヲ變スルコトナシ
（本尾委員）
本條ハ爲替上ニ付無能力者ナルヲ示スナリ
○本條ハ爲替ノ二字ヲ削リ不能力ヲ無能力ニ改ム
○第七百六十四條
爲替手形ニ記載シタル要件唯タ外觀ニ止マルモノアルトキハ其情ヲ知リタル者ニ對シテハ爲替手形ト視做ス可ラス
（細川委員）
外觀トハ如何
（本尾委員）
例ヘハ甲ヨリ發行セシ證劵ニシテ乙丙丁ニ轉々シタルトキ其乙ナルモノハ之ヲ受取リ又ハ移轉シタルコトナキモ信用ノ爲メ之ヲ記スルコトアリ然ルニ丙ハ之ヲ知ラサルヘカラス然レトモ丁戊等ニ至リテハ之ヲ知ラサルヲ以テ支拂ヲ請求スルトキハ之ヲ拒ムコトヲ得スト雖モ若シ丙ニ於テ乙ニ之ヲ請求スルモ其實利害ヲ有セスシテ只タ外觀削ノ爲脚メナシタルコトハ丙ニ於テハ承知シテ移轉シタルモノナリト云フヲ以テ乙之ヲ拒ムコトヲ得ルナリ
○本條ハ爲替ノ二字ヲ削ル
○第七百六十五條
他人ノ委任ヲ受クルコトナク又其代人タル事實ヲ明記スルコトナクシテ他人ニ代リ爲替手形ニ署名スル者ハ自カラ其責ニ任ス
○本條モ「爲替」ノ二字ヲ削ル
○第七百六十六條
爲替受取人及ヒ總テ之ニ次テ爲替ヲ所持スル者ハ先所持人ヲ經テ振出人ヨリ番號ヲ附シタル同文面ノ手形數通ヲ請求スルコトヲ得
總テ爲替手形ノ所持人ハ需用ニ隨ヒ自ラ爲替ノ謄寫書ヲ製スルコトヲ得
（細川委員）
爲替受取人トハ振出人ヨリ初メテ受取リシモノナルヤ
（本尾委員）
然リ
（細川委員）
前所持人トハ如何
（本尾委員）
例ヘハ振出人ヨリ甲ヘ受取リ而シテ之ヲ乙ニ讓渡シタルトキ乙ニ於テ手形數通ヲ請求セントスルトキハ直ニ振出人ニ請求セスシテ前所持人ナル甲ヲ經由シテ振出人ニ請求スルヲ云フ
（岸本委員）
直ニ振出人ニ請求スルトキハ如何
（本尾委員）
其時ハ前所持人ナキヲ以テ直ニ請求シ得ルハ本條ニ包含スルナリ
（箕作委員）
謄寫書ヲ製スルノ必要ハ如何
（本尾委員）
例ヘハ本書ノ汚損等ニテ危險ノ恐アルトキ之ヲ寫シテ流通スルコトヲ云フ
然レトモ本書ノ所在ハ此ノ寫ニ記入シ置クモノナリ
○本條ハ左ノ如ク改ム
受取人ハ直ニ振出人ヨリ總テ之二次テ手形ヲ所持スル者ハ前所持人ヲ經由シテ振出人ヨリ番號ヲ附シタル同文面ノ手形數通ヲ注肥求スルコトヲ得
總テ手形ノ所持人ハ需用ニ隨ヒ自ラ手形ヲ謄寫書ヲ製スルコトヲ得
于時三時閉會