○第一讀會第四十九回
明治十九年十月八日
午前第十時開會
○第七百十九條
被保險者ノ罪過ニ出テスシテ契約無驗若クハ無效トナリ或ハ隨意ヲ以テ解約シタル時ハ保險者ノ其危險ヲ免レタル多寡ニ從ヒ及慣例ノ手數料ヲ扣除シテ其保險期限ニ就テ既ニ支拂フタル保險料ヲ被保險者ニ還付ス可シ
（長森委員）
無驗ト無效トノ別如何
（本尾委員）
無驗トハ被保險者ニ於テ危險ナキコトニ至リタルヲ云ヒ無效トハ保險者ニ於テ其危險ヲ擔當スルニ及ハサルニ至リタルヲ云フ
本條ノ場合ハ五品ノ保險ナル二三品ノミヲ保險シ又ハ十年間ノ保險ナルトキ十年分ヲ最初ニ支拂ヒタルニ於テ三年目ニ契約ヲ解除シタルトキハ三品ノ保險トシテニ品ニ對スル保險料ヲ還付シ又四年以上ノ分ハ之ヲ還付スルヲ云フ但ウ孰レモ手數料ヲ扣除シテ還付スルコトヲ得ルナリ
（委員長）
前條ノ無資力トナリタルハ無驗ノ一例ナルヤ
（本尾委員）
然リ
（箕作委員）
原文ニ依レハ手數料ノ文字ナシ「慣習上ニテ扣除スヘキモノヲ扣除シテ」トアリ意義ハ手數料ト爲ストキハ原文ヨリ狹隘ニナルノ恐レアリ
○本條ハ「罪過」ヲ「過失」ニ「或」ヲ「又」ニ「其保險期限ニ就テ既ニ支拂フタル」ヲ「其一期ニ付キ既ニ受取リタル」ニ改メタルノミ
○第七百二十條
保險者ハ被保險者ニ保險額ヲ支拂フタルニ於テハ損害ノ爲メニ他人ニ對シ被保險者ノ有スル要求權ヲ受得シ要求權保險ノ場合ニ於テハ殊ニ負債者ニ對スル債主權ヲ受得ス被保險者ハ此場合ニ係リ保險者ニ損失ヲ加フ可キ行爲ノ責ニ任スル者トス
（本尾委員）
例之ハ甲者乙ナル保險會社ノ保險ヲ受タル物件ヲ郵船會社ニ託シ之ヲ神戶ニ送付センニ航海中破船シタルトキハ乙ハ甲ニ保險額ヲ支拂ハサルヘカラス然レトモ郵船會社ノ過失ヨリ生シタル場合ニ於テハ乙會社ハ郵船會社ニ損害賠償ヲ要求スルコトヲ得ルナリ
（箕作委員）
本條ハ代位ノ場合ナリトス
○本條ハ「他人」ヲ「第三者」ニ「係リ」ヲ「於テ」ニ上ノ「要求權」ヲ「訴權」ニ改メ「ノ場合」ノ三字ヲ削除シ此ノ下ニ「等ノ」ノ二字ヲ追加ス
退席周布委員
正午第十二時ヨリ同三十分迄中止
○第七百二十一條
社員相互保險ノ目的ヲ以テ起シタル會社ニ在テハ殊ニ保險料ノ支拂追拂、會社負債ノ支拂、會社利益ノ分配及精算ニ就テハ併セテ會社契約ノ原則及條款ニ照シテ社員ノ權利及義務ヲ判定ス可シ
（鶴田委員）
相互保險トハ如何
（本尾委員）
被保險者ノ社員タルトキハ自己ノ保險者トナリテ相互ニ保險ノ義務アルヲ云フ
（箕作委員）
相互保險會社ナルモノヲ云フナリ
（本尾委員）
例ヘハ會社ヲ設立シテ被保險者ヲ募集スルニ其被保險者モ亦其會社ニ對シテ權利義務ヲ有スルヲ以テ卽チ社員トナルヲ云フ
又精算トハ年々爲ス所ノ總勘定ヲ云ヒ併セテトハ此法及ヒ會社ノ法トニ依テト云フ意味ナリ
○本條ハ「精」ヲ「淸」ニ改メタルノミ
○第二款 火災震災保險
○第七百二十二條
動產又ハ不動產ハ借用人、借地人、入額所得者、預リ主其他他人ノ爲メニ現有若クハ保管スル者ニ於テ自己ノ爲メ又ハ所有者ノ爲ニ之ヲ保險ニ付スルコトヲ得其自己ノ爲ニスル場合ニ在テハ自己ノ利益ノ關セサルトキニ限リ被保險者ヲ以テ所有者ノ代人ト視做シ被保險者ノ債主ハ其保險額ニ對シ要求權ヲ有セサル者トス
（箕作委員）
本條ハ總則中ニ揭クヘキモノナルヘシ
（本尾委員）
然リ本條ハ總則中ヨリ拔萃シテ揭タルニ過キサルナリ蓋シ第三款以下モ亦之ニ準スルナリ
（箕作委員）
本款ハ洪水暴風雨ノ危險ヲ家屋又ハ動產ニ就テ保險スルモ差支ナカルヘキニ之ヲ記載セサルハ如何ナル理由ナルヤ一應質問アランコトヲ望ム
（本尾委員）
諾
○本條ハ「借用人借地人」ヲ「賃借人」ニ「入額所得者」ヲ「收利者」ニ「預リ主」ヲ「保管者」ニ「保管」ヲ「監守」ニ「トキ」ヲ「モノ」ニ改ム
○第七百二十三條
不動產ノ保險ニ於テ法律若クハ契約ニ依リ被保險者ニ破滅若クハ破損シタル物品ノ再建若クハ修繕ヲ爲スヘキ義務アル時ハ保險者ハ被保險者若クハ其權利相續人ノ右義務ヲ履行スルノ期限ヲ定ムルコトヲ裁判所ニ申立テ又其建築若クハ修繕ヲ監査シ其事業ノ捗取ニ應シテ保險額ヲ支拂フコトヲ得
又其支拂フ可キ保險額ニ應シ自費ヲ以テ再建若クハ修繕ヲ保險者ニ於テ自カラ行ヒ又ハ他人ヲシテ行ハシムルコトハ契約ヲ以テ定ムルヲ得ヘシ
（箕作委員）
法律ニ依サトハ如何
（本尾委員）
市街取締規則ニ依リ其期限內ニ築造又ハ修理スルヲ云フ浮
○本條ハ「物品」ヲ「物件」ニ改メ「ヘシ」ヲ削リタルノミ
○第七百二十四條
動產ハ箇々ヲ以テシ又ハ總體ヲ以テシテ保險スルコトヲ得其他總體保險ノ場合ニ於テハ期限中其物品ヲ增減シ又ハ他品ヲ以テ其全部若クハ一部ニ代ユルモ保險上ニ關係ヲ及ホササル者トス
（長森委員）
說明ニ依ルニ契約上ノ保險額ヲ增加スルコトヲ得サレトモ保險物ノ減少シタルトキハ其減少ニ應シテ保險額ヲ減少スルコトヲ得ヘシ
（本尾委員）
然リ本條ハ物品ノ增減又ハ他品ヲ以テ代ユルトキハ其保險契約ニ關係ヲ及サヽルコトヲ示スニ過キサルナリ
○本條ハ左ノ如ク修正セラレタリ
第七百二十四條動產ハ箇々又ハ總體ヲ以テ保險スルコトヲ得總體保險ノ場合ニ於テハ期限中其物件ヲ增減シ又ハ他ノ物件ヲ以テ其全部若クハ一部ニ代ユルモ保險契約ニ關係ヲ及サヽルモノトス
○第七百二十五條
動產ノ保險ハ保險證書中ニ記載シタル住地若クハ其他ノ一地內ニ於テノミ效力アル者トス但保險物ヲ一時他ノ地ニ移シ又ハ保險地內ニ於テ他所ニ移ストモ保險ハ之レカ爲ニ廢止スルコトナシ
（本尾委員）
其地內トハ保險物件ノアル番地ノ地內ヲ云フナリ
○本條ハ「證書」ヲ「證劵」ニ改メタルノミ
○第七百二十六條
自然若クハ爆發ノ危險アル物品ニ就テハ保險者ニシテ契約上若クハ相當ノ警戒法ヲ爲サヽリシ時ニ非サレハ第六百五十九條ヲ適用スルヲ得ス
（本尾委員）
本條保險者トアルハ被保險者ノ誤リナリ要スルニ被保險者ニ怠リノ責アルトキハ第六百九十五條ヲ適用スルヲ示スナリ
○本條ハ「物件ニ付テハ被保險者契約上」云々ト改ム
○第七百二十七條
火災ノ時消防或ハ救濟ノ處置又ハ竊盜又ハ之ニ類似ノ因由ニ依リ被保險者ノ受ケタル損害ハ其火災ノ被保險者ノ許ニ起ルト近傍ニ起ルトヲ論セス亦火災損害ト視做ス可シ
傍ニ起ルトヲ論セス亦火災損害ト看做ス可シ
○本條ハ原案ノ儘ニ決ス
○第七百二十八條
雷電火藥爆發器械破裂其他之ニ類似ノ危險及ヒ地震ノ危險ハ爲メニ火災ノ起リタルト否トヲ論セス之ヲ火災危險ト同視ス可シ
○本條モ亦原案ノ儘ニ決ス
○第七百二十九條
他ノ證據法殊ニ證人タルヲ以テ十分ニ損害ノ多少ヲ斷定スヘカラサル時ハ裁判所ハ被保險者ノ申立ヲ確實ニセン爲メ其請求ニ依リ之ヲ宣誓セシムルヲ得
○本條ハ「他ノ」及「タル」ヲ削リタルノミ
于時午後第三時閉會