○第一讀會第四十八回
明治十九年十月七日
欠席 細川委員
○第七百十二條
保險物ノ價額ニシテ保險證書中ニ記載セサルモノ及ヒ生シタル損害額ニ就テハ渾テ他ノ正當ノ證據物ヲ以テ證據ヲ擧クルコトヲ得損害額ノ鑑定ニ就キ雙方調和セサル時ハ裁判所ヨリ命シタル鑑定人ヲシテ確定セシム可シ
（岸本委員）
損害額ハ直接間接トモニ包含スルヤ
（本尾委員）
然リ
○本條ハ「證書」ヲ「證劵」ニ改メ「生シタル」ト「渾テ」ヲ削リ「正當ノ證據物ト」アルヲ「正當ナル證據方法」ト改ム
○第七百十三條
被保險者ハ危險ノ生スルニ方リ可成的之ヲ防止減却スルコトニ盡力シ其既ニ生シタル後ハ速ニ其旨及紛失若クハ損害ノ有無其大小ヲ保險者又ハ其代人ニ通知スルノ義務アリ以テ此義務ヲ犯スカ爲メニ生シタル損害ノ責ニ任ス可キ者トス
○本條ハ「可成的」ヲ「成ル可ク」ニ「紛失」ヲ「亡失」ニ改メ其大小ノ「其」ト「以テ」ヲ削リ此義務以下ヲ左ノ如ク改ム此義務ヲ怠リタルカ爲メ損害ヲ生シタルトキハ其責ニ任ス可キモノトス
○第七百十四條
戰爭又ハ內亂ニ由テ起リタル危險ハ明約ヲ以テ擔當シタルニ非サレハ保險ノ責ニ任スルコトナシ
（周布委員）
內亂中ニハ百姓一揆モ包含スルヤ
（本尾委員）
然リ
○本條ハ「內馴亂」ヲ「暴動」ニ改ム
○第七百十五條
被保險者又ハ其代人ニ於テ契約取結ノ際緊要ノ事情ニ就キ無實ノ陳吿ヲ爲シ或ハ之ヲ默止スルトキハ其情ヲ知リ不正ノ意趣ニ出ルト否トヲ論セス保險者ハ契約上ノ責任ナキ者トス但被保險者惡意ナク其知ル所ヲ盡クシテ保險者ノ問ニ答ヘタルトキハ罪過ナキモノトス
（箕作委員）
緊要ノ事情トハ如何ナルモノナルヤ
（本尾委員）
例ヘハ家屋ナレハ木材ハ何ヲ用ヒタル等其物ニ付テハ緊要ナル部分ヲ云フ又有樣ニ付テハ風ノ爲メニ動搖スルコトナキヤヲ云フ
又但以下ハ保險者ノ問ニ應シ一々正實ニ惡意ナク應答シタルトキハ例ヘハ被保險者ノ事情ヲ知ルモ問ノ外ニ於テ生シタル事件ニ付テハ被保險者ニ於テハ當然其契約ヲ履行セシムルコトヲ得
（箕作委員）
然ラハ但書以上ト矛盾スルニハアラスヤ何ントナレハ不正ノ所爲アルトキハ問ナキモ言ハサルトキハ契約ハ成立タサレハナリ
（本尾委員）
否默止スルトハ保險者ノ問ニ對シ默止シタルモノニシテ問ナキ二種々被保險者ノ內幕ヲ云フニ及ハサルヲ云フ
（箕作委員）
注解ニ引用セル獨逸商法第八百十二條ニハ如何ナルコトヲ記載セシヤ
（本尾委員）
八百十二條ニハ默止スルコトナク知リシコトハ正當ニ答フヘキ旨ヲ示ス併シ但書以下ノ如キハ更ニ記載スルコトナシ
（箕作委員）
一應原文ノ意味ヲ質議セハ如何
（本尾委員）
段々熟讀スルニ少シク意味ヲ異ニシタリ卽チ左ノ如ク解セサルヘカラス
但書以上ニ於テハ保險者ニ於テハ無論責任ヲ有セサルモノトス然シテ但書以下ハ被保險者ニ於テハ惡意ナク間ニ答ヘタルモノナレハ其契約ハ無效トナルモ被保險者ニ於テハ罪過ナキモノトス依テ但書以上ニ於テハ保險者ノ責任ナキノミナラス從來拂込ミタル料金ハ沒收セラルルモノナレトモ但書以下ニ於テハ惡意ナキヲ以テ其契約ハ成立セサルモ已ニ拂込ミタル料金ハ被保險者ニ於テ取戾スコトヲ得ヘキモノナリ
于時十二時中止
午後零時三十分閉會
（本尾委員）
一應質議スヘシト雖トモ先ツ修正シ置クヘシ
被保險者又ハ其代人ニ於テ契約取結ノ際緊要ノ事情ニ就キ無實ノ陳述ヲ爲シ又ハ情ヲ知リタルト否ト不正ノ意ニ出タルト否トヲ論セス其事情ヲ默止スルトキハ保險者ハ契約上ノ責任ナキモノトス但被保險者保險者ノ間ニ對シ惡意ナク其知ル所ヲ盡クシテ答ヘタルトキハ過失ナキモノト看做ス可シ
○第七百十六條
契約取結ノ後其保險シタル危險ヲ增加若クハ變更スヘキ事情ノ變化保險物ニ就テ生シタルトキ又ハ明約若クハ默約ヲ以テ延期シタルニ非ラスシテ受取證ヲ以テ要求スルニ契約上若クハ慣習上ノ期限內ニ保險料ヲ拂ハサルトキハ保險者ハ契約上ノ責任ナキモノトス但シ右兩場合トモ保險者ニ於テ契約ヲ保續スルトキハ此限ニ在ラス保險料ノ拂込ハ被保險者或ハ其代人或ハ一般ノ權利相續人或ハ第七百一條及第七百二條ノ場合ニ於ケル權利相續人之ヲ爲スコトヲ得
（箕作委員）
事情ノ變化トハ如何
（本尾委員）
例ヘハ住居家屋ヲ製造場ニ變シタル如キヲ云フ
○本條ハ左ノ如ク改ム
契約取結ノ後事情ノ變化ニ依リ保險物ノ危險ヲ增加シ若クハ變更シタルトキ又ハ明約若クハ默約ヲ以テ延期シタルニ非スシテ受取證ヲ以テ要求スルニ契約上若クハ慣習上ノ期限內ニ保險料ヲ拂ハサルトキハ保險者ハ契約上ノ責任ナキモノトス但何レノ場合ニ於テモ保險者ニ於テ契約ヲ保續スルトキハ此限ニ在ラス保險料ノ拂込ハ被保險者又ハ其代人又ハ權利相續人若クハ第七百一條及第七百二條ノ買受讓受人之ヲ爲スコトヲ得
○第七百十七條
被保險者ハ保險セラレタル危險終ニ生スルニ至ラサルトキハ其契約ノ責任ヲ免ルヽモノトス但危險ノ減少若クハ危險期日ノ短縮ノ爲メニ保險料ヲ分割スルハ數多ノ保險期限ニ涉リテ一時ニ保險料ヲ支拂フタルトキニ非サレハ之ヲ許サス其保險期限ハ通例一年ト爲ス
（本尾委員）
生スルニ至ラサルトキハ生スル場合ニ至ラサルトキトハノ意昧ナリ假令ハ航海ノ爲メニ保險シタルニ途ニ航海セサリシ場合ノ如キ是ナリ
但以下ハ例ヘハ三年間ノ保險約束ニシテ一時二三年分ノ料金ヲ拂ヒタルトキ一年分ニシテ保險ヲ止メタルトキハ後ノ一年分ハ取戾スコトヲ得其坐-年分則六ケ月分ハ月割ヲ以テ取戾スコトヲ得ス
○本條ハ左ノ如ク改ム
被保險者ハ保險セラレタル危險初メヨリ發生ス可キニ至ラサルトキハ其契約ノ責任ヲ免ル奧モノトス危險ノ減少若クハ危險期日ノ短縮ノ爲メニ保險料ヲ分割スルハ數期ニ涉ル保險料ヲ一時ニ支拂タルトキニ非サレハ之ヲ許サス其一期ハ一年ヲ通例トス
○第七百十八條
保險期限中契約者ノ一方支拂無能力トナリタルトキハ解約スルト契約履行ノ保證ヲ要求スルトハ他ノ一方ノ隨意タリ
（委員長）
若シ保險者中途ニシテ無資力トナリシトキハ已ニ拂込ミタル料金ハ被保險者ニ拂戾スヤ
（本尾委員）
否雙方トモ無資力トナリシトキハ拂込ミ金額ハ之ヲ取戾スノ義務ナシ若シ被保險者ニ於テ契約ヲ續行セント欲セハ保險者ニ保證ヲ立テシメ之ヲ履行スルモノナリ
（岸本委員）
保險者無資力トナリシトキハ被保險者ハ之ヲ續行スルヲ利益トスルニ依リ多クハ保證ヲ立テシムルナラン
（本尾委員）
本條ヲ以テ破產法ノ第千四十七條ト對照スルニ大ニ其主義ヲ異ニセリ何トナレハ本條ハ已ニ拂込ミタル場合ニ於テモ一方ノモノ解約ヲ求ムルコトヲ得然レトモ已ニ拂込ミタルモノハ取戾スコトヲ得ス然ルニ第千四十七條ニハ雙方ヨリ無賠償ニテ解約スルコトヲ得トアリ少シク主義上ニ於テ矛盾ヲ來スカ如シ
（本尾委員）
本條ハ第千四十七條ト對照スルニ該條ハ雙方ニ解約ノ權アリ本條ニハ一方ニノミ解約ノ權ヲ有ス少シク矛盾スルカ如シ故ニ此㸃ニ付テハ一應質問スヘシ
于時三時閉會