○第一讀會第四十六回
明治十九年十月五日
午前第十時開會
○第六百九十二條
保險物ノ價額ヲ預メ契約又ハ鑑定者ノ鑑定ニ由テ定メタルトキハ詐僞ニ係ルニ非サレハ之ニ對シ異議スルヲ得ス
○本條ハ■者」ヲ「入」ニ改メ異議スルノ下ニ「コト」ヲ加フ
○第六百九十三條
保險セラレタル要求權ノ價額ハ負債額ニ利子ト取立費用ト保險料トヲ合シタル額ニ由テ定マル者トス
（箕作委員）
取立費用トハ如何
（本尾委員）
要求權ニ付テノ取立費用ヲ云フ卽チ訴訟費用等ノ取立費用ヲ云フ
（本尾委員）
本條ハ債主ヨリ負債主ノ爲メニ保險スルモノナリ之レ負債主ノ無資力トナリタル時之ニ代ヘテ辨償スルノ義務ヲ負フモノナリ
又本條ハ間接ノ保險ナリ直接ノ保險トハ債主ノ抵當品ノ如キ之レナリ
○本條ハ「利子」ヲ「利息」ニ「保險料」ヲ「保險費用」ニ改ム
○第六百九十四條
賠償額ハ身體ノ保險ニ在テハ保險額トシ物品ノ保險ニ在テハ危險ノ生シタルニ由テ直接又ハ間接ニ來タシタル損失ヲ被ムリタル保險利益ノ額トス間接ノ損失中ニハ被保險者ニ於テ既ニ生シ又將ニ生セントスル危險ニ對シ已ヲ得サルノ防止若クハ避除ニ依テ生シタル別段ノ費用及損失ヲモ算入ス可シ
（本尾委員）
生命保險ニ於テハ人ノ强弱ヲ論セス例ヘハ千圓ト定メタルトキハ其人ノ死去ニ依テ其定メタル千圓ヲ拂ハサルヘカラス之ヲ賠償額ト云ヒ保險額ト云フ物品ニ至テハ直接間接ニ由テ蒙リタル損失額トス故ニ生命保險トハ其旨趣ヲ異ニス故ニ物件ノ保險ノ如キハ全ク亡失シタルトキハ保險全額ヲ與ヘサレトモ一部分ノ減失シタルトキハ實際失フタル部分ノ賠償ニ限リ之ヲ支拂フモノナリ
（細川委員）
直接間接トハ如何
（本尾委員）
家ノ保險ニ付テハ其家ノ亡失シタルコトヲ直接ト云ヒ間接トハ之ヲ亡失セサル樣人夫ヲ雇フテ種々防衞シタル費用ノ如キ是ナリ
（鶴田委員）
隣家ニ火ヲ失シタルトキ危險ヲ防衞シタル費用アルトキハ如何
（本尾委員）
被保險者ノ家ヲ燒カサルトキハ例ヘ防衞シタル費用ハ保險金口社ニ於テハ支拂ハサルヘシ
（岸本委員）
其場合ハ保險ヲ支拂フニ及ハサルヘシ其事タル本條ノ聞題トハ少シク相違スル所アリ故ニ其場合ニ於テハ保險會社ヨリ更ニ報酬ヲ受クヘキモノナルヘシ卽チ事務管理ノ爲メノ費用トシテ保險者ヨリ其賠償ヲ求ムルコトヲ得ヘシ
（周布委員）
生命ノミナラス不具トナリシトキハ如何
（本尾委員）
不具モ包含スルナリ
○本條ハ左ノ如ク改ム
物品ヲ物件ニ來タシタルヲ蒙リタルニ損失以下ヲ損失ノ額ニ限ルモノトスニ改メ又ノ下ニ「ハ」ノ字ヲ加フ
第六百九十五條
被保險者已ヲ得サルニ非スシテ躬ラ隨意ニ起シ或ハ起サシメタル紛失或ハ損害又ハ保險物ノ性質功用或ハ固有瑕瑾ニ由テ直接ニ生シタル紛失或ハ損害ハ保險者之ヲ賠償スルノ義務ナキ者トス
（本尾委員）
性質功用トハ例ヘハ家屋ニシテ功用トハ通常人ノ住居ナレハ無差支モ多數人ヲ集合セシムル爲メ破損シタル場合ハ保險者ノ賠償スルノ義務ナキヲ示スナリ
（岸本委員）
其物件ヲ用方通ニ用ヒスシテ損害ヲ蒙リタル場合ハ賠償スルノ義務ナシトスルニアラスヤ
（箕作委員）
本條ハ天災地妖ノ保險ナルヤ
（本尾委員）
然リ
○本條ハ紛失ヲ亡失ニ改ム
正午時中止
午後一時開會
○第六百九十六條
保險ノ當初既ニ生シタル危險ニ係ル保險ハ無效トス但雙方又ハ其代人其事實ヲ知ラス且假令ヒ危險既ニ生シタルモ其保險有效ナルコトヲ明言シタル時ハ此限ニ在ラス
（本尾委員）
危險ノ既ニ生シタルコト云々トハ危險ノ生シタルコトヲ知リテ互ニ明約シタル場合ヲ云フ而シテ本條ハニ個格別ノ場合ニアラスシテ一個ノ場合ナリ卽チ雙方其事實ヲ知ラサルカ上ニ危險既ニ生シタルコトアルモ其コトヲ知ラスシテ其保險ノ有效タルヘキコトヲ約束シタル場合ニシテニ個ノ要件ノ具備セサルヘカラサレハ其保險タル無效ナリトス
○本條ハ「有效ナルコトヲ明言シタル時ハ」トアルヲ「有效タル可キコトヲ明約シタル時ハ」ト改ム
○第六百九十七條
既ニ全價額ニ係リ保險ヲ受ケタル利益ヲ更ニ保險ニ付シタルハ無效トス但最初ノ保險ノ無效或ハ無驗ナルトキ又ハ被保險者ノ棄損其他ノ方法ヲ以テ結了シタルトキハ此限ニアラス
（箕作委員）
無驗トハ如何
（本尾委員）
中途ヨリ無效トナリシモノナリ無效トアルハ最初ヨリ效ナキヲ云フ
（委員長）
保險ヲ受ケタル利益ヲ更ニ保險トハ如何
（本尾委員）
一個ノ家屋ヲニ會社ニ保險セシムル是ナリ此ノ事タル賭博ニ類スルモノナレハナリ
（細川委員）
最初ノ保險トハ如何
（本尾委員）
雙方ニ於テハ異議ナク保險ノ契約ヲナセシモ其之ニ關スル法律ニ牴髑スル爲メニ無效トナリシ場合無驗トハ契約ハ成立モ保險料ヲ拂ハサル場合是ナリ
○本條ハ左ノ如ク改ム
利益ヲ物件ニ「保險ノ無效或ハ無驗ナルトキ」ヲ「保險ノ無效ナルトキ又ハ效力ヲ失ヒタルトキ」ニ「棄損」ヲ「抛棄」ニ「方法ヲ以テ結了シ」ヲ「方法ニ依リ終リ」ニ改ム
○第六百九十八條
同時ニ於テシ或ハ各保險者ノ了知承諾ヲ以テ時ヲ異ニシ同一物品ノ同一利益ニ係リ重複ノ保險ヲ受ケタルトキハ前條ヲ以テ論スヘカラサルモノニ限リ各保險額ノ比例ヲ以テ各保險有效トス但總保險額若シ保險利益ノ額ヲ超過スルトキハ右ノ割合ヲ以テ各保險額ヲ低減ス可シ
（本尾委員）
本條ハ前條ノ取除ケナリ卽チ一個ノ家屋ヲ各保險者ノ承諾シタル上ニテ同時又ハ異時ニ其家屋ヲ重複ノ保險ヲナサシムルコトヲ得ルヲ示ス
（周布委員）
前條ヲ以テ論スヘカラストハ前條ノ全價額ニ係ラサルトキヲ云フナルヘシ
（本尾委員）
一應質問スヘシ其㸃ハ前條トノ差異且前條ヲ以テ論スヘカラストアル意義ヲ以テスヘシ
○本條ハ質問ノ上修正スルコトニ決セリ
退席本尾委員
○第六百九十九條
總テ保險ハ一定ノ保險利益ヲ超過シタル額ヲ限リ無效トス
（鶴田委員）
本條ハ第六百九十條ト矛盾ヲ來スニハアラスヤ
（岸本委員）
然リ超過スルモ明約アルトキハ不可ナキナリ然ルニ本條ニ於テハ一定ノ保險額ニ超過シタルトキハ最初ヨリ契約シタルモノト雖モ其超過高ハ無效ニ歸スルモノナリ故ニ第六百九十條トハ少シク矛盾ヲ來スカ如シ
○未タ議了セサルモ時已ニ至ルヲ以テ明日ノ會議ニ讓ル