○第一讀會第四十四回
明治十九年十月一日
午前
○第六百六十條
獨立ノ與債約ハ已ニ其額ヲ定メテ承諾シタル後ハ受債者ニ於テ之カ爲メニ引受ケタル義務ヲ盡サス又ハ支拂不能力トナリ又ハ取引情況困迫ニ陷リ且與債者充分ノ引當又ハ保證ヲ有セサル時ニ限リ之ヲ取消スコトヲ得
（本尾委員）
引當トハ抵當トハ異ナレリ卽チ留置權存スルトキト同一ナリ
○本條ハ左ノ如ク改ム
「獨立ノ信用約束ハ金額ヲ定メテ承諾シタル後ハ受信者ニ於テ之カ爲メニ引受ケタル義務ヲ盡サス又ハ支拂無資力トナリ又ハ取引ノ情況困難ニ陷リ且與信者充分ノ引當又ハ」以下原案ニ同シ
○第六百六十一條
與債約ハ其額ヲ定ムルト否ト、期限ヲ立ツルト否ト、未必條件アルト否ト、又ハ一人ニ限ルト指名證劵ヲ以テスルト否トヲ論セス之ヲ爲スコトヲ得
（本尾委員）
二人以上ナルトキハ指名證劵ヲ以テセサルヘカラサレハ一人ニ限ルト否ト記サハ充分ナリ故ラニ指名證劵ノ文字ヲ記スルニ及ハサルナリ
○本條ハ「與債約」ヲ「信用約束」ニ「其額」ヲ「金額」ニ「指名」ヲ「差圖」ニ改メ其下ノ「ト否」ノ二字ヲ削ル
○第六百六十二條
二人互ニ債ヲ與フル時ハ一方ノ與債約ヲ以テ他ノ一方ノ與債約ニ對スル報酬ト視做ス可シ
（周布委員）
本條ノ結果ハ如何
（本尾委員）
六百六十條ノ結果ヲ生スルモノナリ
○本條ハ「債」ヲ「信用」ニ「與債約」ヲ「信用約束」ニ「視」ヲ「看」ニ改ム
○第六百六十三條
連續計算上ニテ保管物又ハ其他金額若クハ有價物ヲ領收シタルハ其處分シ得ヘキ債額ヲ限トシ默諾ノ與債約ト視做ス可シ
（本尾委員）
其處分シ得ヘキトハ交互計算ノ時雙方ノ內一方ニ於テ取リ分卽チ處分シ得ヘキ債額ヲ限リトシ信用約束ト看做ス旨ヲ定ム
（箕作委員）
處分シ得ヘキモノハ受信者ナルヤ與信者ナリヤ
（本尾委員）
双方ノモノヲ指ス何ントナレハ交互計算ノ上一方ノモノ取ルヘキ部分アルヘシ其部分ニ付テハ一方ノモノニ對シ信用約束ト看做スヲ以テ其部分ニ付テハ他ヘ手形ヲ以テ之ヲ流用シ得ヘシ之ヲ與債約ト云フナリ
（岸本委員）
交互計算ハ已ニ與信約ニアラスヤ
（本尾委員）
然リト雖モ交互計算ハ單ニ雙方ニ止マルモノナ吻然ルニ與信約ハ雙方ノミナラス第三者ニ迄及フヘキモノナルヲ以テ交互計算ヲ以テ已ニ與信約トスルハ少シク精神ヲ狹ムルカ如シ
（岸本委員）
交互計算中ニ於テ一方ノモノ可取モノアルトキハ第三者ニ對シ之ヲ處分スルコトハ充分ナリ故ニ交互計算ハ雙方間ノミニシテ」第三者ニ關係ナシトハ爲サヽルナリ
（本尾委員）
其處分トアル其ハ金額有價物件ヲ渡シタル所ノ人ヲ云フ
○本條ハ左ノ如ク改ム
交互計算ニ於ケル寄藏物其他金額若クハ有價物ノ處分シ得ヘキ金額ヲ限リトシ默諾ノ信用約束ト看做ス可シ
第六百六十四條
與債約ニ於テ利子又ハ手數料ノ額ニ就キ疑ヲ生スルトキハ其約ニ據テ現ニ與ヘタル債額ニ準シ之ヲ要求スルヲ得
（長森委員）
現ニ與ヘタル債額云々トハ假令ハ千圓ノ與債約ナルニ利子竺第疑ヒアルトキハ實際受取リタル宀咼卽チ五百圓ナルトキハ其高籌就テ利子ヲ拂フヘシトスル意ナリ
○本條ハ左ノ如ク改ム
信用約束ニ於テ利息又ハ手數料ニ就キ疑ヲ生スルトキハ其約束ニ依テ現ニ交付シタル金額ニ準シ之ヲ要求スルコトヲ得
第六百六十五條
債劵ヲ以テ他人ニ與債ヲ約シタルトキハ其振出人ハ受債者ニ對シテ履行ノ責アリ且其履行ハ振出人ノ計算ヲ以テスル者トス但別人ニ於テ其債劵ヲ承諾スルトキハ別途ノ與債約ト視做ス可シ
（周布委員）
但書ハ如何
（本尾委員）
例ヘハ甲ヨリ乙ニ債劵ヲ發行シタルトキ其債劵ヲ乙ヨリ丙ニ交付シタルトキ丙ニ於テ甲ニ信用ヲ與ヘタル場合ニ於テハ甲ト丙トノ間ノ信用約束トナル之ヲ別途ノ與債約トスルナリ
○本條ハ左ノ如ク改ム
傳票又ハ信用證劵ヲ以テ他人ニ信用約束ヲ爲シタルトキハ其振出人ハ受信者ニ對シテ履行ノ責アリ其履行ハ振出人ノ計算ヲ以テスルモ一ノトス但第三者ニ於テ其傳票又ハ信用證劵ヲ承諾シタルトキハ別途ノ信用約束ト看做ス可シ
○第六百六十六條
他人ノ囑託ヲ受テ與債約ヲ爲シタルトキハ其囑託者ハ受債者ノ保證人ト視做ス可シ
（本尾委員）
本條ハ甲日リ依賴ヲ受ケテ乙尊丙ヨリ澹羂約ヲナシタルトキハ甲ハ乙ノ保證人トナルヘキヲ示ス
○本條ハ左ノ如ク改ム
他人ノ委託ニ依リ信用約束ヲ爲シタルトキハ其委託者ヲ以テ受信者ノ保證人ト看做スヘシ
于時十二時中止
午後一時三十分前開會
○第六百六十七條
一定額ノ債ヲ與ヘヨトノ慫慂ハ與債囑託ト視做ス可シ但シ別ニ制限ヲ付シタルトキハ此限ニ在ラス
○本條ハ左ノ如ク改ム
定リタル金額ノ信用ヲ與フ可シトノ勸吿ハ與信ノ委託ト看做ス可シ但シ別二條件ヲ付シタルトキハ此限一尸在ラス
○第三款 保管
○第六百六十八條
他人ノ物品ヲ格護スル者ハ自己ノ物品ニ於ルト同一ノ注意ヲ加ヘテ之ヲ預ケ主ニ還付ス可キ責任アリ
○本條ヲ修正スルニ當リ第六百六十三條ノ寄藏物トアルヲ原案ノ如ク保管ト改ム
「第三款」ヲ「第三節」ニ「物品」ヲ「物件」ニ「格護」ヲ「保管」ニ「預ケ主」ヲ「寄託者」ニ「責任アリ」ヲコ貢任アルモノトス」ト改ム
○第六百六十九條
他人ノ物品保管ノ爲ニ報酬ヲ受クル者或ハ明ニ特別ノ責任ヲ負擔スル者或ハ啻ニ保管スルニ止マラス尙經理ヲ擔任スル者或ハ他人ノ物品ヲ保管若クハ經理スルヲ以テ營業ト爲ス者或ハ營業上ヨリ自然他人ノ物品ヲ保管スル者ハ預ケ主ニ對シ至密ノ注意ヲ爲スノ義務アルモノトス
（本尾委員）
管理トアルハ任管ト經理トヲ包含スルヲ以テ保管ノ物件ヲ使用シテ利益ヲ得ルノ所爲ハ爲シ得ルモノナリ
○本條ハ左ノ如ク改ム
「物自叩」ヲ宀物件」ニ「或ハ」ヲ「又ハ」ニ「經理」ヲ「管理」ニ「預ケ主」ヲ「寄託者」ニ「至密」ヲ「至重」ニ改メ「自然」ノ二字ヲ削ル
○第六百七十條
旅店主、酒店主、浴場營業者及其他客ヲ引受ル營業人ハ客ノ其家內ニ置キタル物品ニ就テハ其使用人又ハ他ヨリ出入スル人ニ由リテ生シタル偶然ノ紛失又ハ破損ニ對シテモ責任アル者トス此責任ハ反對ノ吿示アルモ又ハ客ニ自己ノ注意ヲ促スモ之ヲ免ルヽヲ得ス且假令ヒ明約ヲ以テスルモ店主又ハ其使用人ノ罪過ニ歸ス可キ時ハ亦タ然リ高額ノ金錢及別段貴重ノ物品ハ店主ノ請求ニ依リ其旨ヲ開吿シテ特別保管ノ爲ニ之ヲ店主ニ交付セサル可ラス
（箕作委員）
抗拒スヘカラサルトキ卽チ强盜ノ爲メ奪ハルル時ハ店主ト雖モ其責ニ任セサルヘシ
（本尾委員）
然リ丁
又偶然ノ紛失ト雖モ店主ノ過失ニ歸スルモノナルヲ以テ窃盜ノ如キ故意ノ所爲ハ勿論ナリトス
○本條ハ左ノ如ク改ム
「酒店主」ノ三字ト「及」ノ字ヲ削リ「營業人」ヲ「營業者」ニ「客ノ其家內テ置キタル物品ニ就テハ」トアルヲ「其家內ニ宏一ソ皿旦キタ舊ル物口期ニ付テハ」ニ改メコ免ルルヲ得ス」トアルヲ出免ルルコトヲ得ス」丁「罪過」ヲ「過失」ニ剩物品」ヲ宀物件」ニ改ム
○第六百七十一條
預リ主ハ約定ヲ爲シタル時ハ勿論他人ノ物品ヲ保管又ハ經理スルヲ以テ營業ト爲ス時ハ假令ヒ約定ナキモ藏敷料及報酬並ニ何レノ場合ヲ論セス必要ナル立替金ノ辨償及ヒ預ケ主ノ罪過ニ歸ス可キ損害ノ賠償ヲ要求スルヲ得此要求ノ權ノ爲メ保管物ニ對シ留置權ヲ有スル者トス
○本條ハ左ノ如ク改ム
保管者ハ約定ヲ爲シタル時ハ勿論他人ノ物件ヲ保管若クハ管理スルヲ以テ營業ト爲ス時ハ假令ヒ約定ナキモ藏敷料及報酬並ニ如何ナル場合ヲ論セス必要ナル立替金ノ辨償及寄託者ノ過失ニ歸ス可キ損害ノ賠償ヲ要求スルコトヲ得此要求ノ爲メ保管物件ニ對シ留里旦權ヲ有スルモノトス
○第六百七十二條
保管物ハ期限ヲ定メタルト否トヲ論セス第六百七十八條ノ場合ヲ除クノ外豫吿ヲ爲サスシテ隨時其還付ヲ要求スルヲ得
○本條ハ物ノ下ニ「件」ノ字及結末ニ「コト」ノ字ヲ加フ
○第六百七十三條
期限ヲ定メスシテ保管スル物品ハ預リ主ヨリ隨時之ヲ還付スルヲ得但シ相當ノ期日前ニ豫吿シ又ハ約定ノ期限ヲ守ラサル可カラス
○本條ハ「物品」ヲ「物件」ニ「預リ主」ヲ「保管者」ニ改メ還付スル下ニ「コト」ヲ加ヘ約定ノ下ニ「豫吿」ヲ加フ
○第六百七十四條
數人共同シテ一物品ノ保管ヲ托シタルトキハ他ノ約定アルニ非サレハ各人ヨリ其還付ヲ要求シ又各人ニ還付スルヲ得
○本條ハ「一物品」ヲ「物件」ニ「他ノ約定」ヲ「特約」ニ改乳 還付スル下ニ「コト」ノ字ヲ加フ
○第六百七十五條
保管中其物品ヨリ生スル所ノ利得ハ預ケ主ニ屬スル者トス
○本條ハ「物品」ヲ「物件」ニ「預ケ主」ヲ「寄託者」ニ改ム
○第六百七十六條
品種ニ從ヒ個數、重量又ハ其他ノ尺度ヲ以テ保管ヲ托シタル物品ニ就テハ同個數同重量又ハ其他ノ同尺度ヲ以テ其還付ヲ要求スルヲ得但性質ニ從ヒ特定物ト視做ス可キモノハ此限ニ在ラス
○本條ハ左ノ如ク改ム
品種ニ從ヒ個數掛重量其他度量ヲ以テ保管ヲ託シタル物件ニ付テハ同個數同重量其他同度量ヲ以テ其還付ヲ要求スルコトヲ得但性質ニ從ヒ特定物ト看捺ス可キモノハ此限ニ在ラス
○第六百七十七條
數人ヨリ保管ヲ托シタル換用物混交シタルトキハ其保管各預ケ主其預ケ高ニ應シテ全額ノ共有者トナリ且其割合ヲ以テ全額ノ紛失又ハ損害ノ危險ヲ負擔スル者トス
（本尾委員）
混交トハ米千俵ヲ保管ヲ托スルニ始メヨリ混交スルニフラスシテ保管者ノ手ニ托シタル後ニ於テ混交シタルモノナリ此時ハ皆全額ノ共有者トナリ而シテ其危險ハ甲乙ノ割合ヲ以テ負擔ス軌
○本條ハ左ン如ク改ム、
「混交シタル下キハ」オ「ハ」ニ「保管」ノ二字ヲ削リ「預ケ主」ヲ「寄託者ハ」ト改ム
于時午後三時ナリ