○第一讀會第四十三回
明治十九年九月三十日
欠席 箕作委員
（本尾委員）
本案中ニ民法ニ屬スル原則ヲ記載スルモノ少カラサルヲ以テ之カ存廢ヲ質問センニ假令ヒ民法ニ屬スルモノアルモ本案ニ之ヲ記載シテ差支ナカルヘク且民法草案ハ未タ稱シテ日本ノ民法ト確定スルコトヲ得サルモノナルニ於ヲヤ若シ又商法中ヨリ其原則ヲ削除センニハ先ツ民法←ト云ヒ商法ト云フ其區別ヲ判然ナラシメサルヘカラス然ルニ其區別タルヤ羅馬法以來判然ト區別シタルコトヲ聞カス又之ヲ區別スルコト能ハサルナリ强テ此商法ノ草案ヲシテ兩法牴觸且ツ重複ナラシメソニハボアソナード氏ト互ニ協議スルニアラサレハ之ヲ爲スコトヲ得サルナリ何トナレハ商法中ノ原則ヲ民法中ニ記載スルモノ少カラサル乃必然ナレハナリ故、ニ委員ニ於テ强テ區別ヲ立ルコトヲ欲セハ預メ委員ヲシテ其ケ條ヲ調査シテ其當否ノ質問ヲ受ケ且ツ之ヲボアソナード氏ニモ協議スヘシ民法編纂委員モ亦ボアソナード氏ニ質問スルト同時ニ余ニ協議セサルヘカラス如此スレハ或ハ區別ヲ爲スコトヲ得ヘシト雖モ其方法タルヤ煩雜ニシテ時ニ或ハ區別ヲ爲スヲ得サルコトノ生スルナキヲ保セサルナリ然レトモ本案ノ如ク民商ト區別ヲ爲サヽルモ實際上適用ニ至リテハ決シテ差支ナカルヘキヲ以テ强テ區別ヲ立ルコトハ今日ニ於テ敢テ必要ナラサルヘキナリトノ答辨ナリシ
（細川委員）
民法商法訴訟法刑法治罪法皆其編纂者ヲ異ニスルモ之ヲ一定ニシ牴觸重複セサル取調ヲ爲スノ方法ハナキニアラスト雖モ外面一定スルカ如キハ爲スヲ得ルモ起稿者ノ意旨素ヨリ同一ニ歸スヘキニアラサレハ法律ノ精神モ亦各異ナラサルハ蓋シ免ルヘカラサルナリ是レ法律ノミナランヤ陸軍ハ佛法ニ海軍ハ英法ニ醫學ハ獨逸ニ準據スルカ如キ一體ノ政體スラ區々ノ精神アルヲ免レサレハ況ンヤ法律ノ各異ナル精神ヲ有スルハ止ムヲ得サルモノトス
○第六百五十三條
明約又ハ前條ニ牴觸スルニ非サレハ商事上ニテ爲シタル貸付及ヒ他人ノ計算ヲ以テシ若クハ其利益ノ爲ニ付與又ハ消費シタル資金ニ就テハ明約ナキ時ト雖トモ取引ノ性質ニ依テ定マリタル慣例ノ利足ヲ要求スルヲ得
（本尾委員）
本條ハ要スルニ契約ナキモ利息ヲ付スルモノナリ亊ノ意義ヲ示スナリ故ニ利息ヲ付セサル明約又ハ前條ノ雙方間ニ存立スル契約ニ牴觸スルコトナケレハ總テ金圓ヲ藏界付シタル者ハ契約ナキモ利息ヲ要求スルノ權アルコトヲ示スナリ
（岸本委員）
計算ト利益トハ如何ナル差異アルヤ
（本尾委員）
他入ノ爲メニスルハ總テ他人ノ計算ノ爲メナレトモ其中ニモ他人ノ利益ノ爲メ特ニ爲スコトアレハナリ然レトモ强テ之ヲ蕩別スル程ノ差異ハアラサルナリ
（岸本委員）
及ヒ他人以下ハ類似貸付ニシテ冒頭ハ純然タル貸付ヲ云フ
（細川委員）
「明約ナキトキト雖モ」ノ「明約」ハ利息ノ高ノ割合ニ付キ明約ナキモノト云フ意ニシテ利息ヲ拂フノ契約ニハアラサルカ如シ
（本尾委員）
否利息ヲ拂フコトノ契約ナキヲ云フナリ
○本條ハ左ノ如ク修正セラレタリ
第六百五十三條明約又ハ前條ノ規定ニ牴觸スルニ非サレハ總テ商事上ニ於テ爲シタル消費貸及他人ノ計算若クハ其利益ノ爲メ交付又ハ使用シタル資金ニ付テハ取引ノ性質ニ依テ定マリタル慣例ノ利息ヲ要求スルコトヲ得
○第六百五十四條
支拂期限ヲ過キタル利子ヨリ利子ヲ要求スルヲ得ルハ差引計算其他ノ精算方又ハ別段ノ契約ニ依テ之ヲ元金ニ繰込ミタル後ニ限ル
（岸本委員）
支拂期限トハ如何
（本尾委員）
利息ノ支拂期限ヲ云フ要スルニ元金ニ繰込ミタル後ニアラサレハ利息ヲ付スルラ得サルヲ云フナリ
（岸本委員）
其他ノ精算トハ如何
（本尾委員）
`交互計算又ハ交互計算ノ淸算其他ノ淸算ト云フ意ナリ
○本條ハ左ノ如ク修正セラレタリ
第六百五十四條支拂期限ヲ過キタル利息ニ付利息ヲ要求スルヲ得ルハ交互計算其他ノ淸算又ハ別段ノ契約ニ依テ之ヲ元金ニ繰込ミタル後ニ限ル
○第六百五十五條
元金ノ全額ヲ受取リタルトノ證書ハ併セテ此元金ニ附帶シタル利子ノ受取證書ト視做スヘシ
○本條ハ「受取リタルトノ閨=ナル證書」ト改メタルノミ
○第六百五十六條
隨意ニ支拂フタル利子ハ其還付ヲ要求スルヲ得ス
○本條ハ「利子」ヲ「利息」ニ改メタルノミ
○第六百五十七條
直接ノ支拂ニ代ヘ元金及ヒ利子ヲ併セタル債額ヲ限トシ債主ハ自己ノ計算ヲ以テ他人ニ支拂ヒ又ハ爲替手形及ヒ傳票ノ承諾及支拂並ニ其他辨債義務ヲ擔當スルコトヲ要求シ負債者ハ第六百四十二條ニ準シ之ヲ以テ差引ヲ立ルコトヲ得
（本尾委員）
本條ハ負債ヲ返濟スルニ自己ノ負債者ヲシテ自己ノ權利者ニ對シテ返濟セシメ又ハ爲替或ハ傳票卽チ「チエツク」等ヲ債主宛ニテ振出シ負債者ハ之ヲ承諾シテ之ヲ仕拂フ等ヲ云フ
（細川委員）
傳票トハ如何
（本尾委員）
獨逸ニテハ郵便爲替ヲ云フ然レトモ獨逸ニテハ之ヲ郵便爲替ト亠ムハス爲替ト爲ストキハ爲替法テ從フヲ得サレハナリ
（細川委員）
然ラハ大藏省發行ノ傳票トハ異ナルナリ
（岸本委員）
傳票ノ譯語穩當ナラサルナリ
（本尾委員）
傳票ノ意義ハ字與ニ「ヲルトル」「チエツク」トアリ
（岸本委員）
然ラハ送金手形ノ事ヲ總稱スルモノナレハ爲替トスルモ差支ナカルヘシ
（本尾委員）
大藏省ノ傳票ヲ自己人ニテ發行スルコトアルモノト假定セハ不可ナカルヘシ
○本條ハ左ノ如ク修正セラレタリ
第六百五十七條債主ハ元金及利息ヲ併セタル債額ヲ限トシ負債者ヲシテ直接ノ支拂ニ代ヘ債主ノ計算ヲ以テ他人ニ支拂ハシメ又ハ手形隅傳票ノ承諾若クハ支拂其他ノ辨償義務ヲ擔當セムルユトヲ得負債者ハ第六百四十二條ニ準シ差引ヲ立ルコトヲ得
○第二款 與債約
○第六百五十八條
債ヲ與ユルトノ豫約ハ他ノ契約ノ附屬タルト獨立ノ豫約タルトヲ論セス之ヲ取消サヽル間ハ有效トス
（本尾委員）
一本條ハ預メ期限ヲ定メ置キ其期限ハ送付シタル代價ヲ支拂フコトヲ隨意ナラシムルヲ云フ是レ信用ヲ與フルモノナレハナリ
（岸本委員）
問屋ヨリ小賣商ヘ物品ヲ送付スルカ如キモ亦同一ナルヘシ
（本尾委員）
然リ
○本條ハ左ノ如ク修正セラレタリ
○第二節信用約束
第六百五十八條信用ヲ與フルノ約束ハ他ノ契約ノ附屬タルト獨立ノ約束タルトヲ問ハス之ヲ取消サヽル間ハ有效トス
○第六百五十九條
其額ヲ定メタル與債約ニシテ負債償還ノ爲メ又ハ保證ノ爲ニ債主ニ約諾シタルノ明言アルカ或ハ情況ニ依テ然ルヲ認ムヘキモノハ之ヲ取消スコトヲ得ス
（本尾委員）
本條ノ約束ハ預約ト異ナリテ本契約トナルヲ以テ之ヲ取消スコトヲ得サルナリ例之ハ甲ヨリ米千俵ヲ乙ニ賣却シ其代價ハ本年末マテ猶豫スルコトヲ明言シタルヤ又ハ情況ニ依テ其猶豫ヲ認ムヘキトキハ甲ヨリ乙ニ與信約ヲ爲シタルモノトスルニ依リ甲ハ之ヲ取消スコトヲ得サルナリ又甲乙ノ取引ニ關シ丙ヨリ乙ノ支拂ヲ保證スル約ヲ爲シタルトキハ債主其甲乙間ノ猶豫ヲ取消スコトヲ」得サルナリ
（岸本委員）
然ラハ一般ノ猶豫契約ト異ラサレハ債主ノ之ヲ取消スヲ得サルハ勿論ナリトス
（細川委員）
本條ハ與信約ノ附屬タル場合ノ（ノ規定ナルカ如シ
（本尾委員）
然リ
○本條ハ原案ノ儘ニ決セリ
于時午後第三時ナリキ