○第一讀會第四十回
明治十九年九月廿七日
午前
○第六百三十六條
買主方ニ支拂不能力タルノ至當ナル嫌疑アリ又ハ困迫ナル取引情況アルカ爲メニ支拂不能力タラントスルノ計リ難キ者ハ眞ノ辨償不能力（裁判所ノ言渡ヲ受ケタルト否トヲ問ハス）ト目視スヘシ
（本尾委員）
本條ハ支拂不資力ト明定ナキ場合ト雖モ本文ノ場合ハ追及權ヲ有スルコトヲ示ス
○本條ハ左ノ如ク改ム
第六百三十六條買主ハ支拂無資力タルノ相當ナル嫌疑アルトキ又ハ取引ノ倩況困難ナルカ爲メ支拂無資力タラントスルノ計リ難キトキハ裁判所ノ宣吿ヲ受ケタルト否トヲ問ハス眞ノ辨償無資力ト同視スヘシ
○第六百三十七條
既ニ買主ノ倉庫ニ物品ヲ入レ又ハ其名義ヲ以テ貸藏ニ預ケタルトキハ運賃關稅又ハ其他物品ニ係ル手數料ヲ拂ヒタルト否トヲ論セス買主若クハ其代人ニ於テ之ヲ現有シタルト見做ス
（本尾委員）
本條ハ第六百三十三條ノ但其賣品云々現有ニ歸シトアルノ結果ヲ示ス
○本條ハ左ノ如ク改ム
第六百三十七條物品ヲ買主ノ倉庫ニ入レ又ハ其買主ノ名義ヲ以テ之ヲ貸藏ニ預ケタルトキハ運賃、關稅又ハ其他物品ノ負擔スル手數料ヲ拂ヒタルト否トヲ論セス買主若クハ其代理人ニ於テ之ヲ現有シタルト看做ス可シ
○第六百三十八條
取戾權ハ權利者ニ於テ運送ニ依リ又ハ運送ニ關シテ物品ニ附着スル費用立替金其他ノ要求金殊ニ運賃、仲買手數料、運送請負手數料、關稅、保險料、若クハ海失共擔金ヲ支拂ヒ若クハ償還スルニ非サレハ之ヲ執行スルヲ得ス
（長森委員）
運送ニ依リト關シテハト如何ナル區別アルヤ
（本尾委員）
直接ト間接トノ區別ナリ
（岸本委員）
運送ニ依リ又ハ運送ニ關シテトアルヲ單ニ運送ニ關シテト爲ス方可ナルヘシ（之ニ決入）一
（箕作委員）
原案ノ如クナスモ不可ナシ
○本條ハ左ノ如ク改ム
第六百三十八條追及權ハ權利者ニ於テ運送ノ爲メ又ハ運送ニ關シテ物品ノ負擔スル費用立替金其他ノ要求金殊ニ運賃、仲買手數料、運送受員手數料、關稅、保險料、若クハ海失共擔金ヲ支拂若クハ償還スルニ非サレ沿之ヲ執行スルコトヲ得ス
○第六百三十九條
取戾權ハ物品賣却ノ囑託ヲ受ケタル仲買人若クハ其代人ニ對シ囑託者之ヲ執行スルコトヲ得其仲買人ニ於テ既ニ物品ヲ現有シ又ハ之ヲ他人ニ賣却シタル後ト雖トモ亦同シ
購買ノ囑託ヲ受ケタル仲買人ヨリ其囑託者ニ對シテモ亦同シ
（本尾委員）
本條ハ例之ハ物品賣却ノ囑托ヲナシタルモノ追及權ヲ執行セントスルニハ其物品ヲ仲買人ニ呪托シテ賣却スルトキ仲買人破產シタルトキハ仲買人之ヲ現有シ又ハ之ヲ賣却シタル後ト雖トモ其買主ノ現有ニ歸セサル以前ハ之ヲ取戾スコトヲ得ルヲ云フ第二項ハ仲買人ニ購買ノ囑托ヲナシタルモノ破產シタルトキハ囑托者ノ現有ニ歸シ又ハ之ヲ破產者ヨリ第三者一ニ買拂ヒタルトキト雖モ未タ第三者ノ現有ニ歸セサルトキハ仲買人ニ於テ之ヲ取戾スコトヲ得
（細川委員）
仲買人ニ於テ若シ自己ニ於テ買入レタルトキハ如何
（本尾委員）
其場合ハ賣買ノ手續ニ從フ本條ハ仲買人ノ職務ヲ以テ取扱ヒタルトキヲ云フ
（本尾委員）
第三者ノ現有ニ歸シタルトキハ取戾權ヲ行フコトヲ得サル旨ノ明文ヲ揭クルコトヲ質問セハ如何
（委員長）
質議スヘシ
○本條ハ左ノ如ク改ム
第六百三十九條追及權ハ物品賣却ノ委托ヲ受ケタル仲買人ニ於テ既ニ物品ヲ現有シ又ハ之ヲ第三者ニ賣却シタル後ト雖モ仲買人若クハ其代理人ニ對シ委托者ヨリ之ヲ執行スルコトヲ得購買ノ委托ヲ受ケタル仲買人ヨリ其委托者ニ對シテモ亦同シ
于時十二時中止
午後一時開會
○第六百四十條
連續計算ノ爲メ又ハ貯藏徵收或ハ引渡ノ爲メ又ハ自己ノ爲メ若クハ自己ノ計算ヲ以テ支拂ヲ爲サシメン爲メニ他人ニ送リタル金額、爲替手形、其他ノ債劵ニ付テハ其送付者該他人ノ負債者ニアラサル時ニ限リ取戾權ヲ執行スルヲ得其爲換手形或ハ債劵ニ係リテハ假令既ニ名宛人ノ現有ニ歸シタルモ未タ支拂期限ニ至ラス若クハ其金額ヲ徵收セサルトキニ限リ其名宛人ニ達シタル金額ニ就テハ連續計算ノ爲メニ之ヲ送付シ且名宛人ニ於テ自己ノ計算ヲ以テ引受タルニ非ス又他ニ處分ヲ爲サヽル時ニ限ル者トス
（本尾委員）
本條ハ金圓爲替債劵ヲ交互計算ノ爲メ又ハ預ケ置ク爲メ又ハ徵收郞爲替、償却ノ金圓取立ノ爲メ又ハ引渡ノ爲メ自己又ハ自己ノ計算ヲ以テ支拂ヲ爲サシメソカ爲メ送付シタル場合名宛人無資力ナリタル時ハ取戾權ヲ行フコトヲ得ルヲ云フ
又引渡ノ爲メトハ交互計算又ハ寄藏、徵收ノ爲メ引渡ス事實ヲ指スモノニシテ取立人等ト別事ニアラサルナリ
本條ハ破產法ノ第三十八條ノ第三項ト同一ナリ
（委員長）
本條ハ實ニ解釋ニ苦ム何トカ修正ノ方法ナキヤ一應ロエスレル氏ニ質闇シタシ
（本尾委員）
本條ハ何分混雜シテ其意ヲ知ルニ苦ムナレハ可成簡易ニ了解シ易カラシムル爲メロエスレル氏ヘ改案ヲ請フコト」スヘシ夫迄ハ未定トセン
○本條ハ改案ニ決シ其迄ハ禾定ニ付セラレタリ
○第十卷 債
○第一款 貸付
○第六百四十一條
貸付ハ或ハ直接ニ債主ヨリ或ハ債主ノ計算ヲ以テ他人ヨリ直接ニ負債者ニ或ハ負債者ノ計算ヲ以テ他人ニ之ヲ爲スコトヲ得
（本尾委員）
債主ノ計算ヲ以テトハ甲ノ爲メニ乙ヨリ丙ニ貸付ヲナシ又負債者ノ計算ヲ以テトハ甲ノ爲メニ乙ヨリ丙ニ貸付ルヲ丁ニ貸付ヲ爲スヲ云フ
一體本條ハ四ノ區別アリ
第一ハ直接ニ債主ヨリ負債主ニナスモノ
第二ハ債主ノ名義ヲ以テ他人ヨリ負債主ニナスモノ
第三ハ債主ヨリ負債主ノ名義ヲ以テ他人ニナスモノ
第四ハ債主ノ名義ヲ以テ他人ヨリ資債主ノ名義ヲ以テ他人ニナスモノヲ云フ
（箕作委員）
債ハ保信トセハ如何
又一體本條ニ他人ノ計算云々ヲ設クルノ必用ハ如何
（本尾委員）
假令ハ甲ヨリ乙ニ貸付ヲ爲サンニ手元ニナキヲ以テ豫テ銀行ヘ預ケ金アルヲ以テ其金ヲ以テ甲ノ名義ヲ以テ乙ニ銀行ヨリ貸付クル如キ場合アリテ實際ハ大ナル必用アリ故二負債主ト債主トノミニ就テノ規定ニテハ不足ナリ然レトモ其銀行ニ於テハ連帶ノ責任アルヤ否等ニ就テハ未タ此ニ明言スルコトヲ得サルナリ
（委員長）
本條ハ如何ニモ込ミ入リタルノミナラス各國法ニモ亦未タ記載セサル所ナレハ前條ト同シク能ク了解シ得ヘキ樣改案ノコトヲロエスレル氏ニ質譜議スヘシ
（本尾委員）
諾先ツ質問ノ㸃ハ本條ハ四個ニ區別セラル果シテ然ラハ責任ノ㸃ニ付テハ如何若シ其責任タル普通法ト違フ所アラハ何レニカ記入セサルヘカラス故ニ何レノ條ニカ之ヲ記載センコトヲ求ムヘシ
（委員長）
然リ
○本條ハ質議ノ上修正ニ決ス
于時三時五分閉會