○第一讀會第三十五回
明治十九年五月廿四日
欠席 長森委員
○第五百六十八條
抗拒ス可ラサル勢威若クハ其他偶然ノ事變ニ由テ約定ノ運送ヲ始メ又ハ續行スルコトヲ妨ケラレ又ハ之ヲ爲ス能ハス又ハ其危險ナル時ノ如キハ雙方ニ於テ前條ノ權利ヲ有スル者トス但此場合ニ於テ運送人ハ唯タ既ニ爲シタル運送ニ對スル運送賃ノ支拂ト諸費用及立替金ノ辨償トヲ要求スルヲ得
（箕作委員）
妨ケラレ又ハ之ヲ爲ス能ハス又ハ其危險ナルトアリ場合三ケナルカ如シト雖トモ否ラス原文ノ意ハ妨ケラレタルニ依リ爲ス能ハ又ハ危險トニケノ一場合ヲ云フモノナリ
（周布委員）
雙方トハ差立人ト受取人トヲ云フヤ
（本尾委員）
否一方ハ運送人ヲ云フ
○「勢威若クハ」ヲ「威カ」ニ改メ「ケラレ」ノ下「又ハ」及ヒ「ノ如キ」ヲ削リ「雙方」ノ上ニ「契約者」ノ三字ヲ加ヘ「其危一檢」ノ「其」ヲ削ル
○第五百六十九條
約定ノ運送ヲ爲サス若クハ中止シタルモノ運送人ノ罪過若クハ所爲ニ出テ運送人別ニ相當ノ運送人ヲ立サルトキハ差立人受取人又ハ其代人ハ解約シ又ハ賠償ヲ要求スルコトヲ得
○本條ハ左ノ如ク修正ス
第五百六十九條運送人其過失若クハ所爲ニ依テ約定ノ運送ヲ爲サス若クハ中止シテ別ニ相當ノ運送人ヲ立テサルトキハ差立人受取人又ハ其代理人ハ解約シ又ハ賠償ヲ要求スルコトヲ得
○第五百七十條
差立人ハ約定ノ運送執行前又執行中ハ其運送品ニ就テ他ノ差圖ヲ爲スヲ得可シ運送人ハ其物品又ハ運送狀ヲ最初ニ定メタル受取人ニ交付セサル間ハ其差圖ニ從ハサル可ラス
（細川委員）
他ノ差圖トハ如何
（本尾委員）
運送品トシテ委托シタルニ之ヲ更ニ質物ト爲スコトヲ委托スルヲ云フ
○「他ノ差圖ヲ爲スヲ得可シ」ヲ「約定外ノ處分ヲ差圖スルコトヲ得」ニ改ム
○第五百七十一條
運送人ハ法律上ノ理由ナクシテ運送囑託ノ引受ヲ拒ミ又ハ其引受ニ就テ難澁ナル約束ヲ立ツルノ權利ナキ者トス但其囑託運送特別ノ危險アルカ或ハ其運送營業ノ區域外ナルトキハ此限ニ非ラス殊ニ運送人ハ非常ノ情狀アルニ非サレハ運送具又ハ運送上ノ設置ノ不完全ナルヲ口實トスルヲ得ス
左ノ如ク修正ス
第五百七十一條運送人ハ其委託運送ニ特別ノ危險アルカ或ハ其運送營業ノ區域外ナルトキノ外法律上ノ理由ナクシテ運送委託ノ引受ヲ拒ミ又ハ其引受ニ就テ困難ナル約束ヲ立ルノ權利ナキモノトス殊ニ運送人ハ非常ノ狀況アルニ非サレハ運送具又ハ運送上設置ノ不完全ナルヲロ實トスルコトヲ得ス
○第五百七十二條
運送狀中又ハ其他指定シタル受取人ハ自己ノ名義ヲ以テスルト他人ノ名義ヲ以テスルトヲ問ハス運送人到達地ニ到着シタル後運送狀ニ照ラシ運送契約上ノ要求ヲ爲スコトヲ得
「其他」ノ下ニ「ニ」ノ一字ヲ加フ
○第五百七十三條
運送人ハ運送狀中又ハ其他指定シタル受取人ノ所在ヲ知リ得サルトキ又ハ受取人ニ於テ運送品ノ引受或ハ差立人ヨリ定メタル約束ノ履行ヲ拒ミ或ハ運送賃及ヒ其他運送人ノ當然ナル要求金ノ支拂ヲ爲サヽル時ハ其運送品ヲ公然ノ貸倉又ハ裁判所ニ預ケ而シテ第四百五十一條ノ規定ニ從ヒ全要求金ノ額ニ滿ルマテヲ限トシテ之ヲ賣却スルヲ得
○公ケノ倉庫又ハ裁判所ニ預ケルニハ預メ裁判所ノ認可ヲ受クヘキヤ否ニ付質問スルコトニ決ス
○本條ハ左カ如ク修正ス
第五百七十三條運送狀中又ハ其他ニ指定シタル受取人ニ於テ運送品ノ引受或ハ差立人ヨリ定メタル約束ノ履行ヲ拒ミ或ハ運送賃及ヒ其他運送人ノ當然ナル要求金ノ支拂ヲ爲サス又ハ受取人ノ所在ヲ知ル能ハサルトキハ運送人其運送品ヲ公ケノ倉庫又ハ裁判所ニ預ケ第四百五十一條ノ規定ニ從ヒ全要求金額ニ滿ルマテヲ限トシテ之ヲ賣却スルコトヲ得
○第五百七十四條
受取人別ニ約束ヲ爲サスシテ運送品ヲ領收シ且運送人ニ支拂ヲ爲シタルトキハ運送人ニ對スル要求權ハ總テ消滅スル者トス
「約束ヲ爲サ」ヲ「異議ヲ述ヘ」ニ改ム
○第五百七十五條
運送品ノ紛失、損傷又ハ延着ニ係リ運送人ニ對シテ爲スヘキ總テノ訴訟及ヒ故障申立ハ該品ヲ引渡シタル日若シ全部紛失ノ時ハ其引渡スヘキ日ヨリ起算シ滿一年ヲ以テ其期滿得免トス
「該」ヲ「物」ニ「得免」ヲ「免除」ニ改ム
午後開會
○第八款 旅客運送
○第五百七十六條
陸地又ハ內海ニ於テ通常運送賃ヲ受ケ旅客ヲ運送スル者ハ其運送中至重ノ注意ヲ怠テ旅客ノミニ加ヘタル傷害ヲ賠償スヘキ義務アリ若シ之ニ就テ爭論ノ起ルトキハ其罪過ナキノ證據ヲ擧ク可シ
左ノ如ク修正シタリ
第五百七十六條陸上又ハ內地水上ニ於テ運送賃ヲ受ケ旅客ヲ運送スル者ハ其運送中至重ノ注意ヲ爲ス可キノ義務アリ之ヲ怠テ旅客ノ身ニ傷害ヲ加ヘタルトキハ賠償セサルヘカラス若シ之ニ就テ爭論ノ起ルトキハ其過失ナキノ證據ヲ擧ク可シ
○第五百七十七條
傷害賠償ハ其災害ニ由リ被害者ニ生セシメタル治療費及ヒ特別ノ給養費ノ賠償額ト慰藉金トヲ以テ成ル者トス慰藉金ハ其傷害ノ輕重期日結果幷ニ被害者ノ營業上ノ關係ニ從ヒ之ヲ算定ス可シ若シ協議調ハサルトキハ裁判上ニ於テ之ヲ斷定ス可シ
（本尾委員）
慰藉金トハ俗ニ所謂「ナミタ金」ト稱スルモノナリ又之ヲ斷定ス可シトハ訴訟手續ヲ履行セスシテ裁判上ノ處分ヲ以テ定ムルヲ云フ
○「期日」ヲ「日數」ニ「裁判上ニ於テ之ヲ斷定ス可シ」ヲ「裁判所ノ處分ヲ以テ之ヲ定ム可シ」ニ改ム
○第五百七十八條
災害ノ爲メニ死亡シ又ハ癈疾不具若クハ永久營業不能力トナリタル時ハ慰藉金ノ額ヲ定ムルニ當リ併セテ其被害者ノ家族ノ給養料ヲモ算入セサル可ラス
「不」ヲ「無」ニ改メ「給」ヲ削ル
○第五百七十九條
旅客其旅用行李ヲ旅客運送人ニ交付シ且時宜ニ依リ之ヲ申吿シタル時ハ旅客自ラ其荷物ヲ帶携スルト否トヲ問ハス其行李ノ爲メニ別段ノ運賃ヲ拂フ可キト否トヲ論セス旅客運送人ハ其行李ニ就テ運送人ト同一ノ責任アルモノトス
（鶴田委員）
之ヲ申吿シタル時トハ如何
（本尾委員）
第五百五十九條ニ依リ其實價額ヲ吿ケタルヲ云フ
○左ノ如ク修正ス
第五百七十九條旅客旅用行李及其他ノ行李ヲ旅客運送人ニ交付シ又時宜ニ依リ之ヲ明吿シタル時ハ旅客自ラ其荷物ヲ帶携スルト否トヲ問ハス其行李ノ爲メニ別段ノ運賃ヲ拂フ可キト否トヲ論セス旅客運送人ハ其行李ニ就テ普通運送人ト同一ノ責任アルモノトス
○第五百八十條
旅客運送人ノ旅客手行李ニ就テ責任アルハ其手行李眞ニ相當ノ旅行需要ニ充ツヘキモノニシテ且罪過ノ旅客運送人ニ歸スヘキトキニ限ル
（本尾委員）
本條ノ行李ヲ運送人ニ渡ストキハ前條ニ從フ其渡サヽルトキニ於テ本條ヲ適用スルナリ
「罪過」ヲ「過失」ニ改ム
○第五百八十一條
旅客ノ旅用行李ハ若シ他ノ囑託アルニ非サレハ到達地ニ於テ之ヲ旅客ニ交付シ若クハ三日間貯藏スヘシ此期限經過後ハ第三百五十三條ニ規定シタル原則ニ從テ旅客運送人ノ責任ヲ判定ス可シ
（本尾委員）
本條ニハ其他ノ行李ノ事ナシ然レトモ其包含スルヤ明ナリ尤モ併テ質問スルコトトセン
○「囑」ヲ「委」ニ「達地ニ於テ」ヲ「着ノ時」ニ「判定ス」ヲ「定ム」ニ改ム
○第五百八十二條
本款諸條ノ外旅客及ヒ其行李ノ運送ニ就テハ前款ノ諸條ヲ準用ス可シ但旅客ノ身體衣類ニ對シテハ留置權ヲ執行スルヲ得ス
「本款諸條ノ外」ノ數語ヲ「就テハ」ノ下ニ移植ス
○第五百八十三條
旅客及ヒ其行李ニ對シテハ乘客賃又ハ行李運賃ヲ前拂シタルト否トヲ問ハス又場合ニ依テ之ヲ支拂フヲ要セサリシト否トヲ論セス旅客運送人其責任ヲ免レサル者トス
左ノ如ク修正セラル
第五百八十三條旅客及ヒ其行李ニ對シテハ乘客賃又ハ行李運賃ヲ前拂シタルト否トヲ問ハス又或ル場合ニ於テ之ヲ支拂フヲ要セサルトキト雖モ旅客運送人其責任ヲ免レサルモノトス
于時午後第三時閉會