○第一讀會第二十四回
明治十九年四月廿六日
第四百三十四條
質取主ノ內甲者ハ物件ヲ現有シ乙者ハ其處分權附託ノ證劵ヲ所持スル時ハ甲乙ノ內最初ニ其物件又ハ證劵ヲ領收シタル者ニ賣却ノ先權アル者トス
○本條ハ左ノ如ク修正ス
第四百三十四條 質取主ノ內甲者ハ物件ヲ所持シ乙者ハ其處分證書ヲ所持スル時ハ甲乙ノ內最初ニ物件又ハ證書ヲ領收シタル者其賣却ノ先權ヲ有ス
第四百三十五條
有效ナル動產質入ハ良心ノ債主ニ所有主又ハ所有主ヨリ該物件處分ノ委託ヲ受ケタル代理者又ハ何人タリトモ正當ニ物件ヲ得テ現有スル者之ヲ爲スコトヲ得但盜品又ハ遺失品ナル時ハ此限ニ在ラス
（本尾委員）
但書ハ所有主又ハ代理者ニ係ラサルモノナルニ依リ「又ハ盜品或ハ遺失品ノ外何人タリトモ正當ニ物件ヲ現有スル者」トセハ如何
（鶴田委員）
盜品遺失品ニ付テハ所有主ト稱スルコトヲ得サルハ勿論ナレハ原案ノ儘ニテ差支ナカル、、ヘシ
（細川委員）
原文ヲ案スルニ盜品遺失品ハ正當ニ之ヲ得テ現有スルモ質物ト爲スコトヲ得サルカ如シ說明ニ依レハ盜品遺失品ナリトモ正當ノ手績ヲ經テ得タルトキハ有效ノ質入ヲ爲スヲ得ルナリ
（岸本委員）
民法上ニテノ賍品ハ正當ニ獲得シタルモノト雖トモ之ヲ質物ト爲スヲ得サルナリ故ニ本案ハ之ヲ寬ニ爲シ賍品ト雖トモ正當ニ之ヲ得テ現有スル者ハ有效ノ質物ト爲スコトニ取除ケヲ付シタルモノナルヘシ
（本尾委員）
說明ニ民事上ヨリ寬ニ爲シタルトハロエスレル氏ノ罠事上トハ假令ヒ正當ノ方法ヲ以テ賍物ヲ現有スルモ所有主ヨリハ何時ニテモ之ヲ取戾スコトヲ得ルニ依リ商事上ニハ之ヲ適用スヘカラストシ卽チ正當ノ方法ニテ現有スル者ニ對シテハ所有主ト雖トモ之カ取戾シヲ爲スヲ得サルモノトシ其物件ハ現有者ニ於テ之ヲ有效ノ質入ト爲スコトヲ得ト爲シタルヲ云フナリ
○本條ハ左ノ如ク修正ス
第四百三十五條 物件ノ所有主又ハ所有主ヨリ物件處分ノ委託ヲ受ケタル代理者又ハ何人タリトモ盜品遺失品ニアラサル物件ヲ正當ノ方法ニ依テ占有スル者ノ爲シタル動產質入ハ債主善意ナルトキニ限リ之ヲ有效トス
第四百三十六條
所有主外ノ者ヨリ質入シタル物件ハ其未タ賣却セラレサル間ハ所有主ヨリ債主ニ對シ負債全額ヲ償却シ其還付ヲ要求スルコトヲ得
（本尾委員）
所有主外ノ者トハ前條ノ代理者又ハ正當ニ占有スル者トヲ云フ卽チ質置主ニアラサルモ所有主ナレハ之ヲ取戾スコトヲ得ヘキヲ示スナリ
○本條ハ原案ノ儘ニ決ス
第四百三十七條
正當ニ質ト爲リタル物件賣却セラレ其代金拂濟トナリタル時ハ其物件ニ對スル舊所有權及ヒ質權ハ總テ消滅スル者トス
○箕作委員ノ發議ニ依リ第九款「質入」トアルヲ「質權」ト改ム又本條ハ「正當ニ質ト爲リタル」ヲ「有效ノ質入」ト改メタルノ
第四百三十八條
質入ハ何人ト雖トモ他人ノ負債ノ爲メニ之ヲ爲スコトヲ得
○本條ハ左ノ如ク修正ス
第四百三十八條負債者ノ爲メ第三者ヨリ質入ヲ爲スコトヲ得
第四百三十九條
未來ノ要求權利ノ爲メニ質ヲ取ルコトヲ得ス
○本條ハ左ノ如ク修正ス
第四百三十九條 未來ノ要求權ノ爲メニ質權ハ成立セサルモノトス
第四百四十條
負債主ヨリ債主ニ對シ拂渡又ハ其他方法ヲ以テ辨償スヘキノ申立ヲ爲シ速ニ之ヲ實行スルコトヲ得可キ場合ニ於テハ裁判所ハ其質物ノ賣却ヲ停止スルコトヲ得
○本條ハ「拂渡」ヲ「支拂」ニ改メタルノミ
第四百四十一條
質物ヲ現有スル者ハ質入主ニ對シ其亡失損傷ノ責ニ任ス可キ者トス但其現有者ノ過失ニ歸ス可ラサル場合ハ此限ニ在ラス
○原案ノ儘ニ決ス
第四百四十二條
指名證劵又ハ無記名證劵ノ如キ其劵面ヨリ直ニ義務ヲ生スルニアラサル要求權利ノ質入ハ書面ヲ以テ讓渡ノ手續ヲナシ又ハ之ヲ負債主ニ報知スルニ非サレハ之ヲ爲スコトヲ得ス
要求權利ヲ質ニ取リタル債主ハ賣却ニ代テ其要求物ヲ取立ルコトヲ得若シ金圓ニ非サル要求物ナルトキハ其物件ヲ質物トシテ取扱フコトヲ得
（本尾委員）
劵面ヨリ直ニ義務ヲ生セサルモノハ記名證劵ヲ云フ是ハ更ニ讓渡ノ手續ヲ行ハサルヘカラス
第二項ハ債主權ヲ質ニ取リタル債主ハ其債主權ヲ賣却セスシテ其債劵記名ノ負債者ニ對シ返濟要求ヲ爲スコトヲ得ルヲ得
○本條ハ左ノ如ク修正ス
第四百四十二條 要求權ノ質入ハ差圖證劵又ハ無記名證劵ヨリ生スルモノヲ除キ書面ヲ以テ讓渡ノ手續ヲナシ又ハ負債主ニ報知スルニ非サレハ之ヲ爲スコトヲ得ス
要求權ヲ質ニ取リタル債主ハ賣却ニ代ヘテ自ラ其權ヲ執行スルコトヲ得金錢ニ非サル要求權ナルトキハ其物品ヲ質物トシテ取扱フコトヲ得可キモノトス
第四百四十三條
法律上政府、國立銀行其他ノ公設場ノ有スル質權ニ付テノ特權ハ前諸條ノ爲ニ變更ヲ受クルコトナキ者トス
（本尾委員）
公設場トハ工業銀行、日本鐵道會社、病院等ノ半ハ官ノ管督アルモノヲ云フ
（岸本委員）
養育院亦然リ
○本條ハ左ノ如ク修正ス
第四百四十三條 政府及ヒ公ケノ銀行其他公設場ノ質權ニ關スル法律上ノ特權ハ前諸條ノ爲メニ妨ケラルヽコトナシ
于時午後第三時閉會