○第一讀會第二十三回
明治十九年四月廿三日午前開會
○第四百二十四條
積荷證書又ハ藏預證書又ハ其他ノ裏書ヲ以テ其記載ノ物品ニ對スル處分權利ヲ裏書讓受人ニ移轉スルコトヲ得可キ證書ヲ交付シ又ハ裏書スルハ其物件ノ現有ヲ移轉シタルト同一ナリトス
（本尾委員）
本條ハ重ニ商品ニ就テノ規定ニシテ其物件ノ現有ヲ移轉スルトハ現物ヲ引渡スノ謂ニアラスシテ其證書又ハ裏書シタル證書ヲ交付スルトキハ之ヲ以テ現物ヲ占有シタルト同一ノ效アル旨ヲ示スモノナリ
○本條ハ左ノ如ク修正シタリ
第四百二十四條積荷證書、藏預證書又ハ其他裏書ヲ以テ記載ノ物品ニ封スル處分權ヲ讓受人ニ移轉スルコトヲ得ヘキ證書ノ裏書交付ハ其物件ノ占有ヲ移轉シタルト同一ナリトス
○第四百二十五條
指名證劵ヲ質物ト爲シタル時ハ其裏書ニ質入ノ關係ヲ附記シ之ヲ質取主ニ交付ス可シ
（本尾委員）
指名證劵トアルハ記名トハ異ナルモノトス而シテ此指名證劵ナルモノハ甲ヨリ乙又ハ其指名人ヘ拂渡スヘキ旨ヲ記載シタル所ノモノヲ云フ
其裏書ニ質入ノ開係ヲ附記シトアルハ只タ質入シタル旨ヲ附記スルモノニシテ敢テ其他ノ事由ヲ記載スルニハ及ハサルモノナリ
○本條ハ左ノ如ク修正シタリ
第四百二十五條「指名」ヲ「差圖」ト改メ「爲シタル時」トアルヲ「爲ス時」ト改ム他ハ原案ニ決ス
○第四百二十六條
負債主其辨償ヲ延滯スルトキハ債主ハ質入契約書ヲ裁判所ニ差出シ質物賣却ノ差圖ヲ受ケテ之ヲ賣却スルコトヲ得其負債主ニ對シ別段ニ訴訟ヲ起スヲ要セス
本條ハ負債主ヲ裁判所ニ召喚セスシテ直ニ債主ノ申立ニ依テ賣却ノ認可ヲ與ヘテ差支ナキヤ否ニ付種々討議ノ末再議ノコトニ決シ追テ修正スルコトヽナレリ
○第四百二十七條
質入契約書中ニ承諾ノ意ヲ明記シ又ハ差圖證劵ヲ質入シタル場合ニ於テハ（第四百二十四條第四百二十五條）總テ裁判上ノ手續ヲ爲サスシテ其質物ヲ賣却スルコトヲ得
本條ハ承諾ノ意ヲ承諾ノ旨ト改ム
于時正午十二時中止
午後一時開會
○第四百二十八條
前條ニ記載シタル場合ニ於テハ誓約ヲ爲シタル商業仲立人又ハ競賣營業人ヲシテ之ヲ競賣セシメ又其物品ノ相場所ニ於テ賣買ス可キ者ナルトキハ相場所ニ於テ之ヲ公賣セシム可シ又其賣却ス可キコトハ遲クモ賣却期日ヨリ八日以前ニ之ヲ負債主ニ報知ス可キ者トス
（本尾委員）
前條トアレ共原文ニ依レハ前二條トナサヽルヲ得ス然レトモ獨逸法ニ於テ單ニ前條ノミヲ指示セリ
本條ノ主義ヲ以テ考フルトキハ第四百二十六條ノ場合ニ於テハ裁判所ニ於テ止タ賣却スヘキ旨ヲ認可スルモノニシテ其賣却スルニ付テハ本條ノ仲立人等ニ依賴セシムルノ意ナルヘシ獨逸法ノ取扱上ニ於テモ裁判所ハ止タ命令スルノミニテ賣却ハ仲立人等ニ於テ爲スモノナリ
（委員長）
誓約トアレトモ我邦未タ施行ナキ所ノモノナレハ再議ノ上其可否ヲ決スヘシ
本條ハ前條ヲ前二條トシ他ハ原案ニ決ス然レトモ誓約ノ文字ハ再議ニ附スルコトトナレリ
○第四百二十九條
前條ニ記載シタル期限內ニ於テハ負債主ハ債主ニ對シ負債ヲ辨償シテ質入解約及ヒ質物ノ還付ヲ請求スルノ權利アル者トス
○本條ハ異議ナシ
○第四百三十條
元額及ヒ利子其他必要ナル實費ヲ質物賣拂ヒ代價ヨリ引去リ尙剩餘アルトキハ之ヲ負債主ニ還付スヘシ
○本條ハ左ノ如ク修正シタリ
第四百三十條元金及利息其他必要ナル實費ヲ質物賣拂代價ヨリ引去リ剩餘アルトキハ之ヲ負債主ニ還付スヘシ
○第四百三十一條
負債主ハ質入ヲ爲シタルニ由テ質物ヲ賣却スルノ權利ヲ失フコトナキモノトス此場合ニ於テハ債主ニ對シ其代價ヲ以テ質入負債ノ全額（第四百三十條）ヲ辨償スヘキモノトス之ニ反スルトキハ監守自盜ノ科ニ處ス可シ
（箕作委員）
監守自盜トアレトモ原文ニ依ルトキハ我邦法ニハ之ニ適合スル所ノモノナシ就テハ能ク原語ニ適スル罪名アルヤ否ヲ能ク穿鑿シ若其罪名ナキトキハ更ニ我刑法中ニ於テ本條ニ適當スヘキ條項ヲ揭クルトセハ如何
（細川鶴田本尾委員）
然リ
（本尾委員）
本條ハ質物ヲ債主ニ渡サスシテ負債主ノ手ニ在ル場合ヲ云フ則其預リタル物品ヲ賣拂ヒ代金ヲ自カラ費消シタルモノヽ規定ヲ設ケタルナリ
本條ハ監守自盜ノ文字ハ再議ニ附セラレ他ハ左ノ如ク修正シタリ第四百三十一條「權利ヲ失フコトナキモノトス」トアルヲ「權利ヲ失フコトナシ」トシ「此場合ニ於テハ]トアルヲ「之ヲ賣却シタルトキハ」ト改ム
○第四百三十二條
他人ニ質入トナリタル物品ナルヲ知テ之ヲ購買シタル者ハ其代價中ヨリ質入負債ノ全額ニ及フ迄ノ金額ヲ質取主ニ對シ直接ニ辨償ス可シ之ニ反スルトキハ前條ト同一ノ科ニ處ス可シ
（本尾委員）
本條ハ質入品ナルヲ知テ買入レタル者代金ヲ其賣主ニ渡シタルトキハ前條ノ科ニ處セラル故ニ其代金ハ直接ニ債主ニ支拂ハサルヘカラス然レトモ債主ニ向テ買入主ヨリ再ヒ支拂ヲ爲ストキハ其科ヲ免カルニヲ得ルモノトス
（本尾委員）
情ヲ知テ賣主ニ代金ヲ支拂ヒタル買主ハ再ヒ代金ヲ拂入ルニモ其科ハ免カルヽヲ得サルモノナラン
（鶴田委員）
ニ重ニ拂入ルヽトキハ刑事ノ罰ハ免カレシメ只タ民事上ノ罪ノミトセハ如何
本條ハ質議ノ上修正ニ決ス且同一ノ科トアルハ前條ト同シク再議ニ附セラル
○第四百三十三條
數人ニ質入トナリタル物件ハ正當ニ之ヲ現有スル者其賣却ノ權ヲ有ス脅迫又ハ隱匿ノ所爲或ハ懇請ニ因テ之ヲ現有スルハ其效ナキモノトス
（本尾委員）
懇請トハ數人ノ質取主中ニテ已ニ占有シタル一人ノモノニ對シ他ノ質取主其質物ヲ取出シ賣却センコトヲ企テム時自己ニ預ケラレソコトヲ請ヒ其物品ヲ取出スヲ云フ是等ハ正當ノ占有トスルノ效ナキモノナリ何トナレハ一時借用ノ名義ヲ以テ其物品ヲ取出スハ詐欺ノ所爲ニ等シキモノナレハナリ
而シテ本條ハ現物ヲ質取主ニ渡シタル場合ナリ
（箕作委員）
本條ハ一ノ物件ヲニ重三重ニ質入スル場合ナレハ占有者ノ外ハ全ク信用貸ヲナスニ異ナラサルナリ
（本尾委員）
本條ハ脅迫其他ニケノ所爲ナキモノ賣却ノ權ヲ有ス
○本條ハ左ノ如ク修正シタリ
第四百三十三條數人ニ質入トナリタル一ケノ物件ニ付テハ脅迫隱匿ノ所爲又ハ代有ニ因ルニ非スシテ之ヲ占有スル者其賣却ノ先權ヲ有ス
于時午後四時散會