○第一讀會第二十回
明治十九年四月廿日
○第三百八十四條
價額補償又ハ損害賠償ニ就キ雙方豫メ約定ヲ立テタルトキハ通例其約定ニ從フ可シ事實ニ憑據シテ其約定額ヨリ高額又ハ低額ノ賠償ヲ要求スルヲ得ス
（本尾委員）
實際損害最少ナルトキハ裁判官其情ヲ斟酌シテ減少スルコトヲ得ルノ精神ナリ
（岸本委員）
實際大差アルトキハ契約ニ定メタル高ヲ增減スルコトヲ得ルノ精吐胛ナリ
（箕作委員）
雙方同意ノ上ハ高低スルコト隨意ナリトス
○本條ハ左ノ如ク修正ス
第三百八十四條價額補償又ハ損害賠償ニ就キ雙方預メ約定ヲ立テタルトキハ其約定ニ從ヒ事實ニ憑據シテ其約定額ヲ增減スルヲ得サルヲ通例トス
○第三百八十五條
期日前ニ負債ヲ償却スルトキ契約又ハ商業上ノ習慣ニ因テ負債者ハ其期日ニ先タル日數相當ノ割引ヲ要求スルコトヲ得
○第三百八十六條
義務者ニ於テ其義務ヲ履行セサルカ爲メ權利者ヨリ其契約ヲ解除シタルトキハ義務者ハ其既ニ納付シタル若干ノ物件ヲ現時ノ有樣ニテ取戾シ權利者ヨリ受ケタル物件ハ其全額又ハ全價ヲ償還セサル可ラス
○第五款 違約罰金
○第三百八十七條
契約ノ履行ヲ鞏固ナラシムル爲メ若シ之ヲ履行セサルトキハ若干ノ罰金ヲ納付ス可キ義務ヲ其義務者ニ負擔セシメタルトキ此義務ヲ義務者ニ對シテ申立ツルハ損害賠償ノ申立ト相關係スル所ナキ者トス
別段異議ナク左ノ如ク修正ス
第三百八十五條 金錢ノ義務ヲ期日前ニ償却スルノ權アル場合ニ於テハ契約又ハ商業上ノ習慣ニ因リ負債者ハ其期日ニ先チタル日數相當ノ割引ヲ要求スルコトヲ得
第三百八十六條 義務者其義務ヲ履行セサルカ爲メ權利者其契約ヲ解除シタルトキハ義務者ハ既ニ權利者ニ交付シタル若干ノ物件ヲ現在ノ儘ニテ取戾シ權利者ヨリ受ケタル物件ハ其全部又ハ全價ヲ償還セサル可ラス
○第五款 違約金
第三百八十七條 契約ノ履行ヲ鞏固ナラシムル爲メ不履行ノ場合ニ於テ若干ノ違約金ヲ交付ス可キ義務ヲ負擔セシメタルトキハ其違約金ノ要求ハ損害賠償ノ要求ト關係セサルモノトス
退席周布委員
同岸本委員
○第三百八十八條
權利者其契約ノ履行若クハ損害賠償ヲ要求スル權利ハ罰金ノ爲メニ廢止セサル者トス但シ疑惑アル場合ニ於テハ罰金ト損害賠償トヲ要求スルヲ得ス
（本尾委員）
疑ヒアル場合トハ違約金ト賠償トヲ併求スルヲ得ヘキ契約ナルヤ否ニ付疑ヒアルトキヲ云フ
○本條ハ左ノ如ク修正ス
第三百八十八條權利者其契約ノ履行若クハ損害賠償ヲ要求スル權利ハ違約金ノ爲メニ廢止セサルモノトス但疑ヒアル場合ニ於テハ違約金ト損害賠償トヲ併セテ要求スルコトヲ得ス
○第三百八十九條
契約不履行ノ過失ニ由テ權利者ニ被ラシメタル損害額ノ罰金額ニ超過スルトキハ其超過額丈ケノ損害賠償ヲ罰金ト共ニ要求スルコトヲ得可シ
（本尾委員）
本條ハ前條但書ノ疑ヒアル場合ニ適用スルノ精神ナリ
（鶴田委員）
否疑ヒアルトキハ前條但書ニテ一方ト定メタル以上ハ本條ハ敢テ疑ヒアルトキノミナラス總テノ場合ニ適用スルモノト思料ス
（本尾委員）
本條ヲ設タル理由ハ契約ニ定メタル違約金ヲ確定不易ノモノト爲ストキハ義務者ハ契約ニ背キ債主ニ如何ナル大損害ヲ被ラシムルモ契約シタル違約金ニテ足レルニ依リ債主ハ之ヲ如何トモスルコト能ハスシテ大損害ヲ被ムルニ至ルヘシ故ニ此弊ヲ防ク爲メ設タルナリ
本條ト前條ノ關係及ヒ本條ハ前條但書ノ場合ニ適用スルモノナルヤ否ヲ質問スルコトニ決ス但シ法文ノ修正左ノ如シ
第三百八十九條契約ノ不履行ニ由テ權利者ニ被ラシメタル損害額ノ違約金額ニ超 過スルトキハ其超過額丈ケノ損害賠償ヲ違約金ト丘ハニ要求スルコトヲ得
○第三百九十條
義務者ハ違約罰金ヲ納メテ以テ契約履行及ヒ損害賠償ノ義務ヲ免ルヽコトヲ得サル者トス
別段異議ナク左ノ如ク修正ス
第三百九十條義務者ハ違約金ヲ納ムルヲ以テ契約履行及損害賠償ノ義務ヲ免ルエコトヲ得サルモノトス
○第三百九十一條
違約罰金ノ額ハ雙方ノ約定ニ因ル者トス
（本尾委員）
第三百八十七條ト重複スルカ如シ
○本條ハ左ノ如ク修正ス
第三百九十一條違約金ノ額ハ雙方隨意ニ約定シ得ルモノトス
○第三百九十二條
罰金ヲ以テ空相場又ハ博奕又ハ賭射ヲ蔽ハントスル取引ハ全ク無效ニ屬スル者トス
（本尾委員）
敝ハソトスル云々トハ博奕ノ爲メ負ケタルトキハ若干ノ金圓ヲ出スヘシ若シ其金圓ヲ出サヽル予キハ違約金トシテ若干ノ金圓ヲ拂フヘシト約スルカ如キヲ云フ又全クトアルハ主タル契約ト從タル契約ト共ニ全ク無效ナルヲ云フ
本條ハ左ノ如ク修正ス
第三百九十二條空相場、博奕又ハ賭射ヲ蔽ハソトスル目的ヲ以テ違約金ノ契約ヲ爲シタルトキハ其取引ハ全ク無效ニ屬スルモノトス
○第三百九十三條
主タル契約ノ無效ナルトキハ其從タル違約罰金ノ契約モ亦併セテ無效ニ屬スル者トス
本條ハ別段異議ナク「違約罰金」トアルヲ「違約金」ト改メタルノミ
○第六款 代理
○第三百九十四條
商業取引ニ付テノ委托ハ何等ノ場合ニ於テモ皆代理セシムルノ委托ト視做ス可シ但本人明言シテ之ヲ制限スルトキハ此例ニ在ラス
代理者ハ委任執行ノ際最上注意ヲ爲ス可キ義務ヲ負フ者トス
（本尾委員）
最上注意トハ自己ノ事務ヨリモ伺特別ニ注意スヘキヲ云フ
○本條ハ左ノ如ク修正ス
第三百九十四條商業取引ニ付テノ委任ハ委任者明言シテ制限ヲ立テサル以上ハ何レノ場合ニ於テモ皆代理ヲ委任シタルモノト看做ス可シ代理者ハ委任執行ノ際特別注意ヲ爲スノ義務アルモノトス
○第三百九十五條
代理者本人ノ爲ニ（明カニ本人ノ名義ヲ以テスルト否トヲ論セス）爲シタル商業取引ニ付テハ本人ノミ他人ニ對シテ直接ニ權利義務ヲ受クル者トス
○第三百九十六條
凡ソ他人ノ委任ヲ受タルコトナク又後ニ於テ其認諾ヲ得ルコトナクシテ該人ノ爲ニ商業取引ヲ爲シタル者ハ其相手方ニ對シ己レ自ラ責任ヲ負フ者トス
別段異議ナク左ノ如ク修正ス
第三百九十五條代理者委任者ノ爲メニ爲シタル商業取引ニ付テハ委任者ノ名ヲ明言スルト否トヲ問ハス委任者ノミ第三者ニ對シテ直接ニ權利義務ヲ得ルモノトス
第三百九十六條委任ヲ受タルコトナク又後ニ於テ認諾ヲ得ルコトナクシテ第三者ノ爲ニ商業取引ヲ爲シタルモノハ其相手方ニ對シ自己ニ責任ヲ負フモノトス
○第三百九十七條
凡ソ代理者本人ノ取引ヲ爲ストキ其委任ノ權限ヲ犯シ若シ其相手方ニ於テ現ニ其情ヲ知ラサリシカ或ハ勢ヒ知ルコト能ハサリシトキハ代理者ハ本人ニ對シテ權限犯冒ノ責任ヲ帶フル者トス
（鶴田委員）
權限ヲ犯シタル者ハ委任者ニ對シ責任ヲ負ヒ代理者ノ爲シタル契約ハ委任者ト相手方トニ於テ執行スルモノナルヘシ
（本尾委員）
然リ相手方善意ヲ以テ爲シタルトキハ委任者其契約ヲ執行シ而シテ代理者ニ對シテ損害賠償ヲ得ルモノトス
○本條ハ左ノ如ク修正ス
第三百九十七條代理者委任者ノ取引ヲ爲ストキ其委任ノ權限ヲ犯シ若シ相手方ニ於テ現ニ其情ヲ知ラス又ハ知ルコト能ハサルトキハ代理者ハ委任者ニ對シテ權限犯冒ノ責任ヲ負フモノトス
○第三百九十八條
凡ソ他人ノ名義ヲ以テ爲シタル取引ニ付代理者獨リ其責任ヲ受ケサル可ラサル場合ニ於テハ相手方ヨリ直接ニ本人ニ對シ其不當然ニ得タル物件ノ還付ヲ要求スルコトヲ得
（本尾委員）
第三百九十六條ノ場合ニ於テ代理者自己ニ其取引ノ責任ヲ負フヘキトキニ當リ其取引ノ物品委任者ノ許ニ到リタルトキハ相手方ハ直ニ委任者ニ對シ其受取リタル物件ノ還付ヲ求ムルコトヲ得ヘキヲ云フ
第二者トハ委任者タル本人ヲ指示スルナリ
○本條ハ左ノ如ク修正ス
第三百九十八條第三者ノ名ヲ以テ爲シタル取引ニ付代理者獨リ、其責任ヲ受ケサル可ラサル場合ニ於テハ相手方ヨリ直接ニ第三者ニ對シ其不當ニ得タル物件ノ還付ヲ要求スルコトヲ得
于時午後第三時散會