○第一讀會第十一回
明治十九年四月七日
○第五卷 代理人及商業使用人
○第四十三條
凡ソ商業ヲ營ム者ハ營業ノ爲メ本店又ハ支店ニ明言ノ委任ヲ以テ代理人一名又ハ數名ヲ置クコトヲ得ヘシ但シ其委任ノ手續ハ別ニ定制無シ
代理ヲ任シ及ヒ其終ハルトキハ此旨ヲ商業簡明簿ニ登記スヘシ
（本尾委員）
代理人ハ會社法ニ於テ代務者ト爲シタリ蓋シ普通代理人ト混同スルヲ避ケソカ爲メナリ就テハ皆之ヲ代務者ト改ムヲ可トス第十八條モ亦同シ（之ニ決ス）
（長森委員）
代務者ハ商業ノ代人ナルヤ
（本尾委員）
然リ商業ノ部理代人ナリ
○本條ハ左ノ如ク修正ス
第五章 代務者及商業使用人
第四十三條 商業ヲ營ム者ハ營業ノ爲メ本店又ハ支店ニ明言ノ委任ヲ以テ代務者一名又ハ數名ヲ置クコトヲ得其委任ハ別ニ定式ヲ要セス
代務ノ委任及解任ハ商業登錄簿ニ登記スヘシ
○第四十四條
代理委任ハ何時ニテモ之ヲ解キ又ハ代理人ヨリ辭スルコトヲ得ヘシ又代理委任ノ期限經過（第四十七條）ニ依リ又ハ代理人雇入契約ノ滿期ニ依リ又ハ其委任ヲ受ケタル營業ヲ賣却若クハ禁止スルニ依テ自ラ消滅スルモノトス然レトモ商業主人ノ死亡ニ依テ消滅スルコトナシ
代理人其權ノ終ハリタル後ニナシタル取引ハ自己ニ其終リタルコトヲ知ラサリシ時ニ限リ有效トス
○第四十五條
數人ノ共同ニ委任セラレタル代理ハ各人共同ニアラサレハ之ヲ執行スルヲ得ス此等ノ代理委任ハ其中ノ一人ニ對シテ消滅シタル時ハ他ノ各人ニ於テモ亦消滅スルモノトス
○第四十六條
代理委任ノ內ニハ主人ノ屋號ヲ唱ヘ主人ニ代リ裁判上ト裁判外トヲ論セス商業上ニ關スル總テノ取引及ヒ法律上ニ關スル總テノ取扱ヲ爲シ得ヘキ權利ヲ有スル意ヲ含蓄スルモノトス
代理權ニ制限ヲ立ツルモ他人ニ對シテ法律上ノ效ナキモノトス但他人此制限アルコトヲ知リタルトキハ此限ニアラス
○第四十七條
代理ハ無期又ハ有期ヲ以テ之ヲ委任シ又ハ未必若クハ偶生ノ事ノ來ルマテヲ限リトシテ之ヲ委任スルコトヲ得ヘシ但シ解任ノ權利及ヒ辭退ノ權利（第四十四條）ハ之カ爲ニ妨ケラルヽモノニアラス
右者別段異論ナク左ノ如ク修正セラレタリ
第四十四條 代務ハ何時ニテモ之ヲ解キ又ハ代務者ヨリ預吿シテ辭スルコトヲ得又委任期限ノ經過（第四十七條）ニ依リ又ハ代務者雇入契約ノ滿期ニ依リ又ハ委任ヲ受ケタル營業ノ賣讓若クハ廢止ニ依リ自ラ消滅スルモノトス然レトモ商業主人ノ死亡ニ依テ消滅スルコトナシ
代務者其代務ノ終リタル後ニ爲シタル取引ハ自己ニ其終リタルコトヲ知ラサル時ニ限リ有效トス
第四十五條 數人共同ニ委任セラレタル代務ハ總員共同ニアラサレハ之ヲ執行スルコトヲ得ス此代務ハ其中一員ニ於テ滄滅シタル時ハ他ノ各員ニ於テモ亦消滅スルモノトス
第四十六條 代務ノ委任ニハ主人ノ商號ヲ用ヒ及主人ニ代テ裁判上ト裁判外トヲ論セス其營業ニ關スル總テノ商賣行爲及權利行爲ヲ爲シ得ヘキ權力ヲ含有スルモノトス
代務權ニ制限ヲ立ツルモ第三者ニ對シテ法律上ノ效ナキモノトス但第三者其制限アルコトヲ知リタルトキハ此限ニアラス
第四十七條 代務ハ無期又ハ有期ヲ以テ之ヲ委任シ又ハ未必若クハ偶生條件ノ生スルヲ限リトシテ之ヲ委任スルコトヲ得ヘシ但解任ノ權利及預吿辭退ノ權利（第四十四條）ハ之カ爲ニ妨ケラルヽコトナシ
○第四十八條
代理人ハ代理權利ノ全部又ハ幾部ヲ他人ニ移轉スルヲ得ス然レトモ商業使用人ヲ置クノ權利アルモノトス
（委員長）
我邦ニ於テハ然レトモ以下ハ慣習ヲ破ルモノニシテ亦主入ノ意ニアラサル使用人ヲ任免スルノ弊ヲ生スヘシ我邦ニ於テハ餘リ適當ナラサルカ如シ故ニ此㸃ニ付質疑スヘシ
（本尾委員）
諾
○本條ハ左ノ如ク修正セラレタリ
第四十八條代務者ハ代務權ノ全部又ハ一部ヲ他人ニ移轉スルコトヲ得ス然レトモ商業使用人ヲ置クノ權利アルモノトス
○第四十九條
代理人主人ノ營業上ニ於テ爲シタル取引及ヒ所業ニ付テハ其取引又ハ所業ヲ主人ノ承諾セシト否ト又ハ主人ノ名ヲ以テ爲シタルト否トヲ論セス主人直接ニ其權利及ヒ義務ヲ得ル者トス又代理人主人ノ營業上ニ於テ爲シタル不正ノ所業及ヒ代理人自己ノ名ヲ以テ爲シタル取引ニシテ其時ノ情況及ヒ相手方ノ想像ニ從ヒ主人ノ計算ヲ以テ爲シタルモノト認定スヘキ場合ニ於テモ亦前ニ同シ
○本條ハ別段異議ナク左ノ如ク修正ス
第四十九條 代務者主人ノ營業上ニ於テ爲シタル行爲ハ主人承諾セシト否ト又主人ノ名ヲ以テ爲シタルト否トヲ論セス其行爲ニ依リ主人直接ニ權利及義務ヲ得ル者トス
○代務者主人ノ營業上ニ於テ爲シタル不正ノ行爲ニ付及代務者自己ノ名ヲ以テ爲シタル行爲ニシテ其情況及相手方ノ見込ニ依リ主人ノ計算ヲ以テ爲シタリトスヘキモノニ付テモ亦前ニ同シ
○第五十條
代理委任ヲ僞稱シ又ハ代理權利ヲ踰越シテ取引ヲ爲シタル者ハ相手方ニ對シ其相手方ノ撰ヒニ從テ或ハ契約踐行カ或ハ損害辨償ノ責任ヲ自身ニ受クルモノトス其代理權利踰越ノ場合ニ於テ第四十六條第二項ニ從ヒ主人其取引ヲ承認スヘキ義務アルトキハ主人モ亦同時ニ其責ニ任スヘシ但シ此ノ如キ場合ニ於テハ主人ト代理人トノ內何レカ一人ニ對シテ其取引ヲ遂ケシムルコトヲ得ヘシ
若シ相手方ニ於テ代理權利ノ不完全ナルコトヲ知テ取引ヲ爲セシトキハ其取引ハ雙方ニ取テ無效ノモノトス
（長森岸本委員）
主人ト代務者ト連帶義務ヲ負フモノナルヘシ
（細川委員）
然リ主人又ハ代務者ノ內孰レニテモ要求ヲ受クヘキモノナレハナリ
（周布本尾委員）
敢テ連帶義務ヲ負フニハアラサルナリ
（箕作委員）
連帶ニハアラス何トナレハ一時ニ兩人ニ對シ共同シテ執行セシムルコトヲ得サレハナリ
○本條ハ左ノ如ク修正ス
第五十條 代務委任ヲ僞稱シ又ハ代務權ヲ踰越シテ取引ヲ爲シタル者ハ相手方ノ撰ニ從ヒ其契約履行又ハ損害賠償ノ責任ヲ自己ニ受クルモノトス其代務權踰越ノ場合ニ於テ第四十六條第二項ニ從ヒ主人其義務ヲ負フヘキトキニ限リ主人モ亦其責ヲ免ルヽコトヲ得ス此場合ニ於テハ主人又ハ代務者ニ對シテ其取引ヲ途ケシムルコトヲ得ヘシ
若シ相手方ニ於テ代務權ノ缺乏ヲ知テ爲シタル取引ハ雙方ニ對シ無效トス
于時午後第三時閉會