○第一讀會第九回
明治十九年四月五日
欠席 箕作委員
○第三十條
營業ト屋號トヲ併セテ販賣讓與スル時賣主讓主ニ於テ其營業ヲ廢スヘキ義務ヲ擔任シタルトキハ其義務ハ踐行セサルヘカラスト雖トモ爾後十年ヲ限リ且一地方內ニ止マルモノトス
（周布委員）
縱令ヒ契約ヲ以テ十年以上ノ約ヲ爲スモ法律上之ヲ十年間效アラシメ餘ハ皆無效ト爲スノ意ナルヘシ
（本尾委員）
然リ
○本條ハ左ノ如ク修正ス
第三十條 營業ト商號トヲ併セテ賣讓シ賣主讓主ニ於テ再ヒ其營業ヲ爲サヽルノ契約ヲ結ヒタルトキハ其契約ノ履行ハ爾後十年間一地方內ニ限ルモノトス
○第三十一條
妄ニ他人ノ屋號ヲ使用スル者又ハ第二十九條及ヒ第三十條ニ記載シタル義務ヲ違背スル者アルトキハ被害者ハ之ニ對シテ其傷害所爲ノ停止及ヒ損害ノ賠償ヲ要求スルヲ得ヘシ其損害ノ有無及ヒ多寡ハ公平着實ノ酌料ニ依リ且ツ該營業ノ品等及ヒ大小幷ニ傷害所爲ノ度數又ハ時限ノ長短ニ參照シ敢テ證據人ノミニ拘泥セスシテ判事之ヲ判決スヘシ
（岸本委員）
第二十九條ヲ引キタルハ如何
（本尾委員）
得意先又ハ帳簿ノ引渡シ爲サヽル場合ヲ示スカ故ニ第二十九條ヲ揭タルナリ
（委員長）
其損害ノ有無以下裁判ヲ爲スノ方法ヲ揭タルハ不用ナルカ如シ
（本尾委員）
然リ之ヲ削除スルモ差支ナシ嘗テロエスレル氏ニ於テモ少シク詳細ニ過クルヲ以テ削除スルモ差支ナキ旨ヲ陳述セシコトアリタレハ敢テ異議ナカルヘシ
○本條ハ左ノ如ク修正ス但シ「其損害ノ有無云々」以下ハ追テ削除スルコトヲ質問スルニ決セリ
第三十一條 他人ノ商號ヲ濫用シタル者又ハ第二十九條及ヒ第三十條ノ規定ニ違ヒ義務ヲ履行セサル者アルトキハ被害者ハ之ニ對シテ其所爲ノ排除及ヒ損害ノ賠償ヲ要求スルコトヲ得ヘシ其損害ノ有無及ヒ多寡ハ公平着實ノ酌量ニ依リ且ツ該營業ノ品等及ヒ大小幷ニ所爲ノ度數又ハ時限ノ長短ヲ參照シ敢テ證據人ノミニ拘泥セスシテ判事之ヲ判決スヘシ
○第四卷 商業帳簿
○第三十二條
各商人ハ自己ノ從事スル業體中ニ行ハルヽ習例ニ從テ商業上ノ帳簿ヲ設備スルノ義務アリトス殊ニ帳簿中ニ順序ヲ立且見易キ方法ヲ設ケテ日々其取捌キタル事項他人ト取結タル自己ノ義務又ハ自己ト取結タル他人ノ義務受取又ハ送出シタル商品支拂金又ハ請求金ヲ記入シ又日々家計支拂ノ金額及ヒ凡テノ商業費用ヲ記入スヘシ
小賣ノ取引ハ逐一ニ之ヲ記入スルヲ要セス現金賣又ハ掛賣ヲ論セス日々ノ賣上總高ノミヲ記入スヘシ
（本尾委員）
會社條例中ニ設ケタル商業帳簿ノ規定ヲ改メタルニロヱスレル氏ハ敢テ差支ナケレトモ之ヲ備フルノ仕方ヲ示サヽルヘカラス且ツ習慣ノミニテハ不可ナリ何トナレハ日本ニテハ官ニ於テ定ムル所ノ帳簿アリト聞ケリ依テ其定ムル所ノ帳簿又ハ慣習ニ從ヒ爲サヽルヘカラストテ其旨ヲ改メタリ本條モ亦之ニ類スル所ナレハ會社法ノ如ク改ムルモ敢テ不可ナキカ
（鶴田委員）
然リ習例ノミナラス官ヨリ示ス場合モ亦本條ニ加フル方可ナルカ如シ
○本條ハ左ノ如ク修正ス
第三十二條 各商人ハ其業體ノ慣例ニ從テ商業帳簿ヲ設備スルノ義務アルモノトス其帳簿ニハ順序ヲ立テ見易キ方法ヲ設ケテ每日ノ取引、他人ト取結タル權利義務、商品ノ出入、及ヒ金錢ノ出能ヲ日々記入シ又家事費用及ヒ商業費用ノ各總額ヲ月々記入スヘシ
小賣ハ現金賣掛賣ノ別ナク途一ニ之ヲ記入スルヲ要セス日々ノ賣上總額ノミヲ記入スヘシ
○第三十三條
各商人ハ開業ノ時及ヒ爾後每翌年三月以內ニ不動產動產ノ總目錄幷貸方借方ノ比較表ヲ製シ兩ナカラ別冊ノ帳簿ニ記入シテ署名スヘシ財產目錄及ヒ比較表ヲ製スル時ハ總テノ商品及要求權利幷其他總テノ財產物件ニ當時ノ相場又ハ時價ヲ附スヘシ辨償ヲ得ルコトノ慥カナラサル要求權利ニ在テハ其推知シ得ヘキ損失額ヲ控除シテ之ヲ記シ又到底損失ニ歸スヘキ要求權利ハ全ク記スヘカラス
（長森委員）
當時ノ相場又ハ時價トハ如何ナル別アルヤ
（本尾委員）
相場トハ每日價値ノ定マリアリテ又其變換スルモノ時價トハ未タ價格ナキモノヲ云フ假令ハ相場トハ公債證書賣買ノ如キ時價ハ家屋ノ如ク鑑定人ヲ持テ初メテ定マル場合ノ如キヲ云フ
（長森委員）
說明中第一第二ノ如キハ宜ク之ヲ法文中ニ揭クヘシ
（鶴田委員）
法文ニ揭ケサル方最モ善良トス若シ之ヲ法文ニ揭ク九トキハ之ヲ遒唱奉スルモノニ困難極メテ多カルヘクロヱスレル氏ノ特ニ之ヲ說明中ニ陳ヘタルヨリ幸ヒナリト云ハサルヘカラス
（本尾委員）
ロヱスレル氏ノ精神モ亦之ヲ法文ニ揭クルヲ欲セサルナリ蓋シ之ヲ法文三不ストキハ商業社會ノ不便ヲ來タシ爲メニ商業ノ妨害ヲ爲スノ恐レアリ爾後數年ヲ經テ自然記簿法ノ行ハルヽニ及ンテ其效果ヲ見ルコトヲ得ヘキナリ
○本條ハ左ノ如ク修正ス
第三十三條 各商人ハ開業ノ時及ヒ每年三月以內ニ不動產動產ノ財產目錄拜貸借對照表ヲ作リ共ニ之レカ爲メ設ケタル帳簿ニ記入シテ署名捺印スヘシ
財產目錄及ヒ貸借對照表ヲ作ル時ハ商品及要求權其他總テノ財產ニ當時ノ相場又ハ常價ヲ付スヘシ辨償ノ慥カナラサル要求權ニ付テハ其推知シ得ヘキ損失額ヲ控除シテ之ヲ記入シ又到底損失ニ歸スヘキ要求權ハ全ク記スヘカラス
○第三十四條
凡ソ四季又ハ半季ニ於テ利足又ハ益金ヲ社員ニ配當スル會社ハ每半年ニ前條ノ記載ノ義務ヲ盡スヘシ
○本條ハ左ノ如ク修正ス
第三十四條 四季又ハニ季ニ利息又ハ益金ヲ社員ニ配當スル會社ハ每字年ニ前條記載ノ義務ヲ盡スヘシ
○第三十五條
各商人ハ十年ノ間商業帳簿ヲ貯藏シ火災又ハ其他ノ災禍ニ由テ亡失又ハ損傷セシメサルコトニ能ク注意スルノ義務アリトス
○本條ハ左ノ如ク修正ヲ加フ
第三十五條 各商人ハ十年間商業帳簿ヲ貯藏シ火災其他ノ災禍ニ由テ亡失又ハ毀損セシメサルコトニ注意スルノ義アリトス
○第三十六條
商人ノ商業上ニ於テ設備シタル帳簿（第三十二條及ヒ第三十三條）ハ全ク本人ノ所有物ニシテ倒產處分ノ時ノ外ハ決シテ官權ヲ以テ之ヲ開示又ハ交付セシムルヲ得ス
（委員長）
「破產處分」ノ下ニ「甘他法律ニ規定アル場合ヲ除クノ外」ヲ加フヘシ何トナレハ會社其他ノ場合ニ規定アレハナリ併シ之レハ預メ加ヘ置キ質問スルノケ條トナスヘシ
（本尾委員）
諾
○本條ハ左ノ如ク修正ス
第三十六條 商人ノ商業ノ爲メ設備シタル帳簿（第三十二條及第三十三條）ハ其本人ノ所有ニシテ破產ノ場合ノ外官權ヲ以テ之ヲ闥卽示又ハ交付セシムルコトヲ得ス
于時午後第三時散會