○第四讀會第七回
明治十九年五月六日
（本尾委員）
第二百十四條ハロエスレル氏ニ於テ新入シタルモノトス
（細川委員）
第二百十二條ノ末項ノ場合ハ質問セシヤ
（本尾委員）
答辯ニ助成シタルモノモ役員ノ罰ト同一ニ處斷スルヲ云フト
（細川委員）
助成者ノ如キハ卽チ從犯ト云ハサルヘカラス果シテ從犯トセハ法理上ヨリ一等ヲ減スル位ノ事ヲ云ハサレハ穩當ナラサルナリ又犯則ヲ生セシメタル者トハ理論上ヨリ云フトキハ卽チ火元ナレハ幾分カ刑ノ權衡ヲ斟酌セサルヘカラサルナリ
（鶴田委員）
權衡ヲ論スレハ左ノ如ク修正セサルヘカラス
「前項ニ揭ケタル者ノ外他ノ役員及使用人自己ノ失錯ニ由リ其犯則ヲ生セシメタルトキハ當該役員ト同一ノ刑ニ處シ若シ其犯則ヲ助成シタルトキハ從犯トシテ處斷ス」
（細川委員）
然リ刑法上ヨリ論スルトキハ如此修正セサルヘカラス
（箕作委員）
失錯ト云フハ穩當ナラサルヲ以テ之ヲ所爲ト改メハ或ハ可ナルヘシ又當該役員ト同シクトハ犯則ヲ生セツメタル者ト共ニ當該役員ヲ罰スルト云フ意ニアラスシテ只犯則ヲ生セシメタル者ハ本條ノ罰ニ處セラルヘシト云フヲ以テ充分ナリトス
（本尾委員）
ロエスレル氏ノ精神ニテハ兩者共ニ同一ノ刑ニ處スルナリ
（鶴田委員）
生セシメタル者ヲ罰スルニ取締役ヲ罰スルノ刑ト同一ノモノヲ以テスルハ可ナリト雖モ取締役ヲモ罰スルト云フハ穩當ナラサルナリ何トナレハ自己ニ犯則ヲ爲サヽル取締役ヲ罰スルノ理由ナケレハナリ
（箕作委員）
又ハ自己ノ失錯云々ハ原文ヲ案スルニ他ノ役員又ハ使用人カ助成シタルニアラスシテ主タル犯則者トナルトキハ同シク本條ノ罰ニ處ストアリ然ルトキハ譯文ト大ニ解釋ヲ異ニスルナリ
（本尾委員）
第二百十一條ハ三人ノ取締役アルトキハ之ヲ一人ト看做シテ罰金ヲ言渡シ其罰金ハ三人ニテ連帶スルヲ云フ
（鶴田委員）
法文ニ於テハ此事分明ナラサルナリ知ラサル取締役ニモ連帶シテ罰金ノ言渡ヲ受ケシムルハ刑法上ノ原則ニ反スルヲ以テ特ニ明文ヲ以テ之ヲ示サヽルヘカラス然ラサレハ一般刑法上ノ原則ニ基テ裁判セラル丶ニ至ルヘシ
（岸本委員）
犯則ヲ生セシメタル者ノミ取締役ヲ罰スル刑ヲ以テ處斷シ取締役ノ一向知ラサル者ヲ罰スルコトニアラサル精神ト爲セハ如何
午前第十二時
午後開會
（細川委員）
左ノ如ク修正セハ如何
爭ニ
（本尾委員）
若シ委員諸君カ刑法上ノ原剔ニ基キ釋義アルカ如ク精神ヲ改メンニハ左ノ如ク修正セハ可ナラン
第二百十二條 會社ノ役員左ノ事項ヲ犯シタル者ハ五十圓以上云々
而シテ前項ニ揭ケタル云々ヲ削除セハ充分ナリ
（箕作委員）
第二百十一條及第二百十二條ノ末項ノ如キハ歐洲ノ現行法ニ明文アルヤ否ヲ預メ質問アランコトヲ希望ス
（本尾委員）
質問ノ要㸃ハ取締役ハ使用人等ノ爲シタル犯則ノ爲メ一向事實知ラサルモ之ヲ共ニ罰スルハ刑法上ノ原則ニ反スルノミナラス未タ如此制定法ナキヲ以テ我邦人ヲシテロエスレル氏ノ意見ノ如ク解セシムルコトハ難事ナリ且ツ罰金ヲ連帶ト云フモ我邦未タ此法ナキヲ以テ如何スルヤヲ質問セハ可ナラント信ス
（岸本委員）
取締役カ犯則ヲ爲シタルトキモ檢査役ヲ共ニ罰スルノ精神ナルヤ
（本尾委員）
共犯ナレハ格別取締役ノ犯シタル罪ノ爲メ檢査役ニ罰ヲ科スルノ理由ナカルヘシ
（箕作委員）
檢査役ハ取締役ノ事務ヲ檢査スヘキモノナレハ取締役カ犯則ヲ爲シタルトキハ卽チ檢査役ニ過失アルヲ以テ同一ニ罰ヲ科セラルヽモノナルヘシ
（委員長）
第二百十一條裁判所ノ處分トアルハ控訴上吿ヲ許サヽルノ精神ナルヤ否ヲモ質問スヘシ
（本尾委員）
諾
○第六章
（本尾委員）
共算商業トノミ單ニ稱スルハ穩當ナラサルヲ以テ組合ノ二字ヲ挿入セラル蓋シロエスレル氏兼テ組合ノ字ヲ入ルヽヲ肯セサリシカ今回ハ自ラ之ヲ挿入セラレタリ隔
○第二百十五條
（本尾委員）
法文ノ立方不可ナリトテ法文ヲ改メラル併シ精神ニハ一向變更シタル所川ナシ
○「殊ニ其契約ニ依リ」ヲ削リ「之レカ爲メ」ニ改正ス
○第二百十六條
（本尾委員）
委員長ヨリ一時ノ語ハ明瞭ナラスト質問アリシニロエスレル氏ハ然ラハ一時ノ證陷ニ替フルコトヲ得ヘキ原語三ケ程ヲ附記セラレタリ此內ニテ解シ易キ文字ヲ委員ニ於テ撰擇アリタシト
（細川委員）
「或ル商ヒ又ハ或ル作業」ト譯セラレシハ充分ナリトス
（本尾委員）
第二百十七條以下ハ別段變更シタル所ナシ
（委員長）
括〓ノ內ニ當坐組合トアルハ總テ本文ニ連續セシメタル方見易カルヘシ
○括〓ヲ削除シテ本文下連續セシムルコトニ決セリ
于時午後一時閉會