○第二讀會第六十三回
明治十九年三月十八日
欠席 細川委員
仝 渡邊委員
仝 周布委員
午前第時開會
先回ノ續キ
（箕作委員）
第六項ハ前回ニ於テ略討議セシ如ク全ク削除セハ如何
（委員長）
第六項ハ先ツ削除スヘシ如何トナレハ之レヲ削ルモ間接ニ第五項ニ於テ罰スルコトヲ得レハナリ尤モ第五項ニハ蓄積及分配セサルトキノ罰ナキカ如シト雖トモ此場合ニ於テハ分配ヲ督促セラル丶ヲ以テ自然取締役ニ於テ分配スルニ至ラン然ルトキハ直ニ第五項ニ於テ罰スルコトヲ得ヘシ
（長森委員）
第百五十八條二項ニ益金ノ二十分一ヲ積置ク可シトアリ若シ之ヲ三十分ノ一積置キタルトキハ如何此場合ニ於テハ全ク蓄積セサルトキハ同一ニ論スヘカラサルモノニシテ積蓄シタルニ相違ナキモ唯其數ニ充タサル迄ノモノナリ
（鶴田委員）
末項ニ第五項ノ罰則ハ合資會社云々トアリ然ルニ合資會社ニハ資本減額ノコトアレトモ準備金ノコトナシ就テハ全ク本項ヲシテ合資會社ニ適用スルコトヲ得ス
（本尾委員）
其本文ニ就テ見ルトキハ合資會社ニ在テハ準備金ノ規定ナキハ論ヲ竢タサレハ其規定ナキモノヲ處罰スルノ理ナシトスレハ末項ノ精神ハ減額ニ付テノ制裁タルコトハ自カラ明瞭ナルヘシ
（委員長）
矢張原案ニ從ヒ第百五十八條ヲ分離シテ二條トシ第五項ノ制裁ヲ置クトセハ如何
（箕作委員）
現在ノ儘ニテ分明ナラサルニアラサレハ第百五十八條ヲ少シク修正シテ矢張一ケ條トナス方可ナルヘシ
（鶴田委員）
本章ノ罰則ハ再犯加重數罪俱發ノ例ヲ用ユルノ精神ナルヤ若シ之ヲ用ヒサルモノトセハ特別ニ之ヲ規定スヘシ
（本尾委員）
精神ハ各個ニ罰スルノ意ナリト雖トモ刑法ノ總則ニ從ハシムルモ亦不可ナシ
○本條ハ左ノ如ク修正シタリ
第二百六十三條 株式會社ノ取締役ハ左ノ場合ニ於テ二十圓以上二百圓以下ノ罰金ニ處ス
一 第百六十六條ノ場合ニ於テ會社ノ財產及其他書類ノ檢閱ヲ拒ミ又ハ推問ニ應セサル時
二 第百五十八條ノ規定ニ背キ會社自己ノ株劵ヲ所有ト爲シ又ハ抵當ニ取リ又ハ之ヲ公賣セサルトキ
三 第百五十七條ノ規定ニ背キ株金ノ全部又ハ一部ヲ株主ニ拂戾シタルトキ
四 第百五十九條第百六十條ノ規定ニ背キ利息又ハ分配金ヲ株主ニ拂渡シタルトキ
本條ノ罰則ハ合資會社ノ取締役第九十三條ノ規定ニ背キタルトキモ亦之ヲ適用ス可シ
○第二百六十四條
株式會社ノ淸算人ハ左ノ場合ニ於テ二十圓以上百圓以下ノ罰金ニ處セラル可シ
一 會社ノ財產總債主ニ完償スルニ足ラサル場合ニ於テ破產處分開始ノ手續ヲ爲スコトヲ怠リタルトキ（第百九十六條）
二 第百八十六條ニ規定シタル負債者及債主名簿ノ調製又ハ負債者及債主ヘノ催促ヲ怠リタルトキ
（本尾委員）
本條ニ株式會社ノ淸算人トアレトモ合資會社ニモ亦淸算人アレハ本條ニ之ヲ加フルモ亦不可ナカル可シ然レトモ其淸算人ノ規定ニ就テハ合資會社ニ其明條ナシト雖トモ淸算人ノ爲ス可キ事柄ハ皆同一ナルヲ以テ本條ニ加フルコト適當ナルカ如シ
（委員長）
合名ハ如何
（本尾委員）
合名ハ無限ナルヲ以テ殊更ニ之ヲ加ヘサルモ不可ナシ然レトモ合資ハ全ク有限社員ノミヲ以テ設立シ得ヘキモノナレハ矢張株主ト同樣ニ其制裁ヲ加フル方可ナルヘシ
于時正午第十二時中止
午後第一時開會
（本尾委員）
第二項ハ第百八十六條ヲ修正シタルニ依リ本項モ亦之ヲ改メサルヲ得ス
（鶴田委員）
若シ六十日內ニ實際止ヲ得サル事故アリテ廣吿ヲ爲サヽルトキハ如何
（本尾委員）
如何ナル事情アルモ其期限內ニ廣吿ヲ爲サヽルトキハ本條ノ罰ハ之ヲ免カルヽヲ得ス
（岸本委員）
若シ實際廣吿ヲ爲スコトヲ得サルトキハ其結算人ハ職務ヲ辭スルコトヲ得ヘシ
（本尾委員）
合資會社ノ結算人モ亦株式會社ト同シク本條ノ罰ヲ科スルトセハ如何ナルヤヲ豫メ注意トシテ質問セハ如何
（委員長）
可ナリ
（鶴田委員）
質問上修正スルハ修正委員ニ委託セン
（本尾委員）
修正委員ニ於テ合資會社ノ章ニ一條ヲ新設シ又本條ニ合資會社ノ文字ヲ加フルコトト爲シ然ル後質問セハ如何
（鶴田委員）
夫ニテ可ナリ
本條ハ合資會社ノ文字ヲ加フルコトハ質問スルコトニ決シ且本條ハ修正委員ニ於テ修正ノ上呈出スルコトト決セリ
（本尾委員）
第二百六十五條ニ移ルノ前ニ於テ一言セン第百八十七條ハロエスレル氏修正會ノ央ニ於テ挿入シタルモノナルヲ以テ之レカ制裁ヲ設ケサリシ則結算人ニ於テ六十日ノ期限前ニ於テ債主ニ拂渡シタルトキ第百八十七條又ハ株主ヘ一ケ年前ニ拂渡シタルトキ第百九十二條是レナリ此二條ハ必ス制裁ヲ設クヘキモノニシテ其制裁ハ何レノ條ニ據ルヘキヤト云フニ第二百六十四條ノ規定ハ少シク輕ニ失シタルカ如ク又第二百六十五條ハ少シク重ニ過クルカ如シ故ニ此兩條ノ間ニ新タ一ニケ條ヲ設ケテ相當ノ制裁ヲ附スルトセハ適當ナルヘシト修正委員ニ於テハ決定セリ其修正文ハ左ノ如シ
第 條 株式會社ノ結算人ハ左ノ場合ニ於テ二十圓以上二百圓以下ノ罰金ニ處ス
一 第百八十七條ノ期限前ニ債主ヘ支拂ヒヲ爲シタルトキ
二 第百九十二條ノ株主ヘノ配當ヲ總會ノ認定ヲ受ケス及一ケ年以內ニ爲シタルトキ
（岸本委員）
其期限前ト雖トモ裁判官ニ申報シテ爲スコトヲ得ルナレハ餘リ嚴酷ニ制裁ヲ設ケサルモ不可ナシ此場合ニ於テハ第二百六十七條ニ於テ處理スルヲ至當トス
（委員長）
此兩條ハ民事上ノ制裁ヲ以テ無限責任ヲ負擔セシムルヲ以テ充分ナラン
（岸本委員）
然リ民事上ノ責任ニテ充分ナリ就テハ第百九十四條株主ノ下ニ債主ノ二字ヲ加ヘテ直ニ結算人ニ懸リテ訴フルコトヲ得ヘキ旨ヲ定メハ如何
（本尾委員）
第百九十四條ハ少シク場合ヲ異ニス何トナレハ本條ハ結算人ハ株主ヨリ撰擧スルモノナレトモ其責任タルヤ獨リ總會ニ於テノミ之ヲ負擔ス則此等ノ場合ヲ示サソ爲メニ設クルモノナレハ少シク岸本委員ノ說トハ其精神ヲ異ニス
（委員長）
第百九十二條ヲ左ノ意味ニ改ムルトキハ不可ナキカ如シ前條ノ認定ヲ受ケタルトキ結算人會社ノ負債ヲ完償シ及債主ノ要求セサルモノニシテ會社帳簿ニ債主タルノ明瞭ナル債額ヲ扣除シタル後殘餘ノ財產アルトキハ各株ニ應シ金圓ヲ以テ之ヲ平等ニ配當ス可シ但此配當ヲ爲スハ第百八十六條ニ揭ケタル最終ノ廣吿ヲ爲シタル日ヨリ三ケ月ノ後ニアラサレハ之ヲ爲スコトヲ得ス
○本條及第百九十二條及第百八十六條ハ更ニ委員長ノ說ニ從ヒ修正委員ニ於テ再修正ノ上提出スルコトニ決ス
○第二百六十五條
株式會社又ハ合資會社ノ取締役檢査役淸算人ニ於テ官廳、裁判所若クハ總會ニ對シ又ハ廣吿ニ於テ書面或ハロ演ヲ以テ會社ノ
財產若クハ業務ノ實況ニ就キ虛僞ヲ吿ケ又ハ姦曲ノ意ヲ以テ之ヲ隱蔽シ又ハ官簿ノ登記ニ就キ虛僞ヲ屆出ルトキハ百圓以上五百圓以下ノ罰金ニ處シ事情ノ重キトキハ之一二年以內ノ禁錮ノ罰ヲ附加スルコトヲ得
（本尾委員）
本條ニハ株式ト合資ノミナレトモ合名ニ於テモ亦業務擔當者ニ於テ帳簿上及登記事件ニ付社外人ニ迷惑ヲ蒙ムラシムルコトナキニアラス依テ本條ノ規定ヲ合名ニモ亦適用スルヲ可トス果シテ之ヲ適用スルトセハ業務擔當者ノ文字ヲ加フルヲ以テ充分ナリトスヘシ
取締役ハ自己ノ株劵ヲ他人ニ賣買讓與シ又ハ書入質入スルコトヲ得ス然ルニ之ノ規定ニ背キタルトキノ制裁ナシ實際上或ハ之レナシト爲ササレハ本條ニ其旨ヲ規定セハ如何
（岸本委員）
佛國法ニ於テハ其株劵ニ禁授受ノ印ヲ捺シテ會社ニ預クルコトトナレリ此法ヲ採用スルトキハ取締役ニ於テ擅ニ之ヲ使用スルコトヲ得ス果テ然リトナストキハ本條ニ別ニ其規定ヲ設ケサルモ不可ナシ如何トナレハ其禁授受ノコトハ省令又ハ別ニ之カ取締法ヲ設クルニ至ルヘケレハナリ
（委員長）
禁授受ノ印ヲ捺セスシテ會社ニ預ケタルトキ取締役恣マヽニ之ヲ賣拂ヒタルトキノ罰ハ如何スルヤ
（本尾委員）
夫レハ致方ナシ若シ其憂ヒアリトセハ日本銀行ヘ預クル外手段ナカルヘシ
（長森委員）
第百二十七條ニ禁印ヲ捺スコトヽ爲シ罰ニ處セサルコトト爲シテ可ナリ（之ニ決ス）
○第百二十七條ハ取締役ノ株劵ニ禁授受ノ印ヲ捺スヘキコトニ修正スルニ決ス
又本條ハ修正委員ニ於テ修正ノ上呈出スルコトニナレリ
于時午後四時閉會